(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】スライド穿刺型クリップ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/122 20060101AFI20231220BHJP
A61B 90/00 20160101ALI20231220BHJP
A61B 34/20 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
A61B17/122
A61B90/00
A61B34/20
(21)【出願番号】P 2023166343
(22)【出願日】2023-09-27
【審査請求日】2023-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】319016932
【氏名又は名称】ニレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】隅田 哲雄
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第7298596(JP,B2)
【文献】特許第7162203(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 90/00
A61B 34/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の一対のアーム部を有するクリップ本体と、クリップ本体に外嵌する締結具を備え、締結具がクリップ本体の一端(以下、近位端ともいう)寄りから他端(以下、遠位端ともいう)寄りへスライドすることによりクリップ本体の遠位端が閉じて生体組織を挟持するクリップであって、
アーム部の遠位端側端部に、蛍光色素を保持した樹脂片(以下、蛍光樹脂片と称する)が該アーム部に対して摺動可能に設けられ、
該蛍光樹脂片の遠位端側端部が鋭尖形であり、
該蛍光樹脂片は、締結具がアーム部の近位端寄りから遠位端寄りへスライドすることにより該締結具と同方向にスライドし、該蛍光樹脂片の遠位端側端部がアーム部の遠位端から突出し、生体組織への圧入を可能とするスライド穿刺型クリップ。
【請求項2】
蛍光樹脂片が、各アーム部の外側面と内側面を挟むように各アーム部に沿って設けられている請求項1記載のクリップ。
【請求項3】
蛍光樹脂片の側縁部にアーム部が係合する溝が設けられている請求項1又は2記載のクリップ。
【請求項4】
アーム部は遠位端寄りに分岐部分を有し、該分岐部分が前記蛍光樹脂片の溝と係合する請求項3記載のクリップ。
【請求項5】
アーム部は分岐部分よりも近位端寄りに細幅部分を有し、蛍光樹脂片は、該蛍光樹脂片の近位端側両側部にアーム部の細幅部分を挟む凸部を有する請求項1又は2記載のクリップ。
【請求項6】
生体組織に圧入された蛍光樹脂片を生体組織から抜けにくくする返し構造が蛍光樹脂片に設けられている請求項1又は2記載のクリップ。
【請求項7】
クリップ本体はアーム部の遠位端に、クリップ本体の内向き起立した爪を有する請求項1又は2記載のクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に留置し、患部の位置を特定するマーカーとして有用な医療用のクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術時に患部の位置を特定するために、内視鏡用クリップ装置に装着して生体内に留置する金属製のクリップが使用されている。例えば、ステンレス等の金属製の板バネをV字型に成形した金属製のクリップ本体と、クリップ本体に外嵌する締結具を備え、クリップの使用時に締結具をクリップ本体の遠位端方向へスライドさせることでクリップ本体が生体組織を挟持するようにしたものが普及している。
【0003】
このようなクリップでは、管腔臓器の粘膜組織を挟持したクリップの位置を漿膜側から確認できるようにすることが望ましい。そこで、励起光の照射により赤色乃至近赤外光を発する蛍光色素を保持した樹脂(以下、蛍光樹脂ともいう)でクリップの締結具を形成すること(特許文献1)、クリップの使用時に蛍光樹脂片をクリップ本体の遠位端から突出させること(特許文献2)、蛍光樹脂片をクリップ本体の遠位端から突出させ、かつその突出部分をヒンジで回動可能とすること(特許文献3)、弾性を有する蛍光樹脂片をクリップ本体の遠位端から突出させ、クリップ本体が粘膜組織を挟持した状態でその蛍光樹脂片によって血管網を圧迫し、虚脱させるもの(特許文献4)等が提案されている。
【文献】特許6161096号公報
【文献】特許7298596号公報
【文献】特開2021-69802号公報
【文献】特許7162203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のクリップは締結具が樹脂製であるため、締結具を金属製としたものに比してクリップ本体が生体組織を挟持する強さを強めることが難しい。
【0005】
特許文献2に記載のクリップによれば、金属製の締結具を用いるので、クリップ本体が粘膜組織を挟持する力は特許文献1に記載のクリップよりも強い。しかしながら、この蛍光樹脂片はクリップ本体と共に粘膜組織を挟持するだけであり、粘膜組織をその厚み方向に圧迫するものではない。そのため、粘膜組織内の血管網の血液が排除されず、該血液によって漿膜側で観察される蛍光強度が著しく低下する。
【0006】
特許文献3に記載のクリップでは、クリップ本体が粘膜組織を挟持している状態で、クリップ本体から突出した部分の蛍光樹脂片がヒンジにより回動し、粘膜組織上に配置される。このクリップでは、蛍光樹脂片と粘膜組織との接触面積を大きくすることができる。しかしながら、この蛍光樹脂片も粘膜組織をその厚み方向に圧迫するものではないため、特許文献2に記載のクリップと同様に、漿膜側で観察される蛍光強度は低い。
【0007】
特許文献4に記載のクリップによれば、クリップ本体が粘膜組織を挟持した状態で、変形した蛍光樹脂片が弾性により粘膜組織をその厚み方向に圧迫するので、特許文献2、3に記載のクリップに比して,漿膜側で観察される蛍光強度が格段に強くなる。
【0008】
このような従来技術に対し、本発明の課題は、クリップ本体が粘膜組織を挟持した状態で、蛍光樹脂片が粘膜組織をその厚み方向に圧迫することにより、漿膜側で観察される蛍光強度を特許文献4に記載のクリップと同等以上に強め、かつクリップ本体が粘膜組織を挟持した後は、クリップが自然脱落する虞を確実に解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、クリップ本体と該クリップ本体に外嵌する締結具を備え、クリップの使用時に締結具をクリップ本体の近位端寄りから遠位端寄りへスライドさせることによりクリップ本体の遠位端が閉じて生体組織を挟持するクリップにおいて、蛍光樹脂片をクリップ本体にスライド可能に取り付け、かつ該蛍光樹脂片の遠位端を鋭尖形にすると、締結具の前記スライドによりクリップ本体で生体組織が挟持されるときに蛍光樹脂片もスライドして鋭尖形の遠位端が生体組織に突き刺さって没入し、その没入部分が生体組織をその厚み方向に強く圧迫し、生体組織内の血管網を虚脱させ、かつクリップの生体組織からの自然脱落も防止できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、金属製の一対のアーム部を有するクリップ本体と、クリップ本体に外嵌する締結具を備え、締結具がクリップ本体の一端(以下、近位端ともいう)寄りから他端(以下、遠位端ともいう)寄りへスライドすることによりクリップ本体の遠位端が閉じて生体組織を挟持するクリップであって、
アーム部の遠位端側端部に、蛍光色素を保持した樹脂片(以下、蛍光樹脂片と称する)が該アーム部に対して摺動可能に設けられ、
該蛍光樹脂片の遠位端側端部が鋭尖形であり、
該蛍光樹脂片は、締結具がアーム部の近位端寄りから遠位端寄りへスライドすることにより該締結具と同方向にスライドし、該蛍光樹脂片の遠位端側端部がアーム部の遠位端から突出し、蛍光樹脂片の生体組織への圧入を可能とするスライド穿刺型クリップを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクリップによれば、クリップの使用時に締結具をクリップ本体の近位端寄りから遠位端寄りへスライドさせてクリップ本体の遠位端を閉じることによりクリップ本体で生体組織を挟持するときに、蛍光樹脂片も締結具と同方向にスライドし、蛍光樹脂片の遠位端側端部がアーム部の遠位端から突出する。この蛍光樹脂片の遠位端側端部は鋭尖形に形成されているので、蛍光樹脂片はスライドにより生体組織を該生体組織の厚み方向に圧迫し、該蛍光樹脂片の鋭尖形の先端部が生体組織に没入し、該生体組織を引き続き押圧する。したがって、鋭尖形の没入部分に押圧力が集中し、生体組織の厚み方向の圧迫が効果的に行われる。生体組織が粘膜の場合には、蛍光樹脂片の鋭尖形の先端部が粘膜をその厚み方向に圧迫し、粘膜に没入し、没入部分による圧迫が粘膜内の血管網を虚脱させる。即ち、血管網の血液が排除される。よって、漿膜側で蛍光樹脂片に励起光を照射し、蛍光樹脂片が発する蛍光を観察すると、粘膜がその厚み方向に圧迫されない場合に比して蛍光強度が格段に向上し、クリップの位置を確認することが容易となる。
【0012】
また、クリップ本体の遠位端が閉じてクリップ本体によって生体組織が挟持される際に蛍光樹脂片の鋭尖形の先端部が生体組織に圧入されることにより、生体組織が単にクリップ本体で挟持されるだけの場合に比してクリップの生体組織からの自然脱落の虞をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、クリップ本体が開いている状態の実施例のクリップの斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、クリップ本体が開いている状態の実施例のクリップの側面図である。
【
図1C】
図1Cは、クリップ本体が開いている状態の実施例のクリップの上面図である。
【
図2A】
図2Aは、クリップ本体が閉じかけている状態の実施例のクリップの斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、クリップ本体が閉じかけている状態の実施例のクリップの側面図である。
【
図3A】
図3Aは、クリップ本体が閉じている状態の実施例のクリップの斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、クリップ本体が閉じている状態の実施例のクリップの側面図である。
【
図3C】
図3Cは、クリップ本体が閉じている状態の実施例のクリップの上面図である。
【
図5】
図5は、実施例のクリップで使用する蛍光樹脂片の斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例のクリップで使用する蛍光樹脂片の上面図、側面図、前面図、後面図、及び底面図である。
【
図7】
図7は、実施例のクリップにおいて、蛍光樹脂片をクリップ本体に取り付ける方法の説明図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例のクリップのアプライヤでの使用方法の説明図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例のクリップのアプライヤでの使用方法の説明図である。
【
図8C】
図8Cは、実施例のクリップのアプライヤでの使用方法の説明図である。
【
図8D】
図8Dは、実施例のクリップのアプライヤでの使用方法の説明図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例のクリップの粘膜に対する作用の説明図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例のクリップの粘膜に対する作用の説明図である。
【
図9C】
図9Cは、実施例のクリップの粘膜に対する作用の説明図である。
【
図9D】
図9Dは、実施例のクリップの粘膜に対する作用の説明図である。
【
図9E】
図9Eは、実施例のクリップの粘膜に対する作用の説明図である。
【
図10】
図10は、実施例のクリップの蛍光樹脂片の変形態様の斜視図である。
【
図11】
図11は、実施例のクリップの蛍光樹脂片の変形態様の斜視図である。
【
図12】
図12は、実施例のクリップの蛍光樹脂片の変形態様の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0015】
<クリップの全体構成>
図1A、
図1B、
図1Cは、本発明の一実施例のクリップ100の開いている状態の斜視図、側面図、上面図であり、
図2A、
図2Bはクリップ100が閉じかけている状態の斜視図、側面図であり、
図3A、
図3B、
図3Cはクリップ100が閉じている状態の斜視図、側面図、上面図であり、
図4は、クリップ100の分解図である。
【0016】
このクリップ100は、金属製の一対のアーム部2を有するクリップ本体1と、クリップ本体1に外嵌する締結具20と、クリップ本体1の各アーム部2の遠位端側端部に摺動可能に設けられた蛍光樹脂片30を備えている。クリップ100の使用時に締結具20をアーム部2の近位端寄りから遠位端寄りへスライドさせることにより、蛍光樹脂片30が締結具20と同方向にスライドし、蛍光樹脂片30の遠位端側端部がアーム部の遠位端から突出する。蛍光樹脂片30の遠位端側端部は鋭尖形となっている。これによりアーム部の遠位端から突出した蛍光樹脂片の遠位端側端部を、生体組織へ穿刺して没入させ、没入部分で生体組織を圧迫することが可能となる。蛍光樹脂片30をスライド可能とし、スライドにより蛍光樹脂片30の生体組織への穿刺と没入を可能とし、没入部分で生体組織を圧迫できるようにする構成が、このクリップ100の主要な構成である。以下、各部分を説明する。
【0017】
<クリップ本体>
本実施例のクリップ100は、内視鏡用クリップ装置(アプライヤ)に装着されて生体組織のクリップに使用されるもので、クリップ本体1は、1枚の帯状の金属板を湾曲させることで得られる一対のアーム部2で形成されている。一対のアーム部2は板バネとして作用する。
【0018】
アーム部2は、生体組織のクリップに使用されるときの近位端寄りに細幅部分4を有し、遠位端寄りに分岐部分5を有する。近位端では一対のアーム部2が連続し、U字型に湾曲している。この連続部分3に、アプライヤの操作ワイヤーが係止される。
【0019】
なお、本発明において、クリップ本体1は1枚の帯状の金属板をU字型に湾曲させて得られるものに限られず、例えば、特許第6572229号公報の
図3に記載されているように、帯状の1枚の金属板の中央部を屈曲させることによりV字型に成形した板バネを使用してもよい。特許6694893号の
図7に記載のように、後端部をL字型に屈曲させた2枚の板バネからクリップ本体を形成してもよく、その場合に2枚の板バネの後端部近傍には、それらを繋ぐ補強部材を設けてもよい。また、特許4145149号公報に記載のように一対のアーム部が交差するようにクリップ本体1を構成してもよい。
【0020】
一方、アーム部2の遠位端寄りの分岐部分5では、アーム部2の長手方向に伸びた切欠き6(
図4)により、アーム部2が櫛歯状に二叉に分岐している。なお、本発明において分岐部分5における分岐は二叉に限られず、3本以上に分岐していてもよい。
【0021】
また、クリップ本体1が開いた状態で(
図1A、
図4)、一対のアーム部2はそれぞれ背側に湾曲することにより、一対のアーム部2の遠位端同士の距離は大きく広がる。
【0022】
(爪部)
クリップ本体1は各アーム部2の遠位端にクリップ本体1の内向きに起立した爪10を有する(
図4)。爪10は生体組織に直接的に食い込み、生体組織を挟持する部分である。本実施例では、生体組織への爪10の食い込みを良好にするため、爪10を三角形状にしている。
【0023】
なお、本発明において、爪10は三角形状に限られず、矩形でもよい。三角形状を連続させた三角波形状としてもよく、矩形波形状でもよい。ただし、クリップ本体1が閉じた状態で、蛍光樹脂片30の遠位端側端部31が爪10同士の間隙を通り抜けられるように、爪10は、クリップ本体1の中心軸Xから離れた位置に設けることが好ましい(
図3C)。ここで、クリップ本体1の中心軸Xとは、クリップ本体1の上面図においてクリップ本体の幅W1を二等分し(
図3C)、かつクリップ本体1の側面図において一対のアーム部2と等距離にある軸である(
図3B)。
【0024】
これにより、締結具20をスライドさせてクリップ本体1で粘膜を挟持するときに、蛍光樹脂片30も締結具20と同方向にスライドさせて蛍光樹脂片30の遠位端側端部31を粘膜に押しつけ、穿刺することが容易となり、かつ、漿膜側から励起光を照射して観察した場合に、蛍光樹脂片30から出射する蛍光が爪10で遮られることを抑制でき、観察できる蛍光強度を向上させることができる(
図9E)。
【0025】
また、本実施例では一対のアーム部2の爪10がクリップ本体1を閉じた状態で
図3Bに示すように前後方向にずれて重なり合う。これにより、爪10を生体組織への食い込みに十分な長さとしつつ、爪10をクリップ本体1の中心軸Xから離間させて設けることができる。なお、必要に応じて、一対のアーム部2の爪10の先端同士が当接するようにしてもよい。
【0026】
<締結具>
締結具20は、クリップ本体1の近位端寄りに位置することでクリップ本体1を開いた状態とし(
図1A)、近位端寄りから遠位端寄りへスライドし、例えばアーム部2の分岐部分5近傍に位置することによりクリップ本体1を閉じた状態とするもので(
図3A)、カシメリングとも言われる。本実施例の締結具20は金属製の筒状部材で形成されている。締結具20として、線材をコイル状に巻き回した物、長手方向に垂直な断面がC字型のもの等を用いても良い。
【0027】
<蛍光樹脂片>
蛍光樹脂片30は、クリップ本体1の各アーム部2の遠位端側端部に該アーム部2に対して摺動可能に設けられる。クリップ100の使用時の蛍光樹脂片30の遠位端側端部31は、
図5及び
図6に示すように鋭尖形であり、蛍光樹脂片30は生体組織に穿刺可能な剛性を有する。また、蛍光樹脂片30は、蛍光色素を保持した樹脂片である。このような蛍光樹脂片30は、例えば、蛍光色素を含有する硬質プラスチックで形成することができる。あるいは、硬質プラスチックで形成した樹脂片の表面に蛍光色素を含有する塗布膜を形成してもよい。
【0028】
(蛍光樹脂片の形状の詳細)
図1Aに示すように、本実施例の蛍光樹脂片30は、各アーム部2の外側面2aと内側面2b(
図4)を挟むように各アーム部2に沿って設けられる形状を有する。
【0029】
図1A、
図5及び
図6に示すように、蛍光樹脂片30は、アーム部2の外側に位置する
外側部32と、アーム部2の内側に位置する内側部33と、蛍光樹脂片30の遠位端寄り
領域35で外側部32と内側部33とを繋ぐ中間部34を有する。一方、蛍光樹脂片30
の近位端寄り領域36では、外側部32と内側部33が離れており、この間隙にアーム部
2の分岐部分の基部5a(
図4)が入ることを可能としている。蛍光樹脂片30の遠位端
側端部31は鋭尖形に形成されている。鋭尖形の形状としては、
注射針のような切れ味で生体組織を穿刺できる形状である必要はなく、鋭く細い先端で生体組織を押し込
み、遠位端側端部31を生体組織に没入させる形状、即ち、穿刺型の形状とすることが好まし
い。
図6に示す蛍光樹脂片30の上面図、側面図及び底面図のいずれにおいても蛍光樹脂片3
0の遠位端形先端角θ1、θ2、θ3が鋭角な形状であることが好ましい。
【0030】
図3Cに示すように、クリップ本体1が閉じた状態で、外側部32の上面視の外形はアーム部2の分岐部分5の外形と重なる形状を有する。蛍光樹脂片30の上面視の幅(即ち、外側部32の幅)w1が、アーム部2の分岐部分5の幅以下であることにより、蛍光樹脂片30の先端部を生体組織に圧入することによりその先端部を生体組織に没入させ、没入部分で生体組織内部の血管網を圧迫し、虚脱させることが容易となる。
【0031】
クリップ本体1が閉じた状態でクリップ本体1の長さL1は、マーカーとして使用される一般的なクリップと同様とすることができ、クリップ本体から突出する蛍光樹脂片の長さL2は、粘膜下組織を圧迫して血管を虚脱させる効果の点から1~4mmが好ましい。
【0032】
また、蛍光樹脂片30の形状は、
図2A、
図2Bに示すように、クリップ本体1の一対のアーム部2が閉じかけた状態では、対向する遠位端側端部31の先端部同士が当接するが、
図3A、
図3Bに示すように締結具20を蛍光樹脂片に当接させてさらにスライドさせることにより一対のアーム部2が完全に閉じた状態(即ち、締結具20がクリップ本体1の近位端寄りに容易には戻らない状態)では、各アーム部2の蛍光樹脂片30の鋭尖形の先端部同士の間に間隙s1があく形状とすることが好ましい。これにより、
図8Bに示すようにクリップ100をアウターシース54に引き込むことによりアウターシース54の内周面で蛍光樹脂片30の外側部32が押圧されてクリップ本体1が閉じかけた状態では、対向する蛍光樹脂片30の鋭尖形の先端部同士は当接するが、近位端寄り部分では間隙s2があいた状態となり(
図2B、
図8B)、その後、クリップ本体1が完全に閉じるように、締結具20をクリップ本体1の分岐部分の基部5a(
図4)近傍にまでスライドさせることが可能となる。そして、クリップ100が完全に閉じた状態では上述の間隙s1があくこととなる(
図3B、
図8D)。
【0033】
これに対し、クリップ100をアウターシース54に引き込むことによりアウターシース54の内周面で蛍光樹脂片30の外側部32が押圧された状態で、対向する蛍光樹脂片30の内側部33の近位端寄り部分に間隙s2が無いと、その後、締結具20をクリップ本体1が完全に閉じるまでスライドさせることができない場合がある。
【0034】
中間部34は、各アーム部2の爪10同士の間隙に嵌まる幅w2を有し、内側部33の幅w3は中間部34の幅w2より大きく、外側部32の幅w1より小さい(
図6)。これにより、蛍光樹脂片30の側縁部には中間部34の側面に沿った溝37が形成される。この溝37は、分岐部分5で分岐したアーム部の櫛歯状部分と摺動可能に係合する。
【0035】
溝37の遠位端側端面には鋭角部38が形成されている。この鋭角部38は、生体組織に穿刺された蛍光樹脂片を、生体組織から抜け難くする返し構造となる。
【0036】
本発明において、返し構造はこれに限られず、内視鏡用クリップ装置(アプライヤ)でのクリップの使用に支障がきたされないように蛍光樹脂片30の遠位端側端部又はその近傍に設けることができる。例えば、
図10に示したように、前述の鋭角部38の位置で蛍光樹脂片30の側面に段39を設けても良く、
図11に示したように蛍光樹脂片30の遠位端側端部31の外側面に段40を設けても良く、
図12に示したように、蛍光樹脂片30の遠位端側端部31の外側面に角状部41を突出させてもよい。この角状部41は、その近位端側端面41aが凹んでいる。
【0037】
一方、蛍光樹脂片30の近位端側両端部には、アーム部2の細幅部分4を挟む凸部42が設けられている(
図1A、
図2A)。これにより、蛍光樹脂片30をアーム部2でスライドさせても、蛍光樹脂片30がアーム部2から外れることを防止することができる。
【0038】
(蛍光樹脂片を形成する樹脂)
蛍光樹脂片30を形成する樹脂としては、高密度ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン、シリコーン、エチレン酢酸ビニル共重合体,ポリカーボネート等の医療器具に用いられる硬質樹脂を挙げることができる。
蛍光樹脂片30の硬さとしては、デュロメータで計測したショアA(JIS K 6253)としてA90以上の硬質であることが望ましい。
【0039】
(蛍光色素)
蛍光樹脂片30に保持させる蛍光色素としては、600~1400nmの赤色光乃至近赤外光の波長域、好ましくは700~1100nmの赤色光又は近赤外光の波長域で蛍光を発するものが好ましい。この波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、例えば、直腸等の管状の人体組織の粘膜から漿膜面まで良好に到達することができる。
【0040】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物、WO2016/132596号公報に記載の縮合環構造を有する色素、特許5177427号公報に記載のボロンジピロメテン骨格を有する色素、特開2020-74905号公報に記載のシリカ粒子と化学結合する色素、特開2020-105170号公報に記載のフタロシアニン系色素等をあげることができる。
【0041】
蛍光樹脂片30に蛍光色素を保持させる具体的な態様としては、蛍光樹脂片30を形成する樹脂に蛍光色素を含有させたり、成形した樹脂片の表面に蛍光色素を含有する塗布膜を形成したりすることができる。
【0042】
蛍光樹脂片30を形成する樹脂に蛍光色素を含有させる場合、蛍光色素の好ましい濃度は当該蛍光色素や樹脂の種類等に応じて設定することができ、通常、0.001~1質量%とすることが好ましい。
【0043】
樹脂に蛍光色素を含有させる方法としては、例えば、二軸混練機を使用して樹脂に蛍光色素を混練すればよい。
【0044】
蛍光樹脂片30を形成する樹脂には、必要に応じて硫酸バリウム等の造影剤を添加してもよい。これにより、生体内でクリップ100が仮に粘膜から外れても、生体内のクリップ100を、X線を用いて撮影することにより追跡することが可能となる。
(蛍光樹脂片の形成方法)
蛍光樹脂片30の形成方法としては、例えば、蛍光色素を混練りした可撓性樹脂を、押出成形または射出成形にて所定形状に成形し、定尺カット、角取り、くぼみ形成等の加工を施すことで得ることができる。
【0045】
(蛍光樹脂片のクリップ本体への取付方法)
蛍光樹脂片30のクリップ本体1への取付方法としては、例えば
図7に示すように、蛍光樹脂片30の凸部42側を撓ませつつ、外側部32と内側部33との離間部分にアーム部2の分岐部分5の基部5aを入れ、さらに中間部34を、分岐部分5の切欠き6に嵌め、蛍光樹脂片30の凸部42でアーム部2の細幅部分4を挟む(
図1A)。
【0046】
<クリップの使用方法>
クリップ100の使用方法としては、まず、
図8Aに示すように、クリップ100を、内視鏡用アプライヤのクリップ用シース50に取り付ける。クリップ用シース50としては、例えば、特許4388324号公報、特許5045484号公報等に記載されているインナーシース53とアウターシース54と操作ワイヤー51を有するものを使用することができ、市販のものを使用することができる。クリップ100のクリップ用シース50への取り付け方法としては、例えば、操作ワイヤー51の連結部52をクリップ本体1の後端部(連続部分3)に掛合させればよい。また、クリップ本体1を、V字型、U字型等に屈曲させた板バネから形成する場合には、特許第5781347号公報等に記載されているようにフックを用いても良い。
【0047】
アプライヤの操作によりクリップ100をアウターシース54内に引込むと、
図8Bに示すようにクリップ本体1が閉じる。クリップ本体1をアウターシース54から突出させると、
図8Cに示すようにクリップ本体1の遠位端が開く。また、インナーシース53を締結具20に当接させて操作ワイヤー51を引き込むことにより締結具20をクリップ100の遠位端寄りにスライドさせると次第にクリップ本体1が閉じ、ついには
図8Dに示すようにクリップ本体1が完全に閉じる。また、クリップ本体1の近位端寄りから遠位端寄りへスライドする締結具20によって蛍光樹脂片30が押されることで蛍光樹脂片30も同方向にスライドし、
図8Dに示すように、蛍光樹脂片30の遠位端側端部31がアーム部2の遠位端から突出する。
【0048】
このようなクリップ100の開閉機構を使用し、クリップ100で管腔臓器の粘膜の患部を挟持する場合を説明すると、クリップ本体1を操作ワイヤー51に取り付け、クリップ100をアウターシース54内に引き込み、クリップ本体1が閉じた状態でクリップ用シース50を管腔臓器の内部に挿入する。アプライヤを操作してアウターシース54からクリップ100を突出させ、患部61近傍でクリップ本体1のアーム部2の遠位端を開く(
図9A)。次に、クリップ100を粘膜60に接触させ、操作ワイヤーを引き込むことにより締結具20を遠位端方向にスライドさせる。このときの移動量に応じてクリップ本体1が閉じる(
図9B、
図9C)。スライドにより締結具20が蛍光樹脂片30に当接してからは、締結具20は蛍光樹脂片30をクリップ本体の遠位端方向に押圧する(
図9D)。こうして、クリップ本体1が完全に閉じた状態ではアーム部2の遠位端にある爪10で粘膜60が挟持されると共に、蛍光樹脂片30の内側部33でも粘膜60が挟持される。さらに蛍光樹脂片30の鋭尖形の遠位端側端部31が粘膜60に圧入されることにより粘膜内に没入し、その没入部分の押圧により粘膜60の厚みが薄くなる方向に該粘膜60が圧迫される。したがって、粘膜下層の血管網62が虚脱し、血管から血液が排除され、ヘモグロビンも排除される。また、蛍光樹脂片30が一旦粘膜に穿刺されると、鋭角部38(
図5)が返しとして機能し、蛍光樹脂片30が粘膜から抜けにくくなる。
【0049】
したがって、管腔臓器の外側(漿膜側)に赤色乃至近赤外の波長域の励起光を照射すると、その励起光は、蛍光樹脂片30に保持される蛍光色素に吸収される。このとき、ヘモグロビンによる吸収阻害は殆どおこらない。励起光を吸収した蛍光色素は、赤色乃至近赤外の波長域の蛍光を発する。この蛍光もヘモグロビンで殆ど吸収阻害されることなく管腔臓器の外側に出射される。よって、このクリップ100によれば、蛍光を管腔臓器の外側から良好に観察することができ、管腔臓器の内部に挟持させたクリップ100の位置がわかり、患部61の位置を特定することができる。
【0050】
また、本実施例のクリップ100によれば、粘膜60がアーム部2の爪10で挟持されると共に、蛍光樹脂片30の内側部33でも挟持され、さらに蛍光樹脂片30の鋭角部38によって蛍光樹脂片30が粘膜60から抜けにくくなっている。よって、粘膜60からクリップ100が不用意に脱落する虞を大きく低減することができる。
【0051】
なお、管腔臓器の漿膜側に励起光を照射する方法としては、開胸又は開腹により管腔臓器の漿膜を露出させ、そこに励起光を照射してもよく、また、ラパロスコープ(手術用内視鏡)を胸壁又は腹壁に開けた孔より挿入し、管腔臓器の漿膜面あるいは腹膜面を観察しながら、赤色乃至近赤外の波長域の励起光を管腔臓器の漿膜面あるいは腹膜面に照射してもよい。
【0052】
また、管腔臓器の外側から観察する蛍光が可視光でない場合には、公知の赤外可視変換ガラスを通して観察することにより、あるいは、管腔臓器を外側から撮影し、画像処理で蛍光を可視化することにより、容易に発光部位を特定することができる。
【0053】
本発明のクリップ100は、食道、胃、大腸等の消化管粘膜、気管粘膜、膀胱粘膜、子宮粘膜等に取り付け可能であり、これらの管腔臓器の疾患部位を確実にマークすることが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 クリップ本体
2 アーム部
2a アーム部の外側面
2b アーム部の内側面
3 連続部分
4 細幅部分
5 分岐部分
5a 分岐部分の基部
6 切欠き
10 爪
20 締結具
30 蛍光樹脂片
31 遠位端側端部
32 外側部
33 内側部
34 中間部
35 遠位端寄り領域
36 近位端寄り領域
37 溝
38 鋭角部
39 段
40 段
41 角状部
41a 近位端側端面
42 凸部
50 シース
51 操作ワイヤー
52 連結部
53 インナーシース
54 アウターシース
60 粘膜
61 患部
62 血管網
100 クリップ
L1 クリップ本体の長さ
L2 蛍光樹脂片のクリップ本体からの突出長さ
s1、s2 間隙
w1 蛍光樹脂片の外側部の幅、上面視の幅
w2 蛍光樹脂片の中間部の幅
w3 蛍光樹脂片の内側部の幅
X クリップ本体の中心軸
【要約】
【課題】生体組織を挟持するクリップについて、クリップが備える蛍光樹脂片からの蛍光の観察強度を強くし、かつクリップの自然脱落の虞も解消する。
【解決手段】金属製の一対のアーム部2を有するクリップ本体1と、クリップ本体1に外嵌する締結具20を備え、締結具20がクリップ本体1の一端(近位端)寄りから他端(遠位端)寄りへスライドすることによりクリップ本体1の遠位端が閉じて生体組織を挟持するクリップ100であって、アーム部2の遠位端側端部に、蛍光色素を保持した樹脂片30(以下、蛍光樹脂片と称する)が該アーム部2に対して摺動可能に設けられる。蛍光樹脂片30は、遠位端側端部31が鋭尖形であり、締結具20がアーム部2の近位端寄りから遠位端寄りへスライドすることにより該締結具20と同方向にスライドし、遠位端側端部31がアーム部2の遠位端から突出し、生体組織への圧入を可能とする。
【選択図】
図9E