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特許7404606有機金属求核剤の製造方法、及び有機金属求核剤を用いる反応方法
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  • 特許-有機金属求核剤の製造方法、及び有機金属求核剤を用いる反応方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】有機金属求核剤の製造方法、及び有機金属求核剤を用いる反応方法
(51)【国際特許分類】
   C07B 49/00 20060101AFI20231219BHJP
   C07F 3/02 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 29/40 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 45/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 1/32 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 45/69 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 29/44 20060101ALI20231219BHJP
   C07F 3/04 20060101ALI20231219BHJP
   C07F 13/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20231219BHJP
   C07D 209/88 20060101ALI20231219BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20231219BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C07B49/00
C07F3/02 B CSP
C07C29/40
C07C45/00
C07F7/08 C
C07C1/32
C07C41/30
C07C45/69
C07C29/44
C07F3/04
C07F13/00 A
C07F7/18 E
C07D209/88
C07D333/76
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022551338
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012524
(87)【国際公開番号】W WO2022196796
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021046299
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日:2021年 3月 4日 掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event-img/csj101st/A15-4am-05/public/pdf?type=in
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「レドックスメカノケミストリーによる固体有機合成化学」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩司
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-112501(JP,A)
【文献】特表2016-525504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0161505(US,A1)
【文献】特開2008-174472(JP,A)
【文献】特開昭57-073010(JP,A)
【文献】梅野正行 ほか,グリニャール反応の応用,有機合成化学,1980年,Vol.38, No.12,pp.1196-1209
【文献】TAKAHASHI,R. et al.,Mechanochemical synthesis of magnesium-based carbon nucleophiles in air and their use in organic syn,Nature Communications,2021年11月18日,Vol.12, No.1,pp.1-10,DOI:10.1038/s41467-021-26962-w
【文献】WADDELL,D.C. et al.,Conducting moisture sensitive reactions under mechanochemical conditions,Tetrahedron Letters,2012年,Vol.53, No.34,pp.4510-4513,DOI:10.1016/j.tetlet.2012.06.009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 49/00
C07F
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、有機金属求核剤の製造方法。
【請求項2】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに有機カルボニル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法。
【請求項3】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法。
【請求項4】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに求電子剤を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
【請求項5】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
【請求項6】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらにニッケル触媒及びスルホン酸エステル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法。
【請求項7】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物及びニッケル触媒の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法。
【請求項8】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに共役エノン化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
【請求項9】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法により得られ、ハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物を含み、前記エーテル化合物の含有量が前記ハロゲン化有機金属化合物1当量に対して0.5~10当量である、組成物。
【請求項11】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる方法により得られる組成物であって、少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成される、下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは2~12の整数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体を含む組成物
【請求項12】
少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成され下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは2、4、6又は8である。)
で表され
下記(A1)~(A4);
で示される立方晶構造及び/又は局所安定構造のハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体。
【請求項13】
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる方法により得られる有機金属求核剤であって、前記有機ハロゲン化物は、前記エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満である、前記有機金属求核剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノケミカル法を利用した、新規な有機金属求核剤の製造方法に関する。また、メカノケミカル法を利用した、有機金属求核剤を用いる反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属求核剤としては、例えば、グリニャール(Grignard)試薬(RMgX)が広く知られている。グリニャール試薬は、1900年にヴィクトル・グリニャールによって発見されて以降、現代有機合成の中で最も使用されている炭素求核剤のひとつである。特にグリニャール試薬とカルボニル化合物との反応は、炭素-炭素結合形成反応の先駆けと言える反応であり、アルコール類を合成する上で大変重要である。しかし、既存のグリニャール試薬をはじめとする有機金属求核剤の製造方法及びそれを用いる反応方法は、窒素などの不活性ガス中、厳密な禁水条件下で行われなければならず、実用的な面で課題があった。さらに、有機溶媒を大量に使用する必要があり、環境負荷の低減の観点で改善の余地がある。
【0003】
反応原料同士を直接接触させ、有機溶媒を使用しない有機合成反応方法は、低環境負荷であり、学術的にも工業的にも興味深い。このような有機合成反応方法として、メカノケミカル法が注目されている。メカノケミカル法は、摩砕、せん断、衝撃、圧縮等の手段により機械的エネルギーを固体原料に対して加えることで、固体原料を活性化させて反応させる方法である。
【0004】
特許文献1には、メカノケミカル効果により官能基同士の反応を行うことで、繰返し単位を有する高分子化合物を製造する方法が記載されている。
特許文献2には、有機臭素化合物を、アルカリ金属水酸化物の存在下でメカノケミカル処理して、脱臭素化する方法が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、塩化アリール、マグネシウム及びn-ブチルアミンを混合し、ボールミルによるメカノケミカル法による脱塩素化が、グリニャール試薬を経由すると考えられることが記載されている。
非特許文献2には、ハロゲン化ナフタレンとマグネシウムとを無溶媒条件で、グローブボックス中でボールミルを用いるメカノケミカル法により反応させ、グリニャール試薬を得ることが記載されている。しかし、このグリニャール試薬とケトンとをメカノケミカル法により反応させた場合、予期せぬ反応も起きてしまい副生成物を含む反応混合物しか得ることができなかったとされている。
非特許文献3には、フルオロナフタレン、マグネシウム及び塩化鉄を無溶媒条件で、グローブボックス中でボールミルを用いるメカノケミカル法により反応させることが記載されている。しかし、カップリング反応物のビナフタレンの収率は20%台と非常に低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6733985号公報
【文献】特開2002-30003号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fresenius Environmental Bulletin,Vol.20,No.10a,P.2794-2805(2011)
【文献】Australian Journal of Chemistry,Vol.54,P.423-425
【文献】Molecules 2020,25,570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グリニャール試薬等の有機金属求核剤は、医薬、有機材料、食品、高分子等の分野において、種々の化合物・中間体を製造するために極めて有用であり、広く用いられている。
しかし、有機金属求核剤の製造に際しては、酸素及び水分(湿分)の影響を軽減するため、大掛かりな密閉空間装置で希ガス等を用いた不活性雰囲気とすることや、大量の乾燥有機溶媒(無水有機溶媒)を使用することが必要である。また、金属試薬表面の酸化被膜の除去等による反応試薬の活性化手段等についても考慮する必要がある。さらに、有機金属求核剤の取扱い、保管に際しては、Schlenk平衡等について考慮する必要がある。このため、環境負荷及び反応設備のコスト面等で改善が望まれていた。
また、グリニャール試薬は反応性に優れた有機金属求核剤であるものの、基質により反応収率が低い場合があった。
【0009】
本発明が解決しようとする第1の課題は、有機溶媒の使用を低減することで環境負荷が低減されており、雰囲気や水分(湿分)の調整を不要とすることで大掛かりな装置を用いることなく簡便な手段とされた、有機金属求核剤の製造方法を提供することである。
本発明が解決しようとする第2の課題は、有機金属求核剤と各種有機求電子剤との反応を、ワンポット方式等の効率的で簡便な手段で行うことができ、コスト面で有利な反応方法を提供することである。
本発明が解決しようとする第3の課題は、より反応性に優れた有機金属求核剤の簡便な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ボールミル等を用いたメカノケミカル法による有機合成反応が、有機溶媒を使用せず簡便に実施可能であることに着目した。
本発明者らの検討の結果、(a)有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応をボールミル中で行う際、反応系中にごく少量のエーテル化合物を添加することにより、目的の有機求核剤(有機マグネシウム求核剤/グリニャール試薬等)を、空気中、無溶媒条件下で効率よく生成し得ること、(b)このように調製した有機求核剤は、ワンポット方式でアルデヒドやケトン等の種々の求電子剤と反応し、対応する生成物を与えること、(c)このように調製した有機求核剤は、Ni触媒を用いたカップリング反応等の各種の反応にも応用できること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の有機金属求核剤の製造方法、アルコールの製造方法、付加反応方法及びカップリング方法を提供するものである。
[項1]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、有機金属求核剤の製造方法。
[項2]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに有機カルボニル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法。
[項3]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法。
[項4]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに求電子剤を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
[項5]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
[項6]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらにニッケル触媒及びスルホン酸エステル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法。
[項7]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物及びニッケル触媒の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法。
[項8]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて有機金属求核剤を製造し、さらに共役エノン化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
[項9]
有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法。
[項10]
項1に記載の方法により得られ、ハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物を含み、前記エーテル化合物の含有量が前記ハロゲン化有機金属化合物1当量に対して0.5~10当量である、組成物。
[項11]
項1に記載の方法により得られ、少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成される、下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは0より大きい数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体。
[項12]
少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成される、下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは0より大きい数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体。
[項13]
エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物を用い、項1に記載の方法により得られる、有機金属求核剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、有機溶媒の使用を低減することで環境負荷が低減されており、雰囲気や水分(湿分)の調整を不要とすることで大掛かりな装置を用いることなく簡便な手段とされた、有機金属求核剤の製造方法が提供される。
本発明により、有機金属求核剤と各種有機求電子剤との反応を、ワンポット方式等の効率的で簡便な手段で行うことができ、コスト面で有利な反応方法が提供される。
本発明により、より反応性に優れた有機金属求核剤の簡便な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例116においてメカノケミカル法で作製したPhMgBrと、溶液相で作製したPhMgBrのMg-K NEXAFSスペクトル。
図2】実施例116においてメカノケミカル法で作製したPhMgBrと、溶液相で作製したPhMgBrのC-K NEXAFSスペクトル。
図3】実施例116においてメカノケミカル法で作製した(PhMgBr)m-nTHF錯体の構造の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、有機金属求核剤の製造方法である。
本発明の第2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに有機カルボニル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法である。
本発明の第3の実施態様は、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、及び有機カルボニル化合物を、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法である。
本発明の第4の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第4の実施態様のうち、本発明の第4-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに求電子剤を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第4の実施態様のうち、本発明の第4-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
【0015】
本発明の第5の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物と、ニッケル触媒とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
第5の実施態様のうち、本発明の第5-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらにニッケル触媒及びスルホン酸エステル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
第5の実施態様のうち、本発明の第5-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物及びニッケル触媒の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
本発明の第6の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第6の実施態様のうち、本発明の第6-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに共役エノン化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第6の実施態様のうち、本発明の第6-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
本発明の第7の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる方法により得られ、ハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物を含み、エーテル化合物の含有量がハロゲン化有機金属化合物1当量に対して0.5~10当量である、組成物である。
本発明の第8の実施態様は、少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成される、下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは0より大きい数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体である。
本発明の第9の実施態様は、エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて得られる、有機金属求核剤である。
以下、本発明の各態様について、詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施態様]
本発明の第1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、有機金属求核剤の製造方法である。
【0017】
<有機ハロゲン化物>
本発明の有機金属求核剤の製造方法に用いられる有機ハロゲン化物は、下記の式(I)で表される化合物(I)である。
-X (I)
(式中、
は、置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基、置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかを表す。
Xは、各々独立して、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)又はI(ヨウ素)を表す。
mは、Xの数で1以上の整数を表す。)
化合物(I)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
化合物(I)は、市販品をそのまま又は精製して用いることができる。
【0018】
(式(I)中のA基)
{置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基}
における置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基の炭素数は特に限定されず、例えば6~60、好ましくは6~40、より好ましくは6~30である。
m価の芳香族炭化水素基において、mは1以上の整数であり、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
における置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基において、m=1である1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基(又はアントラセン基)、フェナントレニル基(又はフェナントレン基)、ビフェニル基、ターフェニル基、ピレニル基(又はピレン基)、ペリレニル基(又はペリレン基)、トリフェニレニル基(又はトリフェニレン基)、フルオレニル基等があげられる。
また、Aにおける置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基において、mが2以上の整数であるm価の芳香族炭化水素基としては、例えば、前記1価の芳香族炭化水素基中の芳香環から、m-1個の水素を除いたものがあげられる。
【0019】
{置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基}
における置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基の炭素数は特に限定されず、例えば4~60、好ましくは4~40、より好ましくは4~30である。
におけるm価の芳香族複素環基において、mは1以上の整数であり、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
における置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基において、m=1である1価の芳香族複素環基としては、例えば、チオフェニル基(チオフェン基又はチエニル基)、チエニレニル基(又はチオフェンジイル基)、ベンゾチエニル基(ベンゾチオフェン基)、ジベンゾチエニル基(ジベンゾチオフェン基)、フェニルジベンゾチエニレニル基及びジベンゾチエニレニルフェニル基等の含硫黄ヘテロアリール基;フラニル基(又はフラン基)、ベンゾフラニル基(ベンゾフラン基)、ジベンゾフラニル基(ジベンゾフラン基)、フェニルジベンゾフラニル基及びジベンゾフラニルフェニル基等の含酸素ヘテロアリール基;ピリジル基(又はピリジン基)、ピリジレニル基(又はピリジンジイル基)、ピリミジニル基(又はピリミジン基)、ピラジル基(又はピラジン基)、キノリル基(又はキノリン基)、イソキノリル基(又はイソキノリン基)、カルバゾリル基(又はカルバゾール基)、9-フェニルカルバゾリル基、アクリジニル基(又はアクリジン基)、キナゾリル基(又はキナゾリン基)、キノキサリル基(又はキノキサリン基)、1,6-ナフチリジニル基、1,8-ナフチリジニル基及びポルフィリン基(又はポルフィリン環)等の含窒素ヘテロアリール基;ベンゾチアゾリル基(又はベンゾチアゾール基)、ベンゾチアジアゾール基等の二種以上のヘテロ原子(例えば、窒素と硫黄)を含むヘテロアリール基を含む。さらに、ピロール基、シロール基、ボロール基、ホスホール基、セレノフェン基、ゲルモール基、インドール基、インデン基、ベンゾシロール基、ベンゾボロール基、ベンゾホスホール基、ベンゾセレノフェン基、ベンゾゲルモール基、ジベンゾシロール基、ジベンゾボロール基、ジベンゾホスホール基、ジベンゾセレノフェン基、ジベンゾゲルモール基、ジベンゾチオフェン5-オキシド基、9H-フルオレン-9-オン基、ジベンゾチオフェン5,5-ジオキシド基、アザベンゾチオフェン基、アザベンゾフラン基、アザインドール基、アザインデン基、アザベンゾシロール基、アザベンゾボロール基、アザベンゾホスホール基、アザベンゾセレノフェン基、アザベンゾゲルモール基、アザジベンゾチオフェン基、アザジベンゾフラン基、アザカルバゾール基、アザフルオレン基、アザジベンゾシロール基、アザジベンゾボロール基、アザジベンゾホスホール基、アザジベンゾセレノフェン基、アザジベンゾゲルモール基、アザジベンゾチオフェン5-オキシド基、アザ-9H-フルオレン-9-オン基、アザジベンゾチオフェン5,5-ジオキシド基、ピリダジン基、トリアジン基、フェナントロリン基、ピラゾール基、イミダゾール基、トリアゾール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、チアゾール基、イソチアゾール基、オキサジアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾピラゾル基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾオキサジアゾール基、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン基、5,6,7,8-テトラヒドロキノリン基等があげられる。
また、Aにおける置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基において、mが2以上の整数であるm価の芳香族複素環基としては、例えば、前記1価の芳香族複素環基中の芳香環から、m-1個の水素を除いたものがあげられる。また、ベンゾ[1,2-c:4,5-c′]ビス[1,2,5]チアジアゾール骨格(ベンゾビスチアジアゾール基)等があげられる。
【0020】
{置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基}
における置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基の炭素数は特に限定されず、例えば1~60、好ましくは1~40、より好ましくは1~30である。
におけるm価の脂肪族炭化水素基において、mは1以上の整数であり、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
における置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基において、m=1である1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロオレフィン基等の飽和脂肪族炭化水素基があげられる。
また、Aにおける置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基において、mが2以上の整数であるm価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、前記1価の脂肪族炭化水素基から、m-1個の水素を除いたものがあげられる。
【0021】
における置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は特に限定されず、例えば2~60、好ましくは3~40、より好ましくは5~30である。
におけるm価の不飽和脂肪族炭化水素基において、mは1以上の整数であり、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
における置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基において、m=1である1価の不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基等があげられる。
また、Aにおける置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基において、mが2以上の整数であるm価の不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、前記1価の不飽和脂肪族炭化水素基から、m-1個の水素を除いたものがあげられる。
【0022】
(Aにおける置換基)
における置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基、置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基は、本発明が目的とする反応を行える限り特に制限されない。
置換基としては、例えば、炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等);炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等);炭素数3~24、好ましくは3~18、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~8のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等);炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアルケニル基(例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等);炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアルキニル基(例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基等);炭素数5~24、好ましくは5~18、より好ましくは5~12、さらに好ましくは5~8のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等);炭素数7~24、好ましくは7~19、より好ましくは7~13、さらに好ましくは7~9のアリールアルキル基(例えば、モノフェニルメチル基、モノフェニルプロピル基、トリフェニルメチル基等);炭素数5~24、好ましくは5~18、より好ましくは5~12、さらに好ましくは5~8のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、ビフェニルオキシ基等);炭素数4~24、好ましくは4~18、より好ましくは4~12、さらに好ましくは4~8のヘテロアリール基(例えば、チオフェニル基、フラニル基、カルバゾール基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、インドリル基、ピロリル基、ピリジル基等);炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘプタノイル基並びにそのアシル基に含まれるカルボニル基が、エステル基又はアミド基で置換された基等);炭素数1~24、好ましくは1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のアミノ基(例えば、ジフェニルアミノ基、ジメチルアミノ基等);フッ素、炭素数1~30、好ましくは1~12のフッ素含有炭化水素基等のフッ素含有基;シアノ基、ニトロ基等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
置換基同士は、相互に架橋していてもよく、置換基全体で、環状構造(芳香族基)を形成してもよい。置換基は、さらに置換基を有してよい。
【0023】
(式(I)中のX基)
Xは、各々独立して、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)又はI(ヨウ素)を表す。
このうち、反応性や取扱性等の点から、Cl(塩素)、Br(臭素)又はI(ヨウ素)が好ましい。
化合物(I)中のXの数は、1以上であれば特に制限されない。例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
本発明において、化合物(I)中のXの数mは、整数であって、少なくとも1つが金属又は金属化合物と反応して有機金属求核剤を形成し得る範囲であれば特に制限されない。例えば1~10、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。
【0024】
(化合物(I)の具体例)
化合物(I)における式(I)中のAとして、具体的には、例えば、下記の基が例示できる。
ナフチル基、アリール(例えば、フェニル等)ナフチル基、アルキレン(例えば、エチレン等)架橋を有するナフチル基、アリーレン(例えば、フェニレン等)架橋を有するナフチル基等のナフチル基;
フェナントレニル基;
アントラセニル基、アリール(例えば、フェニル等)アントラセニル基、ジアリール(例えば、ジナフチル等)アントラセニル基、ジアリールボリル(例えば、ビス(トリアルキルフェニル)ボリル等)アントラセニル基等のアントラセニル基;
ピレニル基、アルキル(例えば、tert-ブチル等)ピレニル基等のピレニル基;
ビフェニル基、アルキレン(例えば、プロピレン、イソプロピレン等)架橋を有するビフェニル基等のビフェニル基;
ターフェニル基、テトラアリール(例えば、テトラフェニル等)基、ペンタアリール基等のポリフェニル基;
トリフェニレニル基;
2-アリール(例えば、フェニル等)エテニルフェニル基、1,2,2-トリアリール(例えば、トリフェニル等)エテニルフェニル基、2-アリール(例えば、フェニル等)エチニルフェニル基、フェニル基、アルキル(例えば、メチル)フェニル基、ジアルキル(例えば、ジメチル)フェニル基、アルコキシ(例えば、メトキシ)フェニル基、ジアルキルアミノ(例えば、ジメチルアミノ)フェニル基、ジアリール(例えば、ジフェニル)アミノフェニル基、パーフルオロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)フェニル基、アルキル(例えば、エチル)オキシカルボニルフェニル基、アルカノイル(例えば、アシル)フェニル基等のフェニル基;
アリール(例えば、フェニル等)置換カルバゾリル基;
アントラセン-9.10-ジオン基;
アリール(例えば、フェニル等)置換チエニル基、チオフェン基、ベンゾチアジアゾール基;
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基等の炭素数1~20の直鎖又は分岐アルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基;
エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基等の炭素数2~20の不飽和脂肪族基
これらの1価の基から、1つ以上の水素を除いた2価以上の基
【0025】
本発明のクロスカップリング反応方法において用いられる化合物(I)の具体例としては、例えば、実施例1~150で用いられている化合物からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
【0026】
<金属>
金属又は金属化合物は、有機ハロゲン化物と反応し、有機金属求核剤を形成し得るものであれば、特に限定されない。金属としては、例えば、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、インジウム、スズ、ビスマス、ホウ素、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、鉛、希土類元素金属からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。金属化合物としては、これらの金属の塩(塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)、これらの金属の酸化物等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
このうち、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、マンガン、パラジウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、インジウム、サマリウム、これらの金属の塩、これらの金属の酸化物等からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。
【0027】
金属の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは0.7当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満であると、反応が十分に進まなく、収率が低下するおそれがある。10.0当量を超えると、未反応の金属を除去する必要があり、また、未反応の金属が副反応を起こすおそれがある。
【0028】
<エーテル化合物>
エーテル化合物は、分子内にエーテル結合(-O-)を1つ以上有する化合物であり、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応に際して不活性の化合物であれば、特に限定されない。
例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、アニソール、アセトキシ-2-エトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1-メトキシ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、1-エトキシ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0029】
エーテル化合物は、必要に応じて、有機溶媒等と混合して用いてもよい。
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンデュレン、デカリン等の芳香族系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の脂肪族系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノ-ル、イソプロパノール、1-ブタノール、1,1-ジメチルエタノール、tert-ブタノール、2-メトキシエタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等;ピリジン等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
【0030】
エーテル化合物の使用量は、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量である。好ましくは0.7当量以上、より好ましくは1.0当量以上、さらに好ましくは1.2当量以上、よりさらに好ましくは1.5当量以上であり、また、好ましくは7.0当量以下、より好ましくは5.0当量以下である。0.5当量未満であると有機金属求核剤、特にグリニャール試薬を効率的に合成することができず、後の反応に供した際に反応が十分に進まなくなるおそれがある。10.0当量を超えると、エーテル化合物が実質的に溶媒として機能してしまい、メカノケミカル作用を反応成分に加えることが難しくなるため、有機金属求核剤、特にグリニャール試薬を効率的に合成することができず、後の反応に供した際に反応が十分に進まなくなるおそれがある。
【0031】
<メカノケミカル法>
メカノケミカル法は、反応物質(特に、固体の反応物質)に対して、せん断、圧縮、延伸、摩砕、摩擦、混練、混合、分散、解砕、振とう等の方法により機械的エネルギーを加えることにより、反応物質を活性化させ、構造変化、相転位、反応性、吸着性、触媒活性などを与える処理方法である。これにより、表面の活性化、表面積の増加、格子欠陥の増加、結晶粒子の大きさの減少や無定形化等も期待できる。
メカノケミカル法のための装置は、前記の方法により機械的エネルギーを加えることができる装置であれば、特に限定されない。
そのような装置として、例えば、
ボールミル、ロッドミル、ジェットミル、SAGミル等の粉砕機;
回転式石臼、擂潰機(らいかいき)等の磨砕機;
水平円筒型、V型、二重円錐型、正方立方体型、S型及び連続V型等の(水平軸回転)容器回転型混合装置;
水平円筒型、V型、二重円錐型及びボールミル型等の(邪魔板羽根付き)容器回転型混合装置;
ロッキング型及びクロスロータリー型等の(回転振動)容器回転型混合装置;
リボン型、パドル型、単軸ロータ型及びバグ・ミル型等の(水平軸回転)固定容器型混合装置;
リボン型、スクリュー型、遊星型、タービン型、高速流動型、回転円盤型及びマーラー型等の(垂直軸回転)固定容器型混合装置;
振動ミル型及びふるい等の(振動)固定容器型混合装置;
不均一流動層、旋回流動層、上昇管付き型及びジョットポンプ型等の(流動化)流体運動型混合装置;
重力型及びスタティックミキサー等の(重力)流体運動型混合装置;
二軸型混練機、一軸型混練機、ミキサー、ロールミル等の混練機;
等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
本発明においては、ボールミル等の粉砕機、摩砕機、混合装置、混練機等が好ましく用いられる。
【0032】
本発明の有機金属求核剤の製造方法において、メカノケミカル法を行う際に加えるエネルギー量は、特に限定されず、反応原料の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、ボールミルを用いる場合には、振とうを5Hz以上、好ましくは10Hz以上、より好ましくは20Hz以上で行うことができる。
【0033】
メカノケミカル法の原理等の詳細は不明であるが、以下のように考えられる。
それぞれの原料化合物に機械的エネルギーが付与されると、機械的エネルギーを吸収することで、原料化合物の表面が活性化される。これにより、活性化しエネルギーを有する表面の間で化学反応が生起し、原料化合物分子間での反応につながると考えられる。例えば、ボールミルを用いた場合、原料化合物への機械的エネルギーの付与により、原料化合物表面が削られて活性化する(不活性な表面が除去される)こととなる。
【0034】
<反応条件>
本発明の反応条件は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とが反応することで、有機金属求核剤が形成され得る条件であれば、特に限定されない。
【0035】
(温度)
反応温度(混合時の反応容器内温度)は、-50℃~500℃とできる。本発明においては、加熱することなく室温(23℃)付近で行うことができる。また、ヒートガン等の加熱装置を用いることで、反応容器内(反応系)を所望の温度に加熱してもよい。
反応温度を-50℃~500℃に制御する方法は特に限定されないが、化学反応を行う際に用いられる温度制御方法を用いることができる。例えば、液体窒素等に反応容器を浸漬することで反応容器内の温度を制御する方法、温風を用いて反応容器内の温度を制御する方法、反応容器を所定の温度の熱媒体で覆い反応容器内の温度を制御する方法、発熱体を設けて反応容器内温度を制御する方法等があげられる。
本発明においては、ヒートガンにより発生させた温風を反応容器に当て反応容器内の温度を制御する方法が、安全性や温度制御操作の容易性の観点等から好ましい。
【0036】
(圧力)
圧力は特に限定されず、任意の圧力下で反応を行うことができる。その際、減圧装置や加圧装置を用いることができる。本発明においては、加圧及び減圧することなく反応を行うことができる。
【0037】
(反応雰囲気)
反応雰囲気(混合時の反応容器内の雰囲気)は、特に限定されず、有機ハロゲン化物や金属の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、特に雰囲気調整を行わず、大気雰囲気で行うことができる。また、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。
通常、有機金属求核剤の代表例であるグリニャール試薬の合成に際しては、不活性雰囲気下酸素及び水分を避ける条件で行われるが、本発明は、不活性雰囲気下にする必要がなく、酸素や水分の厳密な管理が必要でない点で有利である。
【0038】
(反応時間)
反応時間(混合時間;機械的手段による処理を行う時間)は、特に限定されず、有機ハロゲン化物や金属の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上とできる。反応時間の上限は特に限定されないが、例えば、10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下とできる。
【0039】
(反応成分の投入順序等、反応後の処理等)
反応容器に有機ハロゲン化物、金属及びエーテル化合物の各成分を投入する順序は、特に限定されない。また、投入手段についても、特に限定されない。
反応終了後、得られた反応生成物を、必要に応じて精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、溶媒による洗浄等の方法が用いられる。
【0040】
[反応装置]
本発明で用いられる反応装置に備えられている反応容器は、化合物の反応装置に備えることができる各種の反応容器であれば特に限定されず、有機ハロゲン化物、金属及びエーテル化合物、反応生成物の各々の種類や各々の量、反応温度、雰囲気、反応圧力等を考慮して、適宜定めることができる。例えば、本発明において、機械的に混合処理を行う装置(例えば、ボールミル等)を用いる場合には、ボールミルジャー等を反応容器として用いることができる。
本発明の反応装置に備えられている反応容器内の収容物を撹拌する手段は、化合物の反応装置に備えることができる各種の撹拌手段であれば特に限定されない。本発明においては、前記<メカノケミカル法>に記載した、機械的に混合処理を行う装置による手段を用いることができる。機械的に混合処理を行う装置としては、例えば、ボールミルが好ましく用いられる。
【0041】
本発明の反応装置に備えられている反応容器内の温度調整手段は、-50℃~500℃の温度下でクロスカップリング反応が行われるように温度調整する手段であれば特に限定されない。本発明においては、前記<反応条件>の(温度)に記載した温度調整手段を用いることができる。例えば、ヒートガンを用いて反応容器を加熱する方法が好ましく用いられる。
本発明で用いられる反応装置は、さらに、計量手段、減圧又は加圧手段、雰囲気調整手段(気体導入又は排出手段)、各種成分の投入手段、各種成分・反応生成物の取出手段、精製手段、分析手段等の化合物の反応装置に備えることができる各種の手段を備えていてもよい。
【0042】
<有機金属求核剤>
第1の実施態様で製造される有機金属求核剤としては、種々のものがあげられる。このうち、特に好ましくは、グリニャール試薬(有機マグネシウムクロリド、有機マグネシウムブロミド、有機マグネシウムアイオダイト)、有機カルシウム試薬(“Heay”Grignard試薬)、有機マンガン試薬があげられる。
本発明者らは、実施例116においてメカノケミカル法で作製したPhMgBrと、溶液相で作製したPhMgBrについて、そのMg-K 吸収端におけるX線吸収端微細構造(NEXAFS)及びC-K 吸収端におけるX線吸収端微細構造の測定を行い、各スペクトルを比較した。
その結果、図1及び図2に示すように、実施例116においてメカノケミカル法で作製したPhMgBrと、溶液相で作製したPhMgBrのMg-K及びC-K NEXAFSスペクトルが良好に近似していることから、メカノケミカル法で作製したものと溶液相で作製したものは、いずれも、炭素-マグネシウム結合を有するほぼ同様の有機マグネシウム種であることがわかる。さらに、C-K NEXAFSスペクトルにおいて、285.7eV及び287.7eVに強い1s-π*遷移ピークが観測されており、出発物質であるブロモベンゼンのC-Br結合が変化して炭素-マグネシウム結合が形成されたことが裏付けられている。
【0043】
[第2の実施態様]
本発明の第2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに有機カルボニル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法である。
第2の実施態様において、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、及びエーテル化合物は、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。また、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応条件等についても、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。
さらに、第2の実施態様において、有機ハロゲン化物と金属又は金属化合物との反応生成物、有機カルボニル化合物の反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0044】
<有機カルボニル化合物>
有機カルボニル化合物は、分子内にカルボニル基を有する化合物であって、有機金属求核剤(グリニャール試薬)とカップリング反応してアルコールを形成し得る化合物であれば特に限定されない。
例えばアルデヒド、ケトン、エステル、ケトエステル、アセタール等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
アルデヒドを用いた場合には、第2級アルコールを得ることができ、ケトンやエステルを用いた場合には、第3級アルコールを製造できる。
有機カルボニル化合物の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.2当量以上、より好ましくは0.3当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満の場合や10.0当量を超える場合には、反応が十分に進まないおそれがあり、収率が低下するおそれがある。さらに、過剰に存在する成分が反応生成物等と副反応を起こすおそれがある。
【0045】
アルデヒドとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、複素環アルデヒド等のいずれでもよい。例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-シクロペンテニルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2-フルオロベンズアルデヒド、4-フルオロベンズアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、ピメリンアルデヒド、セバシンアルデヒド、アクロレイン、サリチルアルデヒド、フタルアルデヒド、フルフラール、5-メチルフルフラール、2-チオフェンカルボキシアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、o-トリルアルデヒド、p-トリルアルデヒド、2,4-ジメチルベンズアルデヒド、2-メチル-5-イソプロピルベンズアルデヒド(p-シメン-2-アルデヒド)、クミンアルデヒド、4-(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド、p-アニスアルデヒド、2,4-ジメトキシベンズアルデヒド、3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(メチルバニリン)、5-メトキシ-3,4-メチレンジオキシベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、2-ナフトアルデヒド、6-メトキシ-2-ナフトアルデヒド等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0046】
ケトンとしては、特に限定されるものではないが、カルボニル炭素に脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基から選ばれる基が2つ結合したものや、カルボニル炭素が脂環式炭化水素の環を構成するもの等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
例えば、ベンゾフェノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、アセトナフトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1-又は2-インダノン、1-又は2-テトラロン、アダマンタノン、;メチル-2-チエニルケトンやメチル-3-チエニルケトン、メチル-2-ピリジルケトン、2,2’-ジチエニルケトン、ジエチルケトン、ベンジル、アセチルアセトン、メチルイソプロピルケトン、エチルフェニルケトン、フルオレノン、インダノン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、アンスラキノン、アセナフテンキノン、キノン、ベンゾイルアセトン等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0047】
エステルとしては、特に限定されるものではないが、脂肪族カルボン酸のアルキルエステルや芳香族カルボン酸のアルキルエステルがあげられる。例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0048】
<反応条件>
第2の実施態様において、有機ハロゲン化物及び金属の反応生成物と、カルボニル化合物の反応条件は、これらが反応することでアルコールが形成され得る条件であれば、特に限定されない。
【0049】
(温度、圧力、雰囲気、時間)
反応温度(混合時の反応容器内温度)は、-50℃~500℃とできる。本発明においては、加熱することなく室温(23℃)付近で行うことができる。また、ヒートガン等の加熱装置を用いることで、反応容器内(反応系)を所望の温度に加熱してもよい。
反応温度を-50℃~500℃に制御する方法としては、第1の実施態様の<反応条件>の(温度)に記載した方法を用いることができる。
圧力は特に限定されず、任意の圧力下で反応を行うことができる。その際、減圧装置や加圧装置を用いることができる。本発明の第2の実施態様においては、加圧及び減圧することなく反応を行うことができる。
反応雰囲気(混合時の反応容器内の雰囲気)は、特に限定されず、有機金属求核剤やカルボニル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、特に雰囲気調整を行わず、大気雰囲気で行うことができる。また、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。本発明の第2の実施態様においては、大気雰囲気で行うことができる。
反応時間(混合時間;機械的手段による処理を行う時間)は、特に限定されず、有機金属求核剤やカルボニル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上とできる。反応時間の上限は特に限定されないが、例えば、10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下とできる。
【0050】
(反応成分の投入順序等、反応後の処理等)
反応容器にカルボニル化合物を投入する手段は、特に限定されない。
反応終了後、得られた反応生成物であるアルコールを、必要に応じて精製できる。精製方法は、特に制限されず、例えば、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、溶媒による洗浄等の方法を用いることができる。
【0051】
<アルコール>
第2の実施態様によるアルコールの製造方法において、アルデヒドを用いた場合には、第2級アルコールを得ることができ、ケトンやエステルを用いた場合には、第3級アルコールを製造できる。
【0052】
[第3の実施態様]
本発明の第3の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法である。
本発明の第3の実施態様は、いわゆるバルビエ反応(Barbier-Reaction)に相当する反応である。
第3の実施態様で用いられる有機ハロゲン化物及びエーテル化合物は、第1の実施態様において記載したものと同様のものとすることができ、有機カルボニル化合物は、第2の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
また、第3の実施態様において、有機ハロゲン化物、金属、及び有機カルボニル化合物の反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0053】
<金属又は金属化合物>
金属又は金属化合物は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物とを反応させた際に、アルコールを形成し得るものであれば、特に限定されない。例えば、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、インジウム、スズ、ビスマス、ホウ素、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、鉛、希土類元素金属、これらの金属の塩(塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)、これらの金属の酸化物等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
このうち、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、マンガン、パラジウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、インジウム、サマリウム、それらの金属の塩(塩化物、ヨウ化物等)等からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。
金属又は金属化合物の使用量は、有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは0.7当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満の場合や10.0当量を超える場合には、反応が十分に進まないおそれがあり、収率が低下するおそれがある。さらに、過剰に存在する成分が反応生成物等と副反応を起こすおそれがある。
【0054】
<反応条件>
第3の実施態様において、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物との反応条件は、これらが反応することでアルコールが形成され得る条件であれば、特に限定されない。
反応温度(混合時の反応容器内温度)は、-50℃~500℃とできる。本発明においては、加熱することなく室温(23℃)付近で行うことができる。また、ヒートガン等の加熱装置を用いることで、反応容器内(反応系)を所望の温度に加熱してもよい。
反応温度を-50℃~500℃に制御する方法としては、第1の実施態様の<反応条件>の(温度)に記載した方法を用いることができる。
圧力は特に限定されず、任意の圧力下で反応を行うことができる。その際、減圧装置や加圧装置を用いることができる。本発明の第3の実施態様においては、加圧及び減圧することなく反応を行うことができる。
【0055】
反応雰囲気(混合時の反応容器内の雰囲気)は、特に限定されず、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物及びカルボニル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、特に雰囲気調整を行わず、大気雰囲気で行うことができる。また、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。本発明の第3の実施態様においては、大気雰囲気で行うことができる。
反応時間(混合時間;機械的手段による処理を行う時間)は、特に限定されず、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物及びカルボニル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上とできる。反応時間の上限は特に限定されないが、例えば、10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下とできる。
【0056】
(反応成分の投入順序等、反応後の処理等)
反応容器に有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、エーテル化合物、及びカルボニル化合物の各成分を投入する順序は、特に限定されない。また、投入手段についても、特に限定されない。
反応終了後、得られた反応生成物を、必要に応じて精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、溶媒による洗浄等の方法が用いられる。
【0057】
[第4の実施態様]
本発明の第4の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第4の実施態様のうち、本発明の第4-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに求電子剤を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法に関するものである。
第4の実施態様のうち、本発明の第4-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、求電子剤とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法に関するものである。
第4の実施態様において、有機ハロゲン化物、金属及びエーテル化合物は、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。また、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応条件等についても、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。
さらに、第4の実施態様において、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応生成物、求電子剤の反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0058】
<求電子剤>
求電子剤は、例えば、ケトン基、アルデヒド基、カルボン酸アミド基、カルボン酸エステル基、ハロゲン基、シアノ基、ハロゲン化シラン基、ハロゲン化リン(5価)基、ハロゲン化リン(3価)基、ハロゲン化ホウ素基、ホウ素-酸素結合を有する基、ハロゲン化金属基、ヘテロシリル基、イミノ基、ハロゲン化アシル基、エポキシ基、ジスルフィド基、二酸化炭素(CO)、カルボン酸無水物、イミドイルハライド基、アジリジン基等の官能基を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上であって、有機金属求核剤(グリニャール試薬)と反応し得る化合物であれば特に限定されない。
求電子剤のうち、ケトン基、アルデヒド基及びカルボン酸エステル基を有する化合物としては、第2の実施態様で記載したカルボニル化合物を用いることができる。
求電子剤のうち、カルボン酸アミド基を有する化合物としては、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸に、アミンを反応させることで得られる、対応するカルボン酸アミド基を有する化合物があげられる。
求電子剤のうち、ハロゲン基を有する化合物としては、第1の実施態様においてあげた有機ハロゲン化物や、アルキル基又はアリール基を併せて3つ有しハロゲン基を1つ有するシラン化合物、アルキル基又はアリール基を併せて2つ有しハロゲン基を1つ有するリン化合物(2価及び5価)、アルキル基又はアリール基を併せて3つ有しハロゲン基を1つ有するホウ素化合物、ハロゲン基を有する遷移金属錯体(例えば、ハロゲン化ニッケル(II)、ハロゲン化パラジウム(II)、ハロゲン化白金(II)、ハロゲン化コバルト(IもしくはIII)、ハロゲン化ロジウム(IもしくはIII)、ハロゲン化イリジウム(IもしくはIII)、ハロゲン化銅(I)、ハロゲン化銀(I)、ハロゲン化金(I)、ハロゲン化鉄(II)・(III)、ハロゲン化ルテニウム(II)、ハロゲン化チタン(IV)・(II)、ハロゲン化ジルコニウム(IV)を構造に含み、配位子を持つあるいは持たない錯体)があげられる。
求電子剤の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.2当量以上、より好ましくは0.3当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満の場合や10.0当量を超える場合には、反応が十分に進まないおそれがあり、収率が低下するおそれがある。さらに、過剰に存在する成分が反応生成物等と副反応を起こすおそれがある。
【0059】
<反応条件>
第4の実施態様において、有機ハロゲン化物及び金属の反応生成物と、求電子剤の反応条件は、これらが反応することで生成物が形成され得る条件であれば、特に限定されない。
(温度、圧力、雰囲気、時間)
反応温度(混合時の反応容器内温度)は、-50℃~500℃とできる。本発明においては、加熱することなく室温(23℃)付近で行うことができる。また、ヒートガン等の加熱装置を用いることで、反応容器内(反応系)を所望の温度に加熱してもよい。
反応温度を-50℃~500℃に制御する方法としては、第1の実施態様の<反応条件>の(温度)に記載した方法を用いることができる。
圧力は特に限定されず、任意の圧力下で反応を行うことができる。その際、減圧装置や加圧装置を用いることができる。本発明の第4の実施態様においては、加圧及び減圧することなく反応を行うことができる。
反応雰囲気(混合時の反応容器内の雰囲気)は、特に限定されず、有機金属求核剤や求電子剤の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、特に雰囲気調整を行わず、大気雰囲気で行うことができる。また、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。本発明の第4の実施態様においては、大気雰囲気で行うことができる。
反応時間(混合時間;機械的手段による処理を行う時間)は、特に限定されず、有機金属求核剤や求電子剤の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上とできる。反応時間の上限は特に限定されないが、例えば、10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下とできる。
【0060】
(反応成分の投入順序等、反応後の処理等)
反応容器に求電子剤を投入する手段は、特に限定されない。
反応終了後、得られた反応生成物を、必要に応じて精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、溶媒による洗浄等の方法が用いられる。
【0061】
<反応生成物>
第4の実施態様においては、求電子剤に応じて、各種の化合物を得ることができる。
求電子剤としてカルボン酸アミド基を有する化合物を用いた場合、対応するカルボン酸エステル化合物を得ることができる。
求電子剤としてカルボン酸エステル基を有する化合物を用いた場合、対応するアルコール化合物を得ることができる。
求電子剤としてシアノ基を有する化合物を用いた場合、対応するカルボン酸エステル化合物を得ることができる。
求電子剤としてハロゲン基を有する化合物を用いた場合、ハロゲン基が、有機金属求核剤中の有機基(脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等)に置換された化合物を得ることができる。
【0062】
[第5の実施態様]
本発明の第5の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物と、ニッケル触媒とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
第5の実施態様のうち、本発明の第5-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらにニッケル触媒及びスルホン酸エステル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
第5の実施態様のうち、本発明の第5-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物及びニッケル触媒の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、カップリング反応方法である。
本発明の第5の実施態様は、いわゆる熊田・玉尾・コリューカップリング反応(Kumada-Tamao-Corriu Coupling Reaction)に相当する反応である。
第5の実施態様において、有機ハロゲン化物、金属及びエーテル化合物は、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。また、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応条件等についても、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。
さらに、第5の実施態様において、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応生成物、スルホン酸エステル化合物のニッケル触媒下での反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0063】
<ニッケル触媒>
ニッケル触媒としては、有機金属求核剤とスルホン酸エステル化合物との反応を触媒し得るものであれば、特に限定されない。例えば、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート(II)、ジクロロ[ビス(トリフェニルホスフィン)]ニッケル(II)〔Ni(PPh)2Cl〕、ジブロモ[ビス(トリフェニルホスフィン)]ニッケル(II)〔Ni(PPh)2Br〕、ジクロロ[ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン]ニッケル(II)〔Ni(dppm)Cl〕、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)〔Ni(dppe)Cl〕、ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)〔Ni(dppp)Cl〕、ジクロロ(エチレンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル(II)、ジクロロ(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル(II)/トリフェニルホスフィン混合物、ジクロロ[ビス(トリn-ブチルホスフィン)]ニッケル(II)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)鉄]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(1,5-シクロオクダジエン)ニッケル(0)、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)/トリフェニルホスフィン混合物、ニッケル(0)カルボニル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
ニッケル触媒の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば1.0×10-3当量以上、好ましくは0.01当量以上、より好ましくは0.1当量以上であり、例えば3.0当量以下、好ましく2.0当量以下、より好ましくは1.0当量以下、さらに好ましくは0.5当量以下である。1.0×10-3当量未満の場合や3.0当量を超える場合には、反応が円滑に進まないおそれがある。
【0064】
<スルホン酸エステル化合物>
スルホン酸エステル化合物としては、ニッケル触媒の存在下で、有機金属求核剤とカップリング反応(熊田・玉尾・コリューカップリング反応)するものであれば、特に限定されない。
例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のアレーンスルホン酸の、炭素数1~10のアルキルエステル、炭素数6~20のアリールエステル、炭素数6~20のヘテロアリールエステル、炭素数3~10のシクロアルキルエステル等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
スルホン酸エステル化合物の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.2当量以上、より好ましくは0.3当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満の場合や10.0当量を超える場合には、反応が十分に進まないおそれがあり、収率が低下するおそれがある。さらに、過剰に存在する成分が反応生成物等と副反応を起こすおそれがある。
【0065】
<反応条件>
第5の実施態様において、有機ハロゲン化物及び金属の反応生成物と、ニッケル触媒下でのスルホン酸エステル化合物との反応条件は、これらが反応することで生成物が形成され得る条件であれば、特に限定されない。
【0066】
(温度、圧力、雰囲気、時間)
反応温度(混合時の反応容器内温度)は、-50℃~500℃とできる。本発明においては、加熱することなく室温(23℃)付近で行うことができる。また、ヒートガン等の加熱装置を用いることで、反応容器内(反応系)を所望の温度に加熱してもよい。
反応温度を-50℃~500℃に制御する方法としては、第1の実施態様の<反応条件>の(温度)に記載した方法を用いることができる。
圧力は特に限定されず、任意の圧力下で反応を行うことができる。その際、減圧装置や加圧装置を用いることができる。本発明の第5の実施態様においては、加圧及び減圧することなく反応を行うことができる。
反応雰囲気(混合時の反応容器内の雰囲気)は、特に限定されず、有機金属求核剤やスルホン酸エステル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、特に雰囲気調整を行わず、大気雰囲気で行うことができる。また、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。本発明の第5の実施態様においては、大気雰囲気で行うことができる。
反応時間(混合時間;機械的手段による処理を行う時間)は、特に限定されず、有機金属求核剤やスルホン酸エステル化合物の種類や各々の量、反応温度等を考慮し、適宜定めることができる。
例えば、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上とできる。反応時間の上限は特に限定されないが、例えば、10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下とできる。
【0067】
(反応成分の投入順序等、反応後の処理等)
反応容器に求電子剤を投入する手段は、特に限定されない。
反応終了後、得られた反応生成物を、必要に応じて精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、溶媒による洗浄等の方法が用いられる。
【0068】
<反応生成物>
第5の実施態様においては、有機ハロゲン化物及びスルホン酸エステル化合物に応じて、各種のカップリング反応生成物を得ることができる。具体的には、有機ハロゲン化物におけるハロゲン基が、スルホン酸エステル化合物におけるエステル基に置換されたカップリング反応生成物を得ることができる。
【0069】
[第6の実施態様]
本発明の第6の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物と、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物とを含む反応成分を、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第6の実施態様のうち、本発明の第6-1の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに共役エノン化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第6の実施態様のうち、本発明の第6-2の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法である。
第6の実施態様において、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、エーテル化合物は、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。また、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応条件等についても、第1の実施態様で記載したものと同様のものとできる。
さらに、第6の実施態様において、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応生成物と、共役エノン化合物の反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0070】
<共役エノン化合物>
共役エノン化合物としては、例えば、分子中に-CO-CH=CH-の構造を持つものがあげられる。エノン構造(-CO-CH=CH-)の両末端は、それぞれ、水素、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、複素環基からなる群より選ばれる1種類以上があげられ、両末端の基が互いに結合して環化していてもよい。
共役エノン化合物としては、例えば、メチルビニルケトン、2-シクロヘキセン-1-オン、2-シクロペンテン-1-オン、2-シクロヘプテン-1-オン、1-フェニル-2-ブテン-1-オン、5-メチル-3-ヘキセン-2-オン、3-ノネン-2-オン、ベンジリデンアセトン、5,6-ジヒドロ-2H-ピラン-2-オン、3-ブテン-2-オン、3-ノネン-2-オン、1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オン、3-フェニル-2-プロペナール、アクリルアルデヒド等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
共役エノン化合物の使用量は、特に限定されない。有機ハロゲン化物1当量に対して、例えば0.1当量以上、好ましくは0.2当量以上、より好ましくは0.3当量以上であり、例えば10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは3.0当量以下である。0.1当量未満の場合や10.0当量を超える場合には、反応が十分に進まないおそれがあり、収率が低下するおそれがある。さらに、過剰に存在する成分が反応生成物等と副反応を起こすおそれがある。
【0071】
[第7の実施態様]
本発明の第7の実施態様は、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる方法により得られ、ハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物を含み、エーテル化合物の含有量がハロゲン化有機金属化合物1当量に対して0.5~10当量である、組成物に関するものである。
第7の実施態様において用いられる、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、及びエーテル化合物は、例えば、いずれも第1の実施態様で記載したものと同様のものがあげられる。また、反応に際して用いるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0072】
第7の実施態様に係る組成物は、例えば、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる方法によって、泥状混合物(スラリー)として得られたものである。
従来、グリニャール試薬等の有機金属求核剤は、反応原料を溶媒に溶解させた後に合成されるものであり、大量の有機溶媒を含む形態であることから、有機溶媒の含有量が少ないものはこれまで一般的ではなかった。本発明の第七の実施形態に係る組成物は、溶媒の含有量が少ないスラリー状の組成物を包含しており、取扱性や反応効率等の点で有利である。
【0073】
[第8の実施態様]
本発明の第8の実施態様は、少なくともハロゲン化有機金属化合物とエーテル化合物から構成される、下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは0より大きい数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体である。
【0074】
式(A)における 11は、第1の態様で記載した有機ハロゲン化物に係る式(I)中のAと同様の基、すなわち、置換基を有していてもよいm価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよいm価の芳香族複素環基、置換基を有していてもよいm価の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよいm価の不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかを表す。具体的な基としては、第1の態様で記載したのと同様のものである。
式(A)におけるMは、第1の態様で記載した金属又は金属化合物を構成する金属と同様のものである
式(A)におけるXは、各々独立して、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)又はI(ヨウ素)である。
式(A)におけるEは、ハロゲン化有機金属化合物に配位するエーテル化合物であり、例えば、第1の態様で記載したエーテル化合物があげられる。
式(A)におけるpは、ハロゲン化有機金属化合物におけるハロゲン化金属基の数を表し、1以上の整数である。好ましくは1以上6以下の整数、より好ましくは1以上3以下の整数である。
【0075】
式(A)におけるqは、錯体を構成するハロゲン化有機金属化合物の量であり、式(A)におけるrは、錯体を構成するエーテル化合物の量(ハロゲン化有機金属化合物に配位しているエーテル化合物の数)である。
qとしては、例えば1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは2以上12以下である。
rは、0より大きい数であり、例えば0.5以上であり、好ましくは1以上、より好ましくは2~12の整数である。
【0076】
下記式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
(式中、R11はハロゲン化有機金属化合物由来のp価の有機基、Mはハロゲン化有機金属化合物由来の金属、Xはハロゲンであり、Eはエーテル化合物である。R11、M、X及びEが複数ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。pは1以上の整数、qは2以上の数、rは0より大きい数である。)
で表される、ハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体は、第1の態様に係る有機金属求核剤の製造方法により得ることができる。また、それ以外の方法を用いても、容易に得ることができる。
【0077】
例えば、実施例116では、有機ハロゲン化物(ブロモベンゼン)1当量に対して、2.0当量のエーテル化合物(テトラヒドロフラン;THF)が反応系内に加えられている。
溶液中のグリニャール試薬では、溶媒分子がMg原子に配位することが知られているところ、メカノケミカル法により固相反応で得られたグリニャール試薬の構造にエーテル化合物(THF)がどのような影響を与えるかについて、モデル錯体[Ph-MgBr]-rTHF(r=0、2、4、6、8)を用い、理論計算とNEXAFSスペクトルの比較を通じて、固体構造の解析を行った。
【0078】
これらの錯体の最安定構造を求めるため、量子化学計算プログラム「ORCA」を用い、GFN-xTBの理論レベルでSC-AFIR法を用い、AFIR法のモデル衝突エネルギーパラメータGammaを200kJ/molとして最小のみのサンプリング計算を行った。
その結果、[Ph-MgBr]について,1623の局所安定構造が得られた。次に、最も安定な構造を選択し、THFをそれぞれ2、4、6又は8分子追加して2回目のサンプリング計算を行った。[Ph-MgBr]-rTHFの場合、r=2、4、6、8でそれぞれ1511、1426、948、750の局所安定構造が最終的に与えられた。サンプリング計算で得られた安定構造は、その後、RIJCOSX近似(ORCAパッケージで実装)を用いてB3LYP-D3/Def2SVPレベルの理論計算で再最適化された。なお、RIJCOSX近似ではdef2/Jと呼ばれる補助基底関数を使用した。また、同じ理論レベルで周波数計算を行い、最適化された構造がすべて極小であることが確認された。なお、本反応は固体状態で行われたため、溶媒和モデルは採用しない。全てのGibbsエネルギーは、298.15K、1atmで評価された。
【0079】
図3は、[Ph-MgBr]-rTHFで示されるハロゲン化有機金属化合物-エーテル化合物錯体の、B3LYP-D3/Def2SVPレベルによる最適化構造を示す。なお、r=0、2、4、6、8であり、明瞭化のため、すべての水素原子は省略されている。
図3に示すように、最も安定な[PhMgBr]異性体は、立方晶構造をとることがわかった。THF分子が追加的にMg原子に配位しており、このような配位は最終的に立方構造におけるMg-Br結合の切断を誘発した。これより、THF分子の配位によって、立方晶構造がより開いた構造に変化したことが分かる。
すなわち、図3より、THF(エーテル化合物)が錯体中に含まれることで、THFを含まないハロゲン化有機金属化合物(r=0)における立方体構造が、より開口した構造へと変化し、Mg原子へのTHFの配位とそれに伴うMg-Br結合の切断が生じることが分かる。
したがって、図1図3より、式(A):
[R11-(MX)-rE ・・(A)
で表される化合物は、配位したエーテル化合物の影響により、反応性が低い閉じた形から、より反応性の高い開いた形に変えられていると推察される。なお、本発明はこの推察に拘束されるものではない。
【0080】
[第9の実施態様]
本発明の第9の実施態様は、エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させて得られる、有機金属求核剤である。
エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物としては、特に限定されない。例えば、第一の実施態様で記載した有機ハロゲン化物のうち、エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物があげられる。特に、下記式(II)
-(A-A-X ・・・(II)
(式中、Aは、置換されていてもよい1価の芳香族基、置換されていてもよい1価の複素環基及び置換されていてもよい1価の環状脂肪族基のいずれかである。A及びAは、置換されていてもよい1価の芳香族基、置換されていてもよい1価の複素環基及び置換されていてもよい1価の環状脂肪族基のいずれかである。Aが複数ある場合は、互いに同一でも異なっていてもよく、AとAは、互いに同一でも異なっていてもよい。nは1~10の整数である。)
で表される化合物があげられる。A、A及びAを構成する環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、オキサジアゾール環、ピリジン環等があげられる。例えば、実施例115で用いられている化合物(4-ブロモ-p-ターフェニル)等があげられる。
エーテル化合物に対する20℃での溶解度が1.0mol/L未満の有機ハロゲン化物は、エーテル系溶媒等の有機溶媒に十分に溶解しないことから、これまでグリニャール試薬等の有機金属求核剤の原料とはなり得なかった化合物である。
本発明の第9の実施態様は、従来、グリニャール試薬等の有機金属求核剤の原料として使えなかった化合物に基づく有機金属求核剤であり、有機合成の可能性を広げる試薬として極めて有用である。
【0081】
第9の実施態様において用いられる、金属又は金属化合物、及びエーテル化合物は、例えば、第1の実施態様で記載したものがあげられる。
また、第9の実施態様において、有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物との反応に際して用いられるメカノケミカル法及び反応装置は、いずれも第1の実施態様において記載したものと同様のものとできる。
【0082】
[その他の使用成分]
本発明の第1~第9の実施態様においては、有機ハロゲン化物、金属又は金属化合物、エーテル化合物、有機カルボニル化合物、求電子剤、ニッケル触媒、スルホン酸エステル化合物、及び共役エノン化合物以外に、従来、有機金属求核剤(グリニャール試薬)の合成に用いる成分や、有機金属求核剤(グリニャール試薬)と、有機カルボニル化合物、求電子剤、ニッケル触媒、スルホン酸エステル化合物又は共役エノン化合物との反応に際して用いられる成分を、その他の成分として用いることができる。
【実施例
【0083】
以下、本発明を具体例により詳細に説明する。これらの具体例は、本発明の一態様にすぎない。本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
本具体例で使用した化合物は、特に記載しない限り、市販品をそのまま精製することなく使用した。
本実施例で使用した各化合物の構造式中、Meはメチル基、t-Bu又はtBuはターシャリーブチル基、Phはフェニル基、Tsはトシル基(パラトルエンスルホニル基)、TBSはtert-ブチルジメチルシリル基を、それぞれ示す。
また、「equiv」は、「当量」を表す。
【0084】
実施例及び比較例において、ボールミルを用いて反応を行う際には、ステンレス製ボールミルジャーに各試薬を投入し、ヴァーダー・サイエンティフィック社(Verder Scientific Co.,Ltd.(旧レッチェ社(Retsch))製のボールミルMM400型を使用した。
ボールミルを用いてクロスカップリング反応を行う際の加熱は、ヒートガン(Takagi社製,HG-1450B)でボールミルジャーの外側を所定の温度で加熱した。
ヒートガンの設定温度と、ボールミルジャー内部の温度(反応系の温度)の関係をThermographic imageを用いて確認したところ、次のとおりであった。
【0085】
【表1】
【0086】
[実施例1~60]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに有機カルボニル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法>
【化1】
【0087】
[実施例1]
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として4-ブロモトルエン(4-bromotoluene)を128.3 mg(0.75 mmol,1.5equiv)、金属としてマグネシウムを18.2mg(0.75 mmol,1.5equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、有機カルボニル化合物としてベンズアルデヒド(benzaldehyde)を53.1mg(0.5mmol,1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ91%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的のアルコール((4-メチルフェニル)フェニルメタノール)を単離した(86.1mg,0.43mmol,単離収率(Isolated yield)86%)。
【0088】
[実施例2~30]
有機ハロゲン化物及び有機カルボニル化合物として、表2の化合物を用い、各成分の使用量を、有機ハロゲン化物1.5equiv、金属(マグネシウム)1.5equiv、エーテル化合物(テトラヒドロフラン)3.0equiv及び有機カルボニル化合物0.05mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例1と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率及びNMR収率とともに表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
[実施例31~60]
有機ハロゲン化物及び有機カルボニル化合物として、表3の化合物を用い、各成分の使用量を、有機ハロゲン化物2.0equiv、金属(マグネシウム)5.0equiv、エーテル化合物(テトラヒドロフラン)3.0equiv及び有機カルボニル化合物0.05mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例1と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率及びNMR収率とともに表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表2及び表3中の有機ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化2】
【0093】
表2及び表3中の有機カルボニル化合物は、それぞれ以下のとおりである。
【化3】
【0094】
表2及び表3中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化4】
【0095】
[実施例61]
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として2-ブロモナフタレンを207.1mg(1.00mmol,2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol,5.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、ヒートガン温度110℃で加熱しながら60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、有機カルボニル化合物としてベンズアルデヒドを53.1mg(0.5mmol,1.0equiv)及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを205μL(5.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ85%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的のアルコール(フェニル(2-ナフチル)メタノール)を単離した。単離収率は77%であった。
【0096】
[実施例62~66]
有機ハロゲン化物及び有機カルボニル化合物として、表4の化合物を用い、各成分の使用量を、有機ハロゲン化物2.0equiv、金属5.0equiv、エーテル化合物3.0equiv及び有機カルボニル化合物0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例61と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率とともに表4に示す。
【0097】
[実施例67~72]
有機ハロゲン化物及び有機カルボニル化合物として、表4の化合物を用い、各成分の使用量を、有機ハロゲン化物1.5equiv、金属(マグネシウム)1.5equiv、エーテル化合物(テトラヒドロフラン)3.0equiv及び有機カルボニル化合物0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例61と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率及びNMR収率とともに表4に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
表4中の有機ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化5】
【0100】
表4中の有機カルボニル化合物は、それぞれ以下のとおりである。
【化6】
【0101】
表4中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化7】
【0102】
[実施例73~77、比較例1、2]
<エーテル化合物の技術的意義>
[実施例73]
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として4-ブロモトルエン(4-bromotoluene)を128.3 mg(0.75 mmol,1.5equiv)、金属としてマグネシウムを18.2mg(0.75 mmol,1.5equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開けて中を確認したところ、light orange Colorの泥状混合物(スラリー)が生成していることが分かった。
その後、有機カルボニル化合物としてベンズアルデヒド(benzaldehyde)を53.1mg(0.5mmol,1.0equiv)さらに加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いて反応生成物(ジフェニルメタノール)を得た。1HNMRによりNMR収率を求めたところ9%であった。
これより、ハロゲン化有機マグネシウム化合物とエーテル化合物を含み、エーテル化合物の含有量がハロゲン化有機マグネシウム化合物1当量に対して0.5~10当量である、組成物が得られた。
【0103】
[比較例1]
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として4-ブロモトルエン(4-bromotoluene)を128.3 mg(0.75 mmol,1.5equiv)、及び金属としてマグネシウムを18.2mg(0.75 mmol,1.5equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開けて中を確認したところ、Gray Colorの油状物質が得られた。
その後、有機カルボニル化合物としてベンズアルデヒド(benzaldehyde)を53.1mg(0.5mmol,1.0equiv)さらに加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いて反応生成物(ジフェニルメタノール)を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ6%であった。
【0104】
[実施例74~77、比較例2]
有機ハロゲン化合物及びエーテル化合物として、表5の化合物を用い、各成分の使用量を実施例73と同様にしたほかは、実施例73と同様にして反応を行って反応生成物(ジフェニルメタノール)を得た。結果をNMR収率とともに表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
[実施例78~83]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、有機カルボニル化合物(求電子剤)とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、アルコールの製造方法>
【化8】
【0107】
[実施例78]
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物としてブロモベンゼンを157.0mg(1.00mmol;2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol;5.0 equiv)、有機カルボニル化合物としてベンズアルデヒドを53.1mg(0.50mmol;1.0equiv)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で15分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ91%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的のアルコール(ジフェニルメタノール)を単離した。単離収率は93%であった。
【0108】
[実施例79~83]
有機ハロゲン化物及び/又は有機カルボニル化合物として、表6の化合物を用いたほかは、実施例78と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率及びNMR収率とともに表6に示す。
【0109】
【表6】
【0110】
表6中の有機ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化9】
【0111】
表6中の有機カルボニル化合物は、それぞれ以下のとおりである。
【化10】
【0112】
表6中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化11】
【0113】
[実施例84~90]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに求電子剤を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法>
【化12】
【0114】
[実施例84]
<ワインレブアミドとの反応>
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ブロモブタン(41a)を137.0mg(1.00mmol,2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol,5.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、求電子剤(ワインレブアミド)としてN-メトキシ-N-メチルベンズアミド(42a)を82.6mg(0.5mmol,1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ69%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的の1-phenylpentan-1-one(43aa)を単離した。単離収率は53%であった。
【0115】
[実施例85]
<ワインレブアミドとの反応>
各成分の使用量を、有機ハロゲン化物1.5equiv、金属1.5equiv、エーテル化合物3.0equiv及び求電子剤(ワインレブアミド)0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例84と同様にして反応を行って目的の1-phenylpentan-1-one(43aa)を得た。NMR収率は60%であった。
【0116】
[実施例86]
<エステルとの反応>
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ブロモブタン(41a)を137.0mg(1.00mmol,3.0equiv)、金属としてマグネシウムを24.3mg(1.00mmol,3.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを164μL(2.0mmol,6.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、安息香酸メチル(42b)を44.9mg(0.33mmol,1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ73%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的の5-phenylnonan-5-ol(43ab)を単離した。単離収率は61%であった。
【0117】
[実施例87]
<ニトリルとの反応>
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ブロモブタン(41a)を137.0mg(1.00mmol,2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol,5.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、2-ナフトニトリル(42c)を76.6mg(0.5mmol,1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的の1-(naphthalen-2-yl)pentan-1-one(43ac)を単離した。単離収率は52%であった。
【0118】
[実施例88]
各成分の使用量を、有機ハロゲン化物1.5equiv、金属1.5equiv、エーテル化合物3.0equiv及び求電子剤(ニトリル)0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例87と同様にして反応を行って目的の1-(naphthalen-2-yl)pentan-1-one(43ac)を得た。NMR収率は40%であった。
【0119】
[実施例89]
<クロロシランとの反応>
直径10mmのステンレス製のボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物としてブロモベンゼン(41b)を117.8mg(0.75mmol,1.5equiv)、金属としてマグネシウムを18.2mg(0.75mmol,1.5equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、クロロジメチルフェニルシラン(42d)を85.3mg(0.5mmol,1.0equiv)、ヨウ化銅を23.8mg(0.125mmol,0.25equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ86%であった。クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的のdimethyldiphenylsilane(43bd)を単離した。単離収率は62%であった。
【0120】
[実施例90]
<クロロシランとの反応>
各成分の使用量を、有機ハロゲン化物2.0equiv、金属5.0equiv、エーテル化合物3.0equiv及び求電子剤(クロロシラン)0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例89と同様にして反応を行って目的のdimethyldiphenylsilane(43bd)を得た。単離収率は48%であった。
【0121】
実施例84~90で使用した有機ハロゲン化物(41a、41b)、求電子剤(42a、42b、42c及び42d)及び反応生成物(43aa、43ab、43ac及び43bd)は、それぞれ以下のとおりである。
【化13】
【0122】
[実施例91~108]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらにニッケル触媒及びスルホン酸エステル化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、カップリング方法>
【化14】
【0123】
[実施例91]
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ブロモブタン(51a)を137mg(1.0mmol;3.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.5mmol;7.5equiv)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol;4.5equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、ニッケル触媒として10mol%の[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド((dppe)NiCl)を17.4mg(0.033mmol;0.1equiv)、スルホン酸エステル化合物として2-ナフチルトシレート(52a)を98.5mg(0.33mmol;1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、クルード混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで目的の2-n-ブチル-ナフタレンを得た。単離収率は75%であった。
【0124】
[実施例92~99]
有機ハロゲン化物及び/又はスルホン酸エステル化合物として、表7の化合物を用いたほかは、実施例91と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率とともに表7に示す。
【0125】
[実施例100~108]
有機ハロゲン化物及び/又はスルホン酸エステル化合物として、表7の化合物を用い、各成分の使用量を、有機ハロゲン化物1.5equiv、金属(マグネシウム)1.5equiv、エーテル化合物(テトラヒドロフラン)3.0equiv及びスルホン酸エステル化合物0.33mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例91と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を単離収率及びNMR収率とともに表7に示す。
【0126】
【表7】
【0127】
表7中の有機ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化15】
【0128】
表7中のスルホン酸エステル化合物は、それぞれ以下のとおりである。
【化16】
【0129】
表7中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化17】
【0130】
[実施例109]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、スルホン酸エステル化合物と、ニッケル触媒とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、カップリング方法>
【化18】
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ブロモブタンを137.0mg(1.0mmol)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.5mmol)、スルホン酸エステル化合物(トシラール化合物)として2-ナフチルトシレートを98.5mg(0.33mmol)、ニッケル触媒として10mol%の[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド((dppe)NiCl)を17.4mg(0.033mmol)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で90分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRにより、目的の2-n-ブチル-ナフタレンのNMR収率を求めた。NMR収率は43%であった。
【0131】
[実施例110~113]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させ、さらに共役エノン化合物を加えてメカノケミカル法により反応させる、付加反応方法>
【化19】
【0132】
[実施例110]
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物としてブロモベンゼンを157.0mg(1.00mmol;2.0equiv)、マグネシウムを60.8mg(2.5mmol;5.0equiv)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol;3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、共役エノン化合物としてベンジリデンアセトンを73.1mg(0.50mmol;1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ、1,2-付加体が59%と14-付加体が8%であった。
【0133】
[実施例111]
各成分の使用量を、有機ハロゲン化物(ブロモベンゼン)1.5equiv、金属(マグネシウム)1.5equiv、エーテル化合物(テトラヒドロフラン)3.0equiv及び共役エノン化合物(ベンジリデンアセトン)0.50mmol(1.0equiv)となるようにしたほかは、実施例110と同様にして反応・精製を行って反応生成物を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ、1,2-付加体が56%と14-付加体が7%であった。
【0134】
[実施例112]
ベンジリデンアセトン36.5mg(0.25mmol;1.0equiv)とともにヨウ化銅を95.2mg(0.5mmol;2.0equiv)加えたほかは、実施例110と同様にして反応させた。1H NMRによりNMR収率を求めたところ、1,2-付加体が4%、14-付加体が46%の反応混合物を得た。
【0135】
[実施例113]
ベンジリデンアセトン73.1mg(0.5mmol;1.0equiv)とともに、塩化セリウムを184.9mg(0.75mmol;1.5equiv)加えたほかは、実施例110と同様にして反応させた。1H NMRによりNMR収率を求めたところ、1,2-付加体が37%、14-付加体が6%であった。
【0136】
[比較例3]
ブロモベンゼンを117.8mg(0.75mmol;1.5equiv)及びマグネシウムを18.2mg(0.75mmol;1.5equiv)を、テトラヒドロフラン0.5mLに混合し、室温で60分間反応させた。次いで、ベンジリデンアセトンを73.1mg(0.50mmol;1.0equiv)加え、室温で60分間反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ、1,2-付加体が75%と14-付加体が25%であった。
【0137】
[実施例114]
<有機ハロゲン化物と、金属又は金属化合物と、共役エノン化合物とを、有機ハロゲン化物1当量に対して0.5~10.0当量のエーテル化合物の存在下で、メカノケミカル法により反応させる、付加反応方法>
【化20】
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物としてブロモベンゼンを157.0mg(1.00mmol)、マグネシウムを60.8mg(2.5mmol)、共役エノン化合物としてカルコン(1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オン)を104.1mg(0.5mmol)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ、60%であった。
【0138】
[実施例115、比較例4]
<溶解度の低いハロゲン化物に対するメカノケミカル法の優位性>
[実施例115]
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として4-ブロモ-p-ターフェニル(4-bromo-p-terphenyl:71a)を309.2mg(1.00mmol;2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol;5.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを123μL(1.5mmol,3.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、内部温度70℃となるようにヒートガンで加熱しながら60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、有機カルボニル化合物として3-フェニルプロピオンアルデヒド(72a)を67.1mg(0.50mmol;1.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、空気中、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物(73aa)をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ42%であった。
【0139】
[比較例4]
反応容器に、有機ハロゲン化物として4-ブロモ-p-ターフェニル(71a)を309.2mg(1.00mmol;2.0equiv)、金属としてマグネシウムを60.8mg(2.50mmol;5.0equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフランを3mL(0.33mol)加え、窒素雰囲気下で24時間還流して反応させた。その後、反応容器に、有機カルボニル化合物として3-フェニルプロピオンアルデヒド(72a)を67.1mg(0.50mmol;1.0equiv)を加え、窒素雰囲気中、室温(30℃)で60分反応させた。
反応終了後、反応混合物(73aa)をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、濾過することで無機塩を除いた。エバポレーターでジクロロメタンを除いたのち、1H NMRによりNMR収率を求めたところ1%未満であった。
【0140】
実施例115及び比較例4で使用した有機ハロゲン化物(4-ブロモ-p-ターフェニル:71a))、有機カルボニル化合物(3-フェニルプロピオンアルデヒド:72a)及び反応生成物(73aa)は、それぞれ以下のとおりである。
【化21】
【0141】
[実施例116、比較例5]
<NEXAFSスペクトルによる有機金属求核剤の同定>
[実施例116]
直径10mmのステンレス製ボールの入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物としてブロモベンゼンを157.0mg(1.00mmol;1.0equiv)、金属としてマグネシウムを24.3mg(1.00mmol;1.0equiv)、エーテル化合物としてテトラヒドロフランを164μL(2.00mmol,2.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、室温(30℃)で60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応混合物を精製することで、目的の有機金属求核剤PhMgBr(フェニルマグネシウムブロミド)を得た。
実施例116でメカノケミカル法により作製したPhMgBrと、溶液相で作製したPhMgBr(16%テトラヒドロフラン溶液、約1mol/L;市販品)について、そのMg K-edge NEXAFS(Mg-K吸収端におけるX線吸収端微細構造(NEXAFS))及びC K-edge NEXAFS(C-K 吸収端におけるX線吸収端微細構造)の測定を行い、各スペクトルを比較した。
【0142】
Mg K-edge NEXAFSの測定は、UVSOR-IIIシンクロトロンの軟X線ビームラインBL2Aを使用して行った。メカノケミカル法で作製したPhMgBrのグミ(gummy)状試料を高純度インジウム箔に貼り付け、カップ型サンプルホルダーに固定した。溶液相で調製したPhMgBrの試料は、MgBrを沈殿させていないPhMgBrの1.0MのTHF溶液を高純度インジウム箔上に滴下して乾燥させた。
マニピュレーターに試料ホルダーを固定し、1×10-6Pa以下に排気された真空チャンバー内に設置し、アルゴン雰囲気下で慎重に試料調製及び設置作業を行った。
Mg K-edge NEXAFSスペクトル(1250-1400eV)は、アルゴン雰囲気下で、試料のドレイン電流を測定して全電子収量(TEYs)で取得した。Mg K-edgeに入射する軟X線のエネルギー分解能は、1300~1330eVの範囲では0.2eV、1250~1300eV及び1330~1400eVの範囲では1.0eVとした。
【0143】
C K-edge NEXAFS測定は、UVSOR-IIIシンクロトロンの軟X線ビームラインBL3Uを使用して行った。PhMgBr試料はすべてステンレス製のサンプルホルダーに固定し、Mg K-edge NEXAFS測定と同様に、1×10-6Pa以下に排気された真空チャンバーに設置した。
C K-edge NEXAFSスペクトル(280-300eV)は、アルゴン雰囲気下で、試料のドレイン電流を測定して全電子収量(TEYs)で取得した。C K-edgeに入射する軟X線のエネルギー分解能は、283~293eVの範囲では0.05eV、280~283eV及び293~300eVの範囲では0.2eVとした。
インジウム箔のバックグラウンドの除去、ベースラインの補正、得られたスペクトルの正規化などのデータ処理は、Athenaプログラムを用いて行った。
【0144】
2価のカチオン性Mg2+種の形成は、出発点となったマグネシウムフレークのMg吸収端(1302.6eV)からMg-K吸収端(1307.4eV)への高エネルギーシフトによって明確に確認できる(図1)。
メカノケミカル法で作製したPhMgBrと溶液相で作製したPhMgBrのMg-K NEXAFSスペクトル及びC-K NEXAFSスペクトルは、図1及び図2に示すとおり良好に近似していることから、メカノケミカル法においても、従来の製法(THF溶液中での製造)と同様に、炭素-マグネシウム結合を有するほぼ同様の有機マグネシウム種(有機金属求核剤)が形成されていることが確認できる。
また、図2に示すC-K NEXAFSスペクトルにおいて、285.7eV及び287.7eVに強い1s-π*遷移ピークが観測されたことから、出発物質であるブロモベンゼンのC-Br結合が変化して炭素-マグネシウム結合が形成されたことが裏付けられている。
図3より、THF(エーテル化合物)が錯体中に含まれることで、THFを含まないハロゲン化有機金属化合物(r=0)における立方体構造が、より反応性の高い開口した構造へと変化し、Mg原子へのTHFの配位とそれに伴うMg-Br結合の切断が生じることが分かる。
【0145】
実施例1~116及び比較例1~5から、本発明に係る有機金属求核剤の製造方法、アルコールの製造方法、付加反応方法及びカップリング反応方法は、簡便な方法及び反応条件で、環境負荷を軽減することができ、さらにコストを軽減できる、産業上非常に有用な発明であることがわかる。
例えば、実施例73~77及び比較例1、2から、エーテル化合物を使用する点が顕著に優位であることがわかる。
例えば、実施例115及び比較例4から、従来、有機金属求核剤を形成することが困難であった化合物から、簡便な方法及び反応条件で有機金属求核剤を得ることができ、顕著に優位であることがわかる。
【0146】
[実施例117]
<カルシウム炭素求核剤(“Heavy”Grignard試薬)のメカノケミカル合成>
直径5mmのステンレス製ボールが2つ入った1.5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、有機ハロゲン化物として1-ヨード-ナフタレン(1-Iodonaphthalene)を127mg(0.5mmol;1equiv)、金属としてカルシウム粉末(純度99%、粒径5mm以下)を30mg(0.75mmol;1.5equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロピラン(THP)を196μL(2mmol,4.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、内部温度60℃となるようにヒートガンで加熱しながら60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開け、1.0M塩酸を1mL(1mmol;2equiv)加えた。反応生成物であるナフタレンをジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した後に、エバポレーターでジクロロメタンを除き、1H NMRによりNMR収率を求めたところ32%であった。また、変換率は、99%超であった。
【0147】
[実施例118~135]
<カルシウム炭素求核剤(“Heavy”Grignard試薬)のメカノケミカル合成とアルキル化反応への応用>
【化22】
【0148】
[実施例118]
直径5mmのステンレス製ボールが2つ入った1.5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、芳香族ハロゲン化物として1-ヨード-ナフタレン(1-Iodonaphthalene)を127mg(0.5mmol;1equiv)及び脂肪族ハロゲン化物としてヨードエタンを312mg(2mmol;4equiv)、金属としてカルシウム粉末(純度99%、粒径5mm以下)を30mg(0.75mmol;1.5equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロピラン(THP)を196μL(2mmol4.0equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、内部温度60℃となるようにヒートガンで加熱しながら60分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応生成物である1-エチルナフタレンをジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した後に、エバポレーターでジクロロメタンを除き、反応成物を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ80%であり、単離収率を求めたところ69%であった。
【0149】
[実施例119]
金属としてマグネシウム粉末を18mg(0.75mmol;1.5equiv)用いたほかは、実施例118と同様にして反応・精製を行って反応生成物を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ15%であった。
これより、マグネシウムを用いると、収率が低く反応が難しい場合であっても、カルシウムを用いると、高収率で容易に反応させることが可能となることが分かる。
【0150】
[実施例120~135]
芳香族ハロゲン化物及び脂肪族ハロゲン化物として、表8の化合物を用いたほかは、実施例118と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を、単離収率及びNMR収率とともに表8に示す。
【0151】
【表8】
【0152】
表8中の芳香族ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化23】
【0153】
表8中の脂肪族ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化24】
【0154】
表8中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化25】
【0155】
[実施例136~141]
<有機マンガン試薬のメカノケミカル合成>
【化26】
【0156】
[実施例136]
直径10mmのステンレス製ボールが入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、芳香族ハロゲン化物として1-フルオロ-2-ヨードベンゼンを1mmol、金属としてマンガン粉末を3mmol、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフラン(THF)を2mmol加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、内部温度35℃となるようにヒートガンで加熱しながら180分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開けたところ、ボールミルジャー内にはペースト状物が生成しており、マンガン粉末は確認されなかった。続けて、ボールミルジャー内に、1-オクタナール(CH(CHCHO)を2mmol加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、空気中、内部温度35℃で30分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応生成物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した後に、エバポレーターでジクロロメタンを除き、反応成物を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ50%であった。
【0157】
[実施例137~141]
芳香族ハロゲン化物として、表9の化合物を用い、内部温度を70℃としたほかは、実施例136と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を、NMR収率とともに表9に示す。
【0158】
【表9】
【0159】
表9中の芳香族ハロゲン化物は、それぞれ以下のとおりである。
【化27】
【0160】
表9中の反応生成物は、それぞれ以下のとおりである。
【化28】
【0161】
[比較例6~9]
<有機マンガン試薬の溶液条件での調製>
[比較例6]
フラスコに、芳香族ハロゲン化物として1-フルオロ-2-ヨードベンゼンを1mmol、金属としてマンガン粉末を3mmol(3equiv)、及びエーテル化合物としてテトラヒドロフラン(THF)を0.5mol加えた。窒素雰囲気下、系内温度35℃で1.5時間撹拌した後に、1-オクタナールを2mmol(2equiv)加え、25℃で30分撹拌した。1H NMRにより反応生成物(表9中の202a)のNMR収率を求めたが、反応生成物が検出されなかった。なお、芳香族ハロゲン化物の回収率は79%であり、マンガン粉末と芳香族ハロゲン化物の反応が生成しなかったことが確認された。
【0162】
[比較例7~9]
窒素雰囲気下において、系内温度70℃で1.5時間撹拌(比較例7)、系内温度35度で24時間撹拌(比較例8)又は系内温度70℃で24時間撹拌(比較例9)した後に、1オクタナールを加えたほかは、比較例6と同様にし、1H NMRにより反応生成物(表9中の202a)のNMR収率を求めたが、いずれも反応生成物が検出されなかった。また、芳香族ハロゲン化物の回収率は、それぞれ91%(比較例7)、77%(比較例8)及び85%(比較例9)であり、マンガン粉末と芳香族ハロゲン化物の反応が生成しなかったことが確認された。
【0163】
[実施例142~150]
<有機マンガン試薬のメカノケミカル合成におけるエーテル化合物の効果>
[実施例142]
直径10mmのステンレス製ボールが入った5mLステンレス製ボールミルジャーに、空気下で、芳香族ハロゲン化物としてペンタフルオロヨードベンゼンを1mmol、金属としてマンガン粉末を3mmol、及びエーテル化合物としてエチレングリコールジメチルエーテル207μL(2mmol(2equiv);下記化合物203a)を加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、内部温度35℃となるようにヒートガンで加熱しながら90分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。その後、ボールミルジャーの蓋を開けたところ、ボールミルジャー内にはペースト状物が生成しており、マンガン粉末は確認されなかった。続けて、ボールミルジャー内に、1-オクタナールを2mmol(2equiv)加えた。ボールミルジャーの蓋を閉め、ボールミルに装着し、空気中、内部温度35℃で30分振とうして撹拌(30Hz)して反応させた。
反応終了後、反応生成物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過した後に、エバポレーターでジクロロメタンを除き、反応成物を得た。1H NMRによりNMR収率を求めたところ40%であった。
【0164】
[実施例143~150]
エーテル化合物として、表10の化合物を2equivとなる量(2mmol)用いたほかは、実施例142と同様にして反応を行って反応生成物を得た。結果を、NMR収率とともに表10に示す。
【0165】
【表10】
【0166】
表10中のエーテル化合物は、それぞれ以下のとおりである。
【化29】
【0167】
金属マンガンとハロゲン化物との反応により、有機マンガン試薬を得る方法としては、例えば、以下(i)又は(ii)の方法が知られている。
【化30】
(Tetrahedron 2001,57,8807.)
【0168】
【化31】
(Org.Lett.2011,13,3198.)
【0169】
上記(i)は、ハロゲン化マンガンMnXの還元を経る方法であり、上記(ii)は、金属Mnと添加剤を用いる調整方法であって、取り扱いにくい高反応性の活性化剤や添加剤を用いる調整方法である。一方、本発明のメカノケミカル法による有機マンガン試薬の調整方法は、取り扱いにくい活性化剤や添加剤を用いない簡便な方法であり、極めて有利である。
また、比較例6~9に示すように、従来の溶液系では、金属Mnとハロゲン化物を混合しても、反応することなく、目的の化合物を得ることができない。この点においても、本発明のメカノケミカル法による有機マンガン試薬の調整方法は、極めて有利である。
図1
図2
図3