IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図1
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図2
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図3
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図4
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図5
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図6
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図7
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図8
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図9
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図10
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図11
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図12
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図13
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図14
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図15
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図16
  • 特許-磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/493 20060101AFI20231219BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231219BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231219BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20231219BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H02K3/493
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F3/02 K
C22C38/00 303S
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023518711
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2022037524
(87)【国際公開番号】W WO2023058736
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021165974
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022036710
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022101297
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
(72)【発明者】
【氏名】菊地 慶子
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-116852(JP,U)
【文献】特開2004-201446(JP,A)
【文献】特開2021-143424(JP,A)
【文献】実開昭58-105754(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/493
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、
前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、
前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は、長手方向の先端である角部にアールが施された長方形、平行四辺形または直角台形であること
を特徴とする磁性楔。
【請求項2】
複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項3】
前記軟磁性粒子はFe基軟磁性粒子であり、
前記Fe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、
前記電気絶縁性の物質は、前記元素Mを含む酸化物相であり、
前記Fe基軟磁性粒子が前記酸化物相で結着されていることを特徴とする請求項2に記載の磁性楔。
【請求項4】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の磁性楔。
【請求項5】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることを特徴とする請求項4に記載の磁性楔。
【請求項6】
前記幅が、前記磁性楔の厚さ方向に異なる形状を有し、
かつ、前記磁性楔の長手方向から見た断面形状が直線部と傾斜部を滑らかに接続した形状を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の磁性楔。
【請求項7】
複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、
隣り合う前記ティースの先端の間に請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁性楔が嵌装された回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子と軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機。
【請求項8】
複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、
隣り合う前記ティースの先端の間に請求項6に記載の磁性楔が嵌装された回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子と軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機。
【請求項9】
回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、
前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、 軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、
当該プレス成形工程において、長手方向の先端である角部にアールが施された長方形、平行四辺形または直角台形の開口部を有する金型と、
前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用すること
を特徴とする磁性楔の製造方法。
【請求項10】
複数の前記軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むことを特徴とする請求項9に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項11】
前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、
前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程
を有する請求項10に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項12】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種である請求項11に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項13】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子である請求項11に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項14】
前記パンチは、上パンチおよび下パンチであり、
前記上パンチおよび下パンチが、
前記磁性楔の厚さ方向の中心線に対して非対称、かつ、前記磁性楔の長手方向に垂直な断面の形状が直線部と傾斜部を滑らかに接続した形状であるパンチ面を有することを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の磁性楔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の磁気回路に用いられる磁性楔、及び回転電機、並びにかかる磁性楔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なラジアルギャップ型回転電機では、固定子と回転子とを同軸にして配し、回転子周りの固定子に、コイルを巻き回した複数のティースを、周方向等間隔に配している。また、ティースの回転子側先端には、隣り合うティースの先端を接続するよう、磁性楔を配することがある。なお、この場合、磁性楔は、コイル部品等とは異なり、磁性楔自体にはコイルを巻き回さずに用いられる。
【0003】
このような磁性楔を配することで、回転子からコイルに到達する磁束を磁気シールドでき、コイルの渦電流損失を抑制することができる。また、磁性楔を配することで、固定子と回転子との間のギャップ内磁束分布(特に周方向の磁束分布)をなだらかにし、回転子の回転を滑らかにすることができる。このように、磁性楔を配することで、高効率・高性能な回転電機を得ることができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、従来の磁性楔としては、鉄粉などの強磁性粉末と熱硬化性樹脂からなるコンポジット材が知られている。この磁性楔の製造方法は、強磁性粉末と熱硬化性樹脂を混練してペースト状にした後、これを磁性楔の厚さ方向に圧縮成形しつつ熱硬化させてシート状の母材をまずは作製し、機械加工にて磁性楔として必要な寸法、形状に加工するというものである。
【0005】
このような従来の磁性楔は、通常、細長い直方体(短冊形状)か、さらには長さ方向に垂直な断面が台形型や凸型となるような機械加工が施され、ティース先端部に設けられた溝等に、磁性楔の長さ方向に挿入されて嵌合固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-27745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように従来の磁性楔は、機械加工仕上げであるため、その端面は通常エッジの立った角張った形状をしている。このような状態で磁性楔をティース先端部の溝などに挿入すると、角部が削れて磁性楔にダメージが生じるほか、鉄粉などが飛散してコンタミの原因となるという課題があった。さらに、挿入時に磁性楔の角部が引っかかって磁性楔がたわんでしまい挿入が困難になるほか、最悪の場合、折損するという課題もあった。
【0008】
本発明は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は、角部にアールが施された長方形、平行四辺形または直角台形である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は、長方形、平行四辺形または直角台形であり、かつ、前記長方形、前記平行四辺形または前記直角台形の角部にアールが施された形状である。
【0010】
また、前記磁性楔は、複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むことが好ましい。
【0011】
また、前記軟磁性粒子はFe基軟磁性粒子であり、前記Fe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、前記電気絶縁性の物質は、前記元素Mを含む酸化物相であり、前記Fe基軟磁性粒子が前記酸化物相で結着されていることが好ましい。
【0012】
また、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
また、前記磁性楔において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記磁性楔において、前記幅が、前記磁性楔の厚さ方向に異なる形状を有し、かつ、前記磁性楔の長手方向から見た断面形状が直線部と傾斜部を滑らかに接続した形状を有することが好ましい。
【0015】
本発明の回転電機は、複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、隣り合うティースの先端の間に前記いずれかの磁性楔が嵌装された回転電機用固定子と、軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機であることを特徴とする。
【0016】
本発明の磁性楔の製造方法は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、当該プレス成形工程において、長手方向の先端である角部にアールが施された長方形、平行四辺形または直角台形の開口部を有する金型と、前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用する。
【0017】
また、前記磁性楔の製造方法において、複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むことが好ましい。
【0018】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程 を有することが好ましい。
【0019】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0020】
さらに、前記磁性楔の製造方法において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【0021】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記パンチは、上パンチおよび下パンチであり、前記上パンチおよび下パンチが、前記磁性楔の厚さ方向の中心線に対して非対称、かつ、前記磁性楔の長手方向に垂直な断面の形状が直線部と傾斜部を滑らかに接続した形状であるパンチ面を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ティース部への取り付けが容易な磁性楔を得ることできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態である磁性楔の形状を示す斜視図および断面図である。
図2】ラジアルギャップ型回転電機における、第1実施形態の磁性楔の取付形態を示す模式図である。
図3】本発明の第1実施形態である磁性楔の成形方法を示す模式図である。
図4】本発明の第2実施形態である磁性楔の形状を示す斜視図および断面図である。
図5】第2実施形態の磁性楔の取付形態を示すティース先端部付近の断面模式図である。
図6】本発明の第2実施形態である磁性楔の成形方法を示す模式図である。
図7】本発明の実施例の成形に使用した下パンチの形状を示す断面図である。
図8】本発明の実施例の外観写真である。
図9】部分モデルの模式図である。
図10】実施例と比較例の外観写真である。
図11】実施例と比較例の押し込み力を比較したグラフである。
図12】本発明の実施例の直流磁化曲線(B-H曲線)である。
図13】電磁界解析に使用した回転電機のモデル図である。
図14】本発明の第3実施形態である磁性楔の形状を示す断面図である。
図15】本発明の第3実施形態の別の一例を示す断面図である。
図16】複数の第3実施形態の磁性楔を縦列に挿入する際の取付様態を示す断面図である。
図17】本発明の第4実施形態の一例を示す回転電機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明がかかる実施形態に限定されるものではない。また、重複する部分は説明を省略する。
【0025】
本発明の実施形態は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は、長方形、平行四辺形または直角台形であり、かつ、前記長方形、前記平行四辺形または前記直角台形の角部にアールが施された形状であることを特徴とする磁性楔である。つまり、本発明の実施形態である磁性楔では、磁性楔の幅方向に垂直な断面の形状における角部にアールが施されているので、角部が削れて鉄粉などが飛散するということがない。さらに、ティースの先端への磁性楔の挿入時に、磁性楔の角部が引っかかって磁性楔がたわんでしまい挿入が困難になったり、磁性楔自体が折損することもなく、より円滑に挿入を行うことができる。
ここで、ティースの先端(ティース先端部)とは、ティースの先端側のことであり、特に末端に限定されるものではない。また、上述の磁性楔の投影形状は、少なくとも一対の対辺が平行である形状であればよい。また、回転電機の固定子は、複数のティースと、隣り合う前記ティースの間に形成された複数のスロットとを有し、隣り合う前記ティースの先端部、つまり、前記スロットの開口部分(スロット開口部)の間に前記いずれかの投影形状を有する磁性楔が嵌装されている。
次に、具体的な実施形態について説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1に本実施形態における磁性楔10の斜視図を示す。磁性楔10は、回転電機用の磁性楔であって、一部の角部は曲面となっているような略直方体形状である。角部の曲面を以下ではアール(R)24と呼ぶ。図1に磁性楔10の断面形状を併せて示した。磁性楔の長さ方向(y方向)に垂直な断面(x-z断面)の形状は長方形である。幅方向(x方向)に垂直な断面(y-z断面)の形状は角部にアール24が施された角丸長方形となっている。つまり、幅方向(x方向)に垂直な平面(y-z断面)に投影された、磁性楔の投影形状は長方形であり、かつ、長方形の角部にアールが施された形状となっている。すなわち、磁性楔の投影形状は、アールを有していても、全体の概形として長方形と認識できるものである。そして、長方形の長辺方向が、磁性楔の長さに、長方形の短辺方向が、磁性楔の厚さに相当する。
【0027】
ラジアルギャップタイプの回転電機に磁性楔10を装着する場合、磁性楔の長さ方向(図1でのy方向、上述の長方形の長辺方向)は回転電機の軸方向に、そして、磁性楔の厚さ方向(図1でのz方向、上述の長方形の短辺方向)は回転電機の径方向に相当し、磁性楔の幅方向(図1でのx方向)が回転電機の周方向に相当する。一方、アキシャルギャップタイプの回転電機に磁性楔10を装着する場合、磁性楔の長さ方向(図1でのy方向、上述の長方形の長辺方向)は回転電機の径方向に、そして、磁性楔の厚さ方向(図1でのz方向、上述の長方形の短辺方向)は回転軸の軸方向に相当し、磁性楔の幅方向(図1でのx方向)は回転電機の周方向に相当する。磁性楔10の概略寸法は、例えば、磁性楔の長さ方向(y方向)が10mmから300mm、磁性楔の幅方向(x方向)が2mm~20mm、磁性楔の厚さ方向(z方向)が1~5mm程度である。
なお、磁性楔形状が細長くなると取付時における折損等のリスクが高まるため、予め固定子の厚さよりも短い磁性楔を用意しておき、これらを縦列状に挿入することも可能である。この場合の磁性楔の長さは概ね100mm以下である。
【0028】
図2は、磁性楔10をラジアルギャップタイプの回転電機に取り付ける際の形態を示す模式図である。磁性楔10は、ティース34の先端部に設けられた溝に回転電機の軸方向に挿入されるが、この際、アール24が形成されている部分から挿入されることになるため、挿入時に磁性楔10がティース34の溝内面に引っかかるリスクが少なくなり、円滑に挿入し嵌合固定することができる。なお図2はラジアルギャップタイプの回転電機の場合を示しているが、アキシャルギャップタイプの回転電機の場合においては、磁性楔10の挿入方向が回転電機の径方向となる以外はラジアルギャップタイプの回転電機と同様であり、やはりアール24が形成されている部分から挿入されることになるため、円滑に挿入し嵌合固定することができる。
【0029】
磁性楔10は、軟磁性粒子(以下、軟磁性粉末ともいう)、例えば、鉄粉またはFe基軟磁性合金粉末のいずれか、あるいはその両方からなる圧粉体とすることができる。磁性楔10をこのような材質とすることにより、粉末プレス成形で製造することが可能となり、その結果、以下のように機械加工によらず前記アールを容易に形成することができる。
ここで、粉末プレス成形で、図1に示した磁性楔10を製造する際に使用する、成形用の金型(ダイス20)および上パンチ21および下パンチ22の模式図を図3示す。ダイス20には磁性楔10のy-z断面形状に等しい角丸長方形の開口部23を有するキャビティが設けられている。ここで、ダイス20に設けられたキャビティの形状は、上の方を広く、下に行くほど狭くなるテーパーを付けておくと良い。テーパーを付けることにより、成形後の成形体をダイス20から取り出しやすくすることが可能となり、成形体である磁性楔10をダイス20から抜き出すときに、磁性楔10とダイス20が擦れて磁性楔表面に傷が入ったり、金型の摩耗も進んで寿命が落ちたりする問題を解消することができる。
上パンチ21および下パンチ22は、成形方向に垂直な断面形状がやはり磁性楔10の断面形状に等しい角丸長方形となっている。つまり、上パンチ21および下パンチ22は、ダイス20の開口部23と略同一形状の、角部にアールを有する略長方形である。ただし、上パンチ21および下パンチ22は、ダイス20の開口部23内に挿入可能とするため、開口部の寸法よりも数μm程度小さい寸法となっている。
【0030】
本発明の実施形態である磁性楔の製造方法は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、当該プレス成形工程において、角部にアールが施された長方形、平行四辺形または直角台形の開口部を有する金型と、前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用する。
【0031】
ここで、プレス成形工程では、例えば、ダイスとパンチを使用して磁性楔10の成形体を得ることができる。ダイス20と上パンチ21および下パンチ22を使用した磁性楔10の成形方法は以下の通りである。まず、ダイス20に下パンチ22だけを挿入しおき、キャビティ内に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填する。その後、上パンチ21を開口部に挿入し所定の圧力で加圧する。このとき、加圧方向(成形方向)は磁性楔10の幅方向となる。加圧された原料粉末は圧密化されて成形体11となる。得られた成形体11はアール24を有する形状となっている。この成形体11に熱処理等を施して固化し、磁性楔10を得ることができる。
【0032】
成形時の加圧方向は上記の幅方向以外にも、厚さ方向や長さ方向に加圧することも原理的には可能である。しかし、厚さ方向に加圧する場合、加圧面が図1のx-y面となり、磁性楔10の最大の面で加圧することになるため、多くの荷重が必要となる。このため、大型のプレス機が必要となり、設備コストが高くなるなどの問題が生じる。一方、長さ方向に加圧する場合には、加圧面は最小になるものの、図1に示したようなアール形状を成形工程のみで形成することが困難になる。さらに、かなり厚いダイスと細長い上下パンチを用意する必要があり、金型の耐久性も含めて金型コスト増大の原因となる。その点、幅方向に加圧する本実施形態の製造方法によれば、比較的面積の小さいy-z面で加圧することができ、厚さ方向に成形する場合に比べて荷重を大幅に低減できる。さらに、端部のアール形状も、上述のようにダイスの開口部を適切な形状にすることで容易に形成することができる。
【0033】
成形圧力は、原料粉末の材質と性状に応じて適宜調整することが可能であるが、低すぎると成形体の密度が低すぎて成形体強度不足となり、後工程でのハンドリングに支障をきたすほか、熱処理後でも低密度となって強度不足や所望の磁気特性が得られないという問題を引き起こす場合がある。そのため、成形圧力は、0.1GPa以上が好ましく、0.2GPa以上が好ましく、0.3GPa以上がさらに好ましい。一方、成形圧力が高すぎると金型への負荷が大きくなって摩耗や亀裂が発生しやすくなり、金型寿命が短くなる。このような観点から成形圧力は、3GPa以下が好ましく、2GPa以下がより好ましく、1GPa以下がさらに好ましい。
【0034】
また、金型の長寿命化のためには、ダイス20と上パンチ21および下パンチ22の少なくとも成形体11に接する部分を超硬合金で形成することが好ましい。
【0035】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、機械加工を行うことなく磁性楔10の端部にアール形状を形成することができ、回転電機への嵌合取付を行いやすい磁性楔10を低コストで製造することが可能となる。さらに、ダイスの開口部形状が角丸長方形となっているため、成形圧力によって生じる角部への応力集中がアール形状によって緩和され、金型寿命の向上という点でも効果を有する。アールの半径は、上述の効果をより確実に享受するためには、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。
一方、磁性楔10の実効的な長さを確保する観点からは、アールの半径は磁性楔10の厚さの50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
一方で、アールを小さめにすることで、この部分の磁性楔とティース先端部との間の隙間を低減し、磁性楔の固定を強め、隙間の周辺で生じる磁束の分布の乱れも抑制し、結果として、磁性楔によるモータ効率の向上にも寄与する。かかる観点においても、アールの半径は磁性楔10の厚さの50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0036】
また、磁性楔10は、軟磁性粒子と電気絶縁性の物質からなる複合材(コンポジット材)とすることができる。コンポジット材は、複数の軟磁性粒子間に電気絶縁性の物質を存在させて、軟磁性粒子同士を結着させるとともに、粒子間を電気的に隔絶したものであり、磁性楔10の電気抵抗を高めることによって、磁性楔10に生じる渦電流損失を抑制することができる。
【0037】
軟磁性粒子の平均粒径(累積粒度分布におけるメジアン径d50)は、大きすぎると電気抵抗が下がって渦電流損失が大きくなるため、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、高い透磁率を維持し、磁性楔の効果を高めるためには、強磁性粒子の平均粒径は、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0038】
電気絶縁性の物質としては、有機物、無機物のいずれも使用可能であり、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、コロイダルシリカ、低融点ガラスなどが使用可能である。これらを使用した場合、強磁性粉末とこれらの電気絶縁性物質を混合後、前記の粉末プレス成形のほか、トランスファー成形、射出成形、ホットプレス等の方法でも作製できる。
【0039】
本発明の実施形態である磁性楔の製造方法は、前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程を有する。
【0040】
また、磁性楔10は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性粒子1の圧密体である。ここで、「Feよりも酸化しやすい元素M」とは、酸化物の標準生成ギブズエネルギーが、Feよりも低い元素を意味している。元素Mとしては、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。磁性楔10の一形態として、軟磁性粒子がFeより酸化しやすい元素Mを含むFe基合金であり、軟磁性粒子間に元素Mの酸化物相を生成させて粒子同士を結着した形態とすることも可能である。この形態の磁性楔10の作製方法としては、軟磁性粒子を前記の方法でプレス成形後、酸素が存在する雰囲気で熱処理することにより、元素Mの酸化物相を粒界に成長させることができる、この形態であれば、粒界の電気絶縁性物質の割合を最小化することができ、高密度となるので、高強度、高透磁率となって、より好適である。
【0041】
ここで、元素Mは、一種だけでなく、AlとCr、SiとCrなどの組み合わせで二種以上選択してもよい。例えば、AlとCrの二種を選択して、Fe基軟磁性粒子を、Fe-Al-Cr系合金粒子にしてもよい。このようにすることで、曲げ強度と電気抵抗の高い磁性楔10とすることができる。なお、Fe-Al-Cr系合金とは、Feの次に含有量が多い元素が、CrおよびAl(順不同)である合金のことであり、その他の元素がFe、Cr、Alより少量含まれていても良い。Fe-Al-Cr系合金の組成はこれを特に限定するものではないが、例えばAlの含有量としては、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。また、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。
【0042】
なお、上記元素Mに二種以上の元素を選択した場合、それら含有量の合計は、一種を選択した場合と同様に、1.0質量%以上20質量%以下にするのが好ましい。
【0043】
また、Fe基軟磁性粒子は、化学的手法や熱処理などで表面処理された粒子にしてもよい。さらに、Fe基軟磁性粒子は、組成が異なる複数種のFe基軟磁性粒子で構成することもできる。
【0044】
(第2実施形態)
図4に本発明の第二の実施形態である磁性楔10の斜視図を示す。磁性楔10は、上述の第1実施形態と同様に略直方体であり、その端部にアール24を有している。図4には、磁性楔10の長さ方向(y方向)に垂直な断面(x-z断面)の形状を併せて示す。図のように第2実施形態では、その断面形状が概形として台形型となっている。また、幅方向(x方向)に垂直な断面(y-z断面)の形状は第1実施形態と同様、角部にアール24が施された角丸長方形となっている。
【0045】
第2実施形態の磁性楔10を回転電機に取り付ける際には、図5に示したように、x-y断面の台形の上辺側が回転子に面する方向に取り付けるのが好ましい。この際、磁性楔10を嵌め込むティース先端部の溝の形状も磁性楔10の断面形状と合わせた形状とすることが好ましい。このような取付形態にすることで、磁性楔10を回転子により近づけることができ、磁性楔による回転電機の損失低減効果を増大させることが可能となる。
【0046】
第2実施形態の形状は、図6に模式的に示したように、上パンチ21および下パンチ22におけるパンチ面の形状を、磁性楔10の側面部の形状と同一にしておき、磁性楔10の幅方向に加圧成形することにより成形体11を作製し、これを熱処理などで固化して作製することができる。このような製造方法を採用することにより、余分な機械加工を行うことなく、容易に第2実施形態の磁性楔10の形状を得ることができる。
【0047】
第2実施形態の磁性楔10のx-z断面における形状は、磁性楔の厚さ方向の中心を通る線に対して非対称であれば、図4に示した略台形形状のものに限らず、厚さ方向に磁性楔の幅が異なる形状であれば良く、例えば凸型など、各種の形状を採用することができる。そして、この場合、磁性楔10のx-z断面における形状に合わせて、上パンチ21および下パンチ22のパンチ面も、磁性楔の厚さ方向、すなわち、開口部23のキャビティ(長方形)の短辺方向の中心線に対して非対称の形状になる形状で構成される。ただし、図4図6に示したように、磁性楔10の側面25の形状(および上パンチ21および下パンチ22の形状)を、直線と曲線からなり、それらを滑らかに接続した形状とすることが好ましく、直線部と傾斜部がつながる部分はアール形状とすることがより好ましい。このような形状であれば、成形時に、開口部23のキャビティ内の原料粉末が上パンチ21および下パンチ22に押された際に、パンチ表面の形状に沿って原料粉末が圧力の高い部分から低い部分へと移動できるので、成形体11内部の密度均一性を向上させることができる。また、このようなパンチ面形状とすることにより、成形時にパンチ面に加わる応力が変曲部へ集中することを防止することができ、パンチの耐久性向上、寿命向上の面でも好ましい。さらに、磁性楔10はモータ駆動時に電磁加振力によりティースに繰り返し押し付けられて応力が生じるが、磁性楔10の側面25をこのような形状とすることにより、上記の応力が変曲部に集中することを防止できる。このため、磁性楔の耐久性向上、寿命向上の面で有効である。
【0048】
加圧成形の方法としては、図6のように単純に上パンチ21および下パンチ22で圧縮する成形法(一段成形)が使用可能であるが、それ以外にも、上パンチ21および下パンチ22の片方もしくは両方を分割してそれぞれを独立に制御して圧縮する成形法(多段成形)を使用することもできる。これらのうち、一段成形法であれば使用するプレス機や金型の複雑化、大型化を回避することができ、また、成形に要する時間も比較的短時間にすることができるため好ましい。ただし、一段成形法を採用する場合は、成形体内部での密度差が大きくなりすぎないように配慮する必要がある。即ち、図4に示した磁性楔10のx-z断面形状の上辺の長さをW1とし、底辺の長さをW2としたとき、W1/W2が小さすぎると、上辺付近の成形体密度が上がりやすくなる一方、底辺付近の成形体密度が上がり難くなるため、成形体内部での密度差が大きくなり、強度低下や磁気特性不足を生じやすくなる。かかる観点から、一段成形の場合は、W1/W2は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。一方で、W1/W2の値が100%となると幅方向の突起がなくなり、図5に示したような形態では磁性楔を固定できなくなる。かかる観点から、W1/W2の値は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましい。
【0049】
一方、固定子の構造上、W1/W2の値を60%以下等にせざるを得ない場合がある。このような際には多段成形法を使用することにより、W1/W2を60%以下、もしくは50%以下、さらには40%以下といった形状も作製可能である。
【0050】
(第3実施形態)
本発明の第三の実施形態である磁性楔10の断面図を図14に示す。この図は、x、y、z軸を図1と同様にとったときに、x軸に垂直なy-z平面における磁性楔10の断面形状を示している。すなわち、磁性楔10の幅方向(x方向)に垂直な断面形状である。磁性楔10のy-z断面は、概形として平行四辺形であり、その角部にはアール部24を有している。磁性楔10のy-z断面形状をこのような形状とすることにより、磁性楔10の端部がより鋭角的に突出した形状となる。ティース34の先端部への磁性楔の取付時には、より鋭角的に突出した形状となった端部から挿入されるため、より円滑に挿入することができる。
また、本実施形態の変形例を図15に示す。この図は、x、y、z軸を図1と同様にとったときに、x軸に垂直なy-z平面における磁性楔10の断面形状を示している。すなわち、磁性楔10の幅方向(x方向)に垂直な断面形状である。磁性楔10のy-z断面は、概形として直角台形あり、その角部にはアール24を有している。ティース34の先端部への磁性楔の取付時には突出部から挿入することで、図14に示したものと同様に円滑に挿入することができる。
【0051】
また、複数の磁性楔10を一つのティース先端部に縦列で挿入する場合、図16に示す様態で第3実施形態の磁性楔10を設置するのが好ましい。第3実施形態の磁性楔を図16のように挿入すれば、磁性楔同士の境界での隙間を小さくすることや分散させることが可能となり、磁束の乱れなどの問題が緩和される点で好ましい。さらに磁性楔10同士が重なった部分では、ティース先端部に設けた溝部の内壁面に互いに押し付けあう効果が生じるため、磁性楔10の固定がより強固になる。また、ティース34の端面に位置する磁性楔には断面形状が直角台形のものを使用するのが好ましい。このような形態にすることで、固定子端面から磁性楔が突出することや、逆に磁性楔の存在しない無駄なスペースを無くすことが可能となる。なお、図16では4個の磁性楔10を縦列させた場合を示しているが、これは単なる一例であり、ティース34の厚さと磁性楔10の長さに応じて磁性楔10の個数は適宜変更可能である。
以上のように、断面形状が平行四辺形や直角台形の磁性楔10を複数個縦列に設置する形態は、アール24の有無によらず、磁性楔10同士が重なった部分において互いを押し付けあう効果が生じるため、それ自体で磁性楔10の固定をより強固にする発明として捉えられるものである。つまり、複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有し、隣り合う前記ティースの先端の間に、磁性楔の長さ方向における断面形状が平行四辺形や直角台形の磁性楔を、複数個縦列に設置された回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子と軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機である。
【0052】
磁性楔10の端面の角度(図14中に記載したθ)は、大きき過ぎると(即ちθが90°に近いほど)上述の効果が得られ難くなる。一方、θが小さすぎると、端部の突出部が細くなって欠けなどの問題が生じやすくなる。かかる観点から、θは15°以上75°以下の範囲にあることが好ましく、30°以上60°以下の範囲にあることがより好ましく、40°以上50°以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0053】
第3実施形態の磁性楔10は軟磁性粒子からなる圧粉体とし、これを粉末プレス成形で作製するのが好ましい。この場合、図14に示した磁性楔10の断面形状は、図3における金型(ダイス20)の開口部23を図14の形状と等しくし、上パンチ21及び下パンチ22もこれに合わせた形状とすることにより、第3実施形態の磁性楔10を容易に製造することができる。また、その際、上パンチ21および下パンチ22の表面形状を図6に示したようなテーパーを含む形状とすることにより、磁性楔10の両側面に傾斜を持たせた形状、即ち磁性楔の長さ方向(y軸方向)に垂直な断面(x-z断面)が略台形型である、という特徴を有した第3実施形態の磁性楔10を作製することも可能である。さらに、x-z断面の形状が略台形形状のものに限らず、磁性楔の厚さ方向に磁性楔の幅が異なる形状であるような、例えば凸型など、各種の形状とすることも可能である。
【0054】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態である回転電機300を、その構成要素の一つである回転電機用固定子とともに説明する。
図17は、回転電機300の模式図であり、回転電機300の回転軸に垂直な断面構造を示している。回転電機300は、ラジアルギャップ型回転電機であり、回転電機用固定子(ステータ31)と、ステータ31の内側に配置された回転子(ロータ32)を有し、これらが同軸にして配置されている。ステータ31は、複数のティース34と複数のティース34により形成された複数のスロットとを有し、コイル33を巻き回した複数のティース34が周方向に等間隔に配置されている。
【0055】
本実施形態の回転電機300では、スロットのロータ32側、すなわちティース34のロータ32側先端に、隣り合うティース34の先端を接続するように、第1実施形態の磁性楔10が嵌装されている。
【0056】
ここで、ティース34の比透磁率と飽和磁束密度は、通常、磁性楔10のそれらよりも高く設計される。これにより、磁性楔10に達したロータ32からの磁束は、磁性楔10を経由してティース34に流入し、コイルに達する磁束が抑制されて、コイルに生じる渦電流損失を低減することができる。また、回転電機の駆動時において、コイル電流により生じたティース34内の磁束は、大部分がギャップを隔ててロータ32に流入するものの、一部は磁性楔に誘引されて周方向に広がるようになる。これにより、ステータ31とロータ32との間のギャップ内磁束分布がなだらかになり、例えばロータ32に永久磁石を配置した回転電機では、コギングを抑制することができ、さらにロータ32に発生する渦電流損を低減することができる。また、例えばロータ32にかご形導体を配置した誘導型回転電機では、二次銅損を低減することができる。以上のように上述の磁性楔10を回転電機に配することで、損失を低減し、高効率・高性能の回転電機300にすることができる。
【実施例
【0057】
以下に、Fe基軟磁性粒子としてFe-Al-Cr系合金を用いた第2実施形態の実施例を示す。ただし、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記述がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0058】
(原料粉末の作製方法)
高圧水アトマイズ法により、Fe-5%Al-4%Cr(質量%)の合金粉末を作製した。具体的な作製条件は次の通りである。出湯温度1650℃(融点1500℃)、溶湯ノズル径3mm、出湯速度10kg/分、水圧90MPa、水量130L/分であった。なお、原料の溶解および出湯はAr雰囲気下で行った。作製した粉末の平均粒径(メジアン径)は12μm、粉末比表面積は0.4m/g、粉末の真密度は7.3g/cm、粉末の含有酸素量は0.3%であった。
この原料粉末にポリビニルアルコール(PVA)とイオン交換水を加えてスラリーを作製し、スプレードライヤーで噴霧乾燥を行って造粒粉を得た。原料粉末を100重量部とするとPVA添加量は0.75重量部である。この造粒粉に0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加し、混合した。
【0059】
(成形体の作製方法)
この混合粉を金型に充填し、室温にてプレス成形した。ここで金型として、図3に示したものと同様の形状のものを使用した。金型の材質は超硬合金である。金型の開口部は18mm×1.5mmの角丸長方形であり、角部のアールは0.3mmとした。パンチには、パンチ面を磁性楔の側面形状と同じ形状にしたものを使用した。使用したパンチの断面形状を図7に示す。この図は図6に示したものと同様の断面図であり、上パンチ先端部の形状を示している。図中のaは1.5mm、bは0.5mm、cは0.65mm、dは0.35mm、eは0.65mm、fはR0.3、gは45°である。
なお、上パンチ先端部の形状は、図7を見てわかるように、上パンチの厚さ方向の両端側の直線部とそれらを繋ぐ傾斜部とがあり、直線部と傾斜部がつながる部分はアール形状となっている。下パンチは、上パンチを上下反転させた形状のものを使用した。パンチの材質は上パンチ、下パンチとも超硬合金である。
【0060】
上記の金型とパンチを最大荷重20トンのメカプレス機に取付け、成形体のストローク方向の長さ(図4における磁性楔の長い方の幅W2)が5mmになるように上パンチの下降量を調整した。その上で成形体の密度が6.0g/cmになるように金型の位置(キャビティの深さ)を調整して上記の原料粉末を充填した。原料粉末の充填後、金型を1mm上昇させて、上パンチが原料粉末と接触した際に原料粉末が金型開口部から押し出されるのを防いだ。その後、上パンチを所定の位置まで下降させてプレス成形した。この際、上パンチの下降速度の約半分の速度で金型も下降させ、成形体内での密度バラツキが大きくなりすぎないように配慮した。成形時の下死点での荷重は2トンであった。この値を金型の開口部面積で除して求めた成形圧力は0.7GPaであった。
【0061】
(熱処理)
上述のように作製した成形体に、大気中750℃×1時間の熱処理を施した。この際の昇温速度は250℃/hとした。
【0062】
(実施例の外観、寸法、密度)
上述した作製方法によって実施例を50個作成した。そのうちの3個について外観写真を図8に示す。作製した磁性楔50個の寸法は、幅(図4のW2)が5.006±0.050mm、厚さが1.529±0.005mm、長さが17.95±0.01mmであった。ここで各寸法の数値は50個の平均値であり、寸法バラツキは±3σの値を示している。なお、上記のうち、幅と厚さはマイクロメーター、長さはノギスで測定した。
また、各磁性楔の質量を測定し、各寸法から計算した体積で除して密度を求めた。その結果、密度は6,150±120Kg/mであった。磁性楔の密度を上記の粉末真密度で除した値である占積率(相対密度)は84%であった。磁性楔の密度が成形体の密度よりも増しているのは、熱処理による酸化増量のためである。
作製した磁性楔50個から無作為抽出した5個について、図4に示したW1とW2を光学顕微鏡(キーエンス社製VHX-6000;観察倍率30倍)の測長機能を使用して測定し、それらの比をとってW1/W2を算出した。その結果、実施例5個のW1/W2は74.4%から75.2%の範囲にあった。
【0063】
(電気抵抗)
磁性楔の電気抵抗率は、5×10Ω・mであった。なお、電気抵抗率は、磁性楔の対向する二平面に4mm角のAg電極をスパッタで形成し、アドバンテスト社製デジタル超高抵抗計R8340で測定した50V印加時の抵抗値R(Ω)を用いて、次式で電気抵抗率ρ(Ω・m)を算出した。
ρ(Ω・m)=R×A/t
ここでAは電極の面積(m)、tは磁性楔の厚さ(m)である。
【0064】
(曲げ強度)
万能試験機(インストロン社製5969型)を使用して室温での三点曲げ強度を測定した。測定条件は、ロードセル容量500N、支点径4mm、圧子径4mm、支点間距離8mm、試験速度0.12mm/分である。破断時の荷重P(N)から、磁性楔の断面形状を台形で近似し、次の式を使用して三点曲げ強度σを算出した。
σ=3LP(2W1+W2)/((W1+W2+4W1W2)h
ここで、Lは支点間距離、W1、W2は磁性楔の幅(図4参照)、hは磁性楔の厚さである。なお、測定時には磁性楔の幅の広い方(W2)が下になるように磁性楔をセットした。
以上のようにして測定した磁性楔(試料数3個)の三点曲げ強度は140~160MPaであり、磁性楔として通常求められる強度(100MPa程度)以上になっていることを確認した。
【0065】
(部分モデル)
磁性楔10の端部にアールを設けたことの効果を評価するために、モータのティース34を模した部分モデル40を作製し、この部分モデル40への磁性楔10の取付試験を実施した。部分モデル40の模式図を図9に示す。部分モデルは50mm×30mmの無方向性電磁鋼板(日本製鉄製35H300)を厚さ50mmになるように接着積層したブロックを素材として用い、これに図9に示した形状、寸法となるようにワイヤー放電加工を施して作製した。図9のように、スロットを模した凹部を5カ所作製したが、形状・寸法はいずれも同じである。スロットを模した凹部にバネ41を設置し、ベーク板42と必要に応じてスペーサ(図示せず)を介して磁性楔10をティース先端の溝部(図9のA部)に押し付ける形で固定できるようにした。磁性楔10には、上述の磁性楔のものを使用した。
【0066】
バネ41による磁性楔10の押し付け力は、バネ定数の異なるバネを使用することや、適当なスペーサーを挿入することで適宜調整することができる。ここでの試験では、バネ定数1.588N/mmの圧縮コイルばね(ケーエス産業製D5509;外径3.7mm、自由長16mm)を9本並列に設置し、さらに当該バネとベーク板の間に3.8mm厚のスペーサ(図示せず)を挿入した。従って、磁性楔10を挿入した際のバネの圧縮量は3.8mmとなり、バネ9本の合計で53Nの力で磁性楔10を押し付ける状態とした。
【0067】
(取付時の押し込み力)
上述の部分モデル40に、磁性楔10を挿入する際の押し込み力を以下のようにして測定した。まず、予め長さ18mmの磁性楔を2個挿入しておき、3個目の磁性楔は部分モデルの上端から1mmだけ挿入しておく。この状態で万能試験機(インストロン社製6959型)を使用して、押し込み速度0.1mm/sで3個目の磁性楔を挿入して行き、その際に生じる力(押し込み力)をロードセルで測定した。
3個目の磁性楔としては、端部にアールが施された磁性楔(図10の左側)と、磁性楔を破断してアール部を除去した磁性楔を比較例(図10の右側)とした。比較例を挿入する際は破断面側から部分モデル40に挿入した。押し込み力の測定結果を図11に示す。図のように、磁性楔は比較例よりも低い押し込み力となっており、磁性楔の端部にアールを施すことによって、モータへの取り付けが行いやすくなっていることが確認された。
【0068】
(直流磁化曲線)
磁性楔の直流磁化曲線(B-H曲線)を直流自記磁束計(東栄工業製TRF-5AH)を用いて測定した。上述の磁性楔の長さ方向の両端を4mmずつスライサーで切り落として長さ10mmに加工したものを5個用意し、これらを厚さ方向に接着して測定用試料を作製した。これを電磁石の磁極に挟んで長さ方向のB-H曲線を最大印加磁界360kA/mで測定した。
室温での測定結果を図12に示す。印加磁界160kA/mにおける磁束密度の値は、1.52Tであった。この磁束密度の値(1.52T)を印加磁界の値(160kA/m)で除し、さらに真空の透磁率(4π×10-7H/m)で除して求めた比透磁率は7.6であった。
【0069】
(回転電機特性シミュレーション)
上述の磁気特性を有する磁性楔を、誘導型回転電機に設置した場合のモータ効率を有限要素法による電磁界シミュレーションを用いて算出した。電磁界シミュレーションに供した誘導型回転電機の主要諸元は以下の通りである。
出力:3.7kW
極数:4P
電圧:200V
周波数:50Hz
同期速度:1500rpm
固定子外径:200mm
固定子内径:120mm
固定子スロット数:36
回転子スロット数:44
【0070】
図13に、本シミュレーションで使用した回転電機(モータ)のモデル図を示す。この図はモータ軸に垂直な断面を示している。また、磁性楔10の形状および設置位置を図13の右側に示す。磁性楔の幅(回転電機の周方向の長さ)のうち、図4のW1に相当する寸法は3.0mm、W2は4.3mmとした。厚さ(回転電機の径方向の長さ)は1.5mmであり、磁性楔10の側面25のテーパの角度は、回転電機の径方向に対して45°である。この磁性楔10の部分に図12のB-H曲線を設定して電磁界解析を行った。なお、図4および図7に示した磁性楔の側面形状は、直線部とテーパー部が若干のアールを介して滑らかに接続する形状となっているが、この細かいアール部分を正確にモデル化してシミュレーションに取り込むのは煩雑であるため、本シミュレーションでは接続部のアールは無視した。
電磁界解析の結果、表1に示したように、正弦波入力および矩形波入力のそれぞれの場合において、磁性楔の設置によるモータ効率の向上が認められた。このように、本実施例の磁気特性を有する磁性楔を使用することにより、モータの効率を向上させることが可能となる。
【0071】
【表1】
【0072】
以上のように、本発明によれば、機械加工を行うことなく磁性楔10の端部にアール形状を形成することができ、回転電機への嵌合取付を行いやすい磁性楔10を低コストで製造でき、回転電機の効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
10:磁性楔
11:成形体(磁性楔)
20:ダイス
21:上パンチ
22:下パンチ
23:開口部
24:アール(R)
25:磁性楔の側面
31:ステータ
32:ロータ
33:コイル
34:ティース
35:二次導体
40:部分モデル
41:バネ
42:ベーク板
300:回転電機

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17