IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-絶縁電線の製造方法 図1
  • 特許-絶縁電線の製造方法 図2
  • 特許-絶縁電線の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/14 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H01B13/14 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020086427
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021182461
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中橋 正信
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-081871(JP,A)
【文献】特開昭63-281311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線の製造方法であって、
(a)ベースポリマを含む樹脂組成物からなるペレットを作製する工程、
(b)前記(a)工程後、前記ペレットに液状の架橋剤を含浸させる工程、
(c)前記(b)工程後、前記架橋剤が含浸された前記ペレットを混練して、前記導体の外周を被覆するように押し出すことにより、前記導体を被覆する前記絶縁層を形成する工程、
を有し、
前記ベースポリマは、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体のみからなり、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、前記エチレン-アクリル酸エチル共重合体を5質量%以上30質量%以下含有し、
前記エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量は、5質量%以上35質量%以下である、絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の絶縁電線の製造方法において、
前記(a)工程で作製された前記ペレットは、架橋剤を含んでいない、絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の絶縁電線の製造方法において、
(d)前記導体を被覆する前記絶縁層に架橋処理を施す工程、
を更に有する、絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載の絶縁電線の製造方法において、
前記絶縁層は、含ふっ素エラストマ絶縁層である、絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱性および難燃性が要求される絶縁電線の被覆材料として、テトラフルオロエチレンと炭素数2~4のαオレフィンとの共重合体が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
押出機を用いて絶縁電線を製造する場合には、絶縁体材料は、帯状又はペレット状のコンパウンドとして押出機に投入される。しかしながら、帯状のコンパウンドは、作製に手間がかかり、作製後の取り扱い性も良くないため、ペレット状のコンパウンドを用いることが好ましい。
【0004】
ペレット状のコンパウンドを用いる場合、長期保管の目的で、始めに、架橋剤の入っていないコンパウンド(A練りコンパウンドペレット)を作製しておき、次に、使用するタイミングに合わせて、架橋剤が添加されたコンパウンド(B練りコンパウンドペレット)をA練りコンパウンドペレットを用いて作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-6969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は非晶質であり粘着しやすいことから、例えば離型剤を打粉することにより、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体を用いたA練りコンパウンドペレットを作製することができる。しかしながら、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は、ふっ素系材料であることから、架橋剤との相溶性が劣る。このため、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体を用いたA練りコンパウンドペレットに対して、後で液状の架橋剤を含浸させることは困難であった。
【0007】
A練りコンパウンドペレットへ架橋剤を含浸させることにより、架橋剤が添加されたB練りコンパウンドペレットを作成し、そのB練りコンパウンドペレットを用いて絶縁電線の絶縁層を形成する場合、A練りコンパウンドペレットへの架橋剤の含浸が不十分であると、製造された絶縁電線の性能が低下し、絶縁電線の製造歩留まりが低下する虞がある。かといって、A練りコンパウンドペレットに架橋剤を含浸させる手法を用いない場合は、A練りコンパウンドペレットに架橋剤を加えて混練し、再度ペレット化を行うことにより、架橋剤が添加されたB練りコンパウンドペレットを作製しなければならず、非常に工程数の多い作業が必要となる。この場合、A練りコンパウンドペレットを予め作製しておくメリットが損なわれてしまう。
【0008】
このため、絶縁電線の耐熱性を確保しながら、絶縁電線の絶縁層を形成するために用いられるペレットに架橋剤を的確に含浸させることができるようにすることが望まれる。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施の形態によれば、絶縁電線の製造方法は、ベースポリマを含む樹脂組成物からなるペレットを作製する工程と、前記ペレットに液状の架橋剤を含浸させる工程と、前記架橋剤が含浸された前記ペレットを混練して、導体の外周を被覆するように押し出すことにより、前記導体を被覆する絶縁層を形成する工程と、を有する。前記ベースポリマは、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体を70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を5質量%以上30質量%以下含有する。前記エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量は、5質量%以上35質量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、絶縁電線の耐熱性を確保しながら、絶縁電線の絶縁層を形成するために用いられるペレットに架橋剤を的確に含浸させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す工程フロー図である。
図2】一実施形態に係る絶縁電線の製造方法で用いられる押出機を示す模式図である。
図3】一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を用いて製造された絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0014】
(実施の形態)
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[絶縁電線の製造方法]
まず、本実施形態の絶縁電線の製造方法について説明する。図1は、本実施形態の絶縁電線の製造方法を示す工程フロー図である。図2は、本実施形態の絶縁電線の製造方法で用いられる押出機11を示す模式図である。図3は、本実施形態の絶縁電線の製造方法を用いて製造された絶縁電線20を模式的に示す断面図である。なお、図3には、絶縁電線20の延在方向に略垂直な断面が示されている。以下に示す工程は、それぞれ独立して行われても良いし、一連の工程として連続的に行われても良い。
【0016】
<ペレットを作製する工程:図1のステップS1>
まず、ベースポリマを含む樹脂組成物からなるペレットを作製する。前記ベースポリマ(樹脂成分)は、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体を70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を5質量%以上30質量%以下含有する(ここで、ベースポリマ全体を100質量%とする)。但し、ペレットを構成する前記樹脂組成物は、架橋剤を含んでおらず、すなわち、ステップS1で作製されたペレットは、架橋剤を含んでいない。
【0017】
ステップS1のペレットを作製する工程は、例えば次のようにして行うことができる。すなわち、ベースポリマとして、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体を70~95質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を5~30質量部(ベースポリマ全体を100質量部とする)とを含む材料を、ニーダ(混合機)を用いて混練し、押出機から紐状に押出す。そして、押出機から押出された紐状コンパウンドをカッタなどを用いてペレット状にカッティング(切断)し、これに離型剤を打粉することにより、ペレットを作製することができる。ニーダで混練される材料には、架橋剤は添加されていないため、作製されたペレットは、架橋剤を含有していない。
【0018】
本実施の形態とは異なり、ステップS1において、ペレットを作製せずに、帯状コンパウンドを作製した場合、後で帯状コンパウンドに架橋剤を添加するためには、混練作業によって架橋剤を添加する必要があり、混練工程と帯状化工程とが再度必要となる。一方、本実施の形態のように、ステップS1においてペレットを作製した場合は、後でペレット状コンパウンドに架橋剤を添加するためには、ペレット状コンパウンドに架橋剤を含浸させればよく、例えば、液状の架橋剤中でペレット状コンパウンドを撹拌、混合するだけで、架橋剤が添加(含浸)されたペレット状コンパウンドを作製できる。このため、工程を簡略化できる。また、押出作業において、ペレットは、移動、計量、押出機投入口への供給などのハンドリング性が優れる利点もある。このため、本実施の形態では、ステップS1において、ペレットを作製している。
【0019】
本実施の形態で用いる炭素数2~4のαオレフィンとしては、テトラフルオロエチレンと共重合してエラストマ性状を呈するものが好ましい。本実施の形態で用いる炭素数2~4のαオレフィンとしては、プロピレン単独、ブテン-1単独、並びにエチレン、プロピレン、ブテン-1及びイソブテンから選ばれる2種以上の組合せが例示されるが、プロピレンがより好ましい。このため、上述したテトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体としては、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体がより好ましい。
【0020】
また、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体としては、主成分のテトラフルオロエチレンとプロピレンに加えて、これらと共重合可能な成分、例えば、エチレン、イソブチレン、アクリル酸及びそのアルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等を適量、含有させたものであってもよい。
【0021】
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は、耐熱性、成型性等の点からテトラフルオロエチレン/プロピレンの含有モル比を95/5~30/70の範囲に選定することが好ましく、特に好ましくは、90/10~45/55の範囲がよい。また、前記共重合体の成分を100モル%とした場合に、テトラフルオロエチレンとプロピレンからなる主成分以外の成分の含有量としては50モル%以下、特に30モル%以下の範囲から選定することが好ましい。
【0022】
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の数平均分子量は、2万~20万とすることが押出性及び機械的強度の点から好ましく、数平均分子量が大きすぎると成形体にクラックが発生しやすくなり、一方、数平均分子量が小さすぎると成形体の機械的強度が不十分となりやすい。この場合の数平均分子量の調整は、単量体濃度、重合開始剤濃度、単量体対重合開始剤量の比、重合温度、連鎖移動剤使用等の共重合反応条件の操作により直接生成重合体の分子量を調整する方法、あるいは、共重合反応時には高分子量共重合体を生成し、これを酸素存在下に加熱処理するなどして低分子量化する方法により、行うことができる。
【0023】
本実施の形態においては、ステップS1で作製されたペレットは、ベースポリマとして、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体に加えて、エチレン-アクリル酸エチル共重合体も含有している。エチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いる理由は、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と架橋剤とは、相溶性が劣るためである。本実施の形態では、ステップS1において、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体にエチレン-アクリル酸エチル共重合体をブレンドしたペレットを作製しており、エチレン-アクリル酸エチル共重合体と架橋剤とは相溶性に優れる。ステップS1で作成されたペレットが、架橋剤との相溶性に優れるエチレン-アクリル酸エチル共重合体を含有することで、次工程(ステップS2)において、ペレットに液状の架橋剤を容易かつ的確に含浸させることができるようになる。
【0024】
本実施の形態においては、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量(アクリル酸エチル量の比率)は、5質量%以上であることが好ましく、5質量%以上35質量%以下であることが更に好ましい。すなわち、アクリル酸エチル量が5質量%以上であるエチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いることが好ましく、アクリル酸エチル量が5質量%以上35質量%以下であるエチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いることが更に好ましい。その理由は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量が5質量%以上であれば、ペレットに対する架橋剤の含浸性が良好となる(すなわちステップS2でペレットに架橋剤を含浸させやすくなる)からである。また、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量が35質量%以下であれば、後述のステップS3で押出成型した後に絶縁電線同士が束粘着を起こしにくくなるからである。
【0025】
上述のように、本実施の形態では、ステップS1で作製されたペレットは、ベースポリマ(樹脂成分)として、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含有している。そして、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体の含有量は、ベースポリマ(樹脂成分)中で70質量%~95質量%とし、エチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有量は、ベースポリマ(樹脂成分)中で5質量%~30質量%としている。その理由は、ベースポリマにおけるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有量が30質量%以下であれば、製造された絶縁電線において高い耐熱性を維持できるからである。テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体が本来有する優れた耐熱性を維持するには、ベースポリマにおけるテトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体の含有量は、70質量%以上であることが望ましい。また、ベースポリマにおけるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有量が5質量%以上であれば、架橋剤との相溶性に優れるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有量が確保されることにより、ステップS2におけるペレットに対する架橋剤の含浸性が良好となり(すなわちステップS2でペレットに架橋剤を含浸させやすくなり)、また、押出性も良好となる(すなわちステップS3が行いやすくなる)からである。
【0026】
また、本実施の形態においては、ステップS1で作製されたペレットを構成する樹脂組成物は、上記成分(ベースポリマ)以外に、難燃剤、充填剤(無機充填剤)、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤等の添加剤を、必要に応じて種々配合(含有)することが可能である。
【0027】
本実施の形態においては、上記難燃剤として、すず酸亜鉛を用いることができる。これにより、製造された絶縁電線の難燃性を向上させることができる。ステップS1で作製されたペレットを構成する樹脂組成物において、すず酸亜鉛の含有量は、ベースポリマ100質量部に対して、2質量部~20質量部が好ましい。その理由は、すず酸亜鉛の含有量が2質量部以上であれば、難燃性を向上させる効果が得られ、すず酸亜鉛の含有量が20質量部以下であれば、高い耐熱性を維持できるためである。
【0028】
本実施の形態においては、上記難燃剤として、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)を用いることもできる。これにより、製造された絶縁電線の難燃性を向上させることができる。ステップS1で作製されたペレットを構成する樹脂組成物において、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)の含有量は、ベースポリマ100質量部に対して、0.3質量部~15質量部が好ましい。その理由は、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)の含有量が0.3質量部以上であれば、難燃性を向上させる効果を得られ、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)の含有量が15質量部以下であれば、高い耐熱性を維持できるためである。
【0029】
本実施の形態において、ステップS1で作製されたペレットを構成する樹脂組成物に、充填剤を配合(添加)することができるが、充填剤の含有量は、ベースポリマ100質量部に対して5質量部~20質量部が好ましい。その理由は、充填剤の含有量が5質量部以上であれば、後述のステップS3で押出成型した後に絶縁電線同士が束粘着を起こしにくく、充填剤の含有量が20質量部以下であれば、高い耐熱性を維持できるためである。
【0030】
また、上記したベースポリマに対して、架橋助剤、充填剤等を添加することもできる。架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、テトラアリルピロメリテートなどのアリル型化合物が特に好ましい。充填剤としては無機充填剤が好ましく、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0031】
<ペレットに架橋剤を含浸させる工程:図1のステップS2>
次に、ステップS1で作製されたペレットに、液状の架橋剤を含浸させる。ステップS1で作製されたペレットは、架橋剤を含んでいないが、ステップS2でペレットに液状の架橋剤を含浸させることにより、ペレットは、架橋剤を含有した状態になる。例えば、容器内の液状の架橋剤中にペレットを浸し、液状の架橋剤とペレットを撹拌、混合することにより、ペレットに架橋剤を含浸させることができる。
【0032】
テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と架橋剤とは、相溶性が劣るため、本実施の形態とは異なり、ステップS1で作製されたペレットがエチレン-アクリル酸エチル共重合体を含有していない場合には、ステップS2において、ペレットに液状の架橋剤を含浸させることが困難になる。それに対して、本実施の形態では、ステップS1において、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体にエチレン-アクリル酸エチル共重合体をブレンドしたペレットを作製しており、エチレン-アクリル酸エチル共重合体と架橋剤とは相溶性に優れる。ステップS1で作製されたペレット(すなわちステップS2で使用するペレット)は、架橋剤との相溶性に優れるエチレン-アクリル酸エチル共重合体を適量含有しているため、ステップS2において、ペレットに液状の架橋剤を容易かつ的確に含浸させることができる。
【0033】
本実施の形態において、液状の架橋剤としては、有機過酸化物系架橋剤が好ましい。これにより、架橋後のイオン性不純物の残留を防止することができる。この場合、架橋剤としては、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、あるいは二種以上混合して使用してもよい。これらのうち、ジアルキルパーオキサイドが特に好ましい。過酸化物以外に液状化する架橋剤があれば、過酸化物以外の架橋剤も使用可能である。
【0034】
<絶縁電線の絶縁層を形成する工程:図1のステップS3>
次に、ステップS2で架橋剤を含浸させたペレットを用いて、絶縁電線の絶縁層を形成する。すなわち、ステップS2で架橋剤が含浸されたペレットを混練して、導体21の外周を被覆するように押し出すことにより、導体21を被覆する絶縁層22を形成する。
【0035】
図2には、ステップS3で用いられる押出機(押出被覆装置)11の一例が示されている。図2に示される押出機11は、ペレット10を投入するためのホッパ12と、ホッパから投入されたペレット10を加熱するためのシリンダ13と、シリンダ13内でペレット10を混練して押し出すスクリュ14と、導体21の周囲に樹脂組成物(ペレット10により形成された樹脂組成物)を被覆するためのヘッド15と、シリンダ13とヘッド15とを接続するネック16と、を有している。ステップS3でホッパ12に投入されるペレット10は、ステップS2で架橋剤を含浸させたペレットである。
【0036】
ステップS2で架橋剤を含浸させたペレット10は、ステップS3において、ホッパ12からシリンダ13内に投入され、シリンダ13内で回転するスクリュ14により混練されて溶融し、導体21の周囲を被覆するように押し出される。これにより、導体21を被覆する絶縁層22(後述の図3参照)が形成される。従って、導体21と導体を被覆する絶縁層22とを有する絶縁電線20が得られる。形成された絶縁層22は、ペレット10を構成していた樹脂組成物からなる。
【0037】
その後、導体21を被覆する絶縁層22に対して、架橋処理が施される。架橋方法としては、化学架橋、あるいは、γ線や電子線等の電離性放射線の照射による照射架橋が採用可能であり、特に限定はされない。このようにして、絶縁電線20を製造することができる。
【0038】
ステップS3で形成された絶縁層22は、フッ素を含有するエラストマ(含フッ素エラストマ組成物)からなり、従って、含ふっ素エラストマ絶縁層である。絶縁電線20は、含フッ素エラストマ被覆絶縁電線である。
【0039】
[絶縁電線]
次に、上述した絶縁電線の製造方法(ステップS1~S3)を用いて製造された絶縁電線20について、図3を参照して説明する。
【0040】
図3に示すように、絶縁電線20は、導体21と、導体21を被覆する絶縁層22と、を備えている。
【0041】
導体21としては、通常用いられる金属線、例えば銅線または銅合金線を用いることができるが、それ以外にも、アルミニウム線、金線または銀線などを用いることもできる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを、導体21として用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた集合撚り導体等の撚線導体を、導体21として用いることもできる。導体21の外径は、特に限定されず、絶縁電線20に求められる電気特性に応じて適宜変更することができる。
【0042】
導体21の外周には、導体21を被覆するように絶縁層22が設けられている。絶縁層22は、上述のステップS1~S3に従って形成されている。絶縁層22の厚さは、特に限定されず、絶縁電線20に求められる電気特性に応じて適宜変更することができる。
【0043】
(実施例)
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例および比較例の材料>
実施例1~7および比較例1~4で用いた材料は、以下のとおりである。
1)テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体:旭硝子株式会社製 アフラス150E
2)エチレン-アクリル酸エチル共重合体:アクリル酸エチル量3質量%、7質量%、20質量%、35質量%または40質量%
3)その他添加剤
3-1)架橋剤(有機過酸化物):α,α’-ジ(ターシャルーブチルパーオキサイド)ジイソプロピルベンゼン 日本油脂株式会社製 パーブチルP
3-2)架橋助剤(アリル型化合物):トリアリルイソシアヌレート
3-3)架橋助剤:酸化マグネシウム
3-4)充填剤(シリカ):日本アエロジル株式会社製 アエロジルR-972
3-5)充填剤(炭酸カルシウム):白石工業株式会社製 ソフトン1200
3-6)難燃剤:すず酸亜鉛
3-7)難燃剤(臭素系難燃剤):エチレンビス(ペンタブロモベンゼン) アルベマール株式会社製 サイテックス8010
【0045】
(実施例1)
まず、ペレット作製方法について説明する。下記表1に示す配合で、絶縁電線の絶縁層を形成するための樹脂組成物(含ふっ素エラストマ組成物)を調整した。
【0046】
具体的には、まず、架橋剤を除く成分、つまり、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を70質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を30質量部と、架橋助剤としてアリル型化合物を5質量部と、酸化マグネシウムを1質量部と、充填剤としてシリカを5質量部と、炭酸カルシウムを5質量部と、難燃剤としてすず酸亜鉛を5質量部と、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)を5質量部とからなる成分をニーダで混練し、押出機で紐状に押出し、押出された紐状コンパウンドをカッティングして離型剤を打粉し、ペレットを作製した。この段階では、ペレットは架橋剤を含んでいない。
【0047】
次に、架橋剤を含まないペレットに液状化した架橋剤(有機過酸化物)を2質量部加え、それらを撹拌、混合することで、架橋剤が含浸されたペレットを作製した。
【0048】
次に、押出による絶縁電線の作製方法について説明する。架橋剤が含浸されたペレット(ペレットコンパウンド)を、第1シリンダ:80℃、第2シリンダ:80℃、第3シリンダ:80℃、ヘッド:90℃、ダイス:100℃、の各温度に設定した40mm押出機を用い、外径0.9mmの錫めっき銅撚線導体上に厚さ0.4mmに押出被覆し、その後13気圧のスチームにて3分間、架橋処理を行うことにより、絶縁電線を作製した。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例2)
実施例2では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を80質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を20質量部とを用いた点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を90質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を10質量部とを用いた点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0052】
(実施例4)
実施例4では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を95質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を5質量部とを用いた点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0053】
(実施例5)
実施例5では、質量増加率を少なくしたエチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いた点以外は(従ってエチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチルの量を小さくした点以外は)、実施例2と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0054】
(実施例6)
実施例6では、質量増加率を多くしたエチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いた点以外は(従ってエチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチルの量を大きくした点以外は)、実施例2と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0055】
(実施例7)
実施例7では、エチレン-アクリル酸エチル共重合体の質量増加率を多くしてエチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチルの量を5~35質量%の範囲よりも大きい40質量%とした点以外は、実施例2と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を60質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を40質量部とを用いた点以外は、従ってテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体とエチレン-アクリル酸エチル共重合体との比率(混合比率)を上記実施の形態で規定する範囲外とした点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を98質量部と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を2質量部とを用いた点以外は、従ってテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体とエチレン-アクリル酸エチル共重合体との比率(混合比率)を上記実施の形態で規定する範囲外とした点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0058】
(比較例3)
比較例3では、ベースポリマとしてテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体を100質量部を用い、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を用いなかった点以外は、従ってテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体とエチレン-アクリル酸エチル共重合体との比率(混合比率)を上記実施の形態で規定する範囲外とした点以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0059】
(比較例4)
比較例4では、エチレン-アクリル酸エチル共重合体の質量増加率を少なくしてエチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチルの量を上記実施の形態で規定する範囲(5~35質量%)よりも少ない3質量%とした点以外は、実施例2と同様に樹脂組成物を調整して絶縁電線を作製した。
【0060】
<実施例および比較例の評価方法>
実施例1~7および比較例1~4は、以下の項目(含浸性、押出性、耐熱性、難燃性)により評価した。
【0061】
(1)含浸性
含浸性は、架橋剤を含浸させたペレットを架橋剤の融点以上の温度環境で放置して、ペレット表面に艶がない場合を合格(〇)、ペレット表面に艶がある場合を不合格(×)として、評価した。架橋剤がペレットに含浸されなかった場合は、ペレットを架橋剤の融点以上の温度環境で放置すると、ペレット表面で架橋剤が溶けて艶がでてくるためである。
【0062】
(2)押出性
押出性(空回り)は、押出機の投入口でペレットが空回りしない場合を合格(〇)とし、空回りした場合を不合格(×)として、評価した。また、押出性(束粘着)は、押出成型後の絶縁電線を束状に巻き取った後、絶縁電線同士が粘着しない場合を合格(〇)とし、粘着した場合を不合格(×)として評価した。
【0063】
(3)耐熱性
耐熱性は、次のように評価した。まず、上記のようにして製造した絶縁電線から錫めっき銅撚線を引き抜いてチューブ形状の試料を用意する。この試料は、残存する絶縁層(絶縁電線を構成していた絶縁層)からなる。それから、チューブ状の試料を熱老化試験機に入れて250℃で4日間経過させた後、熱老化試験機からチューブ状の試料を取出して、その試料の引張特性を測定した。そして、試料の初期引張特性に対する熱老化後の引張特性の比を次の式1
残率(%)=(熱老化後引張特性/初期引張特性)×100 ・・・式1
により算出した。耐熱性は、この残率が80%以上の場合を、合格として評価した。
【0064】
(4)難燃性
難燃性は、UL758に準拠した垂直燃焼試験(VW-1)を行い、1分以内に自己消火した場合を合格(〇)とし、1分を超える場合を不合格として評価した。
【0065】
(5)評価結果
実施例1~7および比較例1~4の評価結果を上記表1にまとめてある。
【0066】
実施例1~7では、ペレットを構成する樹脂組成物は、ベースポリマ(樹脂成分)として、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含有している。そして、実施例1~7では、ベースポリマにおけるテトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体の含有量は、70質量%~95質量%の範囲内とし、ベースポリマにおけるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有量は、5質量%~30質量%の範囲内とし、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量は、5質量%以上としている。このような実施例1~7の場合は、上記評価項目(含浸性、押出性(空回り)、押出性(束粘着)、耐熱性、難燃性)のうち、含浸性、押出性(空回り)、耐熱性、難燃性が合格であった。
【0067】
また、実施例1~6の場合は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を、35質量%以下としており、押出性(束粘着)も合格であった。実施例7の場合は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を40質量%としており、押出性(束粘着)は不合格であった。実施例7の場合は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を、35質量%より多くしたため、実施例1~6の場合に比べて、押出性(束粘着)に劣ることが確認された。
【0068】
従って、実施例1~7の場合は、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とをブレンドするとともに、その配合比を最適化し、かつ、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を最適化することにより、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体が本来有する優れた耐熱性を維持しながら、含浸性に優れることが確認された。また、実施例1~7の場合は、押出性(空回り)にも優れることが確認された。更に、実施例1~6の場合は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を更に最適化することにより、押出性(束粘着)にも優れることが確認された。
【0069】
これに対して、比較例1では、ベースポリマにおけるテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体の比率を少なくしすぎたため、耐熱性を高く維持することができないことが確認された。
【0070】
比較例2の場合は、ベースポリマにおけるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の比率が少なすぎ、また、比較例3の場合は、ベースポリマにおけるエチレン-アクリル酸エチル共重合体の比率がゼロであったため、含浸性及び押出性(空回り)が劣ることが確認された。
【0071】
比較例4の場合は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体におけるアクリル酸エチル量を、上記実施の形態で規定する範囲(5質量%以上、より好ましくは5~35質量%)より少なくしたため、含浸性及び押出性(空回り)に劣ることが確認された。
【0072】
以上のように、ベースポリマとして、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体と、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とをそれぞれ適量含有するようにペレットを作製してから、ペレットに液状の架橋剤を含浸させることで、テトラフルオロエチレンと炭素数が2から4のα-オレフィンとの共重合体が本来有する優れた耐熱性を維持しながら、優れた含浸性も得られることが確認された。
【0073】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
10 ペレット
11 押出機
12 ホッパ
13 シリンダ
14 スクリュ
15 ヘッド
16 ネック
20 絶縁電線
21 導体
22 絶縁層
図1
図2
図3