(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】光学素子、赤外線センサー、固体撮像素子、光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/08 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H01L31/08 L
H01L31/08 N
(21)【出願番号】P 2022505849
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021004854
(87)【国際公開番号】W WO2021181984
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2020042742
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大谷 貴洋
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061583(WO,A1)
【文献】特開2005-179121(JP,A)
【文献】特開2008-222903(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151042(WO,A1)
【文献】特開2018-037611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換膜と、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜と、を有する光学素子であって、
前記光電変換膜と前記無機物含有膜とは隣接して配置されており、
前記光電変換膜が、量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有し、
前記無機物含有膜の膜厚1.0μmあたりの波長1550nmにおける光学濃度が、0.5以上である、光学素子。
【請求項2】
光電変換膜と、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜と、を有する光学素子であって、
前記光電変換膜の表面全面または表面の一部に前記無機物含有膜が配置されており、
前記光電変換膜が、量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有し、
前記無機物含有膜の膜厚1.0μmあたりの波長1550nmにおける光学濃度が、0.5以上である、光学素子。
【請求項3】
前記光電変換膜の表面全面または表面の一部に前記無機物含有膜が配置されている、請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記金属窒化物及び前記金属酸窒化物が、Ti又はZrを含有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記無機物含有膜が、さらにフェノール化合物、亜リン酸エステル化合物、チオエーテル化合物、及び、ヒンダードアミン化合物から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1
~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学濃度が1.0以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記無機物含有膜が、さらに樹脂を含有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記樹脂がアルカリ可溶性樹脂である、請求項
7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記光電変換膜の膜厚に対する前記無機物含有膜の膜厚の比率が0.3~300である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学素子を含有する、赤外線センサー。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学素子を含有する、固体撮像素子。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法であって、
量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有する光電変換膜を製造する工程と、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜を製造する工程と、を含む、光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記光電変換膜を製造する工程が、
量子ドットと溶剤とを含有する光電変換膜形成用組成物をスピンコート法で塗布する工程を含む、請求項
12に記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記無機物含有膜を製造する工程が、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する重合性組成物をスピンコート法で塗布する工程を含む、請求項
12又は
13に記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記重合性組成物が、さらに重合性化合物及び重合開始剤を含む、請求項
14に記載の光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記無機物含有膜を製造する工程が、露光工程、及び、現像工程を含む、請求項
12~
15のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、赤外線センサー、固体撮像素子、及び、光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット又は化合物半導体を含有する光電変換膜は、赤外光領域に感度を有する光電変換膜として注目を集めている。このような光電変換膜は、赤外線センサー等の種々の用途に適用可能である。
例えば、特許文献1においては、化合物半導体からなる光学素子が開示されており、化合物半導体としてはInGaAs等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載されるような化合物半導体を含む光電変換膜の特性について検討したところ、光電変換膜を高湿高温の環境下に長時間曝すと、光電変換膜にクラックが生じてしまい、更なる改良が必要であることを知見した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、光電変換膜を有する光学素子であって、高湿高温の環境下において光電変換膜のクラックが生じにくい光学素子を提供することを課題とする。
本発明は、赤外線センサー、固体撮像素子、及び、光学素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
(1) 光電変換膜と、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜と、を有する光学素子であって、
光電変換膜が、量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有し、
無機物含有膜の膜厚1.0μmあたりの波長1550nmにおける光学濃度が、0.5以上である、光学素子。
(2) 金属窒化物及び金属酸窒化物が、Ti又はZrを含有する、(1)に記載の光学素子。
(3) 無機物含有膜が、さらにフェノール化合物、亜リン酸エステル化合物、チオエーテル化合物、及び、ヒンダードアミン化合物から選択される少なくとも1種を含有する、(1)又は(2)に記載の光学素子。
(4) 光学濃度が1.0以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の光学素子。
(5) 無機物含有膜が、さらに樹脂を含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の光学素子。
(6) 樹脂がアルカリ可溶性樹脂である、(5)に記載の光学素子。
(7) 光電変換膜の膜厚に対する無機物含有膜の膜厚の比率が0.3~300である、(1)~(6)のいずれかに記載の光学素子。
(8) (1)~(7)のいずれかに記載の光学素子を含有する、赤外線センサー。
(9) (1)~(7)のいずれかに記載の光学素子を含有する、固体撮像素子。
(10) (1)~(7)のいずれかに記載の光学素子の製造方法であって、
量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有する光電変換膜を製造する工程と、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜を製造する工程と、を含む、光学素子の製造方法。
(11) 光電変換膜を製造する工程が、
量子ドットと溶剤とを含有する光電変換膜形成用組成物をスピンコート法で塗布する工程を含む、(10)に記載の光学素子の製造方法。
(12) 無機物含有膜を製造する工程が、
金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する重合性組成物をスピンコート法で塗布する工程を含む、(10)又は(11)に記載の光学素子の製造方法。
(13) 重合性組成物が、さらに重合性化合物及び重合開始剤を含む、(12)に記載の光学素子の製造方法。
(14) 無機物含有膜を製造する工程が、露光工程、及び、現像工程を含む、(10)~(13)のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光電変換膜を有する光学素子であって、高湿高温の環境下において光電変換膜のクラックが生じにくい光学素子を提供できる。
本発明によれば、赤外線センサー、固体撮像素子、及び、光学素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含有する範囲を意味する。
【0010】
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を含有しない基と共に置換基を含有する基をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を含有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を含有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
【0011】
また、本明細書中における「活性光線」又は「放射線」とは、例えば、g線、h線、及び、i線等の水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光)、X線、並びに、電子線(EB)等を意味する。また、本発明において光とは、活性光線又は放射線を意味する。
また、本明細書中における「露光」とは、特に断らない限り、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線、X線、及び、EUV光等による露光のみならず、電子線、及び、イオンビーム等の粒子線による描画も露光に含める。
【0012】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタアクリレートを表す。本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタアクリルを表す。本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルを表す。
【0013】
本明細書において、「ppm」は「parts per million(10-6)」を意味し、「ppb」は「parts per billion(10-9)」を意味し、「ppt」は「parts per trillion(10-12)」を意味する。
【0014】
また、本明細書において重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算値である。
本明細書においてGPC法は、HLC-8020GPC(東ソー社製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000(東ソー社製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる方法に基づく。
【0015】
本明細書において表記される二価の基(例えば、-COO-)の結合方向は、特に断らない限り制限されない。例えば、「X-Y-Z」なる一般式で表される化合物中の、Yが-COO-である場合、上記化合物は「X-O-CO-Z」であってもよく「X-CO-O-Z」であってもよい。
【0016】
本発明の光学素子の特徴点の一つとしては、膜厚1.0μmあたりの波長1550nmにおける光学濃度が0.5以上である、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜(以下、単に「無機物含有膜」ともいう。)を使用している点が挙げられる。
本発明者らは、量子ドット及び所定の化合物半導体を含有する光電変換膜においてクラックが生じる理由を検討したところ、光電変換膜中の量子ドット及び所定の化合物半導体の酸化が進行し、そのためにクラックが生じることを知見した。それに対して、上述した無機物含有膜を光電変換膜と併用すると、無機物含有膜中の金属窒化物及び金属酸窒化物によって、光電変換膜中の量子ドット及び所定の化合物半導体の酸化が抑制される。上記のように光電変換膜中の量子ドット及び所定の化合物半導体の酸化が抑制される理由としては、無機物含有膜中の金属窒化物及び金属酸窒化物が優先的に酸素と反応して、酸化されることにより、光電変換膜中の量子ドット及び所定の化合物半導体の酸化を抑制していると考えられる。つまり、無機物含有膜中の金属窒化物及び金属酸窒化物が犠牲的に酸化されて、光電変換膜中の量子ドット及び所定の化合物半導体の酸化を遅らせていると考えられる。
また、無機物含有膜の光学濃度は、無機物含有膜中の金属窒化物及び金属酸窒化物の含有量と関連する。つまり、金属窒化物及び金属酸窒化物の含有量が多いと、無機物含有膜の光学濃度が大きくなる。上述したように、金属窒化物及び金属酸窒化物が犠牲的に酸化される点を考慮すると、金属窒化物及び金属酸窒化物の含有量が多いほど、光電変換膜の酸化がより抑制される。本発明者らは、無機物含有膜が所定の光学濃度以上(言い換えれば、金属窒化物及び金属酸窒化物の含有量が所定値以上)である場合に、所望の効果が得られることを知見している。
【0017】
本発明の光学素子は、所定の光電変換膜と、無機物含有膜とを有する。
光電変換膜と無機物含有膜との配置関係は特に制限されないが、光電変換膜と無機物含有膜とは隣接していることが好ましく、光電変換膜上に無機物含有膜が配置されていることがより好ましい。また、光電変換膜上に無機物含有膜が配置されている場合、光電変換膜の表面全面に無機物含有膜が配置されていてもよいし、光電変換膜の表面の一部に無機物含有膜が配置されていてもよい。
以下、光学素子が有する各部材について詳述する。
【0018】
<光電変換膜>
光電変換膜は、量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有する。なお、以下、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を、特定化合物半導体ともいう。
光電変換膜は、赤外光(赤外域の波長帯域の光)を受光できる膜であることが好ましい。このような光電変換膜であれば、赤外光を電気信号として取得可能である。
赤外光とは800~4500nmの波長の光を意図し、光電変換膜で受光できる赤外光としては800~2500nmの波長の光が好ましい。
以下、光電変換膜に含まれる材料について詳述する。
【0019】
(量子ドット)
量子ドットとは半導体の微小な粒子であり、量子ドットの極大吸収波長は特に制限されないが、800nm以上に存在することが好ましく、800~4500nmの範囲に存在することがより好ましく、800~3500nmの範囲に存在することが更に好ましく、800~2500nmの範囲に存在することが特に好ましい。
【0020】
量子ドットの材質としては、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、IV-IV族化合物半導体、シリコン等の半導体、及び、カーボン等が挙げられる。III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体については、後段で詳述する。
量子ドットの材質の具体例としては、CdS、CdSe、PbS、PbSe、及び、InAsが挙げられる。
量子ドットの表面には配位子が配位していてもよい。配位子としては、アミノ基、カルボキシ基、メルカプト基、ホスフィン基、及び、ホスフィンオキシド基等の配位性基を有する化合物が挙げられる。配位子としては、多座配位子が好ましく、配位性基の少なくとも1つがアミノ基又はメルカプト基からなる群より選択される多座配位子がより好ましく、配位性基の少なくとも1つがアミノ基又はメルカプト基からなる群より選択される2~3座配位子が更に好ましい。具体例としては、ヘキシルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン、オレイン酸、メルカプトプロピオン酸、トリオクチルホスフィン、及び、トリオクチルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0021】
量子ドットの形状は特に制限されず、例えば、球形、棒状、及び、楕円球状が挙げられる。量子ドットの形状が球形の場合、量子ドットの平均粒径は0.1~100nmが好ましく、0.5~50nmがより好ましく、1~25nmが更に好ましい。なお、本明細書において、量子ドットの平均粒径は、動的光散乱法で測定した値である。
【0022】
(化合物半導体)
III-V族化合物半導体とは、第III族元素と第V族元素とを用いて形成された化合物半導体である。III-V族化合物半導体としては、GaAs、GaP、AlAs、AlSb、InSb、InAs、GaAsP、InGaAs、InGaP、GaInAsP、AlGaP、AlGaAs、InP、InAlAs、及び、AlGaInPが挙げられる。
II-VI族化合物半導体とは、第II族元素と第VI族元素とを用いて形成された化合物半導体である。II-VI族化合物半導体としては、ZnO、CdTe、及び、ZnSeが挙げられる。
VI-VI族化合物半導体とは、2つの第VI族元素を組み合わせた化合物半導体である。VI-VI族化合物半導体としては、SiC、及び、SiGeが挙げられる。
【0023】
光電変換膜の膜厚は特に制限されないが、高湿高温の環境下において光電変換膜のクラックがより生じにくい点(以下、単に「本発明の効果がより優れる点」ともいう。)から、1~10000nmが好ましく、10~1000nmがより好ましい。
【0024】
光電変換膜中における量子ドット及び特定化合物半導体の含有量は特に制限されないが、光電変換特性の点から、量子ドット及び特定化合物半導体の含有量は、光電変換膜全質量に対して、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。上限は特に制限されず、100質量%が挙げられる。ここでいう特定化合物半導体の含有量には、材質がIII-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、およびIV-IV族化合物半導体の量子ドットの含有量は含まれない。材質がIII-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、およびIV-IV族化合物半導体の量子ドットの含有量は量子ドットの含有量に含まれる。
なお、上記含有量は、量子ドット及び特定化合物半導体の合計含有量に該当し、例えば、光電変換膜に特定化合物半導体が含有されない場合、特定化合物半導体の含有量は0質量%として計算する。
【0025】
光電変換膜の形成方法は特に制限されず、湿式成膜法、及び、乾式成膜法が挙げられる。
乾式成膜法での形成方法としては、例えば、化学気相蒸着法、及び、物理気相蒸着法が挙げられる。
湿式成膜法での形成方法としては、例えば、量子ドットと溶剤とを含有する光電変換膜形成用組成物を用い、従来公知の塗布方法にて電極等の支持体上に塗布して光電変換膜を形成する方法が挙げられる。塗布方法としては、滴下法(ドロップキャスト);スリットコート法;スプレー法;ロールコート法;回転塗布法(スピンコート法);流延塗布法;スリットアンドスピン法;プリウェット法(例えば、特開2009-145395号公報に記載されている方法);インクジェット(例えば、オンデマンド方式、ピエゾ方式、サーマル方式)、ノズルジェット等の吐出系印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、反転オフセット印刷、及び、メタルマスク印刷法等の各種印刷法;金型等を用いた転写法;ナノインプリント法が挙げられる。
【0026】
<無機物含有膜>
無機物含有膜は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する膜である。金属窒化物及び金属酸窒化物については後段で詳述する。
無機物含有膜の膜厚1.0μmあたりの波長1550nmにおける光学濃度は、0.5以上であり、本発明の効果がより優れる点から、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、3.0以下の場合が多く、2.5以下の場合がより多い。
上記光学濃度の測定方法としては、分光光度計U-4100(日立ハイテクノロジーズ製)と積分球型受光ユニットとを組み合わせた装置を用いて、所定の厚みの無機物含有膜の波長1550nmでの透過率(%)を測定し、膜厚1.0μmあたりの光学濃度に換算して求める。
【0027】
無機物含有膜の膜厚は特に制限されないが、0.1~4.0μmが好ましく、1.0~2.5μmがより好ましい。
光電変換膜の膜厚に対する無機物含有膜の膜厚の比(無機物含有膜の膜厚/光電変換膜の膜厚)は、0.3~300が好ましく、0.5~250がより好ましく、0.8~200が更に好ましい。
【0028】
(金属窒化物及び金属酸窒化物)
無機物含有膜は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
なお、無機物含有膜は、金属窒化物及び金属酸窒化物の両方を含んでいてもよい。
【0029】
金属窒化物及び金属酸窒化物の種類は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、第3~11族の遷移金属元素のいずれかを含有することが好ましい。具体的には、第3族の遷移金属元素としてSc、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lr;第4族の遷移金属元素としてTi、Zr、Hf;第5族の遷移金属元素としてV、Nb、Ta;第6族の遷移金属元素としてCr、Mo、W;第7族の遷移金属元素としてMn、Tc、Re;第8族の遷移金属元素としてFe、Ru、Os;第9族の遷移金属元素としてCo、Rh、Ir;第10族の遷移金属元素としてNi、Pd、Pt;第11族の遷移金属元素としてCu、Agが挙げられる。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、第4族の遷移金属元素が好ましく、Ti又はZrがより好ましい。つまり、金属窒化物としては窒化チタン又は窒化ジルコニウムが好ましく、金属酸窒化物としては酸窒化チタン(チタンブラック)又は酸窒化ジルコニウムが好ましい。
【0030】
なお、金属窒化物及び金属酸窒化物は、上述した第3~11族の遷移金属元素以外にも第13~17族元素のいずれかを含有していてもよい。
【0031】
無機物含有膜中における金属窒化物及び金属酸窒化物の形状は特に制限されないが、粒子状である場合が多い。つまり、無機物含有膜は、金属窒化物粒子又は金属酸窒化物粒子を含有することが好ましい。無機物含有膜中における金属窒化物及び金属酸窒化物は黒色顔料であることが好ましい。
金属窒化物粒子及び金属酸窒化物粒子の平均粒径は特に制限されないが、5~100nmが好ましく、5~50nmがより好ましく、5~30nmが更に好ましい。
金属窒化物粒子及び金属酸窒化物粒子の比表面積は特に制限されないが、5~100m2/g以下が好ましい。
【0032】
金属窒化物及び金属酸窒化物の製造方法は特に制限されず、気相反応法等の公知の製造方法を使用できる。気相反応法としては、電気炉法、及び、熱プラズマ法が挙げられるが、不純物の混入が少なく、粒径が揃いやすく、また、生産性が高い点から、熱プラズマ法が好ましい。
金属窒化物及び金属酸窒化物は、表面が被覆されていてもよい。被覆は、粒子表面全体が被覆されていても、一部が被覆されていてもよい。上記被覆は、シランカップリング剤、シリカ、又は、アルミナで被覆されていることが好ましい。
【0033】
無機物含有膜中における金属窒化物及び金属酸窒化物の合計含有量は、無機物含有膜全質量に対して、5~95質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、35~65質量%が更に好ましい。
【0034】
無機物含有膜は、金属窒化物及び金属酸窒化物以外の他の成分を含有していてもよい。
【0035】
(樹脂)
無機物含有膜は、樹脂を含有していてもよい。樹脂は、いわゆるバインダーとして機能しえる。
なお、樹脂の分子量は3000超であることが好ましい。樹脂の分子量分布が多分散である場合、重量平均分子量が3000超であることが好ましい。
【0036】
樹脂は、酸基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、モノ硫酸エステル基、-OPO(OH)2、モノリン酸エステル基、ホウ酸基、及び/又は、フェノール性水酸基等)を含有することも好ましい。つまり、樹脂として、酸基を含有する樹脂が好ましい。
樹脂は、硬化性基を含有することも好ましい。硬化性基としては、例えば、エチレン性不飽和基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及び、スチリル基等)、及び、環状エーテル基(例えば、エポキシ基、及び、オキセタニル基等)等が挙げられる。
本発明の樹脂は、分散剤及びアルカリ可溶性樹脂等のいずれでもよい。
【0037】
[分散剤]
分散剤は、例えば、後述するように無機物含有膜形成用組成物中の金属窒化物及び金属酸窒化物等の固体状態で存在する成分の凝集及び/又は沈降を抑制し得る樹脂である。
分散剤の含有量は、無機物含有膜全質量に対して、3~60質量%が好ましく、7~40質量%がより好ましく、10~25質量%が更に好ましい。
【0038】
分散剤は、酸基を含有することが好ましい。
分散剤は、硬化性基を含有することも好ましい。
分散剤としては、例えば、グラフト鎖を含有する構造単位を含有する樹脂、及び/または、放射状構造を含有する樹脂が挙げられる。
【0039】
グラフト鎖を含有する構造単位を含有する樹脂における、グラフト鎖を含有する構造単位は、下記式(1)~(4)のいずれかで表される構造単位が挙げられる。
【0040】
【0041】
【0042】
式(1)~(4)において、Q1は、式(QX1)、(QNA)、及び、(QNB)のいずれかで表される基であり、Q2は、式(QX2)、(QNA)、及び、(QNB)のいずれかで表される基であり、Q3は、式(QX3)、(QNA)、及び、(QNB)のいずれかで表される基であり、Q4は、式(QX4)、(QNA)、及び、(QNB)のいずれかで表される基である。
式(QX1)~(QX4)、(QNA)、及び、(QNB)において、*aは主鎖側における結合位置を表し、*bは側鎖側の結合位置を表す。
式(1)~(4)において、W1、W2、W3、及び、W4は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、又は、NHを表す。
式(1)~(4)、及び、式(QX1)~(QX4)において、X1、X2、X3、X4、及び、X5は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。X1、X2、X3、X4、及び、X5は、合成上の制約の点からは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数(炭素原子数)1~12のアルキル基が好ましく、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0043】
式(1)~(4)において、Y1、Y2、Y3、及び、Y4は、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表し、連結基は特に構造上制限されない。Y1、Y2、Y3、及び、Y4で表される2価の連結基として、具体的には、下記の(Y-1)~(Y-23)の連結基等が挙げられる。
下記に示した連結基において、Aは、式(1)~(4)におけるW1~W4のいずれかとの結合位置を表す。Bは、Aが結合するW1~W4のいずれかとは反対側の基との結合位置を表す。
【0044】
【0045】
式(1)~(4)において、Z1、Z2、Z3、及び、Z4は、それぞれ独立に1価の置換基を表す。置換基の構造は、特に制限されないが、具体的には、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、及び、アミノ基等が挙げられる。
これらの中でも、Z1、Z2、Z3、及び、Z4で表される置換基は、特に分散性向上の点から、立体反発効果を含有する基が好ましく、炭素数5~24のアルキル基又はアルコキシ基がより好ましく、その中でも、炭素数5~24の分岐鎖状アルキル基、炭素数5~24の環状アルキル基、又は、炭素数5~24のアルコキシ基が更に好ましい。なお、アルコキシ基中に含まれるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれでもよい。
また、Z1、Z2、Z3、及び、Z4で表される置換基は、(メタ)アクリロイル基等の硬化性基を含有する基であるのも好ましい。上記硬化性基を含有する基としては、例えば、「-O-アルキレン基-(-O-アルキレン基-)AL-(メタ)アクリロイルオキシ基」が挙げられる。ALは、0~5の整数を表し、1が好ましい。上記アルキレン基は、それぞれ独立に、炭素数1~10が好ましい。上記アルキレン基が置換基を有する場合、置換基は、水酸基が好ましい。
上記置換基は、オニウム構造を含有する基であってもよい。
オニウム構造を含有する基は、アニオン部とカチオン部とを有する基である。アニオン部としては、例えば、酸素アニオン(-O-)を含有する部分構造が挙げられる。中でも、酸素アニオン(-O-)は、式(1)~(4)で表される繰り返し単位において、n、m、p、又は、qが付された繰り返し構造の末端に直接結合していることが好ましく、式(1)で表される繰り返し単位において、nが付された繰り返し構造の末端(つまり、-(-O-CjH2j-CO-)n-における右端)に直接結合していることがより好ましい。
オニウム構造を含有する基の、カチオン部のカチオンとしては、例えば、アンモニウムカチオンが挙げられる。カチオン部がアンモニウムカチオンである場合、カチオン部はカチオン性窒素原子(>N+<)を含有する部分構造である。カチオン性窒素原子(>N+<)は、4個の置換基(好ましくは有機基)に結合することが好ましく、そのうちの1~4個が炭素数1~15のアルキル基であることが好ましい。また、4個の置換基のうちの1個以上(好ましくは1個)が、硬化性基を含有する基であるのも好ましい。上記置換基がなり得る、上記硬化性基を含有する基としては、例えば、上述の「-O-アルキレン基-(-O-アルキレン基-)AL-(メタ)アクリロイルオキシ基」が挙げられる。
【0046】
式(1)~(4)において、n、m、p、及び、qは、それぞれ独立に、1~500の整数であり、2~500の整数がより好ましく、6~500の整数がより好ましい。
【0047】
式(3)中、R3は分岐鎖状又は直鎖状のアルキレン基を表し、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基がより好ましい。
式(4)中、R4は水素原子又は1価の有機基を表す。なお、1価の有機基の構造は特に制限されない。R4は、水素原子、アルキル基、アリール基、又は、ヘテロアリール基が好ましく、水素原子又はアルキル基がより好ましい。R4がアルキル基である場合、アルキル基は、炭素数1~20の直鎖状アルキル基、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基、又は、炭素数5~20の環状アルキル基が好ましい。
【0048】
グラフト鎖を含有する構造単位を含有する樹脂中、式(1)~(4)のいずれかで表される構造単位の合計含有量は、上記樹脂の全質量に対して、2~100質量%が好ましく、6~100質量%がより好ましい。
【0049】
放射状構造を含有する樹脂は、例えば、下記一般式(X-2)で表される化合物が好ましい。
【0050】
(A2-R4-S-)n R3 (-S-R5-P2)m (X-2)
【0051】
上記一般式(X-2)中、A2は、有機色素構造、複素環構造、酸基、塩基性窒素原子を有する基、ウレア基、ウレタン基、配位性酸素原子を有する基、炭素数4以上の炭化水素基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、及び、水酸基から選択される部位を少なくとも1種含む1価の有機基を表す。n個のA2は同一であっても、異なっていてもよい。
【0052】
上記一般式(X-2)において、R4、R5はそれぞれ独立に単結合又は2価の有機連結基を表す。
上記2価の有機連結基としては、例えば、1~100個の炭素原子、0~10個の窒素原子、0~50個の酸素原子、1~200個の水素原子、及び、0~20個の硫黄原子を含有する基が挙げられる。上記2価の有機連結基は、置換基を含有してもよいアルキレン基が好ましい。上記アルキレン基の炭素数は2~5が好ましい。上記アルキレン基が含有し得る置換基は、酸基が好ましい。
n個のR4は、同一であっても、異なっていてもよい。また、m個のR5は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0053】
上記一般式(X-2)において、R3は、(m+n)価の有機連結基を表す。m+nは3~10が好ましい。
上記R3で表される(m+n)価の有機連結基としては、例えば、1~60個の炭素原子、0~10個の窒素原子、0~50個の酸素原子、1~100個の水素原子、及び、0~20個の硫黄原子を含有する基が挙げられる。
【0054】
上記一般式(X-2)中、mは1~8の整数を表す。
また、上記一般式(X-2)中、nは2~9の整数を表す。
【0055】
また、一般式(X-2)中のP2は、高分子骨格を表し、公知のポリマー等から目的等に応じて選択できる。m個のP2は、同一であっても、異なっていてもよい。
上記高分子骨格としては、ビニルモノマーの重合体もしくは共重合体、エステル系ポリマー、エーテル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アミド系ポリマー、エポキシ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及び、これらの変性物又は共重合体〔例えば、ポリエーテル/ポリウレタン共重合体、ポリエーテル/ビニルモノマーの重合体の共重合体等(ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。)を含む。〕からなる群より選択される少なくとも1種からなる高分子骨格が好ましい。
中でも、上記高分子骨格は、ビニルモノマーの重合体又は共重合体からなる高分子骨格が好ましく、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル類の重合体又は共重合体からなる高分子骨格がより好ましい。
【0056】
分散剤としては、例えば、国際公開第2019/069690号の段落0071~0141に記載の高分子化合物も使用できる。
【0057】
[アルカリ可溶性樹脂]
アルカリ可溶性樹脂は、例えば、塩基性水溶液のような塩基性溶液に対して可溶性を示し得る樹脂である。
アルカリ可溶性樹脂は、上述の分散剤とは異なる樹脂であることが好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の含有量は、無機物含有膜全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましく、1~15質量%が更に好ましい。
【0058】
アルカリ可溶性樹脂は、アルカリ可溶性を実現するためのアルカリ可溶性基として、酸基を含有することが好ましい。
アルカリ可溶性樹脂は、硬化性基を含有することも好ましい。アルカリ可溶性樹脂は、硬化性基を含有する構造単位を含有することも好ましい。硬化性基を含有する構造単位の含有量は、アルカリ可溶性樹脂の全構造単位に対して、5~60モル%が好ましく、10~45モル%がより好ましく、15~35モル%が更に好ましい。
【0059】
アルカリ可溶性樹脂は、〔ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/必要に応じてその他の付加重合性ビニルモノマー〕共重合体、及び〔アリル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/必要に応じてその他の付加重合性ビニルモノマー〕共重合体が、膜強度、感度、及び、現像性のバランスに優れており、好適である。
上記その他の付加重合性ビニルモノマーには、1種単独でも2種以上でもよい。
上記共重合体は、硬化性基を有することが好ましく、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基を含有することがより好ましい。
例えば、上記その他の付加重合性ビニルモノマーとして硬化性基を有するモノマーを使用して共重合体に硬化性基が導入されていてもよい。また、共重合体中の(メタ)アクリル酸に由来する単位及び/又は上記その他の付加重合性ビニルモノマーに由来する単位の1種以上の、一部又は全部に、硬化性基(好ましくは(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基)が導入されていてもよい。
【0060】
アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、国際公開第2019/069690号の段落0143~0163に記載の樹脂を使用できる。
【0061】
分散剤及びアルカリ可溶性樹脂のような樹脂の重量平均分子量は、それぞれ独立に、3000超100000以下が好ましく、3000超50000以下がより好ましい。
分散剤及びアルカリ可溶性樹脂のような樹脂の酸価は、それぞれ独立に、10~300mgKOH/gが好ましく、30~200mgKOH/gがより好ましい。
分散剤及びアルカリ可溶性樹脂のような樹脂のアミン価は、それぞれ独立に、0~100mgKOH/gが好ましく、0~25mgKOH/gがより好ましい。
【0062】
無機物含有膜は、上述した分散剤及びアルカリ可溶性樹脂以外に、後述する重合性化合物の重合体を含有していてもよい。後述するように、重合性化合物を含有する無機物含有膜形成用組成物を用いて無機物含有膜を形成する際、形成される無機物含有膜中には重合性化合物の重合体が含有される。
重合性化合物については後段で詳述する。
【0063】
無機物含有膜中における樹脂の含有量は、無機物含有膜全質量に対して、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、20~50質量%が更に好ましい。
2種以上の樹脂を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0064】
(その他添加剤)
無機物含有膜は、本発明の効果がより優れる点で、フェノール化合物、亜リン酸エステル化合物、チオエーテル化合物、及び、ヒンダードアミン化合物から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、フェノール化合物、及び、ヒンダードアミン化合物から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。上記化合物群は、酸化防止剤として作用する。
上記化合物の具体例としては、p-メトキシフェノール、2,5-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4-メトキシナフトール、ハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、及び、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル等が挙げられる。
【0065】
無機物含有膜中における酸化防止剤の含有量は、無機物含有膜全質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.0025~5質量%がより好ましく、0.005~1質量%が更に好ましい。
【0066】
(無機物含有膜の製造方法)
無機物含有膜の製造方法は特に制限されないが、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜形成用組成物を用いて無機物含有膜を形成する方法が好ましい。無機物含有膜形成用組成物には、上述した樹脂が含有されていてもよい。また、無機物含有膜形成用組成物には、後述する重合性組成物に含有される成分が含有されていてもよい。
無機物含有膜の製造方法としては、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種、及び、重合性化合物を含有する無機物含有膜形成用組成物(以下、単に「重合性組成物」ともいう。)を用いて形成された組成物層を硬化して、無機物含有膜を得る方法が好ましい。より具体的には、無機物含有膜の製造方法は、特に制限されないが、以下の工程を有することが好ましい。
・組成物層形成工程
・露光工程
・現像工程
以下、各工程について説明する。
【0067】
[組成物層形成工程]
組成物層形成工程は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種、及び、重合性化合物を含有する重合性組成物を塗布して、組成物層を形成する工程である。
以下では、まず、重合性組成物について詳述し、その後、工程の手順について詳述する。
【0068】
-金属窒化物及び金属酸窒化物-
重合性組成物は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。金属窒化物及び金属酸窒化物については、上述した通りである。
重合性組成物中における金属窒化物及び金属酸窒化物の合計含有量としては特に制限されないが、重合性組成物の全固形分に対して、5~95質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、35~65質量%が更に好ましい。
本明細書において、重合性組成物の「固形分」とは、無機物含有膜を形成する成分を意味し、重合性組成物が溶剤(有機溶剤、水等)を含有する場合、溶剤を除いたすべての成分を意味する。また、無機物含有膜を形成する成分であれば、液体状の成分も固形分とみなす。
【0069】
-重合性化合物-
重合性組成物は、重合性化合物を含有することが好ましい。
本明細書において重合性化合物とは、後述する光重合開始剤の作用を受けて重合する化合物であり、分散剤及びアルカリ可溶性樹脂のような樹脂とは異なる成分である。
重合性化合物は低分子化合物が好ましい。ここで言う低分子化合物とは分子量3000以下の化合物が好ましい。
【0070】
重合性化合物は、エチレン性不飽和基を含有する化合物が好ましい。
重合性組成物は、エチレン性不飽和基を含有する低分子化合物を、重合性化合物として含有することが好ましい。
重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和結合を1個以上含有する化合物が好ましく、2個以上含有する化合物がより好ましく、3個以上含有する化合物が更に好ましく、5個以上含有する化合物が特に好ましい。上限は、例えば、15個以下である。
【0071】
重合性化合物は、下記式(Z-6)で表される化合物が好ましい。
【0072】
【0073】
式(Z-6)中、Eは、それぞれ独立に、-(CH2)y-CH2-O-、-(CH2)y-CH(CH3)-O-、-(CH2)y-CH2-CO-O-、-(CH2)y-CH(CH3)-CO-O-、-CO-(CH2)y-CH2-O-、-CO-(CH2)y-CH(CH3)-O-、-CO-(CH2)y-CH2-CO-O-、又は、-CO-(CH2)y-CH(CH3)-CO-O-を表す。これらの基は、右側の結合位置が、X側の結合位置であることが好ましい。
yは、それぞれ独立に、1~10の整数を表す。
Xは、それぞれ独立に、(メタ)アクリロイル基、又は、水素原子を表す。
pは、それぞれ独立に0~10の整数を表す。
qは、0~3の整数を表す。
【0074】
式(Z-6)中、(メタ)アクリロイル基の合計が(3+2q)個又は(4+2q)個であることが好ましい。
pは、0~6の整数が好ましく、0~4の整数がより好ましい。
各pの合計は、0~(40+20q)が好ましく、0~(16+8q)がより好ましく、0~(12+6q)が更に好ましい。
式(Z-6)で表される化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上使用してもよい。
【0075】
重合性化合物としては、例えば、特開2008-260927号公報の段落0050、特開2015-068893号公報の段落0040、特開2013-029760号公報の段落0227、及び、特開2008-292970号公報の段落0254~0257に記載の化合物も使用できる。
【0076】
重合性組成物中における重合性化合物の含有量としては特に制限されないが、重合性組成物の全固形分に対して、1~35質量%が好ましく、4~25質量%がより好ましく、8~20質量%が更に好ましい。
重合性化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。2種以上の重合性化合物を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0077】
-樹脂-
重合性組成物は、上述した樹脂を含有していてもよい。
重合性組成物中における樹脂の含有量は特に制限されないが、重合性組成物の全固形分に対して、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、20~50質量%が更に好ましい。
【0078】
-酸化防止剤-
重合性組成物は、上述した酸化防止剤を含有していてもよい。
重合性組成物中における酸化防止剤の含有量は特に制限されないが、重合性組成物の全固形分に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.0025~5質量%がより好ましく、0.005~1質量%が更に好ましい。
【0079】
-重合開始剤-
重合性組成物は重合開始剤を含有していてもよい。
重合開始剤としては、光重合開始剤及び熱重合開始剤が挙げられ、光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、重合性化合物の重合を開始できれば特に制限されず、公知の光重合開始剤を使用できる。光重合開始剤としては、例えば、紫外線領域から可視光領域に対して感光性を有する光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤であってもよく、光励起された増感剤と何らかの作用を生じ、活性ラジカルを生成する開始剤であってもよく、重合性化合物の種類に応じてカチオン重合を開始させるような開始剤であってもよい。
また、光重合開始剤は、300~800nm(330~500nmがより好ましい。)の範囲内に少なくとも50(l・mol-1・cm-1)のモル吸光係数を有する化合物が好ましい。
【0080】
光重合開始剤は、例えば、ハロゲン化炭化水素誘導体(例えば、トリアジン骨格を含有する化合物、オキサジアゾール骨格を含有する化合物、等)、アシルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール、オキシム誘導体等のオキシム化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ケトン化合物、芳香族オニウム塩、アミノアセトフェノン化合物、及び、ヒドロキシアセトフェノン等が挙げられる。
光重合開始剤としては、オキシム化合物であるオキシム系光重合開始剤が好ましい。
【0081】
光重合開始剤としては、国際公開第2019/069609号の段落0164~0186に記載の光重合開始剤も使用できる。また、特開2019-167313号公報に記載のペルオキシシンナメート誘導体も使用できる。
【0082】
重合性組成物中における光重合開始剤の含有量は、重合性組成物の全固形分に対して、0.5~20質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましく、1.5~8質量%が更に好ましい。
光重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の光重合開始剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0083】
-界面活性剤-
重合性組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、重合性組成物の塗布性向上に寄与する。
【0084】
界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0085】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF171、同F172、同F173、同F176、同F177、同F141、同F142、同F143、同F144、同R30、同F437、同F475、同F479、同F482、同F554、同F780、及び、同F781F(以上、DIC株式会社製);フロラードFC430、同FC431、及び、同FC171(以上、住友スリーエム株式会社製);サーフロンS-382、同SC-101、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC1068、同SC-381、同SC-383、同S393、及び、同KH-40(以上、旭硝子株式会社製);並びに、PF636、PF656、PF6320、PF6520、及び、PF7002(OMNOVA社製)等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としてブロックポリマーも使用でき、具体例としては、例えば、特開第2011-89090号公報に記載された化合物が挙げられる。
【0086】
重合性組成物が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量は、重合性組成物の全固形分に対して、0.001~2.0質量%が好ましく、0.003~0.5質量%がより好ましく、0.005~0.1質量%が更に好ましい。
界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。界面活性剤を2種以上併用する場合は、合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0087】
-溶剤-
組成物は、溶剤を含有していてもよい。
溶剤としては、例えば、公知の溶剤を使用できる。
重合性組成物中における溶剤の含有量は、重合性組成物の固形分濃度が10~90質量%となる量が好ましく、10~70質量%となる量がより好ましく、20~60質量%となる量が更に好ましい。
溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の溶剤を併用する場合には、重合性組成物の全固形分が上記範囲内となるように調整されることが好ましい。
【0088】
溶剤としては、例えば、水、及び、有機溶剤が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、乳酸メチル、N-メチル-2-ピロリドン、及び、乳酸エチル等が挙げられる。
【0089】
重合性組成物は、上述した成分以外のその他の任意成分を更に含有してもよい。例えば、染料、上述した以外の粒子性成分(例えば、顔料、赤外線吸収剤)、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、増感剤、共増感剤、架橋剤、硬化促進剤、熱硬化促進剤、可塑剤、希釈剤、及び、感脂化剤等が挙げられ、更に、基板表面への密着促進剤及びその他の助剤類(例えば、導電性粒子、充填剤、消泡剤、難燃剤、レベリング剤、剥離促進剤、香料、表面張力調整剤、及び、連鎖移動剤等)等の公知の添加剤を必要に応じて含有してもよいし、含有しなくてもよい。
これらの成分は、例えば、特開2012-003225号公報の段落0183~0228(対応する米国特許出願公開第2013/0034812号明細書の段落0237~0309)、特開2008-250074号公報の段落0101~0102、段落0103~0104、段落0107~0109、及び特開2013-195480号公報の段落0159~0184等の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0090】
重合性組成物は、金属窒化物粒子及び/又は金属酸窒化物粒子が分散した分散液を製造し、得られた分散液を更にその他の成分と混合して調製することが好ましい。
分散液は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種、樹脂、並びに、溶剤を混合して調製することが好ましい。また、分散液に重合禁止剤を含有させることも好ましい。
【0091】
上記分散液は、上記の各成分を公知の混合方法(例えば、撹拌機、ホモジナイザー、高圧乳化装置、湿式粉砕機、又は、湿式分散機等を用いた混合方法)により混合して調製できる。
【0092】
重合性組成物の調製に際しては、各成分を一括配合してもよいし、各成分をそれぞれ、溶剤に溶解又は分散した後に逐次配合してもよい。また、配合する際の投入順序及び作業条件は特に制限されない。
【0093】
重合性組成物は、異物の除去及び欠陥の低減等の目的で、フィルタで濾過することが好ましい。フィルタとしては、例えば、従来からろ過用途等に用いられているフィルタであれば特に制限されずに使用できる。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、並びに、ポリエチレン及びポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(高密度、超高分子量を含む)等によるフィルタが挙げられる。これら素材の中でもポリプロピレン(高密度ポリプロピレンを含む)、又は、ナイロンが好ましい。
フィルタの孔径は、0.1~7.0μmが好ましく、0.2~2.5μmがより好ましく、0.2~1.5μmが更に好ましく、0.3~0.7μmが特に好ましい。この範囲とすれば、顔料(黒色顔料を含む)のろ過詰まりを抑えつつ、顔料に含まれる不純物及び凝集物等、微細な異物を確実に除去できるようになる。
フィルタを使用する際、異なるフィルタを組み合わせてもよい。その際、第1のフィルタでのフィルタリングは、1回のみでもよいし、2回以上行ってもよい。異なるフィルタを組み合わせて2回以上フィルタリングを行う場合は1回目のフィルタリングの孔径より2回目以降の孔径が同じ、又は、大きい方が好ましい。また、上述した範囲内で異なる孔径の第1のフィルタを組み合わせてもよい。ここでの孔径は、フィルタメーカーの公称値を参照できる。市販のフィルタとしては、例えば、日本ポール株式会社、アドバンテック東洋株式会社、日本インテグリス株式会社(旧日本マイクロリス株式会社)、及び、株式会社キッツマイクロフィルタ等が提供する各種フィルタの中から選択できる。
第2のフィルタは、上述した第1のフィルタと同様の材料等で形成されたフィルタを使用できる。第2のフィルタの孔径は、0.2~10.0μmが好ましく、0.2~7.0μmがより好ましく、0.3~6.0μmが更に好ましい。
重合性組成物は、不純物を含まないことが好ましい。これら材料に含まれる不純物の含有量は、1質量ppm以下が好ましく、1質量ppb以下がより好ましく、100質量ppt以下が更に好ましく、10質量ppt以下が特に好ましく、実質的に含まないこと(測定装置の検出限界以下であること)が最も好ましい。
なお、上記不純物は、誘導結合プラズマ質量分析装置(横河アナリティカルシステムズ製、Agilent 7500cs型)により測定できる。
【0094】
組成物層形成工程においては、露光に先立ち、光電変換膜等の上に、重合性組成物を付与して組成物の層(組成物層)を形成する。
【0095】
重合性組成物の塗布方法としては、例えば、スリット塗布法、インクジェット法、回転塗布法(スピンコート法)、流延塗布法、ロール塗布法、及び、スクリーン印刷法等の各種の塗布方法が挙げられる。
組成物層の膜厚は、0.1~10μmが好ましく、0.2~5μmがより好ましく、0.2~3μmが更に好ましい。光電変換膜等の支持体上に塗布された組成物層の乾燥(プリベーク)は、例えば、ホットプレート及びオーブン等で50~140℃の温度で10~300秒間で行える。
【0096】
[露光工程]
露光工程では、組成物層形成工程において形成された組成物層(乾燥膜)に活性光線又は放射線を照射して露光し、光照射された組成物層を硬化させる。
光照射の方法は、パターン状の開口部を有するフォトマスクを介して光照射することが好ましい。
露光は放射線の照射により行うことが好ましい。露光に際して使用できる放射線は、g線、h線、又は、i線等の紫外線が好ましく、光源は高圧水銀灯が好ましい。照射強度は5~1500mJ/cm2が好ましく、10~1000mJ/cm2がより好ましい。
なお、重合性組成物が熱重合開始剤を含有する場合、上記露光工程において、組成物層を加熱してもよい。加熱の温度として特に制限されないが、80~250℃が好ましい。また、加熱の時間は、30~300秒間が好ましい。
なお、露光工程において、組成物層を加熱する場合、後述する後加熱工程を兼ねてもよい。
【0097】
[現像工程]
現像工程は、露光後の上記組成物層を現像して無機物含有膜を形成する工程である。本工程により、露光工程における光未照射部分の組成物層が溶出し、光硬化した部分だけが残り、パターン状の無機物含有膜が得られる。
現像工程で使用される現像液の種類は特に制限されないが、アルカリ現像液が望ましい。
現像温度としては、例えば、20~30℃である。
現像時間としては、例えば、20~90秒間である。残渣をよりよく除去するため、120~180秒間実施する場合もある。更には、残渣除去性をより向上するため、現像液を60秒ごとに振り切り、更に新たに現像液を供給する工程を数回繰り返す場合もある。
【0098】
アルカリ現像液は、アルカリ性化合物を濃度が0.001~10質量%(好ましくは0.01~5質量%)となるように水に溶解して調製されたアルカリ性水溶液が好ましい。
アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム,珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、アンモニア水、エチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、コリン、ピロール、ピペリジン、及び、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等が挙げられる(このうち、有機塩基が好ましい。)。
なお、アルカリ現像液として用いた場合は、一般に現像後に水で洗浄処理が施される。
【0099】
[ポストベーク]
露光工程の後、加熱処理(ポストベーク)を行うことが好ましい。ポストベークは、硬化を完全にするための現像後の加熱処理である。その加熱温度は、240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましい。下限は特にないが、効率的かつ効果的な処理を考慮すると、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
ポストベークは、ホットプレート、コンベクションオーブン(熱風循環式乾燥機)、及び、高周波加熱機等の加熱手段を用いて、連続式又はバッチ式で行える。
【0100】
上記のポストベークは、低酸素濃度の雰囲気下で行うことが好ましい。その酸素濃度は、19体積%以下が好ましく、15体積%以下がより好ましく、10体積%以下が更に好ましく、7体積%以下が特に好ましく、3体積%以下が最も好ましい。下限は特にないが、10体積ppm以上が実際的である。
【0101】
また、上記の加熱によるポストベークに変え、UV(紫外線)照射によって硬化を完遂させてもよい。
この場合、上述した重合性組成物は、更にUV硬化剤を含有することが好ましい。UV硬化剤は、通常のi線露光によるリソグラフィー工程のために添加する重合開始剤の露光波長である365nmより短波の波長で硬化できるUV硬化剤が好ましい。UV硬化剤としては、例えば、IGM Resins B.V.社製Omnirad 2959(IRGACURE 2959(旧商品名、旧BASF社製)に対応)が挙げられる。UV照射を行う場合においては、組成物層が波長340nm以下で硬化する材料であることが好ましい。波長の下限値は特にないが、220nm以上が一般的である。またUV照射の露光量は100~5000mJが好ましく、300~4000mJがより好ましく、800~3500mJが更に好ましい。このUV硬化工程は、露光工程の後に行うことが、低温硬化をより効果的に行うために、好ましい。露光光源はオゾンレス水銀ランプを使用することが好ましい。
【0102】
<他の部材>
光学素子は、上述した光電変換膜及び無機物含有膜以外の他の部材を含有してもよい。
他の部材としては、例えば、光学素子は、光電変換膜を挟むように配置された2つの電極を含有することが好ましい。
電極の材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、金属ホウ化物、有機導電性化合物、又は、これらの混合物等が挙げられている。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム錫(ITO)、及び、酸化インジウムタングステン(IWO)等の導電性金属酸化物、金、白金、銀、クロム、ニッケル、及び、アルミニウム等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、及び、硫化銅等の無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、及び、ポリピロ-ル等の有機導電性材料、これらとITOとの積層物等が挙げられる。
【0103】
電極の形成方法としては、用いる材料によって適宜選択できる。例えば、酸化インジウム錫(ITO)の場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法等)、及び、酸化インジウム錫の分散物の塗布等の方法で形成することができる。
【0104】
光電素子は、絶縁膜を含有していてもよい。
絶縁膜が無機膜であってもよく、有機膜であってもよい。無機膜としては、酸化物膜が挙げられる。有機膜としては、樹脂膜が挙げられる。
【0105】
光電素子は、光電変換膜及び無機物含有膜を支持する支持体を含有していてもよい。
【0106】
<光学素子の製造方法>
本発明の光学素子の製造方法は特に制限されないが、生産性の点で、量子ドット、又は、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、及び、IV-IV族化合物半導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物半導体を含有する光電変換膜を製造する工程と、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する無機物含有膜を製造する工程とを含むことが好ましく、光電変換膜を製造する工程と無機物含有膜を製造する工程をこの順で含むことが更に好ましい。
光電変換膜を製造する工程は特に制限されないが、上述したように、量子ドットと溶剤とを含有する光電変換膜形成用組成物をスピンコート法で塗布する工程が好ましい。
【0107】
また、無機物含有膜を製造する工程は、金属窒化物及び金属酸窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する重合性組成物をスピンコート法で塗布する工程を含むことが好ましい。
また、無機物含有膜を製造する工程は、露光工程、及び、現像工程を含むことが好ましい。
【0108】
また、上記重合性組成物は、上述したように、重合性化合物及び重合開始剤を含むことが好ましい。
【0109】
<用途>
本発明の光学素子は、種々の用途に適用できる。
光学素子は、固体撮像し、赤外線センサー、カメラ、双眼鏡、顕微鏡、及び、半導体露光装置等の光学機器に適用できる。中でも、光学素子は、固体撮像素子、及び、赤外線センサーに含有されることが好ましい。
【実施例】
【0110】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0111】
<分散液の調製>
(分散液A-1の調製)
後述する手順で製造されたチタンブラック(a-1)(20質量部)に対し、後述の分散剤X-1(5.5質量部)を加え、固形分濃度が35質量%となるようにシクロペンタノン/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を3/2の比率(質量比)で加えた。得られた分散物を攪拌機により十分に攪拌し、プレミキシングを行った。得られた分散物に対し、シンマルエンタープライゼス社製のNPM Pilotを使用して下記分散条件にて分散処理を行い、分散液A-1(チタンブラック分散液A-1)を得た。
【0112】
分散条件
・ビーズ径:φ0.05mm
・ビーズ充填率:65体積%
・ミル周速:12m/sec
・セパレーター周速:13m/s
・分散処理する混合液量:15.0g
・循環流量(ポンプ供給量):60kg/hour
・処理液温度:57℃
・ビーズミル環状通路内容積:2.2L
・パス回数:84パス
【0113】
分散剤X-1(各繰り返し単位中の数値は全繰り返し単位に対する含有量(質量%)を表す。)
【0114】
【0115】
(チタンブラック(a-1)の製造)
平均一次粒子径15nmの酸化チタンMT-150A(商品名:テイカ(株)製)を100g、BET表面積300m2/gのシリカ粒子AEROPERL(登録商標)300/30(エボニック製)を25g、及び、分散剤Disperbyk190(商品名:ビックケミー社製)を100g秤量し、これらをイオン電気交換水71gに加えた混合物を得た。
その後、KURABO製MAZERSTAR KK-400Wを使用して、公転回転数1360rpm及び自転回転数1047rpmにて混合物を20分間処理することにより、混合液を得た。この混合液を石英容器に充填し、小型ロータリーキルン(株式会社モトヤマ製)を用いて酸素雰囲気中で920℃に加熱した。その後、窒素で小型ロータリーキルン内の雰囲気を置換し、同温度でアンモニアガスを小型ロータリーキルン内に100mL/minで5時間流すことにより窒化還元処理を実施した。終了後回収した粉末を乳鉢で粉砕し、Si原子を含み、粉末状のチタンブラック(a-1)〔チタンブラック(チタンの酸窒化物)粒子及びSi原子を含む被分散体。比表面積:73m2/g〕を得た。
【0116】
(分散液A-2の調製)
分散剤X-1の代わりに分散剤X-2を用いた以外は、分散液A-1と同様にして、分散液A-2(チタンブラック分散液A-2)を得た。
【0117】
分散剤X-2(各繰り返し単位中の数値は全繰り返し単位に対する含有量(質量%)を表す。)
【0118】
【0119】
(分散液A-3の調製)
チタンブラック(a-1)、分散剤X-1、及び、シクロペンタノン/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのかわりに、全質量に対して、後述する手順で製造された酸窒化ジルコニウム粉末ZrO-1が25.00質量%、分散剤X-1が8.33質量%、及び、溶剤(シクロペンタノン/PGMEA=3/2(質量比)の混合溶剤)が66.67質量%の含有量であるようにした以外は、分散液A-1と同様にして、分散液A-3(酸窒化ジルコニウム分散液A-3)を得た。
【0120】
(ZrO-1(酸窒化ジルコニウム粉末)の製造)
BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒子径が50nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末(7.4g)に、平均一次粒子径が150μmの金属マグネシウム粉末(7.3g)と平均一次粒子径が200nmの窒化マグネシウム粉末(9.0g)を添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの5.0倍モル、窒化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの0.5倍モルであった。この混合物を窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。この焼成物を、1リットルの水に分散し、10%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7~8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、上述と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、酸窒化ジルコニウム粉末ZrO-1を得た。
【0121】
(分散液A-4の調製)
酸窒化ジルコニウム粉末ZrO-1の代わりに,WO2019/059359号パンフレットの製造例1に記載の熱プラズマ法により製造したジルコニア化合物粒子Zr-1(日清エンジニアリング(株)製)を用いた以外は、分散液A-3と同様にして、分散液A-4(窒化ジルコニウム分散液A-4)を得た。
【0122】
(比較用分散液AA-1(樹脂被覆カーボンブラック分散液AA-1)の調製)
後述する手順によって得られた樹脂被覆カーボンブラック(30質量部)に対し、分散樹脂(10質量部)を加えた後、固形分濃度が35質量%となるようにPGMEAを加えた。
得られた分散物を攪拌機により十分に攪拌し、プレミキシングを行った。得られた分散物に対し、寿工業株式会社製のウルトラアペックスミルUAM015を使用して下記条件にて分散処理を行い、分散組成物を得た。分散終了後、フィルタによりビーズと分散液を分離して、樹脂被覆カーボンブラックを含有する比較用分散液AA-1(樹脂被覆カーボンブラック分散液AA-1)を得た。
【0123】
(樹脂被覆カーボンブラックの製造)
通常のオイルファーネス法で、カーボンブラックを製造した。但し、原料油として、Na分量、Ca分量、及び、S分量の少ないエチレンボトム油を用い、ガス燃料を用いて燃焼を行った。更に、反応停止水として、イオン交換樹脂で処理した純水を用いた。
ホモミキサーを用いて、得られたカーボンブラック(540g)を純水(14500g)と共に5,000~6,000rpmで30分間撹拌し、スラリーを得た。このスラリーをスクリュー型撹拌機付容器に移して、約1,000rpmで混合しながら、その容器内に、エポキシ樹脂「エピコート828」(ジャパンエポキシレジン社製)(60g)を溶解したトルエン(600g)を少量ずつ添加した。約15分間で、水に分散していたカーボンブラックは全量トルエン側に移行し、粒径約1mmの粒となった。
次に、60メッシュ金網で水切りを行った後、分離された粒を真空乾燥機に入れ、70℃で7時間乾燥し、トルエン及び水を除去して、樹脂被覆カーボンブラックを得た。得られた樹脂被覆カーボンブラックの樹脂被覆量は、カーボンブラックと樹脂の合計量に対して10質量%であった。
【0124】
<合成例1>
(重合性組成物1の調製)
下記の成分を攪拌機で混合することで、重合性組成物1を調製した。
・上記で調製された分散液A-1 63質量部
・アルカリ可溶性樹脂B-1 3.5質量部
・重合開始剤C-1 1.8質量部
・重合性化合物D-1 6.1質量部
・酸化防止剤F-1 0.003質量部
・界面活性剤G-1 0.02質量部
・シクロペンタノン/PGMEA=50/50 25.5質量部
【0125】
B-1:下記構造の化合物(各繰り返し単位中の数値は全繰り返し単位に対する含有量(質量%)を表し、以下の構造式中、左側から10質量%、45質量%、10質量%、10質量%、及び、25質量%であった。)
【0126】
【0127】
C-1:下記構造の化合物
【0128】
【0129】
D-1:NK エステル A-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学社製)
【0130】
酸化防止剤
F-1:p-メトキシフェノール
G-1:下記構造の化合物。重量平均分子量=15000。下記構造の62%、38%はモル比を表す。
【0131】
【0132】
<合成例2~14>
化合物の種類を表1のように変更した以外は、合成例1と同様の手順に従って、重合性組成物2~9、11~14を調製した。
なお、添加剤(E-1、E-2、E-3)を使用する場合、添加剤の使用量はE-1が1質量部、E-2が2.5質量部、E-3が1質量部であった。
また、「アルカリ可溶性樹脂」欄の「B-2/B-3=25/75」は、アルカリ可溶性樹脂全質量中、B-2を25質量%、B-3を75質量%使用したことを意味し、「B-3/B-4=50/50」は、アルカリ可溶性樹脂全質量中、B-3を50質量%、B-4を50質量%使用したことを意味し、「重合性化合物」欄の「D-2/D-3=50/50」は、重合性化合物全質量中、D-2を50質量%、D-3を50質量%使用したことを意味する。
【0133】
なお、重合性組成物10は、下記の成分を攪拌機で混合することで、調製した。
・分散液A-1 94質量部
・アルカリ可溶性樹脂B-1 0.9質量部
・重合開始剤C-1 1.0質量部
・重合性化合物D-1 3.0質量部
・酸化防止剤F-1 0.003質量部
・界面活性剤G-1 0.02質量部
・シクロペンタノン/PGMEA=50/50 0.9質量部
【0134】
【0135】
なお,表1記載の各成分は以下の通りである。
B-2:サイクロマーP(ACA)230AA(ダイセル化学工業(株)製)
B-3:下記構造の化合物(各繰り返し単位中の数値は全繰り返し単位に対する含有量(質量%)を表し、以下の構造式中、左側から70質量%、及び、30質量%であった。)
【0136】
【0137】
B-4:下記構造の化合物(各繰り返し単位中の数値は全繰り返し単位に対する含有量(質量%)を表し、以下の構造式中、左側から70質量%、10質量%、及び、20質量%であった。)
【0138】
【0139】
C-2:IRGACURE OXE02 (BASFジャパン製、オキシム系光重合開始剤)
D-2:KAYARAD DPHA (日本化薬(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物)
D-3:KAYARAD RP-1040 (日本化薬(株)製、4官能アクリレート)
E-1:下記構造の化合物。
【0140】
【0141】
E-2:下記方法により作製したシリカ分散液
IPA-ST-L(日産化学社製、中実シリカ粒子のイソプロパノール分散液、固形分濃度30質量%、平均一次粒子径45nm)100gにKP-983(信越シリコーン社製、シランカップリング剤)9gを混合し、混合液とした。この混合液に、1%酢酸水溶液を1.4g、蒸留水1.4gを加え、50℃で24時間攪拌した。その後、混合液に、固形分が20質量%になるように1-メトキシ-2-プロパノールを添加して、シリカ分散液E-2を得た。
【0142】
E-3:EHPE 3150 (ダイセル化学工業(株)製、エポキシ化合物)
【0143】
<実施例1>
(量子ドット分散液の作製)
フラスコ中にオレイン酸(1.28mL)と、酸化鉛(2mmol)と、オクタデセン(38mL)とを測りとり、真空下110℃で90分加熱することで、前駆体溶液を得た。その後、前駆体溶液の温度を95℃に調整し、系を窒素フロー状態にし、次いで、ヘキサメチルジシラチアン(1mmol)をオクタデセン(5mL)と共に注入した。注入後すぐにフラスコを自然冷却し、30℃になった段階でヘキサン(12mL)を加え、溶液を回収した。溶液に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物をオクタンに分散させ、PbS量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位したPbS量子ドットの分散液(濃度10mg/mL)を得た。
得られたPbS量子ドットの分散液について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もったPbS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.32eVであった。
【0144】
(光電変換膜(L-1)の作製)
フッ素ドープ酸化錫膜付き石英ガラス基板上に酸化チタン膜を50nmスパッタリングで成膜した。次に、上記で得られたPbS量子ドットの分散液を上記基板に成膜した酸化チタン膜上に滴下し、2500rpmでスピンコートして、PbS量子ドット集合体膜を形成した(工程1)。次いで、このPbS量子ドット集合体膜上に、配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸のメタノール溶液(濃度0.1mol/L)を滴下した後、1分間静置し、2500rpmでスピンドライを行った。次いで、メタノールをPbS量子ドット集合体膜上に滴下し、2500rpmで20秒間スピンドライを行うことで、PbS量子ドットに配位している配位子を、オレイン酸から3-メルカプトプロピオン酸に配位子交換した(工程2)。工程1と工程2とを1サイクルとする操作を光電変換膜の厚さが100nmになるまで繰り返し、配位子がオレイン酸から3-メルカプトプロピオン酸に配位子交換されたPbS量子ドット集合体膜である光電変換膜(L-1)を100nmの厚さで形成した。
【0145】
(金属酸窒化物含有膜の作製)
上記で得られた重合性組成物1を、光電変換膜(L-1)上に、スピンコート法により塗布し、最終的に得られる無機含有膜の厚さが1.0μmとなるように塗膜を形成した。塗膜付き基板に対して100℃で120秒間のプリベイクを行った。次に、開口線幅50μmのL/S(ラインアンドスペース)パターンのマスクを介して、UX-1000SM-EH04(商品名、ウシオ電機株式会社製)を用いて、高圧水銀ランプ(ランプパワー50mW/cm2)にて、プロキシミティ方式による露光(露光量:1000mJ/cm2)を、塗膜付き基板に対して行った。次に、AD-1200(ミカサ株式会社製)を使用して現像液「CD-2060」(商品名、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)で15秒間パドル現像した。次いで、シャワーノズルを用いて純水で30秒間洗浄して、未硬化部を除去することにより、光電変換膜(L-1)上に無機物含有膜(厚み:1.0μm)を形成して、光学素子を作製した。
【0146】
<実施例2~6、8~14>
重合性組成物1の代わりに表2に示すように重合性組成物2~14をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学素子を作製した。
【0147】
<実施例7>
実施例1の光電変換膜(L-1)をInGaAs層(L-2)に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学素子を作製した。
なお、InGaAs層の作製は有機金属気層成長法(MOCVD)により行った。
【0148】
<比較例1>
無機物含有膜を設けなかった以外は、実施例7と同様の手順に従って、光学素子を作製した。
つまり、比較例1の光学素子には、無機物含有膜が含まれていない。
【0149】
<評価>
(1550nmのOD評価)
重合性組成物1~14をそれぞれガラス基板上に、スピンコート法により塗布し、最終的に得られる無機物含有膜の厚さが1.0μmとなるように塗膜を形成した。塗膜付き基板に対して100℃で120秒間のプリベイクを行った。次に、UX-1000SM-EH04(商品名、ウシオ電機株式会社製)を用いて、高圧水銀ランプ(ランプパワー50mW/cm2)にて、プロキシミティ方式による全面露光(露光量:1000mJ/cm2)を、塗膜付き基板に対して行い、ガラス基板上に無機物含有膜(厚み:1.0μm)を形成して、OD評価用試料1~9を作製した。なお、OD評価用試料の番号は重合性組成物の番号に対応しており、例えば、重合性組成物1を用いて作製した試料はOD評価用試料1である。
次に、OD評価用試料1~14を用いて、分光光度計U-4100(日立ハイテクノロジーズ製)と積分球型受光ユニットとを組み合わせた装置により、1550nmにおける透過率を測定した。
1550nmにおける透過率(%)の値から次の式よりOD値を算出した。
OD=-log10(1550nmにおける透過率(%))
【0150】
(信頼性)
信頼性試験機(HASTEST MODEL304R8、HIRAYAMA製)を用いて、実施例及び比較例にて得られた光学素子に対して温度130℃/湿度85%の条件で250時間の高温高湿試験を行った後、光電変換膜部分の表面を光学顕微鏡で観察し、クラックの個数をカウントして、1cm2当たりに換算して、下記評価基準に従ってクラックの有無を評価した。
「A」:クラックの1cm2あたりの個数が0個であった。
「B」:クラックの1cm2あたりの個数が1~10個であった。
「C」:クラックの1cm2あたりの個数が11個以上であった。
【0151】
【0152】
上記表に示すように、本発明の光学素子は所望の効果を示した。
また、実施例1~7と9との比較より、酸化防止剤を使用した場合、より優れた効果が得られた。
また、重合開始剤C-1と重合開始剤C-2とを併用しても同様の効果が得られる。
さらに、界面活性剤G-1を添加しない場合も同様の効果が得られる。
また、光学素子が無機物含有膜以外の膜を含む場合も同様の効果が得られる。