(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】分注装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20231219BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N35/10 G
G01N1/00 101K
(21)【出願番号】P 2020027359
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019070688
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永廣 武士
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃治
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-132899(JP,A)
【文献】特表2002-542017(JP,A)
【文献】特開2008-175722(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0280967(US,A1)
【文献】特開平02-268272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 - 35/10
G01N 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空シャフト部の末端がノズル部であるノズル本体と、
前記ノズル部の上部であって、前記中空シャフト部の外周にある、
第1Oリング状部材と第2Oリング状部材に挟まれた可動スペーサと、第2Oリング状部材の上部にある固定フランジの末端部からなるピペットチップ保持部と、
前記固定フランジの外周にあるピペットチップ押出部と、
前記ピペットチップ押出部と前記固定フランジの鍔部に挟まれた弾性体からなる復元力発生部と、
前記固定フランジの上部に繋がっている筐体部と、
前記中空シャフト部の他端に接続され、前記筐体部に収容された動力部と、
を備えた分注装置であって、
前記ノズル部及び前記ピペットチップ保持部の外径が、ピペットチップ上部に設けられた
嵌合部の内径よりも
前記ピペットチップ保持部が前記ピペットチップ上部の嵌合部に挿入された場合に静止摩擦力を生じる程度に小さく、
前記ピペットチップ押出部の外径が、ピペットチップ上部に設けられた
嵌合部の内径よりも大き
く、
前記復元力発生部に弾性復元力を調整する機構を備えることを特徴とする前記装置。
【請求項2】
前記中空シャフト部がポンプ接続部を有していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分注装置を備えた自動分析装置であって、
検査チップを配置した第1ステージと、
試薬及びピペットチップトレイを配置した第2ステージと、
を多段的に備えることを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入を使うことなくピペットチップを脱着し、その固定する力を使用状況に合わせて自由に調節が可能な分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分注装置は一般的に、分注を行う分注機構部と、それを3次元的に精密移動させるための3次元アクチュエータから構成される。一般的な分注装置の動作としては、アクチュエータで分注機構をピペットチップ上空に移動させ、圧入によってピペットチップを分注機構部の下部に備えられたノズル部に装着したのち、ピペットチップごと持ちあげ、試薬チューブの場所に移動して試薬を吸引し、試薬を吐出したい対象まで移動して吐出を行う。
【0003】
ピペットチップとノズル部の位置が完璧に一致しない場合は、ノズル部に対してピペットチップが斜めに刺さることになり、わずかな嵌合部の位置ずれでも先端の位置ずれは大きくなる。さらに、圧入を行うという事はピペットチップにも少なからず変形が生じるため繰り返しの使用が不可能となり、圧力をかけるアクチュエータ側も強度を担保するために強度の高いものを使用する必要がある。従って、装置への低負荷低減や小型化の観点から、圧入をしない機構が望まれている。
【0004】
圧入を使わないピペットチップ保持機構に関しては、特許文献1や特許文献2などが考案されている。これらはピペットチップの嵌合部内側に配置した弾性体またはバルーンなどを用いて、ピペットチップ内壁を外側に向けて圧迫する形でピペットチップの固定及び密着を図っている。しかし、これらの手法では、長時間の圧着した場合や、揮発性及び吸着性の高い試薬を使用した場合に、密着させた部位が物理的または化学的に吸着してしまい、ピペットチップが外れなくなる不具合を起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許3977597号公報
【文献】特許4224488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、圧入を使うことなくピペットチップを脱着し、その固定する力を使用状況に合わせて自由に調節が可能な分注装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を行なった結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の一態様は、
中空シャフト部の末端がノズル部であるノズル本体と、
前記ノズル部の上部であって、前記中空シャフト部の外周にある、
第1Oリング状部材と第2Oリング状部材に挟まれた可動スペーサと、第2Oリング状部材の上部にある固定フランジの末端部からなるピペットチップ保持部と、
前記固定フランジの外周にあるピペットチップ押出部と、
前記ピペットチップ押出部と前記固定フランジの鍔部に挟まれた弾性体からなる復元力発生部と、
前記固定フランジの上部に繋がっている筐体部と、
前記中空シャフト部の他端に接続され、前記筐体部に収容された動力部と、
を備えた分注装置であって、
前記ノズル部及び前記ピペットチップ保持部の外径が、ピペットチップ上部に設けられた篏合部の内径よりも小さく、
前記ピペットチップ押出部の外径が、ピペットチップ上部に設けられた篏合部の内径よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の分注装置は、ピペットチップを介して試薬の吸引・吐出を行うものであるが、ここでいう試薬とは生体試料、組織の一片を懸濁させた組織懸濁液、前記生体試料又は前記組織由来の細胞を含む画分、あらかじめ単離した細胞の培養液などが挙げられる。
【0011】
ピペットチップ保持部のOリング状部材の素材はピペットチップ内壁に隙間なく接触でき、かつ一定の摩擦力を持つ材料であればよく、シリコーン素材、フッ素樹脂素材でもよい。第1Oリング状部材と第2Oリング状部材の大きさは同一でもよいが、ピペットチップ上部に設けられた篏合部(以下、単に「篏合部」ということがある)の内径より小さいのであれば、両者の大きさは異なっていても問題ない。
【0012】
ピペットチップ保持部の可動スペーサとしては、シリンダー状の形状であれば問題はないが、その外径は、篏合部の内径より小さいことが求められる。
【0013】
固定フランジは、鍔部、シリンダー部、末端部が一体として形成されており、鍔部と末端部の中央はシリンダー部の内径と同じ大きさの穴が開いており、中空シャフト部が貫通している。外径の大きさは、シリンダー部、末端部、鍔部の順に大きくなっているが、末端部の外径は篏合部よりも小さいことが求められる。
【0014】
ピペットチップ押出部は、ピペットチップを押し出すための強度を有する材質であれば特に制限はなく、その形状についても特に制限はない。ただし、大きさについては、その外径が篏合部の内径より大きいことが求められる。
【0015】
復元力発生部の弾性体はOリング状部材とピペットチップ内部表面との静止摩擦力に平行かつピペットチップを外す方向に力が加わる素材であればよく、押しバネでもエラストマー素材でもよい。
【0016】
筐体部は、本体固定部を持ち、作用反作用を伴う分注動作の基軸となる筐体と、動力部を支持するための動力支持板、及び、動力部支持板を適切な高さに配置するための動力部支持棒で構成されることが望ましいが、例えば動力部支持板や動力部支持棒を使うことなく筐体に動力部を固定するなど、これ以外の構造を用いてもよい。
【0017】
筐体部は、本体固定部の側面に3軸アクチュエータを固定して、備えていてもよい。3軸アクチュエータとしては、X軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれ移動可能なリニアアクチュエータから構成され、X軸アクチュエータのスライダー部にY軸アクチュエータが設置され、Y軸アクチュエータのスライダー部にZ軸アクチュエータが設置され、Z軸アクチュエータのスライダー部に分注装置が設置された構造のものが例示でき、各スライダーが稼働する立体空間上を分注装置が移動することが可能となる。ただし、分注装置をステージ上に置かれた試薬やピペットチップに対して相対的に動かすことができればよく、例えばX軸アクチュエータ及びY軸アクチュエータはチップやチューブの配置されている台座部分に設置したり、また、X軸アクチュエータ、Y軸アクチュエータの代わりにロータリーアクチュエータとリニアアクチュエータを用いて極座標で位置を制御するといった態様であっても問題はない。
【0018】
動力部は、中空シャフトを押すためのピストンと、これを上下移動させるためのエンコーダー付きリニアアクチュエータ、及び中空シャフトとピストンの軸がずれて破損しないようにするための軸合わせ機構で構成されていることが好ましいが、圧空を用いたエアシリンダーなどを用いてもよい。
【0019】
なお、本分注装置に取り付ける吸引吐出を行うポンプについては、中空シャフト部にポンプ接続部を設け、そこに直接取り付けてもよいが、アクチュエータから離れた位置に配置し、中空のチューブによって接続しても問題はない。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、圧入によるピペットチップ装着を行うことなく、ピペットチップを装置本体に嵌め合うことができ、かつその嵌め合う力を外的応力に対応して自在に変更でき、さらに脱着の際にチップの外しそこないを従来よりも低減できる。また、分注装置を制御するアクチュエータや押し付ける先の底面に対しての強度要求が著しく低下するため、小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】本発明の分注装置の断面図において、(a)解放状態から(d)付勢状態となり、そこからまた解放状態になるまでを示す図である。
【
図4】(a)ピペットチップ保持部の外観、(b)ピペットチップ保持部の断面構造、(c)中空状部品の径の大きさを比較する図である。
【
図5】ピペットチップ保持部に掛かる力のバランスにおいて、(a)付勢時:外力無(b)付勢時:外力有(c)解放時:Oリングの固着有/取り外し機構有り(d)解放時:Oリングの固着有/取り外し機構無し、を示す図である。
【
図6】実施例で用いた検査装置の外観を示す図である。
【
図7】
図6で示した検査装置を模式的に示す図である。
【
図8】検査チップ803の構造をより詳細に示す図である。
【
図9】試薬チューブでの試薬吸引から検査チップへの試薬導入までの装置動作を示す図において、(a)ノズルを水平移動させる場合、(b)ノズルを垂直移動させる場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
【0023】
図1、2に本発明の一態様を示す。
図1に示すピペットチップ保持部10は、中空シャフト106の末端であるノズル部105をその先端とする。そして、ノズル部105の上に、第1Oリング102、可動スペーサ104、第2Oリング101、固定フランジ103の末端部の順でそれぞれが微小な空隙を有しながら中空シャフト106の外周に存在している。固定フランジ103の外周にはピペットチップ押出部202があり、固定フランジ103の鍔部との間に弾性体201を有し、この部分が復元力発生部20に該当する。固定フランジ103の上には筐体502が接合しており、本体固定部501、動力部支持板503、動力部支持棒504と組み合わさって、筐体部50を構成している。中空シリンジ106の他端は動力部40(エンコーダー401付きリニアアクチュエータ402、ピストン403、軸合わせ機構404)と繋がっており、本体固定部501、筐体502(中央は中空)、固定フランジ103の内部を貫通し、末端であるノズル部105が表出している。本体固定部501の位置で分注機構全体を3次元的に移動させる3軸アクチュエータ(図示されていない)に接続される。
【0024】
中空シリンジの上部にあるポンプ接続部107の先には吸引吐出を行うためのポンプを接続し、これを駆動させることで、中空シャフト106及びノズル部105を通してピペットチップ先端302から試薬の吸引吐出を行う。このとき、ポンプの種類は何でもよい。
【0025】
ピストン403を上方に動かし中空シャフト106を押し上げると、その末端であるノズル部105と固定フランジ103との間に挟まれた2つのOリング101、102が中空シャフト106に平行な方向に圧縮されて垂直方向に広がり、この垂直方向へかかる力がピペットチップ嵌合部301の内壁に掛かることでピペットチップ30が固定され、同時に弾性体201も圧縮される。また、2つのOリング101、102の間にある可動スペーサ104により、ピペットチップ嵌合部301に2点で接することとなり、接続するときの位置のブレが軽減できるようになっている。
【0026】
2つのOリング101、102及び弾性体201が圧縮している状態を付勢状態、圧縮していない状態を解放状態とすると、
図3のように解放状態でピペットチップトレイ60上のピペットチップ30に分注機構を移動させたのち、付勢状態にすると弾性体201とピペットチップ30にかかる重力と2つのOリングの押し付けによる摩擦力とがバランスしてピペットチップ30がピペットチップ保持部に固定される。このときの力のバランスは、分注操作を行う任意のタイミングで変更することが可能で、例えば何かにぶつかりそうな場合にのみ2つのOリングへの押し付けを強くし、衝撃に備えるなどの対応を行ってもよい。また、ピペットチップ30を固定する場所はピペットチップトレイ60以外の場所でもよく、例えばピペットチップ30の仮置き場所を作り、使う試薬ごとにピペットチップ30を交換し同じ試薬の場合は同じピペットチップを使用することも可能である。
【0027】
図4に分注機構の断面において、中空状部品の配置及びそれぞれの径の関係を示す。中空シャフト106はOリング101、102の内径より外径が小さく設計されている。固定フランジ103の末端部、可動スペーサ104、及びノズル部105は、押しつぶすためにOリング101、102の内径より大きく設計されているが、ピペットチップ嵌合部301よりは外径が小さく設計されている。チップ押出部202はピペットチップ嵌合部301より大きく設計されている。
【0028】
図5(a)の付勢状態において鉛直方向下向きにかかる静止摩擦力をF
0、弾性体の復元力をT、ピペットチップの重さをm、重力加速度をg、とすると、その関係は
F
0=T+mg
となる。静止摩擦力は動かそうとする力に反発する力であるため、この等号は必ず成り立つ。次に、
図5(b)のように外部からの力が加わるとき、その鉛直方向下向き成分をF
outとすると、
F
0=T+mg+F
out
という等号が成り立つ。ここで、静止摩擦係数をμ、垂直抗力をNとすると静止摩擦力は、
F
0=μN
で表され、
N=(T+mg+F
out)/μ
と表すことができる。T、m、μは使用した材料によって一意に決まる為、想定される外力F
outに対して、インパクトの瞬間にN以上の力がかかるようにOリングを押し付ければ理論上ピペットチップは外れないことになる。この時、Oリングを押し付けるアクチュエータの力が足りない場合は、Tを調節する、摩擦係数の高いOリングに変更する、Oリングとピペットチップ内壁との間に摩擦係数の高い薄膜を挟むといった工夫を行い、条件を満たすようにするとよい。
【0029】
図5に付勢状態及び解放状態におけるピペットチップを固定する力と外そうとする力のバランスを示す。
図5(a)及び
図5(b)で示すように、静止摩擦力は外力に対して動かないようにする力であるため、外部からの衝撃が有っても無くても固定しようとする力と外そうとする力は常に釣り合っている。
図5(c)のように解放状態でかつ取り外し機構が有る場合は、Oリングの固着が有っても取り外し機構の効果により外そうとする力が上回るため、ピペットチップを外すことができる。しかし、
図5(d)のように、取り合外し機構が無い場合、ピペットチップのわずかな重さに対応する重力のみでは、Oリングの固着による力を超えることができない為、ピペットチップを外すのに失敗してしまう。
特許文献1及び特許文献2においてはOリングの固着が起こった場合
図5(d)の状態になってしまう可能性が高いため、耐久性が必要な分注機構において実用的ではない。
【実施例】
【0030】
実施例として微粒子を微細な流路内で染色し、その蛍光観察するための検査装置を
図6に示す。また、これを模式的に示したものを
図7に示し、検査に用いる検査チップ803の構造をより詳細に示したものを
図8に示す。
【0031】
この装置は、誘電泳動により検査チップ803の底部に配置された粒子保持部803gに微粒子を導入して染色し、その微粒子の蛍光観察をするための装置である。
【0032】
この装置の構成は、染色と蛍光観察が可能な流路構造を持つ12枚の検査チップ803、染色試薬を導入するための分注機構、染色に関わる部材が配置されている染色ユニット80、染色後の検査チップ803を蛍光観察する観察ユニット90、及び検査チップ803を染色ユニット80と観察ユニット90の間を移動させる検査チップ運搬用アーム801gから構成される。本装置で行う染色工程は、洗浄液の導入も含めて、12枚のチップに対してそれぞれ20回ほど試薬の導入を行う想定をしている。本分注機構の発明により、使用したピペットチップ30を試薬ごとに繰り返し使う想定をしているが、そうでない場合はもっと大量のピペットチップ30と、そのピペットチップ30の廃棄するためのスペースと機構の設置が必要となる。
【0033】
分注・搬送モジュール801を制御するアクチュエータはX軸及びZ軸方向にのみ移動し、上段ステージ802a、中段ステージ802b、及び下段ステージ802cのアクチュエータはY軸方向にのみ動くようになっている。分注・搬送モジュール801に搭載されている試薬挿入用分注機構801a、廃液吸引機構801c、検査チップ搬送用アーム801gは、X軸方向には個別に動かすことはできないが、Z方向にはそれぞれ独立に動かすことができる仕様となっている。
【0034】
多段移動ステージ802は、上段ステージ802a、中段ステージ802b、下段ステージ802cに分かれており、上段ステージ802a及び中段ステージ802bには検査チップ803を配置し、下段ステージ802cには染色に必要なピペットチップ30を収納したピペットチップトレイ802d、試薬チューブトレイ802e、試薬ボトル802fを配置してある。上段ステージ802a及び中段ステージ802bに置かれた検査チップ803は、置かれた場所でそのまま染色作業を行う事ができるようになっている為、同時に多数枚の染色作業を並行して進めることも可能となっている。
【0035】
また、下段ステージ802cに染色に必要な試薬やピペットチップ30を置き、そのすぐ上の段に検査チップ803を置くことで、
図9(b)のように、試薬チューブでの試薬吸引から検査チップ803への試薬導入までが縦方向の僅かな距離で行えるよう工夫されている。本装置の動作精度としては、100μm程度の位置精度が必要となるが、
図9(a)のような平面で装置を作った場合数十cm単位の長い距離を移動しなければならず、そのため100μmの位置精度を確保するためには、より剛性の高く重い筐体を使う必要が出てくる。しかし、多段移動ステージでは、より小型で軽量な筐体を使うことができ、装置全体の小型化・軽量化に成功している。
【0036】
本検査装置の動作の流れとしては、分注・搬送モジュール801にピペットチップ30を装着したのち、目的に応じたプロトコルに沿って、検査チップ803の染色を行う。染色の際には流路に気泡等が発生しないように検査チップ803の流路内の圧力損失が発生しないように廃液吸引機構801cの吸引速度をうまく調整して導入を行う。検査チップ試薬導入口803a及び検査チップ廃液排出口803bは、ピペットチップ30が挿入しやすくなるようテーパーのような構造としてもよい。検査チップ試薬導入口803a用のピペットチップ30は試薬ごとに交換するが、洗浄液など試薬間のコンタミネーションが余り気にならないものに関しては、ピペットチップトレイ802dにピペットチップ30を一旦戻し、繰り返し使用することで廃棄チップを少なくできる。
【0037】
検査チップ803の染色が終わったら、検査チップ搬送用アーム801gで観察ユニット90に移動させ、蛍光観察を行う。蛍光観察以外にも、目的に応じて明視野観察、偏光観察などの他の観察手法を組み合わせても良い。観察工程に時間がかかる場合には、観察ユニット90を複数用意し、同時に観察できるようにすると良い。
【0038】
本発明の分注機構を採用することによって、多段移動ステージ802へのZ軸方向への
負荷が軽くなるため、軽量で剛性の低いアクチュエータを多段移動ステージ802に
使用することが可能となる。また、本分注機構ではピペットチップ30の嵌合部が痛まないことから染色の重要度に合わせてピペットチップ30を繰り返し使う事もできる。
【符号の説明】
【0039】
10 :ピペットチップ保持部
101 :第2Oリング
101a:押しつぶされた第2Oリング
102 :第1Oリング
102a:押しつぶされた第1Oリング
103 :固定フランジ
104 :可動スペーサ
105 :ノズル部
106 :中空シャフト
107 :ポンプ接続部
20 :復元力発生部
201 :弾性体
202 :ピペットチップ押出部
30 :ピペットチップ
301 :ピペットチップ嵌合部
302 :ピペットチップ先端部
40 :動力部
401 :エンコーダー
402 :リニアアクチュエータ
403 :ピストン
404 :軸合わせ機構
50 :筐体部
501 :本体固定部
502 :筐体
503 :動力部支持板
504 :動力部支持棒
60 :ピペットチップトレイ
70 :Oリングとピペットチップ内部表面との静止摩擦力
71 :弾性体復元力
72 :ピペットチップにかかる重力
73 :外部からの衝撃の垂直成分
74 :Oリングの固着による力
80 :染色ユニット
801 :分注・搬送モジュール
801a:試薬挿入用分注機構
801b:試薬挿入用ノズル(ピペットチップ)
801c:廃液吸引機構
801d:廃液吸引用ノズル(ピペットチップ)
801e:廃液吸引用ポンプ
801f:廃液ボトル
801g:検査チップ搬送用アーム
802 :多段移動ステージ
802a:上段ステージ(検査チップ用)
802b:中段ステージ(検査チップ用)
802c:下段ステージ(試薬・ピペットチップ用)
802d:ピペットチップトレイ
802e:試薬チューブトレイ
802f:試薬ボトル
803 :検査チップ
803a:検査チップ試薬導入口
803b:検査チップ廃液排出口
803c:観察窓つき染色部
803d:電極を有した天板部材
803e:検査チップ流路スペーサ
803f:電極を有した底板部材
803g:粒子保持部
803h:誘電泳動用電極
90 :観察ユニット
901 :観察用ステージ
902 :観察用光学系