(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】反射防止膜及びその製造方法及び光学部品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20231219BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20231219BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20231219BHJP
G02B 1/16 20150101ALI20231219BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231219BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/111
G02B1/18
G02B1/16
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2019118740
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀雄
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-074911(JP,A)
【文献】特開2002-107505(JP,A)
【文献】特開平06-263483(JP,A)
【文献】特開2019-003215(JP,A)
【文献】特開2016-071338(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104950509(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106054288(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106946470(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/115
G02B 1/111
G02B 1/18
G02B 1/16
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率Nsub=1.42以上1.815未満の光学基材上に、前記光学基材から順に、屈折率N1が屈折率Nsubに対して0.02以上0.22以下大きい値の第1層、屈折率N2=1.86~2.1の第2層、屈折率N3=2.1~2.6の第3層、屈折率N4=1.3~1.75の第4層、屈折率N5=2.1~2.6の第5層、及び屈折率N6=1.1~1.4の第6層が形成されており、
Nsub < N1 < N2 < N3の関係を満たし、
前記第1層の光学膜厚が55~163 nmであり、前記第2層の光学膜厚が49~204 nmであり、前記第3層の光学膜厚が34~313 nmであり、前記第4層の光学膜厚が11~84 nmであり、前記第5層の光学膜厚が35~61 nmであり、前記第6層の光学膜厚が52~176 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜において、全層の合計光学膜厚が451~905 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜において、前記第6層は、Na
5Al
3F
14,Na
3AlF
6,LiF,AlF
3,MgF
2,SrF
2及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる膜,MgF
2のナノ多孔質膜,SiO
2のナノ多孔質膜,又はAl
2O
3のナノ多孔質膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
屈折率Nsub=1.815以上2.01以下の光学基材上に、前記光学基材から順に、屈折率N2=1.86~2.1の第1層、屈折率N3=2.1~2.6の第2層、屈折率N4=1.3~1.75の第3層、屈折率N5=2.1~2.6の第4層、屈折率N6=1.1~1.4の第5層が形成されており、
Nsub <
N2 <
N3の関係を満たし、
前記第1層の光学膜厚が49~204 nmであり、前記第2層の光学膜厚が34~313 nmであり、前記第3層の光学膜厚が11~84 nmであり、前記第4層の光学膜厚が35~61 nmであり、前記第5層の光学膜厚が52~176 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項5】
請求項4に記載の反射防止膜において、全層の合計光学膜厚が396~838 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の反射防止膜において、前記第5層は、Na
5Al
3F
14,Na
3AlF
6,LiF,AlF
3,MgF
2,SrF
2及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる膜,MgF
2のナノ多孔質膜,SiO
2のナノ多孔質膜,又はAl
2O
3のナノ多孔質膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の反射防止膜において、少なくとも1層がNbドープTiO
2,SnドープIn
2O
3,SbドープSnO
2,FドープSnO
2,AlドープZnO及びGaドープZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種の帯電防止材料からなることを特徴とすることを特徴とする反射防止膜。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の反射防止膜において、最外層の表面に光学膜厚5~50 nmのSiO
2からなる耐湿膜が形成されていることを特徴とする反射防止膜。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の反射防止膜において、最外層の表面に光学膜厚5~50 nmのSiO
2からなる耐湿膜が形成され、さらに防汚膜が形成されていることを特徴とする反射防止膜。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の反射防止膜において、最外層の表面に光学膜厚5~50 nmのSiO
2からなる耐湿膜が形成され、さらに防曇膜が形成されていることを特徴とする反射防止膜。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の反射防止膜において、前記屈折率N6が1.3~1.4であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の反射防止膜を備えることを特徴とする光学部品。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の反射防止膜を製造する方法であって、気相成膜法により一連で成膜すること特徴とする反射防止膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜及びその製造方法、及び反射防止膜を備える光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の光学機器に搭載されるレンズ、フィルタ、プリズム等の光学部品には、光の透過率を向上させることを目的として、反射防止膜が施されている。特に可視域での反射を抑えることにより、像の明るさや見え易さを向上させることができる。
【0003】
近年、赤外線による光学機器の利用が盛んになっている。例えば赤外線カメラは暗所での撮影に適しているので、店舗等の各種施設に設置され、防犯や防災のための監視カメラとして用いられる。このような赤外線による光学機器の利用の拡大に伴い、可視域及び赤外域にわたる広帯域で反射防止効果を有する広帯域反射防止膜の開発が要望されている。
【0004】
従来、より広い波長域で光の反射を低く抑えるに、反射防止膜を多層化してきた。例えば特許第2711697号(特許文献1)には、波長400~900 nmといった広い波長域で反射率0.8%以下の反射防止効果を付与する目的で、ガラス基板から順に第1層,第3層,第5層及び第7層にTiO2を、第2層,第4層及び第6層にSiO2を、第8層に屈折率の低いMgF2を蒸着してなり、低反射の波長帯域を可視域から赤外域まで拡大した8層構成の広帯域反射防止膜が開示されている。
【0005】
特開2017-32852号(特許文献2)には、高屈折率材料(TiO2)と低屈折材料(SiO2)とを交互に8層形成し、最外層に屈折率の低いMgF2を形成した9層構成の広帯域反射防止膜において、MgF2の耐湿性の課題を克服するためにMgF2層の上にSiO2保護膜をさらに積層することが開示されている。
【0006】
特開2019-3215号(特許文献3)には、屈折率材料(Nb2O5)と低屈折材料(SiO2)とを交互に8層又は9層形成し、最外層を屈折率の低いMgF2とする9層又は10層構成の広帯域反射防止膜において、最外層の上にSiO2保護膜を形成し、指紋や汚れ等の付着を防止するための防汚膜をさらに積層することが開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1~3の広帯域反射防止膜は、構成する層数がいずれも8層以上である。通常、反射防止膜を成膜する際に光学的変化や水晶振動子の振動変化により膜厚を制御しているが、各層の膜厚が設計目標値に対してプラス又はマイナス方向に誤差が生じるのは避けられない。例えば特許文献1の8層膜では、膜厚の誤差方向である2方向の8乗(層数乗)である256通りの膜厚誤差の組合せがある。従って、層数が多いほど設計目標値との誤差が大きくなり、所望の反射防止特性が得られないという問題があった。
【0008】
さらに、反射防止膜を成膜する際、各層の成膜間に成膜材料の切り替え時間がプラスされるために、構成する層数が多くなると製造ロットごとの成膜時間が長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2711697号公報
【文献】特開2017-32852号公報
【文献】特開2019-3215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、可視域から赤外域までの波長400~900 nmの広帯域で優れた分光反射特性を有し、かつ5層又は6層構成の層数の少ない広帯域反射防止膜を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、かかる反射防止膜を備える光学部品を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、かかる反射防止膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、8層構成の広帯域反射防止膜の第1層~第4層の4層膜を、光学基材の屈折率に応じて1層膜又は2層膜に置き換えることにより、波長400~900 nmの分光反射特性を損なうことなく、5層又は6層構成の層数の少ない広帯域反射防止膜が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0014】
即ち、本発明の一実施態様による反射防止膜は、屈折率Nsub=1.42以上1.815未満の光学基材上に、前記光学基材から順に、屈折率N1が屈折率Nsubに対して0.02以上0.22以下大きい値の第1層、屈折率N2=1.86~2.1の第2層、屈折率N3=2.1~2.6の第3層、屈折率N4=1.3~1.75の第4層、屈折率N5=2.1~2.6の第5層、及び屈折率N6=1.1~1.4の第6層が形成されており、Nsub < N1 < N2 < N3であり、前記第1層の光学膜厚が55~163 nmであり、前記第2層の光学膜厚が49~204 nmであり、前記第3層の光学膜厚が34~313 nmであり、前記第4層の光学膜厚が11~84 nmであり、前記第5層の光学膜厚が35~61 nmであり、前記第6層の光学膜厚が52~176 nmであるいることを特徴とする。
【0015】
本発明の別の実施態様による反射防止膜は、屈折率Nsub=1.815以上2.01以下の光学基材上に、前記光学基材から順に、屈折率N2=1.86~2.1の第1層、屈折率N3=2.1~2.6の第2層、屈折率N4=1.3~1.75の第3層、屈折率N5=2.1~2.6の第4層、屈折率N6=1.1~1.4の第5層が形成されており、Nsub < N2 < N3であり、前記第1層の光学膜厚が49~204 nmであり、前記第2層の光学膜厚が34~313 nmであり、前記第3層の光学膜厚が11~84 nmであり、前記第4層の光学膜厚が35~61 nmであり、前記第5層の光学膜厚が52~176 nmであることを特徴とする。
【0016】
本発明の光学部品は、上記の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の反射防止膜の製造方法は、前記光学基材上に気相成膜法により一連で成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可視域から赤外域までの波長400~900 nmの広帯域で優れた分光反射特性を有し、かつ5層又は6層構成の層数の少ない広帯域反射防止膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例による反射防止膜を備えた光学部品を示す図である。
【
図2】本発明の他の実施例による反射防止膜を備えた光学部品を示す図である。
【
図3】実施例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図4】実施例2の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図5】実施例3の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図6】実施例4の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図7】実施例5の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図8】実施例6の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図9】実施例7の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図10】実施例8の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図11】実施例9の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図12】実施例10の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【
図13】比較例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1] 第一の実施態様
図1は本発明の一実施例による広帯域反射防止膜を備えた光学部品を示す図である。
図1に示す光学部品は、光学基材10と、基材10の表面に形成された反射防止膜20とを有する。反射防止膜20は、基材10から順に第1層11~第6層16が形成されている。
【0021】
(1) 基材
図1に示す基材10は平板状であるが、本発明はこれに限定されず、レンズ状でも良く、光学部品に用いる基材であれば適用可能である。例えば、表面に曲率を有するレンズ、プリズム、ライトガイド、フィルム又は回折素子でも良い。基材10の屈折率Nsubは、1.42以上1.815未満である。基材及び反射防止膜の各層の屈折率は、波長587.56 nmのHe光源のd線に対する屈折率である。
【0022】
基材10の材料は特に限定されないが、ガラス、石英、シリコン、カルコゲナイド等を用いても良い。具体的には、FK03、FK5、BK7、SK14、LAK7、LAK10、LASF016、S-FPL53(登録商標)、S-FPL51(登録商標)、S-BSL7(登録商標)、S-PHM52(登録商標)、S-LAL18(登録商標)、S-LAH52(登録商標)等の光学ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英、合成石英、青板ガラス、白板ガラス、ゼロデュア(登録商標)、蛍石、サファイア等が挙げられる。
【0023】
(2) 反射防止膜
反射防止膜20は、基材10から順に、屈折率N1=Nsub+0.02~Nsub+0.22の第1層21、屈折率N2=1.86~2.1の第2層22、屈折率N3=2.1~2.6の第3層23、屈折率N4=1.3~1.75の第4層24、屈折率N5=2.1~2.6の第5層25、及び屈折率N6=1.1~1.4の第6層26が形成されている。基材10の表面に、基材10の屈折率Nsubの屈折率に対して屈折率N1=Nsub+0.02~Nsub+0.22の第1層を設け、その上に上記の屈折率の第2層~第6層を設けることにより、1.42以上1.815未満の範囲の屈折率Nsubを有する基材10に対し、6層構成という層数の少ない反射防止膜で波長400~900 nmの広帯域で優れた反射防止効果が得られる。屈折率N1はNsub+0.03~Nsub+0.21であるのが好ましい。
【0024】
第1層21~第5層25の材料は、一般に反射防止膜に使用するものであれば特に限定されないが、各層の屈折率に応じて、例えば、Na5Al3F14(屈折率1.33),Na3AlF6(屈折率1.35),LiF(屈折率1.36),AlF3(屈折率1.36),MgF2(屈折率1.38),SrF2(屈折率1.4),4フッ化エチレン樹脂(PTFE),3フッ化塩化メチレン樹脂(PCTFE),フッ化ビニル樹脂(PVF),4フッ化エチレン-6フッ化プロビレン共重合体(FEP),フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等のフッ素樹脂,CaF2(屈折率1.43),SiO2(屈折率1.47),BaF2(屈折率1.48),S4F(キヤノンオプトロン株式会社製SiO2+Al2O3,屈折率1.48),S5F(キヤノンオプトロン株式会社製SiO2+Al2O3,屈折率1.48),YF3(屈折率1.52),LaF3(屈折率1.59),CeF3(屈折率1.60),Al2O3(屈折率1.64),OM4(キヤノンオプトロン株式会社製ZrO2+Al2O3,屈折率1.69),MgO(屈折率1.74),OM6(キヤノンオプトロン株式会社製ZrO2+Al2O3,屈折率1.75),Y2O3(屈折率1.81),ZnO+Ga(GZO,屈折率1.95),ZnO+Al(AZO,屈折率1.95),SnO2+Sb(ATO,屈折率1.99),SnO2+F(FTO,屈折率1.99),In2O3+Sn(ITO,屈折率1.99),OH14(キヤノンオプトロン株式会社製La2Ti2O7,屈折率2.0),HfO2(屈折率2.0),ZrO2(屈折率2.0),Si3N4(屈折率2.0),AlN(屈折率2.1),CeO2(屈折率2.1),OH5(キヤノンオプトロン株式会社製ZrO2+TiO2),Ta2O5(屈折率2.2),Nb2O5(屈折率2.3),TNO(キヤノンオプトロン株式会社製TiO2+Nb,屈折率2.54),TiO2(屈折率2.3)等から適宜選択される。
【0025】
第3層23の屈折率N3と第5層25の屈折率N5は同じ屈折率範囲であるが、屈折率は同じでも良く、互いに異なっていても良い。第3層23及び第5層25は同じ材料から形成されていても良く、異なる材料から形成されていても良い。
【0026】
第6層26の材料は、Na5Al3F14(屈折率1.33),Na3AlF6(屈折率1.35),LiF(屈折率1.36),AlF3(屈折率1.36),MgF2(屈折率1.38),SrF2(屈折率1.4)及び4フッ化エチレン樹脂(PTFE),3フッ化塩化メチレン樹脂(PCTFE),フッ化ビニル樹脂(PVF),4フッ化エチレン-6フッ化プロビレン共重合体(FEP),フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等のフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる膜,MgF2のナノ多孔質膜,SiO2のナノ多孔質膜,Al2O3のナノ多孔質膜等が挙げられる。ナノ多孔質膜の細孔径は0.01~0.5μmであるのが好ましく、空孔率は20~80%であるのが好ましい。第6層26が屈折率N6=1.3未満である場合、シリカエアロゲルからなるのが好ましい。シリカエアロゲル層は既存の製造方法により成膜することができる。
【0027】
製造工程の簡略化を考慮すると、第6層26の屈折率N6は1.3~1.4であるのが好ましい。第6層26の屈折率N6が1.3~1.4の範囲であれば、後述するように、第1層21~第5層25と同様に物理成膜法により一連で成膜することができ、成膜装置の切り替えが不要なため、全体の成膜時間を短縮できる。第2層22の屈折率N2は1.88~2.08であり、第3層23の屈折率N3は2.12~2.58であり、第4層24の屈折率N4は1.32~1.73であり、第5層25の屈折率N5は2.12~2.58であるのが好ましい。
【0028】
第1層21の光学膜厚が55~163 nmであり、第2層22の光学膜厚が49~204 nmであり、第3層23の光学膜厚が34~313 nmであり、第4層24の光学膜厚が11~84 nmであり、第5層25の光学膜厚が35~61 nmであり、第6層26の光学膜厚が52~176 nmであるのが好ましい。光学膜厚とは、各層の屈折率(n)と物理膜厚(d)の積(n×d)である。これらの光学膜厚の範囲であれば、波長400~900 nmの広帯域で特に優れた反射防止効果が得られる。第1層21~第6層26の光学膜厚の総和(合計光学膜厚:後述の機能性膜をさらに含む場合は機能性膜の光学膜厚を加えた反射防止膜の厚さ)が451~905 nmであるのが好ましい。なお本発明の反射防止膜は、反射防止膜に関する技術分野におけるいわゆる薄膜に相当するとみなしても良い。これは後述する第二の実施態様や機能性膜を備える場合も同様である。
【0029】
(3) 反射防止膜の製造方法
反射防止膜の第1層21~第5層25は、気相成膜法で形成するのが好ましい。気相成膜法としては、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の物理成膜法や、化学蒸着法(CVD)が挙げられる。中でも加工精度の面において真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法が好ましい。
【0030】
反射防止膜の第6層26は、形成する膜の種類に応じて、第1層21~第5層25と同様に気相成膜法により形成しても良いし、ゾル-ゲル法等の液相成膜法により形成しても良い。製造工程の簡略化を考慮すると、気相成膜法で形成するのが好ましい。それにより、第1層21~第5層25と同様に気相成膜法により一連で成膜することができ、成膜装置の切り替えが不要なため、全体の成膜時間を短縮できる。
【0031】
[2] 第二の実施態様
図2は本発明の他の実施例による広帯域反射防止膜を備えた光学部品を示す図である。
図2に示す光学部品は、光学基材30と、基材30の表面に形成された反射防止膜40とを有する。反射防止膜40は、基材30から順に第1層41~第5層45が形成されている。
【0032】
基材30の屈折率Nsubは1.815以上2.01以下である。基材30の形状・種類は第一の実施態様の基材10と同様で良い。基材30の材料は特に限定されないが、ガラス、石英、シリコン、カルコゲナイド等を用いても良い。具体的には、SFL03、LASF08、S-NPH2、S-LAH58、TAF5、E-FDS1、ルミセラ等が挙げられる。
【0033】
反射防止膜40は、基材30から順に、屈折率N2=1.86~2.1の第1層41、屈折率N3=2.1~2.6の第2層42、屈折率N4=1.3~1.75の第3層43、屈折率N5=2.1~2.6の第4層44、及び屈折率N6=1.1~1.4の第5層45が形成されている。基材30の表面に上記の屈折率の第1層~第5層を設けることにより、1.815以上2.01以下の範囲の屈折率Nsubを有する基材30に対し、5層構成という層数の少ない反射防止膜で波長400~900 nmの広帯域で優れた反射防止効果が得られる。
【0034】
第1層41~第4層44の材料は、一般に反射防止膜に使用するものであれば特に限定されないが、第一の実施態様の第2層22~第5層25と同様のものでも良い。第2層42の屈折率N3と第4層44の屈折率N5は同じ屈折率範囲であるが、屈折率は同じでも良く、互いに異なっていても良い。第2層42及び第4層44は同じ材料から形成されていても良く、異なる材料から形成されていても良い。第1層41の屈折率N2は1.88~2.08であり、第2層42の屈折率N3は2.12~2.58であり、第3層43の屈折率N4は1.32~1.73であり、第4層44の屈折率N5は2.12~2.58であるのが好ましい。
【0035】
第5層45は、第一の実施態様の第6層26と同様のものでも良い。製造工程の簡略化を考慮すると、第5層45の屈折率N6は1.3~1.4であるのが好ましい。
【0036】
第1層41の光学膜厚が49~204 nmであり、第2層42の光学膜厚が34~313 nmであり、第3層43の光学膜厚が11~84 nmであり、第4層44の光学膜厚が35~61 nmであり、第5層45の光学膜厚が52~176 nmであるのが好ましい。これらの膜厚の範囲であれば、波長400~900 nmの広帯域で特に優れた反射防止効果が得られる。第1層41~第5層45の光学膜厚の総和(合計光学膜厚:後述の機能性膜をさらに含む場合は機能性膜の光学膜厚を加えた反射防止膜の厚さ)が396~838 nmであるのが好ましい。
【0037】
反射防止膜の第1層41~第4層44は、第一の実施態様の第2層22~第5層25と同様に、気相成膜法で形成するのが好ましい。反射防止膜の第5層45は、第一の実施態様の第6層26と同様に、形成する膜の種類に応じて、第1層41~第4層44と同様に気相成膜法により形成しても良いし、ゾル-ゲル法等の液相成膜法により形成しても良い。
【0038】
[3] 機能性膜
本発明の反射防止膜は、種々の機能性を付与するために、機能性を備える膜がさらに形成されていても良い。また反射防止膜の少なくとも1層に機能性が付与された層を用いても良い。機能性膜の例を以下に示す。
【0039】
(1) 耐湿膜
本発明の反射防止膜は、最外層の表面にSiO2からなる耐湿膜をさらに設けても良い。最外層は、第一の実施態様の第6層26に相当し、第二の実施態様の第5層45に相当する。SiO2からなる耐湿膜をことにより、反射防止膜の耐湿性を向上することができ、特に最外層として耐湿性に課題があるMgF2を用いるときに有用である。耐湿膜の光学膜厚は5~50 nmであるのが好ましく、7~48 nmであるのがより好ましい。
【0040】
(2) 防汚膜
本発明の反射防止膜は、防汚膜をさらに設けても良い。それにより、指紋や汚れ等の付着を防止することができる。防汚膜は、最外層の表面にSiO2からなる耐湿膜を設けた後、耐湿膜の上にさらに設けるのが好ましい。防汚膜の光学膜厚は1~40 nmであるのが好ましい。
【0041】
(3) 防曇膜
本発明の反射防止膜は、防曇膜をさらに設けても良い。それにより、反射防止膜の表面に防曇性を付与することができる。防曇膜は、最外層の表面にSiO2からなる耐湿膜を設けた後、耐湿膜の上にさらに設けるのが好ましい。防曇膜の光学膜厚は1~40 nmであるのが好ましい。
【0042】
(4) 帯電防止膜
本発明の反射防止膜の少なくとも1層に帯電防止機能を備えた膜を用いても良い。帯電防止機能を備えた膜を用いることにより塵埃付着の原因の一つであるクーロン力を低減でき、耐塵埃付着性が向上する。帯電防止機能を備えた膜は、例えば、NbドープTiO2,SnドープIn2O3,SbドープSnO2,FドープSnO2,AlドープZnO及びGaドープZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種の帯電防止材料からなるのが好ましい。
【0043】
[4] 光学部品
本発明の反射防止膜を前述の基板に施すことにより、400~900 nmの広帯域において、優れた反射防止効果を有する光学部品が得られる。かかる光学部品は、例えばテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載するレンズ、プリズム、フィルタ、回折素子等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例で作製したサンプルの光学膜厚は、成膜装置に付属の光学式膜厚計(型番:OPM-Z1、(株)シンクロン製)により各層成膜時の分光反射率の変化を計測することにより算出し、5°入射分光反射率は紫外可視近赤外分光光度計(型番:U-4000、(株)日立製作所製)を用いて測定した。
【0045】
実施例1
S-FPL53(株式会社オハラ製、nd=1.439)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表1に示す構成で第1層~第6層を順次成膜した。入射光の媒質を空気とし、この基材の表面に形成された反射防止膜に5°傾けて光線を入射させたときの5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図3に示す。
【0046】
【0047】
実施例2
S-BSL7(株式会社オハラ製、nd=1.516)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表2に示す構成で第1層~第6層を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図4に示す。
【0048】
【0049】
実施例3
S-PHM52(株式会社オハラ製、nd=1.618)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表3に示す構成で第1層~第6層を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図5に示す。
【0050】
【0051】
実施例4
S-LAH52(株式会社オハラ製、nd=1.800)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表4に示す構成で第1層~第6層を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図6に示す。
【0052】
【0053】
実施例5
E-FDS1(HOYA株式会社製、nd=1.923)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表5に示す構成で第1層~第5層を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図7に示す。
【0054】
【0055】
実施例6
S-LAH58(株式会社オハラ製、nd=1.883)からなる基材(レンズ)に、表6に示す構成で、スパッタリング法により第1層を成膜し、イオンアシスト蒸着法により第2層を成膜し、真空蒸着法により第3層を成膜し、イオンアシスト蒸着法により第4層を成膜し、真空蒸着法により第5層、耐湿膜及び防汚膜を順次成膜した。実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図8に示す。
【0056】
【表6】
注(1):帯電防止膜材
注(2):防汚コート材(キヤノンオプトロン株式会社製)
【0057】
実施例7
S-LAL18(株式会社オハラ製、nd=1.729)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表7に示す構成で第1層~第6層、耐湿膜及び防汚膜を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図9に示す。
【0058】
【表7】
注(1):帯電防止膜材(GaドープZnO)
注(2):防汚コート材(キヤノンオプトロン株式会社製)
【0059】
実施例8
S-FPL51(株式会社オハラ製、nd=1.497)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表8に示す構成で第1層~第6層及び耐湿膜を順次成膜し、その後スピンコート法により防曇膜を成膜した。実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図10に示す。
【0060】
【表8】
注(1):帯電防止膜材(AlドープZnO)
注(2):防曇コート材(株式会社ソルテック製)
【0061】
実施例9
S-LAH59(株式会社オハラ製、nd=1.816)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表9に示す構成で第1層~第5層、耐湿膜及び防汚膜を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。第5層のシリカエアロゲル膜は、ゾル-ゲル法により形成し、スピンコート法により成膜した。得られた結果を
図11に示す。
【0062】
【表9】
注(1):キヤノンオプトロン株式会社製
注(2):防汚コート材(キヤノンオプトロン株式会社製)
【0063】
実施例10
S-FSL5(株式会社オハラ製、nd=1.487)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表10に示す構成で第1層~第6層、耐湿膜及び防曇膜を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。第6層のシリカエアロゲル膜は、ゾル-ゲル法により形成し、スピンコート法により成膜し、防曇膜はスピンコート法により成膜した。得られた結果を
図12に示す。
【0064】
【表10】
注(1):キヤノンオプトロン株式会社製
注(2):防曇コート材(株式会社ソルテック製)
【0065】
比較例1
S-BSL7(株式会社オハラ製、nd=1.516)からなる基材(レンズ)に、真空蒸着法により、表11に示す構成で第1層~第8層を順次成膜し、実施例1と同様に5°入射分光反射率を求めた。得られた結果を
図13に示す。
【0066】
【0067】
図3~12に示す実施例1~10の分光反射率と、
図13に示す比較例1の分光反射率の反射率1%未満の波長域を比較した結果を表12にまとめた。表12には、分光反射率の反射率1%未満の波長域の短波長側の下限値、長波長側の上限値及び帯域幅、及び反射防止膜に付与されている機能性を示す。
【0068】
【0069】
表12に示すように、反射率1%以下の波長範囲を比較すれば、実施例1~10の反射防止膜のほうが比較例1の反射防止膜よりも反射防止帯域が広いことが分かる。さらに機能性を付与していない反射防止膜では比較例1の反射防止膜より層数が少なく、機能性が付加されている反射防止膜でも比較例1の反射防止膜と同じ8層以下であることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
10,30・・・基材
20,40・・・反射防止膜