(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】無機固体電解質含有組成物、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231221BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231221BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231221BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231221BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231221BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20231221BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20231221BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20231221BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/052
C08K3/00
C08L33/00
C08L101/02
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2022532519
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2021023810
(87)【国際公開番号】W WO2021261526
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2020110647
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】望月 宏顕
(72)【発明者】
【氏名】串田 陽
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098009(WO,A1)
【文献】特開2018-088306(JP,A)
【文献】特開2015-103451(JP,A)
【文献】特開2019-207840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01B 1/06
C08K 3/00
C08L 101/02
C08L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマーバインダーを構成する成分と、分散媒とを含有する無機固体電解質含有組成物であって、
前記ポリマーバインダーを構成する成分が、下記(C1)~(C3)の少なくとも1つに規定する化合物を含む、無機固体電解質含有組成物。
(C1)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に少なくとも1種有するポリマーC1-1
のうちSP値が21.0MPa
1/2
以下のポリマー、及び、活性水素原子を有し、該活性水素原子を含んで前記水素結合性基(BHa)と水素結合を形成しうる水素結合性基(BHb)を有する、CLogP値が1.5以上の化合物C1-2
(C2)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有するポリマーであって、SP値が22.5
MPa
1/2
以下のポリマーC2
(C3)前記ポリマーC1-1
のうち前記分散媒に溶解する2種以上のポリマー、又は、1種以上の前記ポリマーC1-1と1種以上の前記ポリマーC2
【請求項2】
前記ポリマーC1-1又はC2が(メタ)アクリルモノマー又はビニルモノマーに由来する構成成分を有する、請求項1に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項3】
前記水素結合性基(BHa)が前記構成成分に導入されている、請求項2に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項4】
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項5】
前記分散媒がケトン化合物、脂肪族化合物及びエステル化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項6】
活物質を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項7】
導電助剤を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
【請求項9】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項1~7のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層である、全固体二次電池。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質含有組成物、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池において、構成層(固体電解質層、負極活物質層、正極活物質層等)を形成する物質として、無機固体電解質、活物質等が挙げられる。この無機固体電解質、特に酸化物系無機固体電解質及び硫化物系無機固体電解質は、近年、有機電解液に迫る高いイオン伝導度を有する電解質材料として注目されている。
全固体二次電池の構成層を形成する材料(構成層形成材料)として、上述の無機固体電解質等を含有する材料が提案されている。例えば、特許文献1には、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、側鎖成分として数平均分子量1,000以上のマクロモノマー(X)を組み込んだポリマーで構成された平均粒子径が10nm以上1,000nm以下のバインダー粒子(B)と、分散媒(C)とを含む固体電解質組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の構成層は固体粒子(無機固体電解質、活物質、導電助剤等)で形成されるため、固体粒子同士の界面接触状態が制約されて、界面抵抗が上昇(イオン伝導度が低下)しやすくなる。
固体粒子同士の界面抵抗の上昇に伴って全固体二次電池の電池抵抗も上昇する。更に、電池抵抗の上昇は、全固体二次電池の充放電で発生する固体粒子間の空隙により更に加速され、ひいては全固体二次電池のサイクル特性の低下を招く。
電池抵抗の増大は、固体粒子同士の界面接触状態だけでなく、構成層中に固体粒子が不均一に存在(配置)していること、更には構成層の表面平滑性(表面平坦性ともいう)も要因となる。そのため、構成層を構成層形成材料で形成する場合、構成層形成材料には、調製直後の固体粒子の分散性だけではなく、調製直後の固体粒子の分散性を安定して維持する特性(分散安定性)と、表面が平坦な(表面性のよい)塗膜を形成しやすい特性(表面平滑性)も要求される。
【0006】
しかし、特許文献1は、このような観点に基づく検討はなされてない。そのうえ、近年、電気自動車の高性能化、実用化等の研究開発が急速に進行し、全固体二次電池に求められる電池性能(例えばサイクル特性)に対する要求が一層高くなっている。
【0007】
本発明は、分散安定性及び表面平滑性に優れた無機固体電解質含有組成物であって、全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、電池抵抗の更なる上昇抑制と優れたサイクル特性とを実現できる無機固体電解質含有組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この無機固体電解質含有組成物を用いた、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、無機固体電解質等の固体粒子及び分散媒と併用されるポリマーバインダーに着目して種々検討を重ねた結果、ポリマーバインダーを構成する成分(バインダー構成成分という。)として、ポリマーの側鎖に2つ以上の水素結合を形成可能な水素結合性基(BHa)を導入したうえで、この水素結合性基(BHa)を利用してポリマーの分散媒に対する溶解度を制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、無機固体電解質及び分散媒を含有する無機固体電解質含有組成物において、ポリマーの側鎖に導入した水素結合性基(BHa)を利用して、このポリマーを含むバインダー構成成分について分散媒に対する溶解性を発現させることにより、無機固体電解質等の固体粒子の経時による再凝集若しくは沈降等を抑制しながらも、表面が平坦な塗膜を形成できることを見出した。一方、無機固体電解質含有組成物を用いて製膜する際に、上記水素結合性基(BHa)を利用してバインダー構成成分について分散媒に対する溶解性を低減させ、ポリマーバインダーとして固化若しくは析出させることにより、界面抵抗の上昇を抑えながら無機固体電解質同士を結着させることができることを見出した。その結果、この無機固体電解質含有組成物を構成層形成材料として用いることにより、固体粒子同士の界面抵抗の上昇を抑制しながらも固体粒子同士を結着させた表面が平坦な構成層を、経時による再凝集等を抑制しながら形成でき、電池抵抗の上昇抑制と優れたサイクル特性とを実現可能な全固体二次電池を製造できること、を見出した。
本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマーバインダーを構成する成分と、分散媒とを含有する無機固体電解質含有組成物であって、
ポリマーバインダーを構成する成分が、下記(C1)~(C3)の少なくとも1つに規定する化合物を含む、無機固体電解質含有組成物。
(C1)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に少なくとも1種有するポリマーC1-1、及び、活性水素原子を有し、この活性水素原子を含んで水素結合性基(BHa)と水素結合を形成しうる水素結合性基(BHb)を有する、CLogP値が1.5以上の化合物C1-2
(C2)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有するポリマーであって、SP値が22.5以下のポリマーC2
(C3)2種以上の上記ポリマーC1-1、又は、1種以上の上記ポリマーC1-1と1種以上の上記ポリマーC2
<2>ポリマーC1-1又はC2が(メタ)アクリルモノマー又はビニルモノマーに由来する構成成分を有する、<1>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<3>水素結合性基(BHa)が構成成分に導入されている、<2>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<4>無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<5>分散媒がケトン化合物、脂肪族化合物及びエステル化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<6>活物質を含有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<7>導電助剤を含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<8>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
<9>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1つの層が、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層である、全固体二次電池。
<10>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
<11>上記<10>に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、分散安定性及び表面平滑性に優れた無機固体電解質含有組成物であって、全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、電池抵抗の更なる上昇抑制(イオン伝導度の増大)と優れたサイクル特性とを実現できる無機固体電解質含有組成物を提供できる。また、本発明は、この無機固体電解質含有組成物で構成した層を有する、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池を提供できる。更に、本発明は、この無機固体電解質含有組成物を用いた、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法を提供できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】
図2は実施例で作製したコイン型全固体二次電池を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、実施例での表面平滑性試験における層厚測定箇所を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本発明において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、例えば後述する置換基Zが挙げられる。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
本発明において、ポリマーは、重合体を意味するが、いわゆる高分子化合物と同義である。また、ポリマーバインダーは、ポリマーで構成されたバインダーを意味し、ポリマーそのもの、及びポリマーを含んで形成されたバインダーを包含する。本発明においては、ポリマーバインダーは後述するバインダー構成成分から形成され、バインダー構成成分(C1)の場合、ポリマーバインダーは化合物C1-2を含んでいてもいなくてもよい。
【0013】
[無機固体電解質含有組成物]
本発明の無機固体電解質含有組成物は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、バインダー構成成分と、分散媒とを含有する。
無機固体電解質含有組成物が含有する、バインダー構成成分は、無機固体電解質含有組成物で形成した構成層中において、ポリマーバインダーを構成しており、無機固体電解質(更には、共存しうる、活物質、導電助剤)等の固体粒子同士(例えば、無機固体電解質同士、無機固体電解質と活物物質、活物質同士)を結着させる結着剤として、機能する。更には、集電体と固体粒子とを結着させる結着剤として機能することもある。
バインダー構成成分は、無機固体電解質含有組成物中においては、下記(C1)~(C3)の少なくとも1つに規定する化合物若しくは化合物の組み合わせを含んでいる。本発明においては、(C1)~(C3)のいずれかで規定する各化合物を適宜に組み合わせることもできるが、(C1)~(C3)のいずれかで規定する化合物若しくは化合物の組み合わせを含むことがよい。
(C1)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に少なくとも1種有するポリマーC1-1、及び、活性水素原子を有し、この活性水素原子を含んで上記水素結合性基(BHa)と水素結合を形成しうる水素結合性基(BHb)を有する、CLogP値が1.5以上の化合物C1-2の組み合わせ
(C2)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有するポリマーであって、SP値が22.5以下のポリマーC2
(C3)2種以上のポリマーC1-1、又は、1種以上のポリマーC1-1と1種以上のポリマーC2の組み合わせ
【0014】
無機固体電解質含有組成物中において、バインダー構成成分、ポリマーバインダーは、固体粒子同士を結着させる機能を有していてもいなくてもよい。
【0015】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質が分散媒中に分散したスラリーであることが好ましい。無機固体電解質含有組成物において、上記(C1)~(C3)のいずれかで規定されるバインダー構成成分は、無機固体電解質含有組成物中に含有する分散媒に対する溶解性(可溶性)を示し、無機固体電解質含有組成物中において分散媒に溶解している。
本発明において、バインダー構成成分が分散媒に溶解しているとは、例えば、溶解度測定において溶解度が50%以上であることをいう。バインダー構成成分の溶解度の測定方法は下記の通りである。
すなわち、バインダー構成成分(固体)約0.1gを精秤し、精秤した質量をW0とする。次いで、バインダー構成成分と分散媒10gを容器へ入れ、ミックスローター(型番VMR-5、アズワン社製)にて25℃、100rpmで48時間混合する。その後、溶液から不溶解物をろ過し、得られた固体を120℃で3時間真空乾燥して、その不溶解物の質量W1を精秤する。そして、下記式に従って算出した値をバインダー構成成分の分散媒への溶解度(%)とする。
溶解度(%)=(W0-W1)/W0×100
【0016】
無機固体電解質含有組成物中に溶解しているバインダー構成成分は、無機固体電解質等の固体粒子に吸着して分散媒中に分散させる機能を有する。これにより、無機固体電解質含有組成物の分散安定性及び表面平滑性(併せて分散特性ということがある。)を高めることができる。ここで、バインダー構成成分の固体粒子に対する吸着は、物理的吸着だけでなく、化学的吸着(化学結合形成による吸着、電子の授受による吸着等)も含む。
【0017】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、分散安定性及び表面平滑性に優れる。この無機固体電解質含有組成物を構成層形成材料として用いることにより、表面が平坦で表面性に優れた構成層を有する全固体二次電池用シート、更には低抵抗でサイクル特性に優れた全固体二次電池を実現できる。
集電体上に形成される活物質層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成する態様においては、集電体と活物質層との密着性にも優れ、サイクル特性の更なる向上を図ることができる。
【0018】
その理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。
すなわち、無機固体電解質含有組成物中において、バインダー構成成分に含まれるポリマーC1-1は、通常、水素結合性基(BHa)が分子内で水素結合を形成しやすいため分散媒に完全には溶解しない。しかし、ポリマーC1-1に対して、水素結合を形成しうる化合物C1-2又はポリマー(異種のポリマーC1-1、又はポリマーC2等)を共存させると、ポリマーC1-1の分子内水素結合が部分的に切断され、ポリマーC1-1と化合物又はポリマーとの分子間水素結合が形成されると考えられる。また、バインダー構成成分に含まれるポリマーC2は、SP値が22.5以下であるため、無機固体電解質含有組成物中においては、水素結合性基が分子間で水素結合を形成しやすく、分散媒に対する溶解性が高まると考えられる。こうして分子間水素結合を形成したポリマーC1-1及びC2は分散媒に対する溶解性が高まって分散媒に溶解し、分散媒への溶解状態を維持しながら固体粒子に適度に吸着していると考えられる。その結果、無機固体電解質含有組成物の調製直後だけでなく、経時後においても無機固体電解質の再凝集若しくは沈降等を抑えて、調製直後の高度な分散性を安定して維持できる(分散安定性に優れる)とともに、粘度の過度な増加をも抑えて良好な流動性を発現して塗膜表面の平坦性を実現できる(ハンドリング性に優れる)。
【0019】
一方、本発明の無機固体電解質含有組成物を用いて構成層を形成すると、構成層の製膜時(例えば、無機固体電解質含有組成物の塗布時、更には乾燥時)に、ポリマーC1-1及びC2に形成された分子間水素結合が切断され、代わりに分子内水素結合が形成されると考えられる。各ポリマーは、分子内水素結合が形成されるにつれて、分散媒に対する溶解性を維持できなくなって固化又は析出してポリマーバインダーを形成し、固体粒子の表面を全体的に被覆せずに部分的に被覆(吸着)すると考えられる。これにより、固体粒子同士の接触をポリマーバインダーの存在によって阻害せず、固体粒子同士の接触によるイオン伝導パスを十分に構築(固体粒子同士の界面抵抗の増大を抑制)しながら、固体粒子同士を結着できる。
更に、本発明の無機固体電解質含有組成物は、構成層の製膜時においても分散特性を維持でき、構成層中の固体粒子の接触状態のバラツキを抑えて(構成層中の固体粒子の配置を一様にする)、固体粒子の一様な接触(密着)を確保できると考えられる。これに加えて、無機固体電解質含有組成物は製膜しやすく、製膜時に無機固体電解質含有組成物が適度に流動(レべリング)して、流動不足又は過剰な流動に起因する凹凸の表面粗れ、更には製膜時に吐出部への詰りに起因する表面粗れ等のない(製膜表面の平坦性に優れた)構成層となる。こうして、表面が平坦(層厚が均一)で低抵抗な(高伝導度の)構成層を有する全固体二次電池用シートを実現できると考えられる。
【0020】
上述の特性を示す構成層を備えた全固体二次電池は、通常条件で充放電を繰り返しても優れたサイクル特性を示す。
ところで、電気自動車用の全固体二次電池においては、実用化に向けた高出力での充放電(高速充放電)により、電池抵抗の更なる上昇、サイクル特性の低下が早期かつ顕著になる。しかし、本発明の全固体二次電池は、通常条件での充放電に加えて大電流での高速充放電を可能とする。しかも、高速充放電においても活物質等の膨張収縮による空隙の発生が効果的に抑えられ、優れたサイクル特性を実現できる。
【0021】
活物質層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成する場合、上述のように、調製直後の高度(均一)な分散状態を維持したままで構成層が形成される。そのため、優先的に沈降等した固体粒子によってポリマーバインダーの集電体表面への接触(密着)が阻害されることなく、ポリマーバインダーが固体粒子と分散した状態で集電体表面と接触(密着)できると考えられる。これにより、集電体上に活物質層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した全固体二次電池用電極シートは集電体と活物質との強固な密着性を実現できる。また集電体上に活物質層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した全固体二次電池は、集電体と活物質との強固な密着性を示してサイクル特性及び伝導度の更なる向上を実現できる。
【0022】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、全固体二次電池用シート(全固体二次電池用電極シートを含む。)又は全固体二次電池の、固体電解質層又は活物質層の形成材料(構成層形成材料)として好ましく用いることができる。特に、充放電による膨張収縮が大きい負極活物質を含む全固体二次電池用負極シート又は負極活物質層の形成材料として好ましく用いることができ、この態様においても高いサイクル特性、更には高伝導度を達成できる。
【0023】
本発明の無機固体電解質含有組成物は非水系組成物であることが好ましい。本発明において、非水系組成物とは、水分を含有しない態様に加えて、含水率(水分含有量ともいう。)が好ましくは500ppm以下である形態をも包含する。非水系組成物において、含水率は、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。無機固体電解質含有組成物が非水系組成物であると、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、無機固体電解質含有組成物中に含有している水の量(無機固体電解質含有組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0024】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質に加えて、活物質、更には導電助剤等を含有する態様も包含する(この態様の組成物を電極組成物という。)。
以下、本発明の無機固体電解質含有組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0025】
<無機固体電解質>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。例えば、無機固体電解質としては、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iv)水素化物系無機固体電解質が挙げられ、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
【0026】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0027】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(S1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (S1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0028】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0029】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0030】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0031】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0032】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0033】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素元素の一部を窒素元素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0034】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLi3YBr6、Li3YCl6等の化合物が挙げられる。中でも、Li3YBr6、Li3YCl6が好ましい。
【0035】
(iv)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH4、Li4(BH4)3I、3LiBH4-LiCl等が挙げられる。
【0036】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の平均粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
無機固体電解質の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要により日本産業規格(JIS) Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0037】
無機固体電解質は、1種を含有していても、2種以上を含有していてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
ただし、無機固体電解質含有組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0038】
無機固体電解質の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に制限されないが、結着性の点、更には分散性の点で、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、無機固体電解質含有組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質含有組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、無機固体電解質含有組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下150℃で6時間乾燥処理したときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0039】
<ポリマーバインダー及びバインダー構成成分>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上述のように、構成層中で結着剤として機能するポリマーバインダーを構成する成分として、下記(C1)~(C3)の少なくとも1つに規定する化合物又は化合物の組み合わせを含有している。本発明において、無機固体電解質含有組成物がバインダー構成成分を含有するというときは、バインダー構成成分の一部がポリマーバインダーを形成している態様を包含する。
【0040】
(ポリマーバインダー)
バインダー構成成分は、無機固体電解質含有組成物の成膜時等にポリマーバインダーを形成する。ポリマーC1-1又はC2に分子内水素結合が選択的に形成されるためと考えられる。こうして形成される構成層中に含有するポリマーバインダーは、(C1)~(C3)のいずれかで規定されるポリマーC1-1若しくはC2の(分子内)水素結合物ということができる。ポリマーバインダーは、(C1)~(C3)のいずれかで規定される化合物の種類、水素結合性基の種類若しくは組み合わせ等によって一義的に決定されるものではなく、本発明においては、(メタ)アクリルポリマー又はビニルポリマーの水素結合物が好ましい。
水素結合性基(BHa)を有するポリマーC1-1又はC2は、分子内水素結合の形成数が多くなるほど分散媒に対する溶解性が低下し、分子間水素結合の形成数が多くなるほど分散媒に対する溶解性が増大すると考えられる。そこで、本発明は、ポリマーC1-1又はC2の分子内水素結合量の増減により、分散媒に対する溶解性を制御することができる。これにより、無機固体電解質含有組成物における分散特性の改善と、構成層における固体粒子同士の結着機能及び界面抵抗の上昇抑制とを実現できる。
構成層が含有するポリマーバインダーは、1種でも2種以上でもよい。
本発明において、構成層がポリマーバインダーを含有するというときは、バインダー構成成分を含有(残存)する態様を包含する。
【0041】
(ポリマーバインダーを構成する成分)
バインダー構成成分は、下記(C1)に規定する化合物の組み合わせ、(C2)に規定する化合物、及び(C3)で規定される化合物の組み合わせ、の少なくとも1つである。
【0042】
(C1)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に少なくとも1種有するポリマーC1-1と、活性水素原子を有する水素結合性基(BHb)であって、この活性水素原子を含んでポリマーの水素結合性基(BHa)と水素結合を形成しうる水素結合性基(BHb)を有する、CLogP値が1.5以上の化合物C1-2との組み合わせ
上記(C1)の組み合わせにおいて、化合物C1-2は、無機固体電解質含有組成物(分散媒)中でポリマーC1-1と分子間水素結合を形成しやすく、分散媒に溶解する。この点で、化合物C1-2はポリマーC1-1の相溶化剤ということができる。
【0043】
(C2)2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有するポリマーであって、SP値が22.5以下のポリマーC2
【0044】
(C3)2種以上のポリマーC1-1、又は、1種以上のポリマーC1-1と1種以上のポリマーC2
【0045】
まず、バインダー構成成分(C1)について、説明する。
- ポリマーC1-1 -
ポリマーC1-1は、2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に少なくとも1種有している。
水素結合性基(BHa)は、2以上の水素結合を形成することができる置換基若しくは連結基であれば特に制限されない。この水素結合性基(BHa)は、一つの置換基(連結基)内に、水素原子を受け入れるアクセプター部位(非共有電子対)、及び水素原子を供給するドナー部位(水素結合可能な水素原子)の少なくとも一方を含む置換基であり、好ましくは、水素結合性基(BHa)の少なくとも1種はアクセプター部位及びドナー部位をそれぞれ1個以上含む基である。
【0046】
水素結合性基(BHa)は、通常、他の水素結合性基(BHa)又は後述する化合物C1-2が有する水素結合性基(BHb)と水素結合を形成するが、本発明の作用効果を損なわない範囲で、水素結合性基(BHa)の一部が1つの基内で水素結合を形成してもよい。
【0047】
水素結合性基(BHa)が形成し得る水素結合の数は、2以上であればよく、水素結合の形成のし易さの点で、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。上限は、特に限定されないが、実際的には10以下であり、無機固体電解質含有組成物中での溶解性を高める点で、5以下であることが好ましい。
水素結合性基(BHa)が有するアクセプター部位及びドナー部位の合計数は、通常、水素結合性基(BHa)が形成し得る水素結合の数と同義である。
【0048】
水素結合性基(BHa)が有するアクセプター部位及びドナー部位の組み合わせは、特に制限されず、適宜に決定されるが、強固な水素結合を形成できる点で、アクセプター部位とドナー部位との両方を含む組み合わせが好ましく、水素結合性基を構成する分子鎖においてアクセプター部位(ドナー部位の水素原子が共有結合するヘテロ原子を除く)とドナー部位とが交互に配置される組み合わせ(例えば、ウレア基、ウレタン基)がより好ましい。
【0049】
アクセプター部位(非共有電子対)としては、特に限定されないが、例えば、カルボニル基(>C=O)の酸素原子、チオカルボニル基(>C=S)の硫黄原子、エナミン又は複素環を形成する=N-、更には、エーテル基(水酸基を含む)、アミノ基若しくはチオエーテル基(スルファニル基(-SH)を含む)が有する酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子、リン酸基等が含む=P-等が挙げられ、中でも、水素原子とより強い水素結合を形成する点で、上記=N-、上記各基中の酸素原子、上記各基中の窒素原子が好ましい。
【0050】
ドナー部位としては、特に限定されず、水素結合可能な水素原子、通常、酸素、窒素等のヘテロ原子に結合した水素原子(活性水素原子)が挙げられる。例えば、窒素原子と共有結合している水素原子、酸素原子と共有結合している水素原子、硫黄原子と共有結合している水素原子、リン原子と共有結合している水素原子等が挙げられる。中でも、アクセプター部位とより強い水素結合を形成する点で、窒素原子と共有結合している水素原子、又は酸素原子と共有結合している水素原子が好ましい。
ここで、水素原子が共有結合している窒素原子は、1級若しくは2級アミノ基に限定されず、水素原子が共有結合しているのであれば、ウレタン基、ウレア基等の官能基に含まれる窒素原子を包含する。リン原子についても同様である。
【0051】
水素結合性基(BHa)としては、アクセプター部位とドナー部位とを適宜に組み合わせて構成される基が挙げられる。アクセプター部位としてカルボニル基(>C=O)の酸素原子と、ドナー部位との組み合わせが好ましい。
水素結合性基(BHa)の具体例としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシ基等の酸性基、スルファニル基、1級若しくは2級アミノ基、1級若しくは2級アミド基(アミド結合:-CO-NRa-を含む。)、ウレタン基(ウレタン結合:-O-CO-NRa-を含む。)、ウレア基(ウレア結合:-NRa-CO-NRa-を含む。)、カーボネート基(カーボネート結合:-O-CO-O-を含む。)、アルキレンジアミン構造、アルキレンアミノエーテル構造が挙げられる。これら以外にも、一般に良く知られている核酸塩基の例(アデニンとチミン/グアニンとシトシン)、更には、レーン超分子化学(化学同人・1997;J-M.Lehn著、竹内敬人訳)9章145~206頁、超分子化学への展開(岩波書店・2000;有賀克彦・国武豊喜著)4章63~71頁、Chem.Rev.,94,2383-2420(1994)、Polym.Int.,51,825-839(2002)、Chem.Rev.,101,4071-4097(2001)等に記載のものが挙げられる。上記Raはそれぞれ水素原子又は置換基(好ましくは後述する置換基Zから選択される)を示し、水素原子が好ましい。
中でも、水酸基、スルファニル基等の置換基、アミド基、ウレタン基、ウレア基等の置換基若しくは連結基(結合)が好ましい。
【0052】
ポリマーC1-1は、上述の水素結合性基(BHa)を少なくとも1種有していればよく、2~5種有していてもよい。無機固体電解質含有組成物中において分子間水素結合を優先的に形成することによる分散媒に対する溶解向上、及び製膜過程において分子内水素結合を優先的に形成することによる分散媒に対する溶解性低減を考慮すると、1種であることが好ましい。
1分子のポリマーC1-1が有する水素結合性基(BHa)の数は、1個以上であればよいが、強い水素結合を形成できる点で、2以上有することが好ましい。水素結合性基(BHa)の数は、一義的に決定できないが、後述する水素結合性構成成分が有する水素結合性基(BHa)の数及び水素結合性構成成分の含有量等によって適宜に決定される。
この水素結合性基(BHa)は、ポリマーC1-1の側鎖に有しており、側鎖に連結基又は(末端)置換基として導入されていることが好ましく、側鎖に連結基として導入されていることがより好ましい。
本発明において、ポリマーの主鎖とは、ポリマーを構成する、それ以外のすべての分子鎖が、主鎖に対して枝分れ鎖若しくはペンダントとみなしうる線状分子鎖をいう。枝分れ鎖若しくはペンダント鎖とみなす分子鎖の質量平均分子量にもよるが、典型的には、ポリマーを構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖となる。ただし、ポリマー末端が有する末端基は主鎖に含まない。また、ポリマーの側鎖とは、主鎖以外の分子鎖をいい、短分子鎖及び長分子鎖を含む。
本発明において、ポリマーの側鎖に水素結合性基(BHa)を有するとは、水素結合性基(BHa)がポリマーの主鎖を構成する原子に間接的に結合していることを意味し、主鎖を構成する原子に直接結合する態様を包含しない。例えば、ポリマーC1-1が(メタ)アクリルモノマーに由来する構成成分を有している場合、この(メタ)アクリルモノマーが有するエステル結合(主鎖を構成する原子に直接結合するもの)は、上記水素結合性基(BHa)に含めない。なお、本発明においては、水素結合性基(BHa)をポリマーの主鎖に含んでいてもよいが、含んでいないことが好ましい。
【0053】
ポリマーの主鎖と連結基又は(末端)置換基として導入される水素結合性基(BHa)とを連結する基としては、特に制限されず、適宜に選択される。例えば、アルキレン基(炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が更に好ましい)、アルケニレン基(炭素数は2~6が好ましく、2~3がより好ましい)、アリーレン基(炭素数は6~24が好ましく、6~10がより好ましい)、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(-NRN-:RNは水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数6~10のアリール基を示す。)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はこれらの組み合わせに係る基等が挙げられる。アルキレン基と酸素原子とを組み合わせてポリアルキレンオキシ鎖を形成することもできる。
連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、酸素原子、硫黄原子及びイミノ基を組み合わせてなる基が好ましく、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、酸素原子及びイミノ基を組み合わせてなる基がより好ましく、-CO-O-基、-CO-N(RN)-基(RNは上記の通りである。)又はアリーレン基を含む基が更に好ましく、-CO-O-アルキレン基、-CO-N(RN)-アルキレン基等が特に好ましい。
本発明において、上記連結する基を構成する原子の数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることが更に好ましい。連結する基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ最少の原子数をいう。例えば、-C(=O)-O-CH2-の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。
一方、水素結合性基(BHa)を連結基として導入する場合、水素結合性基(BHa)に結合する末端置換基としては、特に制限されず、適宜に選択される。例えば、下記置換基Zから選択される基が挙げられ、中でも、アルキル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基等が好ましく挙げられる。
【0054】
ポリマーC1-1は、水素結合性基(BHa)に加えて、1つの水素結合を形成しうる水素結合性基(アクセプター部位)を有していてもよい。
【0055】
ポリマーC1-1は、無機固体電解質含有組成物中において、分散媒との親和性改善により分散媒への溶解性が高まる点で、SP値が小さいことが好ましく、例えば、後述する算出方法によるSP値が21.0MPa1/2以下であることが好ましく、20.5MPa1/2以下であることがより好ましい。下限値は、特に限定されないが、例えば、13.0MPa1/2以上であることが好ましく、16.0MPa1/2以上であることがより好ましく、18.0MPa1/2以上であることが更に好ましい。
【0056】
ポリマーC1-1は、市販品を用いてもよく、合成したものを用いてもよい。
無機固体電解質含有組成物中において、ポリマーC1-1の含有量は、特に制限されず、分散特性、電池性能等に応じて適宜に決定される。例えば、ポリマーC1-1の含有量は、分散特性、抵抗及びサイクル特性の改善度等の点で、化合物C1-2との合計含有量として、固形分100質量%において、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。
ポリマーC1-1の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に限定されないが、分散特性、抵抗及びサイクル特性の改善度等の点で、固形分100質量%において、0.1~9.9質量%であることが好ましく、0.15~4.95質量%であることがより好ましく、0.25~3.96質量%であることが更に好ましい。また、ポリマーC1-1の含有量と化合物C1-2の含有量との質量比[ポリマーC1-1の含有量:化合物C1-2の含有量]は、特に制限されないが、水素結合性基(BHa)及び(BHb)の数、水素結合の形成による分散媒に対する溶解性等の点で、例えば、50:50~99:1であることが好ましく、70:30~97:3であることがより好ましく、85:15~95:5であることが更に好ましい。
ポリマーC1-1の上記含有量は、ポリマーC1-1が化合物C1-2と水素結合している場合、この水素結合を形成しているポリマーC1-1を含めた合計量とする。
【0057】
- CLogP値が1.5以上の化合物C1-2 -
この化合物C1-2は、活性水素原子を含んで、ポリマーC1-1が有する上記水素結合性基(BHa)と水素結合を形成しうる水素結合性基(BHb)を有している。この化合物C1-2が有する水素結合性基(BHb)は、無機固体電解質含有組成物中において、ポリマーC1-1と分子間水素結合を形成しやすい点で、上記水素結合性基(BHa)と異なる基であることが好ましい。
水素結合性基(BHb)は、活性水素原子を有する。この活性水素原子は、上記水素結合性基(BHa)、通常上述のアクセプター部位と水素結合を形成可能な水素原子であればよく、水素結合性基(BHa)のドナー部位として説明した各水素原子等が挙げられ、水素結合性基(BHa)とより強い水素結合を形成する点で、窒素原子若しくは酸素原子と共有結合している水素原子が好ましい。1つの水素結合性基(BHb)が有する活性水素原子の数は、特に制限されず、通常、1~8個であり、好ましくは1個又は2個である。
このような活性水素原子を有する水素結合性基(BHb)としては、例えば、水素原子が共有結合している、窒素原子、酸素原子、硫黄原子若しくはリン原子を含む基が挙げられ、具体的には、水酸基、カルボキシ基等の酸性基、スルファニル基、1級若しくは2級アミノ基、アルキレンジアミン構造、アルキレンアミノエーテル構造が挙げられる。
この水素結合性基(BHb)は、上述のアクセプター部位又はドナー部位等を更に含んで、上記水素結合性基(BHa)を構成するものでもよい。例えば、水素結合性基(BHb)としてのアミノ基は、上記水素結合性基(BHa)であるアミド基又はウレタン基を構成するアミノ基でもよい。このようなアミノ基を含む基としては、上述の水素結合性基(BHa)で説明したものが挙げられ、具体的には、1級若しくは2級アミド基、ウレタン基、ウレア基が挙げられる。水素結合性基(BHb)は、水素結合性基(BHa)と強い水素結合を形成する点で、水酸基、又はアミノ基若しくはアミノ基を含む基が好ましい。
化合物C1-2は、1個又は複数の水素結合性基(BHb)を有していてもよいが、ポリマーC1-1との効率的な水素結合を形成可能な点等で、1個であることが好ましい。
【0058】
(C1)において、ポリマーC1-1の水素結合性基(BHa)と、化合物C1-2の水素結合性基(BHb)との組み合わせは、特に制限されず、適宜に設定される。例えば、水素結合性基(BHa)の好ましいものと水素結合性基(BHb)の好ましいものとの組み合わせが好ましく、水素結合性基(BHa)としての、水酸基、ウレタン基、ウレア基のいずれかと、水素結合性基(BHb)としての水酸基又はアミノ基若しくはアミノ基を含む基との組み合わせがより好ましい。
【0059】
化合物C1-2は、1.5以上のCLogP値を有している。これにより、無機固体電解質含有組成物の分散媒に溶解しながらポリマーC1-1と相溶してポリマーC1-1の分散媒への溶解性を高め、分散特性の改善に寄与する。
CLogP値は、1.7以上であることが好ましく、1.9以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、12.0以下であることが実際的であり、6.0以下であることが好ましい。
本発明において、CLogP値とは、1-オクタノールと水への分配係数Pの常用対数LogPを計算によって求めた値である。CLogP値の計算に用いる方法やソフトウェアについては公知のものを用いることができるが、特に断らない限り、PerkinElmer社のChemDrawを用いて構造を描画し、算出した値とする。
化合物C1-2を2種以上含有する場合、ClogP値は、各化合物のClogP値と質量分率との積の和とする。
【0060】
化合物C1-2は、ClogP値を満たし、上記水素結合性基(BHb)を有していれば特に限定されず、低分子化合物(非重合性化合物)でも高分子化合物でもよい。ポリマーC1-1による分散特性の改善を効果的に補強できる点で、低分子化合物であることが好ましい。
【0061】
化合物C1-2が低分子化合物である場合、この低分子化合物は、特に制限されず、適宜の基本骨格に上記水素結合性基(BHb)を置換基又は連結基(結合)として導入した化合物が挙げられる。低分子化合物としては、例えば、アミノ基を有するアミン化合物(アミノ結合を連結基として導入した化合物を含む。)、水酸基を有するアルコール化合物、スルファニル基を有するチオール化合物、更には、カルボキシ基を有するカルボン酸化合物、スルホ基を有するスルホン酸化合物、リン酸基を有するリン酸化合物、ホスホン酸基を有するホスホン酸化合物等が挙げられる。これらの化合物は、脂肪族化合物、芳香族化合物のいずれでもよく、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族複素環等の化合物に上記水素結合性基(BHb)を導入した化合物が挙げられる。中でも、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族複素環等のアルコール化合物若しくはアミン化合物が好ましく、脂肪族飽和炭化水素のアルコール化合物若しくはアミン化合物がより好ましく、直鎖式若しくは環式の脂肪族飽和炭化水素のアルコール化合物若しくはアミン化合物が更に好ましい。
低分子化合物の分子量及び化学構造は、ClogP値を満たす限り、特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、分子量は、1000以下とすることができ、100~400が好ましい。また、低分子化合物はClogP値を満たす限り、水素結合性基(BHb)以外の置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Zから選択される基を有していてもよい。
【0062】
化合物C1-2は、市販品を用いてもよく、常法により合成したものを用いてもよい。
本発明の無機固体電解質含有組成物は、化合物C1-2を1種又は2種以上含有していてもよい。
化合物C1-2の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に限定されず、水素結合の形成によるポリマーC1-1の分散媒に対する溶解性等の点で、固形分100質量%において、0.05~8.0質量%であることが好ましく、0.10~4.0質量%であることがより好ましく、0.15~3.0質量%であることが更に好ましい。
化合物C1-2の上記含有量は、化合物C1-2がポリマーC1と水素結合している場合、この水素結合を形成している化合物C1-2を含めた合計量とする。
【0063】
ポリマーC1-1と化合物C1-2との組み合わせは、水素結合を形成可能な組み合わせであれば特に制限されず、例えば、ポリマーC1-1の好ましいものと、化合物C1-2の好ましいものとの組み合わせが挙げられる。
【0064】
次いで、バインダー構成成分(C2)について、説明する。
ポリマーC2は、2以上の水素結合を形成しうる水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有している。
このポリマーC2は、水素結合性基(BHa)を2種以上有するポリマーC1-1と同じであってもよい。
ポリマーC2が有する水素結合性基(BHa)、更にはこの水素結合性基(BHa)を側鎖に有する態様も、上記ポリマーC1-1におけるものと同じである。
【0065】
ポリマーC2は、水素結合性基(BHa)を少なくとも2種有していればよく、無機固体電解質含有組成物中において、分子間水素結合を優先的に形成することによる分散媒に対する溶解向上、及び製膜過程において分子内水素結合を優先的に形成することによる分散媒に対する溶解性低減を考慮すると、2~5種有していることが好ましく、2種又は3種有していることがより好ましい。
ポリマーC2が有する2種以上の水素結合性基(BHa)は互いに異なる基であることが、強い水素結合性を形成して、ポリマーC2を効果的に固化若しくは析出させることができる点で好ましい。この場合の2種以上の水素結合性基(BHa)の組み合わせは、特に制限されず、上述の、ポリマーC1-1が有する水素結合性基(BHa)と、化合物C1-2が有する水素結合性基(BHb)との好ましい上記組み合わせが挙げられる。
1分子のポリマーC2が有する水素結合性基(BHa)の数は、水素結合性基の種類ごとに、少なくとも1個であればよいが、強い水素結合を形成できる点で、2個以上であることが好ましい。水素結合性基(BHa)の数は、一義的に決定できないが、後述する水素結合性構成成分が有する水素結合性基(BHa)の数及び水素結合性構成成分の含有量等によって適宜に決定される。
【0066】
ポリマーC2は、水素結合性基(BHa)に加えて、1つの水素結合を形成しうる水素結合性基を有していてもよい。
【0067】
ポリマーC2は、後述する算出方法によるSP値が22.5MPa1/2以下である。これにより、無機固体電解質含有組成物中において、分散媒に対する親和性が高まり、特に分子間水素結合を形成している場合には分散媒に対する溶解性が高くなって、分散特性を改善できる。ポリマーC2のSP値は、21.0MPa1/2以下であることが好ましく、20.5MPa1/2以下であることがより好ましい。下限値は、特に限定されないが、例えば、13.0MPa1/2以上であることが好ましく、16.0MPa1/2以上であることがより好まし18.0MPa1/2以上であることがより好ましい。
【0068】
SP値の算出方法について説明する。
(1)構成単位のSP値を算出する。
まず、ポリマーについて、SP値を特定する構成単位を決定する。
すなわち、本発明においては、ポリマーのSP値を算出するに際して、ポリマー(セグメント)が連鎖重合ポリマーである場合、原料化合物に由来する構成成分と同じ構成単位とするが、ポリマーが逐次重合ポリマーである場合、原料化合物に由来する構成成分と異なる単位とする。例えば、逐次重合ポリマーとしてポリウレタンを例に挙げると、SP値を特定する構成単位は次のように規定される。ポリイソシアネート化合物に由来する構成単位としては、ポリイソシアネート化合物に由来する構成成分に対して、1つの-NH-CO-基に-O-基を結合させ、かつ残りの-NH-CO-基を除去した単位(1つのウレタン結合を有する単位)とする。一方、ポリオール化合物に由来する構成単位としては、ポリオール化合物に由来する構成成分に対して、1つの-O-基に-CO-NH-基を結合させ、かつ残りの-O-基を除去した単位(1つのウレタン結合を有する単位)とする。なお、その他の逐次重合ポリマーの場合もポリウレタンと同様に構成単位を決定する。
【0069】
次いで、特に断らない限り、構成単位毎のSP値をHoy法によって求める(H.L.Hoy JOURNAL OF PAINT TECHNOLOGY Vol.42,No.541,1970,76-118、及びPOLYMER HANDBOOK 4th、59章、VII 686ページ Table5、Table6及びTable6中の下記式参照)。
【0070】
【0071】
(2)ポリマーのSP値
上記のようにして決定した構成単位と求めたSP値を用いて、下記式から算出する。なお、上記文献に準拠して求めた、構成単位のSP値をSP値(MPa1/2)に換算(例えば、1cal1/2cm-3/2≒2.05J1/2cm-3/2≒2.05MPa1/2)して用いる。
SPp
2=(SP1
2×W1)+(SP2
2×W2)+・・・
式中、SP1、SP2・・・は構成単位のSP値を示し、W1、W2・・・は構成単位の質量分率を示す。
本発明において、構成単位の質量分率は、当該構成単位に対応する構成成分(この構成分分を導く原料化合物)のポリマー中の質量分率とする。
ポリマーのSP値は、ポリマーの種類又は組成(構成成分の種類及び含有量)等によって、調整できる。
【0072】
本発明において、ポリマーのSP値は、全構成単位について上記式により算出する。ポリマーがマクロモノマーに由来する構成成分を含有している場合、マクロモノマー(MM)に由来する構成成分に対応する構成単位を除外して上記式により算出したSP値(MM除外)とすることもできる。こうして算出されたSP値(MM除外)によれば、分散特性を更に改善できる。SP値(MM除外)としては、上記SP値と同じ範囲とすることもできるが、13.0~22.5MPa1/2であることが好ましく、16.0~21.0MPa1/2であることがより好ましく、17.5~20.5MPa1/2であることがより好ましい。
【0073】
ポリマーC2は、市販品を用いてもよく、合成したものを用いてもよい。
本発明の無機固体電解質含有組成物は、ポリマーC2を1種又は2種以上含有していてもよい。
ポリマーC2の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に制限されず、分散特性、電池性能等に応じて適宜に決定される。例えば、分散特性、抵抗及びサイクル特性の改善度等の点で、固形分100質量%において、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。ポリマーC2の上記含有量は、ポリマーC2同士が水素結合している場合、この水素結合を形成しているポリマーC2を含めた合計量とする。
【0074】
最後に、バインダー構成成分(C3)について、説明する。
(C3)の一態様は、2種以上のポリマーC1-1を併用するものであり、上記(C1)においてポリマーC1-1と組み合わせて用いる化合物C1-2に代えて、別のポリマーC1-1を組み合わせて用いる。ポリマーC1-1は、上記の通りである。
2種併用するポリマーC1-1は、種類が異なるものが好ましく、例えば、ポリマー種類若しくは組成、水素結合性基(BHa)の種類が異なるもの同士の組み合わせが挙げられ、強い水素結合を形成できる点で、水素結合性基(BHa)の種類が異なるもの同士の組み合わせがより好ましい。
種類が異なる水素結合性基(BHa)の組み合わせとしては、特に制限されず、上述の(C1)における、ポリマーC1-1が有する水素結合性基(BHa)と、化合物C1-2が有する水素結合性基(BHb)との好ましい組み合わせが挙げられる。
【0075】
一態様において、無機固体電解質含有組成物が含有するポリマーC1-1は、2種以上であればよく、2~5種とすることもできる。好ましくは2種、3種又は4種である。
一態様において、ポリマーC1-1の、無機固体電解質含有組成物中の総含有量は、特に制限されず、分散特性、電池性能等に応じて適宜に決定される。例えば、分散特性、抵抗及びサイクル特性の改善度等の点で、固形分100質量%において、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。また、2種以上のポリマーC1-1の含有量の比は、特に限定されず、ポリマーC1-1が有する水素結合性基(BHa)の数、水素結合の形成による分散媒に対する溶解性等を考慮して、適宜に決定される。例えば、2種併用する場合、一方のポリマーと他方のポリマーとの含有量(質量%)の比は、1:10~10:1であることが好ましく、1:5~5:1であることがより好ましく、1:3~3:1であることが更に好ましい。ポリマーC1-1の含有量は、ポリマーC1-1同士が水素結合している場合、この水素結合を形成しているポリマーC1-1を含めた合計量とする。
【0076】
(C3)の別の一態様は、1種以上のポリマーC1-1と1種以上のポリマーC2とを組み合わせて用いる。ポリマーC1-1及びC2は、上記の通りである。
ポリマーC1-1が有する水素結合性基(BHa)と、ポリマーC2が有する水素結合性基(BHa)とは、強い水素結合を形成できる点で、種類が異なるものが好ましい。種類が異なる水素結合性基(BHa)の組み合わせとしては、上記一態様と同じである。
別の一態様において、無機固体電解質含有組成物が含有するポリマーC1-1及びC2は、それぞれ、1種以上であればよく、2~5種とすることもできるが、1種が好ましい。
別の一態様において、ポリマーC1-1及びC2の、無機固体電解質含有組成物中の総含有量は、特に制限されず、分散特性、電池性能等に応じて適宜に決定される。例えば、分散特性、抵抗及びサイクル特性の改善度等の点で、固形分100質量%において、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。また、ポリマーC1-1とポリマーC2との含有量の比は、特に限定されず、ポリマーC1-1及びC2が有する水素結合性基(BHa)の数、水素結合の形成による分散媒に対する溶解性等を考慮して、適宜に決定され、例えば上記一態様における比が挙げられる。ポリマーC1-1及びC2の含有量は、ポリマーC1-1同士が水素結合している場合、この水素結合を形成しているポリマーC1-1を含めた合計量とする。
【0077】
-- ポリマーC1-1及びC2 --
ポリマーC1-1及びC2は、上述の水素結合性基(BHa)の種類数等以外は、同じであるので、合わせて説明する。
ポリマーは、上述の水素結合性基(BHa)を側鎖に有するポリマーであり、全固体二次電池の結着剤として通常使用されるポリマーを特に制限されることなく用いることができる。このようなポリマーとしては、具体的には、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の逐次重合(重縮合、重付加若しくは付加縮合)ポリマー、更には、フッ素ポリマー(含フッ素ポリマー)、炭化水素ポリマー、ビニルポリマー、(メタ)アクリルポリマー等の連鎖重合ポリマーが挙げられる。中でも、ビニルポリマー又は(メタ)アクリルポリマーが好ましく挙げられる。
ポリマーを構成するポリマーは、(メタ)アクリルモノマー又はビニルモノマーに由来する構成成分を有することが好ましく、これらのモノマーに由来する構成成分をポリマー中50質量%以上有するもの((メタ)アクリルポリマー又はビニルポリマー)が好ましい。
本発明において、ポリマーが共重合体である場合、共重合成分の結合様式(配列)は特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよい。
【0078】
(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくは(メタ)アクリロイルアミノ基を有するモノマー、更には(メタ)アクリロニトリル化合物等を包含する。(メタ)アクリルモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物等の(メタ)アクリル化合物(M)が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、特に制限されず、例えば、脂肪族若しくは芳香族の炭化水素又は脂肪族若しくは芳香族の複素環化合物等のエステルが挙げられ、これらの炭化水素、複素環化合物等の炭素数、ヘテロ原子の種類若しくは数は特に限定されず、適宜に設定される。例えば、炭素数は1~30とすることができる。
【0079】
ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル化合物(M)以外のビニル基を含有するモノマーであり、特に制限されないが、例えば、ビニル基含有芳香族化合物(スチレン化合物、ビニルナフタレン化合物等)、ビニル基含有ヘテロ環化合物(ビニルカルバゾール化合物、ビニルピリジン化合物、ビニルイミダゾール化合物、N-ビニルカプロラクタム等のビニル基含有芳香族ヘテロ環化合物、ビニル基含有非芳香族ヘテロ環化合物等)、アリル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルケトン化合物、ビニルエステル化合物、イタコン酸ジアルキル化合物、不飽和カルボン酸無水物等のビニル化合物が挙げられる。ビニル化合物としては、例えば、特開2015-88486号公報に記載の「ビニル系モノマー」が挙げられる。
【0080】
ポリマーは、(メタ)アクリルモノマーとして、分散媒への溶解性の発現又は向上の点で、(メタ)アクリル酸エステル化合物の中でも、炭素数4以上の脂肪族炭化水素(好ましくはアルキル)の(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成成分を有することが好ましい。上記脂肪族炭化水素基の炭素数は、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。上限は、特に制限されず、20以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましい。炭素数4以上の脂肪族炭化水素は、分岐鎖構造又は環式構造でもよいが直鎖構造であることが好ましい。水素結合性基(BHa)が導入される(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル化合物の中でも、炭素数3以下の脂肪族炭化水素(好ましくはアルキル)の(メタ)アクリル酸エステル化合物であることが好ましい。
ポリマーは、ビニルモノマーとして、抵抗及びサイクル特性、更にポリマーバインダーの強度向上の点で、スチレン化合物に由来する構成成分を有していることが好ましく、(メタ)アクリルモノマーに由来する構成成分及び/又はスチレン化合物以外のビニルモノマーに由来する構成成分と、スチレン化合物に由来する構成成分(スチレン構成成分)とを有していることがより好ましい。
ポリマーは、共重合可能な他の構成成分を有していてもよい。
【0081】
上記水素結合性基(BHa)は、ポリマーを構成する構成成分であればいずれの構成成分に導入されていてもよいが、(メタ)アクリルモノマー又はビニルモノマーに由来する構成成分に導入されていることが好ましい。水素結合性基(BHa)が導入された構成成分を、水素結合性基(BHa)が導入されていない(メタ)アクリルモノマー又はビニルモノマーに由来する構成成分と区別する場合、便宜上、水素結合性構成成分という。
水素結合性構成成分は、上述のように、ポリマーの主鎖と水素結合性基(BHa)とこれらを連結する基を有する構成成分である。この水素結合性構成成分が(メタ)アクリルモノマーに由来する構成成分である場合、上記(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の側鎖末端基に水素結合性基(BHa)を連結基又は(末端)置換基として導入した構成成分が挙げられる。また、水素結合性構成成分がビニルモノマーに由来する構成成分である場合、上記ビニル化合物に由来する構成成分の側鎖末端基に水素結合性基(BHa)を連結基又は(末端)置換基として導入した構成成分が挙げられる。水素結合性基(BHa)を連結基として導入する場合、その末端基は上述の末端置換基とすることができる。
【0082】
ポリマーとしては、ビニルポリマー又は(メタ)アクリルポリマーが好ましく挙げられる。
ビニルポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル化合物(M)以外のビニルモノマーを例えば50質量%以上含有するポリマーが挙げられる。ビニルモノマーとしては上述のビニル化合物等が挙げられる。ビニルポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、又はこれらを含む共重合体等を包含する。
ビニルポリマーは、ビニルモノマーに由来する構成成分及び水素結合性構成成分を有することが好ましく、更に、後述する(メタ)アクリルポリマーを形成する(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分、後述するマクロモノマーに由来する構成成分(MM)を有していてもよい。
【0083】
ビニルポリマーにおける構成成分の含有量は、特に制限されず、分散媒に対する溶解性、更にはSP値等を考慮して、適宜に選択され、例えば、全構成成分100質量%中において以下の範囲に設定できる。
ビニルモノマーに由来する構成成分の含有量(水素結合性構成成分がこの構成成分にも相当する場合、水素結合性構成成分の含有量を合算する。以下同じ。)は、分散特性、更には抵抗及びサイクル特性の点で、(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の含有量と同じであることが好ましい。ビニルモノマーの中でもスチレン化合物に由来する構成成分の、ビニルポリマー中の含有量は、上記ビニルモノマーに由来する構成成分の含有量の範囲を考慮して、適宜に設定されるが、抵抗及びサイクル特性の点で、50~90質量%であることが好ましく、53~80質量%であることがより好ましく、55~75質量%であることが特に好ましい。
水素結合性構成成分の、ビニルポリマー中の含有量は、上記ビニルモノマー又は後述する(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の含有量を考慮して適宜に決定される。例えば、分散特性、更には抵抗及びサイクル特性の点で、ポリマーC1-1及びC2において、それぞれ、3~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。
(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の含有量(水素結合性構成成分がこの構成成分にも相当する場合、水素結合性構成成分の含有量を合算する。以下同じ。)は、ポリマー中、50質量%未満であれば特に制限されないが、0~47質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリル化合物(M)の中でも炭素数4以上である脂肪族炭化水素の(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成成分の、ビニルポリマー中の含有量は、上記(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の含有量の範囲を考慮して、適宜に設定される。例えば、5~45質量%であることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることが特に好ましい。
構成成分(MM)の含有量は(メタ)アクリルポリマーにおける含有量と同じであることが好ましい。
その他の構成成分を含有する場合、その含有量は適宜に決定される。
【0084】
(メタ)アクリルポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、上述の(メタ)アクリル化合物(M)を少なくとも1種(共)重合して得られるポリマーが好ましい。また、(メタ)アクリル化合物(M)とその他の重合性化合物(N)との共重合体からなる(メタ)アクリルポリマーも好ましい。その他の重合性化合物(N)としては、特に制限されず、上述のビニル化合物等が挙げられる。(メタ)アクリルポリマーは、上述の低分子量(重合鎖を有さない)のモノマーに由来する構成成分を有しており、重合鎖を有するマクロモノマーに由来する構成成分(MM)を有さない態様と、構成成分(MM)を有する態様とを包含する。このマクロモノマーとしては、特に制限されないが、数平均分子量1,000以上の重合鎖を有する、(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーが挙げられ、具体的には、特許文献1に記載のマクロモノマー(X)が挙げられる。(メタ)アクリルポリマーとしては、例えば、特許第6295332号に記載のものが挙げられる。
【0085】
(メタ)アクリルポリマーにおける構成成分の含有量は、分散媒に対する溶解性、更にはSP値等を考慮して、特に制限されず、適宜に選択され、例えば、全構成成分100質量%中において以下の範囲に設定できる。
(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の、(メタ)アクリルポリマー中の含有量は、特に限定されず、100質量%とすることもできるが、分散特性、更には抵抗及びサイクル特性の点で、1~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましく、20~70質量%であることが特に好ましい。また、炭素数4以上である脂肪族炭化水素の(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成成分の、(メタ)アクリルポリマー中の含有量は、上記(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分の含有量の範囲を考慮して、適宜に設定される。例えば10~95質量%であることが好ましく、30~85%であることがより好ましく、40~80質量%であることが特に好ましい。
水素結合性構成成分の、(メタ)アクリルポリマー中の含有量は、上記(メタ)アクリル化合物(M)又は後述するビニルモノマーの含有量を考慮して適宜に決定される。例えば、分散特性、更には抵抗及びサイクル特性の点で、ポリマーC1-1及びC2においては、それぞれ、3~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。
重合性化合物(N)に由来する構成成分の、(メタ)アクリルポリマー中の含有量は、特に限定されないが、1質量%以上未満50質量%未満であることが好ましく、10質量%以上50質量%未満であることがより好ましく、20質量%以上50質量%未満であることが特に好ましい。
構成成分(MM)の含有量は、0~50質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましい。
その他の構成成分を含有する場合、その含有量は適宜に決定される。
【0086】
ポリマーは置換基を有していてもよい。置換基としては、特に制限されず、好ましくは下記置換基Zから選択される基が挙げられる。
ポリマーで構成されるポリマーバインダーは上述のように固体粒子を結着させる機能を有するため、ポリマーは固体粒子に対して吸着性を示す置換基(例えばカルボキシ基等の極性基)を有していなくてもよい。
【0087】
- 置換基Z -
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等、本明細書においてアルキル基というときには通常シクロアルキル基を含む意味であるが、ここでは別記する。)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、アラルキル基(好ましくは炭素数7~23のアラルキル基、例えば、ベンジル、フェネチル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、より好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル、ピロリドン基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等、本明細書においてアリールオキシ基というときにはアリーロイルオキシ基を含む意味である。)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、ヘテロ環オキシカルボニル基(上記ヘテロ環基に-O-CO-基が結合した基)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ(-NH2)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシシリル基、例えば、モノメトキシシリル、ジメトキシシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル等)、アリールオキシシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールオキシシリル基、例えば、トリフェニルオキシシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、ホスホン酸基(好ましくは炭素数0~20のホスホン酸基、例えば、-PO(ORP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。RPは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基Zから選択される基)である。
また、これらの置換基Zで挙げた各基は、上記置換基Zが更に置換していてもよい。
上記アルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等は、環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよい。
【0088】
(ポリマーの物性若しくは特性等)
ポリマーは、下記物性若しくは特性等を有することが好ましい。
ポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、このポリマーは、ポリマーを晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー溶液をそのまま用いてもよい。
ポリマーは、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、ガラス転移温度で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
【0089】
ポリマーは、非架橋ポリマーであっても架橋ポリマーであってもよい。また、加熱又は電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時にポリマーが後述する範囲の質量平均分子量であることである。
【0090】
ポリマーの質量平均分子量は、特に制限されない。例えば、15,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましい。上限としては、5,000,000以下が実質的であるが、4,000,000以下が好ましく、3,000,000以下がより好ましく、1,000,000以下が更に好ましい。
【0091】
-分子量の測定-
本発明において、ポリマー、ポリマー鎖及びマクロモノマーの分子量については、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の質量平均分子量又は数平均分子量をいう。その測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法が挙げられる。ただし、ポリマー又はマクロモノマーの種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0092】
ポリマーは、公知の方法により、原料化合物(モノマー)を選択し、原料化合物を重合して、合成することができる。水素結合性基を組み込む方法としては、特に制限されず、例えば、水素結合性基を有する化合物を共重合する方法、水素結合性基を有する(生じる)重合開始剤若しくは連鎖移動剤を用いる方法、高分子反応を利用する方法等が挙げられる。
ポリマーの具体例、ポリマーバインダーを構成する成分の組み合わせとしては、実施例で示したものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0093】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、1種のポリマーバインダーを構成する成分を含有するものでもよく、複数種のポリマーバインダーを構成する成分を含有するものでもよい。
【0094】
無機固体電解質含有組成物中の、バインダー構成成分の含有量は上述の通りであるが、これら成分がポリマーバインダーを形成したと仮定した場合、ポリマーバインダーの、無機固体電解質含有組成物(構成層)中の含有量は、分散特性、抵抗低減及びサイクル特性の点で、組成物(構成層)全質量に対して、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。一方、固形分100質量%においては、同様に理由から、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.3~8質量%であることがより好ましく、0.5~7質量%であることが更に好ましい。
【0095】
本発明において、固形分100質量%において、ポリマーバインダーの上記含有量に対する、無機固体電解質と活物質の合計含有量の質量比[(無機固体電解質の質量+活物質の質量)/(ポリマーバインダーの質量)]は、1,000~1の範囲が好ましい。この比率は更に500~2がより好ましく、100~10が更に好ましい。
【0096】
<分散媒>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上記の各成分を溶解若しくは分散させる分散媒を含有することが好ましい。
分散媒としては、使用環境において液状を示す有機化合物であればよく、例えば、各種有機溶媒が挙げられ、具体的には、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等が挙げられる。
分散媒としては、非極性分散媒(疎水性の分散媒)でも極性分散媒(親水性の分散媒)でもよいが、優れた分散特性を発現できる点で、非極性分散媒が好ましい。非極性分散媒とは、一般に水に対する親和性が低い性質をいうが、本発明においては、例えば、エステル化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられ、中でも、ケトン化合物、脂肪族化合物及びエステル化合物が好ましく挙げられる。
【0097】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0098】
エーテル化合物としては、例えば、アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、アルキレングリコールジアルキルエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0099】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0100】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン(DIBK)、イソブチルプロピルケトン、sec-ブチルプロピルケトン、ペンチルプロピルケトン、ブチルプロピルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、パラフィン、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどが挙げられる。
【0101】
本発明においては、中でも、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が好ましく、エステル化合物、ケトン化合物又はエーテル化合物がより好ましい。
【0102】
分散媒を構成する化合物の炭素数は特に制限されず、2~30が好ましく、4~20がより好ましく、6~15が更に好ましく、7~12が特に好ましい。
【0103】
分散媒は、分散特性の点で、SP値(単位:MPa1/2)が15~21であることが好ましく、16~20であることがより好ましく、17~19であることが更に好ましい。ポリマーC1-1又はC2と分散媒とのSP値の差(絶対値)は、特に制限されないが、分散特性を更に向上させることができる点で、3以下であることが好ましく、0~2.5であることがより好ましく、0~2.0であることが更に好ましい。ポリマーを複数含有する場合、SP値の差(絶対値)は、最も小さい値(絶対値)が上記範囲内に含まれることが好ましく、すべての差(絶対値)が上記範囲内に含まれてもよい。
分散媒のSP値は、上述のHoy法により算出したSP値を単位MPa1/2に換算した値とする。無機固体電解質含有組成物が2種以上の分散媒を含有する場合、分散媒のSP値は、分散媒全体としてのSP値を意味し、各分散媒のSP値と質量分率との積の総和とする。具体的には、構成成分のSP値に代えて各分散媒のSP値を用いること以外は上述のポリマーのSP値の算出方法と同様にして算出する。
分散媒のSP値(単位を省略する)を以下に示す。
MIBK(18.4)、ジイソプロピルエーテル(16.8)、ジブチルエーテル(17.9)、ジイソプロピルケトン(17.9)、DIBK(17.9)、酪酸ブチル(18.6)、酢酸ブチル(18.9)、トルエン(18.5)、エチルシクロヘキサン(17.1)、シクロオクタン(18.8)、イソブチルエチルエーテル(15.3)、N-メチルピロリドン(NMP、SP値:25.4)
【0104】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
【0105】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、分散媒を少なくとも1種含有していればよく、2種以上含有してもよい。
本発明において、無機固体電解質含有組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、無機固体電解質含有組成物中、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0106】
<活物質>
本発明の無機固体電解質含有組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有することもできる。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられる。
本発明において、活物質(正極活物質又は負極活物質)を含有する無機固体電解質含有組成物を電極組成物(正極組成物又は負極組成物)ということがある。
【0107】
(正極活物質)
正極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく電池を分解して、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100モル%)に対して0~30モル%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0108】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0109】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の平均粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質粒子の平均粒子径は、上記無機固体電解質の平均粒子径と同様にして測定できる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の分散媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いて行うことができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0110】
正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0111】
正極活物質の、無機固体電解質含有組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量%が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
【0112】
(負極活物質)
負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能(合金化可能)な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点から好ましく用いられる。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質が好ましい。本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した構成層は固体粒子同士の強固な結着状態を維持できるため、負極活物質としてリチウムと合金形成可能な負極活物質を用いることができる。これにより、全固体二次電池の大容量化と電池の長寿命化とが可能となる。
【0113】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0114】
負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(纏めて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0115】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、GeO、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、GeS、PbS、PbS2、Sb2S3又はSb2S5が好ましく挙げられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
【0116】
金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、Li2SnO2が挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましく挙げられる。具体的には、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0117】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムを基金属とし、アルミニウムを10質量%添加したリチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0118】
リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、全固体二次電池の充放電による膨張収縮が大きく、サイクル特性の低下を加速させるが、本発明の無機固体電解質含有組成物は上述のバインダー構成成分を含有するため、サイクル特性の低下を抑制できる。このような活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する(負極)活物質(合金等)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を有する負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50モル%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi2、VSi2、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi2/Si)、他にも、SnSiO3、SnSiS3等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO2、SnS、SnS2、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2を挙げることもできる。
【0119】
本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
【0120】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0121】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径(体積平均粒子径)は、特に制限されないが、0.1~60μmが好ましい。負極活物質粒子の平均粒子径は、上記無機固体電解質の平均粒子径と同様にして測定できる。所定の粒子径にするには、正極活物質と同様に、通常の粉砕機若しくは分級機が用いられる。
【0122】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0123】
負極活物質の、無機固体電解質含有組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0124】
本発明において、負極活物質層を二次電池の充電により形成する場合、上記負極活物質に代えて、全固体二次電池内に発生する周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを用いることができる。このイオンを電子と結合させて金属として析出させることで、負極活物質層を形成できる。
【0125】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0126】
<導電助剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、導電助剤を含有していることが好ましく、例えば、負極活物質としてのケイ素原子含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0127】
導電助剤は、1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物が導電助剤を含む場合、無機固体電解質含有組成物中の導電助剤の含有量は、固形分100質量%において、0~10質量%が好ましい。
【0128】
<リチウム塩>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0129】
<分散剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上述のバインダー構成成分が分散剤としても機能するため、バインダー構成成分以外の分散剤を含有していなくてもよい。無機固体電解質含有組成物がバインダー構成成分以外の分散剤を含有する場合、分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0130】
<他の添加剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上記各成分以外の他の成分として、適宜に、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。また、上述のポリマーバインダーを形成するポリマー以外のポリマー、通常用いられる結着剤等を含有していてもよい。
【0131】
(無機固体電解質含有組成物の調製)
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質、バインダー構成成分、好ましくは、分散媒、導電助剤、更には適宜に、リチウム塩、任意の他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、混合物として、好ましくはスラリーとして、調製することができる。電極組成物の場合は更に活物質を混合する。
混合方法は、特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合する環境は、特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。混合条件としては、特に制限されないが、バインダー構成成分が分子間水素結合を形成しやすい条件が好ましく、水素結合性基(BHa)又は(BHb)の種類、各成分の含有量、ポリマーC2においてはSP値等に応じて、適宜に設定される。
【0132】
[全固体二次電池用シート]
本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう。)、電極、又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートという。
【0133】
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有するシートであればよく、固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層から形成されているシートであってもよい。全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層の他に他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、基材上に、本発明の無機固体電解質含有組成物で構成した層、通常固体電解質層と、保護層とをこの順で有するシートが挙げられる。全固体二次電池用固体電解質シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0134】
全固体二次電池用固体電解質シートが有する固体電解質層は本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されていることが好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物の製膜過程において、上記ポリマーC1-1又はC2が形成している分子間水素結合が切断され、分子内水素結合が形成されると考えられる。この分子内水素結合の形成が進むにつれてポリマーC1-1又はC2の分散媒に対する溶解度が徐々に低下して、固体粒子との吸着状態を維持しながら、好ましくは粒子状に、固化又は析出する。そのため、固体粒子同士の強固な結着を維持しながらも、固体粒子の表面全体を被覆することなく、イオン伝導パスを十分に構築できる。この無機固体電解質含有組成物で構成した固体電解質層は、バインダー構成成分が水素結合してなるポリマーバインダーを粒子として含有していることが好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されている構成層は、上述のように、ポリマーC1-1又はC2が分子内水素結合したポリマーバインダーを含有しているが、無機固体電解質含有組成物中に含有するポリマーC1-1又はC2のすべてがポリマーバインダーを形成している必要はなく、本発明の作用効果を損なわない範囲で、分子内水素結合をしていないポリマーC1-1又はC2を含有(残存)していてもよい。
構成層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の無機固体電解質含有組成物の固形分中における各成分の含有量と同義である。ただし、ポリマーバインダーの含有量は、通常、バインダー構成成分の合計含有量と一致する。
【0135】
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0136】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。
電極シートが有する固体電解質層及び活物質層の少なくとも1つは本発明の無機固体電解質含有組成物で形成される。本発明の無機固体電解質含有組成物で形成された固体電解質層及び活物質層において、ポリマーバインダーの存在状態(水素結合形成状態)は上述の全固体二次電池用固体電解質シートが有する固体電解質層での存在状態と同じである。また、固体電解質層又は活物質層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の無機固体電解質含有組成物(電極組成物)の固形分中における各成分の含有量と同義である。ただし、ポリマーバインダーの含有量は、通常、バインダー構成成分の合計含有量と一致する。本発明の電極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。本発明の電極シートは上述の他の層を有してもよい。
なお、固体電解質層又は活物質層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されない場合、通常の構成層形成材料で形成される。
【0137】
本発明の全固体二次電池用シートは、固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成され、固体粒子同士の界面抵抗の上昇を抑制しながらも固体粒子同士を強固に結着させた表面が平坦な構成層を有している。この構成層は、好ましくは、後述する実施例での表面平滑性試験において最大乖離値が8%未満となる平滑性を示す。そのため、本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層として用いることにより、全固体二次電池の低抵抗(高伝導度)化及び優れたサイクル特性を実現できる。特に活物質層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池は、活物質層と集電体とが強固な密着性を示し、サイクル特性の更なる向上を実現できる。したがって、本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシートとして好適に用いられる。
本発明において、全固体二次電池用シートを構成する各層は、単層構造であっても複層構造であってもよい。
【0138】
[全固体二次電池用シートの製造方法]
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の無機固体電解質含有組成物を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。例えば、好ましくは基材若しくは集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して無機固体電解質含有組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、基材若しくは集電体と塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用シートを作製することができる。特に、本発明の無機固体電解質含有組成物を集電体上で製膜して全固体二次電池用シートを作製すると、集電体と活物質層との密着を強固にできる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の無機固体電解質含有組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の無機固体電解質含有組成物を用いてなり、本発明の無機固体電解質含有組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。活物質層及び塗布乾燥層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば分散媒が残存していてもよく、残存量としては、例えば、各層中、3質量%以下とすることができる。この塗布乾燥層は、上述のように、ポリマーC1-1又はC2が水素結合してなるポリマーバインダーを含有している。
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
上記の好ましい方法において、本発明の無機固体電解質含有組成物を集電体上で製膜して全固体二次電池用シートを作製すると、集電体と活物質層との密着を強固にできる。
【0139】
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0140】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、好ましくは正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、好ましくは負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されており、固体電解質層、又は負極活物質層及び正極活物質層の少なくとも一方が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されることが好ましい。全ての層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されることも好ましい態様の1つである。本発明において、全固体二次電池の構成層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成するとは、本発明の全固体二次電池用シート(ただし、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した層以外の層を有する場合はこの層を除去したシート)で構成層を形成する態様を包含する。本発明の無機固体電解質含有組成物で形成された活物質層又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量について、本発明の無機固体電解質含有組成物の固形分におけるものと同じ(ただし、ポリマーバインダーの含有量は、通常、バインダー構成成分の合計含有量と一致する。)である。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0141】
<筐体>
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0142】
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0143】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0144】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用積層体12と称し、この全固体二次電池用積層体12を2032型コインケース11に入れて作製した電池(例えば
図2に示すコイン型全固体二次電池)を全固体二次電池13と称して呼び分けることもある。
【0145】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれも本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されている。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2におけるポリマーバインダーの存在状態(水素結合の形成状態)は上述の全固体二次電池用固体電解質シートが有する固体電解質層での存在状態と同じである。この全固体二次電池10は優れた電池性能を示す。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質及びポリマーバインダーは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0146】
本発明において、構成層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成すると、低抵抗でサイクル特性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0147】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0148】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0149】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0150】
上記全固体二次電池10において、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した構成層以外の構成層を有する場合、公知の構成層形成材料で形成した層を適用することもできる。
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0151】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の無機固体電解質含有組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。以下、詳述する。
【0152】
本発明の全固体二次電池は、本発明の無機固体電解質含有組成物を、適宜基材(例えば、集電体となる金属箔)上に、塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用シートの製造方法)を行って、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極組成物)として、正極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための無機固体電解質含有組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極用材料(負極組成物)として、負極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。これを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることもできる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0153】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極組成物)として、負極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、無機固体電解質含有組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
更に、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シート、及び全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。次いで、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートと全固体二次電池用固体電解質シートとを、正極活物質層又は負極活物質層と固体電解質層とを接触させた状態に、重ねて、加圧する。こうして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートに固体電解質層を転写する。その後、全固体二次電池用固体電解質シートの基材を剥離した固体電解質層と全固体二次電池用負極シート又は全固体二次電池用正極シートとを(固体電解質層に負極活物質層又は正極活物質層を接触させた状態に)重ねて加圧する。こうして、全固体二次電池を製造することができる。この方法における加圧方法及び加圧条件等は、特に制限されず、後述する、塗布した組成物の加圧において説明する方法及び加圧条件等を適用できる。
【0154】
固体電解質層等は、例えば基板若しくは活物質層上で、無機固体電解質含有組成物等を後述する加圧条件下で加圧成形して形成することもできるし、固体電解質又は活物質のシート成形体を用いることもできる。
上記の製造方法においては、正極組成物、無機固体電解質含有組成物及び負極組成物のいずれか1つに本発明の無機固体電解質含有組成物を用いればよく、無機固体電解質含有組成物に本発明の無機固体電解質含有組成物を用いることが好ましく、いずれの組成物に本発明の無機固体電解質含有組成物を用いることもできる。
本発明の無機固体電解質含有組成物以外の組成物で固体電解質層又は活物質層を形成する場合、その材料としては、通常用いられる組成物等が挙げられる。また、全固体二次電池の製造時に負極活物質層を形成せずに、後述する初期化若しくは使用時の充電で負極集電体に蓄積した、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを電子と結合させて、金属として負極集電体等の上に析出させることにより、負極活物質層を形成することもできる。
【0155】
<各層の形成(製膜)>
本発明の無機固体電解質含有組成物の製膜(塗布乾燥)は、バインダー構成成分を分子内で水素結合させて徐々に固化若しくは析出させながら行う。分子内で水素結合させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、製膜工程における乾燥条件を選択する方法が挙げられる。
無機固体電解質含有組成物等の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート塗布、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。塗布条件は、適宜に決定されるが、上述の、ポリマーバインダーを構成する成分が化学反応しない条件とすることが好ましく、例えば、温度条件としては下記乾燥温度未満の温度とすることが好ましい。
【0156】
塗布された無機固体電解質含有組成物は乾燥処理(加熱処理)される。乾燥処理において、塗布された無機固体電解質含有組成物中においてバインダー構成成分のうちポリマーC1-1又はC2が固体粒子との吸着を維持しながら分子内水素結合を形成して、例えば粒子状に、固化又は析出して、界面抵抗の上昇を抑制しながら固体粒子同士を結着させることができる。このようなポリマーの固化若しくは析出により、無機固体電解質含有組成物の優れた分散特性と相まって、接触状態のバラツキと界面抵抗の上昇を抑えながらも固体粒子を結着させることができ、しかも表面が平坦な塗布乾燥層を形成することができる。
乾燥処理において、本発明の無機固体電解質含有組成物が加熱されると、温度の上昇にともなってバインダー構成成分のうちポリマーにおける分子内水素結合の形成が促進されるとともに分散媒の揮発も促進され、ポリマーの分散媒に対する溶解度が次第に低下すると考えられる。こうして、バインダー構成成分がポリマーバインダーとして固化又は析出する。
【0157】
乾燥処理は、無機固体電解質含有組成物をそれぞれ塗布した後に施してもよいし、重層塗布した後に施してもよい。
乾燥条件は、分子間水素結合を開裂させて分子内水素結合を形成できる限り特に制限されない。乾燥温度としては、水素結合性基(BHa)又は(BHb)の種類等に応じて適宜に設定され、例えば、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、ポリマーC1-1又はC2を分子内水素結合させながら分散媒を除去して、塗布乾燥層にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
上記のようにして本発明の無機固体電解質含有組成物を塗布乾燥すると、接触状態のバラツキを抑えて固体粒子を結着させることができ、しかも表面が平坦な塗布乾燥層(無機固体電解質層)を形成することができる。
【0158】
無機固体電解質含有組成物を塗布した後、構成層を重ね合わせた後、又は全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には5~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した無機固体電解質含有組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。なお、ポリマーバインダーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的にはこのポリマーの融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0159】
製造プロセス、例えば塗布中、加熱若しくは加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0160】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放することにより、行うことができる。
【0161】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0162】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0163】
1.ポリマーの合成、
下記化学式に示すポリマーを以下のようにして合成した。
まず、水素結合性基(BHa)1種を側鎖に有するポリマーC1-1として、ポリマーP-01~P-07、PD-01及びPD-02を合成した。
[合成例1:ポリマーP-01の合成]
100mLメスシリンダーに、アクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)28.8g、水素結合性モノマー1(下記化学式における側鎖にウレア結合を含む構成成分を導くモノマー、J.Am.Chem.Soc.,2012,134,8344-8347の記載に準拠して合成)7.2g、及び重合開始剤V-601(商品名、富士フイルム和光純薬社製)0.1gを加え、N-メチルピロリドン36gに溶解してモノマー溶液を調製した。
次いで、300mL3つ口フラスコにN-メチルピロリドン18gを加え、外設ヒータを80℃に設定して撹拌したところへ、上記モノマー溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、外設ヒータを90℃に昇温し、2時間撹拌した。その後、メタノールに滴下し、60℃での減圧乾燥を5時間行った後、アクリルポリマーP-01(質量平均分子量60,000)を固体として得た。
【0164】
[合成例2~7:ポリマーP-02~P-07の合成]
合成例1において、ポリマーP-02~P-07が下記化学式に示す組成(構成成分の種類及び含有量)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーP-02~P-07(アクリルポリマー又はビニルポリマー)をそれぞれ合成し、各ポリマーを固体として得た。
【0165】
[合成例8及び9:ポリマーPD-01及びPD-02の合成]
合成例1において、ポリマーPD-01及びPD-02が下記化学式に示す組成(構成成分の種類及び含有量)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーPD-01及びPD-02(アクリルポリマー)をそれぞれ合成し、ポリマーPD-01及びPD-02を固体として得た。
【0166】
次いで、水素結合性基(BHa)を側鎖に2種以上有し、SP値が22.5以下のポリマーC2として、ポリマーP-08~P-11を合成した。
[合成例10~13:ポリマーP-08~P-11の合成]
合成例1において、ポリマーP-08~P-11が下記化学式に示す組成(構成成分の種類及び含有量)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーP-08~P-11(アクリルポリマー又はビニルポリマー)をそれぞれ合成し、ポリマーP-08~P-11を固体として得た。
【0167】
水素結合性基(BHb)を有する、CLogP値が1.5以上の低分子化合物C1-2を準備した。
D-01:n-ヘキサノール(東京化成工業社製)
D-02:n-ドデカノール(東京化成工業社製)
D-04:1-ピレンブタノール(アルドリッチ社製)
D-05:コレステロール(富士フイルム和光純薬社製)
[D-03:N-ドデシルブタン酸アミドの合成]
300mL3口メスフラスコに、アセトニトリル100mL、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬社製)10.0g、トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)6.0gを加えて0℃に冷却した後に、酪酸無水物(富士フイルム和光純薬社製)8.5gを、20℃を超えないように、ゆっくり滴下した。その後、室温まで昇温して3時間攪拌した。得られた反応液をろ過し、溶媒を留去することで、N-ドデシルブタン酸アミドの粗体を得た。得られたN-ドデシルブタン酸アミドの粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、目的のN-ドデシルブタン酸アミドD-03を15.3g得た。
【0168】
最後に、比較用の化合物を準備又は合成した。
cD-01:n-ブタノール(富士フイルム和光純薬社製)
[合成例14:ポリマーcP-01及びcP-02の合成]
合成例1において、ポリマーcP-01及びcP-02が下記化学式に示す組成(構成成分の種類及び含有量)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーcP-01及びcP-02(アクリルポリマー)を固体として得た。
[合成例15:ポリマーcP-03の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、トルエン(269.0g)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。次いで、上記三口フラスコに、メチルメタクリレート(150.2g)とラウリルメタクリレート(381.6g)とV-601(5.3g)とメルカプトプロピオン酸(4.7g)とからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。上記モノマー溶液の滴下完了後、2時間攪拌し、続いて95℃へ昇温し、更に2時間攪拌した。続いて、得られた反応混合物へ、p-メトキシフェノール(0.3g)、グリシジルメタクリレート(31.8g)、テトラブチルアンモニウムブロミド(6.4g)を加え、120℃へ昇温して3時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、撹拌しているメタノール(2L)へ反応液を注ぎ、しばらく静置した。上澄み液をデカンテーションして得られた固体を酪酸ブチル(1200g)へ溶解し、固形分40%まで溶媒を減圧留去して、マクロモノマー溶液を得た。
次いで、撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、酪酸ブチル(167g)、マクロモノマー溶液(112.5g、固形分40.0%)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。次いで、上記三口フラスコに、メタクリル酸メチル(60.0g)、アクリル酸ヒドロキシエチル(45.0g)とジイソブチルケトン(115.5g)とV-601(1.5g)とからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。上記モノマー溶液の滴下完了後、2時間攪拌し、続いて90℃へ昇温し、更に2時間攪拌した。得られた反応混合物を網目50μmのメッシュでろ過した。こうして、固形分濃度30質量%の、ポリマーcP-03からなるバインダー粒子cP-03の分散液T-5を調製した。
【0169】
合成した各ポリマーを以下に示す。各構成成分の右下に記載の数字は含有量(質量%)を示す。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
合成した各ポリマーのSP値(単位:MPa1/2)及び質量平均分子量、化合物C1-2のClogP値を上記方法に基づいて算出した結果を表1に示す。各ポリマーについて、上述のSP値(MM除外)は算出した上記SP値と同じ値である。
【0176】
2.バインダー構成成分含有組成物(以下、バインダー溶液という。)の調製
上述のようにして合成した各ポリマー等を用いて、表1に示すバインダー溶液を調製した。
[調製例1:バインダー溶液S-1の調製]
合成例1で合成したポリマーP-01の固体と化合物C1-2としてn-ヘキサノール(D-01)を10:1(質量比)で混合し、酪酸ブチルに溶解させることで、バインダー溶液S-1(固形分質量3%)を得た。
[調製例2~14:バインダー溶液S-2~S-11及びT-1~T-4の調製]
調製例1において、ポリマーP-01及びD-01を表1に示すポリマー及び化合物C1-2へ変更したこと以外は、調製例1と同様にして、バインダー溶液S-2~S-11及びT-1~T-4(固形分3質量%)をそれぞれ得た。
【0177】
[調製例15及び16:バインダー溶液S-12及びS-13の調製]
合成例7で合成したポリマーP-07の固体と合成例8で合成したポリマーPD-01の固体を1:1(質量比)で混合し、酪酸ブチルに溶解させることで、バインダー溶液S-12(固形分質量3%)を得た。
また、バインダー溶液S-13(固形分3質量%)も、上記バインダー溶液S-12と同様に、合成例7で合成したポリマーP-07の固体と合成例9で合成したポリマーPD-02の固体を1:1(質量比)で混合し、酪酸ブチルに溶解させることで、調製した。
【0178】
[調製例17~20:バインダー溶液S-14~17の調製]
合成例8で合成したポリマーP-08の固体を酪酸ブチルに溶解させることでバインダー溶液S-14(固形分3質量%)を得た。
また、バインダー溶液S-14の調製において、ポリマーP-08を表1に示すポリマーへ変更したこと以外は、バインダー溶液S-14の調製と同様にして、バインダー溶液S-15~S-17(固形分3質量%)をそれぞれ得た。
下記表1中、各欄中の「-」は該当する成分を有していないことを意味する。
また、ポリマーが水素結合性基(BHa)を複数種有する場合は、「/」を用いて併記する。
【0179】
【0180】
3.硫化物系無機固体電解質の合成
[合成例A]
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
次いで、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。Li-P-S系ガラスの平均粒径は15μmであった。
【0181】
[実施例1]
表2-1~表2-3(併せて表2という。)に示す各組成物を以下のようにして調製した。
調製した各組成物において、バインダー構成成分は分散媒に溶解していた。
<無機固体電解質含有組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、上記合成例Aで合成したLPS8.7g、表2の「バインダー溶液又は分散液」欄に示す各バインダー溶液又はバインダー分散液(固形分質量)0.3g及び分散媒として酪酸ブチルの組成物中の含有量が55質量%となるように酪酸ブチルを分散媒として投入した。その後に、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にセットした。温度25℃、回転数150rpmで10分間混合して、無機固体電解質含有組成物(スラリー)K-1~K-17及びKc1~Kc5をそれぞれ調製した。
【0182】
<正極組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、合成例Aで合成したLPS8.0g、及び、表2の「バインダー溶液又は分散液」欄に示す各バインダー溶液又はバインダー分散液0.4g(固形分質量)を投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、25℃で、回転数200pmで30分間攪拌した。その後、この容器に、正極活物質としてNMC(アルドリッチ社製)27.5g、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)1.0g、分散媒として酪酸ブチルの組成物中の含有量が26質量%となるように酪酸ブチルを分散媒として投入し、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数200rpmで30分間混合を続け、正極組成物(スラリー)PK-1~PK-17及びPKc1~PKc5をそれぞれ調製した。
【0183】
<負極組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、合成例Aで合成したLPS8.0g、表2の「バインダー溶液又は分散液」欄に示す各バインダー溶液又はバインダー分散液0.4g(固形分質量)投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、温度25℃、回転数300pmで60分間混合した。その後、負極活物質としてケイ素(Si、Aldrich社製)9.5g、導電助剤としてVGCF(昭和電工社製)1.0g及び分散媒として酪酸ブチルの組成物中の含有量が48質量%となるように酪酸ブチルを分散媒として投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットして、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合して、負極組成物(スラリー)NK-1~NK-17及びNKc1~NKc5をそれぞれ調製した。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
<表の略号>
LPS:合成例Aで合成したLPS
NMC:LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
AB:アセチレンブラック
Si:ケイ素
VGCF:カーボンナノチューブ
表中の「SP値の差」は絶対値を示し、単位はMPa1/2である。組成物が複数のポリマーを含有する場合、各ポリマーのSP値との差を「/」を用いて併記する。
「組成物含有量」及び「固形分含有量」の単位は「質量%」である。
【0188】
<全固体二次電池用固体電解質シートの作製>
上記で得られた、表3-1の「固体電解質組成物No.」欄に示す各無機固体電解質含有組成物を厚み20μmのアルミニウム箔上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)を用いて塗布し、80℃で2時間加熱して、無機固体電解質含有組成物を乾燥させた(このとき、バインダー構成成分は分子内水素結合の形成が促進されている)。その後、ヒートプレス機を用いて、120℃の温度及び40MPaの圧力で10秒間、乾燥させた無機固体電解質含有組成物を加熱及び加圧して、全固体二次電池用固体電解質シート(表3-1において固体電解質シートと表記する。)No.101~117及びc11~c15をそれぞれ作製した。固体電解質層の膜厚は45μmであった。
【0189】
<全固体二次電池用正極シートの作製>
上記で得られた、表3-2の「正極組成物No.」欄に示す各正極組成物を厚み20μmのアルミニウム箔上にベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、80℃で1時間加熱し、更に110℃で1時間加熱して、正極組成物を乾燥させた(このとき、バインダー構成成分は分子内水素結合の形成が促進されている)。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極組成物を25℃で加圧(10MPa、1分)して、膜厚80μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シート(表3-2において正極シートと表記する。)No.118~134をそれぞれ作製した。
【0190】
<全固体二次電池用負極シートの作製>
上記で得られた、表3-3の「負極組成物No.」欄に示す各負極組成物を厚み20μmの銅箔上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、80℃で1時間加熱し、更に110℃で1時間加熱して、負極組成物を乾燥させた(このとき、バインダー構成成分は分子内水素結合の形成が促進されている)。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた負極組成物を25℃で加圧(10MPa、1分)して、膜厚70μmの負極活物質層を有する全固体二次電池用負極シート(表3-3において負極シートと表記する。)No.135~151及びc17~c21をそれぞれ作製した。
【0191】
<評価1:分散安定性>
調製した各組成物(スラリー)を直径10mm、高さ4cmのガラス試験管に高さ4cmまで投入し、25℃で15時間静置した。静置前後のスラリー液面から1cm分の固形分比を算出した。具体的には、静置直後において、スラリー液面から下方に1cmまでの液をそれぞれ取り出し、アルミニウム製カップ内で、120℃、2時間加熱乾燥した。その後のカップ内の固形分量の質量を測定して、静置前後の各固形分量を求めた。こうして得られた、静置前の固形分量WBに対する静置後の固形分量WAの固形分比[WA/WB]を求めた。
この固形分比が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、固体電解質組成物の分散安定性として無機固体電解質の沈降のしやすさ(沈降性)を評価した。本試験において、上記固形分比が1に近いほど、分散安定性に優れることを示し、評価基準「B」以上が合格レベルである。結果を表1に示す。
- 評価基準 -
A:0.9≦固形分比≦1.0
B:0.5≦固形分比<0.9
C:0.3≦固形分比<0.5
D: 固形分比<0.3
【0192】
<評価2:表面平滑性>
各全固体二次電池用固体電解質シート、各全固体二次電池用正極シート及び各全固体二次電池用負極シートから縦20mm×横20mmの試験片を切り出した。この試験片について、定圧厚さ測定器(テクロック社製)を用いて、5点の層厚を測定し、層厚の算術平均値を算出した。
各測定値とその算術平均値とから、下記式(a)又は(b)で得られる乖離値(%)のうち大きな乖離値(最大乖離値)を下記評価基準にあてはめて、表面平滑性を評価した。本試験において、最大乖離値(%)が小さいほど、固体電解質層又は活物質層の層厚が均一であること、すなわち、各組成物が適度な粘度(流動性)を示して製膜表面が平坦な塗膜を形成できることを示す。本試験では、評価基準「B」以上が合格レベルである。結果を表3-1、表3-2及び表3-3(併せて表3という)に示す。
式(a):100×(5点の層厚のうちの最大値-算術平均値)/(算術平均値)
式(b):100×(5点の層厚のうちの算術平均値-最小値)/(算術平均値)
層厚の測定箇所は、各試験片について以下の「5点」とした。
図3に示されるように、まず、試験片TPの縦方向を4等分する3本の仮想線y1、y2及びy3を引き、次いで、同様にして試験片TPの横方向を4等分する3本の仮想線x1、x2及びx3を引き、試験片の表面を格子状に分割する。
測定点は、仮想線x1とy1との交点A、仮想線x1とy3との交点B、仮想線x2とy2との交点C、仮想線x3とy1との交点D、及び仮想線x3とy3との交点E、とする。
- 評価基準 -
A: 最大乖離値< 3%
B: 3%≦最大乖離値< 8%
C: 8%≦最大乖離値<13%
D: 13%≦最大乖離値
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
<全固体二次電池の製造>
以下のようにして、
図1に示す層構成を有する全固体二次電池(No.101)を作製した。
【0197】
(固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートの作製)
次いで、表4の「電極活物質層」欄に示す各全固体二次電池用正極シートの正極活物質層上に、上記で作製した、表4の「固体電解質層」欄に示す固体電解質シートを固体電解質層が正極活物質層に接するように重ね、プレス機を用いて25℃で50MPa加圧して転写(積層)した後に、25℃で600MPa加圧することで、膜厚30μmの固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シート118~134(正極活物質層の膜厚60μm)をそれぞれ作製した。
【0198】
(固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シートの作製)
次いで、表4の「電極活物質層」欄に示す各全固体二次電池用負極シートの負極活物質層上に、上記で作製した、表4の「固体電解質層」欄に示す固体電解質シートを固体電解質層が負極活物質層に接するように重ね、プレス機を用いて25℃で50MPa加圧して転写(積層)した後に、25℃で600MPa加圧することで、膜厚30μmの固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シート135~151及びc17~c21(負極活物質層の膜厚50μm)をそれぞれ作製した。
【0199】
(全固体二次電池の製造)
1.全固体二次電池No.101~117の製造
上記で得られた固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートNo.118(固体電解質含有シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円板状に切り出し、
図2に示すように、スペーサーとワッシャー(
図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れた。次いで、固体電解質層上に直径15mmの円盤状に切り出したリチウム箔を重ねた。その上に更にステンレス箔を重ねた後、2032型コインケース11をかしめることで、
図2に示すNo.101の全固体二次電池13を製造した。このようにして製造した全固体二次電池(ハーフセル)は、
図1に示す層構成を有する(ただし、リチウム箔が負極活物質層2及び負極集電体1に相当する)。
【0200】
上記全固体二次電池(No.101)の製造において、固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートNo.118に代えて表4の「電極活物質層」欄に示すNo.で表わされる、固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートを用いたこと以外は、全固体二次電池(No.101)の製造と同様にして、全固体二次電池(ハーフセル)No.102~117をそれぞれ製造した。
【0201】
2.全固体二次電池No.118~134及びc101~c105の製造
上記で得られた固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シートNo.135(固体電解質含有シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円板状に切り出し、
図2に示すように、スペーサーとワッシャー(
図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れた。次いで、下記で作製した全固体二次電池用正極シートから直径14.0mmで打ち抜いた正極シート(正極活物質層)を固体電解質層上に重ねた。その上に更にステンレス鋼箔を重ねた後、2032型コインケース11をかしめることで、
図2に示す全固体二次電池(フルセル)No.118を作製した。
【0202】
以下のようにして、全固体二次電池(No.118)の製造に用いた固体二次電池用正極シートを調製した。
(正極組成物の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記合成例Aで合成したLPSを2.7g、KYNAR FLEX 2500-20(商品名、PVdF-HFP:ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体、アルケマ社製)を固形分質量として0.3g、及び酪酸ブチルを22g投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、25℃で、回転数300rpmで60分間攪拌した。その後、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NMC)7.0gを投入し、同様にして、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、25℃、回転数100rpmで5分間混合を続け、正極組成物を調製した。
(固体二次電池用正極シートの作製)
上記で得られた正極組成物を厚み20μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、100℃で2時間加熱し、正極組成物を乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極組成物を25℃で加圧(10MPa、1分)し、膜厚80μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シートを作製した。
【0203】
上記全固体二次電池No.118の製造において、固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シートNo.135に代えて表4の「電極活物質層」欄に示すNo.で表わされる、固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シートを用いたこと以外は、全固体二次電池No.118の製造と同様にして、全固体二次電池(フルセル)No.119~134及びc101~c105をそれぞれ製造した。
【0204】
<評価3:サイクル特性試験>
製造した各全固体二次電池について、放電容量維持率を充放電評価装置TOSCAT-3000(商品名、東洋システム社製)により測定した。
具体的には、各全固体二次電池を、それぞれ、25℃の環境下で、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が3.6Vに達するまで充電した。その後、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして、同じ条件で充放電を3サイクル繰り返して、初期化した。その後、上記充放電サイクルを繰り返して行い、充放電サイクルを行う毎に各全固体二次電池の放電容量を、充放電評価装置:TOSCAT-3000(商品名)により、測定した。
初期化後の充放電1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%としたときに、放電容量維持率(初期放電容量に対する放電容量)が80%に達した際の充放電サイクル数が、下記評価基準のいずれに含まれるかにより、電池性能(サイクル特性)を評価した。本試験において、評価基準が高いほど、電池性能(サイクル特性)に優れ、充放電を複数回繰り返しても(長期の使用においても)初期の電池性能を維持できる。本試験の合格レベルは評価基準「C」以上である。全固体二次電池c103は評価基準「D」に含まれるが、上記充放電サイクル数は90サイクルであった。
なお、全固体二次電池No.101~134の初期放電容量は、いずれも、全固体二次電池として機能するのに十分な値を示した。
- 評価基準 -
A:500サイクル以上
B:250サイクル以上、500サイクル未満
C:150サイクル以上、250サイクル未満
D: 80サイクル以上、150サイクル未満
E: 80サイクル未満
【0205】
<評価4:イオン伝導度測定>
製造した各全固体二次電池のイオン伝導度を測定した。具体的には、各全固体二次電池について、30℃の恒温槽中、1255B FREQUENCY RESPONSE ANALYZER(商品名、SOLARTRON社製)を用いて、電圧振幅5mV、周波数1MHz~1Hzまで交流インピーダンス測定した。これにより、イオン伝導度測定用試料の層厚方向の抵抗を求め、下記式(1)により計算して、イオン伝導度を求めた。
式(1):イオン伝導度σ(mS/cm)=
1000×試料層厚(cm)/[抵抗(Ω)×試料面積(cm2)]
式(1)において、試料層厚は、積層体12を2032型コインケース11に入れる前に測定し、集電体の層厚を差し引いた値(固体電解質層及び電極活物質層の合計層厚)である。試料面積は直径14.5mmの円板状シートの面積である。
得られたイオン伝導度σが下記評価基準のいずれに含まれるかを判定した。
本試験におけるイオン伝導度σは、評価基準「C」以上が合格である。全固体二次電池c103は評価基準「D」に含まれるが、上記イオン伝導度σは0.20(mS/cm)であった。
- 評価基準 -
A:0.60≦σ
B:0.50≦σ<0.60
C:0.30≦σ<0.50
D:0.20≦σ<0.30
E: σ<0.20
【0206】
【0207】
表3及び表4に示す結果から次のことが分かる。
本発明で規定するバインダー構成成分を含有しない無機固体電解質含有組成物は、いずれも、分散安定性が劣るうえ、これらの組成物を用いて形成した構成層が大きな塗布厚みムラを示すことから、表面平滑性にも劣ることが分かる。また、分散安定性及び表面平滑性に劣るこれらの組成物を用いた全固体二次電池は十分なイオン伝導度もサイクル特性も示さない。
これに対して、本発明で規定するバインダー構成成分を含有する無機固体電解質含有組成物は、いずれも、分散安定性及び表面平滑性を高い水準で兼ね備えている。この無機固体電解質含有組成物を全固体二次電池の構成層の形成に用いることにより、表面が平坦で低抵抗な構成層を形成でき、かつ得られる全固体二次電池について優れたサイクル特性と高いイオン伝導度を実現できることが分かる。本発明の上記効果は、バインダー構成成分が、無機固体電解質含有組成物中では分子間水素結合を形成することにより分散媒に溶解して優れた分散特性を発揮し、一方、構成層中では分子内水素結合を形成することによりポリマーバインダーが形成されて界面抵抗の上昇を抑えながら固体粒子同士を結着できるためと考えられる。
本発明の全固体二次電池は、上述の優れた特性を示すため、高速充放電条件においても優れたサイクル特性を発揮する。
【0208】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0209】
本願は、2020年6月26日に日本国で特許出願された特願2020-110647に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0210】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 2032型コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 コイン型全固体二次電池
TP 試験片