(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】分解洗浄組成物、接着性ポリマーの洗浄方法、及びデバイスウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231219BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20231219BHJP
C11D 7/34 20060101ALI20231219BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C11D7/32
C11D7/34
C11D7/50
(21)【出願番号】P 2020566112
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042936
(87)【国際公開番号】W WO2020148968
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019004292
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】中崎 晋
(72)【発明者】
【氏名】宮原 邦明
(72)【発明者】
【氏名】福世 知行
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-500408(JP,A)
【文献】国際公開第2014/092022(WO,A1)
【文献】特開平11-067632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/32
C11D 7/34
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、非プロトン性溶媒とを含む、接着性ポリマーの分解洗浄組成物であって、前記非プロトン性溶媒が、
(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び
(B)スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物
を含
み、
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が30~99質量%であり、前記(B)有機硫黄酸化物の含有量が1~70質量%である、分解洗浄組成物。
【請求項2】
前記(A)N-置換アミド化合物が式(1):
【化1】
(式(1)において、R
1は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である、請求項1に記載の分解洗浄組成物。
【請求項3】
前記(A)N-置換アミド化合物が、式(1)においてR
1がメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物である、請求項2に記載の分解洗浄組成物。
【請求項4】
前記スルホキシド化合物が、炭素原子数4~6の環状スルホキシド化合物、又は式(2):
R
2(SO)R
3 (2)
(式(2)において、R
2及びR
3はそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表される非環状スルホキシド化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項5】
前記スルホキシド化合物がジメチルスルホキシドである、請求項4に記載の分解洗浄組成物。
【請求項6】
前記スルホン化合物が、炭素原子数4~6の環状スルホン化合物、又は式(3):
R
4(SO
2)R
5 (3)
(式(3)において、R
4及びR
5はそれぞれ独立して炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、及びベンジル基からなる群より選択される基を表す。)
で表される非環状スルホン化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項7】
前記スルホン化合物がスルホラン又は3-メチルスルホランである、請求項6に記載の分解洗浄組成物。
【請求項8】
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が
50~99質量%であり、前記(B)有機硫黄酸化物の含有量が
1~50質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項9】
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が70~98質量%であり、前記(B)有機硫黄酸化物の含有量が2~30質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項10】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.1~15質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項11】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、R
6R
7R
8R
9N
+F
-で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R
6~R
9がそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である、請求項1~10のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項12】
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
【請求項14】
前記基材がアクリル粘着剤に接触した状態で前記洗浄を行うことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の分解洗浄組成物を用いてデバイスウェハおもて面上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、デバイスウェハの製造方法。
【請求項16】
前記デバイスウェハがアクリル粘着剤に接触した状態で前記洗浄を行うことを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分解洗浄組成物、接着性ポリマーの洗浄方法、及びデバイスウェハの製造方法に関する。特に、本開示は、半導体ウェハの薄型化プロセスにおいて、デバイスウェハ上に残留した、デバイスウェハと支持ウェハ(キャリアウェハ)との仮接着に使用される接着性ポリマーを含む接着剤を分解洗浄するために用いられる分解洗浄組成物、当該分解洗浄組成物を用いた接着性ポリマーの洗浄方法、及びデバイスウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高密度化のための三次元実装技術においては、半導体ウェハの1枚当たりの厚さが薄くされ、シリコン貫通電極(TSV)により結線された複数の半導体ウェハが積層されている。具体的には、半導体デバイスを形成したデバイスウェハのデバイスを形成させていない面(裏面)を研磨によって薄型化した後、その裏面にTSVを含む電極形成が行われる。
【0003】
デバイスウェハの裏面の研磨工程においては、デバイスウェハに機械的強度を付与するために、キャリアウェハとも呼ばれる支持ウェハがデバイスウェハの半導体デバイス形成面に接着剤を用いて仮接着される。支持ウェハとして例えばガラスウェハ又はシリコンウェハが使用される。研磨工程後、必要に応じてデバイスウェハの研磨面(裏面)に、Al、Cu、Ni、Au等を含む金属配線若しくは電極パッド、酸化膜、窒化膜等の無機膜、又はポリイミド等を含む樹脂層が形成される。その後、デバイスウェハの裏面を、リングフレームにより固定された、アクリル粘着層を有するテープに貼り合わせることにより、デバイスウェハがテープに固定される。その後、デバイスウェハは支持ウェハから分離され(デボンディング)、デバイスウェハ上の接着剤は剥離され、デバイスウェハ上の接着剤の残留物は洗浄剤を用いて洗浄除去される。
【0004】
デバイスウェハの仮接着用途には、耐熱性の良好なポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤が使用される。特に、接着剤が架橋されたポリオルガノシロキサン化合物である場合、Si-O結合の切断及び溶剤による分解生成物の溶解の2つの作用が洗浄剤に求められる。そのような洗浄剤として、例えばテトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)などのフッ素系化合物を極性の非プロトン性溶媒に溶解させたものが挙げられる。TBAFのフッ化物イオンはSi-F結合生成を介したSi-O結合の切断に関与することから、洗浄剤にエッチング性能を付与することができる。極性非プロトン性溶媒は、TBAFを溶解することができ、かつフッ化物イオンに対して水素結合を介した溶媒和を形成しないことから、フッ化物イオンの反応性を高めることができる。
【0005】
非特許文献1(Advanced Materials, 11, 6, 492 (1999))では、溶媒として非プロトン性のTHFを用いた1.0M TBAF溶液がポリジメチルシロキサン(PDMS)の分解及び溶解除去に使用されている。
【0006】
非特許文献2(Advanced Materials, 13, 8, 570 (2001))では、TBAFの溶媒として、THFと同様に非プロトン性溶媒のNMP、DMF又はDMSOが使用されている。
【0007】
非特許文献3(Macromolecular Chemistry and Physics, 217, 284-291 (2016))には、PDMSのTBAF/有機溶媒によるエッチング速度を溶媒毎に調べた結果が記載されており、エッチング速度が高いTHF及びDMFについては、THF/DMFの比率を変えた混合溶媒を用いたTBAF溶液のエッチング速度の比較も記載されている。
【0008】
特許文献1(韓国公開特許第10-2016-0087089号公報)、及び特許文献2(米国特許出願公開第2017/0158888号明細書)には、窒素含有ヘテロ環状化合物の溶媒にTBAFを溶解させた洗浄液が記載されている。
【0009】
研磨工程後に薄型化されたデバイスウェハを固定するためのテープとして、例えばポリエステル基材上にアクリル粘着層を形成した粘着テープが使用されている。デバイスウェハの固定テープとの接触面には、研磨工程後に形成されたAl、Cu、Ni、Au等を含む金属配線若しくは電極パッド、酸化膜、窒化膜等の無機膜、又はポリイミド等を含む樹脂層が存在する場合があり、洗浄剤に含まれる成分がこれらの金属、無機材料又は有機材料に接触すると、これら材料の腐食又は劣化が生じるおそれがある。
【0010】
また、洗浄時に洗浄剤がデバイスウェハとアクリル粘着層の間に浸入すると、洗浄剤の有機溶媒成分によりアクリル粘着層が溶解又は膨潤する、あるいはアクリル粘着層に皺が生じる場合がある。このような状態でデバイスウェハを固定テープから剥がすと、アクリル粘着層の一部がデバイスウェハ上に残留する、いわゆる糊残り又は汚染が生じるおそれがある。
【0011】
このように、デバイスウェハ裏面の材料保護及び糊残りの防止のために、洗浄剤が固定テープとデバイスウェハの接触界面に浸入しないことが要求されている。この要求に対して、固定テープの構成又はアクリル粘着層の材料に着目した試みがなされている。
【0012】
特許文献3(国際公開第2014/061774号)では、粘着剤層と基材フィルムと基材保護フィルムとをこの順で含む粘着シートにおいて、耐溶剤性のある基材保護フィルムを基材フィルムに積層することで有機溶剤に対する基材フィルムの溶解又は皺の発生を抑制し、有機溶剤が粘着剤層とウェハの間に浸入することを防止している。
【0013】
特許文献4(特開2015-73056号公報)では、アクリル系共重合体の全体質量に対して、(メタ)アクリル酸メチルの質量割合、架橋剤の質量割合、及びゲル分率を所定範囲にすることで、低極性有機溶媒であるリモネンに対する耐溶剤性向上が図られている。
【0014】
特許文献5(特開2009-224621号公報)にも同様に、エネルギー線硬化型アクリル樹脂組成物から形成された、所定範囲のゲル分率を有する粘着剤層が耐溶剤性に優れることが記載されており、特許文献6(特開2013-239595号公報)には、ダイシングテープにおいて、半導体ウェハ又はリングフレームが貼着されていない領域を紫外線照射により硬化することで有機溶剤と接する領域の粘着層を改質させて、ダイシングテープの耐溶剤性を改善する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0087089号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0158888号明細書
【文献】国際公開第2014/061774号
【文献】特開2015-73056号公報
【文献】特開2009-224621号公報
【文献】特開2013-239595号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】Advanced Materials, 11, 6, 492 (1999)
【文献】Advanced Materials, 13, 8, 570 (2001)
【文献】Macromolecular Chemistry and Physics, 217, 284-291 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
TBAFなどのフッ素化合物及び溶媒を含む洗浄剤における溶媒の役割は、反応性物質である極性の高いフッ素化合物を十分に溶解させ、極性の低い接着剤の表面との親和性を十分なものとして、フッ素化合物に含まれるフッ化物イオンの反応性を確保しつつ、接着剤の分解生成物を溶解することにあると考えられる。接着剤に含まれる接着性ポリマーには、耐熱性、剥離性などを改善する目的で置換基が導入されている場合があり、それにより接着剤の表面は様々な極性を示す場合がある。洗浄剤は、そのような様々な極性を示す接着剤の表面に対して優れた親和性を示し、それにより高いエッチング速度を達成することが望ましい。
【0018】
一方、接着剤の洗浄除去工程においては、デバイスウェハが貼り付けられる固定テープの粘着層とデバイスウェハの間に洗浄剤が浸入しないことが求められている。固定テープに洗浄剤の有機溶媒成分に対する耐溶剤性を付与すること、あるいは固定テープの所定の領域のみにUV照射することにより粘着層を改質して、粘着層に耐溶剤性を付与することは、固定テープの材料又は製造工程の変更を要することから望ましくない。むしろ、固定テープの材料又は製造工程の変更を必要とせずに、アクリル粘着層を溶解しない又は膨潤させない、又はアクリル粘着層に浸透しないように、洗浄剤の組成及び特性を改良することが求められている。
【0019】
本開示は、高いエッチング速度を有しており、デバイスウェハなどの基材と固定テープなどの粘着層の接触界面への浸入が抑制された、接着性ポリマーの分解洗浄組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物を含む、接着性ポリマーの分解洗浄組成物において、特定の複数の非プロトン性溶媒を組み合わせて使用することにより、分解洗浄組成物のエッチング速度を確保しつつ、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入を抑制できることを見出した。
【0021】
即ち本発明は、次の[1]~[16]を含む。
[1]
第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、非プロトン性溶媒とを含む、接着性ポリマーの分解洗浄組成物であって、前記非プロトン性溶媒が、
(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び
(B)スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物
を含む、分解洗浄組成物。
[2]
前記(A)N-置換アミド化合物が式(1):
【化1】
(式(1)において、R
1は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である、[1]に記載の分解洗浄組成物。
[3]
前記(A)N-置換アミド化合物が、式(1)においてR
1がメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物である、[2]に記載の分解洗浄組成物。
[4]
前記スルホキシド化合物が、炭素原子数4~6の環状スルホキシド化合物、又は式(2):
R
2(SO)R
3 (2)
(式(2)において、R
2及びR
3はそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表される非環状スルホキシド化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[5]
前記スルホキシド化合物がジメチルスルホキシドである、[4]に記載の分解洗浄組成物。
[6]
前記スルホン化合物が、炭素原子数4~6の環状スルホン化合物、又は式(3):
R
4(SO
2)R
5 (3)
(式(3)において、R
4及びR
5はそれぞれ独立して炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、及びベンジル基からなる群より選択される基を表す。)
で表される非環状スルホン化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[7]
前記スルホン化合物がスルホラン又は3-メチルスルホランである、[6]に記載の分解洗浄組成物。
[8]
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が10~99.9質量%であり、前記(B)有機硫黄酸化物の含有量が0.1~90質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[9]
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が70~98質量%であり、前記(B)有機硫黄酸化物の含有量が2~30質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[10]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.1~15質量%である、[1]~[9]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[11]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、R
6R
7R
8R
9N
+F
-で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R
6~R
9がそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である、[1]~[10]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[12]
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、[1]~[11]のいずれかに記載の分解洗浄組成物。
[13]
[1]~[12]のいずれかに記載の分解洗浄組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
[14]
前記基材がアクリル粘着剤に接触した状態で前記洗浄を行うことを含む、[13]に記載の方法。
[15]
[1]~[12]のいずれかに記載の分解洗浄組成物を用いてデバイスウェハおもて面上の接着性ポリマーを洗浄することを含む、デバイスウェハの製造方法。
[16]
前記デバイスウェハがアクリル粘着剤に接触した状態で前記洗浄を行うことを含む、[15]に記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本開示の分解洗浄組成物は、接着性ポリマーとの親和性が高く、そのため高いエッチング速度を有しており、かつデバイスウェハなどの基材と固定テープなどの粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入を抑制することができる。そのため、本開示の分解洗浄組成物は、例えば、デバイスウェハの固定テープの材料及び製造工程の変更を必要としない、接着性ポリマーを洗浄除去するための高性能の洗浄剤として使用することができる。
【0023】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
[分解洗浄組成物]
一実施態様の分解洗浄組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、特定の非プロトン性溶媒とを含む。非プロトン性溶媒は、(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物を含む。
【0026】
<第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物>
第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物は、Si-O結合の切断に関与するフッ化物イオンを放出する。第四級アルキルアンモニウム部分は、塩である第四級フッ化アルキルアンモニウムを非プロトン性溶媒に溶解させることができる。第四級フッ化アルキルアンモニウムとしては、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物として、例えば三水和物、四水和物及び五水和物が挙げられる。第四級フッ化アルキルアンモニウムは、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0027】
一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、R6R7R8R9N+F-で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R6~R9がそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である。そのような第四級フッ化アルキルアンモニウムとして、テトラメチルアンモニウムフルオライド、テトラエチルアンモニウムフルオライド、テトラプロピルアンモニウムフルオライド、テトラブチルアンモニウムフルオライドなどが挙げられる。分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)であることが好ましい。
【0028】
分解洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、0.1~15質量%であることが好ましく、1.0~10質量%であることがより好ましく、3.0~8.0質量%であることがさらに好ましい。ここで「第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量」は、分解洗浄組成物中に第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物が含まれる場合には、水和水の質量を除いた、第四級フッ化アルキルアンモニウムのみの質量として換算した値である。第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を0.1質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができ、15質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食を防止又は抑制することができる。
【0029】
(B)有機硫黄酸化物がスルホキシド化合物である実施態様では、分解洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、0.1~15質量%であることが好ましく、1.0~10質量%であることがより好ましく、2.0~8.0質量%であることがさらに好ましい。この実施態様において、第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を0.1質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができ、15質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食を防止又は抑制することができる。
【0030】
(B)有機硫黄酸化物がスルホン化合物である実施態様では、分解洗浄組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1.0~5.0質量%であることがさらに好ましい。この実施態様において、第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を0.1質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができ、15質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食を防止又は抑制することができる。
【0031】
<非プロトン性溶媒>
非プロトン性溶媒は、(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物を含む。これらの非プロトン性溶媒は水に対して相溶性を有していることから、接着性ポリマーの分解洗浄後、基材又はデバイスウェハを安価かつ安全な水でリンスすることができる。
【0032】
一実施態様では、分解洗浄組成物中の非プロトン性溶媒の含有量は、70~99.9質量%であり、80~99質量%であることが好ましく、90~99質量%であることがより好ましい。
【0033】
<(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物>
(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物(本開示において単に「(A)N-置換アミド化合物」ともいう。)は、比較的極性が高い非プロトン性溶媒であり、分解洗浄組成物中に第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を均一に溶解又は分散することができる。本開示において「(A)N-置換アミド化合物」は、窒素原子上に活性水素を有さない尿素化合物(カルバミド化合物)も包含する。(A)N-置換アミド化合物として、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。一実施態様では(A)N-置換アミド化合物の炭素原子数は3~12であることが好ましい。(A)N-置換アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド、テトラメチル尿素などの非環状N-置換アミド、2-ピロリドン誘導体、2-ピペリドン誘導体、ε-カプロラクタム誘導体、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン(N,N’-ジメチルプロピレン尿素)などの環状N-置換アミドが挙げられる。(A)N-置換アミド化合物は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0034】
一実施態様では、(A)N-置換アミド化合物は、式(1):
【化2】
(式(1)において、R
1は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物であることが好ましい。炭素原子数1~4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられ、メチル基又はエチル基が好ましい。式(1)で表される2-ピロリドン誘導体化合物として、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-プロピルピロリドン、N-ブチルピロリドンなどが挙げられる。
【0035】
極性が比較的高く、第四級フッ化アルキルアンモニウムの溶解能力に優れており、入手が容易であることから、(A)N-置換アミド化合物は、式(1)においてR1がメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物であることが好ましく、式(1)においてR1がメチル基である2-ピロリドン誘導体化合物、すなわちN-メチルピロリドンであることがより好ましい。
【0036】
<(B)有機硫黄酸化物>
スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の(B)有機硫黄酸化物を(A)N-置換アミド化合物と組み合わせることで、接着性ポリマーに対して高い親和性を示す混合溶媒系を形成することができる。そのような混合溶媒系を用いた分解洗浄組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの反応活性が有効に利用された高いエッチング速度を達成することができ、かつ分解洗浄組成物のデバイスウェハ固定テープの粘着層との親和性、特にアクリル粘着層との親和性を低下させて、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入を抑制することができる。(B)有機硫黄酸化物として、スルホキシド化合物及びスルホン化合物であれば、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。(B)有機硫黄酸化物は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0037】
一実施態様では、スルホキシド化合物は、炭素原子数4~6の環状スルホキシド化合物、又は式(2):
R2(SO)R3 (2)
(式(2)において、R2及びR3はそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。)
で表される非環状スルホキシド化合物であることが好ましい。
【0038】
炭素原子数4~6の環状スルホキシド化合物として、例えば、テトラメチレンスルホキシド(テトラヒドロチオフェン1-オキシド)、3-メチルテトラメチレンスルホキシド、及び2,4-ジメチルテトラメチレンスルホキシドが挙げられる。炭素原子数4~6の環状スルホキシド化合物は、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、テトラメチレンスルホキシドであることが好ましい。
【0039】
式(2)で表される非環状スルホキシド化合物として、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジn-プロピルスルホキシド、ジイソプロピルスルホキシド、ジn-ブチルスルホキシド、ジイソブチルスルホキシド、ジsec-ブチルスルホキシド、ジt-ブチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、及びメチルイソブチルスルホキシドが挙げられる。式(2)で表される非環状スルホキシド化合物において、R2及びR3はそれぞれ独立してメチル基、エチル基又はイソプロピル基であることが好ましい。式(2)で表される非環状スルホキシド化合物は、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、ジメチルスルホキシドであることが好ましい。
【0040】
一実施態様では、スルホン化合物は、炭素原子数4~6の環状スルホン化合物、又は式(3):
R4(SO2)R5 (3)
(式(3)において、R4及びR5はそれぞれ独立して炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、及びベンジル基からなる群より選択される基を表す。)
で表される非環状スルホン化合物であることが好ましい。
【0041】
炭素原子数4~6の環状スルホン化合物として、例えば、スルホラン(テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド)、3-メチルスルホラン(テトラヒドロ-3-メチルチオフェン1,1-ジオキシド)、及び2,4-ジメチルスルホラン(テトラヒドロ-2,4-ジメチルチオフェン1,1-ジオキシド)が挙げられる。炭素原子数4~6の環状スルホン化合物は、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、スルホラン又は3-メチルスルホランであることが好ましく、スルホランであることがより好ましい。
【0042】
式(3)で表される非環状スルホン化合物として、例えば、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、ジブチルスルホン、ジn-オクチルスルホン、ベンジルフェニルスルホン、及びジフェニルスルホンが挙げられる。式(3)で表される非環状スルホン化合物において、R4及びR5はそれぞれ独立してメチル基、エチル基又はイソプロピル基であることが好ましい。式(3)で表される非環状スルホン化合物は、分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、エチルメチルスルホン又はエチルイソプロピルスルホンであることが好ましい。
【0043】
一実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、(A)N-置換アミド化合物の含有量を10~99.9質量%、(B)有機硫黄酸化物の含有量を0.1~90質量%とすることが好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を30~99質量%、(B)有機硫黄酸化物の含有量を1~70質量%とすることがより好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を50~99質量%、(B)有機硫黄酸化物の含有量を1~50質量%とすることがさらに好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を70~98質量%、(B)有機硫黄酸化物の含有量を2~30質量%とすることがよりさらに好ましい。この実施態様において、(A)N-置換アミド化合物及び(B)有機硫黄酸化物の含有量を上記範囲とすることで、第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を分解洗浄組成物中に均一に溶解することができ、様々な接着性ポリマーに対してより高いエッチング速度を得ることができ、かつ分解洗浄組成物のデバイスウェハ固定テープの粘着層との親和性、特にアクリル粘着層との親和性を効果的に低下させて、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入をより抑制することができる。
【0044】
(B)有機硫黄酸化物がスルホキシド化合物である実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、(A)N-置換アミド化合物の含有量を10~90質量%、スルホキシド化合物の含有量を10~90質量%とすることが好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を30~80質量%、スルホキシド化合物の含有量を20~70質量%とすることがより好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を50~70質量%、スルホキシド化合物の含有量を30~50質量%とすることがさらに好ましい。この実施態様において、(A)N-置換アミド化合物及びスルホキシド化合物の含有量を上記範囲とすることで、第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を分解洗浄組成物中に均一に溶解することができ、様々な接着性ポリマーに対してより高いエッチング速度を得ることができ、かつ分解洗浄組成物のデバイスウェハ固定テープの粘着層との親和性、特にアクリル粘着層との親和性を効果的に低下させて、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入をより抑制することができる。
【0045】
(B)有機硫黄酸化物がスルホン化合物である実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、(A)N-置換アミド化合物の含有量を60~99.9質量%、スルホン化合物の含有量を0.1~40質量%とすることが好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を85~99.9質量%、スルホン化合物の含有量を0.1~15質量%とすることがより好ましく、(A)N-置換アミド化合物の含有量を96~99質量%、スルホン化合物の含有量を1~4質量%とすることがさらに好ましい。この実施態様において、(A)N-置換アミド化合物及びスルホン化合物の含有量を上記範囲とすることで、第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を分解洗浄組成物中に均一に溶解することができ、様々な接着性ポリマーに対してより高いエッチング速度を得ることができ、かつ分解洗浄組成物のデバイスウェハ固定テープの粘着層との親和性、特にアクリル粘着層との親和性を効果的に低下させて、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入をより抑制することができる。
【0046】
(B)有機硫黄酸化物は、スルホキシド化合物及びスルホン化合物の組み合わせであってもよい。この実施態様では、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、(A)N-置換アミド化合物の含有量が10~89.9質量%、スルホキシド化合物の含有量が10~80質量%、スルホン化合物の含有量が0.1~40質量%であることが好ましい。この実施態様において、(A)N-置換アミド化合物、スルホキシド化合物及びスルホン化合物の含有量を上記範囲とすることで、第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を分解洗浄組成物中に均一に溶解することができ、様々な接着性ポリマーに対してより高いエッチング速度を得ることができ、かつ分解洗浄組成物のデバイスウェハ固定テープの粘着層との親和性、特にアクリル粘着層との親和性を効果的に低下させて、基材と粘着層の接触界面への分解洗浄組成物の浸入をより抑制することができる。
【0047】
<添加剤及びその他の成分>
分解洗浄組成物は、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、任意成分として、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、発泡防止剤などの添加剤を含んでもよい。
【0048】
分解洗浄組成物は、プロトン性溶媒の含有量が少ないことが好ましい。例えば、分解洗浄組成物中のプロトン性溶媒の含有量を、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることが好ましい。分解洗浄組成物に含まれうるプロトン性溶媒は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に由来する水であってもよい。
【0049】
一実施態様では、分解洗浄組成物は、スルホン酸化合物を実質的に含まない、又は含まない。例えば、分解洗浄組成物中のスルホン酸化合物の含有量を、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下とすることができる。この実施態様では、デバイスウェハの裏面などに存在する金属又は無機材料の、酸性成分による腐食又は劣化を防止することができる。
【0050】
[接着性ポリマーの洗浄方法]
本開示の分解洗浄組成物は、様々な接着剤に含まれる接着性ポリマーの分解洗浄組成物として使用することができる。接着性ポリマーは、本開示の分解洗浄組成物を用いて洗浄することができるものであれば特に制限されない。接着剤は接着性ポリマーに加えて、任意成分として、硬化剤、硬化促進剤、架橋剤、界面活性剤、レベリング剤、充填材などを含んでもよい。
【0051】
一実施態様では、接着性ポリマーはSi-O結合を含む。接着性ポリマーは、第四級フッ化アルキルアンモニウムのフッ化物イオンによるSi-O結合の切断により低分子化し又は架橋構造を失い、非プロトン性溶媒に溶解可能となり、その結果、デバイスウェハなどの基材の表面から接着性ポリマーを除去することができる。
【0052】
Si-O結合を含む接着性ポリマーは、ポリオルガノシロキサン化合物であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン化合物は多数のシロキサン(Si-O-Si)結合を含むことから、分解洗浄組成物を用いて効果的に分解及び洗浄することができる。ポリオルガノシロキサン化合物として、例えばシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、及びMQ樹脂などのシリコーンレジン、並びにそれらのエポキシ変性体、アクリル変性体、メタクリル変性体、アミノ変性体、メルカプト変性体などの変性体が挙げられる。ポリオルガノシロキサン化合物は、シリコーン変性ポリウレタン、シリコーン変性アクリル樹脂などのシリコーン変性ポリマーであってもよい。
【0053】
一実施態様では、接着性ポリマーは、付加硬化型のシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、又はシリコーンレジンである。これらの付加硬化型シリコーンは、エチレン性不飽和基含有ポリオルガノシロキサン、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサン又はビニル末端MQ樹脂と、架橋剤としてポリオルガノハイドロジェンシロキサン、例えばポリメチルハイドロジェンシロキサンとを含み、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を用いて硬化される。
【0054】
別の実施態様では、接着性ポリマーは、アラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジオルガノシロキサン、特にアラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジメチルシロキサンを含む。このような接着性ポリマーを含む接着剤を、上記付加硬化型シリコーンを含む接着剤と組み合わせて仮接着に使用してもよい。
【0055】
デバイスウェハなどの基材上にある接着性ポリマーの洗浄は、分解洗浄組成物を用いて、従来知られた様々な方法で行うことができる。接着性ポリマーの洗浄方法として、例えば、スピンコータなどを用いて所定の速度で基材を回転させながら、接着性ポリマーと接触するように基材上に分解洗浄組成物を吐出する(スピンエッチ)、基材上の接着性ポリマーに対して分解洗浄組成物を噴霧する(スプレー)、分解洗浄組成物を入れた槽に接着性ポリマーを有する基材を浸漬する(ディッピング)、などが挙げられる。分解洗浄の温度は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に20℃~90℃、好ましくは40℃~60℃である。分解洗浄の時間は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に5秒~10時間、好ましくは10秒~2時間である。分解洗浄時に、分解洗浄組成物の浴又は基材に超音波を適用してもよい。接着性ポリマーの洗浄は、基材の裏面がアクリル粘着剤の固定テープで固定された状態で行ってもよい。
【0056】
分解洗浄後に、基材をイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール、又はイオン交換水(DIW)などの水を用いてリンスしてもよく、基材を窒素ガス、空気等の吹付け、常圧下又は減圧下での加熱などにより乾燥してもよい。分解洗浄組成物に含まれる非プロトン性溶媒は水に対して相溶性を有していることから、基材を安価かつ安全な水でリンスすることができる。
【0057】
[デバイスウェハの製造方法]
一実施態様では、デバイスウェハの製造方法は、分解洗浄組成物を用いてデバイスウェハおもて面上の接着性ポリマーを洗浄することを含む。洗浄後、必要に応じてデバイスウェハをイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール、又はイオン交換水(DIW)などの水を用いてリンスしてもよく、デバイスウェハを窒素ガス、空気等の吹付け、常圧下又は減圧下での加熱などにより乾燥してもよい。分解洗浄組成物に含まれる非プロトン性溶媒は水に対して相溶性を有していることから、デバイスウェハを安価かつ安全な水でリンスすることができる。
【0058】
デバイスウェハの製造方法は、さらに以下の工程:シリコンウェハなどの基材上に半導体デバイスを形成してデバイスウェハを得ること、デバイスウェハの半導体デバイス形成面と支持ウェハとを対向させて、デバイスウェハと支持ウェハとを、接着性ポリマーを含む接着剤を介して仮接着すること、デバイスウェハのデバイス形成面の反対面(裏面)を研磨することによりデバイスウェハを薄型化すること、デバイスウェハから支持ウェハを分離すること、を含んでもよい。半導体デバイスの形成、デバイスウェハと支持ウェハの仮接着、デバイスウェハの裏面の研磨、及びデバイスウェハの支持ウェハからの分離は、従来知られた方法で行うことができ、特に制限されない。
【0059】
デバイスウェハの製造方法は、さらに、デバイスウェハの薄型化後に、デバイスウェハの裏面に貫通電極、絶縁膜又は回路を形成することを含んでもよい。
【0060】
デバイスウェハの製造方法は、さらに、デバイスウェハの薄型化後に、アクリル粘着層を有する固定テープのアクリル粘着層をデバイスウェハの裏面に接着することを含んでもよい。デバイスウェハがアクリル粘着剤に接触した状態で、分解洗浄組成物を用いてデバイスウェハおもて面上の接着性ポリマーを洗浄してもよい。
【0061】
アクリル粘着層はUV硬化型アクリル粘着剤を含んでもよい。UV硬化型アクリル粘着剤は、一般に、(メタ)アクリル基などのエチレン性不飽和基を有する粘着性アクリルポリマー、及び必要に応じてベンゾフェノン化合物、アセトフェノン化合物などの光重合開始剤を含む。UV硬化型アクリル粘着剤に紫外線を照射することにより、エチレン性不飽和基の重合が進行して粘着剤の凝集力が高まり濡れ性が低下する。これにより粘着剤の接着力が低下して、デバイスウェハにダメージを与えずに固定テープをデバイスウェハから剥離除去することができる。粘着性アクリルポリマーは、イソシアネート化合物、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化合物などにより架橋されていてもよい。粘着性アクリルポリマーが、ベンゾフェノン構造を側鎖に有して、それ自体が光重合性を有してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例により制限されるものではない。
【0063】
分解洗浄組成物(5質量%TBAF/混合溶媒)の調製
実施例1
125mLのポリエチレン容器に、0.272gのテトラブチルアンモニウムフルオライド・三水和物(TBAF・3H2O)(関東化学株式会社、97%特級)を投入し、3.135gのN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という。)を投入し、その後有機硫黄酸化物として0.976gのジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という。)を投入し、混合することでTBAF・3H2Oを溶解させた。このようにして、NMP:DMSOの質量比が0.763:0.237である5質量%TBAF/混合溶媒の分解洗浄組成物を調製した。
【0064】
実施例2~7及び比較例1~4
組成が表1に記載したとおりとなるようにした以外は、実施例1と同様の手順で分解洗浄組成物を調製した。
【0065】
浸入試験用試験片の作製
12インチ(300mm)シリコンウェハ(厚さ770μm)を分割して、3cm×3cmの正方形に切り出した。これをSi試験片という。UV硬化型アクリル粘着層に紫外線照射処理を行ったSiウェハ固定テープを2cm×2cmの正方形のサイズに切り取り、カバーフィルムを取り外してSi試験片の中央にSiウェハ固定テープを貼り付け、浸入試験用試験片とした。Siウェハ固定テープの各辺の外側にはSi試験片の表面が幅0.5cmで露出していた。Siウェハ固定テープは、50μm厚のポリエステル基材、100μm厚のアクリル中間層、及び20μm厚のUV硬化型アクリル粘着層をこの順で含む、厚さ170μmの積層体であった。
【0066】
浸入試験
浸入試験用試験片を直径50mm、深さ15mmのSUS304製のシャーレに、Siウェハ固定テープが上になるように入れた。分解洗浄組成物(5質量%TBAF/溶媒)3.5mLを、ピペットを用いてSUS304製シャーレに投入し、試験片を分解洗浄組成物に浸漬し、ガラス製のシャーレで蓋をした。試験片を室温(25℃)で30分間分解洗浄組成物に浸漬させた後に、ピンセットで取り出し、イオン交換水(DIW)の洗瓶を用いて十分にリンスをした後、窒素ガスを吹き付けて水分を除去し、室温で十分に乾燥した。浸漬及び乾燥後の試験片の写真を、Siウェハ固定テープが貼られた面から撮影した。Siウェハ固定テープのアクリル粘着層とSi試験片の接触界面に分解洗浄組成物が浸入した長さを、正方形のテープの各辺に直交する方向に沿ってその辺から浸入痕までの最大直線距離として測定した。正方形のSi固定テープの4つの辺からの浸入長さの平均値を算出して平均浸入長さ(mm)とし、これを浸漬時間30分で割って平均浸入速度(mm/分)を算出した。また、Si試験片及び浸入試験用試験片(Si試験片+Siウェハ固定テープ)の浸漬前及び浸漬・水洗・乾燥後の質量を秤量し、浸漬後のテープの質量増加及び質量増加率を算出した。
【0067】
洗浄試験用試験片の作製方法A
12インチ(300mm)シリコンウェハ(厚さ770μm)上に、付加硬化型シリコーン樹脂をスピンコートにより乾燥膜厚が110μmとなるように塗布した。その後、ホットプレート上で、140℃で15分間、190℃で10分間加熱して、シリコンウェハ上にポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤層を形成した。この接着剤層を有するシリコンウェハを4cm×4cmのサイズに分割して洗浄試験用試験片とし、マイクロメーターを用いて試験片の中心部の厚さを測定した。
【0068】
洗浄試験1
直径90mmのSUS製シャーレに、7.0mLの調製直後(調製後30分以内)の分解洗浄組成物を投入した。分解洗浄組成物の中に上記の方法Aで作製した洗浄試験用試験片1枚を浸漬し、室温(25℃)で5分間、1Hzの振動数で前後にシャーレを振とうさせた。浸漬後、試験片をピンセットで取り出し、イソプロピルアルコール(IPA)に浸漬し、さらにIPAの洗瓶を用いて十分にリンスした。その後、試験片をイオン交換水(DIW)に浸漬し、同様にDIWの洗瓶を用いて十分にリンスした。試験片に窒素ガスを吹き付けて付着した水を除去した後、125℃の乾燥機で30分間加熱乾燥した。マイクロメーターを用いて乾燥後の試験片の中心部の厚さを測定した。
【0069】
浸漬前後での試験片の厚さの差を分解洗浄組成物への浸漬時間で割ることにより、分解洗浄組成物のエッチング速度(ER)を算出した。
エッチング速度(ER)(μm/分)=[(浸漬前の試験片の厚さ-浸漬・洗浄・乾燥後の試験片の厚さ)(μm)]/浸漬時間(5分)
【0070】
表1に実施例1~7及び比較例1~4の分解洗浄組成物の組成、浸入試験及び洗浄試験1の結果を示す。
【0071】
【0072】
実施例1~3(NMP-DMSO)では、エッチング速度を確保しつつ、DMSO比率を上げることで、浸入を抑制することができた。実施例4~6(NMP-スルホラン)でも、エッチング速度を確保しつつ、さらに浸入を抑制することができ、DMSOよりも少量のスルホラン添加量で効果がみられた。実施例7(NMP-DMSO-スルホラン)でも、エッチング速度を確保しつつ、さらに浸入を抑制することができた。テープの浸漬前後の質量変化が比較例に比べて小さいことからも、DMSO又はスルホランを添加することによって、Siウェハ固定テープのアクリル粘着層とSiウェハの接触界面への分解洗浄組成物の浸入が抑制されたことが理解できる。
【0073】
比較例1(NMPのみ)及び比較例3(N,N-ジメチルプロピオンアミドのみ)ではエッチング速度が高いが、浸漬30分のときの浸入長さが大きく、Siウェハ固定テープは膨潤し、Siウェハ固定テープに皺が生じていた。比較例2(DMSOのみ)では浸入長さは小さいが、エッチング速度が0.2μm/分と極端に低かった。比較例4(メチルエチルケトンのみ)は、分解洗浄組成物が中心部まで速やかに浸入したため評価ができなかった。
【0074】
洗浄試験用試験片の作製方法B
接着剤層を有するシリコンウェハを1.5cm×1.5cmのサイズに分割して試験片とした以外は、上記の方法Aと同様にして、シリコンウェハ試験片を作製した。
【0075】
洗浄試験2
マグネチックスターラーの上に容積50mLのスクリュー管瓶を置いた。スクリュー管瓶に15.0mLの調製直後(調製後30分以内)の分解洗浄組成物と撹拌子を投入した。分解洗浄組成物の中に上記の方法Bで作製した試験片1枚を浸漬し、室温(25℃)で3分間、900rpmの回転数で撹拌子を回転させた。浸漬後、試験片をピンセットで取り出し、イソプロピルアルコール(IPA)の洗瓶を用いて十分にリンスした。試験片に窒素ガスを吹き付けて乾燥させた後、マイクロメーターを用いて試験片の中心部の厚さを測定した。
【0076】
浸漬前後での試験片の厚さの差を分解洗浄組成物への浸漬時間で割ることにより、組成物のエッチング速度(ER)を算出した。
エッチング速度(ER)(μm/分)=[(浸漬前の試験片の厚さ-浸漬・洗浄・乾燥後の試験片の厚さ)(μm)]/浸漬時間(3分)
【0077】
洗浄試験用試験片の作製方法C
12インチ(300mm)シリコンウェハ(厚さ770μm)を、1.5cm×1.5cmのサイズに分割した。SYLGARD(登録商標)184(東レ・ダウコーニング株式会社製)の主剤2.036gと硬化剤0.209gを混合した接着剤をパスツールピペットで吸い出し、分割したシリコンウェハ上に1滴滴下した。その後、乾燥機(125℃)で20分間加熱して、シリコンウェハ上に接着剤層を形成した。これを試験片とし、マイクロメーターを用いて試験片の中心部の厚さを測定した。
【0078】
洗浄試験3
上記の方法Cで作製した試験片を用いたこと以外は、洗浄試験2と同様にして、分解洗浄組成物のエッチング速度(ER)を算出した。
【0079】
表2に実施例1~5、7及び比較例1~4の分解洗浄組成物の組成並びに洗浄試験2及び洗浄試験3の結果を示す。
【0080】
【0081】
実施例8及び比較例5
N-置換アミド化合物としてN-エチル-2-ピロリドン(NEP)を用い、組成を表3に記載したとおりとした以外は、実施例1と同様の手順で分解洗浄組成物を調製した。
【0082】
表3に実施例8及び比較例5の分解洗浄組成物の組成、浸入試験並びに洗浄試験2及び3の結果を示す。
【0083】
【0084】
実施例9及び比較例6
N-置換アミド化合物として1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)を用い、組成を表4に記載したとおりとした以外は、実施例1と同様の手順で分解洗浄組成物を調製した。
【0085】
表4に実施例9及び比較例6の分解洗浄組成物の組成、浸入試験並びに洗浄試験2及び3の結果を示す。
【0086】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示の分解洗浄組成物は、半導体ウェハの薄型化プロセスで使用される接着剤、特にポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤の残留物をデバイスウェハ上から分解洗浄する用途に好適に使用することができる。