(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】リン含有エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、積層板、回路基板用材料および硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/14 20060101AFI20231219BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231219BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08G59/14
C08J5/24 CFC
H05K1/03 610L
(21)【出願番号】P 2020539365
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032334
(87)【国際公開番号】W WO2020045150
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018158145
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】柴田 優子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/187184(WO,A1)
【文献】特開2013-103974(JP,A)
【文献】特開2013-107980(JP,A)
【文献】特開2005-206706(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175295(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065552(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0218273(US,A1)
【文献】特開2000-080251(JP,A)
【文献】特開2012-229364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有エポキシ樹脂と硬化剤を含み、リン含有率が1.0~1.8質量%の範囲であるエポキシ樹脂組成物であって、リン含有エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂の原料として2核体の含有率を10面積%以下まで低減したノボラックフェノール樹脂を使用し、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー測定による7核体以上の含有率(面積%、H)に対する3核体の含有率(面積%、L)の比(L/H)が0.6~4.0の範囲であり、かつ標準ポリスチレン換算値による数平均分子量(Mn)をエポキシ当量(E)で除した平均官能基数(Mn/E)が3.8~4.8の範囲であるノボラック型エポキシ樹脂と、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表されるリン化合物とから得られた生成物であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
式中、R
1およびR
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基であり、それぞれ異なっていても同一でも良く
、R
1とR
2が結合し、環状構造部位となっていてもよい。n1およびn2はそれぞれ独立に0または1である。Aは3価の炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。
【請求項2】
ノボラック型エポキシ樹脂がフェノールノボラック型エポキシ樹脂である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化剤がジシアンジアミド、フェノール樹脂およびオキサジン樹脂から選択される一種または二種以上を含む請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸してなるプリプレグ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる積層板。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を使用して得られる回路基板用材料。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項8】
ノボラック型エポキシ樹脂と、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表されるリン化合物とから得られるリン含有エポキシ樹脂の製造方法であって、原料として2核体の含有率を10面積%以下まで低減したノボラックフェノール樹脂を使用し、得られるノボラック型エポキシ樹脂が、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー測定による7核体以上の含有率(面積%、H)に対する3核体の含有率(面積%、L)の比(L/H)が0.6~4.0の範囲であり、かつ標準ポリスチレン換算値による数平均分子量(Mn)をエポキシ当量(E)で除した平均官能基数(Mn/E)が3.8~4.8の範囲であることを特徴とするリン含有エポキシ樹脂の製造方法。
【化2】
式中、R
1およびR
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基であり、それぞれ異なっていても同一でも良く
、R
1とR
2が結合し、環状構造部位となっていてもよい。n1およびn2はそれぞれ独立に0または1である。Aは3価の炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路基板に使用される銅張積層板、フィルム材、樹脂付き銅箔などを製造するエポキシ樹脂組成物や電子部品に使用される封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗装材料などの難燃性を有するリン含有エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を使用した難燃性のエポキシ樹脂組成物、その硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の難燃化においては、環境へ与える影響に配慮してその燃焼時に発生する有毒ガスの抑制を目的とした対応が図られている。従来の臭素化エポキシ樹脂に代表されるようなハロゲン含有化合物による難燃化から、有機リン化合物による難燃化を図ったハロゲンフリー難燃化である。これらの対応は電子回路基板に限らず一般的にもリン難燃性として広く使用され認識されており、回路基板に関するエポキシ樹脂分野においても同様である。
【0003】
このような難燃性を付与したエポキシ樹脂の具体的な代表例としては、特許文献1~4で開示されているような有機リン化合物を応用する提案がなされている。特許文献1には9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO)とエポキシ樹脂類とを所定のモル比で反応させて得られる熱硬化性樹脂が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、キノン化合物とDOPOに代表されるリン原子に結合した1個の活性水素を有する有機リン化合物類とを反応させて得られる活性水素を有する有機リン化合物を、さらにノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂類と反応させることで得られたリン含有エポキシ樹脂組成物について開示されている。
【0005】
上記特許文献では難燃性を発現するリン化合物と多官能エポキシ樹脂とを反応させているため、硬化剤を使用した硬化後の耐熱性はFR-4基板相当のガラス転移を得ることができるが、近年の基板の高密度実装化や自動車キャビンからボンネット駆動部周辺への搭載化が進む中で、さらなる高温下としてFR-5相当の耐熱性であるガラス転移温度(Tg)が要求されているのが実態である。
【0006】
特許文献3には従来のノボラック型エポキシ樹脂よりもさらに高Tgが得られる3官能エポキシ樹脂を併用したリン含有エポキシ樹脂を合成し、その硬化物が約180℃のTgとなる実施例が記されている。また、特許文献4にはリン化合物とヒドロキシベンズアルデヒドを反応させたリン含有オリゴマーを、多官能エポキシ樹脂と反応させて得られた高耐熱性のリン含有エポキシ樹脂として、硬化物のTgが185℃となる実施例が開示されている。これらのようなFR-5相当の耐熱基準を持つ基板として、数多くの技術が公開されており汎用化されつつある。
【0007】
一方、これら基板が使用搭載されている自動車業界においては、従来のエンジン駆動からエネルギー環境面を考慮したハイブリッド自動車または電気自動車といったモータを動力源とする流れが主流化しつつあり、これら動きの中での快適運転や安全運転性をさらに確保する目的から、多様なセンサーを搭載した電子制御化の流れが進んでいる。燃費や出力調整を司るエンジンやモータ周囲のエンジンコントロールユニットにおいても、当然ながら高温定温下で悪質な汚染度の環境下に曝される状況となり、従来のFR-5相当の耐熱においても対応不可能な領域となりつつあり、Tgを200℃以上とする要求も出始めている。このような環境下で使用される基板においては、絶縁信頼性として耐トラッキング性も非常に重要視されつつある特性である。
【0008】
特許文献5には反応性リン酸エステルを多官能エポキシ樹脂と反応させて、難燃性と耐熱性を発現させつつ耐トラッキング性に優れる組成物として開示されている。しかし、ここでは耐トラッキング性に優れる根拠については特に触れられておらず、また耐熱性もTgが155℃のFR-4~FR-5相当に留まるものであった。また特許文献6には、耐トラッキング性に優れたハロゲンフリーのリン難燃系における難燃性V-0レベルの耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物が公開されている。しかし、こちらも耐熱性はFR-4~FR-5相当であり、Tgが200℃以上の耐熱性に対しては不十分なものであった。
【0009】
特許文献7にはハロゲンフリー難燃性で耐熱性に優れたプリプレグ用エポキシ樹脂組成物について開示されている。この樹脂組成物はその中に2.8官能基以上の多官能エポキシ樹脂を含み、熱分解性に優れた水酸化アルミや水酸化マグネシウムを樹脂固形分に対して20質量部以上、180質量部未満使用することで難燃性や熱時剛性、そして耐熱性にも優れた硬化物を提供するものである。しかし、ここでの良好な難燃性は0.2mmの極めて薄いフィルムにおける実測結果であり、一般的な板厚である0.8~1.6mm厚の積層板でも十分な難燃性が得られるとは言えない。よってこのような一般的な厚板基板にて十分な難燃性を得るためにはリン含有率を高める必要があり、この場合は耐トラッキング性が損なわれる。
【0010】
これらいずれの文献においても、リン含有エポキシ樹脂としての耐トラッキング性改善については言及されておらず、高耐熱であり、かつ難燃性を保持改良する手段や効果については見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-166035号公報
【文献】特開平11-279258号公報
【文献】特開2002-206019号公報
【文献】特開2013-035921号公報
【文献】特開2001-019746号公報
【文献】特表2017-528578号公報
【文献】特開2007-059838号公報
【発明の概要】
【0012】
非ハロゲン系のエポキシ樹脂硬化物として、Tgが200℃以上の耐熱性を維持しつつ、優れた難燃性と耐トラッキング性を発現させるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明者らはこれら課題を克服するべく鋭意研究した結果、リン含有エポキシ樹脂の原料であるノボラック型エポキシ樹脂において、7核体以上の高分子成分と3核体の比率とそれに伴う平均官能基数が耐熱性や難燃性、さらに耐トラッキング性を改善させる効果が高いことを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、リン含有エポキシ樹脂と硬化剤を含み、リン含有率が1.0~1.8質量%の範囲であるエポキシ樹脂組成物であって、リン含有エポキシ樹脂はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)測定における7核体以上の含有率(面積%、H)に対する3核体の含有率(面積%、L)の比(L/H)が0.6~4.0の範囲であり、かつ数平均分子量(Mn)をエポキシ当量値(E)で除した平均官能基数(Mn/E)の値が3.8~4.8の範囲であるノボラック型エポキシ樹脂と、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表されるリン化合物とから得られた生成物であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0015】
なお、GPCの測定条件は、東ソー株式会社製のカラム(TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXL)を直列に備えたものを40℃下において使用し、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を使用して1mL/分の流速で、検出器に示差屈折計(RI)検出器を使用した。サンプル0.1gを10mLのTHFに溶解して50μLをカラムに注入し、標準ポリスチレン検量線によりノボラック型エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)と各核体の含有率(面積%)を測定した。
【0016】
【化1】
上記一般式(1)および(2)において、R
1およびR
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基であり、それぞれ異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよく、R
1とR
2が結合し、環状構造部位となっていてもよい。n1およびn2はそれぞれ独立に0または1である。Aは3価の炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。
【0017】
上記ノボラック型エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、上記硬化剤は、ジシアンジアミド、フェノール樹脂およびオキサジン樹脂から選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物であり、上記エポキシ樹脂組成物を使用することを特徴とするプリプレグ、積層板、または回路基板用材料である。
【0019】
また、本発明は、ノボラック型エポキシ樹脂と上記一般式(1)および/または一般式(2)で表されるリン化合物とから得られるリン含有エポキシ樹脂の製造方法であって、ノボラック型エポキシ樹脂がGPC測定による7核体以上の含有率(面積%、H)に対する3核体の含有率(面積%、L)の比(L/H)が0.6~4.0の範囲であり、かつ標準ポリスチレン換算値による数平均分子量(Mn)をエポキシ当量(E)で除した平均官能基数(Mn/E)が3.8~4.8の範囲であることを特徴とするリン含有エポキシ樹脂の製造方法である。
【0020】
本発明は、特定のリン化合物と特定の分子量分布と特定の平均官能基数を有するノボラック型エポキシ樹脂を必須として反応することによって得られるリン含有エポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物であり、特定の分子量分布と特定の平均官能基数を有するノボラック型エポキシ樹脂を使用することによって、従来のリン含有エポキシ樹脂では得られないTgが200℃以上の耐熱性と難燃性を両立させ、さらに耐トラッキング性が良好となる硬化物を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】合成例3で得られたノボラック型エポキシ樹脂のGPCチャートを示す。
【
図2】汎用フェノールノボラック型エポキシ樹脂のGPCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂及および硬化剤を必須成分とし、リン含有率が1.0~1.8質量%の範囲である。本明細書におけるエポキシ樹脂組成物としてのリン含有率とは、エポキシ樹脂組成物から溶剤と無機充填剤を除いた有機成分中における比率を指す。リン含有率が1.0質量%未満の場合、難燃性が不十分となる恐れがあり、リン含有率が1.8質量%を超えるとTg=200℃以上の耐熱性を確保できない恐れがある。好ましい範囲はリン含有率が1.5~1.8質量%である。
【0023】
上記リン含有エポキシ樹脂は、特定の分子量分布と特定の平均官能基数を有するノボラック型エポキシ樹脂と、上記一般式(1)で表されるリン化合物および/または一般式(2)で表されるリン化合物との反応によって得られる。一般式(2)のリン化合物のみを単独で使用した場合は組成物の耐熱性を下げるため、一般式(1)のリン化合物の比率を高めた方が好ましい。具体的には、一般式(1)のリン化合物と一般式(2)のリン化合物のモル比は99:1~75:25が好ましく、95:5~85:15がより好ましい。この範囲であれば、リン含有エポキシ樹脂組成物としてガラスクロスへの含浸性などに影響する粘度などの取扱い面から好ましい。
なお、原料モル比に換算すると、例えば、一般式(2)のリン化合物がDOPOであり、一般式(1)のリン化合物がDOPOとナフトキノン(NQ)との反応物である場合、NQ/DOPO(モル比)0.50であるとき、一般式(1)のリン化合物と一般式(2)のリン化合物のモル比は、50:50に相当し、NQ/DOPO(モル比)0.99であるとき、99:1に相当する。
【0024】
リン化合物としては、上記一般式(1)または一般式(2)で表されるリン化合物を使用することが必要であり、単独でも併用してもよい。
一般式(1)または一般式(2)において、R1およびR2はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。また、R1とR2が結合して環状構造を形成してもよい。特に、ベンゼン環等の芳香族環基が好ましい。R1およびR2が芳香族環基の場合、置換基として、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~11のアラルキル基、炭素数6~10のアリールオキシ基または炭素数7~11のアラルキルオキシ基を有してもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子等が例示され、これは炭化水素鎖または炭化水素環を構成する炭素間に含まれることができる。
n1およびn2はそれぞれ独立に、0または1である。
Aは3価の炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。好ましくはベンゼン環基やナフタレン環基である。芳香族炭化水素基は、置換基として、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数7~12のアラルキルオキシ基を有してもよい。
【0025】
まず、原料として使用する上記一般式(2)で表されるリン化合物を例示すると、ジメチルホスフィンオキシド、ジエチルホスフィンオキシド、ジブチルホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド、ジベンジルホスフィンオキシド、シクロオクチレンホスフィンオキシド、トリルホスフィンオキシド、ビス(メトキシフェニル)ホスフィンオキシドなどや、フェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸エチル、トリルホスフィン酸トリル、ベンジルホスフィン酸ベンジルなどや、DOPO、8-メチル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、8-フェニル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、2,6,8-トリ-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、6,8-ジシクロヘキシル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドなどや、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジトリル、ホスホン酸ジベンジル、5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサホスホリナンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのリン化合物は単独でも2種類以上混合して使用してもよい。
【0026】
また、原料として使用する上記一般式(1)で表されるリン化合物を例示すると、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-HQ)、10-[2-(ジヒドロキシナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-NQ)、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオールなどが挙げられる。これらのリン化合物は単独で使用しても2種類以上混合して使用しても良く、これらに限定されるものではない。
【0027】
ノボラック型エポキシ樹脂とは一般的にフェノール類とアルデヒド類の縮合反応生成物であるノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応して得られる多官能のノボラック型エポキシ樹脂であり、下記一般式(3)で表される。
使用されるフェノール類としてはフェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、スチレン化フェノール、クミルフェノール、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ナフタレンジオール、ビスフェノールAなどが挙げられ、アルデヒド類としてはホルマリン、ホルムアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどが挙げられる。また、アルデヒド類の代わりにキシリレンジメタノール、キシリレンジクロライド、ビスクロロメチルナフタレン、ビスクロロメチルビフェニルなどを使用したアラルキル型フェノール樹脂も本発明ではノボラック型フェノール樹脂に含む。
【0028】
【化2】
上記一般式(3)において、Zはベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、またはビスフェニル構造から選ばれる芳香族環基であり、これらの芳香族環基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数7~12のアラルキルオキシ基を有してもよい。Xは2価の脂肪族環状炭化水素基または下記式(3a)もしくは式(3b)で表される架橋基である。nは1~10の数である。mは1~3の整数である。
【0029】
【化3】
上記式(3a)および(3b)において、R
3、R
4、R
5およびR
6はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基を示す。Bはベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環から選ばれる芳香族環基であり、これらの芳香族環基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数7~12のアラルキルオキシ基を有してもよい。
【0030】
上記2価の脂肪族環状炭化水素基の炭素数は5~15が好ましく、5~10がより好ましい。ここで、2価の脂肪族環状炭化水素基とは、ジシクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニルノルボナ-2-エン、α-ピネン、β-ピネン、リモネン等の不飽和環状脂肪族炭化水素化合物から誘導される2価の脂肪族環状炭化水素基が挙げられる。
【0031】
一般的なノボラック型エポキシ樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エポトートYDPN-638(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、jER152、jER154(以上、三菱ケミカル株式会社製)、エピクロンN-740、N-770、N-775(以上、DIC株式会社製)など)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エポトートYDCN-700シリーズ(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、エピクロンN-660、N-665、N-670、N-673、N-695(以上、DIC株式会社製)、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-104S(以上、日本化薬株式会社製)など)、アルキルノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エポトートZX-1071T、ZX-1270、ZX-1342(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、芳香族変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エポトートZX-1247、GK-5855、TX-1210、YDAN-1000(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エポトートZX-1142L(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(例えば、ESN-155、ESN-185V、ESN-175(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂(例えば、ESN-300シリーズのESN―355、ESN-375(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(例えば、ESN-400シリーズのESN-475V、ESN-485(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂(例えば、NC-3000、NC-3000H(以上、日本化薬株式会社製)など)、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂(例えば、EPPN-501、EPPN-502(以上、日本化薬株式会社製)など)、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(例えば、エピクロンHP7200、HP-7200H(以上、DIC株式会社製)など)などが挙げられる。しかしながら通常、これらのエポキシ樹脂は本発明で使用するノボラック型エポキシ樹脂の特徴である特定の分子量分布を有していないし、平均官能基数も範囲外である。
【0032】
本発明で使用する特定の分子量分布と特定の平均官能基数を有するノボラック型エポキシ樹脂を得るにはフェノール類とアルデヒド類を酸触媒存在下で反応することによって得られたノボラック型フェノール樹脂をその出発原料とする。これら反応方法は例えば、特開2002-194041号公報、特開2007-126683号公報、特開2013-107980号公報に示すような製造方法によって得た公知方法であっても良く、特に限定はされない。
これら得られた出発原料は、蒸留等の各種手法によって2核体を中心とする低分子量を除去または含有率を10面積%以下まで低減した後、さらに酸触媒存在下で再度アルデヒド類と縮合を行うことによって2核体を減らしながら、かつ7核体以上の比率を増やす調整を行う。ノボラック型エポキシ樹脂はこのノボラック型フェノール樹脂の分子量分布を反映してエポキシ化されるため、得られたノボラック型エポキシ樹脂においても各核体の含有率は同様に調整されたものが得られる。
なお、本明細書において、ノボラック型エポキシ樹脂の各核体の「含有率」はGPC測定による「面積%」のことであり、含有率または面積%と表現する場合がある。また、7核体以上の含有率と3核体の含有率を、それぞれ単に「H」、「L」と表現する場合がある。ここで、上記一般式(3)で表されるノボラック型エポキシ樹脂において、3核体とはnが2の場合であり、7核体以上とはnが6以上の場合である。
【0033】
ノボラック型フェノール樹脂の製造においては、フェノール類とアルデヒド類のモル比がアルデヒド類1モルに対するフェノール類のモル比を調整して製造される。一般的にフェノール類の使用モル比が大きい場合には2核体、次いで3核体が多く生成され、フェノール類の使用モル比が小さくなるに連れて多核体である高分子量が多く生成して、逆に2核体や3核体は減少してくる。
【0034】
低分子を除去しない一般的なノボラック型フェノール樹脂において、官能基数を高める場合は先のアルデヒド類1モルに対するフェノールのモル比を小さくして縮合度を高めるのが一般的である。この製法の場合は得られたノボラック型フェノール樹脂の分子量分布の分散(Mw/Mn)は広くなり、数平均分子量(Mn)の値は残存する2核体量の影響によって値が低くなる。一方、GPC測定による7核体以上の含有率(面積%)の増加が著しく大きくなる。またこのノボラック型フェノール樹脂をエポキシ化した場合は、エポキシ当量(E)も高くなるため、平均官能基数(Mn/E)の値は小さくなる傾向にあり、高耐熱性を目指すエポキシ樹脂としては適当ではなかった。
【0035】
一方、高電圧回路上でのトラッキングについては、回路表層の汚染物質によって発生するシンチレーションによって炭化層(チャー)が形成され、この導電層により絶縁破壊に至るとされている。ここでのチャー形成は有機リン化合物によるハロゲンフリー難燃化メカニズムと相反する要求項目である。即ち難燃化のためにはリン化合物を多く使用してチャーを多く形成したいが、反面では耐トラッキング性を高めるべくチャーの形成を促進させるリン化合物の使用量を抑える必要がある。そのため双方を満足させるためには他の難燃性を促進するシステムが不可欠であった。
【0036】
難燃性において、ノボラック型エポキシ樹脂の2核体は2官能体であるため硬化物中での架橋構造への関与は弱く、着火時の熱分解性の高さから難燃性への悪影響が懸念されている。よって難燃性を促進させるシステムの一つとして2核体を中心とする低分子を除去し、さらに再度縮合させることが難燃性に効果的である。
【0037】
一方、難燃性を促進する他のシステムとして、可燃性分解ガスの外部への発生を抑える方法も知られている。そのためには硬化物の高温下におけるゴム状領域での弾性率を低く抑える方が好ましいとされている。但し、高耐熱性硬化物ではその架橋密度が高い故に高温弾性率が高くなる傾向があり、燃焼後に形成される不燃性のチャー付近が硬脆くなって難燃性を悪化する事例が知られていた。
【0038】
よって上記双方の難燃性を促進するメカニズムを熟慮して、2核体を減らしつつも高核体を増やし過ぎない方法で多官能化を図る方法について鋭意検討した結果、2核体を減らした後に3核体を主体とした原料を出発原料として再縮合を行い、多官能化を図る方法が難燃性に有効であることを見出した。即ち7核体以上の含有率(H)に対する3核体の含有率(L)の比(L/H)が0.6~4.0の範囲となるノボラック型エポキシ樹脂をリン含有エポキシ樹脂の原料として使用することでリン化合物の使用量を低減しても樹脂自体から難燃性効果を十分引き出すことができる。
【0039】
上記方法によって得られるリン含有エポキシ樹脂を使用した場合は、リン含有エポキシ樹脂組成物の硬化物の高温域での弾性率を低く抑えることができ、さらに難燃性も向上される。具体的には動的粘弾性測定装置(DMA:昇温速度2℃/分、周波数1Hzの測定条件)での実測において、220℃以上で安定化した貯蔵弾性率の値が下がることにより燃焼試験片の燃焼部が発泡して消火が促進される。弾性率の値としては150MPa以下、さらには50MPa以下に調整されることが好ましい。7核体以上の含有率が増えると、硬化物の架橋密度は高まり燃焼部周辺のチャーが硬脆くなり難燃性は悪化する。
【0040】
本発明で使用するリン含有エポキシ樹脂の原料であるノボラック型エポキシ樹脂において、その原料であるノボラック型フェノール樹脂から2核体を中心に除去または低減する方法としては、各種溶媒の溶解性差を利用する方法やアルカリ水溶液に溶解して除去する方法、薄膜蒸留により除去する方法などが公知であり、これら何れの分離方法を使用してもよい。
【0041】
上記の方法によって2核体を除去または低減したノボラック型フェノール樹脂は再度アルデヒド類との縮合によって分子量分布の調整を行う。再縮合方法としてはトルエンやイソブチルケトンなどの有機溶剤に溶解した後に酸触媒によるアルデヒド類との反応、または無溶剤の溶融状態下において同様の反応を行う方法でもよい。酸触媒には塩酸、硫酸、ホウ酸などの無機酸類、蓚酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの有機酸類を単独、または混合して使用してもよい。またアルデヒド類は、一般に公知のものが使用できる。例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、クロロアセトアルデヒド、ジクロロアセトアルデヒド、ブロモアセトアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、グリオキザール、アクロレイン、メタクロレインなどが挙げられ、フェノールノボラックの製造においてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。この場合、アルデヒド類は1種または2種以上の混合物を使用してもよい。アルデヒド類などの仕込み方法は、酸触媒存在下にて十分な冷却設備を備えた状態で原料と共に一括して仕込む方法、または反応の進行に伴う発熱状況を確認しながら分割で加えていく方法など、設備に応じた方法で実施が可能である。
【0042】
再縮合で使用するアルデヒド使用量はノボラック型フェノール樹脂の仕込み量をノボラック型フェノール樹脂の実平均分子量で除して得られたモル数に対して、0.06~0.30倍で使用することが好ましく、より好ましくは0.08~0.15倍、さらに0.10~0.12倍で反応した場合がノボラック型エポキシ樹脂として最も適した核体の調整が可能となる。なお、ここでの「実平均分子量」とはGPC測定から得られる各核体の面積%に各理論分子量を掛けた後のこれら積算平均化した分子量である。これが0.06倍未満の場合はリン含有エポキシ樹脂の平均官能基数が不足して、200℃以上の耐熱性を得ることができない。また0.30倍よりも多い場合は同様に平均官能基数が過剰に高まり、硬化物の高弾性化によって十分な難燃性が得られない。
【0043】
このようにして得られたノボラック型フェノール樹脂のエポキシ化については公知の方法で行うことが可能である。例えば、ノボラック型フェノール樹脂の水酸基のモル数に対してエピハロヒドリンを3~5倍モルを使用し、100~200torr(13.3~26.7kPa)の減圧下で60~70℃で2時間かけて苛性ソーダ水溶液を滴下しながら反応を行うことができる。
【0044】
これら方法によって得られたノボラック型エポキシ樹脂は、GPCを使用した測定において7核体以上の面積%(H)に対する3核体の面積%(L)の比(L/H)は0.6~4.0の範囲であり、かつ数平均分子量(Mn)をエポキシ当量(E)で除した平均官能基数(Mn/E)は3.8~4.8の範囲である。
ここで(L/H)が4.0を超えると3核体が多くなり、平均官能基数が3.8未満となり、リン含有エポキシ樹脂を使用した硬化物の耐熱性が下がり200℃以上のTgを得ることができない。一方(L/H)が0.6未満の場合は7核体以上が多くなり、2核体も少なくなるため、硬化物が硬脆くなり、難燃性が大きく損なわれる。
【0045】
一般式(1)および/または一般式(2)で表されるリン化合物と上記ノボラック型エポキシ樹脂とからリン含有エポキシ樹脂を得る反応は公知の方法で行われる。例えば、特許文献2に記載のように、一般式(1)と一般式(2)の合成を行った後にノボラック型エポキシ樹脂などを加えて均一化した後、トリフェニルホスフィンなどを触媒として添加して150℃の下で反応させる方法でもよい。
【0046】
また、この反応には時間短縮や反応温度低減のために触媒を使用してもよい。使用触媒は特に制限されずエポキシ樹脂の合成に通常使用されているものが使用可能である。例えば、ベンジルジメチルアミンなどの第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィンなどのホスフィン類、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩類、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類など各種触媒が使用可能であり、単独で使用しても2種類以上併用してもよく、これらに限定されるものではない。また、分割して数回に分けて使用してもよい。
【0047】
ここでの触媒量は特に限定されないが、リン含有エポキシ樹脂(原料のノボラック型エポキシ樹脂とリン化合物の合計量)に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。触媒量が多いと場合によってはエポキシ基の自己重合反応が進行するため、樹脂粘度が高くなり好ましくない。またここでの反応を途中停止させた予備反応エポキシ樹脂とする場合は、その触媒量を0.1質量%以下とすることで、容易に反応率を60~90%に調整することができる。
【0048】
一般式(1)や一般式(2)で表されるリン化合物とノボラック型エポキシ樹脂を反応する際に、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で各種エポキシ樹脂変性剤を併用してもよい。変性剤としてはビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、テトラブチルビスフェノールA、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジメチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシスチルベン類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールノボラック樹脂、テルペンフェノール樹脂、重質油変性フェノール樹脂、臭素化フェノールノボラック樹脂などの種々のフェノール類や、種々のフェノール類と、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂や、アニリン、フェニレンジアミン、トルイジン、キシリジン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、ジアミノジフェニルプロパン、ジアミノジフェニルケトン、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ビス(アミノフェニル)フルオレン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノベンズアニリド、ジアミノビフェニル、ジメチルジアミノビフェニル、ビフェニルテトラアミン、ビスアミノフェニルアントラセン、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビスアミノフェノキシフェニルエーテル、ビスアミノフェノキシビフェニル、ビスアミノフェノキシフェニルスルホン、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、ジアミノナフタレンなどのアミン化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではなく2種類以上併用してもよい。
【0049】
また、反応には不活性溶媒を使用してもよい。具体的にはヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ジメチルブタン、ペンテン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種炭化水素や、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、メトキシプロパノールなどの各種アルコールや、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類や、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用できるが、これらに限定されるものではなく2種類以上混合して使用してもよい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、従来の公知硬化剤によって硬化できる。硬化剤としては、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤またはその他の硬化剤などの通常使用するものが挙げられるが、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用してもよい。これらのうち、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化剤としては耐熱性を付与する点でジシアンジアミド硬化剤が好ましい。また吸水率や長期熱安定性を付与する点ではフェノール硬化剤が好ましい。
【0051】
エポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、全エポキシ樹脂のエポキシ基1モルに対して、硬化剤の活性水素基を0.2~1.5モルの範囲である。エポキシ基1モルに対して活性水素基が、0.2モル未満または1.5モルを超える場合は、硬化が不完全になり良好な硬化物性が得られない恐れがある。0.3~1.5モルが好ましく、0.5~1.5モルがより好ましく、0.8~1.2モルさらに好ましい。例えば、ジシアンジアミドを使用した場合はエポキシ基1モルに対して硬化剤の活性水素基を0.4~0.7モル、好ましくは、0.4~0.6モル配合し、フェノール樹脂系硬化剤やアミン系硬化剤を使用した場合はエポキシ基に対して活性水素基をほぼ等モル配合し、酸無水物系硬化剤を使用した場合はエポキシ基1モルに対して酸無水物基を0.5~1.2モル、好ましくは、0.6~1.0モル配合する。
【0052】
本発明でいう活性水素基とはエポキシ基と反応性の活性水素を有する官能基(加水分解などにより活性水素を生ずる潜在性活性水素を有する官能基や、同等な硬化作用を示す官能基を含む。)のことであり、具体的には、酸無水物基やカルボキシル基やアミノ基やフェノール性水酸基などが挙げられる。なお、活性水素基に関して、1モルのカルボキシル基やフェノール性水酸基は1モルと、アミノ基(NH2)は2モルと計算される。また、活性水素基が明確ではない場合は、測定によって活性水素当量を求めることができる。例えば、エポキシ当量が既知のフェニルグリシジルエーテルなどのモノエポキシ樹脂と活性水素当量が未知の硬化剤を反応させて、消費したモノエポキシ樹脂の量を測定することによって、使用した硬化剤の活性水素当量を求めることができる。
【0053】
フェノール系硬化剤としては、具体例には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールK、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールZ、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビスフェノールTMC、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジフェノール、4,4‘-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)などのビスフェノール類や、カテコール、レゾルシン、メチルレゾルシン、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン、ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、モノ-t-ブチルハイドロキノン、ジ-t-ブチルハイドロキノンなどジヒドロキシベンゼン類や、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシメチルナフタレン、ジヒドロキシメチルナフタレン、トリヒドロキシナフタレンなどヒドロキシナフタレン類や、LC-950PM60(Shin-AT&C社製)などのリン含有フェノール硬化剤や、ショウノールBRG-555(アイカ工業株式会社製)などのフェノールノボラック樹脂、DC-5(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)などのクレゾールノボラック樹脂、芳香族変性フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、レヂトップTPM-100(群栄化学工業株式会社製)などのトリスヒドロキシフェニルメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂などのフェノール類、ナフトール類、ビフェノール類および/またはビスフェノール類とアルデヒド類との縮合物、SN-160、SN-395、SN-485(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)などのフェノール類、ナフトール類、ビフェノール類および/またはビスフェノール類とキシリレングリコールとの縮合物、フェノール類、ナフトール類、ビフェノール類および/またはビスフェノール類とイソプロペニルアセトフェノンとの縮合物、フェノール類、ナフトール類、ビフェノール類および/またはビスフェノール類とジシクロペンタジエンとの反応物、フェノール類、ナフトール類、ビフェノール類および/またはビスフェノール類とビフェニル系縮合剤との縮合物などのいわゆる「ノボラック型フェノール樹脂」といわれるフェノール化合物や、PS-6313(群栄化学工業社株式会社製)などのトリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物などが挙げられる。入手容易さの観点から、フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型ノボラック樹脂、芳香族変性フェノールノボラック樹脂などが好ましい。
【0054】
「ノボラック型フェノール樹脂」の場合、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、アミルフェノール、ノニルフェノール、ブチルメチルフェノール、トリメチルフェノール、フェニルフェノールなどが挙げられ、ナフトール類としては、1-ナフトール、2-ナフトールなどが挙げられ、その他、上記ビフェノール類やビスフェノール類が挙げられる。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロルアルデヒド、ブロムアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、ピメリンアルデヒド、セバシンアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、サリチルアルデヒド、フタルアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。
ビフェニル系縮合剤としてビス(メチロール)ビフェニル、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、ビス(エトキシメチル)ビフェニル、ビス(クロロメチル)ビフェニルなどが挙げられる。
【0055】
酸無水物系硬化剤としては、具体的には、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、メチルナジック酸などが挙げられる。
【0056】
アミン系硬化剤としては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジシアンジアミドや、ダイマー酸などの酸類とポリアミン類との縮合物であるポリアミドアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。
【0057】
その他の硬化剤として、具体的には、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスフォニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、イミダゾール類とトリメリット酸、イソシアヌル酸、またはホウ酸などとの塩であるイミダゾール塩類、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどのアミン類、トリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩類、ジアザビシクロ化合物、ジアザビシクロ化合物とフェノール類やフェノールノボラック樹脂類などとの塩類、3フッ化ホウ素とアミン類やエーテル化合物などとの錯化合物、芳香族ホスホニウムまたはヨードニウム塩や、ヒドラジッド類や、酸性ポリエステル類などが挙げられる。また、硬化時にフェノール性水酸基が発生するオキサジン樹脂も硬化剤として使用可能である。オキサジン樹脂としては、具体的には、ビスフェノールF型ベンゾオキサジン化合物(例えば、YBZ-2013(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、F-a型(四国化成工業株式会社製)、BF-BXZ(小西化学工業株式会社製)、LMB6493(ハンツマン社製)など)、ビスフェノールA型ベンゾオキサジン化合物(例えば、XU3560CH(ハンツマン社製)など)、ビスフェノールS型ベンゾオキサジン化合物(例えば、BS-BXZ(小西化学工業株式会社製)など)、フェノールフタレイン型ベンゾオキサジン化合物(例えば、LMB6490(ハンツマン社製)など)、フェノールノボラック型ベンゾオキサジン化合物(例えば、YBZ-2213(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、上記リン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を併用してもよい。併用できるエポキシ樹脂としては、例えば、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルアミン化合物、ポリグリシジルエステル化合物、脂環式エポキシ化合物、その他変性エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらのエポキシ樹脂は単独または2種類以上併用してもよい。エポキシ樹脂を併用する場合、全エポキシ樹脂の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。併用するエポキシ樹脂が多すぎると、耐熱性と難燃性の両立という効果が得られない恐れがある。
【0059】
併用できるエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスチオエーテル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、芳香族変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化性を調整するために公知の反応遅延剤を使用することができる。例えば、ホウ酸、ホウ酸エステル、リン酸、アルキルリン酸エステル、p-トルエンスルホン酸などが使用可能である。
ホウ酸エステルとしては、トリブチルボレ-ト、トリメトキシボロキシン、ホウ酸エチル、エポキシ-フェノール-ホウ酸エステル配合物(例えば、キュアダクトL-07N(四国化成工業株式会社製)など)などが挙げられ、アルキルリン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチルなどが挙げられる。
反応遅延剤は単独でも複数を混合して使用してもよいが、使用量の調整のしやすさから単独が好ましく、とりわけホウ酸が少量の使用でその効果が最も良好である。使用の際はメタノールやブタノール、2-プロパノールなどのアルコール系溶剤に溶解して5~20質量%の濃度で使用することができる。特に硬化剤がジシアンジアミドの場合は、硬化剤1モルに対してホウ酸0.1~0.5モルが好ましく、0.15~0.35モルが、遅延効果と耐熱性を得る上でより好ましい。また硬化剤がフェノール系硬化剤の場合は、リン含有エポキシ樹脂に対して0.1~5質量部が好ましく、0.1~1質量部が耐熱性を得る上でより好ましい。特に、ホウ酸使用量が5質量部以上に増えると、硬化性を調整する上でイミダゾールなどの反応促進剤の量を増やす必要があり、硬化物での絶縁信頼性を著しく損なうために好ましくない。
【0061】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類や、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7などの第3級アミン類や、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボランなどのホスフィン類や、オクチル酸スズなどの金属化合物が挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対して0.02~5.0質量部が必要に応じて使用される。硬化促進剤を使用することにより、硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮することができる。
【0062】
エポキシ樹脂組成物は、粘度調整用として有機溶剤または反応性希釈剤も使用することができる。
【0063】
有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシジエチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類や、アセトン、メチルエチルケトンメチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類や、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルジグリコール、パインオイルなどのアルコール類や、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、ベンジルアルコールアセテートなどの酢酸エステル類や、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの安息香酸エステル類や、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類や、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトールなどのカルビトール類や、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類や、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N-メチルピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
反応性希釈剤としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテルなどの単官能グリシジルエーテル類や、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルなどの二官能グリシジルエーテル類や、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの多官能グリシジルエーテル類や、ネオデカン酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル類や、フェニルジグリシジルアミン、トリルジグリシジルアミンなどのグリシジルアミン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
これらの有機溶媒または反応性希釈剤は、単独または複数種類を混合したものを、不揮発分として90質量%以下で使用することが好ましく、その適正な種類や使用量は用途によって適宜選択される。例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノールなどの沸点が160℃以下の極性溶媒であることが好ましく、その使用量は不揮発分で40~80質量%が好ましい。また、接着フィルム用途では、例えば、ケトン類、酢酸エステル類、カルビトール類、芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどを使用することが好ましく、その使用量は不揮発分で30~60質量%が好ましい。
【0066】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填材を使用することができる。具体的には溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、マイカ、クレー、カオリン、ベーマイト、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、炭素、ガラス粉末、シリカバルーンなどの無機充填材が挙げられるが、顔料などを配合してもよい。無機充填材の使用目的としては一般的には耐衝撃性の向上が挙げられるが、熱膨張による基板の反り対策として寸法安定性にも寄与する。また水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物は、難燃助剤として作用する他にも耐トラキング性を補足する目的でも使用してもよい。組成物のリン含有率を減らした際は、難燃性を確保する点で効果はあるが多量の使用は基板の成形加工性を大きく低下させる。特に配合量が10質量%以上でないと耐衝撃性の効果は少ないが、逆に配合量が150質量%を越えると積層板用途として必要な接着性の低下や、ドリル加工性などの他の成形加工特性が低下する恐れがある。また、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維などの繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマーなどの有機充填材も必要に応じて本発明の特性を損なわない程度に併用することもできる。
【0067】
エポキシ樹脂組成物は、特性を損ねない範囲で他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を配合してもよい。例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂、石油樹脂、インデン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0068】
また、エポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物の難燃性の向上を目的に、公知の各種難燃剤を併用することができる。併用できる難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤などが挙げられ、特にリン系難燃剤が好ましい。これらの難燃剤は単独または2種類以上を併用してもよい。
【0069】
リン系難燃剤は、無機リン系化合物、有機リン系化合物のいずれも使用できる。無機リン系化合物としては、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどのリン酸アンモニウム類、リン酸アミドなどの無機系含窒素リン化合物が挙げられる。有機リン系化合物としては、例えば、脂肪族リン酸エステル、リン酸エステル化合物、例えば、PX-200(大八化学工業株式会社製)などの縮合リン酸エステル類、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、ホスファゼンなどの有機系含窒素リン化合物などの汎用有機リン系化合物や、ホスフィン酸の金属塩の他、DOPO、DOPO-HQ、DOPO-NQなどの環状有機リン化合物や、それらをエポキシ樹脂やフェノール樹脂などの化合物と反応させた誘導体であるリン含有エポキシ樹脂やリン含有硬化剤などが挙げられる。また、リン系難燃剤を使用する場合は、水酸化マグネシウムなどの難燃助剤を併用してもよい。
【0070】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化することによって硬化物を得ることができる。硬化の際には、例えば、樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグなどの形態とし、積層して加熱加圧硬化することで積層板を得ることができる。
【0071】
エポキシ樹脂組成物を板状基板などとする場合、その寸法安定性、曲げ強度などの点で繊維状のものが好ましい充填材として挙げられる。より好ましくはガラス繊維を網目状に編み上げたガラス繊維基板が挙げられる。
【0072】
エポキシ樹脂組成物は、さらに必要に応じてシランカップリング剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤などの各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤はエポキシ樹脂組成物に対し、0.01~20質量%の範囲が好ましい。
【0073】
エポキシ樹脂組成物は、繊維状基材に含浸させることによりプリント配線板などで使用されるプリプレグを作成することができる。繊維状基材としてはガラスなどの無機繊維や、ポリエステル樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などの有機質繊維の織布または不織布を使用することができるがこれに限定されるものではない。エポキシ樹脂組成物からプリプレグを製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂組成物を溶剤で粘度調整して作成した樹脂ワニスに浸漬して含浸した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して得られるものであり、例えば、100~200℃で1~40分間加熱乾燥することができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、樹脂分30~80質量%とすることが好ましい。
【0074】
また、プリプレグを硬化するには、一般にプリント配線板を製造するときに使用される積層板の硬化方法を使用することができるが、これに限定されるものではない。例えば、プリプレグを使用して積層板を形成する場合、プリプレグを一枚または複数枚積層し、片側または両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケルなどの単独、合金、複合の金属箔を使用することができる。そして、作成した積層物を加圧加熱することでプリプレグを硬化させ、積層板を得ることができる。その時、加熱温度を160~220℃、加圧圧力を50~500N/cm2、加熱加圧時間を40~240分間とすることが好ましく、目的とする硬化物を得ることができる。加熱温度が低いと硬化反応が十分に進行せず、高いとエポキシ樹脂組成物の分解が始まる恐れがある。また、加圧圧力が低いと得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があり、高いと硬化する前に樹脂が流れてしまい、希望する厚みの硬化物が得られない恐れがある。さらに、加熱加圧時間が短いと十分に硬化反応が進行しない恐れがあり、長いとプリプレグ中のエポキシ樹脂組成物の熱分解が起こる恐れがあり、好ましくない。
【0075】
エポキシ樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様な方法で硬化することによってエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。硬化物を得るための方法としては、公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法をとることができ、注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファ一成形、圧縮成形などや、樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグなどの形態とし積層して加熱加圧硬化することで積層板とするなどの方法が好適に使用される。その際の硬化温度は通常、100~300℃の範囲であり、硬化時間は通常、1時間~5時間程度である。
【0076】
リン含有エポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物を作製し、加熱硬化により積層板を評価した結果、特定のリン化合物と、特定の分子量分布と特定の平均官能基数を有するノボラック型エポキシ樹脂とを反応して得られたリン含有エポキシ樹脂は、従来公知のリン含有エポキシ樹脂と比較して高い耐熱性と難燃性を示し、さらには耐トラッキング性も向上することが可能となり、硬化物の物性を向上することができるエポキシ樹脂組成物を提供することができた。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は質量部を表し、「%」は質量%を表す。測定方法はそれぞれ以下の方法により測定した。当量の単位はいずれも「g/eq.」である。
【0078】
エポキシ当量:JIS K 7236に準拠して測定を行った。具体的には、自動電位差滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1600ST)を用いて、溶媒としてクロロホルムを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液で滴定した。
【0079】
リン含有率:試料150mgに硫酸3mLを加え30分加熱する。室温に戻し、硝酸3.5mLおよび過塩素酸0.5mLを加えて内容物が透明または黄色になるまで加熱分解した。この液を100mLメスフラスコに水で希釈した。この試料液10mLを50mLメスフラスコに入れ、フェノールフタレイン指示薬を1滴加え、2mol/Lアンモニア水を微赤色になるまで加え、さらに、50%硫酸液2mLを加え、水を加えた。2.5g/Lのメタバナジン酸アンモニウム水溶液を5mLおよび50g/Lモリブデン酸アンモニウム水溶液5mLを加えた後、水で定容とした。室温で40分放置した後、分光光度計を使用して波長440nmの条件で水を対照として測定した。予めリン酸二水素カリウム水溶液にて検量線を作成しておき、吸光度からリン含有率を求めた。
【0080】
ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR6000 DSC6200)を使用して20℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC・Tgm(ガラス状態とゴム状態の接線に対して変異曲線の中間温度)の温度で表した。
【0081】
銅箔剥離強さおよび層間接着力:JIS C 6481、5.7に準じて測定した。層間接着力は7層目と8層目のプリプレグの間で引き剥がし測定した。
【0082】
難燃性および有炎時間:UL94(Underwriters Laboratories Inc.の安全認証規格)に準じ、垂直法により5本の試験片について試験を行い評価した。難燃性の評価はV-0、V-1、V-2で記した。有炎時間は、1回目と2回目の接炎(5本それぞれ2回ずつで計10回の接炎)後の有炎燃焼持続時間の合計時間を秒で表した。
【0083】
3核体、7核体以上、数平均分子量(Mn):GPC測定により求めた。具体的には、本体(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)にカラム(東ソー株式会社製、TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXL)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはTHFを使用して、1mL/分の流速とし、検出器はRI(示差屈折計)検出器を使用した。測定試料はサンプル0.05gを10mLのTHFに溶解し、マイクロフィルターでろ過したものを50μL使用した。データ処理は、東ソー株式会社製GPC-8020モデルIIバージョン6.00を使用した。3核体、7核体以上はピークの面積%から、Mnは標準の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製、A-500,A-1000,A-2500,A-5000,F-1,F-2,F-4,F-10,F-20,F-40)より求めた検量線より換算した。
【0084】
耐トラッキング性:JIS C 2134に準拠して測定を行った。具体的には、耐トラッキング試験器(ヤマヨ試験器有限会社製、HAT-112-3)を使用した。測定サンプル(厚さ1.6mmの積層板)を20mm×20mmに裁断加工して23±2℃、湿度50±5%で48時間の試験前調整を行った後、23±2℃、湿度50±5%の試験環境の下でサンプル厚みが3mm以上となるように2枚重ねての試験を実施。0.1%塩化アンモニウム水溶液の100滴確認を5個の試験片で実施し、その全てが合格した最大電圧値を試験結果とした。
【0085】
合成例1
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置などを備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、フェノールを1000部加えて80℃まで昇温した後、2.8部のシュウ酸2水和物を添加して撹拌溶解し、142部の37.5%ホルマリンを30分間かけて滴下した。その後、反応温度を92℃に維持して3時間反応を行った。反応終了後、110℃まで温度を上げて脱水した後、残存するフェノールを150℃、60mmHgの回収条件で約90%回収した後、5mmHgの回収条件で回収した後、さらに160℃、80mmHgの条件下で水10部を90分間かけて滴下して残存するフェノールを除去した後、溶融しているフェノールノボラック樹脂中に窒素ガスを60分間バブリングして、フェノールノボラック樹脂(N0)を得た。
得られたN0を280℃、5mmHgの薄膜蒸留器を使用して2核体の一部をさらに留出除去してフェノールノボラック樹脂(N1)を得た。得られたN1は軟化点65℃で、2核体10.8面積%、3核体52.9面積%、4核体21.8面積%、5核体8.5面積%、6核体6.0面積%、実平均分子量は355であった。
【0086】
合成例2
合成例1で得たN0を使用して300℃、5mmHgの薄膜蒸留器を使用して2核体の一部をさらに強く留出除去してフェノールノボラック樹脂(N2)を得た。得られたN2は軟化点66℃で、2核体5.9面積%、3核体58.4面積%、4核体22.9面積%、5核体8.3面積%、6核体4.6面積%、実平均分子量は356であった。
【0087】
合成例3
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、窒素ガス導入装置、減圧装置および滴下装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、合成例1で得られたN1を1000部、シュウ酸二水和物0.38部を仕込み、窒素ガスを導入しながら撹拌を行い、加熱を行って昇温した。37.5%ホルマリン13.5部を80℃で滴下を開始し30分で滴下を終了した。その後、反応温度を92℃に保ち3時間反応を行い次いで110℃まで昇温して反応生成水を系外に除去した。最後に160℃下で2時間の加温を行い、フェノールノボラック樹脂(N3)を得た。得られたN3は軟化点63℃で、2核体9.4面積%、3核体48.1面積%、7核体以上9.0面積%、Mn552であった。
【0088】
その後、同様の装置にN3を500部、エピクロルヒドリン2200部とジエチレングリコールジメチルエーテル400部を仕込み60℃で溶解し、130mmHgの減圧下で、58~62℃の温度に保ちながら、49%苛性ソーダ水溶液332部を2時間で滴下した。この間、エピクロルヒドリンは水と共沸させて、留出してくる水は順次系外へと除去した。その後、同じ条件下で2時間反応を継続した。反応終了後、5mmHg、150℃でエピクロルヒドリンを回収し、MIBK1200部を加えて生成物を溶解した。その後、10%水酸化ナトリウム水溶液70部を加えて、80~90℃で2時間反応させ、1000部の水を加えて副生した食塩を溶解し、静置して下層の食塩水を分離除去した。リン酸水溶液にて中和した後、水洗液が中性になるまで樹脂溶液を水洗し、還流脱水後、濾過して不純物を取り除いた。そして、5mmHgの減圧下、150℃に加温して、MIBKを留去して、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E1)を得た。E1のGPC測定チャートを
図1に示す。横軸は溶出時間(分)を示し、縦軸は検出強度(mV)を示す。Aで示すピークが3核体であり、Bで示すピーク群が7核体以上である。
【0089】
合成例4
N1を1000部、シュウ酸二水和物を0.63部、37.5%ホルマリンを22.5部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N4)を得た。得られたN4は軟化点69℃で、2核体8.0面積%、3核体43.7面積%、7核体以上14.2面積%、Mn574であった。その後、合成例3と同様に、N4のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E2)を得た。
【0090】
合成例5
N1を1000部、シュウ酸二水和物を1.89部、37.5%ホルマリンを67.6部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N5)を得た。得られたN5は軟化点78℃で、2核体7.2面積%、3核体31.2面積%、7核体以上30.9面積%、Mn690であった。その後、合成例3と同様に、N5のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E3)を得た。
【0091】
合成例6
N2を1000部、シュウ酸二水和物を0.63部、37.5%ホルマリンを22.5部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N6)を得た。得られたN6は軟化点70℃で、2核体5.1面積%、3核体45.8面積%、7核体以上14.4面積%、Mn589であった。その後、合成例3と同様に、N6のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E4)を得た。
【0092】
合成例7
LV-70S(群栄化学工業株式会社製フェノールノボラック樹脂、軟化点65℃、2核体1.0面積%、3核体74.7面積%、4核体18.1面積%、5核体6.2面積%、実測数平均分子量337)を1000部、シュウ酸二水和物を0.66部、37.5%ホルマリンを23.7部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N7)を得た。得られたN7は軟化点67℃で、2核体1.1面積%、3核体57.3面積%、6核体と7核体の分離は困難であり6核体以上の含有率が22.0面積%、Mn580であった。その後、合成例3と同様に、N7のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E5)を得た。
【0093】
合成例8
N1を1000部、シュウ酸二水和物を0.32部、37.5%ホルマリンを11.3部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N8)を得た。得られたN8は軟化点62℃で、2核体9.6面積%、3核体48.4面積%、7核体以上7.7面積%、Mn545であった。その後、合成例3と同様に、N8のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E6)を得た。
【0094】
合成例9
N1を1000部、シュウ酸二水和物を2.52部、37.4%ホルマリンを90.1部の仕込み以外は、合成例3と同様にしてフェノールノボラック樹脂(N9)を得た。得られたN9は軟化点84℃で2核体5.7面積%、3核体24.1面積%、7核体以上41.5面積%、Mn748であった。その後、合成例3と同様に、N9のエポキシ化を行って、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E7)を得た。
【0095】
合成例10
YDPN-638(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポキシ当量178)とYDF-170(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポキシ当量168)を1/1(質量比)で溶融混同して、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(E11)を得た。
【0096】
使用したエポキシ樹脂、硬化剤、その他の材料の略号について以下に示す。
【0097】
[エポキシ樹脂]
E1:合成例3で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量171、Mn650、3核体40.6面積%、7核体以上20.9面積%)
E2:合成例4で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量172、Mn682、3核体36.4面積%、7核体以上26.7面積%)
E3:合成例5で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量173、Mn824、3核体26.1面積%、7核体以上42.2面積%)
E4:合成例6で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量174、Mn693、3核体38.8面積%、7核体以上26.0面積%)
E5:合成例7で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量173、Mn669、3核体48.9面積%、7核体以上14.6面積%)
E6:合成例8で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量171、Mn623、3核体41.9面積%、7核体以上19.9面積%)
E7:合成例9で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、Mn858、3核体20.7面積%、7核体以上48.5面積%)
E8:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YDPN-6300、エポキシ当量175、Mn653、3核体35.2面積%、7核体以上21.8面積%)
E9:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YDPN-638、エポキシ当量178、Mn662、3核体14.7面積%、7核体以上38.6面積%)
E10:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、N775、エポキシ当量187、Mn1308、3核体6.7面積%、7核体以上71.6面積%)
E11:合成例10で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量173、Mn468、3核体12.1面積%、7核体以上19.3面積%)
E12:3官能エポキシ樹脂(三井化学株式会社製、VG-3101、エポキシ当量219)
【0098】
[硬化剤]
B1:ジシアンジアミド(日本カーバイド株式会社製、ジシアンジアミド、活性水素当量21)
B2:トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(群栄化学工業株式会社製、PS-6313、活性水素当量148)
B3:アラルキル型多価フェノール樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、NX-1723、活性水素当量152)
B4:トリスフェニルメタン型多価フェノール樹脂(明和化成工業株式会社製、MEH-7500H、活性水素当量100)
B5:フェノールノボラック樹脂(群栄化学工業株式会社製、レヂトップPSM-6358、軟化点118℃、活性水素当量106)
B6:ベンゾオキサジン樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YBZ-2213、軟化点75℃、活性水素当量217)
B7:ベンゾオキサジン樹脂(ハンツマン社製、LMB6490、軟化点98℃、活性水素当量276)
B8:ベンゾオキサジン樹脂(四国化成工業株式会社製、F-a型、軟化点61℃、活性水素当量212)
【0099】
[その他]
C1:2-エチル-4-メチルイミダゾール(硬化促進剤、四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ)
FR1:シクロホスファゼン(非ハロゲン難燃剤、株式会社伏見製薬所製、ラビトルFP-100、リン含有率13%)
FR2:水酸化マグネシウム(非ハロゲン難燃剤、充填剤、協和化学工業株式会社製、キスマ5、平均粒子径:約0.8~1.0μm)
【0100】
実施例1
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCA(三光株式会社製、DOPO)100部とトルエン185部を仕込み、80℃で加温溶解した。その後、1,4-ナフトキノン(NQ)62.2部を反応熱による昇温に注意しながら分割投入した。このときNQとDOPOのモル比(NQ/DOPO)は0.85であった。この反応後、エポキシ樹脂E1を627部仕込み、窒素ガスを導入しながら撹拌を行い、130℃まで加熱を行って溶解した。トリフェニルホスフィン(TPP)を0.08部添加して150℃で4時間反応した後、メトキシプロパノールを42部投入して140℃でさらに2時間反応を行って、リン含有エポキシ樹脂(PE1)を得た。
【0101】
実施例2~8
表1の配合量(部)で配合し、実施例1と同様の操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。リン含有エポキシ樹脂の物性値を表1に示した。なお、「反応率」は、実測エポキシ当量から計算で求めた原料リン化合物の消費率を表し、「L/H」は使用したフェノールノボラック型エポキシ樹脂の7核体以上の含有率(面積%、H)に対する3核体の含有率(面積%、L)の比を表し、「Mn/E」は平均官能基数を表す。
【0102】
参考例1~6
表2の配合量(部)で配合し、実施例1と同様の操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。リン含有エポキシ樹脂の物性値を表2に示した。
【0103】
【0104】
【0105】
実施例9
リン含有エポキシ樹脂(PE1)を100部、硬化剤(B1)を3.7部、10%ホウ酸メタノール溶液を0.5部配合した。配合の際にエポキシ樹脂はメチルエチルケトンで溶解したワニスの状態で仕込み、硬化剤はメトキシプロパノールとN,N-ジメチルホルムアミドの混合溶媒に溶解して配合し、メチルエチルケトン、メトキシプロパノールにて不揮発分を50%となるように調整した。その後、このワニスでのゲルタイムが171℃下で150~350秒になるように、硬化促進剤(2E4MZ)のメトキシプロパノール溶液を使用して調整を行って、リン含有エポキシ樹脂組成物ワニスを得た。
【0106】
得られたリン含有エポキシ樹脂組成物ワニスを、ガラスクロス(日東紡績株式会社製、WEA 7628 XS13、0.18mm厚)に含浸した後、ガラスクロスを150℃の全排気乾燥オーブンで8分間乾燥してプリプレグを得た。得られたプリプレグは8枚を重ね、上下に銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC、35μm厚)をさらに重ね、真空プレス機にて、130℃×15分の予備加熱の後、190℃×80分の硬化温度で2MPaのプレス成形を行い約1.6mm厚の積層板を得た。得られた積層板のTg、難燃性、耐トラッキング性、銅箔剥離強さ、層間接着力の試験を行い、その結果を表3に示す。
【0107】
実施例10~16
表3の配合量(部)で配合し、実施例9と同様の操作を行い、積層板を得た。実施例9と同様の試験を行い、その結果を表3に示す。
【0108】
比較例1~6
表4の配合量(部)で配合し、実施例9と同様の操作を行い、積層板を得た。実施例9と同様の試験を行い、その結果を表4に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
実施例17~28および比較例7~9
表5の配合量(部)で配合し、実施例9と同様の操作を行い、リン含有エポキシ樹脂組成物ワニスを得た後、ホモディスパーを使用して、FR1やFR2を5000rpmのせん断撹拌をしながら分割投入し、約10分間の均一分散を行った。硬化温度条件を210℃×80分に変更した以外は実施例9と同様の操作を行い、積層板試験片を得た。実施例9と同様の試験を行い、その結果を表5に示す。
【0112】
【0113】
従来公知の分子量分布や官能基数であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂を使用した比較例に比べて、本発明のリン含有エポキシ樹脂を使用した実施例の方がTgは200℃以上の高耐熱を与え、難燃性もV-0を保持しつつ、耐トラッキング性でも優位性が見られ、比較例では、Tgや難燃性、耐トラッキング性、接着性の悪化が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、従来のリン含有エポキシ樹脂では得られないTgが200℃以上の耐熱性と難燃性を両立させ、さらに耐トラッキング性が良好となる硬化物を提供することが可能となった。よって、本発明のエポキシ樹脂組成物は、銅張積層板、フィルム材、樹脂付き銅箔などの電子回路基板材料、また封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗装材料など電子部品材料として広く利用可能である。