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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光学異方性膜
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231219BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231219BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231219BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231219BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/02
H05B33/14 A
G09F9/00 313
G09F9/00 366A
G09F9/30 365
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019210652
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021081651
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】中原 亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宗祐
(72)【発明者】
【氏名】西上 由紀
(72)【発明者】
【氏名】住吉 鈴鹿
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-294521(JP,A)
【文献】特開2017-068282(JP,A)
【文献】特開2019-035952(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018267(WO,A1)
【文献】特開2013-076872(JP,A)
【文献】国際公開第2010/116803(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/113208(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/106855(WO,A1)
【文献】特開2011-138152(JP,A)
【文献】特表2006-513459(JP,A)
【文献】特開2008-268336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H05B 33/02
H10K 50/00-99/00
G09F 9/00
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性液晶組成物の硬化物からなる光学異方性膜であって、式(1):
1.002≦nyA(450)/nzA(450)≦1.010 (1)
[式(1)中、nyA(450)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=450nmでの屈折率を表し、nzA(450)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=450nmでの屈折率を表す]、
式(2):
ReA(450)/ReA(550)<1.00 (2)
[式(2)中、ReA(λ)は波長λnmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表し、ReA(λ)=(nxA(λ)-nyA(λ))×dAである〔式中、nxA(λ)は光学異方性膜面内における波長λnmでの屈折率を表し、nyA(λ)はnxAと同一面内でnxAの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、dAは光学異方性膜の膜厚を示す〕]、及び、
式(4):
120nm≦ReA(550)≦170nm (4)
[式(4)中、ReA(550)は波長550nmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表す]
を満たす、光学異方性膜。
【請求項2】
式(3):
1.002≦nyA(550)/nzA(550)≦1.010 (3)
[式(3)中、nyA(550)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=550nmでの屈折率を表し、nzA(550)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=550nmでの屈折率を表す]
を満たす、請求項1に記載の光学異方性膜。
【請求項3】
少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物である、請求項1又は2に記載の光学異方性膜。
【請求項4】
少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物であって、前記重合性液晶化合物が光学異方性膜平面に対して水平方向に配向した状態で硬化してなる、請求項1~3のいずれかに記載の光学異方性膜。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の光学異方性膜を含む光学フィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の光学異方性膜と偏光フィルムとを含む、楕円偏光板。
【請求項7】
光学異方性膜の遅相軸と、偏光フィルムの吸収軸との成す角が45±5°である、請求項に記載の楕円偏光板。
【請求項8】
請求項又はに記載の楕円偏光板と前面板と含む積層体。
【請求項9】
請求項又はに記載の楕円偏光板とタッチセンサーパネルとを含む積層体。
【請求項10】
請求項又はに記載の積層体を含む有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性膜、並びに、これを含む光学フィルム、楕円偏光板、積層体及び有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
楕円偏光板は、偏光フィルムと位相差フィルムとが積層された光学部材であり、例えば、有機EL画像表示装置等の平面状態で画像を表示する装置において、該装置を構成する電極での光反射を防止するために用いられている。この楕円偏光板を構成する位相差フィルムとしては、一般に、いわゆるλ/4板が用いられる。
【0003】
可視光の広い波長範囲で一様の位相差性能を発揮しやすい点で、楕円偏光板を構成する位相差フィルムとしては逆波長分散性を示すものが好適である。そのような位相差フィルムとして、所望の配向方向に延伸した延伸フィルムや、逆波長分散性を示す重合性液晶化合物を位相差フィルムの平面に対して水平方向に配向させた状態で重合し、硬化させた水平配向液晶硬化膜から構成される位相差フィルムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-163935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の逆波長分散性を示す位相差フィルムでは、時間の経過とともに位相差フィルムの位相差値が変化することがある。位相差フィルムの位相差値は、位相差フィルムを楕円偏光板に組み込んだ際に該楕円偏光板の反射色相に大きく影響する。このため、このような経時的な位相差値の変化が生じると、該位相差フィルムを含む楕円偏光板を組み込んだ画像表示装置において所望の反射色相を得ることが難しくなり、経時的な光学特性の低下や外観品質上の欠陥を生じる一因となる。
【0006】
本発明は、経時的な位相差値の変化が生じ難く、画像表示装置に組み込んだ際に優れた光学特性を長期間にわたり発揮し得る光学異方性膜、並びにこれを含む光学フィルム、楕円偏光板、積層体及び有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]式(1):
1.002≦nyA(450)/nzA(450)≦1.010 (1)
[式(1)中、nyA(450)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=450nmでの屈折率を表し、nzA(450)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=450nmでの屈折率を表す]
及び、式(2):
ReA(450)/ReA(550)<1.00 (2)
[式(2)中、ReA(λ)は波長λnmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表し、ReA(λ)=(nxA(λ)-nyA(λ))×dAである〔式中、nxA(λ)は光学異方性膜面内における波長λnmでの屈折率を表し、nyA(λ)はnxAと同一面内でnxAの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、dAは光学異方性膜の膜厚を示す〕]
を満たす、光学異方性膜。
[2]式(3):
1.002≦nyA(550)/nzA(550)≦1.010 (3)
[式(3)中、nyA(550)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=550nmでの屈折率を表し、nzA(550)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=550nmでの屈折率を表す]
を満たす、前記[1]に記載の光学異方性膜。
[3]少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物である、前記[1]又は[2]に記載の光学異方性膜。
[4]少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物であって、前記重合性液晶化合物が光学異方性膜平面に対して水平方向に配向した状態で硬化してなる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の光学異方性膜。
[5]式(4):
120nm≦ReA(550)≦170nm (4)
[式(4)中、ReA(550)は波長550nmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表す]
を満たす、前記[1]~[4]のいずれかに記載の光学異方性膜。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の光学異方性膜を含む光学フィルム。
[7]前記[1]~[5]のいずれかに記載の光学異方性膜と偏光フィルムとを含む、楕円偏光板。
[8]光学異方性膜の遅相軸と、偏光フィルムの吸収軸との成す角が45±5°である、前記[7]に記載の楕円偏光板。
[9]前記[7]又は[8]に記載の楕円偏光板と前面板と含む積層体。
[10]前記[7]又は[8]に記載の楕円偏光板とタッチセンサーパネルとを含む積層体。
[11]前記[9]又は[10]に記載の積層体を含む有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、経時的な位相差値の変化が生じ難く、画像表示装置に組み込んだ際に優れた光学特性を長期間にわたり発揮し得る光学異方性膜、並びにこれを含む光学フィルム、楕円偏光板、積層体及び有機EL表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光学異方性膜は、式(1)を満たす。
1.002≦nyA(450)/nzA(450)≦1.010 (1)
式(1)中、nyA(450)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=450nmでの屈折率を表し、nzA(450)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=450nmでの屈折率を表す。
式(1)を満たすことにより、位相差値の経時的な変化が生じ難く、初期の光学特性を長期間にわたり維持することが可能な光学異方性膜となり得る。
【0010】
本発明の光学異方性膜は、式(1)に加えて式(2)を満たす。
ReA(450)/ReA(550)<1.00 (2)
式(2)中、ReA(λ)は波長λnmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表し、ReA(λ)=(nxA(λ)-nyA(λ))×dAである。前記式中、nxA(λ)は光学異方性膜面内における波長λnmでの屈折率を表し、nyA(λ)はnxAと同一面内でnxAの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、dAは光学異方性膜の膜厚を示す。
式(1)に加えて、いわゆる逆波長分散性を示す式(2)を満たすことにより可視光の広い波長範囲で一様の位相差性能を発揮し得るため、長期間にわたり優れた光学特性/表示特性を維持する画像表示装置の構成部材として好適に使用し得る光学異方性膜となる。逆波長分散性が向上し、光学異方性膜の正面方向の反射色相の向上効果をより高めることができるため、ReA(450)/ReA(550)は、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.78以上であり、また、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.92以下、さらに好ましくは0.90以下、特に好ましくは0.87以下、とりわけ好ましくは0.85以下である。
【0011】
上記面内位相差値は、光学異方性膜の厚みdAによって、調整することができる。面内位相差値は、上記式ReA(λ)=(nxA(λ)-nyA(λ))×dAによって決定されることから、所望の面内位相差値(ReA(λ):波長λ(nm)における光学異方性膜の面内位相差値)を得るには、3次元屈折率と膜厚dAとを調整すればよい。
【0012】
本発明の光学異方性膜は、式(3)をさらに満たすことが好ましい。
1.002≦nyA(550)/nzA(550)≦1.010 (3)
式(3)中、nyA(550)は、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向yにおける波長λ=550nmでの屈折率を表し、nzA(550)は光学異方性膜の膜厚方向の波長λ=550nmでの屈折率を表す。
式(3)を満たすことにより、位相差値の経時的な変化に対する抑制効果がより向上する傾向にあり、初期の光学特性を長期間にわたり発揮し得る光学異方性膜となり得る。
【0013】
また、本発明の光学異方性膜は式(4)を満たすことが好ましい。
120nm≦ReA(550)≦170nm (4)
式(4)中、ReA(550)は波長λ=550nmにおける光学異方性膜の面内位相差値を表す。
光学異方性膜の面内位相差値ReA(550)が式(4)の範囲内であると、該光学異方性膜を表示装置に適用した場合の正面反射色相を向上させる効果(着色を抑制する効果)が顕著になる。面内位相差値のさらに好ましい範囲は、130nm≦ReA(550)≦150nmである。なお、以下、本明細書における「正面反射色相の向上」に関する効果は、本発明の光学異方性膜を含む楕円偏光板を表示装置に適用した際の正面反射色相における向上効果を意味する。
【0014】
本発明の光学異方性膜は、式(5)を満たすことが好ましい。
nxA(450)>nyA(450)>nzA(450) (5)
式(5)中、nxA(450)、nyA(450)及びnzA(450)は、それぞれ上記と同じ意味である。
式(5)を満たすと、光学異方性膜の波長分散性がより向上する〔すなわち、ReA(450)/ReA(550)の値がより小さくなる〕傾向にあるため、該光学異方性膜を画像表示装置に適用した場合に、より良好な正面反射色相を得ることができる。
【0015】
また、本発明の光学異方性膜は、式(6)を満たすことが好ましい。
nxA(550)>nyA(550)>nzA(550) (6)
式(6)中、nxA(550)、nyA(550)及びnzA(550)は、それぞれ上記と同じ意味である。
式(6)を満たすと、光学異方性膜の波長分散性がより向上する傾向にあるため、該光学異方性膜を画像表示装置に適用した場合に、より良好な正面反射色相を得ることができる。特に、式(5)とともに上記式(6)を満たすことにより、該光学異方性膜を画像表示装置に適用した場合の正面反射色相を向上させる効果が顕著になり得る。
【0016】
本発明の光学異方性膜は、式(1)及び(2)で示される光学特性を満たすように形成されたものであればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの透光性樹脂から形成される基材を延伸することにより得られる延伸フィルムや、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物(硬化膜)などであってよい。中でも、膜面内方向に対して水平方向に配向した位相差性能を有する光学異方性膜であることが好ましく、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物であって、前記重合性液晶化合物が光学異方性膜平面に対して水平方向に配向した状態で硬化してなる硬化物(以下、「水平配向液晶硬化膜」ともいう)がより好ましい。
【0017】
本発明の光学異方性膜が水平配向液晶硬化膜である場合、該光学異方性膜は、短波長での面内位相差値が長波長での面内位相差値よりも小さくなる、いわゆる逆波長分散性を示す重合性液晶化合物から形成され得る。このような逆波長分散性を発現する重合性液晶化合物は、通常、化合物の主鎖となる長軸方向と、該長軸方向に対して交差する方向とに構成分子が配置したT字構造を有している(以下、重合性液晶化合物の長軸方向を構成する分子構造部を「メソゲン部」、該長軸方向に対して交差する方向を構成する分子構造部を「コア部」ともいう)。従来、逆波長分散性を示す水平配向液晶硬化膜において、重合性液晶化合物がその配向により形成する屈折率楕円体における3方向の屈折率nxA、nyA及びnzAは、nxA>nyA≒nzA(ポジティブAプレート)の関係となる。上記ポジティブAプレートにおいては、T字構造を有する重合性液晶化合物の長軸方向と交差する方向に配置される構成分子の方向性(配向)は制御されておらず、液晶硬化膜の平面内でnxAの方向に対して直交する方向の屈折率であるnyAと、液晶硬化膜の平面に対して垂直方向の屈折率nzAとは理論上同じ大きさとなる(nyA≒nzA)。
【0018】
これに対して、本発明は、T字構造を有する重合性液晶化合物の長軸方向と交差する方向に配置される構成分子の方向性(配向)を制御し、面内主屈折率のうち最も高い屈折率を示す方向x(遅相軸方向)に対して同一面内で直交する方向の屈折率nyAと、光学異方性膜の平面に対して膜厚方向(垂直方向)の屈折率nzAとの比率〔nyA(λ)/nzA(λ)〕を特定の範囲にするものである。すなわち、本発明の光学異方性膜は、式(1):
1.002≦nyA(450)/nzA(450)≦1.010 (1)
を満たす。
本発明において、光学異方性膜が式(1)を満たすことにより位相差値の経時的な変化を抑制し得る効果について、その原理は必ずしも明らかではないが以下のように推測される。nyA(λ)とnzA(λ)との比率が上記特定の範囲にあると、光学異方性膜は、その膜平面内で重合性液晶化合物のメソゲン部がx方向に、コア部が同一面内でx方向に対して直交するy方向に選択的に配向した状態で重合し、硬化した液晶硬化膜となる。このような液晶硬化膜は、製膜後初期の状態で液晶硬化膜を構成する各重合性液晶化合物のコア部間で一定の方向性をもったスタッキングを生じており、構造的に高い安定性を有する。このため、等方的に分布するコア部の方向性が経時的に変化しやすい従来のポジティブAプレートと比較して、式(1)を満たすように重合性液晶化合物の構成分子の方向性(配向)を制御した本発明の光学異方性膜は、重合性液晶化合物の配向状態に変化が生じ難く、配向状態が変化することに起因する位相差値の経時的な変化を抑制することが可能となる。
【0019】
光学異方性膜を形成するための、少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物としては、上記式(1)及び(2)を満たす液晶硬化膜を形成し得るものであれば特に限定されず、位相差フィルムの分野において従来公知の重合性液晶化合物を用いることができる。
【0020】
重合性基とは、重合反応に関与し得る基を意味する。本発明の光学異方性膜を形成する重合性液晶化合物は、光重合開始剤から発生した反応活性種、例えば活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る光重合性基を重合性基として有することが好ましい。光重合性基としては、例えばビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基及びオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0021】
重合性液晶化合物が示す液晶性はサーモトロピック性液晶であってもよいし、リオトロピック性液晶であってもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、サーモトロピック性液晶における相秩序構造としてはネマチック液晶でもスメクチック液晶でもよい。重合性液晶化合物は単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
重合性液晶化合物としては、一般に正波長分散性を示す重合性液晶化合物と逆波長分散性を示す重合性液晶化合物とが挙げられ、得られる光学異方性膜が式(2)を満たす光学特性を有する(すなわち、逆波長分散性を示す)限り、どちらか一方の種類の重合性液晶化合物のみを使用することもできるし、両方の種類の重合性液晶化合物を複数種混合して用いることもできる。得られる光学異方性膜を組み込んだ画像表示装置において正面反射色相を向上させやすく、本発明における耐久性向上効果が顕著に得られやすいことから、重合性液晶化合物を単独で特定方向に配向した状態で重合することにより得られる重合体が逆波長分散性を示す重合性液晶化合物を含むことが好ましい。重合性液晶化合物として、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
重合性液晶化合物としては、下記(A)~(D)の特徴を有する化合物であることが好ましい。
(A)ネマチック相又はスメクチック相を形成し得る化合物である。
(B)該重合性液晶化合物の長軸方向(a)上にπ電子を有する。
(C)長軸方向(a)に対して交差する方向〔交差方向(b)〕上にπ電子を有する。
(D)長軸方向(a)に存在するπ電子の合計をN(πa)、長軸方向に存在する分子量の合計をN(Aa)として下記式(i)で定義される重合性液晶化合物の長軸方向(a)のπ電子密度:
D(πa)=N(πa)/N(Aa) (i)
と、交差方向(b)に存在するπ電子の合計をN(πb)、交差方向(b)に存在する分子量の合計をN(Ab)として下記式(ii)で定義される重合性液晶化合物の交差方向(b)のπ電子密度:
D(πb)=N(πb)/N(Ab) (ii)
とが、式(iii)
0≦〔D(πa)/D(πb)〕<1 (iii)
の関係にある〔すなわち、交差方向(b)のπ電子密度が、長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きい〕。また、上記記載のように長軸及びそれに対して交差方向上にπ電子を有する重合性液晶化合物は、一般にT字構造となりやすい。
【0024】
上記(A)~(D)の特徴において、長軸方向(a)及びπ電子数Nは以下のように定義される。
・長軸方向(a)は、例えば棒状構造を有する化合物であれば、その棒状の長軸方向である。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、長軸上のπ電子及びこれと共役するπ電子の合計数であり、例えば長軸方向(a)上に存在する環であって、ヒュッケル則を満たす環に存在するπ電子の数が含まれる。
・交差方向(b)に存在するπ電子数N(πb)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
上記を満たす重合性液晶化合物は、長軸方向にメソゲン構造を有している。このメソゲン構造によって、液晶相(ネマチック相、スメクチック相)を発現する。
【0025】
上記(A)~(D)を満たす重合性液晶化合物を、液晶硬化膜を形成する膜(層)上に塗布し、相転移温度以上に加熱することにより、ネマチック相やスメクチック相を形成することが可能である。この重合性液晶化合物が配向して形成されたネマチック相又はスメクチック相では通常、重合性液晶化合物の長軸方向が互いに平行になるように配向しており、この長軸方向がネマチック相又はスメクチック相の配向方向となる。このような重合性液晶化合物を膜状とし、ネマチック相又はスメクチック相の状態で重合させると、長軸方向(a)に配向した状態で重合した重合体からなる重合体膜を形成することができる。この重合体膜は、長軸方向(a)上のπ電子と交差方向(b)上のπ電子により紫外線を吸収する。ここで、交差方向(b)上のπ電子により吸収される紫外線の吸収極大波長をλbmaxとする。λbmaxは通常300nm~400nmである。π電子の密度は、上記式(iii)を満足していて、交差方向(b)のπ電子密度が長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きいので、交差方向(b)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収が、長軸方向(a)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収よりも大きな重合体膜となる。その比(直線偏光紫外線の交差方向(b)の吸光度/長軸方向(a)の吸光度の比)は、例えば1.0超、好ましくは1.2以上、通常30以下であり、例えば10以下である。
【0026】
上記特徴を有する重合性液晶化合物は、一般に、一方向に配向した状態で重合させたときにその重合体の複屈折率が逆波長分散性を示すものであることが多い。具体的には、例えば、下記式(X)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0027】
式(X)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族基を有する二価の基を表す。ここでいう芳香族基とは、該環構造が有するπ電子数がヒュッケル則に従い[4n+2]個であるものをさし、例えば後述する(Ar-1)~(Ar-23)で例示されるようなAr基を、二価の連結基を介して2個以上有していてもよい。ここでnは整数を表す。-N=や-S-等のヘテロ原子を含んで環構造を形成している場合、これらヘテロ原子上の非共有結合電子対を含めてヒュッケル則を満たし、芳香族性を有する場合も含む。該芳香族基中には窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれることが好ましい。二価の基Arに含まれる芳香族基は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。芳香族基が1つである場合、二価の基Arは置換基を有していてもよい二価の芳香族基であってもよい。二価の基Arに含まれる芳香族基が2つ以上である場合、2つ以上の芳香族基は互いに単結合、-CO-O-、-O-などの二価の結合基で結合していてもよい。
及びGはそれぞれ独立に、二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで、該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子に置換されていてもよい。
、L、B及びBはそれぞれ独立に、単結合又は二価の連結基である。
k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たす。ここで、2≦k+lである場合、B及びB、G及びGは、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
及びEはそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、ここで、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。また、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH-は、-O-、-S-、-SiH-、-C(=O)-で置換されていてもよい。
及びPは互いに独立に、重合性基又は水素原子を表し、少なくとも1つは重合性基である。
【0028】
及びGは、それぞれ独立に、好ましくは、ハロゲン原子及び炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-フェニレンジイル基、ハロゲン原子及び炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-シクロヘキサンジイル基であり、より好ましくはメチル基で置換された1,4-フェニレンジイル基、無置換の1,4-フェニレンジイル基、又は無置換の1,4-trans-シクロヘキサンジイル基であり、特に好ましくは無置換の1,4-フェニレンジイル基、又は無置換の1,4-trans-シクロへキサンジイル基である。
また、複数存在するG及びGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、また、L又はLに結合するG及びGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることがより好ましい。
【0029】
及びLはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra1ORa2-、-Ra3COORa4-、-Ra5OCORa6-、-Ra7OC=OORa8-、-N=N-、-CR=CR-、又は-C≡C-である。ここで、Ra1~Ra8はそれぞれ独立に単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、R及びRは炭素数1~4のアルキル基又は水素原子を表す。L及びLはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa2-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa4-1-、又は-OCORa6-1-である。ここで、Ra2-1、Ra4-1、Ra6-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。L及びLはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、又は-OCO-である。
【0030】
及びBはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra9ORa10-、-Ra11COORa12-、-Ra13OCORa14-、又は-Ra15OC=OORa16-である。ここで、Ra9~Ra16はそれぞれ独立に単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表す。B及びBはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa10-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa12-1-、又は-OCORa14-1-である。ここで、Ra10-1、Ra12-1、Ra14-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。B及びBはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、-OCO-、又は-OCOCHCH-である。
【0031】
k及びlは、逆波長分散性発現の観点から2≦k+l≦6の範囲が好ましく、k+l=4であることが好ましく、k=2かつl=2であることがより好ましい。k=2かつl=2であると対称構造となるため好ましい。
【0032】
又はPで表される重合性基としては、エポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、及びオキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基及びビニルオキシ基が好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0033】
Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、及び電子吸引性基から選ばれる少なくとも一つを有することが好ましい。当該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。当該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ピロリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、及びフェナンスロリン環等が挙げられる。なかでも、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、又はベンゾフラン環を有することが好ましく、ベンゾチアゾール基を有することがさらに好ましい。また、Arに窒素原子が含まれる場合、当該窒素原子はπ電子を有することが好ましい。
【0034】
式(X)中、Arで表される2価の芳香族基に含まれるπ電子の合計数Nπは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは14以上であり、特に好ましくは16以上である。また、好ましくは32以下であり、より好ましくは30以下であり、さらに好ましくは26以下であり、特に好ましくは24以下である。
【0035】
Arで表される芳香族基としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0036】
【化2】
【0037】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、*印は連結部を表し、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキルスルフィニル基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数1~12のN-アルキルアミノ基、炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基、炭素数1~12のN-アルキルスルファモイル基又は炭素数2~12のN,N-ジアルキルスルファモイル基を表す。また、Z、Z及びZは、重合性基を含んでいてもよい。
【0038】
及びQは、それぞれ独立に、-CR2’3’-、-S-、-NH-、-NR2’-、-CO-又は-O-を表し、R2’及びR3’は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0039】
及びJは、それぞれ独立に、炭素原子、又は窒素原子を表す。
【0040】
、Y及びYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
【0041】
及びWは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、メチル基又はハロゲン原子を表し、mは0~6の整数を表す。
【0042】
、Y及びYにおける芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族複素環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む炭素数4~20の芳香族複素環基が挙げられ、フリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基が好ましい。
【0043】
、Y及びYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基又は多環系芳香族複素環基であってもよい。多環系芳香族炭化水素基は、縮合多環系芳香族炭化水素基、又は芳香環集合に由来する基をいう。多環系芳香族複素環基は、縮合多環系芳香族複素環基、又は芳香環集合に由来する基をいう。
【0044】
、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルコキシ基であることが好ましく、Zは、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基がさらに好ましく、Z及びZは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、シアノ基がさらに好ましい。また、Z、Z及びZは重合性基を含んでいてもよい。
【0045】
及びQは、-NH-、-S-、-NR2’-、-O-が好ましく、R2’は水素原子が好ましい。中でも-S-、-O-、-NH-が特に好ましい。
【0046】
式(Ar-1)~(Ar-23)の中でも、式(Ar-6)及び式(Ar-7)が分子の安定性の観点から好ましい。
【0047】
式(Ar-16)~(Ar-23)において、Yは、これが結合する窒素原子及びZと共に、芳香族複素環基を形成していてもよい。芳香族複素環基としては、Arが有していてもよい芳香族複素環として前記したものが挙げられるが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、ピロリジン環等が挙げられる。この芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。また、Yは、これが結合する窒素原子及びZと共に、前述した置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基又は多環系芳香族複素環基であってもよい。例えば、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環等が挙げられる。
【0048】
上記(A)~(D)の特性を満たす化合物として、上記式(X)におけるArが下記構造を有する基(II)である化合物も例示される。
【化3】
式(II)中、*印はL又はLとの連結部を表す。
及びDはそれぞれ独立して、下記一般式(D-1)から選ばれる基を表す。
置換基X及びXはそれぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ペンタフルオロスルフラニル基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、トリメチルシリル基、ジメチルシリル基、チオイソシアノ基、又は、1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-が各々独立して-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CO-S-、-S-CO-、-O-CO-O-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CH=CH-COO-、-CH=CH-OCO-、-COO-CH=CH-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-、-CF=CF-又は-C≡C-に置き換えられてもよい炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。当該アルキル基中の任意の水素原子はフッ素原子に置換されてもよい。
【0049】
【化4】
【0050】
一般式(D-1)中、Mは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。当該アルキル基は、1つ以上の置換基Xによって置換されていてもよいし、無置換であってもよい。置換基Xとしては、前記置換基X及びXとして挙げたものと同様の基が挙げられる。
は、芳香族炭化水素基を有する炭素数2~30の有機基を表す。当該芳香族炭化水素基の任意の炭素原子はヘテロ原子に置換されていてもよい。芳香族炭化水素基は、1つ以上の前記置換基Xによって置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCO-O-、-NU-、-N=CU-、-CO-NU-、-OCO-NU-又は-O-NU-を表す。Uは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、又は芳香族炭化水素基(当該芳香族炭化水素基の任意の炭素原子はヘテロ原子に置換されていてもよい)を有する炭素数2~30の有機基を表す。当該アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及び芳香族炭化水素基はそれぞれ、1つ以上の前記置換基Xによって置換されていてもよいし、無置換であってもよい。当該アルキル基は当該シクロアルキル基又はシクロアルケニル基によって置換されていてもよい。当該アルキル基中の1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-は、各々独立して-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CO-S-、-S-CO-、-SO-、-O-CO-O-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CH=CH-COO-、-CH=CH-OCO-、-COO-CH=CH-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-、-CF=CF-又は-C≡C-に置き換えられていてもよい。当該シクロアルキル基又はシクロアルケニル基中の1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-は各々独立して-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、又は-O-CO-O-に置き換えられていてもよい。UとUは結合して環を構成していてもよい。
【0051】
一般式(D-1)中、Mは水素原子又は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0052】
は、波長分散性が良好になる点から、炭素原子の1つ以上がヘテロ原子に置換されている、芳香族複素環を有する有機基であることが好ましい。Uは、波長分散性が良好で、高い複屈折を示すようになる点から、5員環と6員環との縮合環である芳香族複素環を有する有機基であることがより好ましい。
【0053】
具体的にUとしては、以下の式で表される基を有するものであることが好ましい。なお、下記式においてこれらの基は任意の位置にTとの結合手を有している。
【0054】
【化5】
【0055】
は、複屈折が良好で合成が容易な点から、-O-、-S-、-N=CU-又は-NU-であることが好ましい。Tは、波長分散性と複屈折とが良好な点から、-O-、-S-、又は-NU-であることがより好ましい。
【0056】
ここでUは、1つ以上の前記置換基Xによって置換されていてもよく、1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-が各々独立して-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、又は-O-CO-O-に置き換えられてもよい、炭素数1~20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素数3~12のシクロアルケニル基、或いは、当該シクロアルキル基、シクロアルケニル基、又はアリール基によって置換されていてもよい前記アルキル基若しくはアルケニル基であることが好ましい。
【0057】
中でもUは、複屈折、及び溶剤溶解性の点から、水素原子がフッ素原子に置換されてもよく、1個の-CH-又は隣接していない2個以上の-CH-が各々独立して-O-、-CO-、-COO-又は-OCO-に置き換えられてもよい炭素原子数2~20の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
【0058】
とUは結合して環を構成していてもよい。その場合、例えば、-NUで表される環状基、又は-N=CUで表される環状基が挙げられる。
【0059】
原料が入手しやすく、溶解性が良好で高い複屈折率を示す点から、D及びDはそれぞれ、下記の式(D-1)から式(D-47)から選ばれる基を表すことが特に好ましい。
【0060】
【化6】
【0061】
【化7】
【0062】
光学異方性膜を形成する少なくとも1種の重合性液晶化合物は、波長300~400nmの間に極大吸収波長を有する重合性液晶化合物であることが好ましい。重合性液晶組成物に光重合開始剤が含まれる場合、長期保管時に重合性液晶化合物の重合反応及びゲル化が進行するおそれがある。しかし、重合性液晶化合物の極大吸収波長が300~400nmであれば保管中に紫外光が曝露されても、光重合開始剤からの反応活性種の発生及び該反応活性種による重合性液晶化合物の重合反応及びゲル化の進行を有効に抑制できる。従って、重合性液晶組成物の長期安定性の点で有利となり、得られる光学異方性膜の配向及び膜厚の均一性を向上できる。なお、重合性液晶化合物の極大吸収波長は、溶媒中で紫外可視分光光度計を用いて測定できる。該溶媒は重合性液晶化合物を溶解し得る溶媒であり、例えばクロロホルム等が挙げられる。
【0063】
本発明において光学異方性膜を形成する重合性液晶化合物として、得られる光学異方性膜が式(2)を満たす光学特性を有する限り、一般にいわゆる正波長分散性を示す傾向にある、下記式(Y)で表される構造を含む化合物(以下、「重合性液晶化合物(Y)」ともいう)を用いることもできる。
【0064】
P11-B11-E11-B12-A11-B13- (Y)
[式(Y)中、P11は、重合性基を表わす。
A11は、2価の脂環式炭化水素基又は2価の芳香族炭化水素基を表わす。
B11は、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-、-O-CO-O-、-CO-NR16-、-NR16-CO-、-CO-、-CS-又は単結合を表わす。R16は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表わす。
B12及びB13は、それぞれ独立に、-C≡C-、-CH=CH-、-CH-CH-、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-C(=O)-NR16-、-NR16-C(=O)-、-OCH-、-OCF-、-CHO-、-CFO-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-H、-C≡N又は単結合を表わす。
E11は、炭素数1~12のアルカンジイル基を表わし、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、炭素数1~5のアルコキシ基で置換されていてもよく、該アルコキシ基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。また、該アルカンジイル基を構成する-CH-は、-O-又は-CO-に置き換わっていてもよい。]
【0065】
A11の芳香族炭化水素基及び脂環式炭化水素基の炭素数は、3~18の範囲であることが好ましく、5~12の範囲であることがより好ましく、5又は6であることが特に好ましい。A11で表される2価の脂環式炭化水素基及び2価の芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6アルコキシ基、シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく、該炭素数1~6のアルキル基及び該炭素数1~6アルコキシ基に含まれる水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。A11としては、シクロヘキサン-1,4-ジイル基、1,4-フェニレン基が好ましい。
【0066】
E11としては、直鎖状の炭素数1~12のアルカンジイル基が好ましい。該アルカンジイル基を構成する-CH-は、-O-に置き換っていてもよい。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、へキサン-1,6-ジイル基、へプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ウンデカン-1,11-ジイル基及びドデカン-1,12-ジイル基等の炭素数1~12の直鎖状アルカンジイル基;-CH-CH-O-CH-CH-、-CH-CH-O-CH-CH-O-CH-CH-及び-CH-CH-O-CH-CH-O-CH-CH-O-CH-CH-等が挙げられる。
B11としては、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-が好ましく、中でも、-CO-O-がより好ましい。
B12及びB13としては、それぞれ独立に、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-が好ましく、中でも、-O-又は-O-C(=O)-O-がより好ましい。
【0067】
P11で示される重合性基としては、重合反応性、特に光重合反応性が高いという点で、ラジカル重合性基又はカチオン重合性基が好ましく、取り扱いが容易な上、液晶化合物の製造自体も容易であることから、重合性基は、下記の式(P-11)~式(P-15)で表わされる基であることが好ましい。
【化8】
[式(P-11)~(P-15)中、
17~R21はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基又は水素原子を表わす。]
【0068】
式(P-11)~式(P-15)で表わされる基の具体例としては、下記式(P-16)~式(P-20)で表わされる基が挙げられる。
【化9】
【0069】
P11は、式(P-14)~式(P-20)で表わされる基であることが好ましく、ビニル基、p-スチルベン基、エポキシ基又はオキセタニル基がより好ましい。
P11-B11-で表わされる基が、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であることがさらに好ましい。
【0070】
重合性液晶化合物(Y)としては、式(I)、式(II)、式(III)、式(IV)、式(V)又は式(VI)で表わされる化合物が挙げられる。
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-A14-B16-E12-B17-P12 (I)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-A14-F11 (II)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-E12-B17-P12 (III)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-F11 (IV)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-E12-B17-P12 (V)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-F11 (VI)
[式中、
A11、B11~B13及びP11は上記と同義であり、
A12~A14はそれぞれ独立に、A11と同義であり、B14~B16はそれぞれ独立に、B12と同義であり、B17はB11と同義であり、E12はE11と同義であり、P12はP11と同義である。
F11は、水素原子、炭素数1~13のアルキル基、炭素数1~13のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ジメチルアミノ基、ヒドロキシ基、メチロール基、ホルミル基、スルホ基(-SOH)、カルボキシル基、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を表わし、該アルキル基及びアルコキシ基を構成する-CH-は、-O-に置き換っていてもよい。]
【0071】
重合性液晶化合物(Y)の具体例としては、例えば、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善(株)平成12年10月30日発行)の「3.8.6 ネットワーク(完全架橋型)」、「6.5.1 液晶材料 b.重合性ネマチック液晶材料」に記載された化合物の中で重合性基を有する化合物、特開2010-31223号公報、特開2010-270108号公報、特開2011-6360号公報及び特開2011-207765号公報記載の重合性液晶化合物が挙げられる。
【0072】
重合性液晶組成物中の重合性液晶化合物の含有量は、重合性液晶組成物の固形分100質量部に対して、例えば70~99.5質量部であり、好ましくは80~99質量部であり、より好ましくは85~98質量部であり、さらに好ましくは90~95質量部である。重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であると、得られる光学異方性膜の配向秩序が向上しやすいため有利である。なお、重合性液晶組成物が複数の重合性液晶化合物を含む場合、重合性液晶組成物に含まれる全重合性液晶化合物の総質量が上記含有量の範囲内であることが好ましい。また、重合性液晶組成物の固形分とは、重合性液晶組成物から有機溶媒等の揮発性成分を除いた全ての成分を意味する。
【0073】
光学異方性膜の形成に用いる重合性液晶組成物は、重合性液晶化合物に加えて、溶媒、光重合開始剤、レベリング剤、酸化防止剤、光増感剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
光学異方性膜形成用の重合性液晶組成物は、通常、溶媒に溶解した状態で基材等に塗布されるため、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、用いる重合性液晶化合物に対する溶解性が高く、また、重合性液晶化合物の重合反応に不活性な溶媒であることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン及びメチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、アルコール溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、塩素含有溶媒、アミド系溶媒及び芳香族炭化水素溶媒が好ましい。
【0075】
重合性液晶組成物中の溶媒の含有量は、重合性液晶組成物100質量部に対して、好ましくは50~98質量部、より好ましくは70~95重量部である。従って、重合性液晶組成物100質量部に占める固形分は、2~50質量部が好ましい。固形分が50質量部以下であると、重合性液晶組成物の粘度が低くなる傾向があるため、膜の厚みが略均一になり、ムラが生じ難くなる傾向がある。上記固形分は、製造しようとする液晶硬化膜の厚みを考慮して適宜定めることができる。
【0076】
重合開始剤は、熱又は光の寄与によって反応活性種を生成し、重合性液晶化合物等の重合反応を開始し得る化合物である。反応活性種としては、ラジカル又はカチオン又はアニオン等の活性種が挙げられる。中でも反応制御が容易であるという観点から、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
【0077】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンジルケタール化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、α-アミノケトン化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩及びスルホニウム塩が挙げられる。具体的には、イルガキュア(Irgacure、登録商標)907、イルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア819、イルガキュア250、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア127、イルガキュア2959、イルガキュア754、イルガキュア379EG(以上、BASFジャパン株式会社製)、セイクオールBZ、セイクオールZ、セイクオールBEE(以上、精工化学株式会社製)、カヤキュアー(kayacure)BP100(日本化薬株式会社製)、カヤキュアーUVI-6992(ダウ社製)、アデカオプトマーSP-152、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーN-1717、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(以上、株式会社ADEKA製)、TAZ-A、TAZ-PP(以上、日本シイベルヘグナー社製)及びTAZ-104(三和ケミカル社製)等が挙げられる。
光学異方性膜形成用の重合性液晶組成物において、光重合開始剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
光重合開始剤は、光源から発せられるエネルギーを十分に活用でき、生産性に優れるため、極大吸収波長が300nm~400nmであると好ましく、300nm~380nmであるとより好ましく、中でも、α-アセトフェノン系重合開始剤、オキシム系光重合開始剤が好ましい。
【0079】
α-アセトフェノン化合物としては、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オン及び2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-(4-メチルフェニルメチル)ブタン-1-オン等が挙げられ、より好ましくは2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン及び2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オンが挙げられる。α-アセトフェノン化合物の市販品としては、イルガキュア369、379EG、907(以上、BASFジャパン(株)製)及びセイクオールBEE(精工化学社製)等が挙げられる。
【0080】
オキシム系光重合開始剤は、光が照射されることによってフェニルラジカルやメチルラジカル等のラジカルを生成させる。このラジカルにより重合性液晶化合物の重合が好適に進行するが、中でもメチルラジカルを発生させるオキシム系光重合開始剤は重合反応の開始効率が高い点で好ましい。また、重合反応をより効率的に進行させるという観点から、波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤を使用することが好ましい。波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤としては、オキシムエステル構造を含むトリアジン化合物やカルバゾール化合物が好ましく、感度の観点からはオキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物がより好ましい。オキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物としては、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤の市販品としては、イルガキュアOXE-01、イルガキュアOXE-02、イルガキュアOXE-03(以上、BASFジャパン株式会社製)、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831(以上、株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0081】
光重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常、0.1~30質量部であり、好ましくは1~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部である。上記範囲内であれば、重合性基の反応が十分に進行し、かつ、重合性液晶化合物の配向を乱し難い。
【0082】
レベリング剤とは、重合性液晶組成物の流動性を調整し、組成物を塗布して得られる塗膜をより平坦にする機能を有する添加剤であり、例えば、シリコーン系、ポリアクリレート系及びパーフルオロアルキル系のレベリング剤が挙げられる。レベリング剤として市販品を用いてもよく、具体的には、DC3PA、SH7PA、DC11PA、SH28PA、SH29PA、SH30PA、ST80PA、ST86PA、SH8400、SH8700、FZ2123(以上、全て東レ・ダウコーニング(株)製)、KP321、KP323、KP324、KP326、KP340、KP341、X22-161A、KF6001(以上、全て信越化学工業(株)製)、TSF400、TSF401、TSF410、TSF4300、TSF4440、TSF4445、TSF-4446、TSF4452、TSF4460(以上、全てモメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)、フロリナート(fluorinert)(登録商標)FC-72、同FC-40、同FC-43、同FC-3283(以上、全て住友スリーエム(株)製)、メガファック(登録商標)R-08、同R-30、同R-90、同F-410、同F-411、同F-443、同F-445、同F-470、同F-477、同F-479、同F-482、同F-483(以上、いずれもDIC(株)製)、エフトップ(商品名)EF301、同EF303、同EF351、同EF352(以上、全て三菱マテリアル電子化成(株)製)、サーフロン(登録商標)S-381、同S-382、同S-383、同S-393、同SC-101、同SC-105、KH-40、SA-100(以上、全てAGCセイミケミカル(株)製)、商品名E1830、同E5844((株)ダイキンファインケミカル研究所製)、BM-1000、BM-1100、BYK-352、BYK-353及びBYK-361N(いずれも商品名:BM Chemie社製)等が挙げられる。レベリング剤は単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0083】
レベリング剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がさらに好ましい。レベリング剤の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶化合物を配向させることが容易であり、かつ得られる液晶硬化膜がより平滑となる傾向にあるため好ましい。
【0084】
重合禁止剤を配合することにより、重合性液晶化合物の重合反応をコントロールすることができる。重合禁止剤としては、例えば、BHTなどのフェノール系化合物、ハイドロキノン、アルコキシ基含有ハイドロキノン、アルコキシ基含有カテコール(例えば、ブチルカテコールなど)、ピロガロール、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカルなどのラジカル補足剤;チオフェノール類;β-ナフチルアミン類およびβ-ナフトール類等が挙げられる。
【0085】
重合性液晶化合物の配向を乱すことなく、重合性液晶化合物を重合する観点から、重合禁止剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。重合禁止剤は単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0086】
光増感剤を用いることにより、光重合開始剤を高感度化することができる。光増感剤としては、例えば、キサントン、チオキサントン等のキサントン類;アントラセン及びアルキルエーテル等の置換基を有するアントラセン類;フェノチアジン;ルブレンが挙げられる。光増感剤は単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。光増感剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0087】
重合性液晶組成物は、重合性液晶化合物と、溶媒や光重合開始剤などの重合性液晶化合物以外の成分とを所定温度で撹拌等することにより調製できる。
【0088】
本発明において、水平配向液晶硬化膜からなる光学異方性膜は、例えば、
光学異方性膜形成用の重合性液晶組成物の塗膜を形成し、該塗膜平面に対して前記重合性液晶化合物を所望の方向(水平方向)に配向させる工程(以下、「塗膜形成工程」ともいう)、
前記塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を形成する工程(以下、「乾燥工程」ともいう)、
乾燥塗膜に活性エネルギー線を照射し、重合性液晶化合物の配向状態を保持したまま重合性液晶組成物を硬化させて液晶硬化膜を得る工程(以下、「硬化工程」ともいう)、及び、
得られた液晶硬化膜を溶媒に浸漬する工程(以下、「溶媒浸漬工程」ともいう)
を含む方法により製造することができる。
【0089】
重合性液晶組成物の塗膜は、基材上又は後述する配向膜上などに重合性液晶組成物を塗布することにより形成することができる。
基材としては、例えば、ガラス基材やフィルム基材等が挙げられるが、加工性の観点から樹脂フィルム基材が好ましい。フィルム基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びノルボルネン系ポリマーのようなポリオレフィン;環状オレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びセルロースアセテートプロピオネートのようなセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィド及びポリフェニレンオキシドのようなプラスチックが挙げられる。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して基材とすることができる。基材表面には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等から形成される保護層を有していてもよく、シリコーン処理のような離型処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0090】
基材として市販の製品を用いてもよい。市販のセルロースエステル基材としては、例えば、フジタックフィルムのような富士写真フィルム株式会社製のセルロースエステル基材;「KC8UX2M」、「KC8UY」、及び「KC4UY」のようなコニカミノルタオプト株式会社製のセルロースエステル基材などが挙げられる。市販の環状オレフィン系樹脂としては、例えば、「Topas(登録商標)」のようなTicona社(独)製の環状オレフィン系樹脂;「アートン(登録商標)」のようなJSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂;「ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)」、及び「ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)」のような日本ゼオン株式会社製の環状オレフィン系樹脂;「アペル」(登録商標)のような三井化学株式会社製の環状オレフィン系樹脂が挙げられる。市販されている環状オレフィン系樹脂基材を用いることもできる。市販の環状オレフィン系樹脂基材としては、「エスシーナ(登録商標)」及び「SCA40(登録商標)」のような積水化学工業株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材;「ゼオノアフィルム(登録商標)」のようなオプテス株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材;「アートンフィルム(登録商標)」のようなJSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材が挙げられる。
【0091】
光学異方性膜を含む光学フィルムの薄型化、基材の剥離容易性、基材のハンドリング性等の観点から、基材の厚みは、通常、5~300μmであり、好ましくは10~150μmである。
【0092】
重合性液晶組成物を基材等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法等の公知の方法が挙げられる。
【0093】
配向膜上に重合性液晶化合物の塗膜を形成することにより、重合性液晶化合物を精度よく配向させることができる。配向膜は、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。例えば、重合性液晶化合物を水平方向に配向させる配向規制力を有する配向膜(以下、「水平配向膜」ともいう)を用いることにより、重合性液晶化合物が膜平面に水平な方向に配向した光学異方性膜を得ることができる。配向規制力は、配向膜の種類、表面状態やラビング条件等によって任意に調整することが可能であり、配向膜が光配向性ポリマーから形成されている場合は、偏光照射条件等によって任意に調整することが可能である。
【0094】
配向膜としては、重合性液晶組成物の塗布等により溶解しない溶媒耐性を有し、また、溶媒の除去や後述する重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。配向膜としては、配向性ポリマーを含む配向膜、光配向膜及び表面に凹凸パターンや複数の溝を有するグルブ配向膜、配向方向に延伸してある延伸フィルム等が挙げられ、配向角の精度及び品質の観点から光配向膜が好ましい。
【0095】
配向性ポリマーとしては、例えば、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミド及びその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸エステル類が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。配向性ポリマーは単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0096】
配向性ポリマーを含む配向膜は、通常、配向性ポリマーが溶媒に溶解した組成物(以下、「配向性ポリマー組成物」ということがある)を基材に塗布し、溶媒を除去する、又は、配向性ポリマー組成物を基材に塗布し、溶媒を除去し、ラビングする(ラビング法)ことで得られる。溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられる。
【0097】
配向性ポリマー組成物中の配向性ポリマーの濃度は、配向性ポリマー材料が、溶媒に完溶できる範囲であればよいが、溶液に対して固形分換算で0.1~20%が好ましく、0.1~10%程度がさらに好ましい。
【0098】
配向性ポリマー組成物として、市販の配向膜材料をそのまま使用してもよい。市販の配向膜材料としては、サンエバー(登録商標、日産化学工業(株)製)、オプトマー(登録商標、JSR(株)製)などが挙げられる。
【0099】
配向性ポリマー組成物を基材に塗布する方法としては、重合性液晶組成物を基材へ塗布する方法として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0100】
配向性ポリマー組成物に含まれる溶媒を除去する方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられる。
【0101】
配向膜に配向規制力を付与するために、必要に応じてラビング処理を行うことができる(ラビング法)。ラビング法により配向規制力を付与する方法としては、ラビング布が巻きつけられ、回転しているラビングロールに、配向性ポリマー組成物を基材に塗布しアニールすることで基材表面に形成された配向性ポリマーの膜を接触させる方法が挙げられる。ラビング処理を行う時に、マスキングを行えば、配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を配向膜に形成することもできる。
【0102】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマー又はモノマーと溶媒とを含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を基材に塗布し、溶媒を除去後に偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御することができる点でも有利である。
【0103】
光反応性基とは、光照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光照射により生じる分子の配向誘起又は異性化反応、二量化反応、光架橋反応もしくは光分解反応等の液晶配向能の起源となる光反応に関与する基が挙げられる。中でも、二量化反応又は光架橋反応に関与する基が、配向性に優れる点で好ましい。光反応性基として、不飽和結合、特に二重結合を有する基が好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)及び炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基が特に好ましい。
【0104】
C=C結合を有する光反応性基としては、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾール基、スチルバゾリウム基、カルコン基及びシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基、芳香族ヒドラゾンなどの構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基、ホルマザン基、及び、アゾキシベンゼン構造を有する基等が挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基及びマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0105】
中でも、光二量化反応に関与する光反応性基が好ましく、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向膜が得られやすいという点で、シンナモイル基及びカルコン基が好ましい。光反応性基を有するポリマーとしては、当該ポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものが特に好ましい。
【0106】
光配向膜形成用組成物を基材上に塗布することにより、基材上に光配向誘起層を形成することができる。該組成物に含まれる溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられ、光反応性基を有するポリマーあるいはモノマーの溶解性に応じて適宜選択することができる。
【0107】
光配向膜形成用組成物中の光反応性基を有するポリマー又はモノマーの含有量は、ポリマー又はモノマーの種類や目的とする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、光配向膜形成用組成物の質量に対して、少なくとも0.2質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲がより好ましい。光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、光配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールやポリイミドなどの高分子材料や光増感剤を含んでいてもよい。
【0108】
光配向膜形成用組成物を基材に塗布する方法としては、配向性ポリマー組成物を基材に塗布する方法と同様の方法が挙げられる。塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去する方法としては例えば、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられる。
【0109】
偏光を照射するには、基板上に塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去したものに直接、偏光UVを照射する形式でも、基材側から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であると特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマー又はモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外線)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArFなどの紫外光レーザーなどが挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ及びメタルハライドランプがより好ましい。これらの中でも、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ及びメタルハライドランプが、波長313nmの紫外線の発光強度が大きいため好ましい。前記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光UVを照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラーなどの偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0110】
ラビング又は偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0111】
グルブ(groove)配向膜は、膜表面に凹凸パターン又は複数のグルブ(溝)を有する膜である。等間隔に並んだ複数の直線状のグルブを有する膜に重合性液晶化合物を塗布した場合、その溝に沿った方向に液晶分子が配向する。
【0112】
グルブ配向膜を得る方法としては、感光性ポリイミド膜表面にパターン形状のスリットを有する露光用マスクを介して露光後、現像及びリンス処理を行って凹凸パターンを形成する方法、表面に溝を有する板状の原盤に、硬化前のUV硬化樹脂の層を形成し、形成された樹脂層を基材へ移してから硬化する方法、及び、基材に形成した硬化前のUV硬化樹脂の膜に、複数の溝を有するロール状の原盤を押し当てて凹凸を形成し、その後硬化する方法等が挙げられる。
【0113】
配向膜(配向性ポリマーを含む配向膜又は光配向膜)の厚みは、通常10~10000nmの範囲であり、好ましくは10~1000nmの範囲であり、より好ましくは10~500nm以下であり、さらに好ましくは10~300nm、特に好ましくは50~250nmの範囲である。
【0114】
塗膜形成工程において得られた塗膜から溶媒を乾燥等により除去することにより、乾燥塗膜が形成される。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられる。この際、重合性液晶組成物から得られた塗膜を加熱することにより、塗膜から溶媒を乾燥除去させるとともに、重合性液晶化合物を塗膜平面に対して所望する方向(水平方向)に配向させることができる。塗膜の加熱温度は、用いる重合性液晶化合物及び塗膜を形成する基材等の材質などを考慮して適宜決定し得るが、重合性液晶化合物を液晶相状態へ相転移させるために液晶相転移温度以上の温度であることが通常必要である。重合性液晶組成物に含まれる溶媒を除去しながら、重合性液晶化合物を水平配向状態とするため、例えば、前記重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物の液晶相転移温度(スメクチック相転移温度又はネマチック相転移温度)程度以上の温度まで加熱することができる。
なお、液晶相転移温度は、例えば、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡や、示差走査熱量計(DSC)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)等を用いて測定することができる。また、重合性液晶化合物として2種以上を組み合わせて用いる場合、上記相転移温度は、重合性液晶組成物を構成する全重合性液晶化合物を重合性液晶組成物における組成と同じ比率で混合した重合性液晶化合物の混合物を用いて、1種の重合性液晶化合物を用いる場合と同様にして測定される温度を意味する。なお、一般に前記重合性液晶組成物中における重合性液晶化合物の液晶相転移温度は、重合性液晶化合物単体としての液晶相転移温度よりも下がる場合もあることが知られている。
【0115】
加熱時間は、加熱温度、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点及びその量等に応じて適宜決定し得るが、通常、15秒~10分であり、好ましくは0.5~5分である。
【0116】
塗膜からの溶媒の除去は、重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱と同時に行ってもよいし、別途で行ってもよいが、生産性向上の観点から同時に行うことが好ましい。重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱を行う前に、重合性液晶組成物から得られた塗膜中に含まれる重合性液晶化合物が重合しない条件で塗膜中の溶媒を適度に除去させるための予備乾燥工程を設けてもよい。かかる予備乾燥工程における乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられ、該乾燥工程における乾燥温度(加熱温度)は、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点及びその量等に応じて適宜決定し得る。
【0117】
乾燥工程により得られた乾燥塗膜において、重合性液晶化合物の配向状態を保持したまま重合性液晶化合物を重合させることにより液晶硬化膜が形成される。重合方法としては、熱重合法や光重合法が挙げられるが、重合反応を制御しやすい観点から光重合法が好ましい。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、当該乾燥塗膜に含まれる光重合開始剤の種類、重合性液晶化合物の種類(特に、該重合性液晶化合物が有する重合性基の種類)及びその量に応じて適宜選択される。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線及びγ線からなる群より選択される1種以上の光や活性電子線の活性エネルギー線が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点や、光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって、光重合可能なように、重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物や光重合開始剤の種類を選択しておくことが好ましい。また、重合時に、適切な冷却手段により乾燥塗膜を冷却しながら光照射することで重合温度を制御することもできる。このような冷却手段の採用により、より低温で重合性液晶化合物の重合を実施すれば、比較的耐熱性が低い基材を用いたとしても、適切に液晶硬化膜を形成できる。また、光照射時の熱による不具合(基材の熱による変形等)が発生しない範囲で重合温度を高くすることにより重合反応を促進することも可能である。光重合の際、マスキングや現像を行うなどによって、パターニングされた硬化膜を得ることもできる。
【0118】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0119】
紫外線照射強度は、通常、10~3,000mW/cmである。紫外線照射強度は、好ましくは光重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度である。光を照射する時間は、通常0.1秒~10分であり、好ましくは0.1秒~5分、より好ましくは0.1秒~3分、さらに好ましくは0.1秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回又は複数回照射すると、その積算光量は、10~3,000mJ/cm、好ましくは50~2,000mJ/cm、より好ましくは100~1,000mJ/cmである。
【0120】
硬化工程で得られた液晶硬化膜を溶媒に浸漬する工程は、得られる光学異方性膜の平面内でnxAの方向に対して直交する方向の屈折率nyAと、該光学異方性膜の平面に対して垂直方向の屈折率nzAとの比率が、式(1)を満たすように重合性液晶化合物の配向を制御するために有効な処理方法の1つである。かかる工程により、液晶硬化膜を構成する重合性液晶化合物、特に、硬化した際に逆波長分散性を示し得る上述したようなT字構造を有する重合性液晶化合物に関して、重合性液晶化合物の分子に動きが生じやすくなり、重合性液晶化合物の長軸方向と交差する方向に配置される構成分子が一定の方向を向きやすくなるものと考えられる。これにより、重合性液晶化合物の構成分子の方向性(配向)を制御し、屈折率nyA(λ)と屈折率nzA(λ)との比率を上記特定の範囲とすることが可能となる。
【0121】
溶媒浸漬工程で用いる溶媒は、用いる重合性液晶化合物や基材の種類等に応じて適宜決定し得る。具体的には、光学異方性膜形成用の重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示したものと同様の溶媒が挙げられる。中でも、アルコール溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、塩素含有溶媒、アミド系溶媒及び芳香族炭化水素溶媒が好ましく、ケトン溶媒を含むことがより好ましく、環状構造を含むケトン溶媒を含むことがさらに好ましく、環状アノンを含むことが特に好ましく、シクロヘキサノンを含むことがとりわけ好ましい。溶媒浸漬工程用の溶媒として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒浸漬工程で用いる溶媒と、重合性液晶組成物を構成する溶媒とは同じであっても、異なっていてもよい。重合性液晶組成物を構成する溶媒と同じ溶媒を溶媒浸漬工程で用いることは、重合性液晶化合物に対する溶解性の点で好ましい。一方で、溶媒浸漬工程用の溶媒としては、光学異方性膜の形成に用いる基材に対する影響を考慮して、用いる重合性液晶化合物に対して適度な溶解性を有しながら、用いる基材に対して影響を及ぼし難い(基材を溶解しない)溶媒を選択することが好ましい。
【0122】
溶媒浸漬工程における溶媒温度や浸漬時間等の各条件は、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類、液晶硬化膜の重合度等に応じて、得られる光学異方性膜の屈折率nyA(λ)とnzA(λ)との比率が式(1)を満たすよう適宜決定することができる。例えば、光学異方性膜を連続的に製造する場合、溶媒温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、さらに好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは35℃以下である。また、浸漬時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上であり、また、好ましくは600秒以下、より好ましくは550秒以下、さらに好ましくは500秒以下である。
【0123】
溶媒浸漬工程後、溶媒中に浸漬した液晶硬化膜を乾燥して溶媒を除去することにより、液晶硬化膜からなる光学異方性膜を得ることができる。液晶硬化膜の乾燥は、自然乾燥、通風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等により行うことができる。
【0124】
光学異方性膜の厚さは、適用される表示装置に応じて適宜選択できる。例えば0.1~300μmであってよく、好ましくは0.5μm以上100μm以下、より好ましくは0.5μm以上50μm以下である。光学異方性膜が水平配向液晶硬化膜からなる場合、その厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは4μm以下、特に好ましくは3.5μm以下である。
【0125】
本発明は、本発明の光学異方性膜を含む光学フィルムを包含する。態様において、本発明の光学フィルムは、基材及び、該基材上に配向膜を介して、又は配向膜を介さずに積層される本発明の光学異方性膜を含んで構成される。本発明の光学フィルムにおいて、基材は剥離可能なものであってよい。
【0126】
本発明の光学フィルムは、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲において、本発明の光学異方性膜、基材及び配向膜以外の層を含んでいてもよい。そのような他の層としては、例えば、垂直配向位相差層、液晶硬化膜の機械的強度を高めたり、補強したりすることを目的とした硬化樹脂層、ハードコート層、オーバーコート層、粘接着層、プライマー層などが挙げられる。
【0127】
本発明は、本発明の光学異方性膜と偏光フィルムとを含む楕円偏光板を包含する。
偏光フィルムは、偏光機能を有するフィルムであり、吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルムや吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムを偏光子として含むフィルム等が挙げられる。吸収異方性を有する色素としては、例えば、二色性色素が挙げられる。
【0128】
吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルムを偏光子として含むフィルムは通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造された偏光子の少なくとも一方の面に接着剤を介して透明保護フィルムで挟み込むことで作製される。
【0129】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することによって得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0130】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85~100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールも使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000~10,000程度であり、好ましくは1,500~5,000の範囲である。
【0131】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの膜厚は、例えば、10~150μm程度とすることができる。
【0132】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前、染色と同時、又は染色の後で行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸にあたっては、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶媒を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3~8倍程度である。
【0133】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法によって行われる。
【0134】
二色性色素として、具体的には、ヨウ素や二色性の有機染料が用いられる。二色性の有機染料としては、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料及び、トリスアゾ、テトラキスアゾなどの化合物からなる二色性直接染料等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理前に、水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0135】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり、通常、0.01~1質量部程度である。またヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常、0.5~20質量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20~40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20~1,800秒程度である。
【0136】
一方、二色性色素として二色性の有機染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、水100質量部あたり、通常、1×10-4~10質量部程度であり、好ましくは1×10-3~1質量部であり、さらに好ましくは1×10-3~1×10-2質量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウム等の無機塩を染色助剤として含んでいてもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常、20~80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常、10~1,800秒程度である。
【0137】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は通常、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬する方法により行うことができる。このホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部あたり、通常2~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましく、その場合のヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常0.1~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常60~1,200秒程度であり、好ましくは150~600秒、さらに好ましくは200~400秒である。ホウ酸処理の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50~85℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0138】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する方法により行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5~40℃程度である。また浸漬時間は、通常1~120秒程度である。
【0139】
水洗後に乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。乾燥処理は例えば、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30~100℃程度であり、好ましくは50~80℃である。乾燥処理の時間は、通常60~600秒程度であり、好ましくは120~600秒である。乾燥処理により、偏光子の水分率は実用程度にまで低減される。その水分率は、通常5~20質量%程度であり、好ましくは8~15質量%である。水分率が上記範囲内であると、適度な可撓性を有し、かつ、熱安定性に優れる偏光子を得られる。
【0140】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理、水洗及び乾燥をして得られる偏光子の厚さは好ましくは5~40μmである。
【0141】
吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムとしては、液晶性を有する二色性色素を含む組成物又は、二色性色素と重合性液晶とを含む組成物を塗布して得られるフィルム等が挙げられる。当該フィルムは、好ましくは、その片面又は両面に保護フィルムを有する。当該保護フィルムとしては、水平配向液晶硬化膜の製造に用い得る基材として先に例示した樹脂フィルムと同一のものが挙げられる。
【0142】
吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムは薄い方が好ましいが、薄すぎると強度が低下し、加工性に劣る傾向がある。当該フィルムの厚さは、通常20μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは0.5~3μmである。
【0143】
前記吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムとしては、具体的には、特開2012-33249号公報等に記載のフィルムが挙げられる。
【0144】
このようにして得られた偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤を介して透明保護フィルムを積層することにより偏光フィルムが得られる。透明保護フィルムとしては、光学異方性膜の製造に用い得る基材として先に例示した樹脂フィルムと同様の透明フィルムを好ましく用いることができる。
【0145】
本発明の楕円偏光板は、本発明の光学異方性膜と偏光フィルムとを含んで構成されるものであり、例えば、本発明の光学異方性膜と偏光フィルムとを接着剤層等を介して積層させることにより本発明の楕円偏光板を得ることができる。また、本発明の光学フィルムから基材を取り除いた積層体と偏光フィルムとを貼合させることにより本発明の楕円偏光板を得ることができる。
【0146】
本発明の一実施態様において、本発明の光学異方性膜と偏光フィルムとを積層する場合、光学異方性膜の遅相軸(光軸)と偏光フィルムの吸収軸との成す角が45±5°となるように積層することが好ましい。
【0147】
本発明の楕円偏光板は、従来の一般的な楕円偏光板、又は偏光フィルム及び位相差フィルムが備えるような構成を有していてよい。そのような構成としては、例えば、楕円偏光板を有機EL等の表示素子に貼合するための粘着剤層(シート)、偏光フィルムや位相差フィルムの表面を傷や汚れから保護する目的で用いられるプロテクトフィルム等が挙げられる。
【0148】
本発明の楕円偏光板は、さまざまな表示装置に用いることができる。表示装置とは、表示機構を有する装置であり、発光源として発光素子又は発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(例えば電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えばグレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)及び圧電セラミックディスプレイなどが挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置及び投写型液晶表示装置などのいずれをも含む。これらの表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に、本発明の楕円偏光板は、有機EL表示装置に好適に用いることができる。
【0149】
本発明の一態様において、本発明の楕円偏光板と前面板又はタッチセンサーパネルとを含む積層体と、有機EL表示パネルとから有機EL表示装置が構成される。したがって、本発明は、本発明の楕円偏光板と前面板とを含む積層体、本発明の楕円偏光板とタッチセンサーパネルとを含む積層体、及び、前記積層体を含む有機EL表示装置も対象とする。
【0150】
本発明の楕円偏光板と前面板とを含む積層体を構成する前面板は、有機EL表示装置の視認側に配置され、表示装置を構成する他の構成部材を外部からの衝撃や温湿度等の環境変化から保護する役割を担う。前面板は、ガラス、強化ガラス等の無機材料や高分子フィルムなどから構成されることが好ましい。特に、フレキシブルな特性を有する高分子フィルムは、折り曲げが可能なフレキシブル表示装置用の積層体を構成する前面板として好適である。
【0151】
前記高分子フィルムは、通常、透明な高分子フィルムであり、その可視光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。具体的には、透明性及び耐熱性に優れるポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム又はポリイミドフィルム、ポリエステル系フィルム、オレフィン系フィルム、アクリルフィルム、セルロース系フィルム等が挙げられる。
【0152】
高分子フィルムにシリカ等の無機粒子、有機微粒子、ゴム粒子等を分散させることも好ましい。さらに、顔料や染料のような着色剤、蛍光増白剤、分散剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶媒などを配合してもよい。
【0153】
前面板は、傷付き防止、反射防止、防汚、電磁波遮蔽、近赤外線遮蔽、色調整又はガラス飛散防止等の機能を有していてもよい。かかる機能を付与するため、これらの機能を有する少なくとも1つの層(例えばハードコート層など)を前面板の少なくとも一方の面に積層し得る。
【0154】
本発明の楕円偏光板とタッチセンサーパネルとを含む積層体は、本発明の楕円偏光板と前面板に加えてタッチセンサーを含む。前面板としては、本発明の楕円偏光板と前面板とを含む積層体において先に例示したものと同様の前面板を用いることができる。
【0155】
タッチセンサーは入力手段として用いられる。タッチセンサーとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等様々な様式があり、いずれの方式であってもよい。タッチセンサーはフレキシブルな特性を有する基板と;該基板において使用者のタッチが感知される活性領域に形成された感知パターンと;前記活性領域の外郭部に位置する非活性領域に形成され、前記感知パターンとパッド部を介して外部の駆動回路と接続するための各センシングラインを含み得る。
【0156】
本発明の積層体において、本発明の楕円偏光板、前面板及び/又はタッチセンサーの積層は、各部材を必要に応じて接着剤層を介して貼合することにより行い得る。本発明の積層体が接着剤層を含む場合、前面板と楕円偏光板との界面における反射や光の散乱を抑え、視認性を向上させるために、接着剤層の屈折率が前面板の屈折率に近く、光学的に透明である接着剤を選択することが好ましい。
【0157】
接着剤としては、例えば、水系接着剤、有機溶剤系、無溶剤系接着剤、固体接着剤、溶剤揮散型接着剤、湿気硬化型接着剤、加熱硬化型接着剤、嫌気硬化型、活性エネルギー線硬化型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤(粘着剤)、再湿型接着剤等の当該分野で広く使用されているものを使用できる。
【0158】
本発明の積層体における本発明の楕円偏光板、前面板及びタッチセンサーの積層順は特に限定されず、例えば、視認側から、
前面板/接着剤層/楕円偏光板/接着剤層/タッチセンサー
前面板/接着剤層/タッチセンサー/接着剤層/楕円偏光板
などであってよい。
上記積層体において、積層体の前面板とは反対側の最外層(すなわち、タッチセンサーまたは楕円偏光板)と有機EL表示パネルとを貼合することにより、本発明の有機EL表示装置を製造することができる。本発明の有機EL表示装置は、位相差値の経時的な変化が生じ難く、可視光の広い波長範囲で正面反射色相に優れる本発明の光学異方性膜を備えることにより、長期間にわたり良好な画像表示特性を発現することができる。
【実施例
【0159】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。尚、例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、それぞれ質量%及び質量部を意味する。
【0160】
1.実施例1
(1)重合性液晶組成物の調製
下記式で示される重合性液晶化合物(A-1)(分子量:1156)、重合性液晶化合物(B-1)(分子量:664)及び重合性液晶化合物(C-1)(分子量:1083)を調製した。
【0161】
重合性液晶化合物(A-1):
【化10】
重合性液晶化合物(A-1)は特開2011-207765号公報に記載の方法で合成した。
【0162】
重合性液晶化合物(B-1):
【化11】
重合性化合物(B-1)は特開2010-24438号公報に記載の方法で合成した。
【0163】
重合性液晶化合物(C-1):
【化12】
重合性化合物(C-1)は特開2011-207765号公報に記載の方法で合成した。
【0164】
重合性液晶化合物(A-1)83質量部、重合性液晶化合物(B-1)3質量部、及び、重合性液晶化合物(C-1)14質量部を混合し、液晶混合物(1)(合計量100質量部)を得た。
【0165】
特許文献(特開2017-179367)を参考にして、表1に記載の組成に従い、液晶混合物(1)と、重合開始剤、レベリング剤、重合禁止剤及び溶媒とを混合し、重合性液晶組成物(1)を調製した。なお、表1に示す重合開始剤、レベリング剤及び重合禁止剤の量は、液晶混合物(1)100質量部に対する仕込み量である。また、溶媒の配合量は、液晶混合物(1)の質量%が重合性液晶組成物(1)の全量に対して10質量%となるように設定した。具体的には、重合性液晶組成物(1)1000質量部中に、液晶混合物(1)100質量部が含まれるように溶媒を加えた。
【0166】
【表1】
【0167】
重合開始剤:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア(登録商標)369;BASFジャパン社製)
レベリング剤:ポリアクリレート化合物(BYK-361N;ビックケミージャパン製)
重合禁止剤:ジブチルヒドロキシトルエン(BHT;和光純薬工業株式会社製)
溶媒:N-メチルピロリドン(NMP;関東化学株式会社製)
【0168】
(2)光配向膜形成用組成物の調製
下記構造の光配向性材料5質量部とシクロペンタノン(溶媒)95質量部とを混合し、得られた混合物を80℃で1時間攪拌することにより、光配向膜形成用組成物(1)を得た。下記式で示される光配向性材料は、特開2013-33248号公報記載の方法で合成した。
光配向性材料
【化13】
【0169】
(3)光学フィルムの作製
以下のように光学フィルムを作製した。シクロオレフィンポリマーフィルム(COP)(ZF-14、日本ゼオン株式会社製、厚み23μm)を、コロナ処理装置(AGF-B10、春日電機株式会社製)を用いて出力0.3kW、処理速度3m/分の条件で1回処理した。コロナ処理を施した表面に、前記光配向膜形成用組成物(1)をバーコーター塗布し、80℃で1分間乾燥した後、偏光UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて100mJ/cmの積算光量で偏光UV露光を実施し、配向膜付き基材を得た。得られた配向膜の厚みをレーザー顕微鏡(LEXT、オリンパス株式会社製)で測定したところ、100nmであった。
【0170】
続いて、温度25℃、湿度30%RH環境下において、調製した重合性液晶組成物(1)を孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルタ(アドバンテック東洋株式会社製、品番;T300A025A)に通した後、該重合性液晶組成物(1)を25℃に保温した配向膜付き基材上にバーコーターを用いて塗布した。塗膜を120℃で1分間乾燥した。高圧水銀ランプ(ユニキュアVB―15201BY-A、ウシオ電機株式会社製)を用いて、乾燥後の塗膜に対して紫外線を照射することにより、重合性液晶化合物を重合させて光学フィルムを作製した。照射した紫外線の波長365nmにおける積算光量は、1000mJ/cmとした。なお、紫外線の照射は、窒素雰囲気下でおこなった。光学フィルムは、基材、配向膜、及び光学異方性膜がこの順に積層されてなる。得られた光学異方性膜の厚みをレーザー顕微鏡(LEXT、オリンパス株式会社製)で測定したところ2μmであった。
【0171】
次いで、得られた光学フィルムを、温度25℃の環境下において、シクロヘキサノンへ60秒間浸漬させた(溶媒浸漬工程)。光学フィルムを取り出したのち温度25℃の環境下で終夜静置することにより溶媒を乾燥させた。
【0172】
(4)光学フィルムの物性/特性評価
溶媒乾燥後、下記評価方法に準じて三次元屈折率、位相差値、並びに耐久評価における位相差値変化(ΔRe)の測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0173】
(i)光学異方性膜の3次元屈折率、並びに、位相差値の計算
50mm×50mm×0.7mmのコーニングガラス板に、リンテック株式会社製の厚み25μmの感圧式粘着剤を介して、光学フィルムの光学異方性膜面(基材とは反対側の面)を貼合したのち、基材を剥離した。その後、さらに同様の感圧式粘着剤を介し23μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(COP)(ZF-14、日本ゼオン株式会社製、厚み23μm)を貼合し、位相差値の評価用試料とした。なお、ここで用いるCOPは波長550nmにおける位相差値が1nm以下の光学的に等方なフィルムであり、位相差値の評価に影響が出ないことを確認した。
【0174】
上記位相差値の評価用試料について、測定機(王子計測機器株式会社製「KOBRA-WPR」)を用いて、試料への光の入射角を変化させて光学異方性膜の面内位相差値、及び進相軸を中心に40°傾斜させたときの位相差値を測定した。各波長における平均屈折率は日本分光株式会社製のエリプソメータ M-220を用いて測定した。また、膜厚は浜松ホトニクス株式会社製のOptical NanoGauge膜厚計C12562-01を使用して測定した。
【0175】
前述の面内位相差値、進相軸を中心に40°傾斜させたときの位相差値、平均屈折率、及び膜厚の値から、王子計測機器株式会社が公開する技術資料(http://www.oji-keisoku.co.jp/products/kobra/reference.html)を参考にして、3次元屈折率を算出した。得られた3次元屈折率から、以下の式に従って光学異方性膜の光学特性を計算した。
【0176】
(ii)耐久試験における位相差値変化量(ΔRe)の測定
前述の位相差値の評価用試料について、耐久試験として105℃に管理したエアオーブン(エスペック社製PH-201)へ30分間投入したのち、取り出して25℃55%RH環境下で6時間以上静置した。その後、上述のKOBRA-WPRを用い、再び面内位相差値の測定を行った。
耐久試験前後の位相差値から、下式に基づいて位相差値の変化量(|ΔRe|)を算出した。
【0177】
2.実施例2
シクロヘキサノンへ浸漬する時間を240秒間としたこと以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製し、評価した。評価結果を表2に記す。
【0178】
3.実施例3
シクロヘキサノンへ浸漬する時間を420秒間としたこと以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製し、評価した。評価結果を表2に記す。
【0179】
4.比較例1
紫外線照射後、溶媒浸漬工程を経なかったこと以外は実施例1と同様にして光学フィルムを作製し、評価した。評価結果を表2に記す。
【0180】
【表2】
【0181】
実施例で作製された光学フィルムにおいては、位相差値の変化量(|ΔReA|)が小さく、長期使用時の信頼性に優れる光学フィルムであることが確認された。