(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】非水系二次電池用電極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20231220BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231220BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020568607
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003508
(87)【国際公開番号】W WO2020158885
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019017325
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】住友 威史
(72)【発明者】
【氏名】岡林 善司
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻理
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 寛明
(72)【発明者】
【氏名】東海 旭宏
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 雅仁
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199670(JP,A)
【文献】特開2018-046011(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン
及びカーボンナノチュー
ブからなる群より選択される少なくとも1種を含む炭素材料と、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下の一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料の少なくとも1種を得ることと、
前記修飾された炭素材料の少なくとも1種と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子とを接触させること、とを含む非水系二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記炭素材料と前記一電子酸化剤との接触を、ドナー数が30以下である溶媒中で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一電子酸化剤は、フッ素系アニオンを含む塩である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一電子酸化剤は、カルボカチオン及びアミニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩である請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一電子酸化剤は、トリアリールメチルカチオンを含む塩である請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子は、
体積基準による累積粒度分布における50%粒径D
50の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径D
SEMに対する比D
50/D
SEMが1以上6以下であって、
組成にニッケルを含み層状構造を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記修飾された炭素材料は、修飾されたグラフェン及び修飾されたカーボンナノチューブを含む請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
グラフェンと前記一電子酸化剤とを接触させて修飾されたグラフェンを得ることと、カーボンナノチューブと前記一電子酸化剤と接触させて修飾されたカーボンナノチューブを得ることと、前記修飾されたグラフェン及び前記修飾されたカーボンナノチューブを混合して前記修飾された炭素材料を得ることを含む請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
グラフェンと前記一電子酸化剤とを接触させて修飾されたグラフェンを得ることと、カーボンナノチューブと前記一電子酸化剤と接触させて修飾されたカーボンナノチューブを得ることと、前記修飾されたグラフェンと、前記修飾されたカーボンナノチューブと、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子とを接触させることを含む請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
一電子酸化剤によって修飾されたグラフェンと、一電子酸化剤によって修飾されたカーボンナノチューブと、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子とを含む非水系二次電池用電極活物質。
【請求項11】
前記修飾されたグラフェン及び前記修飾されたカーボンナノチューブが、前記アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の表面に配置されてなる請求項10に記載の非水系二次電池用電極活物質。
【請求項12】
前記一電子酸化剤は、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下である請求項10又は11に記載の非水系二次電池用電極活物質。
【請求項13】
前記修飾されたグラフェンの前記修飾されたカーボンナノチューブに対する含有比が、質量基準で1/100以上100/1以下である請求項10から12のいずれか1項に記載の非水系二次電池用電極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用電極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の大型動力機器用途の非水系電解質二次電池には、高い出力特性が求められている。高い出力特性を得るには、電極活物質層の電気伝導性が重要であるが、実用化されている電極活物質では充分な電気伝導性を得ることが困難な場合がある。一般に電極活物質層には、電極活物質に加えてアセチレンブラック等の導電助剤が混合されて電気伝導性の向上が試みられているが、改良の余地が残されている。
【0003】
上記に関連して、ナノ粒子サイズの活物質と酸化グラフェンとを混合した後、酸化グラフェンを還元して得られる二次粒子である正極活物質-グラフェン複合体粒子が提案されている(例えば、国際公開第2014/115670号参照)。
【0004】
また、グラフェンの電気伝導性を向上させる方法として、グラフェンに一電子酸化剤をドーピングする方法が知られている(例えば、国際公開第2017/141975号参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る一態様は、耐久性及び出力特性に優れる非水系二次電池を構成可能な電極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。第一態様は、グラフェン、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む炭素材料と、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下の一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料の少なくとも1種を得ることと、前記修飾された炭素材料の少なくとも1種と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子とを接触させること、とを含む非水系二次電池用電極活物質の製造方法である。
【0007】
第二態様は、一電子酸化剤によって修飾されたグラフェンと、一電子酸化剤によって修飾されたカーボンナノチューブと、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物とを含む非水系二次電池用電極活物質である。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る第一態様によれば、耐久性及び出力特性に優れる非水系二次電池を構成可能な電極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】分散物Aに含まれるグラフェンの走査型電子顕微鏡(SEM)画像の一例である。
【
図2】分散物Bに含まれるグラフェンのSEM画像の一例である。
【
図3】分散物Bに含まれるグラフェンのX線光電子分光分析装置(XPS)結果の一例である。
【
図4】アルカリ金属-遷移金属複合酸化物のSEM画像の一例である。
【
図5】アルカリ金属-遷移金属複合酸化物のSEM画像の一例である。
【
図6】実施例1におけるグラフェンが付着したアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子のSEM画像の一例である。
【
図7】比較例1におけるグラフェンが付着したアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子のSEM画像の一例である。
【
図8】実施例2におけるグラフェンが付着したアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子のSEM画像の一例である。
【
図9】比較例2におけるグラフェンが付着したアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子のSEM画像の一例である。
【
図10】分散物Cに含まれるカーボンナノチューブ(CNT)のSEM画像の一例である。
【
図11】分散物Dに含まれるカーボンナノチューブ(CNT)のSEM画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水系二次電池用電極活物質の製造方法等を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水系二次電池用電極活物質の製造方法等に限定されない。
【0011】
非水系二次電池用電極活物質の製造方法
非水系二次電池用電極活物質の製造方法は、グラフェン、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む炭素材料と、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下の一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料の少なくとも1種を得る第一工程と、前記修飾された炭素材料の少なくとも1種と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子(以下、単に「複合酸化物粒子」ともいう)とを接触させる第二工程とを含み、必要に応じて分離工程、精製工程等のその他の工程を更に含んでいてもよい。
【0012】
所定の炭素材料と所定の酸化還元電位を有する一電子酸化剤とを接触させることで、一電子酸化剤によって修飾された炭素材料が得られる。修飾された炭素材料の一態様は、例えば、一電子酸化剤によって電子が引き抜かれて正孔が形成された炭素材料と、一電子酸化剤に由来するアニオンとを含み、正孔が形成された炭素材料がアニオンによって電荷補償された状態と考えられる。すなわち、修飾された炭素材料は、正孔ドープ炭素材料と、それと電荷対を形成するアニオンとを含んでいてよい。修飾された炭素材料は、アニオンによって炭素材料の周囲が保護されていることで安定性が向上すると考えられる。また、炭素材料を修飾しているアニオンによって分散媒への親和性が向上することにより、溶媒中での分散性が向上し、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子への炭素材料の付着ムラを低減することができると考えられる。これにより、非水系二次電池を構成する場合に、充放電時のアルカリ金属-遷移金属複合酸化物からの金属の溶出を抑制することができ、非水系二次電池の耐久性が向上すると考えられる。また、炭素材料の付着ムラが低減されることにより電極活物質としての電気伝導性が向上し、非水系二次電池の出力特性が向上すると考えられる。
【0013】
製造方法に用いられる炭素材料は、グラフェン、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む。グラフェンとしては、一電子酸化剤によって修飾されたグラフェンを生成可能な材料であればよく、グラフェン、グラファイト、酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、膨張黒鉛等の層間化合物、ABC積層のグラファイト等のグラフェン前駆体等を例示することができる。グラフェンの形態は、シート状、薄片状等であってよく、ナノ粒子、フレーク状粒子等の薄片状粒子であってよい。なお、グラフェンとは一般的には1原子厚みのシート状物質(単層グラフェン)を意味するが、本明細書におけるグラフェンは、単層グラフェンに加えて、複数の単層グラフェンが分子間力で積層したシート状物質(グラファイト)をも包含するものとする。積層数としては約100層程度までである。
【0014】
グラフェンの平均径は、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの累積50%に対応する粒径である体積平均径として求められる。グラフェンの平均径は、例えば、300nm以上であってよく、好ましくは1000nm以上、より好ましくは2μm以上であり、また例えば100μm以下であってよく、好ましくは50μm以下である。
【0015】
グラフェンの比表面積は、例えば、20m2/g以上1000m2/g以下であってよく、好ましくは100m2/g以上700m2/g以下である。比表面積は、例えば、窒素ガスを用いてBET法により測定される。
【0016】
グラフェンはその組成に酸素を含んでいてもよい。グラフェンが組成に酸素を含む場合、その酸素組成は例えば、10atomic%以下であってよく、好ましくは7atomic%以下、より好ましくは3atomic%以下である。またグラフェンの酸素組成は例えば、0.1atomic%以上であってよく、好ましくは0.5atomic%以上である。グラフェンの酸素組成が、前記範囲内であると十分な電気伝導性を付与することができ、また充放電時にグラフェンに含まれる酸素と電解液とが反応することを抑制することができる。なお、グラフェンの酸素組成は、X線光電子分光分析装置(XPS)によって測定される。
【0017】
グラフェンは市販品から選択されてもよく、公知の方法で製造されるものであってもよい。例えばグラフェンは、エピタキシャル成長、グラファイト酸化物の還元、金属・炭素溶融物からの生成等で製造することができる。また、酸化グラフェンは改良ハマーズ法等の公知の方法で調製することができる。また酸化グラフェンを熱処理することで還元されたグラフェンを調製することができる。
【0018】
カーボンナノチューブ(CNT)は、グラフェンのシートを筒状に丸めた形状を有しており、1つのグラフェンシートから構成される単層カーボンナノチューブであっても、複数のグラフェンシートから構成される多層カーボンナノチューブであってもよい。またカーボンナノチューブの外形は中空のチューブ、中実の繊維等のいずれであってもよい。カーボンナノチューブの直径は、例えば1nm以上50nm以下であってよく、1nm以上5nm以下が好ましい。カーボンナノチューブの長さは、例えば0.5μm以上であってよく、5μm以上が好ましい。カーボンナノチューブの長さの上限は、実用上の観点から、例えば200μm以下であり、50μm以下が好ましい。
【0019】
ここで、カーボンナノチューブの直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって算出することができ、任意に選択される100本のカーボンナノチューブの直径の算術平均値である。またカーボンナノチューブの長さは、平均長さであり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって算出することができ、任意に選択される100本のカーボンナノチューブの長さの算術平均値である。
【0020】
カーボンナノチューブの比表面積は、例えば、20m2/g以上1200m2/g以下であってよく、好ましくは100m2/g以上1100m2/g以下である。
【0021】
カーボンナノチューブは、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、工業原料用カーボンナノチューブの製造方法としては、例えば、CVD法を挙げることができ、CVD法には流動触媒型と固定触媒型の2つが含まれる。
【0022】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラックなどを挙げることができる。カーボンブラックは、一般に複数の球状粒子が融着した複雑な構造を有している。カーボンブラックを構成する球状粒子の粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定され、例えば、体積平均径として10nm以上1μm以下であってよく、好ましくは100nm以上0.6μm以下である。また、カーボンブラックは、必要に応じて表面に水酸基、カルボキシ基等の官能基を有していてもよい。
【0023】
カーボンブラックの比表面積は、例えば、50m2/g以上1500m2/g以下であってよく、好ましくは100m2/g以上800m2/g以下である。
【0024】
カーボンブラックの製造方法としては、アセチレン法、ファーネス法、チャンネル法等の通常用いられる方法を挙げることができる。
【0025】
一電子酸化剤の酸化還元電位は、例えば0.2V以上1.9V以下であってよい。一電子酸化剤の酸化還元電位は、後述するドナー数が30以下の溶媒に対する反応性の観点より、好ましくは0.3V以上、より好ましくは0.4V以上であり、また好ましくは1.9V未満、より好ましくは1.2V以下、更に好ましくは0.6V以下である。一電子酸化剤は、例えば、過酸化水素等の過酸化物であってよく、カチオンとアニオンから構成される塩化合物であってよい。カチオンとしては、例えば、酸化還元電位の観点から、カルボカチオン、アミニウムカチオン等が挙げられる。カルボカチオンは、例えば、トリアリールメチルカチオンであってよく、アミニウムカチオンは、例えば、トリアリールアミニウムラジカルカチオンであってよい。トリアリールカチオン又はトリアリールアミニウムラジカルカチオンを構成する3つのアリール基は、同一であっても、異なっていてもよい。アリール基としては、炭素数が6から20、好ましくは6から10の芳香族炭化水素基が挙げられる。アリール基は1以上の置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルケニル基、炭素数1から12のアルキルオキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アリール基上の2以上の置換基は互いに連結して縮合環構造を形成していてもよい。
【0026】
カルボカチオンとして具体的には、例えば、トリフェニルメチルカチオン、トリス(4-ブロモフェニル)メチルカチオン等のトリアリールメチルカチオンを挙げることできる。また、アミニウムカチオンとして具体的には、例えば、トリフェニルアミニウムラジカルカチオン、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムラジカルカチオン、トリス(2,4-ジブロモフェニル)アミニウムラジカルカチオン等のトリアリールアミニウムラジカルカチオンを挙げることができ、中でも後述するドナー数が所定値である溶媒に対する溶解性の観点よりトリアリールメチルカチオンが好ましい。
【0027】
一電子酸化剤を構成するアニオンとしては、例えば、修飾された炭素材料の安定性の観点から、フッ素原子を含むフッ素系アニオンが挙げられる。フッ素系アニオンとしては、例えば、テトラフルオロボラート(BF4
-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6
-)、ヘキサフルオロアンチモナート(SbF6
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI-)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート等のアニオンを挙げることができる。中でも、分散媒に対する修飾された炭素材料の分散性の点よりテトラフルオロボラートが好ましい。
【0028】
第一工程では、炭素材料と一電子酸化剤とを接触させる。炭素材料と一電子酸化剤との接触は溶媒中で行うことができる。溶媒として具体的には、オルトジクロロベンゼン(以下、ODCBと略記することがある)、1,2,4-トリクロロベンゼン、メシチレン等の低極性の芳香族系溶剤;酪酸ブチル等のエステル系溶剤;ジイソプロピルケトン等のケトン系溶剤;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル系溶剤;N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することがある)等のアミド系溶剤などを挙げることができる。
【0029】
第一工程における溶媒としては、例えば、ドナー数が30以下の溶媒を用いることができる。後述する結着剤の溶解性の観点より、溶媒のドナー数は、例えば2.5以上であってよく、好ましくは25以上であり、また好ましくは29以下である。ここで溶媒のドナー数とは、溶媒分子の電子供与性の指標であり、例えば、V.Gutmann著「ドナーとアクセプター」学会出版センター(1900)に記載されている。ドナー数が30以下の溶媒としては、例えば、NMP(27.3)、プロピレンカーボネート(15.1)、イソブチロニトリル(15.4)、ODCB(3.0)等を挙げることができる。ここで、かっこ内にはドナー数を例示した。中でも後述する結着剤の溶解性の点より、NMPが好ましい。
【0030】
第一工程における溶媒としては、例えば、表面張力が25℃において、50mN/m以下であってよく、好ましくは45mN/m以下である。また溶媒の表面張力は、例えば、35mN/m以上であってよく、好ましくは40mN/m以上である。溶媒の表面張力が前記範囲内であると、炭素材料がより微細に分散できる傾向がある。表面張力が50mN/m以下の溶媒として具体的には、例えば、ODCB、NMP等を挙げることできる。中でも後述する結着剤の溶解性の点より、NMPが好ましい。
【0031】
炭素材料と一電子酸化剤との接触における炭素材料に対する一電子酸化剤の質量比は、例えば0.1から20であってよく、好ましくは1から10である。溶媒を用いる場合、炭素材料に対する溶媒の質量比は、例えば10から600であってよく、好ましくは50から450である。
【0032】
炭素材料と一電子酸化剤との接触における雰囲気は、例えばアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下であってよく、好ましくは酸素濃度が、例えば5ppm以下であってよい。
【0033】
炭素材料と一電子酸化剤との接触は、例えば室温(25℃)で、1から7日とすることができる。炭素材料と一電子酸化剤との接触では、さらにエネルギーを付与する工程を必要に応じて設けてもよい。エネルギーを付与することで、修飾された炭素材料の分散性がより向上する傾向がある。エネルギーを付与する方法としては、例えばマイクロ波照射、加熱処理、超音波処理、液中プラズマ処理、ボールミル、ジェットミル、圧力式ホモジナイザー、超臨界処理等による粉砕・せん断処理等を挙げることができる。中でも、ナイロンボールを用いるボールミル等のようなせん断力が穏やかな付与方法が好ましい。またエネルギーを付与する際には、イオン液体、アニオン性ポリマー等を共存させてもよい。イオン液体としては、例えばイミダゾリウム系イオン液体(例えば、NATURE CHEMISTRY, 7, 730-736 (2015)参照)を挙げることができる。またアニオン性ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリレート塩(ポリ(メタ)アクリル酸の共役塩基)、ポリ(スチレンスルホン酸)塩(PSSの共役塩基)、Nafion(登録商標)等を挙げることができる。エネルギーを付与する場合、エネルギーの付与時間は、付与の目的、付与方法等に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
第一工程は、炭素材料と一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を生成した後に、所望の炭素材料を分離する分離工程等を更に含んでいてもよい。例えば、炭素材料と一電子酸化剤との接触を溶媒中で行う場合、接触後に固液分離を行ってもよい。固液分離は、メンブレンフィルター等を用いるろ過で行ってもよく、固形分を沈降させて上清を除去して行ってもよい。固液分離によって得られた固形分は、必要に応じて有機溶剤を用いて洗浄処理されてもよい。洗浄に用いられる有機溶剤としては、上述の芳香族系溶剤、NMP等のアミド系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤等を挙げることができる。
【0035】
修飾された炭素材料は、一電子酸化剤で処理されていない炭素材料とは異なるゼータ電位を有していてもよい。例えば、修飾されたグラフェンのゼータ電位は、NMP中で-50mV以下であってよく、修飾される前のグラフェンと比べて15mV以上低下してよい。また、修飾されたカーボンナノチューブのゼータ電位は、NMP中で-60mV以下であってよく、修飾される前のカーボンナノチューブと比べて30mV以上低下してよい。
【0036】
第一工程は、分離工程の後に、所望の炭素材料を粉体として取り出す乾燥工程を含んでもよく、所望の炭素材料を所望の有機溶剤に再分散して分散液とする再分散工程を含んでもよい。
【0037】
第一工程で得られる修飾された炭素材料が分散媒に分散された分散物は、優れた分散性を有する。分散物の分散性は、分散性指数で評価することができ、例えば以下のようにして測定される。所望の分散媒を用い、炭素材料の濃度が3mg/mLになるように測定対象となる炭素材料分散物を調製する。炭素材料分散物を超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して1次分散物を得る。直ちに(1分以内)その1次分散物を200倍希釈し、炭素材料濃度が0.015mg/mLの2次分散物を得る。2次分散物を超音波で10分間処理して、測定用分散物を得る。この測定用分散物について、分散媒を基準として700nmにおける吸光度測定を、測定用分散物を得てから1分以内に行い、得られた吸光度を分散性指数とする。すなわち、分散性指数は、所定濃度の炭素材料分散物の吸光度に対応するパラメータである。修飾された炭素材料の分散物の分散性指数は、例えば、0.4以上であってよく、好ましくは0.45以上である。分散性指数の上限値は、例えば、1以下であってよく、好ましくは、1未満又は0.95以下である。分散性指数を測定する分散媒は、所望の有機溶剤を選択すればよく、例えば、NMPが用いられる。
【0038】
第一工程で得られる修飾された炭素材料が分散媒に分散された分散物は、優れた分散安定性を有する。分散物の分散安定性は、分散安定性指数によって評価することができ、例えば、以下のようにして測定することができる。所望の分散媒を用い、炭素材料の濃度が3mg/mLになるように測定対象となる炭素材料分散物を調製する。炭素材料分散物を超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して1次分散物を得る。1次分散物を回転数7000rpm(6300G)にて5分間遠心分離を行い、上澄み部分を採取し、それを200倍希釈して2次分散物を得る。2次分散物を超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して測定用分散物を得る。得られる測定用分散物について、測定用分散物を得てから1分以内に、分散媒を基準として700nmにおける吸光度測定を行い、得られた吸光度を第一条件下における分散安定性指数とする。すなわち、第一条件下における分散安定性指数は、安定に分散可能な炭素材料濃度に対応する吸光度に対応するパラメータである。修飾された炭素材料の分散物の第一条件下における分散安定性指数は、例えば、0.05以上であってよく、好ましくは0.1以上である。第一条件下における分散安定性指数の上限値は、例えば、1以下であってよく、好ましくは、1未満又は0.95以下である。第一条件下における分散安定性指数を測定する分散媒は、所望の有機溶剤を選択すればよく、例えば、NMPが用いられる。
【0039】
炭素材料分散物の分散安定性は、例えば、以下のようにして評価してもよい。所望の分散媒を用い、炭素材料の濃度が3mg/mLになるように測定対象となる炭素材料分散物を調製する。カーボンナノチューブ分散物を超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して1次分散物を得る。1次分散物を回転数4000rpm(1502G)にて3分間遠心分離を行い、上澄み部分を採取し、それを200倍希釈して2次分散物を得る。2次分散物を超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して測定用分散物を得る。得られる測定用分散物について、測定用分散物を得てから1分以内に、分散媒を基準として700nmにおける吸光度測定を行い、得られた吸光度を第二条件下における分散安定性指数とする。すなわち、第二条件下における分散安定性指数は、安定に分散可能な炭素材料濃度に対応する吸光度に対応するパラメータである。修飾された炭素材料の分散物の第二条件下における分散安定性指数は、例えばNMP中で、0.005以上であってよく、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上である。第二条件下における分散安定性指数の上限値は、例えば、1以下であってよく、好ましくは1未満、0.95以下である。第二条件下における分散安定性指数を測定する分散媒は、所望の有機溶剤を選択すればよく、例えば、NMPが用いられる。
【0040】
第一工程で得られる分散物に含まれる修飾された炭素材料の濃度は例えば、0.1質量%以上であってよく、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。また修飾された炭素材料の濃度は例えば、10質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下である。分散物に含まれる炭素材料の濃度が前記範囲内であると、分散物の粘度をアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子と分散物とを接触させる上で良好な範囲に調整することができる。
【0041】
分散物に含まれる修飾された炭素材料の平均径は、例えば、1000nm以下であってよく、好ましくは900nm以下、より好ましくは800nm以下であり、また例えば、100nm以上であってよく、好ましくは300nm以上である。分散物に含まれる炭素材料の平均径が、前記範囲内であるとアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子への炭素材料の付着ムラをより低減することができる。なお、分散物に含まれる炭素材料の平均径は、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの累積50%に対応する粒径である体積平均径として求められる。
【0042】
一実施形態において第一工程は、複数種の炭素材料を含む混合物と所定の一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得る工程であってよい。また別の実施形態において第一工程は、単一種の炭素材料と所定の一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得ることを複数含み、修飾された炭素材料の複数を得る工程であってよい。
【0043】
第二工程では、第一工程で得られる修飾された炭素材料の少なくとも1種と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の少なくとも1種とを接触させる。炭素材料と複合酸化物粒子の接触は乾式混合で行ってもよく、有機溶剤等の存在下に湿式混合で行ってもよい。乾式混合で行う場合、例えばブレンダー、ボールミル、高速せん断攪拌機等の混合方法で行うことができる。湿式混合で行う場合、所望の有機溶剤中で炭素材料と複合酸化物粒子とを撹拌羽根、ホモジナイザー等を用いて混合すればよい。
【0044】
複合酸化物粒子と接触させる修飾された炭素材料は、分離工程を含む第一工程で固液分離した後の修飾された炭素材料であってもよく、固液分離する前の修飾された炭素材料であってもよい。固液分離した後の修飾された炭素材料を用いる場合、粉体として用いてもよく、分散液として用いてもよい。固液分離する前の炭素材料を用いる場合、炭素材料と一電子酸化剤との接触後の混合物と、複合酸化物粒子とを混合して、修飾された炭素材料と複合酸化物粒子とを接触させてもよい。
【0045】
修飾された炭素材料と複合酸化物粒子との接触は、複合酸化物粒子の質量に対する修飾された炭素材料の固形分量の比率として、例えば0.01質量%以上であってよく、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上である。またエネルギー密度の観点から、複合酸化物粒子の質量に対して例えば10質量%以下であってよく、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下、更に好ましくは0.6質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下で行うことができる。接触時の温度は、例えば、20℃以上70℃以下とすることができる。接触時間は、例えば、1分間以上3時間以下とすることができる。
【0046】
複合酸化物粒子は、正極及び負極のいずれかを構成可能な複合酸化物の少なくとも1種を含んでいればよい。正極を構成可能な複合酸化物としては、アルカリ金属-コバルト複合酸化物、アルカリ金属-ニッケル複合酸化物、アルカリ金属-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル構造のアルカリ金属-マンガン複合酸化物、アルカリ金属-ニッケルマンガン複合酸化物、オリビン構造のリン酸鉄アルカリ金属等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、中でもエネルギー密度の点よりリチウムが好ましい。
【0047】
正極を構成可能な複合酸化物は公知の方法により得ることができる。例えば、アルカリ金属化合物と所望の組成を有する酸化物とを混合して原料混合物を得ることと、得られる原料混合物を熱処理することと、を含む製造方法で製造することができる。熱処理後に得られる熱処理物については、解砕処理を行ってもよく、水洗等によって未反応物、副生物等を除去する処理を行ってもよい。また更に分散処理、分級処理等を行ってもよい。
【0048】
上述の所望の組成を有する酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物、炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によって酸化物に分解する方法、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成に合わせて前駆体の沈殿を得て、得られる前駆体を熱処理によって酸化物を得る共沈法などを挙げることができる。
【0049】
アルカリ金属-コバルト複合酸化物等の層状構造を有するアルカリ金属-遷移金属複合酸化物は、充放電容量、エネルギー密度等のバランスが良い非水系二次電池を得やすいので好ましい。アルカリ金属-遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム等のアルカリ金属とニッケル等の遷移金属とを含んでいてよく、アルミニウム、コバルト及びマンガンの少なくとも1種を更に含んでいてもよい。
【0050】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物がニッケルを含む場合、アルカリ金属以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0.33以上であってよく、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.55以上である。ニッケルのモル数の比の上限は例えば、1未満であってよく、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下である。ニッケルのモル数の比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時の充放電容量とサイクル特性の両立を達成することができる。
【0051】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、アルカリ金属以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、0.02以上であってよく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。コバルトのモル数の比の上限は例えば、1未満であってよく、好ましくは0.33以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。コバルトのモル数の比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時における充分な充放電容量を達成することができる。
【0052】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、アルカリ金属以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば、0.01以上であってよく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。マンガンのモル数の比の上限は例えば、0.33以下であってよく、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。マンガンのモル数の比が上述した範囲内であると、非水電解質二次電池において、充放電容量と安全性の両立を達成することができる。
【0053】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物における、アルカリ金属以外の金属の総モル数に対するアルカリ金属のモル数の比は、例えば1.0以上であってよく、好ましくは1.03以上、より好ましくは1.05以上である。アルカリ金属のモル数の比の上限は例えば、1.5以下であってよく、好ましくは1.25以下である。
【0054】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物がニッケルに加えて、コバルト及びマンガンを含む場合、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比は、例えば、ニッケル:コバルト:マンガン=(0.33から0.95):(0.02から0.33):(0.01から0.33)であってよく、好ましくは(0.55から0.6):(0.15から0.25):(0.15から0.3)である。
【0055】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物は、例えば下記式で表される組成を有するアルカリ金属-遷移金属複合酸化物であってよい。
ApNixCoyM1
zO2+α
ここで、p、x、y、z及びαは、1.0≦p≦1.3、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1、-0.1≦α≦0.1を満たし、Aは、Li、Na及びKからなる群から選ばれる少なくとも1つを示し、M1は、Mn及びAlの少なくとも一方を示す。
【0056】
また負極を構成可能な複合酸化物としては、チタン酸リチウム(例えばLi4Ti5O12、LiTi2O4等)、リチウムチタン複合酸化物(例えば、Li4Ti5-xMnxO12;0<x≦0.3)、リチウム金属酸化物(例えば、LixMyOz;M=Sn,Cu,Pb,Sb,Zn,Fe,In,Al又はZr)、リチウム金属硫化物(例えば、LixMySz;M=Ti,Sn,Cu,Pb,Sb,Zn,Fe,In,Al又はZr)等を挙げることができ、これらにおいてはリチウムが他のアルカリ金属に置換されていてもよい。これらの複合酸化物については、例えば特開2000-302547号公報、特開2013-012496号公報、特開2013-058495号公報等に記載された事項及び製造方法を適宜用いることができる。
【0057】
複合酸化物粒子は、複合酸化物を構成する元素以外の元素がドープされていてもよい。ドープされる元素としては例えば、B,Mg,Al,Si,P,S,Ca,Ti,V,Cr,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,La,Ce,Nd,Sm,Eu,Gd,Ta,W及びBiが挙げられる。これらの元素のドープに用いられる化合物としては、これらの元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物及びフッ化物、並びにそのアルカリ金属複合酸化物等が挙げられる。ドープ量は例えば、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子に対して、例えば0.005モル%以上10モル%以下であってよい。
【0058】
また複合酸化物粒子は、金属複合酸化物を含むコア粒子と、コア粒子の表面に配置される付着物とを有するものであってもよい。付着物はコア粒子の表面の少なくとも一部の領域に配置されていればよく、コア粒子の表面積の1%以上の領域に配置されていることが好ましい。付着物の組成は目的等に応じて適宜選択され、例えば、Li,B,Na,Mg,Si,P,S,K,Ca,Ti,V,Cr,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,La,Ce,Nd,Sm,Eu,Gd,Ta,W及びBiからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物及びフッ化物、並びにそのアルカリ金属複合酸化物等を挙げることができる。付着物の含有量は例えば、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子中に、0.03質量%以上10質量%以下であってよく、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0059】
複合酸化物粒子の平均径は、例えば体積平均径として1μm以上40μm以下であってよく、出力特性の観点から、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは3μm以上であり、また好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0060】
複合酸化物粒子の平均径に対する炭素材料の平均径の比(炭素材料/複合酸化物粒子)の下限は、例えば0.01以上であってよく、好ましくは0.1以上である。また、複合酸化物粒子の平均径に対する炭素材料の平均径の比(炭素材料/複合酸化物粒子)の上限は、例えば10以下であってよく、好ましくは2以下である。
【0061】
複合酸化物粒子は、多数の一次粒子からなる凝集粒子であってよく、また、例えば、6個以下の一次粒子からなる、いわゆる単粒子であってよい。複合酸化物粒子は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1以上6以下であってよい。
【0062】
複合酸化物粒子においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、耐久性の観点から、例えば0.1μm以上20μm以下であってよく、出力密度及び極板充填性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、また、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0063】
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の球換算径の平均値である。平均粒径DSEMは具体的には以下のようにして測定される。走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、粒径に応じて1000倍から10000倍の範囲で観察する。粒子の輪郭が確認できる一次粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエアを用いて、一次粒子の輪郭をなぞることで輪郭長を求める。輪郭長から球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として平均粒径DSEMが求められる。
【0064】
複合酸化物粒子において、D50/DSEMが1の場合、複合酸化物粒子が単一の一次粒子からなることを示し、1に近づくほど、構成する一次粒子の数が少ないことを示す。D50/DSEMは、耐久性の観点から、1以上6以下が好ましく、出力密度の観点から、5以下が好ましく、特に3以下が好ましい。
【0065】
また複合酸化物粒子の50%粒径D50は、例えば1μm以上30μm以下であってよく、出力密度の観点から1.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、また10μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましい。
【0066】
50%粒径D50は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの累積50%に対応する粒径として求められる。同様に、後述する90%粒径D90及び10%粒径D10は、それぞれ小径側からの累積90%及び累積10%に対応する粒径として求められる。
【0067】
体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比は、複合酸化物粒子の粒度分布の広がりを示し、値が小さいほど粒子の粒径がそろっていることを示す。複合酸化物粒子のD90/D10は、例えば、8以下であってよく、出力密度の観点から、6以下が好ましく、3以下がより好ましい。D90/D10の下限は、例えば1.2以上であってよい。
【0068】
D50/DSEMが1以上6以下である複合酸化物粒子については、例えば、特開2017-188443号公報、特開2017-188444号公報、特開2017-188445号公報等を参照することができる。
【0069】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物は組成にニッケルを含んでよい。アルカリ金属-遷移金属複合酸化物は、非水系電解質二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーは、例えば4.0%以下であってよく、2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。ここで、ニッケル元素のディスオーダーとは、本来のサイトを占有すべき遷移金属イオン(ニッケルイオン)の化学的配列無秩序(chemical disorder)を意味する。層状構造のアルカリ金属-遷移金属複合酸化物においては、Wyckoff記号で表記した場合に3bで表されるサイト(3bサイト、以下同様)を占有すべきアルカリ金属イオンと3aサイトを占有すべき遷移金属イオンの入れ替わりが代表的である。ニッケル元素のディスオーダーが小さいほど、初期効率が向上するので好ましい。
【0070】
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物におけるニッケル元素のディスオーダーは、X線回折法により求めることができる。アルカリ金属-遷移金属複合酸化物について、CuKα線によりX線回折スペクトルを測定する。組成モデルを(Li1-dNid)(NixCoyMnzAlw)O2(x+y+z+w=1)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、リートベルト解析により構造最適化を行う。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とする。
【0071】
第二工程では、修飾された炭素材料と複合酸化物粒子との接触を湿式混合で行う場合、接触後に固液分離を行ってもよい。固液分離は、メンブレンフィルター等を用いるろ過で行ってもよく、固形分を沈降させて上清を除去して行ってもよい。上清を除去して固液分離する場合、除去した上清には修飾された炭素材料が含まれるので、複合酸化物粒子の処理等に再利用してもよい。また固液分離によって得られた固形分は、必要に応じて有機溶剤を用いて洗浄処理されてもよく、必要に応じてアニオン置換処理されてもよい。
【0072】
第二工程では、修飾された炭素材料と複合酸化物粒子のみを接触させてもよく、後述する電極組成物を構成する他の成分の少なくとも1つとともに接触させてもよい。また第二工程における炭素材料と複合酸化物粒子の混合比は、目的とする電極活物質の構成に応じて適宜選択すればよい。
【0073】
電極活物質の製造方法についての具体的な実施形態を以下に例示するが、これらに限定されるわけではない。
第一実施形態は、(1)溶媒中で炭素材料と一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得ることと、(2)必要に応じて、炭素材料、一電子酸化剤及び溶媒を含む混合物にエネルギーを付与することと、(3)修飾された炭素材料を分離して、洗浄することと、(4)修飾された炭素材料を乾燥して粉体を得るか、又は溶媒中に分散して分散物を得ることと、(5)複合酸化物粒子と修飾された炭素材料の粉体又は分散物とを混合することとを含む。
【0074】
第二実施形態は、(1)溶媒中で炭素材料と一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得ることと、(2)修飾された炭素材料を分離して、洗浄することと、(3)修飾された炭素材料に溶媒中でエネルギーを付与することと、(4)修飾された炭素材料を乾燥して粉体を得るか、又は溶媒中に分散して分散物を得ることと、(5)複合酸化物粒子と修飾された炭素材料の粉体又は分散物とを混合することとを含む。
【0075】
第三実施形態は、(1)溶媒中で炭素材料と一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得ることと、(2)必要に応じて、炭素材料、一電子酸化剤及び溶媒を含む混合物にエネルギーを付与することと、(3)修飾された炭素材料と複合酸化物粒子とを溶媒中で混合することと、(4)修飾された炭素材料が付着した複合酸化物粒子をろ過で分離して、洗浄することと、を含む。
【0076】
第四実施形態は、(1)溶媒中で炭素材料と一電子酸化剤とを接触させて修飾された炭素材料を得ることと、(2)必要に応じて、炭素材料、一電子酸化剤及び溶媒を含む混合物にエネルギーを付与することと、(3)修飾された炭素材料と複合酸化物粒子とを溶媒中で混合することと、(4)修飾された炭素材料が付着した複合酸化物粒子を沈降させ、過剰な炭素材料を含む上清を回収し、沈降物を得ることと、とを含む。
【0077】
非水系二次電池用電極活物質
非水系二次電池用電極活物質は、修飾された炭素材料と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子とを含む。非水系二次電池用電極活物質では、例えば、修飾された炭素材料が、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に配置されていてよい。修飾された炭素材料は、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の表面に付着していてよく、表面を被覆していてよい。修飾された炭素材料は、グラフェン、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む炭素材料と、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下の一電子酸化剤とを接触させることにより得られる。すなわち、修飾された炭素材料は、グラフェン、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む炭素材料と、酸化還元電位が0.2V以上1.9V以下の一電子酸化剤との反応生成物であってよい。修飾された炭素材料が表面上に配置されたアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子を含む電極活物質は、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子表面への炭素材料の付着ムラが低減されることにより、充放電時にアルカリ金属-遷移金属複合酸化物に含まれる金属成分の溶出を抑制することができるため、これら電極活物質を含む非水系二次電池を構成する場合に、耐久性が向上すると考えられる。また、炭素材料の付着ムラが低減されることにより、電極活物質の電気伝導性が向上するため、これら電極活物質を含む非水系二次電池を構成する場合に、出力特性が向上すると考えられる。
【0078】
修飾された炭素材料は、特定の炭素材料を所定の一電子酸化剤で処理して得られる。修飾された炭素材料は、例えば、一電子酸化剤によって正孔が形成された炭素材料と、正孔を電荷補償するアニオンとを含む。アニオンは、例えば、一電子酸化剤に由来する。またアニオンを含んで電荷補償されることで、炭素材料の安定性が向上するとともに、分散媒への親和性が向上することで、分散媒中での分散性が向上するので、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子への付着ムラを低減することができると考えられる。本明細書における修飾された炭素材料とは、例えば、既述の製造方法で得られる物質であり、炭素材料を構成する炭素に加えてアニオンを含む物質として単離され得る。
【0079】
非水系二次電池用電極活物質に含まれる修飾された炭素材料は、修飾されたグラフェンと修飾されたカーボンナノチューブとを含んでいてよい。これにより、構成される非水系二次電池において極板抵抗をより低下させることができる。また、非水系二次電池の出力特性がより向上する。非水系二次電池用電極活物質が修飾された炭素材料として、修飾されたグラフェンと修飾されたカーボンナノチューブとを含む場合、修飾されたグラフェン(G)の修飾されたカーボンナノチューブ(CNT)に対する含有比(G/CNT)は、質量基準で、例えば1/100以上100/1以下であってよく、好ましくは1/10以上10/1以下、より好ましくは1/5以上5/1以下、更に好ましくは1/3以上3/1以下、特に好ましくは1/2以上2/1以下である。また、修飾された炭素材料中の修飾されたグラフェン及び修飾されたカーボンナノチューブの総含有量は、例えば、0.5質量%以上であってよく、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、実質的に100質量%であってよい。ここで「実質的に」とは、不可避的に含まれるグラフェン及びカーボンナノチューブ以外の炭素材料を排除しないことを意味する。
【0080】
電極活物質は、修飾された炭素材料以外のグラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等を更に含んでいてもよい。電極活物質は、例えば酸化グラフェン(GO)、酸化グラフェンを還元して得られるグラフェン(r-GO)、水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エポキシ基等の含酸素官能基で修飾されたグラフェン等を更に含んでいてもよい。
【0081】
電極活物質を構成するアニオンは、修飾された炭素材料の電荷を補償可能なものであればよい。アニオンは、例えば、一電子酸化剤を構成するアニオンであってよく、それ以外のアニオンであってもよい。それ以外のアニオンとしては、カルボキシラート(-CO2
-)、スルホラート(-SO3
-)、ホスフェート(-PO3
-)等のアニオン性基を有する化合物、トリフルオロメタンスルホナート(TfO-)、ポリオキソメタレート、ヘキサクロロアンチモナート等を挙げることができる。アニオンとしては、修飾された炭素材料の分散性の観点から、フッ素系アニオンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。後述の電極組成物の結着材、非水系二次電池の電解質等がフッ素原子を含む場合は、特にフッ素系アニオンが好ましい。
【0082】
電極活物質を構成するアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の詳細については既述の通りである。
【0083】
電極活物質における修飾された炭素材料の含有量は、電気伝導性の観点から、複合酸化物粒子に対して例えば0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上であり、またエネルギー密度の観点から、複合酸化物粒子に対して例えば10質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下、更に好ましくは0.6質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0084】
非水系二次電池用電極組成物
非水系二次電池用電極組成物は、上述した電極活物質と結着剤(バインダー)とを含み、必要に応じて導電助剤、充填剤、有機溶剤等をさらに含んでいてもよい。
【0085】
結着剤は、例えば電極活物質と導電助剤などとの付着、及び集電体に対する電極活物質の付着を助ける材料である。結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、様々な共重合体などが挙げられる。結着剤含有量は、電極組成物の総質量に対して例えば0.05質量%以上50質量%以下である。
【0086】
導電助剤は、例えば電極活物質層の電気伝導性を向上させる材料である。導電助剤としては、修飾された炭素材料が挙げられる。その他に例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素材料;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材が挙げられる。導電助剤の含有量は、電極組成物の総質量に対して例えば0.5質量%以上30質量%以下であってよい。
【0087】
電極組成物が修飾された炭素材料以外のその他の導電助剤を含む場合、電極組成物中のその他の導電助剤に対する修飾された炭素材料の含有比(修飾された炭素材料/その他の導電助剤)の下限値は、例えば1/1000以上であってよく、好ましくは1/100以上であり、より好ましくは1/10以上である。また電極組成物中のその他の導電助剤に対する修飾された炭素材料の含有比の上限値は、例えば100/1以下であってよく、好ましくは10/1であり、より好ましくは1/1以下である。
【0088】
充填剤は、例えば電極活物質層の膨脹を抑制する材料である。充填剤の例としては、炭酸リチウム;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質等が挙げられる。
【0089】
電極組成物は、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤の例としては、NMP等を挙げることができる。
【0090】
非水系二次電池用電極
非水系二次電池用電極は、集電体と、集電体上に配置され、上述した非水系二次電池用電極活物質を含む電極活物質層とを備える。電極は上述の電極組成物を、NMPなどの溶媒中に分散してスラリー状にした後、これを集電体上に塗布し乾燥及びプレスすることで製造される。
【0091】
集電体の例としては、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属;焼成炭素;銅、ステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理した複合材料;アルミニウム-カドミウム合金などが挙げられる。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成することによって電極活物質層などの接着力を高めることもできる。またフィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態が可能である。集電体の厚みとしては例えば3μm以上500μm以下であってよい。
【0092】
非水系二次電池
非水系二次電池は、上記非水系二次電池用正極又は負極のうちの少なくとも1種を備える。非水系二次電池は、非水系二次電池用正極、非水系二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等を備えて構成される。正極及び負極は上記非水系二次電池用電極であってもよい。非水系二次電池における、正極及び負極、非水系電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報、特開2000-302547号公報(米国特許第6475673号明細書)、特開2013-058495号公報(米国特許出願公開第2010/015524号明細書)等に記載された、非水系二次電池用のための材料を適宜用いることができる。これらの文献は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
前述の電解質は、例えばフッ素を有するアニオンを含む。具体的には、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2などのフッ素を有するアニオンを含むリチウム塩を単独で、あるいは2種以上用いることができる。
【0094】
炭素材料分散物
炭素材料分散物は、分散媒と、一電子酸化剤によって修飾されたグラフェン、一電子酸化剤によって修飾されたカーボンナノチューブ及び一電子酸化剤によって修飾されたカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種を含む修飾された炭素材料とを含む。修飾された炭素材料が分散媒に分散した状態であることで、優れた分散性及び分散安定性を示すことができる。炭素材料分散物は、既述の非水系二次電池用電極活物質の製造方法における第一工程で得られる分散物であってよい。炭素材料分散物における修飾された炭素材料は、一電子酸化剤によって修飾されたグラフェン、及び一電子酸化剤によって修飾されたカーボンナノチューブを少なくとも含んでいてよい。
【0095】
炭素材料分散物は、分散媒と修飾された炭素材料以外のその他の成分を更に含んでいてよい。その他の成分は炭素材料分散物の用途等に応じて適宜選択することができる。その他の成分としては例えば、PVDF等のポリマーが挙げられる。
【0096】
炭素材料分散物の用途としては、例えば、透明導電膜、キャパシタ、燃料電池用電極、電極触媒の担持体、導電性複合体、太陽電池、リチウムイオン電池等の二次電池用電極、電子ペーパー、トランジスタ等の半導体、各種センサー等の用途が挙げられる。また、薄膜トランジスタ基板等の半導体層に用いてもよい。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
平均径
グラフェン及びカーボンブラックの体積平均径の測定については、動的光散乱式粒度分布測定装置(大塚電子製ELSZ-2000ZS)を用いて行った。
【0099】
<グラフェンを含む分散物Aの製造>
原料グラフェン(Angstron社製rGO、BET比表面積600m2/g、酸素組成1.8atomic%)2gをグラフェンの濃度が30mg/mLとなるように乾燥N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP、ドナー数27、表面張力41mN/m、純度>99.0%)に対して加え超音波処理(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)を1時間行い、分散物Aを得た。
【0100】
上述で得られた分散物Aをグラフェン濃度が3mg/mLになるようにNMPを用いて調整した。調整した溶液について超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して均一な1次分散物を得た。次にその分散物を200倍希釈し、グラフェン濃度が0.015mg/mLの2次分散物を得た。それを超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して、均一な測定用分散物を得た。この測定用分散物について、NMPを基準として700nmにおける吸光度測定(日立ハイテクノロジーズ製U-4100形分光光度計)を行い、得られた吸光度を分散性指数としたところ0.24であった。また、この測定用分散物について平均径及びゼータ電位(大塚電子製ELSZ-2000ZS)を測定したところ、グラフェンの平均径は、6540nm、標準偏差4001、ゼータ電位は-37mVであった。
【0101】
上述の分散性指数の測定で得られた1次分散物について回転数7000rpm(6300G)にて5分間遠心分離を行い、上澄み部分を採取し、それを200倍希釈して、2次分散物を得た。得られた2次分散物について超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して均一な測定用分散物を得た。吸光度測定を行い、700nmにおける吸光度(NMPを基準として)を求めた。この測定用分散物について、NMPを基準として700nmにおける吸光度測定(日立ハイテクノロジーズ製U-4100形分光光度計)を行い、得られた吸光度を第一条件下における分散安定性指数としたところ0であった。
【0102】
分散物Aに含まれるグラフェンについて走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ SU8230;加速電圧5kV)観察を行った。SEM画像を
図1(倍率10000倍)に示す。
【0103】
<グラフェンを含む分散物Bの製造>
アルゴン雰囲気下、酸素濃度が3ppm以下に調整されたグローブボックス中、室温下で、遊星ボールミル用容器に乾燥NMP64mLと一電子酸化剤のカルボカチオン塩であるトリチリウムテトラフルオロボラート(トリフェニルメチリウムテトラフルオロボラート;酸化還元電位0.5V)1.2gとを加え、溶解させた。この溶液に、分散物Aの場合と同じ原料グラフェン2gとナイロンボール(φ10mm)100個を加えたのち、容器の蓋を閉めグローボックス外に取り出した。続いて遊星ボールミル(回転数400rpm)を36時間行った。その後、孔径0.1μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて、ポンプで吸引しながら濾別した。濾別した後に、NMPでフィルターを洗浄した。得られた濾取物をグラフェンの濃度が30mg/mLとなるように、NMPに対してグラフェンを加えて分散物Bを得た。
【0104】
得られた分散物Bについて分散物Aと同様にして分散性指数及び第一条件下における分散安定性指数を求めたところ、分散性指数0.48、分散安定性指数0.12であり、分散物Aと比べて分散性と分散安定性が向上することを確認した。また、分散物Bについて分散物Aと同様にして平均径を測定したところ平均径は584nm、標準偏差95.7であり、平均径が小さく、粒度分布が狭くなっていることを確認した。また、分散物Aと同様にしてゼータ電位を測定したところ-62mVであり、分散物Aと比べて25mV低下したことを確認した。
【0105】
分散物Bより取り出したグラフェンについて電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ S-4800;加速電圧5kV)観察行った。SEM画像を
図2(倍率10000倍)に示す。また分散物Bより取り出したグラフェンについて、X線光電子分光分析装置(以下XPS、アルバック・ファイ社製QuanteraSXM;、X線原;AlKα線 X線ビーム径;φ200μm)を行ったところ、原料グラフェンには検出されなかったフッ素原子が、炭素原子の検出量に対して約0.3atomic%検出された。XPSチャートを
図3に示す。検出されたフッ素原子は、685eVの無機物とフッ素の結合に由来すると考えられ、修飾されたグラフェンの対アニオンであるテトラフルオロボラートと考えられる。
【0106】
分散物A及び分散物Bの分散性指数の測定で得られた1次分散物について回転数4000rpm(1502G)にて3分間遠心分離を行い、上澄み部分を採取し、それを200倍希釈して、2次分散物を得た。得られた2次分散物について超音波(周波数:40kHz、出力:110W、20℃)で10分間処理して均一な測定用分散物を得た。吸光度測定を行い、700nmにおける吸光度(NMPを基準として)を求めた。この測定用分散物について、NMPを基準として700nmにおける吸光度測定(日立ハイテクノロジーズ製U-4100形分光光度計)を行い、得られた吸光度を第二条件下における分散安定性指数とした。分散物Aの第二条件下における分散安定性指数は0.01であり、分散物Bの第二条件下における分散安定性指数は0.25であった。すなわち、分散物Bは分散物Aよりも分散安定性が向上することを確認した。
【0107】
[アルカリ金属-遷移金属複合酸化物の準備]
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子のD10、D50及びD90については、レーザー回折式粒径分布測定装置(Malvern Panalytical社製 マスターサイザー2000)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積値に対応してそれぞれの粒径を求めた。電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000倍から10000倍で観察した画像において、粒子の輪郭が確認できる粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として求めた。
【0108】
<アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aの準備>
公知の方法に従い、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径D
SEMが0.44μmであり、D
10=3.5μm、D
50=7.1μm、D
90=19.7μm、平均粒径D
SEMに対するD
50の比D
50/D
SEMが16.1であり、粒度分布における比D
90/D
10が5.6であった。また、Niディスオーダー量が0.6%であり、組成式:Li
1.01Ni
0.925Co
0.05Al
0.025O
2で表されるアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aを得た。得られたアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子AのSEM画像(SEM;JEOL JSM-IT100LA;加速電圧20kV)を
図4(倍率7000倍)に示す。
【0109】
<アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bの準備>
公知の方法に従い、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径D
SEMが0.94μmであり、D
10=2.7μm、D
50=5.1μm、D
90=10.1μm、平均粒径D
SEMに対するD
50の比D
50/D
SEMが5.4であり、粒度分布における比D
90/D
10が3.7であった。また、Niディスオーダー量が1.1%あり、組成式:Li
1.00Ni
0.925Co
0.05Al
0.025O
2で表されるアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bを得た。得られたアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子BのSEM画像(SEM;JEOL JSM-IT100LA;加速電圧20kV)を
図5(倍率7000倍)に示す。
【0110】
[正極の製造]
(実施例1)
分散物Bの2.1g(グラフェンとして0.06g)と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aの11.6gと、NMP2.65gとを混合して正極活物質分散液を得た。正極活物質分散液にポリフッ化ビニリデン(PVDF)をNMPに溶解した溶液1.5g(PVDFとして0.12g)を加えて混合し、続いてアセチレンブラック(以下、ABともいう)液0.9g(ABとして0.18g)を更に加えて混合し正極組成物を得た。正極組成物の濃度が58質量%となるようにNMPと混合してNMPスラリーを調製した。得られたNMPスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品をロールプレス機で圧縮成形(密度3.2g/cm
3)した後、所定のサイズに裁断することにより、実施例1の正極を作製した。なお、乾燥品についてSEM(日立ハイテクノロジーズ SU8230;加速電圧0.5KV)により観察したところ、
図6(倍率20000倍)に示すようにアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の一部にグラフェンが付着した非水系二次電池用正極活物質の存在が確認できた。
【0111】
(比較例1)
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aを11.6gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をNMPに溶解した溶液1.5g(PVDFとして0.12g)と、を混合し、続いてAB液1.2g(ABとして0.24g)を更に加えて混合し正極組成物を得た。正極組成物の濃度が58質量%となるようにNMPと混合してNMPスラリーを調製した。得られたNMPスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品をロールプレス機で圧縮成形した後、所定のサイズに裁断することにより、比較例1の正極を作製した。実施例1と同様にして観察した正極のSEM画像(日立ハイテクノロジーズ SU8230;加速電圧0.5KV)を
図7(倍率20000倍)に示す。
【0112】
(実施例2)
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aの代わりにアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして正極を作製した。実施例1と同様にして観察した正極のSEM画像(日立ハイテクノロジーズ SU8230;加速電圧0.5KV)を
図8(倍率20000倍)に示す。実施例1と同様に、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の一部にグラフェンが付着した非水系二次電池用正極活物質の存在が確認できた。
【0113】
(比較例2)
アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Aの代わりにアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bを用いたこと以外は比較例1と同様にして正極を作製した。実施例1と同様にして観察した正極のSEM画像(日立ハイテクノロジーズ SU8230;加速電圧0.5KV)を
図9(倍率20000倍)に示す。
【0114】
[評価]
上記で得られた実施例1、2及び比較例1、2の正極を用いて、以下の手順で評価用二次電池を作製した。
【0115】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛材料を用いた。負極活物質97.5質量部、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)1.5質量部及びスチレンブタジエンゴム(SBR)1.0質量部を水に分散し、混練して負極ペーストを調製した。これを銅箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形(密度3.2g/cm3)した後、所定のサイズに裁断することにより、負極を作製した。
【0116】
[非水電解液の作製]
エチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを、その濃度が1.0mol%となるように溶解させ、非水電解液を得た。
【0117】
[非水電解液二次電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、上記非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてのラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0118】
<充放電サイクル特性の評価>
評価用電池を45℃の恒温槽に設置し、充電電圧4.2Vで定電圧充電を行った。充電後、放電電圧2.75Vで定電圧放電を行い、1サイクル目の放電容量Qdcyc(1)を測定した。以下充電と放電を繰り返し、最後に200サイクル目の放電容量Qcyc(200)を測定した。得られたQcyc(1)でQcyc(200)を除して200サイクル後の容量維持率Pcyc(=Qcyc(200)/Qcyc(1))(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0119】
<出力特性の評価>
評価用電池を25℃及び-25℃の環境下、満充電電圧を4.2Vとして充電深度50%まで定電流充電し、その後特定の電流値iでパルス放電・充電を行った。パルスは10秒印加後開放3分で放電と充電を順次繰り返した。パルス放電・充電の電流値iは25℃の場合0.04A、0.08A、0.12A、0.16A及び0.20Aとし、-25℃の場合は、0.03A、0.05A、0.08A、0.105A及び0.13Aとした。電流値iをグラフ横軸に、パルス放電10秒後の電圧値Vをグラフ縦軸にそれぞれプロットし、i-Vプロットにおいて直線線形が保たれる電流範囲で傾きの絶対値を求め、電池抵抗R(25)(Ω)、R(-25)(Ω)とした。評価結果を表1に示す。表1には、比較例に対する実施例の電池抵抗における低下率を併せて示す。
【0120】
【0121】
表1から、実施例1において、酸化還元電位が0.5以上1.9V以下である一電子酸化剤の存在下で得られたグラフェンを含む分散物により作製した非水系二次電池用正極組成物を用いて二次電池を構成することで、比較例1と比べて容量維持率が高く、電池抵抗が低くなっており、電池の耐久性及び出力特性が向上することを確認した。また、実施例2において、比較例2と比べて、同様の効果を確認した。
【0122】
実施例2において、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1以上6以下のアルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子により作製した非水系二次電池用正極組成物を用いて二次電池を構成することで、実施例1と比べて電池抵抗の低下率が大きくなっており、出力特性の向上効果がより顕著に表れることを確認した。
【0123】
<カーボンナノチューブ(以下CNT)を含む分散物Cの製造>
市販のCNT(OCSiAl社製、TUBALL)をジェットミル(供給圧150MPa、粉砕圧150MPaに調整)により処理した。得られた原料CNT2gをCNTの濃度が30mg/mLとなるようにNMPに対して加え分散物Cを得た。得られた分散物Cについて分散物Aと同様にしてゼータ電位と分散性指数を求めたところ、ゼータ電位-34mV、分散性指数0.38であった。
【0124】
原料CNTについて電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ S-4800;加速電圧5kV)観察を行った。SEM画像を
図10(倍率10000倍)に示す。
【0125】
<CNTを含む分散物Dの製造>
アルゴン雰囲気下、酸素濃度が3.0ppm以下に調整されたグローブボックス中、室温下で、10mLのホウケイ酸ガラス容器に乾燥NMP3mLと一電子酸化剤のカルボカチオン塩であるトリチリウムテトラフルオロボラート(酸化還元電位0.5V)55mgとを加え、溶解させた。この溶液に、市販のCNT(OCSiAl社製、TUBALL)をジェットミル(供給圧150MPa、粉砕圧150MPaに調整)処理したCNT30mgとテフロン(登録商標)製撹拌子を加えたのち、容器の蓋を閉めグローボックス外に取り出した。続いてスターラーで7日間撹拌を行った。その後、孔径0.1μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて、ポンプで吸引しながら濾別した。濾別した後に、NMPでフィルターを洗浄した。得られた濾取物をCNTの濃度が10mg/mLとなるようにNMPに対して、CNTを加え分散物Dを得た。得られた分散物Dについて分散物Aと同様にしてゼータ電位を求めたところ、ゼータ電位-79mVであり、分散物Cと比べて35mV低下したことを確認した。また、得られた分散物Dについて分散物Aと同様にして分散性指数を求めたところ、分散性指数0.45であり、分散性が向上することを確認した。
【0126】
分散物Dより取り出したCNTについて電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ S-4800;加速電圧5kV)観察を行った。SEM画像を
図11(倍率10000倍)に示す。
【0127】
得られた分散物CおよびDについて分散物Aと同様にして第二条件下における分散安定性指数を求めたところ、分散物Cの第二条件下における分散安定性指数は0であり、分散物Dの第二条件下における分散安定性指数は0.062であった。すなわち、分散物Dは分散物Cよりも分散安定性が向上することを確認した。
【0128】
<カーボンブラック(以下CB)を含む分散物Eの製造>
原料CB(キャボット社製、LITX200)2gをCBの濃度が30mg/mLとなるようにNMPに対して加え分散物Eを得た。得られた分散物Eについて分散物Aと同様にして平均径を求めたところ、平均径337±170nmであった。また、得られた分散物Eについて分散物Aと同様にして分散性指数を求めたところ、分散性指数0.43であった。
【0129】
<CBを含む分散物Fの製造>
アルゴン雰囲気下、酸素濃度が3.0ppm以下に調整されたグローブボックス中、室温下で、10mLのホウケイ酸ガラス容器に乾燥NMP4mLと一電子酸化剤のカルボカチオン塩であるトリチリウムテトラフルオロボラート(酸化還元電位0.5V)0.3gとを加え、溶解させた。この溶液に、分散物Eの場合と同じ原料CB0.5gとテフロン(登録商標)製撹拌子を加えたのち、容器の蓋を閉めグローボックス外に取り出した。続いてスターラーで7日間撹拌を行った。その後、孔径0.1μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて、ポンプで吸引しながら濾別した。濾別した後に、NMPでフィルターを洗浄した。得られた濾取物をCBの濃度が30mg/mLとなるようにNMPに対して、CBを加え分散物Fを得た。得られた分散物Fについて分散物Aと同様にして平均径を求めたところ、平均径248±67nmであり平均径が小さく、粒度分布が狭くなっていることを確認した。また、得られた分散物Fについて分散物Aと同様にして分散性指数を求めたところ、分散性指数0.45であり、分散物Fは、分散物Eよりも分散性が向上することを確認した。
【0130】
得られた分散物EおよびFについて分散物Aと同様にして第二条件下における分散安定性指数を求めたところ、分散物Eの第二条件下における分散安定性指数は0.15であり、分散物Fの第二条件下における分散安定性指数は0.18であった。すなわち、分散物Fは分散物Eよりも分散安定性が向上することを確認した。
【0131】
[正極の製造]
(実施例3)
分散物Dの3.11g(CNTとして0.03g)と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bの11.6gと、NMP2.65gとを混合して正極活物質分散液を得た。正極活物質分散液にポリフッ化ビニリデン(PVDF)をNMPに溶解した溶液1.5g(PVDFとして0.12g)を加えて混合し、続いてAB液1.05g(ABとして0.21g)を更に加えて混合し正極組成物を得た。正極組成物の濃度が58質量%となるようにNMPと混合してNMPスラリーを調製した。得られたNMPスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品をロールプレス機で圧縮成形(密度3.2g/cm3)した後、所定のサイズに裁断することにより、実施例3の正極を作製した。なお、乾燥品についてSEMにより観察すると、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の一部にCNTが付着した非水系二次電池用正極活物質の存在が確認できる。
【0132】
(実施例4)
分散物Dの1.55g(CNTとして0.015g)と、分散物Bの1.54g(グラフェンとして0.045g)と、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子Bの11.6gと、NMP2.65gとを混合して正極活物質分散液を得た。正極活物質分散液にポリフッ化ビニリデン(PVDF)をNMPに溶解した溶液1.5g(PVDFとして0.12g)を加えて混合し、続いてAB液0.9g(ABとして0.18g)を更に加えて混合し正極組成物を得た。正極組成物の濃度が58質量%となるようにNMPと混合してNMPスラリーを調製した。得られたNMPスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品をロールプレス機で圧縮成形(密度3.2g/cm3)した後、所定のサイズに裁断することにより、実施例4の正極を作製した。なお、乾燥品についてSEMにより観察すると、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の一部にグラフェンとCNTが付着した非水系二次電池用正極活物質の存在が確認できる。
【0133】
(実施例5および6)
分散物Dと分散物Bの混合割合を表2に示す割合に変更したこと以外は、実施例4と同様に行った。実施例5および実施例6の乾燥品についてSEMにより観察すると、アルカリ金属-遷移金属複合酸化物粒子の一部にグラフェンとCNTが付着した非水系二次電池用正極活物質の存在が確認できる。
【0134】
[評価]
上記で得られた実施例2から6、比較例2の正極について極板抵抗を以下の手順で測定した。得られた極板を水平なガラス板の上におき、極板に対してプローブ(三菱ケミカルアナリテックMCP-TPAP2)を接触させ、テスタ―(横河M&Cデジタルマルチメータ7544 02F)により抵抗値を測定した。(測定温度23℃、ドライルーム)なお一つの極板に対して10点測定し、その平均値を極板抵抗とした。結果を表2に示す。
【0135】
【0136】
修飾された炭素材料として修飾されたグラフェンと修飾されたCNTとを併用して正極を構成することで、極板抵抗が相乗的に低下した。したがって、これらの極板を用いて二次電池を構成した場合に、出力特性が向上する
【0137】
日本国特許出願2019-017325号(出願日:2019年2月1日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。