(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】球状フォルステライト粒子、その製造方法、及び球状フォルステライト粒子を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 33/22 20060101AFI20231220BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231220BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C01B33/22
C08L101/00
C08K3/34
(21)【出願番号】P 2020557781
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046378
(87)【国際公開番号】W WO2020111126
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018223166
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛田 将大
(72)【発明者】
【氏名】山田 修平
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-079309(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021688(WO,A1)
【文献】特開2007-039304(JP,A)
【文献】特開2015-182934(JP,A)
【文献】特開2004-284830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
C08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1μm乃至10μmの平均粒子径
を有し、
1GHz乃至10GHzにおける誘電正接が0.0003乃至0.0025
であり、
下記式(3)に従って算出される球形度が、1.0乃至3.3であり、
下記式(4)に従って算出される水分吸着量が、0.15%以下であり、
CuKα線を用いたX線回折法によって測定される2θ=52°乃至53°の回折ピークの積分強度が800counts・deg以上である、フォルステライト粒子。
球形度=L
s
/N
s
式(3)
[式(3)中、L
s
は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径(μm)を表し、N
s
は、窒素ガス吸着法に従う測定項の比表面積換算により算出された平均一次粒子径(μm)を表す。]
水分吸着量(%)=[(m
1
-m
2
)/m
2
]×100 式(4)
[式(4)中、m
1
は、温度150℃で24時間乾燥した後に温度25℃、湿度50%に48時間放置した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表し、m
2
は、温度150℃で24時間乾燥した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表す。]
【請求項2】
MgO/SiO
2モル比が1.90乃至2.10である請求項
1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項3】
下記式(1)及び式(2)で表される加水分解性シランからなる群より選ばれた少なくとも1種の加水分解性シランによって粒子の表面が被覆された請求項1
又は請求項
2に記載のフォルステライト粒子。
【化1】
[式(1)中、R
1はアクリロキシ基、メタクリロキシ基、アリール基、アルキル基、グリシドキシ基、又はそれら官能基を含む炭素原子数1乃至10のアルキレン基を含み、Si原子にSi-C結合で結合している基であり、aは1乃至3の整数を示す。R
2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり少なくとも1つのR
2の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。
式(2)中、R
3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R
4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり、少なくとも1つのR
4の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、dは0乃至3の整数を示し、eは0又は1の整数である。]
【請求項4】
下記(A)工程乃至下記(C)工程:
(A)工程:マグネシウム源となるマグネシウム化合物と、ケイ素源となるケイ素化合物をマグネシウムとケイ素がMgO/SiO
2モル比、1.90乃至2.10となるように混合してフォルステライト粒子を調製する工程、
(B)工程:(A)工程で調製されたフォルステライト粒子を、炭化水素の燃焼火炎内に投入しフォルステライト粒子を回収する工程、
(C)工程:(B)工程で得られたフォルステライト粒子を700℃乃至1100℃で焼成する工程
を含む、請求項1
又は請求項
2に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項5】
(A)工程のマグネシウム源となるマグネシウム化合物が無機マグネシウム化合物又はマグネシウム有機酸塩である請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
無機マグネシウム化合物が酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、又はこれらの混合物である請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
マグネシウム有機酸塩が炭素原子数1乃至4の脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のハロゲン化脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4の脂肪族多価カルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4の脂肪族ヒドロキシカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のアルコキシカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のオキソカルボン酸マグネシウム、又はこれらの混合物である請求項
5に記載の製造方法。
【請求項8】
(A)工程のケイ素源となるケイ素化合物が酸化ケイ素、アルコキシシラン、又はこれらの混合物である請求項
4に記載の製造方法。
【請求項9】
(B)工程で炭化水素の燃焼火炎内の温度が理論温度で1900℃乃至3000℃である請求項
4乃至請求項
8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
(C)工程で得られたフォルステライト粒子を解砕する工程(D)を更に含む、請求項
4乃至請求項
9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
(C)工程で得られたフォルステライト粒子を請求項
3に記載の加水分解性シランで被覆する工程(E)を更に含む、請求項
4乃至請求項
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
樹脂と請求項1乃至請求項
3のいずれか1項に記載のフォルステライト粒子とを含む樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂とフォルステライト粒子との割合が、質量比で1:0.001乃至1000である請求項
12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
1GHz乃至10GHzにおける誘電正接が0.0003乃至0.01である請求項
12又は請求項
13に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
球状フォルステライト粒子、その製造方法、球状フォルステライト粒子を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を利用した通信技術により高周波数化による大容量、高速データ通信が求められている。携帯電話等では通信規格4G(3GHz乃至4GHz)から、5G(28GHz)へと高周波数化が進んでいる。また自動運転装置を積載した自動車では、周囲の障害物を認識するレーダーの周波数として例えば24GHz乃至76GHz程度のミリ波レーダーを搭載する自動車があり、近年増加している。
【0003】
部品が実装された後のプリント配線基板(PCB:printedcircuit board)は配線間の絶縁に樹脂が用いられている。樹脂の絶縁性向上のために樹脂との熱膨張係数が合致していて、しかも高絶縁である物質をフィラーとして含有することが求められている。その一つとしてフォルステライトが挙げられる。
【0004】
高周波数化により信号伝達速度は向上するが、電送ロスも増加する。誘電体損失は周波数(f)と、誘電正接(tanδ)と、比誘電率(εr)に比例して増加する。
誘電率は分極の大きさを示す値で、比誘電率は媒体の誘電率と真空中の誘電率との比率を示し、いずれもコンデンサ成分になる特性の大きさを示す値である。
【0005】
誘電体は電磁波に曝されると分極が発生し電波の交番によって分極反転を誘起し、その反転の際に誘電体損失が発生する。誘電正接とは誘電体に交流電場が加わった時に誘電体の中で電気エネルギーの一部が熱になって損失することであり、交流電場の周波数が高いほど影響を受けやすく、誘電正接による損失を誘電体損失と呼ぶ。
【0006】
従って高周波特性の改善には低い誘電正接を有する低い比誘電率材料が求められる。絶縁材料をフィラーとして含有した樹脂(複合絶縁材料)をプリント配線基板に用いる上で、低い比誘電率材料による低い誘電正接を有する基板材料が求められている。
【0007】
そのようなフィラーとして使用される物質としては、例えばシリカが代表的に知られており、低い比誘電率(4.5程度)を有するが、誘電正接は0.003乃至0.005程度と高周波特性の改善につながるようなものではない。特に、誘電体損失の低減には比誘電率よりも誘電正接の寄与が大きいため、シリカに代わる材料としてフォルステライトのような低誘電正接の物質が求められる。
【0008】
フォルステライト微粒子の製造方法としては、水溶性マグネシウム塩及びコロイダルシリカをMg/Siモル比が2で含有される溶液を乾燥し、その後に800℃乃至1000℃で焼成して一次粒子径が1nm乃至200nmのフォルステライト粒子を得る方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、フォルステライト粒子等の絶縁材料を樹脂と混合する時に、粒子形状が塊状又は角張った形状の場合には、複合絶縁材料の靭性が低下することが示され、球状の絶縁性粒子を含有させることが記載されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-222517号公報
【文献】特開2003-002640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低い誘電正接を有するフォルステライト粒子を提供することを課題とする。また、基板の絶縁体材料による信号劣化を抑えるため、低誘電正接である基板材料を提供することを課題とする。また、フォルステライト粒子は低い誘電正接を有していることから、球状化し樹脂とブレンドし易い球状フォルステライト粒子を樹脂に配合し基板材料とすることで、誘電特性が向上された伝送ロス(誘電体損失)の少ない基板を提供することを課題とする。
本発明は低い誘電正接と粒子形状が球状であるフォルステライト粒子を製造し、高周波特性が向上した基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は第1観点として、0.1μm乃至10μmの平均粒子径と、0.0003乃至0.0025の誘電正接とを有するフォルステライト粒子、
第2観点として、下記式(3)に従って算出される球形度が、1.0乃至3.3である第1観点に記載のフォルステライト粒子、
球形度=L
s/N
s 式(3)
[式(3)中、L
sは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径(μm)を表し、N
sは、窒素ガス吸着法に従う測定項の比表面積換算により算出された平均一次粒子径(μm)を表す。]
第3観点として、フォルステライト粒子について下記式(4)に従って算出される水分吸着量が、0.15%以下である第1観点又は第2観点に記載のフォルステライト粒子、
水分吸着量(%)=[(m
1-m
2)/m
2]×100 式(4)
[式(4)中、m
1は、温度150℃で24時間乾燥した後に温度25℃、湿度50%に48時間放置した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表し、m
2は、温度150℃で24時間乾燥した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表す。]
第4観点として、MgO/SiO
2モル比が1.90乃至2.10である第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子、
第5観点として、下記式(1)及び式(2)で表される加水分解性シランからなる群より選ばれた少なくとも1種の加水分解性シランによって粒子の表面が被覆された第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子
【化1】
[式(1)中、R
1はアクリロキシ基、メタクリロキシ基、アリール基、アルキル基、グリシドキシ基、又はそれら官能基を含む炭素原子数1乃至10のアルキレン基を含み、Si原子にSi-C結合で結合している基であり、aは1乃至3の整数を示す。R
2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり少なくとも1つのR
2の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。
式(2)中、R
3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R
4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり、少なくとも1つのR
4の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、dは0乃至3の整数を示し、eは0又は1の整数である。]、
第6観点として、下記(A)工程乃至下記(C)工程:
(A)工程:マグネシウム源となるマグネシウム化合物と、ケイ素源となるケイ素化合物をマグネシウムとケイ素がMgO/SiO
2モル比、1.90乃至2.10となるように混合してフォルステライト粒子を調製する工程、
(B)工程:(A)工程で調製されたフォルステライト粒子を、炭化水素の燃焼火炎内に投入しフォルステライト粒子を回収する工程、
(C)工程:(B)工程で得られたフォルステライト粒子を700℃乃至1100℃で焼成する工程を含む、
第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子の製造方法、
第7観点として、(A)工程のマグネシウム源となるマグネシウム化合物が無機マグネシウム化合物又はマグネシウム有機酸塩である第6観点に記載の製造方法、
第8観点として、無機マグネシウム化合物が酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、又はこれらの混合物である第7観点に記載の製造方法、
第9観点として、マグネシウム有機酸塩が炭素原子数1乃至4の脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のハロゲン化脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4の脂肪族多価カルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4の脂肪族ヒドロキシカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のアルコキシカルボン酸マグネシウム、炭素原子数1乃至4のオキソカルボン酸マグネシウム、又はこれらの混合物である第7観点に記載の製造方法、
第10観点として、(A)工程のケイ素源となるケイ素化合物が酸化ケイ素、アルコキシシラン、又はこれらの混合物である第6観点に記載の製造方法、
第11観点として、(B)工程で炭化水素の燃焼火炎内の温度が理論温度で1900℃乃至3000℃である第6観点乃至第10観点のいずれか一つに記載の製造方法、
第12観点として、(C)工程で得られたフォルステライト粒子を解砕する工程(D)を更に含む、第6観点乃至第11観点のいずれか一つに記載の製造方法、
第13観点として、(C)工程で得られたフォルステライト粒子を第5観点に記載の加水分解性シランで被覆する工程(E)を更に含む、第6観点乃至第12観点のいずれか一つに記載の製造方法、
第14観点として、樹脂と第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子とを含む樹脂組成物、
第15観点として、上記樹脂とフォルステライト粒子との割合が、質量比で1:0.001乃至1000である第14観点に記載の樹脂組成物、及び
第16観点として、誘電正接が0.0003乃至0.01である第14観点又は第15観点に記載の樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフォルステライト粒子は結晶性が高く、低誘電正接である。したがって、樹脂とブレンドし易く、基板材料として用いた場合に良好な高周波特性を有する基板が得られるという効果を奏する。
【0013】
本発明のフォルステライト粒子は、0.1μm乃至10μmの平均一次粒子径と、0.0003乃至0.0025の誘電正接とを有する。そして特定の球形度を有する球状粒子であり、結晶性が高くX線回折測定(CuKα)で2θ=52°乃至53°の回折ピークでの積分強度が、800counts・deg以上、又は800counts・deg乃至2000counts・deg、又は800counts・deg乃至1000counts・degとなる。
【0014】
本発明では(A)工程の直後の誘電正接は0.003乃至0.02と高い値であるが、(B)工程の溶射による球状化と、(C)工程の再焼成(アニーリング)による結晶性の回復により目的とする低い誘電正接0.0003乃至0.0025に達する。
本発明では(A)工程でのフォルステライト粒子においてMgO/SiO2のモル比は、1.90乃至2.10であり、(B)工程、(C)工程、更には(D)工程、(E)工程を経てもそのモル比は変化せずに1.90乃至2.10である。
【0015】
本発明のフォルステライト粒子は、マグネシウム源となるマグネシウム化合物と、ケイ素源となるケイ素化合物をMgO/SiO2モル比、1.90乃至2.10(好ましくは2.0)に混合したマグネシウム含有ケイ素化合物から焼成によりフォルステライト粒子を製造し、該フォルステライト粒子を炭化水素の燃焼火炎内に投入する溶射法により球状フォルステライト粒子として製造することができる。溶射前の原料となるフォルステライト粒子は、粉体として燃焼火炎に投入する前に、粉砕による破砕状の粒子であるが、溶射により球状フォルステライト粒子に変化する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は0.1μm乃至10μmの平均粒子径と、0.0003乃至0.0025の誘電正接とを有するフォルステライト粒子である。
平均粒子径の値(μm)は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径(μm)を適用できる。
誘電正接の値は伝送路法や共振器法などの方法により測定することができる。後述するように、粉末やフィルムの形態での測定においては、共振器法の中でも摂動方式空洞共振器法により1GHzと、10GHzの値を測定することで評価をすることができる。
【0017】
本発明のフォルステライト粒子は、下記式(3)に従って算出される球形度が1.0乃至3.3である。
球形度=Ls/Ns 式(3)
[式(3)中、Lsは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径(μm)を表し、Nsは、窒素ガス吸着法に従う測定項の比表面積換算により算出された平均一次粒子径(μm)を表す。]
【0018】
球形度が1.0に近いほど真球であり、本発明で得られるフォルステライト粒子は球形度が1.0乃至3.3とすることができる。
【0019】
本発明のフォルステライト粒子はCuKα線を用いたX線回折法によって測定される2θ=52°乃至53°の回折ピークの積分強度が800counts・deg以上、又は800乃至2000counts・deg、又は800乃至1000counts・degである。2θ=52°乃至53°はフォルステライトに特有な(222)面、(042)面、(321)面に由来する回折X線の特性ピークが存在し、本発明のフォルステライト粒子は結晶性が高いことからそれらの積分強度は、それらを合計して800counts・deg以上、又は800乃至2000counts・deg、又は800乃至1000counts・degの範囲にある。なお、2θ=52°乃至53°のX線回折の測定では、測定に用いるX線回折装置間の機械的な誤差範囲を考慮してプラスマイナス0.5°の範囲を含めることができる。
【0020】
本発明で得られるフォルステライト粒子は溶射法で得られた粒子であるため、原料を一旦溶融して球状化したものであるから、粒子表面に存在するヒドロキシ基量が少ないため水分の吸着量も低い。これらの性質から樹脂に混合して基板用材料に用いた場合に、長期間に渡って高い絶縁性を維持することが可能である。フォルステライト粒子表面のヒドロキシ基に起因する水分吸着量の測定は、例えば100g程度のフォルステライト粒子を用い、下記式(4)に従って算出される。
水分吸着量(%)=[(m1-m2)/m2]×100 式(4)
[式(4)中、m1は、温度150℃で24時間乾燥した後に温度25℃、湿度50%に48時間放置した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表し、m2は、温度150℃で24時間乾燥した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表す。]
上記水分吸着量は、0.15%以下、又は0.001%乃至0.15%、または0.01%乃至0.15%とすることができる。
【0021】
本発明のフォルステライト粒子はMgO/SiO2モル比1.90乃至2.10とすることができる。フォルステライト粒子はMgO/SiO2モル比2.0であり、MgO/SiO2モル比が2.0で用いることが好ましいが、フォルステライト粒子中にシリカやマグネシアやステアタイト等が微量含有していても、同等の効果を奏する限り許容することができる。
【0022】
本発明ではフォルステライト粒子を更に疎水化して基板材料とした時に高い絶縁性を発揮するために、加水分解性シラン化合物をフォルステライト粒子表面に反応させることができる。
【0023】
また、本発明は下記式(1)及び式(2)で表される加水分解性シラン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の加水分解性シランによって粒子の表面が被覆されたフォルステライト粒子である。
これら加水分解性シラン化合物は下記式(1)及び式(2)で表される加水分解性シラン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の加水分解性シラン化合物を用いることができる。
【化2】
式(1)中、R
1はアクリロキシ基、メタクリロキシ基、アリール基、アルキル基、グリシドキシ基、又はそれら官能基を含む炭素原子数1乃至10のアルキレン基を含み、Si原子にSi-C結合で結合している基であり、aは1乃至3の整数を示す。R
2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり少なくとも1つのR
2の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。
式(2)中、R
3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R
4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子からなる加水分解基であり、少なくとも1つのR
4の加水分解基は金属酸化物粒子表面でM-O-Siの結合を形成し、MはSi原子又はMg原子を示す。Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、dは0乃至3の整数を示し、eは0又は1の整数である。
式(1)及び式(2)中に複数の加水分解基が存在する場合に、それらの加水分解により生じたシラノール基は金属酸化物粒子表面(フォルステライト粒子表面)に、任意の割合で結合し、M-O-Siの結合を形成できる。MはSi原子やMg原子を示す。例えば、3つの加水分解基が存在し、3つのシラノール基が形成した場合に、3つのM-O-Siの結合を形成することも、2つのM-O-Siの結合を形成することも、1つのM-O-Siの結合を形成することも可能である。残りのシラノール基はフリーで存在する。また、式(1)、及び式(2)で表される加水分解性シラン化合物中の複数の加水分解基は全て加水分解することも、一部は加水分解していない状態の加水分解基として残存することもできる。
【0024】
上記アルキル基は直鎖又は分枝を有する炭素原子数1乃至10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられる。
【0025】
また環状アルキル基を用いることもでき、例えば炭素原子数1乃至10の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル基及び2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基等が挙げられる。
【0026】
アルキレン基は上記アルキル基に由来するアルキレン基を挙げることができる。例えばメチル基であればメチレン基、エチル基であればエチレン基、プロピル基であればプロピレン基が挙げられる。
【0027】
アルケニル基としては炭素原子数2乃至10のアルケニル基であり、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-エテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-n-プロピルエテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-エチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1-i-プロピルエテニル基、1,2-ジメチル-1-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-シクロペンテニル基、2-シクロペンテニル基、3-シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-2-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1-メチル-4-ペンテニル基、1-n-ブチルエテニル基、2-メチル-1-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、2-メチル-3-ペンテニル基、2-メチル-4-ペンテニル基、2-n-プロピル-2-プロペニル基、3-メチル-1-ペンテニル基、3-メチル-2-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、3-メチル-4-ペンテニル基、3-エチル-3-ブテニル基、4-メチル-1-ペンテニル基、4-メチル-2-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1,1-ジメチル-2-ブテニル基、1,1-ジメチル-3-ブテニル基、1,2-ジメチル-1-ブテニル基、1,2-ジメチル-2-ブテニル基、1,2-ジメチル-3-ブテニル基、1-メチル-2-エチル-2-プロペニル基、1-s-ブチルエテニル基、1,3-ジメチル-1-ブテニル基、1,3-ジメチル-2-ブテニル基、1,3-ジメチル-3-ブテニル基、1-i-ブチルエテニル基、2,2-ジメチル-3-ブテニル基、2,3-ジメチル-1-ブテニル基、2,3-ジメチル-2-ブテニル基、2,3-ジメチル-3-ブテニル基、2-i-プロピル-2-プロペニル基、3,3-ジメチル-1-ブテニル基、1-エチル-1-ブテニル基、1-エチル-2-ブテニル基、1-エチル-3-ブテニル基、1-n-プロピル-1-プロペニル基、1-n-プロピル-2-プロペニル基、2-エチル-1-ブテニル基、2-エチル-2-ブテニル基、2-エチル-3-ブテニル基、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル基、1-t-ブチルエテニル基、1-メチル-1-エチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-1-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-2-プロペニル基、1-i-プロピル-1-プロペニル基、1-i-プロピル-2-プロペニル基、1-メチル-2-シクロペンテニル基、1-メチル-3-シクロペンテニル基、2-メチル-1-シクロペンテニル基、2-メチル-2-シクロペンテニル基、2-メチル-3-シクロペンテニル基、2-メチル-4-シクロペンテニル基、2-メチル-5-シクロペンテニル基、2-メチレン-シクロペンチル基、3-メチル-1-シクロペンテニル基、3-メチル-2-シクロペンテニル基、3-メチル-3-シクロペンテニル基、3-メチル-4-シクロペンテニル基、3-メチル-5-シクロペンテニル基、3-メチレン-シクロペンチル基、1-シクロヘキセニル基、2-シクロヘキセニル基及び3-シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0028】
アリール基としては炭素原子数6乃至20のアリール基が挙げられ、例えばフェニル基、o-メチルフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-クロルフェニル基、m-クロルフェニル基、p-クロルフェニル基、o-フルオロフェニル基、p-メルカプトフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-アミノフェニル基、p-シアノフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基及び9-フェナントリル基が挙げられる。
【0029】
エポキシ基を有する有機基としては、グリシドキシメチル、グリシドキシエチル、グリシドキシプロピル、グリシドキシブチル、エポキシシクロヘキシル等が挙げられる。
【0030】
アクリロイル基を有する有機基としては、アクリロイルメチル、アクリロイルエチル、アクリロイルプロピル等が挙げられる。
【0031】
メタクリロイル基を有する有機基としては、メタクリロイルメチル、メタクリロイルエチル、メタクリロイルプロピル等が挙げられる。
【0032】
メルカプト基を有する有機基としては、エチルメルカプト、ブチルメルカプト、ヘキシルメルカプト、オクチルメルカプト等が挙げられる。
【0033】
シアノ基を有する有機基としては、シアノエチル、シアノプロピル等が挙げられる。
【0034】
上記炭素原子数1乃至10のアルコキシ基としては、炭素原子数1乃至10の直鎖、分岐、環状のアルキル部分を有するアルコキシ基が挙げられ、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチロキシ基、1-メチル-n-ブトキシ基、2-メチル-n-ブトキシ基、3-メチル-n-ブトキシ基、1,1-ジメチル-n-プロポキシ基、1,2-ジメチル-n-プロポキシ基、2,2-ジメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-n-プロポキシ基、n-ヘキシロキシ基、1-メチル-n-ペンチロキシ基、2-メチル-n-ペンチロキシ基、3-メチル-n-ペンチロキシ基、4-メチル-n-ペンチロキシ基、1,1-ジメチル-n-ブトキシ基、1,2-ジメチル-n-ブトキシ基、1,3-ジメチル-n-ブトキシ基、2,2-ジメチル-n-ブトキシ基、2,3-ジメチル-n-ブトキシ基、3,3-ジメチル-n-ブトキシ基、1-エチル-n-ブトキシ基、2-エチル-n-ブトキシ基、1,1,2-トリメチル-n-プロポキシ基、1,2,2-トリメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-1-メチル-n-プロポキシ基及び1-エチル-2-メチル-n-プロポキシ基等が、また環状のアルコキシ基としてはシクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、1-メチル-シクロプロポキシ基、2-メチル-シクロプロポキシ基、シクロペンチロキシ基、1-メチル-シクロブトキシ基、2-メチル-シクロブトキシ基、3-メチル-シクロブトキシ基、1,2-ジメチル-シクロプロポキシ基、2,3-ジメチル-シクロプロポキシ基、1-エチル-シクロプロポキシ基、2-エチル-シクロプロポキシ基、シクロヘキシロキシ基、1-メチル-シクロペンチロキシ基、2-メチル-シクロペンチロキシ基、3-メチル-シクロペンチロキシ基、1-エチル-シクロブトキシ基、2-エチル-シクロブトキシ基、3-エチル-シクロブトキシ基、1,2-ジメチル-シクロブトキシ基、1,3-ジメチル-シクロブトキシ基、2,2-ジメチル-シクロブトキシ基、2,3-ジメチル-シクロブトキシ基、2,4-ジメチル-シクロブトキシ基、3,3-ジメチル-シクロブトキシ基、1-n-プロピル-シクロプロポキシ基、2-n-プロピル-シクロプロポキシ基、1-i-プロピル-シクロプロポキシ基、2-i-プロピル-シクロプロポキシ基、1,2,2-トリメチル-シクロプロポキシ基、1,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ基、2,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ基、1-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ基、2-エチル-1-メチル-シクロプロポキシ基、2-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ基及び2-エチル-3-メチル-シクロプロポキシ基等が挙げられる。
【0035】
上記炭素原子数2乃至20のアシルオキシ基としては、例えばメチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n-プロピルカルボニルオキシ基、i-プロピルカルボニルオキシ基、n-ブチルカルボニルオキシ基、i-ブチルカルボニルオキシ基、s-ブチルカルボニルオキシ基、t-ブチルカルボニルオキシ基、n-ペンチルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、3-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,1-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、2,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1-エチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、n-ヘキシルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、3-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、4-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、1,1-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,2-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,3-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2,2-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2,3-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、3,3-ジメチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1-エチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2-エチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,1,2-トリメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1,2,2-トリメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1-エチル-1-メチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1-エチル-2-メチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基、及びトシルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0037】
式(1)で示されるケイ素含有化合物としては例えば、テトラメトキシシラン、テトラクロルシラン、テトラアセトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセチキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メトキシフェニルトリメトキシシラン、メトキシフェニルトリエトキシシラン、メトキシフェニルトリアセトキシシラン、メトキシフェニルトリクロロシラン、メトキシベンジルトリメトキシシラン、メトキシベンジルトリエトキシシラン、メトキシベンジルトリアセトキシシラン、メトキシベンジルトリクロロシラン、メトキシフェネチルトリメトキシシラン、メトキシフェネチルトリエトキシシラン、メトキシフェネチルトリアセトキシシラン、メトキシフェネチルトリクロロシラン、エトキシフェニルトリメトキシシラン、エトキシフェニルトリエトキシシラン、エトキシフェニルトリアセトキシシラン、エトキシフェニルトリクロロシラン、エトキシベンジルトリメトキシシラン、エトキシベンジルトリエトキシシラン、エトキシベンジルトリアセトキシシラン、エトキシベンジルトリクロロシラン、イソプロポキシフェニルトリメトキシシラン、イソプロポキシフェニルトリエトキシシラン、イソプロポキシフェニルトリアセトキシシラン、イソプロポキシフェニルトリクロロシラン、イソプロポキシベンジルトリメトキシシラン、イソプロポキシベンジルトリエトキシシラン、イソプロポキシベンジルトリアセトキシシラン、イソプロポキシベンジルトリクロロシラン、t-ブトキシフェニルトリメトキシシラン、t-ブトキシフェニルトリエトキシシラン、t-ブトキシフェニルトリアセトキシシラン、t-ブトキシフェニルトリクロロシラン、t-ブトキシベンジルトリメトキシシラン、t-ブトキシベンジルトリエトキシシラン、t-ブトキシベンジルトリアセトキシシラン、t-ブトキシシベンジルトリクロロシラン、メトキシナフチルトリメトキシシラン、メトキシナフチルトリエトキシシラン、メトキシナフチルトリアセトキシシラン、メトキシナフチルトリクロロシラン、エトキシナフチルトリメトキシシラン、エトキシナフチルトリエトキシシラン、エトキシナフチルトリアセトキシシラン、エトキシナフチルトリクロロシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β-シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
式(2)で示されるケイ素含有化合物としては例えば、メチレンビストリメトキシシラン、メチレンビストリクロロシラン、メチレンビストリアセトキシシラン、エチレンビストリエトキシシラン、エチレンビストリクロロシラン、エチレンビストリアセトキシシラン、プロピレンビストリエトキシシラン、ブチレンビストリメトキシシラン、フェニレンビストリメトキシシラン、フェニレンビストリエトキシシラン、フェニレンビスメチルジエトキシシラン、フェニレンビスメチルジメトキシシラン、ナフチレンビストリメトキシシラン、ビストリメトキシジシラン、ビストリエトキシジシラン、ビスエチルジエトキシジシラン、ビスメチルジメトキシジシラン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0039】
アルコキシシリル基、アシロキシシリル基、又はハロゲン化シリル基の加水分解には、加水分解性基の1モル当たり、0.5モル乃至100モル、好ましくは1モル乃至10モルの水を用いる。
【0040】
また、加水分解性基の1モル当たり0.001モル乃至10モル、好ましくは0.001モル乃至1モルの加水分解触媒を用いることができる。
加水分解と表面被覆を行う際の反応温度は、通常20℃乃至80℃である。
加水分解は完全に加水分解を行うことも、部分加水分解することでも良い。即ち、加水分解物中に未加水分解モノマーが残存していても良い。
加水分解は水を加え、加熱により行うことができる。また、加水分解し表面被覆させる際に触媒を用いることができる。
加水分解触媒としては硝酸が用いられる。硝酸に加えて金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、又は無機塩基を併用することができる。
【0041】
シラン化合物で被覆する時に、乾式で行うこともできるが、フォルステライト粒子を水又は有機溶剤に分散して行うことができる。分散液は水性媒体を有機溶剤に溶剤置換して行うことができる。溶媒置換は蒸発法や限外濾過法で行うことができる。有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メチルイソブチルカルビノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエテルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸メチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、3-メチル-3-メトキシブチルブチレート、アセト酢酸メチル、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、N、N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、4-メチル-2-ペンタノール、及びγ-ブチロラクトン等を挙げることができる。
これらの溶剤は単独で、または二種以上の組み合わせで使用することができる。
【0042】
本発明のフォルステライト粒子の製造方法は下記(A)工程乃至下記(C)工程:
(A)工程:マグネシウム源となるマグネシウム化合物と、ケイ素源となるケイ素化合物をマグネシウムとケイ素がMgO/SiO2モル比、1.90乃至2.10となるように混合してフォルステライト粒子を調製する工程、
(B)工程:(A)工程で調製されたフォルステライト粒子を、炭化水素の燃焼火炎内に投入しフォルステライト粒子を回収する工程、
(C)工程:(B)工程で得られたフォルステライト粒子を700℃乃至1100℃で焼成する工程を含む。
【0043】
(A)工程のマグネシウム源となるマグネシウム化合物は無機マグネシウム化合物又はマグネシウム有機酸塩を用いることができる。
【0044】
無機マグネシウム化合物としては、例えば酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0045】
マグネシウム有機酸塩としては、例えばギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、酪酸マグネシウム、イソ酪酸マグネシウム、吉草酸マグネシウム、アクリル酸マグネシウム、クロトン酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4の脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、モノクロロ酢酸マグネシウム、ジクロロ酢酸マグネシウム、トリクロロ酢酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4のハロゲン化脂肪族モノカルボン酸マグネシウム、マロン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、アジピン酸マグネシウム、マレイン酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4の脂肪族多価カルボン酸マグネシウム、グリコール酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、グリセリン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4の脂肪族ヒドロキシカルボン酸マグネシウム、メトキシ酢酸マグネシウム、エトキシ酢酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4のアルコキシカルボン酸マグネシウム、アセト酢酸マグネシウム等の炭素原子数1乃至4のオキソカルボン酸マグネシウム、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0046】
(A)工程のケイ素源となるケイ素化合物が酸化ケイ素、アルコキシシラン、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0047】
酸化ケイ素としては、例えばコロイダルシリカ、シリカゲル、ヒュームドシリカ、アエロジル、沈降シリカ、溶融シリカ、珪石等を用いることができる。これらの粒子径としては平均一次粒子径として10nm乃至100μmの範囲で用いることができる。
【0048】
ケイ素源となるケイ素化合物としてのアルコキシシランは、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、又はそれらの加水分解物、若しくは加水分解縮合物、又はそれらの混合物を用いることができる。アルコキシシランを加水分解・縮合して得られたシリカ粒子を用いることができる。
【0049】
マグネシウム源となるマグネシウム化合物とケイ素源となるケイ素化合物を乾式又は湿式で混合することができる。乾式で混合する場合は、それぞれの粉体をミキサー等で均一に混合することができる。また、湿式で混合する場合は、一方の水性媒体に他方の粉末を混合するか、又は両水性媒体をディスパー等の混合分散機を用いて混合することができる。コロイダルシリカは水性媒体としてシリカゾルを用いることが可能であり、上記水性媒体として用いることが可能である。
【0050】
本発明に用いられるフォルステライト粒子はマグネシウム源となるマグネシウム化合物とケイ素源となるケイ素化合物をMgO/SiO2モル比、1.90乃至2.10(好ましくは2.0)となるように混合し焼成して原料となるフォルステライト粒子を調製し、後述(B)工程に用いる原料とすることができる。また市販のフォルステライト粒子を出発原料として、後述(B)工程に用いる原料とすることもできる。
【0051】
マグネシウム源となるマグネシウム化合物とケイ素源となるケイ素化合物を混合し焼成して本発明の原料となるフォルステライト粒子を合成する場合、焼成温度は800℃乃至1800℃で、焼成時間は1時間乃至10時間程度の焼成を行うことが好ましい。この(A)工程で得られたフォルステライト粒子は非球状粒子であり、その後(B)工程で溶射を行うために粉砕により微細な非球状(破砕状)粉体にすることができる。
【0052】
本発明では(B)工程を経由しても破砕状粒子が粒子径を維持したまま球状化することができる。(A)工程の粒子径は(C)工程で得られる球状粒子の粒子径に近い粒子径とすることができる。従って、(A)工程での破砕状フォルステライトの粒子径は0.1μm乃至10μmの範囲に設定することができる。
【0053】
(B)工程は非球状(破砕状)フォルステライト粒子を溶射により球状フォルステライト粒子にする工程である。(A)工程で調製されたフォルステライト粒子を炭化水素の燃焼火炎内に投入する工程である。これら溶射法ではバーナーの燃焼火炎内に原料を投入することで、原料が溶融し、重力により落下する途中で表面張力により球状化させることができる。このため、炭化水素の燃焼火炎内に投入された破砕状粒子のフォルステライトは溶融し、重力により落下する途中で表面張力により球状化して球状フォルステライト粒子が生成する。得られた球状フォルステライト粒子は、表面が溶融したために表面シラノール基が少なく、比表面積が低く、融着を生じ難い粒子である。破砕状のフォルステライト粒子を燃焼火炎内に投入する場合は、水溶液でも粉体状でも可能であるが、溶融を促進するために、直接に粉体状のフォルステライト粒子を燃焼火炎内に投入することが好ましい。
【0054】
バーナーは炭化水素を燃焼するための気体(燃焼用気体)として空気(酸素濃度20.9%)と、酸素富化空気(酸素濃度が20.9%を超え、100%未満)、酸素(酸素濃度100%)を用いることができる。炭化水素を燃焼させるバーナーは、空気バーナー(理論温度1800℃)と、酸素富化空気バーナー(理論温度1800℃乃至2800℃)、酸素バーナー(理論温度2800℃乃至3000℃)とがあるが、フォルステライトの融点が1880℃乃至1900℃であることから(B)工程の炭化水素の燃焼火炎内の理論温度は1900℃乃至3000℃が好ましく、酸素バーナーを用いることが好ましい。
【0055】
バーナーへの原料投入は、原料フォルステライト粒子の水性媒体、又は原料フォルステライト粒子自体を粉体で取り扱うことが可能であるため、本発明では後者の粉体を直接にバーナーに投入する方法を採用できる。燃焼炉では炭化水素ガス(例えば規格13Aの工業用都市ガスや、プロパンガスを炭化水素源として用いる。)と、燃焼用気体(酸素)により生じた火炎中に原料フォルステライト粒子の粉体を投入し、燃焼炉上部で溶融し蒸気化凝集したフォルステライト粒子が、燃焼炉下部に落下する過程で球状になると共に冷却される。燃焼炉下部に誘導されたフォルステライト粒子を含む燃焼後の気体は、外部空気で希釈冷却され、ファンによる上記気体の吸引で、サイクロン集塵装置とフィルター装置を経て炉外に取り出される。配管の途中にサイクロンとフィルターとを設置することで球状フォルステライト粒子を分取することができる。回収率は40%乃至90%の範囲に設定することができる。
【0056】
炉中の燃焼量としては装置のサイズに依存するが、例えば5万kcal/時間乃至20万kcal/時間の範囲内で、例えば12万kcal/時間、炉内への原料粉体の供給速度は例えば1kg乃至20kg/時間の範囲内で、例えば7.5kg/時間に設定することができる。
【0057】
(C)工程では(B)工程で得られたフォルステライト粒子を700℃乃至1100℃で焼成することで結晶化度を向上させるものである。上記フォルステライト粒子は、溶射法による製造に起因して表面積が小さく、表面ヒドロキシ基量が少ないため水分の吸湿が低い、また粒子同士の融着を生じ難い等の特徴を有するものである。(C)工程での再焼成温度は700℃乃至1100℃が適切である。700℃以下では十分な結晶性が得られず、1100℃以上では粒子の融着を生じやすい。上記フォルステライト粒子は、特に800℃乃至1100℃、または800℃乃至1000℃、特に800℃乃至900℃の焼成温度で高い結晶性を有し、該フォルステライト粒子は0.0011以下、例えば0.0009乃至0.0011の低い誘電正接値が得られるので好ましい。
【0058】
(A)工程の原料フォルステライト粒子は破砕状粒子であり、CuKα線を用いたX線回折法によって測定される2θ=52°乃至53°の回折ピークの積分強度が800counts・deg以下であり、誘電正接は0.003乃至0.02程度の値を有する。
【0059】
(B)工程で燃焼火炎から落下する時に急冷により結晶性が低下するため、このままでは適切な誘電正接値を有さない。この(B)工程で得られた球状フォルステライト粒子は、CuKα線を用いたX線回折法によって測定される2θ=52°乃至53°の回折ピークの積分強度が700counts・deg以下であり、誘電正接は0.005乃至0.015程度の値である。
【0060】
(C)工程を付加することにより球状フォルステライト粒子の結晶性が回復し、CuKα線を用いたX線回折法によって測定される2θ=52°乃至53°の回折ピークの積分強度が800counts・deg以上になり、0.0003乃至0.0025の誘電正接を有する球状フォルステライト粒子が生成する。上記した様に再焼成温度は700℃乃至1100℃が適切であって、700℃以下では十分な結晶性が得られず、1100℃以上では粒子の融着を生じやすい。
【0061】
上記した様に(C)工程では特に800℃乃至1100℃、または800℃乃至1000℃、特に800℃乃至900℃の焼成温度で高い結晶性を有し、このフォルステライト粒子は0.0011以下、例えば0.0008乃至0.0011の誘電正接値が得られるので好ましい。
【0062】
また、本発明では(A)工程のフォルステライト粒子は、(B)工程での溶射において、粒子の形状は非球状(破砕状)から球状に変化するが、粒子径を維持した状態で球状粒子が得られる。フォルステライト粒子は粒子径の大きさに比例して誘電正接値も変化する。小粒子では誘電正接値が高くなるが、本発明では(B)工程を経由しても粒子径に変化はないので誘電正接値も低い状態を維持できる。
【0063】
また、溶射法による製造に起因して表面積が小さく、表面に存在するSi原子やMg原子に結合するヒドロキシ基量が少ないため水分の吸湿が低い、また粒子同士の融着を生じ難い等の特徴を有するものである。
【0064】
(C)工程を経たフォルステライト粒子は軽い癒着を解消するために軽い解砕する工程(D)を加えることができる。
【0065】
また、フォルステライト粒子表面を更に疎水化するために、上記の加水分解性シランで被覆することができる。
【0066】
本発明では上記フォルステライト粒子を樹脂に混合して基板用材料を製造することができる。樹脂への混合は、溶融状態の樹脂に上記フォルステライト粒子を混合して混練することで得られる。混練はバッチ式混練機、連続式混練機、2軸押出機等が用いられる。また溶媒に溶解する樹脂を用いる場合は、樹脂を溶解させた溶媒中へ上記フォルステライト粒子を添加・混合し、ワニス化することで得られ、ワニスを基板に塗布または含浸した後に熱処理や光照射して硬化することで得られる。
【0067】
基板用樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、オリゴフェニレンエーテル樹脂(OPE)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエチレン樹脂(PE)、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT)、液晶樹脂(LCP)、ポリスルフォン樹脂(PS)、ポリエーテルスルフォン樹脂(PES)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリイミド樹脂(PI)、エポキシ樹脂(EP)、ポリアリレート樹脂(PA)、フェノール樹脂(PN)等が挙げられる。基板用樹脂も比誘電率や誘電正接値が低いことが望ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、オリゴフェニレンエーテル樹脂(OPE)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT)、液晶樹脂(LCP)、は低誘電正接を有する基板が得られる。
【0068】
基板用樹脂は上記樹脂と上記フォルステライト粒子の割合が質量比で、1:0.001乃至1000、又は1:0.01乃至300、又は1:0.1乃至100の範囲で用いることができる。
【0069】
樹脂と上記フォルステライト粒子が混合された基板用樹脂の誘電正接は0.0003乃至0.01の範囲にすることができる。
【0070】
基板用樹脂へのフォルステライト粒子の混合は、樹脂の熱膨張や親疎水の影響で、フォルステライト粒子以外にも上記特性を損しない限りシリカ粒子、コーディエライト粒子等の粒子や、ガラスクロス等を含むことができる。
【実施例】
【0071】
(評価方法)
・平均粒子径の測定
レーザー回折式粒度分布計商品名MASTERSIZER2000(Malvern社製)で測定した。
・誘電正接の測定
測定周波数1GHz用、10GHz用の空洞共振器治具(キーコム(株)製)を用いて、PTFE製のサンプルチューブ(長さ30mm、内径 3mm(1GHz用)、1mm(10GHz用))内に粉末サンプルを充填後、ベクトルネットワークアナライザー商品名FieldFoxN6626A(KEYSIGHT TECHNOLOGIES製)で測定した。
・BET法による比表面積の測定
BET法による表面積測定装置商品名Monosorb(Quantachrome INSTRUMENTS社製)を用いて、BET法を用いた1点法(相対圧0.3)で測定。なお平均一次粒子径は、(3/(3.2(g/cm3)×BET法による比表面積(m2/g)))×2(μm)で算出した。
・XRD(粉末X線回折)の測定
X線回折装置 商品名MiniFlex600((株)リガク製)を用いて、管電圧 40kV、管電流 15mAとして測定した。なお積分強度は、上記で測定したデータを総合粉末X線解析ソフトウェア 商品名PDXL2を用いて処理することでcounts・deg(又はcps・deg)として算出した。
・水分吸着率の測定
磁性るつぼ内に粉末サンプルを秤量し、温度150℃の乾燥機内で24時間乾燥させた。乾燥後の質量を秤量した後、温度25℃、湿度50%に設定した恒温恒湿槽内で48時間保持し、再度質量を測定した。水分吸水率(%)は、下記式(4)に従って算出した。
水分吸着量(%)=[(m1-m2)/m2]×100 式(4)
[式(4)中、m1は、温度150℃で24時間乾燥した後に温度25℃、湿度50%に48時間放置した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表し、m2は、温度150℃で24時間乾燥した後のフォルステライト粒子の質量(g)を表す。]
【0072】
(フォルステライト粉末の合成)
(製造例1)
(A)工程として、塩基性炭酸マグネシウム粉末(神島化学(株)製)とシリカゾル(商品名スノーテックスXS、日産化学(株)製)をモル比でMgO:SiO2=2:1となるように混合・乾燥し、乾燥物をカッターミルで粉砕した後に、電気炉を用いて1200℃で2時間焼成することでフォルステライト粉末を調製した。
さらに上記で得られた粉末を乾式ジェットミルにより圧力:0.64MPaとして粉砕することで、粉砕フォルステライト粉末(平均粒子径2.3μm)を調製した。
【0073】
(球状フォルステライト粉末の合成)
(実施例1)
(B)工程として、製造例1で調製した粉砕フォルステライト粉末を、プロパンガスを燃料に用い、燃焼量を12万kcalに設定した酸素バーナーの火炎内(理論温度:3000℃)に、7.5kg/hの供給速度で投入することで溶射処理を行い、サイクロン回収部で球形の溶射処理フォルステライト粉末を得た。(C)工程として、(B)工程で得られた粉末を、電気炉を用いて700℃で2時間焼成することでフォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は球形を維持していると共に、平均粒子径は5.9μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0015、10GHzにおいて0.0017であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.4μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.5であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は894counts・degであり、水分吸着率は0.06%であった。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、(C)工程として電気炉での焼成温度を800℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は球形を維持していると共に、平均粒子径は6.0μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0009、10GHzにおいて0.0008であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.6μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.3であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は917counts・degであり、水分吸着率は0.07%であった。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、(C)工程として電気炉での焼成温度を900℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は球形を維持していると共に、平均粒子径は7.1μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0015、10GHzにおいて0.0011であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.6μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.7であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は905counts・degであり、水分吸着率は0.07%であった。
【0076】
(実施例4)
実施例1において、(C)工程として電気炉での焼成温度を1000℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は焼結に伴い粒子同士の凝集がわずかに見られるものの、球形を維持しており、平均粒子径は6.3μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0020、10GHzにおいて0.0012であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.6μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.4であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は899counts・degであり、水分吸着率は0.06%であった。
【0077】
(実施例5)
実施例1において、(C)工程として電気炉での焼成温度を1100℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は焼結に伴い粒子同士の凝集がわずかに見られるものの、球形を維持しており、平均粒子径は9.8μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0024、10GHzにおいて0.0013であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は3.0μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は3.3であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は891counts・degであり、水分吸着率は0.03%であった。
【0078】
(比較例1)
製造例1において、(C)工程として電気炉を用いて1200℃で2時間焼成することで得られたフォルステライト粉末の平均粒子径は13.0μmと大きく、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0015、10GHzにおいて0.0012であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は1.6μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は8.6であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は877counts・degであり、水分吸着率は0.12%であった。
【0079】
(比較例2)
実施例1において(B)工程の溶射と、(C)工程の再焼成を行わなかった。乾式ジェットミルによる粉砕後に得られた粉砕フォルステライト粉末の平均粒子径は2.3μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0032、10GHzにおいて0.0042であった。
また、BET表面積から算出される一次粒子径(BET粒子径)は0.9μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.6であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は818counts・degであり、水分吸着率は0.26%であった。
【0080】
(比較例3)
実施例1において、(B)工程の溶射処理後に得られた溶射処理フォルステライト粉末に対して(C)工程の再焼成を行わなかった。得られた球形の溶射処理フォルステライト粉末の平均粒子径は4.2μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0050、10GHzにおいて0.0054であった。
また、BET表面積から算出される一次粒子径(BET粒子径)は2.3μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は1.8であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は670であり、水分吸着率は0.16%であった。
【0081】
(比較例4)
実施例1において、溶射処理に使用するバーナーを空気バーナー(理論温度:1800℃)に変更し、粉末の供給速度を5.0kg/hとした以外は、実施例1と同様に操作して溶射処理フォルステライト粉末を得た。得られた粉末は粒子同士の顕著な凝集が見られたと共に、平均粒子径は7.6μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0043、10GHzにおいて0.0047であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.2であり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は3.5であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は870counts・degであり、水分吸着率は0.07%であった。
【0082】
(比較例5)
比較例2において得られた(B)工程の溶射を行わなかったフォルステライト粉末を、(C)工程として電気炉を用いて800℃で2時間焼成することでフォルステライト粉末を調製した。得られた粉末は粒子同士の顕著な凝集が見られたと共に、平均粒子径は10.2μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0017、10GHzにおいて0.0019であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.3μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は4.4であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は872counts・degであり、水分吸着率は0.06%であった。
【0083】
(比較例6)
実施例1において、(C)工程における電気炉での焼成温度を1200℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は焼結に伴い粒子同士の凝集が顕著に見られると共に、球形を維持しておらず、平均粒子径は12.5μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0021、10GHzにおいて0.0017であった。
また、BET表面積から算出される一次粒子径(BET粒子径)は3.5μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は3.6であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は874であり、水分吸着率は0.06%であった。
【0084】
実施例1乃至実施例5および比較例1乃至比較例6の結果を下表に示す。実施例1乃至実施例5では、平均粒子径が4.2μm乃至9.8μmであると同時に、誘電正接は測定周波数1GHz及び10GHzにおいて、0.0008乃至0.0024であり、高周波用途におけるフィラーとして優れた特性を示した。またBET表面積から計算される一次粒子径(BET粒子径)と平均粒子径の比から算出される球形度は2.3乃至3.3であり、フィラーとして用いる上で良好な数値を示した。
さらにXRD測定(CuKα1)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は891counts・deg乃至917counts・degと高く、フォルステライト自身の有する特性の発現に十分な結晶性を有することが確認された。また水分吸着率も0.03%乃至0.07%と低い値を示し、高周波用途におけるフィラーとして良好であった。
一方、比較例1乃至比較例6では、平均粒子径が10μm以上と大きいこと(比較例1、比較例5及び比較例6)や、平均粒子径が小さい場合でも誘電正接が0.0026以上と高いこと(比較例2、比較例3及び比較例4)が確認され、高周波用途におけるフィラーとして優れた特性とはいえなかった。またBET表面積から計算される一次粒子径(BET粒子径)と平均粒子径の比から算出される球形度も1.0乃至3.3を満たさず、粒子の凝集の進行が示唆される値を示すことがあり(比較例1、比較例4、比較例5及び比較例6)、フィラーとして用いる上では良好でなかった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は850counts・deg以下と低く、フォルステライト自身の有する特性の発現に十分な結晶性を有さないこと(比較例3)や、積分強度が850乃至1000の場合でも、粒子同士の凝集が進行しており、高周波用途におけるフィラーとしては不適なことが確認された。また水分吸着率も0.1%以上と高い値を示し(比較例1、比較例2及び比較例3)、高周波用途におけるフィラーとしては不適であった。
【0085】
(実施例6)
実施例1において、溶射処理に用いるフォルステライト粉末として、丸ス釉薬合同会社製フォルステライト商品名FF-200・M-40(平均粒径2.5μm)を使用した以外は、実施例1と同様に操作して球形の溶射処理フォルステライト粉末を得た。得られた粉末を、電気炉を用いて800℃で2時間焼成することで、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は球形を維持していると共に、平均粒子径は5.6μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0008、10GHzにおいて0.0009であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.3μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.4であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は873counts・degであり、水分吸着率は0.05%であった。
【0086】
(実施例7)
実施例6において、電気炉での焼成温度を900℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は球形を維持していると共に、平均粒子径は6.3μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0009、10GHzにおいて0.0010であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.3μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.8であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は870counts・degであり、水分吸着率は0.05%であった。
【0087】
(実施例8)
実施例6において、電気炉での焼成温度を1000℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は焼結に伴い粒子同士の凝集がわずかに見られるものの、球形を維持しており、平均粒子径は5.7μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0009、10GHzにおいて0.0010であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.3μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.5であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は865counts・degであり、水分吸着率は0.07%であった。
【0088】
(実施例9)
実施例6において、電気炉での焼成温度を1100℃に変更した以外は同様な操作を行い、フォルステライト粉末を調製した。
焼成で得られた粉末は焼結に伴い粒子同士の凝集がわずかに見られるものの、球形を維持しており、平均粒子径は6.1μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0011、10GHzにおいて0.0011であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.5μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.4であった。
さらにXRD測定(CuKα1)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は882counts・degであり、水分吸着率は0.05%であった。
【0089】
(比較例7)
実施例6において(B)工程の溶射を行わず、購入した状態の丸ス釉薬合同会社製フォルステライト、商品名FF―200・M―40の平均粒子径は4.3μmであり、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0115、10GHzにおいて0.0198であった。
また、BET表面積から算出される一次粒子径(BET粒子径)は0.1μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は31.9であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は791counts・degであり、水分吸着率は0.40%であった。
【0090】
(比較例8)
実施例6において、(B)工程の溶射を行った後に、(C)工程の焼成を行わなかった。得られた球形の溶射処理フォルステライト粉末の平均粒子径は5.2μmであり、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0095、10GHzにおいて0.0130であった。
また、BET表面積から算出される一次粒子径(BET粒子径)は2.4μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.2であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は361counts・degであり、水分吸着率は0.09%であった。
【0091】
実施例6乃至実施例9並びに比較例7及び比較例8の結果を下表に示す。実施例6乃至実施例9では、平均粒子径が5.6μm乃至6.3μmであると同時に、誘電正接は測定周波数1GHz及び10GHzにおいて、0.0008乃至0.0011であり、高周波用途におけるフィラーとして優れた特性を示した。またBET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)と平均粒子径の比から算出される球形度は2.4乃至2.8であり、フィラーとして用いる上で良好な数値を示した。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は870counts・deg乃至882counts・degと高く、フォルステライト自身の有する特性の発現に十分な結晶性を有することが確認された。また水分吸着率も0.05%乃至0.07%と少ない値を示し、高周波用途におけるフィラーとして良好であった。
一方、比較例7及び比較例8では、誘電正接が0.0026以上と高いことが確認され、高周波用途におけるフィラーとして優れた特性とはいえなかった。
さらに水分吸着率も0.1%以上と高い値を示し(比較例7)、高周波用途におけるフィラーとしては不適であった。
【0092】
(球状フォルステライト粒子の表面処理)
(実施例10)
実施例2で得られたフォルステライト粉末を、フォルステライト粉末の濃度が20質量%となるように2-プロパノールに添加し、さらに水分濃度が1%となるように水を添加した。ここに、フェニルトリメトキシシランをフォルステライト粉末に対して質量比で0.01%となるように添加した後、容器内で撹拌しながら加熱し、還流条件下で5時間加熱処理することで表面処理を行った。冷却後、内容物を平型の容器に移し、溶媒を除去した後に、150℃で一晩(およそ12時間)乾燥することで表面処理フォルステライト粉末を調製した。
得られた粉末の平均粒子径は6.0μmで、誘電正接は測定周波数1GHzにおいて0.0007、10GHzにおいて0.0006であった。
また、BET法による比表面積から算出される平均一次粒子径(BET法による粒子径)は2.2μmであり、上記の平均粒子径との比から算出される球形度は2.7であった。
さらにXRD測定(CuKα)での52乃至53°の回折ピークにおける積分強度は917cps・degであり、水分吸着率は0.05%であった。
【0093】
(球状フォルステライト粒子を含む樹脂組成物)
(ポリマー溶液の配合例1)
オリゴフェニレンエーテルとして、三菱ガス化学(株)製、商品名OPE-2St2200/トルエン(OPE、トルエン溶液、濃度63質量%)31.6gと、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)ブロック-ポリスチレン(PSEBS、シグマ-アルドリッチ製、重量平均分子量118,000)20.0gを、質量比でOPE:PSEBS=50:50となるように混合した後、ポリマー濃度20質量%となるようにトルエン148.3gで希釈し、室温で撹拌することで母ポリマー溶液200gを調製した。
【0094】
(実施例11)
配合例1で調製した母ポリマー溶液8.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、実施例6で調製したフォルステライト粉末を0.4g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン1.6gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で80/20とした。
調製した混合溶液をセルロース系離形フィルム上にキャストし、100℃で乾燥させることで溶媒を除去した。その後、セルロース系離形フィルムから剥離し、200℃で2時間加熱して硬化させることで複合フィルム(厚さは約30μm)を調製した。
調製した複合フィルムから幅30mm、長さ60mm乃至70mmの試験片を切り出し、筒状に丸めて、長さ30mm、内径3mmのPTFE製チューブに充填した後、摂動方式空洞器共振法により測定した周波数1GHzでの誘電正接は0.0014であった。
【0095】
(実施例12)
配合例1で調製した母ポリマー溶液6.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、実施例6で調製したフォルステライト粉末を0.8g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン3.2gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で60/40とした。
調製した混合溶液を用いて、実施例11と同様に操作することで複合フィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0014であった。
【0096】
(実施例13)
配合例1で調製した母ポリマー溶液4.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、実施例6で調製したフォルステライト粉末を1.2g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン4.8gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で40/60とした。
調製した混合溶液を用いて、実施例11と同様に操作することで複合フィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0013であった。
【0097】
(比較例9)
実施例11において、フォルステライト粉末を添加せず、配合例1で調製した母ポリマー溶液を用いて、同様に操作することでポリマーフィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0015であった。
【0098】
(比較例10)
配合例1で調製した母ポリマー溶液8.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、比較例1で調製したフォルステライト粉末を0.4g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン1.6gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で80/20とした。
調製した混合溶液を用いて、実施例11と同様に操作することで複合フィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0015であった。
【0099】
(比較例11)
配合例1で調製した母ポリマー溶液6.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、比較例1で調製したフォルステライト粉末を0.8g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン3.2gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。
調製した混合溶液を用いて、実施例11と同様に操作することで複合フィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0015であった。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で60/40とした。
【0100】
(比較例12)
配合例1で調製した母ポリマー溶液4.0g(ポリマー濃度20質量%)に対して、比較例1で調製したフォルステライト粉末を1.2g添加した後、固形分濃度が20質量%となるようにトルエン4.8gを添加し、室温で1時間撹拌混合することでポリマー/フォルステライト混合溶液を調製した。なおポリマー/フォルステライトの比率は、質量比で40/60とした。
調製した混合溶液を用いて、実施例11と同様に操作することで複合フィルムを調製し、摂動方式空洞器共振法により周波数1GHzでの誘電正接を測定した結果、0.0015であった。
【0101】
実施例11乃至実施例13および比較例9乃至比較例12の結果を下表に示す。下表から明らかなように、ポリマーフィルムのみの誘電正接0.0015(比較例9)に対して、本発明のフォルステライト粉末を配合したポリマー/フォルステライト複合フィルムでは、誘電正接は0.0013乃至0.0014と低い値を示し(実施例11乃至実施例13)、本発明のフォルステライト粉末の配合による誘電正接の低下効果が確認され、高周波用途におけるフィラーとして優れた特性を示すことが確認できた。一方で、比較例1で調製したフォルステライト粉末を用いた場合では、ポリマー/フォルステライト複合フィルムの誘電正接は0.0015(比較例10乃至比較例12)と、フォルステライト粉末の配合による誘電正接の低下効果は確認できなかった。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0102】
低い誘電正接を有するフォルステライト粒子を提供するものであり、基板の絶縁体材料による信号劣化を抑えるため、低誘電正接である基板材料を提供することができる。フォルステライト粒子は低い誘電正接を有していることから、球状化し樹脂とブレンドし易い球状フォルステライト粒子を樹脂に含有し基板材料とすることで、誘電特性が向上された伝送ロスの少ない基板を提供することができる。低い誘電正接と粒子形状が球形であるフォルステライトを製造し、高周波特性が向上した基板を提供することができる。