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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】中継局選択方法および中継局選択装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/02 20090101AFI20231219BHJP
   H04W 16/26 20090101ALI20231219BHJP
【FI】
H04W24/02
H04W16/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022531259
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024368
(87)【国際公開番号】W WO2021260767
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 陸
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-056652(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02180741(EP,A1)
【文献】大宮 陸, 村上 友規, 石原 浩一, 林 崇文, 鷹取 泰司,周波数共用のための全二重中継機の組合せ選択による干渉抑制法,電子情報通信学会2019年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2019 IEICE COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE,2019年08月27日,p.268
【文献】大宮 陸, 村上 友規,岩渕 匡史, 小川 智明, 鷹取 泰司,パッシブリピータの組合せ選択による干渉抑制法の実験評価,電子情報通信学会2020年総合大会講演論文集 通信1 PROCEEDINGS OF THE 2020 IEICE GENERAL CONFERENCE,2020年03月03日,p.388
【文献】大宮陸, 村上友規, 岩渕匡史, 西野正彬, 小川智明, 鷹取泰司,整数計画法を用いた中継器組合せ問題の最適化 Optimization of repeater combinations using integer programming,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.120 No.89 [online] IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第120巻,pp.31-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼働状態と非稼働状態とを切り替えることのできる複数の中継局から、稼働状態とする中継局の最適な組合せを選択するための中継局選択方法であって、
前記複数の中継局の夫々を介して送信局と一次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第1特性を取得するステップと、
前記複数の中継局の夫々を介して送信局と二次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第2特性を取得するステップと、
前記第1特性を特定する第1特性値および前記第2特性を特定する第2特性値を係数として含み、前記中継局の夫々を稼働状態と扱うか非稼働状態と扱うかを1または0で表す状態パラメータを含み、前記送信局と前記二次利用局との間の通信容量を最大化する前記状態パラメータの組合せを最適解とする目的関数に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、
前記第1特性値および前記第2特性値を係数として含み、前記状態パラメータを含み、前記一次利用局が受ける干渉レベルを許容値以下にすることを求める制約条件に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、
前記第1特性および前記第2特性が当てはめられた前記目的関数および前記制約条件で定数化された0-1整数計画問題を計算機で解くことにより、稼働状態とすべき中継局の最適な組合せを求めるステップと、を含み、
前記目的関数は次式で表され、
【数1】
前記制約条件は次式で表され、
【数2】
中継局iに対応する前記第1特性は次式で表され、
【数3】
中継局iに対応する前記第2特性は次式で表され、
【数4】
中継局iに対応する前記状態パラメータが上記式中のS Ri であり、
中継局iに対応する前記第1特性値が上記式中のa Pi およびb Pi であり、
中継局iに対応する前記第2特性値が上記式中のa Di およびb Di である
継局選択方法。
【請求項2】
前記第1特性値を取得するステップは、
前記送信局から信号を送信するステップと、
前記複数の中継局を一つずつ稼働状態としながら前記一次利用局で信号を受信するステップと、
前記一次利用局で受信された信号と、前記送信局から送信された信号との差異に基づいて、当該信号を中継した中継局に対応する第1特性値を計算するステップと、を含み、
前記第2特性値を取得するステップは、
前記送信局から信号を送信するステップと、
前記複数の中継局を一つずつ稼働状態としながら前記二次利用局で信号を受信するステップと、
前記二次利用局で受信された信号と、前記送信局から送信された信号との差異に基づいて、当該信号を中継した中継局に対応する第2特性値を計算するステップと、を含む
請求項1に記載の中継局選択方法。
【請求項3】
前記計算機は、0-1整数計画問題を解くことができるソルバーである請求項1または2に記載の中継局選択方法。
【請求項4】
稼働状態と非稼働状態とを切り替えることのできる複数の中継局から、稼働状態とする中継局の最適な組合せを選択するための中継局選択装置であって、
前記複数の中継局の夫々を介して送信局と一次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第1特性を取得する処理と、
前記複数の中継局の夫々を介して、送信局と二次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第2特性を取得する処理と、
前記第1特性を特定する第1特性値および前記第2特性を特定する第2特性値を係数として含み、前記中継局の夫々を稼働状態と扱うか非稼働状態と扱うかを1または0で表す状態パラメータを含み、前記送信局と前記二次利用局との間の通信容量を最大化する前記状態パラメータの組合せを最適解とする目的関数に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめる処理と、
前記第1特性値および前記第2特性値を係数として含み、前記状態パラメータを含み、前記一次利用局が受ける干渉レベルを許容値以下にすることを求める制約条件に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、
前記第1特性および前記第2特性が当てはめられた前記目的関数および前記制約条件で定数化された0-1整数計画問題を計算機で解くことにより、稼働状態とすべき中継局の最適な組合せを求める処理と、を実行する処理装置を備え
前記目的関数は次式で表され、
【数5】
前記制約条件は次式で表され、
【数6】
中継局iに対応する前記第1特性は次式で表され、
【数7】
中継局iに対応する前記第2特性は次式で表され、
【数8】
中継局iに対応する前記状態パラメータが上記式中のSRiであり、
中継局iに対応する前記第1特性値が上記式中のaPiおよびbPiであり、
中継局iに対応する前記第2特性値が上記式中のaDiおよびbDiである
継局選択装置。
【請求項5】
前記第1特性値を取得する処理は、
前記送信局から信号を送信させる処理と、
前記複数の中継局を一つずつ稼働状態としながら前記一次利用局で信号を受信させる処理と、
前記一次利用局で受信された信号と、前記送信局から送信された信号との差異に基づいて、当該信号を中継した中継局に対応する第1特性値を計算する処理と、を含み、
前記第2特性値を取得する処理は、
前記送信局から信号を送信させる処理と、
前記複数の中継局を一つずつ稼働状態としながら前記二次利用局で信号を受信させる処理と、
前記二次利用局で受信された信号と、前記送信局から送信された信号との差異に基づいて、当該信号を中継した中継局に対応する第2特性値を計算する処理と、を含む
請求項に記載の中継局選択装置。
【請求項6】
前記計算機は、0-1整数計画問題を解くことができるソルバーである請求項4または5に記載の中継局選択装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、中継局選択方法および中継局選択装置に係り、特に、無線通信システムに含まれる複数のパッシブ中継局の中から最適な組み合わせを選択するうえで好適な中継局選択方法および中継局選択装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、複数の中継局R1~Rnを含む無線通信システムが開示されている。このシステムは、中継局R1~Rnに加えて、送信局Txと受信局Rxと被干渉局Ixを含んでいる。ここでは、具体的には、送信局Txから受信局Rxへ信号を送る際に、被干渉局Ixに対すり干渉電力が最小となるように、中継局R1~Rnの組み合わせを選択する手法が開示されている。
【0003】
中継局がn台存在する場合、少なくとも1台の中継局が稼働する組み合わせは2-1組存在する。非特許文献1では、それら2-1組の全てについて、被干渉局Ixが受ける干渉電力と、受信局Rxについて確保される伝送容量とを計算して、その結果に基づいて最適な組み合わせを選択することが提案されている。そして、非特許文献1には、10台程度の中継局を配置すれば、被干渉局Ixが受ける干渉電力をノイズレベルに抑えつつ、受信局Rxについて十分な伝送容量が確保できることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】周波数共用のための全二重中継局の組み合わせ選択による干渉抑制法、大宮陸、村上友規、石原浩一、林崇文、鷹取泰司、電子情報通信学会、2019年ソサイエティ大会講演論文集、B-5-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送信局Txと受信局Rxとの間で稼働させる中継局の組み合わせは、中継局の数nが増加するのに伴って指数関数的に増加する。このため、全ての組み合わせについて干渉電力と伝送容量とを計算する従来の手法では、最適な組み合わせの探索に要する時間が多大となる。
【0006】
この開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、被干渉局Ixである一次利用局への干渉レベルを抑えつつ受信局Rxである二次利用局への伝送容量を確保する組み合わせの探索を、0-1整数計画問題として定式化することで、最適解の探索に要する計算負荷を軽減することのできる中継局選択方法を提供することを第1の目的とする。
また、この開示は、上記の中継局選択方法を用いて中継局の最適な組み合わせを決定することのできる中継局選択装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、稼働状態と非稼働状態とを切り替えることのできる複数の中継局から、稼働状態とする中継局の最適な組合せを選択するための中継局選択方法であって、前記複数の中継局の夫々を介して送信局と一次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第1特性を取得するステップと、前記複数の中継局の夫々を介して送信局と二次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第2特性を取得するステップと、前記第1特性を特定する第1特性値および前記第2特性を特定する第2特性値を係数として含み、前記中継局の夫々を稼働状態と扱うか非稼働状態と扱うかを1または0で表す状態パラメータを含み、前記送信局と前記二次利用局との間の通信容量を最大化する前記状態パラメータの組合せを最適解とする目的関数に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、前記第1特性値および前記第2特性値を係数として含み、前記状態パラメータを含み、前記一次利用局が受ける干渉レベルを許容値以下にすることを求める制約条件に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、前記第1特性および前記第2特性が当てはめられた前記目的関数および前記制約条件で定数化された0-1整数計画問題を計算機で解くことにより、稼働状態とすべき中継局の最適な組合せを求めるステップと、を含むことが望ましい。
【0008】
また、本開示の第2の態様は、稼働状態と非稼働状態とを切り替えることのできる複数の中継局から、稼働状態とする中継局の最適な組合せを選択するための中継局選択装置であって、前記複数の中継局の夫々を介して送信局と一次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第1特性を取得する処理と、前記複数の中継局の夫々を介して送信局と二次利用局との間に形成される無線信号の伝搬チャネルを表す第2特性を取得する処理と、前記第1特性を特定する第1特性値および前記第2特性を特定する第2特性値を係数として含み、前記中継局の夫々を稼働状態と扱うか非稼働状態と扱うかを1または0で表す状態パラメータを含み、前記送信局と前記二次利用局との間の通信容量を最大化する前記状態パラメータの組合せを最適解とする目的関数に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめる処理と、前記第1特性値および前記第2特性値を係数として含み、前記状態パラメータを含み、前記一次利用局が受ける干渉レベルを許容値以下にすることを求める制約条件に、前記伝搬チャネルの特性を当てはめるステップと、前記第1特性および前記第2特性が当てはめられた前記目的関数および前記制約条件で定数化された0-1整数計画問題を計算機で解くことにより、稼働状態とすべき中継局の最適な組合せを求める処理と、を実行する処理装置を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の態様によれば、送信局と二次利用局との間に配置される複数の中継局のうち、稼働状態とする中継局の最適な組合せを求めることができる。また、本態様によれば、その最適な組合せを、一次利用局が受ける干渉レベルを許容値以下にしつつ送信局と二次利用局との間の通信容量を最大化することを定式化した0-1整数計画問題を解くことで得ることができる。0-1整数計画問題は、全ての組合せについて総当たりで計算を進める場合に比して、より軽い計算負荷軽で解くことができる。このため、本態様によれば、中継局の数が多大であっても、一次利用局と二次利用局の双方にとっての最適な中継局の組合せを、過大な計算負荷を伴わずに選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成を示す図である。
図2図1に示す送信局が備える中継局選択装置のブロック図である。
図3図1に示す無線通信システムに含まれる伝搬チャネルを説明するための図である。
図4図1に示す送信局で実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成を示す。図1に示す無線通信システムは、送信局(T)10、中継局(Ri:i=1~n)12、一次利用局(P)14および二次利用局(D)16を含んでいる。以下、添え字T、Ri、PおよびDは、夫々、送信局10、中継局12、一次利用局14および二次利用局16に関わることを表すものとする。
【0012】
一次利用局14は、二次利用局16が設置される以前から存在していた無線局である。二次利用局16は、モバイル端末の普及に伴って増大したトラフィック量を確保するために増設された無線局である。二次利用局16を利用するにあたっては、既存の一次利用局14に対する干渉レベルを十分に抑制しながら、送信局10と二次利用局16との間に十分に大きな伝送容量を確保する必要がある。
【0013】
中継局12には、複数の中継局Ri(i=1~n)が含まれている。中継局Riは、外部からの指令に応じて稼働状態と非稼働状態を切り替えることができる。本実施形態では、中継局Riは、復調や増幅を行うことなく反射により信号を伝送するパッシブ中継局であるものとする。
【0014】
送信局10と中継局Riとの間には、伝搬チャネル18iが形成される。同様に、中継局Riと一次利用局14との間には伝搬チャネル20iが形成される。更に、中継局Riと二次利用局16との間には、伝搬チャネル22iが形成される。それらの伝搬チャネル18i、20i、22iは、中継局Riが稼働状態であれば信号の伝送路となり、中継局Riが非稼働状態であれば遮断された状態となる。
【0015】
図2は、図1に示す送信局10に含まれる中継局選択装置のブロック図を示す。中継局選択装置は、入出力のインターフェース、演算処理ユニット、記憶装置等のハードウェアを備えている。中継局選択装置は、そのハードウェアが、後述する機能を実現するためのソフトウェアと組み合わされることにより実現されている。
【0016】
図2に示すように、中継局選択装置はチャネル状態記憶部30を備えている。チャネル状態記憶部30には、送信局10と一次利用局14との間に形成される伝搬チャネル18iおよび20iの特性、並びに送信局10と二次利用局16との間に形成される伝搬チャネル18iおよび22iの特性が格納される。
【0017】
中継局選択装置は、また、許容干渉量記憶部32を備えている。許容干渉量記憶部32には、一次利用局14が受ける干渉レベルの許容値が格納される。チャネル状態記憶部30に格納されている情報と、許容干渉量記憶部32に格納されている情報は、何れも組合せ計算部34に提供される。
【0018】
組合せ計算部34は、ソルバーと呼ばれる計算プログラムにより実現されている。より具体的には、0-1整数計画問題を解くことのできるソルバーにより実現されている。本実施形態では、例えば、汎用のソルバーとして知られているSCIPにより組合せ計算部34が実現されている。組合せ計算部34は、チャネル状態記憶部30と許容干渉量記憶部32から提供された情報に基づき、稼働状態とするべき中継局Riの組み合わせを最適解として求める。ここで、最適解とは、一次利用局14に対する干渉レベルを許容値以下に抑えつつ、二次利用局16に関する伝送容量を最大にする中継局Riの組み合わせである。
【0019】
組合せ計算部34によって計算された最適解は、組合せ記憶部36に格納される。送信局10は、その最適解を中継局Riに送信する。中継局Riは、これを受けて、最適解が示す通りの組合せで稼働状態となる。その結果、無線通信システムは、一次利用局14に対する干渉レベルを許容値以下に抑えつつ、二次利用局16に関する伝送容量が最大化する状態となる。
【0020】
[中継局Ri選択の原理]
図3は、本実施形態の無線通信システムに含まれる伝搬チャネルの特性を説明するための図である。図3に示すように、送信局10と中継局Riとの間の伝搬チャネル18iの特性は行列hTRiで表すことができる。また、中継局Riと一次利用局14との間の伝搬チャネル20iの特性は、行列hRiPで表すことができる。そして、送信局10から中継局Riを経由して一次利用局14に至る伝搬チャネルの特性hTRiPは、それらhTRiとhRiPの掛け算で表される。
【0021】
更に、中継局Riを経由して一次利用局14に至る伝搬チャネルhTRiPは、送信局10から発せられる信号xに振幅の変化と位相の変化を与える。そのため、その特性hTRiPは、複素数aPi+jbPiで表すことができる。以下に示す式(1)は、これらの関係を示している。
【数1】
【0022】
同様に、送信局10から中継局Riを経由して二次利用局16に至る伝搬チャネルhTRiDの特性は、次式のように表すことができる。但し、次式に示すhRiDは、中継局Riと二次利用局16との間の伝搬チャネル22iの特性を表している。
【数2】
【0023】
但し、上記(1)式および(2)式において、aPi、bPi、aDiおよびbDiは実数であり、jは虚数単位である。
【0024】
複数の中継局Riが選択されて稼働状態にある場合、一次利用局14に通じる伝搬チャネルは、選択された中継局Riを経由するチャネルの合計で表すことができる。二次利用局16に通じる伝搬チャネルについても同様である。このため、一次利用局14で受信される信号yPおよび二次利用局16で受信される信号yDは、以下のように表すことができる。
【数3】
【0025】
但し、npおよびndはノイズである。また、hRP、hRDおよびhTRは、夫々下記の行列を表している。
【数4】

【数5】

【数6】
【0026】
更に、上記(3)式中のSは、中継局Riの選択状態を信号yPおよびyDに反映させるための行列である。行列Sは以下のように表すことができる。ここで、SRi(i=1~n)は、中継局Riが選択されている場合は「1」、非選択の場合は「0」となる状態パラメータである。
【数7】
【0027】
上記(3)式は、xの係数をhP、hDとすると、以下のように書き換えることができる。
【数8】
【0028】
また、hP、hDは、上記(1)式および(2)式の関係を用いると以下のように表すことができる。
【数9】

【数10】
【0029】
そして、一次利用局14における干渉レベルINR(Interference to Noise Ratio)は、SNR(Signal to Noise Ratio)をγとすると、以下のように表すことができる。
【数11】
【0030】
一方、送信局10と二次利用局16との間の通信容量CDは、次式のように表すことができる。
【数12】
【0031】
本実施形態では、以下の2点を目的として中継局Riの組合せを探索している。
1.二次利用局16の通信容量CDを最大化する。
2.一次利用局14における干渉レベルINRを許容値以下に抑える。
これらの目的は、夫々次式により表すことができる。
【数13】

【数14】
【0032】
但し、(14)式中のVは、一次利用局14における干渉レベルINRの許容値である。
【0033】
上記の通り、本実施形態で解きたい最適化問題は、目的関数の(13)式、および制約条件の(14)式が共に二次関数であり、状態パラメータSRiが0または1の整数を採る形式で表すことができるため、非線形0-1整数計画問題である。そして、非線形0-1整数計画問題は、NP困難であり、全ての組合せについて総当たりで計算を進める手法によれば、変数の増加に伴って計算時間が指数関数的に増大する問題として知られている。
【0034】
一方で、定式化された最適化問題は、既知のアルゴリズムを用いて、総当たりの計算を実行することなく解けることが知られている。特に、そのような最適化問題は、ソルバーと呼ばれる既存のプログラムに定式を与えることで、最適値と最適解が得られることが知られている。
【0035】
そこで、本実施形態では、汎用ソルバーとして知られているSCIPに、上記(13)式および(14)式を与えて、最適な中継局Riの組合せ(最適解)と、それにより得られる通信容量CD(最適値)とを求めることとした。尚、SCIPは、汎用ソルバーの中では比較的高速なものであり、https//scip.zib.de/.にて利用することができる。
【0036】
[送信局が実行する具体的処理]
次に、図4を参照して、本実施形態において送信局10が実行する処理の内容について説明する。図4は、中継局Riの稼働状態を制御するために送信局10が実行する処理のフローチャートである。送信局10は、このフローチャートに沿って処理を進めることにより、一次利用局14の干渉レベルを許容値に収めつつ、二次利用局16の通信容量を最大化する状態を実現する。
【0037】
図4に示すルーチンでは、先ず、中継局Riの組合せを更新するタイミングが到来したか否かが判別される(ステップ100)。最適な中継局Riの組合せは、中継局Riの周囲における人や車両の動きに応じて変化する。このため、本実施形態では、稼働状態とする中継局Riの組合せを定期的に更新することとしている。
【0038】
更新タイミングの到来が認められると、伝搬チャネルの状態計測が行われる(ステップ102)。具体的には、ここでは、全ての中継局Riについて、上記(1)式および(2)式に示すaPi、bPi、aDiおよびbDiが計測される。この計測は、例えば、以下の手順により計測することができる。
1.中継局Riの一つだけを稼働状態とする。
2.送信局10から信号xを送信する。
3.一次利用局14で受信された信号x´からaPi、bPiを計算する。
4.二次利用局16で受信された信号x´からaDi、bDiを計算する。
5.全ての中継局Riについて上記の処理が終わるまで、稼働状態とする中継局Riを切り替えて上記1~4の処理を繰り返す。
【0039】
上記の処理が終わると、計測されたチャネルの状態がチャネル状態記憶部30に記憶される(ステップ104)。
【0040】
次に、0-1整数計画問題の定式化が行われる(ステップ106)。具体的には、上記(13)式に示す目的関数と上記(14)式に示す制約条件、並びにチャネル状態記憶部30に記憶されている実数aPi、bPi、aDiおよびbDiがソルバーにロードされる。
【0041】
次いで、ソルバーによる最適解と最適値の計算が実行される(ステップ108)。その結果、一次利用局14の干渉レベルを許容値以下に抑え、かつ、二次利用局16の通信容量を最大とする中継局Riの組合せが最適解として求められる。また、その組合せによって得られる通信容量が最適値として求められる。
【0042】
上記の処理が終わると、最適解として計算された中継局Riの組合せが、組合せ記憶部36に記憶される(ステップ110)。
【0043】
次いで、最適解とされた組合せが実現されるように、中継局Riに対する制御信号が発せられる(ステップ112)。中継局Riが、この信号を受けて稼働・非稼働状態を切り替えることにより、干渉レベルの抑制と、通信容量の最大化とが実現される。
【0044】
以上説明した通り、本実施形態の無線通信システムによれば、定式化された0-1整数計画問題を解くことで、総当たりの計算をすることなく中継局Riの最適な組み合わを求めることができる。このため、本実施形態によれば、中継局Riの数nが多大となる無線通信システムにおいても、過大な計算負荷を発生させることなく、一次利用局14と二次利用局16の双方で良好な通信状態を実現することができる。
【0045】
[実施の形態1の変形例]
ところで、上述した実施の形態1では、0-1整数計画問題を解くツールをソルバーに限定しているが、本発明はこれに限定されるものではない。定式化された整数計画問題を解くツールは、上記(13)式および(14)式を与えることで最適解を導くことができるものであれば足り、汎用のコンピュータと専用のプログラムとの組合せで実現することとしてもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態1では、伝搬チャネルの特性を表す実数aPi、bPi、aDiおよびbDiを、一次利用局14および二次利用局16で夫々受信された信号x´に基づいて計算することとしている。しかしながら、その計算の手法はこれに限定されるものではない。例えば、送信局10と中継局Riとの間の特性であるhTRiは、送信局10が発する信号と中継局Riが受信する信号との相違に基づいて計算することができる。また、中継局Riと一次利用局14との特性であるhRiPは、中継局Riが発する信号と一次利用局14が受信する信号との相違に基づいて計算することができる。そして、実数aPiおよびbPiは、そのようにして求めたhTRiとhRiPの積から求めることとしてもよい。二次利用局16側の特性である実数aDiおよびbDiについても同様である。
【符号の説明】
【0047】
10、T 送信局
12、Ri 中継局
14、P 一次利用局
16、D 二次利用局
30 チャネル状態記憶部
32 許容干渉量記憶部
34 組合せ計算部
36 組合せ記憶部
図1
図2
図3
図4