IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学の特許一覧

特許7405386クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体
<>
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図1
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図2
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図3
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図4
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図5
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図6
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図7
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図8
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図9
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図10
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図11
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図12
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図13
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図14
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図15
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図16
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図17
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図18
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図19
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図20
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図21
  • 特許-クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】クロストリジウム・ディフィシル菌に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231219BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K9/19
A61K39/08
A61K39/395 R
A61P31/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023107219
(22)【出願日】2023-06-29
(62)【分割の表示】P 2022566303の分割
【原出願日】2022-06-30
(65)【公開番号】P2023123746
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021110421
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」「腸管IgA抗体による腸内細菌叢制御機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】新藏 礼子
(72)【発明者】
【氏名】森 智行
(72)【発明者】
【氏名】玉野 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】堂前 直
(72)【発明者】
【氏名】箱嶋 敏雄
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0003104(US,A1)
【文献】国際公開第2014/142084(WO,A1)
【文献】特開2017-001987(JP,A)
【文献】日本臨床免疫学会会誌,2017年,Vol.40, No.6,p.408-415
【文献】The Japanese Journal of Antibiotics,2017年,Vol.70, No.1,p.1-13
【文献】Nature Microbiology,2016年,Vol.1,Article No.16103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む参照抗体に対して、
重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3および軽鎖FR1から選択される少なくとも一つの領域において、少なくとも一つのアミノ酸変異を有し、
大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIASおよびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPEに結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
GVYYCFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が、
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含み、
、X、Xはそれぞれ独立に中性極性アミノ酸または酸性極性アミノ酸であり、Xは非極性アミノ酸または中性極性アミノ酸であり、
、Xはそれぞれ独立に非極性アミノ酸である抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、Xがアラニンであり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQAを含むものを除く、前記抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
GVYYCFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含み、
、Xはそれぞれ独立にアスパラギンまたはアスパラギン酸であり、Xはグルタミンまたはグルタミン酸であり、Xはアラニンまたはセリンであり、Xはロイシンまたはメチオニンであり、Xはアラニンまたはバリンである抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQASISCRAを含むものを除く、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号31または41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32、42~44のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号34または52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに、
配列番号53~56のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む抗体であって、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むものを除く、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号53~55のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1を含む軽鎖可変領域を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体またはその抗原結合断片が、
(1)
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む;
(2)
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む;
(3)
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む;
(4)
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号54で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む;
(5)
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む;または
(6)
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに
配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載される抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【請求項7】
請求項6に記載される核酸を含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項6に記載される核酸、または請求項に記載の発現ベクターを含む細胞。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載される抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体または添加物を含む医薬組成物。
【請求項10】
凍結乾燥状態である、請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストリジウム・ディフィシル菌(Clostridium difficile菌(C. difficile菌))に結合する抗体およびその抗原結合断片並びにこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管内は、生体にとっては言わば「体外」に当たるため、非常に多種、且つ多数の腸内常在細菌、ウイルス、食物由来等の抗原に、常に晒された状態となっている。この様な腸内常在細菌は、腸内細菌叢を形成している。
【0003】
この腸内細菌叢は、腸上皮細胞等から構成される粘膜面を介して、生体に対して様々な機能を果たしていることが明らかになっており、腸内細菌が存在しないと腸管免疫系が正常に発達しないことも分かっている(非特許文献1~3)。
【0004】
腸内細菌叢が変化して宿主との共生関係が崩れると、腸管免疫系が過剰に刺激されてその恒常性が破綻し、延いては炎症性腸疾患、大腸がん、喘息、アレルギー、肥満等といった多くの疾患が誘発されてしまう。この様なことから、腸管免疫系は病原体等を排除するだけではなく、免疫系全体の恒常性の維持に重要な役割を担っていることが知られている(非特許文献4~7)。
【0005】
従来、抗生物質を用いて腸内細菌叢を制御しようという試みが多数行われてきたものの、抗生剤耐性菌の問題で効かなくなることが問題点として挙げられている。したがって、従来の試みにも関わらず、依然としてディフィシル腸炎や、そのほかの腸内細菌叢に関連する炎症性腸疾患で苦しむ患者が多数存在する。また、比較的新たなアプローチとして、糞便移植などが試みられているものの、その治療効果は安定していない。その結果、すでにいくつかの試みでは治療法としての開発が中止されている。また、従来、腸内細菌叢の放出する毒素に対する抗体を治療薬として利用することが研究され、商品化されている。しかしながら、当該抗体医薬は、あくまで毒素に対するものであるから、これを用いた治療法は対処療法でしかない。したがって、腸内細菌叢に関連する炎症性腸疾患を根本的に治療するための医薬の開発が望まれていた。
【0006】
炎症性腸疾患に関係するC. difficile菌は、院内感染を引き起こす菌として、MRSAとともに注意が必要な菌である。実際、米国の統計では、毎年40~50万人程度が感染し、15000~20000人程度が亡くなっている。C. difficile菌感染は多くの場合、抗生物質を長期投与している患者に発生すること、一度罹患すると、再発生する確率が15-35%と高い疾患である点で、炎症性腸疾患関連細菌の中でも、とりわけ有効な治療が求められている。現状ではバンコマイシンなど強力な抗生物質による治療が行われているが、そもそも菌の毒素は残ってしまうこと、抗生物質耐性を有する菌の発生を助長することから、代替手法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Cerf-Bensussan N,and Gaboriau-Routhiau V.,Nat Rev Immunol 2010;10:735
【文献】Hooper LV,and Macpherson AJ.,Nat Rev Immunol 2010;10:159
【文献】Round JL,and Mazmanian SK,Proc Natl Acad Sci USA 2010;107:12204
【文献】Vijay-Kumar M,et al.,Science 2010;328:228
【文献】Shulzhenko N,et al.,Nat Med 2011;17:1585
【文献】Bry L,et al.,Science 1996;273:1380
【文献】Turnbaugh PJ,et al.,Nature 2006;444:1027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腸内細菌叢を制御することを目的に、C.difficile細菌体を含む腸内細菌に結合する抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らが鋭意研究を進めた結果、腸内細菌、特にC.difficile細菌体およびその他の腸内細菌の細菌体に結合する抗体を見出した。
【0010】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0011】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0012】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0013】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0014】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0015】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0016】
本発明は一態様において、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む参照抗体に対して、
重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3および軽鎖FR1から選択される少なくとも一つの領域において、少なくとも一つのアミノ酸変異を有し、
大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIASおよびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPEに結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0017】
本発明は一態様において、
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
GVYYFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が、
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含む
、X、Xはそれぞれ独立に中性極性アミノ酸または酸性極性アミノ酸であり、Xは非極性アミノ酸または中性極性アミノ酸であり、X、Xはそれぞれ独立に非極性アミノ酸である抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、Xがアラニンであり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQAを含むものを除く、抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0018】
本発明は一態様において、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を提供する。
【0019】
本発明は一態様において、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を含む発現ベクターを提供する。
【0020】
本発明は一態様において、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、または当該核酸を含む発現ベクターを含む細胞を提供する。
【0021】
本発明は一態様において、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体または添加物を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明は一態様において、個体における炎症性腸疾患に関連するクロストリジウム・ディフィシル細菌の増殖を抑制する方法であって、有効量の前記医薬組成物を、前記個体に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明は一態様において、
1)腸管粘膜固有層または脾臓から採取されたB細胞と、それ以外の種類の細胞を混合して融合させ、ハイブリドーマを作製する工程、
2)前記ハイブリドーマを培養し、クロストリジウム・ディフィシル細菌体と結合する抗体を産生する細胞を決定する工程、および
3)前記クロストリジウム・ディフィシル細菌体と結合する抗体を産生する細胞から抗体を回収する工程
を含む、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合する抗体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明はより具体的には以下を提供する。
[項目1]
クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合し、
a)
配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片;
b)
配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片;
c)
配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合断片;または
d)
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む参照抗体に対して、
重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3および軽鎖FR1から選択される少なくとも一つの領域において、少なくとも一つのアミノ酸変異を有し、
大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIASおよびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPEに結合する抗体またはその抗原結合断片。
[項目2]
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域;
配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域;または
配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域
を含む項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目3]
配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号8で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目4]
配列番号17で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号18で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目5]
配列番号27で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号28で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目6]
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
GVYYFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が、
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含み、
、X、Xはそれぞれ独立に中性極性アミノ酸または酸性極性アミノ酸であり、Xは非極性アミノ酸または中性極性アミノ酸であり、X、Xはそれぞれ独立に非極性アミノ酸である抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、Xがアラニンであり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQAを含むものを除く、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目7]
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
GVYYFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASX5SVSLGDRX6のアミノ酸配列を含み、
、Xはそれぞれ独立にアスパラギンまたはアスパラギン酸であり、Xはグルタミンまたはグルタミン酸であり、X4はアラニンまたはセリンであり、Xはロイシンまたはメチオニンであり、Xはアラニンまたはバリンである抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQASISCRAを含むものを除く、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目8]
配列番号31または41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32、42~44のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;配列番号34または52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに、
配列番号53~56のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む抗体であって、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むものを除く、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[項目9]
項目1~8のいずれか一項に記載される抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
[項目10]
項目9に記載される核酸を含む発現ベクター。
[項目11]
項目9に記載される核酸、または項目10に記載の発現ベクターを含む細胞。
[項目12]
項目1~8のいずれか一項に記載される抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体または添加物を含む医薬組成物。
[項目13]
凍結乾燥状態である、項目12に記載の医薬組成物。
[項目14]
1)腸管粘膜固有層または脾臓から採取されたB細胞から抗体産生不死化細胞を作製する工程、
2)前記抗体産生不死化細胞を培養し、クロストリジウム・ディフィシル細菌体と結合する抗体を産生する細胞を決定する工程、および
3)前記クロストリジウム・ディフィシル細菌体と結合する抗体を産生する細胞から抗体を回収する工程
を含む、クロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合する抗体の製造方法。
[項目15]
前記工程2が、担体に固定された細菌体に対して結合する抗体を産生する細胞を決定することにより行われる、項目14に記載のクロストリジウム・ディフィシル細菌体に結合する抗体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、腸内細菌、特にC.difficile細菌体およびその他の腸内細菌の細菌体に結合する抗体およびその抗原結合断片、ならびにその使用を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、C. difficile細菌体に結合する抗体によるC. difficile菌増殖抑制効果を示す図である。
図2図2は、C. difficile細菌体に結合する抗体によるC. difficile感染抑制効果を示す図である。C. difficile細菌体に結合する抗体として、SNK0002MおよびW27G2を用いた結果を示す。
図3図3は、C. difficile細菌体に結合する抗体によるC. difficile感染抑制効果を示す図である。C. difficile感染後4日後(左パネル)および10日後(右パネル)における、糞便中のC. difficile生菌数を示す。C. difficile細菌体に結合する抗体として、SNK0002MおよびW27G2を用いた結果を示す。
図4図4は、C. difficile細菌体に結合する抗体の、大腸ガン原因菌と考えられているフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に対する増殖抑制効果を示す図である。C. difficile細菌体に結合する抗体として、抗体SNK0001M、SNK0003A、SNK0001MR、SNK0002MR、SNK0001AR、SNK0002ARおよびRS_H000_L001を用いた結果を示す。
図5図5はC. difficile菌の抗原分子を特定した際の2次元電気泳動データを示す図である。3種のSDS-PAGE画像中の同一のスポットを赤矢印で示す。当該スポットから得られた試料について、質量分析を実施した。
図6図6は、各種合成ペプチドに対するW27G2抗体のウェスタンブロットとCBB染色の結果を示す図である。グレーの文字は各細菌種で共通のアミノ酸配列を示す。下線はW27G2抗体が認識した合成ペプチドを示す。
図7図7は、各種合成ペプチドに対するW27G2抗体のウェスタンブロットとCBB染色の結果を示す図である。グレーの文字は各細菌種で共通のアミノ酸配列を示す。下線はW27G2抗体が認識した合成ペプチドを示す。
図8図8は、W27G2抗体が認識する大腸菌のSHMTのエピトープを共有する細菌をデータベース解析した結果の一部を示す図である。
図9図9は、RS_H000_L000GR Fab - E. coli SHMT (25-45)の結晶を示す図である。
図10図10は、RS_H000_L000GR Fab-C. difficile iPGM (486-509)複合体の結晶を示す図である。
図11図11は、W27G2抗体と大腸菌SHMT抗原の結合様式(左)および、W27G2抗体とC. difficile細菌iPGM抗原の結合様式を示す3次元再構成画像である。
図12図12は、W27G2抗体と大腸菌SHMT抗原の結合様式(左)および、W27G2抗体とC. difficile細菌iPGM抗原の結合様式を示す3次元再構成画像である。
図13図13は、本発明のC. difficile細菌体に結合する抗体であるW27G2抗体の変異体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を整列したものである。
図14図14は、本発明のC. difficile細菌体に結合する抗体であるW27G2抗体の変異体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を整列したものである。
図15図15はRS変異体リコンビナント精製抗体を非還元型SDS-PAGEに供し、クマシーブルー染色を行った結果を示す図である。レーン1は、W27G2ハイブリドーマ培養液からヒドロキシアパタイトカラムによって粗精製された抗体サンプルの結果を示す。レーン2~14は、CHO細胞によって産生された各種RS変異体リコンビナント精製抗体(W27G2抗体に対して、抗原特異性を実質的に変更しないように重鎖または軽鎖に変異を導入して、CHO細胞で産生された抗体を、RS変異体リコンビナント精製抗体。図15において詳細は省く)サンプルの結果を示す。
図16図16は、ハイブリドーマから得られたW27G2抗体および各種RS変異体リコンビナント精製抗体の、大腸菌SHMTおよびSHMT変異体に対する結合を示す図である。
図17図17は、W27G2抗体および各種RS変異体リコンビナント精製抗体について、複数の細菌の総タンパク質に対する特異的結合特性を示す図である。W27G2抗体として、W27G2-CHT(W27ハイブリドーマ培養上清をヒドロキシアパタイトカラムで粗精製したもの)、W27G2-GF(W27CHTをさらにゲル濾過カラムで多量体画分を精製したもの)を用い、RS変異体リコンビナント精製抗体として、RS_H000_L001、RS_H000_L005およびRS_H007_L005を使用した。
図18図18は、各種RS変異体リコンビナント精製抗体による、大腸菌増殖抑制効果を示す図である。
図19図19は、二つのリコンビナントIgA抗体、抗体RS_H000_L001(rW27)およびSNK0002ARがそれぞれ、C. difficile感染マウスの体重減少および生存率低下を抑制したことを示す図である。
図20図20は、二つのリコンビナントIgA抗体、抗体RS_H000_L001(rW27およびSNK0002AR並びにVancomycinの投与後の、便中のC. difficile菌含有量を示す図である。
図21図21は、二つのリコンビナントIgA抗体、抗体RS_H000_L001(rW27)およびSNK0002AR並びにrW27 IgG抗体、およびVancomycinの投与後14日時点(死亡したマウスは死亡時点)で採集した便における16S rRNA分析により、細菌のorder levelの相対的存在比率を解析した結果を示す図である。
図22図22は、二つのリコンビナントIgA抗体、抗体RS_H000_L001(rW27)およびSNK0002AR並びにrW27 IgG抗体、およびVancomycinの投与後14日時点(死亡したマウスは死亡時点)で採集した便における16S rRNA分析結果を用いて、β-diversity解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(定義)
本明細書において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。
【0028】
本明細書において、「抗体」とは最も広い意味において使用され、意図された抗原結合活性を示すモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び抗体断片を含むが、これらに限定されない。全長抗体は主としてポリペプチドで構成される重鎖及び軽鎖を含む。重鎖および軽鎖は、それぞれ抗原を認識する可変領域と呼ばれる部位を含み、当該部位は一般的に、それぞれ重鎖可変領域及び軽鎖可変領域と呼ばれる。当該可変領域は、さらに詳細に抗原を認識する部位として特定される、それぞれCDR1~3と呼ばれる部位をアミノ末端から順に有する。なお、これらのCDR1~3は、より詳細に重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3等とも呼ばれる。また、重鎖及び軽鎖のCDR1~3以外の領域は、それぞれアミノ末端から順に、重鎖FR1~4及び軽鎖FR1~4と呼ばれる。抗体は2つの重鎖および2つの軽鎖からなる形態のほか、1つの重鎖および1つの軽鎖からなる抗体(1本鎖抗体とも呼ばれる)の形態であってもよい。
【0029】
抗体は、任意のクラス、例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY等、あるいはサブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1もしくはIgA2等であってよい。
【0030】
抗体は同一種に由来するアミノ酸配列を有していても異種に由来するアミノ酸を有していてもよい。同一種由来の場合、例えば、ヒト由来、マウス由来、ラット由来、ハムスター由来、ウサギ由来、ヤギ由来、ロバ由来、ブタ由来、ウシ由来、ウマ由来、ニワトリ由来、サル由来、チンパンジー由来、ラクダ由来、ラマ由来等が挙げられる。
【0031】
異種由来の場合も、特に限定はされないが、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、サル、チンパンジー、ラクダ、ラマ等の何れか2つ以上に由来する抗体が挙げられる。
【0032】
本明細書において、抗体の「抗原結合断片」は、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の抗原に特異的に結合する能力は、その一部からなる断片によっても維持されうることがわかっている。一態様として、抗体の「抗原結合断片」は、軽鎖可変領域(VL)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖定常領域(CL)および重鎖定常領域の一部であるCH1ドメインからなるFab断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結した2つのFab断片を含むF(ab’)2断片、VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、単一の可変ドメインを含むdAb断片、および単離された相補性決定領域(CDR)であり得るが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の抗体は、CDRグラフト化された抗体であってもよい。一例において、CDRグラフト化された抗体では、1つの動物種に由来する抗体のCDR領域の一部または全部の配列が、別の動物種のCDR配列で置換されている。例えば、1つ以上のマウス抗体のCDRがヒト抗体のCDR配列で置換されている。
【0034】
抗体の重鎖可変領域中の重鎖CDR1~3および軽鎖可変領域中の軽鎖CDR1~3を同定する際には当業者に周知の方法を用いることができる。例えば、例えば当業者に周知の「Kabat定義」(Kabatら、Ann.NY Acad、Sci.1971、Vol.190、pp.382-391およびKabat、E.A.らSequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、1991、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication、pp.91-3242)、「Chothia定義」(Chothia et al., Nature、1989、Vol.342、pp.877-883)、「接触定義」(MacCallum et al.,J.Mol.Biol.,1996、Vol.262、pp.732-745)などを用いることができる。抗体内のCDR配列を同定するのに、公共データベースの情報に基づいてCDRを同定してもよい。
【0035】
本明細書において「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列又は塩基配列の、お互いに対する同一のアミノ酸配列又は塩基配列の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列又は塩基配列の同一性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。アミノ酸配列又は塩基配列の同一性のレベルは、通常は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメーターを用いて決定される。または、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(例えば、Karlin S,Altschul SF.Proc.Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、Karlin S,Altschul SF.Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993)等)を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(例えば、Altschul SF,GishW,Miller W,Myers EW,Lipman DJ.J Mol Biol.215:403-10(1990)等)。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、NCBIのウェブサイトを参照することができる。例えば、あるアミノ酸配列Aが、他のアミノ酸配列Bと特定の%同一であるとは、アミノ酸配列Aとアミノ酸配列Bが当該%の同一性を有することを意味する。
【0036】
本明細書において、「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体等の特徴を示す修飾語である。このような抗体の集団に含まれる個々の抗体は、微量に存在し得る、可能な天然に生じる突然変異を除いて同一である。
【0037】
本明細書において「保存的な置換技術」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換される技術を意味する。
【0038】
例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換技術にあたる。
【0039】
本明細書において、「腸内細菌」とは、生体内の腸内に常在する細菌であれば特に限定はされない。この様な腸内細菌としては、生体内で腸内細菌叢を形成し、腸内免疫系の恒常性の維持に関与する細菌が挙げられる。
【0040】
具体的な腸内細菌としては、特に限定されるものでは無いが、例えば、
Prevotella属に属する細菌、
Bacteroides属に属する細菌、
Megamonas属に属する細菌、
Bifidobacterium属に属する細菌、
Faecalibacterium属に属する細菌、
Coprococcus属に属する細菌、
Ruminococcus属に属する細菌、
Blautia属に属する細菌、
Eubacterium属に属する細菌、
Roseburia属に属する細菌、
Lactobacillus属に属する細菌、
Clostridium属に属する細菌、
Escherichia属に属する細菌、
Staphylococcus属に属する細菌、
Enterococcus属に属する細菌、
Pseudomonas属に属する細菌、
Enterorhabdus属に属する細菌、
Fusobacterium属に属する細菌
等が挙げられる。
【0041】
(C.difficile細菌体に結合する抗体またはその抗原結合断片)
本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、C.difficile細菌に結合する。典型的には、本発明の抗体は培養上清中に存在する破壊されていないC.difficile細菌に結合する。
【0042】
本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、ハイブリドーマなどのB細胞由来の抗体産生細胞から産生されたものを使用してもよく、遺伝子組み換え技術を用いて、当該抗体をコードする核酸を免疫系以外の細胞に導入して産生したものを、リコンビナント抗体として使用してもよい。
【0043】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0044】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む。
【0045】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号7で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号8で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
【0046】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、脾臓由来B細胞から得られたハイブリドーマが産生性するIgM抗体SNK0001Mである。抗体SNK0001Mをコードする核酸配列を決定し、組み換え技術を適用して産生されたリコンビナント精製抗体SNK0001MR、およびIgA抗体としたリコンビナント精製抗体SNK0001ARも同様に用いることができる。
抗体SNK0001ARは、以下のアミノ酸配列構成を有している。
【0047】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0048】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む。
【0049】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号17で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号18で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
【0050】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、脾臓由来B細胞から得られたハイブリドーマが産生性するIgM抗体SNK0002Mである。抗体SNK0002Mをコードする核酸配列を決定し、組み換え技術を適用して産生されたリコンビナント精製抗体SNK0002MR、およびIgA抗体としたリコンビナント精製抗体SNK0002ARも同様に用いることができる。
抗体SNK0002ARは、以下のアミノ酸配列構成を有している。
【0051】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の重鎖CDR1のアミノ酸配列、重鎖CDR2のアミノ酸配列、および重鎖CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖CDR1のアミノ酸配列、軽鎖CDR2のアミノ酸配列、および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0052】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域を含む。
【0053】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号27で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および
配列番号28で表されるアミノ酸配列または、これと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
【0054】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、腸管粘膜固有層由来B細胞から得られたハイブリドーマが産生性するIgA抗体SNK0003Aである。抗体SNK0003Mをコードする核酸配列を決定し、組み換え技術を適用して産生されたリコンビナント精製抗体SNK0003MR、およびIgA抗体としたリコンビナント精製抗体SNK0003ARも同様に用いることができる。
抗体SNK0003Aは、以下のアミノ酸配列構成を有している。
【0055】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む参照抗体に対して、
重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3および軽鎖FR1から選択される少なくとも一つの領域において、少なくとも一つのアミノ酸変異を有し、
大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIAS(配列番号72)およびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPE(配列番号73)に結合する抗体である。
【0056】
上記抗体の有する少なくとも一つのアミノ酸変異は、上記参照抗体のアミノ酸配列を有する抗体と大腸菌SHMTタンパク質、および参照抗体のアミノ酸配列を有する抗体とC.difficileのiPGMタンパク質の結合体の立体構造解析の結果を利用することにより、当業者に利用可能な技術を適用することによって特定することができる。参照抗体に対するアミノ酸変異の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上であってよい。
【0057】
このような参照抗体は、重鎖可変領域としてW27G2_HV(配列番号37)、軽鎖可変領域としてW27G2_LV(配列番号38)を有する抗体であれば特に限定されない。例えば、IgG抗体(W27RS_H000_L000GR)を用いることができる。抗体W27RS_H000_L000GRは、腸管粘膜固有層由来のB細胞から得られたハイブリドーマの産生する抗体W27G2と同一の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有している。
【0058】
特定された変異を有する抗体が実際に大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIASおよびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPEに結合することは、ELISAやウェスタンブロットなど、当業者に周知の方法によって確認することができる。
【0059】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
GVYYFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含み、
、X、Xはそれぞれ独立に中性極性アミノ酸または酸性極性アミノ酸であり、Xは非極性アミノ酸または中性極性アミノ酸であり、X、Xはそれぞれ独立に非極性アミノ酸である抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、Xがアラニンであり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQAを含むものを除く抗体である。
【0060】
上記抗体は、3次元構造解析により、大腸菌SHMTタンパク質中のアミノ酸配列RQEEHIELIASおよびC.difficileのiPGMタンパク質中のアミノ酸配列VLDMMKLEKPEに対して、W27G2抗体と同様の結合様式を有するように設計されたものであり、実際にこれら細菌に対してW27G2抗体と同様の結合様式、および、細菌増殖抑制効果を奏する。
【0061】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、
YYIHのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
RIDPENXTTYAPKFQのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
YCARSTVLのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、ならびに
RXSQSIVHTNGのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
KLLIYKVのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
GVYYFQGSのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域を含み、
軽鎖FR1が
TPLSLPVSLGDQAのアミノ酸配列または
SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含み、
、Xはそれぞれ独立にアスパラギンまたはアスパラギン酸であり、Xはグルタミンまたはグルタミン酸であり、Xはアラニンまたはセリンであり、
はロイシンまたはメチオニンであり、Xはアラニンまたはバリンである抗体であって、
がアスパラギン酸、Xがアスパラギン酸、Xがグルタミン酸であり、Xがアラニンであり、かつ軽鎖FR1が配列TPLSLPVSLGDQAを含むものを除く抗体である。
【0062】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号31または41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32、42~44のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0063】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0064】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0065】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号43で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0066】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0067】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0068】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0069】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号43で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0070】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の重鎖は、
配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む。
【0071】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の軽鎖は、
配列番号34または52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む。
【0072】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の軽鎖は、
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む。
【0073】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体の軽鎖は、
配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む。
【0074】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域にProtein Lと結合する配列を含む。当該Protein Lと結合する配列を含む抗体分子またはその抗原結合断片は、Protein Lカラムを用いて精製することが可能となる。
【0075】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、SPASXSVSLGDRXアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、X、Xはそれぞれ独立に非極性アミノ酸である。
【0076】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、SPASXSVSLGDRXのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、Xはロイシンまたはメチオニンであり、Xはアラニンまたはバリンである。
【0077】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、配列番号53~55かなる群から選択される1つに表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0078】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、配列番号54に表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
当該配列は、Protein Lと抗体分子が結合するように、W27G2抗体の軽鎖FR1領域の配列TPLSLPVSLGDQA(配列番号56)に変異を導入したものである。
【0079】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、配列番号55に表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
当該配列は、Protein Lと抗体分子がより強固に結合するように、配列番号54に表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖FR1領域にさらに変異を導入したものである。
【0080】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合し、Protein Lと結合する配列を含む抗体またはその抗原結合断片は、配列番号58に表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
当該配列は、Protein Lと抗体分子がより強固に結合するように、配列番号54に表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の軽鎖FR1領域にさらに変異を導入したものである。
【0081】
本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、上記の重鎖および軽鎖のいずれの組み合わせを有していてもよく、Protein Lと結合する配列を含んでも含まなくてもよい。
【0082】
一態様において、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号31または41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号32、42~44のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域;
配列番号34または52で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;ならびに、
配列番号53~56のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む軽鎖FR1、
を含む軽鎖可変領域を含む抗体であって、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むものを除く抗体である。
【0083】
例えば、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、下記の重鎖可変領域のいずれかと、軽鎖可変領域のいずれかとの組み合わせを含む。
【0084】
好ましくは、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、下記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせを含む。
【0085】
好ましくは、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、下記を含む。
W27G2抗体に対して、抗原特異性を実質的に変更しないように重鎖または軽鎖に変異を導入して、CHO細胞で産生された抗体を、RS変異体リコンビナント精製抗体と呼ぶ。これらのRS変異体リコンビナント精製抗体は、さらにプロテインLへの結合のための変異を有している。
【0086】
本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、C.difficile細菌体に対して結合する他、他の疾患関連細菌に対しても結合する多重特異性を有することができる。例えば、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、さらに、大腸ガン原因菌と考えられているFusobacterium nucleatumにも結合し、好ましくはその増殖を抑制する。
【0087】
本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、その抗原結合特性を失わない範囲で、構成アミノ酸配列、例えばその重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖CDR1~3または軽鎖CDR1~3に変異を有することができる。当該変異は、置換、欠失、挿入等であってもよく、これらに限定されない。例えば置換であれば保存的な置換技術を採用することができる。さらに、3次元構造解析などを用いて、抗体と抗原の結合様式を詳細に解析することにより、本発明のC.difficile細菌体に結合する抗体は、その抗原結合特性を失わない範囲で様々な変異を導入することができる。
【0088】
(核酸)
本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸は、リボヌクレオチドであっても、デオキシヌクレオチドであってもよい。また、当該核酸の形態は特に限定されず、1本鎖の形態であっても、2本鎖の形態であってもよい。当該核酸配列の利用するコドンは特に限定されず、目的に応じて各種コドンを適宜選択して使用することができる。例えば、製造時に採用する宿主細胞の種類に応じて、コドン頻度などを考慮して適宜選択することができる。一態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸は、本発明に係る抗体またはその抗原結合断片を発現し、製造することに利用される。
【0089】
本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする塩基核酸が抗原結合断片をコードする場合、例えば、別個の核酸分子によってFv断片の2つのドメイン、VLおよびVHをコードしてもよく、組み換え技術を利用し、VLおよびVH領域対が一価分子を形成する単一のタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv))を単一の核酸によってコードしてもよい。
【0090】
本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする塩基核酸に関する配列情報を以下に例示する。
【0091】
(C.difficile細菌体に結合する抗体の製造方法)
本発明に係るC.difficile細菌体に結合する抗体の製造方法は、下記の工程1~3を含むことを特徴とする。
(工程1)
腸管粘膜固有層または脾臓から採取されたB細胞から、抗体産生不死化細胞を作製する工程。
(工程2)
上記工程1にて作製した抗体産生不死化細胞を培養し、C.difficile細菌体と結合する抗体を産生する細胞を決定する工程。
(工程3)
前記C.difficile細菌体と結合する抗体を産生する細胞から抗体を回収する工程。
【0092】
本発明に係る、C.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法には、工程3の後に、後述するような重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を必要に応じて、これらを適宜組み合わせた構成とするために、例えば、プロテアーゼ等によって処理する工程、ジスルフィド結合等の化学的結合が可能となるような、官能基を導入する工程、並びにそれに次いで前記官能基を介して前記化学的結合を形成させる工程等が含まれていてもよい。
【0093】
本発明のC.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法における上記工程1~3について、以下に詳述する。
【0094】
(工程1について)
本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法における工程1は、腸管粘膜固有層または脾臓から採取されたB細胞から、抗体産生不死化細胞を作製する工程である。
【0095】
腸管粘膜固有層(Lamina Propria)とは、特に限定はされないが、例えば食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸等を含む。)、大腸(盲腸、結腸、直腸等を含む。)等に存在する粘膜を構成する層の1つであって、上皮細胞を含む層と粘膜基板(Muscularis mucosae)との間に位置する層であればよい。中でも、リンパ系組織、毛細血管、リンパ管等を含んでいる、小腸に存在する腸管粘膜固有層が好ましい。
【0096】
脾臓の細胞としては、特に限定されないが、B細胞を含んだ細胞を使用することができる。
【0097】
腸管粘膜固有層または脾臓からB細胞を採取する方法は、特に限定はされないが、例えば腸管を採取し、得られた腸管を洗浄後に切開して粘膜層を露出させる。次いで、適当な濃度のEDTAを含む生理食塩水中で振盪させて上皮細胞を遊離させて除去する。その後、適当な濃度のコラゲナーゼ等といった消化酵素で処理することによって、B細胞を回収する方法が挙げられる。これ以外の公知の方法を採用してもよくまた、市販の腸管粘膜固有層または脾臓由来のB細胞を購入して入手してもよい。
【0098】
腸管粘膜固有層または脾臓の由来、すなわち上記B細胞の由来は、特に限定はされないが、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、サル、チンパンジー、ラクダ、ラマ等が挙げられる。
【0099】
腸管粘膜固有層または脾臓から採取されたB細胞から抗体産生不死化細胞を作成する工程には、当業者の公知の任意の方法を用いることができる。例えば、抗体産生不死化細胞として、当該B細胞とB細胞以外の種類を融合させて製造したハイブリドーマを作成することができ、また、B細胞にEBウイルス等を感染させることにより、不死化B細胞を作成することができるがこれらに限定されない。
【0100】
B細胞とB細胞以外の種類を融合させてハイブリドーマを製造する場合、当該B細胞以外の細胞の種類(本明細書において、「他の細胞」と呼ぶことがある。)とは、該B細胞と接触することによって融合してハイブリドーマを形成し、当該ハイブリドーマが上述したB細胞が発揮する、抗体を産生する機能を失わないものであれば特に限定されない。
【0101】
この様な他の細胞として、前記B細胞と融合してハイブリドーマを形成し、当該ハイブリドーマが不死化機能を獲得できるような細胞が好ましく、具体的にはガン細胞、中でも、ミエローマ等といった骨髄種に由来する細胞等が挙げられる。好ましい他の細胞は、ミエローマ、例えばマウスNS1細胞である。
【0102】
他の細胞の由来は、特に限定はされないが、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、サル、チンパンジー、ラクダ、ラマ等が挙げられる。
【0103】
融合とは、前記B細胞と他の細胞が一体不可分に合一することを意味する。ここで、一体不可分とは、融合した後の細胞が増殖する際の現象である細胞分裂は除外するものである。このようにして、融合した細胞が、本明細書におけるハイブリドーマの一例として挙げられる。
【0104】
混合及び融合時の条件は特に限定されず、細胞を融合する方法において通常用いられる条件を適宜採用すればよい。例えば、B細胞、又は他の細胞を培養する際に用いられる条件を適宜改変して行えばよい。このような方法として、例えば適当な培地中において、B細胞とB細胞以外の種類の細胞とを混合してポリエチレングリコール等の存在下でこれらを接触させる方法;上記混合の後に電気刺激を与える方法;センダイウイルス等のウイルスを用いる方法等の後に、これを37℃、5%の二酸化炭素の条件下でインキュベートする方法が挙げられる。
【0105】
融合にかかる時間も、特に限定されるものではなく、融合そのものが完了するまでの時間を適宜設定すればよい。融合が完了したことを確認する方法は、通常の細胞の融合を行う際に用いられる、公知の方法を適宜改変して行えばよい。このような方法として、例えば顕微鏡下にて融合の進行度合いを観察する方法が挙げられ、公知のキットを適宜選択して、その使用条件に沿って細胞を融合してもよい。
【0106】
(工程2について)
本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法における工程2は、上記工程1にて作製した抗体産生不死化細胞を培養し、C.difficile細菌体と結合する抗体を産生する細胞を決定する工程である。
【0107】
好ましくは、工程2は、担体に固定されたC.difficile細菌体全体に対して結合する抗体を産生する細胞を決定することにより行われる。好ましくは、固定されたC.difficile細菌体は溶菌処理を受けていない。例えば、C.difficile細菌体はNaCOバッファーで懸濁された状態でELISAプレートなどの担体に固定される。
【0108】
本発明の工程2の前に、工程1にて得られる抗体産生不死化細胞を、モノクローナル抗体を製造する際に通常用いられるような限界希釈法等のサブクローニング工程等に供していてもよい。
【0109】
C.difficile細菌体と結合する抗体を産生する抗体産生不死化細胞は、ELISA、EIA、RIA、FLISA、FIA等による手段、FACSによる手段等用いて決定することができる。
【0110】
また、上述の方法にて決定したC.difficile細菌体と結合する抗体産生不死化細胞を決定した後に、さらに別の腸内細菌とも結合する抗体を産生する抗体産生不死化細胞を決定する工程を含んでもよい。
【0111】
(工程3について)
本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法における工程3は、上記工程2で決定された、C.difficile細菌体と結合する抗体を産生する細胞から、抗体を回収する工程である。
工程3における具体的な回収方法は、特に限定はされないが、例えばIgA抗体を産生する細胞の培養液の上清を回収する方法、前記細胞の溶解液を回収する方法が挙げられる。細胞の溶解液は、超音波破砕、フレンチプレス等といった公知の機械的手段及び/又は界面活性剤、細胞壁消化酵素、細胞膜消化酵素を用いた公知の化学的処理による方法を適宜組み合わせて細胞を溶解し、その後固液分離工程に供した後の液相画分を回収して本発明のC.difficile細菌体と結合する抗体を製造することができる。
【0112】
上述の抗体産生不死化細胞から抗体分子を回収する前に、当該抗体産生不死化細胞を適当な培地を用いて一定期間培養した後に、上述のようにその上清を回収する方法、又は細胞の溶解液から回収する方法に供してもよい。この他にも、上述の抗体産生不死化細胞を免疫不全マウス等の動物個体に腹腔内投与し、斯かる個体の腹水から抗体を回収してもよい。
【0113】
なお、上述の方法で回収したC.difficile細菌体と結合する抗体は、適宜公知の精製工程に供してもよい。具体的な精製手段は、特に限定はされないが、例えばアセトン、硫酸アンモニウム等を用いた沈殿による精製手段;アフィニティ、陰イオン交換、陽イオン交換、サイズ排除、逆相等のカラムクロマトを用いた精製手段等といった、公知のタンパク質の精製手段を適宜組み合わせて採用すればよい。
【0114】
(リコンビナント抗体を製造する方法)
別の態様において、本発明のC.difficile細菌体と結合する抗体は、C.difficile細菌体と結合することの確認された抗体をコードする核酸を、モノクローナル抗体を産生し得る細胞に導入し、当該細胞を培養して、その細胞抽出液又は培養上清から、モノクローナル抗体を回収し、必要に応じて精製する方法が挙げられる。
【0115】
抗体がC.difficile細菌体と結合することを確認するためには、当業者に周知の手段を用いることができ、例えば、抗体分子または当該抗体を産生する細胞を、ELISA、EIA、RIA、FLISA、FIA等による手段、FACSによる手段等を用いて同定することにより確認することができる。
【0116】
上記モノクローナル抗体を産生し得る細胞とは、通常、哺乳類等に由来する高次構造を形成することによって機能を発揮する各種タンパク質を産生し得る細胞であれば、特に限定はされないが、例えばCOS細胞、HEK細胞(HEK293、HEK293T等)、HELA細胞、CHO細胞等の哺乳類由来の細胞、Sf9等といった昆虫由来の細胞等といった公知の細胞を適宜選択すればよい。一態様において、酵母細胞、糸状菌細胞、大豆、シロイヌナズナなどの植物細胞を用いてモノクローナル抗体を産生することもできる。
【0117】
具体的な核酸の導入方法、当該核酸を導入した細胞の培養条件、回収方法、精製方法については、用いる細胞の種類等によって区々であり、特に限定されず、公知の方法を適宜改変し、組み合わせることで、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体を製造することができる。
【0118】
一態様において、これら細胞内でモノクローナル抗体を産生したのち、これら細胞から培養液中に分泌されたモノクローナル抗体を、培養液とともに乾燥あるいは凍結乾燥することで、または、これら細胞中に蓄積したモノクローナル抗体を、これら細胞とともに粉砕、乾燥または凍結乾燥することで、経腸摂取に適した抗体含有組成物としてモノクローナル抗体を製造することもできる(Virdi et al., Nat. Biotechnol., 2019, Vol.37, pp.527-530)。一態様において、経腸摂取に適した抗体含有組成物を産生する細胞は、酵母細胞、糸状菌細胞、大豆、シロイヌナズナなどの植物細胞であることが好ましく、産生されるモノクローナル抗体はVHH断片がIgAFcに融合された形態であることが好ましい。
【0119】
本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体がキメラ抗体である場合、上述の核酸に関し、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列、並びに異種由来の重鎖定常領域及び軽鎖定常領域をコードする塩基配列を有する核酸を作製し、作製した重鎖可変領域をコードする塩基配列と重鎖定常領域をコードする塩基配列を有する核酸を結合させ、また作製した軽鎖可変領域をコードする塩基配列と軽鎖定常領域をコードする塩基配列を有する核酸を結合させ、結合させたこれら核酸を上述のように抗体を産生し得る細胞に導入すればよい。
【0120】
更に、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体が、重鎖及び/又は軽鎖CDR1~3がマウスに由来するアミノ酸配列を有し、それ以外の領域がヒトに由来するアミノ酸配列を有するといった態様の抗体である場合(これを、ヒト化抗体と称することもある。)の製造方法も、上述のキメラ抗体と同様に、重鎖及び/又は軽鎖CDR1~3をコードする塩基配列、並びにそれら以外の領域をコードする塩基配列を有する核酸を作製し、重鎖および軽鎖を構成するように核酸を再結合し、これらを上述のようにモノクローナルIgA抗体を産生し得る細胞に導入すればよい。抗体の結合能の保持のため、一部の塩基を他の塩基に置換する必要がある場合もある。
【0121】
(抗体産生不死化細胞)
本発明に係る抗体産生不死化細胞は、上述の本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体を産生する不死化細胞である。
【0122】
具体的な抗体産生不死化細胞とは、上述の〔C.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法〕における工程1で得られるものである。すなわち、上述の本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体の製造方法における工程1にて記載したB細胞を、それ以外の種類、すなわちB細胞以外の種類の細胞を混合させて融合した細胞、あるいは、EBウイルス等を感染させることにより不死化B細胞とした細胞である。
【0123】
ハイブリドーマは、同一種由来のハイブリドーマであっても、異種由来のハイブリドーマであってもよい。同一種由来のハイブリドーマは、上述の〔モノクローナルIgA抗体の製造方法〕において、前記B細胞と前記B細胞以外の種類の細胞の由来種を同一にすればよく、異種由来のハイブリドーマは、前記B細胞と前記B細胞以外の種類の細胞の由来種を異なるものにすればよい。
【0124】
同一種由来のハイブリドーマとしては、例えば上述〔モノクローナルIgA抗体の製造方法〕における工程1に記載した由来のうち、B細胞及びB細胞以外の種類の細胞の由来において重複するものから適宜選択すればよい。例えば、ヒト由来、マウス由来、ラット由来、ハムスター由来、ウサギ由来、ヤギ由来、ロバ由来、ブタ由来、ウシ由来、ウマ由来、ニワトリ由来、サル由来、チンパンジー由来、ラクダ由来、ラマ由来等の同一種由来ハイブリドーマが挙げられる。
【0125】
異種由来のハイブリドーマとしては、例えば上述の〔モノクローナルIgA抗体の製造方法〕における工程1に記載した由来のうち、B細胞及びB細胞以外の種類の細胞の由来において記載した由来から、それぞれ適宜選択したものを組み合わせればよい。例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、サル、チンパンジー等の由来を適宜組み合わせた異種由来のハイブリドーマが挙げられる。
【0126】
(医薬組成物)
本発明に係る医薬組成物は、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0127】
本発明に係る医薬組成物は、特に限定はされないが、例えばC.difficile細菌体と関連する疾患の治療のために好適に用いることができる。
【0128】
C.difficile細菌体と関連する疾患とは、特に限定はされないが、例えば、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アレルギー、喘息、肥満、自己免疫疾患、新生児壊死性腸炎等が挙げられ、中でも炎症性腸疾患が好ましい。
【0129】
このような本発明に係る医薬組成物は、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体またはその抗原結合断片を有効量含んでいればよく、例えば、医薬組成物100重量%中の本発明に係る抗体の含有割合が0.001~99.99重量%の範囲になるように、対象とする腸内疾患の種類、剤型、投与方法、投与対象、投与対象者の症状の度合い、並びに投与によって発揮される効果の程度等を勘案して、適宜設定することができる。
【0130】
本明細書にて使用する用語「有効量」とは、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体またはその抗原結合断片が腸内疾患等に対する治療効果を発揮できる量をいう。
【0131】
本発明に係る医薬組成物には、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体と共に、薬学的に許容可能な担体或いは添加物を配合しても良い。薬学的に許容可能な担体或いは添加物とは、任意の担体、希釈剤、賦形剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、媒体、送達システム、乳化剤、錠剤分解物質、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、香料、または甘味料を意味し、公知のものを採用すればよい。
【0132】
本発明に係る医薬組成物は、上述のC.difficile細菌と関連する腸内疾患に罹患した個体に投与する工程を含む腸内疾患の治療方法における利用可能性を有している。また、上述のような腸内疾患の病態や症状を発症していないものの、腸内疾患の素因を持ち得る個体に投与する工程を含む腸内疾患の予防方法における利用可能性も有している。これらの個体を、本発明に係る医薬組成物の投与対象とすればよい。
【0133】
この様な投与対象となる個体は、特に限定はされないが、例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ネコ、イタチ、ウシ、ブタ等の哺乳類、ニワトリなどの鳥類等が挙げられる。
【0134】
当該医薬組成物の投与量並びに投与方法は、投与対象となる個体が罹患する腸内疾患の種類、性別、種、年齢、全身状態、疾患の重篤度、所望する効果の程度等に区々ではある。投与量としては、通常は、0.001~100mg/kg/日の範囲で適宜設定すればよい。
【0135】
また、投与方法については、特に限定はされないが、消化管に直接投与することが好ましく、このような投与方法として、例えば経口投与、経鼻投与、経粘膜投与、経腸投与等が挙げられる。
【0136】
なお、経腸投与とは、肛門を介した投与には限られず、例えば胃瘻等の様に個体外からチューブ等を消化管に挿入して、それを経由した投与も含まれる。消化管を挿入する位置は腸に限らず、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸等を含む。)、大腸(盲腸、結腸、直腸等を含む。)等が挙げられる。
【0137】
なお、このような本発明に係る医薬組成物の投与は、上記の量を1日に1度に投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。また、上記疾患に対する治療効果を有する範囲において、投与間隔は、毎日、隔日、毎週、隔週、2~3週毎、毎月、隔月または2~3ヶ月毎でもよい。
【0138】
(経口又は経腸組成物)
本発明に係る経口又は経腸組成物は、本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体またはその抗原結合断片を含む。この様な経口又は経腸組成物を使用することによって、C.difficile細菌と関連する疾患を治療することができる。
【0139】
この様な経口又は経腸組成物における上記C.difficile細菌体と結合する抗体の配合割合は、特に限定はされず、経口又は経腸組成物の形態、用途等に応じて適宜調整すればよいが、通常は経口又は経腸組成物の総量に対して、0.001~99重量%程度とすればよい。
【0140】
本発明に係る経口又は経腸組成物の使用対象とする個体は、特に限定はされないが、例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ネコ、イタチ、ウシ、ブタ等の哺乳類、ニワトリなどの鳥類等が挙げられる。
【0141】
本発明に係る経口又は経腸組成物に含有されるC.difficile細菌体と結合する抗体は、整腸組成物、腸内環境改善組成物、腸内環境最適化組成物、又は腸内腐敗防止組成物として特に有用である。
【0142】
本発明に係る経口又は経腸組成物の使用量は、上述のような経口又は経腸組成物の効果が発揮される範囲であれば、特に限定はされず、更に経口又は経腸組成物を摂取する個体の種類や、目的とする効果、その目的とする度合い、並びにその他の諸条件などに応じて設定すればよい。具体的には本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体の量に換算して、通常は0.001~100mg/kg/日程度とすればよく、これを1日1回~数回に分けて摂取してもよい。
【0143】
なお、経腸とは肛門を介した投与に限られない。例えば、本発明の経腸組成物を、公知の成分と共に配合して腸内洗浄液として使用することも可能である。
【0144】
本発明に係る経口又は経腸組成物は、腸内細菌の異常増殖及び/又は腸内細菌叢の病的変化を抑制する効果を発揮する本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体を含むものであり、このような効果を発揮することを期待して食品の分野、飼料の分野に好適に用いることができる。従って、本発明の経口又は経腸組成物は、食品組成物又は飼料組成物とすることができる。
【0145】
上述の食品組成物は、本発明の経口又は経腸組成物を食品の分野に専ら好適に用いる組成物である。このような食品組成物は、整腸用、腸内環境改善用、腸内環境最適化用、腸内腐敗防止用等と表示された食品組成物として提供することができる。
【0146】
上述の食品組成物としては、一般の食品の他、条件付き特定保健用食品を含む特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等を挙げることができる。
【0147】
上述の食品組成物の具体的な形態は特に限定はされないが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、乳飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;そば、うどん、はるさめ、中華麺、即席麺等の麺類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、ふりかけ、漬物、パン、シリアル等を例示できる。また、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等の場合であれば、粉末、顆粒、カプセル、トローチ、タブレット、シロップ等の形態が挙げられる。
【0148】
上述の飼料組成物は、本発明の飼料組成物を飼料の分野に専ら用いられる組成物である。このような飼料組成物は、整腸用、腸内環境改善用、腸内環境最適化用、腸内腐敗防止用等と表示された食品組成物として提供することができる。
【0149】
上述の飼料組成物の具体的な形態は特に限定はされないが、例えば上述した本発明に係る飼料組成物が発揮する効果が損なわれない限りにおいて、通常の飼料に混合、又は必要に応じて通常の飼料に配合可能な成分と共に混合して飼料組成物とすればよく、飼料組成物そのものを飼料としてもよい。
【0150】
(疾患の治療方法)
本発明に係る疾患の治療方法は、C.difficile細菌と関連する腸内疾患の治療方法であって、上述の本発明に係るC.difficile細菌体と結合する抗体もしくはその抗原結合断片、本発明に係る医薬組成物、又は本発明に係る経口組成物の有効量を、C.difficile細菌と関連する腸内疾患に罹患したヒトに投与する工程を含む方法である。
【0151】
上述のC.difficile細菌と関連する腸内疾患に罹患したヒトとは、上記〔本発明に係る医薬組成物〕にて説明した投与対象とすればよい。また、具体的な投与方法、投与量についても上記〔本発明に係る医薬組成物〕にて説明したものとすればよい。
【実施例
【0152】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず本開示を限定するものではない。
【0153】
(方法と材料)
1.マウス
8-25週齢のC57BL/6、もしくはBALB/cマウスを使用した。これらをSPF飼育し、またはこれらのマウスにヒト腸内細菌叢を移植し、あるいは特定の病原菌を感染させた。
【0154】
実施例1:細菌に結合する抗体のスクリーニング
(1-1)小腸および大腸粘膜固有層細胞の分離
マウスを安楽死させた後、開腹し小腸全長を摘出した。摘出した小腸から結合組織とパイエル板を取り除いた後、小腸を縦切開し、小腸内容物をPBSで洗浄した。次に、1mM EDTAを含むPBS 50mlが満たされている100mlビーカーに洗浄した小腸を1cm程度の長さに切断して加えた。37℃で20分間振盪した後、ストレイナーに小腸断片を集め、EDTAを含むPBSを破棄した。50mlチューブに小腸断片を加え20mlのPBSを加え10秒間激しく振盪した後、再びストレイナーに小腸断片を集め、PBSを破棄した。この作業を2回繰り返し、小腸組織から小腸上皮細胞のみを取り除いた。次に、100mlビーカーに37℃に温めた消化酵素液(100ml RPMI 1640、5ml FCS(最終濃度5%)、50μlの2-メルカプトエタノール(最終濃度55μM)、0.15gのコラゲナーゼ、1mlのジスパーゼ(50U/ml)(最終濃度0.5U/ml)にて調整)を50ml加え、小腸組織をさらに細かく切り加え、37℃で30分間振盪した。その後100mlビーカーを静置し小腸組織を沈めた後、上清を新しい50mlチューブに移した。この消化酵素液を用いた消化工程を20分間1回繰り返した。消化液を1,500rpm、室温で5分間遠心し、上清を破棄した。沈殿物として得られた粘膜固有層細胞を2% FCSを含むRPMI 1640で一回洗浄した後に、2mlの2% FCSを含むRPMI 1640に懸濁し氷上に保存した。2回目の消化工程の反応を行った上清についても同様の作業を行い1回目の細胞懸濁液と2回目の細胞懸濁液を合わせ、フィルターに通し組織片を取り除き、小腸(大腸)粘膜固有層細胞とした。
【0155】
(1-2)抗体産生ハイブリドーマの作製とクローニング
小腸(大腸)粘膜固有細胞もしくは脾臓細胞とマウスミエローマ細胞であるNS1細胞を融合してハイブリドーマの作製を行った。細胞融合はClonaCell-HY Hybridoma Cloning Kit(STEMCELL Technologies)に従い、kitの試薬と手順に従って行った。得られたハイブリドーマをClonaCell-HY Hybridoma Cloning Kit(STEMCELL Technologies)に従ってメチルセルロース含有培地で増殖させ、クローンを肉眼でピックアップして、96穴プレートでさらに各クローンを増殖させた。その後、クローニングしたハイブリドーマから凍結細胞ストックを作製すると同時に培養上清を取得した。上清中に含まれる抗体について、通常のサンドイッチELISA法により抗体のアイソタイプを確認し、その後に上清中に含まれる抗体の抗体価を測定し、各アイソタイプ抗体産生ハイブリドーマとして分離した。ELISAで使用した抗体はプレートへのコーティングにAnti-goat-mouse IgA(Southern Biotech)、Anti-goat-mouse IgG(Southern Biotech)、もしくはAnti-goat-mouse IgM(Southern Biotech)を2μg/ml、検出用にAlkaline Phosphatase(ALP)-conjugated anti-goat mouse IgA(Southern Biotech)、Alkaline Phosphatase(ALP)-conjugated anti-goat mouse IgG(Southern Biotech)、もしくは Alkaline Phosphatase(ALP)-conjugated anti-goat mouse IgM(Southern Biotech)を0.5μg/mlで使用した。コントロール抗体としてMouse IgAκ(Immunology Consultants Laboratory)、Purified mouse IgG1κIsotype Control(BD Pharmingen)、PE-CF594 mouse IgMκIsotype Control(BD Horizon)をそれぞれ使用した。測定は、TriStar LB942(BERTHOLD TECHNOLOGIES)を使用し、OD405 nmを測定した。以上の操作により、合計で500以上のハイブリドーマクローンを取得した。
【0156】
(1-3)各腸内細菌に対するハイブリドーマIgA抗体の結合力の解析
各腸内細菌に結合する抗体をスクリーニングするために、各細菌に対するELISAを行った。特に、Clostridium difficile(C. difficile)菌に対して実施したスクリーニング法を記述する。C. difficileを37℃嫌気培養(Brain Heart Infusion media、80% N、10% H、10% CO)を行い、遠心分離により集めた。0.05M NaCOバッファーに細菌を懸濁し、ELISAプレートにコーティングした。1% BSA添加PBSによるブロッキング後に、96穴プレート中の各抗体培養上清を加え、室温で約1時間反応させた。その後、プレートを0.05% Tween 20添加PBSで洗浄し、各抗体アイソタイプに対応した2次検出抗体(上述)を加え反応後、Alkali Phosphatase tablet(Sigma)を使用して発色反応を行った。十分な反応のために、発色後のELISAプレートを4度で一晩反応させ、TriStar LB942(BERTHOLD TECHNOLOGIES)を使用し、OD405nmを測定した。OD405nmが2.0以上を示したクローンをC. difficile菌に結合する抗体とした。
【0157】
選択されたクローンを拡大培養し(約100mL培養)、培養液からIgMとIgA抗体の場合はProtein Lカラム(Cytiva)を用いて、IgG抗体の場合はProtein Aカラム(Cytiva)を用いて抗体を精製した。抗体の溶出は、10mM クエン酸バッファー(pH2.5)を使用し、溶出液はすぐに1 M クエン酸バッファー(pH9.0)で中和し、その後にAmicon(100kDa)により濃縮後、透析膜(100kDaポアサイズ)に入れて透析を行い、PBSに置換した。透析後にクリーンベンチ内で抗体液を回収後、シリンジフィルター(0.22μm)により抗体を滅菌し、4℃保存とした。抗体の濃度は上述と同様にサンドイッチELISA法により測定した。ELISAにより選択したクローンのRNAを抽出し、抗体遺伝子全長をクローニングし、リコンビナント抗体の作製に用いた。
【0158】
(1-4)ハイブリドーマ由来抗体の抗体遺伝子全長のクローニング
各クローンの細胞からIsogenII(Nippon Gene Co.,Ltd.)を使用しRNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型にしてcDNAを合成し、抗体のV領域に対する7種類のプライマー(MH1-7)とCα領域、Cγ領域もしくはCγ領域特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。軽鎖に関してはVκプライマーとCκプライマーでPCRを行った。プライマーの塩基配列は表1に示した。増幅されたV領域PCR産物またはVκ領域PCR産物を直接シークエンスし、各クローンの可変領域遺伝子配列を取得した。これをIg blast で検索し、特定のVもしくはVκ遺伝子のさらに上流配列(シグナル配列を含む)を取得し、その最上流配列をもとにPCRプライマーを作製し、各C領域分泌型配列の3’端のリバースプライマーとともにPCRを実施し、H鎖とL鎖の全長遺伝子塩基配列を得た。これをもとにpcDNA 3.1(+)ベクター(Invitrogen)にH鎖、L鎖、J鎖(データベースから塩基配列を検索しハイブリドーマのcDNAを用いてPCRにより遺伝子配列全長を取得)にクローニングした。
表 1. ハイブリドーマ由来抗体の抗体遺伝子可変領域増幅用プライマーの塩基配列
表中の塩基配列において、SはGまたはC、RはAまたはG、NはA、C、GまたはT、WはAまたはT、VはG、CまたはAを表す。
上記の発現ベクターをExpi CHOS細胞(Thermo Fischer Scientific)にH:L:J=2:2:1の量比となるようにキットのプロトコルに従ってトランスフェクションを行った。(Thermo Fischer Scientific,ExpiCHO Expression System)トランスフェクション後10-12日目に培養上清を回収し、上記と同様にProteinLカラムにより抗体を精製、濃縮、PBSに透析で置換後にフィルター滅菌を行い、抗体価測定や活性試験に使用した。
【0159】
実施例2:細菌増殖抑制試験
(材料と方法)
実施例1と同様の条件にて、C. difficile菌を一晩37℃で嫌気培養した。培養液を遠心分離し、細菌を集菌後、培養液で2回洗浄を行った。細菌液を培養液で10倍に希釈後に、SYTO24(Invitrogen)とCell Viability Kit(Becton Dickinson)に含まれるCounting beadsを加え、フローサイトメトリーによりSYTO24陽性の生細菌数をCounting beadsとの比較から算出した。培養液で細菌10,000 cells/5μlになるように希釈した。エッペンチューブに細菌希釈液5μl加え、さらにPBS(嫌気化済)、または精製した試験抗体(嫌気化済)を25μl(抗体濃度 1mg/ml)加え、37℃ 1時間静置培養した。その後、培養液を30μl加え、37℃ 20時間静置嫌気培養を行った(抗体最終濃度は0.42mg/ml)。
20時間培養後、上記と同様にSYTO24とCounting beadsを加えてフローサイトメトリーにより生細菌数を測定した。PBSサンプル(抗体の添加なし)と比較して、生細菌数が30%以下に減少した抗体を増殖抑制効果ありとして、次のマウス感染実験に使用した。
【0160】
抗体SNK0001MR、SNK0002MR、SNK0001AR、SMK0002AR、RS_H007_L004、RS_H000_L001およびSNK0003Aの7種の抗体を増殖抑制試験に用いた。抗体SNK0001MRとSNK0002RはIgM産生ハイブリドーマ(SNK0001MとSNK0002M) から抽出した抗体遺伝子配列情報をもとに得られた発現ベクター(H鎖とL鎖)をCHO細胞に遺伝子導入をして作製したリコンビナントIgM抗体である。SNK0003AはIgA産生ハイブリドーマ由来のIgA抗体である。SNK0001ARとSNK0002ARはSNK0001MとSNK0002Mハイブリドーマ由来の抗体遺伝子可変領域の遺伝子配列とIgA抗体定常領域遺伝子配列を結合させた発現ベクターを作製し、さらにJ鎖発現ベクターも構築して、CHO細胞に3種の発現ベクター(H鎖、L鎖、J鎖)を遺伝子導入して作製したリコンビナント多量体IgA抗体である。RS_H007_L004とRS_H00_L001は発明者がWO2014/142084等で報告した、腸管粘膜固有層細胞から得られたW27産生ハイブリドーマの産生するW27抗体の遺伝子配列をもとに遺伝子を合成して、組み換え技術を適用して得たリコンビナント多量体IgA抗体である。いずれのリコンビナント抗体も上述の方法でProtein Lカラムにより精製を行った。これらの抗体は実施例1と同様の試験により、C. difficileに結合することが確認されている。
【0161】
(結果)
結果を図1に示す。試験したいずれの抗体も、陰性対照(PBS)に比して著明なC. difficile増殖抑制能を示した。
【0162】
実施例3:C. difficile菌マウス感染実験
(材料と方法)
C. difficile菌株(VPI10483)は芽胞液を作製し小分けにして-80度保存した。芽胞液を解凍して培養後にC. difficile菌選択培地プレート(TCCFAプレート)に播種して得られる生細菌数をあらかじめ求めた。
芽胞の作製方法は以下のようである。
C. difficileをSMC培地にプレーティングし、37 ℃で7日間嫌気培養した。プレートに氷冷滅菌水3 mlを加えて、セルスクレーパーでコロニーを掻き取り、50 mlチューブに移した。さらに氷冷滅菌水3 mlでプレートを洗浄し、洗浄液も同じチューブへ移した。8,000 g、4 ℃で10分間遠心した後に、上清を捨てて氷冷滅菌水20 mlで菌体を懸濁した。再び8,000 g、4 ℃で10分間遠心後、上清を捨てて氷冷滅菌水10 mlで懸濁した。懸濁後、エタノール10 mlを加えてボルテックスで攪拌させて、室温で1時間静置した。8,000 g、4 ℃で10分間遠心し、上清を捨てて氷冷滅菌水20 mlで菌体を懸濁した。この操作を2回繰り返し、上清を廃棄してから、氷冷滅菌水 5 mlで懸濁した。1.5 mlチューブに100 μlずつ分注し、-80℃で保存した。SMC培地組成を以下に示す。
SMC培地組成
上記試薬を滅菌蒸留水200 mlに溶解し、オートクレーブ滅菌した。60 ℃くらいまで冷めたら、10 %(w/v)L-cysteine 600 μlを加え、10 cmプレートに適量ずつ分注した。
【0163】
C. difficile菌選択培地プレートは、下記表1の試薬を滅菌蒸留水400 mlに溶解し、オートクレーブ滅菌した。60℃まで自然冷却させ、Cycloserine(Sigma-Aldrich)(50mg/ml)2mlとCefoxitin(Sigma-Aldrich)(1.6mg/ml)2mlを加え、10cmプレートに適量ずつ分注して作成した。
【0164】
(表1)C.difficile選択培地組成
【0165】
C57BL/6マウス(8週齢)を日本クレアから購入し、感染実験用滅菌アイソレーター内で一週間馴化後、3種混合抗生剤(ゲンタマイシン:500mg/kg、カナマイシン:150mg/kg、メトロニダゾール:50mg/kg)を、ゾンデを用いて4日間経口投与を行った。4日後に各マウスの体重を測定し、抗生剤投与により体重減少が起こった個体は除外し、残りのマウスをランダムに群わけした。抗生剤投与終了の次の日に、C. difficile菌芽胞(1X10cfu)をゾンデで各マウスに経口感染させた。6時間後に試験抗体を100μgずつゾンデで経口投与を行った。その後、計7日間、1日一回100μgずつ抗体投与を行った。8日目以降は抗体投与を行わずに経過観察した。この間、マウスの体重測定、便の性状観察、便の採取を行った。感染後、4日目と10日目に採取した便は重量に応じた量のPBSを加えて懸濁し、その後にPBSでさらに段階希釈を行った。これらの希釈細菌液をC. difficile菌選択培地プレートに播種し、嫌気培養を行い便1g中の生菌数を求めた。
【0166】
(結果)
W27G2またはSNK0002M抗体を投与したマウス群では、陰性対照(PBS投与群)に比して、C. difficile菌芽胞液投与後の体重減少が抑制された(図2)。
また、便中のC. difficile生菌について、4日目の便に十分な数の生菌数を観察したことから各マウスへの感染は成立していることが確認された。10日目の便について、W27G2抗体またはSNK0002M抗体を投与したマウス群では生菌数が激減していたことから、これらの抗体により菌の増殖が有意に生体内でも抑制されたことが確認された(図3)。
【0167】
実施例4:C. difficile菌以外の細菌に対する効果
上記C. difficile菌に結合する抗体について、実施例1で用いたELISAと同様の方法により、他の細菌に対する結合特性および当該細菌に対する効果を調べた。例として、大腸ガン原因菌と考えられているFusobacterium nucleatumに対する結合特性および効果を調べた結果を提示する。細菌を嫌気培養後、フローサイトメトリーを用いて菌数を1,000 cells/tubeにそろえて各試験抗体と反応させ、抗体による増殖抑制効果を検証した。加えた抗体の最終濃度と培養時間は実施例2と同様であった。抗体と菌を反応後、培養液を加えてさらに20時間培養後に生菌数を測定した。
【0168】
(結果)
抗体SNK0001M、SNK0001MR、SNK0001AR、SNK0002MR、SNK0002AR、RS_H000_L001、およびSNK0003Aは、Fusobacterium nucleatumに対して著明な増殖抑制効果を示した(図4)。一方で、SNK0004AやSNK0005Aは増殖抑制効果を示さなかった(negative control)。
【0169】
実施例5:W27抗体のC. difficile抗原分子の特定
W27抗体は大腸菌のserine hydroxymethyl transferase(SHMT)に結合することが確認されている(WO2014/142084等)、以下の方法により、W27抗体が大腸菌のSHMTに結合することを確認するとともに、W27抗体のC. difficile抗原分子を特定した。なお、W27G2抗体はW27抗体と同一の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する。
(材料と方法)
大腸菌を25mlのLB培地で16時間静置培養した。2,150gで5分間遠心して集菌した。上清を取り除いた後に、1mlのlysis buffer(滅菌1×PBS,10% NP-40,×100 Protease Inhibitor Cocktail(Nacalai))で懸濁して、超音波破砕後、氷上で30分間静置した。細菌溶解液を新しいチューブに200μlずつ分注した後に2-ME 50μl、10% SDS 200μlを加えて変性(95℃,10min)した。2-MEとSDSを希釈するために希釈液(滅菌1×PBS,0.1% NP-40,×100 Protease Inhibitor Cocktail)を800μl加えた。タンパク質溶液を可溶性と不溶性分画に分離するため、15,000rpmで5分間の遠心を行なった。可溶性画分を使用して、2D-PAGEを行なって標的タンパク質のスポットの同定を行なった。
C. difficile菌についても同様の方法で細菌溶解液を調製し、可溶性画分を使用して、2D-PAGEを行った。
【0170】
2D-PAGEの方法を以下に述べる。まず、2D-PAGEのサンプルを作製するために、上記の免疫沈降産物の2倍量の冷却アセトンを加えて-20℃で20分間の静置後、遠心(16,630g,10min)により上清を取り除き乾燥させた。1次元目電気泳動用サンプルバッファー(60mM Tris-HCl(pH8.8),5M Urea,1M Thiourea,5mM EDTA、1% CHAPS,1% NP-40)に溶解し、1/10量の1M Iodoacetamideを加えてから室温で10分間静置し、2D-PAGEの1次元用サンプルとした。2次元目の泳動は、ウェスタンブロットと銀染色を行なうためにSDS-PAGE用ゲルを2枚使用した。pH3~8 ImmobilineTM DryStrip(GE Healthcare)を用いて1次元目電気泳動後、2次元目のSDS-PAGEをした後にウェスタンブロットと銀染色をそれぞれのゲルに対して行なった。W27抗体が認識するスポットを特定しやすくするために、ブロッティング後のメンブレンをPierceTM Reversible Protein Stainで染色し、メンブレン上のすべてのタンパク質の位置を確認した。この染色をStain Eraserで消去後にW27抗体を反応させてウェスタンブロットによるスポットを確認した。銀染色はシルベストステイン ワン(Nacalai)を使用し、プロトコルに従った。この三種類(W27によるウェスタンブロット、PierceTM Reversible Protein Stain、銀染色)の結果を比較してW27抗体が特異的に認識しているスポットを切り出してゲル内酵素消化を行なった。
【0171】
ゲル内酵素消化の方法を以下に述べる。切り出したゲル片にMilliQ水を400μl加えて10分間振盪した後に上清を除いた。この操作を2回繰り返した後、100% アセトニトリル 200μlを加えて10分間振盪した。上清を取り除いた後に減圧乾燥を20分間行い、プロテアーゼ溶液(50mM ammonium hydrogen carbonate,10μl/ml Trypsin)を20μl加えて、氷上で30分間膨潤させることでゲル片にトリプシンを吸収させた。余分なプロテアーゼ溶液を取り除き、反応液(50mM ammonium hydrogen carbonate)を100μl加えて、37℃で一晩酵素消化を行なった。反応液に抽出液(5% formic acid,50% acetonitrile)をさらに50μl加えて30分間振盪した。回収した溶液に0.1% formic acidを200μl加えて、サンプル量が半量程度になるまで減圧乾燥を行なった。サンプルをスピンフィルター(UltraFree 0.1μm PVDF)に移して遠心(2,460g,5min,4℃)した。下層に落ちた溶液をバイアルに移し変えてLCMS-IT-TOF(Shimadzu)で解析を行なった。アミノ酸配列の同定はMascot searchを用いた。
【0172】
(結果)
上記の方法により、W27抗体の抗原分子として大腸菌のSHMT、およびC. difficile菌の2,3-bisphosphoglycerate-independent phosphoglycerate mutase(iPGM)を特定した。一例として、C. difficile菌の抗原分子を特定した際の2次元電気泳動データを図5に示す。
【0173】
実施例6:W27抗体の抗原分子のエピトープ決定
W27抗体は大腸菌のSHMTのN末25-30アミノ酸にエピトープがあることが特定されている(論文発表済み)。C. difficileのiPGMに関してもトランケーションタンパクを作製しようと試みたが、タンパク発現の効率が著しく低下するためウェスタンブロット解析でW27抗体の反応を確認することができなかった。
そこで、W27抗体はE. coliのiPGMを認識しないことをウェスタンブロットで確認し、W27抗体が認識するC. difficileのiPGMおよびE. coliのiPGMのキメラタンパク質を発現するプラスミドをIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(TaKaRa)を用いて作製した。データベース上の各細菌のiPGM遺伝子配列情報からプライマーを作成した(表)。キメラタンパク質をDH5αで過剰発現させ、W27抗体の認識をウェスタンブロットで確認しエピトープ配列の場所を絞り込んだ。
【0174】
表2:In-Fusionクローニングに用いたプライマー塩基配列
【0175】
分析の結果、C.difficileのiPGMでは、C末の490~510番目のアミノ酸がエピトープとして重要であった。エピトープであることをさらに確認するために各エピトープ候補を含むペプチド(BSAコンジュゲート)をSIGMAに外注した。ペプチドだけでは分子量が小さいため、ウェスタンブロットで確認できるように各ペプチドにBSAをコンジュゲートした。ペプチドに4×SDS bufferを加え、W27抗体によるウェスタンブロットを行ない、いずれの合成ペプチドに反応するのかを確認した。結果を図6および7に示す。
上記試験の結果、大腸菌のSHMTのエピトープ配列はRQEEHIELIASEN、C. difficile iPGM のエピトープ配列はAPTVLDMMKLEKPEEMTGHSLISKであることが判明した。
【0176】
W27抗体が認識する大腸菌のSHMTのエピトープを共有する細菌をデータベース解析したところ、EEHI配列を持つ細菌はほとんどProteabacteriaに属する細菌であり、病原菌を多く含んでいた(図8)。乳酸菌やヒトのSHMTの同じ部分のアミノ酸配列は異なっており、この違いをW27抗体は認識していると考えられた。(Okai et al.,Nature microbiology 1,16103,2016)
【0177】
実施例7:W27抗体と抗原分子の結晶構造解析
(7-1)IgG W27 Fabの調製と精製
W27抗体の抗原認識を調べるために、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞により発現させたW27リコンビナントIgG抗体を作製した。これは、結晶構造解析に向けて抗原結合部位(Fab)を大量に確保する必要があったためである。粗精製されたIgG W27 を10mM Tris-HCl(pH8.0)で1mg/mlに調整した後、0.05mg/mlのパパイン(ナカライテスク)で、20℃で24時間消化してFc領域とFab領域に消化した。その後、HiTrap SP HPカラム(Cytiva)を用いた 陽イオン交換カラムクロマトグラフィーで精製した。Bufferは、10mM Bis-Tris buffer(pH6.0)(buffer A)と、10mM Bis-Tris buffer(pH6.0),300mM NaCl(buffer B)を使って、buffer B濃度を徐々に上昇させたリニアグラジエント溶出でFabとFcを分離精製した。その後、Fabを多く含むフラクションは、HiLoad 26/600 Superdex 2000 pgゲルろ過カラム(Cytiva)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーでさらに精製を行った。ゲルろ過のbufferには5mM BisTris(pH6.5),100mM NaCl(ゲルろ過buffer)を使用した。ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製の後、rProtein A Sepharose Fast Flow樹脂(Cytiva)を充填したカラムで微量のFcの夾雑を吸着させて除き、素通り画分にあるFabを回収した。精製したFabは、ゲルろ過bufferの条件でAmicon Ultra 10000 MWCO(Millipore)で48.2mg/mlまで濃縮したあと、エッペンドルフチューブに20μlずつ分注して液体窒素で瞬間凍結させ、使用するまで-80℃に保存した。収量は、50mgのIgG W27から17.4mgのFabを得た。
【0178】
(7-2)E. coli SHMT(25-45)の発現と精製(結晶構造解析用)
E. coli由来SHMT(25-45)をコードするcDNA領域をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(TaKaRa)を用いて増幅した後、プラスミドpGEX6P-3(Cytiva)を改良したプラスミドpGEXM(Kim SY,et al.(2021)Sci Rep 11(1):2120)のSma IとNotIマルチクローニングサイトにIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)で組み込んで発現プラスミドを構築した。作成した発現プラスミドを、大腸菌Rosetta2株(Merck)に形質転換した。なお、SHMT(25-45)はGultathione-S-transferase(GST)融合タンパク質(以下、GST-SHMT(25-45)と記載する。)として発現した。また、GSTと目的タンパク質の間には、ヒトライノウイルス 3Cプロテアーゼ(以下、HRV3Cプロテアーゼ)による切断配列LEVLFQGP(切断部位はQとGの間である)が挿入されているので、発現させたGST融合タンパク質は、GSTと目的タンパク質との間をHRV3Cプロテアーゼで切り離すことができる。最終精製産物となるE. coli SHMT(25-45)のアミノ酸配列は、GPRQEEHIELIASENYTSPRVMQである。
【0179】
大腸菌は、50μg/mlアンピシリンと25μg/mlクロラムフェニコール、0.5%(W/V)グリセリン、0.05%(W/V)グルコース、0.2%(W/V)ラクトース、 1mM 硫酸マグネシウムを含むLB培地を使用して、37°Cで培養を開始した。培地の濁度が0.6(波長600 nmで測定)に達した時、培地を冷却後、終濃度が0.1mMとなるように1 M isopropyl-β-D-thio-galactopyranoside(以下、IPTG)を加えて、目的タンパク質の発現を誘導した。IPTG添加後、さらに18°Cで24時間培養を行った。培養液中の菌体は4,000 rpm(Beckman J2-M1 JA10 rotor)で、4°Cで20分遠心して集菌した。集菌した菌体は精製に使用するまで-30°Cで保存した。
【0180】
SHMTの精製は、以下のようにして行った。菌体を10mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaClに懸濁して、4°Cで超音波破砕を行った後、4°C、20,000 rpmで40分間、遠心を行った後、不溶性画分を除去して、上清の可溶性画分を次の精製に用いた。可溶性画分からのGST-SHMT(25-45)の精製は、Glutathione-Sepharose 4B樹脂(以下、GS4B)(Cytiva)を使用したアフィニティーカラムを用いて行った。破砕後の可溶性画分を、GS4Bが充填されたアフィニティーカラムへ供して、GST-SHMT(25-45)を吸着後、10mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl(以下、洗浄buffer)で、十分にGS4Bを洗浄した。その後、10mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、20mM GlutathioneでGST-SHMT(25-45)を樹脂から溶出させた。溶出液に HRV3Cプロテアーゼ(Merck)を用いて4°Cで18時間消化を行いGSTとSHMT(25-45)に切断し、GSTを除去した。このSHMT(25-45)は、N末端にHRV 3Cプロテアーゼの認識配列の一部を含むGP配列が余分に付加される。GST切断後のSHMT(25-45)は、HiLoad 26/600 Superdex 75pgゲル濾過カラム(Cytiva)を用いて、5mM BisTris(pH6.5)、100mM NaClの条件でゲル濾過精製を行った。精製したSHMT(25-45)は、5mM BisTris(pH6.5),100mM NaCl(ゲルろ過buffer)の条件でPALL Corporation centrifugal Device with 1Kで4.72mg/mlまで濃縮したあと、エッペンドルフチューブに20μlに分注して液体窒素で瞬間凍結させ、使用するまで-80℃に保存した。収量は、2L培養の菌体から結晶化に用いるSHMT(25-45)5.9mgのペプチドを得た。
【0181】
(7-3)C. difficile iPGM(486-509)の発現と精製(結晶構造解析用)
Clostridium difficile 由来iPGM(486-509)(C. difficile iPGM(486-509))のcDNAのpGEXベクターへのクローニングはSHMTとほぼ同様の手法で行った。この際、C. difficile iPGM(486-509)にはチロシンやトリプトファンが存在せず精製過程において280nmの波長で吸光が観察できないため、N末端にチロシン1残基を付加してクローニングした。このiPGM(486-509)は、N末端にHRV 3Cプロテアーゼの認識配列の一部を含むGPY配列が余分に付加される。最終精製産物となるC. difficile iPGM(486-509)のアミノ酸配列は、GPYAPTVLDMMKLEKPEEMTG HSLISKである。形質転換、培養、精製に関する手順はSHMT(25-45)と同様に行い、4L培養の菌体から結晶化に用いるiPGM(486-509)48.52mgを得た。
【0182】
(7-4)RS_H000_L000GR Fab-E. coli SHMT(25-45)複合体の結晶化スクリーニング
精製したRS_H000_L000GR FabとE. coli SHMT(25-45)を用いてモル比1:5(0.2mM:1.0mM)で混合液を作成して結晶化スクリーニングを行った。
結晶化条件のスクリーニングは、市販の結晶化スクリーニングキットであるJCSG core suite I-IV,PACT suite(Qiagen)と結晶化ロボットmosquito(TTP Labtech)を用いて行った。結晶化プレート(VIOLAMO)に平衡化用の沈殿剤を充填し、沈殿剤とタンパク質溶液1:1の体積比(0.2μl:0.2μl)で混合した液滴(ドロップ)を作成して、シッティングドロップ蒸気拡散法で結晶化条件の探索をした。結晶化スクリーニングに使用したタンパク質溶液は、あらかじめ遠心分離で不溶性画分を取り除いたものを使用した。温度条件は4℃と20℃でインキュベートした。
【0183】
(7-5)RS_H000_L000GR Fab-E. coli SHMT(25-45)複合体の結晶化条件の最適化
結晶化スクリーニングによって得られた結晶の条件をもとにpHとPEGの濃度をそれぞれ変化させた沈殿剤を調製して、シッティングドロップ蒸気拡散法で行った。
結晶化条件は0.2M Magnesium Acetate,0.1M Sodium Cacodylate pH6.3,22% PEG10000をリザーバー溶液とした。RS_H000_L000GR Fab:0.2mM、E. coli SHMT(25-45):0.6mMで混ぜたタンパク液とリザーバーを0.2μl:0.2μl、で混ぜた後、温度条件は20℃、シッティングドロップ蒸気拡散法による結晶化で7日後に観察した。スケールバーは100μmを示す(図9)。
【0184】
(7-6)RS_H000_L000GR Fab-E. coli SHMT(25-45)複合体のX線回折実験と三次元構造決定
上記の結晶化条件の最適化において得られたRS_H000_L000GR Fab-E. coli SHMT(25-45)複合体結晶は、0.2M Magnesium Acetate,0.1M Sodium Cacodylate pH6.3,22.0% PEG10000,20.0% Glycerolを抗凍結剤(クライオプロテクタント)として、液体窒素中で凍結した。その後、兵庫県の大型放射光施設SPring-8のBL44XUにて測定を行った。取得した回折データをXDSプログラムで処理した後、RS_H000_L000GR Fabの構造情報を用いて分子置換法により位相決定を行った。空間群はP2、格子定数はa=60.4Å,b=140.7Å,c=180.7Å,α=90°,β=90°,γ=90°、非対称単位中にRS_H000_L000GR Fab-E. coli SHMT(25-45)が3分子存在していた。構造の精密化は、プログラムrefmac 5、phenix refine、cootを組み合わせて使用して行った、Rwork/Rfreeはそれぞれ22.8%、25.7%で精密化を終了した。構造図はプログラムPyMOLを用いて作成した。
【0185】
(7-7)RS_H000_L000GR Fab-C. difficile iPGM(486-509)複合体の結晶化条件の最適化
IgG W27 Fab C. difficile iPGM(486-509)の結晶化は、構造解析されたIgG W27 Fab-E. coli SHMT(25-45)結晶化条件(0.2M Magnesium Acetate,0.1M Sodium Cacodylate pH6.3,22% PEG10000)をもとにpH,PEG10000の濃度をそれぞれ変化させた沈殿剤を調製して、シッティングドロップ蒸気拡散法で行った。
結晶化条件は0.2 M Magnesium Acetate,0.1 M Sodium Cacodylate pH6.5,23% PEG10000をリザーバー溶液とした。RS_H000_L000GR Fab:0.25mM、C. difficile iPGM(486-509):1.0mMで混ぜたタンパク液とリザーバーの混合比は0.2μl:0.2μl、温度条件は20℃、スケールバーは100μm、シッティングドロップ蒸気拡散法による結晶化で10日後に観察した(図10)。
【0186】
(7-8)RS_H000_L000GR Fab-C. difficile iPGM(486-509)複合体のX線回折実験と三次元構造決定
結晶化条件の最適化において得られたRS_H000_L000GR Fab-C. difficile iPGM(486-509)複合体結晶は0.2M Magnesium Acetate,0.1M Sodium Cacodylate pH6.5,23.0% PEG10000,20.0% Glycerolを抗凍結剤(クライオプロテクタント)として、液体窒素中で凍結した。その後、兵庫県の大型放射光施設SPring-8のBL41XUにて測定を行った。取得した回折データをXDSプログラムで処理した後、IgG W27 Fabの構造情報を用いて分子置換法により位相決定を行った。空間群はP2、格子定数はa=60.423Å,b=140.185Å,c=185.956Å,α=90°,β=90°,γ=90°、非対称単位中にRS_H000_L000GR Fab-C. difficile iPGM(486-509)が3分子存在していた。構造の精密化は、プログラムrefmac 5、phenix refine、cootを組み合わせて使用して行った、Rwork/Rfreeはそれぞれ22.2%、25.2%で精密化を終了した。構造図はプログラムPyMOLを用いて作成した。
【0187】
以上の一連の実験の結果、エピトープペプチドとRS_H000_L000GR抗体の相互作用の詳細が明らかとなった(図11、12)。
具体的には、SHMTとiPGMのエピトープペプチドは、互いに逆向きに結合し、そのエピトープのアミノ酸配列は下記のような類似性を示していた。
これらの情報を元に、アミノ酸残基の種類だけでなく、アミノ酸側鎖が相互作用に及ぼす効果も判断可能となった。構造解析から得られたこれらの情報をもとに、抗原結合に影響を与えないアミノ酸変異を選んで、一連のRS変異型抗体を作成したところ、下記に詳述するように、そのすべてがW27G2抗体と同等の活性を保持することが明らかとなった。したがって、本発明の構造解析結果を用いて、W27G2抗体と同等の活性を保持する様々なRS変異型リコンビナント抗体の作成が可能となった。
【0188】
実施例8:遺伝子改変リコンビナント抗体の作製
RS変異体作製はH鎖発現ベクターとL鎖ベクターを鋳型として、それぞれの変異に応じた塩基配列を含んだmutagenesis用プライマーを用いてPCRを行い、ベクター全長を増幅した。その後、鋳型ベクターDNAをDpnI処理後、イソプロパノール沈殿によりDNAを精製し、DH5αコンピテント細胞に形質転換を行った。得られたクローンからプラスミドを抽出し、目的の変異が導入されたクローンを選択し、ExpiCHOに遺伝子導入して変異型リコンビナント抗体を得た。
作成した変異型リコンビナント抗体の一部について、これらの重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を図13、14に示す。
それぞれのRS変異型リコンビナント精製抗体を非還元型SDS-PAGEとクマシーブルー染色により、2量体が主に産生されていることを確認した(図15)。
【0189】
実施例9:リコンビナントRS改変抗体の抗原認識活性
リコンビナントRS改変抗体について、W27G2抗体の抗原分子である大腸菌のserine hydroxymethyltransferase(SHMT)に対する結合力をELISAで測定した。
(材料と方法)
大腸菌の野生型SHMTとSHMTmutantをGST融合タンパク質として大腸菌に過剰発現させたて精製した。これらを2μg/mlとなるように0.05M NaCOバッファーに懸濁し、ELISAプレートに固着させ、各変異型精製抗体の希釈系列を作製して加え、上記の細菌に対する結合力を測定するELISAと同じ方法で結合力を検出した。
(結果)
代表例として6種(RS_H00_L001、RS_H007_L001、RS_H007_L002、RS_H00_L005、RS_H007_L005およびRS_H007_L004)の変異型精製抗体について試験したところ、これらの抗体はハイブリドーマ由来W27G2抗体(ゲル濾過精製)とほぼ同程度に大腸菌野生型SHMTに結合すること、さらにSHMTmutantには結合しないことが確認された(図16)。
【0190】
W27G2抗体は複数の細菌の異なる抗原分子を認識する抗体であることがわかっている。図17に示すウエスタン解析が示すように、複数の細菌(病原菌を含む)から総タンパク質を抽出し、還元SDS-PAGE後にニトロセルロース膜にタンパク質を転写した。一次抗体として、W27G2CHT(W27G2ハイブリドーマ培養上清をヒドロキシアパタイトカラムで粗精製)、W27G2GF(W27G2CHTをさらにゲル濾過カラムで多量体画分を精製)、3種のリコンビナント精製抗体(RS_H000_L001、RS_H000_L005、RS_H007_L005)をそれぞれ2μg/mlの濃度で反応させた。2次抗体はGoat anti-mouse IgA(Southern Biotech)、さらに3次抗体としてIR800-conjugated anti-goat IgG(LI-COR)を反応させ、Odyssey scannerでシグナルを検出した。各ウェルにロードしたサンプルのタンパク質量の測定のためにSDS-PAGE泳動後のゲルをCoomassie brilliant blue(Nacalai)を使用し染色した。ハイブリドーマ由来W27G2抗体とリコンビナント精製抗体は同じパターンの抗原分子を認識していることから、変異導入後の抗原認識に変化がないことを確認した。
【0191】
実施例10:リコンビナント遺伝子改変抗体の大腸菌増殖抑制効果の確認
大腸菌BW38029株をLB培地で16時間、37℃静置嫌気培養した。8,000gで5分間遠心を行って集菌した。滅菌嫌気LBで洗浄後、フローサイトメーターで生菌数を計測した。
上記の測定結果をもとに細菌を300個/5μlとなるようにLB培地で希釈し、各抗体またはPBSを25μl加え、さらにM9最小培地を30μl加えて20時間後にフローサイトメーターにより上記の方法で細菌数を計測した。抗体の最終濃度は0.42mg/mlとした。
【0192】
(結果)
各種の変異型リコンビナント抗体はいずれも、陰性対照(PBS添加)サンプルに比べて大腸菌の増殖を抑制した(図18)。
【0193】
以上のすべての実験から、上記3次元構造解析結果に基づいて作製したRS変異型リコンビナント抗体は、元のハイブリドーマW27G2抗体と同様の性質を保持することが明らかとなった。
【0194】
実施例11:C. difficile感染マウスに対するリコンビナントIgA抗体の効果
実施例3において、ハイブリドーマ由来の抗体のC. difficile感染マウスに対する効果を調べたが、リコンビナントIgA抗体についても、同様のC. difficile感染マウスに対する効果確認実験を行った。リコンビナントIgA抗体として、抗体RS_H000_L001(図19においてrW27として示す)および抗体SNK0002ARを用いた。C. difficile感染マウスに対して、リコンビナントIgA抗体、抗体RS_H000_L001(rW27)およびSNK0002ARをそれぞれ投与したところ、両者ともC. difficile感染マウスの体重減少を有意に抑制した(図19)。興味深いことに、抗体の代わりにVancomycinが投与されたマウスは、投与中はまったく体重の減少が見られなかったものの、投与終了後に顕著な体重減少が見られ、生存率も低下した(図19)。当該減少の原因の一つとして、グラム陽性細菌が感受性を示すVancomycinの投与により、グラム陰性細菌が選択的に腸管内で増加してdysbiosisの状態が起こり、Vancomycin投与中止後に残存していたC. difficile菌が増殖して上記の病態を示した可能性が考えられた。
【0195】
C. difficile菌の増殖状態を確認するために、投与後の各時点における便の懸濁希釈液をC. difficile選択培地に播種し、嫌気培養を行い、コロニーを計測した。その結果、図20に示すように、予想どおり、Vancomycin投与マウスでは投与中止後のDay14にC. difficileが増加していた。一方で、2種のIgA抗体をそれぞれ投与したマウスではDay14では便中にC. difficileは検出されず、C. difficile排除に成功したことが確認された。
【0196】
次に、実際にVancomycin投与によりdysbiosisが生じたかどうかを16S rRNA解析で検討した。途中で死亡したマウスは死亡時に便を採取した。生存したマウスはDay14の時点の便を採取して解析した。また、rW27 IgG抗体も作製してマウスに投与し、菌叢を比較した。その結果を図21図22に示す。図21はorder levelの相対的存在比率の解析結果である。本解析では、対照としてリコンビナントIgG抗体rW27 IgG抗体(重鎖H000および軽鎖L001の可変領域の配列とマウスのIgG1およびマウスのIgk(kappa)の配列を繋いだリコンビナントIgG抗体)を投与した結果得られたデータも解析に加えた。
【0197】
一番大きな変化はrW27 IgG抗体とVancomycin投与群ではEnterobacteralesがかなり増加していることである。上述のようにVancomycin投与により、グラム陰性菌が増加したと考えられる。それに対して、抗体投与なし、あるいは2種のリコンビナントIgA抗体をそれぞれ投与した群では大きな細菌叢変化はなく、もともとの優位菌種であるLachnospiralesが優位の菌叢が維持されていた。この変化をβ-diversityで示した結果が図22である。VancomycinとrW27IgG群はPBS、リコンビナントIgA抗体RS_H000_L001(rW27)およびSNK0002AR群と比較して、明確に菌叢が変化していることがわかる。ヒトのC. difficile腸炎の第一選択薬であるVancomycinは症状緩和に有効であることは明白であるが、このようにdysbiosisの原因にもなり、それによって腸炎を繰り返す可能性が考えられる。C. difficile腸炎へのIgA抗体とVancomycinの併用療法は、根治療法となることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明は、C.difficile細菌に結合し、その増殖を抑制する抗体を提供することにより、C.difficile細菌に関連する疾患の治療に利用される他、生体試料などにおいてC.difficile細菌を検出するための試験などにも利用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
0007405386000001.app