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特許7406751含リンチオフェン共重合体、およびその製造方法
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  • 特許-含リンチオフェン共重合体、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】含リンチオフェン共重合体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
C08G61/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019228581
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2020105500
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018245582
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】雨夜 徹
(72)【発明者】
【氏名】平尾 俊一
(72)【発明者】
【氏名】大條 正人
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン系構造単位および非リン系構造単位を含むチオフェン共重合体であって、
該リン系構造単位が、下記一般式(A):
【化1A】
(式中、Lは、-(CH-であり、ここで、nは独立して0~12である。MおよびMは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、Lは、-(CH-であり、ここで、mは独立して0~12である。M1cおよびM2cは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される構造単位であり、
該非リン系構造単位が、下記一般式(B):
【化1B】
(R1BおよびR2Bは、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される構造単位であり、ここで、
一般式(A)の構造単位の総モル数nと上記一般式(B)の構造単位の総モル数nから計算式(n/n)によって計算されるリン系構造単位含有比が0.00001以上かつ1.5未満である、
チオフェン共重合体。
【請求項2】
前記リン系構造単位含有比が0.0001以上かつ1.5未満である、請求項1に記載のチオフェン共重合体。
【請求項3】
前記一般式(A)および一般式(B)の構造単位以外の構造単位を含まない、請求項1~のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【請求項4】
およびMのうちの少なくとも1つが、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム基から選ばれる、請求項1~のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【請求項5】
Lは、-CH-である、請求項1~のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【請求項6】
およびMがそれぞれ水素原子である、請求項1~のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【請求項7】
1BおよびR2Bがそれぞれ水素原子である、請求項1~のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【請求項8】
チオフェン共重合体を製造する方法であって、
酸化剤の存在下で、リン系化合物および非リン系化合物を含むモノマー混合物を酸化重合する工程を含み、
ここで、該リン系化合物が、一般式(Am):
【化2A】
(式中、Lは、-(CH-であり、ここで、nは0~12である。MおよびMは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、Lは、-(CH-であり、ここで、mは0~12である。M1cおよびM2cは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される化合物1種類以上であり、
該非リン系化合物が、一般式(Bm):
【化2B】
(R1BおよびR2Bは、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される化合物1種類以上であり、
ここで、該モノマー混合物において、一般式(Am)の化合物の総モル数nと上記一般式(Bm)の化合物の総モル数nから計算式(n/n)によって計算されるリン系化合物含有比が0.00001以上1.5未満である、
チオフェン共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、過硫酸アンモニウム、塩化第二鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、過塩素酸第一鉄、硫酸第一鉄および蓚酸第一鉄から選択される、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記モノマー混合物に対して1~100当量の前記酸化剤の存在下で前記酸化重合を行う、請求項または請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化重合が-20℃~80℃の温度で行われる、請求項10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
チオフェン共重合体を製造する方法であって、
酸化剤の存在下で、リン系化合物および非リン系化合物を含むモノマー混合物を酸化重合する工程を含み、
ここで、該リン系化合物が、一般式(Am):
【化2A】
(式中、Lは、-(CH -であり、ここで、nは0~12である。M およびM は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M またはM の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM またはM の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1A は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、L は、-(CH -であり、ここで、mは0~12である。M 1c およびM 2c は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M 1c またはM 2c の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM 1c またはM 2c の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される化合物1種類以上であり、
該非リン系化合物が、一般式(Bm):
【化2B】
(R 1B およびR 2B は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される化合物1種類以上であり、
ここで、該モノマー混合物において、一般式(Am)の化合物の総モル数n と上記一般式(Bm)の化合物の総モル数n から計算式(n /n )によって計算されるリン系化合物含有比が0.00001以上2未満であり、
ここで、該製造方法は、該酸化重合する工程において得られたチオフェン共重合体を精製する工程をさらに含み、該精製する工程においてキレート化合物が用いられる、
製造方法。
【請求項13】
前記キレート化合物が、複数のホスホン酸基(-P(=O)(OH))を有する化合物である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
およびMがそれぞれ水素原子である、請求項13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
1BおよびR2Bがそれぞれ水素原子である、請求項14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
チオフェン共重合体を製造する方法であって、
酸化剤の存在下で、リン系化合物および非リン系化合物を含むモノマー混合物を酸化重合する工程を含み、
ここで、該リン系化合物が、一般式(Am):
【化2A】
(式中、Lは、-(CH -であり、ここで、nは0~12である。M およびM は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M またはM の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM またはM の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1A は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、L は、-(CH -であり、ここで、mは0~12である。M 1c およびM 2c は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M 1c またはM 2c の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM 1c またはM 2c の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される化合物1種類以上であり、
該非リン系化合物が、一般式(Bm):
【化2B】
(R 1B およびR 2B は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される化合物1種類以上であり、
ここで、該モノマー混合物において、一般式(Am)の化合物の総モル数n と上記一般式(Bm)の化合物の総モル数n から計算式(n /n )によって計算されるリン系化合物含有比が0.00001以上2未満であり、
酸化剤が、過硫酸アンモニウムおよびパラトルエンスルホン酸第二鉄を含む、
製造方法。
【請求項17】
チオフェン共重合体を製造する方法であって、
酸化剤の存在下で、リン系化合物および非リン系化合物を含むモノマー混合物を酸化重合する工程を含み、
ここで、該リン系化合物が、一般式(Am):
【化2A】
(式中、Lは、-(CH -であり、ここで、nは0~12である。M およびM は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M またはM の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM またはM の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1A は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、L は、-(CH -であり、ここで、mは0~12である。M 1c およびM 2c は各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M 1c またはM 2c の一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのO に該アルカリ土類金属原子が結合していてM 1c またはM 2c の他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のO を該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される化合物1種類以上であり、
該非リン系化合物が、一般式(Bm):
【化2B】
(R 1B およびR 2B は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される化合物1種類以上であり、
ここで、該モノマー混合物において、一般式(Am)の化合物の総モル数n と上記一般式(Bm)の化合物の総モル数n から計算式(n /n )によって計算されるリン系化合物含有比が0.00001以上2未満であり、
酸化剤が、過硫酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウム第一鉄を含む、
製造方法。
【請求項18】
前記酸化剤が、第1の酸化剤および第2の酸化剤を含み、該第1の酸化剤が過硫酸アンモニウムであり、そして該第2の酸化剤が第一鉄の塩である、請求項12または13のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチオフェン共重合体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは帯電防止剤、静電気防止剤、太陽電池、プラスチック電極の電極材料、EMI材料、有機強磁性体、各種センサーとして期待できる含リンチオフェン共重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどに代表される導電性高分子は近年“有機エレクトロニクス”分野において盛んに開発が行われている化合物群である。その中でも特許文献1で開示されているPEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))は、良好な導電性、ドーピングされた状態での優れた環境安定性、薄膜として使用した場合の妥当な光透過性を持つことからもっとも一般的に使用されている導電性高分子のひとつである。ただし、PEDOTコーティングとして用いるにはPEDOTとポリアニオン(ポリスチレンスルホン酸塩)との混合物、すなわちPEDOT-PSSを水に分散した水分散液の調製が必要である。ここで、PEDOTは様々な課題を抱えている。例えば、PEDOTは水への溶解性が低いため、水分散液を調製することが難しい。また、PEDOT-PSSは高い酸性度を有するため、デバイス表面に塗布した場合にそのデバイス表面を腐食させてしまいやすい。
【0003】
上記課題を解決するために、PEDOTにスルホ基(-S(O)OH)を導入することにより、水溶性を付与させたポリマーが開発されてきている。このポリマーにおいては、スルホ基の導入と同時に自身でドーピングを行うことができるため、ドーピング操作を必要としないというメリットも得ることができる(自己ドープまたは自己ドーピングと呼ばれる)。スルホ基が導入されたPEDOT誘導体は特許文献2~4および非特許文献1などに開示されている。しかしながら、スルホン酸は強酸であり、また、硫酸の水溶液中の酸解離定数は、-3.00(K)、1.96(K)であることなどからも理解されるとおり、スルホ基の酸性度が高いという特徴を有する。そのため、スルホ基が導入されたPEDOT誘導体をデバイス表面に塗布した場合にそのデバイス表面が腐食しやすい等の悪影響が依然としてある。
【0004】
これらの欠点を解消する樹脂として、特許文献5においては、リン系構造単位を有するポリチオフェンが開示されている。ただし、特許文献5の0037段落においては、リン系構造単位のみからポリマーが構成されれば、その有利な特性を高く発揮させることができると記載されている。すなわち、特許文献5には、非リン系構造単位を含めることによって特性が低くなることが示唆されており、非リン系構造単位を特定の比率で含む共重合体を選択して用いることによって導電性が高くなることは特許文献5から予想されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-313521号公報
【文献】特開2014-28760号公報
【文献】特開2014-65898号公報
【文献】特開2014-74007号公報
【文献】特開2018-48322号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Zottietal,Macromol.Chem.Phys.203,1958(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な含リンチオフェン共重合体を提供する。本発明は、優れた導電性を有し、使用したデバイスを腐食することが少ない、新規な含リンチオフェン共重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記課題は、特定構造の含リンチオフェン化合物モノマーと、リン含有基を含まないチオフェン化合物モノマーを酸化重合させたチオフェン共重合体により達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の化合物等を提供する。
【0010】
(項1)
リン系構造単位および非リン系構造単位を含むチオフェン共重合体であって、
該リン系構造単位が、下記一般式(A):
【化1A】
(式中、Lは、-(CH-であり、ここで、nは独立して0~12である。MおよびMは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、Lは、-(CH-であり、ここで、mは独立して0~12である。M1cおよびM2cは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)で表される構造単位であり、
該非リン系構造単位が、下記一般式(B):
【化1B】
(R1BおよびR2Bは、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される構造単位であり、ここで、
一般式(A)の構造単位の総モル数nと上記一般式(B)の構造単位の総モル数nから計算式(n/n)によって計算されるリン系構造単位含有比が0.00001以上かつ2未満である、
チオフェン共重合体。
【0011】
(項2)
前記リン系構造単位含有比が0.0001~1.8である、上記項1に記載のチオフェン共重合体。
【0012】
(項3)
前記リン系構造単位含有比が1.5未満である、上記項1または2に記載のチオフェン共重合体。
【0013】
(項4)
前記一般式(A)および一般式(B)の構造単位以外の構造単位を含まない、上記項1~3のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【0014】
(項5)
およびMのうちの少なくとも1つが、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム基から選ばれる、上記項1~4のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【0015】
(項6)
Lは、-CH-である、上記項1~5のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【0016】
(項7)
およびMがそれぞれ水素原子である、上記項1~6のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【0017】
(項8)
1BおよびR2Bがそれぞれ水素原子である、上記項1~7のいずれか1項に記載のチオフェン共重合体。
【0018】
(項9)
チオフェン共重合体を製造する方法であって、
酸化剤の存在下で、リン系化合物および非リン系化合物を含むモノマー混合物を酸化重合する工程を含み、
ここで、該リン系化合物が、一般式(Am):
【化2A】
(式中、Lは、-(CH-であり、ここで、nは0~12である。MおよびMは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
式中、Lは、-(CH-であり、ここで、mは0~12である。M1cおよびM2cは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。)
で表される化合物1種類以上であり、
該非リン系化合物が、一般式(Bm):
【化2B】
(R1BおよびR2Bは、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。)で表される化合物1種類以上であり、
ここで、該モノマー混合物において、一般式(Am)の化合物の総モル数nと上記一般式(Bm)の化合物の総モル数nから計算式(n/n)によって計算されるリン系化合物含有比が0.00001以上2未満である、チオフェン共重合体の製造方法。
【0019】
(項10)
前記酸化剤が、過硫酸アンモニウム、塩化第二鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、過塩素酸第一鉄、硫酸第一鉄および蓚酸第一鉄から選択される、上記項9に記載の製造方法。
【0020】
(項11)
前記モノマー混合物に対して1~100当量の前記酸化剤の存在下で前記酸化重合を行う、上記項9または上記項10に記載の製造方法。
【0021】
(項12)
前記酸化重合が-20℃~80℃の温度で行われる、上記項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【0022】
(項13)
前記酸化重合する工程において得られたチオフェン共重合体を精製する工程をさらに含み、該精製する工程においてキレート化合物が用いられる、上記項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【0023】
(項14)
前記キレート化合物が、複数のホスホン酸基(-P(=O)(OH))を有する化合物である、上記項13に記載の製造方法。
【0024】
(項15)
およびMがそれぞれ水素原子である、上記項9~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【0025】
(項16)
1BおよびR2Bがそれぞれ水素原子である、上記項9~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【0026】
(項17)
前記酸化剤が、過硫酸アンモニウムおよびパラトルエンスルホン酸第二鉄を含む、上記項9~16のいずれか1項に記載の製造方法。
(項18)
前記酸化剤が、過硫酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウム第一鉄を含む、上記項9~16のいずれか1項に記載の製造方法。
(項19)
前記酸化剤が、第1の酸化剤および第2の酸化剤を含み、該第1の酸化剤が過硫酸アンモニウムであり、そして該第2の酸化剤が第一鉄の塩である、上記項13または14のいずれか1項に記載の製造方法。
【0027】
本発明の1つの実施形態においては、上記項9~17のいずれかに記載の製造方法によって製造される共重合体が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の含リンチオフェン共重合体は、従来の含リンチオフェン重合体よりも顕著に高い優れた導電性を示す。また、本発明の含リンチオフェン共重合体は、スルホ基を有するポリチオフェン化合物よりもデバイスを腐食させにくい。例えば、硫酸の水溶液中の解離定数(pKa)は、-3.00(K)、1.96(K)であることから理解されるとおり、スルホ基は酸性度が高く、そのため、スルホ基を有する化合物に接触するデバイスを腐食させやすい。他方、リン酸の酸解離定数(pKa)は、1.83(K)、6.43(K)、11.46(K)であることが理解されるとおり、ホスホン酸基は、スルホ基と比較して酸性度が低く、ホスホン酸基を有する化合物に接触するデバイスを腐食させにくい。従って、本発明の含リンチオフェン共重合体は、スルホ基を有するポリチオフェン化合物よりもデバイスを腐食させることが少ない。そのため、本発明の含リンチオフェン共重合体は、電子材料分野への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施例1Bで得られた含リンチオフェン共重合体の紫外可視近赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0031】
〔チオフェン共重合体〕
チオフェン共重合体は、例えば、一般式(12)で表される:
-(A)- (12)
ここで、Aはそれぞれ独立してチオフェンモノマー残基である。qは重合度であって、任意の正の整数である。具体的には、例えば、3以上、6以上または10以上とすることが可能であり、また、2,000以下、1,000以下、800以下または400以下とすることが可能である。
【0032】
なお、チオフェン共重合体の構造を一般式で記載する場合、その両末端を省略することが一般的であるので、本明細書においても、原則として、チオフェン共重合体の構造を記載する際には両末端は省略する。しかしながら、例えば、上記一般式(12)に敢えて両末端基を記載すれば、以下の一般式(12A)となる。
【0033】
-(A)-E (12A)
ここで、EおよびEはそれぞれ末端基である。通常は、一方が重合開始末端であって他方が重合終了末端である。
【0034】
チオフェン共重合体中のモノマー残基(上記一般式(12)中の「A」)は、複数種類である。チオフェン共重合体はブロックコポリマーであっても良く、ランダムコポリマーであっても良い。ランダムコポリマーにおいては、複数種類のモノマー残基が無秩序に並ぶ。
なお、本明細書中においては、ポリマーの繰り返し構造を構成する単位を構造単位という。すなわち、上記一般式(12A)のポリマーにおいては、「A」が構造単位であり、構造単位および末端基でポリマーが構成されている。言い換えると、ポリマーの重合開始末端および重合終了末端以外の部分は構造単位で構成されている。したがって、本明細書中において、「共重合体が一般式(A)および一般式(B)以外の構造単位を含まない」との記載は、末端基以外の部分が一般式(A)および一般式(B)以外の構造単位のみで構成されることを意味する。
本発明におけるチオフェン共重合体は、リン系構造単位および非リン系構造単位を含むチオフェン共重合体である。リン系構造単位は、下記一般式(A)で表される。非リン系構造単位は、下記一般式(B)で表される構造単位である。
【0035】
【化1A】
【化1B】
【0036】
一般式(A)において、Lは、-(CH-であり、ここで、nは独立して0~12である。nは好ましくは0~4であり、より好ましくは0~2である。特に好ましくはnは1である。MおよびMは各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。1つの好ましい実施形態において、MおよびMの少なくとも1つは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム基から選ばれる1つであり、更に好ましくは、MおよびMの両方が水素原子である。
【0037】
一般式(A)において、R1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。好ましくはアルキル基または水素原子であり、更に好ましくは水素原子である。
【化15】
式中、Lは、-(CH-であり、ここで、mは独立して0~12である。M1cおよびM2cは、各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
【0038】
一般式(B)において、R1B、およびR2Bは、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。R1Bは、好ましくはアルキル基または水素原子であり、更に好ましくは水素原子である。R2Bは、好ましくはアルキル基または水素原子であり、更に好ましくは水素原子である。
【0039】
一般式(A)および(B)において、R1A、R1B、およびR2Bにおけるアルキル基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルキル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基が結合した構造であってもよい。アルキル基の炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。
【0040】
1A、R1BおよびR2Bにおけるアルコキシ基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルコキシ基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アルコキシ基が結合した構造であってもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基およびペンタデシルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
1A、R1BおよびR2Bにおけるアシル基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアシル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アシル基が結合した構造であってもよい。アシルの炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基およびペンタデカノイル基などが挙げられる。
【0042】
1つの好ましい実施形態において、R1Aは、水素原子である。1つの好ましい実施形態において、R1Bは、水素原子である。1つの好ましい実施形態において、R2Bは、水素原子である。
【0043】
なお、R1Aが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である場合、R1Bは、R1Aと同一であってもよく、異なってもよい。同様に、R1Aが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である場合、R2Bは、R1Aと同一であってもよく、異なってもよい。
【0044】
およびMは、同一であってもよく、互いに異なってもよい。1つの好ましい実施形態においては、MおよびMは、同一である。M1cおよびM2cは、同一であってもよく、互いに異なってもよい。1つの好ましい実施形態においては、M1cおよびM2cは、同一である。
【0045】
上記一般式(A)中、MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルキル基は、直鎖または分岐鎖状のどちらでもよく、炭素原子数が1~12であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~5であることが特に好ましい。さらに好ましい実施形態ではアルキル基の炭素原子数が2である。アルキル基の炭素原子数が好ましい範囲内であれば導電性の良好なポリチオフェン化合物が得られる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。
【0046】
上記一般式(A)中、MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどが挙げられる。原料の金属化合物の入手のし易さや操作性の観点から、好ましくはナトリウムおよびカリウムである。
【0047】
上記一般式(A)中、MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムなどが挙げられる。原料の金属化合物の入手のし易さや操作性の観点から、好ましくはマグネシウムおよびカルシウムである。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。すなわち、分子内で架橋する構造となるか、または2分子を架橋する構造となる。また、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。すなわち、分子内で架橋する構造となるか、または2分子を架橋する構造となる。
【0048】
上記一般式(A)中、MおよびMは全てアルキル基であっても良いが、導電性の観点から、少なくとも1つは水素原子、アルカリ金属およびアルカリ土類金属であることが好ましい。少なくとも1つが水素原子であることが特に好ましい。また、M1cおよびM2cは全てアルキル基であっても良いが、導電性の観点から、少なくとも1つは水素原子、アルカリ金属およびアルカリ土類金属であることが好ましい。少なくとも1つが水素原子であることが特に好ましい。
【0049】
本発明においては、上記リン系構造単位の非リン系構造単位に対するモル比を適切な範囲内にすることにより優れた導電性を有するポリマーが提供される。本明細書中において、リン系構造単位の非リン系構造単位に対するモル比をリン系構造単位含有比という。具体的には、一般式(A)の構造単位および一般式(B)の構造単位の構造単位を有する共重合体におけるリン系構造単位含有比は、一般式(A)の構造単位の総モル数nおよび上記一般式(B)の構造単位の総モル数nから、以下の計算式で計算される。
リン系構造単位含有比=(n/n
本発明においては、リン系構造単位含有比が非常に小さい値の場合でも優れた導電性を有する共重合体が得られる。すなわち、リン系構造単位含有比が0よりも大きければ、非常に小さい値でも優れた導電性を有する共重合体が得られる。好ましい実施形態においては、本発明の共重合体においては、リン系構造単位含有比が0.00001以上である。リン系構造単位含有比が0.0001以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.03以上であることが特に好ましい。また、必要に応じて0.1以上とすることも可能である。また、1つの実施形態において、リン系構造単位含有比は2未満であり、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましく、1.1以下であることが特に好ましい。また、必要に応じて1.0以下とすることも可能である。
【0050】
1つの実施形態において、本発明の含リンチオフェン共重合体の構造単位は、上記一般式(A)および(B)の構造単位のみから構成されても良い。1つの実施形態において、本発明の含リンチオフェン共重合体は、一般式(A)の構造単位、および一般式(B)の構造単位以外の構造単位を実質的に含まない。上記一般式(A)および(B)の構造単位のみからポリマーの構造単位が構成されれば、その有利な特性を高く発揮させることができる。
【0051】
また別の実施形態において、本発明の含リンチオフェン共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で上記一般式(A)および(B)の構造単位以外の構造単位を含んでいても良い。本明細書中においては、便宜上、上記一般式(A)および(B)の構造単位以外の構造単位を「他種構造単位」と記載する。例えば、従来公知のポリチオフェン化合物中の構造単位を、上記一般式(A)および(B)の構造単位に加えて含んでもよい。他種構造単位としては、例えば、リンを含有しない反応性基もしくは極性基を含有する構造単位も必要に応じて含めることができる。リンを含有しない反応性基の例としては、例えば、スルホ基(-S(O)OH)が挙げられる。他種構造単位の具体例としては、PEDOTにスルホ基(-S(O)OH)が導入された構造単位などが挙げられる。
【0052】
他種構造単位としては、例えば、反応性基も極性基も含有しない構造単位も必要に応じて含めることができる。そのような他種構造単位の例としては、例えば、以下の構造単位が挙げられる。
【化1C】
【0053】
一般式(C)において、R1CおよびR2Cは、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。
【0054】
一般式(C)において、R1CおよびR2Cにおけるアルキル基は、独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルキル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基が結合した構造であってもよい。アルキル基の炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。
【0055】
1CおよびR2Cにおけるアルコキシ基は、独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルコキシ基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アルコキシ基が結合した構造であってもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基およびペンタデシルオキシ基などが挙げられる。
【0056】
1CおよびR2Cにおけるアシル基は、独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアシル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アシル基が結合した構造であってもよい。アシルの炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基およびペンタデカノイル基などが挙げられる。
【0057】
本発明の共重合体には、上述した他種構造単位として1種類のみを用いて共重合体を形成してもよく、2種類以上を用いて共重合体を形成してもよい。
【0058】
ただし、上記他種構造単位の含有量が多すぎると、本発明の利点が損なわれることになるので、他種構造単位の含有量は多すぎないことが好ましい。他種構造単位の含有量が、共重合体中の構造単位の合計のうちの40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることがいっそう好ましく、5モル%以下であることがひときわ好ましく、3モル%以下であることが特に好ましく、1モル%以下であることが最も好ましい。さらに、0.1モル%以下とすることも可能であり、0.01モル%以下とすることも可能である。
【0059】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、含リンチオフェン共重合体は、自己ドーピング性を有する導電性チオフェン共重合体である。
【0060】
自己ドーピング性を有する導電性チオフェン共重合体においては、水素イオン供与性ホスホン酸残基が存在することが必要である。水素イオン供与性ホスホン酸残基とは、少なくとも1つの-P-OH基が存在するホスホン酸残基をいう。本発明の含リンチオフェン
共重合体中における水素イオン供与性ホスホン酸残基を含む含リンチオフェンモノマー残基の数は、任意に選択することができる。水素イオン供与性ホスホン酸残基を含む含リンチオフェンモノマー残基の比率は、チオフェン共重合体中に存在する含リンチオフェンモノマー残基の総数を100%として、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上から選択することが可能である。あるいは、100%としてもよい。また、何らかの理由により、水素イオン供与基(-P-OH)の含有量を制御することが所望される場合には、水素イオン供与性ホスホン酸残基の数が抑制されるように設計することもできる。そのような場合には、本発明の含リンチオフェン共重合体中に存在する含リンチオフェンモノマー残基の総数を100%として、例えば、水素イオン供与性ホスホン酸残基を含む含リンチオフェンモノマー残基の比率を95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、または70%以下に設計することが可能である。
【0061】
また、ホスホン酸残基の総数に対する水素イオン供与性ホスホン酸残基の比率も任意に設計することができる。本発明の含リンチオフェン共重合体中に存在するホスホン酸残基の総数を100%として、水素イオン供与性ホスホン酸残基の比率を、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上から選択することが可能である。あるいは、100%としてもよい。また、何らかの理由により、水素イオン供与基の含有量を制御することが所望される場合には、水素イオン供与性ホスホン酸残基の数が抑制されるように設計することもできる。そのような場合には、本発明の含リンチオフェン共重合体中に存在するホスホン酸残基の総数を100%として、例えば、水素イオン供与性ホスホン酸残基の比率を95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、または70%以下に設計することが可能である。
【0062】
上述した水素イオン供与性ホスホン酸残基の比率は、例えば、チオフェン共重合体を製造する際に使用するチオフェン化合物の種類および量を調整することによって制御することができる。
【0063】
本発明の含リンチオフェン共重合体は、後述する方法を用いて製造することができる。
【0064】
(分子量)
本発明の含リンチオフェン共重合体の分子量は、特に限定されない。本発明の含リンチオフェン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは、1千以上であり、より好ましくは2千以上である。さらに好ましくは3千以上である。本発明の含リンチオフェン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは、50万以下であり、より好ましくは20万以下である。さらに好ましくは10万以下である。
【0065】
本発明の含リンチオフェン共重合体は、好ましくは、ホスホン酸基[-P(O)(OH)]、ホスホン酸モノアルキルエステル基[-P(O)(OH)(OR)、ここでRは炭素原子数1~15のアルキル基である]またはホスホン酸一水素塩基[-P(O)(OH)(OM)、ここでMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウム基である]を有するモノマー残基を含む。ホスホン酸基、ホスホン酸モノアルキルエステル基またはホスホン酸一水素塩基は、その水素イオン供与基(-P-OH)から放出される水素イオンにより、チオフェン共重合体主鎖の硫黄に対してドーピングすることが可能である。
【0066】
なお、本明細書中においてホスホン酸一水素塩基とは、ホスホン酸一水素塩の構造を有する基を意味する。すなわち、ホスホン酸基の2つの水素原子のうち、1つの水素原子のみが金属原子等で置換されて塩となり、他方の水素原子がそのまま残っている基をいう。
【0067】
〔チオフェン化合物〕
本発明の方法においては、含リンチオフェン共重合体を製造するために、モノマーとして、チオフェン化合物を使用する。チオフェン化合物としては、少なくとも、含リンチオフェン化合物およびリン含有基を含まないチオフェン化合物の2種類を使用する。
〔含リンチオフェン化合物〕
本発明の含リンチオフェン化合物は、下記一般式(Am)で表される化合物である。
【0068】
【化2A】
【0069】
上記一般式(Am)中、Lは、-(CH-であり、ここで、nは0~12である。MおよびMは、各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
【0070】
1Aは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、または式(15)で表される基である。
【化15】
【0071】
は、-(CH-であり、ここで、mは0~12である。M1cおよびM2cは、各々独立して、炭素原子数1~15のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である。ただし、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。
【0072】
上記MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルキル基は、直鎖アルキル基または分岐鎖アルキル基のどちらでもよい。炭素原子数が1~12であることが好ましく、炭素原子数が1~8であることが更に好ましく、炭素原子数が1~5であることが特に好ましい。炭素原子数が2であることが最も好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。上記範囲であれば酸化重合反応の進行がスムーズであり、本発明のチオフェン共重合体を得ることが容易になる。
【0073】
上記MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどが挙げられる。原料の金属化合物の入手のし易さや操作性の観点から、好ましくはナトリウムおよびカリウムである。
【0074】
上記MおよびMならびにM1cおよびM2cにおけるアルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムなどが挙げられる。原料の金属化合物の入手のし易さや操作性の観点から、好ましくはマグネシウムおよびカルシウムである。ただし、MまたはMの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてMまたはMの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。すなわち、分子内で架橋する構造となるか、または2分子を架橋する構造となる。また、M1cまたはM2cの一方がアルカリ土類金属である場合には、1つのホスホン酸基中の2つのOに該アルカリ土類金属原子が結合していてM1cまたはM2cの他方が存在しない構造となるか、または、2つのホスホン酸基のOを該アルカリ土類金属原子が架橋する構造となる。すなわち、分子内で架橋する構造となるか、または2分子を架橋する構造となる。
【0075】
チオフェン化合物の酸化重合反応のし易さを考慮すると、MもしくはMのどちらか一方はアルキル基であることが好ましく、MおよびMの両方がアルキル基であることが更に好ましい。また、M1cもしくはM2cのどちらか一方はアルキル基であることが好ましく、M1cおよびM2cの両方がアルキル基であることが更に好ましい。
【0076】
また、1つの実施形態においては、MおよびMが水素原子である。MおよびMが水素原子であれば、ジアシッド体を含むチオフェン共重合体の製造が容易であるという利点がある。ポリチオフェンにおいて一般的に、ジアシッド体は、ジアルキル体およびモノアシッド体よりも導電性に優れるため、ジアシッド体を含むチオフェン共重合体を容易に製造できることは有利である。
【0077】
また、1つの実施形態においては、M1cおよびM2cが水素原子である。M1cおよびM2cが水素原子であれば、ジアシッド体を含むチオフェン共重合体の製造が容易であるという利点がある。
【0078】
およびMは、同一であってもよく、互いに異なってもよい。1つの好ましい実施形態においては、MおよびMは、同一である。また、M1cおよびM2cは、同一であってもよく、互いに異なってもよい。1つの好ましい実施形態においては、M1cおよびM2cは、同一である。
【0079】
およびMが両方ともアルキルである場合は、上記チオフェン化合物を含むモノマー混合物を酸化重合して得られる化合物を加水分解することで、導電性の良好なチオフェン共重合体を得てもよい。
【0080】
同様に、M1cおよびM2cが両方ともアルキルである場合にも、上記チオフェン化合物を含むモノマー混合物を酸化重合して得られる化合物を加水分解することで、導電性の良好なチオフェン共重合体を得てもよい。
【0081】
1Aにおけるアルキル基は、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルキル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基が結合した構造であってもよい。アルキル基の炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。
【0082】
1Aにおけるアルコキシ基は、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルコキシ基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アルコキシ基が結合した構造であってもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基およびペンタデシルオキシ基などが挙げられる。
【0083】
1Aにおけるアシル基は、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアシル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アシル基が結合した構造であってもよい。アシルの炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基およびペンタデカノイル基などが挙げられる。
1つの好ましい実施形態において、R1Aはアルキル基または水素原子であり、更に好ましくは水素原子である。)
【0084】
〔含リンチオフェン化合物の製造方法〕
本発明に使用される含リンチオフェン化合物は、R1Aが水素原子である場合には、例えば、以下の方法で製造することができる。特に、収率および操作性を考慮すると、下記第一工程および第二工程で製造することが好ましい。
【0085】
(第一工程)
第一工程においては、公知の方法により、下記一般式(3)で表される化合物を得る。
【0086】
【化3】
【0087】
式(3)中、Lは、-(CH-である。ここで、nは0~12である。nは好ましくは0~4であり、より好ましくは0~2である。特に好ましくは1である。Xはハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子などが挙げられる。原料の入手のし易さおよび操作性の観点から塩素原子または臭素原子が好ましい。
【0088】
具体的には、例えば、特許文献4(特開2014-74007号公報)に記載されている方法で上記式(3)の化合物を得ることができる。
【0089】
また、n=1の実施形態、すなわち、下記一般式(3A)で表される化合物については、3-ハロゲン化-1,2-プロパンジオールと3,4-ジメトキシチオフェンを酸性触媒の存在下において加熱する方法により得ることができる。
【0090】
【化3A】
【0091】
上記酸性触媒としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸などが挙げられる。好ましくはパラトルエンスルホン酸である。
【0092】
(反応温度)
上記加熱は反応を進行させるために行うものであり、適切な速度で反応が進行するのであれば、加熱温度に特に制限はないが、60℃以上が好ましく、70℃以上が更に好ましく、80℃以上が特に好ましい。200℃以下が好ましく、150℃以下が更に好ましく、120℃以下が特に好ましい。
【0093】
(反応時間)
上記加熱の時間は特に制限はないが、各々の条件において、出発材料が反応するのに充分な時間を適宜選択すればよい。反応が充分に進行していれば、反応時間の違いが本発明の効果に大きな影響を及ぼすことはない。例えば、6時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましい。3日間以下が好ましく、2日間以下がより好ましい。
【0094】
(溶媒)
第一工程では、必要に応じて、溶媒を使用してもよい。溶媒としては酸化重合反応において反応性がないものであれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-オクタンおよびn-デカン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンおよびo-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンおよびジオキサン等のエーテル等が挙げられる。好ましくはベンゼン、トルエンおよびジオキサンであり、更に好ましくはベンゼンおよびトルエンである。
【0095】
(精製)
第一工程において得られた生成物については、精製等の後処理を行わずに第二工程に用いても良い。また、必要に応じて、第一工程で得られた生成物に、公知の方法による精製を行った精製物を第二工程に用いても良い。
【0096】
(第二工程)
第二工程においては、上記一般式(3)で表される化合物とトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトもしくはトリアルキルホスファイトとを反応させて、一般式(3)で表される化合物中のXをホスホン酸ビス(トリアルキルシリル)基もしくはホスホン酸ジエステル基で置換する。ホスホン酸基を含むチオフェンすなわちジアシッド体を合成する場合は、トリス(トリアルキルシリル)ホスファイトを用いる方法が、反応の効率等において好ましい。
【0097】
トリス(トリアルキルシリル)ホスファイトは、以下の一般式(11A)で表される。
【化11A】
ここで、M3a、M4aおよびM5aは、それぞれ独立して、トリメチルシリル、トリエチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリルであり、トリメチルシリル、トリエチルシリルであることが好ましく、トリメチルシリルであることが更に好ましい。M3a、M4aおよびM5aは独立して選択されても良いが、同一であることが好ましい。具体例としては、例えば、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト、およびトリス(トリエチルシリル)ホスファイトなどである。
【0098】
例えば、上記一般式(3)で表される化合物とトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトの混合物を加熱することにより、ミカエリス-アルブゾフ転位反応が起こり、その転位生成体として、一般式(2A)の化合物が得られる。
【化2A】
式中、M3aおよびM4aは、それぞれ独立して、トリメチルシリル、トリエチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリルである。これらは一般的に水酸基の保護基として用いられるものであり、公知の方法で脱保護を行うことで下記一般式(2C)の化合物を得ることができる。
【0099】
例えば、上記一般式(2A)の化合物に炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよびアンモニアの水溶液などの塩基性水溶液を作用させることで脱保護が起こる。
【化2C】
上記一般式(2C)の化合物は後述する一般式(2B)を公知の方法で加水分解することでも得られるが、上記のトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトを用いた方法により、比較的容易に得ることができる。
【0100】
トリアルキルホスファイトは、以下の一般式(11B)で表される。
【0101】
【化11B】
【0102】
ここで、M3b、M4bおよびM5bは、それぞれ独立して、炭素原子数1~15のアルキルである。炭素原子数が1~12であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~5であることが特に好ましい。さらに好ましい実施形態ではアルキル基の炭素原子数が2である。M3bおよびM4bは、それぞれ一般式(Am)中のMおよびMと同じである。一般式(Am)の化合物において目的とするMおよびMに応じてM3bおよびM4bが選択される。M3bおよびM4bは、同一であってもよく、異なっても良い。M5bは、一般式(Am)の化合物において目的とするMおよびMから独立して選択されても良いが、M5bがM3bまたはM4bのいずれかと同一であることが好ましい。一つの好ましい実施形態においては、M3b、M4bおよびM5bが同一である。具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、およびトリエチルホスファイトなどである。
【0103】
例えば、上記一般式(3)で表される化合物とトリアルキルホスファイトの混合物を加熱することにより、ミカエリス-アルブゾフ転位反応が起こり、その転位生成体として、一般式(2B)の化合物が得られる。
【0104】
【化2B】
【0105】
式中、M3bおよびM4bは、それぞれ独立して、炭素原子数1~15のアルキルである。
【0106】
一般式(3)で表される化合物とトリアルキルホスファイトまたはトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトの混合比率(モル比)は特に限定されない。ただし、収率などの観点から、一般式(3)で表される化合物とトリアルキルホスファイトまたはトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトの混合比率(モル比)は、一般式(3)で表される化合物1モルに対してトリアルキルホスファイトまたはトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトが0.8モル以上であることが好ましく、1モル以上であることがより好ましい。また、一般式(3)で表される化合物1モルに対してトリアルキルホスファイトまたはトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトが10モル以下であることが好ましく、5モル以下であることが更に好ましく、3モル以下であることが特に好ましい。
【0107】
(反応温度)
上記加熱は反応を進行させるために行うものであり、適切な速度で反応が進行するのであれば、特に反応の際の温度に制限はないが、100℃以上が好ましく、110℃以上が更に好ましく、120℃以上が特に好ましい。また、220℃以下が好ましく、200℃以下が更に好ましく、160℃以下が特に好ましい。
【0108】
(反応時間)
上記加熱の時間は特に制限はない。その温度などの条件下において、反応材料が反応するのに充分な時間を適宜選択すればよい。反応が充分に進行していれば、反応時間の違いが本発明の効果に大きな影響を及ぼすことはない。好ましくは、6時間以上であり、より好ましくは、12時間以上である。また、好ましくは、3日間以下であり、より好ましくは、2日間以下である。
【0109】
(溶媒)
第二工程では、必要に応じて、溶媒を使用してもよい。溶媒としては第二工程において反応性のない液体であって反応材料を溶解または分散できる液体であれば特に制限はない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-オクタンおよびn-デカン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム四塩化炭素、クロロベンゼンおよびo-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンおよびジオキサン等のエーテル等が挙げられる。好ましい溶媒は、トルエン、キシレンおよびメシチレンなどである。
【0110】
(加水分解)
上記反応により得られた一般式(2B)の化合物においては、必要に応じて加水分解またはイオン交換を行ってもよい。
【0111】
例えば、上記反応により得られた一般式(2B)の化合物においては、必要に応じて加水分解を行ってもよい。一般式(2B)の化合物に加水分解を行った後にさらにイオン交換を行ってもよい。一般式(2B)の化合物に加水分解を行うことにより、一般式(2B)においてM3bおよびM4bが水素原子またはアルカリ金属などである化合物を得ることができる。また、さらにイオン交換を行うことにより、M3bおよびM4bの種類を所望の種類に変換することができる。
【0112】
加水分解の方法としては、公知各種の方法を使用することができる。また、含リンチオフェン共重合体の加水分解について後述する方法および条件を使用することができる。
【0113】
イオン交換の方法としては、公知各種の方法を使用することができる。また、含リンチオフェン共重合体のイオン交換について後述する方法および条件を使用することができる。
【0114】
なお、好ましい実施形態の1つとしては、一般式(2B)の化合物に加水分解を行わずに、重合を行い、そして重合により得られた共重合体に加水分解を行う方法がある。
【0115】
(精製)
第二工程において得られた生成物については、精製等の後処理を行わずに含リンチオフェン化合物として、重合工程に用いても良い。あるいは、公知の方法による精製などの後処理を行っても良い。
【0116】
(R1Aが水素原子以外である場合の製造方法)
本発明の含リンチオフェン化合物は、R1Aが水素原子以外である場合にも、上記方法と基本的に同様の方法で製造することができる。
【0117】
1Aが式(15)の基である場合には、例えば、以下の方法で含リンチオフェン化合物を製造することができる。
【0118】
(第一工程)
第一工程においては、以下の反応により、一般式(17A)のジオールと一般式(18)の3,4-ジアルコキシチオフェンを反応させて一般式(19A)で表される中間体を得る。
【化17A】
ここで、RおよびRは、アルキル基(例えば、メチル基)である。
【0119】
例えば、LおよびLが-(CH)-である場合には、上記3-ハロゲン化-1,2-プロパンジオールの代わりに、式(17A)の化合物として1,4-ジハロゲン化-2,3-ブタンジオールを使用する。
【0120】
(第二工程)
第一工程で得られた一般式(19A)の中間体と一般式(11A)の化合物とを上記方法で反応させて、脱保護を行うことにより、または一般式(19A)の中間体と一般式(11B)の化合物とを上記方法で反応させることにより、一般式(Am)の含リンチオフェン化合物が得られる。
【化2A】
ここで、R1Aは、以下の一般式(15)で表される基である。
【化16】
中間体とホスファイトの混合比率は、中間体1モルに対してホスファイト1.6モル以上が好ましく、2モル以上がより好ましい。また、中間体1モルに対してホスファイト20モル以下が好ましく、10モル以下が更に好ましく、6モル以下が特に好ましい。
【0121】
1Aが、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である場合には、例えば、以下の方法で含リンチオフェン化合物を製造することができる。
【0122】
(第一工程)
第一工程においては、以下の反応により、一般式(17B)のジオールと一般式(18)の3,4-ジアルコキシチオフェンを反応させて一般式(19B)で表される中間体を得る。
【化17B】
【0123】
(第二工程)
第一工程で得られた一般式(19B)の中間体と一般式(11A)の化合物とを上記方法で反応させて、脱保護を行うことにより、または一般式(19B)の中間体と一般式(11B)の化合物とを上記方法で反応させることにより、一般式(Am)の含リンチオフェン化合物が得られる。
【化2A】
ここで、R1Aは、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。
【0124】
〔リン含有基を含まないチオフェン化合物〕
本発明のリン含有基を含まないチオフェン化合物は、下記一般式(Bm)で表される化合物である。
【化2B】
上記一般式(Bm)中、R1BおよびR2Bは、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはアシル基である。好ましくは水素原子またはアルキル基であり、更に好ましくは、両方とも水素原子である。
【0125】
上記R1BおよびR2Bにおけるアルキル基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルキル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基が結合した構造であってもよい。アルキル基の炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基およびペンタデシル基などが挙げられる。
【0126】
上記R1BおよびR2Bにおけるアルコキシ基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアルコキシ基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アルコキシ基が結合した構造であってもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基およびペンタデシルオキシ基などが挙げられる。
【0127】
上記R1BおよびR2Bにおけるアシル基は、各々独立して、直鎖、分岐鎖状または環状のいずれでもよい。環状のアシル基は、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキル基および/または鎖状アシル基が結合した構造であってもよい。アシルの炭素原子数は1~15であることが好ましく、1~8であることが更に好ましく、1~4であることが特に好ましい。具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基およびペンタデカノイル基などが挙げられる。
【0128】
本発明に使用されるリン含有基を含まないチオフェン化合物は、公知の方法で製造できる。また、R1BおよびR2Bが水素原子の化合物であれば、市販品を入手することも可能である。例えば、東京化成工業株式会社製もしくはシグマアルドリッチ社製3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0129】
〔含リンチオフェン共重合体の製造方法〕
本発明の含リンチオフェン共重合体は上記含リンチオフェン化合物とリン含有基を含まないチオフェン化合物を含むモノマー混合物を酸化重合することで得られる。酸化重合の方法としては、チオフェン化合物を重合する酸化重合方法として従来公知の方法を使用することができる。収率および操作性を考慮すると、後述する条件で製造することが好ましい。
【0130】
なお、本明細書中において「酸化重合」とは、酸化剤を用いてチオフェンモノマー化合物またはチオフェンモノマー混合物を重合してポリチオフェン化合物を合成する反応を意味する。ここで、「酸化」とは、この重合反応において、チオフェンモノマー化合物から水素原子を引き抜くことを意味する。本明細書中において「酸化剤」とは、そのような酸化反応を引き起こす試薬をいう。チオフェンモノマーの酸化重合反応については、例えば、上記特許文献1~4などに説明されている。なお、酸化重合との用語について、化学大辞典においては、「二重結合を含む炭化水素残基をもつ化合物が酸素に触れて漸次重合する過程をいう。最もよい例は油脂の乾燥である。」と記載されている。しかし、チオフェンモノマーの重合は一般に空気中の酸素を酸化剤として使用するものではないので、その点において、本明細書中の「酸化重合」との用語は、化学大辞典等において使用される意味と若干異なる意味を有する。
【0131】
(モノマー)
上記一般式(Am)の含リンチオフェン化合物および上記一般式(Bm)のリン含有基を含まないチオフェン化合物の混合物を重合用モノマーとして用いて酸化重合を行うことにより、上記一般式(A)および(B)の構造単位を含む含リンチオフェン共重合体を得ることができる。好ましい実施形態においては、上記一般式(2C)の含リンチオフェン化合物と、上記一般式(Bm)のリン含有基を含まないチオフェン化合物においてR1BおよびR2Bが水素原子であるチオフェン化合物との混合物を重合用モノマーとして用いて酸化重合を行う。
【0132】
なお、酸化重合を行う際には、一般式(Am)のチオフェン化合物を1種類のみ用いて酸化重合を行ってもよく、一般式(Am)のチオフェン化合物を2種類以上用いて酸化重合を行ってもよい。また、一般式(Bm)のチオフェン化合物を1種類のみ用いて酸化重合を行ってもよく、一般式(Bm)のチオフェン化合物を2種類以上用いて酸化重合を行ってもよい。さらに、一般式(Am)および(Bm)以外のチオフェン化合物を1種類以上用いて、酸化重合を行ってもよい。
【0133】
ただし、一般式(Am)および(Bm)以外のモノマーの量が多すぎると、本発明の利点が損なわれることになるので、一般式(Am)および(Bm)以外のモノマーの量は多すぎないことが好ましい。一般式(Am)および(Bm)以外のモノマーの量は、重合反応に使用されるモノマーの合計のうちの40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることがいっそう好ましく、5モル%以下であることがひときわ好ましく、3モル%以下であることが特に好ましく、1モル%以下であることが最も好ましい。
【0134】
(酸化剤)
本発明における酸化重合反応は酸化剤の存在下で行われる。酸化剤としては、チオフェン化合物の酸化重合反応に一般的に用いられている酸化剤が使用できる。具体的には、過硫酸アンモニウム、塩化第二鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、過塩素酸第一鉄、硫酸第一鉄および蓚酸第一鉄などが挙げられる。好ましくはパラトルエンスルホン酸第二鉄、過硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム第一鉄、過塩素酸第一鉄、硫酸第一鉄および蓚酸第一鉄が挙げられる。上記酸化剤は2種類以上併用して用いてもよい。2種類以上を併用する場合においては、そのうちの1種類として第一鉄の塩を用いることが好ましい。具体的には、併用する場合の好ましい組み合わせは、パラトルエンスルホン酸第二鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、硫酸アンモニウム第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、過塩素酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、硫酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、および蓚酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせであり、更に好ましいのは、硫酸アンモニウム第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、過塩素酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、硫酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせ、および蓚酸第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせであり、特に好ましいのは、硫酸アンモニウム第一鉄と過硫酸アンモニウムの組み合わせである。
【0135】
酸化剤の使用量は、酸化重合反応が良好に進行する限り特に限定されない。酸化重合反応に使用するモノマーに対して1当量以上であることが好ましく、2当量以上であることが更に好ましく、3当量以上であることが特に好ましい。また、100当量以下であることが好ましく、60当量以下であることが更に好ましく、20当量以下であることが特に好ましい。
【0136】
使用量が上記範囲であれば反応がスムーズに進行する。
【0137】
なお、空気中の酸素は、通常、チオフェンモノマーの重合のための酸化剤とはならないので、空気の存在下で重合反応を行う場合においても、通常、空気中の酸素は、重合反応に使用される酸化剤の量に含めない。すなわち、「酸化重合」という用語は、空気中に存在する酸素を酸化剤として使用する重合反応を意味するものとして使用される場合があるが、本発明における重合反応はこのような重合反応とは異なる。
【0138】
(溶媒)
本発明の重合反応は、必要に応じて、溶媒を用いてもよい。
【0139】
溶媒としては反応材料を溶解または分散できる液体であれば特に限定されない。溶媒の具体例としては、例えば、水、アンモニア水、塩酸などの水溶液、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、2-ブタノンなどのケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。好ましくは、水、アンモニア水、塩酸、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランおよびトルエンであり、水、メタノール、アセトニトリルおよびクロロホルムが更に好ましい。
【0140】
上記溶媒については、1種類の溶媒を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合した混合溶媒が好ましい。
【0141】
(反応温度)
重合の際の反応温度は、特に限定されない。-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、80℃以下が好ましく、60℃以下が更に好ましい。
【0142】
(反応時間)
本発明における重合の反応時間は、各々の条件において、反応するのに充分な時間を適宜選択すればよい。反応が充分に進行していれば、反応時間の違いが本発明の効果に大きな影響を及ぼすことはない。
【0143】
反応時間は、好ましくは、1時間以上であり、より好ましくは、3時間以上であり、さらに好ましくは、6時間以上であり、いっそう好ましくは、9時間以上であり、特に好ましくは12時間以上であり、必要に応じて、15時間以上、18時間以上、21時間以上、または24時間以上とすることも可能である。また、好ましくは、7日間以下であり、より好ましくは、5日間以下であり、さらに好ましくは、3日間以下であり、いっそう好ましくは、2日間以下であり、特に好ましくは36時間以下であり、必要に応じて、30時間以下、28時間以下または26時間以下とすることも可能である。
【0144】
(加水分解)
重合反応により得られた含リンチオフェン共重合体は、必要に応じて、加水分解を行っても良い。加水分解を行うことにより、含リンチオフェン共重合体中のホスホン酸アルキルエステル部分のエステル結合を分解してホスホン酸基[-P(O)(OH)]、ホスホン酸モノアルキルエステル基[-P(O)(OH)(OR)、ここでRは炭素原子数1~15のアルキル基である]またはホスホン酸一水素塩基[-P(O)(OH)(OM)、ここでMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム基である]を得ることができる。
【0145】
例えば、強酸で処理する方法、または強アルカリで処理することなどの方法により、加水分解を行うことができる。例えば、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液中で加熱するなどの方法により加水分解を行うことが出来る。強酸としては、例えば、塩酸、硫酸などのプロトン酸、およびトリメチルシリルブロマイドなどのルイス酸などが挙げられる。強アルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。ここで、ルイス酸を用いる場合は、例えば、ルイス酸と反応させた後、水と反応させる方法などが好ましく使用可能である。ポリチオフェン化合物骨格の安定性を考慮すると、アルカリで処理することが好ましい。
【0146】
加水分解の際に加熱を行う場合、その温度は特に限定されない。好ましくは30℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。また、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。
【0147】
加水分解を行う時間も特に限定されない。好ましくは1時間以上であり、より好ましくは6時間以上である。また、好ましくは4日間以下であり、より好ましくは2日間以下である。
【0148】
加水分解をして得られた含リンチオフェン共重合体については、さらに、必要に応じてイオン交換を行って水素イオン供与性ホスホン酸残基の量を調整してもよい。
【0149】
(精製)
重合反応により得られた含リンチオフェン共重合体には、必要に応じて、精製操作を行うことができる。精製操作としては、ポリチオフェン化合物の精製方法として公知の任意の方法を使用することができる。例えば、遠心分離、濾過、脱水、乾燥、蒸留、洗浄、限外濾過、透析などの操作を行うことができる。精製操作の回数および種類は特に限定されない。1種類の精製操作を1回行うことのみによって精製操作を終了しても良いが、必要に応じて、2回以上の精製操作を行ってもよい。例えば、精製操作を3回以上、4回以上または5回以上行ってもよい。ここで、1種類の精製操作を繰り返して2回以上行ってもよく、複数種類の精製操作を組み合わせて合計として2回以上の精製操作を行ってもよい。精製操作の回数に特に上限はないが、好ましくは20回以下であり、より好ましくは15回以下であり、さらに好ましくは10回以下である。回数が多すぎる場合には、製造プロセス全体として長時間を要することになり、製造効率が低下する。
【0150】
本発明の好ましい実施形態においては、キレート化合物を用いて精製を行う。キレート化合物を用いて精製を行うことにより、高い導電性を有する樹脂が得られる。本明細書中において、キレート化合物とは、複数の配位子を有する化合物をいう。キレート化合物を用いる精製の方法としては、チオフェン共重合体とキレート化合物を接触させることができる任意の方法が使用可能である。チオフェン共重合体とキレート化合物とが液体中で接触できる方法が好ましい。1つの実施形態においては、チオフェン共重合体に溶媒およびキレート化合物を加えて撹拌することにより、チオフェン共重合体の精製を行うことができる。好ましい溶媒は水である。精製を行う温度は特に限定されない。室温であってもよく、加熱された温度であってもよい。精製を行う際のチオフェン共重合体とキレート化合物を含む混合物が液体の状態を保つことができる温度が好ましい。
【0151】
キレート化合物としては、従来公知の任意のキレート化合物を使用できる。好ましくは、リン原子および酸素原子を含むキレート化合物である。より好ましくは、複数(例えば、2つ)のホスホン酸基(-P(=O)(O)を有する化合物である。例えば、ビスホスホネートが使用可能である。特に好ましい具体例としては、エチドロン酸が挙げられる。
【0152】
(イオン交換)
重合反応により得られた含リンチオフェン共重合体には、必要に応じて、イオン交換を行ってドープの量を調節しても良い。イオン交換は酸性水溶液やイオン交換樹脂などにより行うことが出来る。
【0153】
すなわち、重合により得られた含リンチオフェン共重合体のホスホン酸、ホスホン酸モノアルキルまたはホスホン酸一水素塩の水素イオン供与基がポリマー全体として所望の量よりも少ない場合には、ホスホン酸に結合している金属イオンやアンモニウムイオンを水素イオンにイオン交換することにより、ドープの効果を大きくすることができる。
【0154】
また逆に、重合により得られた含リンチオフェン共重合体のホスホン酸、ホスホン酸モノアルキルまたはホスホン酸一水素塩の水素イオン供与基がポリマー全体として所望の量よりも多すぎる場合には、ホスホン酸、ホスホン酸モノアルキルまたはホスホン酸一水素塩の水素イオンを他のイオン(例えば、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン等)にイオン交換することにより、ドープの効果を小さくすることができる。
【0155】
イオン交換は、含リンチオフェン共重合体を重合した後に行うことができる。上記精製の操作と同時に行うことも可能であり、精製の操作より前に行ってもよく、精製の操作の後に行ってもよい。例えば、ろ過により精製を行う際には、ろ過を行うカラムにイオン交換樹脂を充填しておけば、ろ過による精製と同時にイオン交換を行うことができる。
【0156】
イオン交換の方法としては、従来公知のイオン交換の方法が使用可能である。
【0157】
例えば酸性水溶液を用いる場合、重合により得られた含リンチオフェン共重合体生成物を酸性水溶液に接触させることにより、イオン交換を行うことができる。具体的には例えば、含リンチオフェン共重合体生成物を酸性水溶液中で攪拌して含リンチオフェン共重合体生成物中に存在するホスホン酸塩化合物の塩の部分を水溶液中の水素イオンと反応させるなどの方法により、イオン交換を行うことができる。ドープの効果を大きくするために水素イオンを増やす場合には、含リンチオフェン共重合体生成物の酸性置換基に対して過剰量の酸を用いることが好ましい。ドープの効果を小さくするためには用いる酸の量を少なくすればよい。つまり、用いる酸の量によりドープの効果は任意に設定できる。また、含リンチオフェン共重合体生成物と酸を反応させる時間も任意に設定できる。
【0158】
例えばイオン交換樹脂を用いる場合、含リンチオフェン共重合体生成物を水中でイオン交換樹脂に接触させるなどの方法により、イオン交換を行うことができる。ドープの効果を大きくするために水素イオンを増やす場合には、強酸性陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。ドープの効果を小さくするために水素イオンを減らす場合には、強塩基性陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。イオン交換樹脂に含リンチオフェン共重合体生成物を接触させる方法としては任意の方法が使用可能である。例えば、カラムにイオン交換樹脂を詰めて、含リンチオフェン共重合体生成物を含む溶液を流してもよいし、また、単に容器にイオン交換樹脂を入れて、その容器に含リンチオフェン共重合体生成物を含む溶液を入れてもよい。また、含リンチオフェン共重合体生成物とイオン交換樹脂とを接触させる場合には、その容器を振盪させたり、溶液を攪拌したりすることにより、その効率を向上させても良い。含リンチオフェン共重合体生成物とイオン交換樹脂とを接触させる時間は任意に設定できる。例えば、カラムに少量(例えば、1滴)の含リンチオフェン教授剛体生成物溶液を流す場合であれば、その少量の溶液がイオン交換樹脂に上部に接触した時間からイオン交換樹脂の下部から離れるまでの時間として設定される。また例えば、カラムに大量の含リンチオフェン共重合体生成物溶液を流す場合であれば、その溶液の最初の部分がイオン交換樹脂に上部に接触した時間からイオン交換樹脂の下部から離れるまでの時間と、その溶液の最後の部分がイオン交換樹脂に上部に接触した時間からイオン交換樹脂の下部から離れるまでの時間との平均として設定される。また、容器にイオン交換樹脂と含リンチオフェン共重合体生成物溶液を入れる場合であれば、その溶液とイオン交換樹脂が容器中で混合される時間として設定される。
【0159】
含リンチオフェン共重合体生成物のイオン交換の1回の操作を行う時間(例えば、上述した含リンチオフェン共重合体生成物と酸性水溶液の接触時間あるいはイオン交換樹脂と含リンチオフェン共重合体生成物の接触時間)は、所望とされるイオン交換の程度に応じて任意に設定されるが、例えば、5秒間以上とすることが好ましく、10秒間以上とすることがより好ましく、いっそう好ましくは1分間以上であり、さらに好ましくは、10分間以上である。接触時間が短すぎる場合にはイオン交換が不十分になりやすい。また、1日間以下とすることが好ましく、より好ましくは12時間以下であり、さらに好ましくは、2時間以下である。接触時間が長すぎる場合には、製造プロセス全体として長時間を要することになり、製造効率が低下する。
【0160】
イオン交換の操作を行う回数は特に限定されない。含リンチオフェン共重合体生成物に対して1回のみのイオン交換の操作でイオン交換を完了してもよく、イオン交換の操作を2回以上繰り返して行っても良い。2回以上繰り返して行えば、ドープ効果が高い含リンチオフェン共重合体を容易に得ることができる。具体的には、3回以上繰り返して行うことが好ましく、4回以上繰り返して行うことがより好ましく、5回以上繰り返して行うことがさらに好ましい。また、イオン交換の操作を行う回数は、好ましくは20回以下であり、より好ましくは15回以下であり、さらに好ましくは10回以下である。回数が多すぎる場合には、製造プロセス全体として長時間を要することになり、製造効率が低下する。
【0161】
また、イオン交換の操作を2回以上行う場合、同一のイオン交換の操作のみを2回以上繰り返してもよく、2種類以上のイオン交換の操作を行ってもよい。
【0162】
1つの好ましい実施形態においては、イオン交換の操作を精製の操作と組み合わせて一連の工程とすることができる。例えば、含リンチオフェン共重合体生成物に酸性水溶液を添加してイオン交換を行った後、含リンチオフェン共重合体生成物の精製工程(例えば、遠心分離)を行って水等を除去して純度が高くなった含リンチオフェン共重合体を取り出すことにより、ドープ効率が高く、かつ純度も高いポリマーを得ることができる。さらに、このイオン交換の操作を精製の操作と組み合わせた一連の工程を一つのサイクルとして、このサイクルを複数回繰り返して行うこともできる。例えば、含リンチオフェン共重合体生成物に酸性水溶液を添加してイオン交換を行った後、含リンチオフェン共重合体生成物の精製工程(例えば、遠心分離)を行って純度が高くなった含リンチオフェン共重合体を取り出し、その第1回精製後の含リンチオフェン共重合体に再度酸性水溶液を添加して2回目のイオン交換を行い、その後、再度精製工程を行って純度がさらに高くなった第2回精製後の含リンチオフェン共重合体を取り出す、という一連の工程を繰り返すことにより、ドープ効率が非常に高く、かつ純度も高いポリマーを効率良く得ることができる。すなわち高純度で電導性の高いポリマーを効率良く得ることができる。イオン交換の操作および精製の操作を含む一連の工程からなるサイクルを繰り返す回数は特に限定されない。具体的には、3回以上繰り返して行うことが好ましく、4回以上繰り返して行うことがより好ましく、5回以上繰り返して行うことがさらに好ましい。また、好ましくは20回以下であり、より好ましくは15回以下であり、さらに好ましくは10回以下である。回数が多すぎる場合には、製造プロセス全体として長時間を要することになり、製造効率が低下する。
【0163】
(用途)
本発明の含リンチオフェン共重合体は、導電性ポリチオフェン化合物の用途として従来公知の各種用途に使用することができる。具体的には、例えば、帯電防止剤や導電性高分子コンデンサの部材として使用することができる。
【0164】
(帯電防止剤)
本発明のチオフェン共重合体を帯電防止剤に使用する方法としては、従来の導電性ポリチオフェン化合物が帯電防止剤に用いられていた各種公知の方法を採用することができる。例えば、水あるいはその他適切な溶剤中に、本発明の含リンチオフェン共重合体を溶解または分散させたものを基材にコーティングすれば、その基材の表面に帯電防止作用が付与される。基材としては、帯電防止作用が望まれる任意の固体物質が挙げられる。具体例としては、例えば、高分子フィルム、高分子繊維、高分子樹脂成形品などが挙げられる。
【0165】
コーティング方法としては、従来のポリチオフェン化合物を基材にコーティングする方法として使用されている任意の方法が、本発明の含リンチオフェン共重合体においても使用可能である。具体例としては、例えば、スピンコート、ディップコートなどが挙げられる。
(導電性高分子コンデンサ)
導電性高分子コンデンサとは電解コンデンサの一種であり、電解コンデンサの電解質あるいは陰極または陰極導電層に導電性高分子を用いたものである。その導電性高分子に本発明の含リンチオフェン共重合体を使用することができる。
【実施例
【0166】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定される訳ではない。
【0167】
〔導電性の測定方法〕
本発明の含リンチオフェン共重合体の導電性は、その電気伝導度を下記方法で測定することで確認した。
【0168】
(試験片の作成)
測定する含リンチオフェン共重合体の10mg/mL水溶液もしくは分散液1mL(1Nアンモニア水8.5uL含有)をドロップキャスト法で下記基板のスリット上に薄膜を
作成し、温風により乾燥させた。
【0169】
基板:長さ5mm×幅30mmのガラス板上に厚み150nmのITO膜を製膜し、その膜に幅200μmのスリットを入れたものを基板として使用した。
【0170】
(電気伝導度の測定)
絶縁抵抗計(CUSTOM社製、CX-180N)を用いて、2端子法により測定した。
【0171】
[紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定方法]
水5mlに測定サンプル1mgおよび1Nアンモニア水0.85μlを加えて溶解させたものをセル長1cm石英セルに加え、紫外可視近赤外吸収スペクトル装置(日本分光株式会社製、V-670)を用いて測定した。
【0172】
〔含リンチオフェン化合物の合成〕
(ホスホン酸基含有チオフェンの合成)
(合成例1)
<2-ブロモメチル-2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシンの合成[下記式(4)で表される化合物]>
フラスコにパラトルエンスルホン酸・一水和物0.34g(1.79mmol)、トルエン75mL、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール6.76g(43.6mmol)、3,4-ジメトキシチオフェン2.51g(17.4mmol)を入れ、100℃で24時間撹拌後、室温(20~25℃)に冷却してから、固形物をセライトでろ別し、濾滓をジクロロメタンで洗浄した。得られたろ液と濾滓の洗浄液を混合し、溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出した。その時に得られた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。得られた黒色液体をカラムクロマトグラフィーで精製し、白色固体の下記式(4)で表される化合物2.23g(9.49mmol、収率54.6%)を得た。
【0173】
【化4】
【0174】
H-NMR(CDCl,400MHz):δ3.46-3.55(2H,m),4.13-4.38(3H,m),6.33-6.36(2H,m)。
【0175】
(合成例2)
<(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメチル)ホスホニックアシッドの合成[下記式(5)で表される化合物]>
フラスコに合成例1で得られた上記式(4)で表される化合物0.50g(2.16mmol)および亜リン酸トリス(トリメチルシリル)5.0g(16.75mmol)を入れ、150℃で24時間撹拌後、室温(20~25℃)に冷却した。その後、残存亜リン酸トリス(トリメチルシリル)などの低沸点成分を留去した。さらに、得られた反応生成物に1.5Mアンモニア水5mLおよびメタノール5mLを加え、1時間撹拌した。溶媒留去後、133Paの減圧下室温(20~25℃)で乾燥し、白色固体の下記式(5)で表される化合物0.51g(2.16mmol、収率99.9%)を得た。
【化5】
H-NMR(DMSO-d,400MHz):δ1.61-1.83(2H,m),3.78-3.83(1H,m),4.23-4.25(1H,m),4.55-4.58(1H,m),6.47-6.50(2H,m)。
【0176】
〔含リンチオフェン共重合体の合成〕
<実施例1>
(実施例1A)
<含リンチオフェン共重合体1の合成[上記式(5)で表される化合物、および下記式(7)で表される化合物をモル比1:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比1)]>
フラスコに合成例2で得られた上記式(5)で表される化合物100.0mg(0.42mmol)、下記式(7)で表される化合物(東京化成工業株式会社製、3,4-エチレンジオキシチオフェン)60.2mg(0.42mmol)および水数mLを加え、室温(20~25℃)で撹拌して均一に溶解させた。その後、撹拌しながらフラスコ内に酸化剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物286.8mg(0.42mmоl)および過硫酸アンモニウム386.6mg(1.68mmol)ならびに水数mLの混合溶液を12時間掛けて滴下した。得られた混合溶液に1N塩酸を加え、室温で攪拌したところ、固体が析出した。桐山ろうとで固体をろ別し、アセトン数mLで洗浄して、減圧下室温で乾燥したところ、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体を160.1mg得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1および表2に記す。
【化7】
【0177】
(実施例1B)
<含リンチオフェン共重合体1の精製>
フラスコに実施例1Aで得られた含リンチオフェン共重合体1を50mg、水0.5mLおよび4.2Mエチドロン酸水溶液0.4mlを加え、室温(20~25℃)で2時間撹拌した。その後、桐山ろうとで固体をろ別し、アセトン数mLで洗浄して、減圧下室温で乾燥したところ、黒色固体27.2mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。また、紫外可視近赤外吸収スペクトル測定結果を行った。その結果を図1に示す。チオフェン化合物のモノマーは導電性を有さないのに対してこの精製物では導電性が測定されたこと、および紫外可視近赤外吸収スペクトル測定により、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の特徴的な電荷移動バンドの吸収が400~600nmの波長近辺で見られたことで、モノマーが重合してポリマー(共重合体)になっている事を確認した。
【0178】
<実施例2>
(実施例2A)
<含リンチオフェン共重合体2の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比1:2で含む共重合体(リン系構造単位含有比0.5)]>
上記式(5)で表される化合物を50.0mg(0.21mmol)、上記式(7)で表される化合物を60.2mg(0.42mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を215.1mg(0.32mmоl)、および過硫酸アンモニウムを289.8mg(1.27mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体110.1mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0179】
(実施例2B)
<含リンチオフェン共重合体2の精製>
実施例2Aで得られた含リンチオフェン共重合体2を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0180】
<実施例3>
(実施例3A)
<含リンチオフェン共重合体3の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比1:10で含む共重合体(リン系構造単位含有比0.1)]>
上記式(5)で表される化合物を50.0mg(0.21mmol)、上記式(7)で表される化合物を301.0mg(2.12mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を788.8mg(1.16mmоl)、過硫酸アンモニウムを1062.7mg(4.66mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体349.4mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0181】
(実施例3B)
<含リンチオフェン共重合体3の精製>
実施例3Aで得られた含リンチオフェン共重合体3を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0182】
<実施例4>
(実施例4A)
<含リンチオフェン共重合体4の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比1:30で含む共重合体(リン系構造単位含有比0.03)]>
上記式(5)で表される化合物を10.0mg(0.04mmol)、上記式(7)で表される化合物を180.6mg(1.27mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を444.6mg(0.66mmоl)、過硫酸アンモニウムを599.0mg(2.62mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体190.4mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0183】
(実施例4B)
<含リンチオフェン化合物の精製>
実施例4Aで得られたポリチオフェン生成物を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0184】
<実施例5>
(実施例5A)
<含リンチオフェン共重合体5の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比1:100で含む共重合体(リン系構造単位含有比0.01)]>
上記式(5)で表される化合物を5.0mg(0.02mmol)、上記式(7)で表される化合物を301.0mg(2.12mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を724.3mg(1.07mmоl)、過硫酸アンモニウムを979.8mg(4.29mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体305.7mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0185】
(実施例5B)
<含リンチオフェン共重合体5の精製>
実施例5Aで得られた含リンチオフェン共重合体5を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0186】
<実施例6>
(実施例6A)
<含リンチオフェン共重合体6の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比1:1000で含む共重合体(リン系構造単位含有比0.001)]>
上記式(5)で表される化合物を1.0mg(0.004mmol)、上記式(7)で表される化合物を602.0mg(4.23mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を1435.6mg(2.12mmоl)、過硫酸アンモニウムを1934.2mg(8.48mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体602.4mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0187】
(実施例6B)
<含リンチオフェン共重合体6の精製>
実施例6Aで得られた含リンチオフェン共重合体6を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0188】
<比較例1>
<含リンチオフェン共重合体7の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比10:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比10)]>
上記式(7)で表される化合物を6.2mg(0.04mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を157.7mg(0.23mmоl)、過硫酸アンモニウムを212.5mg(0.93mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体91.8mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0189】
<比較例2>
(比較例2A)
<含リンチオフェン共重合体8の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比5:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比5)]>
上記式(7)で表される化合物を12.0mg(0.08mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を170.8mg(0.25mmоl)、過硫酸アンモニウムを230.2mg(1.01mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体107.3mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0190】
(比較例2B)
<含リンチオフェン共重合体8の精製>
比較例2Aで得られた含リンチオフェン共重合体8を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に示す。
【0191】
<比較例3>
(比較例3A)
<含リンチオフェン共重合体9の合成[上記式(5)で表される化合物、および上記式(7)で表される化合物をモル比2:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比2)]>
上記式(7)で表される化合物を30.1mg(0.21mmol)、酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を215.1mg(0.32mmоl)、過硫酸アンモニウムを289.8mg(1.27mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体129.2mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【0192】
(比較例3B)
<含リンチオフェン共重合体9の精製>
比較例3Aで得られた含リンチオフェン共重合体9を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表1に記す。
【0193】
<比較例4>
<含リンチオフェン重合体の合成[下記式(8)で表される構造単位を含む重合体]>
フラスコに上記式(5)で表される化合物100.0mg(0.42mmol)および水数mLを加え、室温(20~25℃)で撹拌した。その後、酸化剤としての過硫酸アンモニウム193.3mg(0.84mmol)および水数mLの混合溶液をフラスコへゆっくり滴下し、8時間撹拌した。得られた混合溶液に陽イオン交換樹脂レバチット(MonoPlusS100型)を添加して6時間撹拌した。デカンテーションによりレバチットを除去して、桐山ろうとで固体をろ別し、ジエチルエーテル数mLで洗浄した。得られた固体を減圧下室温で乾燥し、黒色固体の含リンチオフェン重合体8.9mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【化8】
【0194】
<比較例5>
<非リン系チオフェン重合体の合成[下記式(9)で表される構造単位を含む重合体]>
上記式(5)で表される化合物を用いず、上記式(7)で表される化合物2000.0mg(14.07mmol)、酸化剤の過硫酸アンモニウムを6469.5mg(28.35mmol)に変更し、パラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物を用いなかった以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の非リン系チオフェン共重合体26.1mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表1に記す。
【化9】

<実施例7>
(実施例7A)
<含リンチオフェン共重合体10の合成[上記式(5)で表される化合物、および下記式(7)で表される化合物をモル比1:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比1)]>
酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物286.8mg(0.42mmоl)を硫酸アンモニウム第一鉄・六水和物166.0mg(0.42mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体160.1mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表2に記す。
(実施例7B)
<含リンチオフェン共重合体10の精製>
実施例7Aで得られた含リンチオフェン共重合体10を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表2に記す。

<実施例8>
(実施例8A)
<含リンチオフェン共重合体11の合成[上記式(5)で表される化合物、および下記式(7)で表される化合物をモル比1:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比1)]>
酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物286.8mg(0.42mmоl)を過塩素酸第一鉄・六水和物153.6mg(0.42mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体160.0mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表2に記す。
(実施例8B)
<含リンチオフェン共重合体11の精製>
実施例8Aで得られた含リンチオフェン共重合体11を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表2に記す。

<実施例9>
(実施例9A)
<含リンチオフェン共重合体12の合成[上記式(5)で表される化合物、および下記式(7)で表される化合物をモル比1:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比1)]>
酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物286.8mg(0.42mmоl)を硫酸第一鉄・七水和物117.7mg(0.42mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体160.0mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表2に記す。
(実施例9B)
<含リンチオフェン共重合体12の精製>
実施例9Aで得られた含リンチオフェン共重合体12を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表2に記す。

<実施例10>
(実施例10A)
<含リンチオフェン共重合体13の合成[上記式(5)で表される化合物、および下記式(7)で表される化合物をモル比1:1で含む共重合体(リン系構造単位含有比1)]>
酸化剤のパラトルエンスルホン酸第二鉄・六水和物286.8mg(0.42mmоl)を蓚酸第一鉄・二水和物76.2mg(0.42mmol)に変更した以外は実施例1Aと同様の操作を行い、黒青色固体の含リンチオフェン共重合体151.6mgを得た。得られた生成物を用いて上記「試験片の作成」に記載した方法で試験片を作成し、該試験片の導電性を上記「電気伝導度の測定」に記載した方法により測定した。その結果を表2に記す。
(実施例10B)
<含リンチオフェン共重合体13の精製>
実施例10Aで得られた含リンチオフェン共重合体13を用いた以外は実施例1Bと同様に精製を行い、得られた精製物の導電性を測定した。その結果を表2に記す。
【0195】
【表1】
注)N.D.:測定限界以下であった。
- :未測定
【0196】
表1の結果から、次のことが分かる。
(1)実施例1~6と比較例4および5を比較すると、式(5)の含リンチオフェン化合物もしくは式(7)の非リン系チオフェン化合物単独で酸化重合した単独重合体よりも、式(5)の含リンチオフェン化合物と式(7)のチオフェン化合物の混合物を酸化重合した共重合体(すなわち、リン系構造単位および非リン系構造単位を有する共重合体)の方が、高い導電率が得られ、収率も高くなる。
(2)実施例1~6と比較例1~3を比較すると、リン系構造単位含有比が高い比較例1~3(リン系構造単位含有比2~10)よりも、リン系構造単位含有比が低い実施例1~6(リン系構造単位含有比1~0.001)において、高い導電率が得られる。
【0197】
以上から、ホスホン酸基を含有するチオフェン化合物(式(5)の化合物)とホスホン酸基を含有しないチオフェン化合物(式(7)の化合物)の比率(すなわち、リン系構造単位含有比)が特定の範囲内の混合物を酸化重合した共重合体は、導電性に優れていることがわかる。
【表2】

APS:過硫酸アンモニウム
Fe(OTs):パラトルエンスルホン酸第二鉄
(NHFe(SO:硫酸アンモニウム第一鉄
Fe(ClO:過塩素酸第一鉄
FeSO:硫酸第一鉄
FeC:蓚酸第一鉄

表2の結果から、酸化剤としての過硫酸アンモニウムの併用相手として、パラトルエンスルホン酸第二鉄を用いた場合(実施例1)よりも、硫酸アンモニウム第一鉄、過塩素酸第一鉄、硫酸第一鉄または蓚酸第一鉄のような第一鉄の塩を用いた場合(実施例7~10)において、精製後の導電率が更に高くなることが分かる。
【0198】
また、実施例1~10Bの結果から、エチドロン酸を用いて精製を行うことにより非常に高い導電性が達成されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明によれば、優れた導電性を有する新規な含リンチオフェン共重合体が提供される。本発明の含リンチオフェン共重合体は、スルホ基を有するポリチオフェン化合物よりも、デバイスを腐食させることが少ない。本発明の含リンチオフェン共重合体は、帯電防止剤、静電気防止剤、プラスチック電極の電極材料、EMI材料、有機強磁性体、各種センサー等の様々な用途に適用することができる。
【0200】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
図1