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特許7404502ナトリウム遷移金属リン酸塩及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ナトリウム遷移金属リン酸塩及びその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20231218BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231218BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20231218BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231218BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M10/054
H01M10/36 A
H01M10/0566
C01B25/45 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022504400
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007957
(87)【国際公開番号】W WO2021177305
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2020037424
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】喜多條 鮎子
(72)【発明者】
【氏名】山下 真歩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 渉
(72)【発明者】
【氏名】高原 俊也
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-027733(JP,A)
【文献】特開2019-175830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムチタンリン酸塩と、
前記ナトリウムチタンリン酸塩を被覆する、リン酸ナトリウムを含む被覆層と、
を有するナトリウムチタンリン酸塩組成物であって、
前記リン酸ナトリウムを含む被覆層が、前記ナトリウムチタンリン酸塩に対して0質量%を超え5質量%未満である、ナトリウムチタンリン酸塩組成物。
【請求項2】
前記ナトリウムチタンリン酸塩が、一般式Na1+xTi(PO(但し、0≦x≦2)で表される請求項1に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物
【請求項3】
前記ナトリウムチタンリン酸塩の結晶構造がナシコン型結晶構造である請求項1又は2に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物
【請求項4】
被覆層の厚みが、0nmを超え50nm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物
【請求項5】
ナトリウムチタンリン酸塩と、被覆層の前駆体との混合物を焼成する工程、を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体が、炭酸ナトリウム及びリン酸水素二アンモニウムである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物を含む負極活物質。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のナトリウムチタンリン酸塩組成物を含む負極と、正極及び電解液を備えるナトリウム二次電池。
【請求項9】
前記電解液が水系電解液である請求項8に記載のナトリウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナトリウム遷移金属リン酸塩及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルであるリチウムを使用しないナトリウム二次電池は、資源やコスト面で優位であることのみならず、新規材料の適用やハイレート充放電特性に優れる可能性を持つ。
これまでのナトリウム二次電池では、現行のリチウム二次電池と同様な電解液、主として非水系の電解液、を備えたものが検討されてきた。
最近になって、水系電池の最大のウイークポイントであった水の分解に由来する1.23Vの狭い電位窓が、電解質の高濃度化によって2V超えることが報告され(非特許文献1)、水系ナトリウム二次電池の実用化への期待が高まっている。
特に、電池の大型化に対しては、コストや安全確保の点から、水系の電解液を使用する水系ナトリウム二次電池が好適と言える。
水系ナトリウム二次電池実用化のもうひとつの課題である負極材料に関しては、ナシコン型NaTi(POが機能することが見出されているが、サイクル安定性が低くその改善が課題となっている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Ruben-Simon et al, ACS Energy Letters,2,2005(2017)
【文献】Sun Il Park et al, Jouranal of The Electrochemical Society,158(10)A1067-A1070(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ナトリウム遷移金属リン酸塩、更には、従来の水系ナトリウム二次電池と比べて、サイクル安定性が優れるナトリウム二次電池を与える負極活物質、及びこれを備えるナトリウム二次電池の少なくともいずれかを提供することを目的とし、特に、ナシコン型NaTi(POを負極活物質として備えた従来の水系ナトリウム二次電池と比べてサイクル安定性が高い水系ナトリウム二次電池を与える負極活物質を提供すること、を別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、ナトリウム含有リン酸塩で被覆したナトリウム遷移金属リン酸塩組成物が、従来知られているナトリウム二次電池負極材料に比べてサイクル安定性に優れ、これを負極に用いることで、サイクル安定性に優れるナトリウム二次電池が構成できることを見出した。
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載のとおりであり、本開示の要旨は以下のとおりである。
【0006】
[1] リン酸ナトリウムを含む被覆層を有することを特徴とするナトリウム遷移金属リン酸塩。
[2] 前記ナトリウム遷移金属リン酸塩が、一般式Na1+xTi(PO(但し、0≦x≦2)で表されるナトリウムチタンリン酸塩である上記[1]に記載のナトリウム遷移金属リン酸塩。
[3] 前記ナトリウム遷移金属リン酸塩の結晶構造がナシコン型結晶構造である上記[1]又は[2]に記載のナトリウム遷移金属リン酸塩。
[4] 前記リン酸ナトリウムを含む被覆層が、ナトリウム遷移金属リン酸塩に対して0質量%を超え5質量%未満である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のナトリウム遷移金属リン酸塩。
[5] 被覆層の厚みが、0nmを超え50nm以下である上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のナトリウム遷移金属リン酸塩。
[6] ナトリウム遷移金属リン酸塩と、被覆層の前駆体との混合物を焼成する工程、を有する上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のナトリウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
[7] 前記前駆体が、炭酸ナトリウム及びリン酸水素二アンモニウムである上記[6]に記載の製造方法。
[8] 上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のナトリウム遷移金属リン酸塩を含む負極活物質。
[9] 上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のナトリウム遷移金属リン酸塩を含む負極と、正極及び電解液を備えるナトリウム二次電池。
[10] 前記電解液が水系電解液である上記[9]に記載のナトリウム二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、ナトリウム遷移金属リン酸塩、更には、従来の水系ナトリウム二次電池と比べて、サイクル安定性が優れるナトリウム二次電池を与える負極活物質、及びこれを備えるナトリウム二次電池の少なくともいずれかを提供することができる。さらには、ナシコン型NaTi(POを負極活物質として備えた従来の水系ナトリウム二次電池と比べてサイクル安定性が高い水系ナトリウム二次電池を与える負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1、比較例1及び2のナトリウム遷移金属リン酸塩のXRDパターン(a:比較例1、b:実施例1、c:比較例2、d:PDFパターン(ICDD:33-1296 NaTi(PO)を示す図である。
図2図2は、実施例1のNaTi(POのTEM観察図(a:全体図、b:拡大図)を示す図である。
図3図3は、実施例1、比較例1及び2の充放電曲線(a:比較例1、b:実施例1、c:比較例2)を示す図である。
図4図4は、実施例1、比較例1及び2のサイクル維持率のグラフ(○:比較例1、△:実施例1、▽:比較例2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のナトリウム遷移金属リン酸塩について、実施形態の一例を示して説明する。
【0010】
<ナトリウム遷移金属リン酸塩>
本実施形態はリン酸ナトリウムを含む被覆層を有することを特徴とするナトリウム遷移金属リン酸塩である。リン酸ナトリウムを含む被覆層を有することで、ナトリウム遷移金属リン酸塩(以下、「NaMP塩」ともいう。)の表面におけるナトリウムイオン(Na)の拡散がしやすくなる。
本実施形態におけるNaMP塩は、ナトリウム及び遷移金属を含むリン酸化合物であり、ナトリウムチタンリン酸塩であることが更に好ましく、一般式Na1+xTi(PO(但し、0≦x≦2)で表されるナトリウムチタンリン酸塩であることがより好ましく、NaTi(POであること(すなわち、一般式Na1+xTi(PO)においてx=0であること)が更に好ましい。本実施形態において、NaMP塩の組成は、公知の組成分析方法、例えば、誘電結合プラズマ発光分析、原子吸光分析、TEM-EDSなどから求めることができる。
本実施形態のNaMP塩は、結晶構造がナシコン型結晶構造であること(いわゆるナシコン型NaMP塩、であること)が好ましい。ナシコン型結晶構造の同定は、本実施形態のNaMP塩のXRDパターンと、PDFパターン(ICDD:33-1296 NaTi(PO)との対比により行うことができる。
【0011】
本実施形態のNaMP塩は、リン酸ナトリウムを含む被覆層(以下、単に「被覆層」ともいう。)を有する。これにより、リン酸ナトリウムと、NaMP塩を物理的に混合して得られる混合物では示すことのない、高いサイクル安定性を示す。被覆層は、ナトリウムの拡散を阻害しない状態で、NaMP塩の少なくとも一部にあればよく、NaMP塩の表面の少なくとも一部にあることが好ましい。被覆層がNaMP塩の少なくとも一部にある形態としては、少なくとも、NaMP塩とリン酸ナトリウムとの界面を介して両者が存在していること、すなわち被覆層がNaMP塩と界面を形成していること、が挙げられる。NaMP塩とリン酸ナトリウムとが界面を有する結果、被覆層を有さないNaMP塩と同等のナトリウムの拡散係数を示すと考えられる。本実施形態のNaMP塩のナトリウムの拡散係数は、例えば、後述する測定例で示す方法により測定される値として、酸化反応時及び還元反応時のナトリウムの拡散係数が3.0×10-10cm/秒以上であること、が例示できる。
被覆層は、NaMP塩の全面を覆っている必要はなく、海島状であってもよい。すなわち、被覆層は、NaMP塩の表面の少なくとも一部に存在するリン酸ナトリウム及びリン酸ナトリウム含有組成物の少なくともいずれか、好ましくはリン酸ナトリウム、であればよい。
被覆層に含まれるリン酸ナトリウムは、一般式NaPOで表されるリン酸ナトリウムであることが好ましい。被覆層は、リン酸ナトリウムを含んでいればよく、遷移金属元素を含まないことが好ましく、く、被覆層は該リン酸ナトリウムからなることがより好ましい。 本実施形態のNaMP塩は、被覆層をその表面の全部又は少なくとも一部に有していればよく、被覆層を少なくとも一部に有していればよい。また、NaMP塩粒子の表面の全部又は少なくとも一部、好ましくは表面の少なくとも一部に、リン酸ナトリウムを有していればよい。被覆層に含まれるリン酸ナトリウムの性状には特に制限はなく、結晶質及び非晶質の少なくともいずれかであること、更には緻密性及び多孔性の少なくともいずれかであること、が例示できる。さらに、被覆層は、NaMP塩の表面上におけるナトリウム源及びリン源の反応により生成した状態のリン酸ナトリウムを含むことが好ましい。これにより、充放電サイクルにおける分極(ヒステリシス)が抑制されやすくなる。被覆膜の存在は、TEM観察(透過型電子顕微鏡観察)により確認できる。図2で示すように、TEM観察において、被覆層は、NaMP塩と異なる視野像として観察され、被覆層はNaMP塩よりも濃い色調の視野像として観察される。
【0012】
ナトリウムイオン(Na)が拡散しやすくなる傾向があるため、本実施形態における被覆層の割合(以下、「被覆量」ともいう。)は、NaMP塩に対して0質量%を超え5質量%未満、更には0.01質量%以上3質量%以下、また更には0.1質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。被覆量の測定方法は任意であるが、例えば、組成分析による被覆層の形成前後の差分から算出する方法やTEM-EDSによる定量分析が挙げられる。被覆量が5質量%以上であると、ナトリウムの拡散を阻害しない状態の被覆層が形成されず、ナトリウムイオンの拡散係数が著しく低下する。
被覆層の厚みは任意であるが、ナトリウムの拡散を阻害しない程度の厚みであればよい。被覆層の厚みとして、例えば0nmを超え50nm以下、更には5nm以上40nm以下、又は0.1nm以上5nm以下が挙げられる。被覆層の厚みはTEM観察により求めることができ、TEM観察図において観察される被覆層の厚み(すなわち、TEM観察図において被覆層が確認でき、なおかつ、該TEM観察図で観察される被覆層の最大厚み)は0nm超又は0.1nm以上であり、かつ、50nm以下、40nm以下、5nm以下又は3nm以下、であることが挙げられる。
本実施形態のNaMP塩は、これを負極活物質として備えるナトリウム二次電池とした場合に、高いサイクル安定性をします。例えば、ナトリウム二次電池を使用した充放電サイクル試験における、充放電サイクル試験における1サイクル目の放電容量に対する、50サイクル目の放電容量の割合(%)が80%を超え又は85%となることが挙げられる。以下、ナトリウム二次電池の構成及び充放電サイクル試験の条件を示す。
(ナトリウム二次電池)
電解液 :17mol/kg NaClO水溶液
正極 :NaMP塩70質量%、アセチレンブラック25質量%、及び、
ポリテトラフルオロエチレン5質量%からなる正極
負極 :NaNi[Fe(CN)]70質量%、アセチレンブラック25質量%、及び、
ポリテトラフルオロエチレン5質量%からなる負極
(充放電サイクル試験条件)
電流密度 :2mA/cm
電圧 :-0.9V~-0.3V(vs Ag/AgCl参照極)
充放電温度:25℃
【0013】
<被覆層の形成>
本実施形態のNaMP塩の製造方法は任意であるが、NaMP塩と、被覆層の前駆体との混合物を焼成する工程、を有する製造方法、が挙げられる。これにより、NaMP塩被覆層を形成することができる。
被覆層の前駆体(以下、単に「前駆体」ともいう。)は、ナトリウム源及びリン酸源となるもの、又は、ナトリウム源及びリン酸源の少なくともいずれかとなるもの、であればよい。ナトリウム源は、ナトリウム(Na)を含む化合物であればよく、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムの群から選ばれる1以上、更には炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムの少なくともいずれか、また更には炭酸ナトリウムであることが好ましい。また、リン酸源は、リン酸(PO)を含む化合物であればよく、ピロリン酸、ポリリン酸及びリン酸二水素アンモニウムの群から選ばれる1以上、更にリン酸二水素アンモニウムであることが好ましい。特に好ましい前駆体として、炭酸ナトリウム及びリン酸水素二アンモニウムが挙げられる。
前記混合物は、NaMP塩と、前駆体とを任意の方法で混合することで得られる。混合方法は湿式混合及び乾式混合の少なくともいずれか、更には湿式混合が例示できる。特に好ましい混合方法として、NaMP塩、前駆体及び溶媒を含む混合溶液を、撹拌した後又は撹拌しながら、乾燥させる方法が挙げられる。溶媒としては水及びアルコールの少なくともいずれか、更には水が例示できる。撹拌は、NaMP塩と各前駆体とが均一に混合される条件であればよく、前記混合溶液を撹拌数100~500rpmで撹拌することが例示でき、混合溶液量が多くなるほど撹拌数を多くすればよい。乾燥は、混合溶液から溶媒が除去できる条件であればよく、大気中、60℃以上又は70℃以上、また、150℃以下、120℃以下又は100℃以下であることが挙げられる。これにより、ナトリウム源及びリン源からなる前駆体が均一な状態でNaMP塩上に配置した混合物が得られる。
焼成の方法は、NaMP塩に被覆層が形成される条件であれば特に制限はないが、ナトリウム源及びリン源からリン酸ナトリウムが生成する条件があればよい。焼成の方法として、酸化雰囲気中、好ましくは大気中、400℃以上又は500℃以上、かつ、800℃以下又は750℃以下での処理が例示できる。リン酸ナトリウムとNaMP塩と混合及び熱処理したリン酸ナトリウムと比べ、NaMP塩の表面上におけるナトリウム源及びリン源の反応により生成したリン酸ナトリウムは、NaMP塩との相互作用が強いと考えられる。このような形態のリン酸ナトリウムを含む被覆層を有するNaMP塩を負極活物質とした場合に、サイクル安定性がより高くなると考えられる。
【0014】
<負極活物質>
次に、本開示のNaMP塩を含む負極活物質について実施形態の一例を示して説明する。
本実施形態において「負極活物質」とは、電気化学デバイスを構成する電極のうち電位の低い極の電極活物質であり、特にナトリウム二次電池の負極の電極活物質である。
本実施形態の負極活物質は、本実施形態のNaMP塩(すなわち、リン酸ナトリウムを含む被覆層を有するNaMP塩)を含み、本実施形態のNaMP塩のみ(すなわち、リン酸ナトリウムを含む被覆層を有するNaMP塩のみ)からなっていてもよい。一方、本実施形態の負極活物質は、本実施形態のNaMP塩以外の活物質、例えばナトリウム遷移金属化合物などの活物質、を含んでいてもよい。
本実施形態の負極活物質は、炭素層その他、負極活物質の表面の一部又は全部に被膜層、好ましくは導電性を有する被膜層(すなわち、導電層)、を有していてもよい。この場合において、被膜層は、リン酸ナトリウムを含む被覆層上に有されていてもよい。しかしながら、被膜層がNaMP塩の表面上に存在していてもよい。
【0015】
<ナトリウム二次電池>
次に、本開示のNaMP塩を含む負極と、正極及び電解液を備えることを特徴とするナトリウム二次電池について、実施形態の一例を示して説明する。
本実施形態において「ナトリウム二次電池」とは、ナトリウムイオン(Na)の挿入脱離により充放電が生じる電気化学デバイスであり、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム蓄電池、Na二次電池、Naイオン電池又はNa蓄電池等と同義である。
「非水系電解液」は溶媒として非水溶媒を含む電解液であり、「水系電解液」は溶媒として水溶媒を含む電解液である。
「非水系ナトリウム二次電池」は、電解液として非水系電解液を備えるナトリウム二次電池であり、「水系ナトリウム二次電池」は、電解液として水系電解液を備えるナトリウム二次電池である。
【0016】
<負極>
負極は、本実施形態のNaMP塩を含む負極活物質を含む負極合剤と、集電体とを備えていればよい。
負極合剤は、負極活物質、バインダー及び導電材、並びに、必要に応じて添加剤、を含む。バインダー、導電材及び添加剤は、それぞれ、公知のものを使用することができる。
バインダーは、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、SBR材料及びイミド材料の群から選ばれる1以上、更にはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)の群から選ばれる1以上が例示できる。
導電材は、炭素材料、金属繊維などの導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末、ポルフェニレン誘導体等の有機導電性材料から選ばれる1以上が例示できる。好ましい炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンが例示できる。
負極合剤は公知の方法で製造すればよく、負極活物質、バインダー及び導電材を所望の比率で混合すればよい。
【0017】
<正極>
正極は、正極活物質を含む正極合剤と集電体、必要に応じて添加剤を備えていればよい。
正極合剤は、正極活物質、バインダー及び導電材、並びに、必要に応じて添加剤、を含む。
正極活物質は、負極活物質のナトリウムイオンの挿入脱離を妨げない材料を含んでいればよく、ナトリウム含有遷移金属酸化物及びナトリウム含有ポリアニオン化合物及び炭素系材料の少なくともいずれかが例示できる。
バインダー及び導電材は公知のものであればよく、上記の負極合剤で使用できるバインダー及び導電材と同様であればよい。
正極合剤は公知の方法で製造すればよく、正極活物質、バインダー及び導電材を所望の比率で混合すればよい。
【0018】
<電解液>
電解液は、非水系電解液又は水系電解液のいずれかであり、水系電解液であることが好ましい。
電解質は、ナトリウム塩であり、可溶性のナトリウム塩が好ましい。好ましい電解質として、NaCl、NaSO、NaNO、NaClO、NaOH及びNaSの群から選ばれる1以上が例示できる。取り扱いの容易性から、電解質はNaCl、NaSO、NaNO及びNaClOの群から選ばれる1つ以上が好ましく、NaCl及びNaClOの少なくともいずれかであることがより好ましい。
電解液中の電解質濃度は特に制限はないが、ナトリウム二次電池としてのエネルギー密度を高くする観点から、電解液における電解質濃度(ナトリウム塩濃度)は高いことが好ましく、ナトリウム塩濃度として1mol/kg(1m)以上、飽和溶解度以下の濃度、が例示できる。
電解液は添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、特に限定されないが、コハク酸、グルタミン酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルコン酸、イタコン酸、ジグリコール、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、ジメチルスルホン及びN,N-ジメチルメタンスルホンアミドの群から選ばれる1以上が例示できる。添加剤の含有量は、電解液の質量に対する添加剤の質量割合として0.01質量%以上10質量%以下であることが例示できる。
【0019】
<その他の構成>
正極及び負極の集電体、セパレータなどの他の構成要素は、ナトリウム二次電池やリチウム二次電池で使用される公知のものが使用できる。
本実施形態のNaMP塩を含む負極を備えたナトリウム二次電池は、従来のナトリウム二次電池、特に負極活物質としてナシコン型NaTi(POを備えた従来の水系ナトリウム二次電池、と比べ、高いサイクル安定性を示す。
【実施例
【0020】
次に、本開示を実施例によって説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0021】
<結晶性の評価>
NaMP塩の結晶構造を、デスクトップX線解析装置(装置名:MiniFlex600/ASC-8、リガク社製)で、下記の条件にて同定した。
ターゲット :Cu
出力 :0.6kW(15mA-40kV)
ステップスキャン:0.02°(2θ/θ)
計測時間 :0.05秒
【0022】
<組成分析>
NaMP塩の組成は、試料50mgを、10mLの35%塩酸及び1mLの35%過酸化水素水を含む水溶液に溶解し、これをICP分析することで組成を求めた。また、被覆前後のNaMP塩の組成差をもって、被覆層の組成とした。
【0023】
<被覆層の観察>
透過型電子顕微鏡(装置名:JEM-2100、日本電子社製)、及び、サーマル電界放出形走査電子顕微鏡(装置名:JSM-7600F、日本電子社製)で行った。
【0024】
<ナトリウム二次電池>
(正極の作製)
正極活物質として立方体結晶構造のニッケルヘキサシアノフェレートNaNi([Fe(CN)]を使用した。NaNi([Fe(CN)]は以下の方法で合成した。すなわち、10mmolのNi(OCOCH・4HO 2.69gをHO 175mLおよびDMF(N,N-ジメチルホルムアミド。HCON(CH) 25mLに溶解し、第1溶液を得た。一方、10mmolのNa[Fe(CN)]・10HOの4.84gおよびNaClの7gをHO175mLに溶かして、第2溶液を得た。
第1溶液を第2溶液にゆっくり添加した後、室温で72時間、撹拌して反応させ沈殿物を得た。得られた沈殿物は、遠心分離して回収し、メタノールで洗浄した後、空気中で乾燥させて、立方体結晶構造のニッケルヘキサシアノフェレート(NaNi[Fe(CN)])を得た。
得られたNaNi([Fe(CN)]、アセチレンブラック(以下、「AB」ともいう。)及びポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)を、質量比70:25:5となるように混合した後、直径3mmのペレット状に成形し、これを正極(正極合剤)とした。
【0025】
(負極の作製)
負極活物質とABを質量比70:30となるように、遊星ボールミルを使用して、400rpm、1時間、Ar雰囲気下で混合を行い混合物を得た。その後、混合物を800℃、1時間、Ar気流下でカーボサーマル処理を行った後、AB及びPTFEを、質量比70:25:5で混合し、直径2mmのペレット状に成形し、これを負極(負極合剤)とした。
【0026】
(水系ナトリウム二次電池の作製)
作用極(正極に相当する極)に正極合剤、対極(負極に相当する極)に負極合剤、参照極に塩化銀電極(Ag/AgCl)、及び、電解液に電解質濃度(NaClO濃度)17mのNaClO水溶液を備えた水系ナトリウム二次電池を作製した。
【0027】
(NaMP塩の合成)
<実施例1>
Ti(OCHCHCHCHを溶解したエタノール溶液40mLに、NaCO3、NHPO及びTiの2倍モル量のクエン酸を加えて得られた混合溶液を500rpmで撹拌しながら60℃で30分、続いて80℃で1~2時間で蒸発乾固させた。その後、大気中、350℃で5時間加熱してNaTi(POを得た。
得られたNaTi(PO粉末2g、炭酸ナトリウム39mg、リン酸水素二アンモニウム87mg及び蒸留水2gを混合した混合水溶液を、300rpmで撹拌しながら120℃で加熱して蒸発乾固させた。蒸発乾固後の混合物を、大気中、700℃で12時間焼成して、2質量%のNaPOからなる被覆層を有するナシコン型構造のNaTi(PO(ナシコン型NaTi(PO)を得た。
【0028】
<実施例2>
蒸発乾固の温度を100℃としたこと以外は実施例1と同様な方法により、2質量%のNaPOからなる被覆層を有するナシコン型構造のNaTi(POを得た。
【0029】
<実施例3>
蒸発乾固の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様な方法により、2質量%のNaPOからなる被覆層を有するナシコン型構造のNaTi(POを得た。
【0030】
<比較例1>
実施例1と同様な方法でNaTi(POを得、これを大気中、700℃で12時間焼成し、ナシコン型構造のNaTi(PO、すなわち、NaPOからなる被覆層を有さないNaMP塩、を得た。
【0031】
<比較例2>
得られたNaTi(PO粉末2g、炭酸ナトリウム96mg、リン酸水素二アンモニウム218mg及び蒸留水2gを混合した混合水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、5質量%のNaPOからなる被覆層を有するナシコン型構造のNaTi(POを得た。
【0032】
<比較例3>
炭酸ナトリウムの3.9gとリン酸水素二アンモニウム8.7gと蒸留水20gを混合して得られた混合溶液を300rpmで撹拌しながら120℃で加熱して蒸発乾固させて、NaPOを得た。得られたNaPO 0.02g、実施例1と同様にして得られたNaTi(PO(被覆層を有さないNaTi(PO) 0.98g、蒸留水2gを混合して得られた混合溶液を300rpmで撹拌しながら120℃で加熱して蒸発乾固させた。これを大気中、700℃で12時間焼成して、ナシコン型構造のNaTi(POと、2質量%NaPOからなる混合物を得た。
【0033】
実施例及び比較例で得られたNaTi(POのXRDパターンを図1に示す。いずれもNaTi(POのXRDピークが確認された。また、図2に実施例1のNaTi(POのTEM観察図を示す。TEM観察により、NaTi(POの粒子の表面に、黒色で観察される被膜層が確認でき、NaTi(POは、その表面に0.5~1nmの被覆層を有することが確認できる。
【0034】
<測定例1>(充放電サイクル試験)
実施例又は比較例の負極活物質を備えた水系ナトリウム二次電池を使用し、以下の条件で充放電を繰返し、各充放電サイクルの放電容量を測定した。1サイクル目の放電容量に対する、50サイクル目の放電容量の割合(%)をサイクル維持率とし、これによりサイクル安定性を評価した。
電流密度 :2mA/cm
電圧 :-0.9V~-0.3V(vs Ag/AgCl参照極)
充放電温度:25℃
図3に1~3サイクルの充放電曲線を、充放電サイクル試験の結果を下表及び図4に示す。
【0035】
【表1】
表1より、実施例のNaTi(POは、サイクル維持率が高いことが確認できる。また、図3より、実施例1のNaTi(POは被覆層を有しているにも関わらず、被覆層を有していない比較例1と同等の充放電曲線の形状であり、被覆層の形成による分極がほとんどないことが分かる。
【0036】
<測定例2>(ナトリウムイオンの拡散係数)
実施例1、比較例1又は比較例3の負極活物質を備えた水系ナトリウム二次電池を使用し、以下の条件でサイクリックボルタメトリー測定を行った。
負極電位 :-0.9V~0.0V(vs Ag/AgCl参照極)
電位走査速度 :0.05、0.1、0.5、1mV/秒
充放電温度 :25℃
電位走査速度と得られた最大電流値(ピーク電流値)から、下式を用いて充電時及び放電時の負極のNaイオンの拡散係数を求めた。
Ip=2.69×103/2AD1/2CV1/2
ここで、Ipはピーク電流値(単位:A)、Aは負極の面積(単位:cm)、Dがナトリウムイオンの拡散係数(単位:cm/sec)、Cは電解液濃度(単位:mol/cm)、及び、Vは電位走査速度(単位:V/sec)である。
結果を下表に示す。
【0037】
【表2】
これらの結果より、実施例1及び比較例1のナトリウムイオンの拡散速度はほぼ同等であり、被覆層の形成によるナトリウムイオンの拡散性への影響がないことが分かる。被覆層を有しているにも関わらず、ナトリウムイオンの拡散係数が同等であることから、被覆層とNaMP塩とが単に物理的に接触している状態とは異なり、界面を形成していると考えられる。
本出願は、2020年3月5日に出願された日本特許出願である特願2020-037424号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願のすべての記載内容を援用する。
図1
図2
図3
図4