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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】化学強化ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20231219BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20231219BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/097
C03C10/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020040802
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143079
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-08-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110143759(CN,A)
【文献】国際公開第2019/230889(WO,A1)
【文献】特開2012-211051(JP,A)
【文献】特開2000-169184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、
SiOを30~70%、
Al~25%、
LiOを15~40%、
を1~4%
を0.5%以上含有し、かつ
ケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する結晶化ガラスを、硝酸カリウムを80質量%以上含有する塩で強化して化学強化ガラスを得ることを含む、化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の電子機器のカバーガラス等に、化学強化ガラスが用いられている。近年、携帯端末等の電子機器の表示が高精細化されている。化学強化ガラスは、例えばアルカリ金属イオンを含む溶融塩にガラスを接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンと、溶融塩中のアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0003】
一般的に化学強化ガラスの表面には、イオン交換処理による屈折率変化が生じる。例えば、Naイオンを含むガラスを、Kイオンを含む溶融塩により化学強化した化学強化ガラスは、化学強化された領域での光の屈折率が上昇する。ガラスの表層がイオン交換された化学強化ガラスでは、表層における光の屈折率が変化し、表層から内部にいくにしたがって、バルクのガラスの屈折率に近づいていく(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5556724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、近年、携帯端末等の電子機器の表示は高精細化されているが、イオン交換によって屈折率が変化する化学強化ガラスを電子機器のカバーガラスに用いた場合、高精細化された表示画面の画像に歪みが生じることがある。
【0006】
したがって本発明は、上記課題の解決を図るものであり、高精細化された表示画面における画像の歪みを生じにくい化学強化ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、化学強化ガラスをカバーガラスに用いた場合の高精細化された表示画面における画像の歪みは、化学強化のムラ等によりガラス表層部の組成が不均一となり、ガラス表層部において局所的に屈折率が変化し、光が屈折するためであることを見出した。そして、化学強化ガラスの表層における屈折率の変化量である屈折率分布を特定範囲とすることにより、化学強化のムラが生じたとしても、該画像の歪みを低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.表面圧縮応力値が400MPa以上の化学強化ガラスであって、
表面から板厚中心までの屈折率分布の絶対値が0.002以下である、化学強化ガラス。
2.下記式を満たす、前記1に記載の化学強化ガラス。
-(ΔKO+ΔNaO)≦-1
前記式において、ΔKO及びΔNaOは以下の通りである。
ΔKO:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける、表層から深さ10μmにおける濃度と板厚中心における濃度との差をKO(モル%)に換算した値
ΔNaO:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける、表層から深さ10μmにおける濃度と板厚中心における濃度との差をNaO(モル%)に換算した値
3.酸化物基準のモル%表示で、LiOを15モル%以上含有する前記1または2に記載の化学強化ガラス。
4.厚さ0.7mm換算の可視光透過率が85%以上、かつ
厚さ0.7mm換算のヘーズ値が0.5%以下の結晶化ガラスである、前記1または2に記載の化学強化ガラス。
5.前記結晶化ガラスがケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する、前記4に記載の化学強化ガラス。
6.酸化物基準のモル%表示で、
SiOを30~70%、
Alを2~25%、
LiOを15~40%含有する、前記1~5のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
7.酸化物基準のモル%表示で、
SiOを30~70%、
Alを2~25%、
LiOを15~40%含有し、かつ
ケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する結晶化ガラスを、硝酸カリウムを80質量%以上含有する塩で強化して化学強化ガラスを得ることを含む、化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化学強化ガラスは、表面から板厚中心までの屈折率分布が特定範囲であることにより、ガラス表層部における光の屈折が抑制されるため、化学強化のムラ等が生じたとしても、電子機器のカバーガラスに用いた場合に高精細化された表示画面における画像の歪みを生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、二光束干渉計における屈折率分布に供するガラスのサンプルの調製方法を示す。
図2図2(a)~(c)は、二光束干渉計により測定した屈折率分布を示す図である。図2(a)は例2、図2(b)は例4、図2(c)は例5の結果をそれぞれ示す。
図3図3(a)は例2の組成プロファイルを示す。図3(b)は、例4の組成プロファイルを示す。
図4図4(a)は例2の板厚中心を基準とする組成差プロファイルを示す。図4(b)は例4の板厚中心を基準とする組成差プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0012】
本明細書において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指す。化学強化ガラスでは通常、ガラス表面部分にイオン交換による圧縮応力層が形成されるので、イオン交換されていない部分のガラス組成は化学強化前ガラスの母組成と一致する。
【0013】
本明細書において、ガラス組成は酸化物基準のモル百分率表示で示し、モル%を単に%と記載することがある。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<屈折率分布>
本発明の化学強化ガラスは、表面から板厚中心までの屈折率分布の絶対値が0.002以下であり、好ましくは0.0015以下、より好ましくは0.0010以下、さらに好ましくは0.0005以下である。屈折率分布の絶対値の下限は特に制限されないが、典型的には、0.0001以上である。
【0015】
化学強化は一般的に高温で溶融された処理液に一定時間ガラス基板を浸漬させて行うため、処理液の対流等による温度ムラにより化学強化のムラが生じる場合がある。化学強化のムラにより付与されるガラス板の内部応力にはバラつきが生じることから、従来、カバーガラスに用いた場合に高精細化された表示画面における画像の歪み(以下、単に表示画面における画像の歪みとも略す。)を抑制するため、化学強化ガラスの応力を評価することにより、化学強化のムラを評価し、化学強化のムラが生じていないものが用いられていた。かかる状況において、本発明者らは、化学強化のムラが生じた化学強化ガラスであっても、表面から板厚中心までの屈折率の変化を抑え、屈折率分布の絶対値を0.002以下とすることにより、ガラス表層部の光の屈折を抑制して、表示画面における画像の歪みを抑制できることを見出したものである。
【0016】
ガラスの屈折率分布の測定方法としては、例えば、最小偏角法などにより偏角を計測して屈折率を求める方法、および干渉計を構成して透過波面を計測し、屈折率分布を求める方法等が挙げられる。また、シュリーレン法により屈折率分布を求めることができる。
【0017】
ガラス板の厚み方向に存在する微小領域の屈折率分布を測定するには、被測定物に垂直に入射でき、顕微鏡と干渉計の両機能を備えている二光束干渉計により測定することが好ましい。
【0018】
二光束干渉計における屈折率分布に供するガラスのサンプルの調製方法としては、具体的には、例えば、ガラスを切断して断面方向を観測できるように、厚み0.5mmに鏡面研磨することが好ましい。サンプルの調製方法の具体例について、図1に図示する。
【0019】
二光束干渉計は、次の原理により屈折率分布を測定する。同一の光源から出た光を二つに分けて別々の光路を通してから重ね合わせると、それぞれの光路に位相のズレがあれば干渉を起こし、明暗の縞となって表れる。
【0020】
片方の光路に透明な被検物(ガラス)をセットすることにより、光の位相のずれを干渉縞の移動で観測し、屈折率と距離の積として得る。1縞が光の波長に相当するため、干渉縞の移動量または等密度干渉縞の観測によって、密度分布の定量測定が可能となる。
【0021】
光路長(真空中換算した時の光の進む距離)は、伝搬する距離×屈折率の積分値となるため、被測定物の厚みが一様の場合、光路長は屈折率プロファイルを反映することになる。光の位相のズレは、「2π×光路長差/光の波長」であり、屈折率プロファイルは光の位相のズレとなって、干渉縞に反映される。
【0022】
<表面圧縮応力値>
本発明の化学強化ガラスは、表面圧縮応力値が400MPa以上であり、好ましくは500MPa以上であり、より好ましくは600MPa以上であり、さらに好ましくは700MPa以上、特に好ましくは800MPa以上である。本化学強化ガラスは、母ガラス組成が前述のガラスのガラス組成と等しい。
【0023】
本明細書において「応力プロファイル」は、ガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したパターンである。負の圧縮応力値は、引張応力を意味する。本明細書において「応力プロファイル」の測定は、光導波表面応力計と散乱光光弾性応力計とを組み合わせて用いる方法で測定できる。
【0024】
光導波表面応力計は、短時間で正確にガラスの応力を測定できることが知られている。光導波表面応力計としては、たとえば折原製作所製FSM-6000がある。しかし、光導波表面応力計は原理的に、試料表面から内部に向かって屈折率が低くなる場合にのみ応力を測定できる。化学強化ガラスにおいてガラス内部のナトリウムイオンを外部のカリウムイオンで置換して得られた層は、試料表面から内部に向かって屈折率が低くなるので光導波表面応力計で応力を測定できる。しかし、ガラス内部のリチウムイオンを外部のナトリウムイオンで置換して得られた層の応力は、光導波表面応力計では正しく測定できない。
【0025】
散乱光光弾性応力計を用いる方法は、屈折率分布に関係なく応力を測定できる。散乱光光弾性応力計としては、例えば、折原製作所製 SLP2000がある。しかし、散乱光光弾性応力計は表面散乱の影響を受けやすく、表面付近の応力を正確に測定できない場合がある。2種類の測定装置を組み合わせて用いることで正確な応力測定が可能になる。
【0026】
<組成プロファイル>
本発明の化学強化ガラスは、式-(ΔKO+ΔNaO)で表される値が-1以下であることが好ましく、より好ましくは-2以下であり、さらに好ましくは-4以下である。
【0027】
前記式において、ΔKO及びΔNaOは以下の通りである。
ΔKO:EPMA(electron probe micro analyzer)により測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける、表層から深さ10μmにおける濃度と板厚中心における濃度との差をKO(モル%)に換算した値
ΔNaO:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける、表層から深さ10μmにおける濃度と板厚中心における濃度との差をNaO(モル%)に換算した値
【0028】
本発明において、「表層から深さ10μmにおける濃度」とは板厚方向において、ガラス表面からの深さが10μmの位置における濃度をいう。
【0029】
本発明者らは、例えば、カリウムを含有する溶融塩を用いてリチウム含有ガラスを化学強化した場合、ガラス中のリチウムイオンとナトリウムイオンとの両方がイオン交換されることにより、イオン交換による屈折率変化を抑制できることを見出した。前記式-(ΔKO+ΔNaO)で表される値は、化学強化により溶融塩中のカリウムイオンとイオン交換されたリチウムイオン(LiO)量に相当する。前記式-(ΔKO+ΔNaO)で表される値が-1以下であることにより、ガラス中のNaO及びLiOの両方が化学強化処理によりイオン交換されていることとなり、イオン交換による屈折率の変化を抑制でき、ガラス表層部の光の屈折を抑制して、表示画面における画像の歪みを抑制できる。
【0030】
<化学強化ガラスの母組成>
化学強化ガラスの組成は、簡易的には蛍光エックス線法による半定量分析によって求めることも可能であるが、より正確には、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。なお、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表すものとする。
【0031】
SiOはガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分であり、SiOの含有量は好ましくは30%以上である。SiOの含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、40%以上、50%以上、54%以上、58%以上、60%以上、63%以上、66%以上、68%以上である。一方、SiOの含有量が80%超であると溶融性が著しく低下する。SiOの含有量は好ましくは75%以下であり、より好ましくは74%以下、さらに好ましくは73%以下、よりさらに好ましくは72%以下、特に好ましくは71%以下、最も好ましくは70%以下である。
【0032】
Alを含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、Alの含有量は好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、0.3%以上、0.5%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、2%以上、5%以上である。
【0033】
一方、Alの含有量が25%以下であるとガラスの耐酸性が向上し、または失透温度が高くなるのを抑制できる。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下する。Alの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは16%以下、最も好ましくは14%以下である。
【0034】
は、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。Yを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。Yの含有量は5%以下であると溶融時にガラスが失透するのを抑制できる。Yの含有量は、5%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。
【0035】
MgOは、化学強化する際に化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、また、破砕性を改善する成分であり、含有させることが好ましい。MgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上である。一方、MgOの含有量が20%以下であるとガラスが溶融時に失透しにくい。MgOの含有量は好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下である。
【0036】
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、また、化学強化する際に化学ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、CaOの含有量が15%以下であるとイオン交換性能を向上できるため好ましくは15%以下とする。CaOの含有量は、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下であり、特に好ましくは8%以下である。
【0037】
LiOは、またイオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、また、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分である。ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換する化学強化処理を行う場合、LiOの含有量は、好ましくは15%以上であり、より好ましくは18%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは25%以上である。一方、LiOの含有量が40%以下であるとガラスの耐酸性の低下を抑制できる。LiOの含有量は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは38%以下、さらに好ましくは36%以下、特に好ましくは34%以下、最も好ましくは32%以下である。
【0038】
NaOを含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。また、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、イオン交換する場合には表面圧縮応力層を形成させる。突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、NaOの含有量は好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。一方、NaOの含有量が25%以下であるとガラスの耐酸性の低下を抑制できる。耐酸性の点から、NaOの含有量は好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは16%以下、最も好ましくは14%以下である。
【0039】
Oを含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。また、KOを含有することによりイオン交換性能を向上できる。突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、KOの含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは3%以上である。一方、KOの含有量が20%以下であると、エッチング面の特性を向上できるため、KOの含有量は好ましくは20%以下である。KOの含有量は、より好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは8%以下であり、最も好ましくは6%以下である。
【0040】
NaO、KO及びLiOの含有量の合計(NaO+KO+LiO)は30%以下であることが好ましく、より好ましくは28%以下、さらに好ましくは26%以下、特に好ましくは25%以下である。NaO+KO+LiOが30%以下であることにより、洗浄性を向上できる。
【0041】
TiOは、化学強化する際に化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。TiOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。一方、TiOの含有量が1%以下であると溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質を向上できる。TiOの含有量は好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.25%以下である。
【0042】
ZrOは、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、ガラスの破砕性を改善する効果があり、含有させてもよい。ZrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、ZrOの含有量が2%以下であると溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質を向上できる。ZrOの含有量は好ましくは2%以下であり、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下、特に好ましくは1.4%以下であり、最も好ましくは1.2%以下である。
【0043】
は、ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分である。Bは必須ではないが、Bを含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量を5%以下とすることにより溶融時に脈理が発生するのを抑制し、ガラスの品質が低下しにくいため5%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0044】
は、イオン交換性能およびチッピング耐性を向上させる成分である。Pは含有させなくてもよいが、Pを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Pの含有量が4%以下であることにより、化学強化ガラスの破砕性及び耐酸性が向上するPの含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0045】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、また、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SrOの含有量が20%以下であるとイオン交換性能が向上するため20%以下が好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0046】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、また、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaOの含有量が15%以下であるとイオン交換性能が向上する。BaOの含有量は15%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0047】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が10%以下であるとガラスの耐候性が向上する。ZnOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0048】
La、Nbは、ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。一方、La、Nbの含有量はそれぞれ8%以下であると溶融時にガラスが失透しにくくなりガラスの品質を向上できる。La、Nbの含有量はそれぞれ、8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは3%以下である。
【0049】
Ta、Gdは、ガラスの破砕性を改善するために少量含有してもよいが、屈折率や反射率が高くなるので1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0050】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、TiO、CeO、Er、Nd等が好適なものとして挙げられる。
【0051】
着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。7%以下であるとガラスが失透しにくくなり好ましい。この含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。ガラスの可視光透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0052】
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0053】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。Asは含有しないことが好ましい。Sbを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0054】
<結晶化ガラス>
本発明の化学強化ガラスは、結晶化ガラスであってもよい。本発明の化学強化ガラスが結晶化ガラスである場合には、可視光透過率が85%以上であると、携帯ディスプレイのカバーガラスに用いた場合に、ディスプレイの画面が見えやすいので好ましい。可視光透過率は88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0055】
可視光透過率はJIS R 3106:2019に準拠して測定する。本明細書において「光透過率」は、波長380nm~780nmの光における平均透過率をいう。
【0056】
本発明の化学強化ガラスが結晶化ガラスである場合には、厚さ0.7mm換算のヘーズ値が0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。ヘーズ値が0.5%以下であると、携帯ディスプレイのカバーガラス等に用いた場合に、ディスプレイの画面の視認性が向上する。ヘーズ値はC光源を使用し、JIS K3761:2000に準拠して測定する。
【0057】
結晶化ガラスである場合には、メタケイ酸リチウム結晶、アルミノケイ酸リチウム結晶、リン酸リチウム結晶およびβ-スポジュメン結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を含有する結晶化ガラスが好ましい。これらの中でも、大きな圧縮応力を形成しても激しい破壊が生じ難い点から、メタケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶がより好ましい。
【0058】
結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。
【0059】
結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0060】
結晶化ガラスの析出結晶の平均粒径は、透明性を高くするために300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。析出結晶の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から求めることができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像から推定できる。
【0061】
化学強化ガラスが結晶化ガラスであり、特にケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する結晶化ガラスである場合は、後述するガラス組成を加熱処理して得られるガラスが好ましい。該ガラス組成は、適切な加熱処理によって結晶化するガラス組成である。その場合の加熱処理は、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、第一の処理温度より高温である第二の処理温度に一定時間保持する2段階の加熱処理によることが好ましい。
【0062】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。また、第一の処理温度での保持時間は、充分な数の結晶核が生成するように長く保持することが好ましい。多数の結晶核が生成することで、各結晶の大きさが小さくなり、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0063】
第一の処理温度は、たとえば550℃~800℃であり、第二の処理温度は、たとえば850℃~1000℃であり、第一処理温度で2時間~10時間保持した後、第二処理温度で2時間~10時間保持する。
【0064】
化学強化ガラスがケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する結晶化ガラスである場合は、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを30~70%、
Alを2~25%、
LiOを15~40%含有することが好ましい。
以下、前記ガラスの組成を説明する。
【0065】
SiOはガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。SiOの含有量は30%以上が好ましく、35%以上が好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上である。SiOの含有量は、より好ましくは、60%以上、さらに好ましくは64%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiOの含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下である。
【0066】
Alは化学強化による表面圧縮応力を大きくするために有効な成分であり、1%以上が好ましい。Alの含有量は、より好ましくは、2%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは6%以上、極めて好ましくは8%以上である。一方、ガラスの失透温度が高くなりすぎないためにAlの含有量は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。
【0067】
LiOは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、β-スポジュメン結晶、メタケイ酸リチウム結晶、リン酸リチウム結晶の構成成分である。LiOの含有量は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。メタケイ酸リチウムまたはリン酸リチウムを含有する結晶化ガラスにおいては10%以上が好ましく、14%以上、16%以上、18%以上がより好ましい。一方、ガラスの安定性を高めるためにはLiOの含有量は、40%以下が好ましく、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0068】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明の化学強化ガラスは、ガラス板に化学強化処理を施した後、洗浄および乾燥することにより、製造できる。化学強化処理は、公知の方法によって行える。化学強化処理においては、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Kイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に、浸漬などによってガラス板を接触させる。これにより、ガラス板中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Naイオンに対してはKイオン、Liイオンに対してはNaイオン)と置換される。
【0069】
化学強化処理(イオン交換処理)は、例えば、360~600℃に加熱された硝酸カリウム等の溶融塩中に、ガラス板を0.1~500時間浸漬することによって行うことができる。なお、溶融塩の加熱温度としては、375~500℃が好ましく、また、溶融塩中へのガラス板の浸漬時間は、0.3~200時間が好ましい。
【0070】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
化学強化処理の処理条件は、ガラスの特性・組成や溶融塩の種類、ならびに、最終的に得られる化学強化ガラスに所望される表面圧縮応力や圧縮応力層の深さ等の化学強化特性などを考慮して、適切な条件を選択すればよい。
【0072】
化学強化処理は一回のみ行ってもよく、あるいは2以上の異なる条件で複数回の化学強化処理(多段強化)を行ってもよい。ここで、例えば、1段階目の化学強化処理として、DOLが大きくCSが相対的に小さくなる条件で化学強化処理を行う。その後に、2段階目の化学強化処理として、DOLが小さくCSが相対的に高くなる条件で化学強化処理を行うと、化学強化ガラスの最表面のCSを高めつつ、内部引張応力面積(St)を抑制でき、内部引張応力(CT)を低く抑えることができる。
【0073】
本発明の化学強化ガラスの製造方法の一態様としては、例えば、酸化物基準のモル%表示で、SiOを30~70%、Alを2~25%、LiOを15~40%、を含有し、かつケイ酸リチウム結晶またはアルミノケイ酸リチウム結晶を含有する結晶化ガラスを、硝酸カリウムを80質量%以上含有する塩で強化して化学強化ガラスを得ることを含む製造方法が挙げられる。硝酸カリウムの塩における含有量を80質量%以上とすることによって、高い圧縮応力を入れることができる。塩における硝酸カリウムの含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0074】
本発明の化学強化ガラスが板状(ガラス板)である場合、その板厚(t)は、化学強化の効果を高くする観点から、例えば2mm以下であり、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.9mm以下であり、特に好ましくは0.8mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。また、当該板厚は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、例えば0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0075】
本発明の化学強化ガラスの形状は、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状でもよい。またガラス板は、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、ガラス板の形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、ガラス板は、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0076】
本発明の化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ(TV)、パーソナルコンピュータ(PC)、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲げ加工や成形により板状でない曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【実施例
【0077】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0078】
[試料の作製]
(1)ガラスの作製
表1に酸化物基準のモル百分率表示で記載したガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、溶解、研磨加工ガラス板を作製した。ガラス原料としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩等の一般的なガラス原料を適宜選択し、ガラスとして900gとなるように秤量した。混合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1700℃で溶融し、脱泡した。そのガラスをカーボンボード上に流して、ガラスブロックを得た。
【0079】
(2)結晶化ガラスの作製
得られたガラスブロックを50mm×50mm×1.5mmに加工してから、表2に示す条件で加熱処理して結晶化ガラスを得た。表の結晶化条件欄は、上段が核生成処理条件、下段が結晶成長処理条件であり、例えば上段に550-2、下段に730-2と記載した場合は、550℃で2時間保持した後、730℃に2時間保持したことを意味する。得られた結晶化ガラスの一部を用いて、粉末X線回折によりメタケイ酸リチウムが含まれていることを確認した。
【0080】
(3)試料の作製
(1)または(2)で得られたガラスを加工し、鏡面研磨して厚さtが0.7mmのガラス板を得た。結晶化ガラスについては、残った結晶化ガラスの一部を粉砕して、析出結晶の分析に用いた。
【0081】
前記ガラス板を350℃にて10分間予熱した後、表2に示す条件によりイオン交換処理をし、化学強化ガラスを得た。得られた試料を評価した結果を表2に示す。例1~3は実施例、例4および5は比較例である。「-」は未評価を示す。
【0082】
[評価方法]
(可視光透過率)
分光光度計(PerkinElmer社製;LAMBDA950)に検出器として積分球ユニット(150mm InGaAs Int. Sptere)を用いた構成で、結晶化ガラス板の波長380~780nmにおける光透過率を測定した。該光透過率の算術平均値である平均透過率を可視光透過率[単位:%]とした。
【0083】
(ヘーズ値)
ヘーズメーター(スガ試験機製;HZ-V3)を用いて、C光源でのヘーズ値[単位:%]測定した。
【0084】
(応力プロファイル)
折原製作所製の測定機SLP-2000を用いて応力値を測定し、ガラス表面の圧縮応力値[単位:MPa]、および圧縮応力層深さDOL[単位:μm]を読み取った。
【0085】
(屈折率分布)
図1に示すように得られた化学強化ガラスを切断して断面方向を観測できるように、0.5mmに鏡面研磨し、二光束干渉計(マッハツェンダー干渉計、株式会社溝尻光学工業所)により、表面から板厚中心への屈折率分布を測定した。
【0086】
(EPMA表面KおよびNa濃度)
ガラス表面のKおよびNa濃度は、EPMA(JEOL製JXA-8500F)を用いて測定した。サンプルに化学強化を施した後、樹脂に包埋して鏡面研磨した。最表面の濃度は正確に測定しにくいことから、含有量の変化がほとんどないと考えられるSiの信号強度が板厚中心の信号強度の半分になる位置のKの信号強度が最表面のK濃度に対応すると仮定し、板厚中心の信号強度は強化前のガラス組成に対応するものとして最表面のK濃度を算出した。
【0087】
EPMAによる測定により得られた組成プロファイルを図3(a)および(b)に示す。図3(a)は例2、図3(b)は例4の結果をそれぞれ示す。EPMAによる測定結果から、KOおよびNaOの酸化物換算した組成プロファイルを図4(a)および(b)に示す。図4(a)は例2、図4(b)は例4の結果をそれぞれ示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表2及び図2(a)に示すように、実施例である例1~3は表面から板厚中心までの屈折率分布の絶対値が0.002以下と小さく、化学強化のムラが生じたとしても、表示画面における画像の歪みが小さく抑えられると考えられる。
【0091】
一方、表2及び図2(b)に示すように、比較例である例4は、ガラス表面の屈折率が内部より0.0061高くなっており、化学強化のムラが生じた場合に表示画面における画像の歪みが生じると考えられる。また、表2及び図2(c)に示すように、比較例である例5は、ガラス表面の屈折率が内部より0.0051小さくなっており、化学強化のムラが生じた場合には表示画面における画像の歪みが生じると考えられる。
【0092】
また、図4(a)に示すように、実施例である例2はガラス表面の-(ΔKO+ΔNaO)の値が負の値であった。-(ΔKO+ΔNaO)はLiOに相当し、NaO及びLiOの両方がイオン交換されていることにより図2(a)に示すように、イオン交換により屈折率変化が抑制されていると考えられる。一方、図4(b)に示すように、比較例である例4は、ガラス表面における-(ΔKO+ΔNaO)の値がほぼゼロとなっており、図2(b)に示すように、イオン交換による屈折率変化が大きいものと考えられる。
図1
図2
図3
図4