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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】固定装置およびクレーンの輸送方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 9/18 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
B66C9/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021045673
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144599
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中塚 翔
(72)【発明者】
【氏名】藤本 啓佑
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-183187(JP,U)
【文献】特開昭60-071387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0118524(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン構造体に移動可能に配置される移動体と前記クレーン構造体との間に配置されて、クレーンの輸送時に前記クレーン構造体に前記移動体を固定する固定装置において、
前記移動体の移動方向に交差する面であり前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能な当接面を有するストッパ部材と、このストッパ部材と着脱可能に構成されるとともに前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定される受け部材とを備えていて、
前記ストッパ部材は、前記クレーン構造体および前記移動体に固定されることなく前記受け部材と係合する構成を有していて、
前記ストッパ部材と前記受け部材とが連結される固定状態と、前記受け部材から前記ストッパ部材が離間する固定解除状態とに切り替え可能な構成を備えることを特徴とする固定装置。
【請求項2】
前記ストッパ部材と前記受け部材との連結部分が係合凸部と係合凹部とで構成されていて、
前記係合凸部が前記移動体の移動方向に交差する面で構成される接触面を有していて、前記係合凹部が前記移動体の移動方向に交差する面であり且つ前記接触面と接触可能に構成される被接触面を有していて、
前記ストッパ部材は、前記接触面および前記被接触面と平行となる方向に移動させることで前記固定解除状態に切り替わる構成を有する請求項1に記載の固定装置。
【請求項3】
クレーン構造体に移動可能に配置される移動体と前記クレーン構造体との間に配置されて、クレーンの輸送時に前記クレーン構造体に前記移動体を固定する固定装置において、
前記移動体の移動方向に交差する面であり前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能な当接面を有するストッパ部材と、このストッパ部材と着脱可能に構成されるとともに前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定される受け部材とを備えていて、
前記ストッパ部材と前記受け部材とが連結される固定状態と、前記受け部材から前記ストッパ部材が離間する固定解除状態とに切り替え可能な構成を備えていて、
前記ストッパ部材と前記受け部材との連結部分が係合凸部と係合凹部とで構成されていて、
前記係合凸部が前記移動体の移動方向に交差する面で構成される接触面を有していて、前記係合凹部が前記移動体の移動方向に交差する面であり且つ前記接触面と接触可能に構成される被接触面を有していて、
前記当接面が、前記移動体の移動方向およびこの移動方向に直交する方向のいずれに対しても交差する一つまたは複数の面で構成されていて、
前記接触面および前記被接触面が、前記移動体の移動方向およびこの移動方向に直交する方向のいずれに対しても交差する一つまたは複数の面でそれぞれ構成されることを特徴とする固定装置。
【請求項4】
前記受け部材に前記ストッパ部材を固定する連結部材を備える請求項1~3のいずれかに記載の固定装置。
【請求項5】
前記クレーン構造体に対する前記移動体の移動を妨げない位置に配置される構成を前記受け部材が有する請求項1~4のいずれかに記載の固定装置。
【請求項6】
クレーン構造体に移動可能に配置される移動体と前記クレーン構造体との間に固定装置が配置されて、前記固定装置により前記クレーン構造体に前記移動体が固定された後にクレーンが輸送されるクレーンの輸送方法において、
前記移動体の移動方向に交差する面であり前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能な当接面を有するストッパ部材と、このストッパ部材と着脱可能に構成されるとともに前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定される受け部材とを前記固定装置が備えていて、
前記ストッパ部材は、前記クレーン構造体および前記移動体に固定されることなく前記受け部材と係合する構成を有していて、
前記固定装置の前記ストッパ部材と前記受け部材とが連結されて固定状態とされた後に、
前記当接面が前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能となる位置に前記ストッパ部材が配置されるとともに、前記受け部材が前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定されることを特徴とするクレーンの輸送方法。
【請求項7】
前記受け部材に前記ストッパ部材を固定する連結部材を前記固定装置が備えていて、
前記連結部材により前記ストッパ部材と前記受け部材とが固定されて固定状態とされた後に、前記受け部材が前記クレーン構造体または前記移動体のいずれかに固定される請求項6に記載のクレーンの輸送方法。
【請求項8】
前記ストッパ部材と前記受け部材との連結部分が係合凸部と係合凹部とで構成されていて、
前記係合凸部が前記移動体の移動方向に交差する面で構成される接触面を有していて、前記係合凹部が前記移動体の移動方向に交差する面であり且つ前記接触面と接触可能に構成される被接触面を有していて、
前記ストッパ部材を前記接触面および前記被接触面と平行となる方向に移動させて、前記受け部材から前記ストッパ部材を離間させることで前記固定装置を固定解除状態に切り替えて、前記クレーン構造体に対して前記移動体を移動可能な状態とする請求項6または7に記載のクレーンの輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの輸送時にクレーン構造体に対してトロリ等の移動体を固定する固定装置およびクレーンの輸送方法に関するものであり、詳しくはクレーンの輸送時に移動体を確実に固定するとともに輸送完了後に固定の解除を容易に行える固定装置およびクレーンの輸送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岸壁クレーンの輸送方法について種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1にはケーブルを利用して岸壁クレーンを輸送船に固定する輸送方法が開示されている。岸壁クレーンは、例えばスプレッダを懸吊するトロリや、ワイヤの垂れ下がりを防止するためのカテナリトロリなど、ガーダおよびブームに沿って横行可能に構成される装置を備えている。岸壁クレーンの輸送時にはトロリ等も固定する必要がある。
【0003】
従来はラッシング部材をブームおよびトロリに溶接して固定した後に岸壁クレーンの輸送を行い、輸送完了後にガス切断によりラッシング部材を切り離す作業が行われていた。またラッシング部材を除去した後に、塗装等の後処理をブームやトロリに対して行っていた。
【0004】
高所にガス切断用の機器等を運搬してガス切断の作業を行う必要があったため、多くの作業時間を必要としていた。岸壁クレーンの輸送完了後であって、岸壁クレーンの動作試験を行うまでに多大な時間がかかっていた。また岸壁クレーンを製造する工場とは異なり、岸壁クレーンの輸送先のコンテナヤード等ではガス切断用の機器等を備えていない場合があった。このような場合はその都度、ガス切断用の機器等を準備する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開平05-132288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的はクレーンの輸送時にトロリ等の移動体を確実に固定するとともに輸送完了後に固定の解除を容易に行える固定装置およびクレーンの輸送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための固定装置は、クレーン構造体に移動可能に配置される移動体と前記クレーン構造体との間に配置されて、クレーンの輸送時に前記クレーン構造体に前記移動体を固定する固定装置において、前記移動体の移動方向に交差する面であり前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能な当接面を有するストッパ部材と、このストッパ部材と着脱可能に構成されるとともに前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定される受け部材とを備えていて、前記ストッパ部材は、前記クレーン構造体および前記移動体に固定されることなく前記受け部材と係合する構成を有していて、前記ストッパ部材と前記受け部材とが連結される固定状態と、前記受け部材から前記ストッパ部材が離間する固定解除状態とに切り替え可能な構成を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するためのクレーン輸送方法は、クレーン構造体に移動可能に配置される移動体と前記クレーン構造体との間に固定装置が配置されて、前記固定装置により前記クレーン構造体に前記移動体が固定された後にクレーンが輸送されるクレーンの輸送方法において、前記移動体の移動方向に交差する面であり前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能な当接面を有するストッパ部材と、このストッパ部材と着脱可能に構成されるとともに前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定される受け部材とを前記固定装置が備えていて、前記ストッパ部材は、前記クレーン構造体および前記移動体に固定されることなく前記受け部材と係合する構成を有していて、前記固定装置の前記ストッパ部材と前記受け部材とが連結されて固定状態とされた後に、前記当接面が前記クレーン構造体または前記移動体の一方側と当接可能となる位置に前記ストッパ部材が配置されるとともに、前記受け部材が前記クレーン構造体または前記移動体の他方側に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定装置のストッパ部材と受け部材とを連結して固定状態とすることで、トロリ等の移動体をブーム等のクレーン構造体に確実に固定することができる。クレーンの輸送完了後には、固定装置の受け部材とストッパ部材とを離間させて固定解除状態とすることで固定装置による移動体の固定を解除できる。移動体の固定解除の作業を容易に行うには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クレーン構造体2に設置された固定装置を平面視で例示する説明図である。
図2図1の固定装置の概略を例示する説明図である。
図3図2の固定装置を分解した状態を例示する説明図である。
図4図1の固定装置の周辺を拡大して例示する説明図である。
図5図4の固定装置の固定解除状態を例示する説明図である。
図6図4の固定装置の変形例を例示する説明図である。
図7図6の固定装置の概略を例示する説明図である。
図8図7の固定装置の変形例を例示する説明図である。
図9図8の固定装置の固定解除状態を例示する説明図である。
図10図6の固定装置の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、固定装置およびクレーンの輸送方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中ではトロリ等の移動体の移動方向を矢印x、この移動方向を直角に横断する幅方向を矢印y、上下方向を矢印zで示している。
【0012】
図1に例示するように固定装置1は、クレーンの輸送時にクレーン構造体2と移動体3との間に設置されて、クレーン構造体2に対して移動体3を固定する構成を有している。クレーンは例えば岸壁クレーンや門型クレーンや天井クレーンやアンローダなどで構成される。クレーン構造体2は例えばガーダやブームなどの水平部材で構成される。移動体3は例えばガーダ等に沿って移動可能に配置されているトロリで構成される。
【0013】
図1に例示する実施形態ではトロリで構成される移動体3は車輪4を有している。この車輪4によりガーダ等のクレーン構造体2に敷設されるレール5の上を、トロリは移動することができる。図1では説明のため車輪4およびレール5の一部を破線で示している。
【0014】
移動体3であるトロリの平面視における四隅には、それぞれ固定装置1が設置されている。固定装置1はクレーン構造体2に固定されている。移動体3は固定装置1と接触することで、その移動を阻止されて拘束される状態となる。
【0015】
図2および図3に例示するように固定装置1は、移動体3と接触可能に構成されるストッパ部材6と、このストッパ部材6と着脱可能に構成される受け部材7と、ストッパ部材6と受け部材7とを固定する連結部材8とを備えている。
【0016】
図3に例示するようにこの実施形態ではストッパ部材6は、平面視で台形状の係合凸部6aを有している。係合凸部6aの側部には一対の接触面6bが形成されている。移動方向xにおいて係合凸部6aの両端または両端近傍となる位置に一対の接触面6bは形成されている。接触面6bは移動方向xおよび幅方向yのいずれに対しても交差する面で構成されている。接触面6bは上下方向zに対しては平行となる面で構成されている。
【0017】
ストッパ部材6は移動体3と当接可能に構成される当接面6cを有している。この実施形態では当接面cは移動方向xと直交する面および幅方向yと直交する面の二つの面で構成されている。移動体3が移動方向xおよび幅方向yのいずれに移動する場合であっても、ストッパ部材6の当接面6cが移動体3と当接して、移動体3を拘束する。
【0018】
この実施形態では受け部材7は、分離した一対の部材で構成されている。受け部材7はストッパ部材6の係合凸部6aに対応する係合凹部7aを有している。係合凹部7aの側部には、係合凸部6aの接触面6bと接触する被接触面7bが形成されている。移動方向xにおいて間隔を開けて配置される一対の部材の内側となる位置に被接触面7bは形成されている。被接触面7bは接触面6bと同様に移動方向xおよび幅方向yのいずれに対しても交差する面で構成されている。被接触面7bは上下方向zに対しては平行となる面で構成されている。ストッパ部材6と受け部材7との連結部分は、係合凸部6aと係合凹部7aとで構成されている。
【0019】
この実施形態では連結部材8は、平面視で長方形状となる板状部材8aを有している。板状部材8aは上下方向zに貫通する複数のボルト穴8bを有している。このボルト穴8bに対応する複数のボルト8cを連結部材8は有している。
【0020】
ボルト穴8bを貫通したボルト8cは、ストッパ部材6および受け部材7の上面にそれぞれ形成されているボルト穴に固定可能に構成されている。図2に例示するように連結部材8によりストッパ部材6および一対の部材で構成される受け部材7は相互に固定される状態となる。ストッパ部材6と受け部材7とが連結されているこの状態を、固定装置1の固定状態という。固定装置1が固定状態のときは係合凸部6aの接触面6bと係合凹部7aの被接触面7bとが互いに接触している状態となる。他方で図3に例示するようにストッパ部材6と受け部材7とが離間している状態を、固定装置1の固定解除状態という。固定装置1が固定解除状態のときは接触面6bと被接触面7bとは接触していない状態となる。
【0021】
ストッパ部材6および受け部材7に板状部材8aを固定する構成は、ボルト8cに限定されない。ストッパ部材6等に板状部材8aの固定を維持できて且つ取り外しが容易となる構成を有していればよい。例えば割りピン等を利用して板状部材8aをストッパ部材6等に固定する構成にしてもよい。
【0022】
連結部材8の構成は上記に限定されない。ストッパ部材6と受け部材7との固定を強化してこの状態を維持しやすくする構成を有していればよい。
【0023】
図2に例示するように固定装置1は、ストッパ部材6および受け部材7および連結部材8が互いに固定される固定状態で、クレーンに設置される。
【0024】
図1に例示するようにクレーン構造体2におけるトロリ等の移動体3の停止位置が決定された後に、移動体3と接触する状態で固定装置1が配置される。固定装置1と移動体3との間に隙間がある状態で固定装置1が配置されてもよいが、隙間なく固定装置1が配置される方が望ましい。クレーン構造体2に対する移動体3の固定をより確実にできるためである。
【0025】
この実施形態では平面視で移動体3の四隅に対応する位置にそれぞれ固定装置1が配置されている。この場合、四つの固定装置1により移動体3が拘束される。固定装置1を配置する位置は、これに限定されない。例えば平面視で移動体3の対角上にある一対の隅に固定装置1を配置してもよい。この場合、二つの固定装置1により移動体3が拘束される。移動体3が例えば岸壁クレーンのトロリで構成される場合は、ガーダの陸側端部まで移動体3を移動させてこれ以上陸側に移動できない位置に移動体3を停止させる。その後、移動体3の海側となる一対の隅に固定装置1を配置する構成としてもよい。この場合、二つの固定装置1により移動体3が拘束される。
【0026】
図4に例示するように固定装置1は、ストッパ部材6の当接面6cがトロリ等の移動体3と当接可能となる位置に配置される。望ましくは移動体3に二つの当接面6cがいずれも接触する状態で固定装置1が配置される。固定装置1の位置が決まった後に、ガーダ等のクレーン構造体2に受け部材7が溶接で固定される。平面視において受け部材7の周囲には溶接部9が形成される。このときクレーン構造体2に対して受け部材7のみが溶接で固定されて、ストッパ部材6および連結部材8は溶接されない。
【0027】
固定装置1の設置はクレーンの製造工場で行うことができる。製造工場では設備が充実しているため、高所作業であっても比較的容易に固定装置1の設置を行うことができる。固定装置1は溶接により固定される。そのため固定装置1が固定される位置は、移動体3の位置に合わせて適宜変更することができる。
【0028】
固定装置1の受け部材7をクレーン構造体2に固定する方法は溶接に限定されない。クレーン構造体2および受け部材7に予めボルト穴を形成しておいて、ボルトにより固定する構成にしてもよい。
【0029】
固定装置1の溶接等による固定が完了した後に、クレーンは船舶等に搭載されて輸送される。輸送中に移動体3が移動方向xに移動しようとすると、移動体3は移動方向xと交差する面で構成される当接面6cと接触して移動を阻止される。移動体3が幅方向yに移動しようとすると、移動体3は幅方向yと交差する面で構成される当接面6cと接触して移動を阻止される。クレーンの輸送時には、移動体3は移動方向xおよび幅方向yにおいて固定される状態となる。
【0030】
図5に例示するようにコンテナヤードなどの目的地までクレーンが輸送された後に、固定装置1による移動体3の固定が解除される。ボルト8cを取り外すことで連結部材8による固定が解除されて、ストッパ部材6と受け部材7との連結が解除可能な状態となる。ストッパ部材6は上方に引き抜かれて、受け部材7から離間する状態となる。ストッパ部材6と受け部材7とが離間して固定装置1は固定解除状態となる。固定装置1が固定解除状態のとき、移動体3は移動可能な状態となる。他方でストッパ部材6と受け部材7とが連結されているとき、固定装置1は固定状態となる。固定装置1が固定状態のとき、移動体3は移動不可能な状態となる。
【0031】
受け部材7は固定装置1が固定解除状態となった後であってもクレーン構造体2から除去されない。受け部材7はガーダ等のクレーン構造体2に固定されたままとなる。そのためトロリ等の移動体3の移動を妨げない位置に受け部材7は溶接等で固定される構成となる。コンテナヤードなどの目的地に据え付けられたクレーンが荷役作業等を行う際に、クレーンの動作を妨げない位置に受け部材7は設置される。
【0032】
この実施形態では、ボルト8cの除去作業およびストッパ部材6を受け部材7から離間させる作業のみでトロリ等の移動体3の固定を解除できる。つまりボルト8cの除去作業等のみで固定装置1を固定状態から固定解除状態に切り替えることができる。
【0033】
固定装置1によれば、従来必要であったガス切断のための機器等の準備が不要となる。ガス切断の機器等の運搬やガス切断の作業も不要となり、塗装等の後処理も不要となる。固定装置1を利用することで、クレーンの輸送完了後に行われるトロリ等の移動体3の固定解除の作業が極めて容易となる。
【0034】
ストッパ部材6は、受け部材7と係合されるのみで、クレーン構造体2や移動体3に溶接等で固定されない。そのため受け部材7からストッパ部材6を取り除いた後の後処理等は不要となる。また受け部材7はクレーン構造体2から取り除くことなくそのまま残されるため、後処理等は不要となる。
【0035】
ストッパ部材6や連結部材8は、受け部材7に対して着脱可能に構成されているため、再利用が可能となる。クレーンを再度輸送する場合であっても、ストッパ部材6等を設置することでトロリ等の移動体3を固定することができる。
【0036】
上記では移動体3の移動方向xと幅方向yとを拘束する固定装置1の例を説明した。固定装置1は、クレーン構造体2等に固定される際の方向を変更されることで、例えば移動体3の移動方向xと上下方向zとを拘束することも可能となる。上下方向zにおいてトロリ等の移動体3を拘束することで、クレーンの輸送時におけるトロリの浮き上がりを防止できる。二つ以上の固定装置1を組み合わせて配置することで、移動方向xと幅方向yと上下方向zの三方向において移動体3を固定する構成にしてもよい。
【0037】
移動体3はトロリに限らない。クレーンに移動可能に設置されている機器等であればよい。例えばガーダに沿って移動可能に構成される運転室や、ガーダに沿って移動するとともにクレーンに張設されるロープを支持するカテナリトロリも移動体3に含まれる。上記の場合は運転室やカテナリトロリの移動する方向が移動方向xとなり、幅方向yまたは上下方向zが移動方向xに直交する方向となる。
【0038】
岸壁クレーン等において、ガーダに対して起伏可能に連結されているブームも移動体3に含まれる。固定装置1がガーダとブームとの間に設置されて、倒伏状態のブームを固定装置1が拘束する構成にしてもよい。ブームは倒伏した状態で拘束される。ブームを起立した状態で輸送する場合には、起立状態のブームを固定装置1が拘束する構成にしてもよい。移動体3がブームで構成される場合は、ガーダに対するブームの傾動方向が移動体3の移動方向xとなる。
【0039】
図6および図7に例示するようにストッパ部材6の当接面6cが移動体3の移動方向xにのみ交差する面で構成されてもよい。この実施形態の固定装置1は、トロリ等の移動体3を移動方向xにおいてのみ拘束する。ストッパ部材6の当接面6cは、幅方向yおよび上下方向zに平行な面で構成されている。
【0040】
平面視で長方形状に形成される受け部材7は、その周囲を溶接部9で囲まれる状態となっている。受け部材7は溶接によりクレーン構造体2に固定されている。
【0041】
図7に例示されるようにストッパ部材6は直方体形状の部材で構成されている。受け部材7は、直方体形状の部材で構成されるととともに幅方向yに受け部材7を貫通する貫通孔で構成される係合凹部7aを有している。直方体形状に形成される受け部材7は、その底面の周囲に溶接部9が配置されてクレーン構造体2等に固定される。
【0042】
係合凹部7aにストッパ部材6が挿入されることで、ストッパ部材6と受け部材7とが連結された固定状態となる。ストッパ部材6において係合凹部7aに挿入される部分が、係合凸部6aとなる。移動方向xに直交する面で構成される接触面6bが係合凸部6aに形成されている。接触面6bと対応する面として係合凹部7aにも移動方向xに直交する面で構成される被接触面7bが形成されている。図7では説明のため接触面6bとそれ以外の領域との境界を破線で示している。
【0043】
この実施形態の固定装置1は連結部材8を備えていない。ストッパ部材6は容易には脱落しない程度に受け部材7と係合していればよい。
【0044】
固定装置1を固定解除状態とする際には、ストッパ部材6を幅方向yに沿ってスライドさせることで、受け部材7からストッパ部材6を離間させる。ハンマー等でストッパ部材6を幅方向yに叩くことで、固定装置1の固定状態を固定解除状態に容易に切り替えることができる。
【0045】
受け部材7がトロリなどの移動体3に溶接等で固定されて、ストッパ部材6がガーダなどのクレーン構造体2に当接する構成としてもよい。この構成により固定装置1は移動体3をクレーン構造体2に固定することができる。つまりクレーン構造体2または移動体3のいずれか一方側に受け部材7が固定されて、他方側にストッパ部材6が当接可能となる状態で、固定装置1はクレーンに設置されていればよい。
【0046】
固定装置1を固定解除状態とした後に受け部材7はクレーンに設置されたままの状態となる。受け部材7はクレーンに残されたままの状態となる。クレーン構造体2または移動体3のいずれか都合のよい方に受け部材7が残される構成にすることができる。
【0047】
図8および図9に例示するようにストッパ部材6の係合凸部6aが、平面視で受け部材7に向かって移動方向xに拡大していく略台形形状を有する構成としてもよい。受け部材7の係合凹部7aは、この係合凸部6aに対応する形状を有している。係合凹部7aは、平面視でストッパ部材6に向かって移動方向xに縮小していく略台形形状を有している。ストッパ部材6は移動方向xに交差する当接面6cと幅方向yに交差する当接面6cとの二つの面を有している。ストッパ部材6は移動方向xおよび幅方向yにおいて移動体3を拘束する。
【0048】
係合凸部6aに形成される一対の接触面6bは、移動方向xおよび幅方向yに交差するとともに上下方向zに平行となる面で構成されている。同様に係合凹部7aに形成される一対の被接触面7bは、移動方向xおよび幅方向yに交差するとともに上下方向zに平行となる面で構成されている。
【0049】
図8に例示するようにストッパ部材6と受け部材7とが連結されている状態のとき、ストッパ部材6は幅方向yの力を受けても受け部材7から離間することはない。ストッパ部材6は移動方向xの力を受けても受け部材7から離間することはない。固定装置1が連結部材8を有さない構成であっても、ストッパ部材6と受け部材7との連結を維持しやすくなる。
【0050】
図9に例示するようにストッパ部材6は上下方向zにおける上方に引き抜かれることで、受け部材7から離間することが可能となる。受け部材7からストッパ部材6を離間させる際にストッパ部材6を移動させる方向は、ストッパ部材6が移動体3を拘束する方向と異なる方向に設定されることが望ましい。この実施形態では連結を解除する際にストッパ部材6を移動させる方向が上下方向zであり、ストッパ部材6が移動体3を拘束する方向は移動方向xおよび幅方向yとなる。移動体3の移動にともない発生する力により、受け部材7からストッパ部材6が離間して固定装置1が固定状態から固定解除状態に意図せずに切り替わる不具合を回避しやすくなる。
【0051】
ストッパ部材6または受け部材7の少なくとも一方に永久磁石が配置されていて、この永久磁石の磁気によりストッパ部材6と受け部材7との連結を維持しやすくする構成にしてもよい。
【0052】
図10に例示するようにストッパ部材6に係合凹部6dが形成されて、受け部材7に係合凸部7cが形成される構成としてもよい。受け部材7は平面視で略長方形に形成されていて、ストッパ部材6と対向しない一辺に沿ってのみ溶接部9が形成されている。図10は固定装置1の固定解除状態を示している。図10では説明のため固定状態のときのストッパ部材6の位置を破線で示している。
【0053】
受け部材7が係合凸部7cを有する構成とすることで、受け部材7を比較的小さく構成しやすくなる。固定装置1による固定が解除された後に、クレーン構造体2に残されている受け部材7を比較的小さくすることが可能となる。クレーンが荷役作業等を行う際に、受け部材7が移動体3の移動を妨げる不具合を回避しやすくなる。そのためクレーンにおいて固定装置1の設置を可能とする場所の選択肢が増加する。
【0054】
他方で図5に例示する実施形態のように受け部材7が係合凹部7aを有する構成とした場合は、クレーン構造体2に対して受け部材7を固定する溶接部9の範囲を広くしやすくなる。受け部材7をクレーン構造体2により強固に固定するには有利である。
【0055】
図10に例示する実施形態ではストッパ部材6の当接面6cが、移動体3の移動方向xおよびこの移動方向xに直交する幅方向yのいずれに対しても交差する一つの面で構成されている。また係合凹部6dおよび係合凸部7cを構成する接触面および被接触面は、移動方向xに交差する面とこの移動方向xに直交する幅方向yに交差する面との二種の面でそれぞれ構成されている。この構成によれば固定装置1は、移動体3の移動方向xおよび幅方向yの移動を阻止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 固定装置
2 クレーン構造体
3 移動体
4 車輪
5 レール
6 ストッパ部材
6a 係合凸部
6b 接触面
6c 当接面
6d 係合凹部
7 受け部材
7a 係合凹部
7b 被接触面
7c 係合凸部
8 連結部材
8a 板状部材
8b ボルト穴
8c ボルト
9 溶接部
x 移動方向
y 幅方向
z 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10