IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許7407336樹脂組成物、ならびにそれを用いたパージング剤および成形機のパージング方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ならびにそれを用いたパージング剤および成形機のパージング方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20231221BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231221BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231221BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20231221BHJP
   B29C 48/27 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L29/04 A
C08K3/20
C08K3/18
B29C48/27
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023519587
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2022046107
(87)【国際公開番号】W WO2023120338
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021206940
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/019873(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098615(WO,A1)
【文献】特開平10-016024(JP,A)
【文献】特開平05-255554(JP,A)
【文献】特開2005-119039(JP,A)
【文献】国際公開第2022/168836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B29C48/00- 48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)を含有する樹脂組成物であって、
該水(B)の含有量が、該親水性樹脂(A)100質量部に対して15~50質量部であり、
該塩基性化合物(C)の含有量が、該親水性樹脂(A)100質量部に対して0.1~15質量部であり、
該親水性樹脂(A)100質量部に対して、該ポリオレフィン樹脂(D)の含有量が2394~5000質量部であり、
該ポリオレフィン樹脂(D)が、以下の式(1)を満たす、樹脂組成物。
10≧X×Y÷(1-Z)≧2.1 (1)
式(1)中、Xは該ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFR(g/10分)であり、Yは該ポリオレフィン樹脂(D)の220℃における緩和時間(秒)であり、Zは該ポリオレフィン樹脂(D)の密度(g/cm)である。
【請求項2】
前記親水性樹脂(A)、前記水(B)、および前記塩基性化合物(C)が一緒になって含水親水性樹脂の形態で含有されている、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記含水親水性樹脂が多孔性粒子の形態で構成されており、0.01~3μmの細孔メディアン径および2.5~8mmの平均粒子径を有する、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリオレフィン樹脂(D)が、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、ケイ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を10~1000ppmの割合で含有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、二価金属元素を100ppm以下の割合で含有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記二価金属元素がカルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ペレットの形態を有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する、パージング剤。
【請求項13】
前記ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFR(g/10分)の半分の値より高い、または溶融時の流動性が該ポリオレフィン樹脂(D)の半分より高い成形樹脂組成物を用いる成形機のパージングのために使用される、請求項12に記載のパージング剤。
【請求項14】
食品包装材成形機のパージングのために使用される、請求項13に記載のパージング剤。
【請求項15】
被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法であって、該成形機内に、請求項12に記載のパージング剤を供給して、該パージング剤を該被パージング樹脂とともに排出する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ならびにそれを用いたパージング剤および成形機のパージング方法に関し、より詳細には、取り扱い性および安全性が高められた樹脂組成物、ならびにそれを用いたパージング剤および成形機のパージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと称することがある)等のガスバリア性に優れた樹脂は、食品包装用のフィルム、容器等の製品に多用されている。こうした製品を得るために、対象となる樹脂を成形機内で溶融押出する際、当該樹脂が成形機の流路内(例えばスクリュー)に付着することがある。この付着した樹脂を長期に亘って放置すると、当該樹脂は、焦げ付き、ゲル化、分解等の劣化を引き起こし、得られる製品にスジ、ブツ、ゲル等不良を生じたり、あるいは不良解消のために膨大な時間と材料ロスを招くことになる。
【0003】
パージング剤には種々のものが提案されている。例えば特許文献1は、ポリオレフィン系樹脂等の疎水性熱可塑性樹脂と、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物等の親水性熱可塑性樹脂と、水とを含有するパージング剤を開示している。特許文献2は、エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物等と水とを所定の割合で配合したパージング剤を開示している。特許文献3は、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリオレフィン系樹脂と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等の強塩基化合物と、遊離水を生成させる塩とを含有するパージング剤を開示している。特許文献4は、親水性樹脂と水と塩基性化合物とを所定割合で含有する樹脂組成物がパージング剤として利用できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-16023号公報
【文献】特開2008-279623号公報
【文献】特表2012-533647号公報
【文献】国際公開第2021/019873号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載のパージング剤では、成形機のスクリュー等に付着した樹脂(以下、被パージング樹脂と称することがある)を十分に除去できているとは言えず、パージング能の向上が所望されている。一方、特許文献3に記載のパージング剤は、成分の1つである強塩基性化合物によってパージング能が向上するが、該パージング能力は満足し得るものでは無かった。特許文献4に記載のパージング剤は、より広範な粘度(例えば低粘性)の被パージング樹脂にするパージング能についてはさらなる改良が所望されている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、成形機内の被パージング樹脂、例えば低粘性の被パージング樹脂、を効率良く排出できるパージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記の目的は、
[1]親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)を含有する樹脂組成物であって、
該水(B)の含有量が、該親水性樹脂(A)100質量部に対して10~70質量部であり、
該塩基性化合物(C)の含有量が、該親水性樹脂(A)100質量部に対して0.1~15質量部であり、
該ポリオレフィン樹脂(D)が、以下の式(1)を満たす、樹脂組成物、
30>X×Y÷(1-Z)≧1 (1)
式(1)中、Xは該ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFR(g/10分)であり、Yは該ポリオレフィン樹脂(D)の220℃における緩和時間(秒)であり、Zは該ポリオレフィン樹脂(D)の密度(g/cm)である;
[2]前記親水性樹脂(A)、前記水(B)、および前記塩基性化合物(C)が一緒になって含水親水性樹脂の形態で含有されている、[1]に記載の樹脂組成物;
[3]前記含水親水性樹脂が多孔性粒子の形態で構成されており、0.01~3μmの細孔メディアン径および2.5~8mmの平均粒子径を有する、[2]に記載の樹脂組成物;
[4]前記親水性樹脂(A)100質量部に対して、前記ポリオレフィン樹脂(D)の含有量が100~5000質量部である、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[5]前記親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[6]前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である、[5]に記載の樹脂組成物;
[7]前記塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[8]前記ポリオレフィン樹脂(D)が、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[9]さらに、ケイ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を10~1000ppmの割合で含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[10]さらに、二価金属元素を100ppm以下の割合で含有する、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[11]前記二価金属元素がカルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素である、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[12]ペレットの形態を有する、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物;
[13][1]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する、パージング剤;
[14]前記ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFR(g/10分)の半分の値より高い、または溶融時の流動性が該ポリオレフィン樹脂(D)の半分より高い成形樹脂組成物を用いる成形機のパージングのために使用される、[13]に記載のパージング剤;
[15]食品包装材成形機のパージングのために使用される、[14]に記載のパージング剤;
[16]被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法であって、該成形機内に、[13]~[15]のいずれかに記載のパージング剤を供給して、該パージング剤を該被パージング樹脂とともに排出する工程を含む、方法;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形機内の被パージング樹脂を効率的に当該成形機から排出できる。これにより、成形機から得られる製品不良を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、例えば後述する被パージング樹脂を含む成形機のパージングのために、パージング剤として使用できる樹脂組成物である。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)を含有する。
【0011】
(親水性樹脂(A))
親水性樹脂(A)は、水に対して親和性を示す樹脂を包含し、例えば水に対する接触角が0°~90°である樹脂が挙げられる。このような親水性樹脂(A)としては、例えばEVOH、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコールおよびポリアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、熱安定性および押出安定性の観点から、EVOHがより好ましい。親水性樹脂(A)を用いることで、本発明の樹脂組成物からなるパージング剤を常温で保管する際に、水(B)および塩基性化合物(C)を含有するアルカリ水溶液を該親水性樹脂(A)内に安定に保有することで、使用者の安全性を確保できる。また、パージングを行う際は親水性樹脂(A)が溶融することでアルカリ水溶液を放出し、効果的にスクリューに付着する被パージング樹脂を分解し除去できる。
【0012】
(EVOH)
EVOHは、例えばエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得られる共重合体である。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法で行うことができる。当該方法に用いられるビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0013】
本発明において、EVOHのエチレン単位含有量は、例えば15モル%以上、22モル%以上、または24モル%以上が好ましい。また、上記EVOHのエチレン単位含有量は、例えば60モル%以下、55モル%以下、または50モル%以下が好ましい。エチレン単位含有量が15モル%未満であると、成形機の溶融領域における温度を105~210℃とした場合に、該樹脂組成物を押出すことが困難になる場合がある。エチレン単位含有量が60モル%を上回ると、水酸基量が減り目的の水分量を確保することが困難になる傾向にある。EVOHのエチレン単位含有量は、例えば核磁気共鳴(NMR)法によって測定できる。
【0014】
本発明において、EVOHのケン化度(すなわち、EVOHのビニルエステル成分のケン化度)は、例えば99モル%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.9モル%以上がさらに好ましい。ケン化度が99モル%以上であると、例えば塩基性化合物(C)がケン化反応時に消費されることを防ぐことができる。他方、EVOHのケン化度は、例えば100%以下が好ましく、99.99%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、H-NMR測定によってビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出され得る。
【0015】
EVOHはまた、本発明の目的が阻害されない範囲において、エチレンならびにビニルエステルおよびそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOHが他の単量体単位を有する場合、EVOHの全構造単位に対する当該他の単量体単位の含有量の上限は、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下または5モル%以下である。EVOHが当該他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量は、例えば0.05モル%以上が好ましく0.1モル%以上がより好ましい。
【0016】
他の単量体としては、例えばプロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0017】
EVOHは、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等で変性されていてもよい。変性されたEVOHはパージング剤として使用する場合に、例えばウレタン系、アセタール系、アクロリニトリル系樹脂からなる被パージング樹脂に対する相容性が向上し、より効率的にパージングを行うことができる。
【0018】
EVOHとして、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無または変性の種類等が異なるEVOHを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
EVOHは、塊上重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法で得ることができる。1つの実施形態では、無溶媒またはアルコール等の溶液中で重合が進行可能な塊状重合法または溶液重合法が用いられる。
【0020】
溶液重合法に用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールである。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とするEVOHの粘度平均重合度や溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は例えば0.01~10であり、好ましくは0.05~3である。
【0021】
そして、上記重合に用いられる触媒としては、例えば2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0022】
重合温度は20℃~90℃が好ましく、40℃~70℃がより好ましい。重合時間は2時間~15時間が好ましく、3時間~11時間がより好ましい。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましい。重合後の溶液中の樹脂含有率は5%~85%が好ましく、20%~70%がより好ましい。
【0023】
上記重合では、所定時間の重合後または所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去して、未反応のビニルエステルを取除くことで得られる。
【0024】
次いで、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加して、上記共重合体をケン化する。ケン化する方法は、例えば連続式および回分式のいずれでもよい。添加可能なアルカリ触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。
【0025】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、必要に応じて中和や洗浄によってこれらを除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、所定のイオン(例えば金属イオン、塩化物イオン)をほとんど含まない水(例えばイオン交換水)で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の副生塩類は完全に除去せず、一部を残存させてもよい。
【0026】
EVOHは酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、各種繊維等の補強材、および他の成分を含有していてもよい。
【0027】
上記酸は、EVOHを溶融成形する際の熱安定性を高めることができる観点から、カルボン酸化合物、リン酸化合物等が好ましい。EVOHがカルボン酸化合物を含有する場合、カルボン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、カルボン酸化合物の含有量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。EVOHがリン酸化合物を含有する場合、リン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。カルボン酸化合物またはリン酸化合物の含有量が上記範囲であると、パージングを行う際のEVOHの熱安定性が良好になる。
【0028】
EVOHが上記ホウ素化合物を含有する場合、その含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量は、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲であると、パージングを行う際のEVOHの熱安定性が良好になる傾向がある。
【0029】
上記カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはホウ素化合物を、EVOHを含む樹脂組成物に含有させる方法は特に限定されず、例えばEVOHを含む組成物をペレット化する際に添加して混練してもよい。また、乾燥粉末として添加する方法、所定の溶媒を含浸させたペーストの状態で添加する方法、所定の液体に懸濁させた状態で添加する方法、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、所定の溶液に浸漬させる方法等も挙げられる。中でも、これらの化合物をEVOH中に均質に分散できる観点から、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法および所定の溶液に浸漬させる方法が好ましい。所定の溶媒は特に限定されないが、添加される化合物の溶解性、コスト、取り扱いの容易さ、作業環境の安全性等の観点から、水が好ましい。
【0030】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールは、ビニルエステル系モノマーの重合体をケン化することにより得られる樹脂である。ビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2,2,4,4-テトラメチルバレリアン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。中でも酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルが単独もしくは混合物として好ましく使用される。
【0031】
ポリビニルアルコールのけん化度は特に制限はないが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらにより好ましい。
【0032】
(ポリアミド)
ポリアミドはアミド結合を主鎖に有する高分子である。ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン26/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)、11-アミノウンデカンアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミドあるいはこれらのポリアミドをメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものが挙げられる。また、メタキシリレンジアンモニウムアジペート等も挙げられる。
【0033】
ポリアミドは、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、またはこれらを組み合わせた方法で得られる。
【0034】
(ポリアクリル酸塩)
ポリアクリル酸塩としては、例えば、メチルアクリレートや、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、α-クロロエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート等のアクリレート系単量体を重合した後、加水分解することによって製造できる。また、アクリロニトリルを重合して加水分解しても得られる。
【0035】
ポリアクリル酸塩を構成する塩としては、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムおよびバリウム等のアルカリ土類金属塩、並びに第四級アンモニウムおよび第四級アルキルアンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。特にナトリウム塩が最も一般的で好ましい。
【0036】
(ポリエチレングリコール)
ポリエチレングリコールはエチレングリコールおよびジエチレングリコール等の活性水素を2個以上有する化合物に、エチレンオキサイドを付加重合することにより製造される。
【0037】
エチレンオキサイドの付加において、触媒としてアルカリ金属化合物を用いても良い。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム等)の水酸化物、アルカリ金属アルコラート(例えば、ナトリウムメチラートおよびカリウムメチラート)等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。アルカリ金属化合物は、1種を用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(ポリアクリルアミド)
ポリアクリルアミドしては、アクリルアミドの単独重合体又はアクリルアミドと他の共重合可能なモノマーとの共重合体であって、アミド結合を有するものが用いられる。
【0039】
ポリアクリルアミドを製造する方法としては特に制限はなく、(i)アクリルアミド類をメタノール中で2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として重合させる方法、(ii)アクリルアミド類にエタノール中で光照射する方法、(iii)アクリルアミド類を水溶液中でレドックス重合させる方法、(vi)固体のアクリルアミド類にγ線を照射する方法等で製造される。
【0040】
アクリルアミドと他の共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、エチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物およびその第4級塩等、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸のC~C24アルキルエステル等が挙げられる。
【0041】
(水(B))
水(B)は、後述の塩基性化合物(C)を溶解して所望のpHを有する水溶液を調製するとともに、上記EVOHを成形機内に広く拡散させ、該成形機内に存在する被パージング樹脂の排出を促す。
【0042】
本発明の樹脂組成物を構成する水(B)としては、例えば純水、イオン交換水、蒸留水、および水道水、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。意図せぬ塩の混入を防ぐという理由からイオン交換水が好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、水(B)の含有量は親水性樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上であり、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。また、水(B)の含有量は、親水性樹脂(A)100質量部に対して、70質量部以下であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。親水性樹脂(A)と水(B)との質量比が上記範囲であると、本発明の樹脂組成物から構成されるパージング剤の表面への水の偏在を抑制できる。それにより、本発明の樹脂組成物をパージング剤として成形機に投入する際にホッパーへの付着が防止でき、かつパージング剤から塩基性化合物(C)を含む水溶液の飛散を防止できる点で安全上好ましい。本発明の樹脂組成物における親水性樹脂(A)は、水(B)との親和性が高く、水素結合を介して適度に水と結合することから、パージングの際には成形機内でパージングに必要な水分を放出でき、かつ被パージング樹脂を成形機外へ排出するのに十分な粘度が確保できる。また、パージングの際に不要な水分が成形機内に残存せず、フィード不良が低減できる。
【0044】
本発明の樹脂組成物の第1の実施形態では、水(B)は被パージング樹脂に対するパージングの機能を発揮するために重要な成分の1つである。
【0045】
一方で、後述する本発明の樹脂組成物の第2の実施形態では、水(B)は任意成分の1つであってもよい。すなわち、水(B)は、被パージング樹脂をパージングする際に、成形機内を通過する樹脂組成物の構成成分として含有される必要があるが、成形機内に供給される前のパージング剤としては、必ずしも該パージング剤に予め含有される必要はない。例えば水(B)は、成形機内にパージング剤を供給する際に、該パージング剤とは別々に成形機に供給され、成形機内でパージング剤を構成する成分と混合されて、本発明の樹脂組成物を構成するものであってもよい。
【0046】
(塩基性化合物(C))
塩基性化合物(C)は、上記水(B)によって水溶液となり、成形機内をアルカリ条件(好ましくは強アルカリ条件)とすることで、成形機内に存在する被パージング樹脂の排出を促す役割を果たす。
【0047】
塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
水(B)が親水性樹脂(A)と一緒になって含水親水性樹脂の形態を有している場合、塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。一方、上記水(B)が塩基性化合物(C)と一緒になってアルカリ水溶液の形態を有している場合、塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、および酢酸アルカリ金属塩、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
炭酸アルカリ金属塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。重炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。リン酸アルカリ金属塩としては、例えばリン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、およびリン酸二水素一リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。酢酸アルカリ金属塩としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、および酢酸リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。十分なパージ能を有し、かつパージング剤の作業者安全性を確保できる観点から、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましい。
【0050】
塩基性化合物(C)の含有量は、親水性樹脂(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、塩基性化合物(C)の含有量は、親水性樹脂(A)100質量部に対して、15質量部以下であり、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。塩基性化合物(C)の含有量が0.1質量部未満であると、水(B)とともに形成される水溶液が中性に近づき、成形機内の被パージング樹脂の排出効率が低下する傾向にある。塩基性化合物(C)の含有量が15質量部を超えると、アルカリ水溶液が飽和し、パージング樹脂を保管する際に塩が析出する原因となる傾向がある。
【0051】
水(B)が塩基性化合物(C)と一緒になってアルカリ水溶液の形態を有している場合、アルカリ水溶液および/または本発明の樹脂組成物のpHは、好ましくは8~14、より好ましくは10~13である。pHが8未満であると、得られる樹脂組成物による成形機内の被パージング樹脂に対する排出効率が低下する傾向にある。
【0052】
(含水親水性樹脂)
本発明の樹脂組成物において、上記親水性樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)は、それらが一緒になって含水親水性樹脂の形態で含有されていてもよい。
【0053】
含水親水性樹脂は、本発明の樹脂組成物をパージング剤として使用する際に、粒子内に保有している水分を成形機内で放出することができるという理由から、多孔質粒子の形態で構成されていることが好ましい。
【0054】
こうした多孔質粒子は表面に多数の細孔を有し、多孔質粒子中に含まれる水分を適切に保持できるとともに、成形機内で適切に水分を放出することができる。
【0055】
多孔質粒子における細孔メディアン径は、好ましくは0.01~3μm、より好ましくは0.05~2μmである。多孔質粒子の細孔メディアン径は水銀圧入法により測定され、細孔メディアン径が0.01μm以下であると、水分の吸収量が少なくなり、得られる樹脂組成物をパージング剤として使用しても、効果的なパージング能を発揮できないことがある。細孔メディアン径が3μm以上であると、離水が早すぎることで多孔性粒子中に水分を保持できず、得られる樹脂組成物をパージング剤として使用しても、効果的なパージング能を発揮できないことがある。
【0056】
また、多孔質粒子は、好ましくは25~60m/g、より好ましくは30~45m/gの細孔表面積を有する。多孔質粒子の細孔表面積が上記範囲であると上記塩基性化合物(C)を適度に吸着することができる。多孔質粒子の細孔表面積は水銀圧入法により測定され、25m/gより小さくなると、多孔質粒子の含水量が低下することがある。細孔表面積が60m/gを超えると、多孔質粒子の強度が低下し、取扱い性が低下するとともに、最終製品として得られる樹脂組成物において微粉やペレットの欠けが発生し易くなることがある。
【0057】
多孔質粒子の細孔メディアン径および細孔表面積を調整する方法としては、例えば含水EVOHペレットを作製する時のEVOHペーストの含水率、アルコール含有量、押出温度を調整する方法が挙げられる。なお、ストランド状に析出させることで含水EVOHペレットを得る場合は、EVOH溶液濃度、析出浴の温度およびアルコール濃度、得られた含水EVOHペレットの洗浄温度によっても調整できる。
【0058】
さらに多孔質粒子は、好ましくは2.5~8mm、より好ましくは3~6mmの平均粒子径を有する。多孔質粒子の平均粒子径が2.5mm未満であると、押出加工機に導入する際に他樹脂と分級することがある。平均粒子径が8mmを超えると、押出加工機に導入する際にホッパーへの食い込みが低下することがある。
【0059】
本発明において、上記親水性樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)から含水親水性樹脂を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、親水性樹脂(A)に、上記塩基性化合物(C)を含有する水(B)をスプレーする方法;上記塩基性化合物(C)を含有する水(B)に親水性樹脂(A)を浸漬する方法;親水性樹脂(A)と塩基性化合物との混合物を水(B)の一形態である水蒸気と接触させる方法;親水樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)と一緒に押出する方法;等が挙げられる。具体的には、親水性樹脂(A)を、上記塩基性化合物(C)を含有する水(B)の存在下で、オートクレーブ処理する方法;押出機に親水性樹脂(A)を投入し、途中で水(B)および塩基性化合物(C)を添加しながら含水押出する方法;等が挙げられる。
【0060】
(ポリオレフィン樹脂(D))
ポリオレフィン樹脂(D)は、例えば本発明の樹脂組成物と成形機内の被パージング樹脂(例えば低粘性の被パージング樹脂)との相容性、および作業者の安全性を向上させる等の役割を果たす。
【0061】
本発明の樹脂組成物において、ポリオレフィン樹脂(D)は以下の式(1)を満たす樹脂である:
30>X×Y÷(1-Z)≧1 (1)
(式(1)中、Xは該ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFR(g/10分)であり、Yは該ポリオレフィン樹脂(D)の220℃における緩和時間(秒)であり、Zは該ポリオレフィン樹脂(D)の密度(g/cm)である)。なお、緩和時間は、樹脂中の応力が解放されるまでの時間と相関があり、具体的には後述の実施例に記載の方法を用いて測定され得る。
【0062】
なお、本発明においては、上記式(1)の左辺P(すなわち、X×Y÷(1-Z);以下、「ポリオレフィン樹脂(D)の特性値P」と呼ぶことがある)が好ましくは1以上(上記式(1)の通り)であり、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上である。また、ポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pはが好ましくは30未満であり、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは10以下である。ポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pがこのような範囲を満たすことで樹脂組成物のパージング能に関係する粘度と、被パージング樹脂への置換性に関係する密度および緩和時間の要素とを同時に満たすことができ、両方を効果的に向上させ得る。ポリオレフィン樹脂(D)の粘度が高いほどパージングの際に物理的に劣化物を排出することが優位となるが、一方で置換性が低下する。ポリオレフィン樹脂(D)の置換性を向上するためには、金属離形性が重要となる。具体的には、ポリオレフィン樹脂(D)の弾性率と相関のある密度を高くし、緩和時間を長くすることで、金属離形性が改善され、その結果、置換性が向上する。本発明において、特性値Pはそれら要素のバランスがとれた範囲内に収まるように定義される。
【0063】
ポリオレフィン樹脂(D)としては、例えば被パージング樹脂と同一の樹脂、当該被パージング樹脂に対して相容性を示す樹脂、またはそれらの組み合わせが挙げられる。ポリオレフィン樹脂(D)の具体的な例としては、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を包含する)、ポリプロピレン、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)、およびEMMA(エチレン・メチルメタクリレート共重合体)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ得られる樹脂組成物をパージング剤として使用した際に優れたパージング能を発揮できるとの理由から、ポリオレフィン樹脂(D)として、ポリエチレンおよびポリプロピレン、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0064】
ポリオレフィン樹脂(D)の含有量は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、200質量部以上がより好ましく、300質量部以上がさらに好ましい。また、ポリオレフィン樹脂(D)の含有量は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、5000質量部以下が好ましく、4000質量部以下がより好ましく、3000質量部以下がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂(D)の含有量が上記範囲であると、本発明の樹脂組成物と成形機内の被パージング樹脂との相容性が向上し、成形機内の被パージング樹脂の排出効率を一層高められる他、作業者の安全性も向上し得る。
【0065】
(その他添加剤)
本発明の樹脂組物は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば研磨剤、充填材、熱安定剤、加工助剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、カップリング剤、酸化防止剤、滑沢剤、発泡剤、界面活性剤、および可塑剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。特に研磨剤は、成形機内の被パージング樹脂を物理的な研磨作用を通じて排出するために使用され、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物で構成されるものが挙げられる。
【0066】
本発明の樹脂組成物において、上記その他の添加剤の含有量は特に限定されず、上記親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)の組み合わせによるパージングの効率を阻害しない範囲で、当業者が適宜設定できる。
【0067】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、ケイ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。当該元素の含有量は、得られる樹脂組成物に対して10ppm以上が好ましく、30ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。当該元素の含有量は、得られる樹脂組成物に対してケイ素およびリンの含有量は1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、250ppm以下がより好ましい。ケイ素、リンなどの元素は、例えば、上記ポリオレフィン樹脂(D)中の添加剤の一部として含有され得る。本発明において、当該元素が上記範囲で添加されていることにより、得られる樹脂組成物をパージング剤として使用した際、ホッパー内の樹脂同士の摩擦が低下し、十分な吐出量を確保でき、吐出量が上昇することによりせん断応力および高いパージング能を維持することができる。
【0068】
(二価金属元素)
なお、本発明の樹脂組成物は、二価金属元素の混入が抑制されたものであることが好ましい。二価金属元素としては、例えばカルシウムおよびマグネシウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
二価金属元素は例えば二価金属塩の形態で樹脂組成物に存在することができる。しかし、こうした樹脂組成物をパージング剤として使用すると、パージング能が十分に発揮されないことがある。具体的には、二価金属元素が樹脂組成物中のカリウムイオンとの塩交換を通じ、カリウムイオンの塩基性を阻害することがあるからである。
【0070】
このため、本発明の樹脂組成物では、上記二価金属元素は、得られる樹脂組成物に対して好ましくは100ppm以下(すなわち、0~100ppm)、より好ましくは70ppm以下(すなわち、0~70ppm)、最も好ましくは50ppm以下(すなわち、0~50ppm)の含有量となるように調整されている。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、後述するパージング剤として使用に適しているとの理由からペレットの形態を有することが好ましい。
【0072】
(パージング剤)
本発明のパージング剤は、第1の実施形態としては上記樹脂組成物、すなわち、親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)と、任意成分であるその他の添加剤とを含有する樹脂組成物から構成される。ここで、本明細書において、上記樹脂組成物で構成されるパージング剤を「第1のパージング剤」という。
【0073】
また、本発明のパージング剤は、第2の実施形態としては上記樹脂組成物のうち、水(B)を含んでいないもの、すなわち、親水性樹脂(A)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)と、任意成分であるその他の添加剤とを含有する樹脂組成物から構成される。ここで、本明細書において、上記樹脂組成物のうち水(B)を除いたもので構成されるパージング剤を「第2のパージング剤」という。
【0074】
本発明の第2のパージング剤における、親水性樹脂(A)、塩基性化合物(C)、ポリオレフィン樹脂(D)およびその他の添加剤の種類および含有量は、上記第1のパージング剤に含まれるものと同様の種類および含有量が選択され得る。さらに、本発明の第2のパージング剤における、親水性樹脂(A)のエチレン単位含有量およびケン化度もまた、上記第1のパージング剤に含まれる親水性樹脂(A)と同様のものが設定され得る。
【0075】
本発明の第1のパージング剤は、作業者が成形機内に投入する際にパージング剤の成分含有量を調節する必要性がなく、安全性に優れる。一方、本発明の第2のパージング剤は、水(B)が予め含有されておらず、第1のパージング剤と比較して、パージング剤全体の質量および容積を減少させることができ、パージング剤の輸送および保管の際の効率性を向上できる。
【0076】
本発明において、第1のパージング剤は被パージング樹脂を含む成形機内に、例えばホッパーを通じてそのまま投入して使用できる。
【0077】
一方、本発明の第2のパージング剤は、使用前に所定量の上記水(B)を添加して本発明の樹脂組成物を調製した後、得られた組成物を、被パージング樹脂を含む成形機内に例えばホッパーを通じて投入して使用できる。あるいは、本発明の第2のパージング剤は、上記水(B)を含有していない状態で被パージング樹脂を含む成形機内に、例えばホッパーを通じて投入され、成形機内に別途設けられた部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から水(B)を添加してシリンダ内で混練することにより、本発明の樹脂組成物を調製して使用することもできる。
【0078】
本発明の第1のパージング剤および第2のパージング剤を用いることができる成形機としては、例えば押出機(例えば、単軸押出機、二軸押出機等を包含する)、射出成形機、ブロー成形機等が挙げられる。
【0079】
(被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法)
本発明のパージング方法では、例えば、成形機内に、上記親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)と、任意成分であるその他の添加剤とを含有する樹脂組成物が供給され、樹脂組成物が被パージング樹脂とともに排出される。ここで、本明細書において、このように樹脂組成物を用いて行われるパージング方法を「第1のパージング方法」という。
【0080】
本発明の第1のパージング方法において、成形機への樹脂組成物の供給は、例えば、上記親水性樹脂(A)、水(B)、塩基性化合物(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)と、任意成分であるその他の添加剤をそれぞれ成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から行われてもよいが、好ましくは上記本発明の第1のパージング剤または第2のパージング剤の形態で成形機内に供給される。
【0081】
以下、1つの実施形態として、成形機が押出機である場合について説明する。樹脂組成物が、本発明の第1のパージング剤の形態で押出機に供給される場合、本発明の第1のパージング剤は、例えば押出機のホッパーを通じてそのまま投入され、シリンダ内のスクリューを回転させることにより、第1のパージング剤がシリンダ内に供給される。
【0082】
樹脂組成物が、本発明の第2のパージング剤の形態で押出機に供給される場合、本発明の第2のパージング剤は、使用前に所定量の上記水(B)を添加した後、得られた組成物が、押出機内に例えばホッパーを通じて投入され、シリンダ内のスクリューを回転させることにより、第2のパージング剤を含む樹脂組成物がシリンダ内に供給される。この場合、ホッパー等の金属製部分の腐食を防止するために、第2のパージング剤を構成する塩基性化合物(C)は、上記アルカリ金属の水酸化物以外を用いることが好ましい。
【0083】
あるいは、本発明の第2のパージング剤は、上記水(B)を含有していない状態で押出機内に例えばホッパーを通じて投入され、成形機内に別途設けられた部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から水(B)を添加してシリンダ内でスクリューを回転して混練することにより供給される。
【0084】
成形機への樹脂組成物の供給にあたり、成形機内のパージ温度(すなわち、成形機の溶融領域の温度)は、好ましくは105℃~170℃、より好ましくは110℃~160℃に設定される。この温度が105℃未満では、成形機内の樹脂組成物が十分に溶融せず、被パージング樹脂の排出を効率的に行うことが困難となる場合がある。該温度が170℃を超えると、樹脂の粘度が低下することでパージングの効率が著しく低下する場合がある。
【0085】
成形機への上記樹脂組成物の供給は、例えば成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量(例えば、成形機が押出機である場合はシリンダ容量からスクリュー容量を差し引いた容量に相当する)を基準にして、好ましくは1倍以上1000倍以下、より好ましくは2倍以上100倍以下に相当する量が供給される。成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量に対して、供給される上記樹脂組成物の量が1倍未満であると、成形機内に被パージング樹脂が残存するおそれがある。成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量に対して、供給される上記樹脂組成物の量が1000倍を上回ると、成形機内のパージングの効果はすでに十分に発揮されているものの、上記樹脂組成物が過剰に供給され、パージング剤の利用効率が低下するおそれがある。
【0086】
あるいは、上記第1のパージング方法に代えて、本発明のパージング方法では、成形機内に上記水(B)および塩基性化合物(C)を含有するアルカリ水溶液が供給され、アルカリ水溶液が被パージング樹脂とともに排出されてもよい。ここで、本明細書において、このようにアルカリ水溶液を用いて行われるパージング方法を「第2のパージング方法」という。
【0087】
本発明の第2のパージング方法に用いられる水(B)は、上記本発明の樹脂組成物に用いられるものと同様である。
【0088】
本発明の第2のパージング方法に用いられる塩基性化合物(C)は、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含む。塩基性化合物(C)を構成し得る塩としては、例えば炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0089】
塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素一リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、およびそれらの組み合わせが挙げられる。作業者の安全性を確保する観点からは炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましい。
【0090】
成形機に供給されるアルカリ水溶液のpHは、好ましくは8~14、より好ましくは10~13である。pHが8未満であると、得られるアルカリ水溶液による成形機内の被パージング樹脂に対する排出効率が低下する傾向にある。
【0091】
本発明の第2のパージング方法において、成形機内へのアルカリ水溶液の供給方法は、例えば上記水(B)および塩基性化合物(C)を予め混合してアルカリ水溶液を調製し、得られたアルカリ水溶液を、成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えばシリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)を通じて成形機内に供給する方法が挙げられる。ただし、塩基性化合物(C)として水酸化物を用いたアルカリ水溶液は、ホッパー等の金属製部分に付着すると、所望でない腐食を引き起こすおそれがある。このため、アルカリ水溶液はその流動性を利用して、耐薬品性材料(例えば、シリコーンゴム、テフロン(登録商標)等)で構成されるチューブを通じて、成形機の内部以外の金属製部分に接触する機会を低減させた状態で当該シリンダ内に導入されることが好ましい。あるいは、成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)を通じて、上記水(B)および塩基性化合物(C)を別々に導入し、成形機内でアルカリ水溶液を調製することによって供給されてもよい。
【0092】
成形機へのアルカリ水溶液の供給にあたり、成形機内の温度(すなわち、成形機の溶融領域の温度)は、好ましくは100℃~180℃、より好ましくは105℃~170℃に設定される。この温度が100℃未満では、被パージング樹脂の排出を効率的に行うことが困難となる場合がある。該温度が180℃を超えると、水分の一部が気化し、アルカリ水溶液が被パージング樹脂と効率的に作用しないおそれがある。
【0093】
なお、本発明の第2のパージング方法によって上記アルカリ水溶液が供給された場合、成形機内に腐食が生じることを防止するために、その後、成形機内には適切な量の水(例えば、純水、イオン交換水、蒸留水、および水道水、ならびにそれらの組み合わせ)による洗浄が行われてもよい。
【0094】
本発明によれば、種々の被パージング樹脂に対するパージングが可能である。特に、本発明は、例えば190℃におけるMFR(メルトフローレート;g/10分)が、上記ポリオレフィン樹脂(D)の190℃におけるMFRと同様またはそれより高い被パージング樹脂に対するパージングを効果的に行うことができる。
【0095】
このような被パージング樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂または当該熱可塑性樹脂を含む混合物(成形樹脂組成物)である。被パージング樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばEVOH;ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)を包含する)、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0096】
本発明のパージング方法は、様々な被パージング樹脂を用いる成形機のパージングのために使用され得る。特に、比較的低粘度の被パージング樹脂に対しても優れたパージング能を発揮できるという理由から、本発明のパージング方法はブロー成形機だけでなく一般的な包装材を成形するインフレーション成形機やキャスト成形機のパージングにおいて有用である。
【実施例
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
(1)細孔メディアン径の測定方法
各実施例および比較例で使用したEVOHのペレットを-80℃で凍結させた後、凍結乾燥し細孔測定用試料とした。測定用試料約0.5gを標準5cc粉体用セル(ステム容積0.4cc)に採り、初期圧2.6kPaの条件で、マイクロメリティックス細孔分布測定装置(株式会社島津製作所製、オートポアV9620)を用いて測定した。水銀パラメータとして、水銀接触角130°および水銀表面張力485dynes/cmに設定し、細孔径0.005~100μmの範囲内で算出した。
【0099】
(2)平均粒子径の測定方法
凍結乾燥した上記細孔測定用試料100gをヴァーダー・サイエンティフィック社の「CAMSIZER XT」を用い、ISO 13322-2(2006年)に準拠した動的画像解析法によって算出された円相当粒子径の小粒子径側からの積算粒度分布が50%(体積基準)となる粒子径(Q3 50.0%)を平均粒子径(mm)とした。
【0100】
(3)塩基性化合物(C)の含有量
各実施例および比較例で使用したEVOHのペレット0.5gを、テフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後に圧力容器に蓋をして、湿式分解装置(株式会社アクタック製、MWS-2)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱してこのペレットの分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「OPTIMA4300DV」)による含有金属の分析を行い、カリウム元素の含有量を素規定した。得られたカリウム元素の含有量から、当該元素を含む炭酸塩として分子量を換算した値を得た。
【0101】
(4)使用したポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pの算出
各実施例および比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)について、JIS K 7210:2014に準拠して、メルトフローインデクサーを用い、各ポリオレフィン樹脂(D)の190℃、2160gにおけるMFR(X)(g/cm)を測定した。一方、各実施例および比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)について、TAインスツルメント・ジャパン社製ARES-G2を用いて、ひずみ1%、周波数依存測定より導かれた角周波数1rad/秒における貯蔵弾性率を損失弾性率で除して算出することにより、各ポリオレフィン樹脂(D)の220℃における緩和時間(Y)(秒)を測定した。このようにして得られたX値、Y値、および使用したポリオレフィン樹脂(D)の密度(Z)(g/cm;カタログ値)を用いて以下の式により当該ポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pを算出した:
P=X×Y÷(1-Z)
【0102】
(5)ケイ素(Si)、リン(P)、および二価金属の含有量
蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX Primus-μ)を用いて、各実施例および比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)中に含まれるケイ素(Si)、リン(P)、および二価金属の含有量を測定した。得られた測定結果に基づいて、樹脂組成物におけるケイ素(Si)、リン(P)、および二価金属元素の割合をそれぞれ算出した。
【0103】
(6)パージング能(置換性)の評価
単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製20mmφ)およびコートハンガーダイを用いて、押出温度190℃、100rpmにて各実施例および比較例で得られた樹脂組成物(190℃でのMFRが1.6g/10分であった)を15分流した。その後、EVOH(株式会社クラレ製「エバールF101」)を30分間100rpmで流し、引取速度2m/分で引き取ったフィルムの外観を評価することにより、置換性を以下の基準にしたがって、専門家3名の合議による結果として評価した。フィルムをA4サイズに切り出して外観評価を実施した。なお、「スジ」とはMD方向に1mm幅以上の線が切れ目なく存在する欠点を表し、「ブツ」とは直径1mm以上の欠点を表す。なお、以下の基準のうち、フィルムがA~Cのいずれかに該当する場合は、実使用に耐え得るものであるとみなすことができる。
A.フィルムに0~10ヶ所の欠点(スジ、ブツ)が見られる。
B.フィルムに11~30ヶ所以上の欠点(スジ、ブツ)が見られる。
C.フィルムに31~100ヶ所欠点(スジ、ブツ)が見られる。
D.フィルム101ヶ所に欠点(スジ、ブツ)が見られる。
【0104】
(7)パージング能(コゲ残量)の測定
二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製「2D25W」;L/D=25)に、被パージング樹脂(1)としてEVOH(株式会社クラレ製「エバールF101」)を10分間通過させ、該押出機内に被パージング樹脂を残留させた。スクリューの回転を止めて30分間滞留させた後、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製「HI-ZEX 7000F」)を該押出機内に5分間通過させ、ダイを取り外した。その後、シリンダを290℃まで加熱し、空気を流入させながら、スクリュー回転数10rpmで3時間加熱することで、被パージング樹脂を酸化劣化させた。
【0105】
次いで、各実施例および比較例で得られた樹脂組成物をパージング剤として使用し、この押出機のホッパーから、190℃のパージ温度でスクリュー回転数100rpm、押出量3.2(kg/時間)にて40分間供給し、その後、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「LC-600A」)を3分間通過させ、次いで220℃になるまでシリンダを加熱しながら10分間、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「LC-600A」)を通過させた。その後、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製「HI-ZEX 7000F」を5分間通過させた後、ダイを分解し、二軸スクリューを取り出して、スクリューに付着していた被パージング樹脂を銅へラにより回収した。回収された被パージング樹脂の全体質量を測定した。なお、この回収された被パージング樹脂の全体質量(コゲ残量)が3.0g以下であった場合、使用したパージング剤は、より好適なパージング能を発揮し得るとみなすことができる。
【0106】
(実施例1:樹脂組成物(JE1)の作製)
エチレン単位含有量が32モル%でありかつケン化度が99.98モル%であるEVOH(親水性樹脂(A))100質量部、メタノール60質量部および水40質量部含むEVOH溶液を、塔径0.3m、段数10段の棚段塔の最上段から連続的に供給し、最下段から水蒸気を吹き込み、EVOH溶液と水蒸気を向流で接触させた。塔内の温度は130℃、塔内の圧力は0.3MPaであった。水蒸気を向流で接触させて得られた含水EVOHペレットを、塔底から抜き出した。得られた含水EVOHペレットを、二軸押出機に42kg/時間で供給し、押出機先端に取り付けられた孔径30mm、8個の孔を有するダイスより下記条件で押出し、その溶融物を、ダイスからの距離0.05mmのところで、2枚の刃を有するホットカッターで切断し、扁平球状の含水EVOHペレットを得た。
<二軸押出機の条件>
L/D :14
口径 :30mm
スクリュー :フルフライト
回転数 :300rpm
シリンダ温度 :90℃
ダイス温度 :120℃
ダイスホール数:8
【0107】
得られた含水EVOHペレット3kgをイオン交換水(浴比20)中で、50℃で1時間撹拌しながら洗浄し脱液する操作を2回繰り返した。次に、洗浄後の含水EVOHペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)中に投入し、25℃で2時間撹拌しながら洗浄し、脱液する操作を2回繰り返した。さらに、洗浄後の含水EVOHペレットをイオン交換水(浴比20)中に投入し、25℃で2時間撹拌しながら洗浄し、脱液する操作を2回繰り返し、洗浄液の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度測定器「CM-30ET」で測定した。洗浄液の電気伝導度が10μS/cmであったため、同様な操作で3回目の洗浄を行った。3回目の洗浄後の洗浄液の電気伝導度を測定した結果、洗浄液の伝導度は3μS/cm以下となったため、洗浄を停止した。
【0108】
洗浄後の含水EVOHペレットを、水(B)および塩基性化合物(C)として炭酸カリウムを用いた1mol/Lの炭酸カリウム水溶液に浸漬させ、定期的に撹拌しながら2時間化学処理を行った。処理後の含水EVOHペレットを脱液し、減圧下60℃で5時間乾燥させることで、含水率が24質量%の多孔性粒子を得た。得られた含水多孔性粒子に、ポリオレフィン樹脂(D)として高密度ポリエチレン(HDPE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)HY540」)2500質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(JE1)を得た。この樹脂組成物(JE1)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例2:樹脂組成物(JE2)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、HDPEの代わりに低密度ポリオレフィン樹脂(LDPE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LJ400」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JE2)を得、当該樹脂組成物(JE2)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例3:樹脂組成物(JE3)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、HDPEの代わりにLDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LF342」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JE3)を得、当該樹脂組成物(JE3)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例4:樹脂組成物(JE4)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、HDPEの代わりに直鎖状低密度ポリオレフィン樹脂(LLDPE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)UF230」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JE4)を得、当該樹脂組成物(JE4)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例5:樹脂組成物(JE5)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、HDPEの代わりにLDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LF128」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JE5)を得、当該樹脂組成物(JE5)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例6:樹脂組成物(JE6)の作製)
エチレン単位含有量が32モル%でありかつケン化度が99.98モル%であるEVOH(親水性樹脂(A))100質量部、メタノール60質量部および水40質量部含む60℃のEVOH溶液を、直径3.5mmの円形の開口部を有する金板から、5℃に維持された水およびメタノール混合溶液(質量比:水/メタノール=9/1)中にストランド状に押し出して析出凝固させた後、カッターで切断してEVOHペレットを得た。このEVOHペレットを30℃の温水に投入して、4時間撹拌を行い、含水EVOHペレットを得た。
【0114】
次いで、この含水EVOHペレットを用いて実施例1と同様にして洗浄しかつ所定の化学処理することにより多孔性粒子を得た。
【0115】
実施例1で使用した多孔性粒子の代わりに、このようにして得られた多孔性粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JE6)を得、当該樹脂組成物(JE6)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例7:樹脂組成物(JE7)の作製)
実施例1で得られた含水多孔性粒子に、ポリオレフィン樹脂(D)として高密度ポリエチレン(HDPE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)HY540」)4268質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(JE7)を得たこと以外は実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例8:樹脂組成物(JE8)の作製)
実施例1で得られた含水多孔性粒子に、ポリオレフィン樹脂(D)として高密度ポリエチレン(HDPE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)HY540」)2500質量部およびステアリン酸カルシウムをドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(JE8)を得たこと以外は実施例1と同様にして評価を行った。なお、ステアリン酸カルシウムは、ノバテックHY540中に含まれるカルシウムと合わせて80ppmとなるよう添加量を調整した。結果を表1に示す。
【0118】
(比較例1:樹脂組成物(JC1)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、実施例1のHDPEに代えて、HDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)HB111R」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JC4)を得た。なお、本比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pは0.5であった。得られた樹脂組成物(JC1)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(比較例2:樹脂組成物(JC2)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、HDPEの代わりにLDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LC600」)2500質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JC2)を得た。なお、本比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pは31.8であった。得られた樹脂組成物(JC2)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(比較例3:樹脂組成物(JC3)の作製)
親水性樹脂(A)として、実施例1における洗浄後のEVOHに代えて、株式会社クラレ製「エバール(登録商標)H171」(エチレン単位含有量が38モル%であり、ケン化度が99.9モル%であり、細孔メディアン径が0.005μmであり、平均粒子径が3.5mmであるEVOH)を用いた。定期的に撹拌しながら2時間化学処理を行った。処理後の含水EVOHペレットを脱液し、減圧下60℃で5時間乾燥させることで、含水率が5質量%の多孔性粒子を得た。それ以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(JC3)を得た。得られた樹脂組成物(JC3)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例4:樹脂組成物(JC4)の作製)
ポリオレフィン樹脂(D)として、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製「HI-ZEX 7000F」)2500質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(JC4)を得た。なお、本比較例で使用したポリオレフィン樹脂(D)の特性値Pは0.7であった。得られた樹脂組成物(JC4)について上記パージング能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように実施例1~6で得られた樹脂組成物(JE1)~(JE8)はいずれも、置換性およびコゲ残量のいずれのパージング能についても優れていた。特に実施例1~5で得られた樹脂組成物(JE1)~(JE5)を用いた場合には、被パージング樹脂のスクリュー付着量を1g近傍の極めて低い値にまで低減することができており、パージング剤として極めて有用であることがわかる。これに対し、比較例1~4で得られた樹脂組成物(JC1)、(JC2)、(JC3)および(JC4)は、置換性またはコゲ残量のいずれかについては良好であるものの、これらの両方が良好となる結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、成形機を通じて得られる製品不良およびその不良解消のために要する膨大な時間および材料のロスの低減が可能となる点で、例えば樹脂成形分野において有用である。