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特許7405094原料供給器及びN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】原料供給器及びN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/22 20060101AFI20231219BHJP
   B01J 4/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20231219BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20231219BHJP
   F28D 3/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B01D1/22 A
B01J4/00 103
C07C233/05
C07C231/12
F28D3/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020558232
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043186
(87)【国際公開番号】W WO2020110615
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018224144
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 直行
(72)【発明者】
【氏名】加古 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】清藤 正明
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝充
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-507329(JP,A)
【文献】特開2006-284166(JP,A)
【文献】特開2017-211094(JP,A)
【文献】特開昭60-228894(JP,A)
【文献】特開2013-212995(JP,A)
【文献】特開平04-352748(JP,A)
【文献】特表平09-502656(JP,A)
【文献】特開平11-314001(JP,A)
【文献】国際公開第2002/058141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/22
B01J 4/00
F28D 3/02 - 3/04
C07D 231/12
C07D 233/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体化合物を原料として流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に分散して供給するための原料供給器であって、
前記複数の蒸発管と対向する複数の連通孔を備えた本体部と、
前記連通孔の内部に収納された、オリフィス孔を有する制限オリフィスと、
前記連通孔の内部であって前記制限オリフィスの上流側に、前記制限オリフィスと対面されて収納されており、前記オリフィス孔と対向する孔部を有する給液チップと、
前記給液チップの側面に外嵌されており、前記給液チップの側面と前記連通孔の内面とによって挟持された第1Oリングと、
内側領域に前記オリフィス孔が存在するように、前記給液チップと前記制限オリフィスとによって挟持された第2Oリングとを備える、原料供給器。
【請求項2】
前記液体化合物がN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドである、請求項1に記載の原料供給器。
【請求項3】
前記連通孔の内部であって前記制限オリフィスの下流側に、前記制限オリフィスと対面されて収納されており、前記オリフィス孔と対向するノズル孔を有するノズルと、
内側領域に前記オリフィス孔が存在するように、前記ノズルと前記制限オリフィスとによって挟持された第3Oリングとを備える、請求項1又は2に記載の原料供給器。
【請求項4】
前記ノズル孔は、内部に液拡散子を収納する、請求項3に記載の原料供給器。
【請求項5】
前記ノズル孔は、上流側の上流孔部と、前記上流孔部の下流端と連通しており、前記ノズルの下端に向かって拡径する下流孔部とを有しており、
前記上流孔部内に前記液拡散子が収納されている、請求項に記載の原料供給器。
【請求項6】
前記本体部は、第1孔部を有する第1フランジと、前記第1フランジの下流側の面と対向しており、前記第1孔部と対向する第2孔部を有する第2フランジとを有しており、
前記第1孔部と前記第2孔部によって前記連通孔を構成し、
前記第2孔部は、上流側の大径孔と、前記大径孔と連通しており、前記大径孔よりも小径の小径孔とからなっており、
前記ノズルの上流側の側部は、外側に張り出した張出部となっており、
前記大径孔の下流側の底面に張出部が当接されている、請求項3~5のいずれか1項に記載の原料供給器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の原料供給器によって、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを原料として流下液膜式蒸発器に供給する供給工程と、
前記流下液膜式蒸発器で前記原料を蒸発させ、気化原料とする蒸発工程と、
前記気化原料を熱分解反応器に供給し、減圧下にて熱分解する熱分解工程とを含むN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項8】
前記蒸発工程は、減圧下にて行う、請求項7に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項9】
前記熱分解工程は、減圧下にて行う、請求項7又は8に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項10】
前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流量の変動係数が10.0%以下で前記原料を供給する、請求項7~9のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項11】
前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流量の誤差が-20%以上+30%以下で前記原料を供給する、請求項7~10のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項12】
前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流速が2.0g/min以上80.0g/min以下で前記原料を供給する、請求項7~11のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項13】
前記N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドは、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドである、請求項7~12のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体化合物を原料として流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に分散して供給するための原料供給器、及び、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを原料とするN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法に関して、これまで多くの方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の製造方法では、N-(2-アルコキシエチル)カルボン酸アミド原料を蒸発させて熱分解するN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法が開示されている。
このように、熱分解によってN-ビニルカルボン酸アミドを製造する方法においては、原料を蒸発器で安定的に蒸発させて熱分解反応器に導入することが安定運転の重要な要因となる。そこで、原料を安定的に蒸発させるために、一般的に、蒸発器は複数の蒸発管を有する多管の流下液膜式蒸発器が用いられている。
蒸発器への原料供給及び複数の蒸発管への分散は、ディストリビューター(分散板)方式及びスプレーノズル方式が一般的に用いられているが、これらは相応の原料供給速度が必要であり、その性能を維持できる供給速度以下になった時は原料分散性が低下する。原料分散性が低下した場合には、原料の片流れ等が発生して充分な蒸発ができず、液状の原料が熱分解反応器に流入してしまう。液状の原料が高温の熱分解反応器に流入することによって、タール状又は固体状の凝集物(ハルツとも言う)が生成することがある。ハルツが生成した結果、熱分解反応器の閉塞問題を引き起こし、安定運転が困難になる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/002494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記問題を解決し、流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に安定した原料分散性で原料を供給することによって、熱分解反応器のハルツによる閉塞問題を抑制し、長期間安定に連続運転することができる原料供給器及びN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のものに関する。
(1)液体化合物を原料として流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に分散して供給するための原料供給器であって、前記複数の蒸発管と対向する複数の連通孔を備えた本体部と、前記連通孔の内部に収納された、オリフィス孔を有する制限オリフィスと、前記連通孔の内部であって前記制限オリフィスの上流側に、前記制限オリフィスと対面されて収納されており、前記オリフィス孔と対向する孔部を有する給液チップと、前記給液チップの側面に外嵌されており、前記給液チップの側面と前記連通孔の内面とによって挟持された第1Oリングと、内側領域に前記オリフィス孔が存在するように、前記給液チップと前記制限オリフィスとによって挟持された第2Oリングとを備える、原料供給器。
(2)前記液体化合物がN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドである、(1)に記載の原料供給器。
(3)前記連通孔の内部であって前記制限オリフィスの下流側に、前記制限オリフィスと対面されて収納されており、前記オリフィス孔と対向するノズル孔を有するノズルと、内側領域に前記オリフィス孔が存在するように、前記ノズルと前記制限オリフィスとによって挟持された第3Oリングとを備える、(1)又は(2)の原料供給器。
(4)前記ノズル孔は、内部に液拡散子を収納する、(3)の原料供給器。
(5)前記ノズル孔は、上流側の上流孔部と、前記上流孔部の下流端と連通しており、前記ノズルの下端に向かって拡径する下流孔部とを有しており、前記上流孔部内に前記液拡散子が収納されている、(3)又は(4)の原料供給器。
(6)前記本体部は、第1孔部を有する第1フランジと、前記第1フランジの下流側の面と対向しており、前記第1孔部と対向する第2孔部を有する第2フランジとを有しており、前記第1孔部と前記第2孔部によって前記連通孔を構成し、前記第2孔部は、上流側の大径孔と、前記大径孔と連通しており、前記大径孔よりも小径の小径孔とからなっており、前記ノズルの上流側の側部は、外側に張り出した張出部となっており、前記大径孔の下流側の底面に張出部が当接されている、(3)~(5)のいずれかの原料供給器。
(7)(1)~(6)のいずれかの原料供給器によって、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを原料として流下液膜式蒸発器に供給する供給工程と、前記流下液膜式蒸発器で前記原料を蒸発させ、気化原料とする蒸発工程と、前記気化原料を熱分解反応器に供給し、減圧下にて熱分解する熱分解工程とを含むN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(8)前記蒸発工程は、減圧下にて行う、(7)のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(9)前記熱分解工程は、減圧下にて行う、(7)又は(8)のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(10)前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流量の変動係数が10.0%以下で前記原料を供給する、(7)~(9)のいずれかのN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(11)前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流量の誤差が-20%以上+30%以下で前記原料を供給する、(7)~(10)のいずれかのN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(12)前記原料供給器は、複数の前記蒸発管の各々に、流速が2.0g/min以上80.0g/min以下で前記原料を供給する、(7)~(11)のいずれかのN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
(13)前記N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドは、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドである、(7)~(12)のいずれかのN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に安定した原料分散性で原料を供給することによって、熱分解反応器のハルツによる閉塞問題を抑制し、長期間安定に連続運転することができる原料供給器及びN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る原料供給器の模式的断面図(全体図)である。
図2】本発明の実施の形態に係る原料供給器の模式的断面図(拡大図)である。
図3図2のA-A方向の断面図である。
図4】本発明のN-ビニルカルボン酸アミドを製造する製造装置の模式的全体図である。
図5】本発明のN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法を示すフローチャートである。
図6】比較例として示す旧型原料供給器の模式的断面図(全体図)である。
図7】比較例として示す旧型原料供給器の模式的断面図(拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態に係る原料供給器は、図1に示すように、液体化合物を原料として流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管8に分散して供給するための原料供給器であって、複数の蒸発管8と対向する複数の連通孔50を備えた本体部51と、連通孔50の内部に収納された、オリフィス孔7aを有する制限オリフィス7と、連通孔50の内部であって制限オリフィス7の上流側に、制限オリフィス7と対面されて収納されており、オリフィス孔7aと対向する孔部6aを有する給液チップ6と、給液チップ6の側面に外嵌されており、給液チップ6の側面と連通孔50の内面とによって挟持された第1Oリング10と、内側領域にオリフィス孔7aが存在するように、給液チップ6と制限オリフィス7とによって挟持された第2Oリング11とを備える。液体化合物としては、例えば、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドが挙げられる。
給液チップ6の側面には、第1Oリング10を装着するための第1Oリング溝が設けられていてもよい。また、給液チップ6のうち制限オリフィス7と対向する面には、第2Oリング11を装着するための第2Oリング溝が設けられていてもよい。
本体部51は、第1フランジ2と、第2フランジ3とを備え、第1フランジ2上には、原料を供給するための原料供給口1aを有する供給フランジ1をさらに備える。
【0009】
第1Oリング10は、給液チップ6の側面と連通孔50の内面との間を原料が流れることを抑制する。第2Oリング11は、給液チップ6と制限オリフィス7との間を原料が流れることを抑制する。つまり、第1Oリング10及び第2Oリング11は、原料がオリフィス孔7aのみを流通するように抑制する。
第1Oリング10及び第2Oリング11の材質は、原料への耐性、耐熱性及び耐久性の観点から、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)及びシリコーンゴム等が挙げられる。
【0010】
連通孔50は、原料を供給する蒸発管8の管数に応じた数を用意する。連通孔50の下流端の直径は、原料を供給する蒸発管8の管径に応じて寸法を決定する。
【0011】
制限オリフィス7に設けられたオリフィス孔7aの孔径は、蒸発管8に流通させる原料流速と使用する蒸発管8の管数から最適な孔径を設定すればよい。
オリフィス孔7aの孔径としては、下記式(1)で算出される流量係数αが0.50~1.00であることが好ましく、0.60~0.85であることがより好ましく、0.65~0.75であることがさらに好ましい。

流量係数α=Q/(A×(2×ΔP/ρ)0.5)・・・(1)

式(1)において、「Q」は、単位時間あたりにオリフィス孔7aを流れる流体の体積を意味する体積流量(m/s)であり、「A」は、オリフィス孔7aの断面積(m)であり、「ΔP」は、オリフィス孔7aを通過する際の単位流量あたりの圧力損失(Pa)であり、「ρ」は、オリフィス孔7aを通過する原料の密度(kg/m)である。
オリフィス孔7aの孔径の誤差を小さくするために、事前に流量係数αの測定を実施してバラツキの小さいオリフィス孔7aを必要枚数準備することでより均一な原料分散が可能となる。
【0012】
オリフィス孔7aを流通させる原料の流速範囲は、オリフィス孔7aの流通前後の差圧値がゼロにならない範囲以上、供給圧力上限以下の範囲で設定できる。オリフィス孔7aを流通させる原料の流速範囲は、オリフィス孔7aの孔径により設定することができる。そこで、オリフィス孔7aの孔径は、運転条件に見合った流速とする観点から、0.10~1.0mmであることが好ましく、0.15~0.9mmであることがより好ましく、0.20~0.8mmであることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の実施の形態に係る原料供給器は、図1に示すように、連通孔50の内部であって制限オリフィス7の下流側に、制限オリフィス7と対面されて収納されており、オリフィス孔7aと対向するノズル孔5aを有するノズル5と、内側領域にオリフィス孔7aが存在するように、ノズル5と制限オリフィス7とによって挟持された第3Oリング12とを備える構成であることが好ましい。
ノズル5のうち制限オリフィス7と対向する面には、第3Oリング12を装着するための第3Oリング溝が設けられていてもよい。
【0014】
第3Oリング12は、ノズル5と制限オリフィス7との間を原料が流れることを抑制する。つまり、第3Oリング12は、原料がオリフィス孔7aのみを流通するように抑制する。
第3Oリング12の材質は、上述した第1Oリング10及び第2Oリング11と同じ材質のものを用いることができる。
【0015】
ノズル孔5aは、図1及び図2に示すように、内部に液拡散子30を収納する構成であることが好ましい。液拡散子30の固定手段は、特に限定されず、例えば、ノズル孔5aの内壁面によって液拡散子30が挟持されることで固定される手段、液拡散子30をノズル孔5a内に一体成形することで固定される手段等が挙げられる。液拡散子30は、オリフィス孔7aを流通してきた原料を拡散させ、ノズル5の内壁面を沿って流通させるために、図3に示すように、ノズル5との間に間隙を有する形状となっている。液拡散子30の断面形状は、ノズル5との間に間隙を有する形状であればよく、図3に示した四角形状でもよく、三角形状及び多角形状等であってもよい。
【0016】
ノズル孔5aは、図2に示すように、上流側の上流孔部5bと、上流孔部5bの下流端と連通しており、ノズル5の下端に向かって拡径する下流孔部5cとを有しており、上流孔部5b内に液拡散子30が収納されている構成であることが好ましい。このような構成であることで、オリフィス孔7aを流通してきた原料を、上流孔部5b内で液拡散子30が拡散させ、ノズル5の下端に向かって拡径する下流孔部5cでさらに拡散させることで、蒸発管8の内壁面へ均等に安定して流通させることができる。
【0017】
本体部51は、図1及び図2に示すように、第1孔部2aを有する第1フランジ2と、第1フランジ2の下流側の面と対向しており、第1孔部2aと連通する第2孔部3aを有する第2フランジ3とを有しており、第1孔部2aと第2孔部3aによって連通孔50を構成する。第2孔部3aは、上流側の大径孔3bと、大径孔3bと連通しており、大径孔3bよりも小径の小径孔3cとからなっており、ノズル5の上流側の側部は、外側に張り出した張出部5dとなっており、大径孔3bの下流側の底面に張出部5dが当接されている構成であることが好ましい。このような構成であることで、第2フランジ3にノズル5を安定して設置することができる。
【0018】
第1フランジ2の第1孔部2aのうち下流側の周面に雌ネジが切られており、また、給液チップ6の下流側の周面に雄ネジが切られていてもよい。これにより、給液チップ6を第1孔部2aに螺着させることができる。その場合、第1Oリング10は、給液チップ6のうち雄ネジが切られていない上流側の側面に装着され、当該側面と、第1フランジ2の第1孔部2aのうち雌ネジが切られていない上流側の周面とによって挟持されていてもよい。
図2に示すように、ノズル5の下流端は、第2フランジ3の下流端よりも下流側に延在していることが好ましい。これにより、ノズル5の下流端を蒸発器4の蒸発管8内にまで延在させ、原料を蒸発管8内に確実に案内することができる。
【0019】
本発明の実施の形態に係る原料供給器の設置方法について、図1を参照しながら以下に説明する。
まず、供給フランジ1、第1フランジ2及び第2フランジ3を用意する。
次に、給液チップ6、第1Oリング10及び第2Oリング11を用意し、給液チップ6に第1Oリング10及び第2Oリング11を装着する。そして、第1Oリング10及び第2Oリング11を装着した給液チップ6を第1フランジ2の第1孔部2aに配置する。
次に、ノズル5及び第3Oリング12を用意し、ノズル5に第3Oリング12を装着する。そして、第3Oリング12を装着したノズル5を第2フランジ3の第2孔部3aに配置する。
次に、制限オリフィス7を用意し、第2フランジ3に配置されたノズル5の上に制限オリフィス7を配置する。
次に、第2フランジ3上に第1フランジ2を配置する。配置された第1フランジ2及び第2フランジ3をボルト等の固定部材(図示せず)で固定する。このとき、第1フランジ2及び第2フランジ3の密着度を向上させるために、Oリングを用いて封着することが好ましい。
次に、給液チップ6の孔部6aの上流側に設けられた六角穴等の工具係合部6bに対応する工具を利用して、給液チップ6を締め込み、制限オリフィス7をシールする。
次に、第1フランジ2上に供給フランジ1を配置する。配置された供給フランジ1、第1フランジ2及び第2フランジ3をボルト等の固定部材20で固定し、本発明の実施の形態に係る原料供給器となる。このとき、供給フランジ1及び第1フランジ2の密着度を向上させるために、Oリングを用いて封着することが好ましい。
次に、複数の連通孔を備えたフランジと、当該連通孔に装着された複数の蒸発管8とを有する蒸発器4に、原料供給器を配置する。原料供給器を配置するにあたって、原料供給器の連通孔と蒸発器4の連通孔との位置を合致させる。そして、配置された原料供給器及び蒸発器4をボルト等の固定部材21で固定することで設置が完了する。このとき、原料供給器(第2フランジ3)及び蒸発器4の密着度を向上させるために、渦巻きガスケットを用いて封着することが好ましい。
【0020】
本発明の実施の形態に係る原料供給器を設置した流下液膜式蒸発器を備える製造装置の模式的全体図を図4に示す。
図4に示す製造装置は、原料タンク100と、原料供給器101と、蒸発器(流下液膜式蒸発器)102と、熱分解反応器103と、反応液受器104と、反応液貯蔵タンク105を備える。
蒸発器102及び熱分解反応器103には、ジャケット構造に熱媒体を流通させる等の温度調整装置が設けられており、温度調整装置によって、蒸発器102及び熱分解反応器103の温度を調整することができる。
原料タンク100には、圧力ポンプ等の圧力調整装置が設けられており、圧力調整装置によって、原料タンク100及び原料供給器101(制限オリフィス7の上流側)の圧力を加圧条件に調整することができる。
反応液受器104には、圧力ポンプ等の圧力調整装置が設けられており、圧力調整装置によって、原料供給器101(制限オリフィス7の下流側)、蒸発器102、熱分解反応器103及び反応液受器104の圧力を減圧条件に調整することができる。
【0021】
本発明の実施の形態に係るN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法は、図5に示すように、供給工程S1と、蒸発工程S2と、熱分解工程S3とを含む。以下に、本発明の実施の形態に係るN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法の詳細について説明する。
【0022】
(供給工程S1)
供給工程S1は、本発明の実施の形態に係る原料供給器によって、液体化合物であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを原料として蒸発器4に供給する工程である。
【0023】
供給工程S1において、原料供給口1aから供給された原料液は、供給フランジ1を通じて第1フランジ2に給液される。給液する際に混入した原料中のガス(空気)は、ガス抜き9によって排出される。第1フランジ2では、給液チップ6の設置個数分に原料液が分散され、第2フランジ3の制限オリフィス7へ供給される。制限オリフィス7を通過した原料液はほぼ均一な流速で蒸発器4の各蒸発管8に導入される。
【0024】
供給工程S1において、蒸発器への原料の供給速度は、5~350kg/hであることが好ましく、10~150kg/hであることがより好ましく、15~80kg/hであることがさらに好ましい。蒸発器への原料の供給速度が上記範囲であることで、蒸発器の複数の蒸発管への原料分散性を維持し、原料を安定して蒸発させることができる。
【0025】
供給工程S1において、原料供給器は、複数の蒸発管の各々に、流量の変動係数が10.0%以下で原料を供給することが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。流量の変動係数の上限が上記数値であることで、蒸発器の複数の蒸発管への原料分散性を維持し、原料を安定して蒸発させることができる。
なお、流量の変動係数は、複数の蒸発管の各々に一定時間で供給した原料の流量を測定し、全ての蒸発管における流量の平均値に対する標準偏差を算出し、標準偏差から得られる流量のバラツキの度合いを示す。具体的には、流速の変動係数は、標準偏差÷平均値×100(%)で算出される係数である。
【0026】
供給工程S1において、原料供給器は、複数の蒸発管の各々に、流量の誤差が-20%以上+30%以下で原料を供給することが好ましく、-15%以上+25%以下であることがより好ましく、-10%以上+20%以下であることがさらに好ましい。流量の誤差が上記範囲であることで、蒸発器の複数の蒸発管への原料分散性を維持し、原料を安定して蒸発させることができる。
なお、流量の誤差は、複数の蒸発管の各々に一定時間で供給した原料の流量を測定し、全ての蒸発管における流量の平均値に対する相対誤差を算出したものである。
【0027】
供給工程S1において、原料供給器は、複数の蒸発管の各々に、流速が2.0g/min以上80.0g/min以下で原料を供給することが好ましく、2.5g/min以上78.0g/min以下であることがより好ましく、3.0g/min以上76.0g/min以下であることがさらに好ましい。流速が上記範囲であることで、蒸発器の複数の蒸発管への原料分散性を維持し、原料を安定して蒸発させることができる。
【0028】
本発明の実施の形態に係るN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法は、原料として、好ましくは、下記一般式(I)で表されるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを用いる。
【化1】

(一般式(I)中、Rは炭素数1~5のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Rは炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【0029】
N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドは、例えば、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)-N-メチルアセトアミド、N-(1-エトキシエチル)アセトアミド、N-(1-エトキシエチル)-N-メチルアセトアミド、N-(1-プロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-ブトキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソブトキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-エトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-プロポキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-ブトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-イソブトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-メトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-エトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-プロポキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-ブトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-イソブトキシエチル)イソブチルアミド等が挙げられ、好ましくはN-(1-メトキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)イソブチルアミド、より好ましくはN-(1-メトキシエチル)アセトアミドが挙げられる。
【0030】
(蒸発工程S2)
蒸発工程S2は、蒸発器で原料を蒸発させ、気化原料とする工程である。
【0031】
蒸発工程S2は、減圧下又は常圧下で行うことができるが、減圧下にて行うことが好ましい。蒸発工程S2における反応圧力は、具体的には、1~30kPaで行うことが好ましく、3~25kPaで行うことがより好ましく、5~20kPaで行うことがさらに好ましい。
蒸発工程S2は、加熱蒸発して気化原料とする温度で行うことを要し、具体的には、100~200℃で行うことが好ましく、110~190℃で行うことがより好ましく、120~180℃で行うことがさらに好ましい。
【0032】
(熱分解工程S3)
熱分解工程S3は、気化原料を熱分解反応器に供給し、熱分解する工程である。熱分解反応器に供給する気化原料の流れは、熱分解反応器に流入する流れであれば特に制限はなく、上昇流であってもよく、下降流であってもよい。
【0033】
熱分解工程S3は、減圧下又は常圧下で行うことができるが、減圧下にて行うことが好ましい。熱分解工程S3における反応圧力は、具体的には、1~30kPaで行うことが好ましく、3~25kPaで行うことがより好ましく、5~20kPaで行うことがさらに好ましい。
熱分解工程S3は、熱分解を効率よく行う観点から、250~500℃で行うことが好ましく、300~480℃で行うことがより好ましく、350~450℃で行うことがさらに好ましい。
熱分解工程S3における滞留時間は、熱分解を確実に行う観点から、0.1~10秒であることが好ましく、0.2~9秒であることがより好ましく、0.3~8秒であることがさらに好ましい。
熱分解反応器としては、熱分解を効率よく行う観点から、多管式構造であることが好ましい。
【0034】
熱分解工程S3で熱分解された反応物は、冷却されることで液化し、反応液受器に送られる。反応液受器に貯まった反応物は、反応液貯蔵タンクに送られ、貯蔵される。
【0035】
以上の工程によって得られるN-ビニルカルボン酸アミドは、好ましくは、下記一般式(II)で表されるものであり、好適な原料である一般式(I)で表されるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドに対応する。
【化2】

(一般式(II)中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Rは炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【0036】
N-ビニルカルボン酸アミドは、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-メチル-N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルイソブチルアミド、N-メチル-N-ビニルイソブチルアミド等が挙げられ、好ましくはN-ビニルアセトアミドが挙げられる。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0038】
[実施例1]
直径25.4mm、長さ2500mmの蒸発管(チューブ)を22本有するシェルアンドチューブ型蒸発器に、図1に示す原料供給器を設置した。原料供給器の制限オリフィスは、孔径0.25mmで作製した。制限オリフィスの流量係数αを測定し、流量係数αが0.7となるものを22枚選択し、原料供給器に組み込んだ。
原料供給器に167g/分の速度で5分間、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドを連続供給し流通テストを実施した。
各蒸発管から回収したN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの量から、各蒸発管における流量のバラツキを計算したところ平均値に対して、誤差が-10~+19%であり、標準偏差σが2.7であり、変動係数が7.2%であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様の装置で、原料供給器に833g/分の速度で5分間、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドを連続供給し流通テストを実施した。
各蒸発管から回収したN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの量から、各蒸発管における流量のバラツキを計算したところ平均値に対して、誤差が-11~+17%であり、標準偏差σが14.5であり、変動係数が7.7%であった。
【0040】
[比較例1]
実施例1と同じシェルアンドチューブ型蒸発器に、図6、7に示す旧型原料供給器を設置した。旧型原料供給器は、図1に示す原料供給器と比して、第1Oリング10及び第3Oリング12が備わっていない点が異なる。旧型原料供給器の制限オリフィスは、孔径0.25mmで作製した。制限オリフィスの流量係数αを測定し、流量係数αが0.7となるものを22枚選択し、旧型原料供給器に組み込んだ。
旧型原料供給器に833g/分の速度で5分間、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドを連続供給し流通テストを実施した。
各蒸発管から回収したN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの量から、各蒸発管における流量のバラツキを計算したところ平均値に対して、誤差が-76~+25%であり、標準偏差σが44.1であり、変動係数が23.3%であった。
【0041】
[比較例2]
実施例1と同じシェルアンドチューブ型蒸発器に、ディストリビューター型原料分散装置を設置した。ディストリビューター型原料分散装置は、φ2mmの穴が各蒸発管に合わせて22か所設けられている。
ディストリビューター型原料分散装置に833g/分の速度で5分間、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドを連続供給し流通テストを実施したが、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドは蒸発管2本からのみ回収され、均一分散供給することができなかった。
【0042】
【表1】
【0043】
本発明の原料供給器を用いることで、ディストリビューター(分散板)方式の性能を維持できる供給速度以下であっても原料の片流れ等が発生することはなかった。つまり、本発明の原料供給器を用いることで、N-ビニルカルボン酸アミドの製造における低い原料の供給速度であっても、流下液膜式蒸発器の複数の蒸発管に安定した原料分散性で原料を供給することができ、熱分解反応器のハルツによる閉塞問題を抑制し、長期間安定に連続運転することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の原料供給器を用いた製造方法で得られるN-ビニルカルボン酸アミドは、凝集剤、液体吸収剤及び増粘剤等に利用されるN-ビニルカルボン酸アミド系ポリマーの製造に用いられる他、多方面の産業上の用途において有用なモノマーである。
【符号の説明】
【0045】
1…供給フランジ
1a…原料供給口
2…第1フランジ
2a…第1孔部
3…第2フランジ
3a…第2孔部
3b…大径孔
4…蒸発器
5…ノズル
5a…ノズル孔
5b…上流孔部
5c…下流孔部
5d…張出部
6…給液チップ
6a…孔部
6b…工具係合部
7…制限オリフィス
7a…オリフィス孔
8…蒸発管
9…ガス抜き
10…第1Oリング
11…第2Oリング
12…第3Oリング
20,21…固定部材
30…液拡散子
50…連通孔
51…本体部
100…原料タンク
101…原料供給器
102…蒸発器
103…熱分解反応器
104…反応液受器
105…反応液貯蔵タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7