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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】液晶組成物および液晶調光素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231219BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20231219BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20231219BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/22 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/24 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/14 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 19/56 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
C09K19/12
C09K19/16
C09K19/18
C09K19/20
C09K19/30
C09K19/32
C09K19/34
C09K19/38
C09K19/54 Z
G02F1/13 500
G02F1/1334
C09K19/22
C09K19/24
C09K19/14
C09K19/56
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019198696
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2020076987
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018205395
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩章
(72)【発明者】
【氏名】田辺 真裕美
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】田村 典央
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105726(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0216007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/13
G02F 1/1334
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、垂直配向剤が重合基を有し、表面自由エネルギーが28.31±0.53mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
【請求項2】
液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、垂直配向剤が重合基を有し、表面自由エネルギーが39.0~50.0mJ/m2 の範囲にある基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
【請求項3】
液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、垂直配向剤が重合基を有し、表面自由エネルギーが27.25~50.0mJ/m2 の範囲にある基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
【請求項4】
表面張力を上昇させる成分が垂直配向剤である請求項1~3のいずれか1項の組成物。
【請求項5】
垂直配向剤がOHを有し、重合基がラジカル重合基である、請求項4の組成物。
【請求項6】
垂直配向剤が式(1)で表される化合物または式(2)で表される化合物である、請求項5の組成物。
【化1】
(式(1)において、
1は、炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルコキシであり、
それぞれの環Mは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
それぞれのZ1は、単結合、炭素数2から10のアルキレン、またはカルボニルオキシであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
pは、0、1、2、または3であり、
環L1は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
2は、単結合または炭素数2から10のアルキレンであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、1つのHは、ヒドロキシ、(メタ)アクリロイルまたは2-ヒドロキシメチルアクリロイルを含む基で置き換えられていてもよい。)
【化2】
(式(2)において、
1は、炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルコキシであり、
それぞれの環Mは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
それぞれのZ1は、単結合、炭素数2から10のアルキレン、またはカルボニルオキシであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
pは、0、1、2、または3であり、
環L2は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
3は炭素数2から10のアルキレンであり、Oに隣接しないCH2の少なくとも1つのHはOHで置き換えられ、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
あるいは、Z3が直接結合であり、環L2が、単結合以外の構造の場合に、環L2に結合した少なくとも1のHがOHで置き換えられ、
2は水素またはメチルである。)
【請求項7】
液晶組成物100重量部に対して、6重量部以上の垂直配向剤を含む、請求項4から6のいずれか1項の組成物。
【請求項8】
式(3)、式(4)、および式(5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの重合性化合物を含む、請求項6または7のいずれか1項の組成物。
【化3】
(式(3)、式(4)、および式(5)において、環Gはそれぞれ独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、1,4-シクロへキセニレン、ピリジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、ここで、少なくとも1つの水素はフッ素、塩素、シアノ、ヒドロキシ、ホルミル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数1から12のアルコキシカルボニル、または炭素数1から12のアルカノイルで置き換えられてもよく;
10はそれぞれ独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-であり;
11は独立して、単結合、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-OCOO-、-CONH-、-NHCO-、-CF2O-、-OCF2-、-CH2CH2-、-CF2CF2-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CH2CH2COO-、-OCOCH2CH2-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH3)-、-C(CH3)=N-、-N=N-、または-C≡C-であり;Z12は単結合、-O-または-COO-であり;Xは水素、フッ素、塩素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、炭素数1から20のアルキル、炭素数2から20のアルケニル、炭素数1から20のアルコキシ、または炭素数1から20のアルコキシカルボニルであり;
eは1から4の整数であり;
fおよびgは独立して、0から3の整数であり;
fおよびgの和は1から4であり;
hはそれぞれ独立して、0から20の整数であり;
2はそれぞれ独立して、水素またはCH3である。)
【請求項9】
式(6)で表される重合性化合物を少なくとも1つ含む、請求項6から8のいずれか1項の組成物。
【化4】
式(6)において、Z12は単結合または炭素数1から80のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素は、炭素数1から20のアルキル、フッ素、または以下の式(7)で表される基で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-、-NH-、または-N(R5)-で置き換えられてもよく;
複数の-O-で置き換える場合は、これら-O-が隣接せず;
5は、炭素数1から12のアルキルであり;
少なくとも1つの-CH2-CH2-は、-CH=CH-、または-C≡C-で置き換えられてもよく;
10は炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素は、フッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;
複数の-O-で置き換える場合は、これら-O-が隣接せず;少なくとも1つの-CH2-は、炭素環式の飽和脂肪族化合物、複素環式の飽和脂肪族化合物、炭素環式の不飽和脂肪族化合物、または複素環式の不飽和脂肪族化合物、から2つの水素を除くことによって生成した二価基で置き換えられてもよく、これらの二価基において、炭素数は5から35であり、少なくとも1つの水素は、炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;
2は水素またはCH3である。
【化5】
式(7)において、Z13は炭素数1から12のアルキレンであり、R2は水素またはCH3であり、*は連結位置を示す。
【請求項10】
液晶組成物が式(10)、式(10-2)、および式(10-7)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から9のいずれか1項の組成物。
【化6】
式(10)、式(10-2)、および式(10-7)において、R20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;
環Aはそれぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン、2,5-テトラヒドロ-2H-ピラニレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレン、または7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり、少なくとも1つは2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレン、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり;
20は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;
cは1から4の整数である。
【請求項11】
式(10)で表される化合物が、式(10-1)、式(10-3)から式(10-6)、および式(10-8)から式(10-33)で表される化合物から選択される少なくとも1つである、請求項10の組成物。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
(式(10-1)、式(10-3)から式(10-6)、および式(10-8)から式(10-33)において、R20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルまたは少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数から12のアルケニルである。)
【請求項12】
液晶組成物が式(11)および式(11-9)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から10のいずれか1項の組成物。
【化11】
(式(11)および式(11-9)において、R22およびR23は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;
環Bはそれぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;
21は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;
cは1から4の整数である。)
【請求項13】
式(11)で表される化合物が、式(11-1)から式(11-8)および式(11-10)から式(11-22)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つである、請求項12の組成物。
【化12】
【化13】
式(11-1)から式(11-8)および式(11-10)から式(11-22)において、R22およびR23は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。)
【請求項14】
組成物が、添加物として光重合開始剤を含有する、請求項1から13のいずれか1項の組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項の組成物を用いた、透明および散乱状態をスイッチングする素子。
【請求項16】
プラスチック基板を用いた請求項15に記載の素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶組成物に関する。詳しくは、重合性化合物と非重合性ネマチック液晶化合物とを組み合わせた、液晶調光素子用途の組成物に関する。
液晶調光素子は、光散乱を利用した調光素子である。この液晶調光素子は窓ガラスや部屋の仕切りのような建築材料、車載部品などに使われる。これらの素子には、ガラス基板のような硬質基板に加えて、プラスチックフィルムのような軟質基板が使われる。これらの基板に挟持された液晶組成物では、印加する電圧を調節することによって、液晶分子の配列が変わる。この方法によって、液晶組成物を透過する光を制御することができるので、液晶調光素子は、ディスプレイ、光シャッター、調光窓、スマートウィンドウなどに幅広く使用されている。
【0002】
液晶調光素子の一例は、光散乱モードの高分子分散型である。液晶組成物は、重合体中に分散している。この素子は次の特徴を有している。素子の作製が容易である。広い面積に渡って膜厚制御が容易であるので、大きな画面の素子を作製することが可能である。偏光板を必要としないので、明るい表示が可能である。光散乱を利用するので視野角が広い。この素子は、このような優れた性質を持っているので、調光ガラス、投射型ディスプレイ、大面積ディスプレイなどの用途が期待されている。
【0003】
別の例は、ポリマーネットワーク型の液晶調光素子である。この型の素子では、重合体の三次元ネットワーク中に液晶組成物が存在する。この組成物は連続している点で、高分子分散型とは異なる。この型の素子も、高分子分散型の素子と同様な特徴を有している。ポリマーネットワーク型と高分子分散型とが混在した液晶調光素子も存在する。
【0004】
液晶調光素子には、ノーマルモードとリバースモードがある。ノーマルモードでは電圧無印加時に不透明であり、電圧印加時に透明になる。リバースモードでは電圧無印加時に透明であり、電圧印加時に不透明になる。ノーマルモードを有する素子には正の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。リバースモードを有する素子には負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。
【0005】
現在ノーマルモードの素子が広く用いられているが、素子を透明状態で使用する頻度が高い場合、リバースモードの素子の方が、消費電力量を小さくできる。また特に安全性の観点から、素子への通電ができなくなった時に透明となるリバースモードの素子が、自動車の窓などへの適用に有効で、検討が進められている。
【0006】
リバースモードの素子において透明状態を得るためには、ポリマーネットワーク作成時、液晶を垂直配向とすることが一般的である。液晶の垂直配向を得るためには、ポリイミドなどを材料とする、垂直配向膜が使用される(特許文献1)。一方で垂直配向膜の代わりに、液晶に垂直配向剤を添加し、液晶を垂直配向とする方法も、近年検討が進められている(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/199148号
【文献】特開2000-321562号公報
【文献】国際公開第2018/015323号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液晶調光素子の軽量化、高面積化、薄膜化等の観点で、プラスチック基板が広く使用されている。プラスチック基板の中には、リバースモードの液晶調光素子を構成したときに、基板に対する組成物の濡れ性が悪く、ハジキが発生しやすいものが多い。したがって本発明の課題は、プラスチック基板に対して、良好な濡れ性と垂直配向性を示す組成物を提供することであり、さらに、電圧無印加時のヘーズ率が低く、高い透明性を示すリバースモードの調光素子、歩留りよく製造できる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、以下の[1]から[17]を見出した。
[1]液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが28.31±1.06mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
[2]液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが39.0~50.0mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
[3]液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが27.25~50.0mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である組成物。
[4]表面張力を上昇させる成分が垂直配向剤である、[1]~[3]のいずれか1項の組成物。
[5]垂直配向剤が重合基を有する、[4]の組成物。
[6]垂直配向剤がOHを有し、重合基がラジカル重合基である、[5]の組成物。
[7]垂直配向剤が式(1)で表される化合物または式(2)で表される化合物である、[6]の組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)において、
1は、炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルコキシであり、
それぞれの環Mは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
それぞれのZ1は、単結合、炭素数2から10のアルキレン、またはカルボニルオキシであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
pは、0、1、2、または3であり、
環L1は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
2は、単結合または炭素数2から10のアルキレンであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、1つのHは、ヒドロキシ、(メタ)アクリロイルまたは2-ヒドロキシメチルアクリロイルを含む基で置き換えられていてもよい。)
【0012】
【化2】
【0013】
(式(2)において、
1は、炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルコキシであり、
それぞれの環Mは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
それぞれのZ1は、単結合、炭素数2から10のアルキレン、またはカルボニルオキシであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
pは、0、1、2、または3であり、
環L2は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
3は炭素数2から10のアルキレンであり、Oに隣接しないCH2の少なくとも1つのHはOHで置き換えられ、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
あるいは、Z3が直接結合であり、環L2が、単結合以外の構造の場合に、環L2に結合した少なくとも1のHがOHで置き換えられ、
2は水素またはメチルである。)
[8]液晶組成物100重量部に対して、6重量部以上の垂直配向剤を含む、[4]から[7]のいずれか1項の組成物。
[9]式(3)、式(4)、および式(5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つ重合性化合物を含む、[7]または[8]のいずれか1項の組成物。
【0014】
【化3】
【0015】
(式(3)、式(4)、および式(5)において、環Gはそれぞれ独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、1,4-シクロへキセニレン、ピリジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、ここで、少なくとも1つの水素はフッ素、塩素、シアノ、ヒドロキシ、ホルミル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数1から12のアルコキシカルボニル、または炭素数1から12のアルカノイルで置き換えられてもよく;Z10はそれぞれ独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-であり;Z11は独立して、単結合、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-OCOO-、-CONH-、-NHCO-、-CF2O-、-OCF2-、-CH2CH2-、-CF2CF2-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CH2CH2COO-、-OCOCH2CH2-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH3)-、-C(CH3)=N-、-N=N-、または-C≡C-であり;Z12は単結合、-O-または-COO-であり;Xは水素、フッ素、塩素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、炭素数1から20のアルキル、炭素数2から20のアルケニル、炭素数1から20のアルコキシ、または炭素数1から20のアルコキシカルボニルであり;
eは1から4の整数であり;fおよびgは独立して、0から3の整数であり;fおよびgの和は1から4であり;hはそれぞれ独立して、0から20の整数であり;R2はそれぞれ独立して、水素またはCH3である。)
[10]式(6)で表される重合性化合物を少なくとも1つ含む、[7]から[9]のいずれか1項の組成物。
【0016】
【化4】
【0017】
式(6)において、Z13は単結合または炭素数1から80のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素は、炭素数1から20のアルキル、フッ素、または以下の式(7)で表される基で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-、-NH-、または-N(R5)-で置き換えられてもよく;複数の-O-で置き換えらる場合は、これら-O-が隣接せず;R5は、炭素数1から12のアルキルであり;少なくとも1つの-CH2-CH2-は、-CH=CH-、または-C≡C-で置き換えられてもよく;
10は炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素は、フッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;複数の-O-で置き換えられる場合は、これら-O-が隣接せず;少なくとも1つの-CH2-は、炭素環式の飽和脂肪族化合物、複素環式の飽和脂肪族化合物、炭素環式の不飽和脂肪族化合物、または複素環式の不飽和脂肪族化合物、から2つの水素を除くことによって生成した二価基で置き換えられてもよく、これらの二価基において、炭素数は5から35であり、少なくとも1つの水素は、炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;R2は水素またはCH3である。
【0018】
【化5】
【0019】
式(7)において、Z14は炭素数1から12のアルキレンであり、R2は水素またはCH3であり、*は連結位置を示す。
[11]液晶組成物が式(10)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、[1]から[10]のいずれか1項の組成物。
【0020】
【化6】
【0021】
式(10)において、R20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Aはそれぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン、2,5-テトラヒドロ-2H-ピラニレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレン、または7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり、
少なくとも1つは2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレン、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり;Z20は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは1から4の整数である。
[12]式(10)の化合物が以下の構造から選択される少なくとも1種である、[11]の組成物。
【0022】
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
【化9】
【0025】
【化10】
【0026】
式(10-1)から式(10-33)において、R20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルまたは少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルケニルである。
[13]液晶組成物が、式(11)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、[1]から[11]のいずれか1項の組成物。
【0027】
【化11】
【0028】
式(11)において、R22およびR23は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Bはそれぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z21は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは1から4の整数である。
[14]式(11)で表される化合物が、式(11-1)から式(11-22)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つである、[13]の組成物。
【0029】
【化12】
【0030】
【化13】
【0031】
式(11-1)から式(11-22)において、R22およびR23は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
[15]組成物が、添加物として光重合開始剤を含有する、[1]から[14]のいずれか1項の組成物。
[16][1]から[15]のいずれか1項の組成物を用いた、透明および散乱状態をスイッチングする素子。
[17]プラスチック基板を用いた[16]の素子。
【発明の効果】
【0032】
本発明の組成物は、プラスチック基板に対して、良好な濡れ性と垂直配向性を示す組成物が提供される。従って本発明の組成物を使用すれば、基材と組成物との間のハジキが抑制され、電圧無印加時のヘーズ率が低く、高い透明性を示すリバースモードの調光素子を、歩留りよく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明において、「組成物」は、液晶化合物と、垂直配向剤を含む材料である。また必要に応じて、「組成物」には重合性化合物を含んでも良い。組成物は、ネマチック相を有さなくてもいい。
【0034】
「垂直配向剤」は、組成物または液晶組成物の分子長軸を、基板に対して垂直に配向させる能力を有する化合物である。「垂直配向剤」は単一の化合物でも混合物でもよい。
本発明において、「液晶化合物」は、液晶相を有する化合物および液晶相を有する組成物の成分となる化合物である。液晶相は、ネマチック相、スメクチック相などを含む。
【0035】
本発明において、「液晶組成物」は、前記添加物を含んでもよい。これらの添加剤は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、極性化合物そのほかの液晶組成物の特性を調整または改善するものである。特記のない限り、「液晶組成物」中の成分の量は、「液晶組成物」中の液晶化合物の全重量を基準とした百分率で表される。
【0036】
「重合性化合物」は、液晶複合体中にポリマーネットワークを形成させる目的で添加される重合性を有する化合物である。
本発明において、「液晶複合体」は、組成物を重合させて得た物である。
【0037】
本発明において、「液晶調光素子」は、組成物または液晶複合体を含み、該組成物または液晶複合体の作用により、光の透過や散乱状態を調整する素子である。液晶調光素子は、ディスプレイ、光シャッター、調光窓、スマートウィンドウなどである。
【0038】
本発明において、「重合基」とは、化合物中に含むと、光、熱、触媒などの手段により重合により大きな分子量を有する高分子へと変化させる官能基である。
本発明において、「重合性」とは、重合基を含むことを意味する形容表現である。
【0039】
本発明において、「非重合性」とは、重合基を含まないことを意味する形容詞である。
本発明において、式(○)で表される化合物と、化合物(○)は同じものを示す。
本発明において、「ハジキ」とは、基板の間に組成物を存在させた際に、該組成物が存在しない領域が発生する現象をいう。例えば一部の基材表面に組成物層が存在していなかったり、基材表面から組成物層が押しのけられたような凹みを生じる現象である。
【0040】
本発明において、単に「上限温度」とは、ネマチック相の上限温度である。
本発明において、単に「下限温度」とは、ネマチック相の下限温度である。
「比抵抗が大きい」は、液晶組成物が初期段階において大きな比抵抗を有し、そして長時間使用したあと、大きな比抵抗を有することを意味する。「電圧保持率が大きい」は、素子が初期段階において室温だけでなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有し、そして長時間使用したあと室温だけでなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有することを意味する。
【0041】
本発明において、「誘電率異方性を上げる」は、誘電率異方性の絶対値が、誘電率異方性の符号を変えずに、増加することである。たとえば、誘電率異方性が正であるとき、「誘電率異方性を上げる」とは、その値が、正に増加し、誘電率異方性が負である組成物のとき、「誘電率異方性を上げる」とは、その値が負に増加することを意味する。
【0042】
液晶化合物に関して、例えば2-フルオロ-1,4-フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。化学式において、フッ素は左向き(L)であってもよいし、右向き(R)であってもよい。このルールは、テトラヒドロピラン-2,5-ジイルのような、環から2つの水素を除くことによって生成した、左右非対称な二価基にも適用される。このルールは、カルボニルオキシ(-COO-または-OCO-)のような二価の結合基にも適用される。
【0043】
【化14】
【0044】
たとえば、特記のない限り、テトラヒドロピラン-2,5-ジイルは、酸素の位置を特定しない。具体的には、テトラヒドロピラン-2,5-ジイルは、
【0045】
【化15】
のどちらも該当する。
【0046】
本発明において、「メソゲン」は、液晶性を発現するような剛直な部位である。
液晶化合物中のアルキル並びに液晶化合物の末端基は、直鎖状または分岐状であり、環状アルキルを含まない。液晶温度範囲拡大のため、液晶化合物において、直鎖状アルキルは、分岐アルキルよりも好ましい。ここで、末端基とは、アルコキシ、アルケニルなどである。
上限温度を上げるため、液晶化合物中の1,4-シクロヘキシレンは、トランスの立体配置が好ましい。
【0047】
<組成物>
本発明の組成物は、液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが28.31±1.06mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である。
また、本発明の組成物は、液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが39.0~50.0mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である。
さらに、本発明の組成物は、液晶組成物と垂直配向剤を含む組成物であって、表面自由エネルギーが27.25~50.0mJ/m2である基板に対して、接触角が37度以下27度以上である。
【0048】
調光素子は、一対の基板と、基板間に組成物が介在する。ポリエチレンテレフタレート、アクリル、およびポリカーボネートなどのプラスチック基板は、液晶化合物や重合性化合物を含む組成物に対して濡れにくいという特性を有する。このため、本発明では、表面自由エネルギーが所定の範囲にある基板に対する、組成物の接触角で濡れ性を定義し、接触角が所定の範囲にある組成物とすることで、プラスチック基板などへの濡れを改善するというものである。
【0049】
組成物が、この範囲の接触角を有する限り、素子に使用される基板は特に制限されることがない。一方の基板がプラスチック基板から構成され、他方の基板は、プラスチック基板であっても、異なる基板(ガラス基板)であってもよい。一般にガラスなどの無機材料は組成物に対して濡れやすい特性を有する。
【0050】
本発明の組成物は、垂直配向剤を含むため自己配向性が高く、配向膜の無い基板に好適に用いることができる。
組成物の接触角が、前記の数値範囲にあれば、液晶の垂直配向性を維持すると同時に、プラスチック基板に対して良好な濡れ性を有する。従って素子作成時に、組成物のハジキ発生が抑制でき、不良領域の無いリバースモードの素子を製造できる。このとき基板に対する濡れ性がさらに向上するため、組成物の接触角が36.0度以下であればより好適であり、34.0度以下であれば最も好適である。また液晶の配向性をさらに向上するため、組成物の接触角が28.0度以上であればより好適であり、28.5度以上であれば最も好適である。接触角は、組成物中の各材料の重量比や、垂直配向剤の種類、重合性化合物の種類などによって調整することが可能であるが、詳しくは後述する。
【0051】
・垂直配向剤
プラスチック基板に対する組成物の接触角を減少させるため、組成物の表面張力を調整する。そのために、ヘテロ元素を含む官能基を含む化合物を組成物に含むことが好ましい。ヘテロ元素を含む官能基は、-OH、-O-、-NH2、-NH-などがある。
【0052】
本発明では、組成物の表面張力を調整して、接触角を小さくする化合物として、前記官能基を有する垂直配向剤を使用する。本発明で使用される垂直配向剤は、基板に接した組成物中の液晶化合物を、基板に対して垂直に配向させる性能を有する、化合物またはその混合物である。本発明で使用される垂直配向剤は液晶化合物に対して良好な垂直配向性を発現するとともに、プラスチック基板と組成物との濡れ性を向上させ、調光素子に広い領域で均一なヘーズ率を与えることができる。
【0053】
表面張力を調整するためには、末端にOH基を有する垂直配向剤が好ましい。たとえば、炭素数8から20のアルコール化合物を使用でき、1-ドデカノールなどが例示される。
【0054】
さらに、調光素子が経年劣化することなく、かつ調光素子を安定的に駆動させるためには、垂直配向剤は重合基を有する化合物であることが好ましい。垂直配向剤に含まれる重合基は、ラジカル重合によって重合するラジカル重合基が好ましい。また、液晶組成物と混和しやすく、特に液晶組成物への高い溶解性から、垂直配向剤に含まれる重合基は、アクリロイル基などの重合基であることがより好ましい。
【0055】
本発明において好適な垂直配向剤は、以下の式(1)および(2)で表される群から選ばれる化合物が好ましい。
【0056】
【化16】
【0057】
式(1)において、
1は、炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から20のアルコキシであり、
それぞれの環Mは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
それぞれのZ1は、単結合、炭素数2から10のアルキレン、またはカルボニルオキシであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
pは、0、1、2、または3であり、
環L1は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
2は、単結合または炭素数2から10のアルキレンであり、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、1つのHは、ヒドロキシ、(メタ)アクリロイルまたは2-ヒドロキシメチルアクリロイルを含む基で置き換えられていてもよい。
【0058】
【化17】
【0059】
式(2)において、
1、環M、Z1およびpは、式(1)の化合物と同様である。
環L2は、単結合、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,7-ジイルであり、
3は炭素数2から10のアルキレンであり、Oに隣接しないCH2の少なくとも1つのHはOHで置き換えられ、炭素数2から10のアルキレンの隣り合わないCH2はOで置き換えられてもよく、
あるいは、Z3が直接結合であり、環L2が、単結合以外の構造の場合に、環L2に結合した少なくとも1つのHがOHで置き換えられ、
2は水素またはメチルである。
【0060】
式(1)または(2)で表される化合物の好適な例を示す。
【0061】
【化18】
【0062】
【化19】
【0063】
式(1-1)から式(1-12)中、
50およびR51は、炭素数7から20のアルキル、炭素数7から20のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数5から20のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数5から20のアルコキシであり、
52およびR53は、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシであり、
211は、単結合、炭素数1から6の直鎖アルキレン、または-O(CH2n-であり、ここで、nは2から6である。
【0064】
【化20】
【0065】
式(1-13)から式(1-19)中、
50、R51、R52は前記式(1-1)~(1-12)と同様である。
212は、ヒドロキシ、(メタ)アクリロイルオキシ、または2-ヒドロキシメチルアクリロイルオキシ基である。
【0066】
【化21】
【0067】
式(2-1)から式(2-4)中、
50、R51は前記式(1-1)~(1-3)と同様である。
2は、前記式(2)と同様に、水素またはメチルである。
【0068】
組成物の接触角の調整のためには、(1-1)から(1-3)、(1-13)から(1-15)、および(2-1)から(2-4)で表される化合物を用いることが好ましい。また液晶調光素子の性能の経年劣化を低減するためには、(1-2)から(1-12)、(1-14)から(1-19)で表される化合物を用いることが好ましい。さらに、両方の効果を発現させるためには、上記した異なる効果を有する垂直配向剤の2種類以上を、組み合わせて使用することが好ましい。
【0069】
これらの垂直配向剤の含有量は、本発明の特徴である接触角を与える範囲にあればよい。この範囲は液晶組成物の100重量部に対して5重量部以上であり、濡れ性を改善し、より低い接触角を与えるためには、6重量部以上が好ましく、7重量部以上がさらに好ましい。8重量部以上が最も好適である。
【0070】
また液晶の垂直配向性を維持するため、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。12重量部以下が最も好適である。
液晶を垂直配向させるという機能を発揮しうる限りに、垂直配向剤の液晶組成物の重量に対する含有量は特に制限されない。通常、0.5重量部以上含まれていればその効果を発揮するものが多い。
【0071】
・重合性化合物
前記垂直配向剤は重合性化合物であり、垂直配向剤とともにそれ以外の重合性化合物を含むことが好ましい。組成物中に重合性化合物を含むことで、調光素子における散乱状態でのヘーズ率を向上でき、また駆動電圧を低下させることができる。また、液晶化合物と混和しやすくするため、この重合性化合物は、液晶と類似の骨格を有する化合物であることが好ましい。液晶調光素子の性能の経年劣化を低減するため、この重合性化合物は、3以上の重合基を含むことが好ましい。
【0072】
本発明で使用される重合性化合物は、液晶組成物を垂直配向させる性能が乏しく、表面張力を上昇させる性能が乏しい化合物である。
具体的には、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)、化合物(6)が好適に使用できる。これらの重合性化合物は、複数を選択して併用してもよい。
【0073】
式(3)、式(4)、および式(5)で表される化合物は、以下の一般式で表される。
【0074】
【化22】
【0075】
化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)は、少なくとも1つのアクリロイルオキシ(-OCO-CH=CH2、上記式(3)~(5)のR2が水素)またはメタクリロイルオキシ(-OCO-(CH3)C=CH2、上記式(3)~(5)のR2がCH3)を有する。液晶化合物は、メソゲン(液晶性を発現するような剛直な部位)を有するが、これらの化合物もメソゲンを有する。そのため、これらの化合物は、液晶化合物とともに配向膜の作用によって同一方向に配向する。この配向は、重合後も維持される。このような液晶複合体は、高い透明性を有する。
【0076】
式(3)、式(4)、および式(5)において、環Gはそれぞれ独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、1,4-シクロへキセニレン、ピリジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、ここで、少なくとも1つの水素はフッ素、シアノ、ヒドロキシ、ホルミル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数1から12のアルコキシカルボニル、または炭素数1から12のアルカノイルで置き換えられてもよい。式(3)、式(4)、および式(5)において、好ましい環は、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2-メチル-1,4-フェニレン、2-メトキシ-1,4-フェニレン、または2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンである。さらに好ましい環は、1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンである。
【0077】
10はそれぞれ独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-であり;
11はそれぞれ独立して、単結合、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-OCOO-、-CONH-、-NHCO-、-CF2O-、-OCF2-、-CH2CH2-、-CF2CF2-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CH2CH2COO-、-OCOCH2CH2-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH3)-、-C(CH3)=N-、-N=N-、または-C≡C-であり;
12は単結合、-O-または-COO-、-OCO-、または-OCOO-である。
【0078】
このとき式(5)において、好ましいZ11は、単結合、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-CH2CH2-、-CH2CH2COO-、または-OCOCH2CH2-である。
【0079】
Xは水素、フッ素、塩素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、炭素数1から20のアルキル、炭素数2から20のアルケニル、炭素数1から20のアルコキシ、または炭素数1から20のアルコキシカルボニルであり;
eは1から4の整数であり;fおよびgは独立して、0から3の整数であり;fおよびgの和は1から4であり;hはそれぞれ独立して、0から20の整数であり;R2は(2)と同様に、それぞれ独立して、水素またはCH3である。
【0080】
化合物(3)の具体例を以下に示す。
【0081】
【化23】
【0082】
【化24】
【0083】
式(3-1)から式(3-24)において、R2は式(2)と同様に水素またはメチルであり、dは1から20の整数である。組成物への相溶性が良好なことから、dは3から12の整数であることが好ましい。
【0084】
化合物(4)の具体例を以下に示す。
【0085】
【化25】
【0086】
【化26】
【0087】
【化27】
【0088】
式(4-1)から式(4-31)において、R2はそれぞれ独立して、水素またはCH3であり、fおよびhは独立して、1から20の整数である。組成物への相溶性が良好なことから、fおよびhは3から12の整数であることが好ましい。製造の容易さから、f=hであることがさらに好ましい。
【0089】
化合物(5)の具体例を以下に示す。
【0090】
【化28】
【0091】
【化29】
【0092】
式(5-1)から式(5-10)において、R2は独立して、水素またはCH3であり、i、k、およびmは独立して、1から20の整数である。組成物への相溶性が良好なことから、i、k、およびmは3から12の整数であることが好ましい。製造の容易さから、i=k=mであることがさらに好ましい。
【0093】
式(6)で表される化合物は式(3)、式(4)、式(5)以外の重合性化合物であり、液晶化合物ではない。このため、透明時のヘーズ率低下には効果が小さい。しかしながら安価な材料であり、駆動電圧の低減等の効果は高く、素子特性向上のため、組成物への使用が好適である。
【0094】
【化30】
【0095】
式(6)において、Z13は単結合または炭素数1から80のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素は、炭素数1から20のアルキル、フッ素、または以下の式(7)で表される基で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-、-NH-、または-N(R5)-で置き換えられてもよく;複数の-O-で置き換える場合は、これら-O-が隣接せず;R5は、炭素数1から12のアルキルであり;少なくとも1つの-CH2-CH2-は、-CH=CH-、または-C≡C-で置き換えられてもよく;
10は炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素は、フッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;複数の-O-で置き換えらる場合は、これら-O-が隣接せず;少なくとも1つの-CH2-は、炭素環式の飽和脂肪族化合物、複素環式の飽和脂肪族化合物、炭素環式の不飽和脂肪族化合物、または複素環式の不飽和脂肪族化合物、から2つの水素を除くことによって生成した二価基で置き換えられてもよく、これらの二価基において、炭素数は5から35であり、少なくとも1つの水素は、炭素数1から12のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく;R2は水素またはCH3である。
【0096】
【化31】
【0097】
式(7)において、Z14は炭素数1から12のアルキレンであり、R2は水素またはCH3であり、*は連結位置を示す。
このとき化合物(6)が揮発性である場合は、そのオリゴマーを用いてもよい。
【0098】
素子の駆動電圧低減のためには、式(6)で表される化合物として、単官能の化合物を選択することが好ましい。
式(6)で表される化合物のうち、単官能の化合物を以下の(6-1-1)~(6-1-6)に示す。
【0099】
【化32】
【0100】
式(6-1-1)から式(6-1-5)において、R30は、炭素数5から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、R31はそれぞれ独立して、炭素数3から10のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよい。
【0101】
素子の密着性向上のためには、式(6)で表される化合物として、式(7)で表される化合物がさらに置き換えられた、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、またはテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。Z13の分子鎖が短いとき、重合体の架橋部位が近接するので、網目が小さくなる。Z13の分子鎖が長いとき、重合体の架橋部位が離れ、分子運動の自由度が向上するので、駆動電圧が下がる。Z13が分岐構造を有するとき、自由度がさらに向上するので、駆動電圧がさらに下がる。化合物(6)において、重合基が多い場合は、架橋によって液滴を囲む重合体が固くなるか、または網目が密になる。
【0102】
多官能である化合物(6)の好適例を以下の(6-2-1)~(6-2-5)に示す。
【0103】
【化33】
【0104】
式(6-2-1)において、nは1から10の整数であり、
式(6-2-2)においてmは2から20の整数であり、
式(6-2-3)において、R35はそれぞれ独立して、炭素数1から5のアルキルであり、R36はそれぞれ独立して、炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、同一式中のR35とR36は同一であっても、異なるものであってもよく、Z7は炭素数10から30のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、アルキレンには、分岐アルキルを有するものも含み、
式(6-2-4)においてpは3から10の整数であり、Q1およびQ2はそれぞれ異なり、水素またはメチルであり、
式(6-2-5)においてR37はOH、(メタ)アクリロイル、または式(6-2-5)のR37以外の残基が-O-を介して結合した構造であり、R2はそれぞれ独立して水素またはCH3である。
【0105】
化合物(6-2-3)の具体例を以下に示す。
【0106】
【化34】
【0107】
式(6-2-3-1)および式(6-2-3-2)において、例えばR38は、エチルであり、R39は独立して、-CH2OCOC919、-CH2OCOC1021、-CH2OC817、または-CH2OC1123である。
【0108】
その他の特性を向上させるために、式(3)~(6)の重合性化合物以外の重合性化合物を併用してもよい。
重合性化合物の含有量(式(3)~(6)の重合性化合物の総量)は、液晶組成物100重量部に対して1重量部以上であり、好ましくは3重量部以上であり、5重量部以上であることが好ましい。
【0109】
また、上限は、液晶組成物の総重量に対して50重量部以下であり、好ましくは45重量部以下であり、40重量部以下であることが好ましい。
複数の重合性化合物を使用する場合は、調光素子における散乱状態でのヘーズ率、駆動電圧、液晶化合物と混和しやすさなどを鑑み、その種類や比率が適宜選択される。
【0110】
重合性化合物中のメソゲン構造を有する式(3)~(5)の重合性化合物の比率は、重合性化合物の総量に対して1重量%以上であり、好ましくは3重量部以上であり、5重量部以上であることが好ましい。また、上限は、重合性化合物の総量に対して30重量部以下であり、好ましくは20重量部以下であり、15重量部以下であることが好ましい。
【0111】
液晶複合体の安定性を向上させるおよび基板と液晶複合体の密着性を向上させるため、式(3)~(6)の重合性化合物において、式(4)または式(5)の多官能化合物を用いることが、特に好ましい。
【0112】
・液晶組成物
液晶組成物は、液晶化合物として公知のものを使用できるが、素子のHaze率の変化率を向上する、駆動電圧を下げる、耐候性を向上するという観点から、式(10)および式(11)から選択された少なくとも1つの液晶化合物を含むことが好ましい。式(10)および(11)の液晶化合物は、非重合性ネマチック液晶化合物であり、この化合物を含む液晶組成物をネマチック液晶成分とする。このような液晶組成物を、上記した重合性化合物と組み合わせて使用することで、低い駆動電圧を持ち、電圧無印加時の高い透明性および電圧印加時の高い曇り度を有する、リバースモード用の液晶調光素子用途の重合性組成物が提供される。
【0113】
式(10)で表される化合物は、化合物の分子長軸に対して垂直方向に誘電率異方性が発現する、いわゆるネガ型の液晶化合物である。
【0114】
【化35】
【0115】
式(10)において、
20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり、cは1から4の整数であり、
それぞれの環Aは独立して、1,4-シクロヘキシレン、2,5-テトラヒドロ-2H-ピラニレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレン、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり、
少なくとも1つの環Aは2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、1,1,7-トリフルオロインダン-2,5-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または4,7-ジフルオロクロメン-3,8-ジイルであり、
20は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。
【0116】
式(11)で表される化合物は、誘電率異方性を殆ど発現しない、または誘電率異方性が小さい液晶化合物である。
【0117】
【化36】
【0118】
式(11)において、
22およびR23は、独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり
cは1から4の整数であり、
それぞれの環Bは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,6-ジイルであり、
21は、単結合、-CH=CH-、-C≡C-、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。
【0119】
光や熱に対する安定性を上げるために、式(10)および式(11)において、R20、R21、R22およびR23は、炭素数1から12のアルキルが好ましく、炭素数1から8のアルキルがより好ましく、炭素数1から5のアルキルがさらに好ましい。
【0120】
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)および式(11)において、R20、R21、R22およびR23は、炭素数1から12のアルコキシが好ましく、炭素数1から8のアルコキシがより好ましく、炭素数1から5のアルコキシがさらに好ましい。
【0121】
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)および式(11)において、R20、R21、R22およびR23は、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルが好ましく、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルがより好ましい。
【0122】
この場合、1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルの2重結合の配座は、トランスが好ましく、2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルの2重結合の配座は、シスが好ましい。
【0123】
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)および式(11)において、R20、R21、R22およびR23は、ビニルオキシ、アリルオキシ、3-ブテニルオキシ、3-ペンテニルオキシ、または4-ペンテニルオキシが好ましく、アリルオキシまたは3-ブテニルオキシがより好ましい。
【0124】
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)および式(11)において、R20、R21、R22およびR23は、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、5-フルオロペンチル、6-フルオロヘキシル、7-フルオロヘプチル、または8-フルオロオクチルが好ましく、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、または5-フルオロペンチルがより好ましい。
【0125】
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)において、それぞれ環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレンまたは7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイルが好ましい。
【0126】
光学異方性を下げるために、式(10)において、環Aは、クロロ-フルオロ-1,4-フェニレンが好ましい。
誘電率異方性を強化するために、または/および液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(11)において、環Bは1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、モノフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、またはナフタレン-2,6-ジイルが好ましい。
【0127】
屈折率異方性を上げるために、式(11)において、環Bは、ナフタレン-2,6-ジイルが好ましい。
液晶温度範囲を拡大させるため、式(10)において、Z20およびZ21は単結合、―CH=CH-、―C≡C-、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシが好ましい。
【0128】
液晶調光素子の駆動温度範囲を広げるために、式(10)において、Z20またはZ21は、単結合またはエチレンが好ましい。
光や熱に対する安定性を上げるために、式(10)において、Z20またはZ21は、単結合が好ましい。
【0129】
誘電率異方性を強化するために、式(10)において、Z20またはZ21は、メチレンオキシが好ましい。
屈折率異方性を上げるために、式(10)において、Z20またはZ21は、単結合、―CH=CH-、および―C≡C-が好ましい。
【0130】
液晶組成物の温度を実用の範囲とするため、式(11)において、cは1から4の整数が好ましい。下限温度を下げるために、式(11)において、cは1が好ましい。上限温度を上げるために、式(11)において、cは2または3が好ましい。
【0131】
化合物(10)および化合物(11)は、表1の特性を有する。表1において、Lは特性の絶対値が大きいことを、Mは特性の絶対値が中程度であることを、Sは特性の絶対値が小さいことを0は特性の絶対値が極めて小さいことを意味する。当業者は、表1を基に、液晶組成物の特性を調整できる。
【0132】
【表1】
【0133】
本発明では、液晶化合物として、化合物(10)または化合物(11)のどちらかを使用してもよく、化合物(10)と化合物(11)の双方を使用してもよい。
液晶調光素子における駆動電圧の低減のため、および/または、液晶調光素子における使用可能な温度範囲の広域化のため、液晶組成物中の化合物(10)の含有量は、10から100重量%が好ましく、20から90重量%がより好ましく、30から85重量%がさらに好ましく、40から80重量%がよりさらに好ましい。
液晶調光素子における使用可能な温度範囲の広域化のため、液晶組成物中の化合物(11)の含有量は、0から90重量%が好ましく、10から80重量%がより好ましく、15から70重量%がさらに好ましく、20から60重量%がよりさらに好ましい。
【0134】
液晶組成物は、化合物(10)および(11)のその他の液晶化合物を含有しなくとも、さらにその他の液晶化合物を、必要に応じて添加物などとともに含有してもよい。「その他の液晶化合物」は、式(10)および式(11)とは異なる非重合性液晶化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で液晶組成物に混合されるが、公知のものを特に制限なく使用できる。このような化合物としては、化合物の分子長軸の方向に誘電率異方性が発現する、いわゆるポジ型の液晶化合物が挙げられる。
【0135】
本発明にかかる組成物中に含まれる液晶組成物の量は、垂直配向剤、重合性化合物および液晶組成物を含めた組成物の総重量に対して、50重量%から99重量%の範囲である。さらに好ましい割合は、55重量%から97重量%の範囲である。特に好ましい割合は、60重量%から95重量%の範囲である。
【0136】
好ましい液晶化合物を示す。好ましい化合物(10)は、化合物(10-1)から化合物(10-33)から選択される少なくとも1つである。これらの化合物において、第一成分の少なくとも1つが、化合物(10-1)、化合物(10-2)、化合物(10-3)、化合物(10-4)、化合物(10-6)、化合物(10-7)、化合物(10-8)、または化合物(10-10)であることが好ましい。第一成分の少なくとも2つが、化合物(10-1)および化合物(10-6)、化合物(10-1)および化合物(10-10)、化合物(10-3)および化合物(10-6)、化合物(10-3)および化合物(10-10)、化合物(10-4)および化合物(10-6)、または化合物(10-4)および化合物(10-10)の組み合わせであることが好ましい。
【0137】
【化37】
【0138】
【化38】
【0139】
【化39】
【0140】
【化40】
【0141】
式(10-1)から式(10-33)において、R20およびR21は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルまたは少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【0142】
好ましい化合物(11)は、化合物(11-1)から化合物(11-22)で表される化合物から選択される少なくとも1つである。これらの化合物において、第二成分の少なくとも1つが、化合物(11-1)、化合物(11-3)、化合物(11-5)、化合物(11-6)、化合物(11-8)、または化合物(11-9)であることが好ましい。第二成分の少なくとも2つが化合物(11-1)および化合物(11-5)、化合物(11-1)および化合物(11-6)、化合物(11-1)および化合物(11-8)、化合物(11-1)および化合物(11-9)化合物(11-3)および化合物(11-5)、化合物(11-3)および化合物(11-6)、化合物(11-3)および化合物(11-8)、または化合物(11-3)および化合物(11-9)の組み合わせであることが好ましい。
【0143】
【化41】
【0144】
【化42】
【0145】
式(11-1)から式(11-22)において、R22およびR23は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【0146】
以上の本発明で使用される化合物は、オーガニック・シンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載された方法によって合成できる。組成物は、このようにして得た化合物から公知の方法によって調製される。例えば、成分化合物を混合し、そして加熱によって互いに溶解させる。
【0147】
・他の添加剤など
本発明にかかる組成物には、上記垂直配向剤、重合性化合物、液晶組成物の他に、添加物を含んでいてもよい。添加剤としては、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤などである。
【0148】
たとえば、液晶分子のらせん構造を誘起してねじれ角を与える目的で光学活性化合物が組成物に添加される。このような化合物の例は、化合物(20-1)から化合物(20-6)である。光学活性化合物の好ましい割合は組成物の重量に対して5重量%以下である。さらに好ましい割合は0.01重量%から2重量%の範囲である。
【0149】
【化43】
【0150】
式(20-6)において、R25は水素または炭素数1から10のアルキル基である。
大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するために、または素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するために、酸化防止剤が組成物に添加される。酸化防止剤の好ましい例は、nが1から9の整数である化合物(21)などである。
【0151】
【化44】
【0152】
化合物(21)において、好ましいnは、1、3、5、7、または9である。さらに好ましいnは7である。nが7である化合物(21)は、揮発性が小さいので、素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するのに有効である。酸化防止剤の好ましい割合は、その効果を得るために、組成物の重量に対して約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないように約600ppm以下である。さらに好ましい割合は、約100ppmから約300ppmの範囲である。
【0153】
紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。立体障害のあるアミンのような光安定剤もまた好ましい。これらの吸収剤や安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために組成物の重量に対して約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないために約10000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0154】
GH(guest host)モードの素子に適合させるために、アゾ系色素、アントラキノン系色素などのような二色性色素(dichroic dye)が組成物に添加される。色素の好ましい割合は、組成物の重量に対して0.01重量%から10重量%の範囲である。泡立ちを防ぐために、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどの消泡剤が組成物に添加される。消泡剤の好ましい割合は、その効果を得るために、組成物の重量に対して約ppm以上であり、表示不良を防ぐために1000ppm以下である。さらに好ましい割合は、1ppmから500ppmの範囲である。
【0155】
本発明にかかる組成物中の重合性化合物は紫外線照射によって重合する。効率の観点から、光重合開始剤などの重合開始剤存在下で重合させることが好ましい。重合のための適切な条件や、開始剤の適切なタイプおよび組成物への添加量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。例えば組成物の重量に対して、0.5から10重量%が好ましく、2から7重量%が特に好ましい。また光重合開始剤の種類は、Irgacure651(登録商標;BASF)、Irgacure184(登録商標;BASF)、またはDarocur1173(登録商標;BASF)がラジカル重合に対して適切である。
【0156】
組成物を保管する際、重合性化合物の重合を防ぐため、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤の例は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンのようなヒドロキノン誘導体、4-t-ブチルカテコール、4-メトキシフェノール、フェノチアジンなどである。重合禁止剤の添加量は、重合が起こらないような量であれば特に制限されないが、通常、組成物の重量に対して、10~1000ppmの範囲で使用されることが好ましい。
【0157】
<液晶複合体>
最後に、液晶複合体の構成を説明する。
液晶複合体は組成物中の重合性化合物の重合によって作製される。重合性化合物の重合体は、液晶組成物と相分離を起こし、液晶複合体を与える。この液晶複合体は、垂直配向剤を含むために、液晶組成物が垂直配向している。このため電圧無印加時に透明であり、電圧印加時に不透明となるリバースモードの調光素子に適している。液晶組成物のneと重合体の屈折率との差を大きくすれば、液晶調光素子のヘーズ率が大きくなる。液晶組成物のnoと重合体の屈折率との差を小さくすれば、液晶調光素子の透明性が改善する。液晶組成物のnoは、液晶組成物の種類にあまり依存しないため、neを大きくする、すなわち液晶組成物の光学異方性(Δn)を大きくすることにより、ヘーズ率を大きくすることが好ましい。Δnは0.16以上が好ましく、0.18以上がより好ましい。
【0158】
なお、Δnはne-noで与えられる。ここでneは、液晶を一方向に水平配向させた時、液晶に対して鉛直方向から、液晶に配向方向に偏光軸を有する直線偏光を作用させた時の屈折率であり、noはそれと直交する方向に偏光軸を有する直線偏光に対する屈折率である。
【0159】
組成物から液晶複合体からなる素子を作製する際に、重合性化合物を重合させる。重合によって組成物から重合体が相分離する。これによって基板の間に液晶複合体からなる調光層が形成される。この調光層は、高分子分散型、ポリマーネットワーク型、両者の混在型に分類される。ネットワーク構造における網目は小さい方が好ましい。好ましい網目は、0.2から2μmであり、さらに好ましくは0.2から1μmであり、特に好ましくは0.3から0.7μmである。
【0160】
高分子分散型の素子では、重合体中で液晶組成物が液滴のように分散している。液滴の各々は独立しており、連続していない。一方、ポリマーネットワーク型の素子では、重合体は三次元の網目構造を有し、液晶組成物はこの網目に囲まれてはいるが、連続している。これらの素子において、Hazeを増し、駆動電圧を下げるためには、液晶複合体に基づいた液晶組成物の割合は大きい方が好ましい。一方、素子の基板どうしの密着性を向上し機械的強度を増すためには、重合体の割合は大きい方が好ましい。応答速度を上げる目的においても、重合体の割合は大きい方が好ましい。
【0161】
液晶複合体中の液晶組成物の割合は、重合前の組成物中の割合から大きく変わることなく、好ましい割合は、液晶複合体の重量に基づいて、50重量%から99重量%の範囲である。さらに好ましい割合は、55重量%から97重量%の範囲である。特に好ましい割合は、60重量%から95重量%の範囲である。重合体の好ましい割合は、液晶複合体の重量に基づいて、1重量%から50重量%である。さらに好ましい割合は、3重量%から45重量%の範囲である。特に好ましい割合は、5重量%から40重量%の範囲である。
【0162】
液晶複合体は詳細な製造方法を以下に示す。まず、少なくとも一方が透明電極を有する一対の透明基板の間に、組成物を上限温度より高い温度で真空注入法または液晶滴下法によって狭持させる。
【0163】
本発明の組成物および素子は、28.31±1.06mJ/m2の表面自由エネルギーを有する基板に対して、所定の接触角となるように組成を調整する。
また、本発明の組成物および素子は、39.0~50.0mJ/m2の表面自由エネルギーを有する基板に対して、所定の接触角となるように組成を調整する。
さらに、本発明の組成物および素子は27.25~50.0mJ/m2の表面自由エネルギーを有する基板に対して、所定の接触角となるように組成を調整する。
前記基板に対して、組成物が所定の接触角を有する限り、実際に使用される基板は、素子の種類に応じて、適宜選択される。所定の接触角となるように、基板に、UV洗浄やプラズマ処理などの表面処理をしてもよい。
【0164】
前記具体的にはポリエチレンテレフタレート、アクリル、およびポリカーボネート製のフィルム、さらにガラスおよび石英等の板状物質など、公知の全ての基板を用いることができる。本発明の組成物は上記のような表面自由エネルギーを有する基板に対し特定の接触角を有するため、塗布性がよい。これらの基板の中でも、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、およびポリカーボネートなどのプラスチック製フィルム基板に対して、好適に使用することができる。これらの基板上に透明電極が設置され、素子が得られる。透明電極の例は、酸化インジウムスズ(tin-doped indium oxide、ITO)や導電性ポリマーである。透明電極の上には配向膜などを有してもよいが、本発明組成物は、自己垂直配向性が高いため、配向膜の無い基板に好適に用いることができる。
【0165】
配向膜を備えた基板上に、本発明組成物を適用してもよい。このような配向膜としては、ポリイミドやポリビニルアルコールのような薄膜が適している。例えば、ポリイミド配向膜は、ポリイミド樹脂組成物を透明基板上に塗布し、180℃以上の温度で熱硬化させ、必要に応じて綿布やレーヨン布でラビング処理することによって得ることができる。
【0166】
一対の基板は、透明電極層が内側となるように対向させる。基板間の厚さを均一にするためにスペーサーを入れてもよい。スペーサーの例は、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトスペーサーなどである。調光層の好ましい厚さは2~50μmであり、さらに好ましくは5~20μmである。一対の基板を張り合わせるには、汎用のシール剤を用いることができる。シール剤の例は、エポキシ系熱硬化性組成物である。
【0167】
熱または紫外線を照射することによって重合性化合物を重合させるが、特に重合性化合物の重合には、紫外線照射が好ましい。紫外線照射ランプの例は、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、LEDランプなどである。光重合開始剤を用いるとき、紫外線の波長は、光重合開始剤の吸収波長領域であることが好ましい。液晶組成物の吸収波長領域は避ける。好ましい波長は330nm以上である。さらに好ましい波長は、350nm以上である。反応は室温付近で行ってもよいし、または加熱して行ってもよい。
【0168】
このような素子は、必要に応じて、素子の裏面に光吸収層、拡散反射板などを配置することができる。鏡面反射、拡散反射、再帰性反射、ホログラム反射等の機能を付加することもできる。
【0169】
このような素子は、透明および散乱状態をスイッチングする素子として、たとえば、調光フィルムや調光ガラスとしての機能を有する。素子がフィルム状である場合は、既存の窓へ張り付けるか、または、一対のガラス板で挟み、合わせガラスにすることができる。このような素子は、外壁に設置された窓や会議室と廊下との仕切りに使われる。すなわち、電子ブラインド、調光窓、スマートウィンドウなどの用途がある。さらに、光スイッチとしての機能を液晶シャッターなどに利用できる。
【実施例
【0170】
実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。特に定めがない限り、実施例は、室温(25℃)で行う。
<測定法>
下記の方法で測定および検証した。特記がない限り、本明細書に記載していない計測法に関することは、JEITA・ED-2521Bによる。
【0171】
<NMR>
NMRは、ブルカーバイオスピン社製のDRX-500で計測した。
1H-NMRの測定では、試料をCDCl3などの重水素化溶媒に溶解させた。室温で、500MHz、で測定した。この際、積算回数は16回である。内部標準は、テトラメチルシランである。
19F-NMRの測定では、積算回数は24回である。内部標準は、CFCl3である。
NMRの符号のうち、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードを意味する。
【0172】
<ネマチック相の上限温度>
実施例において、「NI」は「上限温度」である。
上限温度は、偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱し、試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度の測定値である。
【0173】
<ネマチック相の下限温度>
実施例において、「Tc」は「下限温度」である。
下限温度は、ネマチック相を有する試料を、ガラス瓶に入れ0℃、-10℃、-20℃、-30℃および-40℃のフリーザー中に10日間保管し、相を観察し、決定する。
【0174】
<屈折率異方性>
実施例において、屈折率異方性は、「Δn」と表記する。
Δnは、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計によって計測する。
主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下し、偏光の方向がラビングの方向と垂直の屈折率をn⊥として計測し、偏光の方向がラビングの方向と平行の屈折率をn∥として計測する。Δnは、Δn=n∥-n⊥で算出する。この際、波長589nmの光を使用し、計測温度は、25℃である。
【0175】
<誘電率異方性>
誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥、の式から計算する。誘電率(ε∥およびε⊥)は次のように測定する。
(A)誘電率(ε∥)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布する。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱する。2枚のガラス基板の間隔が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉する。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定する。
(B)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布する。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理する。2枚のガラス基板の間隔が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を注入した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定する。
【0176】
<バルク粘度>
実施例において、組成物のバルク粘度は、「η」と表記する。
バルク粘度は、東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いる。計測温度は、20℃である。
【0177】
<接触角>
基板に対する組成物の接触角は、静滴法で計測する。特記のない限り、接触角の計測に関することは、日本工業規格R3257の静滴法による。ただし、該規格中の「基板ガラス」は、本明細書の「基板」と読み替えるものとする。
【0178】
<表面自由エネルギー>
基板の表面自由エネルギーを、以下の手順を5回繰り返して、求める:
(1)基板に対する水の接触角、および、基板に対するジヨードメタンの接触角を計測し、
(2)水と基板およびジヨードメタンと基板に対して、それぞれγT(1+cosθ)=2(γp・γL d)+2(γd・γL h)に値を代入し、連立方程式を解くことにより、γTを求める。
【0179】
ここで、γTは基板の表面自由エネルギー、θは、基板に対する水およびジヨードメタンの接触角、γpは基板の表面自由エネルギーのうち非極性の分散力成分、γdは基板の表面自由エネルギーのうち極性の水素結合成分であり、γL dは水およびジヨードメタンの表面自由エネルギーのうち非極性の分散力成分、γL hは水およびジヨードメタンの表面自由エネルギーのうち極性の水素結合成分である。水のγL dは21.8mJm-2、水のγL hは51mJm-2、ジヨードメタンのγL dは49.5mJm-2、ジヨードメタンのγL hは1.3mJm-2である。
【0180】
こうして測定された実施例で使用されるITO付きフィルム基板の表面自由エネルギーを表2-1に記載した。
なお、後述するITO付きフィルム基板のフィルム基板となる表2-2のように、フィルムの膜厚を変更し、ITO表面に対する水とジヨードメタンの接触角を測定したところ表2-3のような結果となった。また、表2-1と同様に、γT、γp、γdを求めると表2-4のようになる。このITO付きフィルム基板としては市販の物(登録商標フレクリア、TDK株式会社製、PET基材)を用いている。フィルムの接触角や表面自由エネルギーの値は、製造ロットが異なる場合でも、フィルム製造後はほぼ同じ値であると考えられるが、保管期間や保管状態などの違いにより、異なる値になっていると考えられる。
【0181】
【表2-1】
【0182】
【表2-2】
【0183】
【表2-3】
【0184】
【表2-4】
【0185】
<紫外線露光強度>
紫外線露光強度は、紫外線積算光量計UIT-150-A(ウシオ株式会社製)で計測した。
【0186】
<調光素子作成のための基板>
測定には以下の基板2種類を使用した。
ガラス基板;3cm×3cmにカットしたEagle(登録商標)XGガラス。
ITO付きフィルム基板;上記ガラス基板に、透明両面接着テープ(MCS70、株式会社美館イメージング社製)を使用し、ITO透明導電性フィルム(登録商標フレクリア、TDK株式会社製、PET基材)を、ITO面が空気界面に位置するよう、貼り付けた。
【0187】
<調光素子の作成法と組成物のハジキの評価>
上記2種類の基板、2枚一組の一方の表面に、厚さ11μmのギャップ材(ガラスファイバー、株式会社住田光学ガラス社製)を散布した。ITO付きフィルム基板は、ITO面にギャップ材を散布した。ギャップ材を散布した基板平面上に、組成物約20mgを滴下した。さらにその上から、対角の2辺が少しずれるように、もう一方の基板を乗せた。ITO付きフィルム基板は、ITO面同士が対向し、各ITO面に組成物が接するように、配置した。その後、液晶が広がるように外側から基板を手で押し、クリップで2辺を固定した。この状態で、20分間静置した。その後、上記組成物を挟んだ一組の基板に対して、紫外光を露光し、組成物に含まれる重合性化合物を重合させ調光素子とした。露光は室温で、250Wの超高圧水銀ランプ(ウシオ電機社製、マルチライト-250)を用い、露光量1J/cm2で実施した。このとき光の強度は、17mW/cm2(365nm)であった。
ハジキは、素子の全領域を目視で観察した時、組成物のハジキの程度を評価した。判断は以下のように行った。
【0188】
【表3】
【0189】
<ヘーズ率>
ヘーズ率は、日本電色工業株式会社製のヘーズメーターNDH7000IIで計測した。
【0190】
<化合物>
式(1)または(2)で表される垂直配向剤として、以下を使用した。化合物(1-4-1)は、国際公開第2016/129490号に記載された方法と同様に合成した。
【0191】
【化45】
【0192】
化合物(2-M-1)は、米国特許公報3855364号に従い、合成した。この化合物の構造異性体の比は、NMRにおける積分値から、87:13であった。Z300がOHである成分が主であった。
【0193】
【化46】
【0194】
式(2-M-1)中、Z300およびZ301は、OHまたはアクリロイルオキシを表し、同時に同じ基であることは無い。
1-ドデカノールは、市販の化合物をそのまま使用した。
【0195】
化合物(1-4-1)、化合物(2-M-1)、1-ドデカノールは、垂直配向剤、または垂直配向剤の成分である。
化合物(4-5-1)は特願2018-141672に従って合成した。
【0196】
【化47】
「Irgacure651」は、BASF株式会社製の光重合開始剤である。
【0197】
<液晶組成物>
成分の液晶化合物を、表4の表記に従い表した。特に定めがない限り、表4の六員環の二価基は、トランス配置である。液晶組成物中の記号化された化合物の後にあるかっこ内の番号は化合物が属する化学式を表す。液晶化合物の割合は、添加物を含まない液晶組成物の重量に基づいた重量百分率である。
【0198】
【表4】
【0199】
[液晶組成物(M21)]
2-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 3%
3-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 5%
3-HH2B(2F,3F)-O2 (10-7) 9%
2-HH1OB(2F,3F)-O2 (10-8) 16%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (10-8) 16%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (10-16) 9%
3-HB(2F)B(2F,3F)-O2 (10-20) 7%
5-HB-O2 (11-2) 10%
3-HHB-1 (11-5) 8%
3-HHB-O1 (11-5) 6%
3-HBB-2 (11-6) 6%
NI=142.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.111;Δε=-5.7;η=64.9mPa・s.
[液晶組成物(M22)]
3-HB(2F,3F)-O2 (10-1) 7%
5-HB(2F,3F)-O2 (10-1) 7%
3-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 5%
V-HHB(2F,3F)-O1 (10-6) 2%
V-HHB(2F,3F)-O2 (10-6) 8%
V-HHB(2F,3F)-O4 (10-6) 8%
3-HH2B(2F,3F)-O2 (10-7) 7%
2-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 6%
3-HH-4 (11-1) 10%
3-HB-O2 (11-2) 10%
5-HB-O2 (11-2) 10%
3-HHB-1 (11-5) 3%
3-HHB-3 (11-5) 4%
3-HHB-O1 (11-5) 3%
3-HBB-2 (11-6) 2%
NI=102.0℃;Tc<-40℃;Δn=0.101;Δε=-3.3;η=25.8mPa・s.
[液晶組成物(M23)]
2-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 8%
3-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 13%
5-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 12%
2-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 4%
5-B(F)BB-2 (11-7) 14%
5-B(F)BB-3 (11-7) 14%
3-HBTB-2 (11-17) 8%
3-HBTB-3 (11-17) 8%
3-HBTB-4 (11-17) 8%
NI=100.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.219;Δε=-2.5;η=42.2mPa・s.
[液晶組成物(M24)]
2-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 7%
3-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 13%
5-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 10%
2-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 8%
4-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 4%
5-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 5%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (10-17) 8%
1-BB-3 (11-3) 4%
3-HBB-2 (11-6) 8%
5-B(F)BB-2 (11-7) 13%
5-B(F)BB-3 (11-7) 13%
3-BB(2F,5F)B-3 (11-20) 4%
NI=93.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.203;Δε=-3.3;η=44.5mPa・s.
[液晶組成物(M25)]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (10-3) 5%
3-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 12%
5-BB(2F,3F)-O2 (10-4) 12%
2-HH1OB(2F,3F)-O2 (10-8) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (10-8) 5%
2-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 3%
3-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 9%
4-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 4%
5-HBB(2F,3F)-O2 (10-10) 9%
3-HDhB(2F,3F)-O2 (10-16) 7%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (10-17) 10%
2-HH-3 (11-1) 10%
5-B(F)BB-2 (11-7) 10%
NI=89.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.152;Δε=-5.7;η=41.8mPa・s.
【0200】
<組成物の調製>
[実施例1~7および比較例1および2]
液晶組成物、垂直配向剤または垂直配向剤の成分、重合性化合物を表5に従い、混合し、さらにIrgacure651を添加し、組成物(1)から(7)および組成物(ref.1)および(ref.2)を調製する。表2の重量部は、液晶組成物の全重量を100重量部とした量を示す。
【0201】
【表5】
【0202】
[実施例11~17および比較例3および4]
組成物と、ITO付きフィルム基板に対する接触角を測定し、表6に記載した。
【0203】
【表6】
【0204】
[実施例21~27および比較例5および6]
上記組成物を用い、表7に記載の基板を用いて調光素子を作成した。結果を以下に示す。
【0205】
【表7】
【0206】
上記実施例21~27と比較例5および6との比較より、ガラス基板より表面自由エネルギーの小さいフィルム基板に対して、本発明の組成物は高い濡れ性を発現し、ハジキが少ない。従って本発明の組成物を用いることにより、歩留り良く素子を作成することができる。
【0207】
[実施例31~37および比較例7]
調光素子1から7のヘーズ率を、表8に記載する。ただし、「最大印加電圧」は、その調光素子におけるヘーズ率が最大のときの印加電圧である。印加電圧0Vのときのヘーズ率は、最大印加電圧を印加したした後の計測値である。
【0208】
ヘーズ率と電圧との関係は材料により差があるので、最大のヘーズ率とそれが得られる電圧とを記載した。また実施例26では、素子を一度駆動すると、電圧を0Vに戻してもヘーズ率が低下しなかった。そこで、最初の駆動時の値を示す。
【0209】
【表8】
【0210】
実施例31~37に示したように、本発明の組成物は電圧無印加時のヘーズ率が低く、高い透明性を示すことが分かる。また、本発明の組成物を用いた調光素子は、電圧印加時に高いヘーズ率を発現し、リバースモードの調光素子に適した優れた特性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の組成物を用いることで、基板上に配向膜を形成することなく、リバースモードの調光素子が得られる。また本発明の組成物は、フィルム基板に対し高い濡れ性を有するため、これを用いることにより、フィルム基板から成る素子を、歩留りよく製造することができる。さらに、作成した液晶調光素子は、電圧無印加時の高い透明性や電圧印加時の大きなヘーズ率特性を有する。このため、調光窓、スマートウィンドウなどの用途向け材料として、実用的に用いることができる。