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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】積層体及び3次元意匠形成材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231219BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/00 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019222897
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091148
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】鵜沢 恵美
(72)【発明者】
【氏名】菊池 浩
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123588(JP,A)
【文献】特開2011-122113(JP,A)
【文献】特開平09-267439(JP,A)
【文献】特開平05-169596(JP,A)
【文献】特開昭54-011205(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169073(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/002335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に3次元調意匠を発現する微細構造が設けられた樹脂層を有する積層体であって、前記樹脂層が、アジリジン化合物を含有し、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンの乾燥皮膜層であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記微細構造がエンボス加工により形成されている請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
乾燥皮膜に100℃~130℃で処理するエンボス加工を施すことで3次元調意匠を発現する微細構造を呈し、アジリジン化合物を含有し、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンからなることを特徴とする3次元意匠形成材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を制御したり、意匠性を付与したりするための微細構造が表面に形成されている積層体及びそれを成形しうる3次元意匠形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾方法として、装飾を所望する物品そのものの表面に様々なサイズや形状の凹凸構造を形成する方法や、意匠面を有する加飾フィルムを物品に貼り付けることによって物品を装飾する方法が知られている。例えば加飾フィルムとしては、3次元調意匠を発現する意匠面が設けられた樹脂フィルムを有し、前記樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有し、前記可塑剤の含有量が前記熱可塑性樹脂100重量部に対して15~30重量部であり前記樹脂フィルムの厚さが100~300μmである加飾フィルムが知られている。(例えば特許文献1参照)
【0003】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート等が使用され(例えば特許文献1段落0023参照)、所望する柔軟性や意匠等の要求特性に応じて必要に応じて可塑剤や輝度顔料等が配合されている。これらを含有するマスターバッチをカレンダーでシート状に成形したフィルムに、熱プレスにより微細凹凸を設けることにより、意匠面を有する加飾フィルムを得ている。
この方法は工業的量産に適した方法であるが、近年要求の高い少量多品種生産には必ずしも適した方法ではなかった。
【0004】
近年は、前記少量多品種生産に加え、サステナブルの観点から原材料は無溶剤あるいは水性が好まれる。基材上に樹脂層を設ける方法としては一般に、前記マスターバッチをシート成形したフィルムを積層する方法の他、樹脂溶液を塗工する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-123220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、3次元調意匠を発現する意匠面を、水性エマルジョンの塗装で発現した積層体を提供することにある。
【0007】
樹脂溶液を塗工して樹脂層を設ける方法として一般的には、有機溶剤を溶媒とした樹脂溶液を利用する方法がある。しかしながらこれは環境保全やVOCの観点からは好ましい方法とは言えない。
本発明者らは、3次元調意匠を発現する微細構造が設けられた樹脂層の原料として、水性媒体の樹脂溶液を鋭意検討した結果、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差の絶対値が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンを使用することで、課題を解決した。
【0008】
即ち本発明は、基材上に3次元調意匠を発現する微細構造が設けられた樹脂層を有する積層体であって、前記樹脂層が、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンの乾燥皮膜層である積層体を提供する。
【0009】
また本発明は、乾燥皮膜に100℃~130℃で処理するエンボス加工を施すことで3次元調意匠を発現する微細構造を呈し、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンからなる3次元意匠形成材料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、3次元調意匠を発現する意匠面を、水性エマルジョンの塗装で発現した積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(3次元意匠形成材料)
本発明の3次元意匠形成材料は、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差の絶対値が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンを含有することを特徴とする。
【0012】
(言葉の定義)
本発明において、ガラス転移温度(Tgと称する場合もある)は、いわゆる計算ガラス転移温度を指し、下記の方法で算出された値を指す。
(式1) 1/Tg(K)=(W1/T1)+(W2/T2)+・・・(Wn/Tn)
(式2) Tg(℃)=Tg(K)-273
式1中のW1、W2、・・・Wnは、重合体の製造に使用したモノマーの合計質量に対する各モノマーの質量%を表し、T1、T2、・・・Tnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。なお、T1、T2、・・Tnの値は、Polymer Handbook(Fourth Edition,J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke 編)に記載された値を用いる。
また、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が前記Polymer Hand Bookに記載されていないもののガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSC Q-100」(TA Instrument社製)を用い、JIS K7121に準拠した方法で測定した。具体的には、真空吸引して完全に溶剤を除去した重合体を、20℃/分の昇温速度で-100℃~+200℃の範囲で熱量変化を測定し、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点をガラス転移温度とした。
【0013】
ガラス転移温度は、中でも15~100℃の範囲が好ましく、20~40℃の範囲がより好ましい。
【0014】
また、本発明において、最低造膜温度(以下MFTと称する場合がある)は、合成ゴムラテックスの水分が蒸発して乾燥するとき、連続したフィルムが形成されるのに必要な最低の温度であり、温度勾配板法により得られるものである。MFTは、中でも5~90℃の範囲が好ましく、5~45℃の範囲がより好ましい。
【0015】
ガラス転移温度と最低造膜温度との差は、絶対値が10℃~25℃の範囲であればよい。例えばガラス転移温度が30℃でMFTが44℃の場合は、差は14℃である。またガラス転移温度が40℃でMFTが17℃の場合は、差は23℃である。本発明において、ガラス転移温度とMFTとはどちらが高い温度であるかは関係なく差の絶対値が10℃~25℃の範囲であればよい。
【0016】
本発明の3次元意匠形成材料は、乾燥皮膜に対しホットスタンプや加熱ロールによる加工を施すことで、3次元調意匠を発現する微細構造が形成される必要がある。該加工温度は、使用する基材が変形しない温度で且つ本発明の3次元意匠形成材料のガラス転移温度を超える温度であることが好ましい。例えば基材として二軸延伸ポリプロピレン(以下OPPと称する場合がある)フィルムを使用する場合は、加工温度を100℃~130℃で行うことが多い。このように本発明の3次元意匠形成材料のガラス転移温度20℃~40℃の範囲よりも50℃以上高い温度で加工することで、容易に軟化し変形することができる。さらにガラス転移温度と最低造膜温度との差の絶対値が10℃~25℃の範囲であるため、得られた3次元調意匠が再可塑化することもなく画像を維持することができる。
【0017】
(エマルジョン)
本発明で使用するエマルジョンは、前記ガラス転移温度と最低造膜温度を満たす値を有していればよく特に限定されず汎用のものを使用することができる。中でもアクリル樹脂系のエマルジョンが、透明性の点で好ましい。以下アクリル樹脂をについて詳細に述べる。
【0018】
(アクリル樹脂)
前記アクリル樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリレートの単独重合または共重合、及び(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーとを共重合させたコポリマーがあげられる。また水分散性や水溶性を付与する目的から酸価を有するコポリマーであることが好ましい。
尚本発明において「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートのいずれか一方または両方を指し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルのいずれか一方または両方を指す。
【0019】
(メタ)アクリレートや(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-ヒドロドキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p-ジメチルシリルスチレン、(p-ビニルフェニル)メチルスルフィド、p-ヘキシニルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0020】
また、カルボキシル基及びカルボキシル基が塩基性化合物によって中和されたカルボキシレート基からなる群より選ばれる1種以上の酸性基を導入することを目的として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリルモノマーを共重合させることで、酸価を有するコポリマーを得ることができる。
酸性基を導入する場合は、後述で詳細に述べるが酸価が所望の範囲となるようにモノマー量を適宜調整することが好ましい。
【0021】
前記コポリマーは、例えば、重合開始剤の存在下、50℃~180℃の温度領域で各種モノマーを重合させることにより製造することができ、80℃~150℃の温度領域であればより好ましい。重合の方法は、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。また、重合様式は、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用するコポリマーはコアシェル型であってもよい。本発明においてコアシェル型樹脂は、重合体(a2)が重合体(a1)によって水性媒体中に分散された状態を指し、通常、重合体(a1)が樹脂粒子の最外部に存在することでシェル部を形成し、重合体(a2)の一部または全部がコア部を形成したものであることが多い。以後本発明において、シェル部を形成する樹脂を重合体(a1)とし、コア部を形成する樹脂を重合体(a2)と称す。
【0023】
〔シェル部を構成する重合体(a1)〕
本発明で使用するコアシェル型樹脂は、シェル部を構成する重合体(a1)について、カルボキシル基及びそれを中和して形成されるカルボキシレート基からなる群より選ばれる1種以上の親水性基を有するアクリル樹脂を含むものによって構成されていることが好ましい。その際、シェル部の酸価は40mgKOH/g以上250mgKOH/g以下の範囲であることが好ましく、120mgKOH/g以下がなお好ましい。
【0024】
前記、シェル部を構成する重合体(a1)のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されカルボキシレート基を形成することが好ましい。
【0025】
前記、中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等を使用することができ、アンモニア、トリエチルアミンを使用することが、塗膜の耐温水性、耐食性及び耐薬品性をより一層向上するうえで好ましい。
【0026】
前記塩基性化合物の使用量は、得られるコアシェル型樹脂の水分散安定性をより一層向上するうえで、前記重合体(a1)が有するカルボキシル基の全量に対して[塩基性化合物/カルボキシル基]=0.2~2(モル比)となる範囲で使用することが好ましい。
【0027】
前記、重合性不飽和二重結合を有するモノマーのうち、カルボキシル基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む(メタ)アクリルモノマーを重合して得られるものを使用することが好ましい。特に、前記重合体(a1)としては、前記重合体(a1)のガラス転移温度(Tg1)を20℃~100℃の範囲に調整するうえで、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等を組み合わせ重合して得られるものを使用することが、造膜性に優れ、かつ、耐温水性、耐食性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成するうえでより好ましい。
【0028】
〔コア部を構成する重合体(a2)〕
前記、コア部を構成する重合体(a2)は、前述のアクリル樹脂と同様のアクリルモノマー等のコポリマーを使用することができる。
この際、コア部の重量平均分子量は200,000~3,000,000の範囲であることが好ましく、800,000以上がなお好ましい。Tgは-30℃~30℃の範囲であることが好ましい。
【0029】
前記、コア部を構成する重合体(a2)は、前述のアクリル樹脂と同様のアクリルモノマー等のコポリマーを使用することができるが、中でも、水性媒体で製造することが好ましい。具体的には、前記、モノマーと重合開始剤等とを、水性媒体を含有する反応容器に一括供給または逐次供給し重合することによって製造することができる。その際、予め前記モノマーと水性媒体と必要に応じて反応性界面活性剤等とを混合することでプレエマルジョンを製造し、それと重合開始剤等とを、水性媒体を含有する反応容器に供給し重合してもよい。
【0030】
前記、重合体(a2)を製造する際に使用可能な重合開始剤としては、例えば過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等のラジカル重合開始剤、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ開始剤を使用することができる。また、前記ラジカル重合開始剤は、後述する還元剤と併用しレドックス重合開始剤として使用しても良い。
【0031】
前記過硫酸塩としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等を使用することができる。前記、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等を使用することができる。
【0032】
また、前記還元剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩(ナトリウム塩等)、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等を使用することができる。
【0033】
重合開始剤の使用量は、重合が円滑に進行する量を使用すれば良いが、得られる塗膜の優れた耐食性を維持する観点から、少ない方が好ましく、ビニル重合体(a2)の製造に使用するモノマーの全量に対して、0.01質量%~0.5質量%とすることが好ましい。また、前記重合開始剤を前記還元剤と併用する場合には、それらの合計量の使用量も前記した範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、前記プレエマルジョンを製造する際には、反応性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤等を使用してもよい。
【0035】
前記コポリマーの酸価は、酸価20mgKOH/g以上、120mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは酸価25mgKOH以上である。 尚、ここで言う酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示す。
【0036】
前記コポリマーの重量平均分子量は、5,000~100,000の範囲のものが好ましい。
【0037】
(アジリジン化合物)
前記エマルジョンは、特にプラスチック基材への密着性向上や後工程での金属蒸着の密着性向上等の目的でアジリジン化合物を併用することが好ましい。アジリジン化合物の市販品としては、例えば日本触媒のケミタイトPZ-33が挙げられ、添加量としては0.5%~2%質量%の範囲が好ましい。
【0038】
また前記エマルジョンに、所望する意匠や物性に従い適宜添加剤を添加することもできる。例えばアルミニウム顔料、パール顔料等の輝度顔料や、安定剤、紫外線吸収材、着色剤、発泡剤、滑剤、改質剤、無機粒子や無機繊維等の充填剤、希釈剤等が挙げられる。これらは熱可塑性樹脂に一般的に配合されるものを使用することができる。
輝度顔料はあまり添加量が多いと微細構造の発現に影響することがあるので、概ねエマルジョンの固形分100重量部に対して、0.5~10重量部であることが好ましい。
【0039】
前記エマルジョンは、後述の基材上に、公知のコーティング方法、例えばグラビアコーティング、ローラーコーティング、フレキソコーティング等の方法で塗布し、乾燥させて乾燥皮膜とする。乾燥皮膜後の膜厚は所望の3次元調意匠にもよるが概ね0.1~10μmであることが好ましく0.5~5μmがなお好ましい。
【0040】
(積層体)
本発明の積層体は、基材上に3次元調意匠を発現する微細構造が設けられた樹脂層を有する積層体であって、前記樹脂層が前記3次元意匠形成材料、すなわち、ガラス転移温度が20℃~40℃の範囲であり、且つ、ガラス転移温度と最低造膜温度との差が10℃~25℃の範囲であるアクリルエマルジョンの乾燥皮膜層であることを特徴とする積層体である。
【0041】
本発明の3次元意匠形成材料は、基材表面に設けて使用する。基材としては特に限定はなく、プラスチックフィルム、天然繊維紙、コート紙、トレーシングペーパー、ガラス、金属、セラミック、木材、布等を使用することができる。
【0042】
また、前記基材表面と前記3次元意匠形成材料との間、あるいは、前記3次元意匠形成材料上に、色材又は金属を含有する層を有していてもよく好ましい。
色材は特に限定はなく公知の印刷インキまたは塗料に使用する着色材を使用することができ、公知の有機顔料あるいは無機顔料を使用することができる。
【0043】
前記有機顔料としては、たとえば、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アゾレーキ顔料系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等が挙げられる。
また、無機顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄系、酸化チタン系等の無機顔料、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料、酸化チタン被覆雲母等の真珠光沢顔料等が挙げられる。
【0044】
これらの色材を含有する層は、汎用の印刷インキまたは塗料として、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを用いて形成することができる。加飾層の乾燥膜厚は0.5~15μmであることが好ましく、更に好ましくは、1~10μmである。また絵柄のない着色層や、無色のワニス樹脂層についても塗工によって形成することができる。
また、印刷の場合の印刷柄は、版を起こせるあるいは印字できる模様や文字であればどのような印刷柄も可能である。またベタ版であってもよい。
【0045】
前記インキに含有されるワニス用樹脂は、特に限定はないが、例えば、アクリル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニル樹脂系(塩ビ、酢ビ、塩ビ-酢ビ共重合樹脂)、塩素化オレフィン樹脂系、エチレン-アクリル樹脂系、石油樹脂系、セルロース誘導体樹脂系などの公知のインキを用いることができる。
【0046】
その他インキや塗料には、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、溶媒などを含有させてよい。
【0047】
前記色材を含有する層として、反射を伴う高光沢性の顔料を含有する層を設けることで、いわゆるホログラム様の意匠を与えることができる。すなわち下地層からの反射光がホログラム層での屈折を介して、任意の干渉色が発現できる極めてホログラムの装飾効果が高いホログラムシートとして使用することができる。
本発明で用いられる反射を伴う高光沢性の顔料としては、特に限定はないが、パール顔料、偏光パール顔料、偏光蒸着顔料、アルミニウムフレーク、蒸着アルミニウムフレークなどが挙げられる。粒子の大きさとしては、粒子の長辺方向が10μm以下のものが好ましい。 ここで、反射を伴う高光沢性の顔料とは、見る角度によって色相が変化する顔料であり、また、偏光蒸着顔料とは、偏光蒸着加工を施された顔料であって、偏光蒸着とは、プリズムの色分け原理を利用したもので、誘電体の多層膜を成膜することにより、見る角度によって異なる色を強調することのできる反射透過膜を形成したものである。例えば、顔料の表面に反射膜、光の屈折率が異なる複数の透明層を順次形成し、透明被覆膜を設けたものが挙げられる。
【0048】
反射を伴う高光沢性の顔料を含有する層は、前記顔料を含有するインキや塗料を全面ベタに印刷若しくはコーティング方式で形成することで、全面反射型のホログラム様意匠を与えることができる。
【0049】
また、基材上に設けた3次元意匠形成材料の乾燥皮膜に、3次元調意匠を発現する微細構造を設けた後に、反射を伴う高光沢性の顔料を含有する層を設けてもよい。
【0050】
前記金属を含有する層としては、前記メタリックインキの他、金属蒸着層を利用してもよい。
【0051】
前記基材上に設けた3次元意匠形成材料の乾燥皮膜に、3次元調意匠を発現する微細構造を設ける方法は特に限定されない。前述のホットスタンプや加熱ロールによる従来公知のエンボス加工により形成することができる。前述の通り加工温度は、使用する基材が変形しない温度で且つ本発明の3次元意匠形成材料のガラス転移温度を超える温度であることが好ましい。またエンボス加工による凹凸形状の付与は、転写率が60%以上であることが好ましい。上記転写率は、エンボス加工用の型(例えば、エンボスロール)に設けられた凹凸の深度に対する、フィルムに転写された凹凸の深度の割合を示す。
【0052】
本発明の積層体は、様々な用途に適用可能である。例えばいわゆるきらきらした金属光沢意匠をプラスチックフィルム、天然繊維紙、コート紙、トレーシングペーパー、ガラス、金属、セラミック、木材、布等に与えることができるので、そのままあるいはこれに粘接着剤層を設けて、各種包装材料、建築材料、車両内外装用材料、モバイル筐体等の種々の基材に貼り付けて用いることができる。
【0053】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系フィルム、ナイロン-6やナイロン-66などのポリアミド(ナイロン)系フィルム、ポリイミド(PI)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系フィルム等のプラスチックフィルム上に、本発明の3次元意匠形成材料の乾燥皮膜を設け、100℃~130℃で処理するエンボス加工を施して3次元調意匠を発現させた積層体を得る。これをそのまま、あるいはこれに粘接着剤層を設けて、各種包装材料、建築材料、車両内外装用材料、モバイル筐体等の種々の基材に貼り付けて用いることができる。
【0054】
粘接着剤層としては特に限定なく公知の粘接着剤を使用することができる。例えば粘着剤としてはアクリル樹脂、イソブチレンゴム樹脂、スチレン-ブタジエンゴム樹脂、イソプレンゴム樹脂、天然ゴム樹脂、シリコーン樹脂などの溶剤型粘着剤や、アクリルエマルジョン樹脂、スチレンブタジエンラテックス樹脂、天然ゴムラテックス樹脂、スチレン-イソプレン共重合体樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテルなどの無溶剤型粘着剤などがあげられる。また接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の合成ゴムなどがあげられ、溶剤型又は無溶剤型のものが使用出来る。
【0055】
本発明の積層体は、設ける微細構造がホログラム画像形成可能な構造であれば、株券、証券、証書、通帳類、乗車券、車馬券、印紙、切手、鑑賞券、入場券、チケット等の金券類、キャッシュカード、クレジットカード、プリペイドカード、メンバーズカード、グリーティングカード、はがき、名刺、運転免許証、ICカード、光カード等のカード類、カートン、容器類のケース類、バック類、帳票類、封筒、タグ、スライドフィルム、しおり、カレンダー、ポスター、パンフレット、メニュー、パスポート、POP用品、コースター、ディスプレイ、ネームプレート、キーボード、化粧品、腕時計、ライター等の装身具、文具品、レポート用紙等の文具類、建材、パネル、エンブレム、キー、布帛、衣類、履物、アルバム、コンピューターグラフィックの出力、医療画像出力、デジタルカメラ画像の出力等にも使用可能である。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断わりのない限り「部」、「%」は重量基準である。
【0057】
(実施例1 3次元意匠形成材料の製造方法)
アクリルエマルジョンA(ガラス転移温度30℃、最低造膜温度44℃、樹脂固形分濃度30質量%)を52.6部にイオン交換水を47.4部撹拌混合して樹脂の固形分比率が20質量%となるように調整し、実施例1の3次元意匠形成材料(1)を得た。
【0058】
(実施例2~4、比較例1~5)
表1及び表2の組成に従い、3次元意匠形成材料(2)~(4)、3次元意匠形成材料(H1)~(H5)を得た。
【0059】
(実施例 積層体の製造方法)
(塗工方法)
コロナ処理済OPPフィルム(パイレンフィルム-OT P2161 厚さ20μm 東洋紡株式会社製、なおパイレンは登録商標である)のコロナ処理面に、乾燥後の皮膜量が1.2g/m程度になるようにロールコーターを使用して塗工し、100℃30秒で乾燥させ、OPPフィルム上に樹脂層を作成した。
【0060】
(3次元意匠形成方法)
亜鉛板で作製したエンボス原盤をスタンパーロールに取り付けて、100℃から130℃に加熱した。前記塗工方法で得たOPPフィルム上に設けた樹脂層面に、エンボス原盤の熱プレスを行ってエンボス加工を施し、3次元調意匠を発現する微細構造を形成した。
【0061】
(3次元意匠形成評価方法)
3次元調意匠を発現する微細構造の評価は、デジタルマイクロスコープVHX-5000(株式会社キーエンス製)を使用して(反射光、倍率20倍)、エンボス原盤の凹凸形状が干渉縞として観察できるかどうかで確認を行った。
良好:干渉縞が観察できる
不良:干渉縞が観察できない
【0062】
(密着性評価方法)
前記塗工方法で得たOPPフィルム上に設けた樹脂層に、セロテープCT-24(ニチバン株式会社製、なおセロテープは登録商標である)を貼り付け、密着するように擦りつけた。その後セロテープを上方に勢いよく剥がし、密着度合いを目視判定した。
(密着性評価基準)
5:セロテープ接着部分の塗膜の剥離は見られない。
4:セロテープ接着部分の塗膜の10%未満が剥離した
3:セロテープ接着部分の塗膜の10%以上30%未満が剥離した
2:セロテープ接着部分の塗膜の30%以上50%未満が剥離した。
1:セロテープ接着部分の塗膜の50%以上が剥離した。
【0063】
結果を表1、2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】