(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】風味油の風味低下抑制方法、風味油の風味低下抑制剤、風味低下が抑制された風味油の製造方法、及び食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20231221BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20231221BHJP
A23L 7/109 20160101ALN20231221BHJP
A23L 15/00 20160101ALN20231221BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23L35/00
A23L7/109 E
A23L15/00 D
(21)【出願番号】P 2020561326
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048165
(87)【国際公開番号】W WO2020129739
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018236557
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奈須 敬之
(72)【発明者】
【氏名】川原 雅典
(72)【発明者】
【氏名】竹内 茂雄
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199810(WO,A1)
【文献】特開2014-113116(JP,A)
【文献】FREEMAN, I. P., et al., Use of silicones in frying oils., J. Am. Oil Chem., 1973, Vol. 50, pp. 101-1
【文献】八幡美保, 油脂の安全性と活用に関する研究, 神戸学院大学博士論文, [online],2015,[検索日 2020.01.23]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調製済みの風味油にポリジメチルシロキサンを
添加する工程を含む、風味油の風味低下抑制方法
であって、
前記ポリジメチルシロキサンを前記風味油中に1×10
-5
質量%以上1×10
-2
質量%以下含有せしめる、該風味低下抑制方法。
【請求項2】
前記風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制するための、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油である、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項4】
ポリジメチルシロキサンを有効成分とする、風味油の風味低下抑制剤。
【請求項5】
前記風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制するための、請求項
4記載の風味油の風味低下抑制剤。
【請求項6】
前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油である、請求項
4又は
5記載の風味油の風味低下抑制剤。
【請求項7】
調製済みの風味油にポリジメチルシロキサンを1×10
-5質量%以上1×10
-2質量%以下になるように添加する工程を含む、風味低下が抑制された風味油の製造方法。
【請求項8】
前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油である、請求項
7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項
7又は
8記載の製造方法で得られた該風味油を添加する工程を含む、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味油による風味を低下させないようにするための、風味油の風味低下抑制方法、風味油の風味低下抑制剤、及び風味低下が抑制された風味油の製造方法、並びにその風味油を使用した食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風味油は、ネギ、ガーリック等の風味付与材で油脂を処理したりフレーバー等の香料を油脂に添加したりすることで、当該食材やフレーバーの風味が付与された油のことであり、調理食品等に添加するだけで手軽に風味付けできるので、レストランや冷凍食品などの業務用では勿論のこと、一般家庭の消費者にも好評である。
【0003】
一般に、風味油に使用されるベース油の油脂そのものには風味がなく、そのため、これら風味油は成分の散逸等により風味が低下しやすい欠点を有していた。
【0004】
このような問題に関連して、例えば、特許文献1には、風味油にHLB1~15である乳化剤を0.01~7重量%添加することを特徴とする加熱時の風味を維持する方法が記載されている。また、例えば、特許文献2には、油脂と、風味付与材と、HLB値が5.3~17の範囲に属する乳化剤とともに、更にポリジメチルシロキサンを混合し、これを加熱する、風味油の製造方法が記載されている(特許文献2の請求項7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-113116号公報
【文献】国際公開第2017/199810号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、風味油に特定の乳化剤を使用することにより、加熱時の風味の維持に一定の効果があることが記載されている。しかしながら、その風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制する効果については明らかではなかった。また、上記特許文献2には、特定の乳化剤に加えてポリジメチルシロキサンを風味油の調製時に使用することにより、風味付与材による風味の付与効率に優れていることが記載されている。しかしながら、上記特許文献1同様に、その風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制する効果については明らかではなかった。
【0007】
本発明の目的は、風味油による風味を低下させないようにするための、風味油の風味低下抑制方法、風味油の風味低下抑制剤、及び風味低下が抑制された風味油の製造方法、並びにその風味油を使用した食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、一般にポリジメチルシロキサンは消泡効果を期待してフライ油等に利用されていたが、これを風味油に用いることで、意外にも風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制する効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の観点においては、本発明は、風味油にポリジメチルシロキサンを含有せしめる工程を含む、風味油の風味低下抑制方法を提供するものである。
【0010】
上記の風味油の風味低下抑制方法においては、前記ポリジメチルシロキサンを前記風味油中に1×10-5質量%以上1×10-2質量%以下含有せしめることが好ましい。
【0011】
また、上記の風味油の風味低下抑制方法においては、該方法は、前記風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制するためのものであることが好ましい。
【0012】
また、上記の風味油の風味低下抑制方法においては、前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油であることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の観点においては、本発明は、ポリジメチルシロキサンを有効成分とする、風味油の風味低下抑制剤を提供するものである。
【0014】
上記の風味油の風味低下抑制剤においては、該風味低下抑制剤は、前記風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制するためのものであることが好ましい。
【0015】
また、上記の風味油の風味低下抑制剤においては、前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油であることが好ましい。
【0016】
本発明の第3の観点においては、本発明は、風味油にポリジメチルシロキサンを1×10-5質量%以上1×10-2質量%以下になるように添加する工程を含む、風味低下が抑制された風味油の製造方法を提供するものである。
【0017】
上記の風味低下が抑制された風味油の製造方法においては、前記風味油は、ネギ風味油、ガーリック風味油、又はバター風味油であることが好ましい。
【0018】
本発明の第4の観点においては、本発明は、上記の風味低下が抑制された風味油の製造方法で得られた該風味油を添加する工程を含む、食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリジメチルシロキサンを使用して、風味油による風味を低下させないようにするための、風味油の風味低下抑制方法、風味油の風味低下抑制剤、及び風味低下が抑制された風味油の製造方法を提供することができる。また、使用した風味油による風味の低下が抑制された食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試験例6においてGC-MS分析により炒飯の香気成分(ネギの主要香気成分であるスルフィド類の量)を調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、風味油とは、その第1としては、ネギ、ガーリック等の風味付与材で油脂を処理して得られる当該食材等の風味が付与された油であり、例えば、ネギ風味油、ガーリック風味油等が挙げられる。また、その第2としては、フレーバー等の香料を油脂に添加して得らえる当該フレーバー等の風味が付与された油である。例えば、バター風味油等が挙げられる。このうち、ネギ風味油、ガーリック風味油、バター風味油が好ましく、さらにネギ風味油、ガーリック風味油がより好ましい。
【0022】
なお、上記風味油のベースとなる油脂としては、特に制限はなく、食用のものが適宜採用し得る。例えば、菜種油、大豆油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂等の動物脂、あるいはこれら油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上が混合されたものを用いてもよい。このうち、菜種油、大豆油、コーン油が好ましく、さらに菜種油がより好ましい。
【0023】
また、上記風味油の調製のための風味付与材としては、例えば、長ねぎ、玉ねぎ、キャベツ、もやし、にら、ごぼう、にんじん、セロリ、じゃがいも、トマト等の野菜類、パセリ、ガーリック、生姜、唐辛子、ナツメッグ、クミン、ローズマリー、こしょう、山椒、わさび、バジル等の香辛料類、椎茸、しめじ、マツタケ、マイタケ等の茸類、エビ、カニ、イカ、カツオ、サバ、イワシ、アジ、サケ等の魚介類、ホタテ、アサリ、シジミ等の貝類、昆布、ワカメ、ヒジキ等の海藻類、鶏肉、豚肉、牛肉、馬肉等の肉類、味噌、醤油、酢、みりん、マヨネーズ、ケチャップ、酒かす等の調味料類などが挙げられる。風味付与材は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0024】
本発明においては、風味油にポリジメチルシロキサンを含有せしめる。その含有量としては、風味油中に1×10-5質量%以上1×10-2質量%以下であることが好ましく、1×10-5質量%以上5×10-3質量%以下であることがより好ましく、5×10-5質量%以上2×10-3質量%以下であることが更により好ましく、1×10-4質量%以上8×10-4質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲の含有量であれば、風味油を使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制する効果に優れている。なお、風味油の種類によっては、上記範囲を超えると、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭が生じる場合がある。含有量の調整は、適宜当業者に知られた方法により、風味油にポリジメチルシロキサンを添加することにより、可能である。ただし、風味油にポリジメチルシロキサンを添加するタイミングが、風味油の調製の際の風味付与材との混合時や加熱処理時等であったりすると、その風味付与材に吸着したり、加熱により分解したりして、有効なポリジメチルシロキサンが失われてしまう。これにより、想定する含有量に達しなかったり、少なくとも含有量がばらついたりする。よって、そのような処理工程を経た後の調製済みの風味油に添加することが好ましい。
【0025】
上記のようにして得られた風味油は、ポリジメチルシロキサンを含有するので、これを使用した食品の保存時に生じる風味の低下を抑制することができる。よって、このポリジメチルシロキサンは、風味油の風味の低下を抑制するために関与し得る成分である。このようなポリジメチルシロキサンを有効成分とする剤の形態としては、風味油への添加に支障のない形態であればよく、特に制限はないが、典型的には、例えば、油溶状、粉末油脂状、溶液状、コンパウンド状等の形態が挙げられる。その剤中、ポリジメチルシロキサンの含有量としては、0.01~100質量%であることが好ましく、0.5~100質量%であることがより好ましい。また、ポリジメチルシロキサンの動粘度としては、200~1100mm2/sであることが好ましく、300~1000mm2/sであることがより好ましい。
【0026】
上記のようにして得られた、ポリジメチルシロキサンが添加された風味油には、その風味油が呈する風味やポリジメチルシロキサンを添加したことによる効果が損なわれない範囲で、適宜適当な添加素材が配合されていてもよい。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロールなどが挙げられる。
【0027】
上記のようにして得られた、ポリジメチルシロキサンが添加された風味油は、適宜その風味油と特性に応じて、所望の食品に使用することができる。例えば、炒飯、野菜炒め、スクランブルエッグ、ほうれん草ソテー等の炒め物類、お好み焼き、焼そば、焼肉等の焼き物類、麻婆豆腐のソース、パスタソース、味付け肉のたれ等のソース類、ラーメンスープ、コンソメスープ、カレー、シチュー等のスープ類、餃子、肉まんの具、ハンバーグ、ソーセージ等の食肉加工品類、炊き込みご飯、ピラフ等の米飯類、ロールパン、クッキー等の製菓製パン類、魚肉ソーセージ、かまぼこ等の水産加工品類、唐揚げ粉、チヂミ粉、粉末スープ等の調整粉類、シーズニングソース、ドレッシング、マヨネーズ、ポン酢、中華料理の素、鍋つゆ等の調味料類、マーガリン、ファットスプレッド等のマーガリン類、フレンチフライ、唐揚げ、イカリング、コロッケ等の油ちょう食品等が挙げられる。このうち、炒め物類、焼き物類、スープ類が好ましく、さらに炒め物類がより好ましい。
【0028】
その使用態様に特に制限はなく、すなわち、各種食品の調理、加工、あるいは製造等におけるほぐし油、炊飯油、炒め油及びフライ油等の調理用油、ボックスオイル及び天板油等の離型油、練りこみ油、インジェクション用油及び仕上げ油等の調味用油等として用いることによって、あるいは各種食品の調理、加工、あるいは製造等の後に、添加、混合、塗布、溶解、分散、乳化等して当該食品に組み込ませることで、風味油に由来する風味をその食品に付与して、その食品の風味を高めることができ、なお且つ、得られた食品の保存時の風味の低下も抑制される。よって、流通や電子レンジ加熱などにおける風味の劣化、消失等が問題となる、冷凍加工食品、冷蔵加工食品、レトルト食品、瓶詰食品、缶詰食品、乾燥食品、弁当等の流通加工食品製品などに特に好適に使用され得る。このうち、冷凍加工食品、冷蔵加工食品がより好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。なお、以下に「質量ppm」とは、「1×10-4質量%」を意味するものである。
【0030】
(材料)
・ネギ風味油
菜種油300gと白ネギ100gを片手鍋に入れ、25℃で2時間撹拌したうえ、ろ紙でろ別して風味油を得た。得られた風味油には、その100質量部に対して0.5質量部のネギ香辛料抽出物(小川香料株式会社製)を添加して、ネギ風味油として使用した。
【0031】
・ガーリック風味油
市販製品である「J-OIL PRO ガーリックオイル」(株式会社J-オイルミルズ製)を使用した。
【0032】
・バター風味油
市販製品である「J-OIL PRO バターフレーバーオイル」(株式会社J-オイルミルズ製)を使用した。
【0033】
・ポリジメチルシロキサンA
市販製品であるポリジメチルシロキサン(動粘度:1000mm2/s、信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0034】
・ポリジメチルシロキサンB
市販製品であるポリジメチルシロキサン(動粘度:348mm2/s、信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0035】
[試験例1](ネギ風味油/炒飯)
表2から表5に記載のようにネギ風味油に各種の添加量でポリジメチルシロキサンを添加し、そのネギ風味油を使用して炒飯を調製した。炒飯の調製は、表1に示す材料を使用して、次の手順により行った。
【0036】
(調理手順)
(1)ガスコンロ(中~強火)でフライパンを60秒間加熱
(2)菜種油を投入し、20秒間加熱
(3)溶き卵を投入し、続けてごはんを投入
(4)かき混ぜながら60秒間加熱
(5)塩を投入し、かき混ぜながら20秒間加熱
(6)加熱終了後、炒飯100gに対してネギ風味油3gを添加して混合
【0037】
【0038】
得られた炒飯を各種の方法で保管・提供し、その保存時に生じる風味の低下について、専門パネラー(n=3)による官能評価を行った。
【0039】
(保管・提供方法)
(1)出来立て
調製した炒飯を出来立てのまま官能評価に供した。
【0040】
(2)冷凍
炒飯調製後、約100gを急速冷凍して、-20℃の冷凍庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1分間)して官能評価に供した。
【0041】
(3)冷蔵
炒飯調製後、約100gを4℃の冷蔵庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1分間)して官能評価に供した。
【0042】
(4)常温
炒飯調製後に常温(24℃)で6時間保管後、官能評価に供した。
【0043】
(官能評価)
官能評価は、ポリジメチルシロキサンを添加しないネギ風味油を使用して調製した炒飯であって、出来立てのもの(例えば、参考例1-1)のネギ風味の強さの評価を10とし、ネギ風味油に代えて菜種油を使って調製した出来立ての炒飯のネギ風味の強さの評価を1とし、10段階の相対評価を行って、パネラー間での平均値(小数点第2位を四捨五入)を求めた。また、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭について、パネラーの評価を集約した。
【0044】
結果を、表2~表5に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0050】
(1)表2の結果に示されるように、出来立ての炒飯については、ネギ風味油にポリジメチルシロキサンを添加した影響はみられなかった。
【0051】
(2)表3に示す試験例1-1の結果にみられるように、ネギ風味油を使用して調製した炒飯を冷凍して1日後に電子レンジで温めて提供すると、ネギ風味の強さの評価は4となり、風味の低下が顕著であった。
【0052】
(3)表3の結果に示されるように、ネギ風味油にポリジメチルシロキサンを0.3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-2の炒飯や、3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-3、30質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-4では、風味の低下が抑制された。
【0053】
(4)表3に示す試験例1-4の結果にみられるように、ネギ風味油にポリジメチルシロキサンを30質量ppmの濃度で添加すると、ムレ臭が生じた。
【0054】
(5)表4に示す試験例1-5の結果にみられるように、ネギ風味油を使用して調製した炒飯を冷蔵して1日後に電子レンジで温めて提供すると、ネギ風味の強さの評価は5となり、風味の低下が顕著であった。
【0055】
(6)表4の結果に示されるように、ネギ風味油にポリジメチルシロキサンを3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-6の炒飯や、10質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-7の炒飯では、風味の低下が抑制された。ただし、試験例1-7では若干ムレ臭が感じられた。
【0056】
(7)表5に示す試験例1-8の結果にみられるように、ネギ風味油を使用して調製した炒飯を常温で6時間保管後に提供すると、ネギ風味の強さの評価は6となり、風味の低下がみられた。
【0057】
(8)表5の結果に示されるように、ネギ風味油にポリジメチルシロキサンを3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-9の炒飯や、10質量ppmの濃度で添加して調製した試験例1-10の炒飯では、風味の低下が抑制された。ただし、試験例1-10では若干ムレ臭が感じられた。
【0058】
[試験例2](ガーリック風味油/パスタ)
表7から表8に記載のようにガーリック風味油に所定の添加量でポリジメチルシロキサンを添加し、そのガーリック風味油を使用してパスタを調製した。パスタの調製は、表6に示す材料を使用して、次の手順により行った。
【0059】
(調理手順)
(1)パスタ(マ・マー スパゲティ 1.6mm(日清フーズ株式会社製))200gを2Lの水(塩を20g含む)で7分間茹でて水を切る
(2)茹でパスタ480gに、塩3.2g、うまみ調味料(「味の素(登録商標)」、味の素株式会社製)0.16gで味付け
(3)味付けしたパスタ50gに対してガーリック風味油1.5gを加えて和える
【0060】
【0061】
得られたパスタを各種の方法で保管・提供し、その保存時に生じる風味の低下について、専門パネラー(n=1)による官能評価を行った。
【0062】
(保管・提供方法)
(1)出来立て
調製したパスタを出来立てのまま官能評価に供した。
【0063】
(2)冷蔵
パスタ調製後、約50gを4℃の冷蔵庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1分間)して官能評価に供した。
【0064】
(官能評価)
官能評価は、ポリジメチルシロキサンを添加しないガーリック風味油を使用して調製したパスタであって、出来立てのもの(例えば、参考例2-1)のガーリック風味の強さの評価を10とし、ガーリック風味油を菜種油に代えて調製した出来立てのパスタのガーリック風味の強さの評価を1とし、10段階の相対評価を行った。また、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭についても評価した。
【0065】
結果を、表7~表8に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0069】
(1)表7の結果に示されるように、出来立てのパスタについては、ガーリック風味油にポリジメチルシロキサンを添加した影響はみられなかった。
【0070】
(2)表8に示す試験例2-1の結果にみられるように、ガーリック風味油を使用して調製したパスタを冷蔵して1日後に電子レンジで温めて提供すると、ガーリック風味の強さの評価は5となり、風味の低下が顕著であった。
【0071】
(3)表8の結果に示されるように、ガーリック風味油にポリジメチルシロキサンAを3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例2-2のパスタや、ポリジメチルシロキサンBを3質量ppmの濃度で添加して調製した試験例2-3のパスタでは、風味の低下が抑制された。よって、ポリジメチルシロキサンの動粘度として、少なくとも348mm2/s以上1000mm2/s以下の範囲のものを用いたときの効果を確認することができた。
【0072】
[試験例3](バター風味油/スクランブルエッグ)
表10に記載のようにバター風味油に所定の添加量でポリジメチルシロキサンを添加し、そのバター風味油を使用してスクランブルエッグを調製した。スクランブルエッグの調製は、表9に示す材料を使用して、次の手順により行った。
【0073】
(調理手順)
(1)卵、牛乳、塩をあらかじめ混ぜ、卵液にする
(2)フライパンを強火で30秒間温める
(3)敷油としてバター風味油を入れて20秒間加熱
(4)卵液を入れる
(5)1分間程度混ぜて、全体に火を通す
【0074】
【0075】
得られたスクランブルエッグを各種の方法で保管・提供し、その保存時に生じる風味の低下について、専門パネラー(n=1)による官能評価を行った。
【0076】
(保管・提供方法)
(1)出来立て
調製したスクランブルエッグを出来立てのまま官能評価に供した。
【0077】
(2)冷蔵
スクランブルエッグ調製後、約100gを4℃の冷蔵庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1分間)して官能評価に供した。
【0078】
(官能評価)
官能評価は、ポリジメチルシロキサンを添加しないバター風味油を使用して調製したスクランブルエッグであって、出来立てのもの(例えば、参考例3-1)のバター風味の強さの評価を10とし、バター風味油を菜種油に代えて調製した出来立てのスクランブルエッグのバター風味の強さの評価を1とし、10段階の相対評価を行った。また、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭についても評価した。
【0079】
結果を、表10に示す。
【0080】
【0081】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0082】
(1)参考例3-1と比べた参考例3-2の結果にみられるように、出来立てのスクランブルエッグについては、バター風味油にポリジメチルシロキサンを添加した影響はみられなかった。
【0083】
(2)試験例3-1の結果にみられるように、バター風味油を使用して調製したスクランブルエッグを冷蔵して1日後に電子レンジで温めて提供すると、バター風味の強さの評価は8となり、風味の低下がみられた。
【0084】
(3)試験例3-2の結果にみられるように、バター風味油にポリジメチルシロキサンを3質量ppmの濃度で添加して調製したスクランブルエッグでは、風味の低下が抑制された。
【0085】
[試験例4](バター風味油/ほうれん草ソテー)
表12に記載のようにバター風味油に所定の添加量でポリジメチルシロキサンを添加し、そのバター風味油を使用してほうれん草ソテーを調製した。ほうれん草ソテーの調製は、表11に示す材料を使用して、次の手順により行った。
【0086】
(調理手順)
(1)冷凍ほうれん草を1分間下茹でし、冷水で粗熱を取って水気を切る
(2)フライパンを中火で30秒間温める
(3)敷油としてバター風味油を入れて20秒間加熱
(4)下茹でほうれん草を入れて、ほぐしながら20秒間炒める
(5)塩・胡椒を入れて、1分10秒間炒める
【0087】
【0088】
得られたほうれん草ソテーを各種の方法で保管・提供し、その保存時に生じる風味の低下について、専門パネラー(n=1)による官能評価を行った。
【0089】
(保管・提供方法)
(1)出来立て
調製したほうれん草ソテーを出来立てのまま官能評価に供した。
【0090】
(2)冷凍
ほうれん草ソテー調製後、約50gを急速冷凍して、-20℃の冷凍庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1分間)して官能評価に供した。
【0091】
(官能評価)
官能評価は、ポリジメチルシロキサンを添加しないバター風味油を使用して調製したほうれん草ソテーであって、出来立てのもの(例えば、参考例4-1)のバター風味の強さの評価を10とし、バター風味油を菜種油に代えて調製した出来立てのほうれん草ソテーのバター風味の強さの評価を1とし、10段階の相対評価を行った。また、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭についても評価した。
【0092】
結果を、表12に示す。
【0093】
【0094】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0095】
(1)参考例4-1と比べた参考例4-2の結果にみられるように、出来立てのほうれん草ソテーについては、バター風味油にポリジメチルシロキサンを添加した影響はみられなかった。
【0096】
(2)試験例4-1の結果にみられるように、バター風味油を使用して調製したほうれん草ソテーを冷凍して1日後に電子レンジで温めて提供すると、バター風味の強さの評価は6となり、風味の低下がみられた。
【0097】
(3)試験例4-2の結果にみられるように、バター風味油にポリジメチルシロキサンを3質量ppmの濃度で添加して調製したほうれん草ソテーでは、風味の低下が抑制された。
【0098】
[試験例5](バター風味油/コーンスープ)
表14に記載のようにバター風味油に所定の添加量でポリジメチルシロキサンを添加し、そのバター風味油を使用してコーンスープを調製した。コーンスープの調製は、表13に示す材料を使用して、次の手順により行った。
【0099】
(調理手順)
(1)カップにコーンスープの素(「クノール(登録商標)カップスープ コーンクリーム」、味の素株式会社製)を入れ、所定量のお湯を加えて、コーンスープ調製液とした
(2)コーンスープ調製液の99gに対してバター風味油を1g混合
【0100】
【0101】
得られたコーンスープを各種の方法で保管・提供し、その保存時に生じる風味の低下について、専門パネラー(n=1)による官能評価を行った。
【0102】
(保管・提供方法)
(1)出来立て
調製したコーンスープを出来立てのまま官能評価に供した。
【0103】
(2)冷蔵
コーンスープ調製後、約100gを4℃の冷蔵庫で1日保管後、電子レンジで加熱(600W、1.5分間)して官能評価に供した。
【0104】
(官能評価)
官能評価は、ポリジメチルシロキサンを添加しないバター風味油を使用して調製したコーンスープであって、出来立てのもの(例えば、参考例5-1)のバター風味の強さの評価を10とし、バター風味油を菜種油に代えて調製した出来立てのコーンスープのバター風味の強さの評価を1とし、10段階の相対評価を行った。また、湿っぽいあるいはこもったような臭いである、ムレ臭についても評価した。
【0105】
結果を、表14に示す。
【0106】
【0107】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0108】
(1)参考例5-1と比べた参考例5-2の結果にみられるように、出来立てのコーンスープについては、バター風味油にポリジメチルシロキサンを添加した影響はみられなかった。
【0109】
(2)試験例5-1の結果にみられるように、バター風味油を使用して調製したコーンスープを冷蔵して1日後に電子レンジで温めて提供すると、バター風味の強さの評価は8となり、風味の低下がみられた。
【0110】
(3)試験例5-2の結果にみられるように、バター風味油にポリジメチルシロキサンを3質量ppmの濃度で添加して調製したコーンスープでは、風味の低下が抑制された。
【0111】
[試験例6](香気成分の分析)
試験例1における試験例1-1(ポリジメチルシロキサン非添加)又は試験例1-3(ポリジメチルシロキサンAを3質量ppm添加)と同様にして、炒飯を調製し、冷凍保管後、香気成分を分析した。具体的には、炒飯調製後、約100gを急速冷凍して、-20℃の冷凍庫で1日保管し、電子レンジで加熱(600W、1分間)してレンジアップした炒飯を、下記条件によるガスクロマト/質量分析(GC-MS分析)に供した。
【0112】
<GC-MS分析の測定条件>
装置:GC Agilent 6890N/MS 5975B、GERSTELHS/TDU/CIS/ODP
カラム:Agilent DB-WAX UI 長さ60m×内径0.25mm×膜厚0.25μm
捕集方法:
(1)ダイナミックヘッドスペース(DHS)容器(スクリューネックバイアル、20ml、GERSTEL社製)内で、サンプル2.5gとともに、バイアル内に捕集剤(Twister、GERSTEL社製)を3個入れ、バイアルを40℃に加温(5分攪拌、3分間平衡化)して30分保持し、揮発した成分を捕集剤にトラップ
(2)捕集剤を取り出し、3個をガラスチューブに入れてGC-MS分析に供した
加熱脱着:
(1)トラップした成分を250℃、ヘリウム下(50ml/min×3min)にて、加熱脱着してCIS(Cooled Injection System)内のTDUガラスチューブ(Tenax TA、GERSTEL社製)にトラップ(-50℃)
(2)CIS内を240℃まで加熱、揮発した成分をGC/MSへ導入、分析
注入方法:スプリットレス
オーブン:40℃(10min)→2℃/min→100℃→5℃/min→210℃(10min)
分析時間:72min
イオン化法:EI法(70eV)
イオン源:230℃
四重極:150℃
測定モード:SCAN
ODP/MSスプリット比:2/1
【0113】
ネギ風味油としてポリジメチルシロキサン非添加のものを使用して調製した炒飯についての結果を表15に、また、ネギ風味油としてポリジメチルシロキサン3質量ppmを添加のものを使用して調製した炒飯についての結果を表16に、それぞれ示す。
【0114】
【0115】
【0116】
更に、表17には、上記測定結果における、総ピーク面積、ネギの主要香気成分であるスルフィド類(sulfide類)についての合計ピーク面積、及び油脂の主要香気成分であるアルデヒド類(aldehyde類)についての合計ピーク面積の結果をまとめて示す。
【0117】
【0118】
その結果、ポリジメチルシロキサンを添加したネギ風味油を使用して調製した炒飯では、ポリジメチルシロキサンを添加しないネギ風味油を使用して調製した炒飯に比べて、特にネギの主要香気成分であるスルフィド類の量が多く(
図1参照)、この結果は、試験例1において行った官能評価による結果とよく整合していた。