IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法 図1
  • 特許-窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法 図2
  • 特許-窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法 図3
  • 特許-窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20231220BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231220BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231220BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20231220BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20231220BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20231220BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20231220BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20231220BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20231220BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20231220BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20231220BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20231220BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J37/02 301P
B01J37/02 301M
B01J27/24 M
C30B33/02
C30B29/38 D
C30B25/02 Z
C01B3/04 A
C01B13/02 B
C23C14/06 N
C23C16/34
C23C16/18
C30B25/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022527273
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020511
(87)【国際公開番号】W WO2021240591
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099884(JP,A)
【文献】特開2016-043304(JP,A)
【文献】特開2017-121598(JP,A)
【文献】特開2017-121597(JP,A)
【文献】特開2015-147190(JP,A)
【文献】HAYASHI, T. et al.,High Stability and Efficiency of GaN Photocatalyst for Hydrogen Generation from Water,Jpn. J. Appl. Phys.,日本,The Japan Society of Applied Physics,2012年10月09日,Vol. 51,pp. 112601-1-112601-3,DOI: 10.1143/JJAP.51.112601
【文献】熊倉一英 他,NiO/InGaN/n-GaN光陽極の光水分解時の安定性,応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,Vol. 80,日本,応用物理学会,2019年09月04日,18a-PB3-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/02-6/34
C23C 14/00-14/58
C30B 1/00-35/00
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法であって、
絶縁性または導電性の基板の表面上にn型窒化ガリウム層を形成する第1工程と、
前記n型窒化ガリウム層の表面に窒化インジウムガリウム層を形成する第2工程と、
前記窒化インジウムガリウム層の表面の一部に金属層を形成する第3工程と、
前記窒化インジウムガリウム層と前記金属層との界面でオーミック接合を形成するために熱処理する第4工程と、
前記窒化インジウムガリウム層の表面の一部にp型金属酸化物を形成する第5工程と、
前記p型金属酸化物を熱処理する第6工程を有する
窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法であって、
前記第1工程および前記第2工程では、有機金属気相成長法を用いる
窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法であって、
前記第3工程および前記第5工程では、蒸着法またはスパッタリング法を用いる
窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法であって、
前記第6工程では、200℃以上800℃以下の温度で熱処理する
窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いた水の分解反応は、水の酸化反応とプロトンの還元反応からなる。
【0003】
酸化反応:2H2O+4h+→O2+4H+
還元反応:4H++4e-→2H2
【0004】
n型の光触媒材料に光を照射した場合、光触媒中で電子と正孔が生成分離する。正孔は光触媒材料の表面に移動し、プロトンの還元反応に寄与する。一方、電子は還元電極に移動し、プロトンの還元反応に寄与する。理想的には、このような酸化還元反応が進行し、水分解反応が生じる。
【0005】
従来の水の分解装置は、プロトン交換膜を介して繋がっている酸化槽と還元槽を有し、酸化槽に水溶液と酸化電極を入れ、還元槽に水溶液と還元電極を入れる。酸化電極と還元電極とは導線で電気的に接続される。酸化電極は、例えば、窒化物半導体、酸化チタン、またはアモルファスシリコンである。還元電極は、金属または金属化合物であり、例えば、ニッケル、鉄、金、白金、銀、銅、インジウム、チタンである。光源から酸化電極を構成する材料が吸収可能な波長の光を照射して水分解反応を生じさせる。例えば、酸化電極が窒化ガリウムで構成される場合、吸収可能な波長は365nm以下の波長である。光源は、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、疑似太陽光源、または太陽光であり、これらを組み合わせてもよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. Yotsuhashi, et al., “CO2 Conversion with Light and Water by GaN Photoelectrode”, Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 02BP07
【文献】S. Y. Reece, et al., “Wireless Solar Water Splitting Using Silicon-Based Semiconductors and Earth-Abundant Catalysts”, Science, 2011, Volume 334, pp. 645-648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような水の分解装置は構成要素が多く、反応系が複雑なことから、より簡易な反応系の実現および反応系の小型化が望まれている。例えば、光触媒槽内に光触媒薄膜と水溶液を入れた構成の装置を用い、水溶液中の光触媒薄膜に光源から光を照射して水分解反応を生じさせる。光触媒薄膜は、酸化電極と同様に、窒化物半導体、酸化チタン、またはアモルファスシリコンである。光触媒薄膜の表面には、水の分解反応を促進する金属助触媒が担持されている。単一の光触媒薄膜により水素および酸素を生成する装置の反応系は簡易であり、系の低コスト化および小型化が期待されている。
【0008】
しかしながら、シンプルな構成の装置においても、光触媒薄膜の光エネルギー変換効率が光照射時間と共に低下する問題があった。
【0009】
酸化電極および光触媒薄膜は半導体薄膜であり、例えば、サファイア基板上に成長した窒化ガリウム薄膜が用いられる。窒化ガリウム薄膜は、光照射下にて生成・分離した正孔が水の酸化反応と同時に、窒化ガリウム自身のエッチング反応に消費される。そのため、光電極が劣化し、光エネルギー変換効率が光照射時間と共に低下する問題がある。このような劣化の抑制を目的として、酸素発生用の助触媒(酸化ニッケル)を保護層として形成し、寿命向上した例が報告されている。
【0010】
窒化ガリウム薄膜で生じた正孔は窒化ガリウム薄膜中から酸化ニッケルへ移動し、酸化ニッケル表面で水の酸化反応が進行する。正孔がスムーズに移動するためには、窒化ガリウム半導体の価電子帯が酸化ニッケルの価電子帯よりも低い準位にある必要がある。しかしながら、例えば、窒化インジウムガリウムのように光吸収率向上に期待できる可視応答化半導体光触媒薄膜の場合、バンドギャップが狭くなるに従い、価電子帯の準位が高くなる。従来の手法で作製された酸化ニッケルの価電子帯は、可視応答化半導体光触媒薄膜の価電子帯よりも低い準位に位置してしまい、正孔が移動できない障壁が生成される。そのため、光吸収率を向上しても、生成する障壁により正孔が移動できず、助触媒保護層としての機能を果たさないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、光吸収率が高い単一の窒化物半導体光触媒薄膜において効率および寿命を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法であって、絶縁性または導電性の基板の表面上にn型窒化ガリウム層を形成する第1工程と、前記n型窒化ガリウム層の表面に窒化インジウムガリウム層を形成する第2工程と、前記窒化インジウムガリウム層の表面の一部に金属層を形成する第3工程と、前記窒化インジウムガリウム層と前記金属層との界面でオーミック接合を形成するために熱処理する第4工程と、前記窒化インジウムガリウム層の表面の一部にp型金属酸化物を形成する第5工程と、前記p型金属酸化物を熱処理する第6工程を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光吸収率が高い単一の窒化物半導体光触媒薄膜において効率および寿命を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法により作製される窒化物半導体光触媒薄膜の構成を示す断面図である。
図2図2は、窒化物半導体光触媒薄膜の表面に分散配置された金属層とp型金属酸化物を説明するための図である。
図3図3は、本実施形態の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法を示すフローチャートである。
図4図4は、酸化還元反応試験を行う装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下で説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において変更を加えても構わない。
【0016】
[窒化物半導体光触媒薄膜の構成]
図1は、本実施形態の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法により作製される窒化物半導体光触媒薄膜の構成を示す断面図である。図1の窒化物半導体光触媒薄膜は、水溶液中での光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる窒化物半導体光触媒薄膜である。
【0017】
図1に示す窒化物半導体光触媒薄膜1は、絶縁性または導電性の基板11、基板11の表面上に配置されたn型窒化ガリウム(n-GaN)層12、n型窒化ガリウム層12の表面上に配置された窒化インジウムガリウム(InGaN)層13、窒化インジウムガリウム層13の表面の一部にオーミック接合を形成する金属層14、および窒化インジウムガリウム層13の表面の一部に分散配置されたp型金属酸化物15を備える。窒化インジウムガリウム層13上にp型金属酸化物15を形成した窒化物半導体光触媒薄膜1を製造することで、光照射によって窒化インジウムガリウム層13中で生じる正孔がp型金属酸化物15へ移動できるようになる。
【0018】
金属層14とp型金属酸化物15は、窒化インジウムガリウム層13上に分散配置される。具体的には、図2に示すように、金属層14は、直径10μmの円盤形状であり、210μm間隔で分散配置される。p型金属酸化物15は、直径10μmの円盤形状であり、金属層14との間に100μmの間隔を持たせて分散配置される。
【0019】
[窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法]
図3を参照し、本実施形態の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法について説明する。
【0020】
ステップS1にて、絶縁性または導電性の基板11上にn型窒化ガリウム層12を形成する。n型窒化ガリウム層12は、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて形成してよい。
【0021】
ステップS2にて、n型窒化ガリウム層12上に窒化インジウムガリウム層13を形成する。窒化インジウムガリウム層13は、MOCVDを用いて形成してよい。
【0022】
ステップS3にて、窒化インジウムガリウム層13の表面の一部に金属層14を形成する。金属層14は、窒化インジウムガリウム層13に対して助触媒機能を有する材料を用い、蒸着法またはスパッタリング法により形成してよい。
【0023】
ステップS4にて、窒化インジウムガリウム層13と金属層14との界面でオーミック接合を形成するために、金属層14を形成した窒化物半導体を熱処理する。
【0024】
ステップS5にて、窒化インジウムガリウム層13の表面の一部にp型金属酸化物15を形成する。p型金属酸化物15は、p-NiOを用い、蒸着法またはスパッタリング法により形成してよい。
【0025】
ステップS6にて、p型金属酸化物15を形成した窒化物半導体を熱処理する。熱処理の温度は200℃以上800℃以下が好ましい。
【0026】
[窒化物半導体光触媒薄膜の実施例]
次に、ステップS6の熱処理温度、ステップS5で使用するp-NiOの組成比を変えて作製した実施例1~20について説明する。
【0027】
実施例1~5は、ステップS6の熱処理温度を変えた窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法の実施例である。実施例6~10および実施例11~15は、実施例1~5においてリチウムの組成比を変えた窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法の実施例である。実施例16は、実施例1においてリチウムの組成比を変えた窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法の実施例である。実施例17,18は、実施例1,3のステップS5のp型金属酸化物15の形成方法を変えた窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法の実施例である。実施例19,20は、実施例1においてp-NiOを作製する際の不純物を変えた窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法の実施例である。
【0028】
また、実施例1,3のステップS5において、p-NiOではなく、NiOを用いた比較対象例1,2についても説明する。
【0029】
<実施例1>
ステップS1にて、2インチのサファイア基板上に、シリコンをドープしたn-GaN半導体薄膜をMOCVDによりエピタキシャル成長させてn型窒化ガリウム層12を形成した。基板11としてサファイア基板を用いた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。n型不純物源にはシランガスを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n型窒化ガリウム層12の膜厚は、光を吸収するに十分足る2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0030】
ステップS2にて、n型窒化ガリウム層12上に、インジウムの組成比を5%とした窒化インジウムガリウム(InGaN)をMOCVDにより成長させて窒化インジウムガリウム層13を形成した。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。窒化インジウムガリウム層13の膜厚は、光を十分に吸収するに足る100nmとした。
【0031】
ステップS3にて、窒化インジウムガリウム層13の表面に、直径10μmの円盤形状の金属層14を210μm間隔で真空蒸着した。ここでは、半導体側から順に、Tiを25nm、Alを50nm、Tiを25nm、Ptを100nmの厚さで積層した。
【0032】
ステップS4にて、金属層14を形成した半導体薄膜を窒素雰囲気下で、800℃で30秒間熱処理を行った。熱処理により、窒化インジウムガリウム層13と金属層14の界面において疑似的なオーミック接合を形成した。
【0033】
ステップS5にて、窒化インジウムガリウム層13の表面に、金属層14と100μmの間隔を持たせて、直径10μmの円盤形状のp-NiOを膜厚2nmで真空蒸着し、100μm間隔で金属層14とp型金属酸化物15とが交互に並ぶようにp型金属酸化物15を形成した。
【0034】
p型金属酸化物15の形成に使用したp-NiOは、Liの組成比が所望の値となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定め、NiO粉末と酸化リチウム粉末を混合し、電気炉内で熱処理して作製した。実施例1では、Liの組成比が1%(Niの組成比は99%)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。得られたp-NiO粉末の体積抵抗率は、NiO粉末の体積抵抗率に比べて、およそ4桁低く、NiO粉末はp型化し導電率が向上していることが分かった。
【0035】
ステップS6にて、ステップS5で得られた半導体薄膜をホットプレート上で、空気雰囲気中、200℃、1時間熱処理した。なお、ステップS6は、電気炉で熱処理してもよい。
【0036】
以上の工程により、実施例1の窒化物半導体光触媒薄膜を得た。
【0037】
<実施例2>
実施例2の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、ステップS6の熱処理において、熱処理温度を500℃とした。その他の点においては実施例1と同様である。
【0038】
<実施例3>
実施例3の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、ステップS6の熱処理において、熱処理温度を800℃とした。その他の点においては実施例1と同様である。
【0039】
<実施例4>
実施例4の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、ステップS6の熱処理において、熱処理温度を100℃とした。その他の点においては実施例1と同様である。
【0040】
<実施例5>
実施例5の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、ステップS6の熱処理において、熱処理温度を900℃とした。その他の点においては実施例1と同様である。
【0041】
<実施例6>
実施例6の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が10%(LiとNiの比が1:9)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例1と同様である。
【0042】
<実施例7>
実施例7の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例2のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が10%(LiとNiの比が1:9)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例2と同様である。
【0043】
<実施例8>
実施例8の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例3のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が10%(LiとNiの比が1:9)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例3と同様である。
【0044】
<実施例9>
実施例9の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例4のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が10%(LiとNiの比が1:9)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例4と同様である。
【0045】
<実施例10>
実施例10の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例5のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が10%(LiとNiの比が1:9)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例5と同様である。
【0046】
<実施例11>
実施例11の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が40%(LiとNiの比が4:6)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例1と同様である。
【0047】
<実施例12>
実施例12の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例2のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が40%(LiとNiの比が4:6)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例2と同様である。
【0048】
<実施例13>
実施例13の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例3のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が40%(LiとNiの比が4:6)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例3と同様である。
【0049】
<実施例14>
実施例14の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例4のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が40%(LiとNiの比が4:6)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例4と同様である。
【0050】
<実施例15>
実施例15の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例5のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が40%(LiとNiの比が4:6)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例5と同様である。
【0051】
<実施例16>
実施例16の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5で使用するp-NiOを作製する際、Liの組成比が50%(LiとNiの比が5:5)となるようにNiO粉末と酸化リチウム粉末の重量を定めた。その他の点においては実施例1と同様である。
【0052】
<実施例17>
実施例17の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5において、p-NiO粉末からターゲット(焼結体)を作製し、スパッタリング法によってp型金属酸化物15を形成した。その他の点においては実施例1と同様である。
【0053】
<実施例18>
実施例18の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例3のステップS5において、p-NiO粉末からターゲット(焼結体)を作製し、スパッタリング法によってp型金属酸化物15を形成した。その他の点においては実施例3と同様である。
【0054】
<実施例19>
実施例19の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5において、不純物に銀(Ag)を用いて作製したp-NiOを蒸着した。その他の点においては実施例1と同様である。
【0055】
<実施例20>
実施例20の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5において、不純物にカリウム(K)を用いて作製したp-NiOを蒸着した。その他の点においては実施例1と同様である。
【0056】
<比較対象例1>
比較対象例1の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例1のステップS5において、p-NiOではなく、NiOを蒸着した。その他の点においては実施例1と同様である。
【0057】
<比較対象例2>
比較対象例1の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法では、実施例3のステップS5において、p-NiOではなく、NiOを蒸着した。その他の点においては実施例3と同様である。
【0058】
[酸化還元反応試験]
実施例1~20と比較対象例1~2について図4の装置を用いて酸化還元反応試験を行った。
【0059】
内容量150mlの石英窓付き反応セルを光触媒槽110として用い、光触媒槽110内に撹拌子120と水溶液130を入れた。水溶液130には、1mol/lの水酸化カリウム水溶液125mlを用いた。
【0060】
実施例1~20および比較対象例1~2の半導体光触媒薄膜を水溶液130中に浸し、金属層14とp型金属酸化物15を形成した窒化インジウムガリウム層13の面が光源140を向くように固定した。
【0061】
窒素ガスを200ml/minで30分間バブリングして脱泡および空気との置換を終えた後、シリコンテフロンセプタムで密閉した。光触媒槽110内の圧力は大気圧(1気圧)とした。
【0062】
光源140には、300Wの高圧キセノンランプ(波長400nm以上をカット、照度5mW/cm2)を用いた。光源140の光を、光触媒槽110の石英窓の外側から、半導体光触媒薄膜に均一に照射した。
【0063】
サンプルの光照射面積を1cm2とし、撹拌子120とスターラーを用い、光触媒槽110の底の中心位置で250rpmの回転速度で水溶液130を撹拌した。
【0064】
光照射後任意の時間に、光触媒槽110のガスをセプタム部分からシリンジで採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計にて反応生成物を分析した。その結果、水素と酸素が生成していることを確認した。
【0065】
[試験結果]
実施例1~20および比較対象例1~2における、光照射から1時間後および10時間後の酸素・水素ガスの生成量を表1に示す。各ガスの生成量は、半導体光触媒薄膜の表面積で規格化して示した。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例1~15,17,18の光照射から1時間後の水素・酸素生成量に大きな差異は見られなかった。なお、リチウムの組成比を50%とした実施例16では、NiOの単相は得られず、不純物として酸化リチウムが残存し、p-NiOが得られないことがわかった。
【0068】
熱処理温度が200℃から800℃の実施例1,2,3,6,7,8,11,12,13,17,18の光照射から10時間後の水素・酸素生成量は、その他の実施例の10時間後の生成量に比べて20倍であることがわかった。
【0069】
熱処理温度を100℃とした実施例4,9,14では、10時間後の水素・酸素生成量は、1時間後の水素・酸素生成量から大きく低下した。熱処理温度が100℃の場合では、p-NiOとInGaN界面の接合が弱く、光触媒薄膜との界面に空隙が生成されたことで、空隙を起点とした電極性能劣化が進行し、10時間後にはおおよそ触媒として失活したためと考えられる。
【0070】
熱処理温度を900℃とした実施例5,10,15では、10時間後の水素・酸素生成量は、1時間後の水素・酸素生成量から大きく低下した。熱処理温度が900℃の場合では、窒化インジウムガリウム層13の結晶性が悪くなり、光照射とともに進行するエッチング反応により、生成した電子-正孔が再結合する確率が高まったことで、光照射から10時間後には反応に必要な電荷を取り出せなくなったためと考えられる。
【0071】
これらの結果より、長寿命化に期待できるp型金属酸化物15形成の熱処理条件は、温度が200℃以上800℃以下ということを抽出した。
【0072】
実施例17,18と実施例1,3の光照射から1時間後および10時間後の酸素・水素生成量は同じ程度であり、スパッタリング法によりp型金属酸化物15を形成しても、蒸着法によりp型金属酸化物15を形成したものと同様の効果が得られることがわかった。
【0073】
実施例19,20では、不純物としてAgおよびKを用いて作製したp-NiOでも同様の効果が得られることがわかった。
【0074】
比較対象例1,2では、光照射から1時間後および10時間後のいずれにおいても水素・酸素の生成量が低かった。これは、NiOの場合、InGaN界面の障壁を正孔が移動できないことが影響していると考えられる。
【0075】
以上から、ステップS6のp型金属酸化物15形成の熱処理条件を200℃以上800℃以下とし、ステップS5においてp型金属酸化物15の形成に用いるp-NiO粉末を作製するためのLiの組成比をNiに対して40%以下とすることで、水分解反応(光エネルギー変換効率)の高効率化および長寿命化を図ることができた。また、p型金属酸化物15の形成は蒸着法に限らずスパッタリング法も有効であり、p-NiOを作製する際にLiに限らずAgまたはKを不純物として使用することも有効であることがわかった。
【0076】
以上説明したように、本実施形態の窒化物半導体光触媒薄膜の製造方法は、絶縁性または導電性の基板11上にn型窒化ガリウム層12を形成する工程と、n型窒化ガリウム層12上に窒化インジウムガリウム層13を形成する工程と、窒化インジウムガリウム層13の表面の一部に金属層14を形成する工程と、窒化インジウムガリウム層13と金属層14との界面でオーミック接合を形成するための熱処理する工程と、窒化インジウムガリウム層13の表面の一部にp型金属酸化物15を形成する工程と、p型金属酸化物15を形成した半導体薄膜を熱処理する工程を有する。窒化インジウムガリウム層13上にp型の半導体としての特性を示すp型金属酸化物15を酸化反応用助触媒として形成し、窒化インジウムガリウム層13の同一表面上に金属層14を還元反応用助触媒として形成することで、光吸収率が高い単一の窒化物半導体光触媒薄膜1において効率および寿命を向上できる。
【0077】
なお、本実施形態では目的生成物を水素としたが、還元反応用助触媒である金属層14の再表面の金属を例えば、Ni,Fe,Au,Pt,Ag,Cu,In,Ti,Co,Ruに変えたり、セル内の雰囲気を変えることで、二酸化炭素の還元反応による炭素化合物の生成、窒素の還元反応によるアンモニアの生成も可能である。
【0078】
酸化還元反応試験に用いる水溶液130は、水酸化ナトリウム以外に、水酸化カリウム水溶液、塩酸のようなイオン移動させる電解質を溶解させた水溶液でも構わない。特に、GaNはアルカリ性水溶液が好ましい。
【符号の説明】
【0079】
1…窒化物半導体光触媒薄膜
11…基板
12…n型窒化ガリウム層
13…窒化インジウムガリウム層
14…金属層
15…p型金属酸化物
図1
図2
図3
図4