(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】パケット通信システムとその送信装置、受信装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 1/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H04L1/00 B
(21)【出願番号】P 2022501396
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020005960
(87)【国際公開番号】W WO2021166016
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 尊広
(72)【発明者】
【氏名】安原 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】吉原 慎一
(72)【発明者】
【氏名】川上 優平
(72)【発明者】
【氏名】矢沢 豪
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-247131(JP,A)
【文献】特開2016-092640(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01950969(EP,A2)
【文献】特開2002-204219(JP,A)
【文献】吉村 康彦 他,FECプロキシ間転送最適化方式の検討,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO)シンポジウム,日本,社団法人情報処理学会,2005年,第2005巻第6号,p.525-528
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の通信装置から第2の通信装置へパケットをネットワークの単一の通信経路を介して伝送するパケット通信システムであって、
前記第1の通信装置は、
入力されたパケット列をもとに第1および第2のパケットを含むパケットグループを生成するグループ生成部と、
前記パケットグループごとに、当該パケットグループに含まれる前記第1および第2のパケットをもとに第1および第2の複製パケットを生成するパケット複製部と、
前記パケットグループごとに、前記第2のパケットと前記第1の複製パケットとに基づいて符号化パケットを生成する符号化パケット生成部と、
前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを前記単一の通信経路へ送信する送信部と
を備え、
前記第2の通信装置は、
前記単一の通信経路を介して伝送された、前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを受信する受信部と、
受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットのいずれか一方と、前記符号化パケットとに基づいて、前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットを復号する復号部と、
受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットと、復号された前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットとに基づいて、前記パケットグループの第1および第2のパケットを復元する復元部と
を備える、
パケット通信システム。
【請求項2】
前記符号化パケット生成部は、線形符号を用いたパケット演算を行うことで、前記第2のパケットと前記第1の複製パケットとの線形結合により表される前記符号化パケットを生成する、請求項1に記載のパケット通信システム。
【請求項3】
前記第1の通信装置は、
前記グループ
生成部の前段側において、前記パケット列に可変長パケットが含まれる場合に、当該可変長パケットのパケット長を予め設定された固定長となるように調整するパケット長調整部を、さらに備える
請求項1に記載のパケット通信システム。
【請求項4】
パケットをネットワークの単一の通信経路を介して受信側の通信装置へ送信する送信装置であって、
入力されたパケット列をもとに第1および第2のパケットを含むパケットグループを生成するグループ生成部と、
前記パケットグループごとに、当該パケットグループに含まれる前記第1および第2のパケットをもとに第1および第2の複製パケットを生成するパケット複製部と、
前記パケットグループごとに、前記第2のパケットと前記第1の複製パケットとに基づいて符号化パケットを生成する符号化パケット生成部と、
前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを前記単一の通信経路へ送信する送信部と
を具備する送信装置。
【請求項5】
請求項4に記載の送信装置から送信されるパケットを受信する受信装置であって、
前記送信装置から前記単一の通信経路を介して伝送された、前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを受信する受信部と、
受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットのいずれか一方と、前記符号化パケットとに基づいて、前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットを復号する復号部と、
受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットと、復号された前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットとに基づいて、前記パケットグループの第1および第2のパケットを復元する復元部と
を具備する受信装置。
【請求項6】
請求項4に記載の送信装置が具備する前記各部の処理を、前記送信装置が備えるハードウェアプロセッサに実行させるプログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の受信装置が具備する前記各部の処理を、前記受信装置が備えるハードウェアプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、例えばパケットを中継ネットワークを介して伝送するシステムに係わり、特にパケットを無瞬断で伝送するためのパケット通信システムと、このシステムで使用される送信装置および受信装置、さらにこれらの装置で使用されるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
送受信装置間でパケットを中継ネットワークを介して伝送するシステムにおいて、送信パケットと、この送信パケットの複製パケットを、異なる通信経路を介してそれぞれ伝送することにより、パケットを喪失することなく転送することができる無瞬断ネットワークシステムが提案されている(例えば特許文献1を参照)。このシステムによれば、中継ネットワークにおいて例えば通信経路の切り替えやビット誤りの発生によりパケット廃棄が発生しても、パケットを無瞬断で伝送することができる。
【0003】
また、送信側でパケットを特殊な符号化方式を用いて符号化した後、単一の通信経路を介して伝送し、受信側で復号することにより、喪失したパケットを復元する技術も提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許4074268号公報
【文献】日本国特開2017-228903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載された無瞬断ネットワークシステムでは、同一のパケットを伝送するために複数の通信経路を使用する。このため、中継ネットワークの帯域を2倍消費することになり、ネットワーク負荷の増大を招くという課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載された技術では、ネットワーク負荷の増加を抑制できる。しかし、画質の変動を抑えるために最適化された符号が使用されるため、符号化と復号に非常に複雑な処理が必要となって処理遅延の増加を招く。これは、例えば広域L2ネットワークを用いたパケット中継伝送システムのように、簡素で低遅延の処理が求められるシステムには適用することが難しい。
【0007】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その一側面では、複雑な符号化および復号処理を用いず、かつ複数の通信経路を使用することなく、パケットの無瞬断伝送を可能にする技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためにこの発明の一態様は、第1の通信装置から第2の通信装置へパケットをネットワークの単一の通信経路を介して伝送するパケット通信システムにあって、前記第1の通信装置が、入力されたパケット列をもとに第1および第2のパケットを含むパケットグループを生成するグループ生成部と、前記パケットグループに含まれる前記第1および第2のパケットをもとに第1および第2の複製パケットを生成するパケット複製部と、前記第2のパケットと前記第1の複製パケットとに基づいて符号化パケットを生成する符号化パケット生成部と、前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを前記単一の通信経路へ送信する送信部とを備える。また、前記第2の通信装置が、前記単一の通信経路を介して伝送された、前記第1のパケット、前記第2の複製パケットおよび前記符号化パケットを受信する受信部と、受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットのいずれか一方と、前記符号化パケットとに基づいて、前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットを復号する復号部と、受信された前記第1のパケットおよび前記第2の複製パケットと、復号された前記第2のパケットおよび前記第1の複製パケットとに基づいて、前記パケットグループの第1および第2のパケットを復元する復元部とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の一態様によれば、送信側の第1の通信装置では、例えば、入力されたパケット列がグループ化されて、このパケットグループごとに複製パケットが生成される。そして、パケットグループごとに、複製元のパケット群の一部のパケットと、このパケットと対応しない複製パケット群の他のパケットとの符号化パケットが生成され、この符号化パケットの生成に用いなかった上記複製元の他のパケットと複製パケット群の一部のパケットと上記符号化パケットとが送信される。これに対し、受信側の第2の通信装置では、例えば、受信された上記各パケットのうち、複製元のパケット群の他のパケットおよび上記複製パケット群の一部のパケットのいずれか一方と、符号化パケットとに基づいて、複製元のパケット群の一部のパケットおよび複製パケット群の他のパケットがそれぞれ復号され、ネットワーク上で上記パケットグループの一部のパケットが喪失した場合に、上記復号されたパケットにより上記喪失パケットが復元される。
【0010】
すなわち、この発明の一態様によれば、その一側面として、複雑な符号化および復号処理を用いず、かつ複数の通信経路を使用することなく、パケットの無瞬断伝送を可能にする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係るパケット通信システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したシステムで使用される無瞬断装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1に示したシステムで使用される無瞬断装置の送信機の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1に示したシステムで使用される無瞬断装置の受信機の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、
図3に示した送信機によるパケット送信処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図4に示した受信機によるパケット受信処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図3に示した送信機によるパケット送信処理の動作例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図4に示した受信機によるパケット受信処理の第1の動作例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図4に示した受信機によるパケット受信処理の第2の動作例を示す図である。
【
図10】
図10は、
図3に示した送信機においてパケット列をグループ化する際に設定されるグループの長さの第1の例を説明するための図である。
【
図11】
図11は、
図3に示した送信機においてパケット列をグループ化する際に設定されるグループの長さの第2の例を説明するための図である。
【
図12】
図12は、この発明の一実施形態に係るパケット通信システムの効果の一例を説明するための図である。
【
図13】
図13は、同一のパケットを異なる2つの通信経路を介して伝送するシステムの問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[一実施形態]
(構成例)
(1)システム
図1は、この発明の一実施形態に係るパケット通信システムの全体構成を示す図である。
【0013】
このシステムは、ユーザ装置U1が接続される無瞬断装置TX(第1の通信装置)と、ユーザ装置U2が接続される無瞬断装置RX(第2の通信装置)との間で、中継ネットワークNWの単一の通信経路を介してパケットを伝送するようにしたものである。
【0014】
なお、ユーザ装置U1,U2は、無瞬断装置TX,RXに対し直接接続されてもよく、また他の通信装置またはネットワークを介して間接的に接続されてもよい。中継ネットワークNWは、パケットを伝送できるものであれば、有線または無線等のネットワークの種類を問わず、また通信プロトコルもどのようなものであってもよい。
【0015】
(2)装置
無瞬断装置TX,RXは、例えばゲートウェイまたはルータからなり、いずれも送信機10および受信機20を備える。
図2は、無瞬断装置TX,RXのハードウェア構成を示すブロック図である。同図に示すように無瞬断装置TX,RXは、中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを有する制御部1を備え、この制御部1にバス7を介してプログラム記憶部2、送信用パケット記憶部3、受信用パケット記憶部4を接続し、さらに送信インタフェース部(送信I/F)5および受信インタフェース部(受信I/F)6を接続したものとなっている。
【0016】
プログラム記憶部2は、例えば、主記憶媒体としてHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリを使用したもので、その記憶領域にはOS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、この発明の一実施形態に係る各種処理を実行するプログラムが格納される。なお、記憶媒体は、上記HDD又はSSDとROM(Read Only Memory)とを組み合わせて構成してもよい。
【0017】
送信用パケット記憶部3および受信用パケット記憶部4は、例えば、HDDまたはSSDとRAM(Random Access Memory)とを組み合わせたもので、その記憶領域にはパケットに対し各種演算や制御を行うために使用される作業用記憶領域と、複数の送受信用バッファ記憶部が設けられている。この送受信用のバッファ記憶部は、パケットを時系列順に保存して読み出す、いわゆる早入れ早出し(First in-First out:FIFO)キューとして動作する。
【0018】
送信I/F5および受信I/F6は、送信パケットおよび受信パケットに対し例えば変復調等の通信のための信号処理を行う。
【0019】
(2-1)送信機10
図3は、送信機10の機能構成を示すブロック図である。
送信機10は、入力順情報付与部101と、符号グループ制御部102と、パケット複製部103と、元パケットFIFOキュー104と、複製パケットFIFOキュー105と、パケット演算部106と、符号元情報付与部107と、符号化パケットFIFOキュー108と、送信FIFOキュー109と、送信順情報付与部110と、送信パケット転送制御部111とを備える。
【0020】
このうち、入力順情報付与部101、符号グループ制御部102、パケット複製部103、パケット演算部106と、符号元情報付与部107、送信順情報付与部110および送信パケット転送制御部111は、何れもプログラム記憶部2内に格納されたプログラムをハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。
【0021】
入力順情報付与部101は、ユーザ装置U1,U2から入力されたパケット列PAに対し、入力順に各パケットに番号を付与する。ここでは、上記番号を入力順情報と呼ぶ。入力順情報は、例えばパケットのヘッダまたはペイロードに付与される。
【0022】
符号グループ制御部102は、上記入力順情報が付与されたパケット列PAを予め設定された複数のパケット数n(n>=2)個毎にグループ化する。上記グループの長さは中継ネットワークNWにおいて過去に発生した瞬断時間の最大値を下回らない長さに設定される。設定例は後に詳しく述べる。
【0023】
パケット複製部103は、上記符号グループ制御部102により生成されたパケットグループ毎に、当該グループを構成するn個のパケットPAに対応するn個の複製パケットPBを生成する。以後、複製の元になるn個のパケットを元パケットと呼称する。
【0024】
元パケットFIFOキュー104は、上記パケット複製部103から出力されるn個の元パケットを入力順に保存し、入力順に読み出す。複製パケットFIFOキュー105も同様に、上記パケット複製部103から出力されるn個の複製パケットを入力順に保存し、入力順に読み出す。
【0025】
パケット演算部106は、上記元パケットFIFOキュー104に保存されている元パケットの一部と、上記複製パケットFIFOキュー105に保存されている複製パケットの他の一部とを組み合わせ、所定の符号化演算を行うことにより、上記元パケットおよび複製パケットと同一のパケット長を有する符号化パケットを生成する。符号化には、例えば線形符号が用いられる。より具体的には、任意のmビットの元パケットとmビットの複製パケットをGF(2m)のガロア体とみなして定義したパケット演算規則を用いた符号化方式が用いられる。
【0026】
符号元情報付与部107は、上記パケット演算部106により生成された符号化パケットに対し、その符号化演算に使用された元パケットの入力順情報と複製パケットの入力順情報を付与する。この元パケットおよび複製パケットの入力順情報を符号元情報と呼ぶ。
【0027】
符号化パケットFIFOキュー108は、上記符号元情報付与部107から出力される符号化パケットPCを、その符号化元情報に従い入力順に保存し入力順に読み出す。上記送信FIFOキュー109は、上記元パケットFIFOキュー104、複製パケットFIFOキュー105および符号化パケットFIFOキュー108からそれぞれ読み出された元パケットPA、複製パケットPBおよび符号化パケットPCを読み出された順に入力して保存し、入力順に読み出す。
【0028】
送信順情報付与部110は、上記送信FIFOキュー109から読み出された元パケットPA、複製パケットPBおよび符号化パケットPCの各ヘッダに、送信順序を示す番号を付与する。この送信順序を示す番号を、ここでは送信順情報と呼ぶ。送信順情報付与部110は、上記送信順序情報が付与された各パケットを送信パケット列PTとして送信I/F5へ出力する。
【0029】
送信パケット転送制御部111は、上記元パケットFIFOキュー104および複製パケットFIFOキュー105からの元パケットおよび複製パケットの各々の読み出しタイミングを制御することで、符号化対象の元パケットおよび複製パケットを選択する。また送信パケット転送制御部111は、上記元パケットFIFOキュー104、複製パケットFIFOキュー105および符号化パケットFIFOキュー108からの各パケットの読み出し順序を制御することで、送信対象の元パケットPA、複製パケットPBおよび符号化パケットPCを選択し、さらにその送信順序を指定する。
【0030】
(2-2)受信機20
図4は、受信機20の機能構成を示すブロック図である。
受信機20は、送信順情報削除部201と、パケット識別部202と、元パケットFIFOキュー203と、複製パケットFIFOキュー204と、符号化パケットFIFOキュー205と、パケット演算部206と、受信FIFOキュー207と、入力順情報削除部208と、受信パケット転送制御部209とを備えている。
【0031】
このうち、送信順情報削除部201、パケット識別部202、パケット演算部206、入力順情報削除部208および受信パケット転送制御部209は、何れもプログラム記憶部2内に格納されたプログラムをハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。
【0032】
送信順情報削除部201は、受信I/F6により受信された受信パケット列PRの各パケットヘッダから送信順情報を削除し、送信順序情報が削除された各受信パケットをパケット識別部202に入力する。
【0033】
パケット識別部202は、入力された上記受信パケットPRを、元パケット、複製パケットまたは符号化パケットのいずれかに識別する。そして、元パケットを元パケットFIFOキュー203へ、複製パケットを複製パケットFIFOキュー204へ、符号化パケットを符号化パケットFIFOキュー205へそれぞれ出力する。なお、パケットの識別方法の一例は後に述べる。
【0034】
元パケットFIFOキュー203は、上記パケット識別部202により識別された元パケットを入力順に保存して入力順に読み出す。複製パケットFIFOキュー204は、上記パケット識別部202により識別された複製パケットを入力順に保存して入力順に読み出す。符号化パケットFIFOキュー205は、上記パケット識別部202により識別された符号化パケットを入力順に保存して入力順に読み出す。
【0035】
パケット演算部206は、符号化パケットFIFOキュー205から読み出された符号化パケットを、元パケットFIFOキュー203から読み出された元パケットと、複製パケットFIFOキュー204から読み出された複製パケットとのいずれか一方に基づいて復号演算することにより、送信側の送信機10において符号化の対象とされた元パケットの一部および複製パケットの一部を復号する。
【0036】
受信FIFOキュー207は、上記元パケットFIFOキュー203から読み出された元パケット、複製パケットFIFOキュー204から読み出された複製パケット、およびパケット演算部206により復号された元パケットおよび複製パケットを入力順に保存し、入力順に読み出す。
【0037】
入力順情報削除部208は、受信FIFOキュー207から読み出された各パケットのヘッダから入力順情報を削除し、削除後の各パケットを復元されたパケット列PAとしてユーザ装置U1,U2へ出力する。
【0038】
受信パケット転送制御部209は、上記元パケットFIFOキュー203、複製パケットFIFOキュー204および符号化パケットFIFOキュー205からの各パケットの読み出しを制御することで、復号対象のパケットの組合せをパケット演算部206に与える処理と、元パケット、複製パケットおよび復号されたパケットのうち復元パケットを構成するためのパケットを選択して受信FIFOキュー207に入力する処理を行う。
【0039】
(動作例)
次に、以上のように構成されたパケット通信システムによるパケット通信動作を説明する。
なお、ここでは、ユーザ装置U1から送られるパケット列PAを、無瞬断装置TXから中継ネットワークNWを介して無瞬断装置RXへ伝送し、無瞬断装置RXからユーザ装置U2へ転送する場合を例にとって説明する。
【0040】
(1)無瞬断装置TXの送信機10の動作
図5は、無瞬断装置TXの送信機10による制御手順と制御内容を示すフローチャートである。
【0041】
(1-1)パケット列のグループ化
無瞬断装置TXにおいて送信機10は、ステップS101において送信パケット列PAの入力を監視している。この状態で、ユーザ装置U1から送出された送信パケット列PAが入力されると、送信機10は、先ずステップS102において、入力順情報付与部101により、入力された上記送信パケット列PAの各パケットに対し入力順情報を付与する。続いて送信機10は、ステップS103において、符号グループ制御部102により、上記入力順情報が付与されたパケット列をn個のパケット毎にグループ化する。
【0042】
ここで、上記グループの長さの決定方法の一例について説明する。
例えば、
図10に示すように、中継ネットワークNWにおいて最大T
Loss(s)の瞬断が発生する場合、グループの長さをT
CodingGroup(s)とすると、無瞬断を実現するためには次の関係が成り立つ必要がある。
T
Loss ≦ T
CodingGroup
一実施形態では、上記の関係を満たすようにパケットグループの長さを設定する。このようにすると、符号化パケットを含む1~nのパケットが必ず受信されるため、上記最大T
Loss(s)の瞬断が発生しても、グループ内のパケットをすべて復元可能となる。
【0043】
ちなみに、例えば
図11に示すように、T
Loss(s)とグループの長さT
CodingGroup(s)の関係が
T
Loss > T
CodingGroup
となると、パケットグループの長さに対して瞬断時間が長くなるため、符号化パケットを含む1~nのパケットをすべて受信できなくなり、無瞬断によるパケット伝送は行えなくなる。
【0044】
すなわち、パケットグループの長さは、過去に発生した瞬断時間の最大値を下回らない値に設定される。なお、中継ネットワークNWの瞬断時間の最大値は、上記パケットグループの長さを決定した後にさらに変化することも想定される。そこで、例えば、上記パケットグループの長さの決定後も中継ネットワークNWの瞬断時間の長さを監視する。そして、予め設定された時間が経過するごとに、或いは検出された瞬断時間長が過去の最大の瞬断時間長を超えた場合に、上記パケットグループの長さを設定し直す処理を行うとよい。
【0045】
(1-2)複製パケットの生成
送信機10は、次にステップS104において、パケット複製部103により、上記グループ化されたn個のパケットPAについて、ヘッダ部分を含め同一内容のn個の複製パケットPBを生成する。そして送信機10は、ステップS105において、上記複製の元になったn個のパケット(元パケット)を元パケットFIFOキュー104に順に入力し保存する。また同様に、生成された上記n個の複製パケットを複製パケットFIFOキュー105に順に入力し保存する。
【0046】
(1-3)符号化パケットの生成
送信機10は、次にステップS106において、パケット演算部106により、上記元パケットPAの一部と複製パケットPBの他の一部とに基づいて符号化パケットPCを生成するための符号化演算を実行する。
【0047】
例えば、送信パケット転送制御部111の制御の下、
図7に示すように、一つのパケットグループにおいて、元パケット列PAを、前半のn/2個のパケット列PA1(番号1~n/2)と、後半のn/2個のパケット列PA2(番号n/2+1~n)とに分ける。同様に複製パケット列PBについても、前半のn/2個のパケット列PB1(番号1~n/2)と、後半のn/2個のパケット列PB2(番号n/2+1~n)とに分ける。
【0048】
次に、元パケットFIFOキュー104から例えば後半のn/2個の元パケット列PA2を読み出すと共に、複製パケットFIFOキュー105から例えば前半のn/2個の複製パケット列PB1を読み出す。そして、パケット演算部106により、読み出された上記n/2個の元パケット列PA2およびn/2個の複製パケット列PB1を、例えばGF(2
m)のガロア体とみなして定義したパケット演算規則を用いて線形符号化し、n/2個の符号化パケットPCを生成する。この符号化パケットを
図7では、1*(n/2+1),2*(n/2+2),…,n/2*nで表している。
【0049】
なお、符号化する際の元パケットと複製パケットとの組み合わせは、例えば、前半のn/2個の元パケット列PA1と、後半のn/2個の複製パケット列PB2であってもよい。
【0050】
上記符号化パケットPCが生成されると、送信機10は続いてステップS107において、符号元情報付与部107により、生成された上記符号化パケットPCに対し、元パケットの入力順情報および複製パケットの入力順情報を符号化元情報として付与する。付与の方法としては、例えば、上記符号化パケット全体をペイロードと見なして新たなヘッダを付与してカプセル化し、上記新たなヘッダに送信先情報および送信元情報と共に上記符号元情報を付与する方法が用いられる。
【0051】
符号元情報付与部107は、ステップS108において、上記符号化元情報が付与された符号化パケットPCを、符号化パケットFIFOキュー108に入力して保存させる。
【0052】
(1-4)送信パケット列PTの生成および送信
送信機10は、続いてステップS109において、送信パケット転送制御部111の制御の下、上記元パケットFIFOキュー104、複製パケットFIFOキュー105および符号化パケットFIFOキュー108からの各パケットの読み出しタイミングを制御することにより、元パケットPA、複製パケットPBおよび符号化パケットPCを選択的に読み出し、送信パケット列PTを生成する。
【0053】
例えば、
図7に示すように、先ず元パケットFIFOキュー104から前半のn/2個の元パケットPA1を読み出し、次に符号化パケットFIFOキュー108から符号化パケットPCを読み出し、最後に複製パケットFIFOキュー105から後半のn/2個の複製パケットPB2を読み出す。そして、読み出された各パケットを、ステップS110において、順に送信FIFOキュー109に入力し保存させる。
【0054】
送信機10は、続いてステップS111において、送信順情報付与部110により、上記送信FIFOキュー109から読み出された元パケットPA1、符号化パケットPCおよび複製パケットPB2の各ヘッダに、送信順序を示す送信順情報を付与する。送信順情報付与部110は、上記送信順序情報が付与された各パケットを送信パケット列PTとして送信I/F5へ出力する。この結果、上記送信パケット列PTは、送信I/F5から中継ネットワークNWの通信プロトコルに従い、受信側の無瞬断装置RXに向け送信される。
【0055】
(2)無瞬断装置RXの受信機20の動作
図6は、無瞬断装置RXの受信機20による制御手順と制御内容を示すフローチャートである。
【0056】
(2-1)受信パケット列の受信およびパケットの分離
無瞬断装置RXにおいて受信機20は、ステップS201において受信パケット列PRの受信を監視している。この状態で、受信I/F6によりパケットグループを構成する受信パケット列PRが受信されると、受信機20は先ずステップS202において、送信順情報削除部201により上記受信パケット列PRの各パケットのヘッダから送信順情報を削除する。
【0057】
受信機20は、次にステップS203において、パケット識別部202により、上記受信パケット列PRに含まれる各パケットが、元パケット、複製パケットおよび符号化パケットのいずれであるかを識別して分離する。識別方法としては、例えば、パケットのヘッダまたはペイロードの特定の領域にパケット種別判定領域を設け、送信機10側でこのパケット種別判定領域にパケット種別を表すビット列を挿入して送信し、受信機20の上記パケット識別部202により上記ビット列を抽出し解読することでパケットの種類を識別する方法が用いられる。
【0058】
受信機20は、ステップS204において、上記パケット識別部202による識別結果に基づいて、元パケットPA1を元パケットFIFOキュー203に、符号化パケットPCを符号化パケットFIFOキュー205に、複製パケットを複製パケットFIFOキュー204にそれぞれ入力し保存させる。
【0059】
(2-2)符号化パケットの復号
受信機20は、ステップS205において、符号化パケットPCの復号が可能になったか否かを判定する。この状態で、符号化パケットFIFOキュー205に符号化パケットPCが保存されると、受信機20はステップS206において、パケット演算部206により以下のようにパケットの復号のためのパケット演算処理を行う。
【0060】
すなわち、パケット演算部206は、上記符号化パケットFIFOキュー205に保存された符号化パケットPCを先頭のパケットから順に読み出す。またそれと並行して、元パケットFIFOキュー203または複製パケットFIFOキュー204から、上記読み出された符号化パケットPCと入力順情報が対応する元パケットまたは複製パケットを順に読み出す。そして、読み出されたパケット同士で復号のためのパケット演算を行い、これにより元パケットまたは複製パケットを復号する。
【0061】
この結果、例えば
図8に示すように、符号化パケットPC、元パケットPA1および複製パケットPB2が受信された場合には、このうちの例えば元パケットPA1と符号化パケットPCとをもとにパケット演算が行われ、複製パケットPB2に相当するパケットPDが復号される。
【0062】
なお、
図8の場合のように、中継ネットワークNWにおいて瞬断が発生せず、元パケットPA1および複製パケットPB2がいずれも受信された場合には、上記復号処理を省略するようにしてもよい。このようにすると、受信機20の処理負荷を軽減して伝送遅延を減らすことが可能となる。
【0063】
一方、例えば
図9に示すように、受信パケット列PRの元パケットPA1が中継ネットワークNWの瞬断により受信されなかったとする。この場合パケット演算部206では、受信された上記複製パケットPB2と符号化パケットPCとをもとにパケット演算が行われ、元パケットPA1に相当するパケットPDが復号される。
【0064】
なお、受信パケット列PRの複製パケットPB2が受信されなかった場合にも、同様に、受信された元パケットPA1と符号化パケットPCとをもとに、複製パケットPB2に相当するパケットPDが復号される。
【0065】
受信機20は、ステップS207において、受信パケット転送制御部209の制御の下、元パケットFIFOキュー203、複製パケットFIFOキュー204およびパケット演算部206から、元パケット、複製パケットおよび復号パケットを入力順情報に従い読み出して受信FIFOキュー207に入力し保存させる。
【0066】
(2-3)受信パケットの出力
受信機20は、ステップS208において、上記受信FIFOキュー207から、復元されたパケットPDを含む受信パケット列を順次読み出す。そして、ステップS209において、入力順情報削除部208により上記読み出された各パケットのヘッダから入力順情報を削除する。この入力順情報が削除されたパケット列PAは、送信先のユーザ装置U2へ送出される。
【0067】
上記一つのパケットグループの受信復号処理が終了すると、受信機20はステップS210において、パケット列PRの受信が終了したか否かを判定する。そして、受信パケット列PRの受信が続いている場合には、ステップS202に戻って上記(2-1)~(2-3)の処理を繰り返す。一方、受信パケットPRの受信が終了した場合には、動作を終了してステップS201による待受状態に戻る。
【0068】
(効果)
以上述べたように一実施形態では、送信側となる無瞬断装置TXにおいて、送信機10により、入力された送信パケット列PAをもとに複数のパケットPA1,PA2を含むパケットグループを生成する。このパケットグループの長さは、中継ネットワークNWで過去に発生した瞬断時間の最大値を下回らない長さに設定される。そして送信機10は、上記パケットグループ毎に、当該グループに含まれるパケットPA1,PA2に対応する複製パケットPB1,PB2を生成して、この複製パケットの一部PB1と、元パケットの他の一部PA2とに基づいて符号化パケットPCを生成し、上記元パケットの一部PA1、複製パケットの他の一部PB2および符号化パケットPCを中継ネットワークNWへ送信する。一方、受信側となる無瞬断装置RXの受信機20では、上記元パケットPA1、複製パケットPB2および符号化パケットPCを受信した場合に、符号化パケットPCと、上記元パケットPA1および複製パケットPB2のいずれか一方とに基づいて、上記複製パケットPB2または元パケットPA1を復号するようにしている。
【0069】
従って、中継ネットワークNWにおいて瞬断が発生し、元パケットPA1または複製パケットPB2のいずれか一方が受信されなかったとしても、この受信されなかったパケットを符号化パケットPCをもとに復元することが可能となる。
【0070】
すなわち、一実施形態によれば、例えば
図12に示すように元パケットPA1、複製パケットPB2および符号化パケットPCからなる3つのパケット群(いずれもパケットをn/2個含む)を伝送するだけで、瞬断時間がパケットグループの長さ未満であれば、無瞬断のパケット伝送を実現できる。ちなみに、従来のシステムでは、例えば
図13に示すようにパケット群PA1,PA2が2系統の通信経路により伝送されるので、4個のパケット群が伝送されることになり、ネットワーク負荷の増加を招く。
【0071】
また一実施形態によれば、符号パケットの生成に使用する符号化方式は線形符号を使用した比較的簡易な符号化方式であるため、例えば従来の映像データの伝送に使用する複雑な符号化方式を使用する場合に比べ、無瞬断装置の処理負荷を低く抑えることができる。
【0072】
[変形例]
(1)前記一実施形態では、ユーザ装置U1から各パケットの長さが固定されたパケット列が送られる場合を例にとって説明した。これに対し、ユーザ装置U1から送られるパケット列の各パケットの長さが可変長の場合も考えられる。この場合には、無瞬断装置TXの送信機10の前段にパケット長調整部を配置し、パケット長調整部によりパケット列の各パケットの長さが等しくなるようにパケット長を調整する。パケット長の調整方法としては、例えば、パケット毎に、その長さに応じて当該パケットの長さが予め設定された一定長となるようにパディングを加える方法を使用することができる。このようにパケット長を一定にすることで、一実施形態のようにパケット演算部106において線形符号を用いてパケットの符号化演算を行う場合にも、この発明を実施することが可能となる。
【0073】
(2)前記一実施形態では、元パケットと、この元パケットから生成した1つの複製パケットとから符号化パケットを生成し、生成された符号化パケットを上記元パケットの一部および複製パケットの他の一部と共に送信する場合を例にとって説明した。しかし、この発明はそれに限らず、元パケットから複数の複製パケットを生成し、生成された複数の複製パケットと元パケットとに基づいて複数(例えば2個)の符号化パケットを生成し、生成された複数の符号化パケットを上記元パケットの一部および複製パケットの他の一部と共に送信するようにしてもよい。このようにすると、符号化パケットの一つと元パケットの一部または複製パケットの他の一部が中継ネットワークの瞬断により受信側の無瞬断装置RXで受信できなかったとしても、元パケットのすべてを再現することが可能となる。
【0074】
(3)その他、無瞬断装置の構成や処理手順および処理内容、グループの長さ、符号化パケットを生成する際の符号化方式、送信パケットを生成する際の元パケット、複製パケットおよび符号化パケットの送信順序、中継ネットワークの種類等については、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。
【0075】
すなわち、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。
【符号の説明】
【0076】
TX…送信側の無瞬断装置
RX…受信側の無瞬断装置
U1,U2…ユーザ装置
NW…中継ネットワーク
1…制御部
2…プログラム記憶部
3…送信用パケット記憶部
4…受信用パケット記憶部
5…送信インタフェース部(送信I/F)
6…受信インタフェース部(受信I/F)
7…バス
10…送信機
20…受信機
101…入力順情報付与部
102…符号グループ制御部
103…パケット複製部
104…元パケットFIFOキュー
105…複製パケットFIFOキュー
106パケット演算部
107…符号元情報付与部
108…符号化パケットFIFOキュー
109…送信FIFOキュー
110…送信順情報付与部
111…送信パケット転送制御部
201…送信順情報削除部
202…パケット識別部
203…元パケットFIFOキュー
204…複製パケットFIFOキュー
205…符号化パケットFIFOキュー
206…パケット演算部
207…受信FIFOキュー
208…入力順情報削除部
209…受信パケット転送制御部