(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】測定システム、および、測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 29/26 20060101AFI20231220BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01R29/26 D
G01R35/00 K
(21)【出願番号】P 2022539860
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029018
(87)【国際公開番号】W WO2022024249
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】荒井 稔登
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 陽平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潤
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-255342(JP,A)
【文献】特開2002-55126(JP,A)
【文献】国際公開第2020/149135(WO,A1)
【文献】米国特許第6177804(US,B1)
【文献】荒井 稔登,非接地状態の電圧測定装置を用いた伝導電磁ノイズ測定手法の提案,電子情報通信学会2019年通信ソサイエティ大会講演論文集1,日本,2019年08月27日,p.235
【文献】荒井 稔登,デバイス装着型電磁ノイズ測定への対地容量測定手法の適用性評価,電子情報通信学会2020年総合大会講演論文集 通信1,日本,2020年03月03日,p.265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/26
G01R 35/00
G01R 29/08
G01R 29/00
G01R 27/26
G01R 15/04
G01R 15/12
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定する測定器と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、自補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧を測定する補正装置と、前記測定器と前記補正装置とにそれぞれ通信可能に接続された演算装置と、を備えた測定システムにおいて、
前記演算装置は、
前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ誘電体板に設置された状態において、前記誘電体板の厚みを変更させる毎に、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、疑似電磁ノイズに基づき前記測定器で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成する生成部と、
前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値に対応する前記補正用データの値を前記リストから取得し、前記測定器で測定された電磁ノイズの対地電圧を当該補正用データの値で補正する補正部と、
を備える測定システム。
【請求項2】
前記補正用データは、
前記測定器のグラウンド線に接続され、前記誘電体板に設置された導体板の対地容量である請求項1に記載の測定システム。
【請求項3】
前記補正用データは、
前記測定器で測定された電磁ノイズの対地電圧に対して乗ずることで補正後の電磁ノイズの対地電圧を求めることが可能な補正係数である請求項1に記載の測定システム。
【請求項4】
前記補正係数は、
信号発生装置から出力された前記疑似電磁ノイズの電圧と前記測定器で測定された前記疑似電磁ノイズの電圧との比である請求項3に記載の測定システム。
【請求項5】
グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定する測定器と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、自補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧を測定する補正装置と、前記測定器と前記補正装置とにそれぞれ通信可能に接続された演算装置と、を用いて行う測定方法において、
前記演算装置は、
前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ誘電体板に設置された状態において、前記誘電体板の厚みを変更させる毎に、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、疑似電磁ノイズに基づき前記測定器で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成するステップと、
前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値に対応する前記補正用データの値を前記リストから取得し、前記測定器で測定された電磁ノイズの対地電圧を当該補正用データの値で補正するステップと、
を行う測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定システム、および、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信に使用される信号と同じ周波数帯域の電磁ノイズは、電源ケーブルや通信ケーブルを経由して通信機器に侵入し、通信機器で通信障害を発生させる。例えば、電気自動車の急速充電器から発生した数百kHzから数MHzの電磁ノイズが、同じ周波数帯域のADSL通信を遮断させる場合がある。
【0003】
電磁ノイズは、目で見ることができない電気信号であり、電磁ノイズによる通信障害は、ケーブル破断のように目視で障害原因を特定できない。そのため、電磁ノイズに起因することが疑われる通信障害が発生した場合、保守担当者はオシロスコープなどの測定器を用いて、ケーブルに流れる電磁ノイズの強度や周波数を測定する。その際、その電磁ノイズが大地または大地に接続された大きな導体(以降、大地)をリターンパスとするループを形成することが多いため、測定対象のケーブルと大地との間の電圧、すなわち、測定対象のケーブルに流れる電磁ノイズの対地電圧を測定する。
【0004】
通常、電磁ノイズの対地電圧は、使用する測定器の接地を取り、その測定器のパッシブプローブまたは容量性電圧プローブ(非特許文献1参照)を測定対象のケーブルに接触またはクランプすることで、測定される。一方、測定器の接地を取ることが難しい場合には、測定器の接地を取らない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定するとともに、測定器と同じ高度の位置に設置した対地容量測定機構(非特許文献2参照)で測定器の対地容量を間接的に測定する。そして、測定器で測定した誤差のある電磁ノイズの対地電圧を、対地容量測定機構で測定した測定器の対地容量を用いて補正することで、正確な電磁ノイズの対地電圧を得る(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ryuichi KOBAYASHI、外5名、“A Novel Non-contact Capacitive Probe for Common-Mode Voltage Measurement”、IEICE TRANS. COMMUN.、VOL.E90-B、NO.6、DOI: 10.1093/ietcom/e90-b.6.1329、2007年6月、p.1329-p.1337
【文献】荒井稔登、外2名、“測定器の簡易的接地に向けた対地静電容量の見積もり手法の提案”、2019年3月19日-22日、電子情報通信学会総合大会、B-4-44、通信講演論文集1、p.264
【文献】Naruto ARAI、外3名、“Method of Measuring Conducted Noise Voltage with a Floating Measurement System to Ground”、IEICE TRANSACTIONS on Communications、DOI:10.1587/transcom.2019MCP0001、The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers、2020年4月8日、p.1-p.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2,3の技術を用いることで、測定器が非接地状態であっても正確に電磁ノイズの対地電圧を測定できる。ただし、測定器のグラウンド線に接続される導体板と大地との間に形成される対地容量C、対地容量測定機構の電極の対地容量Cが、それぞれ、導体板または電極の面積S、導体板または電極と大地との間に存在する物質の厚みdk、比誘電率εkを用いて、式(1)で表されることを前提としている。なお、ε0は、電気定数である。Nは、電極と大地との間に存在する物質層の総数である。
【0007】
【0008】
しかし、測定器および対地容量測定機構を設置する測定場所と大地との間が離れている場合、式(1)は成立しないため、正確な測定器の対地容量が得られず、電磁ノイズの対地電圧を正確な測定器の対地容量で補正できない、という課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、非接地状態の測定器で電磁ノイズの対地電圧を測定する手法において、測定器を設置する測定場所と大地との間の距離が離れている場合であっても、電磁ノイズの対地電圧を精度よく測定可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の測定システムは、グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定する測定器と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、自補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧を測定する補正装置と、前記測定器と前記補正装置とにそれぞれ通信可能に接続された演算装置と、を備えた測定システムにおいて、前記演算装置は、前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ誘電体板に設置された状態において、前記誘電体板の厚みを変更させる毎に、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、疑似電磁ノイズに基づき前記測定器で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成する生成部と、前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値に対応する前記補正用データの値を前記リストから取得し、前記測定器で測定された電磁ノイズの対地電圧を当該補正用データの値で補正する補正部と、を備える。
【0011】
本発明の一態様の測定方法は、グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定する測定器と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、自補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧を測定する補正装置と、前記測定器と前記補正装置とにそれぞれ通信可能に接続された演算装置と、を用いて行う測定方法において、前記演算装置は、前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ誘電体板に設置された状態において、前記誘電体板の厚みを変更させる毎に、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、疑似電磁ノイズに基づき前記測定器で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成するステップと、前記測定器と前記補正装置とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、前記補正装置で測定された前記変動電圧の値に対応する前記補正用データの値を前記リストから取得し、前記測定器で測定された電磁ノイズの対地電圧を当該補正用データの値で補正するステップと、を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非接地状態の測定器で電磁ノイズの対地電圧を測定する手法において、測定器を設置する測定場所と大地との間の距離が離れている場合であっても、電磁ノイズの対地電圧を精度よく測定可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、アクリル板の厚みに対する導体板の対地容量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、非接地状態の測定器で電磁ノイズの対地電圧を測定する場合の等価回路を示す図である。
【
図4】
図4は、補正装置の等価回路を示す図である。
【
図5】
図5は、事前作業時における測定システムの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1における事前作業の処理フローを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1における測定作業の処理フローを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2における事前作業の処理フローを示す図である。
【
図9】
図9は、実施例2における測定作業の処理フローを示す図である。
【
図10】
図10は、演算装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0015】
[発明の概要]
本発明は、電源ケーブルや金属製の通信ケーブルに生じる電磁ノイズを簡易に測定する手法に関する発明である。既に説明したように、測定器および対地容量測定機構を設置する測定場所と大地との間が離れている場合、式(1)は成立しない。例えば、250mm×120mmの第1導体板をアクリル板を挟んで大きな第2導体板の上に置いた場合の第1導体板と第2導体板との間の静電容量、つまり、第1導体板の対地容量を
図1に示す。
【0016】
図1の三角プロットは、電磁界解析によって求めた第1導体板の第1対地容量C1である。丸プロットは、式(1)が成立すると仮定した場合の第1導体板の第2対地容量C2である。四角プロットおよび四角プロットを繋いだ線は、第2対地容量C2が第1対地容量C1の何倍であるかを示すグラフである。三角プロットおよび丸プロットの目盛りは左側の目盛り、四角プロットおよび四角プロットを繋いだ線の目盛りは右側の目盛りである。
【0017】
図1において、四角プロットおよび四角プロットを繋いだ線は、アクリル板の厚みが増すに従って1から次第に離れていく。これは、式(1)の対地容量モデルが、測定器および対地容量測定機構を設置する測定場所と大地との間が離れている場合には成立しないことを示している。
【0018】
そこで、本発明では、式(1)は用いず、電磁ノイズの対地電圧を補正するための補正用のリストを事前に生成しておき、測定場所において非接地状態の測定器で測定された不正確な誤差のある電磁ノイズの対地電圧を当該補正用のリストを用いて補正することで、課題を解決する。
【0019】
具体的には、電磁ノイズの測定場所において非接地状態の測定器で測定された不正確な電磁ノイズの対地電圧を、測定器のグラウンド線に接続される導体板の対地容量を用いて補正する手法(実施例1)、所定の補正係数を用いて補正する手法(実施例2)、を開示する。なお、本発明でも、従来技術で用いていた「対地容量測定機構」と同じ構成を備える装置を用いるが、本発明では、対地容量は利用しないため、その装置を「補正装置」と表現する。
【0020】
例えば、事前作業にて、補正装置で測定した測定結果(補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧)と、実施例1では測定器のグラウンド線に接続される導体板の対地容量とを関係付け、実施例2では補正係数とを関係付けて、リスト化しておく。その後、測定場所において、非接地状態の測定器で測定した不正確な電磁ノイズの対地電圧を、補正装置で測定した測定結果(変動電圧)に対応する導体板の対地容量または補正係数で補正する。
【0021】
本発明は、式(1)を用いないので、式(1)が成立しないという問題が発生せず、測定器および対地容量測定機構を設置する測定場所と大地との間の距離が大きくなった場合であっても、電磁ノイズの対地電圧を高精度に測定可能となる。
【0022】
[測定器]
図2は、非接地状態の測定器1で電磁ノイズの対地電圧を測定する場合の等価回路を示す図である。測定の際は、測定器1のグラウンド線に導体板を銅線などで接続し、その導体板の上に測定器1を設置する。V
nは、測定対象である電磁ノイズの対地電圧である。Z
nは、等価的な電磁ノイズの負荷インピーダンスである。Z
mは、測定器1の入力インピーダンスである。V
mは、測定器1で測定される電磁ノイズの対地電圧である。C
mは、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量である。このとき、Z
nは一般的に小さい値であるため、測定器1で測定される電磁ノイズの対地電圧V
mは、式(2)で表される。なお、ω
nは、電磁ノイズの角周波数である。jは、虚数単位である。
【0023】
【0024】
式(2)より、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量Cmによって、測定器1で測定される電磁ノイズの対地電圧Vmは、測定対象である電磁ノイズの対地電圧Vnよりも小さくなる。そこで、実施例1では、事前作業で生成した補正用のリストから対地容量Cmを求め、式(2)を変換した式(3)に対地容量Cmを代入して解くことで、測定器1で測定した電磁ノイズの対地電圧Vmを、測定対象である電磁ノイズの対地電圧Vnに補正する。
【0025】
【0026】
実施例2では、事前作業で作成した補正用のリストから補正係数Xを求め、式(4)を用いて計算することで、測定器1で測定した電磁ノイズの対地電圧Vmを、測定対象である電磁ノイズの対地電圧Vnに補正する。なお、実施例2では、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量Cmを求める必要はない。
【0027】
【0028】
[実施例1]
実施例1について説明する。
【0029】
図3は、補正装置2の構成を示す図である。補正装置2は、電圧測定回路21と、発振回路22と、第1電極23aと、第2電極23bと、第3電極23cと、第1スペーサ24aと、第2スペーサ24bと、を備える。第1電極23aおよび第2電極23bは、離間して同じ高度に配置され、第1スペーサ24aを挟んで第3電極23cに対向配置されている。電圧測定回路21と発振回路22は、直列に接続されている。電圧測定回路21の各端は、第1電極23aと第3電極23cとにそれぞれ接続されている。発振回路22の各端は、第2電極23bと第3電極23cとにそれぞれ接続されている。第2スペーサ24bは、第1電極23aおよび第2電極23bの下に配置されている。
【0030】
図4は、大地を含めた補正装置2の等価回路を示す図である。発振回路22から信号を出力すると、電圧測定回路21に電圧V
rが生じる。電圧測定回路21の入力インピーダンスを十分に大きく設計すると、その電圧V
rは式(5)で表される。
【0031】
【0032】
なお、Voutは、発振回路22の出力電圧である。Routは、発振回路22の出力抵抗である。C1は、第1電極23aの対地容量である。C2は、第2電極23bの対地容量である。C3は、第3電極23cの対地容量である。C4は、第1電極23aと第3電極23cとの間の静電容量である。C5は、第2電極23bと第3電極23cとの間の静電容量である。ωは、発振回路22から出力される信号の角周波数である。
【0033】
式(5)は、C1、C2、C3の値によって、電圧Vrが変化するということを示している。例えば、C1、C2、C3の値が小さい場合、つまり、補正装置2と大地との間の距離が離れている場合、もしくは、補正装置2と大地との間の物質の比誘電率が小さい場合、電圧Vrは小さい値となる。
【0034】
この補正装置2を用いて、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量C
m(
図2参照)を電磁ノイズの測定場所で求めるためには、補正装置2の電圧V
rと、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量C
mと、の対応関係を事前に求めておく必要がある。以降、この事前作業を説明する。
【0035】
図5は、事前作業時における測定システムの構成を示す図である。大きな導体としてのシールドルーム床3の上に、アクリル板や木材などの誘電体板4を置き、その上に補正装置2を置く。次に、電圧が2V
nt、角周波数がω
ntの正弦波を出力する信号発生装置5を、信号発生装置5の出力インピーダンスと同じ大きさの抵抗6で、シールドルーム床3に接続する。この作業は、抵抗6に、測定対象である電磁ノイズの対地電圧V
nに相当するV
ntの電圧が生じるようにするための作業である。次に、測定器1のグラウンド線に導体板7に接続し、導体板7を誘電体板4の上に置く。測定器1は、導体板7の上に置く。これにより、補正装置2と導体板7との高度は等しくなる。最後に、演算装置8を、測定器1と、補正装置2と、信号発生装置5とにそれぞれ有線または無線で通信可能に接続する。
【0036】
図5の測定システムにおいて、測定器1は、グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧V
mを測定する。補正装置2は、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧V
mの誤差を補正するために用いられ、補正装置2の対地容量C
1、C
2、C
3の大きさに応じて変化、変動する電圧V
rを測定する。演算装置8は、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧V
mと抵抗6に生じた電圧V
nとを用いて測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量C
mを求め、補正装置2の電圧V
rと、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量C
mと、の対応関係をリスト化する。演算装置8は、例えば、事前作業時に機能する生成部81と、測定場所での測定作業時に機能する補正部82と、測定結果などの各種データを記憶する記憶部83と、を備える。
【0037】
生成部81は、測定器1と補正装置2とがそれぞれ誘電体板4に設置された状態において、誘電体板4の厚みを変更させる毎に、補正装置2で測定された電圧Vrの値と、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧Vmの誤差を補正するために用いられ、信号発生装置5から出力された疑似電磁ノイズとしての信号に基づき測定器1で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成して記憶部83に記憶する機能を備える。
【0038】
補正部82は、測定器1と補正装置2とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、補正装置2で測定された電圧Vrの値に対応する補正用データの値を記憶部83のリストから取得し、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧Vmを当該補正用データの値で補正する機能を備える。
【0039】
補正用データの値とは、実施例1では、測定器1のグラウンド線に接続され、誘電体板4に設置された導体板7の対地容量である。後述する実施例2では、補正用データの値とは、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧Vmに対して乗ずることで補正後の電磁ノイズの対地電圧Vnを求めることが可能な補正係数である。具体的には、信号発生装置5から出力された信号により抵抗6に生じた電圧Vnと、測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧Vmと、の比である。
【0040】
図6は、実施例1における事前作業の処理フローを示す図である。
【0041】
ステップS101;
まず、補正装置2は、電圧Vrを測定する。補正装置2は、電圧Vrの測定結果を演算装置8に送信する。演算装置8は、電圧Vrの測定結果を保存する。
【0042】
ステップS102;
次に、信号発生装置5は、電圧2V
ntの正弦波を出力する。信号発生装置5は、電圧2V
ntの1/2であるV
ntの電圧値を演算装置8に送信する。測定器1は、測定器1に接続されるプローブ11を用いて(
図5参照)、抵抗6に生じる電圧V
mtを測定する。測定器1は、電圧V
mtの測定結果を演算装置8に送信する。演算装置8は、電圧V
ntと電圧V
mtとを保存する。
【0043】
ステップS103;
次に、演算装置8は、電圧Vntと電圧Vmtとを、対地容量Cmを計算するための式(6)に代入して解くことで、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量Cmを求める。なお、Zmは、プローブ11まで含めた測定器1の入力インピーダンスであり、測定器1やプローブ11のデータシートに記載されている値である。
【0044】
【0045】
その後、演算装置8は、補正装置2の電圧Vrと、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量Cmと、を関係付けたリストを生成する。既にリストが生成されている場合、演算装置8は、電圧Vrと対地容量Cmとの対応関係をリストの次の行に追加する。
【0046】
ステップS104;
次に、演算装置8または測定者は、全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行したか否かを判定する。全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行していない場合、ステップS105へ進む。全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行した場合、処理を終了する。
【0047】
ステップS105;
次に、演算装置8または測定者は、誘電体板4の厚みを変更する。その後、ステップS101へ戻る。
【0048】
以降、誘電体板4の厚みを変更しながら、ステップS101~ステップS103を繰り返し実行する。これにより、演算装置8にて、誘電体板4の厚みに応じた電圧Vrと対地容量Cmとの対応関係をリスト化することができる。なお,誘電体板4の厚みを変更する方法は、例えば、測定者が手作業で変更する方法、リンク機構を演算装置8に接続して自動で行う方法がある。
【0049】
次に、電磁ノイズの測定場所での測定作業について説明する。
【0050】
図7は、実施例1における測定場所での測定作業の処理フローを示す図である。電磁ノイズの測定場所でも、測定器1と、導体板7と、補正装置2と、演算装置8とを、
図5と同じように設置する。
図5の誘電体板4が電磁ノイズの測定場所となる。
【0051】
ステップS201;
まず、補正装置2は、電磁ノイズの測定場所での電圧Vrを測定する。補正装置2は、電圧Vrの測定結果を演算装置8に送信する。
【0052】
ステップS202;
次に、演算装置8は、事前作業で作成したリストから、電磁ノイズの測定場所での補正装置2の電圧Vrに対応する、測定器1のグラウンド線に接続される導体板の対地容量Cmを選択する。
【0053】
ステップS203;
次に、測定器1は、電磁ノイズの測定場所で電磁ノイズの対地電圧Vmを測定する。測定器1は、対地電圧Vmの測定結果を演算装置8に送信する。
【0054】
ステップS204;
最後に、補正装置2は、対地容量Cmと対地電圧Vmとを式(3)に代入して解くことで、電磁ノイズの対地電圧Vnを得る。すなわち、測定器1で測定された誤差のある電磁ノイズの対地電圧Vmが、測定対象の電磁ノイズの対地電圧Vnに補正される。電磁ノイズの対地電圧Vnは、補正装置2にモニタに表示される。このとき、Vnは、周波数ごとの強度として表示してもよいし、電磁ノイズの波形として表示してもよい。これは、対地容量Cmを用いた補正を行うため、強度だけではなく位相の情報も補正できるためである。
【0055】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。
【0056】
実施例2は、実施例1と異なり、事前作業において、電圧Vrと対地容量Cmとの対応関係を求めるのではなく、補正係数Xを求める手法である。また、実施例2は、実施例1と異なり、信号発生装置5からは、単一の周波数ではなく、角周波数ωnt1から角周波数ωntMまでのM種類の周波数の正弦波を出力する。信号発生装置5から出力する電圧の大きさは、実施例1と同様に2Vntで一定である。測定システムの全体構成、測定器1や補正装置2などの仕組みについても、実施例1と同じである。以降、事前作業について説明する。
【0057】
図8は、実施例2における事前作業の処理フローを示す図である。
【0058】
ステップS301;
まず、補正装置2は、電圧Vrを測定する。補正装置2は、電圧Vrの測定結果を演算装置8に送信する。演算装置8は、電圧Vrの測定結果を保存する。
【0059】
ステップS302;
次に、信号発生装置5は、電圧2Vnt、角周波数ωntk(k=1)の正弦波を出力する。信号発生装置5は、電圧2Vntの1/2であるVntの電圧値を演算装置8に送信する。測定器1は、測定器1に接続されるプローブ11を用いて、抵抗6に生じる電圧Vmtk(k=1)を測定する。測定器1は、電圧Vmtk(k=1)の測定結果を演算装置8に送信する。演算装置8は、電圧Vntと電圧Vmtk(k=1)とを保存する。
【0060】
ステップS303;
次に、演算装置8は、電圧Vntと電圧Vmtk(k=1)とを式(7)に代入して解くことで、角周波数ωntk(k=1)における補正係数Xを計算する。
【0061】
【0062】
ステップS304;
次に、演算装置8は、k=Mであるか否かを判定する。k=Mでない場合、ステップS305へ進む。k=Mの場合、ステップS306へ進む。
【0063】
ステップS305;
次に、演算装置8は、k=k+1とし、ステップS302へ戻る。
【0064】
その後、信号発生装置5は、電圧2Vnt、角周波数ωntk(k=2)の正弦波を出力する。また、演算装置8は、角周波数ωntk(k=2)における補正係数Xを計算する。この処理を角周波数ωntkが角周波数ωntMになるまで繰り返す。
【0065】
ステップS306;
次に、演算装置8は、補正装置2の電圧Vrと、各角周波数ωntkでのそれぞれの補正係数Xと、を関係付けたリストを生成する。既にリストが生成されている場合、演算装置8は、電圧Vrと各角周波数ωntkでのそれぞれの補正係数Xとの対応関係をリストの次の行に追加する。
【0066】
ステップS307;
次に、演算装置8または測定者は、全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行したか否かを判定する。全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行していない場合、ステップS308へ進む。全ての誘電体板4の厚みについて上記測定を実行した場合、処理を終了する。
【0067】
ステップS308;
次に、演算装置8または測定者は、誘電体板4の厚みを変更する。その後、ステップS301へ戻る。
【0068】
以降、誘電体板4の厚みを変更しながら、ステップS301~ステップS306を繰り返し実行する。これにより、演算装置8にて、誘電体板4の厚みに電圧Vrと各角周波数ωntkでのそれぞれの補正係数Xとの対応関係をリスト化することができる。
【0069】
次に、電磁ノイズの測定場所での測定作業について説明する。
【0070】
図9は、実施例2における測定場所での測定作業の処理フローを示す図である。
【0071】
ステップS401;
まず、補正装置2は、電磁ノイズの測定場所での電圧Vrを測定する。補正装置2は、電圧Vrの測定結果を演算装置8に送信する。なお、電圧Vrは、角周波数ωntkごとに分解可能である。
【0072】
ステップS402;
次に、補正装置2は、事前作業で作成したリストから、電磁ノイズの測定場所での補正装置2の電圧Vrに対応する、M個すべての補正係数Xを選択する。
【0073】
ステップS403;
次に、測定器1は、電磁ノイズの測定場所で電磁ノイズの対地電圧Vmを測定する。測定器1は、対地電圧Vmの測定結果を演算装置8に送信する。
【0074】
ステップS404;
最後に、補正装置2は、各補正係数Xと対地電圧Vmとをそれぞれ式(4)に代入して解くことで、各角周波数ωntkにおける電磁ノイズの対地電圧Vnをそれぞれ得る。すなわち、測定器1で測定された誤差のある電磁ノイズの対地電圧Vmが、測定対象の電磁ノイズの対地電圧Vnに補正される。電磁ノイズの対地電圧Vnは、補正装置2にモニタに表示される。このとき、Vnは、周波数ごとの強度として表示される。
【0075】
以上、今回発明した測定手法によって、非接地状態での電磁ノイズの対地電圧測定を行う際、測定場所と大地との間の距離が離れていても正確な測定が可能になった。この理由は、従来技術で前提としていた式(1)を用いず、事前作業で補正用のリストを作成するためである。
【0076】
[実施例の効果]
実施例1では、事前作業において、測定器1のグラウンド線に接続される導体板7の対地容量Cmを、補正装置2の測定結果と関連付けた補正用のリストを作成しておき、測定現場において、このリストを用いて、補正装置2の測定結果から測定器1のグラウンド線に接続される導体板7の対地容量Cmを求め、当該対地容量Cmで、測定器1で測定した電磁ノイズの対地電圧Vmを補正する手法を説明した。
【0077】
実施例2では、事前作業において、測定器1で測定した電磁ノイズの対地電圧Vmに乗ずることで測定対象の対地電圧Vnを求めることができる補正係数Xを、補正装置2の測定結果と関連付けた補正用のリストを作成しておき、測定現場において、このリストを用いて、補正装置2の測定結果から補正係数Xを求め、当該補正係数Xで、測定器1で測定した電磁ノイズの対地電圧Vmを補正する手法を説明した。
【0078】
実施例2の手法は、測定対象としたい全周波数帯のデータを事前作業にて取得するため、実施例1よりも測定精度が高い。一方、実施例1は、事前作業にて単一周波数のデータを取得するだけでよいので、事前作業にかかる時間を実施例2よりも短縮可能であり、さらに、強度だけでなく位相の補正が可能であるため、測定結果を波形として表示することが可能である。
【0079】
以上より、本実施形態によれば、グラウンド線を接地しない状態で電磁ノイズの対地電圧を測定する測定器1と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、自補正装置の対地容量の大きさに応じて変化する変動電圧を測定する補正装置2と、前記測定器1と前記補正装置2とにそれぞれ通信可能に接続された演算装置8と、を備えた測定システムにおいて、前記演算装置8は、前記測定器1と前記補正装置2とがそれぞれ誘電体板4に設置された状態において、前記誘電体板4の厚みを変更させる毎に、前記補正装置2で測定された前記変動電圧の値と、前記電磁ノイズの対地電圧の誤差を補正するために用いられ、疑似電磁ノイズに基づき前記測定器で測定された補正用データの値と、を関係付けたリストを生成する生成部81と、前記測定器1と前記補正装置2とがそれぞれ電磁ノイズの測定場所に設置された状態において、前記補正装置2で測定された前記変動電圧の値に対応する前記補正用データの値を前記リストから取得し、前記測定器1で測定された電磁ノイズの対地電圧を当該補正用データの値で補正する補正部82と、を備えるので、測定器1を設置する測定場所と大地との間の距離が離れている場合であっても、電磁ノイズの対地電圧を精度よく測定可能な技術を提供できる。
【0080】
[その他]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0081】
上記説明した本実施形態の演算装置8は、例えば、
図10に示すように、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、演算装置8の各機能が実現される。
【0082】
演算装置8は、1つのコンピュータで実装されてもよい。演算装置8は、複数のコンピュータで実装されてもよい。演算装置8は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。演算装置8用のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。演算装置8用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0083】
1:測定器
11:プローブ
2:補正装置
21:電圧測定回路
22:発振回路
23a:第1電極
23b:第2電極
23c:第3電極
24a:第1スペーサ
24b:第2スペーサ
3:シールドルーム床
4:誘電体板
5:信号発生装置
6:抵抗
7:導体板
8:演算装置
81:生成部
82:補正部
83:記憶部
901:CPU
902:メモリ
903:ストレージ
904:通信装置
905:入力装置
906:出力装置