(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ヨウ素含有ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
C07F7/18 E
(21)【出願番号】P 2018212146
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2020-11-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】荻原 勤
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 司
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】宮崎 大輔
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531942(JP,A)
【文献】特開2015-122437(JP,A)
【文献】国際公開第2013/056073(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/108712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記反応式で示され、フェニル基に結合するトリアルキルシリル((R
0)
3Si)基をヨウ素含有求電子試薬(I-X)によりヨウ素に置換することを特徴とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法。
【化1】
(上記反応式中、R
0は全て同一でも異なってもよい炭素数1~6のアルキル基、R
1は単結合または2価の有機基であり、ここで、前記2価の有機基は、直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキレン基、
カルボニル基、エステル基(カルボニルオキシ基)、エーテル基、又はこれら組み合わせであり、R
2は炭素数1~10の直鎖状か、炭素数3~10の分岐状あるいは環状のアルキル
基であり、ここで、前記アルキル基はエステル基又はエーテル基を更に有していてもよく、R
3は炭素数1~10の直鎖状か、炭素数3~10の分岐状あるいは環状のアルキル基、
又はアルコキシ
基であり、ここで、前記アルキル基はエステル基又はエーテル基を更に有していてもよく、Rは炭素数1~6の直鎖状か、炭素数3~6の分岐状あるいは環状のアルキル基である。n0は1、2または3、n1は1、2または3、n2は0、1または2、n3は0、1または2、1≦n1+n3≦3であり、Xは求電子活性種として働くヨウ素の対向置換基である。)
【請求項2】
前記R
0がメチル基またはエチル基であることを特徴とする請求項1に記載のヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素含有求電子試薬が一塩化ヨウ素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素含有ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EUV光の吸収効率の高いヨウ素含有化合物は、現在EUVリソグラフィーの工業化の課題の一つとなっているEUV用レジストの性能改善に期待が持たれている。ヨウ素含有化合物の中でも安定なものとしてヨウ素が直接芳香環と結合した有機基、特にヨウ化フェニル基が導入されたケイ素含有レジスト下層膜(以下ポリシロキサン下層膜とする)には、EUVレジストのパターニング性能改善の可能性が期待されている。
【0003】
このようなヨウ化フェニル基を持つポリシロキサン下層膜を得るためには、ヨウ化フェニル基が導入された加水分解性ケイ素化合物(以下ヨウ素含有ケイ素化合物とする)が必要となる。このようなヨウ素含有ケイ素化合物の製造方法として、臭化フェニルシラン化合物とMgでグリニャール試薬を作りヨウ素と反応する方法(特許文献1:[0058]段落)およびヨウ化フェニレンと特定のグリニャール試薬を作用させた後、テトラアルコキシシランと反応させる方法(特許文献2:[0085]段落)などが知られている。
【0004】
しかし特許文献1の方法では、グリニャール試薬に対する自己反応性を防ぐために、ヨウ素含有ケイ素化合物の加水分解性アルコキシ基としては反応性の低い特定の基が必要となる。そのため、得られるヨウ素含有ケイ素化合物の加水分解性能が限定され、汎用性の低い化合物しか製造できない場合がある。更に特許文献2の方法でも自己反応を防ぐため、温和な条件で44時間と長時間かけて反応を進行させており、不経済である。
【0005】
更に、その他の有機化学的な方法として、下記反応式のようなベンゼンジアゾニウム塩を経由したヨウ化フェニル基の合成も考えられるが、反応途中で水系試薬を使用する必要があるため加水分解性ケイ素含有化合物の製造には不向きである。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO01/83608号公報
【文献】特開2008-214314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、置換位置を自由に選択でき、加水分解性アルコキシ基の加水分解なく、更にアルコキシ基の種類に対して制約のないヨウ素含有ケイ素化合物のより経済的な製造方法が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、加水分解性アルコキシ基の加水分解を引き起こすことなく、ヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物を経済的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、下記反応式で示され、フェニル基に結合するトリアルキルシリル((R
0)
3Si)基をヨウ素含有求電子試薬(I-X)によりヨウ素に置換することを特徴とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【化2】
(上記反応式中、R
0は全て同一でも異なってもよい炭素数1~6のアルキル基、R
1は単結合または2価の有機基、R
2は炭素数1~10の有機基、R
3は炭素数1~10の有機基、Rは炭素数1~6の有機基である。n0は1、2または3、n1は1、2または3、n2は0、1または2、n3は0、1または2、1≦n1+n3≦3であり、Xは求電子活性種として働くヨウ素の対向置換基である。)
【0010】
本発明の製造方法であれば、加水分解性アルコキシ基の加水分解を引き起こすことなく、ヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物を経済的に製造することができる。
【0011】
本発明の製造方法では、前記R0がメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0012】
このような製造方法であれば、トリアルキルシリル((R0)3Si)基が脱離しやすいため、温和な条件で反応が進行し、加水分解性アルコキシ基の加水分解を引き起こすことなく、ヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物をより経済的に製造することができる。
【0013】
また、本発明の製造方法では、前記ヨウ素含有求電子試薬が一塩化ヨウ素であることが好ましい。
【0014】
このようなヨウ素含有求電子試薬を用いると、副反応が起きにくく、副生物の分離が容易となるため、ヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物をより一層経済的に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法によれば、産業上有用な、特にEUVリソグラフィー用下層膜を製造する際に有用なヨウ化フェニル基含有のケイ素化合物を経済的に製造できるため、工業的利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、置換位置を自由に選択でき、加水分解性アルコキシ基の加水分解なく、更にアルコキシ基の種類に対して制約のないヨウ素含有ケイ素化合物のより経済的な製造方法の開発が求められていた。
【0017】
一般に、有機化合物やケイ素化合物の骨格を形成する方法として、グリニャール試薬を代表とする有機金属試薬を用いた方法が知られている。しかしながら、ヨウ素-炭素結合は、非常に反応性が高いため、ヨウ素を保持したまま有機金属試薬を調整することは、特許文献1や特許文献2で示されているように、特殊な反応条件を必要とする。このような特殊な条件を必要とする反応では、汎用性に欠けるうえ、目的とするケイ素化合物を工業的に採算が合う規模で製造することは非常に困難である。
【0018】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、トリアルキルシリル基をあらかじめフェニル基上の必要な位置に導入した後、ケイ素化合物の骨格を各種有機反応で形成し、最後にトリアルキルシリル基をヨウ素に変換する方法を開発し、本発明を完成させたものである。
【0019】
即ち、本発明は、下記反応式で示され、フェニル基に結合するトリアルキルシリル((R
0)
3Si)基をヨウ素含有求電子試薬(I-X)によりヨウ素に置換することを特徴とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物の製造方法である。
【化3】
(上記反応式中、R
0は全て同一でも異なってもよい炭素数1~6のアルキル基、R
1は単結合または2価の有機基、R
2は炭素数1~10の有機基、R
3は炭素数1~10の有機基、Rは炭素数1~6の有機基である。n0は1、2または3、n1は1、2または3、n2は0、1または2、n3は0、1または2、1≦n1+n3≦3であり、Xは求電子活性種として働くヨウ素の対向置換基である。)
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明は、予めフェニル基上に脱離基として導入されているトリアルキルシリル((R
0)
3Si)基に対してヨウ素を含む求電子試薬を作用させることにより、トリアルキルシリル基のipso位、即ち
トリアルキルシリル基それ自体がヨウ素に置換されることにより、室温程度の温和な条件下、短時間で位置選択性効率よくヨウ素を導入することが出来る。
【化4】
(上記反応式中、R
0は全て同一でも異なってもよい炭素数1~6のアルキル基、R
1は単結合または2価の有機基、R
2は炭素数1~10の有機基、R
3は炭素数1~10の有機基、Rは炭素数1~6の有機基である。n0は1、2または3、n1は1、2または3、n2は0、1または2、n3は0、1または2、1≦n1+n3≦3であり、Xは求電子活性種として働くヨウ素の対向置換基である。)
【0022】
本発明の製造方法において用いる原料、すなわち、フェニル基に結合するトリアルキルシリル((R
0)
3Si)基を有するケイ素化合物は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「トリアルキルシリルフェニル基含有ケイ素化合物」ともいう。)である。
【化5】
【0023】
R0は全て同一でも異なってもよい炭素数1~6のアルキル基であり、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、(R0)3Si基の脱離能が高まるためメチル基又はエチル基であることがより好ましい。
R1は単結合または2価の有機基であり、2価の有機基としては、特に限定されないが、直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキレン基、カルボニル基、エステル基(カルボニルオキシ基)、エーテル基など、並びに、これらの組み合わせを挙げることができる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基を挙げることができ、組み合わせの例としては、カルボニルオキシ基とアルキレン基の組み合わせ(カルボニルオキシメチレン基、カルボニルオキシプロピレン基など)を挙げることができる。
R2は炭素数1~10の有機基であり、直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基、アルコキシ基、エステル基を挙げることができ、アルキル基はエステル基、エーテル基などを更に有していてもよい。R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基を挙げることができる。
R3は炭素数1~10の有機基であり、前記R2と同様のものを挙げることができる。
Rは炭素数1~6の有機基であり、直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基を挙げることができる。Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。
n0は1、2または3、n1は1、2または3、n2は0、1または2、n3は0、1または2である。1≦n1+n3≦3であるため、上記原料は1~3の(OR)基を有しており、加水分解性を有している。
【0024】
本発明では、トリアルキルシリルフェニル基含有ケイ素化合物のフェニル基に結合するトリアルキルシリル((R0)3Si)基がヨウ素含有求電子試薬(I-X)によりヨウ素に置換される。このため、目的とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物のヨウ素置換位置に前記トリアルキルシリル基(脱離基)を有するトリアルキルシリルフェニル基含有ケイ素化合物を原料として選択すればよい。
【0025】
次に、本発明に用いられるヨウ素含有求電子試薬(I-X:Iはヨウ素であり、Xは求電子活性種として働くヨウ素の対向置換基である。)としては、ヨウ素、ハロゲン化ヨウ素(一塩化ヨウ素、一臭化ヨウ素など)とそのピリジン付加体(PyIClなど)、N-ヨードイミド類、金属ヨウ化物等を挙げることができる。特に、ヨウ素、一塩化ヨウ素が好ましい。また、反応速度を高めるために、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化チタン、三フッ化ホウ素等のルイス酸類の添加や光照射を行ってもよい。前記求電子試薬はヨウ素化するトリアルキルシリル基1モルに対して1モル以上、最大2モル程度加えればよい。副反応を誘発しないよう、後述するように反応を追跡しながら、添加量を調整するのがより好ましい。ヨウ素含有求電子試薬は、下記溶剤に溶解して添加することもできる。
【0026】
反応に使用される溶剤としては、酢酸、塩化メチレン、クロロフォルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等を例示できるが、特にハロゲン化炭化水素が好ましい。反応温度は、0℃以上溶剤の沸点以下が好ましく、特に10℃以上40℃以下が経済的で好ましい。反応を溶剤の還流条件で行ってもよい。
反応を行う雰囲気は、特に限定されないが、窒素など不活性ガス雰囲気で行うことができる。このような雰囲気下、反応系に水分が入らないようにすることで、反応時の原料、生成物の加水分解を避けることができる。
【0027】
ガスクロマトグラフィー(GC)等により反応率を追跡し、反応を完結させることが収率の点で望ましいが、反応時間は求電子試薬滴下終了から0.1~5時間程度とすればよい。
【0028】
ヨウ素含有求電子試薬(I-X)によっては、副生物としてトリアルキルハロシラン類が得られる(ヨウ素の対向置換基Xがハロゲンである場合)。この場合、反応終了後、副生物として得られるトリアルキルハロシラン類を反応溶剤とともに減圧留去することで目的物を得ることが可能である。更に別法として、反応原料が消失したところで反応停止剤としてアルコールとアミンの混合物を添加してもよい。これにより、反応の後処理中に進行する副反応を抑制することが可能である。アルコールとアミンの混合物を添加すると、トリアルキルハロシランが反応してトリアルキルアルコキシシランとハロゲン化水素のアミン塩が形成される。形成されたアミン塩を濾別した後、アルコール、アミンおよび反応溶剤を留去してヨウ素含有ケイ素化合物を得ることが出来る。ヨウ素含有求電子試薬として一塩化ヨウ素を用いると、副生するトリアルキルクロロシランを上記のようにして生成物から容易に分離できるため好ましい。
【0029】
以上のような本発明の方法により製造可能なヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物としては、特に限定されないが、以下の化合物を例示できる。
【化6】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
得られたヨウ素含有ケイ素化合物は、そのままヨウ素含有ポリシロキサン製造に使用することが出来るし、場合によっては蒸留精製した後、ヨウ素含有ポリシロキサン製造に使用することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
300mlの3つ口ガラスフラスコに還流冷却器及び温度計を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、4-トリメチルシリルフェニルトリメトキシシラン27g(0.1mol)と塩化メチレン80gを仕込んだ。マグネチックスターラーで撹拌しながら内温を10℃に調整して一塩化ヨウ素16.5gと塩化メチレン80gの混合物を30分掛けて滴下した後、25℃で1時間熟成した。GCで反応を確認したところ原料が消失していたので、反応液をロータリーエバポレータで濃縮し、粗4-ヨウ化フェニルトリメトキシシランを得た。これを減圧蒸留して4-ヨウ化フェニルトリメトキシシランを28.9g(0.09mol)得た。収率は89%であった。
【0042】
[実施例2]
500mlの3つ口ガラスフラスコに還流冷却器及び温度計を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、3-トリメチルシリルフェニルエチルトリエトキシシラン34g(0.1mol)と塩化メチレン100gを仕込んだ。マグネチックスターラーで撹拌しながら内温を10℃に調整して一塩化ヨウ素16.5gと塩化メチレン80gの混合物を30分掛けて滴下した後、25℃で1時間熟成した。GCで反応を確認したところ原料が消失していたので、トリエチルアミン15gとエタノール20gの混合物を25℃で5分かけて滴下し、25℃で30分間熟成した。反応液にヘキサンを100g加えてトリエチルアミン塩酸塩を沈殿させ、これを濾別し、濾液をロータリーエバポレータで濃縮し、粗3-ヨウ化フェニルエチルトリエトキシシランを得た。これを減圧蒸留して3-ヨウ化フェニルエチルトリエトキシシランを36.1g(0.09mol)得た。収率は92%であった。
【0043】
[実施例3]
1000mlの3つ口ガラスフラスコに還流冷却器及び温度計を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、3、4-ビストリメチルシリルフェニルトリメトキシシラン34g(0.1mol)と塩化メチレン200gを仕込んだ。マグネチックスターラーで撹拌しながら内温を10℃に調整して一塩化ヨウ素33gと塩化メチレン200gの混合物を30分掛けて滴下した後、25℃で2時間熟成した。GCで反応を確認したところ原料が消失していたので、トリエチルアミン30gとメタノール30gの混合物を25℃で10分かけて滴下し、25℃で30分間熟成した。反応液にヘキサンを300g加えてトリエチルアミン塩酸塩を沈殿させ、これを濾別し、濾液をロータリーエバポレータで濃縮し、粗3、4-二ヨウ化フェニルトリメトキシシランを得た。これを減圧蒸留して3、4-二ヨウ化フェニルトリメトキシシランを38.4g(0.09mol)得た。収率は84%であった。
【0044】
[比較合成例1]
300mlの3つ口ガラスフラスコに還流冷却器及び温度計を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、フェニルトリメトキシシラン20g(0.1mol)と塩化メチレン80gを仕込んだ。マグネチックスターラーで撹拌しながら内温10℃に調整して一塩化ヨウ素16.5gと塩化メチレン80gの混合物を30分掛けて滴下した後、25℃で1時間熟成した。GCで反応を確認したが原料が未反応で残っていた。更に反応温度を40℃にして3時間反応したところ、原料が分解してヨウ化ベンゼンのピークが発生していた。
【0045】
[比較合成例2]
300mlの3つ口ガラスフラスコに還流冷却器及び温度計を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、フェニルエチルトリメトキシシラン23g(0.1mol)と塩化メチレン80gを仕込んだ。マグネチックスターラーで撹拌しながら内温10℃に調整して一塩化ヨウ素16.5gと塩化メチレン80gの混合物を30分掛けて滴下した後、25℃で1時間熟成した。GCで反応を確認したが原料が未反応で残っていた。更に反応温度を40℃にして30時間反応したが、反応の進行は見られなかった。
【0046】
実施例では、25℃(室温程度)で1~2時間反応することで、原料が分解することなしに、原料を消失させることができ、高い収率で目的とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物を得ることができる。
一方、比較例では、本発明で用いるトリアルキルシリルフェニル基含有ケイ素化合物と異なる原料を用いているため、ヨウ素含有求電子試薬として一塩化ヨウ素を用いても、室温程度では原料は消失せず、反応温度を上げ、更に反応時間も長くすると原料が分解してしまい、目的とするヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物を得ることができない。
【0047】
上記の結果より、トリアルキルシリル基を温和な条件で短時間にヨウ素に置き換えることでヨウ素含有ケイ素化合物の製造が可能であること、すなわち、加水分解性アルコキシ基の加水分解を引き起こすことなく、ヨウ化フェニル基含有ケイ素化合物を経済的に製造できることが示された。
本発明では、EUVリソグラフィーの性能改善に期待されるヨウ化フェニル基含有ポリシロキサン下層膜を形成するためのヨウ化フェニル基含有加水分解性ケイ素化合物を経済的に製造できるため、工業的利用価値が非常に高い。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。