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特許7405134樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータ、及びシンチレータアレイ
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  • 特許-樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータ、及びシンチレータアレイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータ、及びシンチレータアレイ
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20231219BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/84 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01T1/20 B
G21K4/00 B
C09K11/00 E
C09K11/02 Z
C09K11/80
C09K11/84
C09K11/68
C09K11/61
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021507174
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009169
(87)【国際公開番号】W WO2020189284
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019050585
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗和田 健
(72)【発明者】
【氏名】大森 健
(72)【発明者】
【氏名】来島 友幸
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/080941(WO,A1)
【文献】特開2007-248283(JP,A)
【文献】特開2005-30806(JP,A)
【文献】特開2002-006091(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0018150(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G21K 4/00
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と蛍光体とを含み、照射された放射線を可視光に変換し得る、樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータであって、
線源との距離40mmで、照射総量13kGyになるようにX線を38分間照射し、照射後24時間経過時に測定した際の輝度の維持率が65%以上であり、
ロックウェル硬度が30HRM以上であり、
コンポジットシンチレータ中の樹脂の含有量が10重量%以上である、コンポジットシンチレータ。
【請求項2】
板状であり、その厚さが500μm以上である、請求項1に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項3】
前記樹脂は、カチオン系重合開始剤による硬化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項4】
前記樹脂は、エポキシ当量が190以上の樹脂である、請求項1または2に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項5】
前記樹脂は、環状構造を有し、当該環状構造が二重結合を含まない構造である、請求項1または2に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項6】
前記樹脂は、水添エポキシ樹脂及びエポキシシリコーン樹脂から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項7】
コンポジットシンチレータ中の蛍光体の含有量が30重量%以上90重量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項8】
16GyのX線を照射した際の、20ms後の残光が100ppm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の、コンポジットシンチレータ。
【請求項9】
前記蛍光体が、GOS蛍光体、CWO蛍光体、CsI蛍光体、GAGG蛍光体で表されるガーネット系蛍光体からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項10】
前記蛍光体が粒子状である、請求項1~9のいずれか1項に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項11】
前記蛍光体は、平均粒径が0.1μm以上50μm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のコンポジットシンチレータ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のコンポジットシンチレータが直線状に複数配置された、コンポジットシンチレータアレイであって、前記アレイを形成するコンポジットシンチレータの大きさが各々10mm以下である、コンポジットシンチレータアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を可視光に変換するシンチレータに関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータは、X線などの放射線を可視光に変換する材料であり、レントゲンや放射線治療といった医療用途、構造物検査や手荷物検査といった工業用途、等で利用されている。
シンチレータは、変換の対象とする放射線の種類や用途によって使い分けられており、例えば、タリウム賦活のヨウ化セシウム(CsI:TI)等に代表される結晶シンチレータ(例えば特許文献1)、プラセオジム賦活の酸硫化ガドリニウム(GdS:Pr)等の蛍光体を焼結したセラミックシンチレータ(例えば特許文献2)等が知られている。しかし、結晶シンチレータ、セラミックシンチレータは、耐衝撃性が低く割れやすいという問題があり、また加工や成型が難しいという問題も有していた。
これら課題を解決するため、テルビウム賦活の酸硫化ガドリニウム(GdS:Tb)粒子と樹脂を混練し硬化させた混合材からなるシンチレータが知られている(例えば特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/158495号
【文献】国際公開第2016/047139号
【文献】特開2006-266936号
【文献】特開2012-247281号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3及び特許文献4に記載のシンチレータは、X線に対する耐性が低く、シンチレータとしては実用レベルではないことが分かった。
本発明は、上記課題を解決するものであり、耐衝撃性に優れ且つ良好な加工性や成型性を有し、更にX線耐性も良好なシンチレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ね、適切な樹脂を選択し、且つ当該樹脂を特定量以上含有させることで、輝度維持率及び硬度を一定以上とした樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータが、X線照射による樹脂の着色を軽減し、更にX線照射による蛍光体へのダメージを軽減させることが可能であり、良好なX線耐性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下のものを含む。
[1]樹脂と蛍光体とを含み、照射された放射線を可視光に変換し得る、樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータであって、
線源との距離40mmで、照射総量13kGyになるようにX線を38分間照射し、照射後24時間経過時に測定した際の輝度の維持率が65%以上であり、
ロックウェル硬度が30HRM以上であり、
コンポジットシンチレータ中の樹脂の含有量が10重量%以上である、コンポジットシンチレータ。
[2]板状であり、その厚さが500μm以上である、[1]に記載のコンポジットシンチレータ。
[3]前記樹脂は、カチオン系重合開始剤による硬化物であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のコンポジットシンチレータ。
[4]前記樹脂は、エポキシ当量が190以上の樹脂である、[1]または[2]に記載のコンポジットシンチレータ。
[5]前記樹脂は、環状構造を有し、当該環状構造が二重結合を含まない構造である、[1]または[2]に記載のコンポジットシンチレータ。
[6]前記樹脂は、水添エポキシ樹脂及びエポキシシリコーン樹脂から選択される1種以上を含む、[1]または[2]に記載のコンポジットシンチレータ。
[7]コンポジットシンチレータ中の蛍光体の含有量が30重量%以上90重量%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のコンポジットシンチレータ。
[8]16GyのX線を照射した際の、20ms後の残光が100ppm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の、コンポジットシンチレータ。
[9]前記蛍光体が、GOS蛍光体、CWO蛍光体、CsI蛍光体、GAGG蛍光体で表されるガーネット系蛍光体からなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のコンポジットシンチレータ。
[10]前記蛍光体が粒子状である、[1]~[9]のいずれかに記載のコンポジットシンチレータ。
[11]前記蛍光体は、平均粒径が0.1μm以上50μm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載のコンポジットシンチレータ。
[12][1]~[11]のいずれかに記載のコンポジットシンチレータが直線状に複数配置された、コンポジットシンチレータアレイであって、前記アレイを形成するコンポジットシンチレータの大きさが各々10mm以下である、コンポジットシンチレータアレイ。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、耐衝撃性に優れ且つ良好な加工性や成型性を有し、更にX線耐性も良好なシンチレータを提供することができる。更に、樹脂を含有するため蛍光体量が少ないにも関わらず、セラミックシンチレータと比較して同等レベルの輝度を有し、低残光であるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】放射線検出装置の一形態を示す、断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態は、樹脂と蛍光体とを含み、照射された放射線を可視光に変換し得る、樹脂・蛍光体コンポジットシンチレータである。
コンポジットシンチレータは樹脂と蛍光体とを含み、X線、α線、β線、γ線等の照射された放射線を、可視光を中心に紫外光から赤外光にわたる範囲の光に変換する部材であり、含有する蛍光体が放射線を可視光に変換し得る機能を有する。
【0010】
本実施形態のコンポジットシンチレータは自立型の自立部材であることが好ましい。自立型とは、基板等の支持部材を有することなく、コンポジットシンチレータが単独で部材としてデバイスに組み込まれることを意味する。デバイスとは、例えば、レントゲン装置、PET装置、CT装置などの医療用デバイス、透過X線検査装置、コンプトン散乱X線検査装置などの非破壊検査装置などが挙げられる。
コンポジットシンチレータが、放射線検出装置に組み込まれた一例を図1に示す。
【0011】
放射線検出装置10は、支持基板11上に光検出器12、接着層13、コンポジットシンチレータ14及び反射膜15が設置された構成を有する。一例では、これらは積層された構成を有する。
【0012】
支持基板11は、その上に積層される光検出器12やコンポジットシンチレータ14を支持できれば特段限定されず、通常ガラス基板や樹脂基板などが用いられる。また、支持基板表面に導電性を有する層を備えることで、光検出器12と支持基板11の表面とをボンディングワイヤ等を用いて電気的に接続してもよい。支持基板11の大きさ、厚さは、光検出器12とコンポジットシンチレータ14を支持できれば特段制限はないが、通常面方向の大きさが、光検出器12と同等またはそれ以上である。なお、コンポジットシンチレータ14は、放射線検出装置10に組み込まれた場合には支持基板11に支持されるが、コンポジットシンチレータ14単独部材としては自立した部材であり、支持基板を有さないものが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0013】
光検出器12は、コンポジットシンチレータ14に対向して光電変換部を備え、コンポジットシンチレータ14で発せられた蛍光を電気信号等に変換する機能を有する。光検出器12は特段限定されず、既知の光検出器を適宜用いることができる。また、一形態では、光検出器12は外部からの衝撃から保護するための保護樹脂16を備えていてもよい。保護樹脂は、外部からの衝撃を緩和できれば特に限定されない。
【0014】
本実施形態のコンポジットシンチレータは樹脂と蛍光体とを含み、これらが複合体(コンポジット)を形成する。樹脂を含有することで、結晶型のシンチレータや、セラミックシンチレータのように、欠けたり割れたりすることがなく、耐衝撃性に優れたコンポジットシンチレータとすることができる。また、樹脂を含有することで樹脂がバインダーの役割をするため、加工性や成型性にも優れるコンポジットシンチレータとすることができる。また、特定の樹脂を含有するためコンポジットシンチレータ中の蛍光体量が減少するにも関わらず、セラミックシンチレータと比較して同等レベルの輝度を有し、更に低残光であるという効果を有する。
【0015】
コンポジットシンチレータ中の樹脂の含有量は、通常10重量%以上であり、12重量%以上であってよく、15重量%以上であってよく、20重量%以上であってよく、25重量%以上であってよく、30重量%以上であってよい。また、上限は通常80重量%以下であり、70重量%以下であってよく、60重量%以下であってよく、50重量%以下であってよい。
【0016】
本実施形態のコンポジットシンチレータは、特定の樹脂を用いることで、X線照射による樹脂の着色を軽減し、更にX線照射による蛍光体へのダメージを軽減させることが可能であり、良好なX線耐性を有する。コンポジットシンチレータに含有量される樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などがあげられる。より具体的には、(メタ)アクリル樹脂(ポリメタアクリル酸メチルなど)、スチレン樹脂(ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体など)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース系樹脂(エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートなど)、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、水素添加(以下、水添)エポキシ樹脂、エポキシシリコーン樹脂、シリコーン樹脂などが例示される。
中でも、良好なX線耐性を有するコンポジットシンチレータとするため、水添エポキシ樹脂、及びエポキシシリコーン樹脂から選択される1種以上の樹脂を含むことが好ましい。また、環状構造を有し、且つ当該環状構造が二重結合を含まない構造を有する樹脂であることが好ましい。
【0017】
別の観点からすれば、前記樹脂は、X線耐性の観点から、好ましくはエポキシ基を有し、かつエポキシ当量は好ましくは10以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは190以上、特に好ましくは195以上である。
特に、水添エポキシ樹脂を用いる場合は、X線耐性の観点からエポキシ当量が好ましくは100以上であり、より好ましくは190以上、さらに好ましくは500以上、特に好ましくは1000以上であり、通常10000以下であり、好ましくは5000以下であり、より好ましくは3000以下である。
エポキシシリコーン樹脂を用いる場合は、X線耐性の観点から、エポキシ当量が好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上であり、より好ましくは190以上であり、好ましくは1000以下であり、より好ましくは500以下、さらに好ましくは300以下である。
【0018】
樹脂の25℃における粘度は特段限定されず、0.01~10000Pa・sが好ましく、0.1~1000Pa・sがより好ましい。水添エポキシ樹脂を用いる場合は、特に10~500Pa・s、エポキシシリコーン樹脂を用いる場合は、0.5~10Pa・sが蛍光体分散性の観点から好ましい。
【0019】
樹脂の分子量は特段限定されず、数平均分子量が通常150以上であり、通常1500以下、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。
【0020】
コンポジットシンチレータ中の蛍光体の含有量は、通常30重量%以上であり、40重量%以上であってよく、50重量%以上であってよい。また、上限は通常90重量%以下であり、80重量%以下であってよく、70重量%以下であってよい。
【0021】
コンポジットシンチレータに含有量される蛍光体は、シンチレータ用途で使用可能な蛍光体であれば特に限定されず、GdSで表されるGOS蛍光体、CdWOで表されるCWO蛍光体、CsI(ヨウ化セシウム)蛍光体、GAGG(ガドリニウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)で表されるガーネット系蛍光体、等があげられる。これらの蛍光体を、放射線の種類や用途に応じて適宜用いることができる。
【0022】
蛍光体は好ましくは粒子状であり、蛍光体のd50重量中央粒径(メジアン径)は特段限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、また通常50μm以下、好ましくは25μm以下である。蛍光体の平均粒子径は、出力25W、時間60秒の条件で水中に超音波分散させた蛍光体粉をコールターカウンター法で測定した値をいう。
また、蛍光体の粒度分布(4分位偏差QD=(d75-d25)/(d25+d75))は特段限定されないが、粒度分布がシャープであることが好ましく、通常QDが0.1以上、0.5以下であることが好ましく、0.15以上、0.25以下であることが更に好ましい。
【0023】
コンポジットシンチレータは、樹脂及び蛍光体以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、分散剤、可塑剤、光重合性開始剤/熱重合開始剤/カチオン系重合開始剤、有機溶剤などが挙げられる。その中でも熱重合開始剤がポットライフの点から特に好ましく、また、カチオン系重合開始剤が良好なX線耐性を有する点から特に好ましく、その他の成分を含む場合の含有量は、樹脂100重量部に対して、通常10重量部以下であり、7.5重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、2重量部以下であることがさらに好ましく、1.5重量部以下であることが特に好ましく、0.8重量部以下であることが最も好ましい。
【0024】
コンポジットシンチレータの製造方法は特段限定されず、例えば、蛍光体及び樹脂を含有する蛍光体組成物を調製する調製工程、及び蛍光体組成物を型に流し込み、加熱等により硬化させる硬化工程、を含む製造方法により製造することができる。
【0025】
調製工程では、原料を混合や混練して、組成物を調製する。この際に、気泡を除去する脱泡工程により、製造したコンポジットシンチレータ中の空隙を調整することができる。
【0026】
硬化工程は、蛍光体含有組成物を硬化させる工程であり、樹脂の種類によって適宜硬化方法を選択することができる。例えば、用いた樹脂が熱硬化性樹脂であれば、鋳型に蛍光体含有組成物を流し込み、加熱することで硬化させる。用いた樹脂が紫外線硬化性樹脂であれば、同様に鋳型に蛍光体含有組成物を流し込み、紫外線を照射することで硬化させる。
また、樹脂の種類を調整したり、有機溶剤の量を調整したりすることで3Dプリンタに使用可能な程度に粘度を調整し、3Dプリンタで硬化、成型することが可能である。また押出成形、射出成形などの、樹脂を成形する際の既知の方法を適用してもよい。さらに、反射基板や隔壁と一体成型してもよく、光検出器上に直接成型してもよい。
【0027】
このように製造したコンポジットシンチレータは、空隙量が10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、3体積%以下であることが更に好ましい。空隙率が大きい場合には、コンポジットシンチレータを薄く成型する場合に、割れやすくなるため、空隙率が小さいことが好ましい。
【0028】
また、本実施形態のコンポジットシンチレータは、セラミックシンチレータのように焼結させないことから蛍光体へのダメージが小さいことが理由であると推測するが、残光が短く、輝度が高いという特徴を有する。
特にCsIと比較して残光が短いGOS蛍光体を用いる場合、蛍光体を高温に晒していないことから、残光が非常に短い。具体的には、16GyのX線を照射した際の、20ms後の残光が100ppm以下であることが好ましく、90ppm以下であることがより好ましく、85ppm以下であることが更に好ましい。
また、線源との距離40mmで、照射総量13kGyになるようにX線を38分間照射し、照射後24時間経過時に測定した際の輝度の維持率が65%以上であることが好ましく、68%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
このような良好なX線耐性を有するシンチレータコンポジットするためには、適切な樹脂と重合開始剤を選択することが必要であり、具体的には(1)エポキシ基を有し、エポキシ当量190以上又は195以上の樹脂、例えば水添エポキシ樹脂、及びエポキシシリコーン樹脂から選択される1種以上の樹脂を含むこと、(2)重合開始剤の量を減らすこと、(3)カチオン系の重合開始剤を用いること、の(1)~(3)を適宜組み合わせることにより、達成し得る。
【0029】
本実施形態に係るコンポジットシンチレータは、耐衝撃性に優れており、具体的にはロックウェル硬度が30HRM以上であり、35HRM以上であることが好ましく、40HRM以上であることがより好ましい。
ロックウェル硬度は、JIS7202-2に準拠した方法で測定することが可能であり、より具体的には、株式会社マツザワ製のロックウェル硬度計DXT-1を用い、測定圧子1/4”鋼球、荷重100Kgにてロックウェル硬度スケールM(HRM)を測定する。この際の各シンチレータの厚さは、例えば5mmで測定してもよい。
【0030】
また、コンポジットシンチレータは樹脂を含有するため、当該樹脂の種類を適宜選択することで、様々な性質、形状のものを製造することができる。
コンポジットシンチレータは、用いる樹脂の種類により、硬い(硬度が高い)コンポジットシンチレータを製造することも可能であり、柔らかい(弾力がある)コンポジットシンチレータを製造することも可能である。
【0031】
柔らかい(弾力がある)コンポジットシンチレータである場合には、シンチレータが可撓性を有することから、曲面上にコンポジットシンチレータを配置することが可能となる。従来平面基板状に配置されることが一般的であったシンチレータを曲面上に適用することが可能となり、デバイス中での配置の自由度が向上する。
【0032】
また、本実施形態に係るコンポジットシンチレータは、様々な大きさのものを製造することができる。大型のものとしては、10mm以上のものを製造することができる。また、500μm以上の厚さのものや、1mm以上の厚さのものを製造することができる。また、小型のものとしては10mm以下のものを製造することができる。形状も、板状、柱状、円盤状、矩形面を有する直方体や立方体等、設計の自由度が高い。
小型のコンポジットシンチレータは、直線状に複数配置された、コンポジットシンチレータアレイとすることもできる。
また、本実施形態に係るコンポジットシンチレータは、ダイシング加工によってチップ化、アレイ化することも可能であり、樹脂種を選択することでダイシング加工に伴う輝度低下を抑制でき、特にエポキシシリコーン樹脂を用いたコンポジットシンチレータはダイシング加工に伴う輝度低下が低いため、好ましい。
【実施例
【0033】
以下、本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
<比較例1>
シンチレータ中の蛍光体量が65重量%、樹脂量が35重量%となるように、蛍光体としてGOS:Tb(d50重量中央粒径9μm、20ms残光100ppm以下)粉末と、樹脂の主剤として表1に記載のエポキシ樹脂とを混練機で混合した後、樹脂の助剤としてアミン系硬化剤を、樹脂の主剤100重量部に対し50重量部添加し、混練機でよく混合した後、混合物を鋳型に注ぎ、80℃2時間で熱硬化させ、樹脂・蛍光体コンポジット型シンチレータを得た。
得られたシンチレータを、70mm×70mm×1.5mm厚の形状に加工し、その特性を評価した。
【0034】
<比較例2~3、実施例1~6>
樹脂の主剤と助剤及びその含有量を表1のものに変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂・蛍光体コンポジット型シンチレータを得た。なお、実施例に使用した市販の水添エポキシ樹脂及びエポキシ基含有シリコーン樹脂はいずれも環状構造を有し、かつ前記環状構造が二重結合を含まない構造である。
【0035】
【表1】
【0036】
<参考例1>
シンチレータシート(三菱ケミカル株式会社製DRZ-high)を準備した。
<参考例2>
蛍光体としてGOS:Pr(d50重量中央粒径9μm、20ms残光100ppm以下)粉末を軟鋼カプセルに封入し、温度1300℃、2時間、圧力100MPaにてHIP処理を行い、GdS:Prの焼結体を得た。得られた焼結体を70mm×70mm×1.5mm厚の形状に加工した。
【0037】
比較例1~3、実施例1~6、及び参考例1~2のシンチレータに対し、以下の評価試験を行った。その結果を表2に示す。
・耐性試験のためのX線照射条件
X線発生装置:JOB社工業用製連続X線発生装置XGC0758R0
出力:75KV-4mA
線源とサンプル間距離:40mm
照射時間、照射総量:38分、13KGy
【0038】
・輝度測定のためのX線照射条件
X線発生装置:JOB社製PORTA 100HF
出力:80KV-1.6mAs
ファントム:厚さ75mmの水
線源とサンプル間距離:800mm
検出器:Rayence CMOS Flat Panel Sensor Model 1215A
感度計算用ソフト:ImageJ
【0039】
<シンチレータ耐性試験>
それぞれのシンチレータの主表面(最も面積の大きい面)に上記のとおり耐性試験のためにX線を照射し、X線照射後24時間経過時に、X線照射面の裏側を検出器に当てて、輝度を評価した。
X線照射前に測定した輝度に対する、X線照射後24時間経過時に測定した輝度を、輝度維持率(%)として評価した。
また、X線照射後24時間経過時に測定した輝度を、参考例1で準備したシンチレータシートの輝度を100%とした相対輝度(%)として評価した。結果を表2に示す。
【0040】
・残光測定条件
X線発生装置:JOB社製PORTA 100HF
出力:100KV-20mAs
線源とサンプル間距離:305mm
線量:16Gy
検出器:浜松ホトニクス社製ワイドダイナミックレンジ光電子増倍管ユニット
・ワイドダイナミックレンジ光電子増倍管モジュール H13126
・データ収集ユニット C12918-A1
<残光測定試験>
各シンチレータを、34×34×1.5(厚み)mmのサイズとした。そして、上記残光測定条件のX線を照射し、検出器により検出された発光減衰曲線から、20ms後の残光を読み取り、Time0の値と比較することで、評価した。結果を表2に示す。
【0041】
<ロックウェル硬度試験>
JIS7202-2に準拠した方法で、株式会社マツザワ製のロックウェル硬度計DXT-1を使用し、測定圧子1/4”鋼球、荷重100Kgにてロックウェル硬度スケールM(HRM)を測定した。各シンチレータは厚さ5mmで測定した。結果を表2に示す。
【0042】
・衝撃性試験
参考例1のシンチレータシートは34×34×0.5mmとした以外、各シンチレータのサイズは34×34×5mmとし、高さ30cmの位置から、角部を下にしてコンクリート床の上に落下させ、割れ、欠けの発生の有無を評価した。
その結果、参考例1のシンチレータシートは角部に小さな欠け(潰れ)が発生し、参考例2の焼結体シンチレータは割れが発生したが、比較例1~3、実施例1~6のコンポジットシンチレータは、欠けも割れも発生しなかった(表中耐衝撃性「○」で表記)。
【0043】
【表2】
【0044】
水添エポキシ樹脂と、カチオン系開始剤の組合せやカチオン系開始剤の含有量を調整した、実施例のコンポジットシンチレータは輝度維持率が高く、X線耐性が良好であることが分かった。
また、参考例2のセラミックシンチレータと実施例4~6のコンポジットシンチレータとを比較すると、実施例のコンポジットシンチレータは、樹脂を含有する分、蛍光体量が少なくなっているが、参考例2と同等以上の輝度を有することが解った。
また、実施例のコンポジットシンチレータは、参考例1のシンチレータシート、参考例2のセラミックシンチレータと比較して、残光が短いシンチレータが得られることが解った。
【符号の説明】
【0045】
10 放射性検出装置
11 支持基板
12 光検出器
13 接着層
14 コンポジットシンチレータ
15 反射膜
16 保護樹脂
図1