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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231219BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/00 C
B32B25/08
B32B27/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019184731
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021059066
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 聡史
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 紀生
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/134764(WO,A1)
【文献】特開2016-215603(JP,A)
【文献】国際公開第2009/020181(WO,A1)
【文献】特表平09-509377(JP,A)
【文献】国際公開第95/007176(WO,A1)
【文献】特開2015-136926(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体であって、
熱可塑性エラストマー層と、
含フッ素重合体を含む重合体層と
繊維シート及び樹脂マトリックスを含むプリプレグ層と、
を有し、
前記熱可塑性エラストマー層と前記重合体層とが接するように積層され、
前記プリプレグ層は、前記熱可塑性エラストマー層の前記重合体層と接する側とは反対側の表面と接するように積層され、
前記重合体層の前記熱可塑性エラストマー層と接する側の表面に接着性官能基が存在し、
前記樹脂マトリックスが熱硬化性樹脂を含む、積層体。
【請求項2】
前記樹脂マトリックスが未硬化の熱硬化性樹脂を含む、請求項に記載の積層体。
【請求項3】
前記重合体層が含フッ素重合体を含むフィルムである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記重合体層が、含フッ素重合体を含むフィルムの前記熱可塑性エラストマー層と接する側の表面にコロナ処理を施したフィルムである、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記接着性官能基が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー層が、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン及び1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記含フッ素重合体の融点が100~325℃である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記含フッ素重合体のJIS K 7201-2:2007による酸素指数が27以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料からなる成形体は、輸送機器(車両(自動車、鉄道車両等)、航空機等)、建築部材、電子機器等の幅広い用途に用いられる。これに伴い、繊維強化複合材料からなる成形体を製造するための成形用素材には、凹凸形状、深絞り形状等の複雑な形状を適用できることが望まれる。しかし、成形用素材に複雑な形状を適用させる場合、様々な問題がある。
例えば、成形体は、長繊維の強化繊維からなる強化繊維シートに熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグからなる成形用素材を、複雑な形状を有する一対の金型の間に配置した後、成形用素材を加熱しながら加圧成形するとともに熱硬化性樹脂を硬化させることによって製造される。
しかし、プリプレグにおける強化繊維シートが金型の形状に追随しにくいため、得られた成形体においては、複雑な形状のコーナー部分に、強化繊維の乱れが生じたり、強化繊維が存在しないマトリックス樹脂のたまりが生じたりする。その結果、成形体の機械的強度がコーナー部分において不足することがある。また、用途により、難燃性及び耐薬品性が充分であることも要求される。
【0003】
難燃性及び耐薬品性に優れ、かつ複雑な形状を適用可能な成形体を製造できる成形用素材として、特許文献1には、強化繊維シートと樹脂マトリックスを含むプリプレグ層の少なくとも1層と、含フッ素重合体を含む重合体層の少なくとも1層とを有する積層体であって、前記プリプレグ層と前記重合体層とが接する界面が少なくとも1つ存在し、前記界面における前記重合体層の表面に接着性官能基が存在することを特徴とする積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/030190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された積層体は、難燃性及び耐薬品性に優れ、かつ複雑な形状を適用可能な成形体製造できるが、層間の接着性をさらに改善する余地がある。
【0006】
本発明は、層間の接着性に優れるとともに、難燃性及び耐薬品性に優れ、かつ複雑な形状を成形可能な成形体を製造できる積層体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の構成によって解決される。
[1] 熱可塑性エラストマー層と、含フッ素重合体を含む重合体層とを有する積層体であって、
前記熱可塑性エラストマー層と前記重合体層とが接するように積層され、
前記重合体層の前記熱可塑性エラストマー層と接する側の表面に接着性官能基が存在することを特徴とする積層体。
[2] さらに、繊維シート及び樹脂マトリックスを含むプリプレグ層を有し、
前記プリプレグ層は前記熱可塑性エラストマー層の前記重合体層と接する側とは反対側の表面と接するように積層される、[1]に記載の積層体。
[3] 前記樹脂マトリックスが未硬化の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む、[2]に記載の積層体。
[4] 前記重合体層が含フッ素重合体を含むフィルムである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層体。
[5] 前記重合体層が、含フッ素重合体を含むフィルムの前記熱可塑性エラストマーと接する側の表面にコロナ処理を施したフィルムである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層体。
[6] 前記接着性官能基が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層体。
[7] 前記熱可塑性エラストマー層が、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン及び1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層体。
[8] 前記含フッ素重合体の融点が100~325℃である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の積層体。
[9] 前記含フッ素重合体のJIS K 7201-2:2007による酸素指数が27以上である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の積層体。
[10] 前記重合体層と前記熱可塑性エラストマー層との剥離強度が10N/cm以上であり、かつ、破壊様式が前記重合体層の材料破壊である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、層間の接着性に優れるとともに、難燃性及び耐薬品性に優れ、かつ複雑な形状を成形可能な成形体を製造できる積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層体の第1の実施形態を示す断面図である。
図2】本発明の積層体の第2の実施形態を示す断面図である。
図3】本発明の積層体の第3の実施形態を示す断面図である。
図4】本発明の積層体の第4の実施形態を示す断面図である。
図5】本発明の積層体の第5の実施形態を示す断面図である。
図6】本発明の積層体の第6の実施形態を示す断面図である。
図7】本発明の成形体の製造方法における一部工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。本明細書において、示差走査熱量計(DSC装置、セイコーインスツル社製)を用い、重合体を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度(℃)を融点とする。
「溶融成形可能」であるとは、溶融流動性を示すことを意味する。
「溶融流動性を示す」とは、荷重49Nの条件下、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1~1000g/10分となる温度が存在することを意味する。
「溶融流れ速度」とは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定されるメルトマスフローレート(MFR)を意味する。本明細書において、溶融流れ速度は、メルトインデクサー(テクノセブン社製)を用い、特定の温度及び荷重の条件下で直径2mm、長さ8mmのノズルから、10分間に流出する重合体の質量(g)を測定して求める。
「フィルム」及び「シート」とは、面状体のうち比較的薄いものを「フィルム」といい、比較的厚いものを「シート」という。ただし、それらの厚さは限定されるものではなく、「フィルム」はシートと称しうる厚さを有する面状体であってもよく、「シート」はフィルムと称しうる厚さを有する面状体であってもよい。
「酸無水物基」とは、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基を意味する。
「単位」とは、単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する部分を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0011】
以下では、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
【0012】
[積層体]
<第1の実施形態>
本発明の積層体の第1の実施形態は、図1に示すとおり、含フッ素重合体を含む重合体層1と、第一の熱可塑性エラストマー層2と、を有する積層体101である。
【0013】
図1に示す積層体101において、重合体層1と、第一の熱可塑性エラストマー層2とが接するように積層され、かつ、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに、第一の接着性官能基が存在する。
以下では、重合体層1及び第一の熱可塑性エラストマー層2について、詳細に説明する。
【0014】
《重合体層1》
重合体層1は、含フッ素重合体を含む層である。
本実施形態の積層体101は、重合体層1の第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに第一の接着性官能基が存在する。そのため、重合体層1と第一の熱可塑性エラストマー層2との剥離強度がより向上する。
【0015】
重合体層1は、前記含フッ素重合体を含むフィルム(以下「含フッ素重合体フィルム」という場合がある。)から構成されることが好ましい。
重合体層1は、前記含フッ素重合体フィルムの1枚からなる単層構造であってもよいし、2枚以上からなる積層構造であってもよい。
【0016】
重合体層1の厚みの下限は、通常、1μmであり、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。また、重合体層1の厚みの上限は、通常、1000μmであり、500μmが好ましく、300μmがより好ましい。さらに、重合体層1の厚みの範囲は、通常、1~1000μmであり、5~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましい。
重合体層1の厚みがこの範囲内であると、積層体101を成形して得られる成形体の難燃性及び耐薬品性がより良好になり、積層体101の成形性がより良好になる。
【0017】
重合体層1が含フッ素重合体フィルムから構成される場合の、前記含フッ素重合体フィルムの厚みは、全体として、重合体層1の厚み以下であればよく、通常、1~1000μmの範囲内であり、10~500μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
【0018】
前記含フッ素重合体フィルムは、溶融成形可能な含フッ素重合体を含む成形用材料を、公知の成形方法(押出成形法、インフレーション成形法等)によって、フィルム状に成形して製造することが好ましい。
【0019】
(第一の接着性官能基及び第二の接着性官能基)
前記第一の接着性官能基は、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの表面処理により付与される接着性官能基及び後述するフッ素重合体が有する接着性官能基のいずれか一方又は両方を含む。ここで、前記フッ素重合体が有する接着性官能基は、前記表面処理により前記フッ素重合体に導入されたものではなく、前記フッ素重合体そのものが有している接着性官能基(以下「第二の接着性官能基」という場合がある。)である。
【0020】
前記表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理(ただし、コロナ放電処理を除く。)、プラズマグラフト重合処理又は金属ナトリウムを用いた湿式エッチング処理でが挙げられる。これらの表面処理の中でも、薬液等の副資材を用いず、洗浄等の付加工程も不要である点及び表面に接着性官能基を効率よく導入でき、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの接着性の改善効果が高い点から、コロナ放電処理、プラズマ処理又はプラズマグラフト重合処理が好ましく、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの接着性の改善効果がさらに高い点から、プラズマ処理又はプラズマグラフト重合処理がより好ましい。
【0021】
前記表面処理としては、接着性官能基の導入量が多い点から、プラズマ処理が好ましい。また、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bにカルボニル基含有基を導入する場合、表面処理としては、プラズマ処理が好ましい。プラズマ処理においては、その放電中の環境下を、酸素存在下とすることで、酸素ラジカル又はオゾンが生成し、効率よく重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bにカルボニル基含有基を導入できる。
【0022】
プラズマ処理装置としては、公知の処理システムを適用できる。公知の処理システムとしては、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式等を採用したものが提案されている。容量結合型電極方式においては、一対の電極の少なくとも一方の電極が誘電体板で覆われており、希ガス等が充満する電極間にパルス等の高電圧を印加することによってプラズマを形成する。プラズマ中をロールで搬送されるフィルムが通過することによってフィルム表面が処理される。フィルムは一方の電極近傍あるいは電極間の中央付近を通過し、基本的にフィルム両面が処理される。この種の方式の構成は、比較的古くから知られており、様々な樹脂フィルムの表面処理に適用されてきている。なお、電極間距離が数cm以下である必要があるため、立体物や大物の処理は困難であるものの、フィルムのような形状のものでは比較的大面積の処理が可能である。
【0023】
通常、プラズマ処理を樹脂、ポリマー、ガラス、金属等からなる被処理物の表面に対し施すことにより、それら材料からなる被処理物表面は、多くの場合、顕著に親水化し、接着性が向上する。その理由は以下のとおりである。
大気圧プラズマ放電により発生した高エネルギー電子(1~10eV程度)の作用によって、表面材料の結合(金属の場合は表面の酸化層又は油膜)の主鎖や側鎖が解離してラジカルとなる。また、空気、水分等の雰囲気ガスの分子も解離しラジカルとなる。この2種類のラジカル同志の再結合反応によって、被処理物表面にヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基等の親水性官能基が形成される。その結果、被処理物の表面の自由エネルギーが大きくなり、他の表面との接着・接合が容易になる。
【0024】
アミド基、アミノ基等の塩基性官能基をはじめとする幅広い種類の接着性官能基を、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに導入できる表面処理としては、導入目的の接着性官能基と不飽和二重結合とを有する単量体をプラズマ処理系中に存在させ、さらに、高エネルギー線照射によって重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに発生するラジカル種を重合開始のトリガーとして、前記単量体をグラフト重合させる表面処理が知られている。
グラフト重合を利用した表面処理としては、プラズマ処理とグラフト重合との組み合わせによって接着性官能基の導入量及び種類の制御範囲が広くなる点から、プラズマグラフト重合処理が好ましい。
プラズマグラフト重合処理に用いられる単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アリルアミン、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。該単量体を用いて材料を表面処理することによって、重合体層1の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bにカルボキシ基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基等の接着性官能基の導入が可能である。
【0025】
前記第二の接着性官能基は、接着性官能基を有する含フッ素重合体の接着性官能基である。
前記接着性官能基を有する含フッ素重合体についての詳細は後述する。
【0026】
(含フッ素重合体)
前記含フッ素重合体としては、接着性官能基を有する含フッ素重合体の場合と、接着性官能基を有しない含フッ素重合体の場合がある。
【0027】
前記接着性官能基を有する含フッ素重合体における前記接着性官能基は、例えば、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基又はイソシアネート基である。これらの接着性官能基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記接着性官能基は、重合体層1と第一の熱可塑性エラストマー層2との界面における接着性の点から、前記含フッ素重合体の主鎖の末端基及び主鎖のペンダント基のいずれか一方又は両方として存在することが好ましい。
前記接着性官能基は、前記界面における接着性の点から、カルボニル基含有基が好ましい。
前記カルボニル基含有基は、例えば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基又は酸無水物基である。
【0029】
前記炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基における炭化水素基は、炭素数2~8のアルキレン基が好ましい。ここで、前記アルキレン基の炭素数は、カルボニル基の炭素原子を含まない炭素数である。前記アルキレン基は、炭素数が3以上の場合、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
前記ハロホルミル基は、-C(=O)-X(ただし、Xはハロゲン原子である。)で表される。前記ハロゲン原子は、フッ素原子及び塩素原子から選択される1種又は2種が好ましく、フッ素原子がより好ましい。すなわち、ハロホルミル基としてはフルオロホルミル基(「カルボニルフルオリド基」ともいう。)が好ましい。
前記アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基は、炭素数が3以上の場合、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0030】
前記含フッ素重合体中の前記接着性官能基の含有量は、前記含フッ素重合体の主鎖炭素数1×10個に対し、10~60000個が好ましく、100~50000個がより好ましく、100~10000個がさらに好ましく、300~5000個がいっそう好ましい。
前記接着性官能基の含有量が前記範囲内であると、界面における接着性がより優れる。
【0031】
前記接着性官能基の含有量は、核磁気共鳴(NMR)分析又は赤外吸収スペクトル分析によって測定できる。例えば、特開2007-314720号公報に記載されているように、赤外吸収スペクトル分析により、含フッ素重合体を構成する全単位中の接着性官能基を有する単位の割合(モル%)を求め、その割合から、含フッ素重合体中の接着性官能基の含有量を算出できる。
【0032】
前記含フッ素重合体は、融点を有する含フッ素重合体及び融点を有しない含フッ素重合体のいずれも使用できる。前記融点を有する含フッ素重合体は、融点を有するが、特定範囲内に融点を有しない含フッ素重合体を含む。
【0033】
重合体層1に含まれる含フッ素重合体は、前記融点を有する含フッ素重合体が好ましい。
前記含フッ素重合体が融点を有する場合の融点は、100~325℃が好ましく、105~260℃がより好ましく、110~220℃がさらに好ましく、120~200℃がいっそう好ましい。
前記融点がこの範囲内であると、第一の実施形態の積層体101を成形して得られる成形体が、重合体層1と第一の熱可塑性エラストマー層2との界面における接着性に優れ、かつ、成形体の耐熱性に優れる。
【0034】
前記含フッ素重合体の融点は、含フッ素重合体を構成する単位の種類及び割合並びに含フッ素重合体の分子量等によって調整できる。例えば、後述する単位(u1)の割合が多くなるほど、融点が高くなる傾向がある。
【0035】
前記含フッ素重合体としては、フィルムを製造しやすい点から、溶融成形が可能な含フッ素重合体が好ましい。
前記溶融成形が可能な含フッ素重合体としては、公知の溶融成形が可能な含フッ素重合体を使用できる。
【0036】
前記溶融成形が可能な含フッ素重合体のうち、接着性官能基を有しないものは、例えば、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)である。
これらの含フッ素重合体では、重合体層1の表面1bの表面処理によって、効率的に接着性官能基を導入できることから、炭素原子に結合した水素原子を有する含フッ素重合体である、ETFE、PVDF等が好ましい。
【0037】
前記溶融成形が可能な含フッ素重合体のうち、接着性官能基を有するもの(以下、単に「接着性官能基を有する含フッ素重合体」という場合がある。)は、接着性官能基を有する単位及び接着性官能基を有する末端基の一方又は両方を有する、上述した含フッ素重合体が挙げられる。このような含フッ素重合体の例は、接着性官能基を有するPFA、接着性官能基を有するFEP及び接着性官能基を有するETFEである。
【0038】
重合体層1における含フッ素重合体としては、前記接着性官能基を有する含フッ素重合体が好ましい。前記接着性官能基を有する含フッ素重合体を使用することにより、重合体層1と第一の熱可塑性エラストマー層2との接着強度をより高めることができる。
【0039】
前記接着性官能基を有する含フッ素重合体は、単量体の重合の際に、接着性官能基を有する単量体を共重合させる、接着性官能基をもたらす連鎖移動剤や重合開始剤を使用して単量体を重合させる、等の方法で製造できる。特に、接着性官能基を有する単量体を共重合させることにより、その単量体単位を有する共重合体を製造して、接着性官能基を有する含フッ素重合体とすることが好ましい。これら方法を併用することもできる。
【0040】
前記接着性官能基を有する単量体としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基又はイソシアネート基を有する単量体が好ましい。カルボニル基含有基としては、酸無水物基及びカルボキシ基が好ましい。具体的には、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等のカルボキシ基を有する単量体、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも記す。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」とも記す。)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)、無水マレイン酸等の酸無水物基を有する単量体、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、エポキシアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
前記接着性官能基をもたらす連鎖移動剤としては、カルボキシ基、エステル結合、水酸基等を有する連鎖移動剤が好ましい。具体的には、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0042】
前記接着性官能基をもたらす重合開始剤としては、ペルオキシカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル等の過酸化物系重合開始剤が好ましい。具体的には、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0043】
単量体に由来する接着性官能基を有する含フッ素重合体としては、重合体層1の表面1bと、第一の熱可塑性エラストマー層2の表面2aとの間の接着性にさらに優れる点から、下記の含フッ素重合体Aが特に好ましい。
含フッ素重合体A:テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)又はクロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」とも記す。)に由来する単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体(以下、「酸無水物系単量体」とも記す。)に由来する単位と、含フッ素単量体(ただし、TFE及びCTFEを除く。)に由来する単位と、を有する含フッ素重合体。
なお、以下、TFE又はCTFEに由来する単位を「単位(u1)」、酸無水物系単量体に由来する単位を「単位(u2)」、上記含フッ素単量体に由来する単位を「単位(u3)」とも記す。
【0044】
前記酸無水物系単量体は、例えば、IAH、CAH、NAH及び無水マレイン酸である。前記酸無水物系単量体は、IAH、CAH及びNAHからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、IAH及びNAHから選択される少なくとも1種がより好ましい。前記酸無水物系単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記酸無水物系単量体としてIAH、CAH及びNAHからなる群から選択される少なくとも1種を使用すると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11-193312号公報参照)を用いることなく、酸無水物基を有する含フッ素重合体Aを容易に製造できる。また、前記酸無水物系単量体としてIAH及びNAHから選択される少なくとも1種を使用すると、界面における接着性にさらに優れる。
【0045】
含フッ素重合体Aには、単位(u2)における酸無水物基の一部が加水分解し、その結果、酸無水物系単量体に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、マレイン酸等)の単位が含まれる場合がある。前記ジカルボン酸の単位が含まれる場合、前記カルボン酸の単位の含有量は、単位(u2)の含有量に含まれるものとする。
【0046】
含フッ素重合体Aを製造する場合、前記酸無水物系単量体の重合中の濃度は、全単量体に対して0.01~5モル%が好ましく、0.05~3モル%がより好ましく、0.1~2モル%がさらに好ましい。前記酸無水物系単量体の濃度がこの範囲内であると、重合速度が適度なものになる。
前記酸無水物系単量体が重合で消費されるに従って、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、前記酸無水物系単量体の濃度を前記範囲内に維持することが好ましい。
【0047】
単位(u3)を構成する含フッ素単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する含フッ素化合物が好ましく、例えば、フルオロオレフィン(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、ヘキサフルオロイソブチレン等。ただし、TFEを除く。)、CF=CFORf1(ただし、Rf1は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基である。)(以下、「PAVE」とも記す。)、CF=CFORf2SO(ただし、Rf2は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、Xはハロゲン原子又は水酸基である。)、CF=CFORf3CO(ただし、Rf3は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、Xは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。)、CF=CF(CFOCF=CF(ただし、pは1又は2である。)、CH=CX(CF(ただし、Xは水素原子又はフッ素原子であり、qは2~10の整数であり、Xは水素原子又はフッ素原子である。)(以下、「FAE」とも記す。)、環構造を有する含フッ素単量体(ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)等)等が挙げられる。
【0048】
含フッ素単量体としては、含フッ素重合体Aの成形性、重合体層の耐屈曲性等に優れる点から、HFP、PAVE及びFAEからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、FAE及びHFPのいずれか一方又は両方がより好ましい。
【0049】
PAVEの例は、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFOCFCFCFCF、及びCF=CFO(CFFである。前記PAVEとしては、CF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましい。
【0050】
FAEの例は、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、及びCH=CH(CFHである。前記FAEとしては、CH=CH(CFq1(ただし、q1は、2~6であり、2~4が好ましい。)が好ましく、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHがより好ましく、CH=CH(CFF(以下、「PFBE」とも記す。)及びCH=CH(CFF(以下、「PFEE」とも記す。)がさらに好ましい。
【0051】
含フッ素重合体Aは、単位(u1)~(u3)に加えて、非フッ素系単量体(ただし、酸無水物系単量体を除く。)に由来する単位(以下、単位(u4)とも記す。)を有していてもよい。
非フッ素系単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する非フッ素化合物が好ましく、たとえば、オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン等)、ビニルエステル(酢酸ビニル等)等が挙げられる。
前記非フッ素系単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
非フッ素系単量体としては、含フッ素樹脂層の機械的強度等に優れる点から、エチレン、プロピレン、1-ブテンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0052】
含フッ素重合体Aの好ましい具体例は、TFE/NAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/PPVE共重合体、TFE/CAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/HFP共重合体、TFE/CAH/HFP共重合体、TFE/IAH/PFBE/エチレン共重合体、TFE/CAH/PFBE/エチレン共重合体、TFE/IAH/PFEE/エチレン共重合体、TFE/CAH/PFEE/エチレン共重合体、及びTFE/IAH/HFP/PFBE/エチレン共重合体である。
【0053】
含フッ素共重合体Aがエチレン単位を有する共重合体である場合、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)と単位(u4)との合計量に対する各単位の好ましい割合は下記のとおりである。
単位(u1)の割合は、25~80モル%が好ましく、40~65モル%がより好ましく、45~63モル%がさらに好ましい。
単位(u2)の割合は、0.01~5モル%が好ましく、0.03~3モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。
単位(u3)の割合は、0.2~20モル%が好ましく、0.5~15モル%がより好ましく、1~12モル%がさらに好ましい。
単位(u4)の割合は、20~75モル%が好ましく、35~50モル%がより好ましく、37~55モル%がさらに好ましい。
【0054】
エチレン単位を有する含フッ素共重合体Aにおいて、各単位の割合が前記範囲内であれば、重合体層の難燃性、耐薬品性等にさらに優れる。
単位(u2)の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体Aにおける酸無水物基の量が適切になり、重合体層1と、熱可塑性エラストマー層2との界面における接着性にさらに優れる。
単位(u3)の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体Aの成形性、重合体層の耐屈曲性等にさらに優れる。
各単位の割合は、含フッ素重合体Aの溶融NMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析等により算出できる。
【0055】
前記含フッ素重合体としては、荷重21Nの条件下、前記含フッ素重合体の融点よりも20℃以上高い温度における溶融流れ速度が、0.1~1000g/10分となる温度が存在するものが好ましい。
【0056】
前記含フッ素重合体の235℃、荷重21Nの条件下における溶融流れ速度は、0.5~100g/10分が好ましく、1~50g/10分がより好ましく、2~30g/10分がさらに好ましい。前記溶融流れ速度が前記範囲の下限値以上であれば、前記含フッ素重合体の成形性に優れ、前記含フッ素重合体を含むフィルムの表面平滑性及び外観に優れる。前記溶融流れ速度が前記範囲の上限値以下であれば、前記含フッ素重合体を含むフィルムの機械的強度に優れる。
【0057】
前記融点を有しない含フッ素重合体として、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種の単量体に基づく単位を含む含フッ素エラストマーが挙げられる。前記含フッ素エラストマーの具体例は、特開平05-78539号公報等に記載されたテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、特開平11-124482号公報等に記載されたフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体等、並びに特開2006-089720号公報等に記載されたテトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく単位を有する含フッ素重合体である。
【0058】
前記融点を有しない含フッ素重合体又は上述した範囲外の融点を有する含フッ素重合体としては、テトラフルオロエチレンの単独重合体、変性テトラフルオロエチレン重合体等が挙げられる。
【0059】
前記含フッ素重合体のJIS K 7201-2:2007による酸素指数(OI,Oxygen Index)は、27以上が好ましい。前記酸素指数(OI)は、前記含フッ素重合体が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(体積%)を指数化したものであり、指数が大きいほど難燃性が高いことを意味する。
【0060】
前記含フッ素重合体のフィルムは、溶融成形可能な含フッ素重合体を含む成形用材料をフィルムに成形して得られたフィルムが好ましい。
前記フィルムの構成材料は、本発明の効果を損なわない範囲において、含フッ素重合体以外の樹脂及び添加剤をさらに含んでもよい。
前記フィルムの構成材料中の前記含フッ素重合体の含有量は、前記フィルムの全構成材料に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。前記含フッ素重合体の含有量の上限は、通常、100質量%である。
【0061】
(含フッ素重合体の製造方法)
前記含フッ素重合体は、従来公知の製造方法により製造できる。単量体の重合によって含フッ素重合体を製造する場合、重合方法としては、ラジカル重合開始剤を用いる重合方法が好ましい。
重合方法としては、塊状重合法、有機溶媒(フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等)を用いる溶液重合法、水性媒体と必要に応じて適当な有機溶媒とを用いる懸濁重合法、水性媒体と乳化剤とを用いる乳化重合法が挙げられ、溶液重合法が好ましい。
【0062】
ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が0~100℃である開始剤が好ましく、20~90℃である開始剤がより好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル等)、非フッ素系ジアシルペルオキシド(イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等)、ペルオキシジカーボネート(ジイソプロピルペルオキシジカ-ボネート等)、ペルオキシエステル(tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルペルオキシアセテート等)、含フッ素ジアシルペルオキシド((Z(CFCOO)(ただし、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1~10の整数である。)で表される化合物等)、無機過酸化物(過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)等が挙げられる。
【0063】
単量体の重合時には、含フッ素重合体の溶融粘度を制御するために、連鎖移動剤を用いてもよい。
連鎖移動剤としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、クロロフルオロハイドロカーボン(1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等)、炭化水素(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等)が挙げられる。
【0064】
溶液重合法で用いる有機溶媒としては、ペルフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、クロロヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル等が挙げられる。炭素数は、4~12が好ましい。
ペルフルオロカーボンの具体例としては、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロペンタン、ペルフルオロシクロヘキサン等が挙げられる。
ヒドロフルオロカーボンの具体例としては、1-ヒドロペルフルオロヘキサン等が挙げられる。
クロロヒドロフルオロカーボンの具体例としては、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
ヒドロフルオロエーテルの具体例としては、メチルペルフルオロブチルエーテル、2,2,2-トリフルオロエチル2,2,1,1-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。
【0065】
重合温度は、0~100℃が好ましく、20~90℃がより好ましい。
重合圧力は、0.1~10MPa[gage]が好ましく、0.5~3MPa[gage]がより好ましい。
重合時間は、1~30時間が好ましい。
【0066】
含フッ素重合体フィルムからなる重合体層に限られず、重合体層の構成材料は、含フッ素重合体以外に、本発明の効果を損なわない範囲において添加剤や含フッ素重合体以外の樹脂等を含んでもよい。
含フッ素重合体以外の樹脂としては、たとえば、ポリエステル、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、変性ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0067】
添加剤としては、無機フィラーが好ましい。
前記無機フィラーとしては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、ガラスバルーン、炭素バルーン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
前記無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記無機フィラーは、多孔質であってもよく、非多孔質であってもよい。
前記無機フィラーは、樹脂への分散性の向上の点から、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の表面処理剤による表面処理が施されてもよい。
【0069】
《第一の熱可塑性エラストマー層2》
第一の熱可塑性エラストマー層2は、第一の熱可塑性エラストマーを含む層である。
本発明の積層体は、第一の熱可塑性エラストマー層2を有することにより、層間の剥離強度がより向上する。
【0070】
第一の熱可塑性エラストマー層2は、前記第一の熱可塑性エラストマーを含むフィルム(以下「熱可塑性エラストマーフィルム」という場合がある。)から構成されることが好ましい。
第一の熱可塑性エラストマー層2は、前記熱可塑性エラストマーフィルムの1枚からなる単層構造であってもよいし、2枚以上からなる積層構造であってもよい。
【0071】
第一の熱可塑性エラストマー層2の厚みの下限は、通常、1μmであり、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。また、第一の熱可塑性エラストマー層2の厚みの上限は、通常、1000μmであり、500μmが好ましく、300μmがより好ましい。さらに、第一の熱可塑性エラストマー層2の厚みの範囲は、通常、1~1000μmであり、5~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましい。
前記第一の熱可塑性エラストマー層の厚みが1μm以上であると従来公知の方法により製膜が可能であり、5μm以上であると、製膜が安定する。また、第一の熱可塑性エラストマー層2の厚みが1000μm以下であると、従来公知の方法により巻取りが可能であり、300μm以下であると、安定した巻取りが可能となる。
【0072】
第一の熱可塑性エラストマー層2が熱可塑性エラストマーフィルムから構成される場合の前記熱可塑性エラストマーフィルムの厚みは、全体として、第一の熱可塑性エラストマー層2の厚み以下であればよく、通常、通常、1~1000μm_であり、5~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましい。
【0073】
前記熱可塑性エラストマーフィルムは、前記第一の熱可塑性エラストマーを含む成形用材料を、公知の成形方法(押出成形法、インフレーション成形法等)によって、フィルム状に成形したり、重合体層1に前記第一の熱可塑性エラストマーを含む成形用材料をフィルム状に成形したりすることによって製造することが好ましい。
【0074】
前記第一の熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン及び1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。前記第一の熱可塑性エラストマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記第一の熱可塑性エラストマーとしてポリウレタン系熱可塑性エラストマーを用いると、本発明の積層体の各層間の接着強度を特に高くできる。
【0075】
第一の熱可塑性エラストマー層2は、本発明の効果が妨げられない限り、前記第一の熱可塑性エラストマー以外の成分を含んでもよい。
このような前記第一の熱可塑性エラストマー以外の成分としては、添加剤、前記第一の熱可塑性エラストマー以外のポリマー(以下「その他のポリマー」という場合がある。)等が挙げられる。
前記第一の熱可塑性エラストマー層中の前記第一の熱可塑性エラストマーの含有量は、前記第一の熱可塑性エラストマー層の全質量の50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。前記第一の熱可塑性エラストマー層中の前記第一の熱可塑性エラストマーの含有量の上限は、通常、100質量%である。
前記第一の熱可塑性エラストマー層が2層以上のサブレイヤーからなる積層構造である場合は、隣接する各サブレイヤーに含まれる第一の熱可塑性エラストマーは、同じ種類でもよいし、異なる種類でもよい。
【0076】
前記添加剤としては、例えば、無機フィラーが挙げられる。前記無機フィラーは、上述したものを使用できる。
【0077】
前記その他のポリマーとしては、前記第一の熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂の例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6(半芳香族系ポリアミド)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(エチレン/酢酸ビニル)、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレン/ビニルアルコール)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン及びポリアリレートである。
【0078】
《作用機序》
本実施形態の積層体101にあっては、含フッ素重合体を含む重合体層1を有するため、難燃性及び耐薬品性に優れた成形体を製造できる。また、溶融成形可能な含フッ素重合体を含む重合体層1を有する積層体101にあっては、従来の熱可塑性樹脂シートを配置した積層体と同様に、成形性が改善される。そのため、本実施形態の積層体101を用いることによって、複雑な形状を成形可能な成形体を製造できる。さらに、本実施形態の積層体101にあっては、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに、第一の接着性官能基を有することにより、重合体層1と、第一の熱可塑性エラストマー層2との界面の接着性が改善される。
【0079】
<第2の実施形態>
本発明の積層体の第2の実施形態は、図2に示すとおり、第一の熱可塑性エラストマー層2と、含フッ素重合体を含む重合体層1と、繊維シート及び樹脂マトリックスを含む第一のプリプレグ層3と、を有する積層体201である。
【0080】
図2に示す積層体201において、重合体層1と、第一の熱可塑性エラストマー層2とは、接するように積層されている。第一のプリプレグ層3は、第一の熱可塑性エラストマー層2の、重合体層1と接する側とは反対側の表面2bと接するように積層されている。重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bには、第一の接着性官能基が存在する。
【0081】
本実施形態の積層体201の重合体層1及び第一の熱可塑性エラストマー層2は、それぞれ、第一の実施形態の積層体101の重合体層1及び第一の熱可塑性エラストマー層2と同様であるので、説明を省略する。
以下では、第一の熱可塑性エラストマー層3について、詳細に説明する。
【0082】
《第一のプリプレグ層3》
第一のプリプレグ層3は、第一のプリプレグからなる層である。
本実施形態の積層体201は、第一のプリプレグ層3を有することにより、機械的強度がより向上している。
【0083】
第一のプリプレグ層3は、繊維シート及び樹脂マトリックスを含むプリプレグシートの1枚からなる単層構造であってもよいし、2枚以上からなる積層構造であってもよい。
【0084】
第一のプリプレグ層3の厚みの一枚あたりにおいて、下限は、通常、10~50μmであり、20~40μmが好ましい。また、第一のプリプレグ層3の厚みの上限は、通常200~600μmであり、300~550μmがより好ましい。さらに、第一のプリプレグ層3の厚みの範囲は、10~600μmが好ましく、20~550μmがより好ましい。
【0085】
前記繊維シートは、例えば、複数の繊維からなる繊維束、前記繊維束を織成してなるクロス、複数の繊維が一方向に引き揃えられた一方向性繊維束、前記一方向性繊維束から構成される一方向性クロス、これらを組み合わせたもの、又は複数の繊維束を積み重ねたものである。
前記繊維は、長さが10mm以上の連続した長繊維が好ましい。ただし、前記繊維は、繊維シートの長さ方向の全長又は幅方向の全幅にわたり連続している必要はなく、途中で分断されていてもよい。
【0086】
前記繊維は、例えば、無機繊維、金属繊維又は有機繊維である。
前記無機繊維の例は、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維及びボロン繊維である。
前記金属繊維の例は、アルミニウム繊維、黄銅繊維及びステンレス繊維である。
前記有機繊維の例は、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維及びポリエチレン繊維である。
【0087】
前記繊維は、表面処理が施されていてもよいし、施されていなくてもよい。
前記繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記繊維は、比重が小さく、高強度かつ高弾性率である点から、炭素繊維が好ましい。
【0088】
前記樹脂マトリックスを構成する樹脂(以下「マトリックス樹脂」という場合がある。)は、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等)及び熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方である。
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性エラストマー層との接着性の点から、硬化性樹脂が好ましく、成形体の生産性の点から、熱硬化性樹脂が特に好ましい。
【0089】
前記熱硬化性樹脂は、架橋性樹脂及び熱重合開始剤を含む。
前記架橋性樹脂の例は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂である。
前記硬化性樹脂が含む架橋性樹脂は、これらの架橋性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記架橋性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱重合開始剤は、硬化条件に応じて、従来公知のものを選択できる。
前記熱重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記熱硬化性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記架橋性樹脂以外の樹脂及び添加剤等をさらに含んでもよい。
【0090】
前記光硬化性樹脂は、架橋性樹脂及び光重合開始剤を含む。
前記架橋樹脂の例は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、スピロオルソカーボネート樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。
前記光硬化性樹脂が含む架橋性樹脂は、これらの架橋性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記架橋性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光重合開始剤は、硬化条件に応じて、従来公知のものを選択できる。
前記光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記光硬化性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂及び添加剤等をさらに含んでもよい。
【0091】
前記熱可塑性樹脂の例は、結晶性樹脂、非晶性樹脂及び熱可塑性エラストマーである。
前記結晶性樹脂の例は、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m-PE)、酸変性ポリプロピレン(m-PP)、酸変性ポリブチレン等)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド(PPS)等)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)及び液晶ポリマー(LCP)である。
前記非晶性樹脂の例は、スチレン系樹脂(ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性又は変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)及びフェノキシ樹脂である。
前記熱可塑性エラストマーの例は、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー及びアクリロニトリル系エラストマーである。
【0092】
前記熱可塑性樹脂は、含フッ素重合体であってもよいが、含フッ素重合体以外の熱可塑性樹脂が好ましい。また、前記熱可塑性樹脂は、含フッ素重合体以外の熱可塑性樹脂と含フッ素重合体のブレンド樹脂であってもよい。この場合、ブレンド樹脂中の含フッ素重合体の割合は50質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。
【0093】
前記熱可塑性樹脂は、これらの熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂及び添加剤等をさらに含んでもよい。
【0094】
《作用機序》
本実施形態の積層体201にあっては、含フッ素重合体を含む重合体層1を有するため、難燃性及び耐薬品性に優れた成形体を製造できる。また、溶融成形可能な含フッ素重合体を含む重合体層1を有する積層体201にあっては、従来の熱可塑性樹脂シートを配置した積層体と同様に、成形性が改善される。そのため、本実施形態の積層体201を用いることによって、複雑な形状を成形可能な成形体を製造できる。さらに、本実施形態の積層体201にあっては、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bに、第一の接着性官能基を有することにより、重合体層1と、第一の熱可塑性エラストマー層2との界面の接着性が改善される。
さらに、本実施形態の積層体201にあっては、重合体層1及び第一の熱可塑性エラストマー層2に加えて、第一のプリプレグ層3を有するため、成形体の機械的強度が格段に向上する。
【0095】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図3に示すとおり、重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3に加え、塗膜層4をさらに有する積層体202である。
【0096】
重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3は、上述したとおりである。
塗膜層4は、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面2bと接するように積層されている。
【0097】
重合体層1の塗膜層4と対向する側の表面1cには、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bと同様に、第一の接着性官能基が存在する。ここで、重合体層1の塗膜層4と対向する側の表面1cに存在する第一の接着性官能基と、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bに存在する第一の接着性官能基とは、同種の接着性官能基であってもよいし、異種の接着性官能基であってもよい。
重合体層1の塗膜層4と対向する側の表面1cに存在する第一の接着性官能基は、表面処理によって導入された接着性官能基、及び含フッ素重合体が有する接着性官能基のいずれか一方又は両方である。
【0098】
《塗膜層4》
塗膜層4は、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面1cに、塗料を塗布して得られる層である。
重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面1bにも、第一の接着性官能基が存在するので、塗膜層4と重合体層1との界面の接着強度は、第一の接着性官能基が存在しない場合に比べて、向上する。
【0099】
塗膜層を形成する塗料は、通常、樹脂、顔料及び溶媒を含む。
前記樹脂としては、樹脂自体が高い耐候性を有し、フッ素樹脂フィルム本体との密着性に優れる点から、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が好ましい。
前記顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料等が挙げられる。
前記無機顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、鉄黒、群青。亜鉛華、黄鉛、クロムバーミリオン、コバルトブルー、焼成グリーン、硫化亜鉛、ブロンズ粉、アルミニウム粉、パール顔料等が挙げられる。
前記有機顔料としては、不要性アゾ類、アゾレーキ類、キナクリドンレッド、カーミンレッド、ウォッチングレッド、ペリレンレッド、アンスラキノン、ジスアゾオレンジ、ジニトロアニリンオレンジ、アセトトロンオレンジ、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、アセトロンイエロー、塩素化フタロシアニン、フタロシアニン、インダスレンブルー、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレット、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
前記体質顔料としては、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、クレー等が挙げられる。
前記溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0100】
塗料を塗布する方法としては、ハケ塗り、スプレーコート等が挙げられる。これらの方法で形成された塗膜層は、溶媒を除去する目的と、含フッ素樹脂重合体との密着及び硬化をさせるために60~150℃で、2~30秒乾燥させることが好ましい。
また、塗布及び乾燥は、屋内でだけでなく、屋外で行われることもあるが、特に加温せず、雰囲気化で溶媒を飛ばし、密着及び硬化をさせることも可能である。
【0101】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図4に示すとおり、重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3に加え、第二の熱可塑性エラストマー層2´及び第二のプリプレグ層3´をさらに有する積層体203である。
重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3は、上述したとおりである。
第二の熱可塑性エラストマー層2´は、第一の熱可塑性エラストマー層2と同様の層である。第二の熱可塑性エラストマー層2´は、第一の熱可塑性エラストマー層2について説明した範囲から逸脱しなければ、第一の熱可塑性エラストマー層2と、異なっていてもよい。
第二のプリプレグ層は、第一のプリプレグ層3と同様の層である。第二のプリプレグ層3´は、第一のプリプレグ層3について説明した範囲から逸脱しなければ、第一のプリプレグ層3と、異なっていてもよい。
【0102】
重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dには、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bと同様に、第一の接着性官能基が存在する。ここで、重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dに存在する第一の接着性官能基と、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bに存在する第一の接着性官能基とは、同種の接着性官能基であってもよいし、異種の接着性官能基であってもよい。
重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dに存在する第一の接着性官能基は、表面処理によって導入された接着性官能基、及び含フッ素重合体が有する接着性官能基のいずれか一方又は両方である。
【0103】
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図5に示すとおり、重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3を有する積層体204である。
重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの一部には、印刷5が施されている。
【0104】
また、上述した第4の実施形態において、重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dの一部に印刷5を施してもよい。
【0105】
《印刷5》
印刷5は、従来公知の方法によって、重合体層1の、熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの一部に印刷を施して形成したものである。印刷5の面積は、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bの面積の90%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。印刷面積が小さいほど、第一の熱可塑性エラストマー層2と重合体層1との間の剥離強度が向上する。
また、重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dの一部に印刷を施してもよい。印刷5の面積は、重合体層1の、第二の熱可塑性エラストマー層2´と接する側の表面1dの面積の90%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。印刷面積が小さいほど、第二の熱可塑性エラストマー層2´と重合体層1との間の剥離強度が向上する。
【0106】
印刷に用いる材料は、通常、樹脂、顔料及び溶媒を含む。
前記樹脂としては、樹脂自体が高い耐候性を有し、フッ素樹脂フィルム本体との密着性に優れる点から、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が好ましい。
前記顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料等が挙げられる。
前記無機顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、鉄黒、群青、亜鉛華、黄鉛、クロムバーミリオン、コバルトブルー、焼成グリーン、硫化亜鉛、ブロンズ粉、アルミニウム粉、パール顔料等が挙げられる。
前記有機顔料としては、不要性アゾ類、アゾレーキ類、キナクリドンレッド、カーミンレッド、ウォッチングレッド、ペリレンレッドアンスラキノン、ジスアゾオレンジ、ジニトロアニリンオレンジ、アセトトロンオレンジ、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、アセトロンイエロー、塩素化フタロシアニン、フタロシアニン、インダスレンブルー、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレット、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
前記体質顔料としては、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、クレー等が挙げられる。
前記溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0107】
印刷の方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷、インクジェット印刷法などが挙げられる。
これらの方法で形成された印刷は、溶媒を除去する目的と、重合体1との密着性を向上させる為に60~150℃で、2~30秒乾燥させることが好ましい。
【0108】
<第6の実施形態>
本発明の第6の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形であり、図6に示すとおり、重合体層1、第一の熱可塑性エラストマー層2及びプリプレグ層3に加え、クリアコート層6をさらに有する積層体205である。
クリアコート層6は、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側の表面1bとは反対側の表面1eと接するように積層されている。
重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eの一部に印刷5が施されている。
【0109】
重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eには、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bと同様に、第一の接着性官能基が存在する。ここで、重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eに存在する第一の接着性官能基と、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と対向する側の表面1bに存在する第一の接着性官能基とは、同種の接着性官能基であってもよいし、異種の接着性官能基であってもよい。
重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eに存在する第一の接着性官能基は、表面処理によって導入された接着性官能基、及び含フッ素重合体が有する接着性官能基のいずれか一方又は両方である。
【0110】
《印刷5》
印刷5は、従来公知の方法によって、重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eの一部に印刷を施して形成したものである。印刷5の面積は、重合体層1のクリアコート層6と接する側の表面1eの面積の90%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。印刷面積が小さいほど、クリアコート層6と重合体層1との間の剥離強度が向上する。
印刷の材料及び方法は、上述した第5の実施形態と同様である。
【0111】
《クリアコート層6》
クリアコート層6は、従来公知のクリア塗料を、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面1eに塗布して形成したものである。
コーティングの目的は、主としてコーティングの下の層を劣化から保護することであるから、顔料を含まず、透明性の高い塗膜であることが望ましい。
【0112】
クリアコート層6に用いる材料は、通常、樹脂、溶媒及び添加剤を含む。
前記樹脂としては、樹脂自体が高い耐候性を有し、フッ素樹脂フィルム本体との密着性に優れる点から、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が好ましい。
前記溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類等が挙げられる。
前記添加剤としては、酸化防止剤、光酸化防止剤、界面活性剤、水溶性重合体、ゲル化剤、増粘剤、消泡剤等が挙げられる。
前記光酸化防止剤としては、光酸化で生成するラジカルを補足するヒンダードアミン系光安定剤(HALS)(ADEKA社製、アデカスタブLAシリーズ)等が挙げられる。
クリアコート層が酸化防止剤や光酸化防止剤を含むことにより、印刷層の有機顔料の紫外線劣化だけでなく、酸化防止も抑制できることになる。
【0113】
クリアコートの方式としては、ダイレクトグラビヤコート、ダイレクトグラビアリバースコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ダイコート、スピンコート等が挙げられる。
これらの方法で形成されたクリアコート層は、溶媒を除去する目的と、重合体層1との密着を向上させる為に60~150℃で、2~30秒乾燥させることが好ましい。
【0114】
<第7の実施形態>
本発明の第7の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図2に示す積層体201において、重合体層1が紫外線吸収剤を含むものである。
前記紫外線吸収剤は、従来公知の紫外線吸収剤を用いることができる。また、重合体層1中の前記紫外線吸収剤の含有量は、本発明の効果を妨げない限り、適宜設定できる。
本実施形態の積層体201では、重合体層1が紫外吸収材を含むことにより、第一の熱可塑性エラストマー層2及び第一のプリプレグ層の紫外線による劣化を抑制できる。
【0115】
<第8の実施形態>
本発明の第8の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図2に示す積層体201において、重合体層1が顔料を含むものである。
前記顔料は、従来公知の顔料を用いることができる。また、重合体層1中の前記顔料の含有量は、本発明の効果を妨げない限り、適宜設定できる。
本実施形態の積層体201では、重合体層1が顔料を含むことにより、重合体層1を着色できる。また、紫外線散乱材として機能する顔料を用いることにより、第一の熱可塑性エラストマー層2及び第一のプリプレグ層の紫外線による劣化を抑制できる。
【0116】
<第9の実施形態>
本発明の第9の実施形態は、上述した第2の実施形態の変形例であり、図2に示す積層体201において、重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面が凹凸を有するものである。
重合体層1の、第一の熱可塑性エラストマー層2と接する側とは反対側の表面1aの凹凸は、通常、含フッ素重合体フィルムの成形時に付与する。具体的には、含フッ素重合体フィルムの成形時のロールとして凹凸を有するロールを用いることで凹凸を付与できる。
本実施形態の積層体201では、重合体層1の表面1aが凹凸を有することにより、積層体の表面が艶消しとなり、意匠性が向上する。
【0117】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の積層体を加熱しながら成形することを特徴とする。
図7は、本発明の成形体の製造方法の一例を示す断面図である。
図7の1段目に示すように、金型以外の場所であらかじめ作製された又は下金型34の上で作製された積層体10を、下金型34に接するように上金型32及び下金型34からなる一対の金型30の間に配置する。
ついで、図7の2段目に示すように、積層体10を上金型32と下金型34との間に挟んだ状態で予備加熱する。
ついで、図7の3段目に示すように、上金型32と下金型34とを型締めして、積層体10を加熱しながら加圧成形して、金型の形状に沿った形状を有する成形体20を得る。
【0118】
上金型32及び下金型34からなる一対の金型30は、積層体を所望の形状を有する成形体に成形するためのものである。本発明の積層体は、複雑な形状に成形可能であることから、本発明の成形体の製造方法においては、複雑な形状を有する金型を用いることができる。
複雑な形状を有する金型としては、凹凸形状、深絞り形状等を有する金型が挙げられる。凹凸形状及び深絞り形状におけるコーナー部分は、所定の曲率半径を有するR部とされていることが好ましい。R部の曲率半径は、強化繊維の乱れを抑え、成形体の外観を良好にする点から、0.1~10mmが好ましく、1~6mmがより好ましく、2~5mmがさらに好ましい。
金型の材料としては、鋼材が挙げられ、耐摩耗性の高い超高合金が好ましい。金型は、耐摩耗性の点から、表面処理(表面窒化処理等)が施されていてもよい。
【0119】
予備加熱の温度は、たとえば、後述する型締め時の温度と同じ温度が挙げられる。予備加熱の温度及び型締め時の温度は、金型における、積層体と接している表面の温度である。
予備加熱の時間は、たとえば、積層体の重合体層に充分に金型の熱が伝わって、適度に軟化するまでの時間とする。
【0120】
型締め時の温度は、400℃未満が好ましく、100℃以上300℃以下が好ましく、100℃以上220℃以下がより好ましい。型締め時の温度が前記範囲の下限値以上であれば、得られる成形体の耐熱性に優れる。型締め時の温度が前記範囲の上限値以下であれば、成形体を製造する際に汎用的な成形装置を使用でき、かつ樹脂マトリックスが熱硬化性樹脂であると、成形体における重合体層と繊維強化樹脂層との界面における接着性に優れる。
【0121】
融点が比較的低い含フッ素重合体を用い、かつ樹脂マトリックスが熱硬化性樹脂である場合、積層体を成形する際の温度を低くしても、成形体における重合体層と熱可塑性エラストマー層、及び熱可塑性エラストマー層と繊維強化樹脂層との界面における接着性に優れる。したがって、含フッ素重合体の融点が120℃以上220℃以下である場合における型締め時の温度は、220℃未満であることが好ましく、含フッ素重合体の融点が120℃以上200℃以下である場合における型締め時の温度は、含フッ素重合体の融点未満がより好ましい。
【0122】
含フッ素重合体の融点が120℃以上200℃以下である場合における型締め時の温度を含フッ素重合体の融点未満としても、熱可塑性エラストマー層と繊維強化樹脂層、及び熱可塑性エラストマー層と重合体層との間の剥離強度が10N/cm以上である成形体が得られる。
【0123】
型締め時の圧力は、強化繊維の乱れを抑え、成形体の外観を良好にする点から、10MPa以下が好ましく、6MPa以下がより好ましく、3MPa以下がさらに好ましい。型締め時の圧力は、積層体を金型の形状に追随させる点、成形体に気泡を残さない点から、0.01MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、0.5MPa以上がさらに好ましい。
【0124】
型締めの時間は、生産性の点から、30分以下が好ましく、15分以下がより好ましく、10分以下がさらに好ましい。樹脂マトリックスが熱硬化性樹脂である場合、型締めの時間は、熱硬化性樹脂の硬化性の点から、5分以上が好ましく、7分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。
【0125】
(作用機序)
以上説明した本発明の成形体の製造方法にあっては、本発明の積層体を用いているため、難燃性及び耐薬品性に優れ、かつ複雑な形状を適用可能な成形体を製造できる。また、得られる成形体は、含フッ素重合体を含むため、含フッ素重合体に由来する特性(撥水性、耐候性等)を有する。
【0126】
(用途)
成形体の用途としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
電気・電子機器(パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等)の筐体、内部部材(トレイ、シャーシ等)、内部部材のケース、電池パックの筐体、機構部品等。
建材(パネル)等。
自動車、二輪車関連部品、部材及び外板:モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、各種バルブ(排気ガスバルブ等)、燃料関係、排気系又は吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラー、各種モジュール等。
航空機関連部品、部材及び外板:ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ等。
その他:風車の羽根等。
成形体は、特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板及び電子機器の筐体、トレイ、シャーシ等に好ましく用いられる。
また、成形体は、特に、電池パックの筐体にも好ましく用いられる。
【実施例
【0127】
以下では、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。例1~7のうち、例1~4が実施例に相当し、例5~7が比較例に相当する。
【0128】
[含フッ素重合体の準備及び含フッ素重合体フィルムの作製]
以下に略称及びその意味を説明する。
略称 意味
TFE テトラフルオロエチレンに基づく単位
PFBE パーフルオロブチルエチレンに基づく単位
PFEE パーフルオロエチルエチレンに基づく単位
E エチレンに基づく単位
IAH イタコン酸に基づく単位
【0129】
<含フッ素重合体(1)>
接着性官能基を有しない含フッ素重合体を購入して用いた。
含フッ素重合体(1)を構成する単位及び割合(モル比)は、TFE/PFBE/E=60/1.4/40であった。
含フッ素重合体(1)の融点は260℃であり、荷重49Nの条件下における溶融流れ速度は10~13g/10分であった。
【0130】
<含フッ素重合体(2)>
接着性官能基を有する含フッ素重合体を合成して用いた。
国際公開第2015/182702号の実施例1と同様に合成を行い、含フッ素重合体(2)を得た。
含フッ素重合体(2)を構成する単位(モノマー)及び割合(モル比)は、テトラフルオロエチレン/無水イタコン酸/パーフルオロエチルエチレン/エチレン=58.5/0.1/2.4/39であった。
含フッ素重合体(2)の融点は245℃であり、荷重49Nの条件下における溶融流れ速度は22g/10分であった。
含フッ素重合体(2)の接着性官能基の含有量は、主鎖炭素数1×10個に対し3000個であった。
【0131】
<含フッ素重合体フィルム(1)>
購入した含フッ素重合体(1)を、750mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機を用いて、ダイ温度300度で押出成形して、厚みが25μmのフィルムを作製した。
【0132】
<含フッ素重合体フィルム(2)>
合成した含フッ素重合体(2)を、750mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機を用いて、ダイ温度300度で押出成形して、厚みが25μmのフィルムを作製した。
【0133】
<含フッ素重合体フィルム(3)>
含フッ素重合体フィルム(1)の両面に、空気中にて150W・分/mの処理密度でコロナ放電処理を施した。
コロナ放電処理を施した表面の表面張力は、0.054N/mであった。
【0134】
<含フッ素重合体フィルム(4)>
含フッ素重合体フィルム(2)の両面に、空気中にて150W・分/mの処理密度でコロナ放電処理を施した。
コロナ放電処理を施した表面の表面張力は、90N/mであった。
【0135】
[TPEシートの作製]
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(エラストラン(登録商標) S80A10(ペレット状、滑剤なし)、BASF社製)を、750mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機を用いて、ダイ温度300度で押出成形して、厚みが30μmのフィルムを作製した。
【0136】
[例1]
含フッ素重合体フィルム(3)と、TPEシートと、プリプレグ(パイロフィルプリプレグ TR3110 381GMX、三菱ケミカル社製:厚み,223μm;強化繊維,炭素繊維織物(クロス);樹脂マトリックス,熱硬化性樹脂)とを積み重ね、熱プレス装置(テスター産業社製)を用い、プレス温度180℃、プレス時間10分、面圧4.8MPaの条件にて加圧、加熱して成形体を得た。
【0137】
(剥離試験)
得られた成形体を長さ100mm、幅10mmの大きさに切断し、試験片を作製した。
試験片の長さ方向の一端から50mmの位置まで、重合体層と熱可塑性エラストマー層とを剥離した。次いで、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機(オリエンテック社製)を用いて、引張り速度50mm/分で180度剥離し、最大荷重を剥離強度(N/cm)とした。剥離強度が大きいほど、重合体層と熱可塑性エラストマー層との間の接着性が優れていることを示す。
材破は、A=熱可塑性エラストマー層の破壊、D=熱可塑性エラストマー層の破壊ではなく、界面での剥離を意味する。
成形体の剥離試験の結果を表1に示す。
【0138】
[例2~4]
重合体層及び基材を表1に示す通り変更し、例1と同様にして成形体を作製し、剥離試験を実施した。
なお、例3及び例4の基材「アルミ」は、基材として、プリプレグに代えて、アルミ箔(厚み200μm)を用いたことを示す。
成形体の剥離試験の結果を表1に示す。
【0139】
[例5~7]
熱可塑性エラストマー層を用いず、重合体層及び基材を表1に示す通りとし、例1と同様にして成形体を作製し、剥離試験を実施した。
成形体の剥離試験の結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
[結果の説明]
実施例に相当する例1~4の成形体は、重合体層と熱可塑性エラストマー層との間の剥離強度が10N/cm以上であり、接着性が優れていた。
これに対して、比較例に相当する例5~7の成形体は、重合体層とプリプレグ層との間の剥離強度が10N/cm未満であり、接着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の積層体は、輸送機器(車両(自動車、鉄道車両等)、航空機等)、建築、電気・電子機器等を構成する部材の成形用素材として有用である。
【符号の説明】
【0143】
10、101、201、202、203、204、205、206 積層体
1 重合体層
1a、1b、1c、1d、1e、2a、2b、2’a、2’b 表面
2 第一の熱可塑性エラストマー層
2´ 第二の熱可塑性エラストマー層
3 第一のプリプレグ層
3´ 第二のプリプレグ層
4 塗膜層
5 印刷
6 クリアコート層
20 成形体
30 金型
32 上金型
34 下金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7