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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】クリープフィード研削方法及び研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/02 20060101AFI20231219BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20231219BHJP
   B24B 49/03 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B24B7/02
B24B41/06 L
B24B49/03 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019199776
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070126
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】万波 秀年
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘樹
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-150355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/02
B24B 41/06
B24B 49/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持面に保持された被加工物と回転する研削砥石とを該保持面に平行なY軸方向に相対的に移動させて、被加工物の一端側から他端側に向かって被加工物の上面を該研削砥石を用いて研削するクリープフィード研削方法であって、
該保持面に保持された被加工物の上面より所定の距離下方に該研削砥石の下面を位置付け、被加工物と該研削砥石とを相対的に該Y軸方向に移動させ被加工物の上面を研削する試し研削工程と、
該試し研削工程において研削された該保持面に保持された被加工物を該Y軸方向に移動させ、該Y軸方向における少なくとも一端及び他端の被加工物の厚みを厚み測定手段を用いて測定する厚み測定工程と、
該厚み測定工程において測定した被加工物の一端側の厚みと、被加工物の他端側の厚みとの厚み差を算出する厚み差算出工程と、
該厚み測定手段が測定した被加工物の厚みが大きい他端側を支点として、該厚み測定工程において測定した被加工物の厚みが小さい一端側を該研削砥石の下面から遠ざける下方向に該厚み差分移動させて該保持面を傾ける保持面傾け工程と、
該保持面傾け工程において傾けられた該保持面に新たに保持された被加工物の一端側の上面より所定距離下方に該研削砥石の下面を位置付け、被加工物と該研削砥石とを相対的に該Y軸方向に移動させ被加工物の上面を研削する研削工程と、
からなるクリープフィード研削方法。
【請求項2】
該試し研削工程は、該保持面に保持された被加工物に対して研削を複数回実施する請求項1記載のクリープフィード研削方法。
【請求項3】
保持面に被加工物を保持するチャックテーブルと、研削砥石を基台に環状に配置させた研削ホイールの中心を軸に該研削ホイールを回転させ被加工物を研削する研削手段と、該チャックテーブルと該研削手段とを該保持面に平行なY軸方向に相対的に移動させる水平移動手段と、該研削手段を該保持面に垂直なZ軸方向に移動させる垂直移動手段と、を備え、被加工物の一端側から他端側に向かって被加工物の上面を該研削砥石を用いてクリープフィード研削する研削装置であって、
該保持面に保持された被加工物の厚みを測定する厚み測定手段と、
該厚み測定手段が測定した該被加工物の該一端側の厚みと該他端側の厚みとの厚み差を算出する厚み差算出手段と、
該Y軸方向における該保持面の傾きを調整する傾き調整機構と、
該一端側又は該他端側のうち該厚み測定手段が測定した該被加工物の厚みが小さい側を、該厚み測定手段が測定した被加工物の厚みが大きい側を支点として、該研削砥石の下面から遠ざける下方向に該厚み差分移動させるよう、該傾き調整機構を制御し該保持面を傾ける制御手段と、を備える研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープフィード研削方法と研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャックテーブルの保持面に保持された被加工物の上面より下の高さに研削砥石の下面を位置付けて、研削砥石とチャックテーブルとを相対的に水平なY軸方向に移動させることにより、被加工物の上面の一端側から他端側に研削砥石を移動させて被加工物を研削するクリープフィード研削においては、研削砥石の消耗によって一端側の被加工物の厚みと他端側の被加工物の厚みとの間に厚みの差が生じる。
【0003】
そのため、特許文献1に開示のようにY軸方向の位置との関係における研削砥石の消耗量を把握しておき、研削砥石に対して被加工物をY軸方向に移動させつつ研削砥石の消耗量分、研削砥石を下降させて被加工物に生じる厚みの差を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-002598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の研削においては、被加工物と研削砥石とを相対的にY軸方向に移動させながら、Y軸方向の位置に応じて研削砥石を下降させているため、被加工物に対する研削砥石のY軸及びZ軸の2つの軸の方向への相対移動を制御する制御ユニットが必要となり制御が難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、保持面に保持された被加工物と回転する研削砥石とを該保持面に平行なY軸方向に相対的に移動させて、被加工物の一端側から他端側に向かって被加工物の上面を該研削砥石を用いて研削するクリープフィード研削方法であって、該保持面に保持された被加工物の上面より所定の距離下方に該研削砥石の下面を位置付け、被加工物と該研削砥石とを相対的に該Y軸方向に移動させ被加工物の上面を研削する試し研削工程と、該試し研削工程において研削された該保持面に保持された被加工物を該Y軸方向に移動させ、該Y軸方向における少なくとも一端及び他端の被加工物の厚みを厚み測定手段を用いて測定する厚み測定工程と、該厚み測定工程において測定した被加工物の一端側の厚みと、被加工物の他端側の厚みとの厚み差を算出する厚み差算出工程と、該厚み測定手段が測定した被加工物の厚みが大きい他端側を支点として、該厚み測定工程において測定した被加工物の厚みが小さい一端側を該研削砥石の下面から遠ざける下方向に該厚み差分移動させて該保持面を傾ける保持面傾け工程と、該保持面傾け工程において傾けられた該保持面に新たに保持された被加工物の一端側の上面より所定距離下方に該研削砥石の下面を位置付け、被加工物と該研削砥石とを相対的に該Y軸方向に移動させ被加工物の上面を研削する研削工程と、からなるクリープフィード研削方法である。
該試し研削工程は、該保持面に保持された被加工物に対して研削を複数回実施することが望ましい。
本発明は、保持面に被加工物を保持するチャックテーブルと、研削砥石を基台に環状に配置させた研削ホイールの中心を軸に該研削ホイールを回転させ被加工物を研削する研削手段と、該チャックテーブルと該研削手段とを該保持面に平行なY軸方向に相対的に移動させる水平移動手段と、該研削手段を該保持面に垂直なZ軸方向に移動させる垂直移動手段と、を備え、被加工物の一端側から他端側に向かって被加工物の上面を該研削砥石を用いてクリープフィード研削する研削装置であって、該保持面に保持された被加工物の厚みを測定する厚み測定手段と、該厚み測定手段が測定した該被加工物の該一端側の厚みと該他端側の厚みとの厚み差を算出する厚み差算出手段と、該Y軸方向における該保持面の傾きを調整する傾き調整機構と、該一端側又は該他端側のうち該厚み測定手段が測定した該被加工物の厚みが小さい側を、該厚み測定手段が測定した被加工物の厚みが大きい側を支点として、該研削砥石の下面から遠ざける下方向に該厚み差分移動させるよう、該傾き調整機構を制御し該保持面を傾ける制御手段と、を備える研削装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、研削する前に保持面の傾きを調整するため、従来のように研削加工中に研削砥石を下降させるというような複雑な動作が不要になる。
また、被加工物を複数回のクリープフィード研削により所望の厚みに仕上げる場合においては、試し研削をそのクリープフィード研削の回数分行ってから一端と他端との間の厚みの差を算出して、該差に対応する分保持面の一端を下げる。その後、被加工物のクリープフィード研削を行うことによって研削砥石の消耗を加味して所望の厚みに仕上げることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】研削装置全体を表す斜視図である。
図2】(a)は被加工物の試し研削前の様子を側方から見た断面図であり、(b)は被加工物の試し研削中の様子を側方から見た断面図であり、(c)は被加工物の試し研削終了時の様子を側方から見た断面図である。
図3】(a)は保持面高さ測定手段を用いて保持面の高さを測定する様子を表す断面図であり、(b)は上面高さ測定手段を用いて被加工物の上面の一端側の高さを測定する様子を表す断面図であり、(c)は被加工物の上面の他端側の高さを測定する様子を表す断面図である。
図4】保持面を傾ける様子を表す断面図である。
図5】(a)は被加工物の研削中の様子を表す断面図であり、(b)は被加工物の研削後の様子を表す断面図である。
図6】(a)は1回目の試し研削後の様子を表す断面図であり、(b)は傾き調整機構を用いてチャックテーブルの一端側を上昇させて被加工物の上面を水平にする様子を表す断面図である。
図7】(a)は1回目の研削後の様子を表す断面図であり、(b)は回転手段を用いてチャックテーブルを180度回転させた後に、傾き調整機構を用いてチャックテーブルの他端側を下げて被加工物の上面を水平にする様子を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1 研削装置
図1に示す研削装置1は、保持面20aに保持された被加工物Wを研削する研削装置である。以下、研削装置1について説明する。
図1に示すように、研削装置1は、ベース10とベース10の-X方向側に立設されたコラム11とを備えている。
【0010】
ベース10の上には、チャックテーブル2が配設されている。チャックテーブル2は、例えば、長方形状の吸引部20と吸引部20を支持する枠体21とを備えている。吸引部20の上面は被加工物Wが保持される保持面20aであり、保持面20aは枠体21の上面21aと面一に形成されている。
また、チャックテーブル2の枠体21は、回転手段24に支持されている。回転手段24は、チャックテーブル2をZ軸に平行な回転軸25を軸にして回転させる機能を有している。
【0011】
コラム11の+X方向側には、研削手段3を保持面20aに垂直なZ軸方向に移動させる垂直移動手段4が配設されている。
研削手段3は、Z軸方向の回転軸35を有するスピンドル30と、スピンドル30を回転可能に支持するハウジング31と、回転軸35を軸にしてスピンドル30を回転駆動するスピンドルモータ32と、スピンドル30の下端に接続された円環状のマウント33と、マウント33の下面に着脱可能に装着された研削ホイール34とを備えている。
研削ホイール34は、ホイール基台341と、ホイール基台341の下面に環状に配列された略直方体形状の複数の研削砥石340とを備えており、研削砥石340の下面340aは被加工物Wを研削する研削面となっている。
【0012】
スピンドルモータ32を用いて回転軸35を軸にしてスピンドル30を回転させることにより、スピンドル30に接続されたマウント33、及びマウント33に装着された研削ホイール34が一体的に回転軸35を軸にして回転することとなる。
【0013】
垂直移動手段4は、Z軸方向の回転軸45を有するボールネジ40と、ボールネジ40に対して平行に配設された一対のガイドレール41と、回転軸45を軸にしてボールネジ40を回転させるZ軸モータ42と、内部のナットがボールネジ40に螺合して側部がガイドレール41に摺接する昇降板43と、昇降板43に連結され研削手段3を支持するホルダ44とを備えている。
【0014】
Z軸モータ42によってボールネジ40が駆動されて、ボールネジ40が回転軸45を軸にして回転すると、これに伴って、昇降板43がガイドレール41に案内されてZ軸方向に昇降移動するとともに、ホルダ44に保持されている研削手段3がZ軸方向に移動することとなる。
【0015】
ベース10の内部には、内部ベース12が配設されている。内部ベース12の上には、チャックテーブル2をY軸方向に水平移動させる水平移動手段5が配設されている。
水平移動手段5は、Y軸方向の回転軸55を有するボールネジ50と、回転軸55を軸にしてボールネジ50を回転させるY軸モータ52と、ボールネジ50に対して平行に配設された一対のガイドレール51と、内部のナットがボールネジ50に螺合して底部がガイドレール51に摺接する可動板53とを備えている。
【0016】
Y軸モータ52を用いてボールネジ50を駆動することにより、ボールネジ50が回転軸55を軸にして回転すると、可動板53がガイドレール51に案内されながらY軸方向に水平移動することとなる。
【0017】
可動板53の上には、傾き調整機構6が配設されている。傾き調整機構6は、回転手段24を支持する支持板62と、支持板62の底面の+Y方向側に配設されたX軸方向に延在する支持ローラ60と、支持板62の底面の-Y方向側に配設された昇降軸61とを備えている。
昇降軸61をZ軸方向に昇降させて支持ローラ60を支点に支持板62の傾きを調整することにより、支持板62に回転手段24を介して支持されているチャックテーブル2の保持面20aのY軸方向の傾きを調整することができる。
昇降軸61は、例えば、印加された電圧に応じて伸縮する積層圧電素子等でもよい。
また、支持ローラ60を、支持柱に変更してもよい。
【0018】
また、チャックテーブル2の周囲にはカバー28が配設されており、カバー28には蛇腹29が伸縮自在に連結されている。例えば、水平移動手段5によってチャックテーブル2がY軸方向に移動すると、カバー28がチャックテーブル2と共にY軸方向に移動して蛇腹29が伸縮することとなる。
【0019】
ベース10の上におけるチャックテーブル2の移動経路の-X方向側には、厚み測定手段7が配設されている。厚み測定手段7は、上面高さ測定手段71と、保持面高さ測定手段72と、算出部73とを備えている。
上面高さ測定手段71は、被加工物Wの上面Waに接触する第1接触子710と、第1接触子710の高さ位置を認識する第1スケール711とを備えている。保持面高さ測定手段72は、枠体21の上面21aに接触する第2接触子720と、第2接触子720の高さ位置を認識する第2スケール721とを備えている。
保持面20aに被加工物Wが保持されている状態で被加工物Wの上面Waに上面高さ測定手段71の第1接触子710を接触させることにより、被加工物Wの上面Waの高さを測定することができる。また、保持面高さ測定手段72の第2接触子720を枠体21の上面21aに接触させることにより、枠体21の上面21aに面一な保持面20aの高さを測定することができる。
算出部73においては、測定された被加工物Wの上面Waの高さから保持面20aの高さが差し引かれて、被加工物Wの厚みが測定されることとなる。
【0020】
研削装置1は、厚み差算出手段8を備えている。厚み差算出手段8は、被加工物Wの一端側の厚みと他端側の厚みとの差Dを算出することができる。
【0021】
研削装置1は、研削装置1に備える各種の機構の動作を制御する制御手段9を備えている。制御手段9は、厚み測定手段7が測定した被加工物Wの厚みが小さい側を研削砥石340の下面340aから遠ざける下方向に厚み差算出手段8により算出された厚み差分移動させる傾き調整機構6を制御して保持面20aを傾ける機能を有している。
【0022】
2 研削方法
(1)第1実施形態
(試し研削工程)
上記の研削装置1を用いた被加工物Wの研削方法について説明する。まず、図2(a)に示すように、被加工物Wをチャックテーブル2の保持面20aに載置して図示しない吸引源等を作動させて、保持面20aに吸引力を伝達する。これにより、保持面20aに被加工物Wを吸引保持する。
【0023】
次に、回転軸35を軸にして研削手段3のスピンドル30を回転させる。これにより、回転軸35を軸にして研削砥石340が回転する。
研削砥石340が回転軸35を軸にして回転している状態で、垂直移動手段4を用いて研削手段3を-Z方向に下降させて、保持面20aに保持されている被加工物Wの上面Waの高さ位置よりも所定の距離下方に、研削砥石340の下面340aを位置付ける。
そして、水平移動手段5を用いてチャックテーブル2を-Y方向に移動させる。
【0024】
これにより、図2(b)に示すように、被加工物Wと研削砥石340とが接触する。このとき、研削砥石340は、その-Y方向側が+Y方向側よりも低い高さに位置付けられており、研削砥石340の-Y方向側が被加工物Wに接触する。
被加工物Wと研削砥石340とが接触している状態で、図2(c)に示すように、さらにチャックテーブル2を-Y方向に移動させる。これにより、被加工物Wの上面Wa側が研削砥石340によってクリープフィード研削される。
【0025】
被加工物Wの研削によって研削砥石340が消耗していくため、図2(c)に示すように、研削後の被加工物Wの厚みは均一にならず、被加工物Wの-Y方向側の厚みが+Y方向側の厚みよりも小さくなっている。
【0026】
(厚み算出工程)
次に、垂直移動手段4を用いて研削手段3を+Z方向に移動させて、研削砥石340を被加工物Wから離間させる。
そして、図3(a)に示すように、保持面高さ測定手段72の第2接触子720をチャックテーブル2の枠体21の他端212に接触させて第2スケール721の値を読み取り、枠体21の他端212の高さを測定する。また、チャックテーブル2を+Y方向に移動させ、図3(a)において二点鎖線で示すように第2接触子720を枠体21の一端211に接触させて第2スケール721の値を読み取り、枠体21の一端211の高さを測定する。
【0027】
また、図3(b)に示すように、第1接触子710を被加工物Wの上面Waの他端E2に接触させて第1スケール711の値を読み取り、被加工物Wの上面Waの他端E2の高さを測定する。そして、被加工物Wの上面Waの他端E2の高さから枠体21の他端212の高さを差し引いて、被加工物Wの他端側の厚みT2を測定する。
【0028】
さらに、図3(c)に示すように、水平移動手段5を用いてチャックテーブル2を+Y方向に移動させてから、上面高さ測定手段71の第1接触子710を被加工物Wの上面Waの一端E1に接触させて第1スケール711の値を読み取り、被加工物Wの一端E1の高さを測定する。そして、被加工物Wの上面Waの一端E1の高さから枠体21の一端211の高さを差し引いて、被加工物Wの一端側の厚みT1を測定する。
【0029】
なお、例えば上面高さ測定手段71を用いて被加工物Wの上面Waの高さを測定しながら、保持面高さ測定手段72を用いて枠体21の上面21aの高さを測定してもよい。
【0030】
(厚み差算出工程)
上記のように厚み測定手段7により測定された被加工物Wの一端側の厚みT1、及び被加工物Wの他端側の厚みT2の値は、例えば電気信号として、図3(c)に示す厚み差算出手段8に送られる。そして、厚み差算出手段8において、被加工物Wの一端側の厚みT1と、被加工物Wの他端側の厚みT2とが差し引かれて、被加工物Wの一端側の厚みT1と他端側の厚みT2との厚み差Dが算出される。
【0031】
(保持面傾け工程)
次に、試し研削された被加工物Wの厚みが小さい一端E1側を、厚み差算出手段8によって算出された厚み差Dの分、研削砥石340の下面340aから遠ざける下方向(-Z方向)に移動させて保持面20aを傾ける。
具体的には、図4に示す制御手段9によって傾き調整機構6を制御して昇降軸61を、厚み差Dの分-Z方向に下げる。チャックテーブル2の枠体21の一端211が厚み差Dの分-Z方向に下がると、チャックテーブル2の保持面20aの-Y方向側が、支持ローラ60を軸にして下方へと傾く。そして、チャックテーブル2に保持されている被加工物Wの上面Waの一端E1が厚み差Dの分-Z方向に下がる。
【0032】
(研削工程)
上記のように保持面20aを傾けた後、被加工物Wの研削を行う。まず、図4に示すように、新たな被加工物Wを保持面20aに保持してから、垂直移動手段4を用いて研削砥石340を-Z方向に下降させて、被加工物Wの一端E1側の上面Waより所定距離下方に研削砥石340の下面340aを位置付ける。次いで、水平移動手段5を用いて、図5(a)に示すようにチャックテーブル2を-Y方向に移動させることにより、研削砥石340が被加工物Wに接触して被加工物Wのクリープフィード研削が開始される。そして、図5(b)に示すように、被加工物Wが研削砥石340よりも-Y方向側に移動すると、被加工物Wの上面Wa側がクリープフィード研削される。クリープフィード研削による研削砥石340の磨耗に応じてチャックテーブル2の保持面20aがあらかじめ傾けられているため、研削によって形成された被研削面Wbは、研削前の上面Waと平行な面となり、被加工物Wの厚みが均一となる。研削前に保持面20aを傾けておくことにより、研削中に研削砥石340のZ軸方向の高さ位置を変えるという難しい制御をする必要がなくなる。
【0033】
なお、研削工程では、試し研削時よりも研削砥石340にかかる水平方向の負荷が大きくなるため、研削砥石340のより大きな磨耗を加味して、厚み差Dよりも僅かに多く、保持面20aを下側(-Z方向)に移動させてもよい。
【0034】
(2)第2実施形態
第1実施形態では、被加工物1枚についてクリープフィード研削を1回のみ行う場合について説明したが、被加工物1枚についてクリープフィード研削を複数回行う場合もある。その場合は、2回目以降のクリープフィード研削においても研削砥石340が磨耗するため、試し研削工程においても、当該複数回の研削を行う。例えば、クリープフィード研削を2回行う場合は、以下のような手法をとる。
【0035】
図6(a)に示すように、図2と同様に、保持面20aがY軸方向に対して水平な状態で、研削砥石340を被加工物Wの上面Wa側に接触させ、チャックテーブル2を-Y方向に移動させることにより、1回目の試し研削を行う。研削後の被加工物Wの厚みは均一にならず、被加工物Wの-Y方向側の厚みが+Y方向側の厚みよりも小さくなっている(1回目の試し研削工程)。
【0036】
次に、第1実施形態と同様に厚み算出工程及び厚み差算出工程を実施し、被加工物Wの一端側の厚みと他端側の厚みとの厚み差D1を算出する。そして、保持面傾け工程を実施し、図6(b)に示すように、厚みが小さい一端E1側を厚み差D1だけ研削砥石340の下面340aに近づける+Z方向に移動させて保持面20aを傾ける。これにより、試し研削後の被加工物Wの被研削面Wbは、Y軸方向に対して水平な状態となる。
【0037】
このようにして被研削面WbをY軸方向に対して水平にした状態で、2回目の試し研削工程を実施する。そして、1回目の試し研削工程後と同様に、上記厚み算出工程及び厚み差算出工程を実施し、2回目の試し研削工程後の被加工物Wの一端側の厚みと他端側の厚みとの厚み差D2(図示せず)を算出する。
【0038】
こうして厚み差D1及びD2が算出されると、研削工程においてクリープフィード研削を2回行う。1回目のクリープフィード研削では、保持面20aが水平な状態から一端E1側を厚み差D1だけ研削砥石340の下面340aから遠ざける-Z方向に移動させて保持面20aを傾け、その状態でクリープフィード研削を行う。次に、2回目のクリープフィード研削では、一端E1側をさらに厚み差D2だけ研削砥石340の下面340aから遠ざける-Z方向に移動させて保持面20aを傾け、その状態でクリープフィード研削を行う。
【0039】
このようにして、複数回のクリープフィード研削を行う場合は、試し研削工程、厚み算出工程、厚み差算出工程及び保持面傾け工程も当該複数回実施することにより、当該複数回のクリープフィード研削後の被加工物の厚みを均一とすることができる。
【0040】
なお、図7(a)に示すように、可動板53に対してチャックテーブル2が回転軸25を軸として回転可能な構成においては、以下のような手法をとることもできる。
【0041】
すなわち、まず、図6(a)と同様に、研削砥石340を被加工物Wの上面Wa側に接触させた状態で、チャックテーブル2を-Y方向に移動させることにより、1回目の試し研削を行う。研削後の被加工物Wの厚みは均一にならず、被加工物Wの-Y方向側の厚みが+Y方向側の厚みよりも小さくなっている(1回目の試し研削工程)。そして、上記厚み算出工程及び厚み差算出工程を実施し、被加工物Wの一端側の厚みと他端側の厚みとの厚み差D1を算出する。
【0042】
次に、回転軸25を軸としてチャックテーブル2を180度回転させる。そうすると、被加工物WのY軸方向の向きが反転し、厚みが厚い方が-Y方向側、薄い方が+Y方向側となる。そして、厚み差D1だけ研削砥石340の下面340aから遠ざける-Z方向に移動させて保持面20aを傾けることにより、図7(b)に示すように、被研削面WbがY軸方向に対して水平となる。
【0043】
こうして被加工物WのY軸方向の向きを反転させ、被研削面WbをY軸方向に対して水平とした後、2回目の試し研削工程を行う。この工程では、厚みが大きい方から小さい方に向けて研削を行うため、この工程終了後の被加工物は、厚さが均一に近い状態となる。そして、1回目の試し研削工程後と同様に、上記厚み算出工程及び厚み差算出工程を実施し、2回目の試し研削工程後の被加工物Wの一端側の厚みと他端側の厚みとの厚み差D2(図示せず)を算出する。
【0044】
こうして厚み差D1及びD2が算出されると、研削工程においてクリープフィード研削を2回行う。1回目のクリープフィード研削では、保持面20aが水平な状態から一端E1側を厚み差D1だけ研削砥石340の下面340aから遠ざける-Z方向に移動させて保持面20aを傾け、その状態でクリープフィード研削を行う。次に、2回目のクリープフィード研削では、回転軸25を軸としてチャックテーブル2を180度回転させた後、一端E1側をさらに厚み差D2だけ研削砥石340の下面340aから遠ざける-Z方向に移動させて保持面20aを傾け、その状態でクリープフィード研削を行う。
【0045】
このように、厚み差算出工程と保持面傾け工程との間でチャックテーブル2を180度回転させてもよい。このような手法によっても、該複数回のクリープフィード研削後の被加工物の厚みを均一とすることができる。
【0046】
また、クリープフィード研削を1回のみ行う場合においても、試し研削工程を複数回実施してもよい。この場合も、第2実施形態と同様に、1回の試し研削工程終了後に被研削面をY軸方向に対して水平とし、さらにその状態で次の試し研削工程を実施することで、試し研削用の被加工物を何度も利用することができる。また、試し研削前の被加工物の上面と研削砥石の下面とのZ軸方向の高さ位置の差、すなわち試し研削における被加工物の除去量を回数ごとに変化させることで、各除去量とそれに対応する被加工物の一端と他端との厚み差との関係を把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1:研削装置 10:ベース 11:コラム 12:内部ベース
2:チャックテーブル 20:吸引部 20a:保持面
21:枠体 21a:枠体の上面 211:枠体の一端 212:枠体の一端
24:回転手段 25:回転軸 28:カバー 29:蛇腹カバー
3:研削手段 30:スピンドル 31:ハウジング 32:スピンドルモータ
33:マウント 34:研削ホイール 340:研削砥石 340a:研削砥石の下面
341:ホイール基台 35:回転軸
4:垂直移動手段 40:ボールネジ 41:ガイドレール 42:Z軸モータ
43:昇降板 44:ホルダ 45:回転軸
5:水平移動手段 50:ボールネジ 51:ガイドレール 52:Y軸モータ
53:可動板 55:回転軸
6:傾き調整機構 60:支持ローラ 61:昇降軸 62:支持板
7:厚み測定手段
71:上面高さ測定手段 710:第1接触子 711:第1スケール
72:保持面高さ測定手段 720:第2接触子 721:第2スケール
73:算出部
8:厚み差算出手段 9:制御手段
W:被加工物 Wa:被加工物の上面 Wb:研削によって形成された被研削面
E1:被加工物の一端 E2:被加工物の他端
T1:一端側の厚み T2:他端側の厚み D1、D2:厚みの差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7