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特許7406647磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20231220BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20231220BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20231220BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20231220BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20231220BHJP
   G11B 23/107 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/735
G11B5/738
G11B5/78
G11B23/107
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022553819
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034155
(87)【国際公開番号】W WO2022070963
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020165785
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴士
(72)【発明者】
【氏名】小沢 栄貴
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199105(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/203468(WO,A1)
【文献】特開2020-009522(JP,A)
【文献】特開平11-224812(JP,A)
【文献】特開昭58-199434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/735
G11B 5/738
G11B 5/78
G11B 23/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末はε-酸化鉄粉末であり、
磁気記録媒体の単位面積あたりの垂直方向磁化量Φmが25℃の測定温度において5G・μm以上100G・μm以下であり、
10℃の測定温度におけるΦm、25℃の測定温度におけるΦmおよび40℃の測定温度におけるΦmから求められるΦmの傾きが-0.20G・μm/℃以上-0.03G・μm/℃以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記Φmの傾きは、-0.10G・μm/℃以上-0.05G・μm/℃以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記25℃の測定温度におけるΦmは、20G・μm以上50G・μm以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記ε-酸化鉄粉末は、コバルト元素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記ε-酸化鉄粉末は、ガリウム元素およびアルミニウム元素からなる群から選択される元素を更に含む、請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記ε-酸化鉄粉末は、チタン元素およびスズ元素からなる群から選択される元素を更に含む、請求項4または5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気テープである、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種データを記録し保管するためのデータストレージ用記録媒体として、磁気記録媒体が広く用いられている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-82329号公報
【文献】特許第6010181号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体では、通常、非磁性支持体の上に強磁性粉末を含む磁性層が設けられる。強磁性粉末に関しては、例えば特許文献1および特許文献2に記載されているように、ε-酸化鉄粉末が近年注目を集めている。
【0005】
データストレージ用途に用いられる磁気記録媒体は、温度管理されたデータセンターで使用されることがある。一方、データセンターではコスト低減のために省電力化が求められている。省電力化のためには、データセンターにおける温度管理条件を現在より緩和できるか、または管理を不要にできることが望ましい。温度管理条件を緩和し、または管理を行わないと、磁気記録媒体が様々な温度条件において、例えば室温程度の温度条件およびより高温の温度条件において、使用されることが想定される。磁気記録媒体には常に優れた電磁変換特性を発揮できることが求められるため、異なる温度条件で使用された際の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体は望ましい。しかし、本発明者の検討によれば、強磁性粉末としてε-酸化鉄粉末を含む磁気記録媒体では、異なる温度条件で使用されると電磁変換特性が低下し易い傾向が見られた。
【0006】
本発明の一態様は、強磁性粉末としてε-酸化鉄粉末を含む磁気記録媒体であって、異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下が抑制された磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
上記強磁性粉末はε-酸化鉄粉末であり、
磁気記録媒体の単位面積あたりの垂直方向磁化量Φmが25℃の測定温度において5G(ガウス)・μm以上100G・μm以下であり、
10℃の測定温度におけるΦm、25℃の測定温度におけるΦmおよび40℃の測定温度におけるΦmから求められるΦmの傾きが-0.20G・μm/℃以上-0.03G・μm/℃以下である磁気記録媒体、
に関する。
【0008】
一形態では、上記Φmの傾きは、-0.10G・μm/℃以上-0.05G・μm/℃以下であることができる。
【0009】
一形態では、上記25℃の測定温度におけるΦmは、20G・μm以上50G・μm以下であることができる。
【0010】
一形態では、上記ε-酸化鉄粉末は、コバルト元素を含むことができる。
【0011】
一形態では、上記ε-酸化鉄粉末は、ガリウム元素およびアルミニウム元素からなる群から選択される元素を更に含むことができる。
【0012】
一形態では、上記ε-酸化鉄粉末は、チタン元素およびスズ元素からなる群から選択される元素を更に含むことができる。
【0013】
一形態では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0014】
一形態では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0015】
一形態では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
【0016】
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0017】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、強磁性粉末としてε-酸化鉄粉末を含む磁気記録媒体であって、異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下が抑制された磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体に関する。上記強磁性粉末はε-酸化鉄粉末であり、上記磁気記録媒体において、磁気記録媒体の単位面積あたりの垂直方向磁化量Φmは25℃の測定温度において5G・μm以上100G・μm以下であり、10℃の測定温度におけるΦm、25℃の測定温度におけるΦmおよび40℃の測定温度におけるΦmから求められるΦmの傾きは-0.20G・μm/℃以上-0.03G・μm/℃以下である。
【0020】
本発明および本明細書において、磁気記録媒体の単位面積あたりの垂直方向磁化量Φmとは、磁気記録媒体の垂直方向において測定される単位面積あたりの磁化量である。磁化量に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向であり、厚み方向ということもできる。「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。本発明および本明細書において、磁気記録媒体の単位面積あたりの垂直方向磁化量Φmは、振動試料型磁力計を用いて、以下の方法によって求められる値である。
測定対象の磁気記録媒体から測定用のサンプル片を切り出す。サンプル片のサイズは、測定に使用する振動試料型磁力計に導入可能なサイズであればよい。かかるサンプル片について、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁界3979kA/m、各測定温度、磁界掃引速度8.3kA/m/秒にて、サンプル片の垂直方向(磁性層表面と直交する方向)に磁界を印加し、最大印加磁界におけるサンプル片の磁化強度を測定する。測定値は、振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。こうして測定された最大印加磁界における磁化強度をサンプル片の面積(単位:cm)で除した値を、Φm(単位:G・μm)とする。測定温度はサンプル片の温度である。サンプル片の周囲の雰囲気温度を各測定温度(10℃、25℃、40℃)にすることにより、温度平衡が成り立つことによってサンプル片の温度を各測定温度にすることができる。上記3つの測定温度(10℃、25℃、40℃)における測定を実施する順序は問わず、いずれの順序で実施してもよい。
上記の「Φmの傾き」は、上記3つの測定温度について、測定温度とΦmとの関係を最小二乗法によって線形近似して算出される、測定温度に対するΦmの変化率として求めるものとする。
【0021】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ε-酸化鉄粉末を含む磁性層を有する磁気記録媒体について、25℃の測定温度におけるΦmおよび上記Φmの傾きを、それぞれ上記範囲とすることによって、異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下を抑制することが可能になることを新たに見出した。
【0022】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0023】
<25℃の測定温度におけるΦm>
上記磁気記録媒体の25℃の測定温度におけるΦmは、5G・μm以上100G・μm以下である。異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、25℃の測定温度におけるΦmは、10G・μm以上であることが好ましく、15G・μm以上であることがより好ましく、20G・μm以上であることが更に好ましく、25G・μm以上であることが一層好ましい。同様の観点から、25℃の測定温度におけるΦmは、90G・μm以下であることが好ましく、80G・μm以下であることがより好ましく、70G・μm以下であることが更に好ましく、60G・μm以下であることが一層好ましく、50G・μm以下であることがより一層好ましく、40G・μm以下であることが更に一層好ましい。25℃の測定温度におけるΦmは、例えば、磁性層形成のために使用するε-酸化鉄粉末の組成および/または磁性層の厚みによって制御することができる。詳細については後述する。
【0024】
<Φmの傾き>
上記磁気記録媒体のΦmの傾きは、-0.20G・μm/℃以上-0.03G・μm/℃以下である。異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、Φmの傾きは、-0.17G・μm/℃以上であることが好ましく、-0.15G・μm/℃以上であることがより好ましく、-0.12G・μm/℃以上であることが更に好ましく、-0.10G・μm/℃以上であることが一層好ましい。同様の観点から、Φmの傾きは、-0.04G・μm/℃以下であることが好ましく、-0.05G・μm/℃以下であることがより好ましい。Φmの傾きは、例えば、磁性層形成のために使用するε-酸化鉄粉末の製造条件および/またはε-酸化鉄粉末の組成によって制御することができる。詳細については後述する。
【0025】
<磁性層>
<<ε-酸化鉄粉末>>
上記磁気記録媒体は、磁性層に強磁性粉末としてε-酸化鉄粉末を含む。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造(ε相)が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造(ε相)に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。主相のε相に加えてα相および/またはγ相が含まれていてもよく、含まれなくてもよい。本発明および本明細書におけるε-酸化鉄粉末には、鉄と酸素から構成される所謂無置換型のε-酸化鉄の粉末と、鉄を置換する1種以上の置換元素を含む所謂置換型のε-酸化鉄の粉末とが包含される。
【0026】
(ε-酸化鉄粉末の製造方法)
ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、鉄の一部が置換元素によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。
【0027】
一例として、例えば、上記磁気記録媒体の磁性層に含まれるε-酸化鉄粉末は、
ε-酸化鉄の前駆体を調製すること(以下、「前駆体調製工程」とも記載する。)、
上記前駆体を被膜形成処理に付すこと(以下、「被膜形成工程」とも記載する。)、
上記被膜形成処理後の上記前駆体に熱処理を施すことにより、上記前駆体をε-酸化鉄に転換すること(以下、「熱処理工程」とも記載する。)、および
上記ε-酸化鉄を被膜除去処理に付すこと(以下、「被膜除去工程」とも記載する。)、
を経てε-酸化鉄粉末を得る製造方法によって得ることができる。以下に、かかる製造方法について更に説明する。ただし以下に記載する製造方法は例示であって、上記ε-酸化鉄粉末は、以下に例示する製造方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0028】
前駆体調製工程
ε-酸化鉄の前駆体とは、加熱されることによりε-酸化鉄型の結晶構造を主相として含むものとなる物質をいう。前駆体は、例えば、鉄および結晶構造において鉄の一部を置換し得る元素を含有する水酸化物、オキシ水酸化物(酸化水酸化物)等であることができる。前駆体調製工程は、共沈法、逆ミセル法等を利用して行うことができる。かかる前駆体の調製方法は公知であり、上記製造方法における前駆体調製工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、前駆体の調製方法については、特開2008-174405号公報の段落0017~0021および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0025~0046および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0038~0040、0042、0044、0045および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。
【0029】
鉄(Fe)の一部を置換する置換元素を含まないε-酸化鉄は、組成式:Feにより表すことができる。一方、鉄の一部が、例えば1種以上の元素により置換されたε-酸化鉄は、組成式:A Fe(2-x-y-z)により表すことができる。A およびAはそれぞれ独立に鉄を置換する置換元素の1種以上を表し、x、yおよびzは、それぞれ独立に0以上2未満であり、ただし少なくとも1つが0超であり、x+y+zは2未満である。上記ε-酸化鉄粉末は、鉄を置換する置換元素を含まなくてもよく、含んでもよく、含むことが好ましい。置換元素の種類は、1種以上であることができ、1種~3種、1種~5種または1種~6種であることもできる。置換元素の種類および置換量によって、ε-酸化鉄粉末の磁気特性を調整することができる。こうしてε-酸化鉄粉末の磁気特性を調整することは、かかるε-酸化鉄粉末を含む磁性層を有する磁気記録媒体の25℃の測定温度におけるΦmおよびΦmの傾きの値を上記範囲に制御することに寄与し得る。置換元素が含まれる場合、置換元素としては、Ga、Al、In、Rh、Mn、Co、Ni、Zn、Ti、Sn等の1種以上を挙げることができる。例えば、上記組成式において、AはGa、Al、InおよびRhからなる群から選ばれる1種以上であることができ、AはCo、Mn、NiおよびZnからなる群から選ばれる1種以上であることができ、AはTiおよびSnからなる群から選ばれる1種以上であることができる。ε-酸化鉄粉末としては、コバルト元素(Co)を含むものが好ましく、コバルト元素と、ガリウム元素(Ga)、アルミニウム元素(Al)、インジウム元素(In)およびロジウム元素(Rh)からなる群から選ばれる1種以上と、チタン元素(Ti)およびスズ元素(Sn)からなる群から選ばれる1種以上と、を含むものがより好ましく、コバルト元素と、ガリウム元素および/またはアルミニウム元素と、チタン元素および/またはスズ元素と、を含むものがより好ましい。鉄を置換する置換元素を含むε-酸化鉄粉末を製造する場合、ε-酸化鉄における鉄の供給源となる化合物の一部を、置換元素の化合物に置き換えればよい。その置換量によって、得られるε-酸化鉄粉末の組成を制御することができる。鉄および各種置換元素の供給源となる化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩(水和物であってもよい。)、ペンタキス(シュウ酸水素)塩等の有機塩(水和物であってもよい。)、水酸化物、オキシ水酸化物等を挙げることができる。
【0030】
被膜形成工程
前駆体を被膜形成処理後に加熱すると、前駆体がε-酸化鉄に転換する反応を被膜下で進行させることができる。また、被膜は、加熱時に焼結が起こることを防ぐ役割を果たすこともできると考えられる。被膜形成処理は、被膜形成の容易性の観点からは、溶液中で行うことが好ましく、前駆体を含む溶液に被膜形成剤(被膜形成のための化合物)を添加して行うことがより好ましい。例えば、前駆体調製に引き続き同じ溶液中で被膜形成処理を行う場合には、前駆体調製後の溶液に被膜形成剤を添加し撹拌することにより、前駆体に被膜を形成することができる。溶液中で前駆体に被膜を形成することが容易な点で好ましい被膜としては、ケイ素含有被膜を挙げることができる。ケイ素含有被膜を形成するための被膜形成剤としては、例えば、アルコキシシラン等のシラン化合物を挙げることができる。シラン化合物の加水分解によって、好ましくはゾル-ゲル法を利用して、前駆体にケイ素含有被膜を形成することができる。シラン化合物の具体例としては、テトラエトキシシラン(TEOS;Tetraethyl orthosilicate)、テトラメトキシシランおよび各種シランカップリング剤を例示できる。被膜形成処理については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0022および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0047~0049および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0041、0043および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。例えば、被膜形成処理は、前駆体および被膜形成剤を含む50~90℃の液温の溶液を撹拌することによって行うことができる。撹拌時間は、例えば5~36時間(後述する分割添加を行う場合には合計撹拌時間)とすることができる。尚、被膜は前駆体の表面の全部を覆ってもよく、前駆体表面の一部に被膜によって被覆されていない部分があってもよい。
【0031】
熱処理工程
上記被膜形成処理後の前駆体に熱処理を施すことにより、前駆体をε-酸化鉄に転換することができる。熱処理は、例えば被膜形成処理を行った溶液から採取した粉末(被膜を有する前駆体の粉末)に対して行うことができる。熱処理工程については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0023および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0050および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0041、0043および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。熱処理工程をより高温で行うほど、および/または、熱処理時間がより長いほど、得られるε-酸化鉄粉末の粒子のサイズはより大きくなる傾向がある。また、熱処理工程の処理条件を調整することは、Φmの傾きの値を制御することに寄与し得る。Φmの傾きを上記範囲に制御する観点からは、熱処理工程の最終到達温度を900~1200℃の範囲の温度として、最終到達温度まで複数段階に分けて段階的に昇温して熱処理工程を実施することが好ましい。段階的な昇温を行う熱処理工程では、2段階以上の昇温を行うことが好ましく、2~5段階の昇温を行うことがより好ましい。各段階の昇温到達温度における維持時間は1~5時間の範囲であることが好ましく、昇温速度は1~10℃/分の範囲であることが好ましい。熱処理工程に関して記載する温度は、例えば、熱処理を行う加熱炉の炉内温度であることができる。昇温を複数段階に分けて熱処理工程をより長時間行うほど、ε-酸化鉄粉末の粒子の結晶性が高まると考えられ、このことはΦmの傾きの値を-0.20G・μm/℃以上に制御することに寄与し得ると推察される。また、例えば熱処理工程の処理時間を適切な時間に設定することは、Φmの傾きの値を-0.03G・μm/℃以下に制御することに寄与し得ると考えられる。この点に関して、本発明者は以下のように推察している。熱処理工程の処理時間を適切な時間に設定することは、ε-酸化鉄粉末の粒子の結晶性を高め過ぎないことにつながると考えられる。結晶性が高くなるほど粒子の硬度が高くなり、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生の際に磁気ヘッドを摩耗し易くなると考えられる。磁気ヘッドの摩耗に起因してスペーシングロスが発生することは電磁変換特性低下をもたらし得る。これに対し、ε-酸化鉄粉末の粒子の結晶性を高め過ぎずに適切に制御することは、そのような電磁変換特性の低下を抑制することに寄与し得ると考えられる。このことが、Φmの傾きの値を-0.03G・μm/℃以下に制御することが異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下抑制に寄与し得る理由ではないかと、本発明者は推察している。但し、本発明は、かかる推察等の本明細書に記載の本発明者の推察に限定されるものではない。
【0032】
被膜除去工程
上記熱処理工程を行うことにより、被膜を有する前駆体をε-酸化鉄に転換することができる。こうして得られるε-酸化鉄には被膜が残留しているため、好ましくは、被膜除去処理を行う。被膜除去処理については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0025および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0053および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。被膜除去処理は、例えば、被膜を有するε-酸化鉄を、1~5mol/L程度の濃度の液温60~90℃程度の水酸化ナトリウム水溶液中で5~36時間程度撹拌することによって行うことができる。ただし上記磁気記録媒体の磁性層に含まれるε-酸化鉄粉末は、被膜除去処理を経ずに製造されたものでもよく被膜除去処理において完全に被膜が除去されず、一部の被膜が残留しているものでもよい。
【0033】
以上記載した各種工程の前および/または後に、公知の工程を任意に実施することもできる。かかる工程としては、例えば、分級、ろ過、洗浄、乾燥等の各種の公知の工程を挙げることができる。
【0034】
(平均粒子サイズ)
上記磁気記録媒体の磁性層に含まれるε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、磁化の安定性の観点からは、5.0nm以上であることが好ましく、6.0nm以上であることがより好ましく、7.0nm以上であることが更に好ましく、8.0nm以上であることが一層好ましく、9.0nm以上であることがより一層好ましい。また、高密度記録化の観点からは、ε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、20.0nm以下であることが好ましく、19.0nm以下であることがより好ましく、18.0nm以下であることが更に好ましく、17.0nm以下であることが一層好ましく、16.0nm以下であることがより一層好ましく、15.0nm以下であることが更に一層好ましい。
【0035】
本発明および本明細書において、特記しない限り、ε-酸化鉄粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。
上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0036】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0037】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0038】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0039】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0040】
<<結合剤>>
上記磁気記録媒体は、塗布型磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。また、結合剤は、電子線硬化型樹脂等の放射線硬化型樹脂であってもよい。放射線硬化型樹脂については、特開2011-048878号公報の段落0044~0045を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0041】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは、好ましくは10.0~80.0質量部、より好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0042】
以上の結合剤および硬化剤に関する記載は、非磁性層および/またはバックコート層についても適用することができる。その場合、含有量に関する上記記載は、強磁性粉末を非磁性粉末に読み替えて適用することができる。
【0043】
<<添加剤>>
磁性層には、上記の各種成分とともに、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。または、公知の方法で合成された化合物を添加剤として使用することもできる。添加剤の一例としては、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラック等を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0044】
添加剤に関して、磁性層には、1種または2種以上の非磁性粉末が含まれることが好ましい。非磁性粉末としては、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(以下、「突起形成剤」と記載する。)を挙げることができる。突起形成剤としては、無機物質の粒子を用いることができ、有機物質の粒子を用いることもでき、無機物質と有機物質との複合粒子を用いることもできる。無機物質としては、金属酸化物等の無機酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等を挙げることができ、無機酸化物が好ましい。一形態では、突起形成剤は、無機酸化物系粒子であることができる。ここで「系」とは、「含む」との意味で用いられる。無機酸化物系粒子の一形態は、無機酸化物からなる粒子である。また、無機酸化物系粒子の他の一形態は、無機酸化物と有機物質との複合粒子であり、具体例としては、無機酸化物とポリマーとの複合粒子を挙げることができる。そのような粒子としては、例えば、無機酸化物の粒子の表面にポリマーが結合した粒子を挙げることができる。突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmであることができ、40~200nmであることが好ましい。
【0045】
磁性層に含まれる非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末(以下、「研磨剤」と記載する。)を挙げることもできる。研磨剤は、好ましくはモース硬度8超の非磁性粉末であり、モース硬度9以上の非磁性粉末であることがより好ましい。これに対し、突起形成剤のモース硬度は、例えば8以下または7以下であることができる。モース硬度の最大値は、ダイヤモンドの10である。具体的には、アルミナ(例えばAl)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(例えばBC)、SiO、TiC、酸化クロム(例えばCr)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(例えばZrO)、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ粉末および炭化ケイ素粉末が好ましい。また、研磨剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmの範囲であることができ、50~200nmの範囲であることが好ましい。
【0046】
また、突起形成剤および研磨剤が、それらの機能をより良好に発揮することができるという観点から、磁性層における突起形成剤の含有量は、好ましくは強磁性粉末100.0質量部に対して、1.0~4.0質量部であり、より好ましくは1.2~3.5質量部である。一方、研磨剤については、磁性層における含有量は、好ましくは強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であり、より好ましくは3.0~15.0質量部であり、更に好ましくは4.0~10.0質量部である。
【0047】
研磨剤を含む磁性層に使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を、磁性層形成用組成物における研磨剤の分散性を向上させるための分散剤として挙げることができる。また、分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0048】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0049】
<非磁性層>
非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0050】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0051】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0052】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド等のポリアミド、ポリアミドイミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0053】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、一形態では、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に非磁性粉末を含むバックコート層を有することができ、他の一形態では、バックコート層を有さないものであることができる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0054】
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~6.0μmである。
【0055】
磁性層の厚みは、近年求められている高密度記録化の観点からは200nm以下であることが好ましく、8~200nmの範囲であることがより好ましく、10~200nmの範囲であることが更に好ましい。厚い磁性層を形成するほど、単位面積あたりの垂直方向磁化量の値は大きくなる傾向がある。したがって、磁性層厚みを調整することを、25℃の測定温度におけるΦmの値を制御する手段の1つとして挙げることができる。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0056】
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
【0057】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
【0058】
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0059】
<製造工程>
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加することもできる。上記磁気記録媒体を製造するためには、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0060】
一形態では、磁性層形成用組成物を調製する工程において、突起形成剤を含む分散液(以下、「突起形成剤液」と記載する。)を調製した後、この突起形成剤液を、磁性層形成用組成物のその他の成分の1種以上と混合することができる。例えば、突起形成剤液、研磨剤を含む分散液(以下、「研磨剤液」と記載する。)および強磁性粉末を含む分散液(以下、「磁性液」と記載する。)をそれぞれ別に調製した後に混合し分散させて磁性層形成用組成物を調製することができる。このように各種分散液を別に調製することは、磁性層形成用組成物における強磁性粉末、突起形成剤および研磨剤の分散性向上のために好ましい。例えば、突起形成剤液の調製は、超音波処理等の公知の分散処理によって行うことができる。超音波処理は、例えば200cc(1cc=1cm)あたり10~2000ワット程度の超音波出力で1~300分間程度行うことができる。また、分散処理後にろ過を行ってもよい。ろ過に用いるフィルタについては先の記載を参照できる。
【0061】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0062】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種処理については、例えば特開2010-24113号公報の段落0052~0057等の公知技術を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける上記塗布層を形成した非磁性支持体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
【0063】
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができ、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であることもできる。例えば磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。磁気記録媒体には、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、磁気テープを例として、サーボパターンの形成について説明する。
【0064】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0065】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0066】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0067】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0068】
尚、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0069】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0070】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0071】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0072】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0073】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。尚、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0074】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0075】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、テープ状の上記磁気記録媒体(即ち磁気テープ)を含む磁気テープカートリッジに関する。
【0076】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0077】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層側の表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。磁気テープカートリッジに収容される磁気テープの全長は、例えば800m以上であることができ、800m~2000m程度の範囲であることもできる。磁気テープカートリッジに収容されるテープ全長が長いことは、磁気テープカートリッジの高容量化の観点から好ましい。
【0078】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置に関する。
【0079】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、例えば、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層側の表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。例えば、上記磁気記録再生装置は、上記磁気テープカートリッジを着脱可能に含むことができる。
【0080】
上記磁気記録再生装置は磁気ヘッドを含むことができる。磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0081】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、例えば、磁気記録媒体の磁性層側の表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0082】
例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例
【0083】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
【0084】
[実施例1]
<ε-酸化鉄粉末の作製>
純水5000gに、硝酸鉄(III)9水和物(表1中、「硝酸Fe」)411.7g、硝酸ガリウム(III)8水和物(表1中、「硝酸Ga」)73.8g、硝酸コバルト(II)6水和物(表1中、「硝酸Co」)9.1g、硫酸チタン(IV)(表1中、「硫酸Ti」)7.4gを溶解させたものを、撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液180gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸48gを純水400gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄したのち、純水8000gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を550g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)800mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム500gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度90℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気中、加熱炉を用いて以下の条件で熱処理工程に付した。まず、4℃/分の昇温速度で500℃の到達温度まで昇温し、その温度を2時間維持した(ステップ1)。続いて、4℃/分の昇温速度で800℃の到達温度まで昇温し、その温度を2時間維持した(ステップ2)。更に、4℃/分の昇温速度で900℃の到達温度まで昇温し、その温度を2時間維持した(ステップ3)。最後に、4℃/分の昇温速度で980℃の到達温度まで昇温し、その温度を4時間維持した(ステップ4)。熱処理工程について記載する到達温度は、加熱炉の炉内温度である。
熱処理工程後の粉末を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を80℃に維持して24時間撹拌することにより、被膜除去工程を実施した。
その後、遠心分離処理により、被膜除去処理が施された粉末を採集し、純水で洗浄を行った。
以上の工程を経て得られた強磁性粉末について、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)を行い組成を確認したところ、表1の組成を有する置換型ε-酸化鉄であることが確認された。組成について表1に記載の値は、組成式:A Fe(2-x-y-z)における各元素の数(x、y、z、(2-x-y-z))である。また、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定し(X線回折分析)、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、いずれもα相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0085】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズを、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を使用し、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を使用して、先に記載の方法によって求めた。求められた平均粒子サイズを後述の表3に示す。
【0086】
<磁気テープの作製>
<<磁性層形成用組成物>>
(磁性液)
上記で作製したε-酸化鉄粉末:100.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:15.0部
シクロヘキサノン:150.0部
メチルエチルケトン:150.0部
(研磨剤液)
α-アルミナ(平均粒子サイズ:110nm):9.0部
塩化ビニル共重合体(カネカ社製MR110):0.7部
シクロヘキサノン:20.0部
(突起形成剤液)

突起形成剤(キャボット社製ATLAS(シリカとポリマーとの複合粒子)、平均粒子サイズ100nm):1.3部 メチルエチルケトン:9.0部
シクロヘキサノン:6.0部
(その他の成分)
ブチルステアレート:1.0部
ステアリン酸:1.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート):2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン:180.0部
メチルエチルケトン:180.0部
【0087】
<<非磁性層形成用組成物>>
非磁性無機粉末(α-酸化鉄):80.0部
(平均粒子サイズ:0.15μm、平均針状比:7、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:52m/g)
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):20.0部
電子線硬化型塩化ビニル共重合体:13.0部
電子線硬化型ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:140.0部
メチルエチルケトン:170.0部
ブチルステアレート:4.0部
ステアリン酸:1.0部
【0088】
<<バックコート層形成用組成物>>
非磁性無機粉末(α-酸化鉄):80.0部
(平均粒子サイズ:0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m/g)
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):20.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:100nm):3.0部
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:140.0部
メチルエチルケトン:170.0部
ステアリン酸:3.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート):5.0部
メチルエチルケトン:400.0部
【0089】
<<各層形成用組成物の調製>>
磁性層形成用組成物は、以下の方法によって調製した。
上記磁性液の各種成分をオープンニーダにより混練および希釈処理した後、横型ビーズミル分散機により、ビーズ径0.5mmのジルコニア(ZrO)ビーズ(以下、「Zrビーズ」と記載する。)を用いて、ビーズ充填率80体積%およびローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分として12パスの分散処理を行い、磁性液を調製した。
上記研磨剤液の各種成分を混合した後、ビーズ径1mmのZrビーズとともに縦型サンドミル分散機に入れ、研磨剤液体積とビーズ体積との合計に対するビーズ体積の割合が60%になるように調整し、180分間サンドミル分散処理を行った。サンドミル分散処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散ろ過装置を用いて、超音波分散ろ過処理を施すことにより、研磨剤液を調製した。
上記突起形成剤液の各種成分を混合した後に、ホーン式超音波分散機により200ccあたり500ワットの超音波出力で60分間超音波処理(分散処理)して得られた分散液を孔径0.5μmのフィルタでろ過して、突起形成剤液を調製した。
磁性液、突起形成剤液および研磨剤液と、その他の成分および仕上げ添加溶媒をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した。その後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で、パス回数2回で処理を行った後に、1.0μmの孔径のフィルタで1回ろ過して磁性層形成用組成物を調製した。
【0090】
非磁性層形成用組成物は以下の方法によって調製した。
潤滑剤(ブチルステアレートおよびステアリン酸)を除く上記成分をオープンニーダにより混練および希釈処理した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ブチルステアレートおよびステアリン酸)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
【0091】
バックコート層形成用組成物は以下の方法によって調製した。
潤滑剤(ステアリン酸)、ポリイソシアネートおよびメチルエチルケトン(400.0部)を除く上記成分をオープンニーダにより混練および希釈処理した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸)、ポリイソシアネートおよびメチルエチルケトン(400.0部)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0092】
<<磁気テープの作製>>
厚み5.0μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが1.0μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させた後、125kVの加速電圧で40kGyのエネルギーとなるように電子線を照射した。その上に乾燥後の厚みが表3に記載の厚みになるように磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向ゾーンにおいて磁界強度0.3Tの磁界を、上記塗布層の表面に対して垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後乾燥させて磁性層を形成した。その後、上記支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面に乾燥後の厚みが0.5μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、カレンダ処理速度80m/分、線圧300kg/cm(294kN/m)、およびカレンダロールの表面温度110℃にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、スリット品の送り出しおよび巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性層表面に押し当たるように取り付けたテープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行った後、磁気テープの磁性層を消磁した状態で、サーボライターに搭載されたサーボライトヘッドによって、LTO(Linear Tape-Open)Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを磁性層に形成した。こうして、磁性層に、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを有する磁気テープを得た。
【0093】
[実施例2~13、比較例1~7]
後述の表1、2に示す項目を表1、2に示すように変更した点以外、実施例1と同様にε-酸化鉄粉末の作製および磁気テープの作製を行った。表1中、「硝酸Al」は、硝酸アルミニウム(III)9水和物であり、「塩化Sn」は、塩化スズ(IV)5水和物である。
【0094】
[比較例8]
特許第6010181号明細書(特許文献2)の実施例1に準じて、以下の方法によってε-酸化鉄粉末を作製した点以外、実施例1と同様に磁気テープを作製した。
純水4222gに、硝酸鉄(III)9水和物413.0g、硝酸ガリウム(III)8水和物72.4g、硝酸コバルト(II)6水和物9.1g、硫酸チタン(IV)7.4gを溶解させたものを、撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度20℃の条件下で、濃度21.85%のアンモニア水溶液252gを一挙に添加し、雰囲気温度20℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸23.6gを純水212gに溶解させて得たクエン酸溶液を1時間かけて加えたのち、濃度10%アンモニア水溶液を280g一挙に添加した。続いて、20℃の温度を保ったまま1時間撹拌してスラリーを得た。
得られたスラリーを、限外ろ過膜(UF(Ultra-Filtration)分画分子量50000の膜)にて、炉液の電気伝導率が3.8mS/m以下になるまで洗浄した。
洗浄後のスラリーを、粉末16.8gが含まれる分だけ分取し、液量が4000mLになるように純水を加えた。液温30℃の条件下で撹拌しながら、濃度21.45%アンモニア水溶液59.80gを添加した後、117.23gのTEOSを35分かけて添加した。その後20時間撹拌を続けた。得られた液に、純水300gに硫酸アンモニウム181.0gを溶解した溶液を添加した。沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度90℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下で、加熱炉を用いて、4℃/分の昇温速度で最終到達温度1065℃まで昇温し、その温度を4時間維持して熱処理工程(1段階昇温)を実施した。
熱処理工程後の粉末を、6.25mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌して、被膜除去処理を実施した。
その後、遠心分離処理により、被膜除去工程が施された粉末を採集し、純水で洗浄を行った。
【0095】
実施例2~13および比較例1~8においてそれぞれ作製された強磁性粉末について、上記と同様に組成を分析した。組成の分析結果を表1に示す。また、作製された強磁性粉末について、上記と同様にX線回折分析を行い、各粉末がε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。また、各強磁性粉末の平均粒子サイズを実施例1と同様に求めた結果を、後述の表3に示す。
【0096】
上記実施例および比較例について、それぞれ磁気テープを2つ作製し、1つを後述のSNR(Signal-to-Noise Ratio)に関する評価のために使用し、もう1つをその他の評価のために使用した。
【0097】
[評価方法]
<ΦmおよびΦmの傾き>
実施例および比較例の各磁気テープから3.6cm×3.2cmのサイズ(面積:11.5cm)のサンプル片を切り出した。このサンプル片について、振動試料型磁力計として玉川製作所製TM-VSM6050-SM型を使用して、測定温度10℃、25℃および40℃でのΦmを、それぞれ先に記載した方法によって求めた。測定温度は、液体窒素またはヒーターを用いて制御した。こうして求められた測定温度25℃でのΦmを表3に示す。また、上記3つの測定温度について、測定温度とΦmとの関係を最小二乗法によって線形近似して測定温度に対するΦmの変化率を算出し、この値をΦmの傾きとして表3に示す。
【0098】
<磁性層の厚み>
磁気テープの厚み方向の断面を露出させた後、露出した断面を透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)を用いて倍率6万倍で撮影してTEM写真を得た。次に、得られたTEM写真において10点を無作為に選び出し、それらの各点において磁性層の厚みを測定した。こうして得られた測定値の算術平均を、磁性層の厚みとした。求められた磁性層の厚みを表3に示す。
【0099】
<異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下に関する評価>
実施例および比較例の各磁気テープについて、雰囲気温度23℃相対湿度50%の環境において、以下の方法によってSNRの測定を行った。求められたSNRを、「SNR23/50」と表記する。
磁気ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用い、磁気テープの走行速度(磁気ヘッドと磁気テープとの相対速度)は4m/秒とした。記録ヘッドとしてMIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使用し、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMR(Giant-Magnetoresistive)ヘッドを使用した。線記録密度300kfciで信号の記録を行い、再生信号をアドバンテスト社製のスペクトラムアナライザーで測定した。尚、単位kfciは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。キャリア信号の出力値と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。SNR測定のためには、磁気テープの走行を開始してから信号が十分に安定した部分の信号を使用した。
その後、各磁気テープについて、雰囲気温度40℃相対湿度80%の環境において、上記方法によってSNRの測定を行った。求められたSNRを、「SNR40/80」と表記する。
上記で求められたSNRの差分(SNR40/80-SNR23/50)を表3に示す。この差分の値が-2.0dB以内であれば、異なる温度条件での使用における電磁変換特性の低下が抑制されているということができる。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示す結果から、実施例の磁気テープにおいて、比較例の磁気テープと比べて、異なる温度条件における電磁変換特性(SNR)の低下が抑制されていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の一態様は、データストレージ用途において有用である。