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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20231221BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/03 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020055902
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156685
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】307024244
【氏名又は名称】神栄テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 恒
(72)【発明者】
【氏名】橋口 幸治
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 伴季
(72)【発明者】
【氏名】板橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】本田 真一
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-513875(JP,A)
【文献】特開2016-024156(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039584(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/142944(WO,A1)
【文献】特開2016-156706(JP,A)
【文献】特開2016-156752(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140254(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135619(WO,A1)
【文献】特開2017-156225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
H01S 3/00-H01S 3/30
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
IEEE Xplore
Optica
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端にミラーを配置した測定セルで構成される光共振器に、レーザ光を入射して共振させ、その漏れ光を検出することによって、ガス濃度を算出するキャビティリングダウン分光法によガス濃度検出装置において、
前記測定セルの外側に配置した熱デバイスと、
前記熱デバイスでの測定セルへの給排熱量を、前記共振器のミラー間の長さが、ガス濃度測定時間に対応する周期でかつ自由スペクトル範囲を埋めるとともに、共振周波数を変更する長さとなるように制御する温度制御手段と
を備えたことを特徴とするガス濃度検出装置
【請求項2】
前記熱デバイスがペルチェ素子である請求項1に記載のガス濃度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザガス分析装置に関し、特に、CRDS法によるガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定の物質は特定の波長(周波数)の光を吸収し、その吸収量は特定物質の濃度に依存することから、ガス分析装置として、測定セルに導いたサンプルガスにレーザ光を透過させることによって、前記サンプルガス中に含まれる特定物質濃度を測定する、レーザ分光法が広く用いられている。
【0003】
レーザ分光法にも種々の方式があるが、CRDS(Cavity Ring Down Spectroscopy )分光法もその一つである。当該CDRS分析法は、例えば引用文献1(特許第6252176号公報)の図1等に開示する構成となっている。
すなわち、測定セルの両端に高反射率のミラーを配置して光共振器を構成する。当該光共振器に対して波長可変レーザ素子から発射されるレーザ光を入射して、特定の周波数で共振させ、光パワーが光共振器内に十分蓄えられた後にレーザ光を遮断し、前記ミラーから僅かに漏れる光の強度の時間的な減衰量を測定し、当該減衰量から測定対象のガス濃度を演算するようになっている。
【0004】
共振器(測定セル)内でレーザ光が共振して閉じ込められることになるこの方法は、共振器内でレーザ光が数千回以上往復することで測定距離を長く採れ、高感度である利点があるので、広く用いられようとしている。一方で、レーザ光の周波数と光共振器の共振周波数とが一致したときのみ、測定が可能となる制限がある。前記共振周波数は、飛び飛びの値を採るとともに、その絶対値は光共振器を構成する高反射率ミラーの間隔Lに反比例し、隣り合う2つの共振周波数の間隔である自由スペクトル範囲(Free Spectral Range, FSR)もLに反比例する。このFSR狭い程、分解能の高い測定が可能なことを意味する。
【0005】
特定のガスの光吸収強度は、特定の周波数でピークとなり、その周辺の周波数では、前記特定の周波数から遠ざかる程小さくなる。従って、当然のことながら、特定のガスの光吸収線をカバーする領域に存在する共振周波数の個数が多い程(FSRが狭く、分解能が高い程)、精度の高い測定が可能となる。
【0006】
ところで、前記共振器のミラー間の距離が固定されると共振周波数も固定されることになり、この状態で光吸収線がカバーする領域に十分な数の共振周波数を含むことが出来るガスしか測定対象とはならない。すなわち、FSRに対して光吸収線がカバーする領域が十分に広くないガスは測定対象とはならない。複数種のガスを測定対象とするには、光共振器自体の共振周波数が可変でなければならない。
【0007】
そこで、前記特許6252176号公報では上記共振周波数を可変にするために、圧電素子で、前記ミラーの位置を変更する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許6252176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したようにCRDSでは、分解能はミラー間隔Lに反比例するのであるから、十分な分解能を確保する必要上、ミラー間隔(セル長)は、通常40~50cmで設計される。ミラー間隔を50cmとすると、前記FSRは0.01cm-1となる。
【0010】
ところが、ミラー間隔を50cmで設計すると、装置全体の容積が大きくなり、手軽に持ち運びのできる装置ではなくなり、より小型化が望まれる。一方、ミラー間隔を5cmで設計すると、前記FSRは0.1cm-1となり、分解能はミラー間隔50cmに比べて1/10となる。
【0011】
図3は、光共振器の長さが50cm(L50)の場合と5cm(L)の場合の共振周波数を周波数軸上に示し、加えて、仮の吸収線Sを重ねたものである。50cm場合は、吸収周波数(中心周波数S)と近接して共振周波数が多数存在するが、5cmの場合は吸収周波数付近に位置する共振周波数の個数が少なく、さらに吸収周波数と共振周波数が一致する確率は極めて低くなることが理解できる。
【0012】
測定精度を上げる上では、測定対象物質の吸収線上に共振周波数が多数存在すること、特に、吸収周波数が共振周波数と一致することが重要であるが、ミラー間隔を狭くすると、上記のように分解能が低下し、測定精度は落ちることになる。この問題は、減圧下(0.5気圧以下)や分子間相互作用の小さいガス種(ヘリウム、ネオン等)に測定対象物質を入れた場合のように、吸収線幅が相対的に狭くなった場合には、更に深刻な問題となる。
【0013】
この問題に対応するために、前記特許6252176号公報に開示のように、圧電素子でミラー間隔を可変にして、共振周波数と、吸収周波数を合わせることが考えられる。しかしながら、この構成では、圧電素子とその配線、それらをミラーに取り付ける治具等を光共振器内にスペースを設けて設置しなければならず、共振器の長さが20cm以下の小型化は困難でとなる。
【0014】
更に、光共振器内に配置された、前記圧電素子、配線、取り付け治具等の表面にキャリアガスや測定対象ガスが触れると、キャリアガスや測定対象ガスの吸着や離脱が生じるが、ここで生じるガスの吸着や脱離はガス分析を行う上での妨害成分となり、高純度ガスの微量成分の分析では無視できない問題となる。特に、水分等の吸着性の高い物質を分析対象にした場合、1ppm以下の微量レベルでの測定が困難になる。
【0015】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、光共振器内にミラー以外の追加部品を導入しないで、共振器の長さを可変にしたガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、両端にミラーを配置した測定セルで構成される光共振器に、レーザ光を入射して共振させ、その漏れ光を検出することによって、ガス濃度を算出するキャビティリングダウン分光法によりガス濃度検出装置を前提とする。
【0017】
上記装置において、熱デバイスが前記測定セルの外側に配置され、当該熱デバイスへの給排熱量を制御する温度制御手段が設けられる。前記温度制御手段が、ガス濃度測定時間に対応する周期で前記熱デバイスへの給排熱量を制御することにより前記光共振器のミラー間隔が光共振器の熱膨張・収縮によって増減するとともに、周波数軸上の各共振周波数の位置がFSRを埋めるように左右に移動し、吸収線の全域をカバーすることになる。
【0018】
前記熱デバイスとして測定セルの外周に配置されたペルチェ素子を用いると制御は容易となる。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によって、光共振器のミラーの位置を直接移動させることなく、共振周波数を可変できるので、測定対象物質の吸収線の全域を共振周波数でカバーすること、特に吸収周波数と、光共振器の共振周波数を合わせることができ、測定セルの長さを短くしても精度の高い測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は本発明の模式図である。
図2図2は本発明の測定例である。
図3図3は光共振器の長さと共振周波数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本願発明の概要を示す図である。
【0022】
所定長さの測定セル1の両端には、高反射率(99.9%以上)のミラー21、22が対向して配置され、後に説明する光共振器10を構成するとともに、測定セル1の端部を封止する。前記測定セル1の両端近くには、測定対象物質を含むサンプルガスの導入口11と、当該サンプルガスの排出口12が設けられ、サンプルガスが導入、排出されるようになっている。
【0023】
前記高反射ミラー21に対してはレーザ発振器31よりレーザ光が入射され、当該入射光は所定範囲の周波数が所定周期で変化するようになっており、前記ミラー21、22間の長さに対応する特定の周波数に共振して、測定セル内に当該レーザ光を閉じ込める光共振器10を構成することになる。前記共振周波数は、図3で説明したように、前記所定範囲の周波数の内の飛び飛びに櫛の刃状に存在することになる。光パワーが光共振器内10に十分蓄えられた後にレーザ光を遮断し、対極のミラー22からわずかに漏れ出る光の強度を光検出器32で検出すると、その値は時間的に減衰する。
【0024】
測定セル1内に導入されたサンプルガスが、入射レーザ光を吸収するときは、出射側のミラー22から漏れ出る光の強度の減衰の時定数を測定することによって、当該ガスの濃度が計算されることになる。
【0025】
前記したように共振周波数はミラー21、22間の長さに依存し、また、長さが短い程前記櫛の刃の間隔が広く(FSRが広く)なる。この広くなったFSRを埋めるためには、ミラー21、22間の距離を変更し、共振周波数を周波数軸上で移動できればよいことになる。
【0026】
そこで、前記測定セル1の周囲にペルチェ素子20を周方向に所定間隔で複数(図面上4本)配置し、制御手段30より電力を供給する。これによって前記ペルチェ素子20に与えられる電力に応じて、測定セル1の外周温度が変化し、ミラー21、22間の間隔(共振長)は温度に応じて変化することになる。
【0027】
図2(a)、(b)は上記装置を実際の測定に供した時の結果を示すグラフであり、横軸に波数ν’縦軸に吸収係数αを採ったものである。尚、ν’= ν/c(νは周波数、cは光速)、α=(1/τ-1/τ0)/c(τとτ0はそれぞれ、サンプルンプルガスがある時とない時の減衰の時定数)で与えられる。
【0028】
長さL=5 cmの共振器を使い、窒素中にモル分率510 ppbの水分を含む1気圧の標準ガスを導入して測定を行った。図2(a)はペルチェ素子20に電圧を印加せず(本発明を使用せず)に測定した例である。測定時間(積算時間)は10秒で行った。レーザ周波数と光共振器の共振周波数が等しい場合のみでの測定が可能なため、測定点が少なくなっている。
【0029】
この場合の吸収スペクトルの範囲は0.136 cm-1であり、共振器の長さL=5 cmであることからFSRが0.1 cm-1であるので、周波数軸上の13箇所でしかデータ取得ができないことになる。従って、測定分解能はFSRと同じ0.1 cm-1となっている。
【0030】
また吸収線の中心付近では、前記中心を挟んだ2箇所の共振周波数でしか測定が行えておらず、しかもその2箇所の測定点も中心波数N(吸収周波数に対応する波数)からずれている。この測定点の周波数軸上での位置は、共振器の長さに依存し、当該共振器の長さは測定セル1に与えられる温度によって変化するので、中心Nからどの程度ずれた位置で測定できるかは、その時の測定セル1の周囲温度よって異なることになる。
【0031】
一方、図2(b)はペルチェ素子20に電圧を印加し、測定セル1に給熱(又は吸熱)して、光共振器10の長さを調整して測定した例である。上記と同じく積算時間は10秒としている。また、10秒でFSRと等しい0.1cm-1の範囲を共振周波数が移動するように前記ペルチェ素子20への印加電圧の振幅と周期を設定した。これによって、測定時間10秒で、周波数軸上のFSRの隙間を埋めた測定が可能となる。
【0032】
図2(b)によると、図2(a)とは異なり、L=5 cmでも周波数軸上で連続的に測定が行えており、また吸収線の中心付近では、中心波数Nを含む多くの測定点があることが理解できる。
【0033】
測定対象ガスのモル分率は、CRDSの場合、吸収線のピーク値(吸収係数が最大となる値)を用いて計算することができる。図2(b)のピーク付近のデータ(図中の矢印)を使ってランベルト・ベール式で計算した水のモル分率は516 ppbとなり、標準の値(510 ppb)とよく一致した。
【0034】
一方、図2(a)で最もピークに近いデータ(図中の矢印)を使って計算しても441 ppbとなり、標準の値より15 %程度低い値となった。これはL=5 cmの小型化によって分解能が低下し、ピークの値を正確に測定できていないことが理由となる。
【0035】
以上から、CRDSガス分析装置の測定セル1の小型化(L<20 cm)を行っても、測定セル1(光共振器)の外周温度を制御することによって、分解能を損なうこと無く、モル分率1 ppm以下の領域でも、吸着性の高い水分子を、精度よく測定できることが示された。
【0036】
尚、上記において、温度調整用のデバイスとしてペルチェ素子を使った例を示したが、抵抗ヒーター、マイクロ波、電球、サーモサイフォン、冷媒等を使用しても同様の効果が得られることは勿論である。また、ファン等を用いて共振器に送風し、共振器付近の熱の移動を速めることで、共振周波数の変化のスピードを速めることができる。
【0037】
また、熱デバイスの配置位置は、必ずしも測定セルに接触した「外周」である必要はなく、測定デバイスから離れた位置に配置することでも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本願発明は、CRDSを用いたガス分析装置において、セル長を短くすることができ、装置全体の小型化が可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1・・測定セル
10・・光共振器
11・・ガス導入口
12・・ガス導出口
20・・ペルチェ素子
21、22・・ミラー
30・・制御手段
31・・レーザ発振素子
32・・受光素子
・・吸収周波数
・・中心波数
図1
図2
図3