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特許7405081全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物、および全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物、および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231219BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231219BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231219BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/058
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020539390
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032834
(87)【国際公開番号】W WO2020045226
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018163943
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐作
(72)【発明者】
【氏名】園部 健矢
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047821(WO,A1)
【文献】特開2003-012916(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123624(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002361(WO,A1)
【文献】特開2013-008485(JP,A)
【文献】特開平06-279647(JP,A)
【文献】特開平04-126304(JP,A)
【文献】富永洋一 ほか,ミクロスケールの海ー島相分離構造を有するNBR/ポリエーテル電解質ブレンドのイオン伝導性に及ぼす湿度の影響,日本ゴム協会誌,2009年,82(12),p.499-505
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/10
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体Aを含む全固体二次電池用バインダー組成物であって、
前記重合体Aは、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含み、前記重合体Aにおける前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が5質量%以上30質量%以下であり、前記脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が40質量%以上95質量%以下であり、
そして、前記重合体Aのムーニー粘度(ML1+4、100℃)が65以上であり、
前記重合体Aのヨウ素価が250mg/100mg以上である、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体Aにおけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が0質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
更に溶媒を含み、前記溶媒がキシレンと酪酸ブチルの少なくとも一方を含有する、請求項1または2に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
固体電解質と、電極活物質と、請求項1~の何れかに記載の全固体二次電池用バインダー組成物とを含む、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物。
【請求項5】
前記固体電解質が、LiおよびPを含む非晶性の硫化物である、請求項に記載の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物。
【請求項6】
前記固体電解質が、LiSとPとからなる硫化物ガラスである、請求項に記載の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物。
【請求項7】
固体電解質と、請求項1~の何れかに記載の全固体二次電池用バインダー組成物とを含む、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物。
【請求項8】
前記固体電解質が、LiおよびPを含む非晶性の硫化物である、請求項に記載の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物。
【請求項9】
前記固体電解質が、LiSとPとからなる硫化物ガラスである、請求項に記載の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物。
【請求項10】
請求項の何れかに記載の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する電極と、請求項の何れかに記載の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質層との少なくとも一方を備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物、および全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。そして、用途の広がりに伴い、二次電池には安全性の更なる向上が要求されている。
【0003】
そこで、安全性の高い二次電池として、引火性が高くて漏洩時の発火危険性が高い有機溶媒電解質に代えて、固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。固体電解質は、例えば、結着材により、固体電解質などの成分が互いに結着されて形成される固体電解質含有層(電極合材層、固体電解質層)として、全固体二次電池内に含有される。
【0004】
ここで、一般に、全固体二次電池においては、集電体上に電極合材層を備える電極(正極および負極)の間に、固体電解質層が配置されている。そして、電極合材層や固体電解質層などの固体電解質含有層の作製には、結着材としての重合体を含む全固体二次電池用バインダー組成物が用いられる。具体的には、固体電解質含有層の形成には、バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物が使用される。
例えば、バインダー組成物と、固体電解質と、電極活物質を含む全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物(以下、「電極合材層用スラリー組成物」と略記する場合がある。)を乾燥することで、電極合材層を形成することができる。また、例えば、バインダー組成物と、固体電解質を含む全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物(以下、「固体電解質層用スラリー組成物」と略記する場合がある。)を乾燥することで、固体電解質層を形成することができる。
【0005】
そして、バインダー組成物に含まれる結着材を改良することで、全固体二次電池の性能を向上させる試みが従来からなされている。
具体的には、例えば特許文献1では、結着材として、ニトリル基を有する重合単位の含有割合が2~30質量%であり、且つヨウ素価が0mg/100mg以上30mg/100mg以下である重合体を用いて固体電解質含有層を形成することにより、当該固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5768815号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の結着材を含むバインダー組成物には、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させるという点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
加えて、本発明は、出力特性および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、電極合材層および固体電解質層などの固体電解質含有層の形成に際し、結着材として、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位をそれぞれ所定の範囲内の割合で含むと共に、ムーニー粘度が所定の値以上である重合体を用いることで、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、重合体Aを含む全固体二次電池用バインダー組成物であって、前記重合体Aは、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含み、前記重合体Aにおける前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が5質量%以上30質量%以下であり、前記脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が40質量%以上95質量%以下であり、そして、前記重合体Aのムーニー粘度(ML1+4、100℃)が65以上であることを特徴とする。このように、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位をそれぞれ上述の範囲内の割合で含むと共に、ムーニー粘度が上述した値以上である重合体Aを含むバインダー組成物を用いれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層(電極合材層および固体電解質層)の形成が可能になる。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。ここで、重合体が、当該重合体を構成する各繰り返し単位(単量体単位)を含有する割合は、1H-NMRおよび13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
また、本発明において、重合体の「ムーニー粘度(ML1+4、100℃)」は、JIS K6300-1に準拠して測定することができる。
【0011】
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記重合体Aにおけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が0質量%以上50質量%以下であることが好ましい。重合体Aのエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0012】
そして、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記重合体Aのヨウ素価が30mg/100mg超であることが好ましい。重合体Aのヨウ素価が上述した値超であれば、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、重合体の「ヨウ素価」は、JIS K6235(2006)に準拠して測定することができる。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、更に溶媒を含み、前記溶媒がキシレンと酪酸ブチルの少なくとも一方を含有することが好ましい。溶媒としてキシレンおよび/または酪酸ブチルを含むバインダー組成物を用いれば、固体電解質含有層の接着性および耐屈曲性を高めつつ、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した何れかの全固体二次電池用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、固体電解質と、電極活物質と、上述したバインダー組成物の何れかを含む電極合材層用スラリー組成物を用いれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る電極合材層の形成が可能になる。
【0014】
ここで、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、前記固体電解質が、LiおよびPを含む非晶性の硫化物であることが好ましい、固体電解質として、LiおよびPを含む非晶性の硫化物を用いれば、全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0015】
そして、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、前記固体電解質が、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスであることが好ましい、固体電解質として、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスを用いれば、全固体二次電池の出力特性をより一層向上させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した何れかの全固体二次電池用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、固体電解質と、上述したバインダー組成物の何れかを含む固体電解質層用スラリー組成物を用いれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質層の形成が可能になる。
【0017】
ここで、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、前記固体電解質が、LiおよびPを含む非晶性の硫化物であることが好ましい、固体電解質として、LiおよびPを含む非晶性の硫化物を用いれば、全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0018】
そして、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、前記固体電解質が、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスであることが好ましい。固体電解質として、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスを用いれば、全固体二次電池の出力特性をより一層向上させることができる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池は、上述した何れかの全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する電極と、上述した何れかの全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質層との少なくとも一方を備えることを特徴とする。このように、少なくとも何れかの固体電解質含有層を、上述したバインダー組成物を含む固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成すれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することができる。
加えて、本発明によれば、出力特性および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、全固体二次電池の製造用途に用いることができ、例えば、全固体二次電池を構成する固体電解質含有層(電極合材層および/または固体電解質層層)の製造に用いる固体電解質含有層用スラリー組成物(全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物および/または全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物)の調製に用いることができる。また、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を含み、電極合材層の形成に用いることができる。更に、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を含み、固体電解質層の形成に用いることができる。そして、本発明の全固体二次電池は、正極合材層、負極合材層、および固体電解質層の少なくとも何れかの固体電解質含有層の形成に、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を含む、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いたものである。
【0022】
(全固体二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、少なくとも結着材を含有し、任意に、溶媒と、その他の成分を更に含有し得る。ここで、本発明のバインダー組成物は、上記結着材として、ニトリル基含有単量体単位を5質量%以上30質量%以下の割合で含み、脂肪族共役ジエン単量体単位を40質量%以上95質量%以下の割合で含み、且つムーニー粘度が65以上である重合体Aを含有する。
【0023】
そして、上述した重合体Aを含む本発明のバインダー組成物によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層(電極合材層および/または固体電解質層)を形成することができる。
【0024】
なお、本発明のバインダー組成物を用いることで全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層が形成できる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、本発明のバインダー組成物が結着材として含む重合体Aは、ニトリル基含有単量体単位を5質量%以上の割合で含むことで、固体電解質への吸着能が確保される一方、ニトリル基含有単量体単位の含有割合が30質量%以下であるため、固体電解質含有層用スラリー組成物に含まれる溶媒への溶解性が確保される。そのため、重合体Aがニトリル基含有単量体単位を5質量%以上30質量%以下の割合で含むことで、固体電解質含有層用スラリー組成物中で重合体Aが溶媒中に溶解しつつ固体電解質に良好に吸着し、固体電解質の分散性を高めうる。そして、固体電解質が良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物によれば、固体電解質が良好に遍在した固体電解質含有層を形成することができる。
また、上述した結着材としての重合体Aが含む脂肪族共役ジエン単量体単位は、重合体Aに柔軟性を付与し得る繰り返し単位である。即ち、重合体Aが脂肪族共役ジエン単量体単位を40質量%以上の割合で含むことにより、重合体Aが適度な柔軟性を有し、バインダー組成物を含む固体電解質含有層用スラリー組成物から形成される固体電解質含有層の耐屈曲性を確保しうる。一方で、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が95質量%以下であるため、重合体Aの強度低下に起因する固体電解質含有層の接着性低下を抑制しうる。
更に、上述した結着材としての重合体Aは、ムーニー粘度が65以上であるため、柔軟性と結着能に優れる。
このように、結着材としての重合体Aが、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位をそれぞれ上述した範囲内の割合で含むと共に、上述した値以上のムーニー粘度を有することで、耐屈曲性および接着性に優れつつ、固体電解質が良好に遍在した固体電解質含有層を形成することができる。そして、このような固体電解質含有層によれば、全固体二次電池の電池特性(出力特性および高温サイクル特性)を高めることができると考えられる。
【0025】
<結着材>
本発明のバインダー組成物は、上述した通り、結着材として、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位をそれぞれ所定の範囲内の割合で含むと共に、ムーニー粘度が所定の値以上である重合体Aを含有する。なお、本発明のバインダー組成物は、重合体A以外の結着材(その他の結着材)を含有していてもよい。
【0026】
<<重合体Aの組成>>
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させる観点から、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
そして、重合体Aにおけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、重合体Aに含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、5質量%以上30質量%以下であることが必要であり、8質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、28質量%以下であることが好ましく、26質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。重合体A中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が5質量%未満であると、重合体Aの結着能が低下するため、固体電解質が良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができない。そのため、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性が低下する。一方、重合体A中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が30質量%超であると、重合体Aの溶媒への溶解性が低下するため、固体電解質が良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができない。そのため、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性が低下する。
【0028】
[脂肪族共役ジエン単量体単位]
脂肪族共役ジエン単量体単位を形成しうる脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、固体電解質含有層の柔軟性を十分に確保しつつ、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させる観点から、1,3-ブタジエンが好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
そして、重合体Aにおける脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、当該重合体Aに含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、40質量%以上95質量%以下であることが必要であり、45質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、92質量%以下であることが好ましく、88質量%以下であることがより好ましい。重合体A中の脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が40質量%未満であると、重合体Aの柔軟性が低下するため、固体電解質含有層に良好な耐屈曲性を付与することができない。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性が低下する。一方、重合体A中の脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合95質量%超であると、重合体Aの強度が低下するため、固体電解質含有層に良好な接着性を付与することができない。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性が低下する。
【0030】
[その他の繰り返し単位]
ここで、重合体Aは、上述したニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含んでいてもよい。その他の繰り返し単位としては、上述したニトリル基含有単量体および脂肪族共役ジエン単量体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位であれば特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位が挙げられる。
【0031】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を形成しうるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルからなる単量体や、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジエステルからなる単量体を用いることができる。
ここで、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルからなる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
そして、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジエステルからなる単量体としては、ジエチルマレエート、ジブチルマレエート等のマレイン酸ジアルキルエステル;ジエチルフマレート、ジブチルフマレート等のフマル酸ジアルキルエステル;ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート等のイタコン酸ジアルキルエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させる観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、ジブチルイタコネートが好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
そして、重合体Aにおけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合は、重合体Aに含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、0質量%以上であり、5質量%以上とすることができ、10質量%以上とすることができ、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。重合体A中のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が50質量%以下であれば、バインダー組成物を用いて、固体電解質が良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができる。そして、当該固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池に、十分優れた出力特性を発揮させることができる。
【0033】
<<重合体Aの調製方法>>
重合体Aの調製方法は特に限定されない。重合体Aは、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体A中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
【0034】
<<重合体Aの性状>>
[ムーニー粘度]
そして、重合体Aは、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が65以上であることが必要であり、67以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、75以上であることが更に好ましく、200未満であることが好ましく、180未満であることがより好ましく、150未満であることが更に好ましい。重合体Aのムーニー粘度が65未満であると、重合体Aの結着能と柔軟性が低下し、当該重合体Aを含むバインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物によって、接着性と耐屈曲性に優れる固体電解質含有層を形成することができない。そのため、当該固体電解質含有層を用いても、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができない。一方、重合体Aのムーニー粘度が200未満であれば、重合体Aが過度に剛直となることもなく、当該重合体Aを含むバインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物によって、接着性と耐屈曲性が十分に確保された固体電解質含有層を形成することができる。そのため、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。
なお、重合体Aのムーニー粘度は、例えば、重合体Aの調製に用いる単量体の種類および比率、重合体Aの調製方法(分子量調整剤の使用量、重合体温度、および重合終了時の重合体添加率など)を変更することにより、調整することができる。
【0035】
[ヨウ素価]
また、重合体Aは、ヨウ素価が30mg/100mg超であることが好ましく、100mg/100mg以上であることがより好ましく、200mg/100mg以上であることが更に好ましく、250mg/100mg以上であることが一層好ましく、280mg/100mg以上であることが特に好ましい。重合体Aのヨウ素価が30mg/100mg超であれば、重合体Aのガラス転移温度や弾性率の上昇に因ると推察されるが、得られる固体電解質含有層の接着性および耐屈曲性をバランス良く高めることができ、結果として全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。また、重合体Aのヨウ素過の上限値は、特に限定されず、500mg/100mg以下とすることができる。
なお、重合体Aのヨウ素価は、例えば、重合体Aの調製に用いる単量体の種類および比率、重合体Aの調製方法(水素化添加処理の有無など)を変更することにより、調整することができる。
【0036】
<<その他の結着材>>
その他の結着材としては、重合体Aと組成および/または性状が異なれば、特に限定されることなく、例えば、フッ素系重合体、ジエン系重合体、ニトリル系重合体等の高分子化合物を用いることができる。
ここで、フッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体としては、例えば、特開2012-243476号公報に記載されているフッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体などを用いることができる。
そして、その他の結着材としては、上述した高分子化合物を一種単独で、或いは、複数種併せて用いることができる。
【0037】
<溶媒>
本発明のバインダー組成物が任意に含むことができる溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;酪酸ブチル;ジイソブチルケトン;n-ブチルエーテルが挙げられる。これらの溶媒は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。そしてこれらの中でも、固体電解質含有層の接着性および耐屈曲性を高めつつ、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させる観点から、キシレン、酪酸ブチルが好ましい。
【0038】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物が任意に含むことができるその他の成分としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、導電材および補強材などが挙げられる。更に、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、その他の成分としては、リチウム塩も挙げられる。これらのその他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。
【0039】
<バインダー組成物の調製方法>
本発明のバインダー組成物の調製方法は、特に限定されない。例えば、上述のようにして得られる結着材としての重合体Aの水分散液に対して、必要に応じて、溶媒置換を行い、更にその他の結着材やその他の成分の添加などを行なうことで、バインダー組成物を調製することができる。
【0040】
(全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物)
本発明の電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した本発明のバインダー組成物とを含む。より具体的には、本発明の電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した重合体Aを含む結着材と、それら以外に任意に含まれる成分(任意成分)とが、溶媒中に分散および/または溶解してなる組成物である。
そして、本発明の電極合材層用スラリー組成物は本発明のバインダー組成物を含んでいるため、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて電極合材層を作製すれば、当該電極合材層を備える電極により、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0041】
<固体電解質>
固体電解質としては、リチウムイオン等の電荷担体の伝導性を有していれば特に限定されず、無機固体電解質および高分子固体電解質の何れも用いることができる。なお、固体電解質は、無機固体電解質と高分子固体電解質との混合物であってもよい。
【0042】
<<無機固体電解質>>
無機固体電解質としては、特に限定されることなく、結晶性の無機イオン伝導体、非晶性の無機イオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、無機固体電解質としては、通常は、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、非晶性の無機リチウムイオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池電極合材層用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0043】
そして、結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li3N、LISICON(Li14Zn(GeO44)、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO3、ガーネット型Li7La3Zr210、LIPON(Li3+yPO4-xx)、Thio-LISICON(Li3.75Ge0.250.754)などが挙げられる。
【0044】
また、非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、ガラスLi-Si-S-O、Li-P-Sなどが挙げられる。
【0045】
上述した中でも、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質としては、導電性の観点から、非晶性の無機リチウムイオン伝導体が好ましく、LiおよびPを含む非晶性の硫化物がより好ましい。LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、リチウムイオン伝導性が高いため、無機固体電解質として用いることで電池の内部抵抗を低下させることができると共に、出力特性を向上させることができる。
【0046】
なお、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスであることがより好ましく、Li2S:P25のモル比が65:35~85:15であるLi2SとP25との混合原料から製造された硫化物ガラスであることが特に好ましい。また、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、Li2S:P25のモル比が65:35~85:15のLi2SとP25との混合原料をメカノケミカル法によって反応させて得られる硫化物ガラスセラミックスであることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持する観点からは、混合原料は、Li2S:P25のモル比が68:32~80:20であることが好ましい。
【0047】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質のリチウムイオン伝導度は、特に限定されることなく、1×10-4S/cm以上であることが好ましく、1×10-3S/cm以上であることがさらに好ましい。
【0048】
なお、無機固体電解質は、イオン伝導性を低下させない程度において、上記Li2S、P25の他に出発原料としてAl23、B23およびSiS2からなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含んでいてもよい。かかる硫化物を加えると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、無機固体電解質は、Li2SおよびP25に加え、Li3PO4、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3BO3およびLi3AlO3からなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含んでいてもよい。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
【0049】
そして、無機固体電解質の個数平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。無機固体電解質の個数平均粒子径が0.1μm以上であれば、ハンドリングが容易であると共に、電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層の接着性を十分に高めることができる。一方、無機固体電解質の個数平均粒子径が20μm以下であれば、無機固体電解質の表面積を十分に確保し、全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
なお、本発明において、無機固体電解質および電極活物質の「個数平均粒子径」は、100個の無機固体電解質および電極活物質について、それぞれ電子顕微鏡にて観察し、JIS Z8827-1:2008に従って粒子径を測定し、平均値を算出することにより求めることができる。
【0050】
<<高分子固体電解質>>
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体およびポリエチレンオキサイド誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体およびポリプロピレンオキサイド誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、並びに、ポリカーボネート誘導体およびポリカーボネート誘導体を含む重合体等に電解質塩を含有させたものが挙げられる。
【0051】
そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合、電解質塩としては、特に限定されることなく、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの含フッ素リチウム塩が挙げられる。
【0052】
<<電極活物質>>
電極活物質は、全固体二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池電極合材層用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0053】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、無機化合物からなる正極活物質と、有機化合物からなる正極活物質とが挙げられる。なお、正極活物質は、無機化合物と有機化合物との混合物であってもよい。
【0054】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム含有複合金属酸化物)、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合金属酸化物(Li(Co Mn Ni)O2)、Ni-Co-Alのリチウム含有金属複合酸化物、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2、LiMn24)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu223、非晶質V2O-P25、MoO3、V25、V613等の遷移金属酸化物;などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0055】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。
【0056】
また、全固体リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。なお、炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することもできる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物または硫酸塩;金属リチウム;Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコーン;なども使用できる。
【0057】
電極活物質の個数平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。電極活物質の個数平均粒子径が0.1μm以上であれば、ハンドリングが容易であると共に、得られる電極合材層の接着性を十分に高めることができる。一方、電極活物質の個数平均粒子径が40μm以下であれば、電極活物質の表面積を十分に確保し、全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0058】
なお、電極合材層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の量は、電極活物質と固体電解質との合計量(100質量%)中に占める固体電解質の比率が10質量%以上となる量であることが好ましく、20質量%以上となる量であることがより好ましく、70質量%以下となる量であることが好ましく、60質量%以下となる量であることがより好ましい。固体電解質の比率が上記下限値以上であれば、イオン伝導性を十分に確保し、電極活物質を有効に活用して、全固体二次電池の容量を十分に高めることができる。また、固体電解質の比率が上記上限値以下であれば、電極活物質の量を十分に確保し、全固体二次電池の容量を十分に高めることができる。
【0059】
<<結着材>>
電極合材層用スラリー組成物に含まれる結着材は、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した重合体Aを、少なくとも含む
そして、電極合材層用スラリー組成物中に含まれる重合体Aの量は、固体電解質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。電極合材層用スラリー組成物中の重合体Aの含有量が、固体電解質100質量部当たり0.1質量部以上であれば、電極合材層用スラリー組成物中で固体電解質を十分良好に分散させて、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、電極合材層用スラリー組成物中の重合体Aの含有量が、固体電解質100質量部当たり7質量部以下であれば、結着材である重合体Aによって電池反応が阻害されるのを抑制することができる。
【0060】
<<任意成分および溶媒>>
任意成分および溶媒としては、特に限定されない。任意成分としては、例えば、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で「その他の成分」として例示した成分を用いることができる。また、溶媒としては、例えば、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示した溶媒を用いることができる。
【0061】
<<電極合材層用スラリー組成物の調製方法>>
電極合材層用スラリー組成物は、上述した各成分を混合して得られる。上記のスラリー組成物の各成分の混合法は特に限定はされないが、例えば、攪拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられ、電極活物質および/または固体電解質の凝集を抑制できるという観点から、遊星式混練機(自転公転ミキサーなど)、ボールミル又はビーズミルを使用した方法が好ましい。
【0062】
(全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物)
本発明の固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した本発明のバインダー組成物とを含む。より具体的には、本発明の固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した重合体Aを含む結着材と、それら以外に任意に含まれる成分(任意成分)とが、溶媒中に分散および/または溶解してなる組成物である。
そして、本発明の固体電解質層用スラリー組成物は本発明のバインダー組成物を含んでいるため、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて固体電解質層を作製すれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0063】
<固体電解質>
固体電解質としては、「全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物」で例示したものと同様のものを用いることができる。そして、固体電解質層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の好適例および好適性状等は、電極合材層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の好適例および好適性状等と同じである。
【0064】
<結着材>
固体電解質層用スラリー組成物に含まれる結着材は、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した重合体Aを、少なくとも含む
そして、固体電解質層用スラリー組成物中に含まれる重合体Aの量は、固体電解質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。固体電解質層用スラリー組成物中の重合体Aの含有量が、固体電解質100質量部当たり0.1質量部以上であれば、固体電解質層用スラリー組成物中で固体電解質を十分良好に分散させて、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、固体電解質層用スラリー組成物中の重合体Aの含有量が、固体電解質100質量部当たり7質量部以下であれば、結着材である重合体Aによって電池反応が阻害されるのを抑制することができる。
【0065】
<<任意成分および溶媒>>
任意成分および溶媒としては、特に限定されない。任意成分としては、例えば「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で「その他の成分」として例示した、分散剤、レベリング剤、消泡剤などを用いることができる。また、溶媒としては、例えば、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示した溶媒を用いることができる。
【0066】
(全固体二次電池用電極)
上述した本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて、全固体二次電池用電極を作製することができる。例えは、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて集電体上に電極合材層を形成することで、集電体と、集電体上に電極合材層を備える電極を得ることができる。そして、本発明の電極合材層用スラリー組成物から形成される電極合材層を備える電極によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0067】
<集電体>
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm以上0.5mm以下程度のシート状のものが好ましい。集電体は、電極合材層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、集電体と電極合材層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0068】
<電極合材層>
電極合材層は、上述した通り、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される。具体的には、電極合材層は、本発明の電極合材層用スラリー組成物の乾燥物よりなり、当該電極合材層には、少なくとも、固体電解質と、電極活物質と、結着材としての重合体Aが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、電極合材層用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、電極合材層用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0069】
<全固体二次電池用電極の製造方法>
電極は、例えば、本発明の電極合材層用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された電極合材層用スラリー組成物を乾燥して電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0070】
<<塗布工程>>
電極合材層用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどが挙げられる。
また、塗布量は、特に限定されず、所望の電極合材層の厚み等に応じて適宜設定することができる。
【0071】
<<乾燥工程>>
集電体上の電極合材層用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、乾燥方法としては、温風、熱風、又は低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、応力集中が起こって電極合材層に亀裂が入ったり、電極合材層が集電体から剥離したりしない程度の条件の中で、できるだけ短時間に溶媒が揮発するように調整することが好ましい。
具体的な乾燥温度としては、50℃以上250℃以下であることが好ましく、80℃以上200℃以下が好ましい。上記範囲とすることにより、重合体Aを含む結着材の熱分解を抑制して良好な電極合材層を形成することが可能となる。乾燥時間については、特に限定されることはないが、通常10分以上60分以下の範囲で行われる。
【0072】
なお、乾燥後の電極をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレスやカレンダープレスなどの方法が挙げられるが、限定されるものではない。
【0073】
上述のようにして得られる電極における電極合材層の目付量は、特に限定されないが、1.0mg/cm2以上20.0mg/cm2以下であることが好ましく、5.0mg/cm2以上15.0mg/cm2以下であることがより好ましい。
【0074】
(全固体二次電池用固体電解質層)
上述した本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて、固体電解質層を作製することができる。そして、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて作製される固体電解質層によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0075】
ここで、固体電解質層は、上述した通り、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される。具体的には、固体電解質層は、本発明の固体電解質層用スラリー組成物の乾燥物よりなり、当該固体電解質層には、少なくとも、固体電解質と、結着材としての重合体Aが含まれている。なお、固体電解質層中に含まれている各成分は固体電解質層用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、固体電解質層用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0076】
<全固体二次電池用固体電解質層の製造方法>
固体電解質層を形成する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
1)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を電極上(通常、電極合材層の表面。以下同じ。)に塗布し、次いで乾燥することで、電極上に固体電解質層を形成する方法;
2)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を基材上に塗布し、乾燥した後、得られた固体電解質層を電極上に転写することで、電極上に固体電解質層を形成する方法;および、
3)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を基材上に塗布し、乾燥して得られた固体電解質層用スラリー組成物の乾燥物を粉砕して粉体とし、次いで、得られた粉体を層状に成型することで、自立可能な固体電解質層を形成する方法。
【0077】
上述した1)~3)の方法で用いられる、塗布、乾燥、転写、粉砕、成型などの方法としては、何れも既知の方法を採用することができる。
【0078】
そして、上述のようにして得られる固体電解質層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上300μm以下であることがより好ましく、30μm以上200μm以下であることが更に好ましい。固体電解質層の厚みが上述した範囲内であることで、全固体二次電池の内部抵抗を小さくすることができ、当該全固体二次電池に更に優れた出力特性を発揮させることができる。なお、固体電解質層の厚さが10μm以上であることで、全固体二次電池内部における正極と負極の短絡を十分抑制することができる。
【0079】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、上述した本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する電極と、上述した本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質層の少なくとも一方を備える。即ち、本発明の全固体二次電池は、正極合材層を備える正極、負極合材層を備える負極、および固体電解質層を備え、正極合材層、負極合材層、および固体電解質層からなる群から選択される少なくとも1つが、上述した本発明のバインダー組成物を含む固体電解質含有層用スラリー組成物(電極合材層用スラリー組成物または固体電解質層用スラリー組成物)を用いて形成されている。
【0080】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極合材層、負極合材層、および/または固体電解質層の少なくとも1つに、本発明のバインダー組成物に由来する結着材としての重合体Aが含まれるため、出力特性および高温サイクル特性などの電池特性に優れている。
【0081】
なお、本発明の全固体二次電池に使用しうる、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する電極以外の電極(正極および負極)としては、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いてなる電極合材層を有さないものであれば特に限定されることなく、任意の電極を用いることができる。
また、本発明の全固体二次電池に使用しうる、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質層以外の固体電解質層としては、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成されていないものであれば特に限定されることなく、任意の固体電解質層を用いることができる。
【0082】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極と負極とを、正極の正極合材層と負極の負極合材層とが固体電解質層を介して対向するように積層し、任意に加圧して積層体を得た後、電池形状に応じて、そのままの状態で、または、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口することにより得ることができる。なお、必要に応じて、エキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例
【0083】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、組成およびヨウ素価、負極合材層の接着性および耐屈曲性、ならびに、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性は、以下の方法で測定、評価した。
【0084】
<ムーニー粘度(ML1+4、100℃)>
重合体の水分散液をメタノールで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥し、乾燥重合体を得た。得られた乾燥重合体40gを使用し、JIS K6300-1に準拠して温度100℃で測定した。
<組成>
重合体の水分散液100gをメタノール1Lで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥し、乾燥重合体を得た。得られた乾燥重合体を1H-NMRで分析し、得られたスペクトルのピーク面積に基づいて、重合体に含まれる繰り返し単位(単量体単位)の含有割合(質量%)を算出した。
<ヨウ素価>
重合体の水分散液100gをメタノール1Lで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥し、乾燥重合体を得た。そして、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
<接着性>
負極を、幅1.0cm×長さ10cmの矩形に切り出して試験片とした。次いで、試験片の負極合材層表面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの。)を貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。この測定を合計10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度(N/m)とし、以下の基準で評価した。ピール強度の値が大きい程、負極合材層が集電体により強固に接着していることを意味する。
A:ピール強度が20.0N/m以上
B:ピール強度が15.0N/m以上20.0N/m未満
C:ピール強度が10.0N/m以上15.0N/m未満
D:ピール強度が10.0N/m未満
<耐屈曲性>
負極について、マンドレル試験(JIS K 5600 (1999))に従い屈曲性試験を行った。具体的には、負極を、5.0mmφ、4.0mmφ、3.0mmφの径を有するマンドレルに、負極合材層が外側になるように巻きつけ、巻きつけ後に負極合材層表面に生じるクラックの有無を、デジタルマイクロスコープで観察し、以下の基準で評価した。クラックが生じるマンドレルの径が小さいほど、負極合材層が耐屈曲性に優れることを意味し、3.0mmφの径のマンドレルを用いた場合でもクラックが生じない場合は、負極合材層が特に耐屈曲性に優れることを意味する。
A:3.0mmφでもクラックが生じない。
B:3.0mmφではクラックが生じるが、4.0mmφでは生じない。
C:4.0mmφではクラックが生じるが、5.0mmφでは生じない。
D:5.0mmφでクラックが生じる。
<出力特性>
10セルの全固体二次電池を0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電しその後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量を求めた。次いで、0.1Cにて4.3Vまで充電しその後5Cにて3.0Vまで放電し、5C放電容量を求めた。3セルの0.1C放電容量の平均値を放電容量a、3セルの10C放電容量の平均値を放電容量bとし、放電容量aに対する放電容量bの比(容量比)=放電容量b/放電容量a×100(%)を求め、以下の基準で評価した。容量比の値が大きいほど、出力特性に優れることを意味する。
A:容量比が50%以上
B:容量比が40%以上50%未満
C:容量比が30%以上40%未満
D:容量比が30%未満
<高温サイクル特性>
得られた全固体二次電池を、60℃で0.1Cで3Vから4.3Vまで充電し、次いで0.1Cで4.3Vから3Vまで放電する充放電を、100サイクル繰り返し行った。5サイクル目の0.1C放電容量に対する100サイクル目の0.1C放電容量の割合を百分率で算出した値を容量維持率とし、以下の基準で評価した。容量維持率の値が大きいほど、放電容量減が少なく、高温サイクル特性に優れることを意味する。
A:容量維持率が60%以上
B:容量維持率が50%以上60%未満
C:容量維持率が40%以上50%未満
D:容量維持率が30%以上40%未満
【0085】
(実施例1)
<重合体Aを含むバインダー組成物の調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水100部、並びに、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部および、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン80部を仕込み、更に、乳化剤としてオレイン酸カリウム2部、安定剤としてリン酸カリウム0.1部、分子量調整剤として2,2′,4,6,6′-ペンタメチルヘプタン-4-チオール(TIBM)0.5部を仕込んだ。次いで、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.35部を反応液中に添加し、30℃で乳化重合を行い、1,3-ブタジエンとアクリロニトリルとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で、反応器中に0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、加温し、減圧下で約70℃にて水蒸気蒸留して、残留単量体を回収した後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、重合体A(1,3-ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体)の水分散液を得た。
その後、系内を窒素雰囲気とし、常温にてエバポレーターを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮した。この濃縮後の重合体Aの水分散液を用いて、重合体Aのムーニー粘度、組成およびヨウ素価を測定した。結果を表1に示す。
そして、濃縮後の重合体Aの水分散液に対してキシレンを添加し、減圧下で水を蒸発させて、重合体Aと、キシレンとを含むバインダー組成物(固形分濃度:8~10%)を得た。
<重合体Bを含むバインダー組成物>
アクリロニトリルの量を22部に変更し、1,3-ブタジエンの量を78部に変更した以外は、上述の「重合体Aを含むバインダー組成物」と同様にして、重合体の水分散液を得た。得られた重合体の水分散液を用いて、重合体の組成を測定したところ、重合体は、アクリロニトリル単位を22%、1,3-ブタジエン単位を78%含んでいた。
次いで、得られた重合体の水分散液400mL(全固形分:48g)を、攪拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒として、酢酸パラジウム50mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させて、重合体B(水素化ニトリルゴム)の水分散液を得た。
その後、系内を窒素雰囲気とし、常温にてエバポレーターを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮した。この濃縮後の重合体Bの水分散液を用いて、重合体Bのムーニー粘度およびヨウ素価を測定したところ、重合体Bのムーニー粘度は70、ヨウ素価は7であった。なお、ヨウ素価の値から、重合体Bの脂肪族共役ジエン単量体単位(1,3-ブタジエン単位)の含有割合が40質量%未満であることを確認した。
そして、濃縮後の重合体Bの水分散液に対してキシレンを添加し、減圧下で水を蒸発させて、重合体Bと、キシレンとを含むバインダー組成物(固形分濃度:8~10%)を得た。
<負極合材層用スラリー組成物の調製>
負極活物質としてのグラファイト(個数平均粒子径:20μm)100部と、固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)50部と、上記重合体Aを含むバインダー組成物3部(固形分相当量)とを混合し、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度65%の組成物を調製した。この組成物を自転公転ミキサーで混合し、さらにキシレンで固形分濃度60%に調整して負極合材層用スラリー組成物を得た。
<正極合材層用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi5/10Co2/10Mn3/102、個数平均粒子径:10.0μm)100部と、固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)50部と、導電材としてのアセチレンブラック3部と、上記重合体Bを含むバインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度75%の組成物を調製した。この組成物を自転公転ミキサーで混合し、さらにキシレンで固形分濃度70%に調整して、正極合材層用スラリー組成物を得た。
<固体電解質層の作製>
固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)100部と、上記重合体Bを含むバインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度60%の組成物を調製した。この組成物を自転公転ミキサーで混合して、固体電解質層用スラリー組成物を得た。この固体電解質層用スラリー組成物を、基材としての剥離シート上で乾燥させ、剥離シート上から剥離させた乾燥物を乳鉢ですりつぶし粉体を得た。得られた粉体0.05mgを10mmφの金型に入れて、200Mpaの圧力で成型することで、厚みが500μmのペレット(固体電解質層)を得た。
<負極の作製>
集電体としての銅箔の表面に、上記負極合材層用スラリー組成物を塗布し、120℃で20分間乾燥することで、集電体としての銅箔の片面に負極合材層(目付け量:10.0mg/cm2)を有する負極を得た。
この負極を用いて、接着性および耐屈曲性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の作製>
集電体としてのアルミニウム箔の表面に、上記正極合材層用スラリー組成物を塗布し、120℃で30分間乾燥することで、集電体としてのアルミニウム箔の片面に正極合材層(目付け量:18.0mg/cm2)を有する正極を得た。
<全固体二次電池の製造>
上記のようにして得られた負極、正極を、それぞれ10mmφで打ち抜いた。打ち抜いた後の正極と負極で、上記のようにして得られた固体電解質層を挟み(この際、各電極の電極合材層が固体電解質層に接する)、200MPaの圧力でプレスして全固体二次電池用の積層体を得た。得られた積層体を、評価用セル内に配置して(拘束圧:40Mpa)、全固体二次電池を得た。そして、得られた全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2~4)
重合体Aを含むバインダー組成物の調製時に、重合体Aの調製に用いるアクリロニトリルと1,3-ブタジエンの量を、それぞれ、12部と88部(実施例2)、27部と73部(実施例3)、8部と92部(実施例4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例5~6)
重合体Aを含むバインダー組成物の調製時に、重合体Aの調製に用いる分子量調整剤(TIBM)の量を、それぞれ、0.33部(実施例5)、0.15部(実施例6)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例7)
重合体Aを含むバインダー組成物の調製時に、重合体Aの調製に用いる単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部、およびエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20部を使用し、且つ重合体Aの調製に用いる分子量調整剤(TIBM)の量を0.30部に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例8)
重合体Aを含むバインダー組成物の調製時に、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレートをエチルアクリレートに変更した以外は、実施例7と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例9)
固体電解質層の作製時に、重合体Bを含むバインダー組成物に代えて、重合体Aを含むバインダー組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
(実施例10~11)
重合体Aを含むバインダー組成物および負極合材層用スラリー組成物の調製時に、キシレンに代えて、ジイソブチルケトン(実施例10)、n-ブチルエーテル(実施例11)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
(比較例1~2)
重合体Aを含むバインダー組成物の調製時に、重合体Aの調製に用いるアクリロニトリルと1,3-ブタジエンの量を、それぞれ、35部と65部(比較例1)、2部と98部(比較例2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(重合体A、B)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
(比較例3)
重合体Aを含むバインダー組成物を調製せず、負極合材層用スラリー組成物の調製時に、重合体Aを含むバインダー組成物に代えて、重合体Bを含むバインダー組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体Bを含むバインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
(比較例4)
重合体Aを含むバインダー組成物を調製せず、負極合材層用スラリー組成物の調製時に、重合体Aを含むバインダー組成物に代えて、以下のようにして調製したニトリルゴムを含むバインダー組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体Bを含むバインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、正極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
<ニトリルゴムを含むバインダー組成物の調製>
アクリロニトリルと1,3-ブタジエンの量を、22部と78部に変更し、且つ分子量調整剤(TIBM)の量を0.37部に変更した以外は、上述した重合体Aを含むバインダー組成物と同様にして、ニトリルゴムと、キシレンとを含むバインダー組成物(固形分濃度:8~10%)を得た。なお、ニトリルゴムのムーニー粘度、ヨウ素価および組成を測定したところ、ニトリルゴムのムーニー粘度は50、ヨウ素価は366であり、そして、ニトリルゴムは、アクリロニトリル単位を22%、1,3-ブタジエン単位を78%含んでいた。
【0095】
なお、以下に示す表1および2中、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「BD」は、1,3-ブタジエン単位を示し、
「H-BD」は、1,3-ブタジエン単位を水素化してなる繰り返し単位を示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、
「EA」は、エチルアクリレート単位を示し、
「DIK」は、ジイソブチルケトンを示し、
「BE」は、n-ブチルエーテルを示し、
「負極」は、負極合材層を示し、
「固体」は、固体電解質層を示す。


【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表1および表2より、結着材として、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位をそれぞれ所定の範囲内の割合で含むと共に、ムーニー粘度が所定の値以上である重合体Aを用いた実施例1~11では、接着性および耐屈曲性に優れる負極合材層が得られ、また、出力特性および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池が得られることが分かる。
一方、表2より、結着材として、ニトリル基含有単量体単位と脂肪族共役ジエン単量体単位の少なくとも一方の含有割合が所定の範囲外である重合体を用いた比較例1~3、ムーニー粘度が所定の値以下である重合体を用いた比較例4では、負極合材層の接着性および耐屈曲性が低下すると共に、全固体二次電池の出力特性および高温サイクル特性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性および高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することができる。
加えて、本発明によれば、出力特性および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。