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特許7405073非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材および非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20231219BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231219BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20231219BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20231219BHJP
   H01M 4/13 20100101ALN20231219BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F297/04
C08K5/01
C08L53/02
H01M4/66 A
H01M50/414
H01M50/443 B
H01M50/443 E
H01M50/449
H01M4/13
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020504956
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007612
(87)【国際公開番号】W WO2019172049
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018040486
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 徹也
(72)【発明者】
【氏名】木所 広人
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056404(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/181714(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147007(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107896(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/199353(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/086983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08F 297/04
C08K 5/01
C08L 53/02
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/66
H01M 50/414
H01M 50/443
H01M 50/449
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を有するブロック共重合体からなる粒子状重合体と、
炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンおよび炭素数が5以上8以下のシクロアルカンからなる群より選択される1種以上の飽和炭化水素と、
水と、
を含有し、
前記飽和炭化水素の含有量が、前記粒子状重合体100質量部当たり、0.001質量部以上0.1質量部以下である、非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g以上2.00mmol/g以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体がカップリング部位を更に含む、請求項1または2に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の非水系二次電池用バインダー組成物を含む、非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項5】
更に電極活物質粒子を含む、請求項4に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材、および、非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、二次電池は、一般に、電極(正極および負極)、並びに、正極と負極とを隔離するセパレータなどの電池部材を備えている。
【0003】
ここで、二次電池の電池部材としては、結着材を含み、任意に、電池部材に所望の機能を発揮させるために配合されている粒子(以下、「機能性粒子」という。)を含んでなる機能層を備える部材が使用されている。
具体的には、二次電池のセパレータとしては、セパレータ基材の上に、結着材を含む接着層や、結着材と機能性粒子としての非導電性粒子とを含む多孔膜層を備えるセパレータが使用されている。また、二次電池の電極としては、集電体の上に、結着材と機能性粒子としての電極活物質粒子とを含む電極合材層を備える電極や、集電体上に電極合材層を備える電極基材の上に、更に上述した接着層や多孔膜層を備える電極が使用されている。
そして、これらの機能層を備える電池部材は、例えば、機能性粒子と、結着材を含むバインダー組成物などとを含むスラリー組成物を、セパレータ基材、集電体または電極基材の上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成されている。
【0004】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能の向上を達成すべく、機能層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている。
具体的には、例えば特許文献1では、脂肪族共役ジエン単量体単位からなるブロック領域および芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域を含有する粒子状のブロック共重合体を所定の割合で含む非水系二次電池電極用バインダー組成物が開示されている。また、特許文献1には、当該非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いることにより、ピール強度に優れる非水系二次電池用電極およびサイクル特性に優れる非水系二次電池の提供が可能になることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/056404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、二次電池の製造プロセスにおいては、電解液に浸漬する前の電極とセパレータとを圧着させて積層体とし、必要に応じて所望のサイズに切断したり、積層体のまま運搬したりすることがある。そして、当該切断または運搬の際には、圧着された電極とセパレータとが位置ズレなどを起こし、不良の発生、生産性の低下といった問題を生じることがある。従って、二次電池の電池部材(電極およびセパレータ)には、電解液に浸漬する前の状態においても高い接着性(プロセス接着性)を発揮することが求められている。
【0007】
しかし、上記従来のバインダー組成物を用いて形成した機能層を備える電池部材には、プロセス接着性を更に向上させるという点において改善の余地があった。
【0008】
また、上記従来のバインダー組成物には、結着材として用いられている粒子状のブロック共重合体が結晶化し易く、バインダー組成物を用いて作製した二次電池のサイクル特性が低下し易いという点においても改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、プロセス接着性に優れる非水系二次電池用電池部材およびサイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物および非水系二次電池用機能層を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れたプロセス接着性を発揮し、且つ、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電池部材、並びに、サイクル特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を有するブロック共重合体からなる粒子状重合体を含む水系のバインダー組成物に所定の飽和炭化水素を所定の割合で含有させれば、プロセス接着性に優れる非水系二次電池用電池部材およびサイクル特性に優れる非水系二次電池が形成可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を有するブロック共重合体からなる粒子状重合体と、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンおよび炭素数が5以上8以下のシクロアルカンからなる群より選択される1種以上の飽和炭化水素と、水とを含有し、前記飽和炭化水素の含有量が、前記粒子状重合体100質量部当たり、0.001質量部以上0.1質量部以下であることを特徴とする。このように、所定のブロック共重合体からなる粒子状重合体と、所定の飽和炭化水素とを所定の割合で含有する水系のバインダー組成物を使用すれば、プロセス接着性に優れる電池部材およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することができる。
なお、本発明において、重合体の「単量体単位」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に含まれる、当該単量体由来の繰り返し単位」を意味する。
また、本発明において、重合体が「単量体単位からなるブロック領域を有する」とは、「その重合体中に、繰り返し単位として、その単量体単位のみが連なって結合した部分が存在する」ことを意味する。
そして、本発明において、「飽和炭化水素の含有量」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0012】
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g以上2.00mmol/g以下であることが好ましい。粒子状重合体の表面酸量が上記範囲内であれば、バインダー組成物を用いたスラリー組成物の分散性を高めることができると共に、バインダー組成物を用いて形成した電池部材のプロセス接着性を更に高めることができる。
なお、本発明において、粒子状重合体の「表面酸量」は、粒子状重合体の固形分1g当たりの表面酸量を指し、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0013】
そして、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記ブロック共重合体がカップリング部位を含むことができる。
なお、本発明において、重合体中の「カップリング部位」とは、「カップリング剤を用いたカップリング反応を経て得られる重合体中に含まれる、当該カップリング剤由来の部位」を意味する。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、上述した非水系二次電池用バインダー組成物の何れかを含むことを特徴とする。このように、上述したバインダー組成物を含有させれば、プロセス接着性に優れる電池部材およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することができる。
【0015】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、更に電極活物質粒子を含むことができる。機能性粒子として電極活物質粒子を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、プロセス接着性に優れる電極を作製することができる。
【0016】
そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、更に非導電性粒子を含むことができる。機能性粒子として非導電性粒子を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて多孔膜層を形成すれば、プロセス接着性に優れる電池部材(セパレータおよび電極)を作製することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した非水系二次電池機能層用スラリー組成物の何れかを用いて形成されることを特徴とする。上述したスラリー組成物を使用して形成した機能層を用いれば、プロセス接着性に優れる電池部材およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することができる。
【0018】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用電池部材は、上述した非水系二次電池用機能層を備えることを特徴とする。上述した機能層を備えるセパレータや電極などの電池部材は、プロセス接着性に優れており、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0019】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述した非水系二次電池用電池部材を備えることを特徴とする。上述した非水系二次電池用電池部材を備える二次電池は、優れたサイクル特性を発揮し得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プロセス接着性に優れる非水系二次電池用電池部材およびサイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物および非水系二次電池用機能層が得られる。
また、本発明によれば、優れたプロセス接着性を発揮し、且つ、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電池部材が得られる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、非水系二次電池の製造用途に用いられるものであり、例えば、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物の調製に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、非水系二次電池内において電子の授受、または補強若しくは接着などの機能を担う、任意の機能層(例えば、電極合材層、多孔膜層、接着層)の形成に用いることができる。また、本発明の非水系二次電池用機能層は、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物から形成される。さらに、本発明の非水系二次電池用電池部材は、例えば電極やセパレータであり、本発明の非水系二次電池用機能層を備える。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用電池部材を備える。
【0022】
(非水系二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、粒子状重合体、飽和炭化水素および水系媒体を含有し、任意に、バインダー組成物に配合され得るその他の成分を更に含有する。
そして、本発明のバインダー組成物は、粒子状重合体が、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を有するブロック共重合体からなり、且つ、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンおよび炭素数が5以上8以下のシクロアルカンからなる群より選択される1種以上の飽和炭化水素の含有量が粒子状重合体100質量部当たり0.001質量部以上0.1質量部以下である。このため、本発明のバインダー組成物によれば、プロセス接着性に優れる電池部材およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することが可能になる。
【0023】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、結着材として機能する成分であり、バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用して形成した機能層において、機能性粒子などの成分が機能層から脱離しないように保持すると共に、機能層を介した電池部材同士の接着を可能にする。
そして、粒子状重合体は、所定のブロック共重合体により形成される非水溶性の粒子である。なお、本発明において、粒子が「非水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0024】
[ブロック共重合体]
粒子状重合体を形成するブロック共重合体は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域(以下、「芳香族ビニルブロック領域」と略記する場合がある。)と、芳香族ビニル単量体単位以外の繰り返し単位が連なった高分子鎖部分(以下、「その他の領域」と略記する場合がある。)とを含有し、その他の領域に少なくとも脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体である。ブロック共重合体において、芳香族ビニルブロック領域とその他の領域は互いに隣接して存在する。また、ブロック共重合体は、芳香族ビニルブロック領域を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。同様に、ブロック共重合体は、その他の領域を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。
【0025】
-芳香族ビニルブロック領域-
芳香族ビニルブロック領域は、上述したように、繰り返し単位として、芳香族ビニル単量体単位のみを含む領域である。
ここで、1つの芳香族ビニルブロック領域は、1種の芳香族ビニル単量体単位のみで構成されていてもよいし、複数種の芳香族ビニル単量体単位で構成されていてもよいが、1種の芳香族ビニル単量体単位のみで構成されていることが好ましい。
また、1つの芳香族ビニルブロック領域には、カップリング部位が含まれていてもよい(すなわち、1つの芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位は、カップリング部位が介在して連なっていてもよい)。
そして、ブロック共重合体が複数の芳香族ビニルブロック領域を有する場合、それら複数の芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位の種類および割合は、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0026】
ブロック共重合体の芳香族ビニルブロック領域を構成する芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、α-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、並びに、ビニルナフタレンなどの芳香族モノビニル化合物が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができるが、1種を単独で用いることが好ましい。
【0027】
そして、ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体単位の割合は、ブロック共重合体中の全繰り返し単位(単量体単位および構造単位。ブロック共重合体がグラフト部分を含む場合は、当該グラフト部分の繰り返し単位を含む。)の量を100質量%とした場合に、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。ブロック共重合体中に占める芳香族ビニル単量体単位の割合が5質量%以上であれば、ブロック共重合体のタック性発現を抑制して、電池部材のハンドリング性を向上させることができる。一方、ブロック共重合体中に占める芳香族ビニル単量体単位の割合が50質量%以下であれば、ブロック共重合体の柔軟性が確保され、電池部材のプロセス接着性を更に向上させることができる。
なお、芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体中に占める割合は、通常、芳香族ビニルブロック領域がブロック共重合体中に占める割合と一致する。
【0028】
-その他の領域-
その他の領域は、上述したように、繰り返し単位として、芳香族ビニル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と略記する場合がある。)のみを含む領域である。そして、その他の領域には、少なくとも脂肪族共役ジエン単量体単位が含まれている。
ここで、1つのその他の領域は、1種のその他の繰り返し単位で構成されていてもよいし、複数種のその他の繰り返し単位で構成されていてもよい。
また、1つのその他の領域には、カップリング部位が含まれていてもよい(すなわち、1つのその他の領域を構成するその他の繰り返し単位は、カップリング部位が介在して連なっていてもよい)。
更に、その他の領域は、グラフト部分および/または架橋構造を有していてもよい。
そして、ブロック共重合体が複数のその他の領域を有する場合、それら複数のその他の領域を構成するその他の繰り返し単位の種類および割合は、同一でも異なっていてもよい。なお、ブロック共重合体が複数のその他の領域を有する場合には、複数のその他の領域のうちの少なくとも1つが脂肪族共役ジエン単量体単位を含んでいればよい。
【0029】
―脂肪族共役ジエン単量体単位―
ここで、その他の領域を構成する脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、電池部材のプロセス接着性を更に向上させる観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0030】
そして、ブロック共重合体中の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合は、ブロック共重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。ブロック共重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が50質量%以上であれば、電池部材のプロセス接着性を更に向上させることができる。一方、ブロック共重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が98質量%以下であれば、ブロック共重合体のタック性発現を抑制し、電池部材のハンドリング性を向上させることができる。
【0031】
また、その他の領域を構成するその他の繰り返し単位になり得る脂肪族共役ジエン単量体単位以外の繰り返し単位としては、特に限定されることなく、例えばアルキレン構造単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位が挙げられる。
【0032】
―アルキレン構造単位―
アルキレン構造単位は、一般式:-C2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
ここで、アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。また、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0033】
なお、ブロック共重合体へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされない。例えば、脂肪族共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、脂肪族共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換してブロック共重合体を得る方法が、ブロック共重合体の製造が容易であり好ましい。
【0034】
上記の方法で用いる脂肪族共役ジエン単量体としては、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体として上述した炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられ、中でも、イソプレンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、脂肪族共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(脂肪族共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、イソプレン単位を水素化して得られる構造単位(イソプレン水素化物単位)であることがより好ましい。そして、脂肪族共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
【0035】
-脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位-
また、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位は、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック共重合体を架橋することにより、重合体に導入することができる。
ここで、架橋は、特に限定されることなく、例えば酸化剤と還元剤とを組み合わせてなるレドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いて行うことができる。そして、酸化剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物を用いることができる。また、還元剤としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などを用いることができる。これらの有機過酸化物および還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、架橋は、ジビニルベンゼン等のポリビニル化合物;ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のポリアリル化合物;エチレングリコールジアクリレート等の各種グリコール;などの架橋剤の存在下で行ってもよい。また、架橋は、γ線などの活性エネルギー線の照射を用いて行うこともできる。
【0036】
そして、粒子状重合体を形成するブロック共重合体中における脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の合計量は、ブロック共重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。ブロック共重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の合計割合が50質量%以上であれば、電池部材のプロセス接着性を更に向上させることができる。一方、ブロック共重合体中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位を架橋してなる構造単位およびアルキレン構造単位の合計割合が98質量%以下であれば、ブロック共重合体のタック性発現を抑制して、電池部材のハンドリング性を向上させることができる。
【0037】
-グラフト部分-
なお、ブロック共重合体のその他の領域は、グラフト部分を含んでいてもよい。すなわち、ブロック共重合体は、幹部分となる重合体に対してグラフト部分となる重合体が結合した構造を有していてもよい。
ブロック共重合体のグラフト部分に含まれる繰り返し単位としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位等のニトリル基含有単量体単位;アクリル酸アルキルエステル単位やメタクリル酸アルキルエステル単位等の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位;並びに、カルボキシル基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位およびリン酸基含有単量体単位等の酸性基含有単量体単位;などが挙げられる。ここで、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0038】
上述した中でも、グラフト部分に含まれる繰り返し単位としては、酸性基含有単量体単位が好ましい。そして、酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、およびリン酸基含有単量体が挙げられる。
【0039】
ここで、カルボキシル基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボキシル基含有単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
【0040】
また、スルホン酸基含有単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸(エチレンスルホン酸)、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0041】
更に、リン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0042】
ここで、ブロック共重合体のグラフト部分に含まれる繰り返し単位を形成する、上述した単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、ブロック共重合体のグラフト部分に含まれる繰り返し単位を形成する単量体としては、上述した酸性基含有単量体が好ましく、メタクリル酸、アクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0043】
なお、ブロック共重合体へのグラフト部分の導入方法は特に限定されない。例えば、芳香族ビニルブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位を含むその他の領域とを有する重合体を調製し、当該重合体を幹部分として、上述した酸性基含有単量体などを既知の方法を用いてグラフト重合することで、幹部分の重合体の脂肪族共役ジエン単量体単位にグラフト部分の重合体が結合した構造を有するブロック共重合体を得ることができる。
【0044】
ここで、グラフト重合は、特に限定されることなく、既知のグラフト重合方法を用いて行うことができる。具体的には、グラフト重合は、例えば酸化剤と還元剤とを組み合わせてなるレドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いて行うことができる。そして、酸化剤および還元剤としては、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック共重合体の架橋に使用し得るものとして上述した酸化剤および還元剤と同様のものを用いることができる。
そして、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むブロック共重合体に対してレドックス開始剤を用いてグラフト重合を行う場合には、グラフト重合による他の単量体単位の導入と、脂肪族共役ジエン単量体単位の架橋とを同時に進行させることができる。なお、グラフト重合と架橋は同時に進行させなくてもよく、ラジカル開始剤の種類や反応条件を調整してグラフト重合のみを進行させてもよい。
【0045】
そして、ブロック共重合体が、グラフト部分を有する場合、ブロック共重合体中のグラフト部分の割合は、ブロック共重合体中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0046】
[表面酸量]
そして、粒子状重合体は、表面酸量が、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.08mmol/g以上であることがより好ましく、0.10mmol/g以上であることが更に好ましく、2.00mmol/g以下であることが好ましく、1.50mmol/g以下であることがより好ましく、1.30mmol/g以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の表面酸量が上記下限値以上であれば、バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物が凝集するのを抑制し、分散性に優れるスラリー組成物を得ることができる。また、粒子状重合体の表面酸量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物を用いて形成した機能層のプレス性を高めることができる。
【0047】
[粒子状重合体の調製方法]
芳香族ビニルブロック領域および脂肪族共役ジエン単量体単位を有するブロック共重合体からなる粒子状重合体は、例えば、有機溶媒中で上述した単量体をブロック重合して、ブロック共重合体の溶液を得る工程(ブロック共重合体溶液調製工程)と、得られたブロック共重合体の溶液に水を添加して乳化することでブロック共重合体を粒子化する工程(乳化工程)と、任意に実施し得る工程としての、粒子化したブロック共重合体に対してグラフト重合を行ってブロック共重合体よりなる粒子状重合体の水分散液を得る工程(グラフト工程)と、を経て調製することができる。
なお、粒子状重合体の調製において、グラフト工程は、乳化工程の前に行ってもよい。即ち、粒子状重合体は、ブロック共重合体溶液調製工程の後に、得られたブロック共重合体の溶液に含まれているブロック共重合体に対してグラフト重合を行ってブロック共重合体の溶液を得る工程(グラフト工程)を行い、その後、得られたブロック共重合体の溶液に水を添加して乳化することでブロック共重合体を粒子化する工程(乳化工程)を行うことにより、調製してもよい。
【0048】
-ブロック共重合体溶液調製工程-
ブロック共重合体溶液調製工程におけるブロック重合の方法は、特に限定されない。例えば、第一の単量体成分を重合させた溶液に、第一の単量体成分とは異なる第二の単量体成分を加えて重合を行い、必要に応じて、単量体成分の添加と重合とを更に繰り返すことより、ブロック共重合体を調製することができる。なお、反応溶媒として使用される有機溶媒も特に限定されず、単量体の種類等に応じて適宜選択することができる。具体的には、有機溶媒としては、特に限定されることなく、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の炭素数が5以上8以下の鎖状アルカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数が5以上8以下のシクロアルカン、或いは、それらの混合物を用いることができる。
ここで、上記のようにブロック重合して得られたブロック共重合体を、後述する乳化工程に先んじて、カップリング剤を用いたカップリング反応に供することが好ましい。カップリング反応を行えば、例えば、ブロック共重合体中に含まれるジブロック構造体同士の末端をカップリング剤により結合させて、トリブロック構造体に変換することができる(すなわち、ジブロック量を低減することができる)。
【0049】
ここで、上記カップリング反応に使用し得るカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、2官能のカップリング剤、3官能のカップリング剤、4官能のカップリング剤、5官能以上のカップリング剤が挙げられる。
2官能のカップリング剤としては、例えば、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジクロロジメチルシラン等の2官能性ハロゲン化シラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタン等の2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズ等の2官能性ハロゲン化スズ;が挙げられる。
3官能のカップリング剤としては、例えば、トリクロロエタン、トリクロロプロパンなどの3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどの3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン;が挙げられる。
4官能のカップリング剤としては、例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、テトラクロロエタンなどの4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシランなどの4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの4官能性アルコキシシラン;テトラクロロスズ、テトラブロモスズなどの4官能性ハロゲン化スズ;が挙げられる。
5官能以上のカップリング剤としては、例えば、1,1,1,2,2-ペンタクロロエタン、パークロロエタン、ペンタクロロベンゼン、パークロロベンゼン、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどが挙げられる。
これらは1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した中でも、カップリング剤としては、ジクロロジメチルシランが好ましい。なお、カップリング剤を用いたカップリング反応によれば、当該カップリング剤に由来するカップリング部位が、ブロック共重合体を構成する高分子鎖(例えば、トリブロック構造体)に導入される。
【0050】
なお、上述したブロック重合および任意に行われるカップリング反応後に得られるブロック共重合体の溶液は、そのまま後述する乳化工程に供してもよい。また、ブロック共重合体の溶液は、必要に応じて、ブロック共重合体に対し上述した水素添加等を行った後に、乳化工程に供することもできる。
【0051】
-乳化工程-
乳化工程における乳化の方法は、特に限定されないが、例えば、上述したブロック共重合体溶液調製工程で得られたブロック共重合体の溶液と、乳化剤の水溶液との予備混合物を乳化する方法が好ましい。ここで、乳化には、例えば既知の乳化剤および乳化分散機を用いることができる。具体的には、乳化分散機としては、特に限定されることなく、例えば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化分散機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化分散機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化分散機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化分散機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化分散機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化分散機;などを用いることができる。なお、乳化分散機による乳化操作の条件(例えば、処理温度、処理時間など)は、特に限定されず、所望の分散状態になるように適宜選定すればよい。
そして、乳化後に得られる乳化液から、必要に応じて、減圧留去などの既知の方法により有機溶媒を除去する等して、粒子状重合体の水分散液を得ることができる。
【0052】
-グラフト工程-
任意に実施されるグラフト工程におけるグラフト重合の方法は、特に限定されないが、例えば、グラフト重合させる単量体の存在下において、レドックス開始剤などのラジカル開始剤を用いてブロック共重合体のグラフト重合および架橋を同時に進行させる方法が好ましい。
ここで、反応条件は、所望のブロック共重合体の組成および表面酸量の大きさ等に応じて調整することができる。
そして、グラフト工程では、グラフト部分を有するブロック共重合体からなる粒子状重合体の水分散液を得ることができる。なお、乳化工程の後にグラフト工程を行った場合、即ち、粒子化したブロック共重合体に対してグラフト重合を行った場合には、酸性基含有単量体単位などのグラフト重合により導入された単量体単位は、粒子状重合体の中心部よりも表面側に多く存在し、表層部に偏在することとなる。
【0053】
<飽和炭化水素>
また、本発明のバインダー組成物は、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンおよび炭素数が5以上8以下のシクロアルカンからなる群より選択される1種以上の飽和炭化水素を、上述した粒子状重合体100質量部当たり、0.001質量部以上0.1質量部以下の割合で含有することを必要とする。上記所定の飽和炭化水素の含有量が粒子状重合体100質量部当たり0.001質量部未満の場合には、粒子状重合体を構成するブロック共重合体が結晶化し易くなり、バインダー組成物を用いて形成した機能層の接着性が経時的に低下し易くなるので、二次電池のサイクル特性が低下する。また、上記所定の飽和炭化水素の含有量が粒子状重合体100質量部当たり0.1質量部超の場合には、バインダー組成物を用いて形成した電池部材のプロセス接着性が低下する。
【0054】
ここで、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の炭素数が5以上8以下の直鎖状のアルカンであることが好ましい。これらの鎖状アルカンは、1種を単独で、または、2種以上を任意の比率で混合して用いることができる。中でも、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンとしては、n-ペンタンが特に好ましい。
【0055】
また、炭素数が5以上8以下のシクロアルカンとしては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどが挙げられる。これらのシクロアルカンは、1種を単独で、または、2種以上を任意の比率で混合して用いることができる。中でも、ブロック共重合体の溶解性が高くプロセス接着性が向上することから、炭素数が5以上8以下のシクロアルカンとしては、炭素数が5以上6以下のシクロアルカンが好ましく、シクロヘキサンがより好ましい。
【0056】
なお、飽和炭化水素としては、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンのみが含まれていてもよいし、炭素数が5以上8以下のシクロアルカンのみが含まれていてもよいし、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンおよび炭素数が5以上8以下のシクロアルカンの双方が含まれていてもよい。また、炭素数が5以上8以下の鎖状アルカンと、炭素数が5以上8以下のシクロアルカンとの双方がバインダー組成物に含まれている場合、それらの含有比率は任意の比率とすることができる。中でも、飽和炭化水素としては、炭素数が5以上8以下のシクロアルカンのみが含まれていることが好ましく、炭素数が5以上6以下のシクロアルカンのみが含まれていることがより好ましい。
【0057】
そして、上述した飽和炭化水素は、例えば、前述した粒子状重合体の調製方法を用いて調製した粒子状重合体の水分散液に飽和炭化水素を添加することにより、或いは、前述した粒子状重合体の調製方法において有機溶媒(反応溶媒)として飽和炭化水素を使用すると共に乳化後に得られる乳化液から有機溶媒の一部のみを除去することにより、バインダー組成物中に導入することができる。
【0058】
なお、飽和炭化水素の含有量は、粒子状重合体100質量部当たり、0.0015質量部以上であることが好ましく、0.002質量部以上であることがより好ましく、0.004質量部以上であることが更に好ましく、0.01質量部以上であることが特に好ましく、0.02質量部以上であることがより一層好ましく、0.06質量部以下であることが好ましく、0.04質量部以下であることがより好ましく、0.035質量部以下であることが更に好ましく、0.030質量部以下であることが特に好ましい。飽和炭化水素の含有量が上記下限値以上であれば、ブロック共重合体の結晶化を十分に抑制し、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、飽和炭化水素の含有量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物を用いて形成した電池部材のプロセス接着性を更に向上させることができると共に、バインダー組成物を用いて形成した機能層をロール等でプレスした際に機能層が剥離してロールが汚れるのを抑制することができる(即ち、機能層を備える電池部材のハンドリング性を高めることができる)。
【0059】
<水系媒体>
本発明のバインダー組成物が含有する水系媒体は、水を含んでいれば特に限定されず、水溶液や、水と少量の有機溶媒との混合溶液であってもよい。
【0060】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物は、上記成分以外の成分(その他の成分)を含有することができる。例えば、バインダー組成物は、上述した粒子状重合体以外の、既知の粒子状結着材(スチレンブタジエンランダム共重合体、アクリル重合体など)を含んでいてもよい。なお、粒子状結着材の含有量は、粒子状重合体と粒子状結着材との合計含有量の70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
また、バインダー組成物は、水溶性重合体を含んでいてもよい。水溶性重合体は、上述した粒子状重合体などの配合成分を水系媒体中で良好に分散させうる成分であり、特に限定されないが、合成高分子であることが好ましく、付加重合を経て製造される付加重合体であることがより好ましい。なお、水溶性重合体は、塩の形態(水溶性重合体の塩)であってもよい。すなわち、本発明において、「水溶性重合体」には、当該水溶性重合体の塩も含まれる。また、本発明において、重合体が「水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満となることをいう。
更に、バインダー組成物は、既知の添加剤を含んでいてもよい。このような既知の添加剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールなどの酸化防止剤、消泡剤、分散剤(上述した水溶性重合体に該当するものを除く。)が挙げられる。なお、その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
<バインダー組成物の調製方法>
そして、本発明のバインダー組成物は、特に限定されることなく、粒子状重合体と、飽和炭化水素と、任意に用いられるその他の成分とを水系媒体の存在下で混合して調製することができる。なお、粒子状重合体の分散液を用いてバインダー組成物を調製する場合には、分散液が含有している液分をそのままバインダー組成物の水系媒体として利用してもよい。
【0062】
(非水系二次電池機能層用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、機能層の形成用途に用いられる組成物であり、上述したバインダー組成物を含み、任意に、機能性粒子を更に含有する。すなわち、本発明のスラリー組成物は、上述した粒子状重合体、飽和炭化水素および水系媒体を含有し、任意に、機能性粒子およびその他の成分からなる群より選択される1種以上を更に含有し得る。そして、本発明のスラリー組成物は、上述したバインダー組成物を含んでいるので、当該スラリー組成物から形成される機能層を備える電池部材は、優れたプロセス接着性を発揮し得ると共に、当該電池部材を備える二次電池のサイクル特性を向上させ得る。
【0063】
<バインダー組成物>
バインダー組成物としては、所定の粒子状重合体および飽和炭化水素を所定の割合で水系媒体中に含む、上述した本発明のバインダー組成物を用いる。
なお、スラリー組成物中のバインダー組成物の配合量は、特に限定されない。例えばスラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、電極活物質粒子100質量部当たり、固形分換算で、粒子状重合体の量が0.5質量部以上15質量部以下となる量とすることができる。また例えばスラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、非導電性粒子100質量部当たり、固形分換算で、粒子状重合体の量が0.2質量部以上30質量部以下となる量とすることができる。
【0064】
<機能性粒子>
ここで、機能層に所期の機能を発揮させるための機能性粒子としては、例えば、機能層が電極合材層である場合には電極活物質粒子が挙げられ、機能層が多孔膜層である場合には非導電性粒子が挙げられる。
【0065】
[電極活物質粒子]
そして、電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の電極活物質よりなる粒子を挙げることができる。具体的には、例えば、二次電池の一例としてのリチウムイオン二次電池の電極合材層において使用し得る電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、以下の電極活物質よりなる粒子を用いることができる。
【0066】
[正極活物質]
リチウムイオン二次電池の正極の正極合材層に配合される正極活物質としては、例えば、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、Li1+xMn2-x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。
なお、上述した正極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
[負極活物質]
リチウムイオン二次電池の負極の負極合材層に配合される負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、および、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいう。そして、炭素系負極活物質としては、具体的には、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)およびハードカーボンなどの炭素質材料、並びに、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛質材料が挙げられる。
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。そして、金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびそれらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが挙げられる。さらに、チタン酸リチウムなどの酸化物を挙げることができる。
なお、上述した負極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
[非導電性粒子]
また、多孔膜層に配合される非導電性粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の非導電性粒子を挙げることができる。
具体的には、非導電性粒子としては、無機微粒子と有機微粒子(上述した粒子状重合体などの結着材に該当するものを除く。)との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子が用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
なお、上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものの他、スラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合には、電極合材層に配合され得る導電材などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
<スラリー組成物の調製>
スラリー組成物の調製方法は、特に限定はされない。
例えば、スラリー組成物が電極合材層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、電極活物質粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
また、スラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、非導電性粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
そして、スラリー組成物が接着層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物をそのまま、または水系媒体で希釈してスラリー組成物として使用することもできるし、バインダー組成物と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水系媒体の存在下で混合してスラリー組成物を調製することもできる。
なお、スラリー組成物の調製の際に用いる水系媒体は、バインダー組成物に含まれていたものも含まれる。また、混合方法は特に制限されないが、通常用いられうる撹拌機や、分散機を用いて混合を行うことができる。
【0071】
(非水系二次電池用機能層)
本発明の機能層は、二次電池内において電子の授受または補強若しくは接着などの機能を担う層であり、機能層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層や、電池部材の耐熱性や強度を向上させる多孔膜層や、電池部材の接着性を向上させる接着層などが挙げられる。
そして、本発明の機能層は、上述した本発明のスラリー組成物から形成されたものであり、例えば、上述したスラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の機能層は、上述したスラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、上述した粒子状重合体に由来する成分を含有し、任意に、機能性粒子およびその他の成分からなる群より選択される1種以上を更に含有し得る。なお、機能層中に含まれている各成分は、上記スラリー組成物中に含まれていたものである。また、粒子状重合体は、スラリー組成物中では粒子形状で存在するが、スラリー組成物を用いて形成された機能層中では、粒子形状であってもよいし、その他の任意の形状であってもよい。
【0072】
そして、本発明の機能層は、本発明のバインダー組成物を含む本発明のスラリー組成物から形成されているので、当該機能層を備える電池部材に優れたプロセス接着性を発揮させ得ると共に、当該電池部材を備える二次電池のサイクル特性を向上させ得る。
【0073】
<基材>
ここで、スラリー組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば、離型基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して機能層を形成し、機能層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた機能層を、自立膜として二次電池の電池部材の形成に用いることもできる。
しかし、機能層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材として、集電体、セパレータ基材または電極基材を用いることが好ましい。具体的には、電極合材層の調製の際には、スラリー組成物を、基材としての集電体上に塗布することが好ましい。また、多孔膜層や接着層を調製する際には、スラリー組成物を、セパレータ基材または電極基材上に塗布することが好ましい。
【0074】
[集電体]
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0075】
[セパレータ基材]
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材である。有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜または不織布などが挙げられる。中でも、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。
【0076】
[電極基材]
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、上述した集電体上に、電極活物質粒子および結着材を含む電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
電極基材中の電極合材層に含まれる電極活物質粒子および結着材としては、特に限定されず、既知のものを用いることができる。また、電極基材中の電極合材層として、本発明の機能層(電極活物質粒子、並びに、所定の粒子状重合体、飽和炭化水素および水系媒体を含むスラリー組成物から形成される電極合材層)を使用することもできる。
【0077】
<機能層の形成方法>
上述した集電体、セパレータ基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明のスラリー組成物を基材の表面(電極基材の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)本発明のスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層を基材の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、機能層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、スラリー組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(機能層形成工程)を含む。
【0078】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、スラリー組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0079】
[機能層形成工程]
また、機能層形成工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
なお、機能層が電極合材層である場合、乾燥後に、ロールプレス等を用いてプレス処理を行うことが好ましい。プレス処理を行うことで、得られる電極合材層をより一層高密度化することができる。
【0080】
(非水系二次電池用電池部材)
本発明の電池部材は、例えば、セパレータや電極であり、通常、上述した本発明の機能層を、上述した集電体、セパレータ基材または電極基材上に備える。本発明の電池部材は、本発明の機能層を備えるため、プロセス接着性に優れる。そして、本発明の電池部材を用いれば、サイクル特性などの電池特性に優れる二次電池を良好に製造することができる。
【0081】
ここで、本発明の電池部材は、本発明の機能層が電池部材に配置されている限り、上述した本発明の機能層と、基材以外の構成要素を備えていてもよい。このような構成要素としては、特に限定されることなく、本発明の機能層に該当しない電極合材層、多孔膜層および接着層などが挙げられる。
また、電池部材は、本発明の機能層を複数種類備えていてもよい。例えば、電極は、集電体上に本発明の電極合材層用スラリー組成物から形成される電極合材層を備え、且つ、当該電極合材層上に本発明の多孔膜層用スラリー組成物および/または接着層用スラリー組成物から形成される多孔膜層および/または接着層を備えていてもよい。また例えば、セパレータは、セパレータ基材上に本発明の多孔膜層用スラリー組成物から形成される多孔膜層を備え、且つ、当該多孔膜層上に本発明の接着層用スラリー組成物から形成される接着層を備えていてもよい。
なお、本発明の機能層を備える電池部材は、少なくとも一方の表面(他の電池部材と貼り合わされる表面)が本発明の機能層よりなることが好ましい。
【0082】
(非水系二次電池)
本発明の二次電池は、上述した本発明の電池部材を備えるものである。より具体的には、本発明の二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、電池部材である正極、負極およびセパレータの少なくとも一つに、本発明の機能層が含まれる。本発明の二次電池は、本発明の電池部材を用いているため、優れた電池特性を発揮し得る。
【0083】
<正極、負極およびセパレータ>
本発明の二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが、上述した本発明の電池部材である。なお、本発明の電池部材以外の(すなわち、本発明の機能層を備えない)正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることなく、既知の正極、負極およびセパレータを用いることができる。
【0084】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0085】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。また、これらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0086】
<非水系二次電池の製造方法>
上述した本発明の二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、任意にプレスした後、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの電池部材を、本発明の機能層を備える本発明の電池部材とする。また、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0087】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、粒子状重合体の表面酸量および結晶化時間、バインダー組成物中の飽和炭化水素量、電池部材のハンドリング性およびプロセス接着性、並びに、二次電池のサイクル特性は、以下の方法で評価した。
【0088】
<表面酸量>
得られた粒子状重合体の水分散液について、遠心分離法により粒子径1μm以上の成分を分離し、さらに口径3.00μmの親水性フィルターを用い粗大粒子を分離する。次に、得られた粒子状重合体の水分散液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を0.3%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液にて希釈し、固形分濃度10%に調整する。その後、調整したサンプルを7000Gで30分間遠心分離し、軽液を分取する。得られた軽液を5%水酸化ナトリウム水溶液でpH12.0に調整する。pHを調整したサンプルを100mLビーカーに固形分換算で3.0g分取し、花王製エマルゲン120を0.2%に希釈した水溶液3gおよび東レ・ダウコーニング社製SM5512を1%に希釈した水溶液1gを添加する。スターラーで均一に撹拌しながら0.1N塩酸水溶液を0.5mL/30秒の速度で添加し、30秒毎の電気伝導度を測定する。
得られた電気伝導度データを、電気伝導度を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットする。これにより、3つの変曲点を有する塩酸量-電気伝導度曲線が得られる。3つの変曲点のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2およびP3とする。X座標が、零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、および、座標P2から座標P3まで、の3つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、およびL3を求める。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2とする。
そして、粒子状重合体1g当たりの表面酸量を、下記の式(a)から、塩酸換算した値(mmol/g)として求める。
(a) 粒子状重合体1g当たりの表面酸量=(A2-A1)/3.0g
<結晶化時間>
まず、得られた粒子状重合体の水分散液2gを素焼き板上に供給し、水分を吸収させて固形分を分離した。40℃で1時間乾燥し、測定用サンプルとした。
そして、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、Diamond DSC)を用い、窒素気流中、昇温/降温速度20℃/分の条件で発熱ピークの測定を行った。そして、一回目のスキャンにおける、芳香族ビニル単量体単位からなるブロック領域由来の発熱ピークの頂点温度を昇温結晶化温度とした。
また、6~10mgの測定用サンプルを示差走査熱量計のアルミニウムパンの中に封入し、10℃/分の昇温速度で250℃に加熱し、20℃/分の降温速度で、昇温結晶化温度よりも50℃低い温度まで冷却し、少なくとも5分間維持し、最後に10℃/分の昇温速度で、昇温結晶化温度から10℃低い温度まで加熱し、吸熱ピーク温度が観測されるまでの時間を結晶化時間とした。そして、以下の基準に従って評価した。結晶化時間が長いほど、粒子状重合体を構成するブロック共重合体が結晶化し難いことを示す。
A:結晶化時間が3時間以上
B:結晶化時間が1時間以上3時間未満
C:結晶化時間が1時間未満
<飽和炭化水素量>
キャピラリガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC-2010Plus)を使用し、内部標準としてトルエンを用いてバインダー組成物中の飽和炭化水素量(シクロヘキサン量、n-ペンタン量)を測定した。
具体的には、共栓付三角フラスコに4%オレイン酸カリウム水溶液30mlおよび測定試料5gを精秤して加えた。そして、撹拌子を入れ、スターラーで5分以上撹拌した。次に、1.5mlバイアル瓶に撹拌した測定試料を1ml入れ、蓋を閉めた。また、洗浄液用4mlバイアル瓶に4%オレイン酸カリウム水溶液を3ml入れ、蓋を閉めた。そして、キャピラリガスクロマトグラフに測定試料をマイクロシリンジで2μml注入し、初期温度:80℃、終点温度:260℃、昇温速度:10℃/分、平衡時間:3分、保持時間:22分、合計時間:40分、キャリアガス:窒素、の条件で測定を行った。
<ハンドリング性>
得られた負極原反を、直径500mmのロールプレス機を用いて、15m/秒のプレス速度で、プレス後の負極合材層の密度が1.75g/cmとなるように連続プレスした。この連続プレス時に、ロールプレス機のロール表面に付着する負極合材層由来の付着物の有無を目視で確認し、下記の基準で評価した。ロール表面に付着物が付着し難いほど、負極がハンドリング性に優れることを示す。
A:800m連続プレスした後も、ロール表面に付着物が確認されなかった。
B:ロール表面に付着物が確認されるまでの連続プレス距離が500m以上800m未満
C:ロール表面に付着物が確認されるまでの連続プレス距離が0m超500m未満
<プロセス接着性>
負極合材層を介した負極とセパレータのプロセス接着性を、以下の通りピール強度を測定することで評価した。
まず、負極およびセパレータを、それぞれ長さ50mm、幅10mmに裁断した。裁断した負極およびセパレータを、負極合材層を介して積層させた。そして、得られた積層片を、温度70℃、荷重5kN/mの平板プレスでプレスして、試験片を得た。
この試験片を、負極の集電体側の面を下にして、負極の集電体側の表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付けた。なお、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。そして、30分以内に引張り速度50mm/分で、セパレータの一端を鉛直上方に引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を3回行い、測定された合計3回の応力の平均値をピール強度(N/m)として求め、負極合材層を介した負極とセパレータとのプロセス接着性を以下の基準で評価した。ピール強度が大きいほど、プロセス接着性が良好であることを示す。
A:ピール強度が2.5N/m以上
B:ピール強度が2N/m以上2.5N/m未満
C:ピール強度が1N/m以上2N/m未満
D:ピール強度が1N/m未満
<サイクル特性>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を25℃の環境下で5時間静置させた後、25℃の環境下で、4.2V、1Cの充電レート、3.0V、1Cの放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、45℃の環境下で同様の充放電を繰り返し、100サイクル後の容量C3を測定した。そして、容量変化率ΔC(=(C3/C0)×100(%))を算出し、以下の基準でサイクル特性を評価した。容量変化率ΔCの値が高いほど、サイクル特性に優れることを示す。
A:ΔCが86%以上
B:ΔCが80%以上86%未満
C:ΔCが75%以上80%未満
D:ΔCが75%未満
【0089】
(実施例1)
<非水系二次電池負極用バインダー組成物の調製>
[ブロック共重合体のシクロヘキサン溶液の調製]
耐圧反応器に、シクロヘキサン233.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)54.2mmol、および芳香族ビニル単量体としてのスチレン25.0kgを添加した。そしてこれらを40℃で攪拌しているところに、重合開始剤としてのn-ブチルリチウム1806.5mmolを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、耐圧反応器に、脂肪族共役ジエン単量体としてのイソプレン75.0kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了後、重合反応を更に1時間継続した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、耐圧反応器に、カップリング剤としてのジクロロジメチルシラン740.6mmolを添加して2時間カップリング反応を行った。その後、活性末端を失活させるべく、反応液にメタノール3612.9mmolを添加してよく混合した。次いで、この反応液100部(重合体成分を30.0部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合した。得られた混合溶液を、85~95℃の温水中に少しずつ滴下することで溶媒を揮発させて、析出物を得た。そして、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、ブロック共重合体を含む乾燥物を回収した。
そして、回収した乾燥物をシクロヘキサンに溶解し、ブロック共重合体の濃度が25%であるブロック共重合体溶液を調製した。
[乳化]
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムを1:1:1(質量基準)で混合した混合物をイオン交換水に溶解し、5%の水溶液を調製した。
そして、得られたブロック共重合体溶液500gと得られた水溶液500gとをタンク内に投入し撹拌させることで予備混合を行った。続いて、タンク内から、予備混合物を、定量ポンプを用いて100g/分の速度で連続式高能率乳化分散機(太平洋機工社製、製品名「マイルダー MDN303V」)へ移送し、回転数15000rpmで撹拌することにより、予備混合物を乳化した乳化液を得た。
次に、得られた乳化液中のシクロヘキサンの一部をロータリーエバポレータにて減圧留去(70℃、5時間)した。その後、シクロヘキサンの一部を留去した乳化液をコック付きのクロマトカラム中で1日静置分離させ、分離後の下層部分を除去することで濃縮を行った。
最後に、上層部分を100メッシュの金網で濾過し、粒子状のブロック共重合体を含有する水分散液(ブロック共重合体ラテックス)を得た。
[グラフト重合および架橋]
撹拌機付き重合反応容器にイオン交換水675部を添加し、その後、メタクリル酸20部を添加した。重合反応器の攪拌翼で撹拌しながら、重合反応器にブロック共重合体ラテックスをブロック共重合体換算で100部添加し、窒素置換した。そして、希釈されたブロック共重合体ラテックスを撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。
また、別の容器を用い、蒸留水7部および還元剤としての硫酸第一鉄(中部キレスト社製、商品名「フロストFe」)0.01部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(住友精化株式会社、商品名「SFS」)0.32部を含む溶液を調製した。得られた溶液を重合反応容器内に添加した後、酸化剤としてのtert-ブチルハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パーブチルH」)0.35部を添加し、30℃で1時間反応させた後、更に70℃で2時間反応させた。なお、重合転化率は99%であった。
そして、ブロック共重合体をグラフト重合および架橋してなるブロック共重合体よりなる粒子状重合体の水分散液(バインダー組成物)を得た。
得られた粒子状重合体の水分散液を用いて、粒子状重合体を形成するブロック共重合体の結晶化時間および粒子状重合体の表面酸量、並びに、バインダー組成物中の飽和炭化水素量を測定した。結果を表1に示す。
<非水系二次電池負極用スラリー組成物の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(容量:360mAh/g)100部、導電材としてのカーボンブラック(TIMCAL社製、製品名「Super C65」)1部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製、製品名「MAC-350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1.2部加えて混合物を得た。得られた混合物をイオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。得られた混合液に、上述で調製された水分散液からなるバインダー組成物を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が48%となるように調整した。さらに10分間混合した後、減圧下で脱泡処理することにより、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
<負極の形成>
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の上に、乾燥後の目付が11mg/cmになるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、負極原反を得た。
そして、負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の密度が1.75g/cmの負極を得た。
また、電池部材としての負極のハンドリング性およびプロセス接着性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の形成>
正極活物質としてのメディアン径12μmのLiCoOを100部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、製品名「HS-100」)を2部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、製品名「#7208」)を固形分相当で2部と、溶媒としてのN-メチルピロリドンとを混合して全固形分濃度を70%とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の目付が23mg/cmになるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。
そして、正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の密度が4.0g/cmの正極を得た。
<セパレータの準備>
セパレータ基材よりなるセパレータとして、厚さ20μmの単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製、製品名「セルガード2500」)を準備した。
<リチウムイオン二次電池(ラミネート型)の作製>
作製した正極および負極と、準備したセパレータとを、電極合剤層がセパレータと向き合うように、正極/セパレータ/負極となるように積層することにより、積層体を得た。次に、得られた積層体を、直径20mmの芯に対して捲回することにより、正極、セパレータおよび負極を備える捲回体を得た。続いて、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で、厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮することにより、扁平体を得た。なお、得られた扁平体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また、非水系電解液(濃度1.0MのLiPF溶液、溶媒:エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(質量比)の混合溶媒に、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)2体積%を更に添加)を準備した。
次に、上記扁平体を、上記非水系電解液とともにアルミニウム製のラミネートケース内に収容した。そして、負極リードおよび正極リードを所定の箇所に接続した後に、ラミネートケースの開口部を熱で封口することにより、非水系二次電池としてのラミネート型リチウムイオン二次電池を製造した。なお、得られた二次電池は、幅35mm×高さ48mm×厚さ5mmのパウチ形であり、公称容量は700mAhであった。
そして、二次電池のサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2~4)
ブロック共重合体溶液を乳化する際に、得られた乳化液中のシクロヘキサンの一部をロータリーエバポレータにて減圧留去する際の条件を、それぞれ、70℃、10時間(実施例2)、70℃、3.5時間(実施例3)、および、70℃、2時間(実施例4)に変更した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
ブロック共重合体を含む乾燥物を調製する際に、シクロヘキサンに替えてシクロヘキサンとn-ペンタンとの混合物(シクロヘキサン:n-ペンタン(質量比)=70:30)を耐圧反応器に添加し、ブロック共重合体溶液を乳化する際に、得られた乳化液中のシクロヘキサンをロータリーエバポレータにて減圧留去する際の条件を95℃、25時間に変更し、更に、ブロック共重合体をグラフト重合および架橋した後に得られる水分散液を固形分相当で100部に対してシクロヘキサンを0.02部添加して3時間撹拌することによりバインダー組成物を得た以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例6)
ブロック共重合体を含む乾燥物を調製する際に、シクロヘキサンに替えてシクロヘキサンとn-ペンタンとの混合物(シクロヘキサン:n-ペンタン(質量比)=70:30)を耐圧反応器に添加し、更に、ブロック共重合体溶液を調製する際に、回収した乾燥物をシクロヘキサンとn-ペンタンとの混合物(シクロヘキサン:n-ペンタン(質量比)=70:30)に溶解し、ブロック共重合体溶液を乳化する際に、得られた乳化液中のシクロヘキサンおよびn-ペンタンの一部をロータリーエバポレータにて減圧留去する際の条件を70℃、3.5時間に変更した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例7)
非水系二次電池負極用バインダー組成物を、実施例1と同様にして調製した粒子状重合体の水分散液と、下記の方法で調製した粒子状結着材の水分散液とを、固形分換算で、粒子状重合体1.4部および粒子状結着材0.6部(粒子状重合体:粒子状結着材(質量比)=70:30)となるように容器へ投入した後、撹拌機(新東科学社製、製品名「スリーワンモータ」)を用いて1時間撹拌することにより調製した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<粒子状結着材の水分散液の調製>
脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン62部、カルボン酸基を有する単量体としてのイタコン酸4部、連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.3部の混合物を容器Aに入れた。そして、当該容器Aから耐圧容器Bへと混合物の添加を開始すると同時に、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部の耐圧容器Bへの添加を開始し、重合を開始した。なお、反応温度は75℃を維持した。
また、重合開始から4時間後(混合物の70%を耐圧容器Bへと添加した後)に、水酸基を有する単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート(アクリル酸-2-ヒドロキシエチル)1部を1時間30分に亘って耐圧容器Bに加えた。
重合開始から5時間30分後に、上述した単量体の全量の添加が完了した。その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し、反応を停止して、粒子状結着材を含む混合物を得た。この粒子状結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。そして、冷却し、メディアン径が0.15μmの粒子状結着材を含む水分散液(固形分濃度:40%)を得た。
【0094】
(実施例8)
非水系二次電池負極用バインダー組成物を調製する際に、ブロック共重合体ラテックスのグラフト重合および架橋を行わず、ブロック共重合体ラテックス(粒子状のブロック共重合体を含有する水分散液)をそのまま非水系二次電池負極用バインダー組成物として用いた以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1~2)
ブロック共重合体溶液を乳化する際に、得られた乳化液中のシクロヘキサンをロータリーエバポレータにて減圧留去する際の条件を、それぞれ、95℃、25時間(比較例1)、および、70℃、1時間(比較例2)に変更した以外は実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物、負極用スラリー組成物、負極、正極、セパレータおよび二次電池を作製または準備した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1より、実施例1~8では、プロセス接着性に優れる負極およびサイクル特性に優れる二次電池が得られることが分かる。また、表1より、飽和炭化水素の量が少ない比較例1では結晶化時間が短くなって二次電池のサイクル特性が低下し、飽和炭化水素の量が多い比較例2では負極のプロセス接着性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、プロセス接着性に優れる非水系二次電池用電池部材およびサイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物および非水系二次電池用機能層が得られる。
また、本発明によれば、優れたプロセス接着性を発揮し、且つ、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電池部材が得られる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池が得られる。