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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】高耐熱性のポリアミド成形化合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20231218BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231218BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20231218BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C08L77/02
C08L63/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020554582
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018086216
(87)【国際公開番号】W WO2019122139
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】17306846.1
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(72)【発明者】
【氏名】フィロー,ルイーズ-アンヌ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/092922(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103360759(CN,A)
【文献】特表2015-519465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド成形化合物であって、
-少なくとも200℃の融点T-1を有する第1の半結晶性ポリアミド、
-第2の半結晶性ポリアミドであって、T-1よりも少なくとも25℃低い融点T-2を有し、前記第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて10質量%~35質量%の量で前記第2の半結晶性ポリアミドが存在前記第2の半結晶性ポリアミドがPA6又はPA6,10である、第2の半結晶性ポリアミド、
-2官能エポキシ樹脂であって、前記2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、前記第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲であるような量の、2官能エポキシ樹脂
を含み、成形化合物が如何なるリシンも含有しない、ポリアミド成形化合物。
【請求項2】
前記第1の半結晶性ポリアミドがPA6,6又は半芳香族ポリアミドである、請求項1に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項3】
前記第1の半結晶性ポリアミドがPA66/6Tである、請求項1又は2に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項4】
T-1が少なくとも220℃であり、T-2がT-1よりも少なくとも30℃低い、請求項1からのいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項5】
前記第2の半結晶性ポリアミドが、いずれも前記第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて32.0質量%以下の量で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項6】
前記2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、前記第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が、0.07~1の範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項7】
前記2官能エポキシ樹脂が、いずれも前記第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総量の0.3~5.5質量%の量で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項8】
少なくとも1種の充填剤及び/又は強化剤、及び少なくとも1種の熱安定剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項9】
前記強化剤がガラス繊維、炭素繊維及びこれらの混合物から選択される、請求項に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項10】
前記熱安定剤が1価又は2価銅の化合物、ハロゲン塩、第2級芳香族アミンをベースとする安定剤、立体障害フェノール、ホスファイト、次亜リン酸塩、ホスホナイト、及びこれらの混合物をベースとする安定剤からなる群から選択される、請求項8に記載のポリアミド成形化合物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物であって、
(A)26.5~78.795質量%のポリアミド、
(B)0.2~4.5質量%の2官能エポキシ樹脂、
(C)20.0~62.0質量%の充填剤及び/又は強化剤、
(D)0.005~3.0質量%の熱安定剤、及び
(E)0~5.0質量%の少なくとも1種の添加剤
を含み、成分(A)~(E)が合計で100質量%になる、ポリアミド成形化合物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物から作られる成形体。
【請求項13】
自動車エンジン部品、機械設備、又は電気若しくは電子装置を組立プロセスにおいて製造するための、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載のポリアミド成形化合物、及び任意にさらなる成分を、成形機に供給することを含む、成形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱老化性のあるポリアミド成形化合物、前記ポリアミド成形化合物から作られた成形体、及び前記成形体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリアミドは、ガラス繊維強化成形化合物の形で、耐用寿命中は高温に曝され、熱酸化損傷で終了する構成要素の構成材料として使用されることが多い。機械的特性の低下において現れる熱酸化損傷の発生は、既知の熱安定剤の添加によって遅らせることができるが、永久に防ぐことはできない。ポリアミドの熱老化安定性の改善が望ましい。なぜなら、この改善によって、熱的なストレスを受けた構成要素の長い耐用寿命を達成することができるか、又はその失敗のリスクを低減させることができるからである。さらに、熱老化安定性の改善により、構成要素をより高温で使用することも可能になる。
【0003】
熱に対するポリアミドの安定性を改善するために、ポリアミドを特定の安定剤と組み合わせることが既知の慣例である。この目的のために多くの添加物が販売されている。例えば、(特に、ヨウ化カリウムと組み合わされた)ヨウ化銅(これは、ほとんどの場合において使用され、かつ良好な安定化特性を提供する)を、使用することが知られている。より複雑な添加剤(例えば、立体障害フェノール系酸化防止剤化合物、HALS型の立体障害アミン単位を少なくとも1つ有する安定剤、又はリン含有安定剤)を使用することも知られている。
【0004】
例えば、US2015/0218374には、部分的に芳香族を有し部分的に結晶性を有する1種のポリアミドおよびカプロラクタムを含有する1種のポリアミドと、立体障害フェノールをベースとする有機熱安定剤とを組み合わせることによって、難燃性及び長期の耐熱老化性を備えたポリアミド成形化合物の製造が提案されている。
【0005】
US8,383,244には、幅広い範囲の安定剤(例えば、1価及び2価の銅化合物、第2級芳香族アミン、立体障害フェノール、ならびにホスファイト及びホスホナイト)から選択することができる熱安定剤と2種のポリアミドとの組み合わせが提案されている。
【0006】
WO2013/188302A1には、改善された長期の高温老化特性を有するポリアミド組成物が開示されていた。その組成物は、様々なポリアミドと、熱安定剤としての、ヒドロキシド基を有さずに1種以下のカルボン酸を有する第1級又は第2級アミノ酸との組み合わせを含有している。その組成物は、場合により、1種以上のポリエポキシ化合物を含むことがある。
【0007】
US2014/0309367には、熱、光、及び/又は湿潤気候に対してポリアミドを安定化させるための物質として、ポリアミド鎖延長化合物を使用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US2015/0218374
【文献】US8,383,244
【文献】WO2013/188302A1
【文献】US2014/0309367
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、熱に対する安定化の点でさらにより効率的であり、特に、周囲温度だけでなく高温での熱老化後でも良好な物理的特性を維持する、ポリアミド組成物を提供する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、ポリアミド成形化合物であって、
-少なくとも200℃の融点T-1を有する第1の半結晶性ポリアミド、
-第2の半結晶性ポリアミドであって、T-1よりも少なくとも25℃低い融点T-2を有し、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて1質量%~35質量%の量で前記第2の半結晶性ポリアミドが存在前記第2の半結晶性ポリアミドがPA6又はPA6,10である、第2の半結晶性ポリアミド、
-2官能エポキシ樹脂であって、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲であるような量の、2官能エポキシ樹脂
を含み、成形化合物が如何なるリシンも含有しない、ポリアミド成形化合物を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、前記ポリアミド成形化合物から作られた成形体、そのような成形体を製造する方法、及びそのような成形体を自動車エンジン、機械、又は電気又は電子設備を製造するための組立プロセスにおいて使用する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、室温(23℃)で測定したTSを示す。
図2図2は、老化温度(200℃)で測定したTSを示す。
図3図3は、室温(23℃)での測定を示す。
図4図4は、老化温度(200℃)での測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリアミド化合物の熱老化安定性は、255~330℃の範囲の融点を有する半芳香族半結晶性ポリアミドをカプロラクタム含有ポリアミドと混合することによって増加できることが知られている(US8,383,244)が、本発明者らは、引張強度を室温で測定した場合には、第2のポリアミドの添加によって熱老化後のポリアミド化合物の強度は実際に増加するものの、高温で測定した場合には、第2のポリマーの量が多いほど、ポリアミドの強度は低下することを見出した。このようなポリアミド化合物から製造される成形体は、通常高温用途で使用されるので、この予想外の発見は重要である。
【0014】
さらに実験を行ったところ、第1のポリアミドの第2のポリアミドに対する比が最適な範囲内であっても、高温で測定した場合、熱老化後のポリアミドの強度には、使用するエポキシ熱安定剤の量も重要であることを、本発明者らはさらに見出した。熱老化後のポリアミドの強度を室温で測定した場合、エポキシ熱安定剤の量を増やすと、熱老化後のポリアミド化合物の強度は増加する。しかしながら、高温で測定した場合、エポキシ安定剤の量が特定のレベルを超えて増加すると、ポリアミド化合物の強度が驚くほど低下することを、本発明者らは見出した。
【0015】
従って、熱老化に対して良好な耐性を示すだけでなく、さらに熱老化後に高温で高い強度を示すポリアミド組成物を提供するために、第1のポリアミドの第2のポリアミドに対する比、及びエポキシ熱安定剤の量を、特定の範囲内で慎重に選択しなければならないことを、本発明者らは見出した。
【0016】
従って本発明は、ポリアミド成形化合物であって、
-少なくとも200℃の融点T-1を有する第1の半結晶性ポリアミド、
-第2の半結晶性ポリアミドであって、T-1よりも少なくとも25℃低い融点T-2を有し、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて10質量%~35質量%の量で第2のポリアミドが存在する、第2の半結晶性ポリアミド、
-2官能エポキシ樹脂であって、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲であるような量の、2官能エポキシ樹脂
を含み、成形化合物が如何なるリシンも含有しない、ポリアミド成形化合物を提供する。
【0017】
ポリアミド成形化合物が、少なくとも200℃の融点を有する第1の半結晶性ポリアミドと、第1の半結晶性ポリアミドの融点よりも少なくとも25℃低い融点を有する第2の半結晶性ポリアミドとを、ポリアミド成形化合物中に存在する第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて、第2のポリアミドが10質量%~35質量%で存在するような量で含む場合、200℃で2,000時間の熱老化後の引張破壊応力として測定した高温(200℃)でのポリアミド化合物の強度が最適を示すことを、本発明者らは見出した。さらに、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲にある場合、200℃で2,000時間の熱老化後の引張破壊応力として測定した高温(200℃)でのポリアミド化合物の強度が最大を示すことを、発明者らは発見した。よって本発明は、第1のポリアミドの第2のポリアミドに対する比の最適化、及びポリアミド成分に対する、ポリアミド化合物中に存在する2官能エポキシ樹脂の量の最適化を提供する。
【0018】
本発明のポリアミド成形化合物は、異なる融点を有する少なくとも2種の異なるポリアミドを含む。一実施形態では、ポリアミド成形化合物は、2種の異なるポリアミドのみ、すなわち第1及び第2の半結晶性ポリアミドを含む。この場合、ポリアミド成形化合物は、如何なるさらなるポリアミドも含まない。しかしながら、ポリアミド成形化合物がさらなるポリアミドを含むことも可能である。例えば、少なくとも200℃の融点を有する第1のポリアミドは、第1のポリアミドを構成するすべてのアミドが少なくとも200℃の融点を有するという条件で、2種以上のポリアミドの混合物であってよい。第2のポリアミドも、第2のポリアミドを構成するすべてのポリアミドが第1のポリアミドの融点よりも少なくとも25℃低い融点を有するという条件で、2種以上のポリアミドの混合物であってもよい。第1のポリアミドが2種以上のポリアミドの混合物である場合、この混合物中のすべてのポリアミドの中で最も低い融点を有するポリアミドが、第1と第2のポリアミド間の融点の差を定義するのに関連するものである。
【0019】
本発明のポリアミド成形化合物中の如何なるポリアミドの溶融温度も、ISO11357-3に従って示差走査熱量測定(DSC)により10℃/分の加熱速度で測定され、第1の加熱セグメントの間に測定された溶融ピークの温度として測定される。
【0020】
本発明のポリアミド成形化合物は、第1の半結晶性ポリアミド及び第2の半結晶性ポリアミドに加えて、半結晶性ではないさらなるポリアミドを含んでよい。しかしながら好ましくは、本発明のポリアミド成形化合物は、第1の半結晶性ポリアミド及び第2の半結晶性ポリアミドに加えて、如何なるポリアミドも含有しない。よって、本発明のポリアミド成形化合物中のポリアミドの総量は、好ましくは第1の半結晶性ポリアミド及び第2の半結晶性ポリアミドからなる。
【0021】
本発明のポリアミド成形化合物に用いてよいポリアミドは、少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸と脂肪族又は環状又は脂環式又はアリール脂肪族ジアミンとの重縮合によって得られたものであるか(例えば、PA6,6、PA6,10、PA6,12、PA10,10、PA10,6、PA12,12、PA4,6、MXD6、PA9,2、PA10,2)、又は、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は芳香族ジアミンとの間の重縮合で得られたものである(例えば、PA9,T、PA10,T、PA11,T、PA12,T、PA13,T又はPA6T/MT、PA6T/6I、PA66/6Tなどの種類のポリテレフタルアミド、PA6I、PA6I/6Tなどの種類のポリイソフタルアミド、PA10N、PA11N、PA12Nなどの種類のポリナフタルアミド、又は、これらのブレンド及びこれらの(コ)ポリアミド)。ポリアミドは、少なくとも1種のオメガアミノ酸又はラクタムとそれ自体との重縮合によって得られるポリアミド(例えば、PA6、PA7、PA11、PA12又はPA13、又は、これらのブレンド及びこれらの(コ)ポリアミド)から選択されてもよい。
【0022】
一実施形態では、第1のポリアミドはPA6,6又はPA66/6Tなどの半芳香族ポリアミドである。好ましい実施形態では、第1のポリアミドは、PA6,6又はPA66/6T、より好ましくはPA66/6Tである。
【0023】
別の実施形態では、第2のポリアミドは、PA6又はPA6,10である。好ましい実施形態では、第2のポリアミドはPA6である。
【0024】
好ましい実施形態では、第1のポリアミドは、PA6,6又はPA66/6Tなどの半芳香族ポリアミドであり、第2のポリアミドは、PA6又はPA6,10である。より好ましい実施形態では、第1のポリアミドはPA6,6又はPA66/6Tであり、第2のポリアミドはPA6又はPA6,10である。さらにより好ましい実施形態では、第1のポリアミドはPA66/6Tであり、第2のポリアミドはPA6である。
【0025】
しかしながら、第2のポリアミドの融点が第1のポリアミドの融点よりも少なくとも25℃低いことを条件として、第1のポリアミドがPA66/6Tであり、第2のポリアミドがPA6,6であることも可能である。これは例えば、かなり高い融点を有するPA66/6Tが使用される場合(例えばPPAなど)に可能である。
【0026】
本発明のポリアミド成形化合物において、第2のポリアミドは、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて、1質量%~35質量%、好ましくは10~35質量%の量で存在する。
【0027】
一実施形態では、第2のポリアミドは、本発明のポリアミド成形化合物において、いずれも第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて、32.0質量%以下の、好ましくは25.0質量%以下の、より好ましくは22.0質量%未満の、及び最も好ましくは21.5質量%未満の量で存在する。
【0028】
上記の第2のポリアミドの量の下限及び上限は、互いに組み合わせることができる。例えば、第2のポリアミドは、いずれも第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総質量に基づいて、少なくとも10質量%及び32.0質量%以下の量、又は少なくとも10質量%及び22.0質量%未満の量、又は少なくとも10質量%及び22.0質量%未満の量、又は少なくとも10.0質量%及び21.5質量%未満の量で、存在してよい。
【0029】
本発明によるポリアミド成形化合物は、第1の半結晶性ポリアミド及び第2の半結晶性ポリアミドに加えて、少なくとも1種の2官能エポキシ樹脂を含む。本発明のポリアミド成形化合物は、2種以上の2官能エポキシ樹脂を含んでよい。
【0030】
2官能エポキシ樹脂は、通常、ポリアミドのアミン末端基又は酸末端基と反応することができる。各2官能エポキシ樹脂の2個のエポキシ官能基は、第1及び第2の半結晶性ポリアミド中の酸及びアミン鎖末端基に対する2官能エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル比の関数として2つ以上のポリアミド鎖と接続するようにポリアミドの末端基と反応することができ、この結果、修飾されたポリアミドのモル質量及び粘度が増加する。
【0031】
2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲である場合に、熱老化後高温で測定した場合に最適な強度を有するポリアミド成形化合物が得られることを、本発明者らは見出した。好ましい実施形態では、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比は、0.07~1の範囲、より好ましくは0.2~0.7の範囲である。この比の計算には、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基のモル量を、本発明のポリアミド成形化合物中に存在する第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総量の酸及びアミン鎖末端基の合計で除する。
【0032】
本発明のポリアミド成形化合物中の2官能エポキシ樹脂の量は、例えば、2官能エポキシ樹脂のエポキシ基の、第1及び第2の半結晶性ポリアミドの酸及びアミン鎖末端基に対するモル比が0.05~1の範囲内であることを条件として、いずれも第1及び第2の半結晶性ポリアミドの総量の0.3~5.5質量%、好ましくは0.8~4.0質量%の範囲でよい。
【0033】
2官能エポキシ樹脂は特に限定されず、要件に応じて当業者が選択することができる。2官能エポキシ樹脂は、1分子中に2個のエポキシ基を含む有機化合物として理解される。このような有機化合物は、例えばGPCで測定した場合、分子量分布を示すことがある(すなわち単分散以外でもよい)。化合物はさらなる官能基を含んでもよいが、分子あたりのエポキシ基の数は2個に制限される。適した2官能エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスフェノールAベースのエポキシドである。
【0034】
本発明のポリアミド成形化合物は、いずれも化合物の総質量に基づいて、20質量%を超える、好ましくは40質量%を超える、より好ましくは50質量%を超えるポリアミドを含んでよい。
【0035】
ポリアミド成形化合物は、少なくとも1種の充填剤及び/又は強化剤、及び少なくとも1種の熱安定剤をさらに含んでよい。適した充填剤/強化剤は、ポリアミド組成物の製造に従来から使用されているものである。特に、強化繊維状充填剤、例えば円形又は長方形など種々の断面型のガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維、非繊維状充填剤、例えば粒子状又は層状充填剤、及び/又は剥離可能な又は非剥離性のナノ充填剤、例えばアルミナ、カーボンブラック、粘土、ジルコニウムホスフェート、カオリン、炭酸カルシウム、銅、珪藻土、グラファイト、マイカ、シリカ、二酸化チタン、ゼオライト、タルク、ウォラストナイト、無機ウィスカー、ポリマー充填剤、例えば、ジメチルアクリレート粒子、ガラスビーズ又はガラス粉末が挙げられる。好ましい強化剤は、ガラス繊維、炭素繊維及びそれらの混合物である。
【0036】
本発明のポリアミド成形化合物は、いずれも化合物の総質量に基づいて、1質量%~70質量%の少なくとも1種の充填剤及び/又は強化剤、好ましくは20質量%~62質量%の充填剤及び/又は強化剤を含むことができる。
【0037】
本発明によるポリアミド成形化合物は、化合物の熱安定化に関与する他の添加剤、例えば当業者に知られているもの、例えば:1価又は2価の銅化合物、例えばCuIとKIとの対、CuO/KBrの対、CuO/KBrの対、又はこれらの組み合わせ、ハロゲン塩、立体障害フェノール化合物、HALS型の立体障害アミン単位を少なくとも1つ有する安定剤、有機又は鉱物リンベースの安定剤、例えばナトリウム又はマンガン次亜リン酸塩、又は2~8個の脂肪族ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の多価アルコールを含む化合物も含み、特に該化合物は、2~8個の脂肪族ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の多価アルコールも含む。
【0038】
ポリアミド成形化合物の熱安定化に関与する他の添加剤の含有量は、いずれもポリアミド成形化合物の総質量に基づいて、0.005質量%~5質量%、好ましくは0.005質量%~3.0質量%の範囲にわたってよい。
【0039】
本発明のポリアミド成形化合物は、ポリアミド組成物の製造において通常使用される添加剤も含んでよい。よって、潤滑剤、難燃剤、可塑剤、核剤、抗UV剤、触媒、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、艶消剤、成形助剤又は他の従来の添加剤が挙げられる。
【0040】
一実施形態では、本発明のポリアミド成形化合物は、
(A)26.5~78.795質量%のポリアミド、
(B)0.2~4.5質量%の2官能エポキシ樹脂、
(C)20.0~62.0質量%の充填剤及び/又は強化剤、
(D)0.005~3.0質量%の熱安定剤、及び
(E)0~5.0質量%の少なくとも1種の添加剤
を含み、成分(A)~(E)は、合計で100質量%になる。
【0041】
本発明のポリアミド成形化合物は、如何なるリシンも含有しない。好ましい実施形態において、本発明のポリアミド成形化合物は、ヒドロキシル基を有さず、1種以下のカルボン酸を有する如何なる第1級又は第2級アミノ酸も含有しない。さらにより好ましくは、本発明のポリアミド成形化合物は、如何なるアルファアミノ酸も含有しない。
【0042】
一実施形態では、本発明のポリアミド成形化合物は、化合物の総質量に基づいて0.5質量%のIRGATEC NC66を含有しない。好ましくは、ポリアミド成形化合物は、如何なるIRGATEC NC66も含有しない。あるいは、又はさらに、本発明のポリアミド成形化合物は、化合物の総質量に基づいて0.28質量%のカオリンを含有せず、好ましくは、ポリアミド成形化合物は、如何なるカオリンも含有しない。
【0043】
本発明のポリアミド成形化合物は、2官能エポキシ樹脂を第1及び第2のポリアミドと混合することによって製造することができる。2官能エポキシ樹脂は、既に形成されている又は部分的に形成されたポリアミドに、特にポリアミドのオリゴマーと接触させるなどによって、添加してよい。2官能エポキシ樹脂は、ポリアミドの重合中に添加するか、又は溶融ポリアミドに例えば押出しによって添加してよい。2官能エポキシ樹脂は、ポリアミドと一緒に固体状態で予備混合し、続いて混合物を例えば押出成形又は射出成形、又はブロー成形などによって溶融してもよい。
【0044】
もし存在する場合には、2官能エポキシ樹脂の前、一緒に、又は後に、充填剤/強化剤及びさらなる熱安定剤及び如何なるさらなる添加剤も、ポリアミド成形化合物に混合してよい。特定の実施形態によれば、2官能エポキシ樹脂及びポリアミドの予備混合物は、溶融物中でも又は溶融物中ではなくても、最終組成物の調製前に調製してよい。例えば、2官能エポキシ樹脂とポリアミドとの予備混合物を調製して、例えば、マスターバッチを製造して、その後、充填剤及び/又は強化剤及び熱安定剤、及び任意に、さらなる添加剤とさらに混合するのに使用することも可能である。
【0045】
一実施形態では、本発明のポリアミド成形化合物は、加熱せずに又は溶融物中で、種々の成分をブレンドすることによって得られる。このプロセスは、種々の成分の性質に応じて、おおよそ高温で、及びおおよそ高剪断力で行う。これらの成分は、同時に又は連続的に導入することができる。一般に、材料を加熱し、次に溶融して剪断力に供し、搬送する押出装置を使用する。
【0046】
本発明のポリアミド成形化合物は、本発明のポリアミド成形化合物が押出デバイスを使用して製造される場合、好ましくは顆粒の形に成形される。顆粒をさらに再溶融して、射出成形又は押出成形、ブロー成形又は回転成形された物体に成形することができる。よって成形体は、化合物から構成される。
【0047】
本発明のポリアミド成形化合物は、プラスチックを形成するための如何なるプロセスにも、例えば成形プロセス、特に射出成形、押出、押出ブロー成形又は回転成形に使用してよい。押出プロセスは、特に、繊維の紡糸プロセス又はフィルムの製造プロセスでよい。
【0048】
従って本発明は、本発明によるポリアミド成形化合物、及び任意にさらなる成分を成形機に供給することを含む、成形体を製造するための方法に関する。
【0049】
本発明は、本発明のポリアミド成形化合物から作られた成形体、及びそのような物体を、例えば自動車エンジン部品、機械設備、又は電気又は電子装置を製造するための組立プロセスにおいて使用する方法に関する。
【0050】
本発明の成形体の特定の利点は、本発明の成形体が、高温、特に80℃以上の温度、とりわけ150℃以上の温度、及びより具体的には200℃以上だが、化合物の融点より低い温度に曝される用途に適していることである。
【0051】
本発明の他の詳細又は利点は、限定を意図するものではない以下の実施例に照らして、より明らかになるであろう。
【実施例
【0052】
以下の実施例及び比較例によるポリアミド成形化合物を、以下の一般的な方法を使用して調製した。種々の化合物の組成を表1にまとめ、実施した測定の結果を表2にまとめている。さらに、結果を添付の図1~4に示している。
【0053】
実施例E1~E7は、本発明によるものである。比較例C1は、第2の半結晶性ポリアミドを含まないポリアミド成形化合物に関するものである。比較例C3は、2官能エポキシ樹脂を含有しないポリアミド成形化合物に関するものである。そして、比較例C4は、第2の半結晶性ポリアミドの融点が第1の半結晶性ポリアミドの融点よりも20℃だけ低いポリアミド成形化合物に関するものである。
【0054】
次の成分を使用した:
・ポリアミド66/6T:Solvay社製造の商業グレード26UD1、テレフタル酸のアジピン酸に対するモル比が35~65。VI=80mL/g、EG=127mL/g、Tm=280℃
・ポリアミド6:Solvay社製造の商業グレードS40BL Nat、EG=105mL/g、Tm=215℃、VI=150mL/g
・ポリアミド6,6:Solvay社製造の商業グレード26AE2、EG=125mL/g、VI=134mL/g、Tm=260℃
・ポリアミド6,10:Solvay社製造の商業グレード28CE2、EG=115mL/g、VI=140mL/g、Tm=225℃
・ガラス繊維:Owens Corning社のOCV995
・無機安定剤:Altichem社の酸化銅(Cu2O)及びChemtra Comercial社の臭化カリウム(KBr)
・ブラック:Hudson color concentrate社のカーボンブラック及びManuel Vilaseca社のニグロシン
・潤滑剤:Baerlocher社のLT107
・ジエポキシ:Huntsman社のAraldite GT7071、エポキシ値:1,89~2,22eq/kg、エポキシ当量:450~530g/eq
すべての実施例及び比較例は、以下の一般的な手順に従って調製した:
配合前に、ポリアミドのペレットを乾燥させて、水分量を1500ppm未満に減らした。組成物は、Werner&Pleifeder社のZSK40二軸押出機で、次のパラメータを使用して、選択した成分を溶融ブレンドすることによって得た:35kg/時、毎分250回転、5つの加熱ゾーン:275、280、290、295、300℃。すべての成分は押出機の開始部に供給した。押出機ストランドを水浴で冷却し、次にペレット化し、得られたペレットをアルミニウムで裏打ちされた密封袋に保管して湿気の吸着を防いだ。
【0055】
すべての実施例及び比較例は、表1にまとめた成分に加え、いずれも配合物の総質量に対して、35質量%のガラス繊維、0.0088質量%のCuO、0.1228質量%のKBr、0.1184質量%のカーボンブラック、0.1184質量%のニグロシン、及び0.1316質量%のワックスを含んでいた。
【0056】
得られたポリアミド成形化合物の粘度指数、末端基濃度及び溶融温度は、以下の方法を使用して測定した。
【0057】
ポリアミドの粘度指数(VI)は、ISO307に従ってギ酸溶液中で測定した。
【0058】
末端基(EG)濃度(AEG:アミン、CEG:酸)は、電位差測定によって測定した。
【0059】
溶融温度(Tm)は、ISO11357-3に従って示差走査熱量測定によって測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
得られたポリアミド成形化合物の耐熱老化性を以下のように評価した:
組成物を、バレル温度が約300℃及び型温度設定が110℃のDEMAG 50T射出成形機を使用して射出成形し、厚さ4mmのISO527試料を調製した。老化前に、初期の機械的特性(引張弾性率(E)、引張破壊強度(TS)、及び破断伸び)を、ISO527/1Aに従って23℃及び200℃での引張り測定によって特徴付けた。平均値を試料5つから得た。
【0062】
次に、200℃に設定した再循環空気オーブン(Heraeus TK62210)で試料を熱老化させた。2000時間の老化後、試料をオーブンから取り出し、室温まで冷却させて、試験できるようになるまでアルミニウムで裏打ちされた密閉袋に入れた。次に、機械的特性をISO527/1Aに従って、23℃及び200℃で測定した。
【0063】
結果は、以下の表2にまとめている。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表2の数字データを、添付の図1~4に視覚化する。図1から、引張応力を室温で測定した場合には、第2のポリアミド(PA2)の量が増えると、熱老化後の引張破壊応力が増加することが明らかである。しかしながら、図2は、引張破壊応力を200℃の高温で測定した場合には、この関係がもはや有効ではないことを示す。この温度で、引張応力は、ポリアミド相の第2のポリアミドが約19質量%のときに最大を示す。第2のポリアミドの量をさらに増加させると、引張応力が低下する。しかしながらこれは、第2のポリアミドを有しない化合物よりも依然として改善されている。だが、第2のポリアミドの量が約35質量%以下のときだけである。
【0067】
同様の効果は、図3及び4のデータからも明らかである。室温で測定した場合には、熱老化後の引張破壊応力は、ポリアミド鎖末端に対するエポキシ官能基の比が増加するにつれて増加する。しかしながら、200℃の高温で測定した場合には、引張破壊応力は最大となり、次いでポリアミド鎖末端に対するエポキシ官能基の比が増加するにつれて減少する。
【0068】
上記のデータは、本発明のポリアミド成形化合物が、室温だけでなく高温でも熱老化後に高い強度を呈するように最適化されていることが示されている。従って、本発明のポリアミド成形化合物は、高温用途に特に適している。
図1
図2
図3
図4