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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】トイレ便器用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 171/02 20060101AFI20231219BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231219BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231219BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231219BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C09D171/02
C09K3/00 112Z
C09K3/00 R
C09K3/00 112F
C09D7/63
C09D7/65
C09D5/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019121821
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008536
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】田之畑 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光司
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-049230(JP,A)
【文献】特開2004-189810(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010473(WO,A1)
【文献】特開平11-349899(JP,A)
【文献】特開2000-144177(JP,A)
【文献】特開2006-057027(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1748625(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0084402(US,A1)
【文献】特開2003-192751(JP,A)
【文献】特開2007-264254(JP,A)
【文献】特開2004-162041(JP,A)
【文献】特開2017-165829(JP,A)
【文献】特開2018-109135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含有し、
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルである、トイレ便器用コーティング剤(ただし、ポリエーテルアミド変性オルガノポリシロキサン、アミノ変性オルガノポリシロキサン、又はジメチルポリシロキサンを含有するもの、イソプロピルアルコール、アルキルポリグルコシド、及び銀イオンを含有するものを除く)。
【請求項2】
前記シロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物が、シリコーン系ブロックコポリマー及び/又はシリコーン系界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のトイレ便器用コーティング剤。
【請求項3】
更に、カチオン性界面活性剤を含む、請求項1又は2に記載のトイレ便器用コーティング剤。
【請求項4】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含有し、
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルであるコーティング剤(ただし、ポリエーテルアミド変性オルガノポリシロキサン、アミノ変性オルガノポリシロキサン、又はジメチルポリシロキサンを含有するもの、イソプロピルアルコール、アルキルポリグルコシド、及び銀イオンを含有するものを除く)を、トイレ便器の表面に接触させる、トイレ便器の防汚コーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ便器の表面に対して優れた防汚効果を付与できるトイレ便器用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭や商業施設等において、トイレを衛生的な状態に保つことは、居住者や使用者等の健康維持はもちろん、快適で気分よく生活する上で重要である。従来、トイレを衛生的な状態にする製品の一つとして、トイレ用洗浄剤が開発され使用されている。しかしながら、トイレ用洗浄剤では、トイレ便器の表面に糞便汚れが付着し難くなる効果(防汚効果)の点では限界がある。そこで、従来、トイレの便器の表面をコーティングすることにより、防汚効果を付与することが検討されている。
【0003】
従来、金属、ガラス、陶器等の硬質表面に対して防汚効果を付与する方法としては、撥水化処理、及び親水化処理が知られている。
【0004】
撥水化処理は、硬質表面に撥水性を付与することにより、水分を含む汚垢を反発させることにより付着し難くすることができる。このような撥水化処理は、衣類、自動車の塗装面等に広く適用されているが、トイレ便器の撥水処理への使用も検討されている。例えば、特許文献1には、フッ素系両新媒性物質を使用することによって、トイレ便器を撥水化処理できることが開示されている。
【0005】
一方、親水化処理は、硬質表面に親水性を付与することにより、硬質表面の水に対する接触角を低下させ、水分を含む汚垢を流れ易くすることにより付着し難くすることができる。このような親水化処理は、ガラスや鏡の防曇や帯電防止等に広く適用されているが、トイレ便器の親水化処理への使用も検討されている。例えば、特許文献2には、特定のアセチレングリコールのアルキレノキサイド付加物を使用することによって、トイレ便器を親水化処理できることが開示されている。
【0006】
しかしながら、糞便には、腸内細菌、油性物質、親水性物質等が混在しており、他の汚垢とは組成が著しく異なるため、従来の一般的な硬質表面に対する撥水化処理や親水化処理では、トイレ便器の糞便汚れに対する防汚効果は十分とはいえない。また、特許文献1及び2では、トイレ便器の表面処理によって防汚効果を付与できることが開示されているが、消費者ニーズの高まりに追従するために、防汚効果を向上させた処理剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-144177号公報
【文献】特開2006-307148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トイレ便器の表面に対して、優れた防汚効果を付与できるトイレ便器用コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含む処理液を用いてトイレ便器をコーティングすることにより、糞便汚れに対して格段に優れた防汚効果を付与できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含有する、トイレ便器用コーティング剤。
項2. 前記シロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物が、シリコーン系ブロックコポリマー及び/又はシリコーン系界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載のトイレ便器用コーティング剤。
項3. 前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルである、項1又は2に記載のトイレ便器用コーティング剤。
項4. 更に、カチオン性界面活性剤を含む、項1~3のいずれかに記載のトイレ便器用コーティング剤。
項5. ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含有するコーティング剤を、トイレ便器の表面に接触させる、トイレ便器の防汚コーティング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトイレ便器用コーティング剤によれば、トイレ便器の表面をコーティングすることにより、糞便汚れに対して格段に優れた防汚効果を付与できるので、トイレ便器を衛生的な状態に保つことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.トイレ便器用コーティング剤
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物を含有することを特徴とする。以下、本発明のトイレ便器用コーティング剤について詳述する。
【0013】
[ポリオキシアルキレンアルキルエーテル]
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む。
【0014】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは、ポリオキシアルキレン鎖とアルキル基がエーテル結合している非イオン性界面活性剤である。
【0015】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを構成するポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン鎖のいずれであってもよい。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン鎖は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドがランダム付加されたものであってもよく、これらがブロック付加されたものであってもよい。
【0016】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを構成するポリオキシアルキレン鎖として、好ましくはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン鎖が挙げられる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン鎖におけるポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとの平均付加モル数の比率については、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレンオキサイドの平均付加モル数:ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数として、1:0.3~15、好ましくは1:0.5~8、更に好ましくは1:1~5が挙げられる。
【0017】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを構成するポリオキシアルキレン鎖のアルキレンキサイドの平均付加モル数としては、例えば、3~50、好ましくは8~40、更に好ましくは10~30、特に好ましくは15~25が挙げられる。
【0018】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを構成するアルキル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。また、当該アルキル基の炭素数としては、例えば、6~24、好ましくは8~18、更に好ましくは8~16が挙げられる。
【0019】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、具体的には、POEアルキル(C6)エーテル、POEアルキル(C10)エーテル、POEアルキル(C12)エーテル、POEアルキル(C14)エーテル、POEアルキル(C16)エーテル、POEアルキル(C20)エーテル、POEアルキル(C22)エーテル、POEアルキル(C24)エーテル、POPアルキル(C6)エーテル、POPアルキル(C10)エーテル、POPアルキル(C12)エーテル、POPアルキル(C14)エーテル、POPアルキル(C16)エーテル、POPアルキル(C20)エーテル、POPアルキル(C22)エーテル、POPアルキル(C24)エーテル、POE・POPアルキル(C6)エーテル、POE・POPアルキル(C10)エーテル、POE・POPアルキル(C12)エーテル、POE・POPアルキル(C14)エーテル、POE・POPアルキル(C16)エーテル、POE・POPアルキル(C20)エーテル、POE・POPアルキル(C22)エーテル、POE・POPアルキル(C24)エーテル等が挙げられる。ここで、「POE」はポリオキシエチレン、「POP」はポリオキシプロピレンを示し、括弧書きで記しているCの後ろの数値はアルキル基の炭素数を示す。
【0020】
本発明で使用されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの好適な例として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、特に下記一般式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(1)において、R1は、炭素数6~24、好ましくは8~18、更に好ましくは8~16の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。
【0023】
一般式(1)において、nは0~50、好ましくは0~40、より好ましくは0~30、更に好ましくは0~25の整数;mは0~50、好ましくは0~40、より好ましくは0~30、更に好ましくは0~25の整数;且つn+mは3~50、好ましくは8~40、より好ましくは10~30、更に好ましくは15~25を示す。一般式(1)におけるn及びmとして、特に好ましくは、nが8~20、mが1~8、且つn+mが12~24、最も好ましくはnが13~19、mが2~7、且つn+mが18~22が挙げられる。
【0024】
本発明のトイレ便器用コーティング剤において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、1種の構造のものを単独で使用してもよく、2種以上の構造のものを組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度については、後述する使用時の濃度を満たすように適宜設定すればよい。
【0026】
例えば、本発明のトイレ便器用コーティング剤が、希釈されることなく、そのままトイレ便器の表面に適用される態様(以下、「非濃縮タイプ」と表記することもある)である場合には、本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度として、例えば0.00001~99重量%、好ましくは0.00002~30重量%、更に好ましくは0.0001~20重量%が挙げられる。
【0027】
また、例えば、本発明のトイレ便器用コーティング剤が、水で希釈された後にトイレ便器の表面に適用される態様(以下、「濃縮タイプ」と表記することもある)である場合には、本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度は、希釈後の濃度が前記非濃縮タイプにおけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度の範囲になるように、設定される希釈倍率に応じて適宜設定すればよい。本発明のトイレ便器用コーティング剤が濃縮タイプである場合、設定される希釈倍率としては、例えば、10~1000000倍程度、好ましくは100~500000倍程度、更に好ましくは1000~100000倍程度が挙げられる。
【0028】
[シロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物]
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、シロキサン骨格を主鎖又は側鎖に含む化合物(以下、「シリコーン系化合物」と表記することもある)を含む。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとシリコーン系化合物を併用することによって、トイレ便器に対して糞便汚れへの格段に優れた防汚効果を付与することが可能になる。
【0029】
本発明で使用されるシリコーン系化合物の種類については、特に制限されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤、シリコーン系ブロックコポリマー等が挙げられる。
【0030】
シリコーン系界面活性剤としては、シロキサン骨格の側鎖及び/又は末端を親水性基で変性させたシリコーンであり、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、スルホン酸変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン系界面活性剤の中でも、好ましくはポリエーテル変性シリコーン、更に好ましくはポリエチレンオキサイド変性シリコーンが挙げられる。
【0031】
また、ポリエチレンオキサイド変性シリコーンの好適な一例として、下記一般式(2)に示す化合物が挙げられる。
【化2】
【0032】
一般式(2)において、R20は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、更に好ましくはメチル基又はプロピル基を示す。
【0033】
一般式(2)において、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、及びR29は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、更に好ましくはメチル基を示す。
【0034】
一般(2)において、n1は、0~10の整数、好ましくは0~8の整数、更に好ましくは0~6の整数を示す。
【0035】
一般(2)において、n2は、1~10の整数、好ましくは1~6の整数、更に好ましくは1~4の整数を示す。
【0036】
一般(2)において、n3は、1~10の整数、好ましくは1~6の整数、更に好ましくは1~4の整数を示す。
【0037】
一般(2)において、n4は、1~20の整数、好ましくは1~16の整数、更に好ましくは1~12の整数を示す。
【0038】
一般式(2)に示す化合物として、n1が0である場合の具体例としては、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(プロピル(ポリエチレンオキシド)メチル)トリシロキサン(一般式(2)において、R20がプロピル基;R21、R22、R23、R27、R28、及びR29がメチル基;n1が0;n2が1;n3が1である化合物)が挙げられる。
【0039】
シリコーン系ブロックコポリマーとしては、ポリシロキサンを含むセグメントと、ポリシロキサンを含まないセグメントを有するブロックポリマーであればよい。
【0040】
シリコーン系ブロックコポリマーの好適な一例として、メタクリル酸エステルをラジカル重合させた第1セグメントと、メタクリル酸ポリシロキサンエステルをラジカル重合させた第2セグメントを有するブロック共重合体が挙げられる。
【0041】
前記第1セグメントの構成モノマーとなるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸と、炭素数1~12(好ましくは炭素数1~4)の1価アルコールとのエステルが挙げられ、メタクリル酸メチルエステルが特に好適である。
【0042】
前記第2セグメントの構成モノマーとなるメタクリル酸ポリシロキサンエステルとしては、例えば、下記一般式(3)に示す化合物が挙げられる。
【化3】
【0043】
一般式(3)において、R31、R32及びR33は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~12のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、更に好ましくはメチル基を示す。
【0044】
一般(3)において、m4は、1~7の整数、好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数を示す。
【0045】
これらのシリコーン系化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるシリコーン系化合物の濃度としては、非濃縮タイプの場合であれば、例えば0.00000001~99重量%、好ましくは0.00000002~30重量%、更に好ましくは0.0000001~10重量%が挙げられる。また、濃縮タイプの場合であれば、本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるシリコーン系化合物の濃度は、希釈後の濃度が前記非濃縮タイプにおけるシリコーン系化合物の濃度の範囲になるように、設定される希釈倍率に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
本発明のトイレ便器用コーティング剤において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとシリコーン系化合物との比率については、特に制限されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル100重量部当たり、シリコーン系化合物が0.025~100重量部が挙げられる。トイレ便器の表面に対してより一層優れた防汚効果を付与させるという観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル100重量部当たり、シリコーン系化合物が、好ましくは0.025~25重量部、更に好ましくは0.025~2.5重量部が挙げられる。
【0048】
[カチオン性界面活性剤]
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、必要に応じてカチオン性界面活性剤を含んでいてもよい。シリコーン系化合物としてシリコーン系界面活性剤を使用する場合には、カチオン性界面活性剤を含むことによって、優れた防汚効果と共に、除菌効果も奏させることも可能になる。
【0049】
本発明で使用されるカチオン性界面活性剤の種類については、特に制限されないが、例えば、第4級アンモニウム塩型界面活性剤、アミドアミン塩型界面活性剤、アミドグアニジン塩型界面活性剤が挙げられる。
【0050】
第4級アンモニウム塩型界面活性剤としては、具体的には、ジヘキシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジオクチルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジドデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジテトラデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジオクタデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート等のジアルキル(炭素数6~18)ジアルキル(炭素数1~4)アンモニウムのメチル硫酸塩、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、等のジアルキル(炭素数6~18)ジアルキル(炭素数1~4)アンモニウム塩;塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルトリメチルアンモニウム、等のアルキル(炭素数12~20)トリアルキル(炭素数1~4)アンモニウム塩;塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0051】
アミドアミン塩型界面活性剤としては、具体的には、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミドグルタミン酸塩、ラノリン脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドグルタミン酸塩等が挙げられる。
【0052】
アミドグアニジン塩型界面活性剤としては、具体的には、ラウリン酸アミドグアニジン塩酸塩等が挙げられる。
【0053】
これらのカチオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
これらのカチオン性界面活性剤の中でも、好ましくは第4級アンモニウム塩型界面活性剤、更に好ましくはジアルキル(炭素数6~18)ジアルキル(炭素数1~4)アンモニウムのメチル硫酸塩、特に好ましくはジアルキル(炭素数6~18)ジメチルアンモニウムのメチル硫酸塩が挙げられる。
【0055】
本発明のトイレ便器用コーティング剤においてカチオン性界面活性剤を含有させる場合、その濃度としては、非濃縮タイプの場合であれば、例えば0.00001~99重量%、好ましくは0.00002~30重量%、更に好ましくは0.0001~10重量%が挙げられる。また、濃縮タイプの場合であれば、本発明のトイレ便器用コーティング剤におけるカチオン性界面活性剤の濃度は、希釈後の濃度が前記非濃縮タイプにおけるカチオン性界面活性剤の濃度の範囲になるように、設定される希釈倍率に応じて適宜設定すればよい。
【0056】
本発明のトイレ便器用コーティング剤においてカチオン性界面活性剤を含有させる場合、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとてカチオン性界面活性剤との比率については、特に制限されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル100重量部当たり、カチオン性界面活性剤が30~70重量部、好ましくは35~65重量部、更に好ましくは40~60重量部が挙げられる。
【0057】
[その他の成分・形態等]
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、前記成分以外に、他の添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤や基剤としては、例えば、水、1価低級アルコール、多価アルコール、前記成分以外の界面活性剤、漂白剤、香料、消臭剤、着色剤、可溶化剤、殺菌剤、キレート剤、増量剤、溶解性調整剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、無機系ビルダー、有機系ビルダー、酵素等が挙げられる。
【0058】
本発明のトイレ便器用コーティング剤が非濃縮タイプである場合には、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数2~5の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の水性基剤を配合し、前記各成分が前述する濃度になるように調整すればよい。
【0059】
また、本発明のトイレ便器用コーティング剤が濃縮タイプである場合には、前述する基材や添加剤を配合し、設定される希釈倍率に応じて前記各成分の濃度を適宜調整して、液状、液体状、固体状(粉末状、錠剤状等)、半固形状(ペースト状、ゲル状等)の形状にすればよい。
【0060】
[使用方法]
本発明のトイレ便器用コーティング剤は、トイレ便器の表面(ボウル部の表面)に対してコーティングさせて、糞便汚れに対する防汚効果を付与する目的で使用される。
【0061】
本発明のトイレ便器用コーティング剤をトイレ便器の表面にコーティングさせるには、非濃縮タイプの場合にはそのまま、濃縮タイプの場合には所定の希釈倍率になるように水で希釈して、トイレ便器の表面に接触させればよい。
【0062】
本発明のトイレ便器用コーティング剤をトイレ便器の表面に接触させるには、トイレ便器の表面に対して、本発明のトイレ便器用コーティング剤を噴霧、塗布、流水等を行えばよい。本発明のトイレ便器用コーティング剤をトイレ便器の表面に接触させる際には、必要に応じてブラシでブラッシングを行ってもよい。
【0063】
また、本発明のトイレ便器用コーティング剤が濃縮タイプの場合であれば、トイレのフラッシュ水を使用して希釈してもよい。本発明のトイレ便器用コーティング剤をトイレのフラッシュ水に希釈して使用する場合は、水洗トイレのオンタンク用、リム部用、便器表面付着用等として使用してもよい。オンタンク用は、水洗トイレの手洗い部の上に設置して使用されるものであって、トイレ便器用コーティング剤が収容された容器に、手洗い部に供給された洗浄用のフラッシュ水と接触することにより、当該トイレ便器用コーティング剤が容器から流出され、トイレ便器用コーティング剤が溶け込んだフラッシュ水が便器内に放出されることによって、便器表面がコーティングされる。また、リム部用では、水洗トイレのリム部に取り付けられて使用され、トイレ便器用コーティング剤が収容された容器に、便器に放出されるフラッシュ水が接触することにより、当該トイレ便器用コーティング剤が容器から流出され、トイレ便器用コーティング剤が溶け込んだフラッシュ水が便器内に放出されることによって、便器表面がコーティングされる。便器表面付着用では、ゲル状や固形状にした本発明のトイレ便器用コーティング剤を便器表面に直接付着させておき、フラッシュ時に便器表面でフラッシュ水と接触し、トイレ便器用コーティング剤がフラッシュ水中に溶出することによって、便器表面がコーティングされる。
【0064】
本発明のトイレ便器用コーティング剤の1回当たりの使用量については、トイレ便器の表面に接触させる方法等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1回当たりの使用量として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとシリコーン系化合物の総量が1~300mg程度となる量が挙げられる。
【0065】
また、本発明のトイレ便器用コーティング剤をコーティングさせたトイレ便器は、トイレの使用によって徐々にトイレ便器用コーティング剤が流出するので、例えば、1~8週間程度に1回の頻度で本発明のトイレ便器用コーティング剤を使用してコーティングを行うことが望ましい。また、本発明のトイレ便器用コーティング剤がフラッシュ水に希釈して使用する態様の場合には、トイレの使用の度に本発明のトイレ便器用コーティング剤がトイレ便器表面にコーティングされるので、コーティング状態を持続させることができる。
【0066】
2.トイレ便器の防汚コーティング方法
本発明のトイレ便器の防汚コーティング方法は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びシリコーン系化合物を含むトイレ便器用コーティング剤をトイレ便器の表面に接触させることを特徴とする。本発明のトイレ便器の防汚コーティング方法によって、トイレの便器の表面に対して優れた防汚効果を付与することが可能になる。
【0067】
本発明のトイレ便器の防汚コーティング方法の具体的態様については、前記「1.トイレ便器用コーティング剤」の欄に記載の通りである。
【実施例
【0068】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
試験例1
先ず、以下に示す試験液を準備した。
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル含有液:ポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルキルエーテル含量は100重量%、一般式(1)において、R1が炭素数10の直鎖状アルキル基、nが17程度、mが3程度であるものを使用した。
メタクリル酸エステル/メタクリル酸ポリシロキサンエステルブロックコポリマー:メタクリル酸エステルとメタクリル酸ポリシロキサンエステルのブロックコポリマー、メタクリル酸メチルエステル/メタクリル酸ポリシロキサンエステルブロックコポリマー含量は15~17重量%であるものを使用した。
シリコーン系界面活性剤1:商品名「ポリフローKL100」(共栄社化学株式会社)、一般式(2)に示す化合物を100重量%含む液を使用した。
シリコーン系界面活性剤2:一般式(2)において、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、及びR29がメチル基;n1が5;n2が3;n3が3;n4が10である化合物を100重量%含む液を使用した。
シリコーン系界面活性剤3:商品名「シルフェイスSAG020」(日信化学工業株式会社)、一般式(2)に示す化合物を100重量%含む液を使用した。
シリコーン系界面活性剤4:1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(プロピル(ポリエチレンオキシド)メチル)トリシロキサン(一般式(2)において、R20がプロピル基;R21、R22、R23、R27、R28、及びR29がメチル基;n1が0;n2が1;n3が1である化合物)を100重量%含む液を使用した。
ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート含有液:(ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェートを80重量%含む液)
ポリオキシエチレンステアリルエーテル含有液:商品名「ブラウノンSR-720」(青木油脂工業株式会社)
ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート含有液:商品名「ブラウノンOT-320」(青木油脂工業株式会社)
ポリオキシエチレン合成アルコールエーテル含有液:商品名「ファインサーフNE-50」(青木油脂工業株式会社)
プロピレングリコールモノリシノレート含有液:商品名「PGMR」(伊藤製油株式会社)
アクリルポリマー含有液:アクリルポリマー60重量%含有液、商品名「ポリフローKL-850」(共栄社化学株式会社)
両新媒性オリゴマー含有液:両新媒性オリゴマー14重量%含有液、商品名「ポリフローKL-900」(共栄社化学株式会社)
【0070】
表1及び2に示す組成のコーティング液を蒸留水で14ppmに希釈し、防汚効果を評価した。具体的な試験方法は、以下の通りである。先ず、衛生陶器のカットタイル(KYタイルP4-100、日本テストパネル株式会社製、109mm×109mm、厚み0.5cm)をアセトンで洗浄した後に、蒸留水で洗浄し、自然乾燥を行った。乾燥後のカットタイルをコーティング液の希釈液500ml中に10秒間浸漬させた後に自然乾燥を行った。この操作(浸漬及び自然乾燥)を合計15回行った後に、カットタイルを30°に傾けて台に固定した。台から15cmの高さから20gの疑似便(ドライイースト8重量%、セルロース4重量%、カルボキシメチルセルロース7重量%、油4重量%、ケルコゲル0.6重量%、乳酸カルシウム0.04重量%、及び水76.36重量%の混合物)を、固定しているカットタイルの上に落下させ、30秒間静置した。次いで、疑似便が付着しているカットタイルの上側から3Lの水道水を5秒間かけて流水させた後に、疑似便の残存の有無を目視にて確認し、以下の判定基準に従って防汚効果を評価した。
<防汚効果の判定基準>
○:カットタイル表面の疑似便が目視では確認できない。
×:カットタイル表面の疑似便が目視で確認できる。
【0071】
得られた結果を表1及び2に示す。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル単独又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル及びカチオン性界面活性剤の組み合わせでは、防汚効果は認められなかったが(比較例1及び7)、更に、シリコーン系化合物を併用した場合には防汚効果が認められた(実施例1~5)。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルと他の親水性化合物を併用した場合には、防汚効果は認められなかった(比較例2~6及び8~12)。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】