(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】複合中空糸膜、及び複合中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20231215BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20231215BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20231215BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20231215BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20231215BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20231215BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20231215BHJP
C08L 39/06 20060101ALI20231215BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D61/00 500
C08L27/16
C08L39/06
C08L71/00
(21)【出願番号】P 2021501970
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020005990
(87)【国際公開番号】W WO2020175205
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036304
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】三原 孝太
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】水本 淑人
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢作
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024573(WO,A1)
【文献】特開2013-166131(JP,A)
【文献】特開2015-192927(JP,A)
【文献】特開2012-040464(JP,A)
【文献】特開平04-281830(JP,A)
【文献】特開2012-055858(JP,A)
【文献】特開2020-015005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/00 - 69/14
B01D 71/56
B32B 5/18
B32B 27/34
B32B 1/08
C08L 27/16
C08L 39/06
C08L 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層と、前記半透膜層及び前記支持層の間に介在する中間層とを備え、
前記支持層は、ポリフッ化ビニリデン又はポリサルホンと、架橋されたポリビニルアルコール又は架橋されたポリビニルピロリドンとを含み、
前記半透膜層は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含み、
前記中間層は、前記支持層と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含むことを特徴とする複合中空糸膜。
【請求項2】
前記中間層の厚みは、20~5000nmである請求項1に記載の複合中空糸膜。
【請求項3】
前記複合中空糸膜のヤング率は、50~300N/mm
2である請求項1又は請求項2に記載の複合中空糸膜。
【請求項4】
前記中間層が、前記支持層の外周面に接触し、
前記半透膜層が、前記中間層の外周面に接触して配置される請求項1~3のいずれか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項5】
前記中間層に備えられる前記層状部分の、前記半透膜層側の表面における気孔の平均径が、0.01~2μmである請求項1~4のいずれか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項6】
正浸透法に用いられる正浸透膜である請求項1~5のいずれか1項に記載の複合中空糸膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合中空糸膜の製造方法であって、
前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの一方を含有する第1溶液と、前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの他方を含有し、かつ、前記第1溶液と接触させることにより、前記第1溶液と界面を形成する第2溶液とを準備する工程と、
多孔質な中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記第1溶液を接触させる第1接触工程と、
前記中空糸状部材を揺動させながら、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液を接触させる第2接触工程とを備えることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1溶液及び前記第2溶液のうちの一方が、前記多官能アミン化合物の水溶液であり、
前記第1溶液及び前記第2溶液のうちの他方が、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液である請求項7に記載の複合中空糸膜の製造方法。
【請求項9】
前記第1接触工程の後であって、前記第2接触工程の前に、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面上に存在する前記第1溶液を除去する工程をさらに備える請求項7又は請求項8に記載の複合中空糸膜の製造方法。
【請求項10】
前記第2接触工程は、前記中空糸状部材が前記第2溶液にのみ接触する工程である請求項7~9のいずれか1項に記載の複合中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合中空糸膜、及び複合中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状混合物の分離に関して、溶媒に溶解した物質を選択的に分離する技術には、様々な技術がある。例えば、蒸留等の分離技術に比べて、省エネルギかつ低コストな分離技術として、精密ろ過法、限外ろ過法、逆浸透法、及び正浸透法等の膜分離法が挙げられる。これらの膜分離法の中でも、逆浸透法及び正浸透法と限外ろ過法との間に位置するナノろ過法という膜分離法の開発が進んでいる。このような様々な膜分離法は、除去対象物等によって適切な膜分離法を選択することによって、液状混合物の分離だけではなく、濃縮もできる。このような膜分離法による液状混合物の分離や濃縮は、物質の状態変化を伴わないことから、様々な分野で利用されている。具体的には、食品分野における、果汁濃縮やビール酵母の分離、半導体分野における超純水製造、及び飲料水製造分野における、海水等の鹹水の淡水化等が挙げられる。
【0003】
膜分離法の中でも、例えば、ナノろ過法、逆浸透法、及び正浸透法等は、半透膜を用いる膜分離法である。半透膜を用いる膜分離法には、例えば、ナノフィルトレーション(Nano Filtration:NF)膜、逆浸透(Reverse Osmosis:RO)膜、及び正浸透(Forward Osmosis:FO)膜等の、半透膜の機能を有する半透膜層を備える膜が用いられる。このような半透膜を用いる膜分離法に用いられる膜としては、半透膜層だけではなく、半透膜層を支持する支持層も備えられる複合膜等が挙げられる。
【0004】
このような複合膜としては、例えば、特許文献1に記載の正浸透膜、及び特許文献2に記載の製造法により得られる複合中空糸膜等が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、半透膜の性能を有する薄膜層がポリケトン支持層に積層されている正浸透膜が記載されている。特許文献1によれば、この正浸透膜を適用することによって、有機化合物に対し十分な耐久性を持ち、水の透過性に優れる正浸透処理システムを提供することができる旨が開示されている。
【0006】
特許文献2には、多孔質中空糸膜の外表面に重合体薄膜からなる分離活性層を形成させ複合化するに際し、相互に反応して該重合体薄膜を形成し得る少なくとも1種からなる多官能性化合物Aを含む第1溶液と少なくとも1種からなる多官能性化合物Bを含み該第1溶液と実質的に非混合性の第2溶液に順次、該多孔質中空膜を接触させ、該多孔質中空糸膜上で該多官能性化合物A、Bを相互に界面重合反応させて薄膜を形成し、連続した複合中空糸膜を、該第1溶液から続いて該第2溶液に接触させた後に、該第2溶液と実質的に非混合性の第3液に少なくとも1カ所接触させる複合中空糸膜の製造法が記載されている。特許文献2によれば、透過性能、分離性能に優れた複合中空糸膜を容易に製造する方法を提供することができる旨が開示されている。
【0007】
複合膜は、半透膜層等の活性層と、それを支持する支持層とを備えている。前記活性層と前記支持層とは、異なる性能が求められることから、それぞれが異なる素材からなる。また、複合膜における活性層として半透膜層を用いた場合、複合膜を用いた分離法は、水等の溶媒を溶質より透過させやすい半透膜層を用いて分離する。すなわち、半透膜層と支持層とを備える複合膜を分離法に用いた際、その分離に寄与するのは、主に半透膜層である。また、複合膜の場合、支持層により、半透膜層が支持されることから、透水性等を高めるためにも、薄い半透膜層が好まれる。
【0008】
薄い活性層を形成させる技術としては、例えば、コート法、プラズマ重合法、及び界面重合法等が挙げられる。この中でも、活性層が半透膜層の場合、界面重合法で形成することによって、他の方法で形成するより、薄い半透膜層を形成でき、高い透過性能を発揮できる。界面重合法は、水と、水と接触することにより界面を形成する有機溶媒とに、2種類以上の反応性化合物を、それぞれ溶解させ、その得られた溶液を接触させることにより形成される界面で、前記反応性化合物を重合させる方法である。具体的には、特許文献1及び特許文献2に記載のように、多孔体層等の支持層の一方の表面に、ポリアミン水溶液を塗布した後、ポリカルボン酸誘導体、多官能性酸ハロゲン化物、又は多官能性イソシアネートの有機溶媒溶液を塗布することで、前記多孔体層上に、活性層を形成させる方法等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/024573号
【文献】特開平8-66625号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜、及び前記複合中空糸膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の一局面は、半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層と、前記半透膜層及び前記支持層の間に介在する中間層とを備え、前記半透膜層は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含み、前記中間層は、前記支持層と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含むことを特徴とする複合中空糸膜である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合中空糸膜を示す部分斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す複合中空糸膜の層構造の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す複合中空糸膜の層構造の他の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る複合中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図5】
図5は、比較例1に係る複合中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
半透膜層と支持層とを備える複合膜としては、特許文献1に記載されているように、平膜の支持層を備えた複合膜と、中空糸膜の支持層を備えた複合膜とが考えられる。複合膜は、一般的に、ハウジングと呼ばれる筐体に収納されたモジュールとして、水処理に用いられる。このことから、本発明者等は、複合膜に備えられる支持層としては、平膜ではなく、中空糸膜を用いたほうが、モジュールあたりの膜の表面積を大きくできるため、より省スペースな水処理システムを提供できることに着目した。すなわち、本発明者等は、半透膜層による分離を好適に行うために、複合膜に備えられる支持層としては、平膜ではなく、設置面積あたりの膜面積を平膜より大きくできる中空糸膜を用いることに着目した。
【0014】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、支持層として、中空糸膜を単に用いただけでは、半透膜層による分離を好適に行うことができる複合中空糸膜が得られない場合があった。また、半透膜層と支持層との界面で剥離が発生する等、耐久性が充分に高い複合中空糸膜が得られない場合もあった。
【0015】
本発明者等は、例えば、支持層である中空糸膜上に半透膜層を形成するための重合中又は重合後等に、中空糸膜を搬送するローラ等に前記中空糸膜が接触することにより、半透膜層が好適に形成できない場合があることに着目した。このような場合、得られた複合中空糸膜は、半透膜層による分離が好適に行うことができない。さらに、本発明者等の検討によれば、ローラ等に前記中空糸膜が接触しないように、中空糸膜上に半透膜層を形成しただけでは、得られた複合中空糸膜の耐久性が不充分な場合があった。例えば、複数の複合中空糸膜を筐体内に収納したモジュールとして、水処理に用いる場合、前記筐体内で、前記複合中空糸膜同士が接触することによって、前記複合中空糸膜に備えられる半透膜層が損傷する場合があった。また、前記複合中空糸膜の揺動及び曲げ等によっても、前記複合中空糸膜に備えられる半透膜層が損傷する場合があった。このように、得られた複合中空糸膜の耐久性が不充分な場合があった。また、このように半透膜層が損傷した場合、その後、半透膜層による分離が好適に行うことができないことになる。このような半透膜層の損傷は、前記支持層と前記半透膜層との界面状態等に起因していると、本発明者等は推察し、種々検討した。これらの検討の結果、以下の本発明により、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜、及び前記複合中空糸膜の製造方法を提供するといった上記目的が達成されることを見出した。
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0017】
[複合中空糸膜]
本発明の実施形態に係る複合中空糸膜11は、
図1に示すように、中空糸状の膜である。また、前記複合中空糸膜11は、
図2及び
図3に示すように、中空糸状の多孔質な支持層12と、半透膜層13と、中間層14とを備える。前記半透膜層13は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミド、すなわち、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含む。前記中間層14は、前記支持層12と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含む。
【0018】
前記複合中空糸膜11は、半透膜層による分離をより好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れている。このことは、以下のことによると考えられる。
【0019】
まず、前記複合中空糸膜11は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層13を支持層12上に備えることから、半透膜層を用いた分離を好適に行うことができると考えられる。また、前記支持層12として、中空糸状の支持層を用いることによって、平膜にした場合より膜面積を広くすることができる。さらに、前記複合中空糸膜11は、前記半透膜層13と前記支持層12との間に、前記支持層と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含む中間層14を備える。この中間層14により、前記半透膜層13が、前記支持層12から剥離することを抑制できると考えられる。よって、前記複合中空糸膜11は、前記複合中空糸膜11の揺動や曲げ、及び前記複合中空糸膜同士の接触等による前記半透膜層の損傷の発生を抑制できると考えられる。さらに、この中間層14は、前記半透膜層13を構成する架橋ポリアミドを含むので、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる。このことから、仮に前記半透膜層13の一部が損傷しても、前記中間層14により、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる。
【0020】
以上のことから、前記複合中空糸膜11は、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜であると考えられる。
【0021】
前記複合中空糸膜は、例えば、正浸透法に用いた場合、溶質濃度の異なる2つの溶液を、前記複合中空糸膜を介して接触させることによって、溶質濃度差から生じる浸透圧差を駆動力として、溶質濃度の低い希薄溶液から、溶質濃度の高い濃厚溶液へと水を好適に透過させることができる。前記複合中空糸膜は、正浸透法に用いると、例えば、優れた脱塩性能を発揮することができる。
【0022】
なお、
図1は、本発明の実施形態に係る複合中空糸膜11を示す部分斜視図である。また、
図2及び
図3は、
図1に示す係る複合中空糸膜11の一部Aを拡大して、複合中空糸膜11の層構造を示す。なお、
図2及び
図3は、層の位置関係を表すものであって、層の厚みの関係を特に表してはいない概略図である。
【0023】
前記複合中空糸膜11は、前記半透膜層13が、
図2に示すように、前記中間層14を介して、前記支持層12の外周面に接触して設けられていてもよいし、
図3に示すように、前記中間層14を介して、前記支持層12の内周面に接触して設けられていてもよい。すなわち、前記複合中空糸膜11は、
図2に示すように、前記中間層14が、前記支持層12の外周面に接触し、前記半透膜層13が、前記中間層14の外周面に接触して配置されていてもよいし、
図3に示すように、前記中間層14が、前記支持層12の内周面に接触し、前記半透膜層13が、前記中間層14の内周面に接触して配置されていてもよい。この中でも、前記複合中空糸膜11は、
図2に示すように、前記中間層14が、前記支持層12の外周面に接触し、前記半透膜層13が、前記中間層14の外周面に接触して配置されていることが好ましい。前記半透膜層が、前記中間層を介して、前記支持層の外周面に接触していることから、前記半透膜層が、前記支持層の内周面側に接触している場合より、前記半透膜層の面積を広くすることができることから、前記複合中空糸膜は、半透膜層を用いた分離をより好適に行うことができると考えられる。一方で、一般的に、複合中空糸膜において、半透膜層が、支持層の外周面側に形成されていると、上述したように、複合中空糸膜同士の接触による半透膜層の損傷が起こりやすい。これに対して、本実施形態に係る複合中空糸膜では、上述したように、前記複合中空糸膜同士の接触等による前記半透膜層の損傷の発生を抑制でき、さらに、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる中間層を備える。さらに、前記支持層の外周面側に、前記半透膜層及び前記中間層を形成するほうが、製造しやすい。これらのことから、前記半透膜層が、前記支持層の外周面側に形成されていても、耐久性に優れた複合中空糸膜が得られると考えられる。これらのことから、前記半透膜層が、前記支持層の外周面側に形成されることが好ましい。
【0024】
(半透膜層)
前記半透膜層13は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミド、すなわち、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含んで、半透膜の機能を奏する層であれば、特に限定されない。前記架橋ポリアミドは、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドであって、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物との重合の際に生じる、多官能アミン化合物及び多官能酸ハライド化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。前記半透膜層13における前記架橋ポリアミドの含有量は、90~100質量%であることが好ましく、100%であることがより好ましい。すなわち、前記半透膜層13は、前記架橋ポリアミドのみからなることが好ましい。
【0025】
前記多官能アミン化合物は、アミノ基を分子内に2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。前記多官能アミン化合物としては、例えば、芳香族多官能アミン化合物、脂肪族多官能アミン化合物、及び脂環族多官能アミン化合物等が挙げられる。また、前記芳香族多官能アミン化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及びo-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン及び1,3,4-トリアミノベンゼン等のトリアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン及び2,6-ジアミノトルエン等のジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸、キシリレンジアミン、及び2,4-ジアミノフェノール二塩酸塩(アミドール)等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロプレンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミン等が挙げられる。前記脂環族多官能アミン化合物としては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、及び4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能アミン化合物が好ましく、フェニレンジアミンがより好ましい。また、前記多官能アミン化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
前記多官能酸ハライド化合物(多官能酸ハロゲン化物)は、カルボン酸等の酸を分子内に2つ以上有する多官能有機酸化合物に含まれる酸からヒドロキシル基を2つ以上除去し、ヒドロキシル基が除去された酸にハロゲンが結びついた化合物であれば、特に限定されない。前記多官能酸ハライド化合物は、2価以上であればよく、3価以上であることが好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、例えば、多官能酸フッ化物、多官能酸塩化物、多官能酸臭化物、及び多官能酸ヨウ化物等が挙げられる。この中でも、多官能酸塩化物(多官能酸クロライド化合物)が、最も容易に得られ、反応性も高いので好ましく用いられるが、これに限らない。また、以下、多官能酸塩化物を例示するが、多官能酸塩化物以外の多官能酸ハロゲン化物としては、下記例示の塩化物を、他のハロゲン化物に変えたもの等が挙げられる。
【0027】
前記多官能酸クロライド化合物としては、例えば、芳香族多官能酸クロライド化合物、脂肪族多官能酸クロライド化合物、及び脂環族多官能クロライド化合物等が挙げられる。前記芳香族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、及びベンゼンジスルホン酸ジクロライド等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルクロライド、及びアジポイルクロライド等が挙げられる。また、脂環族多官能クロライド化合物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、及びテトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能酸クロライド化合物が好ましく、トリメシン酸トリクロライドがより好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(支持層)
前記支持層12は、上述したように、中空糸状であって、多孔質であれば、特に限定されない。また、前記支持層12は、多孔質であることから、支持層内部には空隙が形成されていることから、水を透過させることができる。
【0029】
前記支持層12の、前記半透膜層13が形成される側における気孔の平均径は、0.01~2μmであることが好ましく、0.15~2μmであることがより好ましい。前記平均径が大きすぎると、前記気孔が大きく、前記支持層上に、前記中間層を好適に形成できなかったり、前記中間層上に前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。すなわち、前記支持層を、前記半透膜層で好適に覆うことができず、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を、例えば、正浸透(FO)膜として用いると、充分な脱塩性能を得られにくい傾向がある。一方で、前記平均径が小さすぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。このことは、後述する比較例2からもわかる。このことは、以下のことによると考えられる。後述する複合中空糸膜の製造方法における第1接触工程において、第1溶液が中空糸状部材に充分にしみ込まないと考えられる。このため、第2接触工程で第2溶液を接触させても、第1溶液及び第2溶液のそれぞれに含まれている多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物との重合が充分に進行しないと考えられる。よって、前記支持層上に、前記中間層を好適に形成できなかったり、前記中間層上に前記半透膜層を好適に形成できない傾向があると考えられる。これらのことから、半透膜層による分離を好適に行うことができないと考えられる。よって、前記平均径が上記範囲内であると、前記中間層及び前記半透膜層を好適に形成でき、すなわち、前記中間層に強固に固定された前記半透膜層が、好適に形成できることによって、半透膜層による分離と透過性とを両立できる。
【0030】
なお、前記平均径は、支持層の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、支持層によって透過を阻止する割合(支持層による阻止率)が90%となるときの粒子の径等が挙げられる。具体的には、以下のように測定することができる。
【0031】
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI-550、カタロイドSI-45P、カタロイドSI-80P、ダウケミカル株式会社製の、粒径0.1μm、0.2μm、0.5μmのポリスチレンラテックス等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを前記平均径とした。
【0032】
R=100/(1-m×exp(-a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。
【0033】
前記支持層12は、親水性樹脂を含むことによって、親水化されていてもよい。前記支持層12に含まれる親水性樹脂は、架橋されていることが好ましい。すなわち、前記支持層12は、中空糸状の多孔質な基材に、架橋された親水性樹脂を含むことが好ましい。架橋された親水性樹脂は、前記支持層12の全体に含まれていても、前記支持層12の一部に含まれていてもよいが、その場合、前記支持層12の前記中間層14側に含まれていることが好ましく、前記支持層12の前記中間層側に含まれた上で、さらにその他の部分にも含まれていることがより好ましい。
【0034】
前記中空糸状の多孔質な基材は、中空糸膜を構成することができる素材からなる基材であれば、特に限定されない。前記支持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、及びアクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、及びポリエーテルサルホンが、耐圧性能に優れる観点から好ましい。また、前記支持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
前記親水性樹脂は、前記中空糸状の多孔質な基材に含ませることによって、前記支持層12を親水化させることができる樹脂であれば、特に限定されない。前記親水性樹脂としては、例えば、セルロース、セルロースアセテート及びセルローストリアセテート等の酢酸セルロース系ポリマー、ポリビニルアルコール及びポリエチレンビニルアルコール等のビニルアルコール系ポリマー、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイド等のポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸系ポリマー、及び、ポリビニルピロリドン等のポリビニルピロリドン系ポリマー等が挙げられる。この中でも、ビニルアルコール系ポリマーやポリビニルピロリドン系ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンがより好ましい。ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンは、より架橋させやすく、また、半透膜層との接着性をより高めることができると考えられる。すなわち、前記支持層を親水化させる際に用いる親水性樹脂として、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの少なくとも一方を用いると、これらの樹脂は架橋させやすく、前記支持層に適切な親水性を付与しやすいと考えられる。そして、架橋された親水性樹脂が前記支持層に含まれることによって、前記架橋ポリアミド重合体を含む半透膜層との接着性を高めることができると考えられる。これらのことから、前記半透膜層を、前記支持層の緻密面上に好適に形成させることができ、形成された前記半透膜層が、前記支持層から剥離されることを充分に抑制できると考えられる。これらのことから、これらの樹脂を親水性樹脂として含む支持層を備える複合中空糸膜は、半透膜層による分離をより好適に行うことができ、耐久性により優れた複合中空糸膜を提供することができる。また、前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記親水性樹脂としては、グリセリン及びエチレングリコール等の親水性の単分子を含んでいてもよく、これらの重合体であってもよく、これらを上記樹脂との共重合成分として含むものであってもよい。
【0036】
前記親水性樹脂の架橋は、前記親水性樹脂が架橋されて、前記親水性樹脂の水に対する溶解性が低下していればよく、例えば、水に溶解しないように不溶化させる架橋等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋としては、前記親水性樹脂としてポリビニルアルコールを用いた場合、例えば、ホルムアルデヒドを用いたアセタール化反応やグルタルアルデヒドを用いたアセタール化反応等が挙げられる。また、前記親水性樹脂としてポリビニルピロリドンを用いた場合、例えば、過酸化水素水との反応等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋は、その架橋度が高いと、複合中空糸膜を長期間にわたって使用しても、前記複合中空糸膜からの親水性樹脂の溶出を抑制できると考えられる。このため、前記半透膜層と前記支持層との剥離等を、長期間にわたって抑制できると考えられる。
【0037】
前記支持層12は、前記支持層12の気孔が、内表面及び外表面の一方から他方に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有することが好ましい。そして、前記半透膜層13は、前記支持層12の気孔が小さい側の表面である緻密面側に形成されることが好ましい。前記半透膜層13が、
図2に示すように、前記支持層12の外周面側に形成される場合は、前記支持層12は、前記支持層12の気孔が、外表面から内周面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造、すなわち、内表面から外表面に向かって漸次的に小さくなる傾斜構造を有することが好ましい。前記支持層12の気孔が、外表面から内周面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造とは、外表面に存在する気孔が、内周面に存在する気孔より小さく、前記支持層12の内部の気孔は、前記外周面に存在する気孔と同等以上であって、前記内周面に存在する気孔と同等以下である構造である。
【0038】
前記支持層は、ヤング率が50~300N/mm2であることが好ましい。前記ヤング率が低すぎると、前記複合中空糸膜を用いた実用運転において、前記複合中空糸膜の耐久性が不充分になる傾向がある。前記ヤング率は、高いほど好ましいが、高すぎるヤング率は、実用上、不要である場合がある。なお、前記ヤング率は、JIS K 7161-1に準拠の方法により測定することができる。
【0039】
なお、前記支持層12の製造方法は、上記のような構成の中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記中空糸膜の製造方法としては、多孔性の中空糸膜を製造する方法等が挙げられる。このような多孔性の中空糸膜の製造方法としては、相分離を利用する方法が知られている。この相分離を利用する中空糸膜の製造方法としては、例えば、非溶剤誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation:NIPS法)や、熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation:TIPS法)等が挙げられる。
【0040】
NIPS法とは、ポリマーを溶剤に溶解させた均一なポリマー原液を、ポリマーを溶解させない非溶剤と接触させることで、ポリマー原液と非溶剤との濃度差を駆動力とした、ポリマー原液の溶剤と非溶剤との置換により、相分離現象を起こさせる方法である。NIPS法は、一般的に、溶剤交換速度によって、形成される細孔の孔径が変化する。具体的には、溶剤交換速度が遅いほど、細孔が粗大化する傾向がある。また、溶剤交換速度は、中空糸膜の製造においては、非溶剤との接触面が最も速く、膜内部に向かうにしたがって、遅くなる。このため、NIPS法で製造した中空糸膜は、非溶剤との接触面付近は緻密であって、膜内部に向かって、徐々に細孔を粗大化した非対称構造を有するものが得られる。
【0041】
また、TIPS法とは、ポリマーを、高温下では溶解させることができるが、温度が低下すると溶解できなくなる貧溶剤に、高温下で溶解させ、その溶液を冷却することにより、相分離現象を起こさせる方法である。熱交換速度は、一般的に、NIPS法における溶剤交換速度より速く、速度の制御が困難であるため、TIPS法は、膜厚方向に対して、均一な細孔が形成されやすい。
【0042】
また、前記中空糸膜(前記支持層)の製造方法としては、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、この製造方法としては、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、中空糸膜を構成する樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製する工程(調製工程)と、前記製膜原液を中空糸状に押し出す工程(押出工程)と、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させて、中空糸膜を形成する工程(形成工程)とを備える方法等が挙げられる。
【0043】
(中間層)
前記中間層14は、上述したように、前記半透膜層13と前記支持層12との間に介在する層であって、前記支持層12と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分にしみ込んだ、前記半透膜層13に含まれている前記架橋ポリアミドとを含む層である。すなわち、前記中間層14は、多孔質な中空糸状部材上に、前記半透膜層13を形成する際、前記半透膜層13を構成する成分が、前記中空糸状部材中にも形成された部分である。前記中空糸状部材は、その表面に近い部分が前記中間層14となり、その他の残りの部分が支持層12となる。よって、前記中間層14における前記層状部分は、前記支持層12と同じ材質からなる。また、前記層状部分にしみ込んだ前記架橋ポリアミドは、前記半透膜層13に含まれる前記架橋ポリアミドと同じ材質である。前記中間層は、前記半透膜層と連続して形成されていることが好ましい。このことにより、前記中間層が存在することにより、前記半透膜層が前記支持層から剥離されにくくなる。また、前記半透膜層は、通常、ひだ状の構造を有しているが、このひだの山部分の裾野の部分だけではなく、谷部分でも、前記中間層と連続で形成されていることが好ましい。
【0044】
前記中間層に備えられる前記層状部分の、前記半透膜層側の表面における気孔の平均径は、前記中間層が非常に薄くて、前記支持層12の、前記半透膜層13が形成される側における気孔の平均径と実質的に同じであり、0.01~2μmであることが好ましく、0.15~2μmであることがより好ましい。
【0045】
(複合中空糸膜)
前記複合中空糸膜の外径R1は、0.1~2mmであることが好ましく、0.2~1.5mmであることがより好ましく、0.3~1.5mmであることがさらに好ましい。前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の内径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記外径が小さすぎると、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向もある。さらに、前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記外径が大きすぎると、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなるので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。前記外径が大きすぎると、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の外径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
【0046】
前記複合中空糸膜の内径R2は、0.05~1.5mmであることが好ましく、0.1~1mmであることが好ましく、0.2~1mmであることがさらに好ましい。前記内径が小さすぎると、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記内径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の外径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなくので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。そして、前記内径が大きすぎと、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の内径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
【0047】
また、前記複合中空糸膜の膜厚Tは、0.02~0.3mmであることが好ましく、0.05~0.3mmであることがより好ましく、0.05~0.25mmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
【0048】
前記半透膜層13の膜厚は、下記界面重合で形成され、下記中空糸状部材の表面上に形成される部分の厚みである。具体的には、前記半透膜層の膜厚は、1~10000nmであり、1~5000nmであることがより好ましく、1~3000nmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な脱塩性能を発揮できず、塩逆流速度が上昇する等のように、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。このことは、半透膜層が薄すぎて、半透膜層の機能を充分に奏することができなかったり、半透膜層が支持層上を充分に覆うことができないこと等によると考えられる。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。このことは、半透膜層が厚すぎて、透水抵抗が大きくなるため、水が透過しにくくなることによると考えられる。なお、前記半透膜層の膜厚としては、前記半透膜層が、上述したように、ひだ状であることから、ひだの山部と前記中間層表層とまでの距離が挙げられ、例えば、複合中空糸膜の断面の任意の3点をSEM観察し、ひだの山部の頂点から支持層表面までの距離を測定した平均値等が挙げられる。
【0049】
前記中間層14の膜厚は、下記界面重合で形成され、下記中空糸状部材の中に形成される部分の厚み(下記中空糸状部材の表面からの深さ)である。この厚みは、20~5000nmであることが好ましく、50~1000nmであることがより好ましく、100~1000nmであることがさらに好ましい。前記中間層が薄すぎると、前記中間層が奏する効果を充分に発揮できない傾向がある。すなわち、前記半透膜層が、前記支持層から剥離することを充分に抑制できなくなる傾向がある。また、前記中間層が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。このことは、中間層が厚すぎて、透水抵抗が大きくなるため、水が透過しにくくなることによると考えられる。よって、前記中間層の膜厚が上記範囲内であると、前記半透膜層が、前記支持層から剥離することを充分に抑制し、すなわち、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、透水性に優れたものにすることができる。
【0050】
前記支持層12の膜厚は、前記複合中空糸膜の膜厚から、前記半透膜層13の膜厚と前記中間層14の膜厚とを引いた差分であり、具体的には、0.02~0.3mmであり、0.05~0.3mmであることがより好ましく、0.05~0.25mmであることがさらに好ましい。なお、支持層の膜厚は、半透膜層や中間層が、支持層と比較して非常に薄いため、複合中空糸膜の膜厚とほぼ同じである。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
【0051】
前記複合中空糸膜は、半透膜を用いる膜分離技術に適用可能である。すなわち、前記複合中空糸膜は、例えば、NF膜、RO膜、及びFO膜等として用いることができる。この中でも、前記複合中空糸膜は、FO法に用いられるFO膜であることが好ましい。
【0052】
[複合中空糸膜の製造方法]
本実施形態に係る複合中空糸膜の製造方法は、上述の複合中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。前記製造方法としては、前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの一方を含有する第1溶液と、前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの他方を含有する第2溶液とを準備する工程(準備工程)と、多孔質な中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記第1溶液を接触させる工程(第1接触工程)と、前記中空糸状部材を揺動させながら、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液をさらに接触させる工程(第2接触工程)とを備える。
【0053】
前記準備工程は、前記第1溶液、及び前記第2溶液を準備する。すなわち、前記多官能アミン化合物を含有する溶液及び前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液を準備する。
【0054】
前記多官能アミン化合物を含有する溶液は、具体的には、前記多官能アミン化合物の水溶液等が挙げられる。前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物の濃度が、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。前記多官能アミン化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離が不充分になる傾向がある。また、前記多官能アミン化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物を水に溶解させた溶液であり、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
【0055】
前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液は、具体的には、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液等が挙げられる。前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液は、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が、0.01~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましい。前記多官能酸ハライド化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離、例えば、脱塩性能が不充分になる傾向がある。また、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。
【0056】
前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液は、前記多官能酸ハライド化合物を有機溶媒に溶解させた溶液である。前記有機溶媒としては、前記多官能酸ハライド化合物を溶解し、水に溶解しない溶媒であれば、特に限定されない。前記有機溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、及びドデカン等のアルカン系飽和炭化水素等が挙げられる。前記有機溶媒としては、上記例示の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記有機溶媒としては、1種単独で用いる場合は、例えば、n-ヘキサン等が挙げられ、2種以上を組み合わせて用いる場合、例えば、ノナン、デカン、及びドデカンの混合溶剤等が挙げられる。前記有機溶媒には、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
【0057】
前記第1接触工程は、多孔質な中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記第1溶液を接触させる。前記第1接触工程は、具体的には、前記中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記多官能アミン化合物を含有する溶液又は前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液を接触させる。前記第1接触工程は、前記中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記多官能アミン化合物を含有する溶液を接触させることが好ましい。そうすることによって、前記第1溶液が、前記中空糸状部材の一方の面側からしみ込む。
【0058】
前記第2接触工程は、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液をさらに接触させる。前記第2接触工程は、具体的には、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記多官能アミン化合物を含有する溶液及び前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液のうち、第1接触工程で用いなかったほうの溶液を接触させる。前記第2接触工程は、前記第1溶液として、前記多官能アミン化合物を含有する溶液を用いた場合、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液を接触させる。そうすることによって、前記第1接触工程で前記中空糸状部材にしみ込まれた前記第1溶液と、前記第2接触工程で前記中空糸状部材にしみ込まれた前記第2溶液との界面が形成される。そして、前記界面において、前記第1溶液及び前記第2溶液に含まれている、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との反応が進行する。すなわち、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との界面重合が起こる。この界面重合によって、架橋ポリアミドが形成される。
【0059】
前記第2接触工程は、前記第2溶液を前記中空糸状部材に接触させる際、前記中空糸状部材を揺動させる。すなわち、前記第2接触工程は、前記中空糸状部材を揺動させながら、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液を接触させる。このように、前記中空糸状部材を揺動させると、前記中空糸状部材の表面上に前記架橋ポリアミドが形成されるだけではなく、前記中空糸状部材の表面から内部に向かって、前記架橋ポリアミドがしみ込まれた状態で前記架橋ポリアミドが形成される。このことは、前記界面が、前記中空糸状部材の表面から内部に入ったところに形成されることによると考えられる。よって、前記中空糸状部材の表面上に形成された前記架橋ポリアミドが前記半透膜層となる。そして、形成された前記架橋ポリアミドが前記中空糸状部材の表面から内部に向かってしみ込んだ領域が、前記中間層となる。さらに、前記中空糸状部材のうち、前記架橋ポリアミドがしみ込んでいない領域が、前記支持層となる。なお、前記中空糸状部材は、前記支持層と同じ材質からなる中空糸膜である。
【0060】
なお、前記製造方法は、前記第1溶液及び前記第2溶液を接触させた前記中空糸状部材を乾燥させる工程(乾燥工程)を備えていてもよい。前記乾燥工程は、前記第1溶液及び前記第2溶液を接触させた前記中空糸状部材を乾燥させる。前記第2接触工程において、上述したように、前記多官能アミン化合物を含有する溶液と前記多官能酸ハライド化合物を含有する溶液との接触による界面重合により得られた架橋ポリアミドが形成されている。前記中空糸状部材を乾燥させることにより、形成された架橋ポリアミドが乾燥される。
【0061】
前記乾燥は、形成された架橋ポリアミドが乾燥されれば、その温度等は特に限定されない。乾燥温度としては、例えば、50~150℃であることが好ましく、80~130℃であることが好ましい。前記乾燥温度が低すぎると、乾燥が不充分になる傾向があるだけではなく、乾燥時間が長くなりすぎ、生産効率が低下する傾向がある。また、前記乾燥温度が高すぎると、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向がある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。また、乾燥時間としては、例えば、1~30分間であることが好ましく、1~20分間であることがより好ましい。前記乾燥時間が短すぎると、乾燥が不充分になる傾向がある。また、前記乾燥時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向がある。また、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向もある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。
【0062】
上記のような製造方法によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を好適に製造することができる。
【0063】
前記製造方法において、前記第1接触工程の後であって、前記第2接触工程の前に、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面上に存在する前記第1溶液を除去する工程(除去工程)をさらに備えることが好ましい。
【0064】
前記除去工程は、前記第1接触工程の後であって、前記第2接触工程の前に、前記中空糸状部材にしみ込まずに、前記中空糸状部材の表面上に残存する第1溶液を除去する。すなわち、前記第1接触工程の後であって、前記第2接触工程の前に、液切りをする。この液切りの方法としては、特に限定されないが、例えば、エアナイフのような、スリットやノズルから噴射するエアブロー等が挙げられる。この噴射する気体としては、例えば、空気、窒素、及び不活性ガス等が挙げられる。
【0065】
前記製造方法において、前記第1接触工程の後、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面上に存在する前記第1溶液を除去する工程を行った後に、前記第2接触工程を行うと、前記架橋ポリアミドが重合される界面が、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面から内側により好適に形成されると考えられる。このことにより、前記中間層がより好適に形成されると考えられる。よって、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができると考えられる。以上のことから、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができる。
【0066】
前記製造方法において、前記第2接触工程は、前記中空糸状部材が前記第2溶液にのみ接触する工程であることが好ましい。すなわち、前記第2接触工程において、前記中空糸状部材が前記第2溶液以外の、例えば、中空糸状部材を搬送するローラや前記第2溶液を保持する容器等に接触しないことが好ましい。前記第2接触工程において、前記中空糸状部材が前記第2溶液以外の、例えば、中空糸状部材を搬送するローラや前記第2溶液を保持する容器等に接触すると、前記半透膜層が好適に形成されないおそれがある。これに対して、前記第2接触工程において、前記中空糸状部材が前記第2溶液にのみ接触することによって、このようなおそれが発生せず、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができる。前記第2接触工程における、前記中空糸状部材が前記第2溶液にのみ接触する工程としては、例えば、前記第2溶液を前記中空糸状部材に吹き付ける方法(第1方法)、及び前記第2溶液を保持する容器等に前記中空糸状部材が接触しないように、前記容器等に保持された前記第2溶液に前記中空糸状部材を接触させる方法(第2方法)等が挙げられる。前記第1方法としては、例えば、前記第2溶液をミスト状にして前記中空糸状部材に噴霧する方法、及び前記第2溶液を前記中空糸状部材の上部からシャワーを用いて接触させる方法等が挙げられる。また、前記第2方法としては、例えば、前記容器等に保持された前記第2溶液の表面張力によって形成された前記第2溶液の盛り上がった部分に前記中空糸状部材を接触させる方法、前記容器等に保持された前記第2溶液の流動(例えば、前記容器内の下部から上部に向かう流動等)により形成された前記第2溶液の盛り上がった部分に前記中空糸状部材を接触させる方法、及び前記容器等から溢れ出た前記第2溶液に前記中空糸状部材を接触させる方法等が挙げられる。
【0067】
前記製造方法において、前記複合中空糸膜をバッチ式で製造してもよいし、連続式で製造してもよいが、量産の観点から、連続式で製造することが好ましい。
【0068】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0069】
本発明の一局面は、半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層と、前記半透膜層及び前記支持層の間に介在する中間層とを備え、前記半透膜層は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含み、前記中間層は、前記支持層と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含むことを特徴とする複合中空糸膜である。
【0070】
このような構成によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0071】
まず、前記複合中空糸膜は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層を支持層上に備えることから、半透膜層を用いた分離を好適に行うことができると考えられる。また、前記支持層として、中空糸状の支持層を用いることによって、平膜にした場合より膜面積を広くすることができる。さらに、前記複合中空糸膜は、前記半透膜層と前記支持層との間に、前記支持層と同じ材質からなる層状部分と、前記層状部分に浸み込んだ前記架橋ポリアミドとを含む中間層を備える。この中間層により、前記半透膜層が、前記支持層から剥離することを抑制できると考えられる。すなわち、この中間層が、前記半透膜層の、前記支持層からの剥離を抑制するアンカー効果を奏すると考えられる。よって、前記複合中空糸膜は、前記複合中空糸膜の揺動や曲げ、及び前記複合中空糸膜同士の接触等による前記半透膜層の損傷の発生を抑制できると考えられる。さらに、この中間層は、前記半透膜層を構成する架橋ポリアミドを含むので、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる。このことから、仮に前記半透膜層の一部が損傷しても、前記中間層により、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる。
【0072】
以上のことから、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜が得られると考えられる。また、前記複合中空糸膜は、例えば、正浸透法に用いた場合、溶質濃度の異なる2つの溶液を、前記複合中空糸膜を介して接触させることによって、溶質濃度差から生じる浸透圧差を駆動力として、溶質濃度の低い希薄溶液から、溶質濃度の高い濃厚溶液へと水を好適に透過させることができる。前記複合中空糸膜は、正浸透法に用いると、例えば、優れた脱塩性能を発揮することができる。
【0073】
また、前記複合中空糸膜において、前記中間層の厚みは、20~5000nmであることが好ましい。
【0074】
このような構成によれば、耐久性により優れ、半透膜層による分離をより好適に行うことができる複合中空糸膜が得られる。
【0075】
また、前記複合中空糸膜において、前記複合中空糸膜のヤング率は、50~300N/mm2であることが好ましい。
【0076】
このような構成によれば、耐久性により優れ、半透膜層による分離をより好適に行うことができる複合中空糸膜が得られる。
【0077】
また、前記複合中空糸膜において、前記中間層が、前記支持層の外周面に接触し、前記半透膜層が、前記中間層の外周面に接触して配置されることが好ましい。
【0078】
このような構成によれば、半透膜層による分離をより好適に行うことができる複合中空糸膜が得られる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0079】
前記半透膜層が、前記中間層を介して、前記支持層の外周面に接触していることから、前記半透膜層が、前記支持層の内周面側に接触している場合より、前記半透膜層の面積を広くすることができる。このことから、複合中空糸膜の面積、特に、半透膜層の面積を広くすることができる。よって、前記複合中空糸膜は、半透膜層を用いた分離をより好適に行うことができると考えられる。
【0080】
一方で、一般的に、複合中空糸膜において、半透膜層が、支持層の外周面側に形成されていると、上述したように、複合中空糸膜同士の接触による半透膜層の損傷が起こりやすい。これに対して、本発明の一局面に係る複合中空糸膜では、上述したように、前記複合中空糸膜同士の接触等による前記半透膜層の損傷の発生を抑制でき、さらに、半透膜層を用いた分離と同様の分離を行うことができる中間層を備える。すなわち、前記複合中空糸膜は、耐久性に優れ、半透膜層による分離を好適に行うことができる複合中空糸膜である。このことから、前記半透膜層が、前記支持層の外周面側に形成されていても、耐久性に優れた複合中空糸膜が得られると考えられる。
【0081】
以上のことから、半透膜層による分離をより好適に行うことができる複合中空糸膜が得られると考えられる。
【0082】
また、前記複合中空糸膜において、前記中間層に備えられる前記層状部分の、前記半透膜層側の表面における気孔の平均径が、0.01~2μmであることが好ましい。
【0083】
このような構成によれば、前記中間層上に、前記半透膜層が好適に形成され、半透膜層による分離をより好適に行うことができる複合中空糸膜が得られる。
【0084】
また、前記複合中空糸膜において、正浸透法に用いられる正浸透膜であることが好ましい。
【0085】
前記複合中空糸膜は、前記半透膜層を用いた分離を好適に行うことができることから、前記複合中空糸膜は、正浸透法に好適に用いることができる。前記複合中空糸膜は、正浸透法に用いると、例えば、優れた脱塩性能を発揮することができる。
【0086】
また、本発明の他の一局面は、前記複合中空糸膜の製造方法であって、前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの一方を含有する第1溶液と、前記多官能アミン化合物及び前記多官能酸ハライド化合物のうちの他方を含有し、かつ、前記第1溶液と接触させることにより、前記第1溶液と界面を形成する第2溶液とを準備する工程と、多孔質な中空糸状部材の少なくとも一方の面側に、前記第1溶液を接触させる第1接触工程と、前記中空糸状部材を揺動させながら、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液を接触させる第2接触工程とを備えることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法である。
【0087】
このような構成によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を好適に製造することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0088】
本発明の一局面に係る複合中空糸膜において、前記中間層の存在が、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性を向上させるのに大きく寄与していると考えられる。多孔質な中空糸状部材の少なくとも一方の面側に前記第1溶液を接触させる前記第1接触工程の後に、前記中空糸状部材を揺動させながら、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面側に、前記第2溶液を接触させる前記第2接触工程を行う。そうすると、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面の近傍で、前記第1溶液と前記第2溶液との界面が形成され、その界面で、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドが重合されると考えられる。そして、前記第2接触工程の際、前記中空糸状部材を揺動させながら行うことにより、前記架橋ポリアミドが重合される界面が、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面から内側に形成されると考えられる。このことにより、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面から、前記中間層が形成され、前記架橋ポリアミドが重合されなかった部分が、前記支持層になると考えられる。また、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面から外側に形成された前記架橋ポリアミドが半透膜層になると考えられる。よって、前記中間層を備える複合中空糸膜、すなわち、本発明の一局面に係る複合中空糸膜が製造されると考えられる。よって、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を好適に製造することができると考えられる。
【0089】
また、前記複合中空糸膜の製造方法において、前記第1溶液及び前記第2溶液のうちの一方が、前記多官能アミン化合物の水溶液であり、前記第1溶液及び前記第2溶液のうちの他方が、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液であることが好ましい。
【0090】
このような構成によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができる。このことは、前記半透膜層及び前記中間層がより好適に形成されることによると考えられる。
【0091】
また、前記複合中空糸膜の製造方法において、前記第1接触工程の後であって、前記第2接触工程の前に、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面上に存在する前記第1溶液を除去する工程をさらに備えることが好ましい。
【0092】
このような構成によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0093】
前記第1接触工程の後、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面上に存在する前記第1溶液を除去する工程を行った後に、前記第2接触工程を行うと、前記架橋ポリアミドが重合される界面が、前記中空糸状部材の、前記第1溶液を接触させた面から内側により好適に形成されると考えられる。このことにより、前記中間層がより好適に形成されると考えられる。よって、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができると考えられる。
【0094】
また、前記複合中空糸膜の製造方法において、前記第2接触工程は、前記中空糸状部材が前記第2溶液にのみ接触する工程であることが好ましい。
【0095】
このような構成によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜をより好適に製造することができる。このことは、前記第2接触工程において、前記中空糸状部材が前記第2溶液以外の、例えば、中空糸状部材を搬送するローラや前記第2溶液を保持する容器等に接触すると、前記半透膜層が好適に形成されないおそれがあることによると考えられる。
【0096】
本発明によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜、及び前記複合中空糸膜の製造方法を提供することができる。
【0097】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
[実施例1]
(中空糸状部材の作製)
複合中空糸膜を製造する際に用いる中空糸状部材として、下記の方法により得られた中空糸膜を用いた。
【0099】
まず、中空糸膜を構成する樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γブチロラクトン(GBL:三菱ケミカル株式会社製のGBL)と、親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のSokalan K-90P)と、添加剤として、ポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG-600)とを、質量比30:56:7:7になるように混合物を調製した。この混合物を90℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解させることによって、製膜原液が得られた。
【0100】
得られた90℃の製膜原液を、中空状に押し出した。このとき、内部凝固液として、γブチロラクトン(GBL:三菱ケミカル株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを65℃の恒温下で質量比15:85になるように混合した混合物を、製膜原液と同時吐出した。
【0101】
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、5cmの空走距離を経て、外部凝固液として、80℃の水の中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
【0102】
次いで、得られた中空糸膜を水中で洗浄した。そうすることによって、溶剤と過剰の親水性樹脂とが、中空糸膜から抽出除去された。
【0103】
そして、この中空糸膜を、過酸化水素を3質量%含む水溶液に浸漬させた。そうすることによって、中空糸膜に含まれた親水性樹脂が架橋した。その後、この中空糸膜を水に浸漬させた。そうすることによって、架橋が不充分であった親水性樹脂を中空糸膜から除去した。このことから、中空糸膜に存在する親水性樹脂は、架橋によって不溶化された親水性樹脂であることがわかる。このようにして得られた中空糸膜を、上述したように、複合中空糸膜を製造する際に用いる中空糸状部材として用いた。
【0104】
そして、この中空糸状部材は、外表面が緻密面であり、この緻密面から内表面にむかって漸次的に、内部の気孔が大きくなる傾斜構造を有していた。この傾斜構造を有していることは、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS-3000N)を用いた観察からもわかった。
【0105】
(半透膜層の作製)
前記中空糸状部材の外表面側に、半透膜層を形成した。
【0106】
具体的には、まず、前記中空糸状部材に、エタノール50質量%水溶液への浸漬処理を20分間施し、その後、流水洗浄処理を20分間行った。そうすることによって、湿潤状態の中空糸状部材が得られた。
【0107】
その後、リール及び枠に湿潤状態の中空糸状部材を用意し、そこから送り出される中空糸状部材を、芳香族多官能アミン化合物であるm-フェニレンジアミンの2質量%水溶液に2分間通過させた。そうすることによって、前記中空糸状部材の外周面側に、前記芳香族多官能アミン水溶液をしみ込ませた。その後、エアナイフで発生させたエアブロー中を通過させて、前記中空糸状部材にしみ込まなかった余分な芳香族多官能アミン水溶液を除去させた。
【0108】
その後、この中空糸状部材を揺動させながら、芳香族多官能酸クロライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液中を2分間通過させた。なお、ヘキサン溶液を通過中は、前記中空糸状部材が中空糸状部材を搬送するローラ等の移動手段や前記第2溶液を保持する容器等に非接触であった。その後、前記中空糸状部材を120度の乾燥機を通過させ、乾燥させた。これらの一連の工程は、連続的に実施し、途中で中空糸状部材が途切れないように行った。そうすることによって、m-フェニレンジアミンとトリメシン酸トリクロライドとが重合された架橋ポリアミドが、前記中空糸状部材の表面上及び内部に形成された。このことは、前記中空糸状部材の外周面側にしみ込まれたm-フェニレンジアミン水溶液と、トリメシン酸トリクロライドのヘキサン溶液との界面が、前記中空糸状部材の揺動により、前記中空糸状部材の内部に形成されたことによると考えられる。そして、この前記中空糸状部材の内部に形成された界面において、m-フェニレンジアミンとトリメシン酸トリクロライドとの界面重合が進行し、架橋ポリアミドが形成されたと考えられる。前記中空糸状部材の表面上に形成された前記架橋ポリアミドが前記半透膜層となった。形成された前記架橋ポリアミドが前記中空糸状部材の表面から内部に向かってしみ込んだ領域が、前記層状部分と前記架橋ポリアミドとを含む前記中間層となった。さらに、前記中空糸状部材のうち、前記架橋ポリアミドがしみ込んでいない領域が、前記支持層となった。
【0109】
(層状部分の孔径)
前記中間層に備えられる前記層状部分の、前記半透膜層側の表面における気孔の平均径は、以下のように測定した。
【0110】
まず、前記中空糸状部材の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
【0111】
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI-550、カタロイドSI-45P、カタロイドSI-80P、ダウケミカル株式会社製の、粒径0.1μm、0.2μm、0.5μmのポリスチレンラテックス等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
【0112】
R=100/(1-m×exp(-a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。
【0113】
上記測定方法により得られた分画粒子径は、前記中空糸状部材の緻密な面(外周面)側における気孔の平均径を指し、前記中間層に備えられる前記層状部分の、前記半透膜層側の表面における気孔の平均径(中間層の気孔径)を指す。
【0114】
(複合中空糸膜のヤング率)
複合中空糸膜のヤング率は、JIS K 7161-1に準拠の方法により、複合中空糸膜の引張特性試験を実施し、その測定結果から算出した。
【0115】
(中間層の厚み)
中間層の厚みは、それぞれ、以下のように測定した。
【0116】
前記複合中空糸膜の長手方向の任意の3箇所について、前記長手方向に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS-3000N)を用いて、50000倍で写真撮影し、各断面における任意の2点の中間層の厚みを測定した。中間層の厚みは、前記中空糸状部材の表面から、前記架橋ポリアミドがしみ込んでいる深さとした。
【0117】
なお、
図4は、実施例1に係る複合中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、
図5は、後述する比較例1に係る複合中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。この実施例1に係る複合中空糸膜を走査型電子顕微鏡で観察すると、
図4に示すように、半透膜層13と、中間層14と、支持層12とを備えることがわかる。また、比較例1に係る複合中空糸膜を走査型電子顕微鏡で観察すると、
図5に示すように、半透膜層13と、支持層12とを備えることがわかるが、中間層の存在が確認できなかった。このことから、比較例1に係る中間層の厚みは、中間層の存在が確認できないことから、ほぼゼロであると考えられ、表1において「-」と示す。また、他の比較例(比較例2~5)に係る複合中空糸膜も、比較例1と同様、中間層の存在が確認できないことから、表1において「-」と示す。
【0118】
(脱塩性能)
得られた複合中空糸膜を、正浸透(FO)法に用い、透水性及び塩逆流速度を測定した。
【0119】
具体的には、得られた複合中空糸膜を介して、模擬駆動溶液(模擬DS)としての0.5MのNaCl水溶液と、模擬供給溶液(模擬FS)としてのイオン交換水とを配置して、ろ過を行った。そのとき、複合中空糸膜の半透膜層側に模擬FSを、複合中空糸膜の支持層側に模擬DSを流した。模擬FSから模擬DSへの水の透水量は、模擬FSと模擬DSとのそれぞれの重量変化から算出した。そして、この算出した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、透水性として評価した。また、模擬FSの塩濃度の変化を測定した。この塩濃度の変化から、塩逆流速度(g/m2/時:gMH)を得た。そして以下の式より、脱塩率(%)を算出した。なお、この脱塩率から脱塩性能を評価できる。
【0120】
Rs=[1-Js/(Jw×CD)]×100
上記式中、Rsは、脱塩率(%)を示し、Jsは、塩逆流速度(gMH)を示し、Jwは、水の透過速度(LMH)を示し、CDは、DSの塩濃度(g/L)[この場合、模擬DSのNaCl濃度(0.5M)であり、約29g/Lである。]を示す。
【0121】
(耐久性:複合中空糸膜同士を10回接触させた後の脱塩率)
得られた複合中空糸膜同士を10回こすり合わせた後に、上記脱塩性能と同様に、脱塩率を測定した。この脱塩率の、上記脱塩性能を評価した際の脱塩率(こすり合わせる前の複合中空糸膜の脱塩率)に対する低下の度合いから、複合中空糸膜の耐久性を評価できる。
【0122】
これらの結果は、製造条件等とともに、表1に示す。
【0123】
[実施例2]
中空糸状部材として、下記中空糸状部材を用いたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0124】
(中空糸状多孔質支持体の作製)
中空糸状部材として、下記の方法により得られた中空糸膜を用いた。
【0125】
まず、中空糸膜(支持層)を構成する樹脂として、ポリサルホン(PSF:BASFジャパン株式会社製のUltrason S3010)と、溶剤として、ジメチルホルムアミド(DMF:三菱ガス化学株式会社製のDMF)と、添加剤として、ポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG-600)と、親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のSokalan K-90P)と、を、質量比20:48:30:2になるように混合物を調製した。この混合物を25℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解させることによって、製膜原液が得られた。
【0126】
得られた25℃の製膜原液を、中空状に押し出した。このとき、内部凝固液として、25℃の水を、製膜原液と同時吐出した。
【0127】
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、5cmの空走距離を経て、外部凝固液として、60℃の水の中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
【0128】
そして、この中空糸膜を、過酸化水素を3質量%含む水溶液に浸漬させた。そうすることによって、中空糸膜に含まれた親水性樹脂が架橋した。その後、この中空糸膜を水に浸漬させた。そうすることによって、架橋が不充分であった親水性樹脂を中空糸膜から除去した。このことから、中空糸膜に存在する親水性樹脂は、架橋によって不溶化された親水性樹脂であることがわかった。
【0129】
[実施例3]
中空糸状に押し出す製膜原液の温度を90℃から120℃に変更し、外部凝固液の温度を80℃から90℃に変更したこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0130】
[実施例4]
外部凝固液の温度を80℃から70℃に変更したこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0131】
[比較例1]
芳香族多官能酸クロライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に、前記中空糸状部材を通過させる際、前記中空糸状部材を揺動させないこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0132】
[比較例2]
外部凝固液の温度を80℃から60℃に変更したこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0133】
[比較例3]
中空糸状部材として、下記中空糸状部材を用いたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0134】
(中空糸状多孔質支持体の作製)
フッ化ビニリデン系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記することがある)(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤としてγ-ブチロラクトンと、無機粒子としてシリカ(株式会社トクヤマ製、ファインシールX-45)と、凝集剤としてグリセリン(花王株式会社製、精製グリセリン)とを、重量比で36:47:18:19の割合となるように混合液製膜原液を調製した。この混合液製膜原液の組成を表1に示す。該組成比のγ-ブチロラクトンとグリセリンの上部臨界溶解温度は、40.6℃であった。
【0135】
上記した混合液製膜原液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度150℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(150℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
【0136】
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、3cmの空走距離を経て、重量パーセント濃度20%硫酸ナトリウム水溶液からなる水浴中(温度60℃)に入れ、約100cm水浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、溶剤、凝集剤および無機粒子の大部分が中空糸状物中に残存している状態で、90℃の熱水中で繊維方向に原長の約1.5倍長となるよう延伸処理をした後、次いで、得られた中空糸状物を95℃の流水中で180分間熱処理と溶剤(γ-ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行った。
【0137】
このようにして得られた中空糸状物を40℃の重量パーセント濃度5%水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去した後に、水洗工程を経て中空糸膜を得た。
【0138】
[比較例4]
前記中空糸状部材を、芳香族多官能アミン化合物であるm-フェニレンジアミンの2質量%水溶液に通過させた後、エアナイフで発生させたエアブロー中を通過させずに、芳香族多官能酸クロライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に通過させたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0139】
[比較例5]
芳香族多官能酸クロライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に、前記中空糸状部材を通過させる際、前記中空糸状部材が中空糸状部材を搬送するローラに接触すること以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。製造条件や評価結果等は、表1に示す。
【0140】
【0141】
表1からわかるように、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層と、及び前記半透膜層と前記支持層との間に介在し、前記架橋ポリアミドが、前記支持層と同じ材質の層状部材にしみ込んだ中間層とを備える複合中空糸膜(実施例1~4に係る複合中空糸膜)であれば、前記中間層を有さない場合(比較例1~5に係る複合中空糸膜)と比較して、脱塩性能に優れ、さらに、前記複合中空糸膜同士が接触した場合における脱塩性能の低下を抑制できる等の耐久性に優れたものであった。
【0142】
これに対して、第2溶液である、芳香族多官能酸クロライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に、前記中空糸状部材を通過させる際、前記中空糸状部材を揺動させなかった場合(比較例1)は、前記中間層が好適に形成されなかった。この比較例1に係る複合中空糸膜の場合、脱塩性能には優れていたが、前記複合中空糸膜同士を10回接触させた後の脱塩性能は、実施例1~4に係る複合中空糸膜に比べて劣っていた。これらのことから、比較例1に係る複合中空糸膜は、半透膜層は好適に形成されるが、上述したように、中間層が好適に形成されなかったことがわかる。
【0143】
中空糸状部材の気孔径、すなわち、中間層の気孔径が、小さすぎたり(比較例2)、大きすぎたり(比較例3)する場合は、前記中間層が好適に形成されなかった。この比較例2に係る複合中空糸膜の場合、脱塩性能も、前記複合中空糸膜同士を10回接触させた後の脱塩性能も、実施例1~4に係る複合中空糸膜に比べて劣っていた。これらのことから、比較例1に係る複合中空糸膜は、上述したように、中間層が好適に形成されなかっただけではなく、半透膜層は好適に形成されなかったことがわかる。
【0144】
第1溶液である、芳香族多官能アミン化合物であるm-フェニレンジアミンの2質量%水溶液に前記中空糸状部材を通過させた後、エアナイフで発生させたエアブロー中を通過させなかった場合(比較例4)は、前記中間層が好適に形成されなかった。この比較例4に係る複合中空糸膜の場合、脱塩性能にはある程度優れていたが、前記複合中空糸膜同士を10回接触させた後の脱塩性能は、実施例1~4に係る複合中空糸膜に比べて劣っていた。これらのことから、比較例4に係る複合中空糸膜は、半透膜層はある程度好適に形成されるが、上述したように、中間層が好適に形成されなかったことがわかる。
【0145】
第2溶液に、前記中空糸状部材を通過させる際、前記中空糸状部材が中空糸状部材を搬送するローラに接触させた場合(比較例5)は、前記中間層が好適に形成されなかった。この比較例5に係る複合中空糸膜の場合、脱塩性能も、前記複合中空糸膜同士を10回接触させた後の脱塩性能も、実施例1~4に係る複合中空糸膜に比べて劣っていた。これらのことから、比較例5に係る複合中空糸膜は、上述したように、中間層が好適に形成されなかっただけではなく、半透膜層は好適に形成されなかったことがわかる。
【0146】
この出願は、2019年2月28日に出願された日本国特許出願特願2019-036304を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0147】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜、及び前記複合中空糸膜の製造方法が提供される。