(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】エッチング方法及びエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
(21)【出願番号】P 2019237331
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】戸村 幕樹
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208387(JP,A)
【文献】特表2002-514012(JP,A)
【文献】特表2018-529225(JP,A)
【文献】特開2019-121685(JP,A)
【文献】特表2007-537602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチング方法であって、
シリコン酸化膜を含む被エッチング膜と、前記被エッチング膜の上に形成された炭素含有マスクとを有する基板を載置台上に提供する工程と、
前記載置台の温度を0℃以下の温度となるように設定する工程と、
HF及びN2含有ガスを含むガスであって、フッ素、窒素及び炭素を含み、前記窒素の数に対する前記フッ素の数の比率F/Nが0.5~10の範囲である前記ガスからプラズマを生成して、前記炭素含有マスクを介して前記シリコン酸化膜をエッチングする工程と、
を有するエッチング方法。
【請求項2】
エッチング方法であって、
シリコン酸化膜を含む被エッチング膜と、前記被エッチング膜の上に形成されたマスクとを有する基板を載置台上に提供する工程と、
前記基板が-30℃以下の温度となるように、前記載置台の温度を-30℃以下の温度となるように設定する工程と、
フッ素、窒素及び炭素を含み、前記窒素の数に対する前記フッ素の数の比率F/Nが0.5~10の範囲であるガスからプラズマを生成して、前記マスクを介して前記シリコン酸化膜をエッチングする工程と、
を有するエッチング方法。
【請求項3】
前記ガスは、さらに水素含有ガスを含む、
請求項1又は2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記ガスは、炭素含有ガスを含む、
請求項1~3のいずれか1つに記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記ガスは、HF及びN2含有ガスを含む、
請求項2~4のいずれか1つに記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記設定する工程は、前記基板が-30℃以下の温度となるように設定する、
請求項1,3~5のいずれか1つに記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記被エッチング膜は、さらにシリコン窒化膜を含む積層膜である、
請求項1~6のいずれか1つに記載のエッチング方法。
【請求項8】
エッチング方法であって、
シリコン酸化膜を含む被エッチング膜と、前記被エッチング膜の上に形成されたマスクとを有する基板を載置台上に提供する工程と、
前記載置台の温度を0℃以下の温度となるように設定する工程と、
シアン化物含有ガスを含むガスであって、フッ素、窒素及び炭素を含み、前記窒素の数に対する前記フッ素の数の比率F/Nが0.5~10の範囲である前記ガスからプラズマを生成して、前記マスクを介して前記シリコン酸化膜をエッチングする工程と、
を有するエッチング方法。
【請求項9】
前記エッチングする工程は、前記シリコン酸化膜の最終アスペクト比が5以上となるようにエッチングする、
請求項1~8のいずれか1つに記載のエッチング方法。
【請求項10】
シリコン酸化膜をエッチングする装置であって、
反応チャンバと、
前記反応チャンバ内に設けられた載置台と、
前記反応チャンバ内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、
制御部とを有し、
前記制御部は、シリコン酸化膜を含む被エッチング膜と、前記被エッチング膜の上に形成された炭素含有マスクとを有する基板を前記載置台上に提供するよう前記装置を制御するように構成され、
前記制御部は、前記載置台の温度を0℃以下の温度となるように設定するよう前記装置を制御するように構成され、
前記制御部は、HF及びN2含有ガスを含むガスであって、フッ素、窒素及び炭素を含み、前記窒素に対する前記フッ素の比率F/Nが0.5~10の範囲である前記ガスからプラズマを生成して、前記炭素含有マスクを介して前記シリコン酸化膜をエッチングするよう前記装置を制御するように構成される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法及びエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理体上に形成された酸化シリコン膜や、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とが交互に積層された多層膜に対して、深いホールを形成する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、CD(Critical Dimension)の拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができるエッチング方法及びエッチング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によるエッチング方法は、提供する工程と、設定する工程と、エッチングする工程とを有する。提供する工程は、シリコン酸化膜を含む被エッチング膜と、被エッチング膜の上に形成されたマスクとを有する基板を載置台上に提供する。設定する工程は、載置台の温度を0℃以下の温度となるように設定する。エッチングする工程は、フッ素、窒素及び炭素を含み、窒素の数に対するフッ素の数の比率F/Nが0.5~10の範囲であるガスからプラズマを生成して、マスクを介してシリコン酸化膜をエッチングする。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態におけるプラズマ処理システムの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るエッチング装置によってエッチングされる基板の構造の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるエッチング処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態におけるエッチングのメカニズムの一例を模式的に説明する図である。
【
図5】
図5は、実験結果におけるエッチングレートの変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実験結果におけるCDの変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、HF/N2ガスの流量比を変更した場合の実験結果の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の実験結果におけるエッチングレートの変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図7の実験結果におけるCDの変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実験結果における温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、開示するエッチング方法及びエッチング装置の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により開示技術が限定されるものではない。
【0009】
基板上に形成されたシリコン酸化膜や、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とが交互に積層された多層膜に対して、高アスペクト比のホールを形成するHARC(High Aspect Ratio Contact)プロセスと呼ばれる技術がある。HARCプロセスでは、三フッ化窒素(NF3)が用いられる。しかしながら、NF3は、マスク材料、例えば、SOC(Spin On Carbon)やアモルファスカーボン膜(ACL:Amorphous Carbon Layer)等との反応性が高く、CDを拡大させる場合がある。そこで、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることが期待されている。
【0010】
[プラズマ処理システム1の構成]
図1は、本開示の一実施形態におけるプラズマ処理システムの一例を示す図である。
図1に示すように、一実施形態において、プラズマ処理システム1は、プラズマ処理装置1a及び制御部1bを含む。プラズマ処理装置1aは、シリコン酸化膜をエッチングするエッチング装置の一例である。プラズマ処理装置1aは、反応チャンバ10、ガス供給部20、Radio Frequency(RF)電力供給部30及び排気システム40を含む。また、プラズマ処理装置1aは、支持部11及び上部電極シャワーヘッド12を含む。支持部11は、反応チャンバ10内のプラズマ処理空間10sの下部領域に配置される。上部電極シャワーヘッド12は、支持部11の上方に配置され、反応チャンバ10の天部(ceiling)の一部として機能し得る。
【0011】
支持部11は、プラズマ処理空間10sにおいて基板Wを支持するように構成される。なお、支持部11は、載置台とも呼ばれる。一実施形態において、支持部11は、下部電極111、静電チャック112、及びエッジリング113を含む。静電チャック112は、下部電極111上に配置され、静電チャック112の上面で基板Wを支持するように構成される。エッジリング113は、下部電極111の周縁部上面において基板Wを囲むように配置される。また、図示は省略するが、一実施形態において、支持部11は、静電チャック112及び基板Wのうち少なくとも1つをターゲット温度に調節するように構成される温調モジュールを含んでもよい。温調モジュールは、ヒータ、流路、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。流路には、冷媒、伝熱ガスのような温調流体が流れる。温調モジュールは、ターゲット温度として、例えば、基板Wが50℃~-100℃の範囲における任意の温度に設定可能である。
【0012】
上部電極シャワーヘッド12は、ガス供給部20からの1又はそれ以上の処理ガスをプラズマ処理空間10sに供給するように構成される。一実施形態において、上部電極シャワーヘッド12は、ガス入口12a、ガス拡散室12b、及び複数のガス出口12cを有する。ガス入口12aは、ガス供給部20及びガス拡散室12bと流体連通している。複数のガス出口12cは、ガス拡散室12b及びプラズマ処理空間10sと流体連通している。一実施形態において、上部電極シャワーヘッド12は、1又はそれ以上の処理ガスをガス入口12aからガス拡散室12b及び複数のガス出口12cを介してプラズマ処理空間10sに供給するように構成される。
【0013】
ガス供給部20は、1又はそれ以上のガスソース21及び1又はそれ以上の流量制御器22を含んでもよい。一実施形態において、ガス供給部20は、1又はそれ以上の処理ガスを、それぞれに対応のガスソース21からそれぞれに対応の流量制御器22を介してガス入口12aに供給するように構成される。各流量制御器22は、例えばマスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器を含んでもよい。さらに、ガス供給部20は、1又はそれ以上の処理ガスの流量を変調又はパルス化する1又はそれ以上の流量変調デバイスを含んでもよい。
【0014】
RF電力供給部30は、RF電力、例えば1又はそれ以上のRF信号を、下部電極111、上部電極シャワーヘッド12、又は、下部電極111及び上部電極シャワーヘッド12の双方のような1又はそれ以上の電極に供給するように構成される。これにより、プラズマ処理空間10sに供給された1又はそれ以上の処理ガスからプラズマが生成される。従って、RF電力供給部30は、反応チャンバにおいて1又はそれ以上の処理ガスからプラズマを生成するように構成されるプラズマ生成部の少なくとも一部として機能し得る。一実施形態において、RF電力供給部30は、2つのRF生成部31a,31b及び2つの整合回路32a,32bを含む。一実施形態において、RF電力供給部30は、第1のRF信号を第1のRF生成部31aから第1の整合回路32aを介して下部電極111に供給するように構成される。例えば、第1のRF信号は、27MHz~100MHzの範囲内の周波数を有してもよい。
【0015】
また、一実施形態において、RF電力供給部30は、第2のRF信号を第2のRF生成部31bから第2の整合回路32bを介して下部電極111に供給するように構成される。例えば、第2のRF信号は、400kHz~13.56MHzの範囲内の周波数を有してもよい。代わりに、第2のRF生成部31bに代えて、DC(Direct Current)パルス生成部を用いてもよい。
【0016】
さらに、図示は省略するが、本開示においては他の実施形態が考えられる。例えば、代替実施形態において、RF電力供給部30は、第1のRF信号をRF生成部から下部電極111に供給し、第2のRF信号を他のRF生成部から下部電極111に供給し、第3のRF信号をさらに他のRF生成部から下部電極111に供給するように構成されてもよい。加えて、他の代替実施形態において、DC電圧が上部電極シャワーヘッド12に印加されてもよい。
【0017】
またさらに、種々の実施形態において、1又はそれ以上のRF信号(即ち、第1のRF信号、第2のRF信号等)の振幅がパルス化又は変調されてもよい。振幅変調は、オン状態とオフ状態との間、あるいは、2又はそれ以上の異なるオン状態の間でRF信号振幅をパルス化することを含んでもよい。
【0018】
排気システム40は、例えば反応チャンバ10の底部に設けられた排気口10eに接続され得る。排気システム40は、圧力弁及び真空ポンプを含んでもよい。真空ポンプは、ターボ分子ポンプ、粗引きポンプ又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0019】
一実施形態において、制御部1bは、本開示において述べられる種々の工程をプラズマ処理装置1aに実行させるコンピュータ実行可能な命令を処理する。制御部1bは、ここで述べられる種々の工程を実行するようにプラズマ処理装置1aの各要素を制御するように構成され得る。一実施形態において、制御部1bの一部又は全てがプラズマ処理装置1aに含まれてもよい。制御部1bは、例えばコンピュータ51を含んでもよい。コンピュータ51は、例えば、処理部(CPU:Central Processing Unit)511、記憶部512、及び通信インターフェース513を含んでもよい。処理部511は、記憶部512に格納されたプログラムに基づいて種々の制御動作を行うように構成され得る。記憶部512は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェース513は、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置1aとの間で通信してもよい。
【0020】
[基板Wの構成]
図2は、本実施形態に係るエッチング装置によってエッチングされる基板の構造の一例を示す図である。
【0021】
基板Wは、例えば
図2に示すように、被エッチング膜であるシリコン酸化膜102をシリコン基板101上に有する。また、シリコン酸化膜102上には、所定パターンの開口を有するマスク103が形成されている。なお、被エッチング膜は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とが交互に積層された多層膜であってもよい。また、被エッチング膜は、シリコン酸化膜の他にシリコン(Si)膜を含んでもよい。また、被エッチング膜は、シリコン酸化膜に加えLow-k膜を含んでもよい。Low-k膜は、SiOCN系であってよい。
【0022】
マスク103は、有機系のマスクや金属を含有するマスクであってよい。有機系のマスクは、例えば、フォトレジスト、スピンオンカーボン(SOC)膜、アモルファスカーボン(ACL)膜である。金属を含有するマスクは、タングステン、炭化タングステン、窒化チタン、酸化チタンなどである。マスク103は、処理ガスとして炭素を含まないガスを用いる場合、炭素を含む材料で構成される炭素含有マスクを用いる。
【0023】
[エッチング方法]
次に、本実施形態に係るエッチング方法について説明する。
図3は、本実施形態におけるエッチング処理の一例を示すフローチャートである。
【0024】
本実施形態に係るエッチング方法では、制御部1bは、図示しない開口部を開放し、反応チャンバ10内に、シリコン酸化膜102とその上にマスク103が形成された基板Wが搬入され、支持部11の静電チャック112に載置される。基板Wは、静電チャック112に直流電圧が印加されることで静電チャック112に保持される。制御部1bは、その後、開口部を閉鎖して排気システム40を制御することにより、プラズマ処理空間10sの雰囲気が所定の真空度になるように、プラズマ処理空間10sから気体を排気する。また、制御部1bは、図示しない温調モジュールを制御することにより、基板Wの温度が所定の温度、例えば0℃以下となるように、温度調整される(ステップS1)。なお、基板Wの温度は、より好ましくは-30℃以下となるように調整される。
【0025】
次に、制御部1bは、HFとN2の混合ガス(以下、HF/N2ガスという。)をガス入口12aに供給する。処理ガスは、ガス入口12aに供給された後に、ガス拡散室12bに供給され拡散される。処理ガスは、ガス拡散室12bで拡散された後に、複数のガス出口12cを介して、反応チャンバ10のプラズマ処理空間10sにシャワー状に供給され、プラズマ処理空間10sに導入される。
【0026】
制御部1bは、RF電力供給部30を制御することにより、プラズマ励起用及びバイアス用のRF信号を支持部11に供給する。プラズマ処理空間10sには、支持部11にプラズマ励起用のRF信号が供給されることにより、プラズマが発生する。プラズマは、支持部11にバイアス用のRF信号が供給されることにより、基板Wに向かって加速される。基板Wは、プラズマ処理空間10sに発生したプラズマにより被エッチング膜であるシリコン酸化膜102がエッチングされる(ステップS2)。
【0027】
具体的には、制御部1bは、処理ガスであるHF/N2ガスが導入されたプラズマ処理空間10sにおいて、マスク103を介してHF/N2ガスから生成されたプラズマによりシリコン酸化膜102をエッチングする。エッチングする工程でシリコン酸化膜102に形成されるホールのアスペクト比が所定値(例えば、5以上)となるように、シリコン酸化膜102をエッチングする。
【0028】
ここで、プラズマ処理空間10sに発生したプラズマは、HF/N2ガスに由来する水素、フッ素及び窒素と、マスク103に由来する炭素とを反応種とするプラズマである。プラズマに含まれる窒素の数に対するフッ素の数の比率F/Nは、HFガスとN2ガスの流量比で設定することができる。例えば、HF/N2ガスの場合、総流量に対してN2ガスが5%~50%の範囲、つまり、比率F/Nが0.5~10の範囲に設定する。また、好ましくは、比率F/Nを1.5~10の範囲に設定する。より好ましくは、比率F/Nを約4.5に設定する。これは、HF/N2ガスの場合では、N2ガスの流量比が5%~25%の範囲、より好ましくは約10%に相当する。処理ガスとして他のガスを用いる場合には、比率F/Nに基づいて、処理ガスの流量比を調節する。なお、他の処理ガスとしては、例えば、H2とCF4とN2の混合ガス(以下、H2/CF4/N2ガスという。)を用いることができる。
【0029】
ここで、
図4を用いてN系ガスによるエッチングのメカニズムについて説明する。
図4は、本実施形態におけるエッチングのメカニズムの一例を模式的に説明する図である。
図4の状態201では、シリコン酸化膜102のホールに、HF/N2ガス又はH2/CF4/N2ガスのプラズマが照射される。つまり、プラズマ中には、反応種として、シアン化物含有ガス(CN系ガス)が含まれてよい。すると、状態202に示すように、CN系ラジカルがホール内部(被エッチング部)の領域104に吸着する。なお、CN系ガスは蒸気圧が高いが、基板Wの温度を下げることにより、CN系ラジカルが領域104に吸着することができる。なお、シアン化物(CN基)は、例えば、HCN、CNF、C2N2等が挙げられる。
【0030】
領域104にCN系ラジカルが吸着すると、状態203に示すように、N2+イオンが衝突した領域104及びその下部のシリコン酸化膜102である領域105が除去される。つまり、イオン衝撃によって生じたSiダングリングボンドとCNが終端し、SiO2の結合が分断されるためエッチングレートが上昇する。また、N2は、結合が強く解離しづらいためNラジカルによる等方エッチングを抑制できる。すなわち、状態201から状態203が繰り返されることで、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができる。このように、本実施形態では、N2を添加することで生成されるCN化合物もエッチングレートの向上に寄与している。
【0031】
図3の説明に戻る。制御部1bは、エッチングする工程において、所定の形状が得られたか否かを判定する(ステップS3)。制御部1bは、所定の形状が得られていないと判定した場合(ステップS3:No)、処理をステップS2に戻す。一方、制御部1bは、所定の形状が得られたと判定した場合(ステップS3:Yes)、処理を終了する。
【0032】
制御部1bは、処理を終了する場合、RF電力供給部30を制御することにより、支持部11へのRF信号の供給を停止する。制御部1bは、図示しない開口部を開放する。基板Wは、開口部を介して反応チャンバ10のプラズマ処理空間10sから搬出される。
【0033】
[実験結果]
続いて、
図5から
図9を用いて実験結果について説明する。なお、以下の説明において、温度は、基板Wのプラズマ処理(エッチング)の開始時点の温度を示している。まず、
図5及び
図6を用いて、各種ガスを添加した場合のエッチングレートの比較について説明する。各種ガスを添加した場合の各実験結果では、総流量を500sccmとし、HFガス450sccmに各種ガスXを50sccm添加し、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜に対して下記の処理条件でエッチングを行った。なお、
図5及び
図6では、シリコン酸化膜をOxと表記し、シリコン窒化膜をNitと表記している。ここで、各種ガスXは、N2ガス、NF3ガス、SF6ガス及びCF4ガスのうち、いずれか1つのガスである。なお、各種ガスXを添加しない場合には、HFガスの流量を500sccmとしている。また、処理条件において、RF信号の電力の「CW」は連続波を示す。
【0034】
<処理条件>
(エッチング)
反応チャンバ10内の圧力 :25mTorr(3.333Pa)
第1のRF信号の電力(40MHz) :4.4kW(CW)
第2のRF信号の電力(400kHz):7.0kW(CW)
処理時間 :30秒
温度 :-70℃
処理ガス :HF/各種ガスX=450/50sccm
【0035】
図5は、実験結果におけるエッチングレートの変化を示すグラフである。
図6は、実験結果におけるCDの変化を示すグラフである。
図5及び
図6では、HFガスの場合を基準として増減を表している。また、
図5のエッチングレートの差分(ΔE/R)の単位は[nm/min]であり、
図6のΔCDの単位は[nm]である。
図5及び
図6に示すように、N系ガス(N2ガス、NF3ガス)では、シリコン酸化膜のエッチングレートの差分(増加量)は、N2ガスが「508」、NF3ガスが「530」と、大幅に増加していることがわかる。一方、SF6ガス、CF4ガスでは、シリコン酸化膜のエッチングレートの差分(増加量)は、SF6ガスが「214」、CF4ガスが「86」と、小さいことがわかる。なお、シリコン窒化膜では、N2ガス、NF3ガス、SF6ガス及びCF4ガスの全てのガスでエッチングレートが増加している。また、CDについては、
図6に示すように、他のガスに比べて、NF3が大きく悪化していることがわかる。このように、HF/N2ガスでは、CDの拡大を抑制しつつ、シリコン酸化膜のエッチングレートを向上させることができる。
【0036】
次に、
図7から
図9を用いて、HF/N2ガスの流量比を変化させた場合のエッチングレートの比較について説明する。
図7は、HF/N2ガスの流量比を変更した場合の実験結果の一例を示す図である。
図7の各実験結果では、総流量を200sccmとし、N2ガスの流量比を0%、5%、10%、25%、50%とし、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜に対して下記の処理条件でエッチングを行った。また、処理条件において、RF信号の電力の「CW」は連続波を示す。なお、
図7から
図9では、シリコン酸化膜をOxと表記し、シリコン窒化膜をNitと表記している。また、
図7には、流量比ごとにマスクエッチングレート(マスクER)、シリコン酸化膜エッチングレート(OxER)、シリコン窒化膜エッチングレート(NitER)、選択比を示す。なお、エッチングレートの単位は、[nm/min]である。
【0037】
<処理条件>
(エッチング)
反応チャンバ10内の圧力 :25mTorr(3.333Pa)
第1のRF信号の電力(40MHz) :4.4kW(CW)
第2のRF信号の電力(400kHz):7.0kW(CW)
処理時間 :30秒
温度 :-70℃
処理ガス(HF/N2)の流量 :200/0sccm(0%)
:190/10sccm(5%)
:180/20sccm(10%)
:150/50sccm(25%)
:100/100sccm(50%)
【0038】
図8は、
図7の実験結果におけるエッチングレートの変化を示すグラフである。
図9は、
図7の実験結果におけるCDの変化を示すグラフである。
図8及び
図9では、N2ガスの流量比が0%の場合を基準として増減を表している。また、
図8のエッチングレートの差分(ΔE/R)の単位は[nm/min]であり、
図9のCDの差分(ΔCD)の単位は[nm/min]である。
図7から
図9に示すように、シリコン酸化膜に対しては、N2ガスの流量比が10%のときにエッチングレートの差分が「460」と最大となることがわかる。一方、シリコン窒化膜に対しては、シリコン酸化膜と同様にN2ガスの流量比が10%のときにエッチングレートの差分が「330」と最大となるものの、N2ガスの流量比が50%では「-226」と、0%の場合よりも低下することがわかる。また、CDは、
図9に示すように、シリコン酸化膜では、N2ガスの流量比が5%~50%において拡大しないことがわかる。また、CDは、シリコン窒化膜では、N2ガスの流量比が5%~25%において拡大せず、50%において若干拡大する程度であることがわかる。すなわち、N2ガスの流量比の変化は、エッチングレートにだけ影響があることがわかる。
【0039】
続いて、エッチングレートの第2のRF信号の電力(LFパワー)への依存性について説明する。HFガスにN2ガスを添加しない場合と、N2ガスを添加した場合とにおけるエッチングレートの差分(ΔE/R)は、第2のRF信号の電力に依存する。当該エッチングレートの差分と、第2のRF信号の電力とをグラフにプロットし、「0kW」と「7kW」の2点を外挿したとき、グラフはエッチングレートの差分(ΔE/R)の「-800」と「200」を結ぶ直線状となる。なお、エッチングレートの差分(ΔE/R)の単位は、[nm/min]である。このグラフでは、エッチングレートの差分が「0」を超える第2のRF信号の電力は6kW程度となり、規格化すると約8.49W/cm2程度となる。つまり、第2のRF信号の電力が6kW以上である場合、N2ガスを添加することによりN2ガスを添加しない場合と比較してエッチングレートが上昇する効果がある。また、イオンのパワーが約8.49W/cm2程度を超えると、窒化領域が除去され底部(Bottom)のエッチングが進む。
【0040】
次に、H2/CF4ガスにN2ガスを添加した場合における温度依存性について説明する。温度を変更した場合の各実験結果では、エッチング前の基板Wを-70℃、-40℃及び20℃とし、処理ガスをH2/CF4ガス及びH2/CF4/N2ガスとし、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜に対して下記の処理条件でエッチングを行った。なお、処理条件において、RF信号の電力の「CW」は連続波を示す。
【0041】
<処理条件>
(エッチング)
反応チャンバ10内の圧力 :25mTorr(3.333Pa)
第1のRF信号の電力(40MHz) :4.4kW(CW)
第2のRF信号の電力(400kHz):7.0kW(CW)
処理時間 :30秒
温度 :-70℃,-40℃,20℃
処理ガス :H2/CF4/N2=150/50/0sccm
:H2/CF4/N2=150/50/20sccm
【0042】
図10は、実験結果における温度依存性を示すグラフである。
図10に示すグラフ230は、実験結果のうち、シリコン酸化膜に対するエッチングレートをグラフ化したものである。グラフ231は、H2/CF4ガスの場合におけるエッチングレートの温度依存性を示す。グラフ232は、H2/CF4/N2ガスの場合におけるエッチングレートの温度依存性を示す。グラフ231に示すH2/CF4ガスの場合と、グラフ232に示すH2/CF4/N2ガスの場合とにおけるエッチングレートの温度依存性を比較する。なお、エッチングレートの単位は、[nm/min]である。H2/CF4ガスの場合、-70℃で「460」、-40℃で「294」、20℃で「444」であった。一方、H2/CF4/N2ガスの場合、-70℃で「642」、-40℃で「488」、20℃で「222」であった。すなわち、-70℃から-40℃を経て0℃付近までは、H2/CF4/N2ガスがH2/CF4ガスよりもエッチングレートが高い。一方、0℃付近から20℃では反対に、H2/CF4ガスがH2/CF4/N2ガスよりもエッチングレートが高い。つまり、N2添加によるエッチングレート向上の効果は、低温領域で発動することがわかる。一方、室温では、効果が逆転していることがわかる。
【0043】
次に、実験結果のうち、シリコン窒化膜に着目して、H2/CF4ガスの場合と、H2/CF4/N2ガスの場合とにおけるエッチングレートの温度依存性を比較する。なお、エッチングレートの単位は、[nm/min]である。H2/CF4ガスの場合、-70℃で「2104」、-40℃で「2350」、20℃で「1790」であった。一方、H2/CF4/N2ガスの場合、-70℃で「1920」、-40℃で「96」、20℃で「714」であった。すなわち、-40℃、H2/CF4/N2ガスの条件においてシリコン窒化膜のエッチングレートは「96」であり、シリコン酸化膜のエッチングレートの「488」よりも低下している。このことから、-40℃、H2/CF4/N2ガスの条件は、SAC(Self-Aligned Contact)プロセスに適用可能であることがわかる。つまり、当該条件では、シリコン窒化膜(SiN)とシリコン酸化膜(SiO2)とが積層されている多層膜に対するSACプロセスにおいて、シリコン酸化膜(SiO2)を選択的にエッチングすることができる。なお、SACプロセスに適用する場合、温度条件としては、-50℃~-30℃の範囲が好ましく、-40℃がより好ましい。
【0044】
なお、上記した実施形態では、プラズマ処理システム1は、シリコン酸化膜をエッチングするエッチング装置の一例であるプラズマ処理装置1aと制御部1bとを含む形態としたが、プラズマ処理装置1aと制御部1bとを含む形態でシリコン酸化膜をエッチングするエッチング装置としてもよい。
【0045】
以上、本実施形態によれば、シリコン酸化膜をエッチングするエッチング装置(プラズマ処理システム1)は、反応チャンバと、載置台(支持部11)と、プラズマ生成部と、制御部1bとを有する。制御部1bは、シリコン酸化膜102を含む被エッチング膜と、被エッチング膜の上に形成されたマスク103とを有する基板Wを載置台上に提供するよう装置を制御するように構成される。制御部は、載置台の温度を0℃以下の温度となるように装置を制御するように構成される。制御部1bは、フッ素、窒素及び炭素を含み、窒素の数に対するフッ素の数の比率F/Nが0.5~10の範囲であるガスからプラズマを生成して、マスク103を介してシリコン酸化膜102をエッチングするよう装置を制御するように構成される。その結果、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、マスク103は、炭素含有マスクである。その結果、HF/N2ガスを用いるエッチングにおいて、プラズマに炭素を供給できる。
【0047】
また、本実施形態によれば、ガスは、さらに水素含有ガスを含む。その結果、低温環境においてエッチングレートを向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、ガスは、炭素含有ガスを含む。その結果、炭素を含まないマスク103を用いることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、ガスは、HF及びN2含有ガスを含む。その結果、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、エッチング前の基板W(載置台の温度)が-30℃以下の温度となるように設定する。その結果、よりエッチングレートを向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、被エッチング膜は、さらにシリコン窒化膜を含む積層膜である。その結果、積層膜においてもエッチングレートを向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、ガスは、シアン化物含有ガスを含む。その結果、よりエッチングレートを向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、シリコン酸化膜102の最終アスペクト比が5以上となるようにエッチングする。その結果、深穴加工において、CDの拡大を抑制しつつ、エッチングレートを向上させることができる。
【0054】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な追加、省略、置換、及び変更がなされてもよい。また、異なる実施形態における要素を組み合わせて他の実施形態を形成することが可能である。
【0055】
なお、上記した実施形態では、処理ガスとして、フッ素及び窒素含有ガスであるHF/N2ガスを用いたが、これに限定されない。例えば、NF3ガスを除いて、実験結果の一部で用いたH2/CF4/N2ガスや、HCN、CNF、C2N2等のシアン化物(CN基)を含有するガスなど各種ガスを用いることができる。また、例えば、被エッチング膜やマスクの材質に応じて、ケイ素及びフッ素含有ガスや、金属元素(Ti,W)及び塩素含有ガスを用いてもよい。
【0056】
また、上記した実施形態では、プラズマ源として容量結合型プラズマを用いて基板Wに対してエッチング等の処理を行うプラズマ処理装置1aを例に説明したが、開示の技術はこれに限られない。プラズマを用いて基板Wに対して処理を行う装置であれば、プラズマ源は容量結合プラズマに限られず、例えば、誘導結合プラズマ、マイクロ波プラズマ、マグネトロンプラズマ等、任意のプラズマ源を用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 プラズマ処理システム
1a プラズマ処理装置
1b 制御部
10 反応チャンバ
11 支持部
20 ガス供給部
30 RF電力供給部
40 排気システム
102 シリコン酸化膜
103 マスク
W 基板