(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】流路構造体への流体充填方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/12 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N15/12 B
G01N15/12 A
(21)【出願番号】P 2019069949
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 俊薫
(72)【発明者】
【氏名】古川 琴浩
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 和樹
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃治
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019890(JP,A)
【文献】特開2009-047626(JP,A)
【文献】特開2012-215535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFF流路に粒子検出部位を組み合わせた粒子分離検出流路を備えた流路構造体に対して
気泡を残さずに液体を充填する液体充填方法であって、
前記流路構造体は、
複数の入口
側流路が接続された入口側分岐
流路と、
該入口側分岐
流路が接続された狭窄流路と、
該狭窄流路に接続された拡大流路と、
前記拡大流路に接続され、粒子検出用のアパーチャ部位を有する複数の回収流路と、
前記拡大流路に接続されたドレイン流路と、
を備え、
前記入口側流路は、前記流路構造体に液体を流入させる入口として使用される開口部である孔を有する流路であり、
前記狭窄流路は、PFF流路の一部としての機能を有する流路であり、
前記回収流路は、
前記流路構造体から液体を取り出す出口として使用される開口部である孔を有し、かつ、前記拡大流路に対する狭窄部を有
する流路であり、
前記ドレイン流路は、
前記流路構造体から液体を出し入れする部分として使用される開口部である孔を有し、かつ、前記拡大流路に接続された前記狭窄流路および
前記回収流路に含まれる前記狭窄部よりも広い流路であり、
前記ドレイン
流路の有する開口部から、
前記流路構造体に接続された開口部を有する流路のうち最も広い流路である前記ドレイン流路を介して前記流路構造体に液体を充填することを特徴とする液体充填方法。
【請求項2】
前記充填が、前記ドレイン
流路の有する開口部である孔からピンによって
液体を圧入し、充填することを特徴とする請求項1に記載の
液体充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路構造体への流体充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイノリティーな粒子群を正確に検出可能な技術として、電気的検出を用いるコールター法(電気的検知帯法;以下、ESZと記載)が知られている。ESZ法ではアパーチャに粒子を通過させた際に発生する電気的シグナルを用いて粒子径を算出するが、一般にそのダイナミックレンジはアパーチャ径の2~60%といわれている。ESZ法の欠点であるダイナミックレンジの狭さを解消するため粒子を分級し、異なるアパーチャ径を持つESZ法で検出する方法が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1のように連続的な分離を可能にする技術として、マイクロ流路を用いたピンチドフローフラクショネーション(Pinched Flow Fractionation)(以下、PFFと記載)が利用されている。PFF法は流体力学的特性を利用するため流路内に発生する気泡や流路内部が完全に液体で充填されていないと望みの分級を行うことはできないが、PFF法を用いた流路構造は複雑なため、インレットから溶液を導入する方法では完全に流路内部を溶液で満たすことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、狭窄部位を有する流路構造体へ気泡を残さず効率よく流体を充填する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の一態様は、
狭窄部位を有する流路に繋がった入口を備えた流路構造体に対して、前記入口以外の流路末端孔から流体を充填することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の別態様は、
狭窄部位を有する流路に繋がった入口と、狭窄部位を有する流路のみに繋がった出口と、狭窄部位を有する流路以外とも繋がった充填用出口と、を備えた流路構造体に対して、前記充填用出口から流体を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ナノ~マイクロレベルの微小な粒子を広範囲に定量的に評価できる流路構造体へ気泡を残さず効率よく流体を充填することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1及び比較例1、2で使用した流路の図面である。(a)は流路の全体図、(b)は領域21の拡大図、(c)は103の拡大図である。
【
図2】(a)は比較例1における充填方法を示した図、(b)は充填後の105の拡大写真、(c)は充填後の106の拡大写真である。
【
図3】(a)は比較例2における充填方法を示した図、(b)は充填後の107の拡大写真である。
【
図5】簡便に液を圧入るためのピンを備えた冶具の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し本発明は異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでは無い。
【0012】
狭窄部位を有する流路とは、ある流路に接続されている当該流路より相対的に流路幅が狭くなった流路や、流路途中で流路幅が部分的に狭くなっている流路のことを指す。狭窄部位を有する流路に繋がった入口を備えた流路構造体としては、PFFをシステム化した流路構造体(以下、PFF流路と省略することがある)、ハイドロダイナミックフィルトレーション法、フィールドフローフラクショネーション法(膜の部分が狭窄流路とみなされる)、ESZ法(アパーチャ部位)をシステム化した流路構造体が例示される。例えば、PFF流路ではサンプル液を流す流路(サンプル流路)とシース液を流す流路(シース流路)が合流して形成される狭窄流路、狭窄流路に接続された拡大流路、拡大流路に接続された出口流路を少なくとも備えており、狭窄流路はサンプル流路やシース流路よりも流路幅が狭くなっていることが原理上、必要となるため、狭窄流路は本発明における狭窄部位を有する流路に該当する。すなわち、PFF流路に対して、出口流路の末端(出口)から流体を充填すれば、気泡を残さず効率よく流体を充填することが可能となる。
【0013】
図1に示すようなPFF流路にESZ法を組み合わせたような粒子分離検出流路を備えたマイクロチップ10の場合、インレット14a、14b、アウトレット23、104a、104b、104cを孔として持ち、各孔の間を入口側分岐18a、18b、狭窄流路16、拡大流路17、ドレイン流路22、粒子回収流路102a、102b、102c、粒子検出流路103a、103b、103cが繋ぐ構造になっている(
図1(a)、(b)参照)。粒子検出流路103a、103b、103cにはアパーチャ53が存在している(
図1(c)参照)。アパーチャにより粒子検出流路は部分的に流路幅が狭まるため、粒子検出流路は本発明における狭窄部位を有する流路に該当する。すなわち、アウトレット104a、104b、104cは、狭窄部位を有する流路のみに繋がった出口であり、アウトレット23は(狭窄流路16及び拡大流路17に流体接続されている)ドレイン流路22に繋がった出口であり、アウトレット23から流体を充填すれば、気泡を残さず効率よく流体を充填することが可能となる。
【0014】
流体を充填する方法としてはシリンジポンプ、ペリスタポンプ、圧送ポンプ等の圧力勾配による送液、電気浸透流ポンプによる送液、液面差による送液、孔に注入した流体を
図4に示すようなピン構造物を用いて、圧入することも可能である。また、ピンを用いて流体を導入する方法として、
図5に示すようなピンを押し込むため冶具を用いて圧入すると、簡便かつ再現性が良くなり好ましい。
【0015】
流路構造体の材質としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル等の各種ポリマー材料、ガラス、シリコーン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属、半導体などを用いることができ、またこれらの材料のうち、任意の2種類の基板を組み合わせて用いることも可能である。ただし、流路自体を安価に作製し提供するためには、少なくとも部分的にポリマー材料を用いることが好ましい。
【0016】
流路がPDMS等の伸縮可能な材質であれば、上述したピン構造物は硬質の材料、例えばアクリル等の各種ポリマー材料であればガラス、シリコーン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属が好ましい。逆に流路が前記硬質の材料であればPDMSやブタジエンースチレンゴムなどの伸縮可能な材料を用いることで、液を圧入することができる。
【0017】
本発明における流体は、水溶液であり、好ましくは界面活性剤含む水溶液であるが、塩が入っていても良い。またオイルや油を用いることもできる。
【実施例】
【0018】
実施例1
一般的なフォトリソグラフィーとソフトリソグラフィー技術を用いて、
図1に示すマイクロチップ10を作製した。具体的な手順は、特許文献1の実施例に記載の方法と同様である。この時、マイクロチップ10の各流路について、流路13の高さは粒子検出部103a、粒子検出部103c以外すべて4.5μmとし、流路13の端部に、基板11の上面に貫通するインレット14a、14b、アウトレット104a、104a’、104b、104b’、104c、104c’、23(それぞれ穴の径2mm)を設けた。また流路13は、分岐流路18a(幅20μm、長さ1.5mm)、分岐流路18b(幅40μm、長さ500μm)、狭窄流路16(幅6μm、長さ20μm)、拡大流路17(24b角度135度、最大拡大時流路幅600μm、長さ0.5mm)、ドレイン流路22(幅500μm、長さ1.7mm)、粒子回収流路102a(幅75μm、長さ4mm)、粒子回収流路102c(幅140μm、長さ7.5mm)、粒子回収流路102b(幅512μm、長さ3.75mm)とした。また、粒子検出部102aの2つのアパーチャは、どちらも幅1μm、高さ0.4μm、長さ10μmとし、粒子検出部102cの2つのアパーチャは、どちらも幅2μm、高さ0.8μm、長さ10μmとし、粒子検出部102bの2つのアパーチャは、どちらも幅3.5μm、高さ4.5μm、長さ20μmとした。
アウトレット23に液体100NとしてミリQ水7μLを導入した。導入した液を
図5に示す冶具で圧入し内部に液が均一に圧入されることを確認した。
【0019】
比較例1
実施例1で用いたマイクロチップに対して、インレット14a、14bに液体100NとしてミリQ水7μLずつを導入した。導入した液の圧入具合を顕微鏡観察し、内部に液が均一に圧入されていないことを確認した(
図2(b)、(c)参照)。
【0020】
比較例2
実施例1で用いたマイクロチップに対して、アウトレット104aに液体100NとしてミリQ水7μLを導入した。導入した液導入した液を
図5に示す冶具で圧入し圧入具合を顕微鏡観察したところ、狭窄部位(アパーチャ)にゴミが閉塞し流路として使用できないことを確認した(
図3(b)参照)。
【符号の説明】
【0021】
8 アパーチャを閉塞した粒子
10 マイクロチップ
11 基板
12 基板
13 流路
14a、14b 入口側ポート
16 狭窄流路
16a サンプル液側狭窄流路壁面
16b シース液側狭窄流路壁面
17 拡大流路
17a サンプル液側拡大流路壁面
17b シース液側狭拡大路壁面
18a、18b 入口側分岐
19 拡大開始点
21 流路
22 ドレイン流路
23 アウトレット
24b 角度
40 スロープ部分
50 粒子
53 アパーチャ
54、54a、54b 電極
62 粒子検出流路
100N 流体
102a~c 粒子回収流路
103a~c 粒子検出部
104a~c アウトレット
105 粒子回収流路
106 粒子回収流路
107 アパーチャA