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特許7404233結晶澱粉分解物、及び該結晶澱粉分解物を用いた飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料、及びこれらの改質剤、並びに、前記結晶澱粉分解物、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、及び肥料の製造方法
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  • 特許-結晶澱粉分解物、及び該結晶澱粉分解物を用いた飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料、及びこれらの改質剤、並びに、前記結晶澱粉分解物、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、及び肥料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】結晶澱粉分解物、及び該結晶澱粉分解物を用いた飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料、及びこれらの改質剤、並びに、前記結晶澱粉分解物、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、及び肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 30/12 20060101AFI20231218BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20231218BHJP
   A23L 9/00 20160101ALI20231218BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20231218BHJP
   A21D 13/28 20170101ALI20231218BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20231218BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231218BHJP
   C09D 103/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C08B30/12
A23L23/00
A23L9/00
A23D9/02
A21D13/28
A61K8/73
A61K47/36
C09D103/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020523584
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018953
(87)【国際公開番号】W WO2019235142
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018110190
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】河野 敦
(72)【発明者】
【氏名】山本 智大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洋則
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-226988(JP,A)
【文献】特開平10-168093(JP,A)
【文献】特開平06-165700(JP,A)
【文献】特開2004-131683(JP,A)
【文献】国際公開第2014/081807(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/083438(WO,A1)
【文献】特開2016-202106(JP,A)
【文献】SHANG, Yaqian et al.,Starch Spherulites Prepared by a Combination of Enzymatic and Acid Hydrolysis of Normal Corn Starch,J. Agric. Food Chem.,2018年06月04日,vol. 66, no. 25,pp. 6357-6363
【文献】SRICHUWONG, Sathaporn et al.,Structure of lintnerized starch is related to X-ray diffraction pattern and susceptibility to acid a,Int. J. Biol. Macromol., 2005, 37(3), pp.115-121
【文献】VERMEYLEN, Rudi et al.,Amylopectin molecular structure reflected in macromolecular organization of granular starch,Biomacromolecules, 2004, 5(5), pp.1775-1786
【文献】HELBERT W. et al.,Morphological and structural features of amylose spherocrystals of A-type,Int. J. Biol. Macromol., 1993, 15(3), pp.183-187
【文献】MONTESANTI, Nicole et al.,A-type crystals from dilute solutions of short amylose chains,Biomacromolecules, 2010, 11(11), pp.3049-3058
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A23L
A23D
A61K
C09D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA/CABA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率が10%以上であり、
澱粉又は澱粉分解中間物の枝切り酵素及び枝作り酵素処理物の結晶化物、及び/又は、澱粉又は澱粉分解中間物の酸液化物の枝切り酵素処理物の結晶化物である結晶澱粉分解物。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶澱粉分解物を含有する飲食品用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の結晶澱粉分解物、又は、請求項2に記載の飲食品用組成物、を含有する飲食品。
【請求項4】
請求項1に記載の結晶澱粉分解物を含有する医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料。
【請求項5】
澱粉又は澱粉分解中間物に、枝切り酵素及び枝作り酵素を、同時又は枝作り酵素作用後に枝切り酵素を作用させて、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が45%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が21%以上30%以下、である澱粉分解物を得る酵素反応工程と、
前記澱粉分解物を、結晶化して
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率10%以上である結晶澱粉分解物を得る結晶化工程と、
を行う、結晶澱粉分解物の製造方法。
【請求項6】
澱粉又は澱粉分解中間物に酸を加えて液化した後、枝切り酵素を作用させて、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が45%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が21%以上30%以下、である澱粉分解物を得る酵素反応工程と、
前記澱粉分解物を、結晶化して
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率10%以上である結晶澱粉分解物を得る結晶化工程と、
を行う、結晶澱粉分解物の製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程では、前記澱粉分解物の溶液を、濃度10質量%以上で保持及び/又は温度60℃以下にすることで、前記澱粉分解物を結晶化する、請求項5又は6に記載の結晶澱粉分解物の製造方法。
【請求項8】
前記結晶化工程後に、前記結晶澱粉分解物を分離する分離工程を行う、請求項5から7のいずれか一項に記載の結晶澱粉分解物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の結晶澱粉分解物を含有する、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料用の改質剤。
【請求項10】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が45%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が21%以上30%以下、であり、
澱粉又は澱粉分解中間物の枝切り酵素及び枝作り酵素処理物、及び/又は、澱粉又は澱粉分解中間物の酸液化物の枝切り酵素処理物であり、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率10%以上の結晶澱粉分解物を含有する、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料。
【請求項11】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が45%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が21%以上30%以下、であり、
澱粉又は澱粉分解中間物の枝切り酵素及び枝作り酵素処理物、及び/又は、澱粉又は澱粉分解中間物の酸液化物の枝切り酵素処理物である澱粉分解物の一部又は全部を結晶化して
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率10%以上である結晶澱粉分解物を得る結晶化工程、を行う飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料の製造方法。
【請求項12】
澱粉又は澱粉分解中間物に、枝切り酵素及び枝作り酵素を作用させて、澱粉分解物を得る酵素反応工程
及び/又は、
澱粉又は澱粉分解中間物に酸を加えて液化した後、枝切り酵素を作用させて、澱粉分解物を得る酵素反応工程と、
前記澱粉分解物を、結晶化して、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が18%以上55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率が10%以上である結晶澱粉分解物を得る結晶化工程と、
を行う、結晶澱粉分解物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、結晶澱粉分解物、及び該結晶澱粉分解物を用いた飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料、及びこれらの改質剤、並びに、前記結晶澱粉分解物、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、及び肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、飲食品分野においては、甘味料、味質調整、浸透圧調整、保湿剤、粉末化基材等の用途に澱粉分解物が利用されている。また、澱粉分解物は、医薬品分野においても、経腸栄養剤の炭水化物源や薬剤の賦形剤等の用途に利用されている。更に化粧料分野において、澱粉分解物は、化粧料を固形化する際の結合剤やクリーム状の化粧料の粘度調整等の用途にも利用されている。
【0003】
このように、澱粉分解物は、その甘味度、味質、浸透圧、粘度、吸湿性等の基本的物性を調整することで、上記のような様々な用途に利用される。例えば、甘味度の高いものは甘味料として用いることに適し、逆に甘味度の低いものは味質調整剤、浸透圧調整剤、粉末化基材等に適する。また、澱粉分解物自体の吸湿性等も用途を選択する上で、重要な要素となる。例えば、澱粉分解物の吸湿性が高すぎると、保存や流通の際に固結したり、べたつきが発生したりすることがあり、粉末食品への利用や粉末化基材等の用途には適さない。
【0004】
また、これらの澱粉分解物を結晶化させた結晶澱粉分解物も、その低吸湿性等の特徴を活かして、様々な分野で利用されている。例えば、特許文献1には、シクロデキストリンまたは澱粉を含有する水溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを作用させて該水溶液に不溶性のアミロース粒子を生成せしめ、このアミロース粒子を採取することにより、食品分野、医薬品分野、化粧料分野等に用いることができるアミロース粒子の製造技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、1,4-α-D-ポリグルカンまたはポリサッカリドを水中に融解し、その融解生成物を沈殿へ導き、その混合物を冷却し、そして形成された粒子を分離することによって、化粧品のための添加物、薬学的および他の適用における活性物質の担体、食品添加物、生分解性ポリマーまたは工業的ポリマーのための充填材等に用いることができるマイクロスフェアー状クリスタライトを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-85301号公報
【文献】特表2004-512405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品分野や医療分野を含む幅広い分野で利用されている結晶物質としては、水に溶解する結晶ブドウ糖やトレハロース、水に不溶であるセルロースや高分子アミロースの結晶が挙げられ、水への溶解性の有無により利用される用途には一定の制限が生じる。結晶ブドウ糖やトレハロースは、低温の水にも高温の水にも溶解性があるため、例えば、懸濁化用途に用いることはできない。また、セルロースや高分子アミロースの結晶は、低温の水にも高温の水にも不溶であるため、水溶液中で均一に混合させることが困難である。そのため、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料等の製品への加工手段に制約を受け、目的とする効果を発揮させることが困難となる場合がある。
【0008】
そこで、本技術では、温度によってその溶解性が異なる、新規の結晶澱粉分解物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記目的を解決するために、澱粉分解物の特定含有成分について鋭意研究を行った。その結果、本願発明者らは、オリゴ糖の中でもごく高分子の成分とデキストリンの低分子成分を高含有することを特徴とする新規な結晶澱粉分解物を開発し、該結晶澱粉分解物が、低温の水には不溶な部分を含む一方で、高温の水には完全に溶解する性質を示すことを突き止め、本技術を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本技術では、まず、グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が55%以下、
X線回折法の結果から算出される結晶化比率が1%以上である結晶澱粉分解物を提供する。
本技術に係る結晶澱粉分解物の前記結晶化比率は、10%以上とすることができる。
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、20℃の水に分散した際の上清Brix値を、2.0%以下とすることができる。
【0011】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なることから、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料等に好適に適用することが可能である。
【0012】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を、適宜、組み合わせて行うことによって澱粉分解物を得た後、得られた澱粉分解物を一般的な結晶化工程を施すことによって得ることができる。
【0013】
即ち、本技術では、結晶澱粉分解物を製造する方法であって、澱粉または澱粉を軽度に分解して得られる澱粉分解中間物(例えば、液化液等)に、枝切り酵素及び枝作り酵素を、同時又は枝作り酵素作用後に枝切り酵素を作用させて、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物を得る酵素反応工程と、
前記澱粉分解物を、結晶化する結晶化工程と、
を行う、結晶澱粉分解物の製造方法を提供する。
また、本技術では、澱粉又は澱粉分解中間物に酸を加えて液化した後、枝切り酵素を作用させて、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物を得る酵素反応工程と、
前記澱粉分解物を、結晶化する結晶化工程と、
を行う、結晶澱粉分解物の製造方法を提供する。
本技術に係る製造方法における前記結晶化工程では、前記澱粉分解物の溶液を、所定の濃度以上で保持及び/又は所定の温度以下にすることで、前記澱粉分解物を結晶化することができる。
本技術に係る製造方法では、前記結晶化工程後に、前記結晶澱粉分解物を分離する分離工程を行うこともできる。
【0014】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料に含有させることにより、その品質を改質することができる。
即ち、本技術では、本技術に係る結晶澱粉分解物を含有する、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料用の改質剤を提供する。
【0015】
本技術では、また、グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の結晶化物を含有する、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料を提供する。
これらの飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料は、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の一部又は全部を結晶化する結晶化工程、を行うことで製造することができる。
【0016】
ここで、本技術で使用する技術用語を説明する。「枝切り酵素(debranching enzyme)」とは、澱粉の分岐点であるα-1,6-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素の総称である。例えば、「イソアミラーゼ(Isoamylase, glycogen 6-glucanohydrolase)」、「プルラナーゼ(Pullulanase, pullulan 6-glucan hydrolase)」「アミロ-1,6-グルコシダーゼ/4-αグルカノトランスフェラーゼ(amylo-1,6-glucosidase/4-α glucanotransferase)」が知られている。なお、これらの枝切り酵素を、目的に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0017】
「枝作り酵素(branching enzyme)」とは、α-1,4-グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用して、α-1,6-グルコシド結合を作る働きを持った酵素の総称である。動物や細菌等に存在しているが、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製することも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、オリゴ糖の高分子成分とデキストリンの低分子成分(グルコース重合度;DP8~19)を多く含有するため、低分子のオリゴ糖では起こらない直鎖状糖分子同士の相互作用が生じて結晶性が高くなり、冷水には不溶な部分を含む性質を示す。また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、DP20以上の含有量が55%以下であるため、適度な結晶性が発揮され、熱水に溶解する性質を示す。そのため、加熱溶液状態での精製が容易であり、幅広い製品の加工の際、加熱することで溶解させて利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の粉末X線回折のチャートを示す図面代用グラフである。
図2】実施例2の粉末X線回折のチャートを示す図面代用グラフである。
図3】比較例4の粉末X線回折のチャートを示す図面代用グラフである。
図4】実験例2で製造したアイシングドーナツを示す図面代用写真である。
図5】実験例2で製造した可食性プラスチック様物質を示す図面代用写真である。
図6】本技術を用いた文字ペンで書いた文字を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
<結晶澱粉分解物について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、澱粉原料、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉等のような地下茎または根由来の澱粉(地下系澱粉)、あるいはこれらの加工澱粉等を分解(糖化)することによって得られた澱粉分解物を、結晶化することによって得られるものである。使用する澱粉原料は、特に限定されず、あらゆる澱粉原料を用いることができる。
【0022】
本技術に係る結晶澱粉分解物の組成特性としては、グルコース重合度(以下「DP」と称する)8~19の含有量が40%以上、かつ、DP20以上の含有量が55%以下であり、X線回折法の結果から算出される結晶化比率が1%以上である。本技術に係る結晶澱粉分解物は、DP20未満の含有量が45%以上存在するため、沸騰浴程度での再溶解、溶液状態での精製が容易である。
【0023】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、結晶ブドウ糖、砂糖やトレハロース等とは異なり、冷水に不溶な部分を含む。具体的には、40℃程度の水で解け始め、20℃以下の冷水には不溶な部分がある。そのため、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料等の製品の懸濁化に使用することも可能である。
【0024】
更に、本技術に係る結晶澱粉分解物は、結晶セルロースや高分子のアミロース等とは異なり、熱水には溶解性を示す。具体的には、60~80℃の水でほぼ溶解し、100℃の熱水には全てが溶解する性質を示す。そのため、様々な製品への加工の際、加熱することで溶解させて利用することができる。
【0025】
加えて、本技術に係る結晶澱粉分解物は、難消化性の結晶セルロースや高分子のアミロース等とは異なり、消化性を有する。そのため、消化・吸収可能な炭水化物源(カロリー源)としても利用することができる。
【0026】
本技術に係る結晶澱粉分解物の前記結晶化比率は、100%を上限とし、80%以下でも60%以下でもよい。本技術に係る結晶澱粉分解物中の結晶画分は、粉末X線回折分析において、2-θが「5°-6.5°」,「8.5°-12.5°」,「13°-16°」,「16°-19°」,「19°-21°」,「21°-25.5°」,「25.5°-27.5°」,「27.5°-32°」,「32°-35.5°」,「37°-40°」の各区間に正のピークとして測定されるので、当該各区間の面積値を基に算出することで結晶澱粉分解物の結晶化比率を特定することができる。
【0027】
より具体的には、粉末X線回折測定結果のY軸:回折強度/X軸:2-θのチャートにおいて以下の基準により、「全体面積」及び「結晶面積」を算出し、下記(3)の計算式により、結晶化比率を求めることができる。
(1)全体面積(2-θが「3°-40°」の区間における面積);
2-θが3°と40°の測定値を結んだ直線を基準線とし、基準線と回折強度の曲線で囲まれる範囲のうち、基準線よりも回折強度が強い領域の面積を「全体面積」として算出する。
(2)結晶面積;
2-θが「5°-6.5°」,「8.5°-12.5°」,「13°-16°」,「16°-19°」,「19°-21°」,「21°-25.5°」,「25.5°-27.5°」,「27.5°-32°」,「32°-35.5°」,「37°-40°」の各区間における面積を(1)全体面積と同様にして算出し、前記全区間の面積の合計値を「結晶面積」として算出する。
(3)計算式;結晶化比率=(結晶面積/全体面積)×100
【0028】
なお、本技術における「結晶化比率」は、MiniFlex600(株式会社リガク製)を用い、X線波長はCu Kα、X線出力は40kV、15mAで分析した粉末X線回折測定結果を用いて算出した値である。
【0029】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、換言すると、DP8~19の含有量が32%以上、DP20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の結晶化物である。即ち、本技術に係る結晶澱粉分解物の結晶化前の澱粉分解物は、DP8~19の含有量が32%以上、DP20以上の含有量が30%以下、という特徴を有する。
【0030】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、分離工程を行うことで、甘味性を低下させることができる。低甘味性とすることで、甘味を必要としない用途へ、好適に適用することができる。そのため、例えば、甘味性の高い結晶糖質が使用できない食品添加物や飲食物、及び薬剤にも用いることができる。
【0031】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、20℃以下の冷水に不溶な部分も含んでいるため、不溶部分を分離し、溶解性を有する糖質成分を除去する分離工程を行うことで、低吸湿性を示す結晶澱粉分解物を得ることができる。低吸湿性とすることで、本技術に係る結晶澱粉分解物を用いた飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、肥料等の製品が吸湿してしまう可能性が低く、また、製品からの溶け出しを防止することができる。
【0032】
本技術に係る結晶澱粉分解物の中でも、低甘味性かつ低吸湿性である結晶澱粉分解物は、具体的には、結晶化比率が10%以上であり、かつ、20℃の水に分散した際の上清Brix値が2.0%以下である。ここで、本技術において、「20℃の水に分散した際の上清Brix値」とは、具体的には、20℃の水に結晶澱粉分解物を10質量%分散させ、よく撹拌させた際の上清のBrix値をいう。
【0033】
本技術に係る結晶澱粉分解物の中でも、低甘味性かつ低吸湿性である結晶澱粉分解物は、換言すると、本技術に係る結晶澱粉分解物を沈殿させた後、分離工程(例えば、20℃以下の水を用いて水洗)を行うことで、容易に取り出すことができる。
【0034】
一般的に澱粉の結晶構造は、粉末X線回折法の結果から、二重らせん間に含まれる水が単位胞に4分子含まれるA型と、36分子含まれるB型に分けられるが、本技術に係る結晶澱粉分解物の結晶構造については、本技術の効果を損なわない限り限定されず、A型であってもB型であっても良い。
【0035】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、DP8~19の含有量が40%以上であれば、その含有量は特に限定されないが、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上である。DP8~19の含有量が増加するほど、結晶澱粉分解物の溶解性や結晶の大きさ等の品質が安定する。
【0036】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、DP20以上の含有量が55%以下であれば、その含有量は特に限定されないが、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。DP20以上の含有量が少なくなるほど、結晶澱粉分解物が60~80℃の水により溶解しやすくなる。
【0037】
本技術に係る結晶澱粉分解物は、粉砕して微粉末品として用いることができる。
【0038】
<結晶澱粉分解物を含む飲食品用組成物及び飲食品について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なる性質や、消化性等を利用して、飲食品の濃厚感の付与、白色の付与(白さの強調等)、炭水化物源(カロリー源)としての用途に好適に用いることができる。
【0039】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、飲食品用組成物又は飲食品に含有させることで、その品質を改質することができる。具体的には、飲食品用組成物又は飲食品の吸湿性、固化性、ゲル化性、保形性、白色性、離水性等の品質を改質することができる。
【0040】
本技術に係る結晶澱粉分解物を含有することができる飲食品としては、特に限定されず、例えば、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶等の飲料、醤油、ソース等の調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリーム等の冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類、米飯、麺類、水練り製品、畜肉製品等の加工食品等を挙げることができる。また、保健機能飲食品(特定保健機能食品、機能性表示食品、栄養機能食品を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、流動食、乳児・幼児食、ダイエット食品、糖尿病用食品等にも本技術に係る結晶澱粉分解物を含有することができる。
【0041】
本技術に係る結晶澱粉分解物の飲食品用組成物又は飲食品への含有方法は、特に限定されない。例えば、本技術に係る結晶澱粉分解物を飲食品用組成物又は飲食品へそのまま含有させる方法、本技術に係る結晶澱粉分解物を任意の溶媒に溶解又は分散させた状態で飲食品用組成物又は飲食品へ含有させた後、必要に応じて再結晶化させる方法、本技術に係る結晶澱粉分解物の結晶化前の状態の澱粉分解物を飲食品用組成物又は飲食品へ含有させた後、澱粉分解物を結晶化させる方法、等を挙げることができる。
【0042】
本技術に係る結晶澱粉分解物を飲食品に用いる場合、飲食品用組成物として流通させる形態を採用することもできる。具体的には、例えば、各種食品用ミックス(ホットケーキミックス、ベーカリー用ミックス、菓子用ミックス、麺皮類用ミックス等)、各種食品用粉(天ぷら粉、から揚げ粉、お好み焼粉、たこ焼粉等)、各種飲食品のもと(菓子のもと、ドーナツのもと、ケーキのもと、アイスクリームのもと、スープのもと、飲料のもと等)等が挙げられる。
【0043】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、濃厚栄養剤、畜肉等の食品の増量剤、粉末化基材、味質調整剤、懸濁化剤、浸透圧調整剤等の食品添加剤として用いることも可能である。
【0044】
<結晶澱粉分解物を含む医薬品について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なる性質や、消化性等を利用して、あらゆる医薬品に好適に適用することが可能である。
【0045】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、医薬品に含有させることで、その品質を改質することができる。具体的には、医薬品の吸湿性、固化性、ゲル化性、保形性、白色性、離水性等の品質を改質することができる。
【0046】
医薬品への適用方法は、特に限定されないが、例えば、散剤、顆粒剤等の粉末化基材、錠剤等のための賦形剤、液状製剤、半固形製剤、軟膏製剤等のための懸濁化剤、浸透圧調整剤、着色(白色)料、経腸栄養剤等の炭水化物源(カロリー源)等に適用することが可能である。
【0047】
本技術に係る結晶澱粉分解物の医薬品への含有方法は、特に限定されず、前述した飲食品用組成物又は飲食品への含有方法と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0048】
<結晶澱粉分解物を含む化粧料について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なる性質等を利用して、あらゆる化粧料に好適に適用することが可能である。また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、その粒子の形や大きさが比較的揃っており、生分解性であるため、これらの性質を利用して、様々な化粧料に好適に適用することができる。
【0049】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、化粧料に含有させることで、その品質を改質することができる。具体的には、化粧料の吸湿性、固化性、ゲル化性、保形性、白色性、離水性等の品質を改質することができる。
【0050】
化粧料への適用方法は、特に限定されないが、例えば、粉状化粧料、固形状化粧料等の粉末化基材や賦形剤等、液状、乳状、ゲル状、クリーム状等の化粧料のための懸濁化剤、浸透圧調整剤、着色(白色)料等に適用することが可能である。
【0051】
本技術に係る結晶澱粉分解物の化粧料への含有方法は、特に限定されず、前述した飲食品用組成物又は飲食品への含有方法と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0052】
<結晶澱粉分解物を含む工業製品について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なる性質等を利用して、あらゆる工業製品に好適に適用することが可能である。また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、直鎖状の分子構造を持ち、その粒子の形や大きさが比較的揃っており、生分解性であるため、これらの性質を利用して、様々な工業製品に好適に適用することができる。
【0053】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、工業製品に含有させることで、その品質を改質することができる。具体的には、工業製品の吸湿性、固化性、ゲル化性、保形性、白色性、離水性等の品質を改質することができる。
【0054】
本技術に係る結晶澱粉分解物が適用可能な工業製品としては、例えば、担体、各種フィルム、繊維、カプセル、接着剤、離型剤、付着防止剤、増量剤、研磨剤、賦形剤等を挙げることができる。
【0055】
本技術に係る結晶澱粉分解物の工業製品への含有方法は、特に限定されず、前述した飲食品用組成物又は飲食品への含有方法と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0056】
<結晶澱粉分解物を含む飼料、培地、肥料について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、温度によってその溶解性が異なる性質等を利用して、牛、馬、豚等の家畜用哺乳類、鶏、ウズラ等の家禽類、爬虫類、鳥類あるいは小型哺乳類等のペット類、養殖魚類、昆虫等の飼料にも含有させることが可能である。また、微生物培養用等の培地や肥料に含有させることも可能である。
【0057】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物は、飼料や培地、肥料に含有させることで、その品質を改質することができる。具体的には、飼料や培地、肥料の吸湿性、固化性、ゲル化性、保形性、白色性、離水性等の品質を改質することができる。
【0058】
本技術に係る結晶澱粉分解物の飼料や培地、肥料への含有方法は、特に限定されず、前述した飲食品用組成物又は飲食品への含有方法と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0059】
<結晶澱粉分解物を含む改質剤について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、前述の通り、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料に配合することにより、その品質を改質することができるため、各製品の改質剤として用いることができる。
【0060】
本発明に係る改質剤は、有効成分として本技術に係る結晶澱粉分解物を含んでいれば、前述した結晶澱粉分解物のみで構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることもできる。他の成分としては、例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、乳化剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。前述した結晶澱粉分解物は、食品に分類されるため、当該結晶澱粉分解物以外の成分の選択次第では、本発明に係る改質剤を食品として取り扱うことも可能である。
【0061】
本技術に係る改質剤の各製品への配合方法は、特に限定されない。例えば、本技術に係る改質剤を各製品へそのまま配合する方法、本技術に係る改質剤を任意の溶媒に溶解又は分散させた状態で各製品へ含有させた後、必要に応じて再結晶化させる方法、等を挙げることができる。
【0062】
<結晶澱粉分解物の製造方法について>
本技術に係る結晶澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を、適宜組み合わせて行うことによって澱粉分解物を得た後、得られた澱粉分解物を一般的な結晶化工程を施すことによって得ることができる。また、澱粉分解物製造時、溶解性に合わせて60~100℃の水を用いることで、製造中の糖化液等での沈殿を防止することができ、質の良い結晶を得ることができる。
【0063】
本技術に係る結晶澱粉分解物の結晶化前の澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉または澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させる方法がある。枝切り酵素は、澱粉の分岐鎖の分解に関与する酵素であり、枝作り酵素は、澱粉の分岐鎖の合成に用いる酵素である。従って、両者は通常、一緒に用いられることはない。しかし、全く逆の作用を示す両酵素を組み合わせて用いることにより、本技術に係る澱粉分解物を確実に製造することができる。
【0064】
この場合、両酵素の作用順序としては、同時又は枝作り酵素作用後に枝切り酵素を作用させる。
【0065】
前記枝切り酵素は、特に限定されない。例えば、プルラナーゼ(Pullulanase, pullulan 6-glucan hydrolase)、アミロ-1,6-グルコシダーゼ/4-αグルカノトランスフェラーゼ(amylo-1,6-glucosidase/4-α glucanotransferase)を挙げることができ、より好適な一例としては、イソアミラーゼ(Isoamylase, glycogen 6-glucanohydrolase)を用いることができる。
【0066】
また、前記枝作り酵素も特に限定されない。例えば、動物や細菌等から精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製したもの、市販された酵素製剤等を用いることができる。
【0067】
また、本技術に係る結晶澱粉分解物の結晶化前の澱粉分解物を得る別の方法としては、澱粉または澱粉分解中間物に酸を加えて液化した後、枝切り酵素を作用させる方法がある。この際、用いることができる酸は、澱粉または澱粉分解中間物を液化可能な酸であって、本技術の効果を損なわない酸であれば、一般的な酸を1種または2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸、硫酸等を挙げることができる。
【0068】
本技術に係る結晶澱粉分解物の製造方法における結晶化工程では、前記澱粉分解物が結晶化される。結晶化工程は、前記酵素反応工程後に行うこともできるし、前記酵素反応工程と同時に行うことも可能である。
【0069】
結晶化工程における結晶化の方法は特に限定されず、公知の結晶化方法を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。本技術では、例えば、前記澱粉分解物の溶液を、所定の濃度以上に保持及び/又は所定の温度以下にすることで、前記澱粉分解物を結晶化することができる。
【0070】
この場合の前記澱粉分解物の溶液の濃度は特に限定されず、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができ、例えば、10質量%以上で保持することで、前記澱粉分解物を結晶化することができる。また、この場合の前記澱粉分解物の温度も特に限定されず、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができ、例えば、60℃以下で保持することで、前記澱粉分解物を結晶化することができる。更に、保持時間も、特に限定されず、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができる。
【0071】
本技術に係る結晶澱粉分解物の製造方法では、前記結晶化工程後の沈殿、又は脱水乾燥後の粉末品に対して前記結晶澱粉分解物を分離する分離工程を行うことができる。分離工程とは、結晶澱粉分解物から水への溶解性の低い成分を分離する工程であり、例えば、水やアルコール等の有機溶媒での洗浄やろ過、遠心分離、またはそれらの組み合わせによって行うことができる。分離工程を行うことで、結晶化比率が10%以上であり、かつ、20℃の水に分散した際の上清Brix値が2.0%以下である、低甘味性かつ低吸湿性の結晶澱粉分解物を得ることが可能である。
【0072】
本技術に係る結晶澱粉分解物の製造方法では、前記酵素反応工程の後、前記結晶化工程の後、又は分離工程の後に、不純物を除去する工程を行うことも可能である。不純物の除去方法としては、特に限定されず、公知の方法を1種又は2種以上自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ろ過、活性炭脱色、イオン精製等の方法を挙げることができる。
【0073】
更に、本技術に係る結晶澱粉分解物は、結晶化工程後の結晶を含む液状品として用いることも可能であるが、真空乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等により脱水乾燥し、粉末化することも可能である。
【0074】
<飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料の製造方法について>
本技術に係る結晶澱粉分解物の製造方法における前記結晶化工程を、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料の製造方法の一工程で行うことで、DP8~19の含有量が32%以上、DP20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の結晶化物を含有する、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、工業製品、飼料、培地、又は肥料を製造することができる。
【0075】
各製品の製造方法における結晶化工程を行うタイミングは、本発明の効果を損なわない限り、各製品の製造工程に応じて、自由に設定することができる。例えば、各製品と本技術に係る結晶澱粉分解物をそれぞれ製造した上で、各製品に本技術に係る結晶澱粉分解物を配合する方法、各製品と本技術に係る結晶澱粉分解物をそれぞれ製造した上で、本技術に係る結晶澱粉分解物を任意の溶媒に溶解又は分散させた状態で各製品へ含有させた後、必要に応じて再結晶化させる方法、各製品を製造した上で、結晶化前の状態の澱粉分解物を各製品へ含有させた後、澱粉分解物を結晶化させる方法、本技術に係る結晶澱粉分解物又は/及び結晶化前の状態の澱粉分解物を各製品の原料へ配合した後、各製品の製造工程の任意のタイミングにおいて澱粉分解物を結晶化させる方法、等を挙げることができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0077】
<実験例1>
実験例1では、結晶澱粉分解物の具体的な糖組成や結晶化比率が、溶解性、甘味性及び吸湿性にどのように影響するかを検討した。
【0078】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、Eur. J. Biochem. 59, p615-625 (1975)の方法に則って、精製した馬鈴薯由来の酵素(以下「馬鈴薯由来枝作り酵素」とする)と、Branchzyme(ノボザイムズ株式会社製、以下「細菌由来枝作り酵素」とする)を用いた。
【0079】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸緩衝液(pH5.2)にアミロース(シグマ アルドリッチ社製、A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素-6mMヨウ化カリウム-3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0080】
[DP8~19及びDP20以上の含有量]
下記の表1に示す条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析を行い、検出されたピーク面積比率に基づいて、DP8~19及びDP20以上の含有量を測定した。
【0081】
【表1】
【0082】
[粉末X線回折]
粉末X線回折分析は、MiniFlex600(株式会社リガク製)を用い、X線波長はCu Kα、X線出力は40kV、15mAで分析した。分析チャートより、結晶の型を調べた。
【0083】
[結晶化比率]
粉末X線回折測定結果のY軸:回折強度/X軸:2-θのチャートにおいて以下の基準により、「全体面積」及び「結晶面積」を算出し、下記(3)の計算式により求めた。
(1)全体面積(2-θが「3°-40°」の区間における面積);
2-θが3°と40°の測定値を結んだ直線を基準線とし、基準線と回折強度の曲線で囲まれる範囲のうち、基準線よりも回折強度が強い領域の面積を「全体面積」として算出した。
(2)結晶面積;
2-θが「5°-6.5°」,「8.5°-12.5°」,「13°-16°」,「16°-19°」,「19°-21°」,「21°-25.5°」,「25.5°-27.5°」,「27.5°-32°」,「32°-35.5°」,「37°-40°」の各区間における面積を(1)全体面積と同様にして算出し、前記全区間の面積の合計値を「結晶面積」として算出した。
(3)計算式;結晶化比率(%)=(結晶面積/全体面積)×100
【0084】
[溶解性の評価]
〔20℃の溶解性〕
結晶澱粉分解物を、20℃の水に10質量%分散させてよく撹拌し、不溶物の残渣、溶液の透明性を、下記の基準に基づいて評価した。また、沈殿を除く上清について、屈折計を用いてBrix値を測定した。
【0085】
〔100℃の溶解性〕
結晶澱粉分解物を、水に10質量%分散させて、沸騰浴中で10分よく撹拌しながら加熱し、不溶物の沈殿、溶液の透明性について、下記の基準に基づいて評価した。
【0086】
〔評価基準〕
溶解:完全に溶解し透明な溶液となる
白濁:ある程度溶解し沈殿はほぼないが、液が白濁している
不溶:大部分が溶解せず、沈殿している
【0087】
[甘味性]
結晶澱粉分解物を粉末の状態で食した際の甘味性について、専門パネル5名が、下記の評価基準に従って評価し、合議にて評価を決定した。
【0088】
〔評価基準〕
○:甘味がなく、良好
△:やや甘みが感じられる
×:甘味が強い
【0089】
[吸湿性]
結晶澱粉分解物を、温湿度試験器HIFLEX TH401(楠本化成株式会社製)を用いて、25℃、相対湿度95%で1週間保存した後の状態について、下記の評価基準に従って評価した。
【0090】
〔評価基準〕
○:粉末状態を維持
△:粉末の一部又は全部が固結
×:粉末が飴状になった
【0091】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり1000ユニット添加し、50℃で24時間反応させた。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.5質量%添加し、50℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。該濃縮液を、60℃で7日間保持し、得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した実施例1の結晶澱粉分解物を得た。
【0092】
[実施例2]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり800ユニット、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、50℃で60時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。該濃縮液を、4℃で3日間保持し、得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した実施例2の結晶澱粉分解物を得た。
【0093】
[実施例3]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE11になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で15時間反応させた。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり0.5質量%添加し、50℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。該濃縮液を、50℃で5日間保持し、得られた沈殿を含有した糖液をスプレードライヤーで粉末化した。該粉末を固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した実施例3の結晶澱粉分解物を得た。
【0094】
[実施例4]
10%塩酸にてpH2.0に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE8まで分解した。常圧に戻した後、水酸化ナトリウムを用いて反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、馬鈴薯由来枝作り酵素を固形分(g)当たり300ユニット添加し、35℃で48時間反応させた後、煮沸して反応を停止した。その後pHを4.2に調整し、枝切り酵素(イソアミラーゼ、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、45℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、4℃で3日間保持し、得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した実施例4の結晶澱粉分解物を得た。
【0095】
[実施例5]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のタピオカ澱粉スラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE15になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、馬鈴薯由来枝作り酵素を固形分(g)当たり2000ユニット添加し、35℃で30時間反応させた。その後、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、50℃で20時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液を、65℃で10日間保持し、得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した実施例5の結晶澱粉分解物を得た。
【0096】
[実施例6]
10%塩酸にてpH2.0に調整した30質量%のワキシーコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE6まで分解した。常圧に戻した後、水酸化ナトリウムを用いて反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり0.5質量%添加し、50℃で72時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製した。該精製糖液を、4℃で10日保持し、得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、スプレードライヤーで粉末化し、実施例6の結晶澱粉分解物を得た。
【0097】
参考例7]
実施例2の濃縮後の糖液を、4℃で3時間保持し、得られた沈殿を含有した糖液をスプレードライヤーで粉末化し、参考例7の結晶澱粉分解物を得た。
【0098】
参考例8]
参考例8の結晶澱粉分解物として、実施例3のスプレードライ後の粉末を用いた。
【0099】
[実施例9]
10%塩酸にてpH2.0に調整した20質量%のコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE17まで分解した。常圧に戻した後、10質量%水酸化ナトリウムを用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、枝切り酵素(イソアミラーゼ、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、45℃で50時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度45質量%に濃縮した。該濃縮液を、4℃で3日間保持し、得られた沈殿を固形分が溶け出さなくなるまで水洗い、遠心分離を繰り返し、凍結乾燥によって実施例9の結晶含有澱粉分解物を得た。
【0100】
[比較例1]
10%水酸化ナトリウムにてpH5.8に調整した30質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり2.0質量%添加し、50℃で48時間反応させた。反応中から多量の沈殿が確認され、反応終了後はそのまま室温で1日放冷した。反応中及び放冷で得られた沈殿を、固形分が溶け出さなくなるまで水洗と遠心分離を繰り返して分離した後、凍結乾燥して粉末化した比較例1の結晶澱粉分解物を得た。
【0101】
[比較例2]
比較例2の結晶糖質として、株式会社林原の「トレハ」(登録商標)(トレハロース)を用いた。
【0102】
[比較例3]
比較例3の結晶糖質として、株式会社光洋商会の「エンデュランスMCC VE-050」(結晶セルロース)を用いた。
【0103】
[比較例4]
実施例1の澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製した後、濃縮せずにそのままスプレードライで粉末化して、比較例4の澱粉分解物を得た。
【0104】
(3)測定
前記で得られた実施例1~6、参考例7、、実施例9及び比較例1~4について、DP8~19及びDP20以上の含有量を、前述した方法で測定した。また、粉末X線回折を前述した方法で行い、その結果から結晶の型を判定し、前述した方法にて結晶化比率(%)を算出した。また、前記で得られた実施例1~6、参考例7、、実施例9及び比較例1~4の溶解性、甘味性、及び吸湿性についても、前述した方法で評価した。結果を下記の表2に示す。また、A型結晶の例として実施例1、B型結晶の例として実施例2、非結晶の例として比較例4の粉末X線回折のチャートを図1~3にそれぞれ示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示す通り、実施例1~6、参考例7、8、実施例9は、20℃の溶解性は全て不溶又は白濁であったが、100℃では、全て溶解性を示していた。
【0107】
また、実施例の中で比較すると、水洗を行わなかった参考例7及び8に比べ、水洗を行った実施例1~6及び9の方が、甘味性評価及び吸湿性評価が良好であった。甘味性評価及び吸湿性評価が良好な実施例1~6及び9は、結晶化比率が10%以上であり、かつ、20℃の水に分散した際の上清Brix値が2.0%以下であった。この結果から、分離
工程を行うことで、結晶化比率が10%以上であり、かつ、20℃の水に分散した際の上清Brix値が2.0%以下である、低甘味性かつ低吸湿性の結晶澱粉分解物を得ることができることが分かった。
【0108】
一方、DP8~19の含有量が40%未満であり、DP20以上の含有量が55%を超える比較例1は、結晶化比率は15%であったが、100℃でも完全に溶解しなかった。それは、高分子成分の溶け残りが影響していると考えられる。トレハロースである比較例2は、結晶ではあるが、20℃においても溶解してしまい、甘味が強く、吸湿性評価も劣っていた。結晶セルロースである比較例3は、100℃でも溶解しなかったため、DP8~19の含有量、及びDP20以上の含有量を測定することができなかった。比較例4は、DP8~19の含有量が40%以上であり、DP20以上の含有量が55%以下であったが、結晶化比率が低く、結晶ではないと考えられ、20℃でも溶解してしまい、甘味が感じられ、吸湿性が非常に劣っていた。
【0109】
なお、室温より低い温度で結晶化を行った実施例2,4,6,参考例7,及び実施例9については、B型の結晶ができ、室温より高い温度で結晶化を行った実施例1,3,5,及び参考例8については、A型の結晶ができることが分かった。
【0110】
<実験例2>
実験例2では、前記実験例1で製造した結晶澱粉分解物又は結晶前の澱粉分解物を、飲食品用組成物、飲食品、医薬品、化粧料、及び工業製品に適用した場合について、検証した。
【0111】
(1)じゃがいもの冷製スープ
皮をむいて適当な大きさに切ったじゃがいも300質量部及び玉ねぎ50質量部を水300質量部で茹で、ミキサーで破砕した後に牛乳300質量部とともに煮立て、塩とこしょうで味を整えた。約30℃になったところで実施例1の結晶澱粉分解物80質量部を加えた後、冷蔵庫で冷やしてじゃがいもの冷製スープを得た。得られたじゃがいもの冷製スープは、結晶由来の舌触りが感じられ、濃厚感が付与された良好な品質であった。
【0112】
(2)牛乳プリン
水19質量部に脱脂粉乳6質量部、砂糖5質量部、ゼラチン1質量部を添加し、沸騰浴で溶かし、約50℃になったところで実施例2又は実施例9の結晶澱粉分解物4質量部を添加し、型に移して4℃で固めて牛乳プリンを得た。得られた牛乳プリンは、白さがより強調された良好な品質であった。
【0113】
(3)錠剤
実施例3の結晶澱粉分解物80質量部にL-アスコルビン酸粉末20質量部を加え、錠剤成型器で錠剤を作製した。結着が良く、吸湿性の低いビタミンC錠剤が得られた。
【0114】
(4)粉末飲料
実施例4の結晶澱粉分解物100質量部に、濃く煮出した後に約20℃まで冷ました緑茶50質量部を加えよく混合したところ、スラリー化することなく粉末状態が維持された良好な粉末飲料が得られた。
【0115】
(5)粉末油脂
実施例5の結晶澱粉分解物100質量部にサラダ油20質量部を加えよく混合したところ、スラリー化することなく粉末状態が維持された良好な粉末油脂が得られた。
【0116】
(6)化粧用クリーム
実施例1の結晶澱粉分解物2質量部、セトステアリルアルコール4質量部、スクワラン40質量部、流動パラフィン5質量部、ミツロウ3質量部、還元ラノリン5質量部、エチルパラベン0.1質量部、モノステアリン酸グリセリド2質量部、グリセリン5質量部、精製水33.9質量部を配合し、常法に従い化粧用クリームを製造した。その結果、良好なクリームが得られた。
【0117】
(7)研磨剤
実施例2の結晶澱粉分解物粉末を、そのまま研磨剤として台所シンク回りの汚れに対しスポンジを用いて研磨したところ、良好に汚れが落とされた。本技術に係る結晶澱粉分解物は、水に溶けない固形物であり、その粒子の形や大きさが比較的揃っており、また、生分解性であるという特徴を有することから、研磨剤として好適に使用することができた。
【0118】
(8)ドーナツのアイシング・グレーズ
実施例1又は実施例9の結晶化前の澱粉分解物20質量部に水6質量部を加えて溶解し、揚げたてのドーナツの上面にかけて室温で1時間静置し、アイシングドーナツを製造した。また、実施例1又は実施例9の結晶化前の澱粉分解物20質量部に水15質量部を加えて溶解し、揚げたてのドーナツ全体に塗布して室温で1時間静置し、グレーズドーナツを製造した。製造した各ドーナツを、25℃、相対湿度90%で、48時間保存した。
【0119】
比較のために、前記澱粉分解物の代わりに、DE16.5のデキストリン(商品名「L‐SPD」(昭和産業株式会社製))と、粉糖と、をそれぞれ用いて、デキストリンには水6質量部、粉糖には水4質量部を加えて溶解し、前記と同様に、アイシングドーナツを製造した。製造した各ドーナツを、25℃、相対湿度90%で、48時間保存した。
【0120】
製造した各ドーナツ及び保存後の各ドーナツのアイシング又はグレーズの白さ、べたつきについて、下記の評価基準に基づいて評価した。
【0121】
[白さの評価基準]
○:白く不透明で、良好
△:やや白く半透明
×:透明で白さがない
【0122】
[べたつきの評価基準]
○:べたつかず、非常に良好
△:ややべたつくが、良好
×:べたつく
【0123】
結果を、下記の表3に示す。また、実施例1の結晶化前の澱粉分解物を用いたアイシングドーナツと、粉糖を用いたアイシングドーナツの、保存前・保存後の写真を図4に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
表3に示す通り、デキストリンを用いたアイシングは、水あめ状で固まらなかった。粉糖を用いたアイシングは、保存前は白く不透明で、べたつきもなく良好であったが、保存するにつれて、吸湿してしまったために潮解が起こり、透明で白さがなくなり、べたつきも生じ、評価が低下した(図4参照)。
【0126】
これに対して、実施例1又は実施例9の結晶化前の澱粉分解物を用いたアイシングは、白さ・べたつき共に、保存後も保存前の良好な状態を維持した結果であった(図4参照)。また、実施例1又は実施例9の結晶化前の澱粉分解物を用いたグレーズについても、薄い膜状のため白さは目立たない結果であったが、保存後も保存前の状態を維持し、また、べたつきについては、保存後も保存前の良好な状態を維持した結果であった。
【0127】
この結果から、本技術を用いることで、吸湿によってべたつかず、白色を維持したアイシングやグレーズが作製できることが分かった。また、本技術に係る結晶澱粉分解物は甘味度が低いので、甘味料や他の調味料での味の調整が容易であることが分かった。
【0128】
(9)可食性プラスチック様物質
実施例3の結晶化前の澱粉分解物50gに、水を15g添加して袋の中でよく混錬した後、型に入れて3時間静置後に型から取り外し、可食性プラスチック様物質を製造した。
【0129】
比較のために、前記澱粉分解物の代わりに、DE16.5のデキストリン(商品名「L‐SPD」(昭和産業株式会社製))を用いて、前記と同様の方法にて、可食性プラスチック様物質を製造した。
【0130】
実施例3の結晶化前の澱粉分解物を用いた場合、図5に示すような樹脂状の可食性プラスチック様物質が得られたが、DE16.5のデキストリン(商品名「L‐SPD」(昭和産業株式会社製))を用いた場合、水あめ状のものしか得られなかった。
【0131】
この結果から、本技術を用いることで、可食性、生分解性の樹脂状の成型物が得られることが分かった。そして、得られた成型物は、水濡れや湿気に強く、添加する水の量を調整することで硬さをコントロールでき、可塑剤(ソルビトール、グリセリン等)等を加えることで柔軟性をコントロールできることが分かった。また、きれいな白色のため、着色料による色の映えも良いことが分かった。更に、同じ要領で、少量ずつ塗布、積層することにより、文字ペンや3Dプリンターの原液としても応用できることが分かった(図6参照)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6