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特許7404830水性顔料分散体及び水性顔料分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】水性顔料分散体及び水性顔料分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/10 20060101AFI20231219BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019217968
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088618
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 玲
(72)【発明者】
【氏名】早川 耕平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義浩
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168486(WO,A1)
【文献】特開2019-156898(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015961(WO,A1)
【文献】特開2016-199653(JP,A)
【文献】特開2012-172070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C1/00-3/12
C09D11/00-17/00
C09B1/00-69/10
B41M5/00;5/50-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルベントソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)と、酸価80~160mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とする水性顔料分散体であって、前記顔料分散樹脂(B)が、スチレン由来の構造単位を有するラジカル重合体であって、前記ラジカル重合体の全量に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合が50質量%以上である水性顔料分散体
【請求項2】
前記オレンジ顔料(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記オレンジ顔料(A)]が0.1~0.7の範囲であり、かつ、前記キナクリドン系顔料誘導体と前記顔料(A)との質量比[前記キナクリドン系顔料誘導体/前記オレンジ顔料(A)]が0.01~0.1の範囲である請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
さらに水溶性有機溶剤を含有するものであって、前記オレンジ顔料(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記オレンジ顔料(A)]が0.3~2.0の範囲である請求項1または2に記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
一次粒子径が150nmを超えるオレンジ顔料(a)と、キナクリドン系顔料誘導体との混合物をソルベントソルトミリング処理することによって一次粒子径が70nm以下のオレンジ顔料(A)とキナクリドン系顔料誘導体とを含有する組成物を製造する工程[1]、前記工程[1]で得た組成物と、酸価80~160mgKOH/gであり、スチレン由来の構造単位の質量割合が50質量%以上であるラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)とを含有する混練物を製造する工程[2]、及び、前記工程[2]で得た前記混練物と水(C)とを混合する工程[3]を有することを特徴とする水性顔料分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルベントソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料を含有する水性顔料分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を含有するインクは、例えばオフセット印刷法やグラビア印刷法やフレキソ印刷法やシルクスクリーン印刷法やインクジェット印刷法等による印刷場面で広く使用されている。
【0003】
なかでも、溶媒として水を用いた水性顔料インクは、従来の有機溶剤系インクと比較して、発火等の危険性が低いため、様々な用途での使用が検討されている。
【0004】
前記水性顔料インクの製造に使用される水性顔料分散体としては、顔料と顔料分散樹脂と水性媒体とを含有するものが知られており、前記水性顔料分散体には、前記顔料が顔料分散樹脂によって水性媒体中に安定して分散されていることが求められる。
【0005】
しかし、前記水性顔料分散体に含まれる顔料の分散性は、顔料の種類や配合等によって異なるため、水性顔料分散体の分散性を向上させるためには、顔料の種類やインクの配合等に応じた対策を講じる必要がある。
【0006】
一方、インクジェット印刷法で水性顔料インクの印刷を行う場面では、基本色であるイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色のインクのほか、特色と呼ばれるグリーン色、レッド色、ブルー色、オレンジ色等のインクを組み合わせ使用することがある。
【0007】
前記オレンジ色の顔料を用いた水性インクとしては、例えばC.I.ピグメントオレンジ43を含有するインクが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0008】
しかし、前記インクは、体積平均粒子径が大きくかつ粗大粒子が大量に形成される場合があるため、どうしても基本色のインクや顔料分散体に匹敵するレベルの分散性や、経時での顔料粒子の沈降を抑えることができず、インクジェットヘッドのノズル詰りによる吐出不良を引き起こす場合があった。
【0009】
また、分散性や保存安定性は、前記したとおり、顔料の種類と分散樹脂との相互作用に起因する場合が多い。よって、基本色の顔料分散体で使用した顔料分散樹脂を、前記特色用の顔料と組合せ使用した場合であっても、ただちに良好な分散性を発現できるとは限らないため、特色用の顔料分散体の分散性を向上させるためには、当業者の相当の試行錯誤を伴う場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開1999/05230パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、分散粒子径が小さく及び粗大粒子数が少なく、分散物が沈降しにくく、かつ、分散性や保存安定性に優れたインクジェットインクの製造に使用可能な水性顔料分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルベントソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)と、酸価80~160mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とする水性顔料分散体に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性顔料分散体及びそれを含有するインクは、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散粒子径及び粗大粒子数を有し、かつ、顔料が沈降しにくく、分散性や保存安定性に優れたインクジェットインクの製造に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水性顔料分散体は、キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルベントソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)と、酸価80~160mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とする。本発明でいう水性顔料分散体とは、顔料が水等の溶媒に分散した状態のものを指す。前記水性顔料分散体は、水性顔料インクを製造する際に使用する材料、または、水性顔料インクそのものを指す。
【0015】
本発明では、キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルベントソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)を使用する。
【0016】
前記オレンジ顔料(A)としては、一次粒子径が70nm以下のものを使用する。これにより、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散性や、経時的に顔料等の沈降を引き起こさないレベルの保存安定性を実現することができる。また、前記オレンジ顔料の一次粒子径が60nm以下であるものを使用することが好ましく、30~50nmの範囲であるものを使用することが、保存安定性をより一層向上させるうえでより好ましい。
【0017】
前記オレンジ顔料(A)の一次粒子径の測定方法を説明する。
【0018】
前記オレンジ顔料(A)1質量部とエタノール99質量部とを混合したものを、コロジオン膜付きメッシュに滴下し乾燥させたものを測定試料とした。
【0019】
次に、前記測定試料の任意の1000個を、走査透過型電子顕微鏡(STEM、JSM-7500FA、日本電子株式会社製、加速電圧:30kv)を用いて観察し、長径の平均値を一次粒子径とした。
【0020】
一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)は、一次粒子径が150nmを超えるオレンジ顔料(a)を、例えば乾式粉砕や湿式粉砕等を行うことで製造することができる。しかし、乾式粉砕や湿式粉砕は、金属製のビーズを用いるため、不純物として金属が混入する可能性が高い。そこで、乾式粉砕や湿式粉砕よりも金属の混入が低いソルベントソルトミリングを採用するのが好ましい。
【0021】
キナクリドン系顔料誘導体の存在下で行うソルベントソルトミリング処理とは、粗顔料である一次粒子径が150nmを超えるオレンジ顔料(a)と、キナクリドン系顔料誘導体と、必要に応じて無機塩と、有機溶剤とを含む混合物を、ニーダー、トリミックス、2本ロールミル、3本ロールミル、アトライター等の混練機を用いて混練摩砕する方法である。なお、本発明では一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)を粗顔料とする。
【0022】
前記一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)としては、C.I.ピグメントオレンジ43、64及び71を使用することができる。
【0023】
本発明では、単に前記オレンジ顔料(a)をソルベントソルトミリング処理したオレンジ顔料を使用するのではなく、キナクリドン顔料誘導体の存在下で前記オレンジ顔料(a)をソルベントソルトミリング処理したオレンジ顔料(A)を使用することを特徴とする。これにより、前記キナクリドン顔料誘導体の不存在下でソルベントソルトミリング処理したオレンジ顔料を使用した場合と比較して、一次粒子径を小さくすることができる。これを用いることで、分散粒子径が小さく及び粗大粒子数が少なく、分散物が沈降しにくく、かつ、分散性や保存安定性に優れた水性顔料分散体を得ることができる。
【0024】
前記キナクリドン顔料誘導体は、本発明の水性顔料分散体の分散性や保存安定性を向上させるための分散助剤として使用することができる。
【0025】
前記キナクリドン顔料誘導体としては、フタルイミド骨格を含む置換基を有するキナクリドン系化合物であって、その置換基の構成の一部にフタルイミド骨格が含まれるものを使用することができる。
【0026】
前記フタルイミド骨格を含む置換基を有するキナクリドン系化合物としては、1分子当たりの平均フタルイミド骨格数が1~2個であるものを使用することが好ましく、特に、1~1.5個であるものを使用することが、分散性や保存安定性を向上させるうえでより好ましい。
【0027】
前記キナクリドン顔料誘導体としては、例えばフタルイミドメチル化キナクリドン系化合物を示すことができる。具体的には、前記フタルイミドメチル化キナクリドン系化合物としては、フタルイミド化メチル-3,10-ジクロロキナクリドンを使用することが、一次粒子径をより一層小さくすることができるため好ましい。
【0028】
前記キナクリドン顔料誘導体は、前記一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)1質量部に対して0.01~0.1質量部の範囲で使用することが好ましく、0.02~0.07質量部の範囲で使用することが、オレンジ顔料(A)の分散粒子径が小さく及び粗大粒子数が少なく、分散物が沈降しにくく、かつ、分散性や保存安定性に優れたインクジェットインクの製造に使用可能な水性顔料分散体を得るうえでより好ましい。
【0029】
前記ソルベントソルトミリング処理で使用可能な無機塩としては、水溶性無機塩を使用することが好ましく、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を用いることが好ましい。
【0030】
前記無機塩としては、一次粒子径0.5~50μmの無機塩を用いることがより好ましい。前記無機塩の使用量は、前記一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)1質量部に対して3~20質量部とするのが好ましく、5~15質量部とするのがより好ましい。
【0031】
前記ソルベントソルトミリング処理で使用可能な有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得る有機溶剤を使用することが好ましい。
【0032】
前記有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好適に使用でき、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2-(イソペンチルオキシ)エタノール、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール等を用いることができる。
【0033】
前記有機溶剤は、前記一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)1質量部に対して0.01~5質量部使用することが好ましい。
【0034】
前記ソルベントソルトミリング処理で前記一次粒子径150nmを超えるオレンジ顔料(a)を混練摩砕する際の温度は、30~150℃であることが好ましい。混練摩砕する時間は、2時間から20時間であることが好ましい。
【0035】
前記混合物を用いて本発明の水性顔料分散体及びインクを製造する際には、必要に応じて前記無機塩と前記有機溶剤を洗浄濾別した後、乾燥、粉砕したものを使用することができる。
【0036】
前記洗浄濾別は、具体的には水洗、湯洗のいずれも採用できる。また、前記オレンジ顔料(A)の結晶状態を変化させないように、酸やアルカリや溶剤を用いて洗浄してもよい。前記洗浄は、1~5回の範囲で繰り返し行うこともできる。前記無機塩及び有機溶剤として水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を用いた場合であれば、水や温水での洗浄で水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を十分に除去することができる。
【0037】
前記乾燥は、例えば80~120℃で加熱する回分式または連続式の乾燥方法で行うことができる。前記乾燥には、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等の乾燥機を使用することができる。
【0038】
前記粉砕は、例えば箱型乾燥機やバンド乾燥機を用いて乾燥を行った際に、前記オレンジ顔料(A)がランプ状等になったものを解して粉末化するために行ってもよい。前記粉砕工程では、例えば、乳鉢、ジューサー、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等を使用することができる。
【0039】
本発明で使用する顔料分散樹脂(B)としては、酸価80~160mgKOH/gのラジカル重合体を使用する。上記範囲の酸価を有するラジカル重合体を顔料分散樹脂(B)として使用することによって、分散性に優れた水性顔料分散体及びインクジェット記録用インクを得ることができる。
【0040】
前記分散樹脂(B)としては、前記酸価が90~150mgKOH/gのラジカル重合体を使用することが好ましく、酸価が100~130mgKOH/gのラジカル重合体を使用することが、水(C)中におけるオレンジ顔料(A)の分散性をより一層向上させるうえで特に好ましい。
【0041】
なお、前記酸価は、日本工業規格「K0070:1992、化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に記載された中和滴定法で測定された値を指す。
【0042】
前記ラジカル重合体としては、芳香族環式構造または複素環式構造を有するものを使用することができ、ベンゼン環構造を有するものを使用することがより好ましく、スチレン由来の構造を有するものを使用することがさらに好ましい。
【0043】
前記ラジカル重合体の全量に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合は50質量部以上であることが好ましく。前記質量割合が60質量部~95質量部の範囲であることが、分散性効果を奏するうえでより好ましい。
【0044】
前記ラジカル重合体としては、各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
【0045】
前記単量体としては、前記ラジカル重合体に芳香族環式構造を導入する場合であれば芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
【0046】
前記芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等を使用することができる。
【0047】
前記複素環式構造を有する単量体としては、例えば2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体を使用することができる。
【0048】
前記ラジカル重合体として芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有するものを使用する場合、前記単量体として、芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を組合せ使用することができる。
【0049】
前記ラジカル重合体としては、前記したとおりスチレン由来の構造単位を有するラジカル重合体を使用することが好ましいことから、前記単量体としてもスチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレンを使用することがより好ましい。
【0050】
また、前記ラジカル重合体の製造に使用可能な単量体としては、前記したもの以外に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
【0051】
前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組合せ使用することができる。なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
【0052】
前記ラジカル重合体としては、前記単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。それぞれの重合体において、モノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型やブロック型配列の重合体を使用することができる。
【0053】
前記ラジカル重合体としては、その重量平均分子量が2000~20000の範囲内であるものを使用することが好ましく、5000~20000の範囲内にあることがより好ましく、さらに7000~15000範囲内にあると、前記オレンジ顔料(A)の凝集や沈降が発生しにくくなり、水性顔料分散体の保存安定性が向上し、かつ、インクの吐出安定性がより一層向上するため特に好ましい。
【0054】
なお、前記重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0055】
前記ラジカル重合体としては、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用することが、優れた保存安定性を奏するうえで好ましい。
【0056】
前記塩基性化合物としては、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-N-ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンなどのモルホリン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物を使用することができる。なかでも、前記塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物を使用することが、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、インクジェット記録用インクの保存安定性及び吐出安定性をより一層向上させるうえで好ましく、水酸化カリウムを使用することが特に好ましい。
【0057】
前記ラジカル重合体の中和率は、特に限定はないが、ラジカル重合体の凝集を抑制するうえで80~120%となる範囲であることが好ましい。本発明において、中和率とは、以下の式で計算された値を指す。
【0058】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{ラジカル重合体の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ラジカル重合体の質量(g)}]×100
【0059】
前記塩基性化合物は、前記オレンジ顔料(A)等と混合する際に、予め水等の溶媒に溶解または分散等させたものを使用することができる。
【0060】
本発明の水性顔料分散体は、前記オレンジ顔料(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記オレンジ顔料(A)]が0.1~0.7となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.1~0.4の範囲で使用することが好ましい。
【0061】
水(C)としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることができる。また、前記水(C)としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0062】
本発明の水性顔料分散体は、上記した各種成分が水に溶解または分散したものである。
また、本発明の水性顔料分散体は、前記オレンジ顔料(A)と顔料分散樹脂(B)と水(C)の他に、顔料湿潤効果を奏するうえで水溶性有機溶剤を含有するものを使用することが好ましい。
【0063】
前記水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコール等のアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリンや、ポリオキシアルキレンを付加したグリセリン等のグリセリン誘導体等;水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤等を、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0064】
前記水溶性有機溶剤としては、前記したなかでも、高沸点、低揮発性で、高表面張力のグリコール類やジオール類等の多価アルコール類を使用することが、湿潤剤や乾燥抑止剤としての役割も果たすため使用することが好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類を使用することがより好ましい。
【0065】
本発明の水性顔料分散体は、前記オレンジ顔料(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記オレンジ顔料(A)]が0.3~2.0となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.4~1.5の範囲で使用することが好ましい。
【0066】
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)と、顔料分散樹脂(B)とを含有する混練物を製造する工程、及び、前記工程で得た前記混練物と水(C)とを混合する工程を有することを特徴とする。
【0067】
はじめに、前記キナクリドン系顔料誘導体の存在下でソルトミリング処理された一次粒子径70nm以下のオレンジ顔料(A)と、顔料分散樹脂(B)と、必要に応じて前記塩基性化合物や水溶性有機溶剤を、容器へ供給し混練する。前記混練物を得る工程は、特に限定されず公知の分散方法で行うことができる。例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法;超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法;ロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混練分散法等が挙げられる。このうち混練分散法は、前記オレンジ顔料(A)を含有する高固形分濃度の混合物に混練機で強い剪断力を与えることによって前記オレンジ顔料(A)を微細化させる方法であり、顔料濃度の高い混練物を得ることができ、かつ、粗大粒子の低減に有効な方法であり好ましい。前記混練分散法においては、水は、混合物の全固形分に対し50質量%以下で含むかあるいは水を含まないことが好ましい。
【0068】
前記混練分散法は、混合物の仕込み順序には特に限定はなく全量を同時に仕込んで混練を開始してもよいし、各々を少量ずつ仕込んでもよいし、原料によって仕込み順を変えてもよい。各々の原料の仕込み量は前述の範囲で行うことができる。塩基性化合物を配合する際、予め水に溶解された塩基性化合物水溶液を使用する場合には、前記混合物中の水の量は、前記塩基性化合物水溶液に含まれる水の量を考慮して決定することが好ましい。
【0069】
前記混練分散法のメリットである強い剪断力を混合物に与えるためには、該混合物の固形分比率が高い状態で混練するほうが好ましく、より高い剪断力を該混合物に加えることができる。固形分比率としては、20~100質量%の範囲であることが好ましく、30~90質量%の範囲であることがより好ましく、40~80質量%の範囲であることが、混練中の混合物の粘度を適度に高く保つことができるため混練機によって混合物にかかる負荷を大きくでき、その結果、混合物中の顔料の十分な解砕と、顔料のラジカル重合体による被覆とをより効率的に行うことができるため特に好ましい。
【0070】
混練時の温度は混練物に十分な剪断力が加わるように、使用するラジカル重合体のガラス転移点等の温度特性を考慮して適宜調整を行うことができる。例えばラジカル重合体がスチレン-アクリル酸系共重合体の場合、ガラス転移点より低く、かつ該ガラス転移点との温度差が50℃より小さい範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で混練を行うことにより、混練温度の上昇によるラジカル重合体の溶融に伴う混練物の粘度低下によって剪断力が不足することがない。
【0071】
混練工程に用いる混練装置としては、固形分比率の高い混合物に対して高い剪断力を発生させることのできるものであればよく、前述したような公知の混練装置の中から選択して用いることが可能であるが、二本ロール等の撹拌槽を有しない開放型の混練機を用いるよりは、撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を用いることが好ましい。
【0072】
このような装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどが例示され、特にプラネタリーミキサーなどが好適である。
【0073】
本発明においては、好ましくは顔料濃度と前記オレンジ顔料(A)とラジカル重合体からなる固形分濃度が高い状態で混練を行うため、混合物の混練状態に依存して混練物の粘度が広い範囲で変化するが、プラネタリーミキサーは二本ロール等と比較すると、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり、更に水性媒体の添加及び減圧溜去も可能であるため、混練時の粘度及び負荷剪断力の調整が容易である。
【0074】
前記混合物を混練した混練物を水(C)に分散させる工程においては、例えば撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を使用していれば、混練後、続いて水(C)を添加することが可能である。この工程においては、必要に応じて前記水溶性有機溶剤を併用してもよい。
【0075】
このようにして得た水性顔料分散体は、用途にもよるが、通常、顔料濃度が10~50質量%となるように調整してあると、インク化の希釈が容易であり好ましい。これを使用してインク化する際は、所望するインク用途や物性に応じて、適宜水溶性溶媒及び/または水、あるいは添加剤を添加して、顔料濃度を0.1~20質量%となるように希釈するのみで、インクを得ることができる。
【0076】
また前記方法で、顔料濃度が前記範囲内であっても粘度が上記範囲よりも高く取扱いに不便を感じる場合には、水(C)もしくは必要に応じて前記水溶性有機溶剤を用いて希釈し、所望の粘度範囲の水性顔料分散体とすることも可能である。
【0077】
具体的には、例えば前述のように撹拌槽を有する混練機で顔料混練物を製造した後、該撹拌槽に水(C)を添加、混合し、必要に応じて撹拌して直接希釈することにより水性顔料分散体を製造できる。また、撹拌翼を備えた別の攪拌機で固体の顔料分散体と水性媒体を混合し、必要に応じて撹拌して水性顔料分散体を調製できる。
【0078】
水(C)の混合に関しては、顔料混練物に対して必要量を一括混合してもよいが、連続的あるいは断続的に必要量を添加して混合を進めた方が、水(C)による希釈が効率的に行われ、より短時間で水性顔料分散体を作製することができる。
【0079】
また、得られた水性顔料分散体を、更に分散機により分散処理しても良い。分散機としては、ペイントシェーカー、ビーズミル、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、ジュースミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機、ニーダー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
【0080】
以上の方法で得られた水性顔料分散体に含まれる分散物の体積平均粒子径は、50nmから200nmであることが好ましく、50nmから120nmであることが優れた分散性および耐沈降性を備えるうえで最も好ましい。
【0081】
(インクジェット記録用水性インク)
前記水性顔料分散体は、所望の濃度に希釈することによって、自動車や建材用の塗料分野や、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキ分野、または、インクジェット記録用インク分野等の様々な用途に使用することができる。
【0082】
本発明の水性顔料分散体をインクジェット記録用インクに適用する場合は、更に水溶性溶媒及び/または水、バインダー目的のアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の樹脂を加え、所望の物性に必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤、あるいはその他の添加剤を添加して調製する。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0084】
調製例1(ソルベントソルトミリング処理による顔料の調製)
トリミックス(株式会社井上製作所製)に、顔料Orange A-76(C.I.ピグメントオレンジ43、有本化学工業株式会社製、一次粒子径250nm)100質量部、フタルイミドメチル化‐3,10‐ジクロロキナクリドン(キナクリドン系顔料誘導体)5質量部、塩化ナトリウム(水溶性無機塩)1000質量部、ジエチレングリコール(水溶性有機溶剤)200質量部を仕込んだ。
【0085】
前記トリミックスのジャケットの温度を40℃に調節したのち、6時間の混練(ソルベントソルトミリング)することによって、混練物を得た。
【0086】
上記で得られた混練物を防食性容器に取り出したのち、10Lの0.5質量%塩化水素水溶液を加え、攪拌することによって、前記塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールが溶解した組成物を得た。
【0087】
次に、前記組成物をろ過し、残渣(オレンジ顔料とキナクリドン系顔料誘導体)を採取した。この際、残渣に前記塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールが残存しないように、温水およびイオン交換水で、残渣の洗浄を行った。採取した残渣を90℃で32時間以上乾燥させ、完全に水分を取り除き乾燥物を得た。前記乾燥物をジューサーで粉砕することで、一次粒子径40nmのオレンジ顔料X1を得た。
【0088】
調製例2
顔料Orange A-76(C.I.ピグメントオレンジ43、有本化学工業株式会社製、一次粒子径300nm)の代わりにCromophtal Orange K 2960(C.I.ピグメントオレンジ64、BASF社製、一次粒子径200nm)に変更した以外は、調製例1と同様の方法で一次粒子径50nmのオレンジ顔料Y1を得た。
【0089】
調製例3
顔料Orange A-76(C.I.ピグメントオレンジ43、有本化学工業株式会社製、一次粒子径300nm)の代わりにIrgazin Orange D 2905(C.I.ピグメントオレンジ71、BASF社製、一次粒子径230nm)に変更した以外は、調製例1と同様の方法で一次粒子径50nmのオレンジ顔料Z1を得た。
【0090】
調製例4
フタルイミドメチル化‐3,10‐ジクロロキナクリドンを使用しなかったこと以外は、調製例1と同様の方法で、一次粒子径130nmのオレンジ顔料X2を得た。
【0091】
調製例5
フタルイミドメチル化‐3,10‐ジクロロキナクリドンを使用しなかったこと以外は、調製例2と同様の方法で、一次粒子径80nmのオレンジ顔料Y2を得た。
【0092】
なお、オレンジ顔料の一次粒子径は、以下の方法で測定し算出した。
【0093】
はじめに、前記オレンジ顔料1質量部とエタノール99質量部とを混合したものを、コロジオン膜付きメッシュに滴下し乾燥させたものを測定試料とした。
【0094】
次に、前記測定試料の任意の100個を、走査透過型電子顕微鏡(STEM、JSM-7500FA、日本電子株式会社製、加速電圧:30kv)を用いて観察し、針状粒子の長径の平均値を一次粒子径とした。
【0095】
(顔料分散樹脂A)
顔料分散樹脂Aは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)のラジカル重合体である。前記ラジカル重合体Aの製造に使用した単量体の質量比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=83.00/7.35/9.55/0.10(質量比)である。前記ラジカル重合体Aの重量平均分子量は11000、酸価は120mgKOH/g、ガラス転移温度は120℃である。
【0096】
(顔料分散樹脂B)
顔料分散樹脂Bは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)のラジカル重合体である。前記ラジカル重合体Bの製造に使用した単量体の質量比は、スチレン/アクリル酸=87.70/12.30(質量比)である。前記ラジカル重合体Bである。前記ラジカル重合体Bの重量平均分子量は8000、酸価は90mgKOH/g、ガラス転移温度は103℃である。
【0097】
(顔料分散樹脂C)
顔料分散樹脂Cは、溶液重合で作製された粉体状(直径1mm以下)のラジカル重合体である。前記ラジカル重合体Cの製造に使用した単量体の質量比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=76.92/9.99/12.99/0.10である。前記ラジカル重合体Cの重量平均分子量は8000、酸価は154mgKOH/g、ガラス転移温度は121℃である。
【0098】
(顔料分散樹脂D)
ラジカル重合体Dは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=72.00/12.13/15.77/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価180mgKOH/g、ガラス転移温度は113℃である。
【0099】
なお、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。なお、測定は以下の装置及び条件により実施した。
【0100】
送液ポンプ:LC-9A
システムコントローラー:SLC-6B
オートインジェクター:S1L-6B
検出器:RID-6A
以上、株式会社島津製作所製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL-R400(ガードカラム)+GL-R440+GL-R450+GL-R400M(日立化成工業(株)製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0101】
(実施例1 水性顔料分散体の製造方法)
顔料分散樹脂Aを3.75質量部、前記オレンジ顔料X1を15質量部、プラネタリーミキサー(商品名:ケミカルミキサーACM04LVTJ-B 株式会社愛工舎製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が80℃に達した後、自転回転数:80回転/分、公転回転数:25回転/分で混練を行った。5分後、溶剤としてトリエチレングリコールを12質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を1.32質量部加えた。
【0102】
プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示してから60分を経過した時点まで混練を継続し混練物を得た。なお、オレンジ顔料X1に対する前記ラジカル重合体Aの比率(R/P)は0.25であり、オレンジ顔料X1に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0103】
得られた混練物にイオン交換水15質量部を加えて混合、希釈しイオン交換水に分散させた。さらに、イオン交換水を加えて混合、希釈しピグメントオレンジ43の濃度が15質量%の水性顔料分散体を得た。
【0104】
(実施例2)
顔料分散樹脂Aの代わりに顔料分散樹脂Bを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0105】
(実施例3)
顔料分散樹脂Aの代わりに顔料分散樹脂Cを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0106】
(実施例4)
オレンジ顔料X1の代わりにオレンジ顔料Y1を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0107】
(実施例5)
オレンジ顔料X1の代わりにオレンジ顔料Z1を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0108】
(比較例1)
オレンジ顔料X1の代わりにオレンジ顔料X2を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0109】
(比較例2)
オレンジ顔料X1の代わりにオレンジ顔料Orange A-76(C.I.ピグメントオレンジ43、有本化学社製、一次粒子径250nm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0110】
(比較例3)
オレンジ顔料X1の代わりにCromophtal Orange K 2960(C.I.ピグメントオレンジ64、BASF社製、一次粒子径200nm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0111】
(比較例4)
オレンジ顔料X1の代わりにIrgazin Orange D 2905(C.I.ピグメントオレンジ71、BASF社製、一次粒子径230nm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0112】
(比較例5)
オレンジ顔料X1の代わりにオレンジ顔料Y2を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0113】
(比較例6)
顔料分散樹脂Aの代わりに顔料分散樹脂Dを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
【0114】
(水性顔料分散体の評価)
〔体積平均粒子径の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で2000倍に希釈した。
【0115】
次に、希釈後の水性顔料分散体の約4mlをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製ナノトラック粒度分布計「UPA150」を用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。
【0116】
前記体積平均粒子径を3回測定し、それらの平均値の上位2桁を有効数字として算出した値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。
【0117】
(粗大粒子数の測定方法)
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で50倍に希釈した。
【0118】
次に、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式 粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用い、前記希釈後の水性顔料分散体に含まれる直径0.5μm以上の粒子数を3回測定した。
【0119】
次に、前記測定値に、それぞれ希釈濃度を乗じることによって、粗大粒子数を算出した。次に、上記方法で算出した3つの粗大粒子数の平均値を、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体の粗大粒子数とした。
【0120】
(水性顔料分散体の分散性の試験方法)
実施例及び比較例で製造した水性顔料分散体をチップに1mL加え、卓上小型遠心機を用いて5000rpmにて5分間回転、遠心前後のインク上澄みの吸光度と下式から吸光度低下率を算出した。吸光度低下が小さいものほど、オレンジ顔料は沈降しにくく、分散性が良好であると評価した。
吸光度低下率=(遠心前吸光度-遠心後吸光度)/遠心前吸光度
○:吸光度低下率≦10%
△:10%<吸光度低下率≦20%
×:20%<吸光度低下率
【0121】
(水性顔料分散体の保存安定性の試験方法)
はじめに、実施例及び比較例で製造した直後の水性顔料分散体の粗大粒子数を、前記〔粗大粒子数の測定方法〕に記載した方法と同様の方法で測定した。
【0122】
次に、実施例及び比較例で得た水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し、60℃で4週間保存した後の粗大粒子数を〔粗大粒子数の測定方法〕と同様の方法で測定した。
【0123】
次に、前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、変化率(%)=[(前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数-前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数)/前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数]×100の式に基づき、粗大粒子数の変化率を算出した。
○:粗大粒子変化率≦10%
△:10%<粗大粒子変化率≦20%
×:20%<粗大粒子変化率
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】