(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】マーカ
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2020186376
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】薮下 翔
(72)【発明者】
【氏名】西井 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一真
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 遼平
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094865(JP,A)
【文献】特開平05-332750(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157484(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測する方向に応じて観測される視覚情報が変化する位置認識部を有するマーカであって、
前記位置認識部は、
光の通過を許容する許容部、及び光を遮断する遮断部のパターンによって構成される第1の層と、
前記第1の層の裏面側に設けられ、前記許容部を介して視覚的に認識可能な部材を有する第2の層と、を備え
、
前記第1の層の前記遮断部は、基材の表面及び裏面に形成された光を散乱させる散乱部のパターンによって構成され、
前記第1の層の前記許容部は、前記基材の前記表面及び前記裏面のうち、前記散乱部が形成されていない透過部のパターンによって構成される、マーカ。
【請求項2】
前記許容部は、前記位置認識部の中央位置から外側へ離れるに従って、通過を許容する光の厚さ方向に対する傾斜角度を外側へ大きくするように構成されている、請求項1に記載のマーカ。
【請求項3】
観測する方向に応じて観測される視覚情報が変化する位置認識部を有するマーカであって、
前記位置認識部は、
光の通過を許容する許容部、及び光を遮断する遮断部のパターンによって構成される第1の層と、
前記第1の層の裏面側に設けられ、前記許容部を介して視覚的に認識可能な部材を有する第2の層と、を備え、
前記第1の層の前記許容部は、一対の前記遮断部間に形成されるスリットによって形成され、
前記許容部は、前記位置認識部の中央位置から外側へ離れるに従って、通過を許容する光の厚さ方向に対する傾斜角度を外側へ大きくするように構成されている、マーカ。
【請求項4】
前記第2の層の部材は、光を反射する反射部材によって構成される、請求項1
~3の何れか一項に記載のマーカ。
【請求項5】
前記反射部材は、再帰反射部材である、請求項
4に記載のマーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるようなマーカが知られている。このマーカは、物体の位置及び姿勢等を認識するために当該物体に取り付けられる。カメラでマーカを撮影することで、画像におけるマーカの見え方などに基づいて、カメラとマーカとの相対的な位置関係を認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のようなマーカは、カメラとマーカとの相対的な位置関係を示すために、平面方向に連続する複数のレンズ部を有するレンズ部材(レンチキュラーレンズ)を用いている。しかしながら、レンチキュラーレンズを用いたマーカにおいては、部品点数が多く、且つ、部品同士を精度良く位置合わせする必要が生じるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、製造が容易でありながら、高い精度でマーカの位置を認識できるマーカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るマーカは、観測する方向に応じて観測される視覚情報が変化する位置認識部を有するマーカであって、位置認識部は、光の通過を許容する許容部、及び光を遮断する遮断部のパターンによって構成される第1の層と、第1の層の裏面側に設けられ、許容部を介して視覚的に認識可能な部材を有する第2の層と、を備える。
【0007】
マーカの位置認識部は、光の通過を許容する許容部、及び光を遮断する遮断部のパターンによって構成される第1の層を備える。従って、観測する方向によって、一部の光が遮断部で遮断されると共に、一部の光が許容部を通過する。また、位置認識部は、許容部を介して視覚的に認識可能な部材を有する第2の層を備える。従って、第1の層における光の通過態様に基づいて、第2の層の視覚的な認識態様が変化する。このような第2の層の認識態様の変化は、観測する方向に応じた視覚情報として用いることができるため、当該視覚情報に基づいてマーカの位置を精度よく認識することが可能となる。ここで、位置認識部は、第1の層の裏側に第2の層を設けただけのシンプルな構造である。また、第2の層の認識態様は、第1の層のパターンの設計によって調整可能であるため、第1の層に対して第2の層を精度良く位置合わせする必要がない。以上より、製造が容易でありながら、高い精度でマーカの位置を認識できる。
【0008】
第2の層の部材は、光を反射する反射部材によって構成されてよい。これにより、第2の層は、第1の層の許容部を通過して来た光を反射によって、観測位置に戻すことができる。そのため、観測位置から、第2の層の反射光が見えやすくなるため、位置認識部の視覚情報の視認性が向上する。
【0009】
反射部材は、再帰反射部材であってよい。これにより、第2の層は、観測位置からの光を当該観測位置へ向けて反射することができる。そのため、観測位置から第2の層の反射光が更に見えやすくなるため、位置認識部の視覚情報の認識性が更に向上する。
【0010】
第1の層の許容部は、一対の遮断部間に形成されるスリットによって形成されてよい。従って、スリットを複数並べるだけで第1の層を形成することができるため、製造の容易性が向上する。
【0011】
第1の層の遮断部は、基材の表面及び裏面に形成された光を散乱させる散乱部のパターンによって構成され、第1の層の許容部は、基材の表面及び裏面のうち、散乱部が形成されていない透過部のパターンによって構成されてよい。従って、基材の表面及び裏面に散乱部のパターンを形成するだけで、第1の層を形成することができる。
【0012】
許容部は、位置認識部の中央位置から外側へ離れるに従って、通過を許容する光の厚さ方向に対する傾斜角度を外側へ大きくするように構成されていてよい。このような構成は、観測する方向に応じて観測する視覚情報の変化を得るのに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造が容易でありながら、高い精度でマーカの位置を認識できるマーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るマーカの使用態様を示す図である。
【
図2】本実施形態に係るマーカを示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2に示すIIIa-IIIa線に沿った断面図であり、
図3(b)(c)(d)は、スリットの拡大断面図である。
【
図4】マーカに対するカメラの角度と、当該角度における位置認識部の見え方を示す図である。
【
図5】変形例に係るマーカの許容部のパターンを示す概略図である。
【
図6】
図5(a)に対応するパターンの視覚情報の変化態様を示す概略図である。
【
図7】
図5(d)に対応するパターンの視覚情報の変化態様を示す概略図である。
【
図8】
図5(i)に対応するパターンの視覚情報の変化態様を示す概略図である。
【
図9】変形例に係るマーカの視覚情報の変化態様を示す概略図である。
【
図10】変形例に係るマーカの視覚情報の変化態様を示す概略図である。
【
図11】
図11(a)(b)は、変形例に係るマーカの許容部及び遮断部を示す拡大断面図であり、
図11(c)(d)(e)は、散乱部の構造例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るマーカ1の使用態様を示す図である。
図1は、フォークリフト100が荷役対象物101を荷役するために当該荷役対象物101に近づくときの様子を示している。荷役対象物101には、マーカ1が取り付けられている。フォークリフト100は、カメラ102と演算装置103とを備えている。カメラ102は、荷役対象物101を撮影する。なお、カメラ102は、観察範囲に対して光を照射することができるライトを有する。演算装置103は、カメラ102で撮影した画像のうち、マーカ1の画像に基づいて、フォークリフト100とマーカ1との位置関係を演算する。これにより、演算装置103は、フォークリフト100と荷役対象物101との位置関係を演算する。
【0017】
図2は、本実施形態に係るマーカ1を示す斜視図である。
図2に示すように、マーカ1は、略矩形の形状を有する板状部材である。マーカ1は、表面にマーク部2と、参照点3と、位置認識部4と、を備える。なお、マーク部2、参照点3、及び位置認識部4の配置や形状等は一例に過ぎず、適宜変更可能である。また、マーカ1は、本体部10と、下地部材11と、を積層させることによって構成される。本体部10は、射出成形などによって形成される板状の成形部品である。本体部10の樹脂材料は後述のスリットを形成する点から熱可塑性樹脂が好ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。下地部材11は、本体部10の裏面に積層される板状の部品である。
【0018】
マーク部2は、本体部10の表面の中央位置の領域に形成される。マーク部2は、所定の図柄などを表示する部分である。これらの図柄は、荷役対象物101のID番号などと紐付けられることによって、識別情報として機能する。例えば、カメラ102がマーク部2の所定の図柄を検出すると、演算装置103は当該図柄に紐付けられたID番号を検索することで、荷役対象物101を特定することができる(
図1参照)。マーク部2は、例えば、本体部10に図柄が印刷されたシートを貼り付けることによって形成される。マーク部2の図柄は、所定の色で示されてもよく、再帰反射部材で示されてもよい。
【0019】
参照点3は、本体部10の表面における四隅に形成される。参照点3は、画像内において認識し易い形状、大きさで示される図形で示され、
図2の例では色付きの円形で示される。参照点3の形成方法は特に限定されないが、例えば、本体部10の表面にシートを貼り付けたり、表面に着色したり、本体部10に貫通孔を設けて下地部材11の色を参照点3の色として用いてもよい。また、参照点3は、本体部10の色の反対色で示されてもよく、再帰反射部材で示されてもよい。例えば、カメラ102が参照点3を検出すると、演算装置103は画像内における参照点3に基づいて、マーカ1とフォークリフト100との位置関係を認識する(
図1参照)。
【0020】
位置認識部4は、観測する方向に応じて観測される視覚情報が変化する部分である。すなわち、マーカ1とカメラ102との位置関係に応じて、カメラ102で撮影した画像内で位置認識部4から取得できる視覚情報が変化する。位置認識部4で得られる認識情報の詳細については後述する。位置認識部4は、本体部10の表面のうち、縁部に沿った位置に形成される。位置認識部4は、一対の参照点3の間に形成される。本体部10の一辺に対応する位置に一つの位置認識部4Aが設けられ、当該辺と直交する他の一辺に対応する位置にもう一つの位置認識部4Bが設けられる。マーカ1を荷役対象物101に取り付けたとき、一方の位置認識部4Aは左右方向D1に延びるような配置となり、他方の位置認識部4Bは、上下方向D2に延びるような配置となる。これにより、一方の位置認識部4Aは、マーカ1とカメラ102との左右方向D1の相対的な角度を取得できる視覚情報を示すことができる。また、他方の位置認識部4Bは、マーカ1とカメラ102との上下方向D2の相対的な角度を取得できる視覚情報を示すことができる。これにより、カメラ102が各位置認識部4A,4Bの画像を検出すると、演算装置103は、各位置認識部4から取得できる視覚情報に基づいて、カメラ102とマーカ1との間の左右方向D1及び上下方向D2における相対的な角度を演算し、マーカ1とフォークリフト100との位置関係を認識する。なお、
図2に示す例では、位置認識部4が二つ形成されているが、数量は特に限定されない。また、位置認識部4は、マーク部2と同一平面上に存在しているが、位置認識部4が飛び出ていても、凹んでいてもよい。
【0021】
図3(a)は、
図2に示すIIIa-IIIa線に沿った断面図である。
図3(a)は、マーカ1とカメラ102との左右方向D1の相対的な角度を取得するための位置認識部4Aの断面構造を示す。従って、以降の説明において「左右方向D1」「上下方向D2」などの語を用いたときは、マーカ1を荷役対象物101に取り付けたときの姿勢を基準にした方向であるものとする。なお、マーカ1とカメラ102の上下方向D2の相対的な角度を取得するための位置認識部4Bは、方向が異なること以外、位置認識部4Aと同様な構成を有する。
【0022】
図3(a)に示すように、位置認識部4Aは、第1の層20と、第2の層30と、を備える。第1の層20は、本体部10によって構成される層である。第2の層30は、第1の層20の裏面側に設けられる層であり、下地部材11によって構成される層である。なお、以降の説明においては、カメラ102から見たときに当該カメラ102がマーカ1に対して左側へ傾く場合の角度を負(マイナス)の角度とし、右側へ傾く場合の角度を正(プラス)の角度として説明する。なお、マーカ1の表面に対して垂直な状態を「角度=0°」であるものとする。
【0023】
第1の層20は、光の通過を許容する許容部21、及び光を遮断する遮断部22のパターンによって構成される。許容部21は、本体部10を厚さ方向D3に貫通する貫通部によって構成されており、当該貫通部を光が通過できるようにしている。遮断部22は、許容部21の貫通部の周囲の肉残り部によって構成される。本実施形態では、許容部21は、一対の遮断部22間に形成されるスリット23によって形成される。スリット23は、上下方向D2に延びた状態(
図2参照)で、左右方向D1に配列される。このとき、遮断部22は、上下方向に延びる梁部材として構成される。遮断部22は、後述の反射光を画像中で見やすくするために、黒色などの樹脂で形成されることが好ましい。なお、許容部21及び遮断部22は、本体部10の他の部分と一体成形によって形成されてよい。この場合、遮断部22が黒色の樹脂で成形される場合、本体部10の他の部分も黒色となる。ただし、第1の層20を構成する樹脂の部材は、本体部10の他の部分と一体成形されている必要は無く、別途成形しておいたものを、本体部10の対応箇所に嵌め込むようにしてもよい。また、第1の層20のスリット23は、成形によって形成される必要はなく、加工によって形成されてもよい。
【0024】
また、上記に記載のスリット23の形状に関し、許容部21に対して、厚さ方向D3に貫通する貫通部の長さは、5倍以上あれば、効率的な角度認識が可能になる。また、成形性など加工性を考慮すると、許容部21の大きさは、0.3~1mm程度が望ましく、その時の厚さ方向D3に貫通する貫通部の長さは、1.5~10mm程度が望ましく、アスペクト比にした場合、5~10が望ましい。また、隣り合う角度は1~5°刻みが好ましい。
【0025】
スリット23の断面形状は、左右方向D1における位置に応じて、厚さ方向D3に対する傾斜角度が変化するように構成されている。本実施形態では、左右方向D1における中央位置のスリット23Aが、厚さ方向D3と平行に延びる。当該中央位置のスリット23Aから左側へ離れるスリット23ほど、左側へ大きく傾斜し、マイナスの角度が大きくなる。また、中央位置のスリット23Aから右側へ離れるスリット23ほど、右側へ大きく傾斜し、プラスの角度が大きくなる。なお、一例として、スリット23の幅は0.3mmが好ましく、高さ(厚さ方向D3の寸法)は3mmが好ましいが、前述のように、これらの値より大きくても小さくてもよい。なお、スリット23の側壁(一対の遮断部22の側壁)は互いに平行である必要はなく、テーパ角度が付与されていてもよい。
【0026】
各スリット23の傾斜の角度は、通過を許容する光の角度に応じて設定される。例えば、左右方向D1の中央位置のスリット23Aは、
図3(b)に示すように、「-1°~+1°」の光を許容するように構成される。中央位置のスリット23Aよりもわずかに右側に形成されたスリット23は、
図3(c)に示すように、右側へ傾斜するように形成されており、「0°~+2°」の光を許容するように構成される。中央位置のスリット23Aよりも左側に形成されたスリット23は、
図3(d)に示すように、左側へ傾斜するように形成されており、「-6°~-4°」の光を許容するように構成される。
【0027】
以上のような構成により、
図3(a)に示すように、角度が0°の光IL1が第1の層20に入射された場合、光IL1は、中央位置付近の角度が小さいスリット23を通過し、第2の層30まで達する。一方、中央位置から離れた角度が大きいスリット23に入射される光IL1は、遮断部22と衝突することで、第2の層30へ達することなく遮断される。左側に傾斜した光IL2が第1の層20に入射された場合、光IL2は、中央位置から左側へ離れた左端付近のスリット23を通過し、第2の層30まで達する。一方、左端の位置以外のスリット23に入射される光IL2は、遮断部22と衝突することで、第2の層30へ達することなく遮断される。
【0028】
第2の層30の部材は、光を反射する反射部材によって構成される。本実施形態においては、反射部材は、再帰反射部材31である。再帰反射部材31は、光が入射した場合に、当該光が入射してきた位置へ向けて光を反射する原理を用いた反射部材である。再帰反射部材31は、再帰反射テープを第1の層20の裏面に貼り付けることによって構成されてよい。なお、下地部材11の全体が再帰反射部材31によって構成されていてもよいし、位置認識部4の位置だけ、再帰反射部材31が設けられてもよい。
【0029】
例えば、中央位置付近のスリット23に角度の小さい光IL1が入射した場合、同じ角度の反射光RL1を当該スリット23を介して外部へ反射する。左端付近のスリット23に左側に傾斜した光IL2が入射した場合、同じ角度の反射光RL2を当該スリット23を介して外部へ反射する。
【0030】
ここで、許容部21及び遮断部22の構造は、上述のものに限定されず、他の構造として、凹凸構造を用いた透過光の散乱効果による遮断効果を用いてもよい。この場合、第1の層20の基材の表面と裏面には、上記記載のスリット23のパターンに対応した許容部21及び遮断部22を構成できるような散乱部のマスクパターンが形成される。また、このような基材の表面と裏面のマスクパターンによって、対応する角度にて光が透過できる。従って、上記スリット23のパターンの透過、遮断に合わせた凹凸構造のマスクパターンを第1の層20の基材の表面及び裏面に形成し、複数並べるだけでスリット23のパターンの効果と同じ第1の層20を形成することができるため、製造の容易性が向上する。
【0031】
図11(a)を参照して、このようなマスクパターンを用いた場合の構造の一例について説明する。
図3に示すように、第1の層20の遮断部22は、透過性の基材60の表面60a及び裏面60bに形成された光を散乱させる散乱部61のパターンによって構成される。また、第1の層20の許容部21は、基材60の表面60a及び裏面60bのうち、散乱部61が形成されていない透過部62のパターンによって構成される。すなわち、光は直進性の特性を持つことから、基材60の表面60aと裏面60bには、
図3(a)に記載のスリット23と遮断部22の配列パターンに対応した透過部62と散乱部61が形成される。このように、表面60aと裏面60bに形成されたマスクパターンによって、透過や散乱させる角度を決定させることで、許容部21及び遮断部22のパターンを実現することができる。具体的には、前述のスリットパターンでの光の許容及び遮断の態様に合わせて、基材60の表面60a及び裏面60bに凹凸構造を設けることによって、光の散乱効果によって、第1の層20の境界部で光の遮断効果を得ることができるマスクパターンを構成している。凹凸構造が形成された箇所が散乱部61に該当し、凹凸構造が形成されておらず、滑らかな平面となっている箇所が透過部62に該当する。なお、基材60の表面60a及び裏面60bにおいて光を遮断する部分は凹凸構造で散乱効果によって光の遮断するものに限定されず、塗工膜などによって構成されてもよい。この場合には、光の吸収効果によって同様の光の遮断が可能である。
【0032】
具体的に、表面60a側から入射した光は、表面60aの透過部62から基材60内に入射する。入射した光のうち、光IL3は、裏面60bの透過部62から出射することができ、第2の層で反射することができる。一方、光IL4は、裏面60bの散乱部61で散乱してしまうことで、第2の層で反射することができなくなる。従って、表面60aの透過部62の両側の縁部と、裏面60bの透過部62の両側の縁部とを結ぶ直線(一点鎖線で示される直線)で挟まれる領域が、許容部21に該当する。この許容部21の形状、配置などは、
図3(a)のスリット23に対応する。そして、基材60のうち、許容部21以外の領域が遮断部22に該当する。遮断部22の形状、配置などは、
図3(a)の梁部材で構成される遮断部22に対応する。
【0033】
散乱部61の凹凸構造は、光の散乱効果を高め、透過成分を減衰させる機能があればよい。凹凸構造のサイズは光の波長以上の平均間隔を持ち、高さは構造体の平均間隔以上の高さがあればよい。具体的には、波長400nm~700nmの可視波長帯域の場合には、構造体の平均間隔は400nm以上でかつ、高さは400nm以上あれば効果的に光遮断効果が得られる。また、構造体は、より大きくなると散乱効果がより望ましくなり、構造体の平均間隔は100μm~300μm程度まで効果的に発現することができる。また、より好ましくは、構造体の平均間隔80μm、構造体の直径40μm、高さ40μm以上あることが望ましい。また、これら構造体、許容部21及び遮断部22は、本体部10の他の部分と一体成形によって形成されてよい。この場合、許容部21及び遮断部22は、同一の素材で構成されても機能を発現することができる。ただし、第1の層20を構成する樹脂の部材、すなわち基材60は、対象とする光の波長を透過することが望まれる。
【0034】
なお、散乱部61の凹凸構造の形状は特に限定されず、
図11(c)(d)(e)のような四角型、山型、波型などの形状を採用してよく、その他の形状を採用してもよい。
【0035】
さらに、凹凸構造を用いた透過光の散乱効果による遮断効果を用いた場合には、基材60の表面60aに形成された複数の透過部62及び散乱部61に対して、裏面60bに形成されたパターン1つを対応させてもよい。この場合、第2の層に再帰反射部材を用いた場合には、観測点から出射された光は、第1の層20の表面60aに形成された複数の透過部62と、裏面60bに形成された透過部62の位置関係によって、透過態様が決まる。観測点から入射した光は、再帰反射部材によって観測点に戻すことができ、位置認識部の視覚情報の認識ができる。また、この構造の場合、製造の容易性がさらに向上する。
【0036】
具体的には、
図11(b)に示すような構造を採用してもよい。当該構成では、表面60aに、中央位置に一つの透過部62が形成され、それに加えて左右に透過部62が並ぶように形成されている。一方、裏面60bには、中央位置に透過部62Aが形成されているが、表面60aの左右の透過部62と対向する位置には、透過部62が形成されていない。このような構成においては、表面60aの中央位置の透過部62と裏面60bの透過部62Aとの間に一つ目の許容部21が形成され、表面60aの左側の透過部62と裏面60bの透過部62Aとの間に二つ目の許容部21が形成され、表面60aの右側の透過部62と裏面60bの透過部62Aとの間に三つ目の許容部21が形成される。この場合、第2層に再帰反射部材を用いた場合には、観測点から、出射された光は、表面60aに形成された複数の透過部62と、裏面60bに形成された透過部62Aの位置関係によって透過態様が決まる。そして、観測点から入射した光は、再帰反射部材によって観測点に戻すことができ、位置認識部の視覚情報の認識ができる。また、この構造の場合、製造の容易性や多角検出精度の向上が可能である。
【0037】
以上のような構成に係る位置認識部4Aによって、どのような視覚が得られるかについて
図4を参照して説明する。
図4は、マーカ1に対するカメラ102の角度と、当該角度における位置認識部4Aの見え方を示す図である。カメラ102が位置認識部4Aに対してライトで光を照射しながら撮影を行った場合、光が通過したスリット23に対応する位置では、再帰反射によって反射光が出射される。従って、画像中では、対応するスリット23が発光したような光の筋が確認される。なお、光の筋が確認される箇所以外は、反射光が出射されないため、画像中では位置認識部4A本来の色で示される。このような反射光による光の筋のように、位置認識部4Aの中で他の位置とは異なる態様で示される部分を特徴部40と称する場合がある。なお、
図4においては、理解を容易とするために、光が強い部分を黒く示している。実際の画像中では、黒く塗りつぶされた筋の部分は、光の筋として確認される。
【0038】
具体的に、
図4(a)に示すように、マーカ1に対するカメラ102の角度が0°の場合、位置認識部4Aのうち、中央位置付近に特徴部40が確認される。そして、マーカ1に対するカメラ102の角度が右側(すなわち+側)に大きくなるに従って、特徴部40が右側へ移動する。このように、位置認識部4Aは、特徴部40が確認される位置を視覚情報として示すことができる。位置認識部4Aでは、観測する方向に応じて観測される特徴部40の位置が変化する。
【0039】
次に、本実施形態に係るマーカ1の作用・効果について説明する。
【0040】
マーカ1の位置認識部4は、光の通過を許容する許容部21、及び光を遮断する遮断部22のパターンによって構成される第1の層20を備える。従って、観測する方向によって、一部の光が遮断部22で遮断されると共に、一部の光が許容部21を通過する。また、位置認識部4は、許容部21を介して視覚的に認識可能な部材(ここでは再帰反射部材31)を有する第2の層30を備える。従って、第1の層20における光の通過態様に基づいて、第2の層30の視覚的な認識態様が変化する。ここでは、光を反射した箇所における再帰反射部材31が光ったような態様にて視覚的に認識される。このような第2の層30の認識態様の変化は、観測する方向に応じた視覚情報として用いることができるため、当該視覚情報に基づいてマーカ1の位置を精度よく認識することが可能となる。
【0041】
ここで、位置認識部4は、第1の層20の裏側に第2の層30を設けただけのシンプルな構造である。また、第2の層30の認識態様は、第1の層20のパターンの設計によって調整可能であるため、第1の層20に対して第2の層30を精度良く位置合わせする必要がない。以上より、製造が容易でありながら、高い精度でマーカの位置を認識できる。
【0042】
例えば、比較例としてレンチキュラーレンズを位置認識部に用いたマーカについて説明する。この場合、レンチキュラーレンズに対して、集光位置に確認可能なマークなどを印刷する必要がある。この場合、マークの位置とレンチキュラーレンズの位置とを精度よく位置合わせしなくてはならないので、製造に手間がかかる。また、本体部の樹脂成形品とは別に、レンチキュラーレンズ、及び当該レンチキュラーレンズに関連する部品を準備しなくてはならず、部品点数が増加してしまう。これに対し、本実施形態においては、位置認識部4は、第1の層20と第2の層30とを精度よく位置合わせしなくとも、再帰反射部材31を有する第2の層30に第1の層20を被せるだけで容易に製造することができる。また、レンチキュラーレンズのような特別な部品を準備しなくとも、本体部10にスリットのパターンを一体成形するだけでよいので、部品点数を少なくすることもできる。
【0043】
第2の層30の部材は、光を反射する反射部材によって構成されてよい。これにより、第2の層30は、第1の層20の許容部21を通過して来た光を反射によって、観測位置に戻すことができる。そのため、観測位置から、第2の層30の反射光が見えやすくなるため、位置認識部4の視覚情報の視認性が向上する。
【0044】
反射部材は、再帰反射部材31であってよい。これにより、第2の層30は、観測位置からの光を当該観測位置へ向けて反射することができる。そのため、観測位置から第2の層30の反射光が更に見えやすくなるため、位置認識部4の視覚情報の認識性が更に向上する。更に、再帰反射部材31を用いた場合、カメラ102の光を位置認識部4における視覚情報に用いることができるため、外乱(例えば暗い場所など)による影響を小さくすることができ、例えば屋内外や時間を問わずに使用できる。
【0045】
第1の層20の許容部21は、一対の遮断部22間に形成されるスリット23によって形成されてよい。従って、スリット23を複数並べるだけで第1の層20を形成することができるため、製造の容易性が向上する。
【0046】
第1の層20の遮断部22は、基材60の表面60a及び裏面60bに形成された光を散乱させる散乱部61のパターンによって構成され、第1の層20の許容部21は、基材60の表面60a及び裏面60bのうち、散乱部61が形成されていない透過部62のパターンによって構成されてよい。従って、基材60の表面60a及び裏面60bに散乱部61のパターンを形成するだけで、第1の層20を形成することができる。
【0047】
許容部21は、位置認識部4の中央位置から外側へ離れるに従って、通過を許容する光の厚さ方向D3に対する傾斜角度を外側へ大きくするように構成されていてよい。このような構成は、観測する方向に応じて観測する視覚情報の変化を得るのに好適である。
【0048】
なお、第2の層30として再帰反射部材31を用いた場合、観測点から、出射された光は、第1の層20を通り、第2の層30で反射され、観測点に戻す事が可能なため、観測点の出射パターンに合わせて画像処理することが可能である。たとえば、観測点から射出される光の強度パターンや波長パターンに応じて、そこから得られる受光画像パターンを画像処理し、差分化処理などを行う事で、外乱ノイズの影響を減らし、日中など外乱光ノイズが強い環境化においても効率的に認識することができる。
【0049】
また、観測点から射出される光の強度パターンは、人間の残像効果が得られる時間が、50msから100msの間であるので、パルス射出時間が50ms以下でかつ、間隔が、100ms以上の場合には、人間の目には、発光現象の認識が難しくなるので、作業車の視野を妨げない利点も得ることが出来る。逆に、パルス射出時間が50ms以上でかつ、間隔が、100ms以下の場合には、人間の目には、常に光っているように見せることができる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、第2の層30の部材として再帰反射部材31が採用されたが、許容部21を介して視覚的に視認可能な部材であれば特に限定されない。例えば、第2の層30として、鏡や鏡面仕上げされた金属などのように、単純な反射部材が採用されてもよい。一方、第2の層30として、凹凸構造などすりガラス状の構造に金属コートされた表面を用いて、反射による散乱現象を用いた反射部材が採用されてもよい。または、第2の層30として、第1の層20とは反対の色を有する部材が採用されてもよい。この場合、
図4に示す特徴部40では、第2の層30の色が画像中で視覚的に視認することができる。
【0052】
また、位置認識部4の視覚情報は、上述のように、真っ直ぐなスリットの配列パターンによって得られるものに限定されない。例えば、
図5に示すような位置認識部4が採用されてもよい。
図5では、カメラ102側から見たときの許容部21の形状、及び配列パターンが示されている。
【0053】
図5(a)(b)に示すように、許容部21がV字状に屈曲した形状を有してよい。また、
図5(c)に示すように、許容部21がC字状に湾曲した形状を有してもよい。
図6には、
図5(a)のパターンにおいて、特徴部40がどのように変化するかが示されている。
図6(a)に示すように、カメラ102が0°の場合、中央位置において互いに対向する許容部21にて特徴部40が確認される。
図6(b)に示すように、カメラ102が右斜めに傾いた場合、特徴部40が右側へ移動する。
【0054】
図5(d)に示すように、許容部21がドットの行列パターンを形成してもよい。この場合、
図7に示すように、視覚情報の変化態様も様々なパターンが採用可能である。例えば、
図7(a)に示すように、カメラ102が0°の場合、中央位置の列のドットにて特徴部40が確認される。
図7(b)に示すように、カメラ102が右斜めに傾いた場合、特徴部40が右側へ移動する。あるいは、
図7(c)の破線の矢印に示すように、カメラ102の角度に応じて特徴部40がジグザグに蛇行するように移動してよい。例えば、
図7(c)に示すように、カメラ102が0°の場合に中央位置に配置される特徴部40が、カメラ102の右斜めへの移動に伴い、右側へ移動してもよい(
図7(d)参照)。また、
図7(e)の破線の矢印に示すように、カメラ102の角度に応じて特徴部40が往復するように蛇行してよい。例えば、
図7(e)に示すように、カメラ102が0°の場合に中央位置の一番上の行に配置される特徴部40が、カメラ102の右斜めへの移動に伴い、一番下の行の右側へ移動してもよい(
図7(f)参照)。
【0055】
その他、許容部21の形状として様々なバリエーションを採用してもよい。例えば、
図5(e)(f)に示すように、菱形の許容部21を採用してもよく、
図5(g)に示すように、楕円の許容部21を採用してもよく、
図5(h)に示すように四角形の許容部21を採用してもよい。
【0056】
また、
図5(i)に示すように、許容部21の形状を混在させることで視覚情報を変化させてもよい。例えば、
図8の最上段に示すように、カメラ102が0°の場合は、中央位置に特徴部40が確認されると共に、左右の端部に円形の特徴部141A,141Bが確認される。このとき、左右を移動する特徴部40は角度の絶対値を示し、右側の特徴部141Aは角度がプラスの値であることを示し、左側の特徴部141Bは角度がマイナスの値であることを示してよい。従って、二段目と三段目は絶対値が「1°」で共通するので特徴部40の位置は同じになるが、プラスの角度である二段目は右側の特徴部141Aが確認され、マイナスの角度である三段目は左側の特徴部141Bが確認される。四段目は絶対値が「5°」と大きくなるため、特徴部40が端部側へ大きく移動する。
【0057】
また、カメラ102の角度によって移動する特徴部の形状や並び方は特に限定されない。例えば、
図9(a)に示すように、スリット形状が縦並び(上下方向の配列)になることにより、角度によって上下方向に特徴部40が移動してもよい。また、
図9(b)に示すように、スリット形状が二列に並んでいてもよい。例えば、マイナスの角度の場合には、特徴部40が上側の列を移動し、プラスの角度の場合には、特徴部40が下側の列を移動してよい。
【0058】
また、角度に応じて特徴部40が移動するような視覚情報だけでなく、角度に応じて複数の特徴部40の並び方のパターンが変化するような視覚情報が採用されてもよい。例えば、
図10(a)に示すように、複数の特徴部40が、角度に応じて二次元パターンを変化させてもよい。また、角度に応じて、特徴部40の形状自体が変化してもよい。例えば、
図10(b)に示すように、プラスの角度の場合は、角度が大きくなるに従って特徴部40が右側へ移動するのみならず、特徴部40が、下辺が右側へ寄るような平行四辺形で示されてよい。
【符号の説明】
【0059】
1・・・マーカ、4,4A,4B・・・位置認識部、20・・・第1の層、21・・・許容部、22・・・遮断部、23・・・スリット、30・・・第2の層、31・・・再帰反射部材、61・・・散乱部、62・・・透過部。