(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】クレーンの浸水防止方法およびクレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/00 20060101AFI20231221BHJP
B66C 9/08 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B66C13/00 A
B66C9/08
(21)【出願番号】P 2020049217
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 龍馬
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060602(JP,A)
【文献】実開昭54-150280(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66C 9/00-11/26
B66C 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態
とし、前記走行装置を構成する減速機のケーシングの外側を前記モータハウジングの外側とともに前記防水性カバーで覆った状態にすることを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項2】
クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態
とし、非対策時に、前記防水性カバーを前記クレーンに設けられている収納部に収納しておくことを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項3】
前記非対策時には、前記走行装置に設置した状態の前記防水性カバーを縮めた状態にして、少なくとも前記モータハウジングの一部を外気に露出させた状態にしておき、前記対策時には、伸長させた前記防水性カバーで前記モータハウジングの外側を覆った状態にする
請求項2に記載のクレーンの浸水防止方法。
【請求項4】
クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態
とし、非対策時に、前記防水性カバーを前記クレーンが走行する走行路に設けられている収納部に収納しておくことを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項5】
クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態
とし、前記モータハウジングの外側を前記防水性カバーで覆った後に、エアポンプにより、前記防水性カバーの内側の圧力を低下させて、前記防水性カバーの内側面を前記モータハウジングに密着させた状態にすることを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項6】
クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態
とし、前記モータハウジングの外側を前記防水性カバーで覆った後に、エアポンプにより、前記防水性カバーの内側の圧力を高めた状態にすることを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項7】
車輪に固定された車軸に回転力を付与するモータ装置を有する走行装置を備えたクレーンにおいて、
前記モータ装置のモータハウジングの外側を水密に覆うことが可能な柔軟性を有する防水性カバーが収納された収納部を備えていることを特徴とするクレーン。
【請求項8】
車輪に固定された車軸に回転力を付与するモータ装置を有する走行装置を備えたクレーンにおいて、
前記モータ装置のモータハウジングの外側を水密に覆うことが可能な柔軟性を有する防水性カバーを備え、前記クレーンの浸水に備える対策時に、前記走行装置を構成する減速機のケーシングの外側が前記モータハウジングの外側とともに前記防水性カバーで覆われた状態になることを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾で荷役作業を行うクレーンの浸水防止方法およびクレーンに関し、より詳細には、台風や発達した低気圧による高潮発生時であっても、走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止できるクレーンの浸水防止方法およびクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
港湾で荷役作業を行うクレーンは、クレーンを走行させるための複数の走行装置を備えている。走行装置は、車輪と、車輪に固定された車軸と、車軸に回転力を付与するモータ装置と、車軸とモータ装置との間に介在する減速機とを有して構成されている。走行装置を構成するモータ装置のモータハウジングや減速機のケーシングは、外気に露出した状態で設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-235300号公報
【文献】特開昭56-32097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、台風や発達した低気圧による高潮発生時や大雨時などに、クレーンが走行する走行路が浸水する場合がある。走行装置を構成するモータ装置が浸水して故障すると、モータ装置を部品単位まで分解して清掃、再組み立てを行う必要があるため、クレーンを復帰させるまでに多くの労力と時間を要する。従来では、モータ装置の設置位置まで水位が上がることは稀であったが、地球温暖化や異常気象により、高潮発生時や大雨時などにモータ装置の設置位置まで水位が上がるリスクが高まっていくと考えられる。それ故、モータ装置の浸水を防ぐ対策が必要となる。
【0005】
浸水によるモータ装置の故障を防ぐ方法としては、例えば、特許文献2に記載の水中モータのように、モータ装置として防水性能が高い水中モータを採用することも考えられるが、水中モータは比較的高価であるため、クレーンの走行装置に水中モータを採用することは現実的ではない。
【0006】
本発明の目的は、台風や発達した低気圧による高潮発生時であっても、走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止できるクレーンの浸水防止方法およびクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような目的を達成するための本発明のクレーンの浸水防止方法は、クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態とし、前記走行装置を構成する減速機のケーシングの外側を前記モータハウジングの外側とともに前記防水性カバーで覆った状態にすることを特徴とすることを特徴とする。
本発明の別のクレーンの浸水防止方法は、クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態とし、非対策時に、前記防水性カバーを前記クレーンに設けられている収納部に収納しておくことを特徴とする。
本発明のさらに別のクレーンの浸水防止方法は、クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態とし、非対策時に、前記防水性カバーを前記クレーンが走行する走行路に設けられている収納部に収納しておくことを特徴とする。
本発明のさらに別のクレーンの浸水防止方法は、クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態とし、前記モータハウジングの外側を前記防水性カバーで覆った後に、エアポンプにより、前記防水性カバーの内側の圧力を低下させて、前記防水性カバーの内側面を前記モータハウジングに密着させた状態にすることを特徴とする。
本発明のさらに別のクレーンの浸水防止方法は、クレーンの走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止するクレーンの浸水防止方法であって、前記クレーンの浸水に備える対策時に、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態とし、前記モータハウジングの外側を前記防水性カバーで覆った後に、エアポンプにより、前記防水性カバーの内側の圧力を高めた状態にすることを特徴とする。
【0008】
上記のような目的を達成するための本発明のクレーンは、車輪に固定された車軸に回転力を付与するモータ装置を有する走行装置を備えたクレーンにおいて、前記モータ装置のモータハウジングの外側を水密に覆うことが可能な柔軟性を有する防水性カバーが収納された収納部を備えていることを特徴とする。
本発明の別のクレーンは、車輪に固定された車軸に回転力を付与するモータ装置を有する走行装置を備えたクレーンにおいて、前記モータ装置のモータハウジングの外側を水密に覆うことが可能な柔軟性を有する防水性カバーを備え、前記クレーンの浸水に備える対策時に、前記走行装置を構成する減速機のケーシングの外側が前記モータハウジングの外側とともに前記防水性カバーで覆われた状態になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クレーンの浸水に備える対策時に、少なくともモータ装置のモータハウジングの外側を、柔軟性を有する防水性カバーで水密に覆った状態にすることで、モータ装置の設置位置まで水位が上がった場合にも、防水性カバーによってモータ装置の浸水を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態のクレーンの走行装置のモータ装置を防水性カバーで覆った状態を側面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1の防水性カバーを収納部に収納した状態を例示する説明図である。
【
図4】エアポンプにより、防水性カバーの内側の圧力を低下させた状態を例示する説明図である。
【
図5】エアポンプにより、防水性カバーの内側の圧力を高めた状態を例示する説明図である。
【
図6】モータ装置を別の実施形態の防水性カバーで覆った状態を断面視で例示する説明図である。
【
図7】
図6の防水性カバーの非対策時の状態を断面視で例示する説明図である。
【
図8】モータ装置および減速機をさらに別の実施形態の防水性カバーで覆った状態を断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図8の防水性カバーを分解した状態を例示する説明図である。
【
図11】モータ装置および減速機をさらに別の実施形態の防水性カバーで覆った状態を側面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のクレーンの浸水防止方法およびクレーンを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1および
図2に例示するように、本発明に係る実施形態のクレーン1は、港湾で荷役作業を行うレールマウント式のクレーンやタイヤ式のクレーンである。図中のX方向はクレーン1の横行方向X、Y方向は横行方向Xと水平方向において直交するクレーン1の走行方向Y、Z方向は上下方向Zを示している。
【0013】
この実施形態では、コンテナターミナルの走行路Gに敷設されたレールR上を走行するクレーン1を例示している。走行路GにはレールRの幅寸法よりも横行方向Xの幅が大きい溝が走行方向Yに延在して形成されている。その溝の内側にレールRが走行方向Yに延在して配置されている。レールRの下部は、溝の内側に打設されたコンクリートCによって走行路Gに固定されている。レールRの上部の両側方に位置するコンクリートCの上方部分には、走行路Gの溝が形成されていない上面に対して凹んだ窪み部Hがある状態となっている。
【0014】
クレーン1は、クレーン1を走行させるための複数の走行装置2を備えている。走行装置2は、車輪5と、車輪5に固定された車軸6と、車軸6に回転力を付与するモータ装置7とを有して構成されている。この実施形態の走行装置2は、さらに、車軸6とモータ装置7との間に介在してモータ装置7の回転を車軸6に伝達する減速機8を有している。モータ装置7は、ロータやコイル等を有して構成されたモータ機構が、モータ機構を保護するモータハウジング7aで囲われた構造になっている。減速機8は、複数のギア等を有して構成された減速機構が、減速機構を保護するケーシング8aで囲われた構造になっている。車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8は、走行装置2を構成する支持体3に設置されている。
【0015】
この実施形態の支持体3は、イコライザ3aと、イコライザ3aにボギーピン3bを介して傾動可能に連結されたボギー3cとを有して構成されている。ボギー3cの内側の下部に走行方向Yに並んで一対の車輪5が配置されている。この実施形態の車輪5は、走行路Gに敷設されたレールR上を走行するフランジを有する車輪で構成されているが、車輪5は走行路Gを走行するゴムタイヤ等で構成することもできる。
【0016】
図2に例示するように、車輪5の横行方向Xの一方側と他方側にそれぞれ、ボギー3cの下部に固定された軸受部4(ベアリングハウジング)が設けられている。車軸6は、車輪5に横行方向Xに挿通された状態で車輪5から両端部が横行方向Xに突出していて、一対の軸受部4に軸支されている。車軸6の横行方向Xの一方側の端部は一方側に配置された軸受部4から一方側に突出していて、その車軸6の一方側の端部に減速機8が接続されている。減速機8の上にモータ装置7が配置され、減速機8とモータ装置7とが接続されている。
【0017】
この実施形態では、モータ装置7のモータハウジング7aと減速機8のケーシング8aが車軸6の軸回りに回転することを防ぐために、支持体3に対してモータハウジング7aおよびケーシング8aを固定するトルクアーム9が設けられている。この実施形態では、支持体3(ボギー3c)とケーシング8aとをトルクアーム9で連結しているが、例えば、支持体3とモータハウジング7aとをトルクアーム9で連結した構成にすることもできる。
図1に例示するように、この実施形態の走行装置2では、1つのボギー3cに対して、車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8を有するユニットが走行方向Yに離間して2組設置されている。
【0018】
図2に例示するように、台風や発達した低気圧による高潮発生時や大雨時などに、クレーン1が配置されている走行路Gが浸水する場合がある。そこで、本発明では、クレーン1の浸水に備える対策時(以下、対策時という)に、モータ装置7の浸水を防止するために、少なくともモータ装置7のモータハウジング7aの外側を、柔軟性を有する防水性カバー10で水密に覆った状態にする。即ち、天気予報などで高潮や大雨などによる走行路Gの浸水が予測されるときには、走行路Gが浸水する以前に予めモータ装置7に防水性カバー10を装着する。防水性カバー10は、例えば、樹脂やゴムなどの防水性と柔軟性を有する部材で形成される。
【0019】
この実施形態の防水性カバー10は、上部10aに上面を有し底部10cが開口した筒形状に形成されている。この実施形態では、防水性カバー10により、モータハウジング7aの外側と、減速機8のトルクアーム9が連結されている位置よりも上側の部分の外側とを水密に覆っている。防水性カバー10の下部には、防水性カバー10の下端部をケーシング8aに圧着させて、防水性カバー10の内側に水が浸入することを防止する締付部11が設けられている。この実施形態の締付部11は伸縮可能な構造になっていて、防水性カバー10の底部10cの開口の大きさを変更できる構成になっている。この伸縮可能な締付部11は例えば、ゴムや樹脂などの弾性部材で形成できる。
【0020】
この防水性カバー10は、モータ装置7の上からモータハウジング7aの外側に被せ、締付部11により防水性カバー10の側部10bの下部をケーシング8aに圧着させた状態にすることで容易に装着することができる。この実施形態では、防水性カバー10に締付部11を設けているが、例えば、防水性カバー10とは別体の締付部材(例えば、バンドや紐状体など)を用いて、防水性カバー10の下部をケーシング8aに締付けることもできる。
【0021】
図3に例示するように、対策時ではない非対策時には、防水性カバー10はモータ装置7から取り外した状態にし、モータ装置7を外気に露出させた状態にしておく。非対策時に防水性カバー10をモータ装置7から取り外しておくことで、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制することができる。
【0022】
この実施形態では、クレーン1に防水性カバー10を収納可能な収納部20が設けられていて、非対策時には収納部20に防水性カバー10を収納できる構成になっている。この実施形態では、それぞれの減速機8のケーシング8aに、折り畳んだ状態の防水性カバー10を収納可能な収納部20が設けられているが、収納部20は、例えば、ボギー3cやイコライザ3aなどのクレーン1の他の位置や、クレーン1が走行する走行路Gに設けることもできる。
【0023】
このように、本発明によれば、クレーン1の浸水に備える対策時に、少なくともモータ装置7のモータハウジング7aの外側を、柔軟性を有する防水性カバー10で水密に覆った状態にすることで、モータ装置7の設置位置まで水位WLが上がった場合にも、防水性カバー10によってモータ装置7の浸水を防止できる。それ故、モータ装置7の浸水による故障をより確実に回避できる。
【0024】
この実施形態のように、クレーン1に防水性カバー10を収納可能な収納部20を設けると、非対策時にはそれぞれのクレーン1に防水性カバー10を収納しておくことができるので、防水性カバー10の着脱作業や防水性カバー10の管理を効率よく行える。特に、走行装置2に収納部20を設けると、防水性カバー10の着脱作業を非常に円滑に効率よく行える。
【0025】
【0026】
この実施形態の防水性カバー10は、
図1~3で例示した実施形態の防水性カバー10の上部10aにさらに、エアポンプ13を接続可能な逆止弁12が設けられている。この実施形態では、モータハウジング7aの外側を防水性カバー10で覆った後に、エアポンプ13により、防水性カバー10の内側の空気を吸出して、防水性カバー10の内側の圧力を低下させることで、防水性カバー10の内側面をモータハウジング7aに密着させた状態にしている。エアポンプ13を逆止弁12から取り外すと、逆止弁12と締付部11により、防水性カバー10の内側が密閉された状態となり、防水性カバー10の内側面がモータハウジング7aに密着した状態が維持される。
【0027】
このように、モータハウジング7aの外側を防水性カバー10で覆った後に、エアポンプ13により、防水性カバー10の内側の圧力を低下させて防水性カバー10の内側面をモータハウジング7aに密着させた状態にすると、モータハウジング7aと防水性カバー10との間に水がより浸入し難くなるので、モータ装置7の浸水を防止するには有利になる。防水性カバー10をモータ装置7から取り外す際には、締付部11とケーシング8aとの間に隙間を形成すると、防水性カバー10の内側に空気が入り、モータ装置7から防水性カバー10を容易に取り外せる状態となる。
【0028】
図5に防水性カバー10のさらに別の実施形態を例示する。
【0029】
この実施形態の防水性カバー10は、
図4で例示した実施形態の防水性カバー10と同様に、防水性カバー10の上部10aにエアポンプ13を接続可能な逆止弁12が設けられている。この実施形態では、モータハウジング7aの外側を防水性カバー10で覆った後に、エアポンプ13により、防水性カバー10の内側に空気を注入して、防水性カバー10の内側の圧力を高めた状態にする。
【0030】
防水性カバー10の内側の圧力を高めた後に、逆止弁12からエアポンプ13を取り外してもよいが、より好ましくは、対策時には、エアポンプ13を逆止弁12に接続した状態で、エアポンプ13により防水性カバー10の内側の圧力を高い状態に維持するとよい。防水性カバー10の内側の圧力を高い状態にすることで、防水性カバー10の内側に水がより浸入し難くなり、モータ装置7の浸水を防止するには有利になる。
【0031】
図6および
図7に防水性カバー10のさらに別の実施形態を例示する。
【0032】
図6および
図7に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は、側部10bが蛇腹状に形成されており、上下方向Zに伸縮可能な構成になっている。防水性カバー10の側部10bの下端部には締付部11が設けられており、締付部11により防水性カバー10はケーシング8aに固定されている。防水性カバー10の上部10aには、防水性カバーの上部10aを開口した状態と閉塞した状態とに変更可能な閉塞機構14が設けられている。閉塞機構14としては、例えば、巾着袋のように防水性カバー10の上部10aの開口を紐状体により絞って閉塞した状態にする機構や、防水性カバー10の上部10aの開口を止水ファスナーによって水密に閉じる機構などが例示できる。
【0033】
図6に例示するように、この防水性カバー10では、対策時には、防水性カバー10の側部10bをモータ装置7の上方まで伸長させて、防水性カバー10の上部の開口を閉塞機構14によって閉塞した状態にすることで、モータハウジング7aの外側を防水性カバー10で水密に覆った状態にする。これにより、モータ装置7の設置位置まで水位WLが上がった場合にも、モータ装置7の浸水を防止できる。
図7に例示するように、非対策時には、防水性カバー10の上部10aを開口した状態とし、防水性カバー10の側部10bを縮めて、防水性カバー10の上部10aを底部10cに近づけた状態にすることで、モータハウジング7aを外気に露出させた状態にする。
【0034】
この実施形態のように、走行装置2に伸縮可能な防水性カバー10を設置しておくと、非対策時には、防水性カバー10を縮めた状態とし、モータハウジング7aを外気に露出させた状態にしておくことで、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制できる。対策時には、走行装置2に設置されている防水性カバー10を伸長させて防水性カバー10の上部10aを閉塞させるだけでよいので、モータハウジング7aの外側を防水性カバー10で覆う作業を少ない工数で非常に効率よく行える。
【0035】
図8~
図10に防水性カバー10のさらに別の実施形態を例示する。
【0036】
図8に例示するように、この実施形態では、モータハウジング7aの外側とともにケーシング8aの外側を防水性カバー10で覆う構成にしている。
図9に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は箱状に形成されていて、側部10bにトルクアーム9が挿通する挿通孔10dと、車軸6が挿通する挿通孔10dが設けられている。防水性カバー10のトルクアーム9が挿通する挿通孔10dの部分には、挿通孔10dの縁部とトルクアーム9の周面との間の隙間を水密に塞ぐ環状のシーリング部材17が設けられている。防水性カバー10の車軸6が挿通する挿通孔10dの部分には、挿通孔10dの縁部と車軸6の周面との間の隙間を水密に塞ぐ環状のシーリング部材17が設けられている。
【0037】
図10に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は、前述した二つの挿通孔10dを通る境界線で走行方向Yの一方側と他方側とに分離可能な2つの分割体15A、15Bを組み合わせて形成されている。それぞれの分割体15A、15Bの縁部には、分割体15A、15Bどうしを着脱可能に連結する止水ファスナー16が設けられている。それぞれの分割体15A、15Bは、シーリング部材17の一部を構成する分割パーツを有している。
【0038】
対策時には、モータ装置7および減速機8の走行方向Yの一方側と他方側にそれぞれ分割体15A、15Bを配置する。そして、分割体15A、15Bに設けられているそれぞれのシーリング部材17の分割パーツの溝部をトルクアーム9と車軸6にそれぞれ外嵌めし、分割パーツの端部どうしを密着させた状態にする。そして、それぞれの分割体15A、15Bの縁部どうしを止水ファスナー16によって連結することで、分割体15A、15Bどうしを一体化させ、モータハウジング7aおよびケーシング8aの外側を水密に覆う防水性カバー10を形成する。これにより、モータ装置7や減速機8の設置位置まで水位WLが上がった場合にも、モータ装置7および減速機8の浸水を防止できる。
【0039】
非対策時には、止水ファスナー16による分割体15A、15Bどうしの連結を解除して、防水性カバー10(分割体15A、15B)をモータ装置7および減速機8から取り外しておく。そして、分割体15A、15Bはクレーン1(走行装置2)に設けられている収納部20に収納しておく。
【0040】
この実施形態のように、防水性カバー10により、モータハウジング7aの外側とともにケーシング8aの外側を覆う構成にすると、モータ装置7だけでなく減速機8の浸水を防止することができ、浸水による減速機8の故障をより確実に防止できる。
【0041】
防水性カバー10を分離可能な複数の分割体15A、15Bで構成すると、モータ装置7および減速機8に対して着脱可能な防水性カバー10を非常に簡素に構成できる。また、モータ装置7および減速機8に対する防水性カバー10の装着作業や、防水性カバー10の取り外し作業を容易に行えるので、利便性が非常に高くなる。この実施形態では、防水性カバー10を2つの分割体15A、15Bで構成しているが、防水性カバー10を3つ以上の分割体で構成することもできる。また、防水性カバー10の分割位置や、分割体どうしの連結構造はこの実施形態に限定されず、異なる構成にすることもできる。
【0042】
図8~
図10に例示した実施形態では、防水性カバー10が、トルクアーム9と車軸6がそれぞれ挿通する2つの挿通孔10dを有する場合を例示したが、防水性カバー10が有する挿通孔10dの数や位置は特に限定されず、例えば、防水性カバー10が、走行装置2を構成する他の部材が挿通する挿通孔10dを有する構成にすることもできる。
【0043】
図11および
図12に例示するさらに別の実施形態の防水性カバー10のように、1つの防水性カバー10で、同じボギー3cに設けられている複数のモータ装置7、或いは、複数組のモータ装置7および減速機8を覆う構成にすることもできる。
【0044】
図11および
図12に例示するように、この実施形態では、走行路Gに防水性カバー10を収納可能な収納部20を設けている。さらに、この実施形態では、クレーン1の支持体3(イコライザ3a)にブラケット18を介してエアポンプ13を固定している。
【0045】
非対策時には、防水性カバー10を走行路Gに設けられている収納部20に収納しておく。対策時には、収納部20の設置位置にクレーン1を配置し、収納部20から防水性カバー10を上側に引き出す。そして、防水性カバー10により、車輪5、車軸6、モータ装置7、減速機8、およびボギー3cを含む走行装置2全体の外側を覆い、防水性カバー10の上部に設けられた締付部11により、防水性カバー10の上端部を走行装置2の上部(支持体3)に圧着させた状態にする。これにより、走行装置2全体を防水性カバー10によって水密に覆った状態にする。防水性カバー10は、走行装置2全体を覆った状態で、レールRの両側方の窪み部Hの外側を覆った構成にするとよい。防水性カバー10の下部とレールRの両側方の窪み部Hの上面との間にすき間が生じない構成にするとより好ましい。
【0046】
この実施形態では、さらに、対策時には、防水性カバー10の上部10aに設けられている逆止弁12をクレーン1に設けられているエアポンプ13に接続して、エアポンプ13により防水性カバー10の内側の圧力を高い状態に維持する構成にしている。
【0047】
この実施形態のように、1つの防水性カバー10で、同じボギー3cに設けられている複数のモータ装置7、或いは、複数組のモータ装置7および減速機8を覆う構成にすると、クレーン1に装着する防水性カバー10の数を少なくできるので、防水性カバー10の着脱作業に要する作業工数を少なくするには有利になる。走行装置2の全体を覆う防水性カバー10のように、比較的大きな防水性カバー10を用いる場合には、収納部20を走行路Gに設けると、防水性カバー10の着脱作業を行い易くなる。
【0048】
走行装置2の全体を覆う防水性カバー10にする場合には、防水性カバー10の下端部とレールRの両側方の窪み部Hとの間に微小なすき間が生じる可能性があるが、この実施形態のように、防水性カバー10に設けた逆止弁12をクレーン1に設置したエアポンプ13に接続して、防水性カバー10の内側の圧力を高い状態に維持すると、防水性カバー10の下端部と窪み部Hとの間のすき間から水が浸入し難くなる。また、前述したすき間から窪み部Hに水が浸入した場合にも、防水性カバー10の内側の圧力を高い状態に維持することで、防水性カバー10の内側で水位が上昇することを抑制できる。それ故、モータ装置7の浸水を防止するには有利になる。
【0049】
走行装置2の全体を覆う防水性カバー10にする場合にも例えば、エアポンプ13を防水性カバー10に固定した構成にすることもできるが、この実施形態のように、エアポンプ13を支持体3に固定した構成にすると、エアポンプ13によって防水性カバー10の内側により安定した状態で空気を注入できる。なお、走行装置2の全体を覆う防水性カバー10において、エアポンプ13や逆止弁12を設けない構成にすることもできる。
【0050】
例えば、走行装置2の全体を覆う防水性カバー10を、支持体3(例えば、イコライザ3a)に設けた収納部20に収納する構成にすることもできる。この場合には、対策時には、支持体3に設置されている収納部20から防水性カバー10を下側に引き出し、防水性カバー10で走行装置2全体の外側を覆う。そして、防水性カバー10の下端部を走行路Gに接地させた状態で、防水性カバー10の下端部を土嚢や固定具などで走行路Gに固定することで、防水性カバー10により走行装置2全体を水密に覆った状態にする。
【0051】
なお、本発明における防水性カバー10は、少なくともモータハウジング7aの外側を水密に覆う構成であれば、上記で例示した実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。また、走行装置2は、車輪5、車軸6、およびモータ装置7を有する構成であれば上記で例示した実施形態に限定されない。例えば、1つのボギー3cに対して、車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8を有するユニットが1組或いは3組以上設置されている走行装置2であってもよい。また、例えば、減速機8が設けられておらず、車軸6の一方側の端部にモータ装置7が直接接続されている走行装置2であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 クレーン
2 走行装置
3 支持体
3a イコライザ
3b ボギーピン
3c ボギー
4 軸受部
5 車輪
6 車軸
7 モータ装置
7a モータハウジング
8 減速機
8a ケーシング
9 トルクアーム
10 防水性カバー
10a 上部
10b 側部
10c 底部
10d 挿通孔
11 締付部
12 逆止弁
13 エアポンプ
14 閉塞機構
15A、15B 分割体
16 止水ファスナー
17 シーリング部材
18 ブラケット
20 収納部
G 走行路
R レール
C コンクリート
H 窪み部