(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20231218BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231218BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231218BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231218BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231218BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231218BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231218BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20231218BHJP
【FI】
H01B1/10
H01B1/06 A
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/058
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019554293
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2018042351
(87)【国際公開番号】W WO2019098299
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-04-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017220874
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】篠原 功一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-040218(JP,A)
【文献】特開2012-212652(JP,A)
【文献】星純也ら,石油系混合溶剤の成分組成調査,東京都環境科学研究所年報,日本,2007年,pp.135-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13- 4/1399
H01B 1/00- 1/24
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系無機固体電解質と、複数種のアルカン分散媒とを含有する固体電解質組成物
で構成した層を有する固体電解質含有シートであって、
前記層に前記アルカン分散媒を質量基準で1000ppm以下含有し、
前記複数種のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件で測定することにより得られる、各アルカン分散媒のピークについて、互いに隣接するピークの分散媒の保持時間の差が0分を越え0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含
む、
固体電解質
含有シート(ただし、三次元網目構造を有する多孔質金属シートとこの多孔質金属シートの空孔部に挿入された無機固体電解質を有するリチウム電池用電極材料シートを含む形態を除く)。
<ガスクロマトグラフィーの条件>
カラム:アジレントテクノロジー社製のAgilent J&W GC Column、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数種のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1μL
移動相:He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持する。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入する。
測定時間は、サンプル注入から50分である。
【請求項2】
前記複数種のアルカン分散媒が、環状アルカン分散媒を含む、請求項1に記載の固体電解質
含有シート。
【請求項3】
前記
複数種のアルカン分散媒として炭素数6~12のアルカンを含む、請求項1又は2に記載の固体電解質
含有シート。
【請求項4】
前記
複数種のアルカン分散媒としてヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルペンタン、メチルヘプタン、メチルオクタン、メチルノナン、ジメチルペンタン及びメチルエチルペンタンのうちの2種以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質
含有シート。
【請求項5】
前記固体電解質組成物が、エーテル分散媒、エステル分散媒、ケトン分散媒、カーボネート分散媒、ニトリル分散媒及びアミド分散媒のうちの少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解質
含有シート。
【請求項6】
前記固体電解質組成物が、活物質を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質
含有シート。
【請求項7】
正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層及び前記固体電解質層の少なくとも1つの層が、
硫化物系無機固体電解質と、複数種のアルカン分散媒とを含有する固体電解質組成物で形成した層であ
り、
前記複数種のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件で測定することにより得られる、各アルカン分散媒のピークについて、互いに隣接するピークの分散媒の保持時間の差が0分を越え0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含む、全固体二次電池
(ただし、前記正極活物質層又は前記負極活物質層が、三次元網目構造を有する多孔質金属シートとこの多孔質金属シートの空孔部に挿入された無機固体電解質を有するリチウム電池用電極材料シートである全固体二次電池を除く)。
<ガスクロマトグラフィーの条件>
カラム:アジレントテクノロジー社製のAgilent J&W GC Column、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数種のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1μL
移動相:He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持する。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入する。
測定時間は、サンプル注入から50分である。
【請求項8】
請求項
1~6のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
硫化物系無機固体電解質と、複数種のアルカン分散媒とを含有する固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含
み、
前記複数種のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件で測定することにより得られる、各アルカン分散媒のピークについて、互いに隣接するピークの分散媒の保持時間の差が0分を越え0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含む、固体電解質含有シートの製造方法。
<ガスクロマトグラフィーの条件>
カラム:アジレントテクノロジー社製のAgilent J&W GC Column、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数種のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1μL
移動相:He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持する。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入する。
測定時間は、サンプル注入から50分である。
【請求項9】
請求項
8に記載の製造方法により固体電解質含有シートを得る工程を含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、硫化物系無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。
【0003】
上記のような各利点から、次世代のリチウムイオン電池としての全固体二次電池の研究開発が進められており、全固体二次電池の構成層を形成する材料についても検討されている。例えば、全固体二次電池の固体電解質層を形成する組成物(スラリー)研究が挙げられる。特許文献1には、硫化物系無機固体電解質と、この硫化物系無機固体電解質との反応性の低い少なくとも1種の極性溶媒を含有するスラリーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の実用化に向けて、放電容量等の電池性能をより向上させることが望まれる。放電容量等の電池性能をより向上させるには、全固体二次電池を構成する固体電解質層及び/又は電極活物質層において固体粒子が均一に分散していることにより、層全体にわたり特性にばらつきのないことが必要である。さらに、所望のレベルの電池性能を有する全固体二次電池を再現性よく製造することが望まれる。しかしながら、特許文献1記載のスラリーを用いて形成された固体電解質層及び電極活物質層は、固体粒子が不均一に存在し、層形成の再現性も低い。
【0006】
上記状況に鑑み、本発明は、全固体二次電池の固体電解質層又は電極活物質層の形成材料として用いる固体電解質組成物であって、層形成工程の乾燥時における、固体粒子の不規則、不均一な凝集を抑制することができ、固体粒子(例えば、硫化物系無機固体電解質)の均一分散性に優れ、固体電解質層又は電極活物質層を高い再現性で形成することのできる固体電解質組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この固体電解質組成物を用いた固体電解質含有シート及び全固体二次電池を提供することを課題とする。さらに、本発明は、上記固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、ガスクロマトグラフィーにより測定し、隣り合うピークの分散媒の保持時間差が特定の値以下である2種のアルカン分散媒を含む、複数種のアルカン分散媒と、硫化物系無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物を、固体電解質層又は電極活物質層を形成する材料として用いることにより、上記アルカン分散媒が連続的ともいえる状態で蒸発又は揮発することなどに起因して形成される固体電解質層又は電極活物質層の固体粒子の均一分散性を効果的に高めることができ、固体電解質層又は電極活物質層を高い再現性で形成できることを見出した。本発明はこのような知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
硫化物系無機固体電解質と、複数種のアルカン分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
上記複数種のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件で測定することにより得られる、各アルカン分散媒のピークについて、互いに隣接するピークの分散媒の保持時間の差が0分を越え0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含む、固体電解質組成物。
<ガスクロマトグラフィーの条件>
カラム:アジレントテクノロジー社製のAgilent J&W GC Column、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数種のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1μL
移動相:He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持する。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入する。
測定時間は、サンプル注入から50分である。
<2>
上記複数種のアルカン分散媒が、環状アルカン分散媒を含む、<1>に記載の固体電解質組成物。
<3>
上記アルカン分散媒として炭素数6~12のアルカンを含む、<1>又は<2>に記載の固体電解質組成物。
<4>
上記アルカン分散媒としてヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルペンタン、メチルヘプタン、メチルオクタン、メチルノナン、ジメチルペンタン及びメチルエチルペンタンのうちの2種以上を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<5>
エーテル分散媒、エステル分散媒、ケトン分散媒、カーボネート分散媒、ニトリル分散媒及びアミド分散媒のうちの少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<6>
活物質を含有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【0009】
<7>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層を有する固体電解質含有シートであって、上記層に上記アルカン分散媒を質量基準で1000ppm以下含有する、固体電解質含有シート。
<8>
正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層及び上記固体電解質層の少なくとも1つの層が、<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で形成した層である、全固体二次電池。
<9>
<7>に記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含む、固体電解質含有シートの製造方法。
<10>
<9>に記載の製造方法により固体電解質含有シートを得る工程を含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体電解質組成物は、固体粒子の均一分散性に優れた固体電解質層又は電極活物質層を高い再現性で形成することを可能とする。また、本発明の固体電解質含有シート及び全固体二次電池は、層を構成する固体粒子の均一分散性に優れ、放電容量が高くそのばらつきも抑えられる。また、本発明の上記固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法によれば、層を構成する固体粒子の均一分散性に優れ、放電容量が高くそのばらつきも抑えられた全固体二次電池の提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、
図1は本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例で使用したアルカン分散媒(MC-3000Sソルベント)のガスクロマトグラフィー測定により得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[固体電解質組成物]
本発明の固体電解質組成物は、硫化物系無機固体電解質と、複数種のアルカン分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
上記複数種のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件で測定することにより得られる、上記複数種のアルカン分散媒中の各アルカン分散媒のピークにおいて、互いに隣接するピークの保持時間の差が0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含む。
【0014】
<ガスクロマトグラフィーの条件>
使用機種:例えば、GC-2010(島津製作所社製)
カラム:Agilent J&W GC Column (アジレントテクノロジー社製)、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数種のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1uL
移動相(キャリアガス):He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持する。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入する。
測定時間は、サンプル注入から50分である。
検出器:例えば、水素炎イオン化検出器(FID)
【0015】
本発明の固体電解質組成物が、硫化物系無機固体電解質と、上記複数種のアルカン分散媒とを含有していると、この固体電解質組成物を用いて形成された固体電解質層又は電極活物質層において、固体粒子を高いレベルで均一に分散した状態で存在させることができる。さらに、本発明の固体電解質組成物により、このような固体電解質層又は電極活物質層を再現性よく作製することができる。その理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の固体電解質組成物(スラリー)において、上記特定の複数種のアルカン分散媒を含有することにより、層を形成する際、このスラリーからアルカン分散媒が略連続的に蒸発又は揮発することにより、乾燥時の硫化物系無機固体電解質の局所的な凝集、あるいは空孔の形成などが抑制され、層の均一性が向上することが一因と考えられる。
【0016】
以下、本発明の固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0017】
(硫化物系無機固体電解質)
本発明の固体電解質組成物は、硫化物系無機固体電解質を含有する。
無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。この点で、電解液やポリマー中でカチオンおよびアニオンが解離または遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
上記無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質及び(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明では、硫化物系無機固体電解質が用いられる。
【0018】
本発明に用いられる硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、SおよびPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的または場合に応じて、Li、SおよびP以外の他の元素を含んでもよい。
例えば下記式(I)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 式(I)
式中、LはLi、NaおよびKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1はさらに、1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましい。d1はさらに、2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1はさらに、0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0019】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0020】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、PおよびSを含有するLi-P-S系ガラス、またはLi、PおよびSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mであらわされる元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0021】
Li-P-S系ガラスおよびLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0022】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。たとえばLi2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法および溶融急冷法を挙げられる。常温(25℃)での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0023】
硫化物系無機固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、硫化物系無機固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。硫化物系無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0024】
硫化物系無機固体電解質の固体電解質組成物中の固形成分における含有量は、全固体二次電池に用いたときの界面抵抗の低減と低減された界面抵抗の維持を考慮したとき、固形成分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
上記硫化物系無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、固体電解質組成物中の硫化物系無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
なお、本明細書において固形分(固形成分)とは、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0025】
(酸化物系無機固体電解質)
本発明の固体電解質組成物は、上記硫化物系無機固体電解質の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で、酸化物系無機固体電解質を含有してもよい。酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0026】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfOzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、LixgSygOzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0027】
上記酸化物無機固体電解質の体積平均粒子径及び測定方法は、硫化物系無機固体電解質の体積平均粒子径及び測定方法の記載を好ましく適用することができる。
【0028】
(アルカン分散媒)
上述のように、本発明の固体電解質組成物に用いられる複数のアルカン分散媒は、ガスクロマトグラフィーを用い、上記測定条件における測定により得られる、互いに隣接するピークの保持時間の差(以下、単に「互いに隣接するピークの保持時間の差」とも称す。)が0分を越え0.2分以内である2種のアルカン分散媒を含む。
【0029】
本発明の固体電解質組成物に用いられるアルカン分散媒は、鎖状アルカンでも環状アルカンでもよく、炭素数は、6~12が好ましい。上記アルカン分散媒の具体例として、特に制限されないが、例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルペンタン、メチルヘプタン、メチルオクタン、メチルノナン、ジメチルペンタン、メチルエチルペンタンが挙げられる。本発明の固体電解質組成物に用いられる複数のアルカン分散媒は、これらのアルカン分散媒を組み合わせて用いられる。
【0030】
本発明の固体電解質組成物に用いられるアルカン分散媒の種類は、2種以上であれば特に制限されないが、2種以上が好ましく、5種以上が好ましく、10種~30種が特に好ましい。アルカン分散媒に含まれる成分は、蒸留またはカラムクロマトグラフィーなどの通常の方法によって、単離精製することができる。単離した各成分は、例えばNMRを用いて構造を特定できる。
【0031】
上記複数種のアルカン分散媒において、互いに隣接するピークの保持時間の差が0.2分以内の関係にあるアルカン分散媒の組み合わせの数が2セット以上存在することが好ましく、4セット以上存在することがより好ましく、6セット以上存在することも好ましく、8セット以上存在することも好ましく、10セット以上存在することも好ましく、12セット以上存在することも好ましい。上記組み合わせの数の上限に特に制限はない。例えば、50セット以下とすることができ、40セット以下とすることもできる。
本発明において使用するアルカン溶媒の種類は2種以上であり、4種以上が好ましく、6種以上が好ましく、8種以上がより好ましく、10種以上がさらに好ましい。また、本発明において使用するアルカン溶媒の種類の上限は特に制限されない。例えば、50種以下とすることができ、40種以下としてもよい。
上記複数のアルカン分散媒において、互いに隣接するピークの保持時間の差が、0.2分以内であるアルカン分散媒の組み合わせが多いほど好ましく、複数のアルカン分散媒のうちの2種以上のアルカン分散媒の互いに隣接するピークの保持時間の差が、0.2分以内であることが好ましく、5種以上のアルカン分散媒の互いに隣接するピークの保持時間の差が、0.2分以内であることがより好ましく、10種以上のアルカン分散媒の互いに隣接するピークの保持時間の差が、0.2分以内であることが特に好ましい。例えば、アルカン分散媒を10種組み合わせて用いる場合、8種以上のアルカン分散媒由来のピークにおいて、互いに隣接するピークの保持時間の差が、0.2分以内であることが好ましい。
【0032】
本発明の固体電解質組成物において、上記条件でガスクロマトグラフィーを用いた測定により得られる全てのピークの保持時間が、サンプル注入から0~30分にあり、1~20分にあることが好ましく、4~17分にあることが特に好ましい。
【0033】
本発明の固体電解質組成物に含まれる複数のアルカン分散媒に含まれる各アルカン分散媒の含有割合は、固体電解質層又は電極活物質層において固体粒子が均一に分散して存在するように適宜に設定される。複数のアルカン分散媒中、含有量が最大のアルカン分散媒の割合が90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。一方、複数のアルカン分散媒に含有量が最少のアルカン分散媒の割合が0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。
上記含有量の割合は、クロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0034】
本発明に用いられる複数のアルカン分散媒は、分散媒の粘度を高め、固体電解質組成物スラリーの安定性を向上させることができるため、環状アルカンを含むことが好ましい。
【0035】
(極性分散媒)
本発明の固体電解質組成物は、電池の放電容量をより高めるために、極性分散媒(エーテル分散媒、エステル分散媒、ケトン分散媒、カーボネート分散媒、ニトリル分散媒及びアミド分散媒のうちの少なくとも1種)を含むことが好ましい。
【0036】
エーテル分散媒としては、例えば、アルキレングリコール(トリエチレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル等)、アルキレングリコールジアルキルエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0037】
エステル分散媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチルが挙げられる。
【0038】
ケトン分散媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジペンチルケトンが挙げられる。
【0039】
カーボネート分散媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが挙げられる。
【0040】
ニトリル分散媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリルが挙げられる。
【0041】
アミド分散媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドが挙げられる。
【0042】
複数のアルカン分散媒と極性溶媒の質量比は、10/90~99/1が好ましく、30/70~97/3がより好ましく、50/50~95/5が特に好ましい。
本発明の固体電解質組成物は、上記極性分散媒を1種単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0043】
(活物質)
本発明の固体電解質組成物は、周期律表第1族又は第2族に属する金属元素のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有してもよい。以下、「周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質」を単に「活物質」とも称する。
活物質としては、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、正極活物質である金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)、又は、負極活物質である金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属が好ましい。
本発明において、活物質(正極活物質、負極活物質)を含有する固体電解質組成物を、電極用組成物(正極用組成物、負極用組成物)ということがある。
【0044】
-正極活物質-
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P又はBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0045】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類ならびにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4及びLi2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0046】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に限定されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0047】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0048】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~85質量がさらに好ましく、55~80質量%が特に好ましい。
【0049】
-負極活物質-
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体及びリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム単体が好ましい。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0050】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。さらに、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカーならびに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0051】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、さらに金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。
【0052】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、ならびにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、SiO、GeO、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Bi2O4、SnSiO3、GeS、SnS、SnS2、PbS、PbS2、Sb2S3、Sb2S5及びSnSiS3が好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2であってもよい。
【0053】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLi4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0054】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0055】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル及び旋回気流型ジェットミルや篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては特に限定はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0056】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0057】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0058】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~80質量%であることが好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0059】
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
さらに、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていても良い。
【0060】
(バインダー)
本発明の固体電解質組成物はバインダーを含有してもよい。
本発明の固体電解質組成物に用いられるバインダーは、有機ポリマーであれば特に限定されない。
本発明に用いることができるバインダーは、特に制限はなく、例えば、以下に述べる樹脂からなるバインダーが好ましい。
【0061】
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)およびポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンの共重合物(PVdF-HFP)が挙げられる。
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエンおよびポリイソプレンが挙げられる。
アクリル樹脂としては、各種の(メタ)アクリルモノマー類、(メタ)アクリルアミドモノマー類、およびこれら樹脂を構成するモノマーの共重合体が挙げられる。
また、そのほかのビニル系モノマーとの共重合体も好適に用いられる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル-ポリスチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体およびポリ(メタ)アクリル酸ブチル-アクリロニトリル-スチレン共重合体が挙げられる。
その他の樹脂としては例えばポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
バインダーの形状は特に限定されず、固体電解質組成物中ないし全固体二次電池中において粒子状であっても不定形状であってもよい。
【0063】
本発明に用いられるバインダーを構成するポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。
また、本発明に用いられるバインダーを構成するポリマーは、固体電解質含有シートないし全固体二次電池を形成する際、固体の状態で使用しても良いし、ポリマー粒子分散液またはポリマー溶液の状態で用いてもよい。
【0064】
本発明に用いられるバインダーを構成するポリマーの質量平均分子量は10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。上限としては、1,000,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。
【0065】
-分子量の測定-
本発明においてバインダーの分子量については、特に断らない限り、質量平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、バインダー種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
【0066】
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名)を2本つなげる。
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0067】
(条件2)優先
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H(商品名)、TOSOH TSKgel Super HZ4000(商品名)、TOSOH TSKgel Super HZ2000(商品名)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0068】
本発明の固体電解質組成物中、硫化物系無機固体電解質100質量部に対して、バインダーを0.1~7質量部含んでもよく、0.2~5質量部含んでもよい。
【0069】
(分散剤)
本発明の固体電解質組成物は分散剤を含有してもよい。分散剤を添加することで電極活物質及び硫化物系無機固体電解質のいずれかの含有量が多い場合及び/又は電極活物質及び硫化物系無機固体電解質の粒子径が細かく表面積が増大する場合においてもその凝集を抑制し、均一な活物質層及び固体電解質層を形成することができる。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0070】
(リチウム塩)
本発明の固体電解質組成物は、リチウム塩を含有してもよい。
リチウム塩としては、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486号公報の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
リチウム塩の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して0質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0071】
(イオン液体)
本発明の固体電解質組成物は、固体電解質含有シート又は全固体二次電池を構成する各層のイオン伝導度をより向上させるため、イオン液体を含有してもよい。イオン液体としては、特に限定されないが、イオン伝導度を効果的に向上させる観点から、上述したリチウム塩を溶解するものが好ましい。例えば、下記のカチオンと、アニオンとの組み合わせよりなる化合物が挙げられる。
【0072】
(i)カチオン
カチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及び第4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。ただし、これらのカチオンは以下の置換基を有する。
カチオンとしては、これらのカチオンを1種単独で用いてもよく、2以上組み合わせて用いることもできる。
好ましくは、四級アンモニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン又はピロリジニウムカチオンである。
上記カチオンが有する置換基としては、アルキル基(炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。)、ヒドロキシアルキル基(炭素数1~3のヒドロキシアルキル基が好ましい。)、アルキルオキシアルキル基(炭素数2~8のアルキルオキシアルキル基が好ましく、炭素数2~4のアルキルオキシアルキル基がより好ましい。)、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基(炭素数1~8のアミノアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアミノアルキル基が好ましい。)、アリール基(炭素数6~12のアリール基が好ましく、炭素数6~8のアリール基がより好ましい。)が挙げられる。上記置換基はカチオン部位を含有する形で環状構造を形成していてもよい。置換基はさらに上記分散媒で記載した置換基を有していてもよい。なお、上記エーテル基は、他の置換基と組み合わされて用いられる。このような置換基として、アルキルオキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0073】
(ii)アニオン
アニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、ジシアナミドイオン、酢酸イオン、四塩化鉄イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロブチルメタンスルホニル)イミドイオン、アリルスルホネートイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホネートイオン等が挙げられる。
アニオンとしては、これらのアニオンを1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いることもできる。
好ましくは、四フッ化ホウ素イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン又はヘキサフルオロリン酸イオン、ジシアナミドイオン及びアリルスルホネートイオンであり、さらに好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン又はビス(フルオロスルホニル)イミドイオン及びアリルスルホネートイオンである。
【0074】
上記のイオン液体としては、例えば、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-(2-メトキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボラート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジシアナミド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME)、N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PMP)、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム テトラフルオロボラート、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、(2-アクリロイルエチル)トリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチルー1-メチルピロリジニウムアリルスルホネート、1-エチルー3-メチルイミダゾリウムアリルスルホネート及び塩化トリヘキシルテトラデシルホスホニウムが挙げられる。
イオン液体の含有量は、硫化物系無機固体電解質100質量部に対して0質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が最も好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
リチウム塩とイオン液体の質量比は、リチウム塩:イオン液体=1:20~20:1が好ましく、1:10~10:1がより好ましく、1:7~2:1が最も好ましい。
【0075】
(導電助剤)
本発明の固体電解質組成物は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維やカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェンやフラーレンなどの炭素質材料であっても良いし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でも良く、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体など導電性高分子を用いても良い。またこれらの内1種を用いても良いし、2種以上を用いても良い。
本発明の固体電解質組成物の固形成分100質量部中、導電助剤を0.5~5質量部含んでもよく、1~2質量部含んでもよい。
【0076】
(固体電解質組成物の調製)
本発明の固体電解質組成物は、硫化物系無機固体電解質を上記複数のアルカン分散媒の存在下で分散して、スラリー化することで調製することができる。
スラリー化は、各種の混合機を用いて硫化物系無機固体電解質と、上記複数のアルカン分散媒とを混合することにより行うことができる。
アルカン分散媒は例えば、常法により2種以上混合させた後、この混合した分散媒を硫化物系無機固体電解質と混合してもよく、2種以上の各アルカン分散媒と硫化物系無機固体電解質とを個別に添加して混合してもよい。アルカン分散媒の炭素数、構造等を勘案して組み合わせるアルカン分散媒の上述の保持時間の差が0.2分以内となるように調整することができる。
混合装置としては、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ―、ブレードミキサ―、ロールミル、ニーダー及びディスクミルが挙げられる。混合条件は特に制限されないが、例えば、ボールミルを用いた場合、150~700rpm(rotation per minute)で1時間~24時間混合することが好ましい。
活物質、分散剤等の成分を含有する固体電解質組成物を調製する場合には、上記の硫化物系無機固体電解質の分散工程と同時に添加及び混合してもよく、別途添加及び混合してもよい。
【0077】
[全固体二次電池用シート]
本発明の固体電解質含有シートは、全固体二次電池に好適に用いることができ、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう)、電極又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートということがある。
【0078】
全固体二次電池用シートは、固体電解質層又は活物質層(電極層)を有するシートである。この全固体二次電池用シートは、固体電解質層又は活物質層を有していれば、他の層を有してもよいが、活物質を含有するものは後述する全固体二次電池用電極シートに分類される。他の層としては、例えば、保護層、集電体、コート層(集電体、固体電解質層、活物質層)等が挙げられる。
全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、固体電解質層と保護層とを基材上に、この順で有するシート及び固体電解質層又は活物質層(電極層)からなるシート(基材を有さないシート)が挙げられる。
基材としては、固体電解質層又は活物質層を支持できるものであれば特に限定されず、後記集電体で説明した材料、有機材料及び無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン及びセルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス及びセラミック等が挙げられる。
【0079】
全固体二次電池用シートの固体電解質層の層厚は、後述の、本発明の全固体二次電池において説明した固体電解質層の層厚と同じである。
このシートは、本発明の固体電解質組成物を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層を形成することにより、得られる。基材は固体電解質層から剥された固体電解質層からなるシートとしてもよい。
ここで、本発明の固体電解質組成物は、上記の方法によって、調製できる。
【0080】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「電極シート」ともいう。)は、本発明の全固体二次電池の活物質層を形成するための、集電体としての金属箔上に活物質層を有する電極シートである。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。
電極シートを構成する各層の層厚は、後述の、本発明の全固体二次電池において説明した各層の層厚と同じである。
電極シートは、本発明の、活物質を含有する固体電解質組成物を金属箔上に製膜(塗布乾燥)して、金属箔上に活物質層を形成することにより、得られる。活物質を含有する固体電解質組成物を調製する方法は、活物質を用いること以外は、上記固体電解質組成物を調製する方法と同じである。
【0081】
なお、固体電解質含有シートは、各層中にアルカン分散媒を含有する。具体的には、各層の全質量中のアルカン分散媒の含有量は、1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。下限は、例えば、10ppm以上であり、0ppmでもよい。
各層中のアルカン分散媒の含有量は、シートを切断して、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0082】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極と、この正極に対向する負極と、正極及び負極の間の固体電解質層とを有する。正極は、正極集電体上に正極活物質層を有する。負極は、負極集電体上に負極活物質層を有する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質含有シートである。
固体電解質組成物で形成された活物質層及び/又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、固体電解質組成物の固形分におけるものと同じである。
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0083】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、積層した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。本発明の固体電解質組成物は、上記負極活物質層、正極活物質層、固体電解質層の成形材料として好ましく用いることができる。また、本発明の固体電解質含有シートは、上記負極活物質層、正極活物質層、固体電解質層として好適である。
本明細書において、正極活物質層(以下、正極層とも称す。)と負極活物質層(以下、負極層とも称す。)をあわせて電極層又は活物質層と称することがある。
【0084】
正極活物質層4、固体電解質層3、負極活物質層2の厚さは特に限定されない。なお、一般的な電池の寸法を考慮すると、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。また、本発明の全固体二次電池においては、本発明の固体電解質組成物を用いることにより、固体電解質層3の厚さを、例えば、5μm以上100μm以下(好ましくは10μm以上50μm以下)とすることもできる。
【0085】
〔正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層〕
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれかが本発明の固体電解質組成物を用いて形成されている。
【0086】
正極活物質層4及び/又は負極活物質層2が本発明の固体電解質組成物を用いて形成されている場合、正極活物質層4及び負極活物質層2は、それぞれ、正極活物質又は負極活物質を含み、さらに、硫化物系無機固体電解質を含む。活物質層が硫化物系無機固体電解質を含有するとイオン伝導度を向上させることができる。
正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する硫化物系無機固体電解質は、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
【0087】
〔集電体(金属箔)〕
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0088】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に限定されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0089】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在又は配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0090】
〔筐体〕
上記の各層を配置して全固体二次電池の基本構造を作製することができる。用途によってはこのまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためにはさらに適当な筐体に封入して用いる。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金及びステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0091】
[固体電解質含有シートの製造]
本発明の固体電解質含有シートは、例えば、本発明の固体電解質組成物を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層若しくは活物質層(塗布乾燥層)を形成することにより、得られる。
上記態様により、基材と塗布乾燥層とを有するシートである全固体二次電池用シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の固体電解質組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の固体電解質組成物を用いてなり、本発明の固体電解質組成物から分散媒を除いた組成からなる層)をいう。
その他、塗布等の工程については、下記全固体二次電池の製造に記載の方法を使用することができる。
【0092】
[全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートの製造]
全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートの製造は、常法によって行うことができる。具体的には、全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートは、本発明の固体電解質組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。以下、詳述する。
【0093】
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物を、集電体となる金属箔上に塗布し、塗膜を形成(製膜)する工程を含む(介する)方法により、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極用組成物)として、正極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。さらに、固体電解質層の上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0094】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。さらに、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。さらに、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。このようにして、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層における硫化物系無機固体電解質の含有量が10質量%以下の低い領域でも、活物質と硫化物系無機固体電解質の密着性が高まり効率的なイオン伝導パスを維持することができ、電池質量あたりのエネルギー密度(Wh/kg)及び出力密度(W/kg)が高い全固体二次電池を製造することができる。
【0095】
上記の形成法の組み合わせによっても全固体二次電池を製造することができる。例えば、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池用固体電解質シートをそれぞれ作製する。次いで、全固体二次電池用負極シート上に、基材から剥がした固体電解質層を積層した後に、上記全固体二次電池用正極シートと張り合わせることで全固体二次電池を製造することができる。この方法において、固体電解質層を全固体二次電池用正極シートに積層し、全固体二次電池用負極シートと張り合わせることもできる。
【0096】
(各層の形成(成膜))
固体電解質組成物の塗布方法は、特に限定されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布及びバーコート塗布が挙げられる。
このとき、固体電解質組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に限定されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性を得ることができる。
【0097】
塗布した固体電解質組成物、又は、全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては、特に限定されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されず、一般的には30~300℃の範囲である。硫化物系無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
加圧は塗布溶媒又は分散媒をあらかじめ乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布しても良いし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行っても良い。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0098】
加圧中の雰囲気としては、特に限定されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)及び不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0099】
(初期化)
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は、特に限定されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0100】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【0101】
本発明の好ましい実施形態によれば、以下のような各応用形態が導かれる。
〔1〕正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の全ての層が、本発明の固体電解質組成物で構成された層である全固体二次電池。
〔2〕固体電解質層が、硫化物系無機固体電解質と、バインダー及び/又は導電助剤とが分散されたスラリーを湿式塗布し製膜される全固体二次電池の製造方法。
〔3〕硫化物系無機固体電解質と、活物質と、バインダー及び/又は導電助剤を含有する固体電解質組成物。
〔4〕上記固体電解質組成物を金属箔上に適用し、製膜してなる電池用電極シート。
〔5〕上記固体電解質組成物を金属箔上に適用し、製膜する電池用電極シートの製造方法。
【0102】
全固体二次電池とは、正極、負極、電解質がともに固体で構成された二次電池を言う。換言すれば、電解質としてカーボネート系の溶媒を用いるような電解液型の二次電池とは区別される。このなかで、本発明は無機全固体二次電池を前提とする。全固体二次電池には、電解質としてポリエチレンオキサイド等の高分子化合物を用いる有機(高分子)全固体二次電池と、上記のLi-P-S系ガラス、LLT又はLLZ等を用いる無機全固体二次電池とに区分される。なお、無機全固体二次電池に有機化合物を適用することは妨げられず、正極活物質、負極活物質、無機固体電解質のバインダーや添加剤として有機化合物を適用することができる。
無機固体電解質とは、上述した高分子化合物をイオン伝導媒体とする電解質(高分子電解質)とは区別されるものであり、無機化合物がイオン伝導媒体となるものである。具体例としては、上記のLi-P-S系ガラス、LLTやLLZが挙げられる。無機固体電解質は、それ自体が陽イオン(Liイオン)を放出するものではなく、イオンの輸送機能を示すものである。これに対して、電解液又は固体電解質層に添加して陽イオン(Liイオン)を放出するイオンの供給源となる材料を電解質と呼ぶことがある。上記のイオン輸送材料としての電解質と区別する際には、これを「電解質塩」又は「支持電解質」と呼ぶ。電解質塩としては、例えばLiTFSIが挙げられる。
本発明において「組成物」というときには、2種以上の成分が均一に混合された混合物を意味する。ただし、実質的に均一性が維持されていればよく、所望の効果を奏する範囲で、一部において凝集や偏在が生じていてもよい。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。「室温」は25℃を意味する。また、表中において使用する「-」は、その列の成分を含有しないことを意味する。
【0104】
<硫化物系無機固体電解質Li-P-S系ガラスの合成>
硫化物系無機固体電解質として、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.HamGa,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235およびA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして、Li-P-S系ガラスを合成した。
【0105】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g、五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、乳鉢に投入した。Li2S及びP2S5はモル比でLi2S:P2S5=75:25とした。メノウ製乳鉢上において、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス)6.20gを得た。
【0106】
実施例1
実施例1では、固体電解質組成物を調製し、固体電解質組成物を用いて全固体二次電池用固体電解質シートを作製して、この全固体二次電池用固体電解質シートについて層の均一性及び再現性の試験を行った。
【0107】
(固体電解質組成物A-1の調製)
上記Li-P-S系ガラスと、PVdF(Aldrich社製、質量平均分子量18万)とを、質量比で97:3になるように混合し、プラネタリーミキサー(TKハイビスク社製)に加えた。このプラネタリーミキサーに、分散媒として、MC-1500ソルベント(商品名、三協化学社製 炭化水素類の混合溶媒)を固形分の濃度が30質量%になるように加え、50rpmで、1時間室温で撹拌を行い、固体電解質組成物(スラリー)A-1を得た。
【0108】
MC-1500ソルベントに代えて、下記表1に記載の分散媒を用いたこと以外は固体電解質組成物A-1と同様にして固体電解質組成物A-2、A-3、A-4及びB-1~B-8を調製した。
【0109】
以下に、固体電電解質組成物の調製に用いた分散媒のガスクロマトグラフィーの測定条件及び測定結果を記載する。
<ガスクロマトグラフィーの条件>
使用機種:GC-2010(島津製作所社製)
カラム:Agilent J&W GC Column (アジレントテクノロジー社製)、30m、0.25mmφ 40℃
注入量:複数のアルカン分散媒25mgを25mlの酢酸エチルに溶解させた溶液のうちの1uL
移動相(キャリアガス):He
昇温:40℃で2分保持後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で5分間保持した。サンプルは、スプリット比20:1、スプリットモードで注入した。測定時間は、サンプル注入から50分である。
検出器:FID
【0110】
MC-1500ソルベント(炭化水素類の混合溶媒、商品名、三協化学社製)
5.02分~7.36分に29本のピークが検出された。
互いに隣り合うピーク間の最大保持時間差は、0.182分であった。
ピーク面積が最大のアルカン分散媒(全ピーク面積中の13.1%(全アルカン分散媒中の含有割合が13.1質量%))の保持時間は6.34分であった。
ピーク面積が最小のアルカン分散媒(全ピーク面積中の0.12%(全アルカン分散媒中の含有割合が0.12質量%))の保持時間は5.31分であった。
【0111】
MC-2000ソルベント(炭化水素類の混合溶媒、商品名、三協化学社製)
5.08分~7.8分に27本のピークが検出された。
互いに隣り合うピークの最大保持時間差は、0.173分であった。
ピーク面積が最大のアルカン分散媒(全ピーク面積中の22.0%(全アルカン分散媒中の含有割合が22.0質量%))の保持時間は6.34分であった。
ピーク面積が最小のアルカン分散媒(全ピーク面積中の0.20%(全アルカン分散媒中の含有割合が0.20質量%))の保持時間は、6.48分であった。
【0112】
MC-3000Sソルベント(石油系炭化水素の混合溶媒、商品名、三協化学社製)
8.53分~11.13分に31本のピークが検出された。
互いに隣り合うピーク間の最大保持時間差は、0.142分であった。
ピーク面積が最大のアルカン分散媒(全ピーク面積中の8.27%(全アルカン分散媒中の含有割合が8.27質量%))の保持時間は、10.87分であった。
ピーク面積が最小のアルカン分散媒(全ピーク面積中の0.24%(全アルカン分散媒中の含有割合が0.24質量%))の保持時間は、8.53分であった。
【0113】
MC-1500ソルベント蒸留品
上記MC-1500ソルベントを大気圧、150℃で蒸留することにより、MC-1500ソルベント蒸留品を得た。
5.02分~5.60分に8本のピークが検出された。
互いに隣り合うピーク間の最大保持時間差は、0.150分であった。
ピーク面積が最大のアルカン分散媒(全ピーク面積中の62.6%(全アルカン分散媒中の含有割合が62.6質量%))の保持時間は、5.5分であった。
ピーク面積が最小のアルカン分散媒(全ピーク面積中の1.6%(全アルカン分散媒中の含有割合が1.6質量%))の保持時間は、5.3分であった。
【0114】
1種の分散媒(ガスクロマトグラフィーにより複数のアルカン分散媒と同じ条件で保持時間を測定した。)
ヘプタンの保持時間3.2分(単一ピーク)
オクタンの保持時間4.2分(単一ピーク)
デカンの保持時間8.2分(単一ピーク)
【0115】
2種混合の分散媒(質量比1:1で混合した。)
ヘプタンの保持時間3.2分(単一ピーク)
デカンの保持時間8.2分(単一ピーク)
保持時間の差=5.0分
【0116】
3種混合の分散媒(質量比1:1:1で混合した。)
ヘプタンの保持時間3.2分(単一ピーク)
オクタンの保持時間4.2分(単一ピーク)
デカンの保持時間8.2分(単一ピーク)
保持時間の差=1.0分、4.0分
【0117】
(全固体二次電池用固体電解質シートA-1の作製)
カーボンコートした、厚み20μmのアルミ箔(7cm×20cm)上に、上記スラリーA-1を、アプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により7cm×12cmの塗布面積で塗布し、100℃で2時間加熱乾燥することで全固体二次電池用固体電解質シートA-1(固体電解質層の厚さ100μm)を得た。
【0118】
固体電解質組成物A-1に代えて、固体電解質組成物A-2~A-4及びB-1~B-8を用いたこと以外は全固体二次電池用固体電解質シートA-1と同様にして全固体二次電池用固体電解質シートA-2~A-4及びB-1~B-8をそれぞれ作製した。固体電解質層の厚さはいずれも100μmであった。
【0119】
<層の均一性及び再現性試験>
上記で作製した全固体二次電池用固体電解質シート(短軸方向7cm、長軸方向12cmの平面視矩形のシート)を、以下のようにして打ち抜き、10mmφの全固体二次電池用固体電解質シートを得た。この全固体二次電池用固体電解質シートの固体電解質層の質量を測定した。
【0120】
7cm方向(短軸方向)の一方の端部から1.5cm離れた点であって、12cm方向(長軸方向)の、アプリケーターにより固体電解質組成物を塗り始めた側の端部から4.5cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート1を打ち抜いた。このシート1の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート2を打ち抜いた。シート1とシート2の最短距離は1cmとした。このシート2の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート3を打ち抜いた。シート2とシート3の最短距離は1cmとした。
短軸方向の一方の端部から1.5cm離れた点であって、長軸方向の、アプリケーターにより固体電解質組成物を塗り始めた側の端部から6cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート4を打ち抜いた。このシート4の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート5を打ち抜いた。シート4とシート5の最短距離は1cmとした。このシート5の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート6を打ち抜いた。シート5とシート6の最短距離は1cmとした。
短軸方向の一方の端部から1cm離れた点であって、長軸方向のアプリケーターにより固体電解質組成物を塗り始めた側の端部から8cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート7を打ち抜いた。このシート7の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート8を打ち抜いた。シート7とシート8の最短距離は1cmとした。このシート8の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート9を打ち抜いた。シート8とシート9の最短距離は1cmとした。
このようにして、全固体二次電池用固体電解質シートから9枚の円形のシートを打ち抜いた。別の2つの全固体二次電池用固体電解質シートA-1から、同様にしてそれぞれ9枚ずつ、計18枚の円形シートを打ち抜いた。得られた27枚の円形シートの質量のばらつきを算出した。
【0121】
下記表1に、スラリーに用いた分散媒と、各全固体二次電池用固体電解質シートにつき27枚の円形のシートの層の質量(アルミ箔の質量を含まない)の平均値と、標準偏差を示す。
【0122】
【0123】
表1から明らかなように、No.B-1~B-6の全固体二次電池用固体電解質シートは、1種の分散媒を含有する固体電解質組成物を用いて作製され、上記標準偏差は大きかった。また、B-7~B-8の全固体二次電池用固体電解質シートは、複数種の分散媒を含有する固体電解質組成物を用いて作製したが、互いに隣り合うピークの保持時間の差が0.2分を超えており、標準偏差が大きかった。
これに対して、No.A-1~A-4の全固体二次電池用固体電解質シートは、標準偏差が小さく、固体粒子の均一分散性に優れ、固体電解質層が高い再現性で形成できることがわかる。
このことから、本発明の固体電解質組成物を全固体二次電池の層構成材料として用いることにより、全固体二次電池を高い再現性で得られることがわかる。
【0124】
実施例2
実施例2では、正極用組成物を調製し、正極用組成物を用いて正極シートを作製して、この正極シートについて放電容量を測定した。
【0125】
(正極用組成物C-1の調製)
工程1
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを160個投入し、上記Li-P-S系ガラス4.0gと、MC-3000Sソルベント(下記表2の分散媒1)6gとを添加した後に、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数350rpmで60分湿式分散を行い、固体電解質組成物(スラリー1)を得た。
【0126】
工程2
このようにして得たスラリー1 11gに、正極活物質(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)10.5gと、アセチレンブラック(導電助剤)0.3gと、MC-3000Sソルベント(下記表2の分散媒1)8gとを追加し、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数150rpmで10分湿式分散を行い、正極用組成物C-1(スラリー2)を得た。
【0127】
(正極用組成物C-2の調製)
工程1
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを160個投入し、上記Li-P-S系ガラス4.0gと、MC-3000Sソルベント(下記表2の分散媒1)とジブチルエーテルの混合分散媒(下記表2の分散媒2)(質量比90:10)6gとを添加した後に、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数350rpmで60分湿式分散を行い、固体電解質組成物(スラリー3)を得た。
【0128】
工程2
このようにして得たスラリー3の11gに、正極活物質(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)10.5gと、アセチレンブラック(導電助剤)8gと、上記混合分散媒8gとを追加し、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数150rpmで10分湿式分散を行い、正極用組成物C-2(スラリー4)を得た。
【0129】
下記表1に記載の分散媒を用いたこと以外は正極用組成物C-1又はC-2と同様にして正極用組成物C-3、C-4、D-1、D-2、E-1、E-2、F-1、F-2、G-1及びG-2を調製した。
なお、正極用組成物E-1及びE-2において、MC-2000ソルベントとシクロヘキサン(質量比85:15)の混合分散媒を分散媒1として用いた。
また、正極用組成物G-1及びG-2において、ヘプタンとオクタンとデカン(質量比1:1:1)の混合分散媒を分散媒1として用いた。
【0130】
(正極シートC-1の作製)
カーボンコートした、厚み20μmのアルミ箔(7cm×20cm)上に、得られたスラリー4を、アプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により7cm×12cmの塗布面積で塗布し、100℃で1時間加熱乾燥することで正極シートC-1(正極活物質層の厚さ80μm)を得た。
【0131】
正極用組成物C-1に代えて、正極用組成物C-2、C-3、C-4、D-1、D-2、E-1、E-2、F-1、F-2、G-1及びG-2を用いたこと以外は正極シートC-1と同様にして正極シートC-2、C-3、C-4、D-1、D-2、E-1、E-2、F-1、F-2、G-1及びG-2をそれぞれ作製した。正極活物質層の厚さはいずれも80μmであった。
【0132】
<電池特性の評価>
上記で作製した正極シートを以下のようにして打ち抜き、10mmφの正極シートを得た。この正極シートを用いて電池特性の評価を行った。
【0133】
7cm方向(短軸方向)の一方の端部から1cm離れた点であって、12cm方向(長軸方向)のアプリケーターにより正極用組成物を塗り始めた側の端部から4cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート(1)を打ち抜いた。このシート(1)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(2)を打ち抜いた。シート(1)とシート(2)の最短距離は1cmとした。このシート(2)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(3)を打ち抜いた。シート(2)とシート(3)の最短距離は1cmとした。
短軸方向の一方の端部から1cm離れた点であって、長軸方向のアプリケーターにより正極用組成物を塗り始めた側の端部から6cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート(4)を打ち抜いた。このシート(4)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部とは反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(5)を打ち抜いた。シート(4)とシート(5)の最短距離は1cmとした。このシート(5)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部と反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(6)を打ち抜いた。シート(5)とシート(6)の最短距離は1cmとした。
短軸方向の一方の端部から1cm離れた点であって、長軸方向のアプリケーターにより正極用組成物を塗り始めた側の端部から8cm離れた点、を中心として10mmφの円形のシート(7)を打ち抜いた。このシート(7)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部と反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(8)を打ち抜いた。シート(7)とシート(8)の最短距離は1cmとした。このシート(8)の打ち抜き部分に対して、上記短軸方向の端部と反対の短軸方向の側に10mmφの円形のシート(9)を打ち抜いた。シート(8)とシート(9)の最短距離は1cmとした。
このようにして、各正極シートにつき合計9箇所打ち抜き、9枚の正極シート(10mmφ)を得た。
【0134】
このようにして得た直径10mmφの円盤状の正極シートを、10mmφのポリエチレンテレフタラート(PET)製の円筒に入れた。円筒内の正極活物質層面側に上記Li-P-S系ガラスの粉体を30mg入れ、円筒の両側から10mmφのSUS棒を挿入した。正極シートのアルミ箔側と、Li-P-S系ガラス粉体側から、SUS棒により350MPaの圧力を加えて加圧した。Li-P-S系ガラス粉体側のSUS棒を一旦外し、9mmφの円盤状のインジウム(In)シート(厚さ20μm)と、9mmφLiシート(厚さ20μm)を、円筒内のLi-P-S系ガラス粉体の上に挿入した。外していたSUS棒を円筒内に再度挿入し、50MPaの圧力をかけた状態で固定した。このようにしてアルミ箔(厚さ20μm)-正極活物質層(厚さ50μm)-硫化物系無機固体電解質層(厚さ200μm)-負極活物質層(In/Liシート)の構成を有する全固体二次電池を得た。下表に示す全固体二次電池のNo.は、正極シートのNo.に対応する。
【0135】
作製した全固体二次電池の充放電特性を、東洋システム社製の充放電評価装置(TOSCAT-3000)により測定した。充電は、0.5mA/cm2の電流密度で、充電電圧が3.6Vに達するまで行い、3.6Vに到達後は、電流密度が0.05mA/cm2未満になるまで定電圧充電を実施した。放電は、電流密度0.5mA/cm2で、1.9Vに達するまで行い、これを繰り返し3サイクル目の放電容量を比較した。
【0136】
No.C-1の全固体二次電池の放電容量の平均値を1(Ahを規格化するので無次元)とし、それぞれの条件における、9素子の規格化された放電容量の平均値及び規格化された放電容量の標準偏差を下記表2に示す。
【0137】
【0138】
No.C-1~C-4、D-1、D-2、E-1及びE-2の全固体二次電池は、No.F-1、F-2、G-1及びG-1の全固体二次電池に比べて標準偏差が小さく、固体粒子の均一分散性に優れ、目的の固体電解質層及び正極活物質層を高い再現性で形成した全固体二次電池であることがわかる。
No.D-1の全固体二次電池とNo.E-1の全固体二次電池を比較すると、環状アルカンであるシクロヘキサンを含有するNo.E-1の全固体二次電池の方が、放電容量が大きかった。同様に、No.D-2の全固体二次電池とNo.E-2の全固体二次電池を比較すると、No.E-2の全固体二次電池の方が、放電容量が大きかった。
No.C-1~C-4、D-1、D-2、E-1及びE-2の全固体二次電池において、分散媒1に加えて、極性溶媒(分散媒2)を添加することにより、放電容量が向上することもわかった。
【0139】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0140】
本願は、2017年11月16日に日本国で特許出願された特願2017-220874に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0141】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池