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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】多糖類担体金属触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/06 20060101AFI20231219BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 221/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 225/22 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 51/09 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 63/06 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 29/10 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 209/42 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 217/86 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 211/47 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 209/36 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 209/26 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 57/30 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 41/26 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 29/145 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 33/20 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 5/08 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 15/18 20060101ALI20231219BHJP
   C07D 301/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07D 303/16 20060101ALI20231219BHJP
   C07D 303/04 20060101ALI20231219BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
B01J31/06 Z
B01J35/02 H
C07C221/00
C07C225/22
C07C51/09
C07C63/06
C07C29/10
C07C33/22
C07C209/42
C07C217/86
C07C211/47
C07C209/36
C07C209/26
C07C211/27
C07C57/30
C07C41/26
C07C43/23 B
C07C29/145
C07C33/20
C07C5/08
C07C15/18
C07D301/00
C07D303/16
C07D303/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019203384
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021074673
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古里 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐治木 弘尚
(72)【発明者】
【氏名】澤間 善成
(72)【発明者】
【氏名】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】朴 貴煥
(72)【発明者】
【氏名】立川 拓夢
(72)【発明者】
【氏名】寺西 航
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-141838(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095574(WO,A1)
【文献】特開平04-091142(JP,A)
【文献】Zheng-Tian XIE et al.,“Monolithic cellulose supported metal nanoparticles as green flow reactor with high catalytic efficiency”,Carbohydrate Polymers,2019年06月,Vol. 214,p.195-203,DOI: 10.1016/j.carbpol.2019.03.036
【文献】Erlantz LIZUNDIA et al.,“Electroless plating of platinum nanoparticles onto mesoporous cellulose films for catalytically active free-standing materials”,Cellulose,2019年05月06日,Vol. 26, No. 9,p.5513-5527,DOI: 10.1007/s10570-019-02463-4
【文献】Md. Tariqul ISLAM et al.,“Rapid synthesis of ultrasmall platinum nanoparticles supported on macroporous cellulose fibers for catalysis”,Nanoscale Advances,2019年,Vol. 1, No. 8,p.2953-2964,DOI: 10.1039/c9na00124g
【文献】Yingzhan LI et al.,“Cellulose Sponge Supported Palladium Nanoparticles as Recyclable Cross-Coupling Catalysts”,ACS Applied Materials &amp; Interfaces,2017年05月15日,Vol. 9, No. 20,p.17155-17162,DOI: 10.1021/acsami.7b03600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 31/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C07D 301/00 - 303/48
C08B 1/00 - 37/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子を多糖類に担持させた金属担持多糖類触媒であって、
前記多糖類がセルロースの多孔質構造体であり、前記多孔質構造体が多孔質粒子であり、前記金属ナノ粒子がパラジウムであり、
前記触媒がアルキニル基、アルケニル基、ニトロ基、アジド基、アルデヒド基、アリールアルキルカルボニル基、アミノ基の保護基としてのカルボベンゾキシ基、カルボン酸の保護基としてのベンジル基、脂肪族アルコールの保護基としてのベンジル基、から選ばれる少なくとも1つの基の選択的還元反応用触媒である、前記金属担持多糖類触媒。
【請求項2】
前記多孔質構造体が、モノリス構造を有する、請求項1に記載の金属担持多糖類触媒。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径が、1~100nmである、請求項1又は2に記載の金属担持多糖類触媒。
【請求項4】
反応器内で選択的還元反応に用いることを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の金属担持多糖類触媒。
【請求項5】
前記反応器が、連続式流通反応器である、請求項に記載の金属担持多糖類触媒。
【請求項6】
請求項又はに記載される金属担持多糖類触媒の存在下において、反応器内で選択的還元反応を行うことを特徴とする、接触水素化還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類担体金属触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成において、反応条件の緩和を目的に種々の触媒が用いられている。よく知られている触媒として、活性炭などの炭素に担持させたパラジウム金属触媒があるが、該パラジウム担持活性炭触媒は接触水素化還元反応において高い還元能を有するため、官能基選択的な接触水素化還元反応は困難であった(非特許文献1)。
一方で官能基選択的な接触水素化還元反応を行う触媒として、合成高分子化合物やセラミックなどを担体とした触媒開発事例がある。合成高分子化合物としては、ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンコポリマー、またはポリアクリル酸エステルなどのイオン交換樹脂が挙げられる。また、セラミックとしては、窒化ホウ素、または酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウムの混合物などが挙げられる(特許文献1~4)。
【0003】
また、近年グリーンケミストリーの観点から、環境に配慮した優しい触媒の開発が求められており、生分解性があり、地球に豊富にあるセルロースを担体とした金属触媒の開発が行われてきた(非特許文献2、特許文献5)。しかし、非特許文献2のα-セルロース、および特許文献5のセルロースナノファイバーを担体とした金属触媒の場合、担体が不定形あるいは繊維状となっており、また担体の大きさが不揃いであることから、金属触媒の回収時に触媒が破砕するなどで触媒の回収率が落ち、触媒の再利用効率が十分であると言えなかった。また、金属触媒をカラム等に充填して、水素、および原料溶液などを通液することにより接触水素化還元反応を行う固定床型の反応を行う際にも、担体が上記形状であることに起因して圧力損失が大きくなり、十分な通液処理ができない欠点があった。さらに、多孔質でないセルロースを担体として用いているため、目的の触媒反応を触媒の表面でしか行わせることが出来ず、必ずしも触媒反応効率が高いものではなかった。
【0004】
これまでに、多孔質セルロース媒体を製造する方法については公知であったが(特許文献6)、その製造した媒体を各種クロマトグラフィーに使用できることのみが公知であり、触媒反応をはじめとする他の用途に関しては不明であった。
【0005】
つまり、グリーンケミストリーの観点から環境に優しいセルロース等の多糖類を触媒担体として用いつつ、高効率かつ選択的に化学反応を促進することができる触媒として用いることが出来る金属触媒の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2006/028146号公報
【文献】特開2015-180494号公報
【文献】特開2012-143742号公報
【文献】特開2014-30821号公報
【文献】国際公開第2010/095574号公報
【文献】国際公開第2017/195884号公報
【文献】特公昭63-012099号公報
【文献】特公平01-041654号公報
【文献】特開2014-224223号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Organic Square Vol.12, 2004
【文献】Catalysis Communications, 2018, 103, 47-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グリーンケミストリーの観点から環境に優しいセルロース等の多糖類を触媒担体として用いつつ、高効率かつ選択的に化学反応を促進することができる触媒として用いることが出来る金属触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、金属ナノ粒子を多糖類に担持させると、高効率かつ官能基選択的な水素添加反応やC-Cカップリング反応といった化学反応を促進することができる金属担持多糖類触媒となることを見出した。
【0010】
上記のような知見に基づき、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]金属ナノ粒子を多糖類に担持させた金属担持多糖類触媒であって、前記多糖類が多孔質構造体である、前記金属担持多糖類触媒。
[2]前記多糖類が、セルロースである、[1]に記載の金属担持多糖類触媒。
[3]前記多孔質構造体が、多孔質粒子である、[1]又は[2]に記載の金属担持多糖類触媒。
[4]前記多孔質構造体が、モノリス構造を有する、[1]~[3]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[5]前記金属ナノ粒子が、周期表の8~11族に属する元素から選択される少なくとも1つの元素の金属ナノ粒子である、[1]~[4]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[6]前記金属ナノ粒子が、パラジウムである、[1]~[5]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[7]前記金属ナノ粒子の数平均粒子径が、1~100nmである、[1]~[6]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[8]アルキニル基、アルケニル基、ニトロ基、アジド基、アルデヒド基、アリールアルキルカルボニル基、アミノ基の保護基としてのカルボベンゾキシ基、カルボン酸の保護基としてのベンジル基、脂肪族アルコールの保護基としてのベンジル基、から選ばれる少なくとも1つの基の選択的還元反応用触媒である、[1]~[7]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[9]反応器内で選択的還元反応に用いることを特徴とする、[1]~[8]の何れかに記載の金属担持多糖類触媒。
[10]前記反応器が、連続式流通反応器である、[9]に記載の金属担持多糖類触媒。[11][9]又は[10]に記載される金属担持多糖類触媒の存在下において、反応器内で選択的還元反応を行うことを特徴とする、接触水素化還元方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、グリーンケミストリーの観点から環境に優しいセルロース等の多糖類を触媒担体として用いつつ、高効率かつ基質選択的に水素添加反応やC-Cカップリング反応といった化学反応を促進することができる触媒として用いることが出来る金属触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】セルロース粒子表面のSEM写真を示す。スケール30.0μm。セルロース粒子の長軸方向における数平均長さaは約50μmであった。
図2】セルロース粒子表面のSEM写真を示す。スケール2.0μm。セルロース粒子上に数平均孔径1μm未満の孔bが観測された。
図3】モノリス構造を有するセルロース多孔質構造体表面のSEM写真を示す。1000μm×1000μmに切り取った構造体を観察した。スケール20.0μm。構造体は、孔径1~5μmの孔を有し、網目状骨格を有することが確認できた。
図4】モノリス構造を有するセルロース多孔質構造体表面のSEM写真を示す。1000μm×1000μmに切り取った構造体を観察した。スケール5.0μm。構造体は、網目状骨格を有することが確認できた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、金属ナノ粒子を多糖類に担持させた金属担持多糖類触媒であって、前記多糖類が多孔質構造体である、前記金属担持多糖類触媒を提供する。
【0015】
多糖類は、天然にも存在している多糖類である限り特に限定されないが、例えば、セルロース、アガロース、キチン、グルコマンナン等が挙げられる。好ましくは、セルロースである。セルロース等の多糖類を使用することによって、本発明の触媒は生分解性を有することとなり、グリーンケミストリーの観点から有利である。
セルロースは、触媒がその触媒活性を有する限り限定されないが、例えば、結晶セルロースでもよく、またセルロース誘導体である酢酸セルロース又は表面修飾セルロースであってもよい。表面修飾の具体例としては、例えばアミノ基置換、エポキシ基置換、疎水化、硫酸化、デキストラン化、エステル化が挙げられる。
多糖類の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1000~20万、より好ましくは5000~10万の重量平均分子量である。重量平均分子量は、当業者に既知の方法によって測定することができ、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALLS)を用いて測定することが出来る。
【0016】
多糖類多孔質構造体は、市販のものを用いてもよく、又は当業者に公知の方法により製造したものであってもよい。
多糖類多孔質構造体の形状は、例えば、真球状、略球状、ブロック状等が挙げられる。本明細書中、特に多糖類多孔質構造体の形状が、真球状又は略球状である時に粒子と呼ぶ。
多糖類多孔質構造体の粒子の長軸方向における数平均長さは、特に限定されないが、例えば、1~4000μmであり、好ましくは10~1500μmであり、さらに好ましくは20~500μmである(図1)。数平均長さは、当業者に既知の方法によって測定することができ、例えば、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて、構造体の粒度分布を測定し、その粒度分布から求めることが出来る。
多糖類多孔質構造体の粒子の比表面積は、特に限定されないが、例えば、0.1~150m/g、1~15m/g、または1~1.5m/gである。
多糖類多孔質構造体は、任意の大きさの孔を有していてよく、数平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01~20.0μmであり、好ましくは0.01~1μmであり、また任意の数の孔を有していてもよい(図2)。
市販の多糖類多孔質構造体としては、セルロースゲル(GH-25/JNC社製)、イオンクロマトグラフィー用セルロース粒子(A-500/JNC社製)、セルロース粒子(ビスコパールA/レンゴー社製)などが挙げられる。
【0017】
多糖類多孔質構造体は多孔質のモノリス構造を有していてもよい。モノリス構造とは、特殊な内部構造のことである。具体的には、網目状骨格と、骨格の隙間をめぐるマイクロスケールの貫通孔とを有する、スポンジ状の多孔質構造を表す(図3及び4)。このようなモノリス構造を有する構造体は貫通孔を有することで、通液性及び通気性が優れる。
モノリス構造の貫通孔の数平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01~20.0μmであり、好ましくは1~5μmである。数平均孔径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像より求めることが出来る。モノリス構造を有する多糖類多孔質構造体の比表面積は、特に限定されないが、例えば、0.1~150m/g、1~15m/g、または1.5~5m/gである。
また、モノリス構造の網目状骨格表面にさらにナノスケールの孔を有してもよい。構造体がモノリス構造とナノスケールの孔の両方を有することによって、比表面積が大きくなり触媒反応効率の点で有利である。
【0018】
本発明において、多孔質構造体とは、構造体表面又は構造体内部に独立して存在するナノ~マイクロスケールの孔を有する構造体、および/またはモノリス構造特有のマイクロスケールの貫通孔を有する構造体などを示すが、多孔質である限り特に限定はされない。多孔質であるため比表面積が大きくなり、触媒反応効率が向上する。
【0019】
多糖類多孔質構造体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば特許文献7、8、特願2019-139926又は特願2019-139922に記載される当業者に既知の方法を用いる事が出来る。各試薬の種類、各試薬の濃度、反応時間、反応温度などの条件は、高濃度、高純度の多糖類多孔質構造体が得られるように、適宜最適な条件に変更してもよいが、例えば、以下のような製造方法により作成することが出来る。
【0020】
多糖類多孔質構造体は、多糖類を有機溶剤に溶解させて多糖類溶液を調製する第一工程と、多糖類溶液を乳化させる第二工程と、乳化させた多糖類溶液から多糖類多孔質構造体を析出させる第三工程とを含む方法によって、製造することができる。なお、以下の製造方法例1、製造方法例2で示される多糖類多孔質構造体は、乳化工程を経て製造されるものであり、必然的に真球状又は略球状の粒子となる。
【0021】
<多糖類多孔質構造体の製造方法例1>
多糖類多孔質構造体の製造方法における第一工程は、多糖類を、有機溶剤に溶解させて多糖類溶液を調製する工程である。
本製造方法に用いる多糖類は任意に修飾されていてもよく、特に限定されないが、例えば多糖類有機酸エステルである酢酸セルロースを使用することができる。酢酸セルロースは、二酢酸セルロースと三酢酸セルロースの何れを使用してもよく、一般的な酢化度は、それぞれ約50~57%及び約60~62%である。
本製造方法に用いる多糖類の溶媒は、該多糖類を均一に溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば二塩化メタン、三塩化メタン、四塩化炭素、四塩化エタン、三塩化エタン、三塩化エチレン、四塩化エチレン等の1種又は2種以上の混合物のような塩素化炭化水素溶媒又はこれらを主成分として他の有機溶媒たとえばメタノール、エタノール、アセトン、ニトロメタン等の少なくとも一種を添加した混合溶媒を使用することができる。
【0022】
多糖類溶液における多糖類濃度は前記溶媒に対する多糖類溶解度の範囲内であれば良いが、例えば、溶媒100容量%に対して、多糖類が1~15重量%である。
【0023】
多糖類多孔質構造体の製造方法における第二工程は、多糖類溶液を乳化させる工程である。
多糖類溶液の乳化は、特に限定されることはないが、例えば溶液を撹拌することによって行うことができる。溶液の撹拌方法は、例えばバッチ形式の場合は、羽撹拌(例えば85rpmの回転速度)により行うことができる。
【0024】
多糖類多孔質構造体の製造方法における第三工程は、乳化させた多糖類溶液から多糖類
多孔質構造体を析出させる工程である。
特に限定されることはないが、多糖類溶液に酸又はアルカリを添加した後、15~40℃の液温において0.2~30時間撹拌混合後、該溶液を水性媒体中に添加することにより行うことができる。
前記多糖類溶液を水性媒体中に添加して懸濁させ、液滴化し、ついで溶媒を蒸発させることができる。
【0025】
以上のようにして得られる多糖類多孔質構造体は、さらに、例えば水、アルコール又は両者の混合物中に分散して5~40重量%濃度水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温~50℃の温度で撹拌することにより鹸化してもよい。
【0026】
<多糖類多孔質構造体の製造方法例2>
多糖類多孔質構造体の製造方法における第一工程は、多糖類を、有機溶剤に溶解させて多糖類溶液を調製する工程である。
【0027】
本製造方法に用いる多糖類は任意に修飾されていてもよく、特に限定されないが、例えば多糖類有機酸エステルである酢酸セルロースを使用することができる。酢酸セルロースは、二酢酸セルロースと三酢酸セルロースの何れを使用してもよく、一般的な酢化度は、それぞれ約50~57%及び約60~62%である。
本発明において使用しうる多糖類の溶媒は、酢酸、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の有機溶媒、およびこれらの有機溶媒の混合物を使用することもできる。
多糖類溶液における多糖類濃度は前記溶媒に対する多糖類溶解度の範囲内であれば良いが、生成物である多糖類多孔質構造体の所望の大きさ(長軸方向の長さ)および強度に応じて決定される。
例えば、酢酸セルロース溶液100重量%に対して、酢酸セルロースの量が1~30重量%であることが好ましく、2~20重量%であることがより好ましく、4~12重量%であることが特に好ましい。
【0028】
多糖類多孔質構造体の製造方法における第二工程は、多糖類溶液を乳化させる工程である。
【0029】
多糖類溶液の乳化は、多孔質ガラス体などの無機質多孔質膜、あるいは高分子多孔質焼結膜などの有機質多孔質膜に多糖類溶液を透過させることにより行うことができ、これにより均一な液滴の乳化液を得ることができる。特に限定されないが、具体的には、多糖類溶液を多孔質膜に透過させ相対して存在する水性媒体中に分散させる方法(直接膜乳化法)、あらかじめ多糖類溶液と水性媒体の粗乳化液を調製しておき、この粗乳化液を多孔質膜に透過させ相対して存在する水性媒体中に分散させる方法(透過膜乳化法)、さらには前記粗乳化液を多孔質膜に透過させた後、空気などの気相を介して水性媒体中に滴下・分散させる方法(気相押出法)等の各種方法が適用できる。
【0030】
多孔質膜への透過するときの多糖類溶液の温度は、特に限定されない。
【0031】
多孔質膜の膜厚や多孔質膜の気孔率は、特に限定されない。
【0032】
多孔質膜は、無機質多孔質膜、有機質多孔質膜があるが、無機質多孔質膜としては、炭素質多孔質膜、炭化ケイ素多孔質膜、ケイ素多孔質膜、シリカアルミナ系多孔質膜、ゼオライト系多孔質膜、粘土系多孔質膜、多孔質ガラス膜、多孔質セラミックス膜、金属及び金属酸化物系多孔膜が挙げられる。有機質多孔質膜としては、高分子多孔質焼結膜が挙げられる。
【0033】
とくに本発明に適している多孔質ガラス体として、周知のNaO-B-SiOを基礎ガラス組成とし骨格SiO組成となる多孔質ガラス、NaO-B-CeO・3Nbを基礎ガラス組成とし骨格CeO・3Nb組成となる多孔質ガラス、NaO-P-SiOを基礎ガラス組成とし骨格P-SiO組成となる多孔質ガラス、NaO-B-SiO-GeOを基礎ガラス組成とし骨格SiO-GeO組成となる多孔質ガラス、CaO-B-TiO-SiOを基礎ガラス組成とし骨格TiO-SiO組成となる多孔質ガラス、NaO-B-ZrO-SiOを基礎ガラス組成とし骨格ZrO-SiO組成となる多孔質ガラス、CaO-B-Al-SiOを基礎ガラス組成とし骨格Al-SiO組成となる多孔質ガラスがあるが、CaO-B-SiO-Al系の多孔質ガラス、CaO-B-SiO-Al-NaO系の多孔質ガラス及びCaO-B-SiO-Al-NaO-MgO系の多孔質ガラス等を挙げられる。
【0034】
水性媒体は、第一工程で得られた多糖類溶液と混和することなく、多糖類溶液を分散させることができる媒質であれば、特に制限なく使用することができる。
【0035】
また、多糖類溶液の乳化は、第一工程で得られた前記多糖類溶液と水性媒体とを、外筒と該外筒内に同軸状に配置される内筒との間隙に通過させるとともに、前記外筒と前記内筒の少なくとも一方を回転させることによって行ってもよい。
【0036】
内筒外径、クリアランス(内筒と外筒の間隙の距離)及び回転数は、特に限定されない。
また、乳化時間、すなわち間隙に前記多糖類溶液と水性媒体とが通過しながら筒が回転している時間は、特に限定されない。
【0037】
外筒と内筒との間隙への通過するときの多糖類溶液と水性媒体の温度は、特に限定されない。
【0038】
水性媒体は、多糖類溶液と混和することなく、多糖類溶液を分散させることができる媒質であれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、水、酢酸エチルを含む水溶液、又はシクロヘキサノンを含む水溶液などが挙げられる。
【0039】
多糖類多孔質構造体の製造方法における第三工程は、乳化させた多糖類溶液から多糖類多孔質構造体を析出させる工程である。
【0040】
析出させる手段は、例えば、前記乳化させた多糖類溶液を冷却すること、及び/又は前記乳化液に貧溶媒を添加することにより行うことができる。冷却温度、冷却時間は、特に限定されない。
【0041】
貧溶媒としては、多糖類(例えば、酢酸セルロース)に対する溶解性が低く、添加することにより多糖類多孔質構造体が析出する溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、水、アルコール類、グリコール類、エステル類およびこれらの混合液を使用することができる。
【0042】
以上のようにして得られる多糖類多孔質構造体は、任意で、例えば水、アルコール又は両者の混合物中に分散して5~40重量%濃度水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温~50℃の温度で撹拌することにより鹸化してもよい。
【0043】
多糖類構造体がモノリス構造を有する構造体(以下、多糖類モノリス構造体ともいう)である場合の製造方法は、特に限定されないが、例えば特許文献9に記載される当業者に既知の方法に基づき作成することが出来る。各試薬の種類、各試薬の濃度、反応時間、反応温度などの条件は、高濃度、高純度のモノリスが得られるように適宜最適な条件に変更してもよいが、例えば、以下の製造方法により作成することが出来る。
【0044】
<多糖類モノリス構造体の製造方法例>
多糖類モノリス構造体は、多糖類を、前記多糖類が可溶な溶媒と前記多糖類が不溶な溶媒との混合溶媒に、前記混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る第一工程と、前記多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る第二工程とを含む方法によって、製造することができる。
【0045】
多糖類モノリス構造体の製造方法における第一工程は、多糖類を、前記多糖類が可溶な溶媒(以下、良溶媒とする)と前記多糖類が不溶な溶媒(以下、貧溶媒とする)との混合溶媒に、前記混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る工程である。
ここで、良溶媒とは、溶質が溶媒に溶解し、固形物を含まない透明な溶液が得られるものをいう。ここでは、室温で1重量%以上、さらには10重量%以上の濃度の溶液が得られる溶媒のことをいう。また貧溶媒とは室温で単独で多糖類を0.0001重量%以上溶解できないものをいう。
多糖類がエステル化多糖類である場合、良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、γ‐ブチロラクトン等、エステル、環状エステル類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素化合物、メチルグリコール、メチルグリコールアセテート等のグリコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、その他ジメチルスルホキシド等又はこれらの組み合わせが挙げられる。
多糖類がエステル化多糖類である場合、貧溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、水等又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
良溶媒と貧溶媒との混合割合は、特に限定されない。
【0047】
混合溶媒中の多糖類の割合は、特に限定されない。
【0048】
本製造方法における第二工程は、第一工程で得た多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る工程である。
第二工程においては多糖類溶液を、冷却前の温度(第一工程の溶解時の温度)から、5~200℃低い温度まで冷却する。
【0049】
上記製造方法に基づくと、任意の形状にモールド成型された多糖類モノリス構造体が得られるので、ナイフ等で所定の長さに切断して用いる事が出来る。
【0050】
金属ナノ粒子は、触媒がその触媒活性を有する限り限定されないが、好ましくは周期表の8~11族に属する元素から選択される少なくとも1つの元素の金属ナノ粒子であり、より好ましくは、パラジウム、白金、ルテニウム、金であり、さらに好ましくはパラジウムである。
本発明の触媒中において、金属ナノ粒子は、1種のみの金属元素を含むものであってもよく、複数の金属元素を含むものであってもよい。金属ナノ粒子の数平均粒子径は、特に限定されることはないが、好ましくは1~100nmである。
【0051】
金属ナノ粒子を多糖類へ担持させる方法は、特に限定されることはないが、例えば特許文献1~3に記載される当業者に既知の方法である金属ナノ粒子を担体に担持させる方法
を応用することが出来る。各試薬の種類、各試薬の濃度、反応時間、反応温度などの条件は、金属ナノ粒子の担持量を目的とする触媒の種類ごとに最適化するために、適宜変更して用いてもよい。
【0052】
金属ナノ粒子の担持量は、触媒がその触媒活性を有する限り限定されないが、担体であるセルロースの重量に対して、例えば1~10重量%濃度であってもよく、3~5重量%濃度であってもよい。少なくともこれらの範囲内において、金属ナノ粒子の担持量が増加するほど、触媒活性が増加するものである。
【0053】
本発明の触媒を調製するために用いることが出来る溶媒は、多糖類が金属ナノ粒子を担持することが出来る限り特に限定されることはないが、例えば、メタノール、酢酸エチル、又はアセトニトリルなどを用いる事が出来る。
【0054】
本発明の触媒は、多糖類に担持させる金属ナノ粒子によって触媒作用が異なるが、例えば、接触水素化還元反応、C-Cカップリング反応、又は酸化反応における触媒である。
多糖類に担持される金属ナノ粒子は、接触水素化還元反応の場合、パラジウム、白金又はルテニウムが好ましく、C-Cカップリング反応の場合、パラジウムが好ましく、酸化反応の場合、金が好ましい。本発明の触媒は、好ましくは接触水素化還元反応に使用するものである。
【0055】
本発明の触媒は、接触水素化還元反応において、アルキニル基、アルケニル基、ニトロ基、アジド基、アルデヒド基、アリールアルキルカルボニル基、アミノ基の保護基としてのカルボベンゾキシ基、カルボン酸の保護基としてのベンジル基、脂肪族アルコールの保護基としてのベンジル基、から選ばれる少なくとも一つの基の選択的還元反応用触媒である。
【0056】
本発明の触媒は、反応器内で選択的還元反応に用いることができる。反応器は、特に限定されないが、連続式流通反応器でもよくバッチ式反応器でもよい。好ましくは、連続式流通反応器である。
【0057】
本発明の他の態様は、上記金属担持多糖類触媒の存在下において、反応器内で選択的還元反応を行うことを特徴とする、接触水素化還元方法を提供する。
【0058】
反応器は、特に限定されないが、連続式流通反応器でもよくバッチ式反応器でもよい。好ましくは、連続式流通反応器である。
【0059】
本発明の方法は、不均一系触媒を用いるものであるが、その触媒反応は固定床反応器、流動床反応器又は懸濁床反応器のいずれを用いて行ってもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[触媒調製例1]
(担体の準備)
国際公開第2016/063702号公報に記載の方法に基づき、セルロースモノリスを得た。具体的には、酢酸セルロース38g(L-20、ダイセル製)を1-プロパノール70mL、乳酸エチル135mLに95℃で溶解させ、溶解後、75℃に冷却した。別途、1-プロパノール80mL、水15mL、PEG4000(重量平均分子量2600~3800)12gを60℃で溶解・調製し、先に調製した酢酸セルロース溶液を加え、
再度95℃に加熱する。酢酸セルロースが完全に溶解した後、75℃に冷却し、予め75℃に加温した型枠(ポリアセタール製、φ100mm×高さ200mm)に調製した溶液を流し込んだ。型枠内の溶液を20℃まで-5℃/時間の冷却速度で冷却した。十分に酢酸セルロースが固まったことを確認した後、水で洗浄した。
さらに、得られた酢酸セルロース酢酸セルロースモノリスを3M NaOH水溶液200mLに入れ、5時間振盪させて鹸化反応させた。その後、pHが中性になるまで水洗し、0.01N HClに5時間浸漬した後、再度中性になるまで水洗した。
その後、減圧乾燥し、乾燥後のセルロースモノリスをナイフで切断し、長軸方向の長さが1000~3000μm程度のセルロース粒子とした。
【0062】
(触媒の調製-金属の担持)
50mLフラスコにおいて、酢酸パラジウム22.2mgをアセトニトリル2mLに溶解させ、前記セルロース粒子200mgを添加した後、アルゴン雰囲気下室温で三日間撹拌した。得られた反応液を吸引ろ過し、そのろ物に対して20mLのメタノールでの洗浄を3回、20mLの蒸留水での洗浄を3回行った後、24時間の減圧乾燥を行うことで、セルロース粒子に平均粒子径10nmのパラジウムを担持させた。
【0063】
(触媒の調製-金属の還元)
50mLフラスコに、乾燥させたパラジウム担持担体を入れ、蒸留水10mLとヒドラジン水和物3重量部を添加した後、アルゴン雰囲気下室温で24時間撹拌した。得られた反応液を吸引ろ過し、そのろ物を20mLの酢酸エチルでの洗浄を3回、20mLの蒸留水での洗浄を3回行った後、24時間の減圧乾燥を行った結果、5重量%パラジウム担持セルロース粒子触媒(触媒A)を得た。
【0064】
(金属担持量の確認)
ろ液をメタノールで100mLにメスアップして、原子吸光光度計により原子吸光分析を行い、パラジウム担持量を算出した。その結果、5重量%前後のパラジウムが吸着担持されていることを確認した。
【0065】
[実施例1]
(接触還元における官能基選択性の例)
基質であるp-ニトロアセトフェノン0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を50℃に設定し、24時間撹拌して反応させた。
その後、得られた反応液にメタノール5mLを添加し、メンブレンフィルター(ミリポア社製、Millex-LH、孔径0.45μm)を用いてろ過することにより、触媒Aを除去した反応ろ液を得た。また、反応に使用した触媒Aを別途メタノール5mLで洗浄し、洗浄液を回収した。該洗浄液を先に得た反応ろ液と合一させ、メタノールを減圧留去した。得られた反応残渣を重クロロホルムに溶解させ、H NMRをJNM-ECA400(JEOL社製)で測定することで、反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。なお、以下の表中では、反応後産物として、例えば基質1と生成物2、生成物3、生成物4が想定される場合は、それぞれの番号を用いて基質と生成物の比率(1:2:3:4)という形式で比率を表記した。
【0066】
[比較例1]
触媒Aの代わりに5重量%パラジウム担持活性炭触媒(エヌ・イーケムキャット社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてp-ニトロアセトフェノンの接触還元反応を行った。
【0067】
[比較例2]
触媒Aの代わりに5重量%パラジウム担持セラミック触媒(特許文献2)を使用した以外は、実施例1と同様にしてp-ニトロアセトフェノンの接触還元反応を行った。
【0068】
実施例1、比較例1~2の結果を併せて下記表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1の結果から、触媒Aは、同一分子内にニトロ基、アルキルカルボニル基、フェニル基を有する原料基質中のニトロ基のみを選択的に還元することがわかった。
さらに触媒Aは、基質であるp-ニトロアセトフェノンを選択的に還元し、その反応生成物は99%が表1中の生成物2であり、他の反応生成物としては微量の生成物3しか含まないことがわかった。一方で、担体として活性炭を使用する比較例1の触媒は、反応生成物として表1中の生成物3を32%及び表1中の生成物4を68%生成し、また担体としてセラミックを使用する比較例2の触媒は、反応生成物として表1中の生成物2を91%及び表1中の生成物3を9%生成することがわかった。
すなわち、触媒Aを用いる事で、高い生成比率で表1中の生成物2を得ることが出来ることがわかり、触媒Aは高い官能基選択性でニトロ基をアミノ基に還元させることがわかった。
【0071】
[実施例2~3]
(触媒A使用時における、反応条件による接触還元能の制御例)
安息香酸ベンジル0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及び反応溶媒(酢酸エチル又はエタノール)1mLを試験管に投入し、該溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を所定温度に設定し、24時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を前記反応溶媒と同じものを用いて行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0072】
実施例2~3の結果を併せて下記表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
実施例2~3の結果から、触媒Aは、安息香酸ベンジルの接触還元において、反応溶媒、反応温度を適宜選択することにより、接触還元の反応性を制御可能な触媒であることがわかった。
【0075】
[実施例4~6]
(触媒Aによるエポキシ基を有する基質の接触還元例)
所定の基質0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、所定の時間撹拌させて反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0076】
実施例4~6の結果を併せて下記表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例4の結果から、フェニル基と連結したエポキシ基を有するスチレンオキシドに関しては、触媒Aはエポキシ基を選択的に接触還元することがわかった。
一方で、実施例5~6の結果から、アルキル基と連結したエポキシ基を有する基質に関しては、触媒Aはエポキシ基を接触還元し難く、同一分子内にあるアルケニル基を選択的に還元することがわかった。
【0079】
[実施例7~9]
(触媒Aによるアジド基、ニトロ基を有する基質の接触還元例)
所定の基質0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を所定の温度に設定し、所定の時間撹拌させて反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0080】
実施例7~9の結果を併せて下記表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
実施例7の結果より、触媒Aはベンジルエーテルを保持したまま、アジド基を選択的に還元可能な触媒であることがわかった。
実施例8~9の結果より、触媒Aはアジド基、ニトロ基を反応温度25℃という穏和な条件であっても接触還元できることがわかった。
【0083】
[実施例10~12]
(触媒Aによるアミノ基の保護基としてのカルボベンゾキシ基、アルケニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基を有する基質の接触還元例)
所定の基質0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を所定の温度に設定し、所定の時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0084】
実施例10~12の結果を併せて下記表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
実施例10~11の結果より、触媒Aはアミノ基の保護基としてのカルボベンゾキシ基を選択的に還元することがわかった。
実施例12の結果より、触媒Aはアリールアルキルオキシカルボニル基を選択的に還元することがわかった。
また実施例11~12の結果より、触媒Aはアルケニル基も選択的に還元することがわかった。
【0087】
[実施例13~14]
(触媒Aによる芳香族アルデヒド基、アルキルカルボニル基を有する基質の接触還元例)
所定の基質0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を所定の温度に設定し、所定の時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0088】
実施例13~14の結果を併せて下記表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
実施例13の結果より、触媒Aは芳香族アルデヒド基を選択的に還元することがわかった。
実施例14の結果より、触媒Aはアルキルカルボニル基を選択的に還元することがわかった。
また実施例13~14の結果より、触媒Aは接触還元で生成する水酸基に関しては反応し難く、水酸基を保持することがわかった。
【0091】
[触媒調製例2]
(担体の準備)
セルロースゲル(GH-25/JNC社製)を吸引ろ過し、10重量部のメタノールでの洗浄を5回行った後、24時間の減圧乾燥を行い、得られた乾燥ゲルをセルロース粒子とした。このセルロース粒子は長軸方向における数平均長さは30μmであった。
その後触媒調製例1と同様の操作を行い、5重量%パラジウム担持セルロース粒子触媒(触媒B)を得た。
【0092】
[触媒調製例3]
(担体の準備)
イオンクロマトグラフィー用セルロース粒子(A-500/JNC社製)を吸引ろ過し、10重量部のメタノールでの洗浄を5回行った後、24時間の減圧乾燥を行い、得られた乾燥ゲルをセルロース粒子とした。このセルロース粒子は長軸方向における数平均長さは85μmであった。
その後触媒調製例1と同様の操作を行い、5重量%パラジウム担持セルロース粒子触媒
(触媒C)を得た。
【0093】
[実施例15]
(アルキニレン基を有する基質の接触還元例、触媒の溶出測定)
ジフェニルアセチレン0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、6時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0094】
[実施例16]
ジフェニルアセチレン0.25mmol、触媒B5.32mg(触媒B中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、6時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0095】
[実施例17]
ジフェニルアセチレン0.25mmol、触媒C5.32mg(触媒C中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、6時間撹拌して反応させた。
その後、実施例1と同様の後処理を行い、H NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
【0096】
実施例15~17の結果を併せて下記表7に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
実施例15~17の結果より、触媒A、B、Cはアルキニレン基を選択的に還元することがわかった。
また、当業者に公知の方法に従い、接触還元後に反応液への溶出したパラジウム量を、原子吸光分光光度計(島津製作所社製)を用いて測定した結果、触媒A、B、Cともに検出限界以下(<1ppm)であった。実施例15~17の結果から、本発明の触媒中のパラジウムは、本発明の選択的還元方法において反応溶媒中に溶出しないことがわかった。
【0099】
[実施例18]
(触媒の再利用の検討)
特許文献2に記載される方法に準じて検討した。ジフェニルアセチレン0.25mmol、触媒A5.32mg(触媒A中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管10本に各々投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、6時間撹拌させて反応させた。
その後、得られた反応液を桐山ロート(ろ紙孔径1μm)でろ過することにより、触媒Aをろ物として回収し、メタノール10mLで洗浄した。なお、反応ろ液と触媒を洗浄した洗浄液は合一して濃縮し、実施例1と同様にH NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
次いで、回収した触媒Aを用いて、試験管3本で同様にジフェニルアセチレンの接触還元を行った(反応2回目)。また、反応後も同様の触媒の回収、洗浄操作を行った。
次いで、回収した触媒Aを用いて、試験管1本で同様にジフェニルアセチレンの接触還元を行った(反応3回目)。また、反応後も同様の触媒の回収、洗浄操作を行った。
【0100】
[実施例19]
ジフェニルアセチレン0.25mmol、触媒B5.32mg(触媒B中のパラジウム含量が基質の1/100mol量)及びメタノール1mLを試験管に投入し、該メタノール溶液を撹拌により懸濁させた。その後、水素ガスバルーンを装着し、水素ガス雰囲気下に置換した後、反応温度を25℃に設定し、6時間撹拌して反応させた。
その後、得られた反応液を桐山ロート(ろ紙孔径1μm)でろ過することにより、触媒Bをろ物として回収し、メタノール10mLで洗浄した。なお、反応ろ液と触媒を洗浄した洗浄液は合一して濃縮し、実施例1と同様にH NMR測定にて反応せずに残った原料基質と生成物の比率を算出した。
次いで、回収した触媒Bを用いて、試験管3本で同様にジフェニルアセチレンの接触還元を行った(反応2回目)。また、反応後も同様の触媒の回収、洗浄操作を行った。
次いで、回収した触媒Bを用いて、試験管1本で同様にジフェニルアセチレンの接触還元を行った(反応3回目)。また、反応後も同様の触媒の回収、洗浄操作を行った。
【0101】
実施例18~19の結果を併せて下記表8に示す。
【0102】
【表8】

【0103】
実施例18~19の結果より、本発明の触媒A、Bは本発明の選択的還元方法を行っても、触媒活性が低下することはなく、少なくとも3回は本発明の選択的還元方法に再利用可能であることがわかった。
図1
図2
図3
図4