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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】化学メッキ法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20231221BHJP
   C23C 18/20 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
C23C18/20 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019109641
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020200518
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518178718
【氏名又は名称】株式会社ドーワテクノス
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】森口 哲次
(72)【発明者】
【氏名】芹生 功
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121962(JP,A)
【文献】特開平02-293078(JP,A)
【文献】特開2009-087660(JP,A)
【文献】特開2018-044189(JP,A)
【文献】特開2016-138314(JP,A)
【文献】特開2008-171956(JP,A)
【文献】特開2013-189667(JP,A)
【文献】特開2008-303458(JP,A)
【文献】特開平06-097632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属製の基材の表面を、窒素、空気、及び、水素のいずれか1又は2以上のナノバブルを含む洗浄液を用いて洗浄処理した後、
前記基材の表面、空気及び水素のいずれか一方又は双方からなる直径100nm未満のナノバブルを1億個/mL~40億個/mL含むメッキ溶液を用いて金属メッキ処理を行うことを特徴とする化学メッキ法。
【請求項2】
請求項記載の化学メッキ法において、前記基材は樹脂製又はガラス製であることを特徴とする化学メッキ法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂やガラス等の表面に金属メッキ処理を行う化学メッキ法(無電解メッキ法)に関する。
【背景技術】
【0002】
化学メッキ法は、パラジウム等の高価な金属粒子を核とし、還元剤を用いてメッキ金属膜を成長させ、メッキ対象物である樹脂やガラス等の基材(絶縁体)表面に金属メッキ膜を形成するという方法(電流を用いない方法)である。
この化学メッキ法では、前処理に界面活性剤を含有した洗浄液を使用し、基材の表面に付着した油脂分やごみを除去しているため、廃液が発生し、また、界面活性剤の成分が表面に残留することでメッキむらが発生するという問題があった。
【0003】
化学メッキ法としては、例えば、特許文献1、2の技術が開示されている。
特許文献1には、樹脂基材の表面に、平均粒径が0.1μm~100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を接触させて、基材表面を改質する表面改質処理を施した上で、この基材表面に無電解めっきにより金属層を形成する方法が開示されている。
特許文献2には、ナノファイバーを無電解めっき処理して導電性ナノファイバーを製造するに際し、10nm以上50μm以下の平均気泡径を有する微細気泡が含有された微細気泡含有無電解めっき液を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-189667号公報
【文献】特開2016-138314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、基材の表面にオゾン水を接触させて表面改質処理を施す(金属層の密着性を向上させる)方法であり、また、特許文献2に開示の技術は、作製したナノファイバーを前処理することなくそのまま無電解めっきする方法であり、特許文献1、2に開示の技術はいずれも、基材の表面を洗浄処理する方法について記載していない。この特許文献2においては、発明が解決しようとする課題の欄に、めっき前の基板の洗浄にナノバブル水が使用されていることが記載されているが、単にナノバブル水と記載するのみであり、その具体的な構成については記載されていない。
【0006】
なお、化学メッキ法においては、前記したように、金属メッキ膜の形成に大量の還元剤が使用され、しかも、この還元剤は、次亜リン酸や劇物であるホルムアルデヒド等であることから、例えば、メッキ溶液(メッキ浴)の廃液の廃棄に特別な処理が必要となる場合があり、また、次亜リン酸のリン成分がメッキ膜に残留してメッキ表面がくすんで反射光沢が良好でなくなったり、カビが生えたりする等、実用上の欠点が発生する場合もある。
しかし、特許文献1、2の技術はいずれも、還元剤を積極的に使用しており、上記した問題が発生するおそれがある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来洗浄液に使われていた界面活性剤を使用することなく、しかも、場合によっては金属メッキ膜の形成に使われている還元剤の使用量を従来よりも低減して、良好な品質のメッキ製品を製造可能な化学メッキ法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明に係る化学メッキ法は、非金属製の基材の表面を、窒素、空気、及び、水素のいずれか1又は2以上のナノバブルを含む洗浄液を用いて洗浄処理した後、
前記基材の表面、空気及び水素のいずれか一方又は双方からなる直径100nm未満のナノバブルを1億個/mL~40億個/mL含むメッキ溶液を用いて金属メッキ処理を行う。
【0009】
【0010】
本発明に係る化学メッキ法において、前記基材は樹脂製又はガラス製であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る化学メッキ法は、基材の表面を、窒素、空気、及び、水素のいずれか1又は2以上のナノバブルを含む洗浄液を用いて洗浄処理するので、従来洗浄液に使われていた界面活性剤(洗浄剤)が不要になる。
従って、洗浄処理後の廃液の処理が不要となるので、作業性よく経済的にメッキ製品を製造できると共に、界面活性剤の成分が基材表面に残留することによるメッキむらの発生をなくすことができるので、良好な品質のメッキ製品を製造できる。
【0012】
更に、金属メッキ処理に用いるメッキ溶液に、空気及び水素のいずれか一方又は双方のナノバブルが含まれているので、金属メッキ処理に使う還元剤の量を、従来と比較して大幅に低減でき、メッキ溶液の廃液の廃棄に伴う特別な処理を低減、更には、無くすことができ、また、還元剤のリン成分によるメッキ表面のくすみやカビの発生を、製品品質に問題がない程度まで抑制、更には無くすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る化学メッキ法は、非金属製の基材の表面を、窒素(N)、空気、及び、水素(H)のいずれか1又は2以上のナノバブルを含む洗浄液を用いて洗浄処理した後、この基材の表面に金属メッキ処理を行う方法である。以下、詳しく説明する。
【0014】
基材は非金属製の、例えば、樹脂製又はガラス製(セラミックス製)等である。
ここで、基材が樹脂製の場合、基材は、例えば、金型を用いた射出成形等により成形される成形品であり、この成形品に金属メッキ層が形成された製品とは実質的に同一形状のものである(形状については、ガラス製の基材も同様)。
なお、金属メッキ層が形成された製品には、例えば、家電製品(部品)や自動車部品等があるが、これに限定されるものではない。
【0015】
ここで、樹脂(基材の原料)としては、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、PC/ABS樹脂(ポリカーボネイト/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、PC/PET樹脂(ポリカーボネイト/ポリエチレンテレフタレート)、PC/PBT樹脂(ポリカーボネイト/ポリブチレンテレフタレート)、LCP樹脂(液晶ポリマー)、PA樹脂(ポリアミド)、PA/ABS(ポリアミド/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、PPE樹脂(ポリフェニレンエーテル)、PP樹脂(ポリプロピレン)、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)、SPS樹脂(結晶性ポリスチレン)、PS樹脂(ポリスチレン)、MMA樹脂(メタクリル酸メチル)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート)、PC樹脂(ポリカーボネイト)等があり、更に、これらの樹脂のポリマーアロイでもよい。
【0016】
(洗浄処理)
上記した基材に対して洗浄処理を行う。
洗浄処理には、窒素、空気、及び、水素のいずれか1(単独)又は2以上(組み合わせ)のナノバブルを含む洗浄液を用いる。
このナノバブルは、従来公知の装置で製造可能な超微細気泡であり、マイクロバブルより更に小さく、直径が数百nm以下の気泡を意味する。なお、洗浄処理の効果を高めるため、ナノバブルの直径は、100nm以下(好ましくは100nm未満、更に好ましくは50nm以下)程度にするのがよい。一方、下限値については、特に限定されるものではないが、例えば、10nm程度である。
【0017】
ナノバブルを含む洗浄液で基材を洗浄する方法としては、例えば、ナノバブルを含む洗浄液を貯留した容器内に基材を投入する(浸漬させる)方法(バッチ処理)、基材が投入された容器内の溶媒(水や揮発性溶媒(エタノール)等)にナノバブルを連続的に供給し続ける方法、基材が投入された容器内にナノバブルを含む洗浄液を連続的に供給し続ける方法(連続処理や循環処理)等がある。
このナノバブルを含む洗浄液の製造方法としては、例えば、基材を投入する容器内に貯留した溶媒でナノバブルを発生させる方法、容器内に貯留した溶媒にナノバブルを含む溶媒を供給する方法等がある。なお、溶媒には、前記した界面活性剤以外の成分(例えば、他の洗浄剤等)が含まれてもよい。
【0018】
ここで、洗浄液に含まれるナノバブルの量は、洗浄処理の効果が得られる程度であればよく、例えば、溶媒1mL(ミリリットル)中にナノバブルが数億個(1~40億個、更には1~5億個)程度含まれればよい。
なお、基材の洗浄処理に要する時間は、基材の材質や表面状態によって適宜変更できるが、例えば、10分以下(好ましくは5分以下、更には好ましくは3分以下)程度でよい。
これにより、基材の洗浄処理を実施できる。
【0019】
(触媒付与処理)
次に、洗浄処理が終了した基材に対して、従来公知の触媒付与処理を行う。
この触媒付与処理は、後述する金属メッキ処理を行うためのメッキ成長の種を付着させる処理であり、金属メッキ処理で使用する還元剤の種類によって、使用する触媒を種々選択できる。例えば、還元剤に次亜リン酸を使用する場合、触媒には、パラジウム(Pd)を使用できるが、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の鉄族元素や白金族元素を使用することもできる。なお、還元剤は、次亜リン酸に限定されるものではなく、例えば、ホルムアルデヒド等の従来公知の還元剤を使用することもでき、この場合、使用する触媒も還元剤の種類に応じて種々選択できる。
【0020】
(金属メッキ処理)
続いて、触媒付与処理が終了した基材を水洗処理した後、この基材に対して金属メッキ処理を行う。
この金属メッキ処理は、基材の表面に金属メッキ膜を形成するための処理であり、形成する金属メッキ膜の種類としては、例えば、ニッケル、コバルト、銅(Cu)、及び、スズ(Sn)のいずれか1又は2以上の合金、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)等がある。
【0021】
金属メッキ処理に用いるメッキ溶液には、空気及び水素のいずれか一方又は双方(空気及び/又は水素)のナノバブルが含まれている。このナノバブルは、前記した洗浄液に含まれるナノバブルと同じサイズのものであり、従来金属メッキ処理に使用されているメッキ溶液の構成に、更にナノバブルが含まれるものである。
なお、メッキ溶液に含まれるナノバブルの量は、メッキ溶液に含まれる還元剤の量を従来よりも低減できる量であればよく、前記した洗浄液と同様、例えば、溶媒1mL中にナノバブルが数億個(1~40億個、更には1~5億個)程度含まれればよい。
【0022】
これにより、メッキ溶液に含まれる還元剤の量を、例えば、通常使用する量(予め設定された量)の50質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下に低減できる。一方、還元剤の量の下限値は、例えば、通常使用する量の5質量%程度であればよい。
上記した方法で基材の表面に金属メッキ膜を形成した後は、水洗処理と乾燥処理(熱処理)を施すことで、製品が得られる。なお、上記した金属メッキ処理、水洗処理、及び、乾燥処理は、必要なメッキ厚が得られるまで、複数回繰り返し行ってもよい。
【実施例
【0023】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、化学メッキ対象物にプラスチック片(非金属製の基材の一例)を使用し、本発明の効果を検討した。
まず、洗浄液を製造した。
具体的には、窒素、空気、水素のナノバブルをそれぞれ含む3種類の洗浄液(ナノ窒素水、ナノ空気水、及び、ナノ水素水)を製造した。
そして、上記したプラスチック片を各洗浄液に1分間浸漬させた。
【0024】
続いて、洗浄処理したプラスチック片に対して、従来行われている通常のパラジウム付与処理(触媒付与処理)を行った後、ニッケルメッキ処理(金属メッキ処理)を行った。
このニッケルメッキ処理には、従来使用されているナノバブルを含まない通常のニッケルメッキ浴と、空気又は水素のナノバブルを含む2種類のニッケルメッキ溶液を、それぞれ使用した。なお、ナノバブルを含む各ニッケルメッキ溶液で使用する還元剤の量は、通常使用する量の10質量%に低減した。
【0025】
ここで、ニッケルメッキ処理に通常のニッケルメッキ浴を用いた場合、前記した3種類の洗浄液で洗浄処理したいずれのプラスチック片についても、良好なニッケルメッキ膜が形成された。これにより、基材表面から油脂分やごみが効率的に除去されたことを確認できた。
一方、各種ナノバブルを含むニッケルメッキ溶液を用い、80℃にてニッケルメッキ処理を行った場合、空気のナノバブルを含むニッケルメッキ溶液では、極めて良好かつ金属光沢の良いニッケルメッキ膜の生成を確認できた。これは、ニッケルメッキ膜内のリンの残留が極めて少なく、良好な光沢を達成できたことによる。
なお、水素のナノバブルを含むニッケルメッキ溶液については、ニッケルメッキ膜の良好な生成は無かった。しかし、これは、水素のナノバブルによる強力な洗浄効果により、前記したパラジウム粒がプラスチック片の表面から取れてしまったことによるものであり、ニッケルメッキ溶液に含まれる水素のナノバブルの量を調整することで、上記した問題は解消された。
参考までに、窒素のナノバブルを含むニッケルメッキ溶液では、ニッケル等の金属粒子が液中で生成するため、窒素の使用は適切でないことが分かった。
【0026】
以上のことから、本発明の化学メッキ法を用いることで、従来洗浄液に使われていた界面活性剤を使用することなく、しかも、金属メッキ膜の形成に使われている還元剤の使用量を従来よりも低減して、良好な品質のメッキ製品を製造できることを確認できた。
【0027】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の化学メッキ法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、基材に対して洗浄処理と触媒付与処理を順次行った後、金属メッキ処理を行った場合について説明したが、金属メッキ処理を行う前に、下地メッキ処理を行う(下地メッキ層を形成する)こともできる。
【0028】
また、前記実施の形態においては、基材の洗浄処理で使用する洗浄液と、基材の金属メッキ処理で使用するメッキ溶液の双方が、ナノバブルを含む場合について説明したが、洗浄液にナノバブルが含まれていればよく、メッキ溶液はナノバブルを含まなくてもよい。なお、洗浄液とメッキ溶液の双方にナノバブルが含まれる場合、ナノバブルの種類は同一でもよく、異なってもよいが、洗浄処理とメッキ溶液の用途に応じて異なる種類を選択するのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る化学メッキ法を用いることで、従来洗浄液に使われていた界面活性剤を使用することなく、しかも、場合によっては金属メッキ膜の形成に使われている還元剤の使用量を従来よりも低減して、良好な品質のメッキ製品を製造できる。これにより、例えば、本発明の化学メッキ法を工業用の化学メッキ装置に適用でき、また、ナノバブル発生装置の利用用途の拡大に寄与することもできる。