(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】細菌メンブランベシクルの単離方法、単離キット、およびその除去方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20231221BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231221BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
C12N1/00 Z
C12N1/00 P
G01N33/48 S
C07K1/22 ZNA
(21)【出願番号】P 2019197542
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-09-02
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 丈典
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112904(JP,A)
【文献】特表2018-500884(JP,A)
【文献】特表2013-503857(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114280(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039179(WO,A1)
【文献】特表2014-528995(JP,A)
【文献】特表2018-534303(JP,A)
【文献】実験医学,2019, Vol.37, No.14, pp.2339-2344
【文献】化学と生物,2016, Vol.54, No.2, pp.80-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C07K 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌由来のメンブランベシクルを含む試料から前記メンブランベシクルを単離する、メンブランベシクルの単離方法であって、
前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、前記複合体から前記メンブランベシクルを解離させる解離バッファーとを接触させる解離工程と、を含
み、
前記解離バッファーは、金属陽イオンを含むことを特徴とする、メンブランベシクルの単離方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のメンブランベシクルの単離方法を行なうためのメンブランベシクルの単離キットであって、
前記ペプチドまたは前記ポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された前記担体と、前記解離バッファーと、を含むことを特徴とする、メンブランベシクルの単離キット。
【請求項3】
細菌由来のメンブランベシクルを含む試料から前記メンブランベシクルを除去する、メンブランベシクルの除去方法であって、
前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、
前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を、前記試料から分離して、前記試料から前記メンブランベシクルの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、メンブランベシクルの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細菌メンブランベシクルの単離方法、単離キット、およびその除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陽性菌、グラム陰性菌、病原性細菌および常在細菌等、細菌の種類に関わらずあらゆる細菌は、直径20~400nm程度の膜小胞を分泌する。以下、細菌が分泌する膜小胞をメンブランベシクルとする。メンブランベシクルは細菌の外膜が外側に隆起し小胞となって細胞外に放出されるため、メンブランベシクルの表面は細菌の外膜と類似の構造を持つ。メンブランベシクルは、主に細胞間のコミュニケーションを媒介する役割を果たし、メンブランベシクルを産生した細菌に由来する核酸およびタンパク質等を含む。メンブランベシクルは、細菌の病原性および生物間相互作用に寄与し、細胞表面と類似の構造を持つことから免疫調節に関与することがわかっており、ドラッグデリバリーシステムおよびワクチン等への応用が期待されている。
【0003】
また、メンブランベシクルは目、鼻、口、呼吸器および消化器等の粘膜系免疫において、生きた細菌と同様にIgA抗体の産生を促すことが分かってきた。無毒化または弱毒化した細菌を用いたワクチンと比べ、メンブランベシクルを用いたワクチンは安全性において優位性があることから、特に粘膜系免疫ワクチンへの応用が期待されている。そのため、メンブランベシクルを大量に単離する技術の重要性が高まってきている。
【0004】
また、細菌によって産生される生理活性物質をメンブランベシクルに封入し、ドラッグデリバリーに利用することも考えられる。そのため、メンブランベシクルを損傷の少ない状態(インタクトな状態)で単離する技術の重要性も高まってきている。
【0005】
メンブランベシクルの単離方法としては、超遠心機を用いた超遠心分離法が一般的に利用されている。超遠心分離法は、メンブランベシクルを含む試料を超遠心する(例えば、110000×gで120分間の遠心操作を2~3回行なう)ことによって、試料中に含まれるメンブランベシクルを沈殿させて単離する技術である。しかしこの方法では大量精製が困難であることが課題となっている。
【0006】
なお、特許文献1には、細胞外小胞の一種であるエクソソームの、損傷の極めて少ないインタクトな状態での単離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、メンブランベシクルの従来一般的な単離または回収技術である超遠心分離法は、以下の問題点を有している。超遠心分離法は、遠心操作に時間がかかり、大スケール化(大量精製)が困難である。また超遠心分離法は、回収率にはバラツキがあるという問題点を有している。さらには、強い遠心力によってメンブランベシクルが損傷を受ける等の問題点も指摘されている。したがって、これからのメンブランベシクルの研究およびメンブランベシクルを用いた治療の普及には、より再現性が高く、大量かつ多検体に対応できる単離方法の開発が求められている。
【0009】
一方で、特許文献1に記載の方法によれば、担体を用いることにより、細胞外小胞の一種であるエクソソームを、損傷の極めて少ないインタクトな状態で単離することが可能である。しかしながらこの方法は、脂質二重膜の組成が異なるメンブランベシクルについてもエクソソームと同様に単離できるかは不明である。
【0010】
本発明の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)メンブランベシクルを単離できる、メンブランベシクルの単離方法およびメンブランベシクルの単離キットを提供することにある。また、本発明の他の目的は、メンブランベシクルを含む試料から簡便にメンブランベシクルを除去できる、メンブランベシクルの除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、連続するリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBが、メンブランベシクルと結合することができることを見出した。さらに、本発明者らは、連続するリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBを担持した担体を用いた場合、担体に結合したメンブランベシクルを温和な条件で担体から解離できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下のような構成である。
〔1〕細菌由来のメンブランベシクルを含む試料から前記メンブランベシクルを単離する、メンブランベシクルの単離方法であって、前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、前記複合体から前記メンブランベシクルを解離させる解離バッファーとを接触させる解離工程と、を含むことを特徴とする、メンブランベシクルの単離方法。
〔2〕前記解離バッファーは、金属陽イオンを含むことを特徴とする、〔1〕に記載のメンブランベシクルの単離方法。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のメンブランベシクルの精製方法を行なうためのメンブランベシクルの単離キットであって、前記ペプチドまたは前記ポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された前記担体と、前記解離バッファーと、を含むことを特徴とする、メンブランベシクルの単離キット。
〔4〕細菌由来のメンブランベシクルを含む試料から前記メンブランベシクルを除去する、メンブランベシクルの除去方法であって、前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を、前記試料から分離して、前記試料から前記メンブランベシクルの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、メンブランベシクルの除去方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)、メンブランベシクルを単離することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】各実施例の、ペプチドを担持した担体の概要を示す図である。
【
図3】各実施例の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図4】比較例1である超遠心分離法の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図5】比較例2であるリジンが担持された磁性ビーズを用いた単離方法の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図6】比較例2の試験結果を示す、電気泳動像である。
【
図7】実施例1の試験結果を示す、電気泳動像である。
【
図8】実施例2の試験結果を示す、電気泳動像である。
【
図9】実施例3および実施例4の試験結果を示す、電気泳動像である。
【
図10】実施例5および実施例6の試験結果を示す、電気泳動像である。
【
図11】実施例5で単離されたメンブランベシクルの電子顕微鏡観察の結果を示す図である。
【
図12】実施例5の溶出液に含まれるメンブランベシクルの粒径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態、または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態、または実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0016】
なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0017】
本明細書中では、用語「ペプチド」は、「ポリペプチド」と交換可能に使用され、ペプチド結合によってアミノ酸2個以上が結合した化合物を意味する。また、「ペプチド結合」は、アミノ酸におけるα位のアミノ基とカルボキシル基との結合だけではなく、アミノ酸の側鎖に含まれるアミノ基と、α位のカルボキシル基との結合についても含む。例えば、ペプチド結合は、リジンにおけるε位のアミノ基と、α位のカルボキシル基との結合であってもよい。本明細書中では、アミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0018】
〔1.メンブランベシクルの単離方法〕
本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの単離方法(以下、適宜「本発明の単離方法」という。)は、メンブランベシクルを含む試料からメンブランベシクルを単離する、メンブランベシクルの単離方法であって、
前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBのいずれか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、前記複合体から前記メンブランベシクルを解離させる解離バッファーとを接触させる解離工程と、を含んでいる。
【0019】
本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの単離方法は、前記構成とすることから、従来技術である超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、メンブランベシクルを単離できる。
【0020】
さらに、本発明の単離方法で、金属陽イオンを含む解離バッファーを使用すると、メンブランベシクルの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響が無い(または少ない)マイルドな(温和な)条件で、複合体からメンブランベシクルを解離させることができる。そのため、メンブランベシクルを傷つけることなく(言い換えればインタクトな状態、またはインタクトに近い状態で)、前記複合体からメンブランベシクルを単離することができる。
【0021】
インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のメンブランベシクルを単離することによって、メンブランベシクルの含有物質を解析することが可能である。メンブランベシクルはタンパク質、核酸およびシグナル物質等を含有している。
図1に示すように、細菌からメンブランベシクルが放出されることで、上述のような様々な物質の輸送に関わると考えられている。メンブランベシクルの含有物質は、メンブランベシクルを産生する細菌の状態によって変化する。したがって、メンブランベシクルの含有物質を解析することで、メンブランベシクルがどのような状態の細菌によって産生されたか等の情報を得られると考えられている。この情報を用いて、例えばどのような機構によって細菌に含まれる物質がメンブランベシクルに包含されるのか、そして当該物質がどのようにメンブランベシクルから放出されるのかを明らかにできると期待される。これにより、メンブランベシクルの性質を利用した、ドラッグデリバリーシステムおよびワクチン等の開発が進展すると考えられる。
【0022】
なかでも、メンブランベシクルは、抗体の産生または細胞性免疫を誘導する特性を持つと考えられており、ワクチンとしての応用が期待される。実際に、メンブランベシクルを用いたワクチン開発も展開されており、例えば欧米では、ターゲットタンパク質を抗原とした大腸菌を用いて作成したメンブランベシクルが、髄膜炎菌ワクチンとして認証されている。
【0023】
また鼻腔への免疫調節機能を有するメンブランベシクルによって、全身の粘膜面に、メンブランベシクル由来の細菌特異的な分泌型IgAが誘導促進されることが知られている。したがってメンブランベシクルは、特に粘膜系免疫ワクチンとしての応用展開が期待されている。
【0024】
従来の注射型ワクチンは、体内に侵入してきた病原体に対しては効果を発揮するが、ほとんどの感染症原因微生物の侵入口である目、鼻、口、呼吸器および消化器といった粘膜面においては免疫反応を誘導せず、感染症原因微生物に対し有効とは言えない。一方、粘膜系免疫ワクチンの場合、粘膜面においても免疫が誘導されるため、病原性微生物の侵入そのものを防ぐこともできる。また、無毒化または弱毒化した細菌を用いたワクチンと比べ、メンブランベシクルを用いたワクチンは安全性において優位性がある。さらに、注射針を必要としないため、(1)ワクチン投与時の幼児の負担を軽減できる、(2)誤刺等の医療事故を減らすことができる等の利点もある。
【0025】
以下では、本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの単離方法に用いられる材料についてまずは説明し、続いて、メンブランベシクルの単離方法の各工程について説明する。
【0026】
〔1-1.材料〕
(試料)
本発明の単離方法において、「メンブランベシクルを含む試料」(本明細書中では、単に「試料」とも称する。)とは、細菌由来のメンブランベシクルを含む混合物であれば、その他の構成は特に限定されない。例えば、メンブランベシクルを産生する細菌として、グラム陰性細菌では、Acinetobacter baumannii、Bacteroides succinogences、Escherichia coli、Helicobacter pylori、Pseudomonas aeruginosa等が知られており、グラム陽性細菌では、Bacillus subtilis、Clostridium perfringens、Staphylococcus aureus、Streptomyces coelicolor等が知られている。したがって、メンブランベシクルを含む試料は、例えばこれらの細菌の培養上清等であってよい。
【0027】
(ペプチド)
本発明の単離方法において利用するペプチド(以下、適宜「本発明のペプチド」という。)は、連続する20個以上40個以下のリジン(「リシン」ともいう。)を含むペプチド(以下、適宜「ポリリジン」という。)であって、試料中のメンブランベシクルと結合することができるペプチドである。
【0028】
本発明は特定の理論に制限されるものではないが、本発明のペプチドであるポリリジンは、リジンが正の電荷を有しており、メンブランベシクルの膜は細胞膜と同様に負に帯電しているため、メンブランベシクルと結合できると発明者らは考えている。したがって、本発明のペプチドは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌を含むいかなる細菌由来のメンブランベシクルであっても結合できると考えられる。
【0029】
本発明のペプチドは、連続する20個以上40個以下のリジンを含んでいれば、メンブランベシクルを単離できる程度の結合強度を持って、メンブランベシクルに結合することができる。本発明のペプチドは、連続する20個以上のリジンを含むことが好ましく、連続する25個以上のリジンを含むことがより好ましく、連続する30個以上のリジンを含むことがより好ましく、連続する35個以上のリジンを含むことがより好ましい。また、本発明のペプチドに含まれる、連続するリジンは40個以下であることが好ましい。本発明のペプチドが前記構成を有することによって、本発明のペプチドは、メンブランベシクルと容易に結合できる。
【0030】
本発明のペプチドは、ポリリジンを含む限りその他の構成は特に限定されない。本発明のペプチドは例えば、ポリリジンのみからなってもよく、リジン以外のアミノ酸が付加されていてもよい。また、本発明のペプチドは糖鎖またはイソプレノイド基等のペプチド以外の構造をさらに含む複合ペプチドであってもよい。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸は修飾されていてもよい。また本発明のペプチドに含まれるアミノ酸はL型であっても、D型であってもよい。
【0031】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、微生物により産生される天然ペプチドとして発現されてよい。例えば、連続するリジンを産生する微生物については、参考文献(Shima, S. and Sakai H. (1977). Polylysine produced by Streptomyces. Agricultural and Biological Chemistry 41: 1807-1809)に記載されている。また本発明のペプチドは、ペプチドの発現ベクターが導入された形質転換体によって発現されても、化学合成されてもよい。すなわち、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明の範囲内である。化学合成法としては、液相法を挙げることができる。また市販されているポリリジンも、本発明の単離方法において利用可能である。
【0032】
本発明のペプチドであるポリリジンは、最小で20個のリジンからなり得るため、ポリリジンの分子量の下限は2581.42[=(146.19×20)-(18.02×19)]であるといえる。本発明のペプチドの分子量の上限は特に限定されるものではないが、溶解性および粘度等の操作性の観点からは300000程度が上限であるといえる。
【0033】
本発明のペプチドは、単一の分子量を有するペプチドからなるものであっても、それぞれ異なった分子量を有するペプチドの混合物からなるものであってもよい。
【0034】
(ポリミキシンB)
本発明の単離方法においてポリミキシンBもまた、本発明のペプチドと同様に試料中のメンブランベシクルと結合することができる。
【0035】
本発明は特定の理論に制限されるものではないが、ポリミキシンBは、グラム陰性菌が分泌するメンブランベシクルの外膜にあるリポ多糖(LPS)の疎水性部分と、ポリミキシンBの疎水性鎖と、が疎水結合するため、ポリミキシンBがメンブランベシクルと結合できると発明者らは考えている。
【0036】
ポミキシンBは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、微生物によって産生される天然ペプチドとして発現されてよい。例えば、ポリミキシンBを産生する微生物については、Bacillus polymyxaから産生されることが知られているが、これに限られない。またポリミキシンBは、ポリミキシンBの発現ベクターが導入された形質転換体によって発現されても、化学合成されてもよい。すなわち、ポリミキシンBをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明の範囲内である。化学合成法としては、液相法を挙げることができる。また市販されているポリミキシンBも本発明の単離方法において利用可能である。
【0037】
(担体)
本発明の単離方法において利用する担体(以下適宜「本発明の担体」という。)は、本発明のペプチドおよびポリミキシンBが担持可能な担体を意味する。本発明の担体は、メンブランベシクルに結合した本発明のペプチドまたはポリミキシンBと結合しメンブランベシクル-本発明のペプチドまたはポリミキシンB-本発明の担体の順で結合した複合体を形成し得る。
【0038】
本発明の単離方法では、担体を用いることによって、メンブランベシクルを効率的かつ簡便に単離することが可能となる。
【0039】
担体は、本発明のペプチドまたはポリミキシンBを直接的または間接的に担持(保持)できる構造物であれば、その他の構成は特に限定されない。本発明の担体としては、担体に結合する本発明のペプチドおよびポリミキシンBの機能を阻害しない支持体であることが好ましく、例えば、セルロース粒子、アガロース粒子、ガラス、ナイロンメンブレン、半導体ウェハー、ラテックス粒子、マイクロビーズ、シリカビーズ、磁性ビーズ、モノリス等の多孔質担体等が挙げられる。本発明の担体としては、メンブランベシクルの回収およびメンブランベシクルの単離を容易に行なうことができるという点で、セルロース粒子またはアガロース粒子であることが好ましい。セルロース粒子またはアガロース粒子はタンパク質、DNA、細胞等の分離精製において広く使用されており、当業者であれば十分に理解し得る担体である。
【0040】
本発明のペプチドまたはポリミキシンBと担体との結合態様は、別段限定されず、周知の態様であってよい。また、本発明のペプチドまたはポリミキシンBと担体との結合は直接的であっても間接的であってもよい。また、本発明のペプチドまたはポリミキシンBと担体との結合は、ポリペプチドからなるリンカーを介してもよい。
【0041】
担体と結合するペプチドの種類は、一種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。例えば、本発明のペプチドのみが担体と結合してもよく、ポリミキシンBのみが担体と結合してもよい。また、本発明のペプチドおよびポリミキシンBの両方が担体と結合してもよい。また、本発明のペプチドおよびポリミキシンB以外のペプチドが、担体と結合していてもよい。また、本発明のペプチドおよびポリミキシンBが担持された本発明の担体は、本発明のペプチドのみが結合した担体と、ポリミキシンBのみが結合した担体との両方が含まれるものであってもよい。
【0042】
なお本発明のペプチドおよびポリミキシンBは、ビオチン化して、本発明の担体に保持されたストレプトアビジンに結合させてもよい。
【0043】
(解離バッファー)
本発明の単離方法において利用する解離バッファー(以下、適宜「本発明の解離バッファー」という。)は、複合体からメンブランベシクルを解離させ、メンブランベシクルを単離することが可能な解離バッファーを意味する。
【0044】
後述する解離工程において、複合体と解離バッファーとを接触させることによって、複合体からメンブランベシクルを解離できるバッファーであれば、その他の構成は特に限定されない。本発明の解離バッファーとしては、金属陽イオンを含む解離バッファーを用いることが特に好ましい。本発明の解離バッファーが金属陽イオンを含むことによって、タンパク質変性剤等を含むことなく、マイルドな(温和な)条件でメンブランベシクルを複合体から解離させることができるため、メンブランベシクルをインタクトな状態(インタクトに近い状態)で単離することができる。このようなマイルドな解離バッファーで、本発明のペプチドまたはポリミキシンBとメンブランベシクルとの結合を解離させることができるということを見出したのは本発明者らが初めてである。
【0045】
本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、および銅(I)イオン等の1価の金属陽イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、バリウムイオン、銅(II)イオン、鉄(II)イオン、スズ(II)イオン、コバルト(II)イオンおよび鉛(II)イオン等の2価の金属陽イオン、ならびにアルミニウムイオン、および鉄(III)イオン等の3価の金属陽イオン等が挙げられる。本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、これら金属陽イオンの中でも、水溶性が高いことから、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンおよびニッケルイオンが好ましい。さらに、複合体からメンブランベシクルを十分に解離させることができることから、本発明の解離バッファーは、上述した金属陽イオンの中でもナトリウムイオン、カリウムイオンまたはマグネシウムイオンを、単独でまたは組み合わせて含むことが好ましい。
【0046】
本発明の単離方法の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)メンブランベシクルを単離することである。よって、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)メンブランベシクルを単離する」とは、メンブランベシクルを傷つけることなく(ほぼ傷つけることなく)、試料中のメンブランベシクルを、試料中のメンブランベシクル以外の物質(例えばタンパク質等)の少なくとも一部から分離し、単離することを意味する。言い換えれば、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)メンブランベシクルを単離する」とは、メンブランベシクルの膜構造(具体的には脂質二重膜構造)を保った状態(ほぼ保った状態)で、および、膜に存在するタンパク質の構造を保った状態(ほぼ保った状態)で、試料中のメンブランベシクルを、試料中のメンブランベシクル以外の物質と分離し、単離することを意味する。
【0047】
金属陽イオンを含む解離バッファーは、メンブランベシクルの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない範囲において、金属陽イオン以外の物質を含んでいてもよい。
【0048】
解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、複合体からメンブランベシクルを解離させることが可能であり、かつ、メンブランベシクルの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない限り、特に限定されない。つまり、使用する本発明のペプチドとメンブランベシクルとの結合強度および金属陽イオンの種類(価数)等に応じて最適な金属陽イオンの濃度は変わり得る為、適宜最適な濃度を検討の上、決定すればよい。なお、本発明の解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.01~5Mであることが好ましく、0.05~2Mであることがより好ましく、0.1~1Mであることがさらに好ましく、0.2~0.7Mであることがさらに好ましく、0.2~0.4Mであることが特に好ましい。
【0049】
また、金属陽イオンを含む解離バッファーのpHは適宜設定され得る。金属陽イオンを含む解離バッファーのpHは、5~10であることが好ましく、6~9であることがより好ましく、7~8であることがさらに好ましく、7.3~7.5であることが特に好ましい。金属陽イオンを含む解離バッファーのpHが前記範囲内であれば、メンブランベシクルの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えないため好ましい。
【0050】
また、本発明の解離バッファーは、デオキシコール酸ナトリウム等の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0051】
〔1-2.工程〕
(複合体形成工程)
本発明の単離方法に含まれる複合体形成工程(以下、適宜「本発明の複合体形成工程」という。)は、メンブランベシクルを含む試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとを接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体に担持された前記ペプチドまたはポリミキシンBとが結合してなる複合体(メンブランベシクル-本発明のペプチドまたはポリミキシンB-本発明の担体の順で結合した複合体。以下、適宜「本発明の複合体」という。)を形成させる複合体形成工程である。
【0052】
試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとを接触させる方法としては、試料中のメンブランベシクルと、本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとが結合し、本発明の複合体を形成できるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。
【0053】
例えば、メンブランベシクルを含む試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとの接触において、試料中に本発明のペプチドまたはポリミキシンBが担持された本発明の担体を添加し、混合する方法が挙げられる。試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとの接触によって、メンブランベシクルと、本発明のペプチドまたはポリミキシンBが担持された担体とを含む本発明の複合体が形成され得る。
【0054】
試料と、本発明のペプチドまたはポリミキシンBが担持された担体との接触時間は、本発明の複合体を形成するために十分な時間であれば限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、決定され得る。
【0055】
また、メンブランベシクルを含む試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとの接触において、例えば柱状または円筒状の容器(カラム)に本発明のペプチドまたはポリミキシンBが担持された本発明の担体を充填することによって調製したカラム(本明細書中では、「ペプチドカラム」という。)を用いる方法が挙げられる。当該ペプチドカラムに試料を含む溶液を通液させることによって、試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドまたはポリミキシンBとを接触させ、本発明の複合体を得ることが可能である。
【0056】
(洗浄工程)
本発明の単離方法には、洗浄工程が含まれていることが好ましい。
【0057】
洗浄工程は、本発明の複合体を、適当な洗浄液を用いて、適当な回数洗浄する工程である。洗浄工程は、当該複合体が解離しない条件下で行なわれるものであれば、使用される洗浄液の種類および洗浄回数等は特に限定されない。
【0058】
洗浄工程で使用される洗浄液としては、例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、PBS)が挙げられる。
【0059】
洗浄工程は例えば、本発明の複合体を含む容器に前記の洗浄液を添加して混合させ、遠心分離等により当該複合体を洗浄液から分離する方法が挙げられる。また本発明の複合体形成工程においてペプチドカラムを用いた場合には、本発明の複合体が形成された後のカラムに対して前記洗浄液を適当量通液すればよい。
【0060】
(解離工程)
本発明の単離方法に含まれる解離工程(以下、適宜「本発明の解離工程」という。)は、前記複合体形成工程によって得られた本発明の複合体と、本発明の解離バッファーとを接触させて、本発明の複合体からメンブランベシクルを解離させる工程である。
【0061】
本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させる方法としては、本発明の複合体からメンブランベシクルを解離させるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。例えば、本発明の複合体を含む容器に本発明の解離バッファーを添加し、混合させる方法が挙げられる。本発明の複合体と本発明の解離バッファーとの接触時間は、複合体からメンブランベシクルが解離するために十分な時間であれば特に限定されるものではない。本発明の複合体と本発明の解離バッファーとの接触によって、メンブランベシクルは本発明の複合体から解離され、当該解離バッファーへ移動する。そして、当該解離バッファーと本発明の担体とを分離し当該解離バッファーを単離することにより、メンブランベシクルを単離することができる。
【0062】
また、複合体形成工程においてカラムが使用された場合には、本発明の複合体が形成されたカラムに、本発明の解離バッファーを通液させることによって、本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させることが可能である。カラムと本発明の解離バッファーとを接触させた場合には、メンブランベシクルは複合体から解離され当該解離バッファーへ移動する。従って、カラム通液後の解離バッファーを単離することによって、メンブランベシクルを単離することができる。
【0063】
本発明の解離工程において、本発明のペプチドおよびポリミキシンBは、本発明の担体に結合されたままでいてもよく、本発明の担体から解離されていてもよい。また、前記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドおよびポリミキシンBが含まれていてもよい。メンブランベシクルをより純度高く単離する観点から、本発明の解離工程において本発明のペプチドおよびポリミキシンBは本発明の担体に結合されたままでいることが好ましく、前記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドおよびポリミキシンBが含まれていないことが好ましい。
【0064】
〔2.メンブランベシクルの除去方法〕
本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの除去方法(以下、適宜「本発明の除去方法」という。)は、メンブランベシクルを含む試料からメンブランベシクルを除去する、メンブランベシクルの除去方法であって、
前記試料と、連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドまたはポリミキシンBの何れか1つ以上が担持された担体と、を接触させることによって、前記メンブランベシクルと前記担体とが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程と、前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を、前記試料から分離して、前記試料から前記メンブランベシクルの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含んでいる。
【0065】
本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの除去方法は、前記構成とすることから、超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、メンブランベシクルを除去できる。したがって、メンブランベシクルの残留が極めて少ない分離液を、簡便な方法により容易に得ることができる。
【0066】
このようなメンブランベシクルの除去方法は、例えばメンブランベシクルを除去した培地の作製に有用である。特定の細菌または当該特定の細菌由来の酵素を用いて作製する培地には、当該特定の細菌由来のメンブランベシクルが混入する可能性がある。メンブランベシクルの単離を目的として、前記特定の細菌とは異なる目的の細菌を培養する培地を作製する場合、前記特定の細菌由来のメンブランベシクルを除去しておくことが好ましい。そうしなければ、前記目的の細菌由来ではない、前記特定の細菌由来のメンブランベシクルが最終的にコンタミネーションしてしまうという問題がある。本発明の除去方法によれば、メンブランベシクルを含む培地に本発明のペプチドまたはポリミキシンBを接触させ、形成させた複合体を取り除くことで、メンブランベシクルを除去した培地を容易に作製できる。
【0067】
〔2-1.材料〕
本発明の一実施形態に係る除去方法は、上述した本発明のペプチドおよびポリミキシンBが担持された本発明の担体を用いて行なうことができる。また、本発明の除去方法における「メンブランベシクルを含む試料」は、本発明の単離方法にて用いる試料と同様である。よって、材料については〔1-1.材料〕の説明を援用可能である。
【0068】
〔2-2.工程〕
(複合体形成工程)
本発明の除去方法は、複合体形成工程および分離工程を含む。複合体形成工程については、上述した本発明の単離方法に含まれる複合体形成工程と同様のため、〔1-2.工程〕の(複合体形成工程)の説明を援用可能である。
【0069】
(分離工程)
本発明の除去方法に含まれる分離工程(以下、適宜「本発明の分離工程」という。)は、
前記複合体形成工程によって形成された本発明の複合体を担持する本発明の担体と、本発明のペプチドまたはポリミキシンBが担持された本発明の担体と接触後の試料とを分離して、前記試料からメンブランベシクルの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程である。
【0070】
本発明の複合体と試料とを分離する方法としては、例えば遠心分離によって本発明の複合体を試料から分離することができる。例えば、500~4000×gの条件下で遠心を行なうことによって、本発明の複合体を試料から容易に分離することが可能である。
【0071】
また、本発明の複合体形成工程においてペプチドカラムが用いられる場合には、フロースルーとして分離液を回収でき、本発明の複合体はカラム内に留まる。したがって、本発明の複合体と試料とを分離できる。
【0072】
また本発明の複合体に含まれる担体が磁性ビーズである場合には、従来公知のマグネティックスタンド等の磁性体を用いて外部から磁力を与えることによって、複合体を容易に試料から分離することができる。
【0073】
本発明の除去方法は、上述した複合体形成工程および分離工程以外の工程が含まれていてもよい。その他の工程としては、例えば解離工程が挙げられる。
【0074】
(解離工程)
解離工程の方法については、上述の本発明の単離方法に含まれる解離工程と同様のため、〔1-2.工程〕の(解離工程)の説明を援用可能である。解離工程により、本発明の担体が、メンブランベシクルを含む試料との接触前の状態に再生できる。また、解離工程後に、本発明のペプチドおよびポリミキシンBが本発明の担体に結合されたままとなる場合には、本発明のペプチドおよびポリミキシンBについても、本発明の担体に結合した状態で再利用できる。
【0075】
解離工程では、本発明の解離バッファーを用いることで、温和な条件によりメンブランベシクルを本発明の複合体から解離することができるため、本発明の担体ならびに本発明のペプチドおよびポリミキシンBは変性等の損傷を受けにくい。したがって、本発明の担体ならびに本発明のペプチドおよびポリミキシンBは、解離工程を経ることにより、複数回に渡って本発明の除去方法に利用することができる。
【0076】
〔3.メンブランベシクルの単離キット〕
本発明の一実施形態に係るメンブランベシクルの単離キット(以下、適宜「本発明のキット」という)は、上述した本発明の単離方法または本発明の除去方法を行なうためのキットであって、上述した本発明のペプチドおよびポリミキシンBが担持された本発明の担体および本発明の解離バッファーを含む。よって、キットの構成の説明については、〔1.メンブランベシクルの単離方法〕の説明が援用可能である。
【0077】
また本発明のキットには、前記の構成の他に、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ、カラム等)が含まれていてもよい。本発明のキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。本発明のキットの説明において使用される用語「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図され得る。
【0078】
また本発明のキットは、本発明の単離方法または本発明の除去方法を実施するための説明書を備えていてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明の一実施形態を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
<メンブランベシクルの単離および除去>
〔材料および方法〕
(試料の調製)
メンブランベシクルを産生する細菌としてPseudomonas aeruginosa PAO1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC))を用いて、以下の方法により試料の調製を行なった。培地はLB培地(シグマアルドリッチ社)を用いた。
(1)Pseudomonas aeruginosa PAO1株を5mLのLB培地に植菌し、37℃で一晩振とう培養を行なった。
(2)200mLのLB培地に、培養液の1%を植菌し、37℃で一晩培養を行なった。
(3)200mLの培養液を50mLずつ遠沈管にうつし、10000×g、10minの遠心分離を行ない、メンブランベシクルが含まれる培養上清を回収した。
(4)培養上清を0.45μmのフィルターと、0.22μmのフィルターと、で濾過して残存している菌体および夾雑物の除去を行ない、試料(以下、「上清サンプル」という。)とした。
【0081】
(ポリリジンが担持された担体を用いたメンブランベシクルの単離および除去)
図2で示すような、ポリリジン(連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチド)が結合した担体(以下、「ポリリジン固定担体」という。)を用いて、上清サンプルからのメンブランベシクルの単離および除去を行なった。ポリリジン固定担体は、参考文献(高分子論文集、64、12、821-829(2007))に記載の方法により調製した、20~40残基のリジンからなるポリリジンが固定化された多孔性球状セルロース粒子を用いた。
【0082】
ポリリジン固定担体を用いた単離方法について、
図3を参照して以下に説明する。
(1)100μLのポリリジン固定担体を、300μLのPBS(ナカライテスク社)に懸濁し、700×g、2minで遠心分離を行ない、上清を取り除くことで洗浄した。
(2)(1)の洗浄工程を3回行ない、ポリリジン固定担体を100μLのPBSで懸濁した。
(3)5mLの上清サンプルに添加し、2時間ロータリーミキシングを行なうことで、ポリリジン固定担体と上清サンプルを結合させた。
(4)700×g、2minの遠心分離を行ない、ポリリジン固定担体を沈殿させた。
(5)上清を取り除いて、ポリリジン固定担体を回収し、300μLのPBSで懸濁した。
(6)700×g、2minの遠心分離を行ない、上清を取り除くことで洗浄した。
(7)(6)の操作を3回行ない、解離バッファーを50μL添加し、ポリリジン固定担体に結合したメンブランベシクルを37℃で30分間溶出した。この間、10分おきにボルテックスを行なった。
(8)700×g、2minの遠心分離を行ない40μLの上清を回収して、溶出サンプルとした。
【0083】
(ポリミキシンBが担持された担体を用いたメンブランベシクルの単離および除去)
図2で示すような、ポリミキシンBが結合した担体(以下、「ポリミキシンB固定担体」という。)を用いて、上清サンプルからのメンブランベシクルの単離および除去を行なった。ポリミキシンB固定担体は、ポリミキシンBを固定化したアガロース担体を用いた。例えば、ポリミキシンBを固定化したアガロース担体は、参考文献(Biochemistry、16、1642-1648(1977))に記載の方法により調製することが可能である。
【0084】
ポリミキシンB固定担体を用いた単離方法について、
図3を参照して以下に説明する。
(1)50μLのポリミキシンB固定担体を、300μLのPBSに懸濁し、700×g、2minで遠心分離を行ない、上清を取り除くことで洗浄した。
(2)(1)の洗浄工程を3回行ない、ポリミキシンB固定担体を100μLのPBSで懸濁した。
(3)5mLの上清サンプルに添加し、2時間ロータリーミキシングを行なうことで、ポリミキシンB固定担体と上清サンプルを結合させた。
(4)700×g、2minの遠心分離を行ない、ポリミキシンB固定担体を沈殿させた。
(5)上清を取り除いて、ポリミキシンB固定担体を回収し、300μLのPBSで懸濁した。
(6)700×g、2minの遠心分離を行ない、上清を取り除くことで洗浄した。
(7)(6)の操作を3回行ない、解離バッファーを50μL添加し、ポリミキシンB固定担体に結合したメンブランベシクルを37℃で30分間溶出した。この間、10分おきにボルテックスを行なった。
(8)700×g、2minの遠心分離を行ない40μLの上清を回収して、溶出サンプルとした。
【0085】
(超遠心分離法を用いたメンブランベシクルの単離)
比較例1として、超遠心分離法によりメンブランベシクルを単離した。超遠心分離法の具体的な方法について、
図4を参照して以下に説明する。
(1)40mLの上清サンプルをVivaspin20(100kDa MWCO、GE Healthcare社)に添加し2580×g、60min、4℃で遠心し約4mLになるまで限外濾過することで濃縮サンプルを得た。
(2)2mLの濃縮サンプルに1mLのPBSを添加し、110000×g、120min、4℃の条件で超遠心分離を行なった。
(3)上清を取り除いて、3mLのPBSで懸濁し、再度同じ条件で超遠心分離を行なった。
(4)上清を取り除いて、200μLのPBSで懸濁し、超遠心分離サンプルとした。
【0086】
(比較例に係るリジンが担持された磁性ビーズを用いたメンブランベシクルの単離)
比較例2として、8個の連続したリジンを含むペプチドを磁性ビーズに結合させ(担持させ)、リジンペプチドが担持された磁性ビーズを用いて、メンブランベシクルの単離を行なった。担体としては、ストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズ(VERITAS社製、Dynabeads M-280 streptavidin)(本明細書中では、「ストレプトアビジン磁性ビーズ」ともいう。)を用いた。
【0087】
ペプチドとしては、リンカーペプチドと8個の連続したリジンとからなる、GGGSGGGSGGGSKKKKKKKK(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなり、N末端をビオチンによって修飾したペプチド(Biotin-K8)を使用した。比較例2で用いたアミノ酸は全てL型アミノ酸である。なお、比較例2において使用したBiotin-K8は、ユーロフィンジェノミクス社による受託合成により作製された。
【0088】
ビオチン-ストレプトアビジンの相互作用を利用して、Biotin-K8が担持された磁性ビーズを作製し、メンブランベシクルの単離を行なった。
図5を参照し以下に説明する。
(1)100μL(1.0mg)のストレプトアビジン磁性ビーズを、1.5mLのマイクロチューブ(単に「チューブ」ともいう。)に加え、当該チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(2)チューブをマグネットスタンドから外し、0.6mLのPBSを添加し、混合した。チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。当該(2)の操作(洗浄)を合計3回行なった。
(3)チューブに400μLのPBSを添加し、ストレプトアビジン磁性ビーズをPBS中に再懸濁し、洗浄したストレプトアビジン磁性ビーズ(400μL)を得た。
(4)チューブに、30μLのBiotin-K8(100μM)を加えた。
(5)チューブを室温で30分混合し、Biotin-K8とストレプトアビジン磁性ビーズとを接触させることによって、Biotin-K8をストレプトアビジン磁性ビーズに結合させた(すなわち担持させた。)。
(6)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(7)前記(2)と同様の操作(洗浄)を合計3回行なった。
(8)チューブに100μLのPBSを添加し、ストレプトアビジン磁性ビーズをPBS中に再懸濁し、Biotin-K8が担持されたストレプトアビジン磁性ビーズ(1.0mg/100μL)を得た。Biotin-K8が担持されたストレプトアビジン磁性ビーズを、「K8固定化磁性ビーズ」とした。
(9)40mLの上清サンプルに100μLのK8固定化磁性ビーズを添加し、2時間ロータリーミキシングを行なうことで、K8固定化磁性ビーズを上清サンプルと結合させた。
(10)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(11)次の操作を行ない、洗浄した:(11-1)チューブをマグネットスタンドから外し、1mLのPBSをチューブに添加して、混合した;(11-2)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(12)(11)の操作をさらに2回(合計3回)行ない、1%SDSを50μL添加し、K8固定化磁性ビーズに結合したメンブランベシクルを37℃で30分間溶出した。この間、10分おきにボルテックスを行なった。
(13)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、45μLの上清を回収して、K8サンプルとした。
【0089】
(メンブランベシクルの単離方法の比較)
上述の各単離方法で得た溶出サンプル、超遠心分離サンプル、およびK8サンプルを、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)により解析することで、メンブランベシクルの各単離方法による単離結果の比較を行なった。12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて、前記サンプルをSDS-PAGEに供した。その後、EzStain Silver(ATTO社)を用いて銀染色を行ない、溶出サンプル内に存在するタンパク質の検出を行なった。超遠心分離サンプルでは、20μLの超遠心分離サンプルに、20μLの2×SDSサンプルバッファー(4%SDS、10%スクロース、10%2-メルカプトエタノール)を混合し、そのうち20μL(培養上清1mL相当)を用いた。K8サンプルでは解離バッファーにSDSが含まれているため、そのまま20μL(培養上清16mL相当)のK8サンプルを用いた。
【0090】
サンプル中にメンブランベシクルが含まれる場合、ゲル中の分子量38kDa付近に、Pseudomonas aeruginosaのメンブランベシクルに多く存在することが報告されているOprFに相当するバンドが観察される。したがって、OprFのバンドの有無で各単離方法による単離結果の比較を行なった。
【0091】
〔結果:メンブランベシクルの単離〕
(比較例1)
比較例1として、超遠心分離法を用いたメンブランベシクルの単離によって得られた超遠心分離サンプルのSDS-PAGEを行なったところ、38kDa付近にOprFに相当するバンドが観察された。このバンドを切り出し、LC-MS/MS(Liquid Chromatography-tandem Mass Spectrometry)解析を行なったところ、OprFであると同定できた。
(比較例2)
比較例2として、K8固定化磁性ビーズを用いたメンブランベシクルの単離方法によって得られたK8サンプルのSDS-PAGEを行なった。
図6に比較例2のSDS-PAGEの結果を示す。
図6に示すように、比較例2ではバンドは観察されなかったため、K8固定化磁性ビーズにはメンブランベシクルが結合しないことが示された。
【0092】
上述の特許文献1において、K8固定化磁性ビーズにエクソソームは結合することが示されているが、エクソソームと同じ脂質二重膜のメンブランベシクルにはK8固定化磁性ビーズは結合しないということが示された。これは、エクソソームとメンブランベシクルとでは産生方法が全く異なっており、動物由来のエクソソームと細菌由来のメンブランベシクルとでは脂質二重膜の組成が大きく異なるためであると発明者らは考えている。
【0093】
(実施例1)
本発明のポリリジン固定担体を用いたメンブランベシクルの単離方法において、ポリリジン固定担体に結合したメンブランベシクルを、解離バッファーの代わりに1×SDSサンプルバッファー(2%SDS、5%スクロース、5%2-メルカプトエタノール)によって溶解させ解離することで、メンブランベシクルの結合を比較した(実施例1)。実施例1ではSDSを用いてポリリジン固定担体からメンブランベシクルを溶解・解離したため、そのまま10μL(培養上清1mL相当)の溶出サンプルを用いてSDS-PAGEを行なった。
【0094】
図7に実施例1および比較例1のSDS-PAGEの結果を示す。
図7に示すように、実施例1において、38kDa付近にOprFに相当するバンドが観察されたため、実施例1ではメンブランベシクルを含んでいることが分かった。したがって、K8固定化磁性ビーズではメンブランベシクルは結合しなかったのに対し、ポリリジン固定担体はメンブランベシクルと結合することが示された。
【0095】
(実施例2)
ポリミキシンB固定担体を用いたメンブランベシクルの単離方法において、解離バッファーとして1%デオキシコール酸ナトリウム溶液を用いた例を実施例2とした。実施例2では40μLの溶出サンプルに40μLの2×SDSサンプルバッファーを混合し、そのうち20μL(培養上清1mL相当)をSDS-PAGEに用いた。
【0096】
図8に実施例2および比較例1のSDS-PAGEの結果を示す。
図6で示すように、実施例2では限られた数のバンドが観察された。当該限られた数のバンドには、OprFに相当する38kDa付近のバンドも含まれていた。したがって、解離バッファーとして1%デオキシコール酸ナトリウム溶液を使用した実施例2では、メンブランベシクルを単離することができ、かつ、比較例1である超遠心分離法と比較して、夾雑物が少なく純度の高い状態でメンブランベシクルを単離できることが示された。
【0097】
(実施例3および実施例4)
ポリリジン固定担体を用いたメンブランベシクルの単離方法において、解離バッファーとして1M NaClを用いた例を実施例3、解離バッファーとして1M MgCl2を用いた例を実施例4とした。実施例3および実施例4では、金属陽イオンを含む解離バッファーを用いて、膜構造が破壊される可能性のあるタンパク質変性剤等を含まないマイルドな(温和な)条件でのメンブランベシクルの単離を試行した。実施例3および実施例4では、40μLの溶出サンプルに40μLの2×SDSサンプルバッファーを混合し、そのうち20μL(培養上清1mL相当)をSDS-PAGEに用いた。
【0098】
図9に、実施例1、実施例3、実施例4および比較例1のSDS-PAGEの結果を示す。実施例3および実施例4では限られた数のバンドが観察された。当該限られた数のバンドには、OprFに相当する38kDa付近のバンドも含まれていた。したがって、金属陽イオンを含む解離バッファーを使用した実施例3および実施例4では、メンブランベシクルを単離することができ、かつ、比較例1の超遠心分離法と比較して、夾雑物が少なく純度の高い状態でメンブランベシクルを単離できることが示された。さらに実施例1との比較から、メンブランベシクルの膜構造を破壊する可能性のあるタンパク質変性剤を含まないマイルドな解離バッファーを使用した実施例3および実施例4の方が、より夾雑物が少なく純度が高い状態でメンブランベシクルを単離できることが示された。
【0099】
(実施例5および実施例6)
ポリミキシンB固定担体を用いたメンブランベシクルの単離方法において、解離バッファーとして0.5M NaClを用いた例を実施例5、解離バッファーとして0.5M MgCl2を用いた例を実施例6とした。実施例5および実施例6では、金属陽イオンを含む解離バッファーを用いて、膜構造が破壊される可能性のあるタンパク質変性剤等を含まないマイルドな(温和な)条件でのメンブランベシクルの単離を試行した。実施例5および実施例6では、40μLの溶出サンプルに40μLの2×SDSサンプルバッファーを混合し、そのうち20μL(培養上清1mL相当)をSDS-PAGEに用いた。
【0100】
図10に実施例2、実施例5、実施例6および比較例1のSDS-PAGEの結果を示す。実施例5および実施例6では、実施例2と同様に限られた数のバンドが観察された。当該限られた数のバンドには、OprFに相当する38kDa付近のバンドも含まれていた。したがって、金属陽イオンを含む解離バッファーを使用した実施例5および実施例6では、メンブランベシクルを単離することができ、かつ、比較例1の超遠心分離法と比較して、夾雑物が少なく純度が高い状態でメンブランベシクルを単離できることが示された。さらに、メンブランベシクルの膜構造を破壊する可能性のある界面活性剤を含む実施例2と比較しても、マイルドな解離バッファーを使用した実施例5および実施例6は、同程度の純度でメンブランベシクルを単離できることが示された。
【0101】
(本発明の単離方法で単離したメンブランベシクルの電子顕微鏡観察)
ポリミキシンB固定担体を利用し、解離バッファーとして0.5M NaClを用いて単離した実施例5のメンブランベシクルについて、電子顕微鏡による観察を行なった。これにより、本発明の単離方法によって、インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のメンブランベシクルを単離できているかを確認した。
【0102】
実施例5で得られた溶出サンプルを、カーボンコーター(メイワフォーシス社)でカーボンコーティングを行なった後、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、SIGMA VP、カールツァイス社)によりメンブランベシクルの観察を行なった。
【0103】
結果を
図11に示す。
図11は、単離されたメンブランベシクルの電子顕微鏡観察の結果を示す図である。
図11に示すように、100nm程度の大きさを持つメンブランベシクルとみられる構造体を観察することができた。観察されたメンブランベシクルは、球状の形態が保たれていることから、膜構造(具体的には脂質二重膜)を保った状態(またはほぼ保った状態)であると考えられる。この結果から、本発明の単離方法であれば、インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のメンブランベシクルを単離できていることが分かった。
【0104】
また、撮影した電子顕微鏡画像からメンブランベシクルと思われる粒子のサイズを計測し、粒径分布図を作成した。結果を
図12に示す。
図12に示すように、単離されたメンブランベシクルは、粒径が平均97±17nm(mean±SD)であった。これは、損傷の少ないメンブランベシクルが主に単離されていることを示している。したがって、本発明の単離方法によれば、より損傷の少ないメンブランベシクルを高い純度で得ることができることが示された。
【0105】
〔結果:メンブランベシクルの除去〕
図7から
図10中で示すように、実施例1から実施例6の溶出サンプルには、メンブランベシクルがポリリジン固定担体およびポリミキシンB固定担体に結合し、溶出していることが示された。よって、ポリリジン固定担体およびポリミキシンB固定担体にメンブランベシクルを結合させ遠心分離した後の上清は、メンブランベシクルを含む試料中からメンブランベシクルの少なくとも一部が除去された分離液であるといえる。このことから、本発明の除去方法によれば、試料からメンブランベシクルを高効率に除去できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によると、簡便に、かつインタクトな状態(インタクトに近い状態)でメンブランベシクルを単離することができる。したがって、本発明によると、メンブランベシクルの内部に包含される物質の解析を簡便に、かつ、詳細に行なうことができるようになる。従って、本発明は、種々の技術分野、とりわけ、製薬および医療分野等において有用である。
【配列表】