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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231220BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20231220BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C08K5/5419
C08L71/00 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020019346
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2020163837
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019066790
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友宏
(72)【発明者】
【氏名】宮本 知典
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207811(WO,A1)
【文献】特開2015-120253(JP,A)
【文献】特開2005-186576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
C08K 5/5419
C08L 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水層(r)及び樹脂基材層(s)が、層(c)を介して積層された積層体であって、
前記層(c)は、下記式(c11)で表される有機ケイ素化合物(C1)及び/又は2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)が下記X1~X4の少なくともいずれかで縮合して結合した有機ケイ素化合物(C2)の混合組成物(cc)から形成され、
前記撥水層(r)は、下記式(a1)で表される有機ケイ素化合物(A)及び下記式(b1)で表される有機ケイ素化合物(B)の混合組成物(ca)から形成される層であることを特徴とする積層体。
【化1】
上記式(c11)中、
1、Z2は、それぞれ独立に、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基であり、
x1、Rx2、Rx3、Rx4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rx1が複数存在する場合は複数のRx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rx2が複数存在する場合は複数のRx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rx3が複数存在する場合は複数のRx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rx4が複数存在する場合は複数のRx4がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfx1が複数存在する場合は複数のRfx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx2が複数存在する場合は複数のRfx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx3が複数存在する場合は複数のRfx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx4が複数存在する場合は複数のRfx4がそれぞれ異なっていてもよく、
Yは、-NH-、-N(CH3)-又は-O-であり、Yが複数存在する場合は複数のYがそれぞれ異なっていてもよく、
1、X2、X3、X4は、ぞれぞれ独立に、-ORc(Rcは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はアミノC1-3アルキルジC1-3アルコキシシリル基である)であり、X1が複数存在する場合は複数のX1がそれぞれ異なっていてもよく、X2が複数存在する場合は複数のX2がそれぞれ異なっていてもよく、X3が複数存在する場合は複数のX3がそれぞれ異なっていてもよく、X4が複数存在する場合は複数のX4がそれぞれ異なっていてもよく、
p11は、0~20の整数であり、p12、p13、p14は、それぞれ独立して、0~10の整数であり、p15は、0~5の整数であり、p16は、1~10の整数であり、p17は0又は1であり、
前記有機ケイ素化合物(C1)は、末端がZ1-及びZ2-であり、-O-が-O-と連結しない限り、p11個の-{C(Rx1)(Rx2)}-、p12個の-{C(Rfx1)(Rfx2)}-、p13個の-{Si(Rx3)(Rx4)}-、p14個の-{Si(Rfx3)(Rfx4)}-、p15個の-Y-、p16個の-{Si(X1)(X2)-O}-、p17個の-{Si(X3)(X4)}-が任意の順で並んで結合して構成される。
【化2】
上記式(a1)中、
Rfa1は、両端が酸素原子である2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、
11、R12、及びR13は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、R11が複数存在する場合は複数のR11がそれぞれ異なっていてもよく、R12が複数存在する場合は複数のR12がそれぞれ異なっていてもよく、R13が複数存在する場合は複数のR13がそれぞれ異なっていてもよく、
1、E2、E3、E4、及びE5は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、E1が複数存在する場合は複数のE1がそれぞれ異なっていてもよく、E2が複数存在する場合は複数のE2がそれぞれ異なっていてもよく、E3が複数存在する場合は複数のE3がそれぞれ異なっていてもよく、E4が複数存在する場合は複数のE4がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~10価のオルガノシロキサン基であり、
1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、加水分解性基又は-(CH2e6-Si(OR143であり、e6は1~5であり、R14はメチル基又はエチル基であり、J1が複数存在する場合は複数のJ1がそれぞれ異なっていてもよく、J2が複数存在する場合は複数のJ2がそれぞれ異なっていてもよく、J3が複数存在する場合は複数のJ3がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びL2は、それぞれ独立して、酸素原子、窒素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~12の2価の連結基であり、L1が複数存在する場合は複数のL1がそれぞれ異なっていてもよく、L2が複数存在する場合は複数のL2がそれぞれ異なっていてもよく、
d11は、1~9であり、
d12は、0~9であり、
a10及びa14は、それぞれ独立して0~10であり、
a11及びa15は、それぞれ独立して0又は1であり、
a12及びa16は、それぞれ独立して0~9であり、
a13は、0又は1であり、
a21、a22、及びa23は、それぞれ独立して0~2であり、
e1、e2、及びe3は、それぞれ独立して1~3である。
【化3】
前記式(b1)中、
Rf b10 は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
b11 、R b12 、R b13 及びR b14 は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、R b11 が複数存在する場合は複数のR b11 がそれぞれ異なっていてもよく、R b12 が複数存在する場合は複数のR b12 がそれぞれ異なっていてもよく、R b13 が複数存在する場合は複数のR b13 がそれぞれ異なっていてもよく、R b14 が複数存在する場合は複数のR b14 がそれぞれ異なっていてもよく、
Rf b11 、Rf b12 、Rf b13 及びRf b14 は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rf b11 が複数存在する場合は複数のRf b11 がそれぞれ異なっていてもよく、Rf b12 が複数存在する場合は複数のRf b12 がそれぞれ異なっていてもよく、Rf b13 が複数存在する場合は複数のRf b13 がそれぞれ異なっていてもよく、Rf b14 が複数存在する場合は複数のRf b14 がそれぞれ異なっていてもよく、
b15 は、炭素数が1~20のアルキル基であり、R b15 が複数存在する場合は複数のR b15 がそれぞれ異なっていてもよく、
1 は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A 1 が複数存在する場合は複数のA 1 がそれぞれ異なっていてもよく、
2 は、加水分解性基であり、A 2 が複数存在する場合は複数のA 2 がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14及びb15は、それぞれ独立して0~100の整数であり、
cは、1~3の整数であり、
Rf b10 -、-Si(A 2 c (R b15 3-c 、b11個の-{C(R b11 )(R b12 )}-、b12個の-{C(Rf b11 )(Rf b12 )}-、b13個の-{Si(R b13 )(R b14 )}-、b14個の-{Si(Rf b13 )(Rf b14 )}-、b15個の-A 1 -は、Rf b10 -、-Si(A 2 c (R b15 3-c が末端となり、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物(C2)は、
下記式(c21-1)で表される構造(c21-1)を2以上有し、前記構造(c21-1)同士が、下記*3又は*4で鎖状又は環状に結合した化合物であって、下記*3又は*4での結合は、2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)の前記X1又はX2の縮合によるものであり、
下記式(c21-1)の*1及び*2には、それぞれ、下記式(c21-2)のp11、p12、p13、p14、p15、(p16)-1、p17で括られた単位の少なくとも1種が任意の順で結合し末端がZ-である基が結合しており、複数の前記構造(c21-1)ごとに、*1及び*2に結合する基は異なっていてもよく、
複数の前記構造(c21-1)が鎖状に結合しているときの末端となる*3は水素原子であり、*4はヒドロキシ基である請求項1に記載の積層体。
【化4】
【化5】
前記式(c21-2)中、
Zは、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基であり、
x1、Rx2、Rx3、Rx4、Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4、Y、X1、X2、X3、X4、p11~p17は、前記式(c11)中のこれら符号と同義である。
【請求項3】
前記組成物(cc)は、少なくとも前記有機ケイ素化合物(C1)が混合されている請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記樹脂基材層(s)は、ハードコート層である請求項1~のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
前記樹脂基材層(s)に、前記組成物(cc)を塗布して層(c)を形成する工程、
前記層(c)に、前記組成物(ca)を塗布して常温で硬化させて前記撥水層(r)を形成する工程、を含む積層体の製造方法。
【請求項6】
前記層(c)を形成する工程で、前記樹脂基材層(s)にプラズマ処理を施し、該プラズマ処理面に前記組成物(cc)を塗布する請求項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が混合されている組成物から形成される皮膜は、その表面自由エネルギーが非常に小さいため、タッチパネルディスプレイ等の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、自動車や建物の窓ガラス等の種々の分野において防汚コーティング、又は撥水撥油コーティングなどとして用いられている。
【0003】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が混合されている組成物を基材に塗布するに際しては、密着性の向上等を目的として、基材に予めプライマー層などの他の層を形成した後に、前記組成物を塗布して防汚コーティング又は撥水撥油コーティングを形成する場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材の少なくとも一方の面にハードコート層(X)、プライマー層(Y)及び表面層(Z)が順に積層されたハードコートフィルムであって、前記表面層(Z)が110°以上の水接触角を有するハードコートフィルムが開示されている。前記表面層(Z)を形成するためには、ポリパーフルオロポリエーテル鎖を有するフッ素系化合物を用いるのが好ましいこと、またプライマー層(Y)を形成するためには、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン化合物が好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-120253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂などの基材の上に、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が混合されている組成物から形成される撥水層が積層された積層体は、用途によっては、アルコール等の薬品に曝される場合があり、このような場合には、薬品に曝された後でも良好な性能(撥水性等)を維持できること(以下、耐薬品性と呼ぶ)が求められる。
【0007】
しかし、前記特許文献1は耐薬品性については検討されていなかった。そこで、本発明は、樹脂基材に、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が混合されている組成物から形成される撥水層が積層された積層体であって、耐薬品性に優れた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]撥水層(r)及び樹脂基材層(s)が、層(c)を介して積層された積層体であって、
前記層(c)は、下記式(c11)で表される有機ケイ素化合物(C1)及び/又は2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)が下記X1~X4の少なくともいずれかで縮合して結合した有機ケイ素化合物(C2)の混合組成物(cc)から形成され、
前記撥水層(r)は、下記式(a1)で表される有機ケイ素化合物(A)の混合組成物(ca)から形成される層であることを特徴とする積層体。
【化1】
上記式(c11)中、
1、Z2は、それぞれ独立に、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基であり、
x1、Rx2、Rx3、Rx4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rx1が複数存在する場合は複数のRx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rx2が複数存在する場合は複数のRx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rx3が複数存在する場合は複数のRx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rx4が複数存在する場合は複数のRx4がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfx1が複数存在する場合は複数のRfx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx2が複数存在する場合は複数のRfx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx3が複数存在する場合は複数のRfx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx4が複数存在する場合は複数のRfx4がそれぞれ異なっていてもよく、
Yは、-NH-、-N(CH3)-又は-O-であり、Yが複数存在する場合は複数のYがそれぞれ異なっていてもよく、
1、X2、X3、X4は、ぞれぞれ独立に、-ORc(Rcは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はアミノC1-3アルキルジC1-3アルコキシシリル基である)であり、X1が複数存在する場合は複数のX1がそれぞれ異なっていてもよく、X2が複数存在する場合は複数のX2がそれぞれ異なっていてもよく、X3が複数存在する場合は複数のX3がそれぞれ異なっていてもよく、X4が複数存在する場合は複数のX4がそれぞれ異なっていてもよく、
p11は、0~20の整数であり、p12、p13、p14は、それぞれ独立して、0~10の整数であり、p15は、0~5の整数であり、p16は、1~10の整数であり、p17は0又は1であり、
前記有機ケイ素化合物(C1)は、末端がZ1-及びZ2-であり、-O-が-O-と連結しない限り、p11個の-{C(Rx1)(Rx2)}-、p12個の-{C(Rfx1)(Rfx2)}-、p13個の-{Si(Rx3)(Rx4)}-、p14個の-{Si(Rfx3)(Rfx4)}-、p15個の-Y-、p16個の-{Si(X1)(X2)-O}-、p17個の-{Si(X3)(X4)}-が任意の順で並んで結合して構成される。
【化2】
上記式(a1)中、
Rfa1は、両端が酸素原子である2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、
11、R12、及びR13は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、R11が複数存在する場合は複数のR11がそれぞれ異なっていてもよく、R12が複数存在する場合は複数のR12がそれぞれ異なっていてもよく、R13が複数存在する場合は複数のR13がそれぞれ異なっていてもよく、
1、E2、E3、E4、及びE5は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、E1が複数存在する場合は複数のE1がそれぞれ異なっていてもよく、E2が複数存在する場合は複数のE2がそれぞれ異なっていてもよく、E3が複数存在する場合は複数のE3がそれぞれ異なっていてもよく、E4が複数存在する場合は複数のE4がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~10価のオルガノシロキサン基であり、
1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、加水分解性基又は-(CH2e6-Si(OR143であり、e6は1~5であり、R14はメチル基又はエチル基であり、J1が複数存在する場合は複数のJ1がそれぞれ異なっていてもよく、J2が複数存在する場合は複数のJ2がそれぞれ異なっていてもよく、J3が複数存在する場合は複数のJ3がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びL2は、それぞれ独立して、酸素原子、窒素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~12の2価の連結基であり、L1が複数存在する場合は複数のL1がそれぞれ異なっていてもよく、L2が複数存在する場合は複数のL2がそれぞれ異なっていてもよく、
d11は、1~9であり、
d12は、0~9であり、
a10及びa14は、それぞれ独立して0~10であり、
a11及びa15は、それぞれ独立して0又は1であり、
a12及びa16は、それぞれ独立して0~9であり、
a13は、0又は1であり、
a21、a22、及びa23は、それぞれ独立して0~2であり、
e1、e2、及びe3は、それぞれ独立して1~3である。
[2]前記有機ケイ素化合物(C2)は、
下記式(c21-1)で表される構造(c21-1)を2以上有し、前記構造(c21-1)同士が、下記*3又は*4で鎖状又は環状に結合した化合物であって、下記*3又は*4での結合は、2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)の前記X1又はX2の縮合によるものであり、
下記式(c21-1)の*1及び*2には、それぞれ、下記式(c21-2)のp11、p12、p13、p14、p15、(p16)-1、p17で括られた単位の少なくとも1種が任意の順で結合し末端がZ-である基が結合しており、複数の前記構造(c21-1)ごとに、*1及び*2に結合する基は異なっていてもよく、
複数の前記構造(c21-1)が鎖状に結合しているときの末端となる*3は水素原子であり、*4はヒドロキシ基である[1]に記載の積層体。
【化3】

【化4】
前記式(c21-2)中、
Zは、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基であり、
x1、Rx2、Rx3、Rx4、Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4、Y、X1、X2、X3、X4、p11~p17は、前記式(c11)中のこれら符号と同義である。
[3]前記組成物(ca)は、下記式(b1)で表される有機ケイ素化合物(B)が混合されている[1]又は[2]に記載の積層体。
【化5】
前記式(b1)中、
Rfb10は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
b11、Rb12、Rb13及びRb14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rb11が複数存在する場合は複数のRb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rb12が複数存在する場合は複数のRb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rb13が複数存在する場合は複数のRb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rb14が複数存在する場合は複数のRb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfb11、Rfb12、Rfb13及びRfb14は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfb11が複数存在する場合は複数のRfb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb12が複数存在する場合は複数のRfb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb13が複数存在する場合は複数のRfb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb14が複数存在する場合は複数のRfb14がそれぞれ異なっていてもよく、
b15は、炭素数が1~20のアルキル基であり、Rb15が複数存在する場合は複数のRb15がそれぞれ異なっていてもよく、
1は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A1が複数存在する場合は複数のA1がそれぞれ異なっていてもよく、
2は、加水分解性基であり、A2が複数存在する場合は複数のA2がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14及びb15は、それぞれ独立して0~100の整数であり、
cは、1~3の整数であり、
Rfb10-、-Si(A2c(Rb153-c、b11個の-{C(Rb11)(Rb12)}-、b12個の-{C(Rfb11)(Rfb12)}-、b13個の-{Si(Rb13)(Rb14)}-、b14個の-{Si(Rfb13)(Rfb14)}-、b15個の-A1-は、Rfb10-、-Si(A2c(Rb153-cが末端となり、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
[4]前記組成物(cc)は、少なくとも前記有機ケイ素化合物(C1)が混合されている[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記樹脂基材層(s)は、ハードコート層である[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
前記樹脂基材層(s)に、前記組成物(cc)を塗布して層(c)を形成する工程、
前記層(c)に、前記組成物(ca)を塗布して常温で硬化させて前記撥水層(r)を形成する工程、
を含む積層体の製造方法。
[7]前記層(c)を形成する工程で、前記樹脂基材層(s)にプラズマ処理を施し、該プラズマ処理面に前記組成物(cc)を塗布する[6]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐薬品性に優れた積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
樹脂基材層(s)に、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物の混合組成物(ca)から形成される撥水層(r)が積層された積層体であって、耐薬品性に優れた積層体を実現すべく、本発明者らが検討を重ねた結果、前記樹脂基材層(s)と、前記撥水層(r)が、特定の有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)の混合組成物(cc)から形成される層(c)を介して積層されると、耐薬品性に優れた積層体を実現できることを見出した。以下、層(c)、撥水層(r)、樹脂基材層(s)の順に説明する。なお、前記混合組成物(ca)は、有機ケイ素化合物(A)が混合された組成物であり、有機ケイ素化合物(A)を混合することにより得られ、また有機ケイ素化合物(A)以外の成分が混合されている場合は、有機ケイ素化合物(A)と他の成分を混合することにより得られる。前記混合組成物(cc)は、有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)が混合された組成物であり、有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)を混合することにより得られ、有機ケイ素化合物(C1)及び(C2)以外の成分が混合されている場合は、有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)と、他の成分を混合することにより得られる。前記混合組成物(ca)及び混合組成物(cc)は、混合後、例えば保管中に反応が進んだものも含む。
【0011】
1.層(c)
層(c)は、下記式(c11)で表される有機ケイ素化合物(C1)及び/又は2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)が下記X1又はX2で縮合して結合した有機ケイ素化合物(C2)の混合組成物(cc)から形成される層であり、すなわち、有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)由来の構造を有している。以下、有機ケイ素化合物(C1)及び(C2)をまとめて、有機ケイ素化合物(C)と呼ぶ場合がある。
【0012】
1-1.有機ケイ素化合物(C1)
有機ケイ素化合物(C1)は、下記式(c11)で表される。
【0013】
【化6】
【0014】
前記式(c11)中、
1、Z2は、それぞれ独立に、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基である。反応性官能基としては、ビニル基、α-メチルビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、アミノ基、エポキシ基、ウレイド基、又はメルカプト基が挙げられる。Z1、Z2としては、アミノ基、メルカプト基、又はメタクリロイル基が好ましく、特にアミノ基が好ましい。
【0015】
x1、Rx2、Rx3、Rx4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rx1が複数存在する場合は複数のRx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rx2が複数存在する場合は複数のRx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rx3が複数存在する場合は複数のRx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rx4が複数存在する場合は複数のRx4がそれぞれ異なっていてもよい。Rx1、Rx2、Rx3、Rx4は、水素原子または炭素数が1~2のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0016】
Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfx1が複数存在する場合は複数のRfx1がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx2が複数存在する場合は複数のRfx2がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx3が複数存在する場合は複数のRfx3がそれぞれ異なっていてもよく、Rfx4が複数存在する場合は複数のRfx4がそれぞれ異なっていてもよい。Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~10のアルキル基又はフッ素原子であることが好ましい。
【0017】
Yは、-NH-、-N(CH3)-又は-O-であり、Yが複数存在する場合は複数の
Yがそれぞれ異なっていてもよい。Yは-NH-であることが好ましい。
【0018】
1、X2、X3、X4は、ぞれぞれ独立に、-ORc(Rcは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はアミノC1-3アルキルジC1-3アルコキシシリル基である)であり、X1が複数存在する場合は複数のX1がそれぞれ異なっていてもよく、X2が複数存在する場合は複数のX2がそれぞれ異なっていてもよく、X3が複数存在する場合は複数のX3がそれぞれ異なっていてもよく、X4が複数存在する場合は複数のX4がそれぞれ異なっていてもよい。X1、X2、X3、X4は、Rcが水素原子、又は炭素数1~2のアルキル基である-ORcであることが好ましく、Rcは水素原子がより好ましい。
【0019】
p11は、0~20の整数であり、p12、p13、p14は、それぞれ独立して、0~10の整数であり、p15は、0~5の整数であり、p16は、1~10の整数であり、p17は0又は1である。p11は1~15が好ましく、より好ましくは3~13であり、さらに好ましくは5~10である。p12、p13及びp14は、それぞれ独立して、0~5が好ましく、より好ましくは全て0~2である。p15は、1~5が好ましく、より好ましくは1~3である。p16は、1~5が好ましく、より好ましくは1~3である。p17は1が好ましい。
【0020】
前記有機ケイ素化合物(C1)は、末端がZ1-及びZ2-であり、-O-が-O-と連結しない限り、p11個の-{C(Rx1)(Rx2)}-、p12個の-{C(Rfx1)(Rfx2)}-、p13個の-{Si(Rx3)(Rx4)}-、p14個の-{Si(Rfx3)(Rfx4)}-、p15個の-Y-、p16個の-{Si(X1)(X2)-O}-、p17個の-{Si(X3)(X4)}-が任意の順で並んで結合して構成される。p11個の-{C(Rx1)(Rx2)}-は、-{C(Rx1)(Rx2)}-が連続して結合している必要はなく、途中に他の単位を介して結合していてもよく、合計でp11個であればよい。p12~p17で括られる単位についても同様である。
【0021】
有機ケイ素化合物(C1)としては、Z1及びZ2がアミノ基であり、Rx1及びRx2が水素原子であり、p11が3~13(好ましくは5~10)であり、Rx3及びRx4がいずれも水素原子であり、Rfx1~Rfx4がいずれも1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~10のアルキル基又はフッ素原子であり、p12~p14がいずれも0~5であり、Yが-NH-であり、p15が0~5(好ましくは0~3)であり、X1~Xがいずれも-OHであり、p16が1~5(好ましくは1~3)であり、p17が1である化合物が好ましい。
【0022】
後述する実施例で用いたKBP90は、前記式(c11)におけるZ1及びZ2がいずれもアミノ基であり、Rx1及びRx2がいずれも水素原子であり、p11が6であり、p12~p15がいずれも0であり、X1、X2、X3及びX4がいずれも-OHであり、p16及びp17がいずれも1である化合物である。
【0023】
後述する実施例で用いたKBP64は、前記式(c11)におけるZ1及びZ2がいずれもアミノ基であり、Rx1及びRx2がいずれも水素原子であり、p11が10であり、p12~p14がいずれも0であり、p15は2であり、YはNHであり、X1、X2、X3及びX4がいずれも-OHであり、p16及びp17がいずれも1である化合物である。
【0024】
有機ケイ素化合物(C1)は、下記式(c12)で表されることが好ましい。
【0025】
【化7】
【0026】
前記式(c12)中、Z1、Z2、X1、X2、X3、X4、Yは、式(c11)中のこれらと同義であり、p21~p24は、それぞれ独立に1~6の整数であり、p25、p26はそれぞれ独立に0又は1である。
【0027】
式(c12)において、Z1、Z2は、アミノ基、メルカプト基、又はメタクリロイル基が好ましく、特にアミノ基が好ましい。X1、X2、X3、X4は、Rcが水素原子、又は炭素数1~2のアルキル基である-ORcであることが好ましく、Rcが水素原子であることがより好ましい。Yは-NH-であることが好ましい。p21~p24は、2以上が好ましく、また5以下が好ましく、4以下がより好ましい。p25及びp26はいずれも0であること、又はp25及びp26がいずれも1であることが好ましく、p25及びp26がいずれも0であることがより好ましい。
【0028】
1-2.有機ケイ素化合物(C2)
有機ケイ素化合物(C2)は、2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)が前記X1~X4の少なくともいずれかで縮合して結合した化合物であり、2以上の前記有機ケイ素化合物(C1)は、鎖状に結合してもよいし、環状に結合してもよい。有機ケイ素化合物(C2)は、例えば、前記組成物(cc)における有機ケイ素化合物(C1)から形成される。
【0029】
有機ケイ素化合物(C2)として、例えば前記X1又はXで縮合したものを挙げることができ、具体的には、下記式(c21-1)で表される構造(c21-1)を2以上有し、前記構造(c21-1)同士が、下記*3又は*4で鎖状又は環状に結合した化合物であって、下記*3又は*4での結合は、2以上の有機ケイ素化合物(C1)の前記X1又はX2の縮合によるものであり、
下記式(c21-1)の*1及び*2には、それぞれ、下記式(c21-2)のp11、p12、p13、p14、p15、(p16)-1、p7で括られた単位の少なくとも1種が任意の順で結合し末端がZ-である基が結合している化合物が挙げられる。複数の構造(c21-1)ごとに、*1及び*2に結合する基は異なっていてもよく、また複数の構造(c21-1)が鎖状に結合しているときの末端となる*3は水素原子であり、*4はヒドロキシ基である。
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
前記式(c21-2)中、
Zは、加水分解性基及びヒドロキシ基以外の、反応性官能基であり、
x1、Rx2、Rx3、Rx4、Rfx1、Rfx2、Rfx3、Rfx4、Y、X1、X2、X3、X4、p11~p17は、前記式(c11)中のこれら符号と同義であり、これらの好ましい態様についても同様である。
【0033】
有機ケイ素化合物(C2)を形成する際の、有機ケイ素化合物(C1)の結合数は2~10が好ましく、より好ましくは3~8である。また、有機ケイ素化合物(C2)を構成する2以上の有機ケイ素化合物(C1)は互いに異なっていてもよいが、全て同じであることが好ましい。
【0034】
有機ケイ素化合物(C1)が前記式(c12)で表される化合物である場合、有機ケイ素化合物(C2)としては、例えば下記式(c22)で表される構造が下記*3又は*4で鎖状又は環状に結合した化合物が挙げられる。下記式(c22)で表される構造が鎖状に結合する場合には、*3は水素原子であり、*4はヒドロキシ基である。
【0035】
【化10】
【0036】
前記式(c22)中の符号は、全て前記式(c11)の符号と同義である。
【0037】
有機ケイ素化合物(C2)は、前記式(c22)で表される構造が2~10(好ましくは3~8)結合した化合物であることが好ましい。
【0038】
前記組成物(cc)には、有機ケイ素化合物(C1)及び有機ケイ素化合物(C2)のうち少なくとも一方が混合されており、少なくとも有機ケイ素化合物(C1)が混合されていることが好ましい。
【0039】
前記層(c)の厚みは、例えば1~1000nm程度である。
【0040】
2.撥水層(r)
撥水層(r)は、下記式(a1)で表される有機ケイ素化合物(A)の混合組成物(ca)から形成される層であり、すなわち有機ケイ素化合物(A)由来の構造を有している。後述する通り、有機ケイ素化合物(A)は加水分解性基を有しており、加水分解で生じた有機ケイ素化合物(A)の-SiOH基同士が脱水縮合するため、撥水層(r)は、通常有機ケイ素化合物(A)由来の縮合構造を有する。
【0041】
【化11】
【0042】
上記式(a1)中、
Rfa1は、両端が酸素原子である2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、
11、R12、及びR13は、それぞれ独立して(すなわち、R11とR12とR13は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよく)炭素数1~20のアルキル基であり、R11が複数存在する場合は複数のR11がそれぞれ異なっていてもよく、R12が複数存在する場合は複数のR12がそれぞれ異なっていてもよく、R13が複数存在する場合は複数のR13がそれぞれ異なっていてもよく、
1、E2、E3、E4、及びE5は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、
1が複数存在する場合は複数のE1がそれぞれ異なっていてもよく、E2が複数存在する場合は複数のE2がそれぞれ異なっていてもよく、E3が複数存在する場合は複数のE3がそれぞれ異なっていてもよく、E4が複数存在する場合は複数のE4がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~10価のオルガノシロキサン基であり、
1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、加水分解性基又は-(CH2e6-Si(OR143であり、e6は1~5であり、R14はメチル基又はエチル基であり、J1が複数存在する場合は複数のJ1がそれぞれ異なっていてもよく、J2が複数存在する場合は複数のJ2がそれぞれ異なっていてもよく、J3が複数存在する場合は複数のJ3がそれぞれ異なっていてもよく、
1及びL2は、それぞれ独立して、酸素原子、窒素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~12の2価の連結基であり、L1が複数存在する場合は複数のL1がそれぞれ異なっていてもよく、L2が複数存在する場合は複数のL2がそれぞれ異なっていてもよく、
d11は、1~9であり、
d12は、0~9であり、
a10及びa14は、それぞれ独立して0~10であり、
a11及びa15は、それぞれ独立して0又は1であり、
a12及びa16は、それぞれ独立して0~9であり、
a13は、0又は1であり、
a21、a22、及びa23は、それぞれ独立して0~2であり、
e1、e2、及びe3は、それぞれ独立して1~3である。
【0043】
有機ケイ素化合物(A)は、上記式(a1)で表される通り、Rfa1で表されるパーフルオロポリエーテル構造を有するとともに、J2で表される加水分解性基又は-(CH2e6-Si(OR143(但し、R14はメチル基又はエチル基)を少なくとも1つ有している。パーフルオロポリエーテル構造は、ポリオキシアルキレン基の全部の水素原子がフッ素原子に置き換わった構造であり、パーフルオロオキシアルキレン基ともいえ、得られる皮膜に撥水性を付与できる。また、J2によって、有機ケイ素化合物(A)同士、又は他の単量体と共に重合反応(特に重縮合反応)を通じて結合することによって、得られる皮膜のマトリックスとなり得る化合物である。
【0044】
Rfa1は、-O-(CF2CF2O)e4-、又は-O-(CF2CF2CF2O)e5-が好ましい。e4、e5は、いずれも15~80である。
【0045】
11、R12、及びR13は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。
【0046】
1及びL2は、それぞれ独立して、フッ素原子を含んだ炭素数1~5の2価の連結基が好ましい。
【0047】
1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~5価のオルガノシロキサン基が好ましい。
【0048】
1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基又は-(CH2e6-Si(OR143が好ましい。
【0049】
a10は0~5が好ましく(より好ましくは0~3)、a11は0が好ましく、a12は0~7が好ましく(より好ましくは0~5)、a14は1~6が好ましく(より好ましくは1~3)、a15は0が好ましく、a16は0~6が好ましく、a21~a23はいずれも0又は1が好ましく(より好ましくはいずれも0)、d11は1~5が好ましく(より好ましくは1~3)、d12は0~3が好ましく(より好ましくは0又は1)、e1~e3はいずれも3が好ましい。また、a13は1が好ましい。
【0050】
化合物(A)としては、上記式(a1)のRfa1が-O-(CF2CF2CF2O)e5-であり、e5が35~50であり、L1及びL2がいずれも炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、E1、E2、及びE3がいずれも水素原子であり、E4、及びE5が水素原子又はフッ素原子であり、J1、J2、及びJ3がいずれもメトキシ基又はエトキシ基(特にメトキシ基)であり、a10が1~3であり、a11が0であり、a12が0~5であり、a13が1であり、a14が2~5であり、a15が0であり、a16が0~6であり、a21~a23が、それぞれ独立して、0又は1であり(より好ましくはa21~a23が全て0)、d11が1であり、d12が0又は1であり、e1~e3がいずれも3である化合物を用いることが好ましい。
【0051】
なお、後記する実施例で化合物(A)として用いる化合物aを、上記式(a1)で表すと、Rfa1が-O-(CF2CF2CF2O)43-であり、L1及びL2がいずれも-(CF2)-であり、E1、E2、及びE3がいずれも水素原子であり、E5がフッ素原子であり、J1、J2がいずれもメトキシ基であり、a10が2、a11が0、a12が0~5、a13が1、a14が3、a15が0、a16が0、a21、a22がいずれも0、d11が1であり、d12が0、e1、e2がいずれも3である。
【0052】
化合物(A)としては、上記式(a1)のRfa1が-O-(CF2CF2CF2O)e5
であり、e5が25~40であり、L1がフッ素原子及び酸素原子を含む炭素数3~6の
2価の連結基であり、L2が炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、E2、E3がいずれも水素原子であり、E5がフッ素原子であり、J2が-(CH2e6-Si(OCH33であり、e6が2~4であり、a10が1~3であり、a11が0であり、a12が0であり、a13が0であり、a14が2~5であり、a15が0であり、a16が0であり、a21~a23が、それぞれ独立して、0又は1であり(より好ましくはa21~a23が全て0)、d11が1であり、d12が0であり、e2が3である化合物を用いることも好ましい。
【0053】
また、有機ケイ素化合物(A)は、下記式(a2-1)で表される化合物であることも好ましい。
【0054】
【化12】
【0055】
上記式(a2-1)中、
Rfa21は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
Rfa22、Rfa23、Rfa24、及びRfa25は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfa22が複数存在する場合は複数のRfa22がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa23が複数存在する場合は複数のRfa23がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa24が複数存在する場合は複数のRfa24がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa25が複数存在する場合は複数のRfa25がそれぞれ異なっていてもよく、
20、R21、R22、及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、R20が複数存在する場合は複数のR20がそれぞれ異なっていてもよく、R21が複数存在する場合は複数のR21がそれぞれ異なっていてもよく、R22が複数存在する場合は複数のR22がそれぞれ異なっていてもよく、R23が複数存在する場合は複数のR23がそれぞれ異なっていてもよく、
24は、炭素数1~20のアルキル基であり、R24が複数存在する場合は複数のR24がそれぞれ異なっていてもよく、
1は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、M1が複数存在する場合は複数のM1がそれぞれ異なっていてもよく、
2は、水素原子又はハロゲン原子であり、
3は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、M3が複数存在する場合は複数のM3がそれぞれ異なっていてもよく、
4は、加水分解性基であり、M4が複数存在する場合は複数のM4がそれぞれ異なっていてもよく、
f11、f12、f13、f14、及びf15はそれぞれ独立して0~600の整数であり、f11、f12、f13、f14、及びf15の合計値は13以上であり、
f16は、1~20の整数であり、
f17は、0~2の整数であり、
g1は、1~3の整数であり、
Rfa21-、M2-、f11個の-{C(R20)(R21)}-、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、f13個の-{Si(R22)(R23)}-、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-、f15個の-M3-、及びf16個の-[CH2C(M1){(CH2f17-Si(M4g1(R243-g1}]-は、Rfa21-、M2-が末端となり、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並び、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。すなわち、式(a2-1)は、必ずしもf11個の-{C(R20)(R21)}-が連続し、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-が連続し、f13個の-{Si(R22)(R23)}-が連続し、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-が連続し、f15個の-M3-が連続し、f16個の-[CH2C(M1){(CH2f17-Si(M4g1(R243-g1}]-が連続して、この順で並ぶという意味ではなく、-C(R20)(R21)-Si(Rfa24)(Rfa25)-CH2C(M1){(CH2f17-Si(M4g1(R243-g1}-C(Rfa22)(Rfa23)-M3-Si(R22)(R23)-C(Rfa22)(Rfa23)-などのように、それぞれが任意の順番で並ぶことが可能である。
【0056】
Rfa21は、好ましくは1個以上のフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基である。
【0057】
Rfa22、Rfa23、Rfa24、及びRfa25は、好ましくはそれぞれ独立して、フッ素原子、又は1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべてフッ素原子である。
【0058】
20、R21、R22、及びR23は、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
【0059】
24は、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0060】
1は、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
【0061】
2は、好ましくは水素原子である。
【0062】
3は、好ましくは、-C(=O)-O-、-O-、-O-C(=O)-であり、より好ましくはすべて-O-である。
【0063】
4は、アルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子がより好ましい。
【0064】
好ましくは、f11、f13、及びf14は、それぞれf12の1/2以下であり、より好ましくは1/4以下であり、さらに好ましくはf13又はf14は0であり、特に好ましくはf13及びf14は0である。
【0065】
f15は、好ましくはf11、f12、f13、f14の合計値の1/5以上であり、f11、f12、f13、f14の合計値以下である。
【0066】
f12は、20~600が好ましく、より好ましくは20~200であり、更に好ましくは50~200である(一層好ましくは30~150、特に50~150、最も好ましくは80~140)。f15は4~600が好ましく、より好ましくは4~200であり、更に好ましくは10~200である(一層好ましくは30~60)。f11、f12、f13、f14、f15の合計値は、20~600が好ましく、20~200がより好ましく、50~200が更に好ましい。
【0067】
f16は、好ましくは1~18である。より好ましくは1~15である。更に好ましくは1~10である。
【0068】
f17は、好ましくは0~1である。
【0069】
g1は、2~3が好ましく、3がより好ましい。
【0070】
f11個の-{C(R20)(R21)}-、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、f13個の-{Si(R22)(R23)}-、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-、及びf15個の-M3-の順序は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、式中において任意であるが、好ましくは最も固定端側(ケイ素原子と結合する側)のf12を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(Rfa22)(Rfa23)}-)は、最も自由端側のf11を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(R20)(R21)}-)よりも自由端側に位置し、より好ましくは最も固定端側のf12及びf14を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、及び-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-)は、最も自由端側のf11及びf13を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(R20)(R21)}-、及び-{Si(R22)(R23)}-)よりも自由端側に位置する。
【0071】
上記式(a2-1)において、Rfa21が炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rfa22、Rfa23、Rfa24、Rfa25が全てフッ素原子であり、M3が全て-O-であり、M4が全てメトキシ基、エトキシ基又は塩素原子(特にメトキシ基又はエトキシ基)であり、M1、M2がいずれも水素原子であり、f11が0、f12が30~150(より好ましくは80~140)、f15が30~60、f13及びf14が0、f17が0~1(特に0)、g1が3、f16が1~10であることが好ましい。
【0072】
なお、後記する実施例で化合物(A)として用いる化合物aは、上記式(a2-1)で表すと、Rfa1がC37-であり、Rfa22及びRfa23がいずれもフッ素原子であり、f11=f13=f14=0であり、f12が131、f15が44、f16が1~6、f17が0、M1及びM2が水素原子、M3が-O-であり、M4がメトキシ基、g1が3である。
【0073】
また、有機ケイ素化合物(A)は、下記式(a2-2)で表される化合物であることも好ましい。
【0074】
【化13】
【0075】
上記式(a2-2)中、
Rfa26、Rfa27、Rfa28、及びRfa29は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfa26が複数存在する場合は複数のRfa26がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa27が複数存在する場合は複数のRfa27がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa28が複数存在する場合は複数のRfa28がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa29が複数存在する場合は複数のRfa29がそれぞれ異なっていてもよく、
25、R26、R27、及びR28は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、R25が複数存在する場合は複数のR25がそれぞれ異なっていてもよく、R26が複数存在する場合は複数のR26がそれぞれ異なっていてもよく、R27が複数存在する場合は複数のR27がそれぞれ異なっていてもよく、R28が複数存在する場合は複数のR28がそれぞれ異なっていてもよく、
29、及びR30は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり、R29が複数存在する場合は複数のR29がそれぞれ異なっていてもよく、R30が複数存在する場合は複数のR30がそれぞれ異なっていてもよく、
7は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、M7が複数存在する場合は複数のM7がそれぞれ異なっていてもよく、
5、M9は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、M5が複数存在する場合は複数のM5がそれぞれ異なっていてもよく、M9が複数存在する場合は複数のM9がそれぞれ異なっていてもよく、
6、及びM10は、それぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子であり、
8、及びM11は、それぞれ独立して、加水分解性基であり、M8が複数存在する場合は複数のM8がそれぞれ異なっていてもよく、M11が複数存在する場合は複数のM11がそれぞれ異なっていてもよく、
f21、f22、f23、f24、及びf25はそれぞれ独立して0~600の整数であり、f21、f22、f23、f24、及びf25の合計値は13以上であり、
f26、及びf28は、それぞれ独立して、1~20の整数であり、
f27、及びf29は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、
g2、g3は、それぞれ独立して、1~3の整数であり、
10-、M6-、f21個の-{C(R25)(R26)}-、f22個の-{C(Rfa26)(Rfa27)}-、f23個の-{Si(R27)(R28)}-、f24個の-{Si(Rfa28)(Rfa29)}-、f25個の-M7-、f26個の-[CH2C(M5){(CH2f27-Si(M8g2(R293-g2}]、及びf28個の-[CH2C(M9){(CH2f29-Si(M11g3(R303-g3}]は、M10-、M6-が末端となり、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並び、-O-が-O-と連続しない限り、任意の順で並んで結合する。任意の順で並んで結合することについては、上記式(a2-1)にて説明したのと同様であり、各繰り返し単位が連続して上記式(a2-2)に記載の通りの順に並ぶ意味に限定されない。
【0076】
上記式(a2-2)において、Rfa26、Rfa27、Rfa28、及びRfa29が全てフッ素原子であり、M7が全て-O-であり、M8及びM11が全てメトキシ基、エトキシ基又は塩素原子(特にメトキシ基又はエトキシ基)であり、M5、M6、M9、及びM10がいずれも水素原子であり、f21が0、f22が30~150(より好ましくは80~140)、f25が30~60、f23及びf24が0、f27及びf29が0~1(特に好ましくは0)、g2及びg3が3、f26及びf28が1~10であることが好ましい。
【0077】
化合物(A)として、より具体的には下記式(a3)の化合物が挙げられる。
【0078】
【化14】
【0079】
上記式(a3)中、R30は炭素数が2~6のパーフルオロアルキル基であり、R31及びR32はそれぞれ独立していずれも炭素数が2~6のパーフルオロアルキレン基であり、R33は炭素数が2~6の3価の飽和炭化水素基であり、R34は炭素数が1~3のアルキル基である。R30、R31、R32、R33の炭素数は、それぞれ独立に2~4が好ましく、2~3がより好ましい。h1は5~70であり、h2は1~5であり、h3は1~10である。h1は10~60が好ましく、20~50がより好ましく、h2は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、h3は1~8が好ましく、1~6がより好ましい。
【0080】
化合物(A)としては、下記式(a4)で表される化合物も挙げることができる。
【0081】
【化15】
【0082】
上記式(a4)中、R40は炭素数が2~5のパーフルオロアルキル基であり、R41は炭素数が2~5のパーフルオロアルキレン基であり、R42は炭素数2~5のアルキレン基の水素原子の一部がフッ素に置換されたフルオロアルキレン基であり、R43、R44はそれぞれ独立に炭素数が2~5のアルキレン基であり、R45はメチル基又はエチル基である。k1、k2、k3はそれぞれ独立に1~5の整数である。
【0083】
有機ケイ素化合物(A)の数平均分子量は、2,000以上が好ましく、より好ましくは4,000以上であり、更に好ましくは6,000以上、特に好ましくは7,000以上であり、また40,000以下が好ましく、より好ましくは20,000以下であり、更に好ましくは15,000以下である。
【0084】
撥水層(r)を形成するための組成物(ca)は、上記した有機ケイ素化合物(A)とともに、下記式(b1)で表される有機ケイ素化合物(B)が混合されていることが好ましい。有機ケイ素化合物(B)は、後述する通り、加水分解性基を有しており、通常、加水分解で生じた有機ケイ素化合物(B)の-SiOH基が、加水分解で生じた有機ケイ素化合物(A)の-SiOH基及び/又は加水分解で生じた有機ケイ素化合物(B)の-SiOH基と脱水縮合するため、好ましい態様において、撥水層(r)は有機ケイ素化合物(A)由来の縮合構造と共に、有機ケイ素化合物(B)由来の縮合構造を有する。
【0085】
【化16】
【0086】
上記式(b1)中、
Rfb10は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
b11、Rb12、Rb13、Rb14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rb11が複数存在する場合は複数のRb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rb12が複数存在する場合は複数のRb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rb13が複数存在する場合は複数のRb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rb14が複数存在する場合は複数のRb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfb11、Rfb12、Rfb13、Rfb14は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfb11が複数存在する場合は複数のRfb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb12が複数存在する場合は複数のRfb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb13が複数存在する場合は複数のRfb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb14が複数存在する場合は複数のRfb14がそれぞれ異なっていてもよく、
b15は、炭素数が1~20のアルキル基であり、Rb15が複数存在する場合は複数のRb15がそれぞれ異なっていてもよく、
1は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A1が複数存在する場合は複数のA1がそれぞれ異なっていてもよく、
2は、加水分解性基であり、A2が複数存在する場合は複数のA2がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14、b15は、それぞれ独立して0~100の整数であり、
cは、1~3の整数であり、
Rfb10-、-Si(A2c(Rb153-c、b11個の-{C(Rb11)(Rb12)}-、b12個の-{C(Rfb11)(Rfb12)}-、b13個の-{Si(Rb13)(Rb14)}-、b14個の-{Si(Rfb13)(Rfb14)}-、b15個の-A1-は、Rfb10-、-Si(A2c(Rb153-cが末端となり、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
【0087】
Rfb10は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~5)のパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0088】
b11、Rb12、Rb13、及びRb14は、水素原子が好ましい。
【0089】
b15は、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0090】
1は、-O-、-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-が好ましい。
【0091】
2は、炭素数1~4のアルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、塩素原子である。
【0092】
b11は1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~10が更に好ましく、1~5が特に好ましく、最も好ましくは1~2である。
【0093】
b12は、0~15が好ましく、より好ましくは0~10である。
【0094】
b13は、0~5が好ましく、より好ましくは0~2である。
【0095】
b14は、0~4が好ましく、より好ましくは0~2である。
【0096】
b15は、0~4が好ましく、より好ましくは0~2である。
【0097】
cは、2~3が好ましく、より好ましくは3である。
【0098】
b11、b12、b13、b14、及びb15の合計値は、3以上が好ましく、5以上が好ましく、また80以下が好ましく、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは20以下である。
【0099】
特に、Rfb10がフッ素原子又は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rb11、Rb12がいずれも水素原子であり、A2がメトキシ基又はエトキシ基であると共に、b11が1~5、b12が0~5であり、b13、b14、及びb15が全て0であり、cが3であることが好ましい。
【0100】
なお、後記する実施例にて、化合物(B)として用いるFAS13Eを上記式(b1)で表すと、Rb11、Rb12がいずれも水素原子、b11が2、b13、b14、及びb15が全て0、cが3、A2がエトキシ基であり、Rfb10-{C(Rfb11)(Rfb12)}b12-が末端となり、C613-となるように定められる。
【0101】
上記式(b1)で表される化合物としては、具体的に、CF3-Si-(OCH33、Cj2j+1-Si-(OC253(jは1~12の整数)が挙げられ、この中で特にC49-Si-(OC253、C613-Si-(OC253、C715-Si-(OC253、C817-Si-(OC253が好ましい。また、CF3CH2O(CH2kSiCl3、CF3CH2O(CH2kSi(OCH33、CF3CH2O(CH2kSi(OC253、CF3(CH22Si(CH32(CH2kSiCl3、CF3(CH22Si(CH32(CH2kSi(OCH33、CF3(CH22Si(CH32(CH2kSi(OC253、CF3(CH26Si(CH32(CH2kSiCl3、CF3(CH26Si(CH32(CH2kSi(OCH33、CF3(CH26Si(CH32(CH2kSi(OC253、CF3COO(CH2kSiCl3、CF3COO(CH2kSi(OCH33、CF3COO(CH2kSi(OC253が挙げられる(kはいずれも5~20であり、好ましくは8~15である)。また、CF3(CF2m-(CH2nSiCl3、CF3(CF2m-(CH2nSi(OCH33、CF3(CF2m-(CH2nSi(OC253を挙げることもできる(mはいずれも1~10であり、好ましくは3~7であり、nはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。CF3(CF2p-(CH2q-Si-(CH2CH=CH23を挙げることもできる(pはいずれも2~10であり、好ましくは2~8であり、qはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。更に、CF3(CF2p-(CH2SiCH3Cl2、CF3(CF2p-(CH2qSiCH3(OCH32、CF3(CF2p-(CH2qSiCH3(OC252が挙げられる(pはいずれも2~10であり、好ましくは3~7であり、qはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。
【0102】
上記式(b1)で表される化合物の中で、下記式(b2)で表される化合物が好ましい。
【0103】
【化17】
【0104】
上記式(b2)中、R60は炭素数3~8のパーフルオロアルキル基であり、R61は炭素数1~5のアルキレン基であり、R62は炭素数1~3のアルキル基である。
【0105】
前記撥水層(r)の厚みは、例えば1~1000nm程度である。
【0106】
3.樹脂基材層(s)
本発明の樹脂基材層(s)の材質は特に限定されず、有機系材料、無機系材料のいずれでもよく、また基材の形状は平面、曲面のいずれであってもよいし、これらが組み合わさった形状でもよい。有機系材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ビニル系樹脂(ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ビニルベンジルクロライド系樹脂、ポリビニルアルコール等)などの熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。無機系材料としては、鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属、又はこれら金属を含む合金、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。この中でも特に、有機系材料が好ましい。樹脂基材の中でもアクリル樹脂、ベンジルクロライド系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びウレタン樹脂の少なくとも1種が好ましく、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0107】
本発明における樹脂基材層(s)は、電子機器のディスプレイ等の耐摩耗性が要求される用途で物品を傷から守るために設けられる保護層(以下、ハードコート層という場合がある。)であることが好ましく、この保護層がアクリル樹脂系であることが更に好ましい。
【0108】
ハードコート層は、表面硬度を有する層であり、その硬度は通常、鉛筆硬度でB以上であり、好ましくはHB以上、さらに好ましくはH以上、ことさら好ましくは2H以上である。ハードコート層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。ハードコート層は、例えば紫外線硬化型樹脂の硬化層である。ハードコート層はハードコート層樹脂を含んでなり、ハードコート層樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、ビニルベンジルクロライド系樹脂、ビニル系樹脂もしくはシリコーン系樹脂又はこれらの混合樹脂等の紫外線硬化型、電子線硬化型、又は熱硬化型の樹脂が挙げられる。特に、ハードコート層は、高硬度を発現するためには、アクリル系樹脂を含むことも好ましい。上記層(c)を介した上記撥水層(r)との密着性が良好となる傾向が見られることから、エポキシ系樹脂を含むことが好ましい。
【0109】
ハードコート層は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤は限定されることはなく、無機系微粒子、有機系微粒子、またはこれらの混合物が挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、シリカ、アルミナ等の金属酸化物、ポリオルガノシロキサン等の無機フィラーを挙げることができる。無機フィラーを含むことによって、上記層(c)を介した上記撥水層(r)との密着性を向上できる。ハードコート層の厚みは、例えば1~100μmである。
【0110】
本発明の積層体は、撥水層(r)、層(c)及び樹脂基材層(s)がこの順で並ぶ限り、前記撥水層(r)と層(c)の間、層(c)と樹脂基材層(s)の間、層(s)の表面側に他の層を含んでいてもよいが、前記層(r)と層(c)の間には他の層がないことが好ましい。また、樹脂基材層(s)がハードコート層である場合には、樹脂基材層(s)と層(c)の間に他の層がないことが好ましい。本発明の積層体は、樹脂基材層(s)とは異なる樹脂層(s2)を更に含んでいることが好ましく、積層体の表面から順に、撥水層(r)、層(c)、樹脂基材層(s)、樹脂層(s2)の順とすればよい。
【0111】
特に樹脂基材層(s)がハードコート層である場合に、ハードコート層である樹脂基材層(s)とは異なる樹脂層(s2)が積層されていることが好ましい。ハードコート層である樹脂基材層(s)と積層される樹脂層(s2)は、フィルム状、あるいは、板状であってもよく、光を透過可能なものであればディスプレイ等の表示用部材として好ましい。ハードコート層である樹脂基材層(s)と樹脂層(s2)を含む積層体は、画像表示装置の前面板として、フレキシブルディスプレイに用いることができる。
【0112】
樹脂層(s2)を構成する樹脂としては、例えばトリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリ(メタ)アクリル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミドイミドなどの高分子で形成されたフィルムが挙げられる。これらの高分子は、単独でまたは2種以上混合して用いることができる。耐屈曲性などの強度および透明性を両立させる観点から、好ましくはポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどの高分子で形成された樹脂フィルムである。樹脂層(s2)の厚みは、例えば10μm以上500μm以下であってよく、好ましくは20μm以上200μm以下であり、より好ましくは30μm以上150μm以下であり、100μm以下であってもよい 。
【0113】
樹脂層(s2)を有する積層体は、好ましくはフレキシブル画像表示装置において前面板として用いられ、該前面板はウィンドウフィルムと称されることがある。該フレキシブル画像表示装置は、フレキシブル画像表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル画像表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル画像表示装置用積層体としては、さらに偏光板、好ましくは円偏光板、タッチセンサを含有していてもよく、それらの積層順任意であるが、視認側からウィンドウフィルム、偏光板、タッチセンサまたはウィンドウフィルム、タッチセンサ、偏光板の順に積層されていることが好ましい。タッチセンサよりも視認側に偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性が良くなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、前記ウィンドウフィルム、偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0114】
樹脂層(s2)と樹脂基材層(s)(特にハードコート層)との間にはプライマー層を設けてもよい。プライマー剤として、例えば紫外線硬化型、熱硬化型、あるいは2液硬化型のエポキシ系化合物等のプライマー剤がある。プライマー層に混合されている化合物が樹脂層(s2)に混合されている樹脂成分又は必要に応じて混合されるケイ素材料と化学結合していることが好ましい。また、プライマー剤として、ポリアミック酸を用いても良く、樹脂層(s2)と樹脂基材層(s)(特にハードコート層)の密着性を高めることができる。更に、プライマー剤としてシランカップリング剤が挙げられ、縮合反応により樹脂基材に必要に応じて混合されるケイ素材料と化学結合してもよい。プライマー層の厚さは、例えば0.1~20μmである。
【0115】
本発明の積層体は、液滴法(解析方法:θ/2法)で液量:3μLにて測定される水接触角(初期接触角)が、例えば105°以上であり、より好ましくは110°以上であり、また例えば120°以下である。また、後記する実施例で行った耐薬品試験を行った後、液滴法(解析方法:θ/2法)で液量:3μLにて測定される水接触角(耐薬品試験後接触角)が、例えば82.0°以上であり、好ましくは85°以上、より好ましくは90°以上であり、上限は例えば110°以下であり、100°以下であってもよい。
【0116】
次に、本発明の積層体の製造方法について説明する。
【0117】
本発明の積層体を製造する方法は、樹脂基材層(s)上に(i)層(c)を形成する工程と、(ii)撥水層(r)を形成する工程とを含む。
【0118】
前記層(c)を形成する工程では、樹脂基材層(s)に、有機ケイ素化合物(C1)及び/又は有機ケイ素化合物(C2)の混合組成物(cc)を塗布する。組成物(cc)は、溶剤(E)が混合されていることが好ましい。
【0119】
前記組成物(cc)の全体を100質量%としたときの、有機ケイ素化合物(C1)及び有機ケイ素化合物(C2)の合計量は、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以下である。上記の有機ケイ素化合物(C1)及び(C2)の量は、組成物の調製時に調整できる。前記有機ケイ素化合物(A)の量は、組成物の分析結果からから算出してもよい。なお、本明細書において、各成分の量、質量比またはモル比の範囲を記載している場合、上記と同様に、該範囲は、組成物の調製時に調整できる。
【0120】
溶剤(E)は、例えばsp値[(cal/cm31/2]が9.00以上であるものが好ましく、sp値は10以上がより好ましい。このような溶剤(E)としては、水、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、特にsp値が15以上のものが好ましく、水が最も好ましい。
【0121】
本書において、sp値(Solubility Parameter、溶解度パラメーター)とは、「R.F.Fedors、Polym.Eng.Sci.,14[2]、147-154(1974)」に記載の方法によって算出される値である。Fedors法では、sp値は凝集エネルギー密度の平方根で定義される。具体的には、sp値は以下の式で定義される。
δ=(ΔE/V)1/2 (1)
上記式(1)においてδはsp値((cal/cm31/2)、ΔEは凝集エネルギー(cal/mol)、Vは溶媒のモル分子容(cm3/mol)を意味する。
【0122】
Fedors法では、上記した凝集エネルギーとモル分子容がいずれも、溶媒に含まれる置換基の種類と数に依存していると考えられている。従って、凝集エネルギーの算出は、各置換基が有する凝集エネルギーと分子容(下記表1に示す)から、置換基の個数も考慮して算出される。
【0123】
【表1】
【0124】
例えば、後述の実施例で溶剤(E)として用いられるイソプロパノールは、-CH3を2つ、-CH<を1つ、-OHを1つ有する溶媒である。
イソプロパノールの凝集エネルギーΔEは、
ΔE(cal/mol)=1125×2+820+7120
と算出される。
また、イソプロパノールのモル分子容Vは、
V(cm3/mol)=33.5×2+(-1)+10
と算出される。
従って、前記式(1)にこれら値を用いることにより、イソプロパノールのsp値は11.58(cal/cm31/2と算出できる。
【0125】
組成物(cc)を塗布する方法としては、例えばディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法、グラビアコート法などが挙げられ、特にスピンコート法が好ましい。
【0126】
前記組成物(cc)を塗布する前に、樹脂基材層(s)に易接着処理を施しておくことが好ましい。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の親水化処理が挙げられ、プラズマ処理がより好ましい。プラズマ処理等の易接着処理を行うことで、基材の表面にOH基(特に基材がエポキシ樹脂の場合)やCOOH基(特に基材がアクリル樹脂の場合)などの官能基を形成させることができ、基材表面にこのような官能基が形成されている場合に特に層(c)と樹脂基材層(s)との密着性がより向上できる。
【0127】
層(c)を形成させた後、前記有機ケイ素化合物(A)の混合組成物を塗布し、常温で硬化させることで、撥水層(r)を形成できる。
【0128】
前記有機ケイ素化合物(A)の混合組成物は、前記有機ケイ素化合物(B)が混合されていることが好ましく、また通常、溶剤(D)が混合されている。溶剤(D)としてはフッ素系溶剤を用いることが好ましく、例えばフッ素化エーテル系溶剤、フッ素化アミン系溶剤、フッ素化炭化水素系溶剤等を用いることができ、特に沸点が100℃以上であることが好ましい。フッ素化エーテル系溶剤としては、フルオロアルキル(特に炭素数2~6のパーフルオロアルキル基)-アルキル(特にメチル基又はエチル基)エーテルなどのハイドロフルオロエーテルが好ましく、例えばエチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルが挙げられる。エチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルとしては、例えばNovec(登録商標)7200(3M社製、分子量約264)が挙げられる。フッ素化アミン系溶剤としては、アンモニアの水素原子の少なくとも1つがフルオロアルキル基で置換されたアミンが好ましく、アンモニアの全ての水素原子がフルオロアルキル基(特にパーフルオロアルキル基)で置換された第三級アミンが好ましく、具体的にはトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンが挙げられ、フロリナート(登録商標)FC-3283(3M社製、分子量約521)がこれに該当する。フッ素化炭化水素系溶剤としては、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンなどのフッ素化脂肪族炭化水素系溶剤、1,3-ビス(トリフルオロメチルベンゼン)などのフッ素化芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンとしては、例えばソルブ55(ソルベックス社製)等が挙げられる。
【0129】
フッ素系溶剤としては、上記の他、アサヒクリン(登録商標)AK225(AGC社製)などのハイドロクロロフルオロカーボン、アサヒクリン(登録商標)AC2000(AGC社製)などのハイドロフルオロカーボンなどを用いることができる。
【0130】
溶剤(D)として、少なくともフッ素化アミン系溶剤を用いることが好ましい。また溶剤(D)としては、2種以上のフッ素系溶剤を用いることが好ましく、フッ素化アミン系溶剤とフッ素化炭化水素系溶剤(特にフッ素化脂肪族炭化水素系溶剤)を用いることが好ましい。
【0131】
また撥水層(r)形成用の組成物(ca)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、シラノール縮合触媒、酸化防止剤、防錆剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防カビ剤、抗菌剤、生物付着防止剤、消臭剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤等、各種の添加剤が混合されていてもよい。
【0132】
撥水層(r)形成用の組成物(ca)を層(c)の上に塗布し、乾燥することで撥水層(r)を形成できる。撥水層(r)形成用の組成物を塗布する方法としては、例えばディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法、グラビアコート法などが挙げられる。
【0133】
撥水層(r)形成用の組成物を層(c)の上に塗布した後、常温、大気中で、例えば1時間以上静置することで撥水層(r)を形成できる。本発明において常温とは、5~60℃であり、好ましくは15~40℃の温度範囲で静置することで、皮膜を形成可能である。
【0134】
撥水層(r)形成用の組成物(ca)における有機ケイ素化合物(A)の量は、該組成物の全体を100質量%に対して、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、また0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0135】
撥水層(r)形成用の組成物(ca)に有機ケイ素化合物(B)が混合されている場合、該組成物の全体を100質量%としたときの有機ケイ素化合物(B)の量は、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.03質量%以上であり、また0.3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0136】
有機ケイ素化合物(A)に対する有機ケイ素化合物(B)の質量比は、0.2以上が好ましく、より好ましくは0.4以上であり、また3以下が好ましく、より好ましくは1.5以下である。
【実施例
【0137】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0138】
[実施例1]
有機ケイ素化合物(C1)として下記式(c)で表されるKBP90(信越化学工業株式会社製)を0.125質量%、溶剤(E)としてイオン交換水を99.875質量%混合した溶液を、室温で撹拌し、層(c)形成用溶液を得た。得られた溶液を、大気圧プラズマ装置(富士機械製造株式会社製)を用いて被塗布面を活性化処理したアクリル系ハードコート層を有する樹脂基材層(s)(脂環式ウレタンアクリレート系)の上に、株式会社MIKASA製OPTICOAT MS-A100(スピンコーター)を用いて、塗布液量200μl、回転スピード2000rpm、回転秒数20秒の条件で塗布して層(c)を得た。
【0139】
【化18】
【0140】
次に、有機ケイ素化合物(A)として、下記式(1)で表される化合物(以下、化合物a)、有機ケイ素化合物(B)としてFAS13E(C613-C24-Si(OC253、東京化成工業株式会社製)、溶剤(D)としてFC-3283(C921N、フロリナート、3M社製)を混合した溶液を調製し、室温で所定の時間撹拌し、撥水層(r)形成用溶液を得た。撥水層(r)形成用溶液全体を100質量%としたときの有機ケイ素化合物(A)の割合は、0.085質量%であり、有機ケイ素化合物(B)の割合は0.05質量%であった。撥水層(r)形成用溶液を、層(c)の上に株式会社アピロス製スプレーコーターを用いて塗布し、常温にて12時間静置し、樹脂基材層(s)、層(c)、撥水層(r)をこの順で含む積層体を得た。スプレーコートの条件は、スキャン速度:600mm/sec、ピッチ:5mm、液量:6cc/min、アトマイジングエアー:350kPa、ギャップ:70mmである。
【0141】
【化19】
【0142】
上記式(1)で示される化合物aは、特開2014-15609号公報の合成例1、2に記載の方法により合成したものであり、rは43、sは1~6の整数であり、数平均分子量は約8000である。
【0143】
[実施例2~実施例7]
有機ケイ素化合物(C1)としてのKBP90の量及び/又は溶剤(E)の種類を表2-1に記載の通りにしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0144】
[実施例8~実施例9]
有機ケイ素化合物(C1)として下記式(c’)で表されるKBP64(信越化学工業株式会社製)を用い、その量及び/又は溶剤(E)の種類を表2-1に記載の通りにしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0145】
【化20】
【0146】
[比較例1]
有機ケイ素化合物(C1)に代えてKBM903(信越化学工業株式会社製、3-アミノプロピルトリエトキシシラン)を用い、溶剤(E)としてメチルエチルケトンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0147】
[比較例2]
有機ケイ素化合物(C1)に代えてKBM5103(信越化学工業株式会社製、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を用い、溶剤(E)としてメチルエチルケトンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0148】
上記実施例及び比較例で得られた皮膜について、下記の測定を行った。
【0149】
(1)水接触角の測定(初期接触角)
得られた皮膜に、3μLの水滴を滴下し、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM700)を用い、液滴法(解析方法:θ/2法)にて、水の接触角を測定した。
【0150】
(2)耐薬品試験後の水接触角の測定
得られた皮膜に、minoan製消しゴムを具備したスクラッチ装置を用い、消しゴムが皮膜に接した状態で荷重1000gをかけた。そこにエタノールを約2.5ml滴下し、消しゴムを40r/minの速度(一分間に40往復する速度)で皮膜上を往復させ、耐薬品試験を行った。消しゴムが皮膜を3000回往復した後の水の接触角を測定した。
【0151】
結果を表2-1及び2-2に示す。
【0152】
【表2-1】
【0153】
【表2-2】
【0154】
表2-1及び2-2によれば、本発明で特定する有機ケイ素化合物(C)の混合組成物から層(c)を形成した実施例1~7では、常温で硬化させた撥水層(r)の耐薬品試験後の水接触角が82.0°以上(特に90°以上)で良好であったのに対し、本発明の有機ケイ素化合物(C)に代えて、有機ケイ素化合物(C)とは異なる有機ケイ素化合物を用いた比較例1、2では耐薬品試験後の水接触角が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の積層体は、タッチパネルディスプレイ等の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、ナノインプリント技術、太陽電池、自動車や建物の窓ガラス、調理器具などの金属製品、食器などのセラミック製品、プラスチック製の自動車部品等に好適に成膜することができ、産業上有用である。また、台所、風呂場、洗面台、鏡、トイレ周りの各部材の物品、ゴーグル、眼鏡などにも好ましく用いられる。