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特許7403912フルオレン系化合物、これを用いた有機発光素子、およびこれの製造方法
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  • 特許-フルオレン系化合物、これを用いた有機発光素子、およびこれの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】フルオレン系化合物、これを用いた有機発光素子、およびこれの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/61 20060101AFI20231218BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231218BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231218BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20231218BHJP
【FI】
C07C211/61 CSP
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022534809
(86)(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 KR2021000135
(87)【国際公開番号】W WO2021141382
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0002318
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェスン・ペ
(72)【発明者】
【氏名】ジェチョル・イ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥファン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】スンキョン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・スク・ジュン
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-142269(JP,A)
【文献】特表2019-537574(JP,A)
【文献】国際公開第2019/177410(WO,A1)
【文献】特表2019-532958(JP,A)
【文献】特開2003-040844(JP,A)
【文献】特開平11-035532(JP,A)
【文献】特開2005-290000(JP,A)
【文献】国際公開第2019/231257(WO,A1)
【文献】特表2015-511215(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108752261(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109232492(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 211/61
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるフルオレン系化合物:
【化1】
前記化学式1のうち、
R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
L1およびL2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、直接結合;または置換もしくは非置換のアルキレン基であり、
Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
X1およびX2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;またはハロゲン基であり、X1およびX2のうち少なくとも一つはハロゲン基であり、
X3およびX4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、光硬化性基または熱硬化性基であり、
前記光硬化性基または熱硬化性基は、下記構造:
【化2】
のいずれか一つであり、
m1およびm2は、それぞれ1~4の整数であり、
n1およびn6は、それぞれ独立して0~5の整数であり、
n2およびn5は、それぞれ独立して0~4の整数であり、
n3およびn4は、それぞれ独立して0~3の整数であり、
m1、m2、およびn1~n6がそれぞれ2以上である場合、それぞれの括弧内の置換基は、互いに同一または異なる。
【請求項2】
前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;または炭素数1~30の置換もしくは非置換のアルキル基である、請求項に記載のフルオレン系化合物。
【請求項3】
前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である、請求項1又は2に記載のフルオレン系化合物。
【請求項4】
前記化学式1は、下記化学式1-1で表される、請求項1に記載のフルオレン系化合物:
【化3】
前記化学式1-1のうち、
X1~X4、L1、L2、R1~R6、Ar1、Ar2、およびn1~n6は、化学式1で定義したとおりである。
【請求項5】
前記化学式1は、下記構造のいずれか一つである、請求項1に記載のフルオレン系化合物:
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のフルオレン系化合物を含む、コーティング組成物。
【請求項7】
前記コーティング組成物は、pドーピング物質をさらに含む、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記pドーピング物質は、F4TCNQ;またはホウ素アニオンを含む化合物である、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記コーティング組成物は、熱硬化性基または光硬化性基を含む単分子;または熱によるポリマーの形成が可能な末端基を含む単分子をさらに含む、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
第1電極;
第2電極;および
前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層を含み、
前記有機物層のうち1層以上は、請求項に記載のコーティング組成物またはその硬化物を含み、
前記コーティング組成物の硬化物は、前記コーティング組成物が熱処理または光処理により硬化された状態である、有機発光素子。
【請求項11】
前記コーティング組成物またはその硬化物を含む有機物層は、正孔輸送層、正孔注入層、または正孔輸送と正孔注入を同時にする層である、請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
基板を準備するステップ;
前記基板上に第1電極を形成するステップ;
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップ;および
前記有機物層上に第2電極を形成するステップを含み、
前記有機物層を形成するステップは、請求項に記載のコーティング組成物を用いて1層以上の有機物層を形成するステップを含む、有機発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記コーティング組成物を用いて有機物層を形成するステップは、
前記第1電極上に前記コーティング組成物をコーティングするステップ;および
前記コーティングされたコーティング組成物を熱処理または光処理するステップを含む、請求項12に記載の有機発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年1月8日付にて韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0002318号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【0002】
本明細書は、フルオレン系化合物、前記フルオレン系化合物を含むコーティング組成物、前記コーティング組成物を用いて形成された有機発光素子、およびこれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光現象は、特定の有機分子の内部プロセスにより電流が可視光に転換される例の一つである。有機発光現象の原理は次のとおりである。アノードとカソードとの間に有機物層を位置させた際、二つの電極の間に電圧を印加すると、カソードとアノードからそれぞれ電子と正孔が有機物層に注入される。有機物層に注入された電子と正孔は再結合してエキシトン(exciton)を形成し、該エキシトンが再び基底状態に落ちて光が出ることになる。このような原理を用いた有機発光素子は、一般に、カソードとアノードおよびその間に位置した有機物層、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を含む有機物層で構成されることができる。
【0004】
有機発光素子で用いられる物質としては、純粋有機物質または有機物質と金属が錯体をなす錯化合物が大半を占めており、用途に応じて正孔注入物質、正孔輸送物質、発光物質、電子輸送物質、電子注入物質などに区分することができる。ここで、正孔注入物質や正孔輸送物質としては、p-タイプの性質を有する有機物質、すなわち、酸化し易く、酸化時に電気化学的に安定した状態を有する有機物が主に用いられている。一方、電子注入物質や電子輸送物質としては、n-タイプの性質を有する有機物質、すなわち、還元し易く、還元時に電気化学的に安定した状態を有する有機物が主に用いられている。発光層物質としては、p-タイプの性質とn-タイプの性質を同時に有する物質、すなわち、酸化と還元状態でいずれにも安定した形態を有する物質が好ましく、エキシトンが形成された際にそれを光に転換する発光効率の高い物質が好ましい。
【0005】
低電圧駆動が可能な高効率の有機発光素子を得るためには、有機発光素子内に注入された正孔または電子が円滑に発光層に伝達されるとともに、注入された正孔と電子が発光層の外に抜け出ないようにしなければならない。このために、有機発光素子に用いられる物質は、適切なバンドギャップ(band gap)およびHOMOまたはLUMOエネルギー準位を有しなければならない。
【0006】
この他にも、有機発光素子で用いられる物質は、化学的安定性、電荷移動度、電極や隣接した層との界面特性などに優れていなければならない。すなわち、有機発光素子で用いられる物質は、水分や酸素による物質の変形が少ないべきである。また、適切な正孔または電子移動度を有することで、有機発光素子の発光層において、正孔と電子の密度がバランスをなすようにしてエキシトンの形成を極大化しなければならない。そして、素子の安定性のために、金属または金属酸化物を含む電極との界面を良くするべきである。
【0007】
上記で言及したものの他に、溶液工程用有機発光素子で用いられる物質は、次のような性質をさらに有しなければならない。
【0008】
第1に、貯蔵可能な均質な溶液を形成しなければならない。商用化された蒸着工程用物質の場合、結晶性が良いため、溶液によく溶けないかまたは溶液を形成するとしても結晶が形成されやすいので、貯蔵期間に応じて溶液の濃度勾配が異なったり不良素子を形成したりする可能性が大きい。
【0009】
第2に、溶液工程が行われる層は、他の層を形成する工程で用いられる溶媒および物質に対する耐性があるべきであり、有機発光素子の製造時、電流効率に優れ、寿命特性に優れることが求められる。
【0010】
したがって、当技術分野においては、新しい有機物の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本明細書は、溶液工程用有機発光素子において使用可能なフルオレン系化合物およびこれを含む有機発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施態様は、下記化学式1で表されるフルオレン系化合物を提供する。
【化1】
【0013】
前記化学式1のうち、
R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
L1およびL2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、直接結合;または置換もしくは非置換のアルキレン基であり、
Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
X1およびX2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;またはハロゲン基であり、X1およびX2のうち少なくとも一つはハロゲン基であり、
X3およびX4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、重水素;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;置換もしくは非置換のヘテロアリール基;または光硬化性基または熱硬化性基であり、
m1およびm2は、それぞれ1~4の整数であり、
n1およびn6は、それぞれ独立して0~5の整数であり、
n2およびn5は、それぞれ独立して0~4の整数であり、
n3およびn4は、それぞれ独立して0~3の整数であり、
m1、m2、およびn1~n6がそれぞれ2以上である場合、それぞれの括弧内の置換基は、互いに同一または異なる。
【0014】
また、本発明の一実施態様は、前記フルオレン系化合物を含むコーティング組成物を提供する。
【0015】
なお、本発明の一実施態様は、第1電極;
第2電極;および
前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層を含み、
前記有機物層のうち1層以上は、前記コーティング組成物またはその硬化物を含み、
前記コーティング組成物の硬化物は、前記コーティング組成物が熱処理または光処理により硬化された状態である、有機発光素子を提供する。
【0016】
さらに、本発明の一実施態様は、基板を準備するステップ;
前記基板上に第1電極を形成するステップ;
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップ;および
前記有機物層上に第2電極を形成するステップを含み、
前記有機物層を形成するステップは、前記コーティング組成物を用いて1層以上の有機物層を形成するステップを含む、有機発光素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施態様によるフルオレン系化合物は、コア構造がハロゲン基で置換されている。これにより、ハロゲン基で置換されていないコア構造を有する化合物に比べて、相対的に大きい双極子モーメント(dipole moment)と、相対的に低いHOMOエネルギーレベルを有する。したがって、有機発光素子に適用時に長寿命の特性を示す。
【0018】
また、本発明の一実施態様によるフルオレン系化合物は、250℃以下の熱処理またはUV処理により、次の溶液工程においても損傷しない安定した薄膜を形成する。
【0019】
本発明の一実施態様による化合物が含まれたコーティング組成物が塗布された薄膜は、250℃以下の熱処理またはUV処理により、次の溶液工程においても損傷しない安定した薄膜を形成する。
【0020】
本発明の一実施態様によるフルオレン系化合物は、溶液工程用有機発光素子の有機物層材料として用いることができ、低い駆動電圧、高い発光効率、および高い寿命特性を提供することができる。また、前記フルオレン系化合物を用いることにより、溶解度が増加するため、溶液工程のインク製造時、溶媒の選択が広くなり、融点および硬化温度を下げることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施態様による有機発光素子の例を示すものである。
図2】中間体A-1のNMR測定結果を示す図である。
図3】化合物1のHPLC測定結果を示す図である。
図4】実験例1で製造されたコーティング組成物1により形成した薄膜の膜保持率の実験結果を示す図である。
図5】実験例1で製造されたコーティング組成物2により形成した薄膜の膜保持率の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般に、溶液工程用有機発光素子で用いられるアリールアミン系単分子の場合、それ自体に次の工程の溶媒に耐性を有する場合がないため、溶液工程用有機発光素子に使用可能なアリールアミン系単分子化合物は、硬化基が導入されなければならない。
【0023】
本発明のアミン基が結合されたフルオレン化合物を含むコーティング組成物を熱または光処理して作製した薄膜は、溶媒に対する耐性に優れ、電流効率および素子の特性に優れた有機発光素子を提供する。
【0024】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0025】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする際、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、二つの部材の間にまた他の部材が存在する場合も含む。
【0026】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0027】
本発明の一実施態様は、下記化学式1で表されるフルオレン系化合物を提供する。
【化2】
【0028】
前記化学式1のうち、
R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
L1およびL2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、直接結合;または置換もしくは非置換のアルキレン基であり、
Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、
X1およびX2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;またはハロゲン基であり、X1およびX2のうち少なくとも一つはハロゲン基であり、
X3およびX4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、重水素;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;置換もしくは非置換のヘテロアリール基;または光硬化性基または熱硬化性基であり、
m1およびm2は、それぞれ1~4の整数であり、
n1およびn6は、それぞれ独立して0~5の整数であり、
n2およびn5は、それぞれ独立して0~4の整数であり、
n3およびn4は、それぞれ独立して0~3の整数であり、
m1、m2、およびn1~n6がそれぞれ2以上である場合、それぞれの括弧内の置換基は、互いに同一または異なる。
【0029】
本明細書において、前記X1およびX2のうち少なくとも一つはハロゲン基である。すなわち、前記化学式1で表される化合物は、コア構造が一つ以上のハロゲン基で置換されている。これにより、ハロゲン基で置換されていないコア構造を有する化合物に比べて、相対的に大きい双極子モーメント(dipole moment)と、相対的に低いHOMOエネルギーレベルを有する。したがって、有機発光素子に適用時に長寿命の特性を示す。
【0030】
本明細書において、「熱硬化性基または光硬化性基」とは、熱および/または光に曝露した際に、化合物の間に架橋をさせる反応性置換基を意味し得る。架橋は、熱処理または光照射により、炭素-炭素多重結合、環状構造が分解されることで生成されたラジカルが連結されることで生成されることができる。
【0031】
本発明の一実施態様において、前記熱硬化性基または光硬化性基は、下記構造のいずれか一つである。
【化3】
【0032】
本発明の一実施態様において、前記化学式1で表されるフルオレン系化合物の場合、溶液塗布法により有機発光素子を製造することができるため、素子の大面積化が可能であり、時間および費用的に経済的であるという効果がある。
【0033】
また、前記化学式1で表されるフルオレン系化合物を用いてコーティング層を形成する場合、熱硬化性基または光硬化性基が熱または光により架橋を形成するため、コーティング層の上部に追加の層を積層する際に、コーティング組成物に含まれたフルオレン系化合物が溶媒により洗い落とされるのを防止してコーティング層を維持するとともに、上部に追加の層を積層することができる。
【0034】
さらに、前記化学式1で表されるフルオレン系化合物は、熱硬化性基または光硬化性基が架橋を形成してコーティング層を形成するため、コーティング層の溶媒に対する耐化学性が高くなり、膜保持率が高いという効果がある。
【0035】
また、本発明の一実施態様により、熱処理または光照射により架橋が形成されたフルオレン系化合物の場合、複数のフルオレン系化合物が架橋されて薄膜の形態で有機発光素子内に備えられるため、熱的安定性に優れるという効果がある。
【0036】
本明細書に記載された化合物に置換基が結合されていない位置は、水素や重水素が結合されていてもよい。
【0037】
本明細書において、
【化4】
は、他の置換基または結合部に結合される部位を意味する。
【0038】
本明細書において、前記「置換」という用語は、化合物の炭素原子に結合された水素原子が他の置換基に置き換わることを意味し、置換される位置は、水素原子が置換される位置、すなわち、置換基が置換可能な位置であれば限定されず、2以上置換される場合、2以上の置換基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0039】
本明細書において、「置換もしくは非置換」という用語は、 重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;アルキル基;アルコキシ基;アリール基;およびヘテロアリール基からなる群より選択された1つ以上の置換基で置換もしくは非置換であるか、前記例示された置換基のうち2以上の置換基が連結された置換基で置換もしくは非置換であることを意味する。例えば、「2以上の置換基が連結された置換基」は、ビフェニル基であってもよい。すなわち、ビフェニル基は、アリール基であってもよく、2個のフェニル基が連結された置換基と解釈されてもよい。
【0040】
本明細書において、ハロゲン基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素である。
【0041】
本明細書において、前記アルキル基は、直鎖、分岐鎖もしくは環状鎖であってもよく、炭素数は、特に限定されないが、1~40であることが好ましい。一実施態様によれば、前記アルキル基の炭素数は1~20である。具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、n-ヘプチル基、ヘキシル基、n-ヘキシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書において、前記アルコキシ基は、直鎖、分岐鎖もしくは環状鎖であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~20であることが好ましい。具体的に、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、i-プロピルオキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、3,3-ジメチルブチルオキシ基、2-エチルブチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、ベンジルオキシ基、p-メチルベンジルオキシ基などであってもよいが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書において、アリール基は、特に限定されないが、炭素数6~60であることが好ましく、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。一実施態様によれば、前記アリール基の炭素数は6~40である。一実施態様によれば、前記アリール基の炭素数は6~20である。前記アリール基は、単環式アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基などであってもよいが、これらに限定されない。前記多環式アリール基としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、フルオレニル基などであってもよいが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書において、前記フルオレニル基は置換されていてもよく、隣接した置換基が互いに結合して環を形成してもよい。
【0045】
前記フルオレニル基が置換される場合、
【化5】
などであってもよい。ただし、これらに限定されない。
【0046】
本明細書において、ヘテロアリール基は、炭素ではない原子、ヘテロ原子を1以上含むものであって、具体的に、前記ヘテロ原子は、O、N、Se、およびSなどからなる群より選択される原子を1以上含んでもよい。炭素数は、特に限定されないが、炭素数2~60であることが好ましい。一実施態様によれば、前記ヘテロアリール基の炭素数は2~40である。一実施態様によれば、前記ヘテロアリール基の炭素数は2~20である。前記ヘテロアリール基は、単環式もしくは多環式であってもよい。ヘテロ環基の例としては、チオフェン基、フラニル基、ピロール基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、ピリジル基、ビピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、アクリジル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、ピリドピリミジル基、ピリドピラジニル基、ピラジノピラジニル基、イソキノリニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾフラニル基、フェナントロリニル基(phenanthroline)、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェノチアジニル基、およびジベンゾフラニル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書において、前記アルキレン基は、2価の基であることを除いては、前述したアルキル基の例示の中から選択されてもよい。
【0048】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基である。
【0049】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロアリール基である。
【0050】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~40のアルキル基;置換もしくは非置換の炭素数6~60のアリール基;または置換もしくは非置換の炭素数2~60のヘテロアリール基である。
【0051】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;または置換もしくは非置換の炭素数1~20のアルキル基である。
【0052】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のメチル基;置換もしくは非置換のエチル基;置換もしくは非置換のプロピル基;置換もしくは非置換のブチル基;置換もしくは非置換のイソブチル基;置換もしくは非置換のtert-ブチル基;置換もしくは非置換のペンチル基;または置換もしくは非置換のヘキシル基である。
【0053】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のメチル基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のエチル基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のプロピル基;置換もしくは非置換のブチル基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のイソブチル基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のtert-ブチル基;ハロゲン基で置換もしくは非置換のペンチル基;またはハロゲン基で置換もしくは非置換のヘキシル基である。
【0054】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;フッ素;フッ素で置換もしくは非置換のメチル基;エチル基;プロピル基;ブチル基;イソブチル基;tert-ブチル基;ペンチル基;またはヘキシル基である。
【0055】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;または炭素数1~30の置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0056】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;またはハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数1~30の置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0057】
本発明の一実施態様において、前記R1~R6は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;フッ素で置換もしくは非置換のメチル基;またはtert-ブチル基である。
【0058】
本発明の一実施態様において、前記R1およびR6は、水素;フッ素で置換もしくは非置換のメチル基;またはtert-ブチル基である。
【0059】
本発明の一実施態様において、前記R2~R5は水素である。
【0060】
本発明の一実施態様において、前記n1およびn6は、それぞれ0~2の整数である。
【0061】
本発明の一実施態様において、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数6~60のアリール基;または置換もしくは非置換の炭素数2~60のヘテロアリール基である。
【0062】
また一つの実施態様において、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数6~40のアリール基;または置換もしくは非置換の炭素数2~40のヘテロアリール基である。
【0063】
また一つの実施態様において、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である。
【0064】
本発明の一実施態様によれば、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基;置換もしくは非置換のビフェニル基;置換もしくは非置換のナフチル基;置換もしくは非置換のフルオレニル基である。
【0065】
本発明の一実施態様において、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、重水素またはアルキル基で置換もしくは非置換のフェニル基;重水素またはアルキル基で置換もしくは非置換のビフェニル基;重水素またはアルキル基で置換もしくは非置換のナフチル基;重水素またはアルキル基で置換もしくは非置換のフルオレニル基である。
【0066】
また一つの実施態様において、前記Ar1およびAr2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、フェニル基;ビフェニル基;またはナフチル基である。
【0067】
本発明の一実施態様において、前記Ar1およびAr2は下記構造のいずれか一つであってもよいが、これらに限定されず、下記構造はさらに置換されていてもよい。
【0068】
【化6】
【0069】
前記構造のうち、
Wは、O、S、NRa、CRbRc、またはSiRdReであり、
R31~R41、Ra、Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基であり、
p1は、0~7の整数であり、
p2、p4、およびp5は、それぞれ0~4の整数であり、
p3およびp6は、それぞれ0~5の整数であり、
p1~p6がそれぞれ2以上である場合、括弧内の置換基は、互いに同一または異なり、
【化7】
は、化学式1に結合される部位である。
【0070】
本発明の一実施態様において、前記R31~R41は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である。
【0071】
本発明の一実施態様において、前記R31~R41は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~20のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~20のアリール基である。
【0072】
また一つの実施態様において、前記R31~R41は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~8のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~12のアリール基である。
【0073】
また一つの実施態様において、前記R31~R41は、それぞれ水素である。
【0074】
本発明の一実施態様において、前記WはOである。
【0075】
本発明の一実施態様において、前記WはSである。
【0076】
本発明の一実施態様において、前記WはCRbRcである。
【0077】
本発明の一実施態様において、前記WはSiRdReである。
【0078】
本発明の一実施態様において、前記Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である。
【0079】
本発明の一実施態様において、前記Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~20のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~20のアリール基である。
【0080】
本発明の一実施態様において、前記Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;置換もしくは非置換の炭素数1~8のアルキル基;または置換もしくは非置換の炭素数6~12のアリール基である。
【0081】
本発明の一実施態様において、前記Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;置換もしくは非置換のメチル基;置換もしくは非置換のエチル基;または置換もしくは非置換のフェニル基である。
【0082】
本発明の一実施態様において、前記Rb、Rc、Rd、およびReは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;重水素;メチル基;エチル基;またはフェニル基である。
【0083】
本発明の一実施態様において、前記X1およびX2は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;またはハロゲン基であり、X1およびX2のうち少なくとも一つはハロゲン基である。
【0084】
本発明の一実施態様において、前記X1はハロゲン基であり、前記X2は水素である。
【0085】
本発明の一実施態様において、前記X1はフッ素であり、前記X2は水素である。
【0086】
本発明の一実施態様において、前記X1は水素であり、前記X2はハロゲン基である。
【0087】
本発明の一実施態様において、前記X1は水素であり、前記X2はフッ素である。
【0088】
本発明の一実施態様において、前記X1およびX2は、それぞれフッ素である。
【0089】
前記L1が直接結合である場合、フルオレンの9番炭素とX3が直接結合し、具体的な構造は下記のとおりである。
【0090】
【化8】
【0091】
前記L2が直接結合である場合、フルオレンの9番炭素とX4が直接結合し、具体的な構造は下記のとおりである。
【0092】
【化9】
【0093】
本発明の一実施態様において、前記X3およびX4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、光硬化性基または熱硬化性基である。
【0094】
前記X3およびX4が光硬化性基または熱硬化性基である場合、有機発光素子に適用時に溶液工程が可能であるという利点がある。
【0095】
例えば、前記化合物を用いて有機物層を形成するステップにおいて、熱処理または光処理により複数のフルオレン系化合物が架橋を形成することになるため、薄膜化した構造が含まれた有機物層を提供することができる。また、前記形成された有機物層の表面上に他の層を積層する際に、溶媒により溶解されるか、または形態学的に影響を受けることや分解されるのを防止することができる。
【0096】
本発明の一実施態様において、前記X3およびX4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、光硬化性基または熱硬化性基であり、下記構造であってもよい。
【0097】
【化10】
【0098】
本発明の一実施態様において、前記X3およびX4は、
【化11】
である。
【0099】
本発明の一実施態様において、前記m1およびm2は、それぞれ1である。
【0100】
本発明の一実施態様において、前記化学式1は、下記化学式1-1で表される。
【0101】
【化12】
【0102】
前記化学式1-1のうち、X1~X4、L1、L2、R1~R6、Ar1、Ar2、およびn1~n6は、化学式1で定義したとおりである。
【0103】
前記化学式1-1で表される化合物は、X1およびX2の位置が特定されることで、重合が容易である。
【0104】
本発明の一実施態様において、前記化学式1のフルオレン系化合物は、下記構造のいずれか一つで表されてもよい。
【0105】
【化13】
【0106】
【化14】
【0107】
【化15】
【0108】
本発明の一実施態様によるフルオレン系化合物は、後述する製造方法により製造されてもよい。
【0109】
例えば、前記化学式1のフルオレン系化合物は、下記製造方法によりコア構造が製造されてもよい。この際、置換基は、当技術分野で周知の方法により結合されてもよく、置換基の種類、位置、または個数は、当技術分野で周知の技術により変更されてもよい。
【0110】
<化学式1の一般的な製造方法>
【化16】
【0111】
前記製造方法の置換基は、化学式1の置換基の定義のとおりである。
【0112】
本発明の一実施態様は、前述したフルオレン系化合物を含むコーティング組成物を提供する。
【0113】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、前記フルオレン系化合物および溶媒を含む。
【0114】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、液状であってもよい。前記「液状」は、常温および常圧で液体状態であることを意味する。
【0115】
本発明の一実施態様において、前記前述したフルオレン系化合物は、一部の溶媒に対して溶解性を有する。
【0116】
本発明の一実施態様において、前記溶媒は、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン(Isophorone)、テトラロン(Tetralone)、デカロン(Decalone)、アセチルアセトン(Acetylacetone)などのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2-ヘキサンジオールなどの多価アルコールおよびその誘導体;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒;およびテトラリンなどであってもよいが、本発明の一実施態様によるフルオレン誘導体を溶解または分散可能な溶媒であればよく、これらに限定されない。
【0117】
本発明の一実施態様において、前記溶媒は、1種単独で用いるか、または2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0118】
本発明の一実施態様において、前記化学式1のフルオレン系化合物は、示差走査熱量計(DSC、Differential Scanning Calorimeter)で測定した結果、発熱ピークと発熱ピーク前の吸熱ピークとの間の温度差が20℃以上である。具体的に、前記発熱ピークと発熱ピーク前の吸熱ピークとの間の温度差が20℃~200℃であってもよい。
【0119】
前記示差走査熱量計(DSC、Differential Scanning Calorimeter)は、試料および基準物質の温度をプログラムにより一定の速度で変化させつつ、二つの間の温度差をゼロ(zero)に維持するために必要なエネルギー(enthalpy)の量を測定し、熱の流れを温度の関数で示して得られたピークの位置、模様、および数から試料の定性的分析と、試料変性時のピークの広さ変化から試料の熱に対するエンタルピー変化などに対する変数を定量的に測定可能な装置を意味する。
【0120】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、pドーピング物質をさらに含まない。
【0121】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、pドーピング物質をさらに含む。
【0122】
本発明において、前記pドーピング物質とは、ホスト物質をp半導体特性を有するようにする物質を意味する。p半導体特性とは、HOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位で正孔の注入を受けたり輸送したりする特性、すなわち、正孔伝導度が大きい物質の特性を意味する。
【0123】
本発明の一実施態様において、前記pドーピング物質は、p半導体特性を有するようにする物質であれはよく、1種または2種以上を用いてもよく、その種類は限定されない。
【0124】
前記pドーピング物質の例示としては、F4TCNQ;またはホウ素アニオンを含む化合物である。具体的に、前記pドーピング物質は、下記化学式9-1~9-3のいずれか一つであるか、またはFarylborate系化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
【化17】
【0126】
本発明の一実施態様において、前記pドーピング物質の含量は、前記化学式1のフルオレン系化合物を基準として0重量%~50重量%である。
【0127】
本発明の一実施態様において、前記pドーピング物質の含量は、前記コーティング組成物の全体固形分含量を基準として0重量%~30重量%である。本発明の一実施態様において、前記pドーピング物質の含量は、前記コーティング組成物の全体固形分含量を基準として1重量%~30重量%であることが好ましく、また一つの実施態様において、前記pドーピング物質の含量は、前記コーティング組成物の全体固形分含量を基準として10重量%~30重量%であることがより好ましい。
【0128】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、熱硬化性基または光硬化性基を含む単分子;または熱によるポリマーの形成が可能な末端基を含む単分子をさらに含んでもよい。
【0129】
本発明の一実施態様において、前記熱硬化性基または光硬化性基を含む単分子;または熱によるポリマーの形成が可能な末端基を含む単分子は、分子量が2,000g/mol以下の化合物であってもよい。
【0130】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、熱硬化性基または光硬化性基を含み、かつ分子量が2,000g/mol以下の単分子;または熱によるポリマーの形成が可能な末端基を含む単分子をさらに含む。
【0131】
本発明の一実施態様において、前記熱硬化性基または光硬化性基を含む単分子は、フェニル、ビフェニル、フルオレン、ナフタレンなどのアリール;アリールアミン;またはフルオレンであり、熱によるポリマーの形成が可能な末端基を含む単分子は、熱によるポリマーの形成が可能な末端基が置換された単分子を意味し得る。
【0132】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、分子内に熱硬化性基または光硬化性基が導入された化合物および高分子化合物からなる群より選択される1種または2種の化合物をさらに含んでもよい。
【0133】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、分子内に熱硬化性基または光硬化性基が導入された化合物をさらに含んでもよい。前記コーティング組成物が分子内に熱硬化性基または光硬化性基が導入された化合物をさらに含む場合には、コーティング組成物の硬化度をさらに高めることができる。
【0134】
本発明の一実施態様において、前記分子内に熱硬化性基または光硬化性基が導入された化合物の分子量は、1,000g/mol~3,000g/molである。
【0135】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、高分子化合物をさらに含んでもよい。前記コーティング組成物が高分子化合物をさらに含む場合には、コーティング組成物のインク特性を高めることができる。すなわち、前記高分子化合物をさらに含むコーティング組成物は、コーティングまたはインクジェットするのに適した粘度を提供することができる。
【0136】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、熱重合開始剤および光重合開始剤からなる群より選択される1種または2種以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0137】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物の粘度は、2cP~15cPである。
【0138】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物は、250℃以下の熱処理後、薄膜保持試験での薄膜保持率が95%以上である。本発明のコーティング組成物は、250℃以下の熱処理後、薄膜保持試験での薄膜保持率が95%以上であるため、トルエン、シクロヘキサノンなどの溶媒に対する耐性に優れる。
【0139】
前記薄膜保持試験は、先ず、前記コーティング組成物を基材(ex、ガラスなど)にスピンコーティングして薄膜を形成し、窒素雰囲気内で熱処理した後、薄膜のUV吸収を測定する。その後、薄膜をトルエン、シクロヘキサノンなどの溶媒に約10分間浸してから乾燥させた後に薄膜のUV吸収を測定し、溶媒に浸す前後のUV吸収の最大ピークの大きさを比較(溶媒に浸した後のUV吸収の最大ピーク/溶媒に浸す前のUV吸収の最大ピークの大きさ×100)して薄膜保持率を測定する。
【0140】
本発明の一実施態様は、前記コーティング組成物を用いて形成された有機発光素子を提供する。
【0141】
本発明の一実施態様は、第1電極;
第2電極;および
前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層を含み、
前記有機物層のうち1層以上は、前記コーティング組成物またはその硬化物を含み、
前記コーティング組成物の硬化物は、前記コーティング組成物が熱処理または光処理により硬化された状態である、有機発光素子を提供する。
【0142】
本明細書において、硬化物は、化合物に含まれた光硬化性基または熱硬化性基が、化合物が適用された層に含まれた他の材料および/または化合物と結合された状態を意味する。例えば、光硬化性基または熱硬化性基が二重結合を含む場合、二重結合が単結合に変化し、化合物間に重合された状態に変換したことを意味し得る。
【0143】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物またはその硬化物を含む有機物層は、正孔輸送層、正孔注入層、または正孔輸送と正孔注入を同時にする層である。
本明細書の一実施態様において、前記コーティング組成物またはその硬化物を含む有機物層は、正孔注入層である。
【0144】
他の一実施態様において、前記コーティング組成物またはその硬化物を含む有機物層は、発光層である。
【0145】
また一つの実施態様において、前記コーティング組成物またはその硬化物を含む有機物層は、発光層であり、前記発光層は、前記フルオレン系化合物を発光層のホストとして含む。
【0146】
本発明の一実施態様において、前記有機発光素子は、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層、および正孔阻止層からなる群より選択される1層または2層以上をさらに含む。
【0147】
本発明の一実施態様において、前記第1電極はアノードであり、第2電極はカソードである。
【0148】
また一つの実施態様によれば、前記第1電極はカソードであり、第2電極はアノードである。
【0149】
一実施態様において、有機発光素子は、基板上に、アノード、1層以上の有機物層、およびカソードが順次積層されたノーマル構造(normal type)の有機発光素子であってもよい。
【0150】
また一つの実施態様において、有機発光素子は、基板上に、カソード、1層以上の有機物層、およびアノードが順次積層された逆方向構造(inverted type)の有機発光素子であってもよい。
【0151】
本発明の有機発光素子の有機物層は、単層構造からなってもよいが、2層以上の有機物層が積層された多層構造からなってもよい。例えば、本発明の有機発光素子は、有機物層として、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入および正孔輸送を同時にする層、発光層、電子輸送層、電子注入層、電子注入および輸送を同時にする層のうち2層以上を含む構造を有してもよい。しかし、有機発光素子の構造は、これに限定されず、さらに少ない数の有機層を含んでもよい。
【0152】
本発明の有機発光素子は、[基板/アノード/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/電子輸送層/カソード]の順に積層されてもよい。
【0153】
また一つの実施態様による本発明の有機発光素子は、[基板/アノード/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入および輸送層/カソード]の順に積層されてもよい。
本発明の一実施態様による有機発光素子の構造は図1に例示されている。
【0154】
図1には、基板101の上に、アノード201、正孔注入層301、正孔輸送層401、発光層501、電子注入および輸送層601、およびカソード701が順次積層された有機発光素子の構造が例示されている。
【0155】
しかし、本発明の有機発光素子の構造は、図1のものに限定されない。
【0156】
前記有機発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は、同一の物質または異なる物質から形成されてもよい。
【0157】
本発明の有機発光素子は、有機物層のうち1層以上が前記フルオレン系化合物を含むコーティング組成物を用いて形成されることを除いては、当技術分野で周知の材料および方法により製造されてもよい。
【0158】
例えば、本発明の有機発光素子は、基板上に、アノード、有機物層、およびカソードを順次積層させることで製造されることができる。この際、スパッタリング法(sputtering)や電子ビーム蒸着法(e-beam evaporation)のようなPVD(physical Vapor Deposition)方法を用いて、基板上に金属または導電性を有する金属酸化物またはこれらの合金を蒸着させてアノードを形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入および輸送層を含む有機物層を蒸着または溶液工程により形成した後、その上にカソードとして使用可能な物質を蒸着させることで製造されることができる。このような方法の他にも、基板上にカソード物質から有機物層、アノード物質を順に蒸着させて有機発光素子を作製することができる。
【0159】
本発明の一実施態様は、前記コーティング組成物を用いて形成された有機発光素子の製造方法を提供する。
【0160】
具体的に、本発明の一実施態様は、基板を準備するステップ;
前記基板上に第1電極を形成するステップ;
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップ;および
前記有機物層上に第2電極を形成するステップを含み、
前記有機物層を形成するステップは、前記コーティング組成物を用いて1層以上の有機物層を形成するステップを含む。
【0161】
すなわち、前記有機物層のうち1層以上が前記コーティング組成物を用いて形成される。
【0162】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層は、溶液工程を用いて形成される。
【0163】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層は、スピンコーティングを用いて形成される。
【0164】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層は、印刷法により形成される。
【0165】
前記印刷法としては、例えば、インクジェット印刷、ノズル印刷、オフセット印刷、転写印刷、またはスクリーン印刷などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
本発明の一実施態様によるコーティング組成物は、構造的な特性上、溶液工程が適しており、印刷法により形成することができるため、素子の製造時に時間および費用的に経済的であるという効果がある。
【0167】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層を形成するステップは、前記カソードまたはアノード上に前記コーティング組成物をコーティングするステップ;および前記コーティングされたコーティング組成物を熱処理または光処理するステップを含む。
【0168】
本発明の一実施態様において、前記熱処理するステップでの熱処理温度は、85℃~250℃である。
【0169】
また一つの実施態様において、前記熱処理するステップでの熱処理時間は、1分~1時間であってもよい。
【0170】
本発明の一実施態様において、前記コーティング組成物が添加剤を含まない場合、100℃~250℃の温度で熱処理して架橋が行われることが好ましく、120℃~200℃の温度で架橋が行われることがより好ましい。
【0171】
前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層を形成するステップにおいて、前記熱処理または光処理ステップを含む場合には、コーティング組成物に含まれた複数のフルオレン系化合物が架橋を形成し、薄膜化した構造が含まれた有機物層を提供することができる。この場合、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層の表面上に他の層を積層する際に、溶媒により溶解されるか、または形態学的に影響を受けることや分解されるのを防止することができる。
【0172】
したがって、前記コーティング組成物を用いて形成された有機物層が熱処理または光処理ステップを含んで形成された場合には、溶媒に対する抵抗性が増加して溶液蒸着および架橋方法を繰り返し行って多層を形成することができ、安定性が増加して素子の寿命特性を増加させることができる。
【0173】
例えば、前記化合物を溶解させる溶媒を用いてコーティング組成物を製造し、溶液工程により有機物層を製造したとしても、熱処理または光処理により硬化させる際に同一の溶媒に対して耐性を有することができる。したがって、前記化合物を用いて有機物層を形成した後に熱処理過程を経ると、他の有機物層に適用時にも溶液工程が可能である。一例として、前記コーティング組成物が正孔輸送層に適用される場合、上部層(発光層など)を製造する際に、前記硬化されたコーティング組成物が耐性を示す特定の溶媒を用いることで、上部層もまた溶液工程により導入が可能である。
【0174】
本発明の一実施態様において、前記フルオレン系化合物を含むコーティング組成物としては、高分子結合剤に混合して分散させたコーティング組成物を用いてもよい。
【0175】
本発明の一実施態様において、高分子結合剤としては、電荷輸送を極度に阻害しないことが好ましく、また、可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。高分子結合剤としては、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)およびその誘導体、ポリ(2,5-チエニレンビニレン)およびその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0176】
本発明の一実施態様において、前記有機発光素子は、有機物層にフルオレン系化合物が単独で含まれてもよく、フルオレン系化合物を含むコーティング組成物が熱処理または光処理されて薄膜化した状態で含まれてもよく、他のモノマーと混合された共重合体として含まれてもよい。また、他の高分子と混合された共重合体として含まれてもよく、混合物として含まれてもよい。この際、他のモノマーと混合された共重合体は、コーティング組成物に他のモノマーを含ませることで形成されてもよく、他の高分子と混合された共重合体は、コーティング組成物に他の高分子を含ませることで形成されてもよい。
【0177】
本発明の一実施態様において、前記アノード物質としては、通常、有機物層への正孔注入が円滑になるように仕事関数の大きい物質が好ましい。本発明で使用可能なアノード物質の具体的な例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金のような金属またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO:Sbのような金属と酸化物の組み合わせ;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ[3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェン](PEDOT)、ポリピロール、およびポリアニリンのような導電性高分子などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0178】
前記カソード物質としては、通常、有機物層への電子注入が容易になるように仕事関数の小さい物質が好ましい。カソード物質の具体的な例としては、バリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタン、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズ、および鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造の物質などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0179】
前記正孔注入層は、電極から正孔を注入する層であって、正孔注入物質としては、正孔を輸送する能力をもってアノードでの正孔注入効果、発光層または発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、発光層で生成された励起子の電子注入層または電子注入材料への移動を防止し、また、薄膜形成能力に優れた化合物が好ましい。正孔注入物質のHOMO(highest occupied molecular orbital)がアノード物質の仕事関数と周辺有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入物質の具体的な例としては、化学式1で表される化合物、金属ポルフィリン(porphyrin)、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン系の有機物、キナクリドン(quinacridone)系の有機物、ペリレン(perylene)系の有機物、アントラキノン、およびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などが挙げられるが、これらのみ限定されるものではない。
【0180】
前記正孔輸送層は、正孔注入層から正孔を受け取って発光層まで正孔を輸送する層であって、正孔輸送物質としては、アノードや正孔注入層から正孔の輸送を受けて発光層に移せる物質であって、正孔に対する移動性の大きい物質が好適である。正孔輸送物質の例としては、アリールアミン系の有機物、導電性高分子、および共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。前記正孔輸送物質は、具体的にはアリールアミン系の有機物、より具体的にはa-NPDであってもよいが、これらに限定されない。
【0181】
前記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子の輸送をそれぞれ受けて結合させることで可視光線領域の光を出せる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体的な例としては、8-ヒドロキシ-キノリンアルミニウム錯体(Alq);カルバゾール系化合物;二量化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10-ヒドロキシベンゾキノリン-金属化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾール、およびベンズイミダゾール系の化合物;ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0182】
前記発光層は、ホスト材料およびドーパント材料を含んでもよい。ホスト材料としては、縮合芳香族環誘導体またはヘテロ環含有化合物などが挙げられる。具体的に、縮合芳香族環誘導体としては、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体、ペンタセン誘導体、フェナントレン化合物、フルオランテン化合物などが挙げられ、ヘテロ環含有化合物としては、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ラダー型フラン化合物、ピリミジン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0183】
ドーパント材料としては、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン化合物、ホウ素錯体、フルオランテン化合物、金属錯体などが挙げられる。具体的に、芳香族アミン誘導体としては、置換もしくは非置換のアリールアミノ基を有する縮合芳香族環誘導体であって、アリールアミノ基を有するピレン、アントラセン、クリセン、ペリフランテンなどが挙げられ、スチリルアミン化合物としては、置換もしくは非置換のアリールアミンに少なくとも1個のアリールビニル基が置換されている化合物であって、アリール基、シリル基、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリールアミノ基からなる群より1または2以上選択される置換基で置換もしくは非置換である。具体的に、スチリルアミン、スチリルジアミン、スチリルトリアミン、スチリルテトラアミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、金属錯体としては、イリジウム錯体、白金錯体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0184】
具体的に、前記発光層は、ホストとしてアントラセン誘導体を含み、ドーパントとして置換もしくは非置換のアリールアミンに少なくとも1個のアリールビニル基が置換されている化合物を含んでもよいが、これに限定されない。
【0185】
前記電子輸送層は、電子注入層から電子を受け取って発光層まで電子を輸送する層であって、電子輸送物質としては、カソードから電子の注入を円滑に受けて発光層に移せる物質であって、電子に対する移動性の大きい物質が好適である。具体的な例としては、8-ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン-金属錯体などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。電子輸送層は、従来技術により用いられたように、任意の所望のカソード物質と共に用いてもよい。特に、適切なカソード物質の例は、低い仕事関数を有し、アルミニウム層またはシルバー層が後に続く通常の物質である。具体的に、セシウム、バリウム、カルシウム、イッテルビウム、およびサマリウムであり、それぞれの場合、アルミニウム層またはシルバー層が後に続く。
【0186】
前記電子注入層は、電極から電子を注入する層であって、電子を輸送する能力を有し、カソードからの電子注入効果、発光層または発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、発光層で生成された励起子の正孔注入層への移動を防止し、また、薄膜形成能力に優れた化合物が好ましい。具体的には、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フルオレニリデンメタン、フェナントロリン、アントロンなどとその誘導体、金属錯体化合物、および含窒素5員環誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0187】
前記金属錯体化合物としては、8-ヒドロキシキノリナートリチウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)マンガン、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2-メチル-8-キノリナート)クロロガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(o-クレゾラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(2-ナフトラート)ガリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0188】
前記電子注入および輸送層は、電子注入と輸送を同時にする層である。電子注入および輸送層物質としては、電子注入層および電子輸送層に適用可能な物質であれば制限されずに使用可能である。例えば、フェナントロリン誘導体が用いられてもよいが、これに限定されない。
【0189】
前記正孔阻止層は、正孔のカソード到達を阻止する層であって、一般に正孔注入層と同一の条件で形成されてもよい。具体的に、オキサジアゾール誘導体やトリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、BCP、アルミニウム錯体(aluminum complex)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
本発明に係る有機発光素子は、用いられる材料に応じて、前面発光型、背面発光型、または両面発光型であってもよい。
【0191】
本発明の一実施態様において、前記フルオレン系化合物は、有機発光素子の他にも、有機太陽電池または有機トランジスタに含まれてもよい。
【実施例
【0192】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。ただし、本発明に係る実施例は種々の他の形態に変形されてもよく、本発明の範囲が以下に記述する実施例に限定されるものと解釈されない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0193】
<製造例>
合成例1.化合物1の製造
【化18】
【0194】
(1)中間体A-1の合成
丸底フラスコに、1-ブロモ-4-クロロ-2-フルオロベンゼン12.24g(1.3eq)、2-(4-クロロ-2-フルオロフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン10g(1.0eq)、PdCl(AMPHOS)0.13g(0.005eq)、およびNaCO 8.26g(2.0eq)を入れ、トルエン(Toluene)150mLとDO 150mLに溶かした。温度を45℃まで昇温させた後、Aliquit336 1.57g(0.10eq)を注入した。12時間の撹拌後、蒸留水を介して反応を終了し、有機層を抽出した後、ジクロロメタン(DCM)およびメタノールを介して純度100%の中間体A-1を7.7g得た。
図2は、中間体A-1のNMR測定結果を示す図である。
【0195】
(2)中間体B-1の合成
丸底フラスコに、中間体A-1 7.7g(1.0eq)、アニリン6.9g(2.2eq)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(t-Bu)P)0.75g(0.05eq)、およびナトリウム-t-ブトキシド(Na-t-butoxide)7.14g(2.5eq)を入れ、キシレン(Xylene)200mLに溶かした。温度を130℃まで昇温させた後に12時間撹拌した。蒸留水を介して反応を終了し、有機層を抽出した後、ジクロロメタン(DCM)およびヘキサンを介して純度96%の中間体B-1を8.0g得た。
【0196】
(3)化合物1の合成
丸底フラスコに、中間体B-1 2g(1.0eq)および2-ブロモ-9-(2,5-ジメチルフェニル)-9-(4-ビニルフェニル)-9H-フルオレン5.36g(2.2eq)を入れ、トルエン40mLに溶かした後、2.5Mナトリウム-t-ペントキシド(Na-t-pentoxide)6.48mL(2.5eq)を徐々に注入した後、Pd(t-Bu)P 0.08g(0.02eq)を投入し、60℃で6時間撹拌した。蒸留水を介して反応を終了し、有機層を抽出した後、THFおよびエタノールを介して純度99.7%の化合物1を1g得た。
図3は、化合物1のHPLC測定結果である。
【0197】
HPLCは、THF:HO=60:40の条件で測定された。測定されたHPLC結果から、化合物1の純度が99.7%であることを確認した。
【0198】
合成例2.化合物2の製造
【化19】
【0199】
(1)中間体A-2の合成
前記製造例1の(1)において、1-ブロモ-4-クロロ-2-フルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-4-クロロベンゼンを用いたことを除いては、製造例1の(1)と同様の方法で純度100%の中間体A-2を8.0g得た。
【0200】
(2)中間体B-2の合成
前記製造例1の(2)において、中間体A-1の代わりに中間体A-2を用いたことを除いては、製造例1の(2)と同様の方法で純度100%の中間体B-2を8.0g得た。
【0201】
(3)化合物2の合成
前記製造例1の(3)において、中間体B-1の代わりに中間体B-2を用いたことを除いては、製造例1の(3)と同様の方法で純度99.7%の化合物2を1.0g得た。
【0202】
合成例3.化合物3の製造
【化20】
【0203】
(1)中間体B-3の合成
前記製造例1の(2)において、アニリンの代わりにブロモ-ビフェニルを用いたことを除いては、製造例1の(2)と同様の方法で純度100%の中間体B-3を8.0g得た。
(2)化合物3の合成
前記製造例1の(3)において、中間体B-1の代わりに中間体B-3を用いたことを除いては、製造例1の(3)と同様の方法で純度99.6%の化合物3を1.0g得た。
【0204】
実験例1.薄膜保持率の測定
前記合成例1で製造された化合物1および下記化学式9-2のp-ドーピング物質をトルエンに2wt%(化合物1:化学式9-2=8:2(重量比))濃度で溶かし、コーティング組成物1を製造した。また、下記比較化合物1および下記化学式9-2のp-ドーピング物質をトルエンに2wt%(比較化合物1:化学式9-2=8:2(重量比))濃度で溶かし、コーティング組成物2を製造した。
【0205】
前記コーティング組成物1および2をそれぞれガラスにスピンコーティングして薄膜を形成した。薄膜を220℃で30分間熱処理し、UV吸収を測定した。この薄膜をトルエン(toluene)に再び10分間浸した後に乾燥し、UV吸収を測定した。浸す前後のUV吸収の最大ピークの大きさの比較により薄膜保持率を確認することができる。
【0206】
【化21】
【0207】
図4は、コーティング組成物1により形成した薄膜の膜保持率の実験結果を示す図である。
【0208】
図5は、コーティング組成物2により形成した薄膜の膜保持率の実験結果を示す図である。
【0209】
図4および5において、横軸は、波長(Wavelength)を意味し、縦軸は、光学密度(OD:Optical Density)を意味し、(a)は、薄膜を熱処理した直後(トルエンに10分間浸す前)のUV測定結果であり、(b)は、薄膜をトルエンに10分間浸した後のUV測定結果である。
【0210】
図4から、化学式1で表される化合物を含むコーティング組成物1により形成した薄膜の場合、薄膜保持率が100%であることを確認することができる。これに対し、図5から、硬化性基を含まない比較化合物1を含むコーティング組成物2により形成した薄膜の場合、薄膜保持率が0%であることを確認することができる。
【0211】
実験例2.エネルギーレベルの測定
前記合成例1で合成された化合物1および下記比較化合物2をそれぞれトルエンに2wt%濃度で溶かしたコーティング組成物を製造した。前記コーティング組成物をITO基板上にスピンコーティングして薄膜に形成した。約30nmの厚さに形成された薄膜フィルムをAC3装置を介してエネルギーレベルを測定し、その結果を下記表1に示す。
【0212】
【化22】
【0213】
【表1】
【0214】
前記表1から、Fが導入された化合物1のHOMOエネルギーレベルが電子求引性(electron withdrawing)効果により、比較化合物2に比べてダウンシフト(down-shift)する傾向を示すことを確認することができる。また、Fが導入された化合物1の場合、比較化合物2よりも大きいバンドギャップを示し、これは、三重項状態(triplet state)の上昇効果を同時にもたらす。したがって、素子の作製時、化合物1を適用する場合、比較化合物2を適用した場合よりも円滑な正孔移動がなされることを確認することができる。
【0215】
実験例3.有機発光素子の製造
実施例1.
ITO(indium tin oxide)が1,500Åの厚さに薄膜コーティングされたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れ、超音波で洗浄した。この際、洗剤としては、フィッシャー社製(Fischer Co.)の製品を用い、蒸留水としては、ミリポア社製(Millipore Co.)のフィルタ(Filter)で2次濾過した蒸留水を用いた。ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返して超音波洗浄を10分間行った。
【0216】
蒸留水洗浄が終わった後、イソプロピルアルコール、アセトンの溶剤で超音波洗浄をし乾燥させた後、前記基板を5分間洗浄した後、グローブボックスに基板を輸送させた。
ITO透明電極上に、前記化合物1および前記化学式9-2のp-ドーピング物質をトルエンに1.5wt%濃度で溶かした(化合物1:化学式9-2=8:2(重量比))コーティング組成物をスピンコーティングし、220℃で30分間熱処理(硬化)し、30nmの厚さに正孔注入層形成した。上記で形成された正孔注入層上に、α-NPD(N,N-ジ(1-ナフチル)-N,N-ジフェニル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン)を2wt%含むトルエン(toluene)溶液をスピンコーティングし、正孔輸送層を40nmの厚さに形成した。その後、真空蒸着機に移送した後、前記正孔輸送層上に、9,1-ジ-2-ナフタレニル-アントラセン(ADN)とDPAVBiの重量比(ADN:DPAVBi)を20:1にして20nmの厚さに真空蒸着し、発光層を形成した。前記発光層上に、BCPを35nmの厚さに真空蒸着し、電子注入および輸送層を形成した。前記電子注入および輸送層上に、1nmの厚さにLiFおよび100nmの厚さにアルミニウムを順次蒸着し、カソードを形成した。
【0217】
上記の過程において、有機物の蒸着速度は0.4Å/sec~0.7Å/secを維持し、カソードのフッ化リチウムは0.3Å/sec、アルミニウムは2Å/secの蒸着速度を維持し、蒸着時の真空度は2×10-7torr~5×10-6torrを維持した。
【0218】
【化23】
【0219】
実施例2.
前記実施例1において、化合物1の代わりに化合物2を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で有機発光素子を製造した。
【0220】
実施例3.
前記実施例1において、化合物1の代わりに化合物3を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で有機発光素子を製造した。
【0221】
比較例1.
前記実施例1において、化合物1の代わりに下記比較化合物2を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製造した。
【化24】
【0222】
比較例2.
前記実施例1において、化合物1の代わりに硬化基を含まない下記比較化合物1を用いて正孔注入層を形成し、形成された正孔注入層上にNPDを2wt%含むトルエン(toluene)溶液をスピンコーティングして正孔輸送層を形成しようとしたが、比較化合物1がNPDが含まれたトルエン溶液に溶解され、素子の作製が不可能であった。
【化25】
【0223】
前記実施例1~3および比較例1で製造された有機発光素子を10mA/cmの電流密度で性能測定した結果を下記表2に示す。
【0224】
【表2】
【0225】
前記表2のうち、T95は、輝度が初期輝度から95%に減少するのに必要な時間を意味する。
【0226】
表2から分かるように、Fが導入された化合物の場合(実施例1~3)、低電圧においても駆動が可能であり、これは、Fの導入により、比較化合物2よりも向上した移動度を有していることを意味する。また、寿命も、実施例1~3の方が比較例1に比べて向上することを確認することができる。
【符号の説明】
【0227】
101 ・・・基板
201 ・・・アノード
301 ・・・正孔注入層
401 ・・・正孔輸送層
501 ・・・発光層
601 ・・・電子注入および輸送層
701 ・・・カソード
図1
図2
図3
図4
図5